1: 2012/06/06(水) 18:38:07.88 ID:8x2N02I30
ある町の酒場──

ワイワイ…… ガヤガヤ……

少女剣士「──っぷはぁっ! ミルクは最高だね、おっさん!」

剣士「ちゃんと口拭けよ、白いヒゲになってるぞ」

少女剣士「おっと」フキフキ

少女剣士「おっさんは何飲んでるの?」

剣士「酒場なんだから、酒に決まってんだろ」

少女剣士「ふ~ん、あたしにもちょっと飲ませてよ」

剣士「ダメだ。いったろ、おまえはミルクで我慢しろって」

少女剣士「ケチッ!」

剣士「ケチでけっこう」

5: 2012/06/06(水) 18:42:05.29 ID:8x2N02I30
少女剣士「あ、あっちに水着の美女が」

剣士「なんだとっ!?」ガバッ

少女剣士「へへっ、もーらいっ」グビグビ

剣士「あっ……」

みるみるうちに、少女剣士の顔が赤みを帯びる。

少女剣士「あれぇ~? なんらか、体がふわふわしてきた~」

少女剣士「頭がグルグルするよぉ……ぐるぐるぐるぐる……」

剣士「──ったく、しょうがねぇな。宿に戻るぞ」グイッ

少女剣士「どこさわってるのぉ~? おっさぁ~ん」

少女剣士「きゃあ~、さらわれるぅ~。不束者ですが、よろしくねぇ~」

剣士「まったく酔っ払いやがって……」
  (あんな手に引っかかった俺も俺だけどさ……)

7: 2012/06/06(水) 18:44:14.03 ID:8x2N02I30
町の宿屋──

ベッドですやすや眠る少女剣士。

少女剣士「すぅ……すぅ……」

少女剣士「おっさん……そんなことしちゃ、ダメだったら……」ムニャムニャ

剣士「どんな夢見てるんだ、コイツ……」

剣士「…………」

剣士(コイツと出会って、もう半年になるのか……)

8: 2012/06/06(水) 18:48:03.79 ID:8x2N02I30
~ 半年前 ~

ある村が悪名高き盗賊団に襲われ、壊滅していた。

剣士「くそっ、ひでぇもんだ。家は焼かれ、人は頃され、モノは奪われ……。
   ここまでするか、普通……」

剣士(これは、無駄足になったか……)

ガサ……

剣士「……ん?」

ある家の古井戸の中から音がした。

剣士が近づくと──

少女「うわぁぁぁぁっ!」バッ

剣士「!?」

9: 2012/06/06(水) 18:50:09.54 ID:8x2N02I30
少女「よくもやったな、よくもやったなぁっ!」ポカッ

剣士(子供!?)

少女「許さないっ! 絶対に許さないっ!」ポカポカ

剣士「お、落ち着けっ!」

少女「盗賊団めっ!」ポカポカ

剣士「ちがうっ! 俺は盗賊団じゃないっ!」

少女「……え?」

10: 2012/06/06(水) 18:53:07.60 ID:8x2N02I30
剣士「盗賊団はすでにこの村から立ち去ってる」

少女「な、なんだ、そうだったんだ……ごめんなさい」

少女「そうだ、あたしのお父さんとお母さんは……?」

剣士「…………」

少女「なんで黙ってるの?」

剣士(なんてこった……)
  
剣士「すぐそこで……倒れてるじゃないか……」

少女「!」

少女の近くには、盗賊団の手で命を落とした夫婦が倒れていた。

少女「そ、そんなぁ……」ポロッ

少女「お父さぁん、お母さぁぁぁんっ!」

剣士「…………」

剣士「この二人も、このまんまじゃ浮かばれないだろう。
   俺も手伝うから、墓を建ててやろう……な?」

少女「…………」グシュッ

11: 2012/06/06(水) 18:55:09.55 ID:8x2N02I30
村外れに夫婦の墓を建てた二人。

剣士「後で、他の村人の墓も作ってやろう」

少女「…………」コクッ

剣士「ところで、井戸の中にいたのはどうしてだ?」

少女「お父さんとお母さんが、あなたは絶対死んだらダメだって……。
   でも私もお父さんたちと一緒にいたくて……。
   そしたら、多分気絶させられて……この中に入れられたんだと思う」

剣士「……おまえは父さんと母さんに助けられたんだ。
   だからこそ、生きなきゃならないんだ。分かるよな?」

少女「うん……」

剣士「ところでおまえ、名前は?」

少女「あたしの名前は──」

12: 2012/06/06(水) 18:58:29.08 ID:8x2N02I30
少女の名前を聞き、剣士は驚きの表情を見せた。

剣士「…………!」

剣士「あながち無駄足でもなかったようだ」

少女「?」

剣士「おまえ、俺についてこい」

少女「えっ?」

剣士「一人でここに残っても寂しいだろうし、辛くなるだけだ。
   俺がもっと相応しい場所に連れてってやる」

少女「じゃあさ……」

剣士「ん?」

少女「あたしにも、剣を教えてくれる?」

剣士「いいよ、教えてやるよ」

少女「じゃあ行くっ!」

13: 2012/06/06(水) 18:59:22.61 ID:8x2N02I30
少女「あなたの名前は?」

剣士「俺は剣士だ」

少女「ふぅ~ん。よろしくね、剣士!」

剣士「オイ、呼び捨ては止めろよ。ちゃんと“さん”を付けて呼べ」

少女「…………」

少女「じゃあ……おっさんで」

剣士「オイ、俺はまだおっさんなんて歳じゃ──」

少女「おっさん! おっさん! アハハッ!」

剣士(まぁ、今のこの子はこうやっておどけることも必要かもな……)
  「……分かったよ、おっさんでいいよ」

少女「よしっ!」

少女「じゃあ、これからよろしくね。おっさん!」

15: 2012/06/06(水) 19:04:17.53 ID:8x2N02I30
それから剣士は旅をしながら、少女を剣士へと鍛え上げた。

剣士「踏み込みが甘い!」

少女剣士「ええいっ!」

ガキィン! キィン!

剣士「よしっ、いいぞ!」



少女剣士「あたしもこんな小さなのじゃなく、おっさんくらいの剣が持ちたいなぁ」

剣士「どれ、持ってみるか?」

少女剣士「おっ、重……!」ズシッ

剣士「オイオイムリするなよ」

少女剣士「でも、こんな小さな剣じゃ威力も間合いも不利じゃない」

剣士「ま、小さければ小さいなりの戦い方があるってもんだ」

16: 2012/06/06(水) 19:11:46.29 ID:8x2N02I30
少女剣士「おっかしいな、全部防がれちゃう」

剣士「おまえの攻撃は正直すぎるんだよ。少しは逆を突くってことを覚えろ」

少女剣士「逆……ねぇ」

剣士「剣の達人ほど、逆を突いたり裏をかくのがウマイんだ」



少女剣士「逆を突く!」クルッ

剣士「バカ、後ろ向いてどうすんだ!」

少女剣士「これじゃダメ?」

剣士「ダメすぎる」

17: 2012/06/06(水) 19:14:07.38 ID:8x2N02I30
少女剣士「ねぇ、おっさんはなんであたしを連れてく気になったの?」

剣士「…………」

剣士「ま、いずれ分かるさ」

少女剣士「ちぇっ、イジワル」



剣士「今日はこれくらいにしとこう。おまえもやるようになったな。
   さっきの一撃はヒヤッとしたよ」

剣士「この短期間で大したもんだ」

少女剣士「おっさんの教え方がウマイからだよ」ボソッ

剣士「ん?」

少女剣士「ううん、なんでもない! スゴイでしょ、あたし!」

19: 2012/06/06(水) 19:19:42.84 ID:8x2N02I30
~ 現在 ~

剣士(精神的にも肉体的にも、コイツは強くなった。もう大丈夫だろう)

少女剣士「すぅ……すぅ……」

剣士(もうじきこの旅も終わる)

剣士(終わったら、俺はどうすっかねぇ……)

剣士(ま、先のことを考えてもしょうがねぇ……俺も寝るか)

21: 2012/06/06(水) 19:25:19.81 ID:8x2N02I30
翌朝──

少女剣士「んぁ……おはよ、おっさん。
     あたしが寝てるからって、変なことしなかったでしょうね?」

剣士「だれがするか」

少女剣士「ちぇっ」

剣士「(ちぇっ、じゃないだろ)今日はこの町を出発するぞ」

少女剣士「えぇ~っ、もっといたかったなぁ。ここけっこう大きい町だったし」

剣士「いたければ、いてもいいんだぞ?
   ただし、次行くところはもっと大きいんだけどな」

少女剣士「えぇっ! ここよりも大きいの!?」

剣士「ああ、比べ物にならないほどにな」

少女剣士「おっさん、それをもっと早くいってよね」

少女剣士「早く行こっ!」

剣士「…………」

22: 2012/06/06(水) 19:29:09.38 ID:8x2N02I30
一週間後──

剣士「お、ようやく見えてきたぞ。ほれ、あの街だ」

少女剣士「どれどれ……」

少女剣士「わぁぁ……おっきい!」

剣士「ここら辺は先の戦乱にもろに巻き込まれた地域だったが──
   領主の手腕で、戦後ここまで復興することができたんだ」

少女剣士「ふうん、立派な人なんだね」

剣士「ああ……立派な人だよ……」

少女剣士「んじゃ、入ろっか!」

剣士「おう」

27: 2012/06/06(水) 19:37:09.12 ID:8x2N02I30
街の酒場──

ワイワイ…… ガヤガヤ……

少女剣士「街に着くなり酒場? おっさんも好きだねぇ~」

剣士「俺みたいな根なし草にはな、役場で得られる無機質な情報より、
   こういうところのナマの情報のが命綱になるんだよ」

少女剣士「ふうん、私も覚えとこう」

剣士「おまえは覚えなくていいんだよ」

少女剣士「え、なんで?」

剣士「いや、なんでもない」

剣士(そういやこの酒場、やけに──)

少女剣士「ねぇおっさん、なんか雰囲気が──」

剣士「……お前も気づいたか」

剣士「戦いを生業にしてます、って感じのツラがやたら多い」

30: 2012/06/06(水) 19:40:31.26 ID:8x2N02I30
少女剣士「どうしてだろ?」

剣士「近いうちになにかあるんだろうな、この街で……」

戦士「よう、おたくら親子で傭兵でもやってるのかい?
   まだ若そうだが、大したもんだ」

剣士「いや、俺たちは──」
少女剣士「親子じゃなくて、こ、い、び、と」

戦士「えっ!?」

剣士「本気にしないでくれ。俺たちは……まぁ旅で知り合った仲だ」

少女剣士「このおっさんが、泣きわめくあたしをムリヤリ……」

戦士「えぇっ!?」

剣士「おまえ、ちょっと黙っとけ」
少女剣士「ちぇっ」

32: 2012/06/06(水) 19:45:11.73 ID:8x2N02I30
剣士「アンタ、なにか知ってるのか?」

戦士「ああ、知ってるぜ。俺も一枚噛んでるからな。
   ま、一杯やろうじゃないか。嬢ちゃんはミルクでいいか?」

少女剣士「どうしてもっていうんなら、酒でもいいよ」
剣士「ミルクで」

空いている席に座る三人。

剣士「──で、このこれから戦いが始まりますって雰囲気はなんなんだ?」

戦士「アンタも知ってるかもしれんが、この街はまだ復興してまもない。
   いってみりゃ、悪党どもの格好の標的ってワケだ」

戦士「国軍の目が向いてる地域じゃないし、どうしても自衛手段が必要になる」グビッ

戦士「かといって常備軍を置けるほどの金もねぇ……」

戦士「だが、ここの領主はやり手でね。
   斥候部隊を作って、あちこちに放つことによって、
   悪党どもの情報を入手してたのさ」

33: 2012/06/06(水) 19:48:43.93 ID:8x2N02I30
戦士「だから、各地の悪党どもがどこを狙ってるってのが事前に分かる。
   事前に分かれば、その時ピンポイントで兵士を雇えばいい。
   そうやってこの街は自衛をしてきたのさ」グビッ

剣士「──ってことは、まさか」

戦士「その通り。領主は情報を入手したらしいぜ。
   近いうち、この街に盗賊団が押し寄せてくるってのを」

剣士「盗賊団……!」
少女剣士「…………!」

戦士「ん、どうした?」

剣士「いや、なんでもない。続けてくれ」

戦士「で、今まさに領主は兵隊を集めてる最中だってことだ。
   あちこちに呼びかけてるらしいから、もっと集まるぜ、きっと」グビッ

戦士「俺もあの盗賊団には恨みがあってね。長年追い続けてるが、
   ようやくブッ潰せるチャンスかなって思ってやってきたのさ」

戦士「なにせあの盗賊団は神出鬼没だからな……」

34: 2012/06/06(水) 19:54:08.12 ID:8x2N02I30
少女剣士「あたしも参加するっ! どうすればいいの!?」ガバッ

戦士「うわっ! ……えぇと、登録自体は簡単だぜ。
   領主の館に行って、書類いくつか書いて、顔合わせするだけだ」

戦士「あとは出来高払いだ。何人盗賊ブッ頃せるかで報酬が決まる」

剣士「もし、盗賊が現れなかったら?」

戦士「一定期間現れなきゃ、一応報酬は出るらしいぜ。すげぇ安いけどな。
   そこら辺はちゃんと契約書にも書いてあるから、よく読んだ方がいい。
   滞在費のが高くかかって赤字、なんてことになりかねないからな」

戦士「だがまぁ……おそらくヤツらは来るぜ。
   国軍でもない連中に、イモ引くような上品さは持ってねぇだろうからな」

少女剣士「おっさん、登録しようっ!」

少女剣士「あたしらで、盗賊団をやっつけてやるんだっ!」

少女剣士「早く領主さんがいるとこに行こうよ!」

戦士「お、嬢ちゃんはえらく張り切ってるな」

剣士(そりゃそうだ……住んでた村をやられてるんだからな……)

35: 2012/06/06(水) 19:56:16.69 ID:8x2N02I30
剣士「色々ありがとな。少ないけど、とっといてくれ」ジャラッ
少女剣士「ホント少ないね」

戦士「オイオイ、いいよこんなもん」

剣士「今日は酒はこれくらいにして、街を見て回ろう。いいな?」

少女剣士「えぇっ! 今すぐ登録に行こうよ!」

剣士「な?」

少女剣士「あっ……ごめん、おっさん。あたし、ちょっと熱くなってた」

剣士「おいおい、しゅんとするなって」

剣士「じゃあ、またな。もし俺たちも戦うことにしたら、よろしく頼むよ」ガタッ

戦士「おう!」グビッ

37: 2012/06/06(水) 19:59:08.40 ID:8x2N02I30
街中を歩き回る剣士と少女剣士。

少女剣士「おっさん、アイス買って!」

剣士「いいよ」

少女剣士「あれ、珍しいね? いつもなら、なかなか一発じゃ買ってくれないのに」

剣士「たまにはな。で、どれにするんだ?」

少女剣士「じゃあ、あの一番でっかいヤツ!」

剣士「おまえ、あんなに食えるのかよ」

少女剣士「二人で一緒にスプーンですくって食べればいいじゃん」

剣士「そうだな……そうするか」

少女剣士「ありがと~!」
    (いつもだったら、小さいの二つ買えばいいだろ、とかいうのに……。
     なんか今日のおっさんは変だな……)

38: 2012/06/06(水) 20:07:13.13 ID:8x2N02I30
剣士「──うまいか?」

少女剣士「うん、ありがとう!」

少女剣士「やっぱりアイスも一緒に食べると、二倍オイシイね」

剣士「ああ」

少女剣士「……ねぇ、おっさん。あたしたちさ、ずっと一緒だよね?」

剣士「……アイス溶けちゃうから、さっさと食べちまおう」

少女剣士「う、うん」
    (あれ、なんで答えてくれないのよ……)

40: 2012/06/06(水) 20:15:11.85 ID:8x2N02I30
宿屋──

剣士「明日、領主のところに盗賊団退治の登録に行こう」

少女剣士「えっ、いいの!?」

剣士「ああ、剣を使う者としては、ヤツらは放ってはおけないだろ」

少女剣士「ありがとう、おっさん!」

剣士(まさか、街がこんなことになってるとはな……。
   できれば領主の館に行くのはもう少し後にしようと思っていたが、
   これ以上引き伸ばすのも不自然になる……)

剣士(いよいよか……)

42: 2012/06/06(水) 20:20:36.53 ID:8x2N02I30
翌日、二人は領主の館に向かった。

門番「なんだおまえたちは?」

剣士「盗賊団退治の兵を希望するモンだ。
   俺たちも臨時の兵として、登録をさせてもらいたい」

門番「──そっちの女の子もかい?」

剣士「ああ」

門番「……しかしなぁ」

少女剣士「大丈夫! あたしだってこのおっさんに鍛えられて、
     けっこう強くなったんだから」

門番(この剣士、おっさんなんて年齢なんだ)
  「分かった。すぐに取り次ぐから、ちょっと待ってろ!」

43: 2012/06/06(水) 20:25:42.61 ID:8x2N02I30
門番「──よし、許可が下りた」

門番「では、武器と手荷物は全て預けてもらう」

剣士「ああ」
少女剣士「は~い」

二人は荷物を門番に預け、館の中に入った。

客室──

執事「まもなく主人が参りますので、もう少々お待ち下さい」

剣士「ありがとう」
少女剣士「おっさん、この紅茶すっごく美味しい!」ガブガブ

44: 2012/06/06(水) 20:32:14.79 ID:8x2N02I30
ドアが開かれる。

領主「いやはや、お待たせしてしまった」

領主「!」

領主「おお、剣士ではないか!」

剣士「ご無沙汰してます」ペコッ
少女剣士(えっ、おっさん……領主さんと知り合いだったんだ)ペコッ

領主「この館の者は戦後雇った人間がほとんどだから、
   君のことを知らなかったのだろう」

領主「君が来てくれれば百人力だ。
   ──ところで、頼んでおいた件なのだが……」

剣士「…………」チラッ

領主「!」

領主「おお……! 君がそうなのか……よくここまで大きく育ってくれた」ウルッ

少女剣士「え……え!?」
剣士「…………」

領主「我が娘よ……!」

少女剣士「!?」

46: 2012/06/06(水) 20:40:09.10 ID:8x2N02I30
領主「……しかし、いったいなぜここまで連れてきたのだ?」

剣士「この子の住んでいた村が盗賊団に滅ぼされましてね。
   私が向かった時、生き残りはこの子だけでした。
   この子に名前を聞いて、すぐにあなたの子だと……」

領主「! ──そうだったのか……ということは、あの夫婦は……」

剣士「はい……俺が村に着いた時にはもう……」

領主「私のせいで、君にはずいぶん辛い思いをさせてしまった。
   だが……これからは──」
少女剣士「ちょ、ちょっと待ってよ!」

少女剣士「おっさん、これはどういうこと!?」

剣士「…………」

少女剣士「もしかして、この人のところに連れてくるために、
     あたしを旅に誘ったの!?」

剣士「……そうだ」

少女剣士「ひどいっ! こんなことなら……私、ついていかなかったのに!
     あの村にずっと一人でいた方がよかったっ!」

剣士「ああ、だから今までいわなかった」

少女剣士「! ──卑怯者っ!
     こんな人、あたしのお父さんでもなんでもないっ!」ダッ

47: 2012/06/06(水) 20:44:05.72 ID:8x2N02I30
剣士(俺としたことが……いきなり会わせるのは失敗だったか……)

領主「す、すまん……私がもう少し冷静になっていれば……。
   私には、あの子の父だと名乗り出る資格などないというのに……」

剣士「いえ、俺のせいです。事前に話しておくべきでしたが、
   どうしてもいえなくて……」

領主「いや、いいんだ……。
   もし君が話していたら、娘は私と会うことを拒んだろう。
   こうして一目見ることすらできなかったにちがいない」

剣士「…………」

剣士「……ところで、盗賊団の対策は大丈夫なんですか?
   はっきりいって、ヤツらは手強いですよ」

剣士「規模は200人以上、ウワサでは首領は元々は兵士だったとか……」

領主「うむ、今までのようにはいかないだろう」

領主「だが、報酬目当ての強者が続々と集まってきておるし、
   こうして君も戻ってきた。なんとかなるだろう」

領主「とりあえず今は……娘を頼む」

剣士「……分かりました。では俺はこれで」

48: 2012/06/06(水) 20:47:07.62 ID:8x2N02I30
領主の館から逃げ出した少女剣士は、街をさまよっていた。

少女剣士(おっさんのバカ……)

少女剣士(ずっと一緒に旅するんだって思ってたのに……。
     最初からここに置いていくつもりだったんだ……)

少女剣士「…………」グスッ

少女剣士「あ、なに泣いてんだろ、あたし……」グスッ

少女剣士「もう、わけ分かんないよ……」

49: 2012/06/06(水) 20:50:10.87 ID:8x2N02I30
賞金稼ぎ「おうおう小娘、なに泣いてんだ!?」

少女剣士「うわっ!? なによ、アンタ!」

賞金稼ぎ「俺ァ、ちったァ名の知られた賞金稼ぎだ」

少女剣士「全然知らないけど……」

賞金稼ぎ「ガハハハハッ! ずいぶんと怖い者知らずな小娘だな。
     だが、今の泣き顔を見てる分にはまだまだガキだな!」

少女剣士「いいじゃない、あたしまだ子供なんだから!」

賞金稼ぎ「じゃあ、腰につけてる剣は飾りか?」

少女剣士「!」

賞金稼ぎ「分かってると思うが、剣は人を頃すための武器だ。
     ンなもん持ち歩くってんなら、年齢なんて関係ねえ。
     オメェさんはガキであることを捨てなきゃなんねぇ」

賞金稼ぎ「もしまだガキでいたいんなら……今ここで剣を捨てな」

少女剣士「…………」

50: 2012/06/06(水) 20:53:12.76 ID:8x2N02I30
少女剣士「あたしは……子供じゃない! この街で盗賊団を倒すんだもん!」

賞金稼ぎ「ガハハッ、よくいった!」

賞金稼ぎ「だがな、剣士なら苦しい時や辛い時こそ笑うもんだ!」

少女剣士「こ、こう……?」ニコッ

賞金稼ぎ「ややぎこちないが、まぁいいだろ」

賞金稼ぎ「一流の剣士ほど、逆を突くのがウマイんだ」

賞金稼ぎ「相手がここに来るとは思ってないところを斬る!
     傷を負っても平気なフリをする! ヤバい時こそ笑う!」

少女剣士(そういえば……おっさんも同じようなこといってたな……)

賞金稼ぎ「じゃな。オメェさんも盗賊団狙いなら、共闘する時があるかもな。
     ガハハハハハッ!」

少女剣士「じゃあね!」

少女剣士「…………」

少女剣士(逆を突く、か……)

少女剣士(今あたしはあんまりおっさんに会いたくない……)

少女剣士(だったら……会わなくちゃね!)ダッ

54: 2012/06/06(水) 20:56:11.84 ID:8x2N02I30
一方、剣士は逃げ出した少女剣士を探していた。

剣士(ったく、アイツどこ行ったんだ……)

剣士(まさか、街の外には出てないだろうな……?)

若手剣士「こんにちは」

剣士「ん?」

若手剣士「あなた、剣士さんですよね?」

剣士「ああ、そうだけど」

若手剣士「やっぱり! わ……ボクの読みは正しかった!」

若手剣士「あなたのウワサは常々聞いていましたよ。
     かつて戦乱に巻き込まれたこの街が潰れなかったのは、あなたの功績だと」

若手剣士「戦乱の後、あなたは放浪の旅に出てしまいましたが──」

若手剣士「この街はあなたの故郷ともいえる場所です。
     あの悪名高い盗賊団に狙われているとあれば、必ず来ると踏んでいたんです」

若手剣士「ボクはあなたに会うために、この街に来たようなものですからね」

56: 2012/06/06(水) 20:59:19.29 ID:8x2N02I30
剣士「(なんなんだコイツは……)俺になにか用か?」

若手剣士「いえね、ちょっと宣戦布告をしたかっただけです。
     同じ剣の使い手としてね」

剣士「……おまえとやり合えってことか?」

若手剣士「いいえ、ちがいます。あなたに勝つ自信がないわけではありませんが……。
     盗賊団がまもなく来ようという街で、やり合うメリットはありません。
     お互い対盗賊の貴重な戦力ですからね」

若手剣士「ですから、ボクは別の方法を提示します」

若手剣士「今度の盗賊団との戦い、ボクはあなたより活躍してみせます」ニヤッ

剣士「はぁ……。ま、すればいいんじゃないか?」

若手剣士「ボクも若手としては、名が通った方だと自負していますからね。
     ここであなた以上に活躍すればさらに名が──」

剣士「悪いが、急いでるんで」スタスタ

若手剣士「あ、ちょ、ちょっと!」

60: 2012/06/06(水) 21:10:08.43 ID:8x2N02I30
まもなく、剣士は少女剣士と再会することができた。

剣士「……こんなところにいたのか」

少女剣士「あ、おっさん!」

剣士「さっきは悪かっ──」

少女剣士「おっさん、ごめんね。さっきは急に飛び出したりして。
     いきなりお父さんなんていわれてさ、ビックリしちゃったんだ、あたし」

剣士「いや……俺が悪かったんだ。おまえのいうとおり、卑怯だったんだ。
   あの村で出会った時に、話しておくべきだった……」

少女剣士「しょげないでよ、おっさん。らしくないじゃん」

剣士「あ、すまん」

少女剣士「あのさ、おっさんが知ってること……全部教えてくれない?」

剣士「…………」

少女剣士「大丈夫! もう絶対逃げたりしないから!」

剣士「……そうだな。分かった。全て話そう」

62: 2012/06/06(水) 21:15:52.06 ID:8x2N02I30
剣士「かつての戦乱時、俺はこの街の領主に雇われていた」

剣士「この街周辺は特に激戦地となり、色んな国の兵がやってきた。
   ヤツらはどさくさに紛れ、さまざまな蛮行を働いた。まさに地獄だった……」

剣士「領主と領民、俺たちのような傭兵が必死に抵抗したが、
   はっきりいってもうダメだと思ったよ」

剣士「街の滅亡を悟った領主は領民たちに、街から逃げるように勧めた。
   半数くらいが疎開することを決意した。
   そして、領主はそのうちの一組の夫婦にまだ赤ん坊だったおまえを託した」

少女剣士(それがあたしと……お父さんとお母さんか……)

剣士「その後、戦乱は収まり、街は大きな傷跡は残ったものの
   どうにか滅びずに済んだ」

剣士「領主は俺に自由にするよう、いってくれた」

剣士「そして、旅の途中でできるなら娘の様子を見てきてくれないか
   といわれてたんだ」

剣士「俺も領主には恩がある身、見るだけなら……と引き受けたよ」

64: 2012/06/06(水) 21:20:31.70 ID:8x2N02I30
剣士「しかし──」

剣士「おまえがいるという村に行った時……すでに村は……」

少女剣士「そっか……そうだったんだ」

剣士「おまえが生き残ってたことを知って、
   せめて本当の親のところに連れてってやろう、と思ったんだ」

剣士「すまん……」

少女剣士「ううん、領主さんもおっさんもなにも悪いことしてないじゃん」

少女剣士「悪いのは……街で大暴れした兵隊たちとあたしの村を滅ぼした盗賊団だよ。
     でも……でも──」

少女剣士「あたしは、領主さんの娘になるつもりはない」

少女剣士「だって……お父さんやお母さんに悪いもん……」

剣士「…………」

67: 2012/06/06(水) 21:27:25.21 ID:8x2N02I30
宿屋──

少女剣士「すぅ……すぅ……」

剣士(領主のおかげで宿代がタダになったのはありがたいな)

剣士(だが、コイツをどうすべきか……)

剣士(ムリヤリ領主と引き合わせるってのはなんかちがう気がするし……。
   かといって、黙って置いていくような真似をすれば何をするか分からん)

剣士「…………」

剣士(ま、とりあえずは盗賊団対策だな)

剣士(かなりの人数が集まってきてるようだし、問題ないとは思うが──)

剣士(寝るか)

71: 2012/06/06(水) 21:35:09.28 ID:8x2N02I30
それから一週間後──

街には続々と報酬目当ての猛者が集まり、街はあわただしくなってきた。

ザワザワ…… ガヤガヤ……

少女剣士「なんか、どんどん人が増えてきたね」

剣士「あぁ、報酬ってのはもちろんあるだろうが、
   あの盗賊団に恨みを持ってるヤツはいっぱいいるだろう」

剣士「まぁ、これ以上増えることはないだろうけどな」

戦士「よう、また会ったなアンタら」

少女剣士「あ、こないだ酒場で会った……」

戦士「覚えててくれたか」

剣士「だいぶこの街にも、盗賊団目当ての人間が増えてきたみたいだな」

戦士「ああ、まったくだ。だがいくら数がいても油断はできねぇ。
   アンタらも参加してくれれば助かったんだけどな」

剣士「いや、俺たちも参加するつもりだ」

戦士「おお、そうなのかい。そりゃ心強い。
   アンタも嬢ちゃんもけっこうデキそうだからな」

少女剣士「任せてよ!」

72: 2012/06/06(水) 21:38:12.43 ID:8x2N02I30
戦士「──にしてもなにせ、これだけの人数だ。
   統制を取るため、領主自らが防衛団を組織するみたいだぜ」

剣士「防衛団?」

戦士「盗賊団退治に登録したヤツらは今は各々バラバラだが、
   それを一つの組織としてまとめ上げるんだとよ。
   もちろん自由にやれなくなるから、待遇はよくなるそうだ」

戦士「もっとも入るか入らないかも、自由なんだけどな。
   一匹狼でやりたいってヤツもいるだろうし」

剣士「アンタはどうするんだ?」

戦士「俺は入るつもりだ。一匹狼でやれるほどの腕はねぇからな。
   待遇アップもオイシイ」

戦士「ま、アンタらももし加わるんなら、仲良くやろうや」

剣士「ああ」
少女剣士「ありがとね!」

74: 2012/06/06(水) 21:44:06.61 ID:8x2N02I30
剣士(防衛団……か。なんでわざわざ……なにか狙いがあるのか?)

剣士「おい、俺はちょっと領主の館に行ってくる。
   ……おまえはイヤだろ?」

少女剣士「ゴメン……」

剣士「気にすんな。じゃあ、先に宿に戻っときな」

少女剣士「分かった」

剣士「まっすぐ戻るんだぞ」

少女剣士「分かってるってば」

少女剣士(なぁ~んてね、ちょっとこの街を自由に散歩しようっと)

77: 2012/06/06(水) 21:48:41.57 ID:8x2N02I30
領主の館──

領主「どうした?」

剣士「少し気になることがあったので」

領主「気になること?」

剣士「防衛団というのを組織すると、街で聞きました。
   いつ盗賊団が来るか分からない状況で、
   臨時の兵をあえて組織化するのはデメリットも大きい」

剣士「わざわざ待遇をアップさせてまで……なぜ、そんなことを?」

領主「うむ、実は──」

78: 2012/06/06(水) 21:52:13.23 ID:8x2N02I30
街──

少女剣士「ふんふ~ん」スタスタ

若手剣士「やぁ」

少女剣士「え、あなたは?」

若手剣士「わ……ボクは若手ナンバーワンの若手剣士っていうものだ。
     君さ、さっき剣士さんと一緒にいたよね? もしかして兄妹?」

少女剣士「ちがうよ」

若手剣士「じゃあ、師弟関係?」

少女剣士「うぅん……剣は教わったけど、そういうのじゃない、かな」

若手剣士「へぇ、じゃあなんで一緒にいるの?」

少女剣士「恋人」

若手剣士「え、え、え、えぇっ!? そんな……!」

少女剣士「冗談だよ~、冗談」

若手剣士「なんだ、驚かさないでくれ……」

少女剣士(なんなんだろ、この人……)
    「ある村で拾われて、一緒にいるって感じかな」

80: 2012/06/06(水) 21:55:20.84 ID:8x2N02I30
若手剣士「へぇ……どうして?」

少女剣士「おっさんは元々この街に雇われてた人なの」

少女剣士「で、もしかしたらあたし、領主さんの娘なのかもしれないの。
     でもあたしはそうなるつもりはないんだけどね」

若手剣士「!」

若手剣士「……なるほど。だから一緒にいたというワケか」

若手剣士「いいかい、今の話は絶対他の人にしちゃいけないよ。
     今この街は、こんなに荒くれ者が集まってるんだからね」

少女剣士「え、どうして?」

若手剣士「いいから!」

少女剣士「分かったよ……」

若手剣士「じゃあ、ボクはこれで……」スタスタ

少女剣士(なんだったんだろ、いったい)

81: 2012/06/06(水) 21:59:10.43 ID:8x2N02I30
領主の館──

剣士「──名簿が盗まれた!?」

領主「ああ……二日前の夜に、館から盗まれていた。
   まったく……我々としたことがとんだ失態だよ」

領主「幸い写しがあったから、登録者の管理には支障はないのだが──」

領主「十中八九、これは盗賊団の仕業だ。
   となると、こちらの兵力があちらに伝わった可能性が高い」

領主「そして、さらに厄介なのは──」

剣士「この街に、すでに盗賊団が潜伏している可能性がある、ということですか」

領主「うむ」

85: 2012/06/06(水) 22:05:02.63 ID:8x2N02I30
領主「だから私は、登録メンバーを防衛団としてまとめることにした。
   登録メンバーは高待遇と引き換えに、監視も厳しくなる」

領主「もし登録メンバーの中に盗賊団のスパイがいるのならば、
   わざわざ防衛団に参加するはずがない」

剣士「なるほど、容疑者の絞り込みを兼ねて、ということですか」

領主「うむ、そういうことだ。
   むろん、登録メンバーの防衛団への参加者、非参加者は
   君にも教えるつもりだ」

剣士「分かりました。教えてもらえれば、私も街で出会った時に
   それとなく探ってみましょう」

領主「そうしてもらえるとありがたい」

領主「……ところで娘はどうだ?」

剣士「……今のところ、あなたのもとに戻るつもりはない、と」

領主「そうか……。分かった、ありがとう」

87: 2012/06/06(水) 22:08:56.64 ID:8x2N02I30
宿屋──

少女剣士「あ、お帰り!」

剣士「おう、ちゃんとまっすぐ帰っただろうな」

少女剣士「え!? う、うん……まっすぐ帰ったよ」キョドキョド

剣士「ウソがつけないヤツだな」

剣士「まぁいいや……変なヤツに会わなかっただろうな?
   こんなに殺気立ってる街じゃ、なにが起きてもおかしくないからな」

少女剣士「若い剣士と……少ししゃべったかな」

剣士「若い剣士?」

少女剣士「うん、なんか自分のことを若手ナンバーワンとかいってた」

剣士(……さては、ちょっと前に俺にからんできたアイツか?)

89: 2012/06/06(水) 22:14:19.71 ID:8x2N02I30
剣士「他になにかしゃべったか?」

少女剣士「あたしが領主さんの娘かも、っていったら驚いてた」

剣士「!?」

剣士「おまえ、そのことしゃべっちゃったのか!?」

少女剣士「!」ビクッ

少女剣士「う、うん……」

剣士「──で、そいつはなんていってた?」

少女剣士「えぇと……絶対そのことは他の人に話すなよって……」

剣士「そうか……」

少女剣士「おっさん……まずかったかな?」

剣士「多少な……。そいつのいうとおり、そのことはしゃべらないようにな。
   おまえをとっつかまえて領主を脅迫、なんて考えるヤツが出るかもしれん」

少女剣士「あっ! そうだね、ごめん……」

剣士(若手剣士、か……)

93: 2012/06/06(水) 22:20:17.32 ID:8x2N02I30
翌日、登録メンバーの中から希望者を募り、防衛団が組織された。
領主自ら街に出て、領民たちに盗賊に備えるよう演説を行う。

領主「盗賊団はいつ攻めてくるか分からないっ!」

領主「各自戸締まりに十分気を付け、最低限の武器を確保しておくことっ!」

領主「しかし安心してくれていいっ!」

領主「この街には、我々の声を聞いて駆けつけてくれた大勢の勇者がいるっ!」

領主「この街は、盗賊などに負けはしないっ!」

ワアアァァァァァ……!

沸き立つ領民。

95: 2012/06/06(水) 22:23:10.85 ID:8x2N02I30
少女剣士「スゴイ……」

剣士「ああ、領主はスゴイよ。俺もあの人のことを尊敬している」

少女剣士「戦争の時も、こんな感じだったの?」

剣士「あの人の死んでも街を守るって気迫がなければ──
   おそらく今頃この街はなかっただろうな」

剣士「一方で、不安もあったんだろう。
   だから、領民やおまえを外へ逃がしたりしたんだろうな」

剣士「今だってそうだ。あの人は内心不安でいっぱいだろう。
   だが、不安だからこそ、あの人はああやって勇敢に振る舞ってるんだ」

100: 2012/06/06(水) 22:29:42.55 ID:8x2N02I30
少女剣士はふと、賞金稼ぎにいわれたことを思い返していた。



賞金稼ぎ『一流の剣士ほど、逆を突くのがウマイんだ』

賞金稼ぎ『相手がここに来るとは思ってないところを斬る!
     傷を負っても平気なフリをする! ヤバい時こそ笑う!』



少女剣士「おっさん、きっと領主さんは一流なんだね。
     不安なのに、あんな風にみんなに演説できるなんて……」

剣士「……ああ」

少女剣士「なんか……少しだけ、嬉しいかな」

剣士「……よしよし」ナデナデ

少女剣士「あ、あたしは子供じゃないよ! れっきとした剣士だよ!」

剣士「じゃ、やめとくか」

少女剣士「あ、ダメダメ、もっとやって」

103: 2012/06/06(水) 22:34:00.86 ID:8x2N02I30
その夜、宿屋に密かに登録メンバーの名簿が送られてきた。
メンバー全員の名前と、防衛団への参加・非参加が書かれている。

剣士「どれどれ……」ペラペラ

少女剣士「すっごぉ~い、300人はいるじゃない!」

剣士「ほとんどは防衛団入りしたようだな。
   ま、待遇はよくなるしデメリットはほとんどないしな」ペラ…

剣士(ただし、監視は厳しくなる……。つまり、コイツらは盗賊団ではない)

剣士「入ってないのは……ほんの数名か」

少女剣士「あ、あたしに話しかけてきた若手剣士って人と、
     賞金稼ぎさんは入ってないみたい」

剣士「それだけ腕に自信があるってことだろうな。あるいは──」

剣士(盗賊団なのか……)

107: 2012/06/06(水) 22:38:43.80 ID:8x2N02I30
あくる日、二人はカフェで紅茶を飲んでいる若手剣士を発見した。

剣士「よう、また会ったな」

若手剣士「え!? 光栄だな、そちらから会いに来てくれるとは……。
     やはりボクのことが気になってるのかい?」

剣士「ま、そんなところだ」

若手剣士「へぇ……で、なにか?」

剣士「アンタ、防衛団に参加してないよな? やはり腕に自信があるからか?」

若手剣士「まぁね……ボク、つるむのって苦手だからさ」

剣士「ふぅん……」ジロ…

若手剣士「…………?」

剣士(緊張した様子で目を逸らしたか……悪人ではなさそうだが、
   なにか後ろめたいことがあるのは間違いないな)

剣士「ジャマしたな」スタスタ

111: 2012/06/06(水) 22:41:40.14 ID:8x2N02I30
少女剣士「ねえねえ」ボソッ

若手剣士「ん?」

少女剣士「なんであなた、男の格好してるの?」
若手剣士「!」ブッ

若手剣士「な、な、なんで、そ、そ、それを……!」

少女剣士「えぇ~? だって分かるよ。
     この前も私っていいそうになって、あわててボクっていったでしょ」

若手剣士「お、お、お願い……私のこと、絶対いわないでね……。
     こういう商売だと、男のフリしてる方が都合がよくって……」

若手剣士「防衛団に入らなかったのも、男だらけのところにいたくないからなの……」

少女剣士「分かってるよ、大丈夫! あたし、口が固いから!」

剣士「オイ、なにしてんだ早く行くぞ」

少女剣士「はぁ~い」

若手剣士(大丈夫かなぁ……あの子、口軽そうだけど……。
     自分が領主の娘だなんて軽々しくしゃべっちゃうくらいだし……)ドキドキ

116: 2012/06/06(水) 22:49:10.19 ID:8x2N02I30
次に、二人は戦士に出くわした。

戦士「よう」

剣士「あ、どうも」
少女剣士「こんにちは」

剣士「防衛団の方は?」

戦士「登録メンバーのほとんどが参加したみたいだな。
   で、長年盗賊団を追ってる実績が評価されて、俺がリーダーになった」

少女剣士「へぇ~スゴイ!」

戦士「実績っても、ただヤツらについて他のヤツより詳しいってだけだけどな。
   とはいえ情報だって実力のウチさ」

少女剣士「うんうん」

戦士「ま、身勝手な連中ばかりだからまとめるのは苦労しそうだよ」

118: 2012/06/06(水) 22:51:49.94 ID:8x2N02I30
剣士「メンバーの中に、怪しいヤツはいなかったか?」

戦士「怪しいヤツ? 血の気の多いヤツは多いが、怪しいヤツってなると難しいな。
   ──なんで、そんなことを?」

剣士「いや……なにせ敵は悪名高き盗賊団。
   すでにこの街に潜んでいてもおかしくないからな」

戦士「なるほど。なかなか冴えてるな、アンタ」

戦士「怪しいというと、あの賞金稼ぎなんかがもっとも怪しいかもな」

剣士「賞金稼ぎ?」

戦士「壮年の賞金稼ぎが街にいるんだよ。腕は立つようだが人前で姿を現さねえ。
   もちろん、防衛団に参加もしていない。なにか企んでるかもしれねぇな」

剣士(賞金稼ぎ、か……)
少女剣士「…………」

119: 2012/06/06(水) 22:54:15.34 ID:8x2N02I30
宿屋──

剣士(結局賞金稼ぎは見つからなかったな……)

剣士「明日は賞金稼ぎを徹底的に探してみるか……」

少女剣士「ねぇ、おっさん」

剣士「ん?」

少女剣士「賞金稼ぎの人は、悪い人じゃないと思う」

剣士「どうしてだ?」

少女剣士「……なんとなく」

剣士「なんとなく、か」

剣士「……よし! おまえの言葉、信じてみよう!
   明日は久々に街でウマイもんでも食うか!」

少女剣士「え、ちょっとなに考えてんの!? こんな時なのに!」

剣士「なぁに、ここで勝手にギスギスしててもしょうがねぇ。
   盗賊団が来る前に精神やられてちゃ世話ないからな」

剣士(元々俺がこういう調査みたいなのに向いてないってのもあるけどな)

120: 2012/06/06(水) 22:57:09.38 ID:8x2N02I30
街は領主や戦士を中心に、防衛団が団結力を高めていった。

領主「期待しておるぞっ!」

戦士「俺たちで盗賊団に引導を渡してやろうぜっ!」

ワアァァァァァッ!

一方、輪に加わらない者たちは、各々想いを馳せながら日々を過ごしていた。

若手剣士(絶対活躍してみせる……!)

賞金稼ぎ(盗賊団……)

剣士(なにか見落としてることはないか……?)

少女剣士(おっさん、あたしも頑張るからね!)

121: 2012/06/06(水) 22:59:08.12 ID:8x2N02I30
剣士と少女剣士が街に着いてから二週間目──

領主の館に斥候が駆けつける。

斥候「領主様、盗賊団と思わしき集団がこの街に迫っております!」

領主「ついに来たか……」

領主「執事、防衛団を招集せよ! 盗賊団は一人たりともこの街に入れさせん!」

執事「かしこまりました」

124: 2012/06/06(水) 23:07:45.04 ID:8x2N02I30
宿屋──

少女剣士「おっさん、なんか街があわただしくなってきたよ!」

剣士「いよいよ盗賊団のお出ましらしいな」

少女剣士「盗賊団……!」

剣士「おまえはここにいろ」

少女剣士「やだ、あたしもおっさんと一緒に行く!」

剣士「……分かったよ。下手に離れているよりいいかもしれん。
   絶対にムチャはするなよ!」

少女剣士「うんっ!」

128: 2012/06/06(水) 23:13:08.32 ID:8x2N02I30
剣士(さて、どこに行ったものか……)

戦士「よう!」

剣士「おお、アンタか。いよいよ盗賊団がやって来たみたいだな」

戦士「ああ、街の北門に防衛団を全て集結させてる最中だ。
   アンタもすぐに向かってくれ!」

戦士「じゃあな!」タタタッ

少女剣士「北門だって! おっさん、急ごう!」
剣士「…………」

少女剣士「おっさん?」
剣士「……ちょっと考え中」

剣士(そういえば、あの時なんで……)

剣士(もしそうだとすると……)

129: 2012/06/06(水) 23:18:06.03 ID:8x2N02I30
街の北門──

ザワザワ…… ガヤガヤ……

領主「防衛団は、全員そろったか」

執事「はい」

領主(剣士の姿がないが……どこかに潜んでいるのか?)

執事「敵が迫って来ました! ざっと300人というところでしょうか!」

領主(盗賊団は200人と聞いていたが……名簿でこちらの数を知り、
   増員でもしたのか?)

領主(どちらにせよ、盗賊団全軍であることはまちがいないようだ)

領主(人数が五分五分であれば、勝機は十分ある!)

領主「よし、門の外側に布陣を作る! リーダーである戦士に伝えろ!」

執事「はいっ!」

131: 2012/06/06(水) 23:24:26.02 ID:8x2N02I30
盗賊団陣営──

副首領「どうだ? 街の様子は……」

団員A「へい、ボスのいったとおりの状態となっておりやす」

副首領「さすがはボス……うまくやったようだな」

副首領「上がすげぇと下は楽ができるってもんだ。
    もっとも、あの人はほとんど趣味でやってるワケだがな」

団員A「趣味……ですか?」

副首領「そう……全て趣味なのさ」

副首領「人をブッ頃すのも、町をブッ壊すのも、全て趣味だ。
    あの人は、こういうことが好きなのさ」

副首領「さて、そろそろボスがいってた時刻だ。準備しておけ」

団員A「へい」

132: 2012/06/06(水) 23:29:06.37 ID:8x2N02I30
街の南門──

シ~ン……

少女剣士「だれもいないね」

剣士「…………」

少女剣士「ねぇ、なんでこんなとこに来たの?
     多分もう、北門じゃ戦いが始まってるよ?」

剣士「いや、ここでいい」

少女剣士「え?」

剣士「俺の読みが正しければ、な」

135: 2012/06/06(水) 23:34:13.99 ID:8x2N02I30
すると──

戦士「! おう、どうしたい二人とも」

少女剣士「あ、戦士さん!」
剣士「…………」

戦士「北門じゃ、すでに戦闘が始まってるぜ。
   アンタらも手柄が立てたいんなら、早く向かった方がいい」

剣士「防衛団のリーダーであるアンタが、なんで一人だけこんなところに?」

戦士「いやなに、盗賊団のヤツらがやってきたから
   絶対家から出ないように領民に注意を呼びかけてて──」

剣士「猿芝居はもうやめろよ」

剣士「盗賊団」

戦士「…………!」

少女剣士(え!?)

144: 2012/06/06(水) 23:40:43.30 ID:8x2N02I30
街の北門──

ワアァァァァァ……!

ガキンッ! キィンッ! ズバッ!

すでに防衛団と盗賊団との間で、激しい戦闘が始まっていた。

執事「戦士がどこにもいませんっ!」

領主「なんだとっ!?」

領主(くそっ……なにがいったいどうなってるんだ!?
   防衛団のことはほとんどアイツに任せていたから、これではまとまらん!)

ギィンッ! ザシュッ! ザンッ!

執事「こちらの旗色が悪いです!」

領主(くっ……! 街を襲撃するという明確な目的がある敵に対し、
   こちらのモチベーションはバラバラ……。
   しかも、この大事な時にリーダーが消えてしまい、混乱している!)

領主(いかんな……!)

146: 2012/06/06(水) 23:45:39.69 ID:8x2N02I30
街の南門──

戦士「カマかけってワケでもなさそうだ……いつ気づいた?」

剣士「ついさっきだ」

剣士「ずっと心に引っかかってたことをやっと思い出せた」

剣士「アンタ、俺たちに二度目に会った時、
   俺たちも盗賊団退治に参加してくれれば助かったのに、っていったな」

剣士「なんで俺たちが盗賊団退治に参加しない、と思ったのか……」

剣士「名簿を盗んだのはアンタ、あるいはアンタの仲間だからだ。
   アンタは俺たちが“登録していない”ことを知っていたんだ」

剣士「アンタが盗賊団と分かれば、あとはもう簡単だ。
   北門の盗賊団はオトリで、がら空きの南門から精鋭を攻めさせるに決まってる」

戦士「…………」

戦士「……くっくっく」

戦士「名簿の件を知ってるってことは、アンタ領主の知り合いかなにかか」

戦士「街の連中に取り入ろうと、ベラベラとおしゃべりしてたのがまずかったなぁ~」

戦士「ついしゃべりすぎちまったようだ」

148: 2012/06/06(水) 23:50:43.98 ID:8x2N02I30
少女剣士「本当に……本当にアンタ盗賊団なのっ!?」

戦士「本当だよ」

戦士「次はこの街を狙うって情報を、不覚にも斥候につかまれちまってね。
   かといって引き下がるのもシャクだから、
   俺がわざわざ街に出向いて、色々小細工させてもらったよ」

戦士「やり手とかいわれてチヤホヤされてるボンクラ領主と、領民ども。
   俺たちを倒すつもりで集まったバカどもを八つ裂きにするためにな」

戦士「街で信頼を得て、名簿をパクって警戒心をあおり、登録メンバーを組織化させ、
   リーダーになって、南門をがら空きにさせる……面白いようにうまくいったよ」

戦士「そういや嬢ちゃん、盗賊団退治の話をした時えらい乗り気だったよな?
   もしかして恨みでもあんのか?」

150: 2012/06/06(水) 23:53:19.81 ID:8x2N02I30
少女剣士「あたしの村は……あたしの村はアンタらに滅ぼされたんだよっ!」

戦士「あ~……なるほど。で、そっちの剣士に拾われたってか。
   いやぁ、実に気の毒だ」

戦士「なにしろ、俺はこういうことが大好きなんだ」

戦士「かつての戦乱の時は部隊長として、行く先々で知恵を絞りながら
   略奪と暴力の嵐を生んだ」

戦士「戦乱が収まったら、刺激を求めて兵を辞め、盗賊団の頭になり、
   無数の町や村をこの世から消した」

戦士「俺って……とことんこういうことが好きなんだよなァ」ニィ…

戦士「しかし、俺の趣味に付き合わせてすまないとも思ってるんだぜ」

戦士「ほれ、慰謝料だ。とっときな」チャリン

戦士は笑いながら、金貨を一枚地面に放り投げた。

少女剣士「…………!」

152: 2012/06/06(水) 23:56:11.02 ID:8x2N02I30
剣士「落ち着け。俺がここでコイツを片付ければ、全てカタがつく」

剣士「盗賊団は街の北門の防衛団に、かなりの戦力を割いているハズだ。
   つまり南門には街を襲うのに必要最低限の戦力しかいないハズ……。
   コイツと盗賊団十数名程度なら、俺一人で十分やれる」

戦士「ふっ、悪くない読みだぜ。ただ……相手が悪かったな」

ドドドドド……

南門にも盗賊団が現れた。その数──

剣士「バ、バカな……!(200人はいる……!)」

153: 2012/06/06(水) 23:59:15.48 ID:8x2N02I30
戦士「この街の領主は、常備軍が作れないからその都度兵を雇っているんだったな?
   だから俺も同じことをしただけさ」

戦士「北門に攻め込んでる盗賊団は斥候の目をごまかすための“ニセモノ”だ。
   脅すなり金渡すなりして、その辺に転がってたクズどもに徒党を組ませたんだ。
   いいオトリになってくれたぜ」

戦士「とはいえ、俺が抜けてグチャグチャになってるだろう防衛団とは
   いい勝負ができるだろうがな」

戦士「一方のアイツらは俺の本当の部下どもだ。
   略奪のプロフェッショナル……ヤツらが10人も街に侵入できれば、
   この街は終わりだ」

戦士「さぁ、二人で200人を止めてみせてくれよ」ニヤッ

156: 2012/06/07(木) 00:07:44.27 ID:fhlZygyy0
剣士(どうする……!?)

剣士(今から北門に知らせに行っても、とても間に合わない!)

少女剣士「うわぁぁぁっ!」ダッ

剣士「行くなっ!」

戦士「クソガキがっ!」

ドゴォッ!

少女剣士が戦士に斬りかかるが、あっけなく蹴り飛ばされる。

剣士「しっかりしろ!」

少女剣士(痛いよ……痛いけど……)
    「大丈夫だよ、おっさん」ニコッ

剣士(嘘つけ……)

剣士(だが……こういう時こそ笑わないとな!)チャキッ

剣士「やってやるよ、盗賊団!」ニィッ

戦士「ふん、絶望で頭がおかしくなっちまったか。
   200人のうち一人で何人倒せるか……記録に挑んでみろや」

157: 2012/06/07(木) 00:10:15.71 ID:fhlZygyy0
戦士のもとに200人の盗賊が集結する。

副首領「ボス、お待たせいたしました」

戦士「おう、ご苦労」

副首領「ボスの工作通り、街の兵はほとんど北門に向かったようですね」

戦士「南門を守るのは、あの勇敢なる剣士と嬢ちゃんだけだ。
   ヤツらを踏みつぶし……この街を地獄に変えてやれ」

副首領「はい!」

副首領「野郎ども、もう街は目の前だ!
    まずはあの剣士とガキを切り刻んでやれっ!」

ウオオオオオ……!

160: 2012/06/07(木) 00:16:53.18 ID:fhlZygyy0
少女剣士「おっさん……!」

剣士「おまえは北門に援軍を呼びに行け!」

少女剣士「で、でも──」

剣士「行けっ!!!」

少女剣士「!」ビクッ

少女剣士「わ、分かったよ……! おっさん、死なないでね!」ダッ

剣士(今から北門に行っても、もうどうにもならんだろう……。
   せめて、おまえだけでも生き延びろよ……)

165: 2012/06/07(木) 00:21:17.45 ID:fhlZygyy0
「おりゃああっ!」 「くたばりやがれぇっ!」

ズシャッ! ザシャッ!

飛びかかってきた盗賊団二人を、あっさり斬り倒す剣士。

戦士「ほう、やるじゃねえか。副首領、真正面から勝てる相手じゃねえな」
副首領「おまえたち、囲めっ! いくら強くても囲んじまえばこっちのもんだ!」

ワアァァァァァ……!

剣士を包囲するように移動する盗賊団。

剣士「くっ!」

しかし──

ズバッ!

若手剣士「若手ナンバーワンのボクが来たからには、もうご安心を」

ザシュッ!

賞金稼ぎ「やれやれ出遅れちまったぜ、情けねぇ……」

心強い助っ人が、二人現れた。

剣士(若手剣士と……コイツが賞金稼ぎか!?)

170: 2012/06/07(木) 00:28:13.55 ID:fhlZygyy0
剣士「二人とも、どうしてここに……!?」

賞金稼ぎ「俺ァ、この盗賊団をずっと追っていたんだ。
     どんだけゲスなことをやってきたか、よォ~く知ってるぜ。
     どんだけ一筋縄じゃいかない連中かってこともな……」

賞金稼ぎ「北門に敵が来たって聞いた時、これはワナだって直感したよ」

賞金稼ぎ「もっともボスの正体までは分からなかったがな」

賞金稼ぎ「ガハハハッ! そっちの若い兄ちゃんもそんなところだろ?」

若手剣士「えぇ、ボクもそんなところですよ」

若手剣士(ホントは私、どうしていいのかパニックになって、
     賞金稼ぎさんについてきただけなんだけどね……)

剣士「とにかくありがとう、二人とも」

賞金稼ぎ「礼はコイツら片付けてからにしてくれ。ま、厳しい仕事だがな」

若手剣士(剣士さんの前で、私が一番強い剣士だって証明してみせる!)

173: 2012/06/07(木) 00:31:15.38 ID:fhlZygyy0
三人は強かった。
襲いかかる無数の盗賊団を、一歩も街に通さない。

ザシュッ! ザンッ! ズシャッ! ビシュッ! シュバァッ!

「ぐあぁっ!」 「ぐげっ!」 「ぐおっ!?」 「がふっ!」 「ぎやぁっ!」

副首領「…………!」

副首領「くそっ、たった三人になに手こずってるんだ!」

戦士(おそらくコイツらが街にやって来た兵のベスト3だろう。
   防衛団に参加しなかっただけのことはあるな)

戦士(だが──)

176: 2012/06/07(木) 00:36:52.49 ID:fhlZygyy0
団員A「オラァッ!」

ギィンッ!

若手剣士「くぅっ……!」

剣士「せやっ!」

ザシュッ!

団員A「ぐえぇ……っ!」ドサッ

若手剣士「あ、ありがとう!」

剣士「礼をいう暇があったら、敵を見ろ!」

若手剣士「はいっ!」

若手剣士(剣士さんも賞金稼ぎさんもすごい……。
     私も腕には自信があったのに、二人の方が明らかに上だわ……)

賞金稼ぎ(盗賊団に家族を頃された恨み、と心は燃えているんだが──
     年は取りたくねぇな、若い二人とちがって体がついてこねぇや!)ハァハァ

剣士(若手剣士も賞金稼ぎもよくやってくれている……。
   この二人が街にいたことを、神に感謝したいくらいだ……!
   が、いかんせん数が多すぎる!)

178: 2012/06/07(木) 00:40:08.44 ID:fhlZygyy0
街──

少女剣士(広いなぁ、この街……)ハァハァ

少女剣士(あたしが北門まで行って戻ってくるまで持ちこたえるなんて、
     いくらおっさんが強くたって──)

少女剣士(でも応援を連れてこないと……)

少女剣士「!」ハッ

少女剣士(いるじゃない! 援軍になりそうな人が他にもいっぱい!)

少女剣士(でも、これをやったらあたしは──……!)

少女剣士(ううん、街やおっさんが大変だってのに、かまってられない!)

181: 2012/06/07(木) 00:46:24.91 ID:fhlZygyy0
街の南門──

剣士「大丈夫か!?」

若手剣士「な、なんとか……」ハァハァ

賞金稼ぎ「余裕だぜ(ったく、年は取りたくねえな)」ゼェゼェ

三人はすでに50人以上を倒していた。
しかし、数の差は大きく、体力を大きく削られてしまっていた。

副首領「くそっ……こんなヤツらに……!」

戦士「まぁいいさ、ここまでは想定の範囲内だ」

戦士「あの若いヤツとオッサンは、もうヘトヘトだ。大して怖くねぇ。
   まだ元気そうなのはあの剣士だが、アレはおまえが片付けろ。
   今のヤツなら、おまえで十分ヤレる」

戦士「これでこの街は“詰み”だ」ニヤッ

副首領「分かりました」ザッ

183: 2012/06/07(木) 00:49:30.18 ID:fhlZygyy0
副首領「少しはやるようだな。
    俺も我流だが剣には自信があるんだ、相手してくれよ」ヒュンッ

剣士(……手強そうだな)

ガキィンッ!

剣士と副首領の一騎打ちが始まった。

キィンッ! ガキィン! ギャリンッ!

副首領(相当疲れているな。動きにキレがない!)

ザシッ!

剣士「──ちっ!」

剣士が右肩に傷を負う。

副首領(勝てるっ! 俺たちのボスにまちがいはないっ!)

ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!

副首領の猛攻に、防戦一方となる剣士。

剣士「ぐっ……!」

184: 2012/06/07(木) 00:53:23.09 ID:fhlZygyy0
他の二人も、不安そうに横目で戦いを確認する。

若手剣士(マズイ……剣士さんが……!)キィンッ

賞金稼ぎ(今あの兄ちゃんがやられたら、ここは総崩れになる。
     そうなったら、この街は終わりだ……!)ガキンッ

ギィンッ! キィンッ! ガキンッ!

副首領「この街は今日で、地図から消えてなくなるんだっ!
    さっさとくたばれっ!」

剣士「ナメるなよ、盗賊如きが……」

剣士「あの戦乱の時に比べりゃあ、この程度ピンチのうちに入らねぇっ!」

副首領「なっ……!」

ズザシュッ!

剣士の渾身の一撃が、副首領を剣ごと切り裂いた。

副首領「ぐ、ぐぞぉ……っ!」グラッ

「なんだとっ!?」 「副首領っ!」 「なんてヤツだ……!」

剣士(コイツは盗賊団の中核的な存在なハズ……これでこっちに流れが──)

186: 2012/06/07(木) 00:58:05.53 ID:fhlZygyy0
ズボォッ!

突如、副首領の胸から刃が生え、剣士の心臓近くに突き刺さった。

剣士「が……っ!」ガクッ
副首領「ボ、ボス……!?」ドサッ

戦士が副首領を背後から貫き、剣士を刺したのだ。

戦士「副首領、今日までご苦労だったな」

副首領「さ、さすが、俺たちの……ボ、ス……」ガクッ

戦士「クックック、おまえはよくやってくれたよ。
   おかげで労せずして、コイツに一撃くれてやることができた」

剣士「ぐぅぅ……っ!」ヨロ…

戦士「さぁて、死にぞこないにトドメをくれてやるか」

189: 2012/06/07(木) 01:07:08.58 ID:fhlZygyy0
若手剣士(なんてヤツなの!? 自分の仲間を盾にして……!)

賞金稼ぎ(あの兄ちゃん……あの傷じゃ、もう戦えねぇっ!)

すると──

ワアァァァァァ……!

戦士「!?」

困惑する盗賊団。

「なんだよこの声……?」 「どっからだ!?」 「街の中からだっ!」

街から大勢の領民を従えて──

剣士「こ、これは……!?」ゴフッ

少女剣士「おっさん、生きてるっ!?」

剣士「ど、どうして……!」

──少女剣士が現れた。

戦士「バカな……なんで領民が動くんだっ!?」

戦士(あのガキが領民を動かしたとでもいうのか……ありえねぇっ!
   領主でもないのに、なんで──!)

192: 2012/06/07(木) 01:11:56.29 ID:fhlZygyy0
「街から出ていけっ!」 「俺たちをナメるなよっ!」 「これでも喰らえっ!」

「えいやっ!」 「どうだっ!」 「俺たちには領主様の娘様がついてるんだ!」

次々と盗賊団に石やモノを投げつける領民たち。

ガンッ! ゴンッ! ガスッ! ガゴンッ! ゴスッ!

「なんなんだっ!?」 「くそぉっ!」 「こんなの聞いてませんぜ、ボス!」

これに勇気づけられ、若手剣士と賞金稼ぎにも力が宿る。

若手剣士(もしかしてあの子……自分が領主の娘だってみんなにバラして──)

賞金稼ぎ(やるじゃねえか、小娘!)ニヤッ

剣士(そうか……昔からの住民なら……領主の娘の件を知ってるからな……)

194: 2012/06/07(木) 01:16:24.70 ID:fhlZygyy0
だが──

戦士「あんなド素人どもに呑まれてんじゃねえっ!!!
   俺たちは天下の盗賊団なんだ……皆頃しにしろっ!!!」

ウオオオオオッ!

戦士の一喝で、浮き足立っていた盗賊団も再び燃え上がる。

剣士(やはり、あの戦士を倒さなきゃどうにもならない……!
   くそっ、俺にはもう一太刀分くらいの力しか──!)

196: 2012/06/07(木) 01:20:06.09 ID:fhlZygyy0
少女剣士「おっさん、離れてて……あたしがやる」

剣士「バ、バカ……! おまえが勝てる相手じゃ……!」

戦士(よし、あのガキをやれば、さらにこっちが勢いづくな)
  「嬢ちゃん、村のカタキは目の前だぜぇ~?」クイクイ

少女剣士「でやぁぁぁぁっ!」ダッ
剣士「──よせ、挑発だっ!」

戦士(くたばれっ!)

ブオンッ!

戦士「──あれ?」

少女剣士は戦士の一撃を、縮こまることでかわしていた。

少女剣士「小さいなら小さいなりの戦い方があるんだよね、おっさん!」

剣士(アイツ……冷静だった! 戦士の逆を突いた!)

戦士「し、しまっ──(懐に入られ──)」

ザンッ!

198: 2012/06/07(木) 01:27:14.71 ID:fhlZygyy0
少女剣士は腰に一撃を浴びせた。が、致命傷にはならない。

戦士「ぐぅ、危ねぇ……! クソガキがぁっ!」

ドガッ!

少女剣士「あぐ……っ!」

強烈な蹴りが、少女剣士の腹に入った。だが、彼女は笑っていた。

少女剣士「へへ……おっさん、頼んだよ……!」
剣士「ああ!」

戦士「なっ……(連係!?)」

ズバンッ!

剣士の一閃。戦士の胸から血が噴き出る。

戦士「ぐっ……! ち、ちくしょお……!」
剣士(傷のせいで踏み込みを誤った……浅い……!)

200: 2012/06/07(木) 01:30:47.79 ID:fhlZygyy0
戦士「て、てめぇら……俺は一度後方に下がる……!
   少し時間をかけすぎた……。コイツらシカトして、さっさと街に入れっ!」ダッ

「へいっ!」 「分かりやしたっ!」 「一気にツブせっ!」

剣士(今アイツに指揮に徹せられたら、マズイ! ここで倒さないと!)ヨロ…

戦士「ぐふっ……ぐっ! そこでくたばってろ!」

ドガッ!

蹴り飛ばされる剣士。

少女剣士「おっさん、大丈夫!?」
剣士「す、すまん……千載一遇のチャンスを……!」

ウオオオオオッ!

動けない剣士たちをすり抜け、盗賊団が街に入ってゆく。

若手剣士「くそぉっ!」ズバッ
賞金稼ぎ「一人でも多く倒すんだっ!」ザシュッ

戦士「無駄だ、無駄だ。さぁ、奥にいる領民どもをブチ頃──」

204: 2012/06/07(木) 01:37:16.84 ID:fhlZygyy0
ザシュッ! ザンッ! ズブシュッ!

「ぐええっ!」 「なんだコイツら!?」 「うぎゃあっ!」

戦士「──え!?」

街に入らんとした盗賊団を、新たな集団が待ち受けていた。
──防衛団である。

領主「よくぞ持ちこたえていてくれた!」

領主「待たせてすまなかった! 北門のヤツらの掃討に手こずってしまってな!」

戦士「な……ん、で……!?」
  (なんで、俺がいないのにこんなにまとまっているんだ!?)

領主「戦士よ……みごとにしてやられたが──
   私とてあの戦乱をくぐり抜けた男、混乱する兵たちを統率するくらいは
   たやすいことだ!」

戦士「ぐうぅっ……!」

剣士(よかった……これで街は助かる……!)
少女剣士(やった……!)

205: 2012/06/07(木) 01:40:11.54 ID:fhlZygyy0
防衛団によって、次々に盗賊団が倒されてゆく。

戦士(ち、ちくしょう……! この俺の計略が……盗賊団が!)

戦士(だが、まだ負けてねぇぞ……!)

戦士(俺さえ無事なら、いくらでもやり直せるんだ!)

戦士(ここはもう、逃げるしかねぇ……)

戦士(その前に──)

戦士(色々と予定を狂わせ、俺に傷を負わせやがった
   あの剣士とガキだけはこの手であの世に送らなきゃ気がすまねぇっ!)

208: 2012/06/07(木) 01:44:21.17 ID:fhlZygyy0
戦士「く……たばりやがれぇぇぇっ!」ダッ
剣士「!」

剣士「うおおっ!」ブンッ

ガキンッ!

剣士が投げつけた剣を、戦士がはじく。

すると──

少女剣士「うわああぁぁぁぁぁっ!!!」
戦士「うわっ──!」

剣士(おまえを育ててくれた村の仇を……取れっ!)

ズシュウッ……!

少女剣士の剣は──戦士の喉を貫いていた。

戦士「ごぶっ……!」

戦士(ふざ、けんな……なんで俺がこんな、ところで……)

戦士「あ、がぅ……」グラ…

ドザァ……

212: 2012/06/07(木) 01:50:10.89 ID:fhlZygyy0
少女剣士「おっさん!」

剣士「や、やったな……!」

少女剣士「うん……おっさんのおかげだよ……!」

剣を捨て、剣士に抱きつく少女剣士。

賞金稼ぎ「さてと、俺たちももうひとふんばりだっ!」
若手剣士「はいっ!」

領主「リーダーがやられて、盗賊団はもはや総崩れだ!
   一気にケリをつけるぞ!」

「ボスが死にやがった!」 「ひぃ~っ!」 「もうダメだぁっ!」

戦闘と頭脳、両面で中枢を担っていた戦士を失い、
もはや盗賊団は烏合の衆に成り下がった。

ワアァァァァァ……!





──長年に渡り人々を苦しめた悪名高き盗賊団は、ついに滅亡の時を迎えた。

215: 2012/06/07(木) 01:53:07.10 ID:fhlZygyy0
街は救われた。

街中が沸き上がり、数日間はお祭り騒ぎとなった。
その後、集まった兵たちは活躍に応じた報酬を受け取り、各地へと散っていった。

そして──

剣士「よう、心配かけたな」

少女剣士「おっさん! もう退院できるの!?」

剣士「ああ、医者にも大した回復力だっていわれたよ」

剣士「アンタらも、わざわざ待っててくれたのか! ……ありがとう」

賞金稼ぎ「今回の件、MVPはまちがいなくオメェさんたちだからな。
     一言、礼をいっておきたかったんだ」

若手剣士「ボクも勉強させてもらいました。
     あなたに勝つなんていってたことが恥ずかしい……」

剣士「いや、二人がいなかったら今頃街はどうなっていたか分からない。
   こちらこそ、ありがとう」

217: 2012/06/07(木) 01:57:03.42 ID:fhlZygyy0
賞金稼ぎ「……さてと」

賞金稼ぎ「じゃあ俺ァ、そろそろ行くとするか。
     アンタらのおかげで家族の仇を討てた……ありがとうよ」

賞金稼ぎ「じゃな!」

剣士「気をつけてな」

少女剣士「じゃあね!」

若手剣士「お元気で!」

賞金稼ぎは街を発った。

218: 2012/06/07(木) 01:59:46.63 ID:fhlZygyy0
若手剣士「じゃあボクもそろそろ出発します。ありがとうございました」

剣士「ああ、元気でな」

少女剣士「ねえねえ」ボソッ

若手剣士「なんだい?」

少女剣士「あたしたち、ライバルだね」ボソッ

若手剣士「うん、いつか君とも手合わせ願いたいよ。
     さすがにまだボクの方が強いだろうけどね」

少女剣士「ちがうちがう、そっちじゃなくって」

若手剣士「え?」

少女剣士「あなた、おっさんのこと好きでしょ」ボソッ

若手剣士「え、いや、そんな……あのっ……!」

少女剣士「あたしもおっさんのこと好きなんだよ。
     ……でも、あたしもこの街でおっさんとお別れだけどね」

若手剣士(え……?)

221: 2012/06/07(木) 02:06:27.69 ID:fhlZygyy0
少女剣士「おっさん……」

剣士「ん?」

少女剣士「あたし、領主さんの娘になるよ!」

剣士「!」

少女剣士「だって……自分から街のみんなに名乗ったからね。
     それにあんなに立派な人なんだから……
     きっとお父さんとお母さんも許してくれると思う」

剣士「そうか……領主もきっと喜ぶ」

少女剣士「うん……」

少女剣士「おっさんはまた旅に出るんでしょ?」

剣士「ああ……そのつもりだ」

少女剣士「おっさん……たまには遊びに来てよね!」

剣士「もちろんだ!」

若手剣士「…………」

222: 2012/06/07(木) 02:11:01.22 ID:fhlZygyy0
そして──

領主「この私を……父だと認めてくれるのか……?」

少女剣士「うん……すぐには馴染めないだろうけど……。
     あたし……この街で暮らすよ。お父さん」

領主「おおっ……!」

少女剣士「でもあたしを村で育ててくれたお父さんとお母さんのことも
     あたしは忘れない。いいよね?」

領主「もちろんだ……! 私はあの二人には本当に感謝している。
   決して忘れないようにしてくれ」

領主「街が落ち着いたら、いずれ墓参りにも行こう」

少女剣士「ありがとう、お父さん。これから……よろしくね!」

領主「うむ!」

225: 2012/06/07(木) 02:14:34.06 ID:fhlZygyy0
それから一週間後──

執事「お嬢様、本日のお召し物にございます」

少女剣士「お嬢様、なんて呼ばなくていいって」

執事「いえ、そういうワケにはまいりません」

少女剣士「こんなフリフリなドレス着なきゃいけないの?
     動きにくいんだけど、これ……」

執事「なにしろあなたは領主様のご令嬢でいらっしゃいます。
   相応しい格好をしていただきませんと」

少女剣士「分かったよ……」

少女剣士(なんだか落ち着かないなぁ……)

少女剣士(おっさんと旅をしてた時の方が楽しかった……)

226: 2012/06/07(木) 02:18:07.17 ID:fhlZygyy0
領主「どうだ、少しは慣れたか?」

少女剣士「うん……」

領主「どうした、なにか元気がないようだが?」

少女剣士「なんでもないよ! あたしだってお父さんの娘だし、
     しっかりしないとね!」

領主「そうか、ならばいいんだが」

少女剣士(あたしは子供じゃないんだ……剣士なんだ!
     だから泣きごとはいってられない!)

232: 2012/06/07(木) 02:22:20.82 ID:fhlZygyy0
領主「ところで、今日からおまえに武芸の家庭教師をつけることになった」

領主「勉強は執事で十分なのだが、武芸の方は私も執事もからっきしだからな」

少女剣士「うん、分かった!」

領主「では、向こうにある訓練場に行きなさい」

少女剣士「は~い」

少女剣士(あたしももっと強くなって……
     おっさんが来た時、ガッカリさせないようにしないと!)

少女剣士は訓練場へ向かった。

236: 2012/06/07(木) 02:27:09.03 ID:fhlZygyy0
すると──

少女剣士「…………!」

剣士「よう」

少女剣士「なんで……?」

少女剣士「どうして……!」ウルッ

剣士「どうしてって……今日から俺がおまえの先生だよ。
   そんなに泣くほどイヤか?」

少女剣士「……バカ!」

少女剣士「バカバカバカバカバカ!」ポカポカ

剣士「お、おいおいよせよ」

剣士「まあ、旅をするには銭も心もとなかったし、
   少しここに腰を落ち着けるのも悪くないかなと思ってさ」

剣士「領主に相談したら、ぜひお願いしたいっていわれたしな」

少女剣士「うぅっ……」グスッ

241: 2012/06/07(木) 02:32:47.18 ID:fhlZygyy0
~ 回想 ~

若手剣士「剣士さん……あの子をもう少し見てあげることはできませんか?」

剣士「……なんでだ?」

若手剣士「ボクには分かるんです。強がってますが、あの子はだいぶムリをしている。
     なにしろ、人も環境もガラリと変わるんですから……」

剣士「たしかに……アイツ、見かけによらずデリケートだからな……」

剣士「ところでアンタ、わざわざアイツに素性を口止めさせたり、
   色々と目をかけてるようだが……なぜだ?」

若手剣士「えぇと、彼女は……ボクが子供だった頃によく似ているので……」

剣士(ああ、たしかにコイツ女顔だもんな……
   なんとなく通じあうところがあるのかもしれない)

剣士「アイツのことを心配するな。俺ももう少しここにいるつもりだ」

若手剣士「そうですか、ではボクはこれで……失礼します。
     今度会った時は……あなたに勝ってみせます」ザッ
剣士「楽しみにしてるよ」

剣士(なかなか将来が楽しみなヤツだな……)

若手剣士(剣士さんと一緒に強くなってね……。私もまた必ず来るから……)

247: 2012/06/07(木) 02:36:11.52 ID:fhlZygyy0
訓練場──

剣士(……これからは正式な師弟関係になるんだ。
   もう“おっさん”と呼ばせるワケにはいかないな。
   世の中にはけじめってもんがあるんだ)

少女剣士「ねぇ──」
剣士(そらきた!)

少女剣士「剣士さん」

剣士「コラ、これからはちゃんとおっさんと呼べ」

少女剣士「へ?」
剣士「あれ?」

253: 2012/06/07(木) 02:42:15.96 ID:fhlZygyy0
少女剣士「なんだ~てっきりこれからはちゃんとした師弟関係を作るのかと思って
     剣士さんなんて呼んで損しちゃった!」

剣士「いや、あの、えぇと……その……」

剣士(ま、いっか……)

少女剣士「これからもよろしくね、おっさん!」

剣士「ああ、よろしくな」

剣士「じゃあトレーニングを始めるぞ、かかって来い!」チャキッ

少女剣士「うん!」チャキッ



かくして一緒に旅をしてきた二人は、ひとまずこの街に落ち着くこととなった。
領主の館に、二人の剣の音が響き渡る──


                                   ~おわり~

255: 2012/06/07(木) 02:43:08.55 ID:fJJJssUPi
乙乙

256: 2012/06/07(木) 02:43:34.90 ID:iDHNBdPYO
乙!
こういう感じのおっさんと少女の絡みはいつ見てもニヤニヤしてしまう

引用元: 少女剣士「ミルクは最高だね、おっさん!」剣士「ちゃんと口拭けよ」