1:2018/12/12(水) 23:30:30.452 ID:5yZhlcFKD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    石井芳彦(20) 大学2年生

    【治験バイト】

    ホーッホッホッホ……。」
3:2018/12/12(水) 23:32:19.203 ID:5yZhlcFKD.net
東京。関東経済大学。教室内で、ミクロ経済学の講義を受ける学生たち。

教授「経済分析を正確に行うために用いられる概念が、需要の価格弾力性の概念です」

黒板にチョークで板書を行う教授。ノートに板書を書き写す男子大学生・石井。

石井(えーーと……。『需要の価格弾力性 = -需要量の百分比変化率/価格の百分比変化率』……か)

テロップ「石井芳彦(20) 関東経済大学2年」

教授「Rを収入、pを価格、Qを数量とすると、次のような式になります」

またも、黒板に板書を行う教授。石井は、黒板の板書を必死でノートに書き写す。

石井(『R=pQ』……か。難しすぎて、何を言ってるのかチンプンカンプンだ)

ミクロ経済学の授業を聞き続ける石井。

石井(でも、ミクロ経済学は必修だから単位を取っておく必要があるな……)
4:2018/12/12(水) 23:34:17.632 ID:5yZhlcFKD.net
昼。学生食堂。大半の学生たちが、テーブルに向かって昼食を食べている。

とあるテーブルにいる石井。彼は、バッグからカレーパンを取り出す。

石井(今日の昼食は、このカレーパンだけにしよう。生活のために、金を切り詰めるしかない……)

カレーパンをかじる石井。

石井(バイトでもして、もう少し生活に余裕を持ちたいな……)
   (学業に差し支えのない程度に、バイト生活をした方がいいだろうな)


午後。とある駅。駅の構内の壁には、アルバイト情報誌がいくつも棚に置かれている。アルバイト情報誌を見つめる石井。

石井(とりあえず、アルバイトの求人情報くらいは調べておこう)

アルバイト情報誌を次々と手に取る石井。石井の側に、例の男――喪黒福造が近づく。

喪黒「やぁ、もしもし……」

石井「な、何ですか!?あなたは……」
5:2018/12/12(水) 23:36:17.651 ID:5yZhlcFKD.net
喪黒「私ですか?私はこういう者です」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

石井「……ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」

石井「は、はあ……。そうですか……」

喪黒「アルバイト探しの件で、あなたに役に立つかもしれない話があるんですよ」
   「いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょう」


BAR「魔の巣」。喪黒と石井が席に腰掛けている。

喪黒「ほう……。石井さんは、関東経済大学の学生さんですか」

石井「はい……。俺がこの大学を選んだのは、学費でメリットがあったからなんですよ」

喪黒「学費のメリットとは?」
6:2018/12/12(水) 23:38:16.207 ID:5yZhlcFKD.net
石井「関経大は、英検2級か簿記2級のどれかを持っていると、4年間授業料が免除されるんです」
   「俺は英検2級を持っているから、授業料免除のためにこの大学を選んだんです」

喪黒「なるほど……。コストの良さを踏まえた上で、進学を行ったってことですか」

石井「その通りです。俺の実家はあまり裕福ではありませんし……。今の時代、大学を出ていないと就職で不利になります」
   「それに、俺の学力でも入れる大学を探した結果……。ここしかなかったってことです」

喪黒「そうですか……。石井さんは、芯のしっかりした人のようですねぇ」

石井「でも、親の仕送りが少ないから、生活費を確保するだけでも一苦労ですよ」
   「だから、生活のためにバイト先を見つける必要があるってわけです」

喪黒「……分かりました。そんな石井さんのために、私はいいアルバイト先を紹介したいのですよ」

石井「どんなアルバイトなんですか?それ?」

喪黒「治験のアルバイトですよ。私は、あなたに治験のアルバイトをお勧めしたいのです」

石井「治験のアルバイト……。まさか、新薬の実験とかその意味の『ちけん』ですか?」
7:2018/12/12(水) 23:40:18.506 ID:5yZhlcFKD.net
喪黒「はい。『治療の臨床試験』の略を意味する、その『治験(ちけん)』ですよ」
   「短期間だけ関わって、高収入を得ることができるとっておきのアルバイトです」
   「まあ、厳密にはアルバイトと言うよりボランティアですが……」

石井「うわっ……、やっぱりその意味の治験ですか。もしも、身体に影響とか出たらどうするんですか!?危ないですよ!」

喪黒「大丈夫です。治験の参加中に身体に副作用が出た時は、医療スタッフがしっかりした処置を行ってくれますよ」
   「それに、治験は参加した後であっても、いつでも自由に辞めることが可能なんですよ」

石井「そ、そうなんですか……」

喪黒「それに治験の参加中は、規則正しい生活を送ることができます」
   「何事もなく治験を終えれば、むしろ、以前よりも健康体になれる可能性もあるのですよ」

石井「なるほど……。そういうことなら、治験のバイトに参加してもいいかもしれませんね……」

喪黒「そうです!その調子!」

石井「とはいえ……。治験バイトは募集したとしても、参加できる倍率が高めらしいですよね。問題はそれですよ」
8:2018/12/12(水) 23:42:17.680 ID:5yZhlcFKD.net
喪黒は石井に右手の人差し指を向ける。

喪黒「心配いりません!石井さんは必ず、治験のアルバイトに参加します!!」
   「ドーーーーーーーーーーーーン!!!」

石井「うわああああああああああ!!!」


とあるマンション、石井の部屋。スマホを操作し、ネットサーフィンをする石井。

石井(おっ、治験の案件が見つかった。申し込んでみるか……)


とある病院。待合室の椅子に腰かける石井。石井の周りにも、数人の人間がいる。

石井(これが事前検診か……。何か緊張するな……)

医者「今回の治験は、新薬の有効性や安全性を確認するために行われます」
   「治験はあくまでもボランティアであり、社会貢献を目的としたものです」

ベッドの上に寝転び、心電図や血圧の測定を行う石井。女性看護師が注射器を使い、石井から採血を行う。
9:2018/12/12(水) 23:44:19.510 ID:5yZhlcFKD.net
病院を出て、道を歩く石井。

石井(事前検診に協力しただけで、小遣いが貰えた……。飯代が少し浮いたな……)


10日後。とあるマンション、石井の部屋。スマホで病院関係者と通話する石井。

石井「……はい。合格ですか?あ、ありがとうございます!」

通話を終え、スマホを握りしめたまま喜ぶ石井。

石井(やった!治験の応募に合格したぞ!)


入院1日目。とある病院。ベッドの上で、漫画の単行本を読む石井。彼は病院用のパジャマを着ている。

石井(いよいよ俺も入院か……)

夜。病室で夕食の弁当を食べる石井。ある程度時間が経った後、消灯時間とともに彼はベッドで目を閉じる。
11:2018/12/12(水) 23:46:17.691 ID:5yZhlcFKD.net
入院2日目。朝。看護師により、紙コップに入った水を飲まされる石井。

待合室。ソファーに座る石井ら治験参加者たち。

看護師「石井芳彦様ーー」

石井「はーーい」

診療室。数人の関係者が見守る中、薬の錠剤を飲む石井。

石井(うっ……。俺は遂に、新薬を飲んじまった……。果たして、どうなることやら……)

心電図や血圧の測定、採血を行う石井。彼は、ボトルに入った尿を女性看護師に提出する。

石井(自分の尿を看護師に渡すなんて、何だか恥ずかしいな……)


昼。病室で、昼食の弁当を食べる石井。

石井(そうか……。治験の入院食は、幕の内弁当が出されるのか)
12:2018/12/12(水) 23:48:17.057 ID:5yZhlcFKD.net
ロビー。漫画の単行本を、本棚から取り出す石井。本棚には、漫画本がこれでもかと詰まっている。

石井(ここの本棚は、置いてある漫画の種類が豊富だな……)

病室のベッドで横になり、漫画の単行本を読む石井。しばらくした後、女性看護師が注射器を使い、石井から採血を行う。

石井(また採血が行われるのか……。それにしても、1日に何度も採血を行っているな……)

夜。夕食を食べる石井。彼は病室で漫画を読み続けた後、早い睡眠をとる。


入院3日目。この日も、病室のベッドで漫画を読む石井。

石井(全く、暇で暇で仕方がない……)

夕方。裸になって、シャワーを浴びる石井。

石井(身体を洗うことができるなんて、気持ちいいな……)


入院4日目。この日も、石井はベッドで漫画を読んでいる。

石井(運動禁止のせいで、身体がなまってきたな……)
13:2018/12/12(水) 23:50:19.220 ID:5yZhlcFKD.net
BAR「魔の巣」。喪黒と石井が席に腰掛けている。

喪黒「治験のアルバイトはいかがでしたか?」

石井「まあ、その……。思っていたような危ないものではありませんでしたね」
   「のんびり過ごすことができて、何事もないまま退院できましたから……」

喪黒「石井さん。治験に参加してよかったでしょう?」

石井「はい……。俺にとっては、いい人生経験になりましたよ」

喪黒「よかったですねぇ。石井さん」

石井「何よりも……。4泊5日入院しただけで20万円貰えるってのは、本当においしいバイトですよ」
   「貧乏学生の俺にとっては、まさに一獲千金とでも言うべきバイトでした」

喪黒「そうですか……。だったら、あなたには約束していただきたいことがあります」

石井「約束!?」

喪黒「はい。治験を終えた後、再び治験に参加できるまでには数ヶ月間かかります」
   「従って、治験のアルバイトを梯子するような真似は絶対にいけませんよ。いいですね!?」

石井「わ、分かりました……。喪黒さん」
14:2018/12/12(水) 23:52:23.269 ID:5yZhlcFKD.net
とあるファミレス。テーブルで、分厚いステーキを食べる石井。

石井(今までの俺は粗食だったからな……。金があるから、多少は栄養のあるものを食うべきだな……)


翌日。関東経済大学。学生食堂でトンカツ定食を食べる石井。

石井(学食で定食が食えるなんて、夢みたいだ……。さすが、20万円様様だよ……)

夕方。スーパー銭湯。大浴場につかる石井。

石井(ふうっ……。俺は風呂代もケチっていたんだから、このくらい自分へのご褒美のようなものだ)


とあるマンション。部屋で、1万円札を数枚握りしめる石井。

石井(まだ金はたっぷり余っているから、もう少し贅沢をしてもいいだろう)


石井の金使いは前よりも荒くなっていく。

タイ焼き屋で、タイ焼きを箱詰めで買う石井。回転寿司屋で、寿司をたらふく食べる石井。

居酒屋チェーン店で、料理や酒に舌鼓を打つ石井。カラオケ屋で、1人カラオケに明け暮れる石井。
15:2018/12/12(水) 23:54:32.188 ID:5yZhlcFKD.net
夜。街を歩きながら、石井は考え込む。

石井(さすがに、早いペースで金を使いすぎたかな……。あの20万円の大金、思ったよりも減ってやがる……)


その後も、石井はこれでもかと豪遊を重ねていく。

パチンコ屋で、パチンコ台を打つ石井。マッサージ店で、全身マッサージを行う石井。

耳かき専門店で、女の子に耳かきをして貰う石井。アイドル喫茶で、アイドルたちの歌を楽しむ石井。


とある銀行。ATMで、預金の残高を確認する石井。彼の顔には、焦りの表情が現われている。

石井(うわあ……。治験で手に入れた20万円どころか、親の仕送りも使い込んでしまった……)
   (俺の預金もかなり減ってる……。このままじゃ、にっちもさっちもいかない……)


とあるマンション、石井の部屋。石井はスマホを操作しながら、ネットサーフィンを行っている。

石井(治験の申し込みがあった……。よぉし……。もう1度、治験のバイトに参加して金を稼ごう)
16:2018/12/12(水) 23:56:18.078 ID:5yZhlcFKD.net
石井の頭に、喪黒の忠告が思い浮かぶ。

(喪黒「治験を終えた後、再び治験に参加できるまでには数ヶ月間かかります」
    「従って、治験のアルバイトを梯子するような真似は絶対にいけませんよ」)

石井(構うもんか。豪遊を続けたせいで、今の俺は金がないんだ……。やむを得ん……)


とある病院。事前検診に参加する石井たち。医者が、参加者たちに説明を行う。

医者「今回の治験は、場合によっては重大な副作用を引き起こす恐れがあります」
   「そのことをご理解いただいた上で、参加するか否かを判断してください」

石井(何だって……!?)

医者「ただし、副作用が起きる確率は極めて低いものです」
   「それに、万一健康が損なわれた場合には、スタッフによって適切な処置や治療が行われます」

石井(よかった……。副作用が起きる確率は極めて低い……か。それなら、まず大丈夫だろう)

心電図や血圧の測定、採血を行う石井。
17:2018/12/12(水) 23:58:19.132 ID:5yZhlcFKD.net
とある病院。病院用のパジャマを着た石井が、ベッドで漫画の単行本を読む。

石井(この漫画も読み終えてしまった……。新しい漫画を取りに行こう)

読み終えた漫画本を持ち、ロビーの中に入る石井。部屋の中には、病院用のパジャマを着た喪黒がいる。

喪黒「石井芳彦さん……。あなた約束を破りましたね」

石井「も、喪黒さん……!!」

喪黒「私は言ったはずですよ。治験のアルバイトを梯子してはいけない……と」
   「にも関わらず……。あなたは前の治験から時間が経っていないのに、今また治験に参加しましたねぇ……」

石井「す、すみません……!!どうしても金が必要なので、つい……」

喪黒「言い訳はよしてください。約束を破ったのだから、あなたにはペナルティーを受けて貰います!!」

喪黒は石井に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

石井「ギャアアアアアアアアア!!!」
20:2018/12/13(木) 00:00:18.974 ID:TpGxItTCD.net
翌日、午前。とある病院。診療室。数人の関係者が見守る中、薬の錠剤を飲む石井。

午後。石井は、ベッドの上で漫画を読もうとしたものの……。右手で頭を押さえる石井。

石井(うう……。頭が痛む……。漫画の内容が頭に入ってこない……)

漫画を返却するため、病室を出る石井。廊下を歩く石井は、白骨化した通行人を2人見かける。

石井「わああっ!!なんだ、こいつらは!?」

実際は、廊下には石井以外誰もいない。女性看護師Aが石井の元へ向かう。

女性看護師A「石井様、どうなされましたか!?」

脅えた表情で、廊下の蛍光灯を指差す石井。

石井「あれを見ろ!!あの蛍光灯から、俺に向かって電波が発射されてるんだ!!」

女性看護師A「そんなことはありません!!落ち着いてください!!」

石井「嘘だ!!電波を使って俺に攻撃するのはやめろ!!お前は、俺を監視するために送り込まれた魔女なんだろう!!」

女性看護師Bが、石井と女性看護師Aの元へ駆けつける。
21:2018/12/13(木) 00:03:39.722 ID:TpGxItTCD.net
女性看護師B「石井様!!しっかりしてください!!」

石井「ここは水晶玉の中なんだ!!俺を水晶玉の中に閉じ込めて、洗脳電波で身体を乗っ取るつもりか!?」

女性看護師Aと女性看護師Bが、石井の両脇を押さえつける。

石井「ハハハハハハハ!!!ハーーハハハハハハ……!!!」

看護師たちにより、どこかの部屋へ連れて行かれる石井。彼は一人でけたたましい笑い声を発している。


とある病院。病院用のパジャマを着た喪黒が、ロビーの中でくつろいでいる。

喪黒「学生がアルバイトを行うのは、勉学を疎かにしているように見られがちですが……。実はアルバイトにも大切な意味があるのです」
   「なぜなら、アルバイトを通して人生経験を積むことができますし……。その時の経験は、後で社会に出た時に必ず役に立ちます」
   「従って、学生ならば勉学に励むのはもちろん大事ですが……。アルバイトを通じて社会の縮図を学ぶことも忘れてはいけません」
   「ただし、これは言うまでもありませんが……。アルバイトといえども、おいしい話にはくれぐれも気をつけた方がいいですよ」
   「ましてや、楽して大金を得ると人生が狂う恐れがありますからねぇ。とりあえず、大学生の石井さんにはいい薬になったでしょう」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
22:2018/12/13(木) 00:04:49.447 ID:HjorvKDd0.net
sugoi
23:2018/12/13(木) 00:19:37.169 ID:8g5aS2oX0.net
なんもしてなくてもドーン!のパターンまであるのかよ
こんなん笑うわ
喪黒福造「私は、あなたに治験のアルバイトをお勧めしたいのです」 大学2年生「治験のアルバイト……」
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1544625030