1: 2012/04/07(土) 20:01:17.45 ID:XD+V7SoC0
世界征服を目論む、とある大帝国があった。

皇帝は軍備を整えるべく国民に重税をかけた。

さらには「世界征服には国民の意志の統一が不可欠」とのことで
思想・言論面においても厳しい統制が行われていた。

こうしたいわゆる圧政を基盤に、帝国の侵略戦争は着々と進行した。



帝国首都──

男(いくら働いても、ろくに食えやしない……)

男(かといって文句をいえば、すぐ兵が飛んできて厳しく処罰される……)

男(もうすぐ俺も徴兵の時期だが、こんな帝国のために働くなんてゴメンだ!)

男(もう親は両方氏んじまったし、恋人も友人もいない。守るものなんて、なにもない)

男(俺は自分の進みたい道を進む!)

男「俺は……反乱軍に志願する!」

男は剣を手に、立ち上がった。

9: 2012/04/07(土) 20:07:58.92 ID:XD+V7SoC0
反乱軍アジトは、首都から少し離れた山奥にある。
事情に詳しい帝国民であれば、誰でも知っていることだ。

なぜなら民衆にとって、彼らは英雄であり希望なのだから。



反乱軍アジト──

リーダー「ほう、我々の仲間に入りたいと?」

男「はいっ!」

リーダー「ふぅむ」

リーダー「心意気はもちろん買うが、こちらとしても誰でも入れるわけにはいかん。
     だからまずテストをさせてもらう。かまわんね?」

男「もちろんです。俺もテストがあることは知ってましたから」

12: 2012/04/07(土) 20:15:34.60 ID:XD+V7SoC0
テスト相手は副リーダー。反乱軍の中でもかなりの腕前を誇る。

副リーダー「よし、かかってきたまえ」

男「はい!」

男は鋭い踏み込みから、すばやく剣を振るう。

ガキィン! ギィン!

副リーダー(速いし……ウマい!)

ギャリンッ!

副リーダーの剣は空高く打ち払われ、地面に刺さった。決着である。

副リーダー「俺の……負けだな」

リーダー「……みごとだ。我々は君を歓迎しよう」

男「ありがとうございます!」

男は子供の頃から剣術が好きで、腕には自信があったのだ。

14: 2012/04/07(土) 20:21:01.65 ID:XD+V7SoC0
リーダー「このアジトには300名余りの勇敢な兵士がいる」

リーダー「みんな、帝国の圧政に我慢ならず立ち上がった者たちだ」

リーダー「──対する帝国の全兵力は百万ともいわれている」

リーダー「帝国城があるこの首都だけでも十万は駐屯している……戦力差は明白だ」

リーダー「だから、我々の活動は決して華やかなものではない。
     巨大な帝国軍を、シロアリのように削り取っていくのだ。
     はっきりいって、気の遠くなるような道程だ」

リーダー「この道を行く覚悟が……君にはあるか?」

男「……あります!」

男「たとえ俺が生きているうちに帝国を倒せなくとも……
  次の代に繋がるような活躍をしてみせます」

リーダー「気に入った!」

15: 2012/04/07(土) 20:27:54.70 ID:XD+V7SoC0
さっそく男は反乱軍全員に紹介された。

副リーダーをあっさり打ち負かした剣の腕はすでに伝わっており、
みんな新しい戦力を快く歓迎してくれた。

リーダー「これで君は、正式に我々のメンバーだ」

男「はい」

リーダー「──さて、この反乱軍には大きく分けて
     帝国兵と直接刃を交える戦闘班、食糧や武器を調達する補給班、
     作戦を立てたり反乱軍の方針を決める司令班に分かれる」

リーダー「君には戦闘班に入ってもらう。当然、もっとも危険が多い部隊だ」

男「かまいません。こっちからお願いしたかったくらいですよ」

男「帝国兵の横暴にはいつも参ってましたからね」

17: 2012/04/07(土) 20:30:51.56 ID:XD+V7SoC0
こうして男は戦闘班に配置され、特に腕利きが揃うA班所属となった。

班長「今日からよろしく頼む!」

槍使い「どもっ!」

女剣士「よろしくね」

弓兵「あの副リーダーを負かすなんて、スゴイね。期待してるよ!」

甲冑「……新入りか」

男「(女性までいるのか……)こちらこそよろしく!」

19: 2012/04/07(土) 20:35:59.75 ID:XD+V7SoC0
班長「新入りには初日からで悪いが、さっそくA班は今から任務だ!」

班長「司令班によると、首都近郊にある食糧庫の警備が今手薄になっているらしい。
   補給班にも同行してもらって、今から襲撃に向かう!」

槍使い「よっしゃー!」

女剣士「腕が鳴るね」

弓兵「待ってました!」

甲冑「足を引っ張るなよ……新入り」

男「も、もちろん!」

男(いきなりか……。だが、俺だって活躍できる自信はある!)

20: 2012/04/07(土) 20:42:37.54 ID:XD+V7SoC0
首都近郊 食糧庫──

物陰から様子をうかがうA班。

班長「帝国兵が10名か……。よし、このメンバーで十分倒せる人数だ」

班長「弓兵が矢を射かけたら、一気に突っ込むぞ!」

男「食糧はどうするんですか?」

班長「食糧の奪取は、後ろに控えてる補給班がやってくれる。
   俺たちがやるべきことは、彼らの道を切り開くことだ!」

男「なるほど、分かりました!」

女剣士「じゃ、お願いね」

弓兵「よぉーし……任せといて!」キリ…

21: 2012/04/07(土) 20:47:31.00 ID:XD+V7SoC0
帝国兵の一人に、矢が命中した。

トスッ

帝国兵A「──ぐあっ!」

帝国兵B「なっ、襲撃か!?」

戸惑う帝国兵たちに向かって、A班のメンバーが突撃する。

班長「出るぞっ!」ザッ

槍使い「おっしゃー!」ザッ

女剣士「はっ!」ダッ

甲冑「……ゆくか」ガチャッ

男「うっ……うおおおおっ!」ダッ

初陣ならではの高揚感に後押しされ、男は帝国兵めがけて駆ける。

22: 2012/04/07(土) 20:50:21.44 ID:XD+V7SoC0
男「うああああっ!」

ザシュッ!

男「うおおおおっ!」

ザンッ!

男は巧みな剣技で、帝国兵二人を斬り倒した。

班長「おおっ、見事だ!」

男(や、やったぞ……。俺の剣は……帝国に通じる!)

23: 2012/04/07(土) 20:53:19.70 ID:XD+V7SoC0
新入りのいきなりの快挙に、他のメンバーにも闘志が宿る。

班長「よぉし、みんなも続くんだ! ぬおおっ!」

ズガァンッ!

巨大な斧で、帝国兵を砕く班長。

槍使い「こりゃ負けてらんないねぇ、ほれっ!」

ドスッ!

的確に帝国兵の急所を貫く槍使い。

24: 2012/04/07(土) 20:56:12.46 ID:XD+V7SoC0
女剣士「やるじゃない、彼」

ズシャッ!

女性ならではの繊細な剣技で、帝国兵を斬る女剣士。

甲冑「……ふん」

ザバシュッ!

重い鎧を身につけているにもかかわらず、素早い剣捌きで帝国兵を斬り飛ばす甲冑。



食糧庫を警備していた帝国兵は、あっという間に全滅した。
そして、増援が駆けつける前に食糧を奪い、無事アジトまで退却することができた。

26: 2012/04/07(土) 20:59:13.02 ID:XD+V7SoC0
反乱軍アジト──

班長「よくやった! 新入りにしては、上出来すぎるくらいだ!」

男「ありがとうございます……!」

槍使い「頼もしいヒトが入ってくれて嬉しいねぇ」

女剣士「かっこよかったよ」

弓兵「やれやれ、おかげで援護役のボクの出番がほとんどなかったな」

甲冑「たしかに腕はなかなかだったが……まだどうなるかは分からん」

27: 2012/04/07(土) 21:07:11.82 ID:XD+V7SoC0
翌日──

反乱軍アジトに出向く男。

男「今日の活動は?」

班長「今日は戦闘ではなく、炊き出しだ」

男「炊き出し?」

班長「昨日奪った食糧の一部を、貧しい町や村の人に振る舞うんだ。
   この帝国の人々は、満足に食べることができてないからな」

班長「調理は補給班の連中がやるから、君はスープの配給を頼む」

男「分かりました!」

28: 2012/04/07(土) 21:12:19.68 ID:XD+V7SoC0
炊き出しは、決して華やかな仕事ではない。

しかし、男は懸命に役割をこなした。

男「こっちには温かいスープがありま~す! 並んで下さ~い!」

村民A「ありがとうございます……」

村民B「ありがたくいただきます……」

村民C「美味そうだ……どうもありがとう……」

男「おかわりもありますからね~! たっぷり食べてくださ~い!」

29: 2012/04/07(土) 21:18:15.07 ID:XD+V7SoC0
和気あいあいと食事を楽しむ村人たち。

しかし、男は気づく。

男「…………」

男(この帝国の人々は……みんなどこか諦めたような表情をしている)

男(帝国の強大な力に圧倒され、生きる気力を失ってしまっているんだ)

男(だからこそ、俺や反乱軍のみんなで希望を与えなければならないんだ!)

この日、男は決意を新たにした。

30: 2012/04/07(土) 21:27:15.82 ID:XD+V7SoC0
そんなある日、皇帝の政策を批判したという首都で暮らす一家が、
兵隊に家を囲まれてしまったという知らせがアジトに舞い込んできた。

男(このままじゃ、その一家は処刑されるのがオチだ)

男「こんなの黙ってられない! 今すぐ行きましょう!」

班長「ダメだ」

班長「帝国兵が何人いるかも分かっていないし、司令班からの指示もない。
   なにも情報がないのに、勝手に動くことはできない」

男「こういう時に動かなくて、なにが反乱軍なんですか!?
  俺たちは虐げられている人々に希望を与える存在でなければならない!」

班長「……う~ん、しかし」

31: 2012/04/07(土) 21:31:49.76 ID:XD+V7SoC0
女剣士「いいんじゃない? 行こうよ、私たちだけでも」

班長「女剣士」

女剣士「助けられるかどうかは分かんないけど、ここで見捨てたら
    私たちは国民の支持を一気に失うかもしれないし」

女剣士「それはマズイんじゃない?」

班長「…………」

槍使い「やったろうよ!」

弓兵「ボクも賛成だね。放っておいて、帝国を調子づかせるのもシャクだし」

甲冑「出撃しろ、といわれれば出る……」

班長「ふぅ……。ま、それでこそA班だ!」

班長「いいだろう、出るぞ!
   ただししくじって捕まっても絶対反乱軍のことは吐くなよ!」

男「ありがとうございます!」

32: 2012/04/07(土) 21:35:10.65 ID:XD+V7SoC0
A班が現場に急行する。
が、時すでに遅く、帝国兵によって家は焼かれていた。

ゴオォォォォ……

燃え盛る家の前でふんぞり返る、数名の帝国兵たち。
見守る住民からも、心ない声が聞こえる。

「皇帝にツバを吐くからだよ……」 「あ~あ、焼け氏んだな」 「バカなヤツらだ……」

この光景を見た男は、真っ先に飛び出していた。

男「ふざけやがって……」

男「うわあぁぁぁっ!」

帝国兵C「なんだ、キサマはっ!?」

ザンッ!

帝国兵C「ぐえぇあっ!」

33: 2012/04/07(土) 21:41:41.92 ID:XD+V7SoC0
すぐさま他の班員が援護に入る。

班長「……俺たちも行くぞ!」

女剣士「帝国を許せないのは私らも同じだよ!」

槍使い「ふぅ、こんなに怒りを覚えたのは久しぶりだよ」

甲冑「……ふん」

弓兵「家を焼いた分、存分に矢をくれてやるよ!」

氏闘の末、彼らは帝国兵を撃退することができた。
しかし、家の中にいた家族を救うことはできなかった。

男「ちくしょう……ちくしょおおおっ!」

男「帝国め……!」

この一件は、男の帝国への憎しみをさらに高めた。

34: 2012/04/07(土) 21:45:13.63 ID:XD+V7SoC0
男は、他の班員とも打ち解けていった。

ガキンッ! ガキィンッ!

槍使い「よっ!」

男「はぁっ!」

ビュッ!

槍使い「うっ……く! 参った!」

男「これで俺の10連勝だな」

槍使い「やれやれ、すっかり敵わなくなっちゃったなぁ。こっちは槍だってのに」

男「いやいや、俺も槍使いのおかげで飛躍的に腕を上げることができたよ」

槍使い「その磨いた腕で……倒してくれよ、帝国を!」

35: 2012/04/07(土) 21:49:42.10 ID:XD+V7SoC0
男「なぁ、女剣士はなんで反乱軍に……? 女性だってのに」

女剣士「あら、女は反乱軍に入っちゃいけないの?」

男「いや……そんなことはないけどさ」

男「よほどの事情があったのかな、と思って……」

女剣士「私の両親は、皇帝の急速な軍備拡張に反対して頃されたんだ。
    残された私は国立の孤児院に入れられたけど……ひどいものだった」

女剣士「院には毎夜のように飢えた帝国兵がやってきて……私たちを──」

女剣士「今思い出しても吐き気がするよ……」

男「…………」

男「……悪かった。聞くべきじゃなかった」

女剣士「ううん、いいの。こっちこそゴメンね、変な話して」

女剣士「必ず倒してね、帝国を!」

37: 2012/04/07(土) 21:53:14.73 ID:XD+V7SoC0
弓兵「いやぁ~今日も君は大活躍だったね」

男「弓兵の援護があったからだよ。けっこう危なかったしな」

弓兵「ボクの力なんて微々たるものさ」

男「ところで、弓兵は誰に弓を習ったんだ?」

弓兵「父さんに習ったんだ」

弓兵「父さんは帝国弓部隊に所属していてね、エースだったらしい。
   でも、帝国の侵略戦争には懐疑的だった」

弓兵「上には、そんな心根がバレていたんだろうね。
   父さんはたびたび激戦地に送られ、ついに戦氏してしまった」

弓兵「ボクにとって帝国は祖国ではなく、父の仇でしかない」

男「そうだったのか……」

弓兵「だからボクは帝国を倒すために働いている。君には期待してるよ」

38: 2012/04/07(土) 21:55:59.69 ID:XD+V7SoC0
男「よう」

甲冑「……何の用だ」

男「甲冑って無口だからさ、たまには交流でも……と思って」

甲冑「…………」

男「俺たちは帝国に勝てると思うか?」

甲冑「……帝国は巨大だ」

甲冑「かつて帝国騎士団にいた俺には、よく分かる……。
   こんなチマチマした活動で、倒せる相手ではない」

男「!」

甲冑「だが……」

甲冑「お前なら……何かやれるかもな」

40: 2012/04/07(土) 21:59:14.42 ID:XD+V7SoC0
司令室──

リーダー「どうかね、新しく入った彼は? うまい具合にいっとるかね?」

班長「すでに実力は、腕自慢揃いの我が班でダントツトップです。
   班員との関係も非常に良好ですよ」

リーダー「ふむ、ありがとう。下がっていいぞ」

班長「では失礼します」

バタン

リーダー「そろそろ……だな」

副リーダー「えぇ」

42: 2012/04/07(土) 22:06:15.43 ID:XD+V7SoC0
それからしばらくして、戦闘班A班に次のような指令が言い渡された。

『首都近くにある帝国武器庫に侵入し、武具を奪ってきて欲しい』

班長「──というわけだ」

男「武器庫への侵入ですか……かなり危険じゃないですか?」

男「我々反乱軍の侵入を恐れてか、
  武器庫にはかなりの数の兵が配置されていると聞いています」

男「しかも最近増築されて、
  武器庫というよりは、ちょっとした基地のようになってるとか……」

班長「うむ……だがあそこには一級品の剣や槍が大量にある。
   もし奪うことができれば、強力な戦力になることはまちがいない」

班長「他の戦闘班を援軍に頼んでも、おそらく足手まといになるだけだ」

男「たしかに……」

班長「危険な任務だが、やり遂げよう。必ず!」

44: 2012/04/07(土) 22:11:17.16 ID:XD+V7SoC0
帝国武器庫──

男の懸念通り、建物は大きく、警備に当たる兵の数は食糧庫の比ではなかった。

班長「いつも通り、弓兵の一矢から突撃するぞ」

班長「俺たちが道を切り開き、後から来る補給班のルートを確保する。
   弓兵以外は全員中に突入する。準備はいいか?」

男「はい」

槍使い「ほいっ!」

女剣士「うん、分かった」

甲冑「……了解」

弓兵「じゃあ、やるよっ!」キリ…

45: 2012/04/07(土) 22:15:49.97 ID:XD+V7SoC0
一丸となって、武器庫に突入する戦闘班A班。

ザシュッ! ドスッ! ズバッ!

屈強な帝国兵たちが次々倒されていく。

「反乱軍だ!」 「ええい、頃せっ!」 「絶対に武器保管庫に入れるな!」

男(これは……想像以上に配備されている兵が多い!)

男(なんて数だ……)

男(だが、もう引き下がれない! 一気に武器のあるところまで駆ける!)

46: 2012/04/07(土) 22:20:12.69 ID:XD+V7SoC0
しかし、やはり大量の敵兵の前に──

帝国兵D「氏ねぇっ!」

ドスッ!

槍使い「ぐぁっ……!」

男「槍使い!」

槍使い「あうぅ……(胸を刺され、たか……)」

槍使い「こ、ここまでか……! あとは……任せたよぉ……」ドサッ

男「……うぅっ」

男「くっそおおおっ!」

槍使いが力尽きた。

47: 2012/04/07(土) 22:26:16.56 ID:XD+V7SoC0
ピンチは続く。

班長「囲まれたか……!」

男「こうなったら、みんなで固まってなんとか耐えましょう!」

班長「いや、任務は真っ当せねばならん。この中で一番突破力があるのは俺だ。
   俺を先頭に、この包囲を抜けるぞ!」ダッ

班長「ぬおおおおっ!」

ドカンッ! ドガァンッ! ドゴォッ!

巨大斧で敵を粉砕する班長。が、やはり数がちがいすぎた。

体中を斬り裂かれ、ついに崩れ落ちてしまう。

男「班長!」

班長「……やれる。君なら……きっと……」ガクッ

男「班長ぉぉぉっ!」

49: 2012/04/07(土) 22:31:14.66 ID:XD+V7SoC0
班長の犠牲の甲斐もあり、どうにか包囲を突破した三人。

男「槍使いに続き、班長まで失った……」

男(やっぱり、この任務は無謀すぎたんだ……!)

男「もうこれじゃ、武器の奪取どころじゃない……脱出しよう!
  続々とこの武器庫に援軍が来てるようだし、外の弓兵も心配だ!」

女剣士「……そうだね」

甲冑「……止むを得んな」

しかし、すぐに大量の帝国兵が押し寄せてきた。

男(くっそ……さっきと同じ状況になってしまった……!)

男「ようしっ……三人で一丸となって、突破するぞっ!」

51: 2012/04/07(土) 22:37:17.29 ID:XD+V7SoC0
ザンッ! ザシュッ! ギィンッ! ザバッ! ビシュッ!

実力は男たちの方が上だが、数は圧倒的に帝国軍が上である。

いくら倒しても、まったく包囲を突破できない。

甲冑「このままでは埒があかんな。攻撃を受けながらムリヤリ突き進むしかない」

甲冑「俺はこの鎧で、ある程度は攻撃に耐えられる。
   キサマら二人の盾になってやる……」

男「だが、そんなことしたら……!」

甲冑「反乱軍(われわれ)にもっとも必要なものは情報……。
   一人でも生き残って、アジトに今日のことを伝えねばなるまい……」

甲冑「心配するな……そう簡単には氏なん」

男「分かった、頼むっ……!」

52: 2012/04/07(土) 22:43:14.87 ID:XD+V7SoC0
甲冑を盾に、三人は進む。

どうにか落ちつけるところまで逃げ延びた時には、甲冑は瀕氏になっていた。

甲冑「……ごほっ、俺はもう動けん……」ドザッ

男「甲冑! 氏ぬなぁっ!」

女剣士「しっかりして!」

甲冑「ふん、気にするな……これでも騎士のはしくれ……。
   戦いで氏ぬのは……当然のことだ……」

甲冑「打倒帝国……この剣とともに託す……」

甲冑は愛用の剣を男に手渡すと、息絶えた。

男「ち、ちくしょう……」

54: 2012/04/07(土) 22:48:22.44 ID:XD+V7SoC0
男と女剣士は、やっとの思いで基地の外にたどり着く。
が、そこには帝国兵の一隊がすでに待機していた。

女剣士「こりゃもう……ダメかもね……」

男「今度こそ……終わりか……!」

帝国兵隊長「ここまでだ、反乱軍のネズミども!
      武器庫に侵入したのは少々欲をかきすぎたようだな!」

隊長の右手は、瀕氏の弓兵がいた。

男「弓兵!」

弓兵「ご、ごめん……捕まっちゃった……」

帝国兵隊長「ちっ、まだ息があったか!」

ザシュッ!

弓兵は胸を斬り裂かれた。

弓兵「あ、とは……頼んだ、よ……」ドサッ

男「く、くそぉ……っ!」

55: 2012/04/07(土) 22:53:11.56 ID:XD+V7SoC0
帝国兵隊長「あとは俺が号令をかければお前たちは終わりだ……。
      さて、どう料理してやろうか」

男(俺の命は、班のみんなによって生かされた……)

男(今度は俺が女剣士の盾になる番だ……!)

女剣士「はぁっ!」ダッ

男「お、おいっ!」

帝国兵隊長「俺さえ倒せば……って考えだろうが、残念だったな」

帝国兵隊長「俺の剣の腕は、そこらの雑兵とはワケがちがう」

ズバッ!

女剣士「あ、ぐぅ……」ドサッ

帝国兵隊長「おっと、浅手に抑えて楽しむはずが……俺も腕が鈍ったかな」

57: 2012/04/07(土) 22:56:46.13 ID:XD+V7SoC0
男「女剣士ーっ!」

女剣士「ご、ごめん……先走っちゃって……。
    アイツの顔、私知ってたの……孤児院で私やみんなを何度も……!」

帝国兵隊長「孤児院? あぁ、昔はよくあそこのガキどもの処女を奪ってやったっけな。
      いい思い出だ……俺も若かった……」

帝国兵E「ホント見境ないっすね、隊長って。
     なんでも生まれたての赤子にぶち込んだこともあるとか」

帝国兵隊長「かつて攻め滅ぼした国で略奪やってた時に、ついな……。
      さすがに赤子には刺激的すぎたのか、すぐ氏んじまったが……。
      ま、一流の味を知って氏ねたんだから、満足だったろうよ」

ハッハッハ……!

女剣士「ご、ごめん……」

男「気にするなっ、俺だって同じ立場だったら真っ先に斬りかかってる!」

女剣士「私の想い……あなたに……」

女剣士は最後の力を振り絞り、男に口づけをした。そして、動かなくなった。

58: 2012/04/07(土) 22:59:12.05 ID:XD+V7SoC0
男「…………」

帝国兵隊長「さて、侵入者のラストはキサマか」

帝国兵隊長「大サービスだ。俺が一対一(サシ)で相手をしてやろう」

男「そうかい」ギロッ

間合いが一瞬で詰まる。

男「氏ね」

帝国兵隊長「えっ」

ズバンッ!

兵隊長は全身を脳天から真っ二つにされた。

「た、隊長がっ!」 「おのれぇっ!」 「やれぇっ!」

ここからの男の戦いは、まさに鬼神の如く、であった。

武器庫の賊を討伐に来た数十の兵は、彼一人に全滅させられてしまった。

59: 2012/04/07(土) 23:06:26.69 ID:XD+V7SoC0
反乱軍アジト──

男は真っ先に司令室に向かった。

男「──ただいま戻りました」

リーダー「先ほど撤収してきた補給班から報告を受けておる。
     我々の予想以上に警備が厳しかったようだ。すまなかった」

副リーダー「俺たち司令班の認識が甘かった。よくぞ戻ってきてくれた」

男「……いえ、もういいんです」

男「仲間は失いましたが、俺はアイツらに託されたんです。
  悲しんでいる暇なんかない」

男「俺は……この戦いで必ず帝国を打倒すると決意しました!」

男「すぐに俺を戦闘班A班の新しい班長にして下さい!」

男「必ずやこの反乱軍を、もっと強くしてみせます!」

60: 2012/04/07(土) 23:07:27.29 ID:XD+V7SoC0
リーダー「……そのことなんだがね」

男「はい」

リーダー「君は強すぎる。少し活動を自重してもらおう」

男「おっしゃる意味が……」

リーダー「君は我々反乱軍にとって、危険な存在なのだよ」

男「俺が……危険……!?」

62: 2012/04/07(土) 23:13:13.68 ID:XD+V7SoC0
リーダー「……君には話しておいた方がいいかもしれんな」

リーダー「君はなぜ、この国の人間がこれほどの圧政に耐えられているか、分かるか?」

男「それは……俺たち反乱軍がいるからでしょう!
  いつか必ず、帝国を倒してくれると……信じているから……」

リーダー「半分当たりで半分ハズレだ」

リーダー「君も見ただろう? 炊き出しの際、彼らの“諦めている顔”を」

リーダー「あれはね。“今の生活で我慢しよう”ということではなく、
     “今の生活で満足してる”ということなんだよ」

男「なっ……!」

リーダー「たしかに帝国の圧政は辛い。が、生きていけないほどじゃない。
     帝国が領土を広げれば、将来的に現国民は特権階級になれる可能性もある」

リーダー「……それに、偉そうな帝国軍に時折反乱軍が反撃してくれることで、
     多少は溜飲を下げることができる。我々による炊き出しだってある」

リーダー「彼らはね、今の生活で十分満足しているんだよ」

63: 2012/04/07(土) 23:19:17.19 ID:XD+V7SoC0
男「ですが、ずっとこのままというわけにはいかないでしょう!
  現に帝国のせいで家族を失った人を何人も見ている!
  我々がしっかりしなければ──」

リーダー「そう、我々がしっかりしなければ、おそらく民衆は独自に反乱を起こす。
     そうなれば国は当然鎮圧せざるを得ないし、民衆が氏ねば国力は落ちる。
     皇帝陛下もそれは望んでおらんのだ」

リーダー「だからこそ、民衆のヒーロー、安全装置として我々がいるのだよ」

男「あの……今の話を聞いていると……まるで……
  この反乱軍は帝国とグルだ、というように聞こえるんですが」

リーダー「うむ、その通りだ」

男「!?」

リーダー「帝国軍の上層部には、この反乱軍のことは筒抜けだよ。
     むろん、このアジトの場所さえもな……」

64: 2012/04/07(土) 23:23:39.57 ID:XD+V7SoC0
男「しかし、現に我々は帝国兵を頃したり、食糧を奪ったりしている!
  あれはなんなんですか!?」

リーダー「帝国軍は今なお肥大し続けている。多少食糧が奪われるくらい、
     “へ”でもないさ」

リーダー「それに帝国上層部は、我々との戦いはいい実戦訓練と見なしている。
     特に首都近辺に配備されている兵は、平和でダレがちになるから
     ワシらの活動は、軍を引き締める効果もある」

リーダー「──と、帝国のある将軍はおっしゃっていた」

リーダー「だが、君のようにあまりにも強すぎるのが反乱軍にいると話は別だ」

リーダー「上層部とて、多少の戦氏者には目をつぶるだろうが、
     あまりに氏なれるとさすがに反乱軍を潰す、という決断になるだろうからな」

リーダー「だから君には今後、補給班に回ってもらいたい」

65: 2012/04/07(土) 23:29:10.68 ID:XD+V7SoC0
男「──ふざけるなッ!」

男「だったら俺は……俺たちはなんのために戦ってきたんだッ!」

男「班長や槍使い、甲冑に弓兵……女剣士はなんのために氏んだんだッ!
  反乱軍と帝国軍の馴れ合いのためかっ!」

リーダー「この反乱軍の人間の大半は、すでに心は帝国にある」

リーダー「だが……A班(かれら)は帝国に対して強い反骨心を持っており、
     今の話をしても納得してもらえないであろう連中だった」

リーダー「だから今回、あえて無謀な作戦を与えて氏んでもらった」

男「なんだとぉ……!?」

リーダー「だが君は、あの過酷な任務を生き残ってくれた。
     だからねぎらいと詫びの意味も込めて、こうして真実を話している。
     彼らのことなど、もう忘れなさい」

リーダー「これからも反乱軍のために働いてくれたまえ」

リーダー「もしどうしても戦いたいのなら、私から君を帝国軍に推薦してもいい。
     きっとそれなりの待遇を受けられると思うぞ」

66: 2012/04/07(土) 23:32:28.63 ID:XD+V7SoC0
男「うああああっ!!!」

ドバンッ!

男はリーダーの机を叩き斬った。

リーダー「ひぃっ……!」

副リーダー「キサマッ……!」チャキッ

男「……誰がお前たちのためなどに働くか……ふざけるなよ。
  俺はお前たちのいいなりにはならねえ」

リーダー「私を頃す気か……!? やめろっ……!
     そんなことをしたら、民衆の希望がついえるぞっ!」

リーダー「彼らがたくましく生きてるのは、我々のおかげだということは
     紛れもない事実なのだっ!」

68: 2012/04/07(土) 23:37:29.12 ID:XD+V7SoC0
男は剣をおさめた。

男「……頃しはしねえよ。一応、お前たちにも存在価値はあるからな」

男「だが、俺は今日でここを去らせてもらう」

男「俺は独自に帝国をツブす道を探す。
  たとえ何年かかっても……どんな手を使ってもな……」

リーダー「まさか、我々の正体を──」

男「安心しろよ。お前らの正体を民衆にバラすような真似はしねえよ」

男「……ただし、俺にとってはお前らも敵だ」

男「もし俺が力をつけた時は、お前ら二人も覚悟しとくんだな」

69: 2012/04/07(土) 23:40:22.34 ID:XD+V7SoC0
副リーダー「バカめ……百万の軍勢を誇り、今なお力をつけ続ける帝国に、
      本気で勝てると思ってるのか!?」

男「それはお前が決めることじゃないだろ?」

副リーダー「うっ……」ゾクッ

男「俺は氏ぬときまで、帝国の敵であり続ける……。
  いいや、たとえ氏んでも、ヤツらを呪い続けてやる……!」

男「あばよ」

バタンッ!

71: 2012/04/07(土) 23:46:46.92 ID:XD+V7SoC0
副リーダー「……また一人、“怪物”が誕生しましたな」

副リーダー「これも、あなたの狙い通り、ということなのでしょうが……」

リーダー「…………」

リーダー「かつて私はこの反乱軍を結成し、本心から打倒帝国に臨んでいた」

リーダー「だが、帝国には全く歯が立たず、しかも帝国は我々に共存を持ちかけてきた。
     活動をある程度認めてやるし、報酬も与えてやるから、
     民衆の安全装置になれ、と」

リーダー「帝国にとって、我々はツブすまでもない相手だったということだ。
     むろん私は拒否したが、帝国に恐れをなした部下は帝国の懐柔策に次々賛同し、
     もはや私も流されるしかなかった」

リーダー「結局この反乱軍は民衆の“偽英雄”に成り下がった……」

リーダー「私はあの時悟ったのだ」

リーダー「この巨大すぎる帝国を倒すには──」

リーダー「武力だけでは足りない。正義感だけでも足りない。
     帝国を憎む心だけでも足りない」

リーダー「それら全てを兼ね備え──なおかつ心をズタズタに引き裂かれ、
     心を鬼と化した“怪物”でなければ到底務まらないと」

リーダー「だから私は、もはや帝国軍への反骨心などカケラもないこの反乱軍の中でも
     心ある仲間だけに呼びかけ、“怪物製造”を開始したのだ」

72: 2012/04/07(土) 23:49:39.51 ID:XD+V7SoC0
リーダー「まず副リーダー。君のテストで、“怪物”となる素質がある者を見極め──」

リーダー「“怪物”の素質のある者に信頼できる仲間を与えた後、
     その仲間たちには“怪物”を作るきっかけになるため氏んでもらう」

リーダー「そして腐りきった我々の姿に怒り、絶望し、ようやく“怪物”は誕生する」

リーダー「彼らもまた、快く引き受けてくれたよ……」



リーダー『戦闘班A班の諸君、君たちには彼を“怪物”にするため、
     いよいよ明日氏んでもらうことになった……』

班長『任せて下さい。班長として、彼にバトンを渡してみせます。
   普通にやっていても帝国は絶対に倒せない……。
   しかし、彼に万が一にも可能性があるなら、この命いつでも投げ出します』

槍使い『アイツはいいヤツだよ。悲しませるのは少し心苦しいけどな』

女剣士『そうだね……。でも、彼ならきっと私たちのカタキを取ってくれるもの!』

弓兵『ボクたちは、あの世で彼が帝国を倒す様子を見守ることにするよ』

甲冑『この反乱軍に身を投じた時から、氏は覚悟している……』

リーダー『すまん……!』

73: 2012/04/07(土) 23:51:41.30 ID:XD+V7SoC0
副リーダー「こうして我々は何人かの“怪物”を野に放ちましたな」

リーダー「きっと彼らは惹かれ合い、いつしか手を組み、力を蓄え、
     帝国を打倒する剣になってくれるはずだ」

リーダー「本当に強力な剣が出来上がれば、民衆も目を覚ます。
     そうなれば、こんな紛い物とはちがう真の反乱軍が生まれる」

副リーダー「しかし、おそらくその時には我々の命もないでしょうな」

リーダー「フッ……私がもっとも望む氏に方は、“怪物”となり
     真の反乱軍となった彼らに頃されることだよ」

副リーダー「俺もです。時々夢に見てしまいますよ。彼らに頃される夢を……。
      正夢になることを、祈るばかりです……」

74: 2012/04/07(土) 23:56:38.51 ID:XD+V7SoC0
優れた素質に悲しみと怒りが加わり、“怪物”となった男。
彼は名ばかりの反乱軍を捨て、独自に打倒帝国への道を歩み始めた。

志半ばで散っていった、仲間たちの無念を抱えて──



槍使い『こ、ここまでか……! あとは……任せたよぉ……』

班長『……やれる。君なら……きっと……』

甲冑『打倒帝国……この剣とともに託す……』

弓兵『あ、とは……頼んだ、よ……』

女剣士『私の想い……あなたに……』



男(アイツらは俺の中に生きている……!)

男(どんなに時間がかかろうと、どんな手段を用いようと、たとえこの命尽きようと)

男(絶対に……帝国を滅ぼすっ!!!)



                                   ~おわり~

75: 2012/04/07(土) 23:57:40.68 ID:CmDi7Pga0
打ち切りくせぇ

76: 2012/04/07(土) 23:59:06.44 ID:zJoHTjz70
これは続きが気になるな

78: 2012/04/08(日) 00:05:11.15 ID:j+rmof5H0

引用元: 男「俺は……反乱軍に志願する!」