1: 2012/05/01(火) 21:07:02.47 ID:hKYXbx7i0
女賢者「へぇ、スゴイじゃないですか」

女賢者「史上最年少じゃないんですか? そんな歳で賢者だなんて……」

商人「えぇ、ですが一つ問題がありまして」

女賢者「問題?」

6: 2012/05/01(火) 21:12:34.84 ID:hKYXbx7i0
商人「性格が……ひどく傲慢になっているらしいのです」

商人「能力はあるのですが、これでは賢者となった意味がありません」

商人「なので、一つお灸をすえていただきたいと思いまして……」

商人「──で、やはりこういうのは女性の方がいいのかなぁ、と……」

女賢者「分かりました」

女賢者「商人さんには私の魔法道具をたくさん扱ってもらってますし……」

女賢者「息子さんの教育、引き受けましょう」

商人「ありがとうございます!」

8: 2012/05/01(火) 21:15:45.36 ID:hKYXbx7i0
商人の息子は、賢者となってまもなく家を出て一人暮らしをしている。
魔法道具の精製や学校の講師などで、生計を立てているという。

女賢者「──ここね」

女賢者(大きい家……。きっと魔法を実験するスペースとかもあるんだろうなぁ)

女賢者(子供のくせに……まったくもって羨ましい)

女賢者「こんにちはぁ~」

シ~ン……

女賢者「こんにちはぁ~」

シ~ン……

女賢者「…………」

12: 2012/05/01(火) 21:20:28.00 ID:hKYXbx7i0
女賢者(おかしいな、今日は休みで家にいるハズだって聞いてたけど)

女賢者(どこかに出かけてるのかな?)

女賢者(えぇとドアは──)

ガチャッ

女賢者(開いてる)

女賢者(いいや、勝手に入っちゃお)

女賢者「おジャマしま~す」

14: 2012/05/01(火) 21:26:36.76 ID:hKYXbx7i0
魔法研究室──

女賢者「あ、いたいた」

女賢者(なんだ、案外可愛い顔してるじゃない)

女賢者「こんにちは」

少年賢者「…………」チラッ

女賢者「あのぉ……」

少年賢者「ねぇ」

女賢者「え?」

少年賢者「お姉さんも服装から判断すると賢者のようだけど」

少年賢者「他人の家に勝手に入るような非常識さで、よく賢者を名乗れるね」

女賢者「あ……」

15: 2012/05/01(火) 21:30:10.95 ID:hKYXbx7i0
女賢者「返事がなかったからつい、ね」

女賢者「ゴメンね、ハハ……」

少年賢者「へぇ、返事がなかったら入るんだ」

少年賢者「悪気がない分、泥棒よりタチが悪いね」

女賢者「……面目ないです」

少年賢者「で、なんの用?」

少年賢者「おそらくボクが休みだって知ってて来たんだろうけど」

少年賢者「ご覧の通り、ボク忙しいんだよね」

少年賢者「ヒマそうなあなたとちがって、休日も魔法の研究に余念がないからさ」

女賢者(うぅむ、聞きしに勝るナマイキっぷりね)

16: 2012/05/01(火) 21:36:45.76 ID:hKYXbx7i0
女賢者「えぇと、ね」

女賢者「あなた、近所の学校で魔法を教えてるでしょ?」

少年賢者「うん」

女賢者「同じくらいの年齢の子たちにも、ずいぶん厳しいみたいじゃない」

女賢者「ついていけない子もずいぶん出てるみたいよ?」

少年賢者「厳しいことのどこがいけないの?」

少年賢者「甘やかす方が百害あって一利なし、だよ」

少年賢者「魔法なんて、しょせん才能の世界だしね」

少年賢者「ボクの授業についてこられず魔法が使えなくても」

少年賢者「別に生きていけないワケじゃないし」

少年賢者「無理に足並み揃えさせる方が、非効率的だよ」

17: 2012/05/01(火) 21:41:09.53 ID:hKYXbx7i0
女賢者「他にも……」

女賢者「先輩の魔法使いたちにも、ずいぶん高圧的に接してるらしいじゃないの?」

女賢者「あなたの才能は認めるけど、年上を敬うってことも大切だよ?」

少年賢者「……やれやれ」フゥ…

女賢者(ため息つかれた!)

少年賢者「年功序列ってヤツ?」

少年賢者「無能な人ほど好むんだよね、そういうの」

少年賢者「なんでボクより劣ってる人に、ヘコヘコしないといけないんだよ」

18: 2012/05/01(火) 21:44:41.10 ID:hKYXbx7i0
女賢者「賢者というのはね」

女賢者「どんな相手にも余裕を持って、優しく接することができるものだよ」

少年賢者「賢者になる必要要件にそんなものなかったけど?」

少年賢者「回復、補助、攻撃魔法の全てを一定のレベル以上で扱えて──」

少年賢者「筆記試験と実技試験をクリアすれば賢者を名乗っていいはずだけど」

少年賢者「どんな相手にも優しく接せられるってだけで賢者になれるなら」

少年賢者「きっと魔法学のレベルはガタ落ちするだろうね」

女賢者「むぅ……」

女賢者(さっきは私に“非常識なくせに賢者なんだ”っていったくせに……!)

20: 2012/05/01(火) 21:48:17.96 ID:hKYXbx7i0
女賢者「でも賢者というのは──」

少年賢者「お姉さん」

少年賢者「さっきもいったよね?」

少年賢者「ボク忙しいんだよ。お姉さんとちがって」

少年賢者「無駄話がしたいだけなら、さっさと帰ってくれない?」

少年賢者「ジャマなんだよね、ハッキリいって」

女賢者「…………」

21: 2012/05/01(火) 21:53:29.95 ID:hKYXbx7i0
女賢者「ふぅん」

少年賢者「?」

女賢者「君は、ホントに自分が一番だと思ってるんだね」

少年賢者「さすがにそれはないよ」

少年賢者「ボクにだって尊敬する賢者や大魔法使いくらいいるよ」

少年賢者「もちろん、将来は彼らを超えるつもりでいるけどね」

女賢者「じゃあ私と君なら、どっちが上だと思う?」

少年賢者「…………」

女賢者「いいよ、正直にいって」

少年賢者「ボク」

少年賢者「少なくとも、お姉さんには負ける気がしないね」

22: 2012/05/01(火) 21:56:28.57 ID:hKYXbx7i0
女賢者「フフフ……」

少年賢者「!」

女賢者「じゃあ、勝負してみる?」

少年賢者「勝負って……どうやって?」

少年賢者「魔法道具の精製で? 魔法学の知識で? 扱える魔法の種類で?」

女賢者「ううん、もっと分かりやすい方法があるじゃない」

少年賢者「?」

女賢者「戦うんだよ。私と君で」

少年賢者「!」

24: 2012/05/01(火) 21:59:39.67 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「戦うって……バカバカしい」

少年賢者「それに何回もいってるけど、ボク忙しい──」

女賢者「怖いんだ?」

少年賢者「!」カチン

女賢者「史上最年少で賢者になるほどの才能の持ち主である君が」

女賢者「賢者としてはせいぜい中の上くらいの私を恐れてるんだ?」

少年賢者「だ、だれがっ!」

少年賢者「いいよ、やってあげるよ!」

少年賢者「その代わり、怪我しても知らないからね!」

女賢者(ふふっ……案外可愛いとこもあるじゃない)

28: 2012/05/01(火) 22:07:31.85 ID:hKYXbx7i0
女賢者「どこで勝負しよっか?」

少年賢者「向こうに魔法の実験室がある」

少年賢者「広いし、魔法を吸収する壁でできてるから、ボクらが戦うには持ってこいだ」

女賢者「へぇ~」

女賢者「それにしてもこんなに大きい家、よく建てられたね」

少年賢者「ボクのお父さん、けっこう儲けてる商人だからね」

少年賢者「一人暮らししたいっていったら、お父さんが建ててくれたんだよ」

少年賢者「お父さんは才能がなくて賢者になれなかった人だから」

少年賢者「ボクに夢を託してるつもりなんだろうね」

少年賢者「可哀想な人だよ、まったく」

女賢者「ふぅ~ん」

29: 2012/05/01(火) 22:12:04.33 ID:hKYXbx7i0
魔法実験室──

女賢者「おぉ、けっこう広いねぇ」

女賢者(これなら多少魔法を撃ち合っても、まったく問題はないね)

少年賢者「なにを物珍しそうに見てるのさ。みっともない」

少年賢者「いったろう? ボクは忙しいんだって」

少年賢者「さっそく始めようか」シュウウ…

女賢者「せっかちは、女の子に嫌われるよ」シュウウ…

魔力を開放し、二人とも臨戦態勢に入る。

32: 2012/05/01(火) 22:17:01.53 ID:hKYXbx7i0
女賢者(おお、すごい)

女賢者(まだ子供のくせに、私より魔力は完全に上だよ)

女賢者(これはちょっとマズイかも……)

少年賢者(ふん、偉そうなこといったわりに大した魔力じゃないじゃん)

少年賢者(魔法ってのは、結局は才能なんだよ)

少年賢者(悪いけど、すぐ終わらせてもらうよ、お姉さん)

36: 2012/05/01(火) 22:25:17.08 ID:hKYXbx7i0
少年賢者『施錠(ロック)!』

女賢者「!」

ガチャッ!

女賢者の胸に、巨大な鍵が差し込まれた。
この魔法を受けてしまうと、術者が鍵を抜くまで動けなくなってしまう。

女賢者(おおっ、停止系呪文でもかなり高度な部類なのに……さすがだね)

少年賢者「さ、これでもうお姉さんは動けないよ」

少年賢者「さっさと降参して、家から出てってもらおうか」

女賢者「……くすっ」

パキィィン!

女賢者の胸に刺さった鍵が、砕け散った。

37: 2012/05/01(火) 22:27:07.28 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「あ、あれ……?」

女賢者「ふふっ、失敗しちゃったんじゃない?」

女賢者「まぁいくら才能があるといっても、まだ子供だもんね。しょうがないよ」

女賢者「ドンマイ♪」

少年賢者「──くっ!」

少年賢者『施錠(ロック)!』

ガチャッ!

女賢者「ふふっ」

パキィィン!

少年賢者「!?」

38: 2012/05/01(火) 22:29:07.95 ID:hKYXbx7i0
少年賢者『施錠(ロック)!』

ガチャッ! パキィィン!

少年賢者『施錠(ロック)!』

ガチャッ! パキィィン!

少年賢者『施錠(ロック)!』

ガチャッ! パキィィン!

少年賢者(おかしい! こんなことありえない!)

女賢者「ふんふ~ん」チラッ

少年賢者(あ、あの腕輪は!?)

39: 2012/05/01(火) 22:34:14.73 ID:hKYXbx7i0
少年賢者(呪い封じの腕輪!)

少年賢者(アレをつけてれば、大抵の補助呪文は無効化できる!)

少年賢者(どうりで効かないワケだ……!)

少年賢者「ずるいよっ!」

女賢者「え、なにが?」

少年賢者「その腕輪だよ!」

少年賢者「呪い封じの腕輪をつけて、魔法勝負を挑むなんて!」

女賢者「どうしてずるいの?」

少年賢者「だ、だって──」

女賢者「魔法勝負を挑まれた時点で、敵にこれくらいの準備があることくらい」

女賢者「想定するのがフツーじゃない?」

44: 2012/05/01(火) 22:42:05.06 ID:hKYXbx7i0
女賢者「ごめんね、君のこともう少し賢いと思ってたからさ」

少年賢者「!」

女賢者「まさか、ずるいなんて言葉が出てくるとは思わなかったよ」

女賢者「ま、でも賢者とはいうけど、別に賢くなくてもなれるからね」

女賢者「あくまで定められた試験をパスすればいいんだもんね?」

少年賢者「くぅっ……!」

女賢者「さっきの『施錠(ロック)』連発でだいぶ魔力を消費しちゃったでしょ」

女賢者「今ならお姉さんにごめんなさいすれば、許してあげるよ?」

少年賢者「だ、だれが!」

少年賢者「勝負はこれからだよっ!」

女賢者(あらあら、可愛いなぁ)

45: 2012/05/01(火) 22:44:20.84 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「ボク、ちゃんといったからね!」

少年賢者「怪我しても知らないって!」

少年賢者「…………」ブツブツ

少年賢者『炎呪文(ファイア)!』

ボウッ!

女賢者(おおっ、けっこう大きい炎を出すじゃない)

48: 2012/05/01(火) 22:48:05.33 ID:hKYXbx7i0
ボアァッ!

少年賢者「あ~あ、まともに喰らったね」

少年賢者「ま、安心してよ。出力は抑えたし、すぐ回復してあげるからさ」

少年賢者「やっぱり魔法は才能──」

女賢者「ふふっ……」

少年賢者「え」ビクッ

シュウウウ……

女賢者は無傷だった。

女賢者「君の実力は、こんなものなのかな?」

少年賢者(な……なんで……?)

51: 2012/05/01(火) 22:55:08.86 ID:hKYXbx7i0
少年賢者(まだなにか、魔法耐性を上げる装備をつけてるのか!?)

少年賢者(いや……そんな様子はない……)

少年賢者(いったいどうして──!)

女賢者「どうしたの? やけに汗をかいてるけど」

女賢者「お姉さんが怖い?」

少年賢者「……あ」ギクッ

少年賢者「じ、自分の呪文が熱かっただけだよっ!」

少年賢者「今度はもっとすごい呪文でやるからね!」

女賢者(ふふっ、分かりやすい子だね)

53: 2012/05/01(火) 22:57:04.90 ID:hKYXbx7i0
少年賢者『氷呪文(アイス)!』

少年賢者『土呪文(クレイ)!』

少年賢者『雷呪文(サンダー)!』

少年賢者『水呪文(ウォーター)!』

少年賢者『風呪文(ウインド)!』

………

……



次々に魔法を繰り出す少年賢者。

しかし、女賢者に傷一つ負わせることはできなかった。

女賢者「怪我しても知らない、だっけ?」

女賢者「早く怪我させて欲しいなぁ~」クスクス

56: 2012/05/01(火) 22:59:29.44 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「…………!」ハァハァ

少年賢者(ど、どうして……?)ハァハァ

少年賢者(どうしてなの……!?)ハァハァ

女賢者(お、ようやく魔力が切れてきたみたいだね)

女賢者(まだ子供なのにこれだけ魔法を連発できるなんて)

女賢者(大したもんだよ、まったく)

女賢者「どうしたの? 息が上がってるけど、もうごめんなさいする?」

少年賢者「うぅ……」

62: 2012/05/01(火) 23:07:38.82 ID:hKYXbx7i0
女賢者が無傷なのには、ちょっとしたタネがあった。


魔法を放つ時には、呪文の詠唱や身振りが必要となるが、
熟練した魔法使いであれば相手にどんな魔法を使うかを悟らせない。


しかし、経験の浅い少年賢者は基本に忠実な魔法の撃ち方をしているので、
見る人が見ればなんの魔法を使うかがバレバレなのである。


女賢者は少年賢者が放つ魔法を、相性のよい属性の魔法で相殺していた。
ようするに、後出しジャンケンをしていたのだ。


相性がよければ威力は低めでも相殺は可能なので、
女賢者の魔力消費量は少年賢者より遥かに少なくて済む。

68: 2012/05/01(火) 23:10:15.33 ID:hKYXbx7i0
少年賢者(まずい、もう魔力が残り少ない……)

少年賢者(負けたくない! 絶対に降参なんかしない! こうなったら──)

少年賢者(多少の小細工は吹き飛ばす、大きい魔法で一気にケリをつけるしかない!)

女賢者(だいぶ焦ってるみたいね)

女賢者(さてと、そろそろ勝負に出てくる頃かな)

女賢者(タイミングがシビアだから、ミスらないようにしないと)

69: 2012/05/01(火) 23:14:02.70 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「お姉さん、勝たせてもらうよ!」

少年賢者「…………」ブツブツ

少年賢者『爆発呪(エクスプロージョ──!』ズオッ

女賢者『空気呪文(エアー)』ボシュッ

爆発が起こる寸前、空気の塊が少年賢者にぶつかった。

ガンッ!

少年賢者「あうっ!」

71: 2012/05/01(火) 23:18:04.68 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「あ、あれ……ボクの魔法が……!?」

女賢者「残念だったね」

女賢者「発動する瞬間に、私が君に魔法をぶつけたから」

女賢者「不発になっちゃったみたいだね」

女賢者「しかも君は、不発だったのに魔力を消費してしまったみたい」クスッ

女賢者「『空気魔法(エアー)』は最下級魔法だけど」

女賢者「ノータイムで撃てるから、魔法の詠唱をジャマするのには持ってこいなんだよね」

女賢者「いい勉強になったでしょ?」

少年賢者「あ……あぁ……」ハァハァ

72: 2012/05/01(火) 23:18:17.93 ID:aXgHwS1bO
そろそろパンツを脱ぐべきか

76: 2012/05/01(火) 23:23:08.53 ID:w2R4WUT6O
早くしろどうなってもしらんぞ

77: 2012/05/01(火) 23:23:30.89 ID:hKYXbx7i0
少年賢者(もう魔力はほとんど残ってない……)

少年賢者(でもこの家からテレポートするくらいの魔力はある!)

少年賢者(悔しいけど……逃げよう!)

少年賢者(降参するくらいなら、逃げた方がマシだ!)

女賢者『吸収呪文(ドレイン)』

ズオッ!

少年賢者「あ」

これで、少年賢者の残り魔力は完全にゼロになった。

81: 2012/05/01(火) 23:25:43.49 ID:w2R4WUT6O
悪い子にはお仕置きしなきゃね

84: 2012/05/01(火) 23:29:12.32 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「あ……あ……」ハァハァ

女賢者「あれ、あまり吸収できなかったなぁ」

女賢者「私の魔法が失敗したのか、それとも──」

女賢者「君の魔力がもう底をついたからなのか……」チラッ

少年賢者「ボ、ボクの魔力はまだまだ残ってるよっ!」ハァハァ

少年賢者「降参するなら……い、今のうちだよっ……!」ハァハァ

女賢者(ウソがヘタだなぁ)クスッ

86: 2012/05/01(火) 23:35:06.89 ID:hKYXbx7i0
女賢者「あれだけ魔法を乱発して、まだ魔力があるなんて……さすがだね」

女賢者「私じゃ君には敵わないのかもしれない……」

少年賢者「そうだよ、だからもう帰ってよ! 見逃してあげるから!」ハァハァ

女賢者「いえ……たとえ勝てなくても私は最後まで頑張るよ」

女賢者「君だって、けっこう魔力を消費してるハズだしね」

少年賢者「!」ギクッ

女賢者「君の防御呪文がどれほどのものか知りたいから──」

女賢者「今度は私から攻撃させてもらうね?」

少年賢者「や……やめ……!」ハァハァ

88: 2012/05/01(火) 23:39:23.95 ID:hKYXbx7i0
女賢者「やめ? もしかして、やめてっていおうとしたの?」

少年賢者「え、あ……」ハァハァ

女賢者「魔力はまだまだあるんでしょ?」ザッ

少年賢者「ひっ……!」ビクッ

女賢者「あれ、どうして後ずさりするの? 私が怖い?」

少年賢者「こ……怖くないよっ!」

女賢者(さてと、そろそろ仕上げといくか)

91: 2012/05/01(火) 23:44:08.87 ID:hKYXbx7i0
女賢者が魔力を放つ。少年賢者は金縛り状態になった。

ビシッ!

少年賢者(う、動けない……!)

少年賢者(この程度の呪縛、少しでも魔力が残ってたらハネのけられるのに!)

少年賢者(うぅ……っ! ちくしょう……っ!)

女賢者「まだ、参ったする気はないの?」

少年賢者「──だれがっ!」

女賢者「そりゃそうだよね。だってまだ魔力は残ってるんだもんね」

女賢者「きっと私にも花を持たせようと、呪縛にかかったフリをしてくれてるんだよね」

女賢者「演技がうまいなぁ、上手上手」パチパチ

少年賢者「う……うぅっ……」

94: 2012/05/01(火) 23:49:36.05 ID:hKYXbx7i0
女賢者「さてと」

女賢者「本当に降参する気はないワケね?」

少年賢者「しつこいな……! ないよっ!」

女賢者「了解」

女賢者「じゃあこれ以降は、君がどんなに頼んでも私は攻撃をやめないからね」

女賢者「魔力すっからかんの坊や?」

少年賢者「!」

97: 2012/05/01(火) 23:53:32.81 ID:hKYXbx7i0
少年賢者「ボクが魔力を使いきったこと、知ってたんだなっ!」

少年賢者「卑怯だぞっ!」

女賢者「どこが卑怯なの? 君が勝手に使いきっただけじゃない」

女賢者「これだけ降参するチャンスもあげたのに」

少年賢者「で、でも──!」

女賢者「ま、どうでもいいけどね。君はもう動けないワケだし」

女賢者「魔力が尽きた賢者なんて、下手すりゃ普通の人より弱いもん」クスッ

少年賢者「や、やめ……」

女賢者「さ、おしおきを始めよっか」

少年賢者「やめてぇ……っ!」

101: 2012/05/01(火) 23:59:06.77 ID:hKYXbx7i0
女賢者『電気呪文(スパーク)』バチバチ…

女賢者の手が、微量の電気を帯びる。

少年賢者「なにをする気!?」

女賢者「これで、君の体の色んなところに触れてあげる」クスクス

女賢者「どうなるかなぁ~?」

少年賢者「やだぁっ……!」

バチバチバチバチ……

少年賢者「ああぁう、あぁぁぁっ!」

バチバチバチバチ……

少年賢者「あ、あ、あ、ううぅっ……シビれるよぉ……っ!」

バチバチバチバチ……

少年賢者「うあぁぁぁぁぁっ!」

102: 2012/05/02(水) 00:02:36.92 ID:osWrAQiaO
ふむ

105: 2012/05/02(水) 00:08:12.52 ID:CFRgBHM70
電気による攻撃は、10分ほど続いた。

少年賢者「あ……あぅ……うぅぅ……」ハァハァ

少年賢者「あぅぅ……」ガクッ

女賢者「ふふ、だいぶ効いたみたいだね」

女賢者「どう? お姉さんの方が強かったでしょ?」

女賢者(やったことは、ただの電気でのツボ刺激だけどね)

女賢者(むしろ健康にしてあげたくらいだよ)

少年賢者「こんなの……認めない!」

少年賢者「ボクは……ボクは、負けてない……!」グスッ

女賢者(驚いたな、スゴイ精神力だねぇ)

女賢者(ナマイキもここまで来ると、無理に直さない方がいいかもしれないけど……)

女賢者(これも依頼だからね……ゴメンね)

110: 2012/05/02(水) 00:14:06.53 ID:CFRgBHM70
女賢者「ふぅ……。じゃ、しょうがないか」

ボゥ……

女賢者は右手に巨大な球を作り出した。

少年賢者「!」

女賢者「なんの変哲もない魔力のボール」

女賢者「これを今から君にぶつける」

女賢者「魔力がなく動けない君がこれを喰らったら、どうなるかは分かるよね?」

少年賢者「あ、あぁ、あ……」ドクンドクン

女賢者「少しは心を入れ替えるのなら、助けてあげようと思ったけど」

女賢者「どうやら君の心は直りそうもないからね」

女賢者「さよなら……坊や」

女賢者の冷たい目が、少年賢者を射抜いた。

112: 2012/05/02(水) 00:18:01.95 ID:p5N5wK1vO
早くしろ風邪引くだろ

113: 2012/05/02(水) 00:18:20.89 ID:CFRgBHM70
少年賢者「……なさい」ヒック

女賢者「?」

少年賢者「ごめん、なさい……」ヒック

女賢者「!」

少年賢者「ボクの、負け、です……」ポロポロ

少年賢者「ごめん、なさい……」ポロポロ

少年賢者「だから、殺さないで……下さい……」グスッ

女賢者「…………」

117: 2012/05/02(水) 00:23:55.28 ID:CFRgBHM70
女賢者『解除(キャンセル)』

女賢者は少年賢者の呪縛を解いた。

少年賢者「!」

女賢者「こっちこそ、ゴメンね」

少年賢者「え……?」

女賢者「やりすぎちゃったね。でもいい勉強にはなったでしょ?」

少年賢者「ボクを……ころさないの?」グスッ

女賢者「最初からそんなつもりはないって。ほら、私につかまって」

少年賢者「うぅっ……!」ギュッ

女賢者「あらあら、甘えんぼさんだね」

女賢者「ほぉ~ら」ギュウッ

118: 2012/05/02(水) 00:26:23.17 ID:CFRgBHM70
女賢者「…………!」

女賢者(こ、この生温かい、湿った感触は……まさか……!)

女賢者「ねぇ、君もしかして──」

少年賢者「少し、出ちゃった……怖くて……」ポロッ

女賢者「ほらほら、いちいち泣かないの! 大丈夫だから!」

女賢者「とりあえず、先にお風呂だね! うん!」

女賢者(やりすぎたなぁ……ホントにゴメンね……)

121: 2012/05/02(水) 00:33:58.77 ID:CFRgBHM70
風呂場──

女賢者「ほら、前も洗ってあげる」ゴシゴシ

少年賢者「ま、前は、いいよ」

女賢者「子供が恥ずかしがるんじゃないの、ほらっ」ゴシゴシ

少年賢者「あぅぅ……」

少年賢者「あっ……」ピクン

女賢者「あ、ちょっと力が強かった? ゴメンね」ゴシゴシ

少年賢者「お姉さん……今日のことは誰にもいわないで……」

少年賢者「お願い……!」

124: 2012/05/02(水) 00:38:42.20 ID:CFRgBHM70
女賢者「安心して、このことは二人だけの秘密にしておくから」ゴシゴシ

少年賢者「ありがとう」ホッ

女賢者(もしこれがバレたら──)ゴシゴシ

女賢者(子供をそこまで追い詰めたってことで、私の方がヤバイことになるよ)ゴシゴシ

少年賢者「お姉さん……」

女賢者「ん?」ゴシゴシ

少年賢者「お姉さんの、お母さんよりおっきい……」

女賢者(マセてるなぁ)ゴシゴシ

125: 2012/05/02(水) 00:40:51.35 ID:CFRgBHM70
風呂から上がった二人。

グビグビ……

女賢者「ふぅ~、風呂上がりの魔力ドリンクは最高だね!」

少年賢者(お姉さん、おっさん臭い……)

女賢者「君も早く飲んじゃいなよ。魔力すっからかんなんだから」

少年賢者「う、うん……」チビチビ

129: 2012/05/02(水) 00:47:06.96 ID:CFRgBHM70
女賢者「──ま、今日のところは勝たせてもらったけど」

女賢者「君の才能は、私よりずっと上だよ」

女賢者「もし一年後、また勝負したらもう私は勝てないだろうね」

女賢者「でも、魔法は才能だけじゃなく、経験や策略も重要だって分かったでしょ?」

少年賢者「うん……」チビチビ

女賢者「君も案外素直なところあるんじゃない」

女賢者「まだ子供なんだから、下手に大人に食い下がるより」

女賢者「子供という特権を利用して、甘えたりした方が利口だよ?」

女賢者「自分より劣ってる人になんで、って気持ちは私も分からないでもないけどさ」

少年賢者「…………」

少年賢者「……戻れなくなってたんだ」

女賢者「え?」

131: 2012/05/02(水) 00:52:32.85 ID:CFRgBHM70
少年賢者「お父さんは賢者になれなくて商人になった人だから」

少年賢者「ボクに魔法の才能があるって分かった時はすごく喜んでた」

少年賢者「だからボクも期待に応えようと一生懸命勉強して、賢者になった」

少年賢者「でも、そこからは地獄だった……」

少年賢者「みんなに賢者様って崇められて、すごく苦しかった」

少年賢者「ボクはたしかに魔法の才能があるのかもしれない」

少年賢者「でも逆にいえばそれしか取り柄がないんだ……」

133: 2012/05/02(水) 00:55:04.43 ID:CFRgBHM70
少年賢者「お父さんもお母さんもボクを子供扱いしなくなって──」

少年賢者「ホントはボク、一人暮らしなんかしたくなかった」

少年賢者「一人暮らししたいっていったら、引き止めてくれると思ったんだ」

少年賢者「賢者になったとはいえおまえはまだ子供だろう、って……」

少年賢者「でも、お父さんはすごく喜んで、こんな立派な家まで建ててくれて……」

少年賢者「もう、後に引けなくなってしまっていた」

少年賢者「自分の中にある弱い部分は、全て隠してしまおうと決心した」

少年賢者「だからボクは──」ウルッ

少年賢者「ボクは……」ポロッ

135: 2012/05/02(水) 00:59:21.28 ID:CFRgBHM70
女賢者「よしよし」ギュッ

少年賢者「!」

女賢者「君と私は同業者。つまりライバルともいえるワケだけど──」

女賢者「とりあえず、今は甘えさせてあげる。大サービスだよ」

少年賢者「うん……」ギュッ

少年賢者(あ……柔らかくて気持ちいい……)

少年賢者(お姉さんの心臓の音が聞こえる……)

少年賢者(トクントクン、って優しい音……)

女賢者「よしよし、いい子だね」ナデナデ

少年賢者「あ、もっと撫でて」

女賢者「はいはい」ナデナデ

143: 2012/05/02(水) 01:08:42.24 ID:CFRgBHM70
女賢者「──さて、君はどうしたいの?」

女賢者「私も君のお父さんは知ってるから、力になれると思うよ」

女賢者「なんだったら、また一緒に暮らせるようにしてあげてもいいし」

少年賢者「……ううん。ボクはここで暮らすよ」

少年賢者「せっかくお父さんが建ててくれたんだもん」

女賢者「そっか……。まぁこの辺りは治安はいいけど、悪いヤツにだけは気をつけなよ」

少年賢者「うん」コクッ

少年賢者「それに、お姉さんに色々しゃべったおかげでなんか楽になったよ」

少年賢者「ありがと、お姉さん」

女賢者「…………」キュン

146: 2012/05/02(水) 01:13:15.28 ID:CFRgBHM70
女賢者「それじゃ、私はそろそろ帰るけど……」

少年賢者「う、うん」シュン

女賢者「そんなにガッカリしないの」

女賢者「また時々遊びに来てあげるから」

少年賢者「うんっ!」

少年賢者「ま、また……一緒にお風呂入ったり……ギュッとしたりしてくれる?」

女賢者「ふふっ、気持ちよかった?」

少年賢者「いや、そういうワケじゃ……」モジモジ

女賢者「いいよ。あれくらい、いつでもやってあげるよ」

少年賢者「……ありがとう!」

女賢者「じゃあまたね、未来の大賢者君」

少年賢者「うん、またね! お姉さん!」

151: 2012/05/02(水) 01:17:49.53 ID:CFRgBHM70
女賢者はその足で、商人の家に向かった。

商人「おお、女賢者様」

商人「息子は……どうでしたかな? やはり苦労されたのでは……」

女賢者「これからも時々様子を見るつもりですが、多分もう大丈夫だと思います」

商人「おお! よかった……」

商人「これで私もあの子を賢者にした甲斐があるというものです」

商人「人々に慕われるような賢者になってもらわないと……」

商人「どうも息子は大人びすぎていて、少し心配だったのですよ」

153: 2012/05/02(水) 01:20:40.68 ID:CFRgBHM70
女賢者「商人さん」

商人「はい?」

女賢者「あの子はまだ子供ですよ」

女賢者「たしかに魔力や知識はもう大人並、いえ大人以上ですが──」

女賢者「まだまだ甘えたいんです。だれかに頼りたいんです。助けてもらいたいんです」

女賢者「商人さんがお忙しいことは重々承知しておりますが、時々でいいんです」

女賢者「たった一人で賢者として頑張ってる息子さんに、会ってあげて下さい」

女賢者「甘えさせてあげて下さい」

女賢者「お願いします……」

155: 2012/05/02(水) 01:25:32.77 ID:CFRgBHM70
商人「そうですな……」

商人「たしかに私も妻も、あの子を立派な賢者にすることだけを考えて」

商人「親としての愛情、というものはほとんど注げていなかったような気がいたします」

女賢者「……えぇ」

女賢者「それに気づいていただけたのであれば、まだ間に合います」

女賢者「彼にたっぷり愛情を注いであげて下さい」

女賢者「そうすれば──」

女賢者「きっと彼は歴史に残るような、素晴らしい賢者になれると思います」

商人「はい……!」

商人「やはりあなたにお願いしたのは、正しかったようです」

商人「ありがとうございました、女賢者様」

159: 2012/05/02(水) 01:32:59.63 ID:CFRgBHM70
二週間後──

女賢者は再び少年賢者の家を訪れた。

女賢者「こんにちはぁ~」

少年賢者「あっ、お姉さん!」ダッ

少年賢者「時々来るっていっておいて、全然来なかったじゃないか!」

女賢者「ゴメンゴメン。でも、しっかりやってるみたいじゃない」

女賢者「このわずかな期間で、ずいぶん評判もよくなってるみたいだし」

少年賢者「うん、ボクもう強がるのは止めにしたんだ」

少年賢者「今までの分を取り返すためにも、もっとすごい賢者にならないとね」

少年賢者「それについこの前、お父さんとお母さんと遊園地に行ったんだ!」

少年賢者「楽しかったぁ~」

女賢者(よかった……商人さんもちゃんとやってくれてるみたい)

162: 2012/05/02(水) 01:36:37.12 ID:CFRgBHM70
その後、女賢者は少年賢者に魔法を見せてもらった。

少年賢者「どうだった、お姉さん?」

女賢者(すごい……!)

女賢者(心の枷が外れたからなのか、二週間前よりずっとレベルアップしてる!)

少年賢者「あんまり、よくなかった……?」チラッ

女賢者「…………」ハッ

女賢者「ううん、スゴイよ。私もうかうかしてられないな」

少年賢者「へへ、これもお姉さんのおかげだよ」

167: 2012/05/02(水) 01:43:05.73 ID:CFRgBHM70
少年賢者「じゃあ、撫でてくれる?」

女賢者「ったく、しょうがない子ね」ナデナデ

少年賢者「ありがと」

少年賢者「ボクね、もう少し大きくなったらお姉さんに──」

女賢者「え、なに?」

少年賢者「あっ! ううん、なんでもない」

少年賢者「せっかくだから、なんかして遊ぼうよ」

女賢者「うん。じゃあボードゲームでもやろうか?」

少年賢者「やろうやろう!」

168: 2012/05/02(水) 01:46:16.45 ID:CFRgBHM70
歴史書によると──


この少年賢者は、後に若き天才として頭角を現し、
やがて世界的な偉業をいくつも成し遂げる大賢者へと成長する。


そんな彼が伴侶としたのは、彼よりも少し年上の女性であった。
その女性はいつも大賢者の傍らで彼を支え、優しい微笑みを浮かべていた。


大賢者は人々から功績を称えられると、決まって
「妻がいたから、今の私があるんです」と笑ったという。


                                     おわり

174: 2012/05/02(水) 01:49:19.92 ID:jMcri3iu0
これがスレタイ詐欺です

175: 2012/05/02(水) 01:50:03.79 ID:0qlfGnoO0
乙!

176: 2012/05/02(水) 01:50:19.19 ID:FqdL+Wgg0

177: 2012/05/02(水) 01:53:37.19 ID:3o/Jq9kzO
女賢者「大賢者はワシが育てた」

引用元: 女賢者「さ、おしおきを始めよっか」少年賢者「やめてぇ……っ!」