1: 2009/07/26(日) 00:09:09.18 ID:WNOBycVB0
女勇者「あれからもう二年」

女勇者「国同士が争い始めて一年半」

女勇者「何の為に魔王を倒したんだろう……」

前作
奴隷商「さあさあ、本日の目玉だよ!」
子供「苦しいよ……誰か、助けて……」
3: 2009/07/26(日) 00:11:16.25 ID:WNOBycVB0
国王「よくぞやってくれた、勇者よ! 次は隣国の……」

女勇者(戦争で国民は疲弊し、上流階級の者達が私腹を肥やす)

女勇者(結局、あたしも戦争に加わり、人を殺してきた……)

女勇者(あたしは、勇者として何一つ変える事が出来ないんだ)

4: 2009/07/26(日) 00:14:12.46 ID:WNOBycVB0
女勇者「もう、疲れちゃったな」

女勇者「……」

女勇者「北の大陸に渡ってみようかなぁ」

女勇者「よし、そうと決まったら準備しなくっちゃ」

5: 2009/07/26(日) 00:16:13.46 ID:WNOBycVB0
女勇者「事前に伝えておいた方がいいかな?」

女勇者「折角、あいつが残してくれたんだし……ちょっと言付かってくれるかな?」

鳥「……」コクリ

女勇者「……今、頷いた気が。いやいや、疲れているんだ、きっと」

女勇者「と、とにかく、この文書を届けてね」

鳥「」バサバサ

女勇者「……あの鳥、海を渡れるのかな?」

8: 2009/07/26(日) 00:18:57.39 ID:WNOBycVB0
女勇者「……」

女勇者「魔物が少ない海域を渡ったとは言え、何も起こらないって……」

女勇者「魔王の魔力で作った威厳溢るるペンダントの効果か」

女勇者「あの魔王にはあまり、威厳さが感じられなかったけどなぁ」

女勇者「……さて」

女勇者「威厳の無い魔王のいる国ってどっちの方角だろう?」

9: 2009/07/26(日) 00:21:57.23 ID:WNOBycVB0
女勇者「こっちの大陸には、心穏やかな魔王がたくさんいるって言っていたけど……」

女勇者「人間を滅ぼしたがっている魔王もいるんだよね……」

女勇者「ここが心穏やかな魔王の領地でありますよーに」

10: 2009/07/26(日) 00:23:58.02 ID:WNOBycVB0
女勇者「……集落の一つ、見かけない」

女勇者「もう三日は歩いているのに」

女勇者「不味い、由々しき事態だ」


商人「おや……?こんな所に人がいるなんて珍しいな」

11: 2009/07/26(日) 00:27:25.47 ID:WNOBycVB0
女勇者「馬車にまで乗せて頂き……本当にありがとうございます」

商人「はは、どうせ僕も首都に向かう途中ですから気にしないで下さい」

女勇者「その、同行させて頂いて失礼だとは思いますが……向かっている国はどういう所でしょうか?」

商人「おや……結構有名な国なんだけど、知らないのですか?」

女勇者「お恥ずかしいながら、田舎育ちで都会の事はさっぱりでして」

商人「なるほど……だからあんな何も無い草原のど真ん中にいたのですか」

女勇者(返す言葉も無い……)

13: 2009/07/26(日) 00:29:45.28 ID:WNOBycVB0
商人「元々は魔王による圧政の軍事国家だけど、今の魔王様に変わってからは一変して農産業が売りの国です」

女勇者(あの食道楽の魔王なら感極まる話だろうなぁ)

行商人「今は非常にいい国になりました。どんな魔王様でもこうはいきませんよ」

行商人「ただ、少し厳しい面もあって、少し侵略してきた他国を一夜で滅ぼすという伝説もありまして」

女勇者(あれ?もしかして超絶地雷?)

14: 2009/07/26(日) 00:32:47.06 ID:WNOBycVB0
女勇者「そういえば商人さんは、何を売りに行くんですか?」

商人「私の国は漁業が盛んな国でして。その反面、畜産や農業はそれほどでもないんですよ」

商人「それなので、農産物に余裕がある他国で取引行っているんです」

商人「これでも一応国に勤める商人なんですよ?」

女勇者「そういうのって、もっと集団で行ってたくさん持って帰るものではないんですか?」

商人「美味で非常に高価な魚や、加工した魚介類ばかりを持ってきてありますし」

商人「受け取る物はあの国が持つ鳥達が運んでくれますので、こちらは一人でも大丈夫なんですよ」

女勇者「鳥……まさか、ね」

15: 2009/07/26(日) 00:36:34.59 ID:WNOBycVB0
行商人「さあ、着きましたよ」

女勇者(どう見ても威厳の無い魔王の国だ)

商人「どうかされましたか?」

女勇者「いえ、本当にありがとうございました」

商人「困った時はお互い様です。それでは取引がありますので自分はこれで」

16: 2009/07/26(日) 00:38:10.26 ID:WNOBycVB0
女勇者「さて、どうしたものか」

女勇者「前来た時に、魔王を討とうとして捕まってるからなぁ」

女勇者「……最悪あいつが何とかしてくれるだろう」

17: 2009/07/26(日) 00:41:58.49 ID:WNOBycVB0
女勇者「普通に城下町に入れた」

女勇者「いいのか、こんな治安で」

女勇者「……」

女勇者「一夜で国を滅ぼす魔王がいるんだから、悪事を働きに来る奴もいないのか……」

18: 2009/07/26(日) 00:45:04.14 ID:WNOBycVB0
兵士「上から仰せつかっています、どうぞお入り下さい」


女勇者「先に知らせておいて良かった……まさか、城まで入れるとは」

女勇者「あ、すみません、魔王って何処にいますか?」

侍女「魔王様ですか?えーと……ご案内致します」

女勇者(あれ?やけに歯切れが悪いけど、何かあったのかな?)

20: 2009/07/26(日) 00:47:45.85 ID:WNOBycVB0
侍女「お客様をお連れしました」

側近「ありがとう、下がっていい……ああ、貴方でしたか!」

女勇者「あれ?見覚えが……家臣の一人じゃ?」

側近「その節は魔王様がご迷惑をお掛けしたそうで、本当に申し訳ありません」

女勇者「い、いえいえ、こちらこそ色々と助けていただいて感謝しています。で、その魔王は?」

側近「……」

女勇者「まさか……不幸が?」

側近「魔王様は……辞任なさいました」

21: 2009/07/26(日) 00:49:47.03 ID:WNOBycVB0
女勇者「……最近耳が悪いという事にして、変な事を聞いた気がするのでもう一度」

側近「魔王をお辞めになりました」

女勇者「……な、何それっ」

側近「私も懇切丁寧に説明頂きたい所存です」

23: 2009/07/26(日) 00:52:13.81 ID:WNOBycVB0
側近「こちらの大陸には多くの国があって、個々の国を治めるのが魔王と呼ばれる存在」

側近「魔王の中には、人間と共存したい者と征服したい者で派閥があるのは知っていますよね?」

女勇者「はい。後ここの魔王は共存派というのも」

側近「どこかの魔王と慰安旅行から帰ってきてしばらくしたら」

側近「『もう、俺にやれる事無いから辞任する』と言って何処かへ飛び去っていきました」

女勇者「……」

女勇者「な、なんだそりゃあ!」

24: 2009/07/26(日) 00:54:35.12 ID:WNOBycVB0
女勇者「共存を目指しているのに、それをする前からやれる事がないってどういう……!」

側近「私もそう思います……あんの阿呆が」ッチ

女勇者「えっと……それは国長に対する発言としてどうなんですか?」

25: 2009/07/26(日) 00:56:45.32 ID:WNOBycVB0
側近「今は貴方が使いに出した鳥が魔王様を探していますので」

側近「見つかるまではここでお寛ぎ下さい」

女勇者「いいの?やった、凄い待遇!」

側近「きっと魔王様の食道楽やら、奇怪さにさんざん振り回されたことでしょうから」

女勇者(この人も振り回されてたんだろうなぁ)

26: 2009/07/26(日) 00:58:45.37 ID:WNOBycVB0
女勇者「このコーンスープ凄い美味しい!」

侍女「ありがとうございます。でも、魔王様に比べたらまだまだなんですけどね」

女勇者「魔王がコーンスープを作る図とか……想像できてしまう」

侍女「ちなみに、材料のトウモロコシは魔王様自身がお作りになりました」

女勇者「……もう農夫でいいじゃん、あいつ」

29: 2009/07/26(日) 01:01:40.30 ID:WNOBycVB0
女勇者「城の中にこんな広い書庫があるとは……」

側近「歴史等の本が置かれているので、もしよろしければお読み下さい」

女勇者「へ~なんか面白そう」

女勇者「この国の魔王達の歴史か。一番新しい本かな」

女勇者「あ、途中から著者が側近さんだ」

『先代を討ち取り、今までには無い若い青年が魔王となった。
中庭で野菜を栽培し、災害時の炊き出しは率先し、山菜を取ってきては部下に振舞う。
前代未聞の魔王である』

女勇者「やっぱりあいつは北の大陸でも変人の域だったのか」

31: 2009/07/26(日) 01:04:00.37 ID:WNOBycVB0
『建国者である、その種族最後の一人であった初代魔王は'慈しむ魔王'と呼ばれ、
争いの無い国を作り上げた。多くの者は彼を敬い慕った。
善き国の見本のような姿であったが、それ故滅ぶ事となった。
魔王が婚姻を結んだのは、何の身分も無い農村に暮らす人間の少女だった。
貴族や他国の王族はそれを妬み嫉妬した。』

『慈しむ魔王の妃は暗殺され、魔王はその犯人を特定できず、報復も適わなかった。
彼は発狂し、三日三晩自国も他国も関係なく攻撃し続けた。
人は死に、土地は荒れ果て、我に返った魔王は自身と世界に絶望し、
彼の眷属である魔族と共に姿を消した。以降'慈しむ魔王'の名は消え、'荒ぶる魔王'の名を受け継いでいく事になる』

女勇者「嫌な話だなぁ」

女勇者「人間と結婚って事は、まだ派閥も何も無かった頃……相当昔か」

32: 2009/07/26(日) 01:07:30.16 ID:WNOBycVB0
兵士「魔王様ですか……それはもう素晴らしい方です」

兵士「決してえばる事は無いですし、何よりどんな者にでも分け隔てなく接して下さいます」

女勇者「実にあいつらしい……」

兵士「中庭で、それもご自身で育てた野菜で料理を振舞って下さった事も多々あります」

女勇者「実に……あいつ以外にやる魔王はきっといないだろうなぁ」

33: 2009/07/26(日) 01:10:20.37 ID:WNOBycVB0
女勇者「へぇ……ここが中庭か」

侍女「つい二週間前までは、魔王様がここを管理なさっていました」

侍女「今は我々、使用人が面倒を見ています」

女勇者「……」

女勇者(明らかに花壇の外も耕されているっ!)

35: 2009/07/26(日) 01:13:16.08 ID:WNOBycVB0
町人A「なあ……本当に魔王様はもう戻ってこないのかな」

町人B「あの人ならふらっと戻ってきそうだけどなぁ」

町人A「先代討った時も唐突だったから、いなくなるのも唐突かも……」

町人B「……」

町人A・B「「もうあの人の料理を食べれないのかなぁ」」

女勇者(待って!国長が国民に料理を振舞う図って!!)

36: 2009/07/26(日) 01:16:10.56 ID:WNOBycVB0
女勇者「城の中もだいたい見て回ったし、城下町も結構満喫したし」

女勇者「もう書庫くらいしか、暇を潰せる所ってないなぁ」

女勇者「……隠し通路でもないかな」

37: 2009/07/26(日) 01:19:45.10 ID:WNOBycVB0
女勇者「……」

女勇者「まさか、ここまで立派な地下へ続く階段があるとは……」

女勇者「ここだけ石造りで何でだろうとは思ったけど」

女勇者「行こうかな……いやトラップがあると困るなぁ」

女勇者「探りを入れてみるか」

39: 2009/07/26(日) 01:21:36.78 ID:WNOBycVB0
側近「隠し通路ですか?」

女勇者「もう何週間も経って暇なんで、そういうの探してみようかと」

側近「そうですね……この城は一度建て直されていますからね」

側近「もし、初めの城に地下通路等、特殊な区画があったとしたら」

側近「この城にもそこに通じる部屋があるかもしれませんね。城の位置自体は変わっていませんので」

女勇者「分かりました、それじゃあ少し頑張ってみますね!」

女勇者(大当たりだっ)

40: 2009/07/26(日) 01:25:25.25 ID:WNOBycVB0
女勇者「でも一人で行くのは不安だしな……」ブツブツ

侍女「あら?勇者様いかが致しましたか?」

女勇者「……今手が空いていますか?」

侍女「……え、ええ空いていますが?」

女勇者「今、世紀の大発見をするかもしれない所なんですが、一緒に行きませんか?」

侍女「あ、面白そう!行きます、行きますとも!」

41: 2009/07/26(日) 01:27:35.36 ID:WNOBycVB0
侍女「うわぁ、こんな地下通路があるなんて知らなかった」

女勇者(やっぱり城内でも知られていないのかぁ)

女勇者「扉……この奥に何が眠っているのか」

侍女(金銀財宝!)

女勇者(伝説の武具!)

42: 2009/07/26(日) 01:30:10.98 ID:WNOBycVB0
侍女「……汚れた肖像画に」

女勇者「朽ちかけた鎧一式と剣一本……とても隠し通路の先にある物じゃないですね」

侍女「残念ですね……あら?この肖像画」

女勇者「……あ、綺麗にしてみると、これって」

侍女「今の魔王様に似ていられますね」

侍女「……まさか、子孫?」

女勇者「いやいや、いくらなんでも他人の空似でしょう」

43: 2009/07/26(日) 01:33:54.85 ID:WNOBycVB0
女勇者「……とは言ったもののやっぱ気になるなぁ」

側近「こちらにおいででしたか。魔王様の所在が分かりました」

女勇者「本当?!今すぐ行く!」

側近「ええ、そう仰るだろうと思いまして、馬車の方を用意させています。準備が出来次第出発しましょう!」

44: 2009/07/26(日) 01:35:59.78 ID:WNOBycVB0
……
魔王「懐かしきかな我が故郷」

魔王「この島って、大陸からこの程度しか離れていなかったのか?」

魔王「しかも小さくなった気が……」

魔王「それだけ成長したのか、俺は」

46: 2009/07/26(日) 01:37:50.24 ID:WNOBycVB0
魔王「もうだいぶ経つからな……」

魔王「世話になった種族ももうきっと……」

ハルピュイア「おや?もしかして坊やじゃないか、久しぶりだねぇ!」

魔王「……」

47: 2009/07/26(日) 01:39:59.97 ID:WNOBycVB0
ハルピュイア「……どうしたんだい?大きな口を開けてだらしない」

ハルピュイア「折角の鎧姿なのに勿体無いねぇ」

魔王「……いや、まさかまだ生きているとは思っても」

ハルピュイア「本当に失礼な子だねぇ、君は」

48: 2009/07/26(日) 01:42:44.94 ID:WNOBycVB0
ハルピュイア「はぁ……あんな泣きじゃくってた子が今じゃ魔王様ねぇ」

魔王「正直、自分でも驚いているさ。流石にもう慣れたが」

ハルピュイア「あの頃は純粋なのに、すっかりすれちまって……」

魔王「この姿であの性格は気持ち悪いと思うんだが」

ハルピュイア「私は気にしない」

魔王「気にしてくれ」

49: 2009/07/26(日) 01:45:06.12 ID:WNOBycVB0
魔王「正直、魔王になるまでがしんどかった」

魔王「今思うとあんだけ殺伐としてて、よく発狂しなかったものだ」

ハルピュイア「……」

魔王「どうかしたか?」

ハルピュイア「……いや、坊やなら誰もいない土地で細々と暮らす逃げ道とかあったのに」

ハルピュイア「あえてその道を進んでいったのかぁと思ってねぇ」

魔王「!」

ハルピュイア「あれだけここでサバイバルしてて、気づかなかったのかい?」

50: 2009/07/26(日) 01:47:40.38 ID:WNOBycVB0
魔王「……と、まあ、そんな感じで征服派もいなくなりそうだから、もう魔王はいいかなぁと」

ハルピュイア「中途半端に投げたね」

魔王「政治なんぞ出来ない以上、あまり役に立て無いからな」

ハルピュイア「でもそうすると、いよいよ……」

魔王「ああ……やっと共存への道が模索できるだろうな」

ハルピュイア「……」

魔王(何をそんなに真剣に考えているんだろうか……?)

51: 2009/07/26(日) 01:49:00.77 ID:WNOBycVB0
ハルピュイア「積もる話もあるけど、一先ずは島を一周してきなさいな」

ハルピュイア「あの頃とは別のものが見えるかもしれないからねぇ」

魔王「俺としてはもう少し話していたいんだが」

ハルピュイア「どうせ時間はいくらでもあるんだ。先に行ってきなさいな」

52: 2009/07/26(日) 01:50:59.68 ID:WNOBycVB0
魔王「この島を一周といっても、半日もかからないだろうからな……」

魔王「こんな所に大岩があったのか……線みたいなものも見えるな」

魔王「……辿ってみるか」

53: 2009/07/26(日) 01:53:18.43 ID:WNOBycVB0
魔王「追ってるだけじゃ分からなかったが、大岩の位置を地図に記して……」

魔王「線が出ている凡その位置も書き込めば……どう見ても魔方陣だ」

魔王「おまけに中心地は俺がいた所に近いな」

魔王「こんな大々的な魔法を使える奴がいたのか?」

魔王「……いたかもしれないな」

54: 2009/07/26(日) 01:55:23.26 ID:WNOBycVB0
魔王「この洞窟も久し……裂け目が一段と大きくなって」

魔王「ここはもう雨風は凌げないのか」

魔王「今更ここで過ごす事もないか……」

55: 2009/07/26(日) 01:57:44.20 ID:WNOBycVB0
魔王「相変わらず本だらけの部屋だな」

魔王「確かこれが研究っぽい内容の本だったよな」

魔王「子供の頃はこの本の文字が読めなかったんだよな」

魔王「……なるほど」

魔王「何時の時代の文字だよ、殆ど読めんよこんなもん」

魔王「挿絵から想像するしかないのか……」

56: 2009/07/26(日) 01:59:59.96 ID:WNOBycVB0
魔王「大人と子供の絵か……これだけじゃあ」

魔王「……これは何の図だ?輪の上下に……地獄と天国か?」

魔王「いや、地獄と地表か。昔は地の底が地獄と考えられていたのか?」

魔王「あ、これはさっきの魔方陣、とは少し形が違うな。研究段階のものか」

魔王「後はめぼしいのは……天秤か?羽と……心臓か」

魔王「これの著者は何を考えていたんだろう。神を作りたかったのか、誰かを裁きたかったのか」

57: 2009/07/26(日) 02:01:59.80 ID:WNOBycVB0
魔王「読めるか……?」

ハルピュイア「……ふん、なるほど」

ハルピュイア「何時の時代の本ですかっ」

魔王「あ、馬鹿投げんな!」

魔王「島の秘密が解けるかもしれない貴重な本なんだから、粗雑に扱うなよ……」

ハルピュイア「本当に関係あるのかねぇ」

魔王「魔方陣が書かれていたのが気になるんだ」

魔王「分かったところで何が変わる訳でもないがな」

58: 2009/07/26(日) 02:04:00.27 ID:WNOBycVB0
魔王(……日記も結構古い言葉だな)

魔王(ほんの一部しか読み取れない……)

魔王(何か事件があって、部下と共にこの島に隠れ住んでたようだが……)

魔王(理不尽な追放を受け、相手を裁きたい、か?)

魔王(情報はあるのに、こうも読み取れる量が少ないとは)

60: 2009/07/26(日) 02:06:00.38 ID:WNOBycVB0
魔王「ああ、食った食った……ここ数日ずっと爬虫類だな」

魔王「故郷は 遠くにありて 蛇の味」

魔王「どんな故郷かっ」

魔王「浪漫溢れるサバイバルな故郷なんだよな」

魔王「……」

魔王「今のうちに明日の分を狩っておくか」

61: 2009/07/26(日) 02:08:00.38 ID:WNOBycVB0
魔王「一旦大陸に戻って、あの文字を読める人物でも探そうかと思う」

ハルピュイア「忙しないねぇ……。折角戻ってきたんだ、一ヶ月二ヶ月居たっていいじゃないか」

魔王「今更ここで過ごしても、農園とかを作るぐらいしかやる事がないからな」

ハルピュイア「若さが垣間見えない内容ね」

魔王「言ってて自分でもそう思った」

62: 2009/07/26(日) 02:10:00.72 ID:WNOBycVB0
魔王「どこの国から探していけばいいのやら」

魔王「一度自分の国の様子を見に行くべきか……」

魔王「戻ったら監禁されそうだ……まあ、行くだけ行くか」

64: 2009/07/26(日) 02:11:59.82 ID:WNOBycVB0
魔王「空路を全力で行けば一日で行けるだろうが」

魔王「急ぐ事もないしな」

魔王「おや、こんな平原で馬車とは珍しいな」

魔王「……この道は」

魔王「島に一番近い港町に向かっているのか」

65: 2009/07/26(日) 02:14:01.22 ID:WNOBycVB0
魔王(とは言え、途中沼地があったな。伝えるだけ伝えておくか)

魔王「そこの行商人、この先は沼地だから気をつけろよ」

側近「え?」

魔王「は?」

女勇者「あれ?」

66: 2009/07/26(日) 02:16:00.33 ID:WNOBycVB0
側近「そもそも貴方は……自覚が……分かって」クドクド

魔王「で、何でお前まで城を空けて……そもそも勇者も何でここに?」

側近「全無視ですか……勇者様は貴方にお会いに来ました。私は」

魔王「そうだったのか、すまんな。タイミング悪くて」

女勇者「い、いや、私より、その」

側近「問題ありません。一回、頭を勝ち割らせて頂くだけですので」

魔王「待て、それは流石にやめ……」

67: 2009/07/26(日) 02:18:00.04 ID:WNOBycVB0
魔王「……後は俺が居なくても事は進んでいくから辞めたんだ」ドクドク

魔王「恐らく、後二回も全国集まっての協議があれば征服派は潰える」ドクドク

側近「止血くらいしてから話して下さい。それに、一体何をしたんですか」

魔王「魔王間のプライベートにつき黙秘を」ドクドク

側近「本当に何をしでかしたんですか」

68: 2009/07/26(日) 02:20:00.61 ID:WNOBycVB0
魔王「まあ、その様子だと国の方は問題なさそうだな」

側近「魔王様復帰を望む民の声が」

魔王「もう俺がいなくてもなんとかなるだろ。それより勇者はどうする?」

女勇者「いきなり振られても何が、て話なんですが」

魔王「次の協議に顔を出そうと思うからそれまでは、各国をぶらぶらしようと思っている」

魔王「一緒に行くか?」

女勇者「あ、それ面白そう!」

側近「え……貴女は止めてくれる側だと信じていたのに」

69: 2009/07/26(日) 02:22:02.63 ID:WNOBycVB0
女勇者「あ~……こうしてまた旅できるとは思わなかった!」

魔王(側近凄い落ち込みようだ)

女勇者「それじゃあ、その議会が何時なのかは分からないけどよろしく!」

魔王(ざまぁ!!)

女勇者「凄い人の悪い笑みをしてるのはなして?」

70: 2009/07/26(日) 02:24:04.37 ID:WNOBycVB0
魔王「次の全国協議は……げ、三ヵ月後か」

女勇者「結構先だね」

魔王「いや、歩いて周る事を考えると……馬車」

側近「……」

魔王「ヘイ、馬車」

側近「分かりました、分かりましたよ、自力で帰りますよ、っくそ!」

女勇者「あー……ご、ごめんなさい」

魔王「まあ、こいつも翼持ってるから心配ないさ」

71: 2009/07/26(日) 02:26:07.12 ID:WNOBycVB0
女勇者「さぁて、協議までの旅の始まり~始まり~」

魔王(そういや何しに来たんだ?ここで聞くのは水を差すか……?)

女勇者「そういえば、お前の国ってやたら羽の生えた人多くないか?」

魔王「あー……何だったかな、何時かの魔王の眷属が鳥とか、飛べる者だったらしく」

魔王「以降、国内の人口の多くが翼を持つ種族になったとか」

女勇者「へ~眷属かぁ」

72: 2009/07/26(日) 02:28:00.03 ID:WNOBycVB0
女勇者「質問ばっかりで悪いんだけどもう一つ。……王族とかの家系だったりするの?」

魔王「俺が……?どんな与太話を吹き込まれたんだ」

魔王「残念だが、俺は親の顔も知らないし、自分の同属も見た事が無い」

女勇者「そうなんだ……」

魔王「一体誰から聞いた」

女勇者「いや、城に地下通路があって、一番奥の部屋にお前に似た肖像画があったんだ」

魔王「……地下の存在を知らなければ、肖像画などを書かせた事も書かれた事も無い」

73: 2009/07/26(日) 02:30:11.60 ID:WNOBycVB0
魔王「残念だが他人の空似だろうな」

女勇者「はあ……気を取り直して旅の方だ。何処に向かうの?」

魔王「……そもそも、お前はこっちの国々については知っているのか?」

女勇者「いや~全く以って」

魔王「まあ、そうだろうとは思った」

74: 2009/07/26(日) 02:32:00.30 ID:WNOBycVB0
魔王「だいたいの国はその土地柄に因んだ名前である」

魔王「例えば、水の都市とか、山岳都市、樹海の国とか高山都市なんてのもある」

魔王「土地柄に因むのは大抵、共存派が多いんだがな」

魔王「後、個々の魔王を国に因んだり人柄を元にした呼び名がある。深緑の魔王とか火の魔王とか」

魔王「で、ここから一番近いのは、深緑の魔王が治める樹海の国だな」

女勇者「ふーん……お前の国と呼び名は?」

魔王「……」

女勇者「……?」

魔王「の、農商国家……荒ぶる魔王」

女勇者「ミスマッチなのに凄い納得」

75: 2009/07/26(日) 02:34:07.83 ID:WNOBycVB0
魔王「呼び名は先代の物だからな?」

女勇者「知ってる」

魔王「側近からか聞いていたか」

女勇者「書庫にある本はそう書かれてたんだけど。もしかして読んでいない?」

魔王「……いや、勿論読んだ、とも」

女勇者「お前ってこういう嘘が下手だよな」

76: 2009/07/26(日) 02:36:07.08 ID:WNOBycVB0
女勇者「もしかして国の歴史知らないとか?初代魔王の事とか」

魔王「なんだったっか……。確か初代魔王が原因で人間に対する考えが、二つに分かれたんだよな」

女勇者「え……?地位の無い人間と結婚して、妬んだ王族がお妃様を暗殺して……」

女勇者「魔王が発狂した後、国を離れたって話じゃないの?」

魔王「それだそれ。凄い勝手な話だが、人間さえいなければ初代魔王は今も、と考える奴もいたんだ」

魔王「そっからは焚き付けられたりして、人に対して敵意を向けるようになったそうな」

女勇者「……本当に、初代魔王は報われない人だったんだね」

魔王「確かに同情を禁じえない話だな」

77: 2009/07/26(日) 02:38:04.48 ID:WNOBycVB0
魔王「さあ、樹海の国に到着だ」

女勇者「ここってさ、遭難者でないの?」

魔王「うちの兵士がよく借り出される。飛べるから」

女勇者「……」

魔王「その分、ここ特有の野草や木の実を頂いているからな」

魔王「それにここの鴉達は本当に綺麗な黒い翼をもっているからな……」

女勇者「そういえば、お前の唯一の魔王らしさって使いが鴉って事だけだよな」

80: 2009/07/26(日) 02:40:01.24 ID:WNOBycVB0
深緑の魔王「何だ来ていた……お前が農産物や側近以外を連れているのは初めて見た」

魔王「目を見開く事か」

深緑の魔王「何だよ、何だよ。お前もやる事はやるって事か?しかも……はあ、年下趣味ねぇ」

女勇者「え、え?あたしそういう目で見られてた?!」

魔王「お前も乗るな。彼女は南の大陸、人間の勇者だ。で、こっちはここの国の魔王だ」

深緑の魔王「ああ、人間の!へ~君がかぁ~……人間相手じゃ、あんたダブルスコアじゃきかないわよ」

魔王「……そうだな」

深緑の魔王「おお?!」

女勇者(明らかに面倒になっている顔だ)

81: 2009/07/26(日) 02:42:00.13 ID:WNOBycVB0
深緑の魔王「まあ、何にせよゆっくりしていきなよ」

深緑の魔王「というか、全国協議の前に人間と旅行とか何を考えているんだか」

深緑の魔王「いや、そもそも人間と一緒にいる事は……ここに人間がいるから、魔王側の判断じゃないからいいのか……」ブツブツ

女勇者(辞任したって話は?)ボソボソ

魔王(そういうのは大抵、協議の場で各国に正式発表だからな。しかもこいつは周りに疎い)ボソボソ

深緑の魔王「……何だかんだで、やっぱり仲がいいじゃないか」

82: 2009/07/26(日) 02:44:10.48 ID:WNOBycVB0
魔王「再開と新たな旅の門出を祝いまして、乾杯っ」

女勇者「乾杯っ」

魔王「この国の料理も久しぶりだなぁ」

女勇者「……本当にベジタリアンのような内容だね」

魔王「それがここの国のいい所だ。流石に、魚くらいは他国から輸入しているがな」

女勇者「あたしがお前の国に来る時、商人さんの馬車に乗せてもらったけども、その人の商品も魚だったな」

魔王「水の都市かな……あそこは海も川も湖も渓流もあって、実に多くの魚が獲れる国だ」

魔王「それもあって、城下町と城は水路が張り巡らした情緒溢れる場所だ」

84: 2009/07/26(日) 02:46:00.42 ID:WNOBycVB0
深緑の魔王「やっほ」

魔王「……お前、公務はどうした」

深緑の魔王「そういう事をお前が言うのか……?」

女勇者「……」

魔王「……俺の株が下がるからそういう発言は控えてくれ」

女勇者「じゃあ底辺から始めるね。後は上がるだけだよ」

魔王「え……待て、それは難易度高いぞ」

深緑の魔王「自覚あったのか。というか、小娘一人に丸め込まれてるぞお前」

85: 2009/07/26(日) 02:48:00.00 ID:WNOBycVB0
魔王「で、何をしに城下町の食堂まで?」

深緑の魔王「おっと……征服派の一部が決起しようとしているらしいんだが、知っているのかと思ってさ」

魔王「知らない、が大丈夫」

魔王「こわーい征服派が抑えてくれるだろうから」

深緑の魔王「あたしにとっちゃあ征服派全員怖いんだけど」

魔王「とにかく気にせんでも大丈夫だ」

女勇者「それって魔王間のプレイベートってやつ?」

深緑の魔王「え……何それ?お前、誰かを強請ったの?」

魔王(あれ、俺そんな風評なのか?)

86: 2009/07/26(日) 02:50:01.91 ID:WNOBycVB0
深緑の魔王「それならいーけど……お前本当にどうすんの?」

魔王「何がだよ」

深緑の魔王「その子。まさか慈しむ魔王と同じ事するの?」

魔王「……そういえばそうなるな」

深緑の魔王「え!」

女勇者「……え?」

87: 2009/07/26(日) 02:52:03.80 ID:WNOBycVB0
深緑の魔王「まさかの遠まわしプロポーズ。お腹一杯なんであたしは退散するよっ」

魔王「プロ……あ、しま、違う、そういう意味じゃ」

女勇者「……」

魔王「お前も何か言ってくれれば……おーい、何赤くなってんだ」

女勇者「いや……今までそういう風に思われた事がないから、嬉しい、かなって……」

魔王「……そういう反応をされると非常に恥ずかしいから、一先ずいつものお前に戻ってくれ」

88: 2009/07/26(日) 02:54:00.03 ID:WNOBycVB0
女勇者「部屋……一つしか取ってないんだよね」

魔王(あんな事があった手前、部屋をもう一つ……だがそれは失礼では)ブツブツ

女勇者「……今話す内容じゃないけど、一応話しておく」

女勇者「お前の言った通り、すぐに戦争が始まったよ。あれから二年間、あたしも戦った」

女勇者「戦って戦って……勇者なのに魔物以上に人を殺したかもしれない。そう思ったらもう疲れちゃって」

女勇者「お前のところに逃げてきたんだ。……ごめん、弱音なんか聞きたくないよね」

魔王(やはりこいつにとって、勇者の名は呪いのようなものでしかないのだろうな)

89: 2009/07/26(日) 02:55:59.85 ID:WNOBycVB0
魔王「その弱音を吐いて泣きつける場所が、お前の育った大陸には無いのか」

女勇者「……」コクン

魔王「それなら……俺の所でいいのなら、いくらでも泣きつけばいい」

魔王「辛い時、支えがない苦しさは身に染みている……」

魔王「お前の支えになれるなら、俺は喜んでなってやろう」

女勇者「……うん、ありがとう」

90: 2009/07/26(日) 02:58:00.42 ID:WNOBycVB0
女勇者「いやぁ、久々にベッドでゆっくり寝れたよ。おはようっ!」

魔王「……ああ」

女勇者「……あれ、寝不足?」

魔王(……こいつの事も含めて色々と考えていたら目が冴えてしまったからな)

魔王(というか、昨晩あんな事があったのにこいつは……なんて図太い奴なんだ)ブツブツ

女勇者「急に独り言増えたけど、この二年で老けた?」

魔王「……寿命が長い我々にとって、二年なんて短いんだがな」

91: 2009/07/26(日) 02:59:59.84 ID:WNOBycVB0
魔王「さて、出発するか……」

女勇者「相変わらず食道楽に走るの?」

魔王「まあなっ」

女勇者(自信たっぷりに言っちゃったよこの人)

魔王「水の都市は協議の場だから最後でいいとして、少し迂回して山岳方面を行くか」

女勇者「山岳って食べる物少なそうなイメージが」

魔王「国の近くは湿原が広がっていて珍しい野草や、草食動物が集まっているからな」

魔王「後、畜産も盛んだな」

女勇者「本当にこういう所では、生き生きとしているなぁ」

92: 2009/07/26(日) 03:02:00.25 ID:WNOBycVB0
女勇者「そういえば魔王を辞めて何になるつもりだ?」

魔王「何も考えていないな……ただ、ちょっと大きな調べものがあるから、各国周りながら、と思っている」

女勇者「樹海の国では、そんな素振り見せなかったよな」

魔王「あそこの国は学者とか、書庫とか期待できないからなぁ」

女勇者「それ、遠まわしにば……いや何でもない」

93: 2009/07/26(日) 03:04:03.24 ID:WNOBycVB0
魔王「さて、夕餉の支度を……」

女勇者「流石に一日で着ける距離じゃないのかぁ」

魔王「どんだけご近所な国だ。南の大陸だって城が密集していなかっただろう」

女勇者「きっと北の国なら、って思っていた」

魔王「過度な期待は後が危険だから止めなさい。くそ、馬の食事も工面を考えると出費が激しいな」

魔王「途中で野草をかき集めるか……どっかの牧場によるべきか?」

女勇者(毎度ながら所帯じみてるよなぁこいつ)

94: 2009/07/26(日) 03:06:29.77 ID:WNOBycVB0
魔王(……大人と子供、地上と地獄……魔方陣と天秤……本当にそうなのか?)ブツブツ

女勇者「まぁた独り言。何見てんの?」

魔王「調べ物の写し。俺では解読できないから困っているんだ」

女勇者「これ、全部写し?結構な厚さなんだけど」

魔王「貴重な本だから持ち出したくなかったんだ」

女勇者「ふーん……何かところどころ不自然な空白が」

魔王「鳥の絵が描かれていた。絵描きだったんだろ、まるまる一冊鳥の絵とかあったな」

魔王「大方本を間違えて書いてしまったのだろ」

女勇者(……こいつの国にいた魔王の眷属も鳥の類だったんだよなぁ)

95: 2009/07/26(日) 03:08:37.11 ID:WNOBycVB0
山岳都市
魔王「すげぇ……」

女勇者「え、ちょ、初めて来たの?」

魔王「いや、しっかりと舗道になっている」

女勇者「え……それ国としていいの?」

魔王「場所が場所だからな。陸路はあまり使われないんだ」

96: 2009/07/26(日) 03:10:11.10 ID:WNOBycVB0
山の魔王「久しいな」

魔王「考えてみたら一年以上会ってないな」

山の魔王「今は他国が来易い様、周辺を整備しているからな」

山の魔王「毎日大忙しだ」

魔王「お疲れ様。うちはもう側近だけでも国を回せそうだよ」

女勇者(無理やりな感が)

97: 2009/07/26(日) 03:12:00.43 ID:WNOBycVB0
山の魔王「何だかんだで、お前も世継ぎの事は考えているのか」

魔王「皆、同じ方向に話を進めるのな」

山の魔王「なんだ違うのか?てっきり正室でも置くのかと思ったが」

魔王「待て、その発言。俺の信用に関わるぞ」

女勇者「正室って?」

山の魔王「何股も行う事を前提とした、見下げ果てた男が作る物だ」

魔王「……何だろう、この話題じゃいつも酷い目にあっているんだが」

98: 2009/07/26(日) 03:14:04.42 ID:WNOBycVB0
魔王「さて、挨拶も済ませたし……まだ昼か」

女勇者「流石山……風が気持ちいいや」

魔王「よし、出かけるか」

女勇者「お、何処に?」

魔王「行って見てのお楽しみだ」

100: 2009/07/26(日) 03:16:01.43 ID:WNOBycVB0
女勇者「うわ~凄いいい景色……」

魔王「この近辺は水芭蕉の群生地だからな。特にここらは山も良く見える場所だ」

女勇者「~♪~♪」

魔王「おーい、あんまりはしゃいで橋から落ちるなよ?」

101: 2009/07/26(日) 03:18:06.68 ID:WNOBycVB0
学者「あーもー五月蝿いですね、こっちは測定やら何やらで大忙しなんですよ!」

魔王「いや、そこを何とか。ほら、この古い文字、知的好奇心とかがさ。なあ!」

学者「……っ!ですが、我々は国の学者!個人の研究よりも、国の仕事が優先されるのです!」

魔王「っち、もう頼まんよ!」

学者「一昨日きやがれです!」

女勇者(確かにこれじゃあ株は上がらないなぁ)クス

102: 2009/07/26(日) 03:19:59.99 ID:WNOBycVB0
魔王「壮大な自然の恵みに感謝しまして、乾杯っ!」

女勇者「乾杯っ!」

魔王「川魚と野草のソテーと、野草の胡麻和え……」

女勇者「うっわ、このお吸い物凄く美味しい!何をダシにしてるんだろう」

魔王(後でレシピ聞いておくか……)

女勇者「……レシピでも聞きだす気?」

魔王「何で分かったんだ?」

103: 2009/07/26(日) 03:22:07.78 ID:WNOBycVB0
魔王「ああ……やはりいい所だ。しばらくは滞在してもいいな」

女勇者「……」

魔王「……どうかしたか?」

女勇者「いやぁ……う~ん」

魔王(やけに歯切れが悪いな……)

女勇者「正直、知りたいんだけど……でも、あまり言いたくは無いんだけども」

女勇者「魔王はどう思っているのかなぁ……て」

104: 2009/07/26(日) 03:23:59.82 ID:WNOBycVB0
女勇者「その……あたしの事を」

魔王「お前の事を?」

女勇者「うん……その……あの……」モジモジ

女勇者「いや、無し。今の無かった事にして!忘れて!」

105: 2009/07/26(日) 03:26:12.51 ID:WNOBycVB0
魔王「……二年前、俺はこちらの大陸に戻ってから、少なからず後悔していた」

女勇者「え?」

魔王「お前が勇者であるからと言って、多くを背負おうとする姿は痛々しかった」

魔王「だからあの時、お前にこちらへ来ないかと言ったんだ」

女勇者「……うん」

魔王「お前を勇者という名の呪縛から救い出せなかった。そう後悔していた」

106: 2009/07/26(日) 03:28:00.84 ID:WNOBycVB0
魔王「だが、時間が経つにつれ、何処か寂しさを感じるようになっていった」

魔王「そう長くは無いが、お前と共に旅した時間が……あまりにも輝かしく思えた」

魔王「今、再び旅をして確信した」

魔王「お前に惹かれているのだ」

107: 2009/07/26(日) 03:30:10.37 ID:WNOBycVB0
魔王「お前の傍にいたい。共に生きたい」

魔王「お前は、俺をどう思う?」

女勇者「え……あ、うん」

女勇者「あたしは……あたしも好きだよ、魔王の事」

魔王「……」

女勇者「……」

魔王「……よし、寝よう!」

女勇者「……っ!」

108: 2009/07/26(日) 03:32:26.06 ID:WNOBycVB0
魔王「とにかくは今日はもう寝よう!」

女勇者「……」

魔王「野宿続きだったからな!」

女勇者「こっち向いて」

魔王「……」

女勇者「 こ っ ち 向 い て 」ガシ

魔王「……」

110: 2009/07/26(日) 03:34:17.82 ID:WNOBycVB0
女勇者「……今更照れ臭くなった?」

魔王「……」ビク

女勇者「……」

魔王「……」

女勇者「……っぷ」

女勇者「あーははは!あーーっはっはっは!」

魔王「五月蝿い、笑うな!」

111: 2009/07/26(日) 03:36:00.34 ID:WNOBycVB0
すまん、一旦寝る 落ちたら昼パー速

魔王「……クソ、とんだ恥を」

女勇者「もーほら、機嫌直してよー」

魔王「……お前はいざ言ってしまえば大丈夫なタイプか」

女勇者「だからーゴメンって」

魔王「……」

女勇者「むぅ……っ!」

女勇者「……」ギュ

魔王「……何のつもりだ?」

女勇者「ご機嫌取り?」

魔王「そんな事で何とかなると思うなよ……」

女勇者「あ、にやけてる」

魔王「クソ、クソ!俺という奴は!」

121: 2009/07/26(日) 10:13:45.06 ID:WNOBycVB0

魔王「昨晩はさん ざんな目にあいました」

女勇者「も~嬉しかったくせに」

魔王「うおお……何という恥の上塗り」

女勇者「まあまあそう言わないでよ。それに、凄く嬉しかったんだから」

女勇者「正直、魔王に甘えているだけかもしれないけど」

女勇者「それでも、本当に好きなんだからね」

魔王「……いくら俺でも、そのくらい分かっている」ナデナデ

女勇者「……」

魔王「あ、嫌だったか?」ピタ

女勇者「もっと!」

122: 2009/07/26(日) 10:15:58.69 ID:WNOBycVB0
女勇者「腕でも組んで歩く?」

魔王「止めろ、二度と知り合いに会えなくなる」

女勇者「そっかー……」

魔王「……」

女勇者「何だかんだで、隣で普通に歩くのが一番合っているかも」

魔王「俺もそう思う」

女勇者(本当はべったりくっつきたいんだけどなぁ)

124: 2009/07/26(日) 10:17:59.07 ID:WNOBycVB0
山の魔王「……?」

魔王「……っ!」

山の魔王「……」

女勇者「……?」

魔王「……」

山の魔王「……」グッ

魔王「待て、親指立ててグーじゃねぇ、何だ、何を悟ったんだ?!」

山の魔王「その子は人間だ。優しくしてやれよ」

魔王「がああ!ちくしょおおお!」

女勇者(今日の魔王は壊れてて楽しいなぁ♪)

125: 2009/07/26(日) 10:20:57.06 ID:WNOBycVB0
魔王「……もう他国に顔出したく無い」シクシク

女勇者「よしよし♪」ナデナデ

魔王「……」

女勇者「ギュ、のが良かった?」

魔王「……どちらにせよ嬉しい自分が憎い」シクシク

女勇者(今日の魔王は可愛いなぁ♪)ナデナデナデナデ

126: 2009/07/26(日) 10:22:14.28 ID:WNOBycVB0
魔王「もう山岳都市には行かんぞ」

女勇者「え~いい景色なんだし、また行こうよ」

魔王「……そのうちな」

女勇者「むぅ……まあ、来るのは大変だしそのうちでもいっか」

女勇者「次はどんな所なの?」

魔王「次は港町ばかりの潮風の国だ」

女勇者「水の都市と少し被る?」

魔王「残念な事に港しかない国で、大して軍事力も無いのだ」

魔王「本当に田舎な国だ。良くも悪くも」

127: 2009/07/26(日) 10:24:05.95 ID:WNOBycVB0
潮風の国
女勇者「うっわーー磯の香りーーー!」

魔王「争いなど無縁の場所だ。潮風で腐食し易いから武具は置いていくぞ」

女勇者「え……本気で?」

魔王「……ああ、普通の服あまり無いんだったか」

女勇者「今までずっと鎧だったからなぁ……」

魔王「俺の上着を羽織っておけ。町で服でも買って行くか」

女勇者「え、やった!」

魔王「露出の高い服でもない限り、何着ても似合いそうだな」

女勇者「……どうせ、あたしはグラマーじゃないですよ」

魔王「二年経ったんだがなぁ……」

女勇者(ここぞとばかりに仕返しされてる!)

128: 2009/07/26(日) 10:26:03.49 ID:WNOBycVB0
女勇者「……」ソワソワ

女勇者「……」キョロキョロ

魔王「そんなに落ち着かないか」

女勇者「いやぁ……丸腰で外に出るなんて何年もしていないから」

魔王「安心しろ、何があろうと守ってやる」

女勇者「真顔でそんな事言われると嬉しく……何があろうと?」

女勇者「軍隊が押し寄せてきたら?」

魔王「薙ぎ払う」

女勇者「側近さんがナイフを持って突進してきたら?」

魔王「殴り倒す」

女勇者「……他の魔王が奇襲してきたら」

魔王「焼き払う」

女勇者「やばい、本当に真顔だ」

129: 2009/07/26(日) 10:28:00.40 ID:WNOBycVB0
魔王「今日もいい魚が上がっているようだな」

女勇者「うっわ~海綺麗~」

魔王「だが魔物が多いから遊泳禁止」

女勇者「うっわぁ……あ、あたし達で討伐すれば」

魔王「……」

魔王「海に引きずりこまれて腕一本もってかれたんだよなぁ」

女勇者「うっわぁ!超危険地帯!」

130: 2009/07/26(日) 10:29:59.04 ID:WNOBycVB0
女勇者「……こんなラフな格好したの久方ぶりだ」

魔王「随分ボーイッシュな……」

女勇者「う、うるさいなぁ」

魔王「いや、似合っているぞ。ただ、もう少し女の子らしい格好でも」

女勇者「あんなひらひらした服なんて恥ずかしくて着れないよ!」

魔王「無理やりだとは思うが……二年前、初めて会った時はドレスだったよな」

女勇者「……っは!」

魔王(真赤になるほど恥ずかしいのか……)

131: 2009/07/26(日) 10:32:00.31 ID:WNOBycVB0
女勇者「あ~美味しかった~」

魔王「こっからだとあそこ行って終わりぐらいか、しばらくここで滞在するのも」ブツブツ

女勇者「何々?次は何処に行くの?」

魔王「剣の国という軍事国家だ。残念ながら食は……なあ」

133: 2009/07/26(日) 11:05:07.28 ID:WNOBycVB0

女勇者「わざわざそんな所に行くの?」

魔王「協議の前に挨拶もしておきたいし、近隣だと剣の国しかない」

魔王「という訳でもう寝るか」

女勇者「確かに泳げないとなると……酒場ばっかりだしなぁここ」

魔王「海の男が溢れる場所だからな」

女勇者「途端にむさ苦しい国に感じる不思議!」

135: 2009/07/26(日) 11:08:58.13 ID:WNOBycVB0
魔王「それじゃおやすみ」

女勇者「おやすみ~」モゾモゾ

魔王「……」

女勇者「……」

魔王「待て……何で一緒のベッドに入ってきた」

女勇者「……ダメ?」

魔王「いや、駄目というか……最近媚びるのうまくなったな、お前」

136: 2009/07/26(日) 11:14:01.85 ID:WNOBycVB0
魔王「とにかく……そういう事は軽々しく行うんじゃありません」

女勇者「硬派なんだかシャイなんだか」

女勇者「いいじゃん。お互いの意思確認はしたんだから」

女勇者「正真正銘の恋人なんだよ?」

魔王「……」

女勇者「?」

魔王「本当に態度が変わったよな、お前」

女勇者「あー……あんだけしどろもどろだったのが嘘のように思えるよね」

137: 2009/07/26(日) 11:17:57.00 ID:WNOBycVB0
魔王「どうせ言っても聞かんのだろ」

女勇者「……うん、確実に聞かないね」

魔王「間違いがあっても知らないからな」

女勇者「大丈夫、間違いでも受け止めるから!」

魔王「そんな包容力はいらんよ」

139: 2009/07/26(日) 11:22:59.09 ID:WNOBycVB0
魔王「おはよう」

女勇者「……ふあぁ、おはよぉ~」

魔王「……」

女勇者「……本当に間違いが起こりましたとさ」

魔王「解釈の方、願い仕る」

女勇者「ちょーーストップストップ!」

141: 2009/07/26(日) 11:27:39.12 ID:WNOBycVB0
女勇者「もーあたしとしては凄い幸せな気分だったのに」

魔王「だが……いや……意思の弱さが」ブツブツ

女勇者「本当にこの魔王は……」クス

女勇者「こんなにも幸せなんだから、そーぶつくさ言わないの」

女勇者「幸せなんだから……ずっと傍にいさせて、よ?」

魔王「……」

魔王「言われんでもお前の手を放すつもりなど無い」

144: 2009/07/26(日) 11:33:41.72 ID:WNOBycVB0
女勇者「あたしとしては、もっと魔王らしいところを見たかったんだけどなぁ」

魔王「何だ、辞めた事を言っているのか」

女勇者「そりゃあね。もっとお前の事知りたかったし」

女勇者「南の大陸にいた時とは状況も違うからね」

魔王「国で聞いていた俺の評判や、今までのやりとりそう違いは無い」

女勇者「あんなやりとりで国を統治する姿を見てみたい」

146: 2009/07/26(日) 11:37:16.05 ID:WNOBycVB0
女勇者「泳ぎたい……」

魔王「諦めろ」

女勇者「……あたしの水着姿とか見たくない?」

魔王「無理なものは……泳げはしないが入り江なら安全かもな」

女勇者「うわぁ」

魔王「泳ぐのが目的なら、水遊び程度の入り江はなしだろ」

女勇者「ごめんなさい、水遊びでもいいので海で遊びたいです」

147: 2009/07/26(日) 11:42:00.49 ID:WNOBycVB0
大海蛇「キシャーーーー!!」

魔王「……」

女勇者「……」

魔王「あー、いかんなあ、こんな、いかんいかん」

女勇者「……」

魔王「……あいつとやり合うと感電死するからな、お前が」

女勇者「ちくしょーーー!海の馬鹿野郎ーーーー!!」

魔王「海は悪くないっ」

148: 2009/07/26(日) 11:45:39.84 ID:WNOBycVB0
剣の国

魔王「お久しゅうございます」

断ち切る魔王「……何をしに来た」

女勇者(うわっ、この人凄い怖い!)

魔王「祝・魔王辞任慰安旅行」

断ち切る魔王「祝うな……本当に辞めたのか」

魔王「まあな。で、今この書物について調べているんだが、ちょっとそっちの学者達に見てもらえないか?」

断ち切る魔王「……随分古い言葉だな。俺でも解読にどれだけかかるか分からん代物だな」

女勇者「か、解読できるんですか?」

魔王「くやしいが、ここの国は文武両道なんだ。こいつを含めて。あ、それ故郷にあった本の写しだから少し汚れても構わんよ」

断ち切る魔王「お前の故郷……生きては帰れないが定説の死の島にこんな物が?」

魔王「探究心という名の食指が動いていらっしゃるご様子で」

断ち切る魔王「いいだろう、最終的な結果の報告を条件にだ」

魔王「任せろ……結果がでる代物であればだがな」

152: 2009/07/26(日) 11:58:26.60 ID:WNOBycVB0
魔王「特産物は食い物じゃないから正直、全力では楽しめない国だ」

女勇者「でも、やたらと武具が充実しているような」

魔王「大陸一の軍事国家でもあるからな……これがこの国の収益の頭だ」

女勇者「どうやって扱うか分からないような武器まで……」

魔王「ここの兵士はやたらとトリッキーな武器を使ってくるからな……熟練度も高いから、何処の国も怖がっているのさ」

155: 2009/07/26(日) 12:04:09.08 ID:WNOBycVB0
魔王「そうだった、これを渡し忘れていた」

断ち切る「……潮風の国の土産か。気が利くな」

魔王「……ふ、当然だ」

女勇者(土産を渡す魔王対魔王の図とか)

157: 2009/07/26(日) 12:08:34.31 ID:WNOBycVB0
女勇者「初めは仲悪いのかと思ったけど、そうでもないんだね」

断ち切る魔王「会ってから半年も経っていないがな」

女勇者「へえ……」

魔王「因みにこいつが征服派のトップだった」

女勇者「だった?」

魔王「話してもいいか?」

断ち切る魔王「別に話されて困る話題ではないからな」

158: 2009/07/26(日) 12:12:59.02 ID:WNOBycVB0
……
断ち切る魔王「ふむ……一先ずはこんなものか。午後は兵士の方を見るか」

側近「ま、魔王様。こちらの手紙が……」

断ち切る魔王「差出人は誰だ」

側近「それが……荒ぶる魔王でして」

断ち切る魔王(荒ぶる……代が変わって若い魔族がなったそうだが、まだ会った事もないな)

側近「それも、自身でお持ちしまして……いかが致しましょう」

断ち切る魔王「何を考えているのだ、その魔王は……」

159: 2009/07/26(日) 12:19:24.83 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「……」

側近「な、内容は……まさか、宣戦布告っ!?おのれ、愚かな蛮……」

断ち切る魔王「……」ピラ

側近「……?」

163: 2009/07/26(日) 12:24:48.38 ID:WNOBycVB0
剣の国
代表 断ち切る魔王様
                             農商国家
                        代表 荒ぶる魔王
           慰安旅行のご案内

 拝啓 歳晩の侯 断ち切る魔王様におかれましては
益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。平素より
格別のご愛顧を承り、誠にありがとうございます。
 さて、この度当国では、秘湯を発見した故に慰安旅行を
行わせていただくことになりました。
 つきましては、ご多忙中誠に恐縮ではございますが、是非とも
ご参加いただきたくお願い申し上げます。当日は、美酒や
宴も予定しております。
 何卒ご参加賜りたくお願い申し上げます。
                                 敬具

164: 2009/07/26(日) 12:29:55.61 ID:WNOBycVB0
側近「な、なんですか、これは」

断ち切る魔王「見ての通り、慰安旅行参加を促した内容だ」

側近「は、はは、何という無礼な男だ、荒ぶる魔王!」

側近「魔王様に対し、このようなふざけた文を自ら届けるなど!」

側近「魔王様!今すぐ相応の対応を取りましょう!」

断ち切る魔王「そうだな……」

167: 2009/07/26(日) 12:36:02.05 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「お前が荒ぶる魔王か」

魔王「……という事は、貴方が断ち切る魔王と」

断ち切る魔王「如何にも。話には聞いていたが、確かに若い魔王だな」

魔王(大柄ではないが……大男だった先代とは比べ物にならない威厳が……)

断ち切る魔王「さて……つまらない物ではございますが、我が国の秘蔵の酒、『大切断』を……」

魔王「!これはこれはご丁寧に……こちらもお帰りの際にはお土産をご用意しております。ささ、こちらへ」

168: 2009/07/26(日) 12:42:58.93 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「ふう……こんな所に温泉が湧いていたとは」

魔王「周辺を調査させていた兵士が発見致しました……どうやら他国もあずかり知らぬ様で」

断ち切る魔王「いい加減腹を割ったらどうだ……何が目的だ」

魔王「……」

魔王「……ふ、ふふ」

魔王「何処までが演技だったかは分からないが、あんたが土産物を持ってきて……」

魔王「この湯に入った時点でもう終わりなのだよっ!!」

断ち切る魔王「ほう……?」

169: 2009/07/26(日) 12:49:32.54 ID:WNOBycVB0
魔王「さあ、喰らってもらおうか!」

魔王「我が国の地酒、『鳥の涙』!」

魔王「そして特産の、誇れるチーズ!」

魔王「で作った、スモークチーズをっ!!」

断ち切る魔王「……っ」ざわ ざわ

170: 2009/07/26(日) 12:54:13.57 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「風の噂で聞いていたが……」

断ち切る魔王「やはり道理の分かる奴だな」

魔王(あれぇ?噂がおかしいのか……こいつの道理がおかしいのか)

断ち切る魔王「……そのおかしい道理に投球したのは誰だ」

魔王「大陸はESPが多くて困るぜ」

173: 2009/07/26(日) 13:02:31.29 ID:WNOBycVB0
魔王「まあ、何だ。今まで協議の出席がすれ違っていて、うまく会えなかったからな」

魔王「こっちも風の噂でどういった人物かは知っていたが」

魔王「征服派を推し進めるような人柄には思えなかったんだ」

断ち切る魔王「だから、もう直球でいいじゃないか、と」

魔王「やべぇ一字一句読まれてる」

174: 2009/07/26(日) 13:09:08.41 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「……風呂で語るには上せてしまうな」

魔王「……結構時間も経っているな」

断ち切る魔王「仕方が無い話は……」

魔王「卓球に致しますか?マッサージに致しますか?それとも、」

断ち切る魔王「宴だ」

魔王「それを即答できる魔王って俺以外にいるもんだなぁ」

176: 2009/07/26(日) 13:13:49.28 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「流石は農商国家だ……素晴らしい料理の数々」

魔王「お褒め頂き光栄に存じます」

断ち切る魔王「おっと杯が空いているではないか」

魔王「いやはやかたじけない、おっとっと……」


侍女(魔王様が凄い生き生きしている)

兵(というより、うちの魔王様と互角に渡り歩いている!)

177: 2009/07/26(日) 13:18:34.10 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「さぁて……そろそろ本題に入るか?」

魔王「いやぁ……はっは、だいぶ呑んだ後に真面目に話すとか」

断ち切る魔王「貴様の言う事など聞く耳持たぬわ。とっとと聞け」

魔王「意外とこの人も酔っていらっしゃるご様子で」

178: 2009/07/26(日) 13:23:03.02 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「征服というより、こちら側で統治したいと考えている」

魔王「面倒を見てやる、とな」

断ち切る魔王「理由の前に、先ずはお前が人間の大陸に行った事で各国に出した報告書にある」

断ち切る魔王「人間を襲う魔物の王について話しておこう」

魔王「知っているのか?!」

断ち切る魔王「我が国は……恐らく水の都市と並ぶ歴史がある」

魔王「つまり……最古の国に部類されるのか」

180: 2009/07/26(日) 13:28:08.42 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「奴らは定期的に復活しては、その魔力で周囲の生き物を魔物化している」

断ち切る魔王「遥か昔、慈しむ魔王の暴走後、派閥が生まれ」

断ち切る魔王「人間の大陸への渡来が禁止されるまでの間、我が国は人間に干渉していた」

断ち切る魔王「先祖代々、魔物の王を討伐していたんだ」

魔王「本当か、それ……」

断ち切る魔王「今も昔、の話だがな」

断ち切る魔王「だから、逐一討伐するのは面倒だから、統治しようという考えの下、征服派でいるのだ」

182: 2009/07/26(日) 13:40:39.67 ID:WNOBycVB0
魔王「ちなみに……魔物の王の出現に関する情報は」

断ち切る魔王「恐らく転生を繰り返しているのでは、と考えられている」

魔王「周期的に、常に魔物の王に?」

断ち切る魔王「まあ、仮説程度で証拠も何も無いがな」

魔王「……これが真実か」

断ち切る魔王「そうだ。それが真実だ」

魔王「なんて素晴らしいんだろう」

断ち切る魔王「……は?」

魔王「いや、何でもない」

183: 2009/07/26(日) 13:44:14.13 ID:WNOBycVB0
魔王「なあ……共存派にならないか?」

断ち切る魔王「何故?」

魔王「共存派と征服派の摩擦で何百年と今の状態が続いている」

魔王「もし、水の魔王と断ち切る魔王が手を組んだら」

魔王「他の征服派も潰えるだろう。多少の争いはあるが、共存派となるのも時間の問題だ」

185: 2009/07/26(日) 13:49:39.34 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「それによって、俺に何の利益が?」

魔王「あんたは争いそのものを望んじゃいない。征服派であったにせよ」

魔王「それに平和の為の統治をしたいんだろ?」

魔王「俺もあんたも……水の魔王も、持っている志は大して変わらない」

魔王「あんたは得るのさ。共存派のトップとの絆と、共存派全体の助力を」

187: 2009/07/26(日) 13:53:27.08 ID:WNOBycVB0
女勇者「……え、終わり?」

魔王「その後了承されてからは、仕切りなおしてか~んぱい」

断ち切る魔王「高鳴る脈動、跳ね上がるテンション、あの月夜に向かってマラソンだ」

女勇者「魔王が悪酔いとか質悪すぎる」

魔王「真冬だったから御互い風邪をひいた」

断ち切る魔王「同じ摩り下ろしたリンゴを食った仲だ」

192: 2009/07/26(日) 14:16:56.65 ID:WNOBycVB0
……
断ち切る魔王「これが結果だ」

魔王「おおう、助かる。これでやっと美味い物を食いにいけるぜ」

断ち切る魔王「中身は読んでいないから、最後にじっくりと聞かせてもらうぞ?」

魔王「好きな物は最後に食べるタイプですか」

断ち切る魔王「満遍なく食していくのがテーブルマナーだ。何より」

断ち切る魔王「つまみ食いよりもしっかりと調理されたものの方が美味いのだ」

女勇者「これが魔王の会話か……」

194: 2009/07/26(日) 14:26:49.72 ID:WNOBycVB0
魔王「……」

断ち切る魔王「どうかしたか?」

魔王「すまん、しばらく勇者を預かっていてもらえないか。間に合わなかったら二人で水の都市へ!」

女勇者「え……ちょ!」

魔王「一旦島に帰る、確かめたい事がある。よろしく頼む!」

断ち切る魔王「返答も聞かずに行きよって。よほど重要な事を思いついたらしいな」

女勇者(この人つかみ所が無いのに、二人っきりにされるとかっ)

195: 2009/07/26(日) 14:31:39.12 ID:WNOBycVB0
「全てを解読できた訳ではないので、辻褄が合う仮説を記しておきます」
「これは恐らく転生や輪廻について書かれた物と思われます」
「地獄と地上の絵については、術を施したい相手には天国がありえない、という判断であるのでしょう」
「どの時代にも天国は存在しないという思想はありませんでしたので」
「そして、大人と子供の絵については」
「死後の世界、地獄を飛ばして、転生後ある程度自分一人で生きていく事が可能な子供」
「その過程を飛ばして、大人から子供へと成すのが、この研究の内容と思われます」

「魔方陣は術の完成までのメモでしょう。天秤については」
「恐らく、先に記した地獄を飛ばす上での何かの考えではないでしょうか」

魔王(……何を意図して行ったんだ、この男は)

197: 2009/07/26(日) 14:37:27.53 ID:WNOBycVB0
魔王「日記……日記の山は、これかっ」

魔王「くそ、もうちょい文字が読めれば……」

魔王「……死の整理はつかず……希望をもった……禁忌だとしても、行いたい……」

魔王「……肝心な内容は抜けているが、これだけ分かれば十分だ。もう、パズルの図面が分かっている」

魔王(根拠となる証拠が残ってはいないが……いや、まだ天秤の謎も残っているのか)

199: 2009/07/26(日) 14:43:44.47 ID:WNOBycVB0
魔王「……っ」

魔王(急に腕が……)

魔王「く……くそ」ガチャガチャ

魔王「刺青みたいな、痣が……」

魔王「っ!痛みが、増してっ」

魔王「……思い、出した……思いだした、ぞ」

201: 2009/07/26(日) 14:55:00.69 ID:WNOBycVB0
……
ハルピュイア「……ついに知ってしまったかい?」

魔王「お陰様でな……これが凡そ全ての真実か」

ハルピュイア「……そう、それが真実だ」

魔王「お前達はどうなるんだ……?」

ハルピュイア「術があるうちは私達も生き永らえる」

魔王「酷い話だ。誰の意思も尊重されなさそうだ」

203: 2009/07/26(日) 15:04:52.70 ID:WNOBycVB0
ハルピュイア「そ、そんな事は……」

魔王「気休めが欲しいわけじゃない。御互い被害者のようなものだ」

魔王「それに、貴方には感謝している」

魔王「あの時、共に過ごした日々がどれほど幸福な事だったか。今でも覚えている」

魔王「……だが、困ったな」

魔王「もう、時間がないな」

205: 2009/07/26(日) 15:10:32.12 ID:WNOBycVB0
魔王「……俺の言葉じゃ、貴女には届かないだろうが」

魔王「今まで、本当にありがとう」

魔王「貴女のお陰で、俺はここまで生きてこれた」

ハルピュイア「よしなさいな。坊やがそんな生真面目なんて似合わないよぉ」

魔王「俺なんかよりよっぽど被害者なのに……本当に酷い話だ」

ハルピュイア「そうでもないねぇ」

ハルピュイア「坊やと過ごしたあの日々。あたしにはかけがえの無い、幸せな時間だったよ」

ハルピュイア「あたしからも……ありがとう」

207: 2009/07/26(日) 15:14:15.96 ID:WNOBycVB0
魔王「俺は……いや、何でもない」

魔王「もう、行くな」

ハルピュイア「ええ、そうしなさいな」

魔王「……」

ハルピュイア「……」

魔王「また会おう。さようなら」

ハルピュイア「そうだねぇ……その時まで、さようなら」

208: 2009/07/26(日) 15:20:12.96 ID:WNOBycVB0
魔王(協議まで少し日があるが……水の都市に来ているだろうか?)

女勇者「あー来た来た!遅ーーい!」

魔王「遅くなってすまなかったな」

断ち切る魔王「全く、お陰でこの娘と何回デートをした事か」

魔王「……」ピク

断ち切る魔王「……」

女勇者「……妬いてる?妬いてるの?うわぁ、ほんと魔王って可愛い所あるなぁ」

断ち切る魔王「だから言っただろう、まだまだ中身は子供だと」

魔王「お、お前らぁ……」

209: 2009/07/26(日) 15:27:48.66 ID:WNOBycVB0
女勇者「……あれ?どうしたの、何か脂汗掻いてるっぽいけど」

魔王「急いで飛んできたからだ……大変なんだぞ、飛ぶという行為そのものは」

女勇者「ふ~ん……」

断ち切る魔王「何にせよ、少し休んだ方が良くはないか?」

魔王「ああ……流石に無理をし過ぎた。俺は先に休ませてもらう」

魔王(流石に身がもたんからな)

211: 2009/07/26(日) 15:32:46.35 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「もしや、体調が優れんのかもしれないな」

女勇者「え……うわ、悪い事したなぁ」

断ち切る魔王「あの本の真相を確かめに行ったのだろうから……」

断ち切る魔王「よほど酷い内容だったのかもしれないな」

女勇者「……どうしたらいいんだろう」

断ち切る魔王「しばらく距離を置いておけ。落ち着いたら、自ずと寄ってくるだろう」

212: 2009/07/26(日) 15:37:45.27 ID:WNOBycVB0
魔王「……」

魔王「この数日、ずっと温存に努めていたのに、一向に楽にならんとは」

魔王「これはもう呪いだな……いや、元から呪いか」

魔王「協議の日か……あいつが部屋に来なくて助かった」

魔王「……残り僅かな時間さえ、あいつと共に居られなかったか」

魔王「しんどいが行くか……」

213: 2009/07/26(日) 15:43:40.89 ID:WNOBycVB0
魔王(……歩くのすらきつい)

側近「遅い!魔王様、貴方で最後で……ど、どうなされたんですか?」

側近「こんな顔色は見た事が……体調が優れないようでしたら」

魔王「構わん……協議の間だけだ」

側近(この人がこんな顔するなんて……)

215: 2009/07/26(日) 15:50:40.44 ID:WNOBycVB0
女勇者「ど、どうしたんだよ……この間より、酷くなっていないか?」

女勇者「何があったんだ、病気なのか?無理してここに居なくても……」

魔王「そうしたいが……やらなきゃいけない事が残っているからな」

水の魔王「……事情は分かりませんが、無理をなさる事は」

魔王「そうも言ってられない……だから、伝えたい事だけ先に言わせて欲しい」

217: 2009/07/26(日) 16:01:02.19 ID:WNOBycVB0
魔王「まだ知らない者もいるだろうが、剣の国は共存派になった」

ザワザワ

魔王「この事については、水の魔王にも伝えており、今後については二人が中心となるだろう」

魔王「詳しい事は二人から聞いてくれ。後、俺は魔王を辞めた。事実上、その報告に来た一魔族だ」

218: 2009/07/26(日) 16:07:05.01 ID:WNOBycVB0
魔王「それと……」ガチャガチャ ガチン

女勇者「……何だよその痣、呪いなのか?大丈夫、なのか?」

魔王「これも含めてこれから話す事は、我々魔王にとっても常軌を逸する話だ。できれば、静かに全て聞いて欲しい……」

魔王「俺は北西の島、巨大な生き物ばかりの弱肉強食の世界、死の島出身だ」

魔王「そこにある本で、謎の魔方陣による実験を記録した本がある」

魔王「最近、これを調べていたんだが……しょーもないお話に辿り着いてしまったんだ」

魔王「強制的に、転生する研究だ」

219: 2009/07/26(日) 16:15:40.92 ID:WNOBycVB0
魔王「そこには大人から子供に矢印が伸びている絵、丸い輪の上下に地上と地獄が描かれた絵」

魔王「幾つもの魔方陣と天秤で心臓と羽を測る絵があった」

魔王「剣の国の学者は、それが大人が死んで、死後の世界を向かえ、そして転生して少年に育つ」

魔王「その過程をすっ飛ばして、大人から子供に成る為の研究じゃないか、と言っていた」

魔王「見ての通り、俺はきつい状況だ。皆、これから俺が転生するのだろうと思っているだろう」


魔王「……どうやら俺は、既に転生した姿らしい」

221: 2009/07/26(日) 16:20:23.92 ID:WNOBycVB0
魔王「俺の同族がいない事、親がいない事、親がいた記憶がない事」

魔王「大陸にはいない種族、ハルピュイアが死の島にいる事」

魔王「現農商国家の初代建国者慈しむ魔王……彼の、翼を持つ眷属の事、彼がその種族最後の一人だった事……」

魔王「そして死の島に張り巡らされた巨大な魔方陣と、その研究資料」

魔王「転生の術は、慈しむ魔王その人にかけられたんだ」

223: 2009/07/26(日) 16:30:21.73 ID:WNOBycVB0
「これを思い出す時、自身の崩御が始まっているだろう」

「何も分からずに逝かせるのは忍びないと思った」

「お前は慈しむ魔王である私の転生した姿、もう一人の私だ」

「無理に転生しているのだ、輪廻からも弾き出された存在」

「長く存在し続ければ、周囲にも影響を与えるだろう……」

「だから、目的が達せられるか、道を誤った時に魂と肉体が崩御するように仕掛けた」

「私は世界と自分に絶望していた。それでも、世界には……未来にはきっと希望があると思ってしまった」

224: 2009/07/26(日) 16:32:29.15 ID:WNOBycVB0
「だが、自分の目で見るのは恐ろしかった。故に、自分の記憶の全てに鍵をかけて転生しようと考えた」

「平和な世を望んだ。作り上げたかった。その意思をお前に託そう」

「もし、お前が心からこの世界が平和になっていくと確信した時は、私の望みが適ったものとし」

「もし、お前が破壊の道に走った時は、私の絶望が再び形になったものとし」

「お前は崩御するだろう」

226: 2009/07/26(日) 16:37:05.21 ID:WNOBycVB0
「勝手な話で申し訳ないとは思う……だが、私にはこれをせずにはいられない」

「これはお前が目を覚ます前の記憶として、崩御が始まった際に思い出すように設定した」

「だから、これから生きるお前に言葉を残しても、覚えてはいまい」

「だが……せめて、お前はお前が信じる道を歩いていって欲しいと思う」

「そしてこれが……」

227: 2009/07/26(日) 16:38:52.77 ID:WNOBycVB0
魔王「私の望んだ結末で見る事を願っている……」

魔王「慈しむ魔王からのメッセージがこれだ……酷い話だ」

228: 2009/07/26(日) 16:40:28.17 ID:WNOBycVB0

魔王「さあ、俺のお話は終わりだ。少しなら質問を受け付けるぞ」

断ち切る魔王「俺自身は知っているが他者の代弁をしよう。お前は何故、平和になると確信した」

魔王「派閥のパワーバランスを考えると、剣の国と水の都市が頭だ」

魔王「その二つが手を取り合うんだ。多少意見の違いはあるだろうが、両者共に大人だから、うまくやっていくだろう」

魔王「それに、他の国では征服派として行動、存続していく事すら無理だ」

233: 2009/07/26(日) 17:41:53.70 ID:WNOBycVB0

魔王「だから、そう遠くはない未来に平和が来ると考えた。他にはあるか?」

水の魔王「身体の調子はどうなのですか?」

魔王「……正直、もう出歩くのも無理だ。悪いがこの国で死なせてもらいたいんだが、いいだろうか?」

側近「何を仰っているんですか。貴方ほどの魔王は今だかつていないのに……貴方はまだ、これからなのに」

水の魔王「その通りです。貴方にはまだ成すべき事も……」

魔王「無理を言うな。これから朽ちるまでの間、寝たきりを決め込むつもりなんだからな」

234: 2009/07/26(日) 17:47:21.14 ID:WNOBycVB0
断ち切る魔王「お前は我々二人に何をさせたいのだ」

魔王「前にも言ったがお前も水の魔王も俺も志は同じだ」

魔王「なら、俺がいようといまいと、取られる舵は変わらない……二人の信じる道を歩いていけ」

魔王「……やっぱもう無理だ。お暇させてもらう」

236: 2009/07/26(日) 17:56:25.74 ID:WNOBycVB0
女勇者「……この国に来た時、あたしはお前の所に行くべきだったのか」

魔王「そんな事をすれば、協議どころじゃない騒ぎにしていただろう」

女勇者「それは……うん、そうだけど」

女勇者「だけどこんな事って、酷すぎるよ」

魔王「どうだろうか」

魔王「俺が今いる事を考えると、不思議に酷いとは思えないな」

魔王「巻き込まれて、俺が死ぬまで生き続ける眷属達の方がよっぽど酷い話だ」

237: 2009/07/26(日) 18:02:31.59 ID:WNOBycVB0
女勇者「……ずっと、傍にいていい?」

魔王「俺にはもう、拒否する権利も拒む力も残ってはいないだろう」

魔王「お前が望むように、できるだけ悔いの無いように動いてくれれば幸いだ」

239: 2009/07/26(日) 18:03:57.45 ID:WNOBycVB0
女勇者「ほら、魚介類のスープ作ってきたよ」

魔王「お前が作ったのか?」

女勇者「変、かな」

魔王「いや、凄く嬉しいよ。ありがとう」

241: 2009/07/26(日) 18:14:53.39 ID:WNOBycVB0
女勇者「……」シャリシャリ

魔王「流石、というべきか。随分とリンゴの皮を綺麗に剥くな」

女勇者「まあね」シャリシャリ

女勇者「はい、完成っ」

魔王「……いつつつつ。上半身、起こすのもきつくなってきたな」

女勇者「……」

242: 2009/07/26(日) 18:21:58.34 ID:WNOBycVB0
女勇者「……魔王?」

魔王「……ああ、すまん、気づかなかった」

女勇者「具合、悪いのか?」

魔王「いや……万感の思いに浸っていただけだ」

魔王「短いようで長かった……色々な事があったよ」

女勇者「話して欲しいけど、辛いよね」

魔王「いや、喋るだけなら平気だ。まずは島暮らしの頃でも話すか……」

243: 2009/07/26(日) 18:29:59.68 ID:WNOBycVB0
女勇者「……」

魔王「……なんだその顔は」

女勇者「お前の変人っぷりが幼少の頃に決まっていたんだな」

魔王「失礼な奴だな」

魔王「農業は立派な職業だぞ」

女勇者「魔王なのにそういうところが、もうね」

245: 2009/07/26(日) 18:38:22.78 ID:WNOBycVB0
魔王「大陸に渡ってからは大変なものだった」

魔王「一時期狂っていたようなものだ。無駄な略奪に怒り覚え、賊を切り伏せていた」

魔王「賊狩りではなかった。一方的な殺戮をしていただけだ」

女勇者「……それは、魔王が自分の考えをどう示すか」

女勇者「身の振り方が分からなかっただけだよ」

魔王「……そうだな、あれでもまだまだ幼かったんだ。俺は」

魔王「世界は歪んでいるとか本気で思っていたものだ。思い出すのも恥ずかしい話だ」

246: 2009/07/26(日) 18:44:22.33 ID:WNOBycVB0
魔王「圧政を行っていた魔王を討ち、俺自身が魔王になってしまって」

魔王「侵略してきた他国を落としもした……」

魔王「その時だな。世界は歪んでいるのではなく」

魔王「全ての者が歪みや悪意を持っている」

魔王「自分の中のそれと、どう向き合えるかが肝心だという事に気づいたのは」

247: 2009/07/26(日) 18:51:15.33 ID:WNOBycVB0
女勇者「それからしばらくして、あたしと出合った、と」

魔王「実際には何年も間があるがな」

女勇者「……気になっていたんだけど、いくつなの?」

魔王「四十くらいまでは数えていた」

女勇者「……やっぱ魔王って、寿命が長いものなんだ」

250: 2009/07/26(日) 19:00:40.15 ID:WNOBycVB0
女勇者「はい、桃」

魔王「……すまないな、起こしてもらって」

女勇者「そういう事言わない。ほら、あーん」

魔王「……美味いな」

女勇者「うん、とびっきりいい奴買って来たんだ」

魔王(もう、本当に時間が無いな)

252: 2009/07/26(日) 19:05:00.27 ID:WNOBycVB0
水の魔王「荒ぶる魔王の容態は……」

女勇者「……もう、上半身を自力で起こす事もできないです」

女勇者「腕の痣も……全身に」

水の魔王「彼は、貴女と共にいる事を選びました。貴女に全てを託します」

水の魔王「全ての魔王に代わり……彼を看取ってあげて下さい」

女勇者「……はい」

253: 2009/07/26(日) 19:11:02.76 ID:WNOBycVB0
魔王「勇者か」

女勇者「……ねえ、今日は一緒に寝てもいい?」

魔王「構わんよ」

女勇者「……いつもなら少しは渋るのに、どうかしたの?」

魔王「目も見えんし、聴力も落ちてきた」

魔王「今日が山かもしれないな……」

254: 2009/07/26(日) 19:18:34.11 ID:WNOBycVB0
女勇者「そんな事、聞きたくない」

魔王「……それでも、伝えておきたかった」

女勇者「……」モゾモゾ

魔王「上に乗っかるな、寝苦しいぞ」

女勇者「離さない。何が起こるかは分からないけど……お前を絶対離したりしない」

魔王「……」

女勇者「だから、起こして。前みたくさ……おはようって言って起こしてよ」

魔王「ああ……分かったよ。おやすみ……勇者」

女勇者「うん……おやすみ、魔王」

256: 2009/07/26(日) 19:25:26.33 ID:WNOBycVB0
……
魔王の手を握り締めていたはずの手の中には、しわくちゃになったシーツが握られていた。
ただ一人、うつ伏せで眠っていたようだ。

女勇者「いくら、体調が良くなかったからって、いきなり出歩くなよなぁ……」

女勇者「……早く戻って来いよ」

女勇者「起こして……くれるんじゃなかった、のかよ……」

女勇者「嫌だよ……こんなの……魔王」グス

259: 2009/07/26(日) 19:33:17.82 ID:WNOBycVB0
……

女勇者「こんな所にいたんですか」

側近「勇者様こそ、このような所で何を?」

女勇者「あいつだったらさ、湿っぽく送り出されるの嫌がると思って」

女勇者「せめてあたしは、笑顔でさ……送り……グス、はは、あたしには難しいや」

女勇者「表情を崩さないでいられる側近さんが羨ましいや」

側近「あの人の為に涙を流しているとか思われるのは非常に癪なので」

女勇者「それは流石にひねくれ過ぎでは」

260: 2009/07/26(日) 19:38:19.76 ID:WNOBycVB0
側近「そんな訳で後で人知れず泣こうと思います」

女勇者「宣言するのもどうかと……」

側近「まだ泣いてませんからね。それに泣いた事実を誰も知らなければ泣いていないのと同じです」

側近「……どう足掻いても、悲しんでいるのを隠しきれはしませんがね」

女勇者(確かに沈んでいる様子は垣間見えるけど……)

261: 2009/07/26(日) 19:46:43.21 ID:WNOBycVB0
女勇者「でも、仮にも家臣なんですから、他の魔王が集まる葬儀くらいは出た方が」

側近「将来を誓い合った貴女もですよ」

女勇者「あー……だからこそ、かな」

側近「御互い苦労させられる人に惹きつけられたという事です」

女勇者「なるほど……」

城下町に鐘が鳴り響いた。
葬儀の終わりを告げる音の後も、人々の嗚咽は止む事が無かった。

263: 2009/07/26(日) 19:53:09.40 ID:WNOBycVB0
……
女勇者「魔王は死んだ……」

女勇者「あれからもう半年」

女勇者「やっと全ての国が共存派として動き出した」

女勇者「あたしは今、農商国家の一人の騎士として、事実上魔王となった側近さんと駆け回っている」

265: 2009/07/26(日) 19:57:22.96 ID:WNOBycVB0
女勇者「少しずつではあるけども、人間の大陸にもアプローチをかけている」

女勇者「まだまだ前途多難だけど、きっといい未来が待っていると思う」

女勇者「彼が何処かで見ていると思うから……」

266: 2009/07/26(日) 20:00:21.65 ID:WNOBycVB0
女勇者「それじゃあ、あたしは休ませてもらいます」

側近「はい、お疲れ様です。明日は御互い休みなのでゆっくり休みましょう」

女勇者「もう今日だけどもねぇ……」

側近「ですねぇ……」

女勇者「それでは、失礼します」

267: 2009/07/26(日) 20:03:19.89 ID:WNOBycVB0
女勇者「さぁて、ゆっくり寝ますか」

女勇者「……明日とは言わないけど、またおはようって起こして欲しいな……」

彼がくれた数少ない贈り物。その中で唯一洒落たペンダント。
今も整理がつかないあたしは、毎晩彼に語りかけて眠る。明日もその次も。

女勇者「おやすみ……魔王。あたし、早く平和に出来るよう頑張るから、見ていてね……」

明日もその次も生きていこう。この世界の明るい未来の為。
彼のいないこの世界を守る為。

何時か終わるその日まで。

270: 2009/07/26(日) 20:14:01.88 ID:WNOBycVB0
「……」

「……っ」パチ

魔王(これは……やはりこうなったか)

魔王(痣も痛みも消えている……服装は寝巻きのままか、格好はつかんな)

275: 2009/07/26(日) 20:20:22.52 ID:WNOBycVB0

魔王(わざわざメッセージを残したり、自分の思うように生きろと言ったり)

魔王(優柔不断な性格が見て取れる……だからこそ迷ったんだな)

魔王(自分とは別の自分、その人格を自分の意思だけで消滅させるかどうかを)

魔王(あの天秤の絵……正に審判だ)

魔王「生かすべきか否か……」

277: 2009/07/26(日) 20:26:49.08 ID:WNOBycVB0
「何故だ……何故彼女が殺される」

「我々が何をしたというのだ……こんな、世界ならば……!」

魔王(前世様の言う鍵付きの記憶……その一部か)

「私は何という事を……」

「民を……土地を……同胞を……」

「私は……何がしたかったのだろうか……何を成したかったのだ」

278: 2009/07/26(日) 20:31:00.25 ID:WNOBycVB0
魔王「こんな鑑賞会の為に俺を生まれさせたのか!」

魔王「いい加減姿を見せろ、慈しむ魔王!」

慈しむ魔王「……それほど望むのなら始めようか」

慈しむ魔王「お前が世界に必要とされるほどの人物かどうか。それを見定めさせてもらう」

慈しむ魔王「あの時代……そして今の時代、お前なら私の苦悩にどう答えを出す」

魔王「簡単な話だ……答えを求めるなど酔狂だ」

280: 2009/07/26(日) 20:36:03.16 ID:WNOBycVB0
魔王「この話題に答えがあるとしたら、如何に自分の為に生きる事ができるか」

魔王「あんたがエゴイストじゃなかっただけの話さ」

慈しむ魔王「それが答えか」

魔王「……あんたも元は王族じゃないとは思うが、それでも俺とは別の暮らしだったんだろう」

魔王「どれだけ寵愛と慈しみをかけられて来たか……」

魔王「俺だって受けてきた。あんたの眷属達から」

魔王「だがそれでも、俺はいざという時は一人で生きるしかなかった」

魔王「生きる手助けはしてもらえても、生かしてはもらえなかった」

281: 2009/07/26(日) 20:41:08.33 ID:WNOBycVB0
魔王「だから酔狂なのさ。他者に答えを求めた所で、同じ環境で育っていない自分が同じ決断をできたとでも?」

魔王「仮に出来たとしても、決断しなかった時よりかは小さいであろう後悔に苛まれるだろう」

魔王「あんたみたいな優柔不断な奴ならな」

魔王「で、ここからどうしようもなく、答えを求めるあんたに送る俺の言葉だ」

魔王「……この術中にしか残らない、あんたの自我に言っても今更だがな」

魔王「てめえで見つけろ、そんなもん」

283: 2009/07/26(日) 20:46:00.99 ID:WNOBycVB0
慈しむ魔王「……なに?」

魔王「確かに残念ではあるが……今後生き続けられるかなんてものはこの審判の」

魔王「あんたとの話し合いのおまけみたいなものだ」

魔王「取り巻く環境が違ったかもしれないが、歯に衣着せずに言わせて貰う」

魔王「もっと多くの国を見ろ、何故自分が抜けても問題ないように国を動かさなかった」

魔王「何故、想い人を第一に考えてやらなかった」

魔王「何故……他者が内包する悪意を知らずに生きていたんだ」

285: 2009/07/26(日) 20:51:55.29 ID:WNOBycVB0
魔王「俺があんたに言える事はこれだけだ」

魔王「全く……あんたは何年生きた。俺はそのうちの何割生きた?」

魔王「俺は他国の魔王を殺めた時に、この答えを出せただろうよ」

魔王「そんな程度の時間で出した答えだ。満足か、あんたは」

慈しむ魔王「……不満だらけだ」

慈しむ魔王「だが、それがお前の答えなら受け取ろう……審判を下す」

287: 2009/07/26(日) 20:58:36.40 ID:WNOBycVB0
……
「全くいつまで寝ている。さっさと起きろ」

女勇者「う~ん……昨晩遅かったんだよ……もう少し……」

「もう日が傾き始めているぞ……」

女勇者「今日は……ゆっくり……寝るぅ」

「確かに時間はかかったが、起こせと頼まれて来たんだぞ……」

女勇者「ふえぇ……?」

「さあ、とっとと起きろ」

「おはよう」


 女勇者「魔王は死んだ……」 完

288: 2009/07/26(日) 20:59:59.64 ID:ovbeaFYPO

289: 2009/07/26(日) 21:00:07.19 ID:vU1oubxM0
乙です!
ハッピーエンドd(^_^o)

290: 2009/07/26(日) 21:02:09.02 ID:UfJ4UvrWO
乙b

300: 2009/07/26(日) 21:25:44.54 ID:hWIkfnW8O
ハッピーエンド!やっぱいいね

295: 2009/07/26(日) 21:17:38.84 ID:91BKqXYg0
乙!
女勇者と魔王のその後の話が少しみたい気がするな


奴隷商「さあさあ、本日の目玉だよ!」
子供「苦しいよ……誰か、助けて……」

引用元: 女勇者「魔王は死んだ……」