1: 2009/08/08(土) 21:38:13.68 ID:iMQe5rYf0
男「傭兵だ」

娘「ヨウヘイさんですか?」

男「そうだ」

娘「ヨウヘイさんは何をしている人なんですか?」

男「村を守っている」

娘「それは頼もしいです」

男「そうか」

娘「でもなんで守っているのですか?」

男「頼まれたからだ」

2: 2009/08/08(土) 21:40:37.45 ID:iMQe5rYf0
娘「誰に頼まれたのですか?」

男「この村の村長に」

娘「それはそれは、ご苦労様です」

男「ありがとう」

娘「いえいえ」

男「………」

娘「………」

男「………」

娘「話しかけてくださいよ」

男「俺が話す必要なんて無い」

娘「会話は大切です、コミュニケーションは大事です」

3: 2009/08/08(土) 21:44:44.03 ID:iMQe5rYf0
娘「もし明日にでもあなたが病気になったらどうするんですか」

男「そんなもの、要らない心配だ」

娘「その間、あなたの畑の手入れはどうするんですか?生活は?」

男「……お前は色々勘違いしていないか?」

娘「何をですか」

男「俺は傭兵だぞ?」

娘「ヨウヘイさんなんですよね?」

男「………」

娘「………」

男「いや、もうどうでもいい」

娘「よくわかりませんが、わかりました」

4: 2009/08/08(土) 21:49:01.30 ID:iMQe5rYf0
娘「ともかく、会話は大事ですから話ましょう」

男「俺に話せることなんて無いぞ」

娘「あなたに口は無いのですか?」

男「俺の口は物を喰う為にある」

娘「それは詭弁と言うものだと思います」

男「話なんぞ殆どしたことない」

娘「だからこそ、話すいい機会と考えるべきなのでは?」

男「そう考える人ではないんだ」

娘「まったく、男らしくないひとですね」

男「ペラペラ喋る男の方が少ないと、俺は思っている」

娘「まったく…」

男「すまないな」

5: 2009/08/08(土) 21:52:09.57 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、そろそろ日も落ちてきましたし」

男「ああ、帰れ」

娘「なに命令してるのですか、あなたも帰りなさい」

男「何を言っている」

娘「あなたこそ何を言っているのですか」

男「……ともかく、帰れ」

娘「……ハッ!!」

男「どうした?早く帰れ」

娘「なるほど、そういうことですか……」

男「なんだ?」

娘「仕方ありません、私の家に来てもいいですよ?」

男「何トチ狂っている」

6: 2009/08/08(土) 21:55:26.34 ID:iMQe5rYf0
娘「あなた、居場所がないのでしょう?」

男「まぁ、そうだな」

娘「ですから、作ってあげましょうと言っているのですよ」

男「別に要らん」

娘「なるほど、ヨウヘイさんは意地っ張りさんなのですね」

男「………」

娘「まぁいいでしょう、それではまた明日」

男「………」

娘「無返事は失礼ですよ?」

男「……じゃあな」

娘「ま、追及点としておきましょう。では」

7: 2009/08/08(土) 22:00:39.79 ID:iMQe5rYf0
娘「おはよう御座います」

男「……おはよう」

娘「いい天気ですね」

男「まったくだ」

娘「こんなに晴れていると心もぽかぽかです」

男「それはよかった」

娘「ヨウヘイさんは晴れて良いと思うことはないんですか?」

男「遥か遠くまで見える、何が起こっているか解り易くなるところだな」

娘「それは、目が悪い私には羨ましいです」

男「……そうか」

娘「この前も鍬とモップを間違えて土にピッタンピッタンと」

男「お前は何をやっているんだ……」

8: 2009/08/08(土) 22:05:35.70 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、私は田畑を耕してこなければなりませんが」

男「そうか」

娘「他に言うことは無いのですか」

男「……?」

娘「こんな貧相な娘が、今から鍬を持って畑に向かうのですよ?」

男「……あぁ、頑張れ」

娘「あなたは人として大事な何かが欠落しています」

男「そうか」

娘「ちなみに、胸が貧相とか思いましたらこの鍬で叩きますよ」

男「娘、それは箒だ」

9: 2009/08/08(土) 22:10:48.85 ID:iMQe5rYf0
男「……平和、だな…… 今は……」

娘「まったく、その平和を食い潰すのは悪いと解らないのですか」

男「どうした、まだ昼だぞ」

娘「お昼休みです、この暑い日にずっとやってられません」

男「朝は気持ちいいと」

娘「朝のあの瞬間と、今は時間が違いますよ」

男「そうか」

娘「しかし、誰か手の空いている人が手伝ってくれませんかね」

男「………」

娘「仕事もせずに、ダラダラしている人とかいませんかね」

男「………」

娘「毎日のんびりしているだけで、食い潰している人とかいませんかね」

男「………」

10: 2009/08/08(土) 22:17:47.44 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、そろそろ仕事の時間です」

男「そうか」

娘「それでは、失礼します」

男「ああ」

娘「……まったく、本当に働かない方ですね」

男「それは済まない」

娘「貴方がそれでいいならもういいです、では」

男「ああ」

………

娘「ところで、鍬はこんなに重かったでしょうか?」

男「ちゃんと見て掴め、杭を抜こうとするな」

11: 2009/08/08(土) 22:20:11.29 ID:iMQe5rYf0
男「……今日も、何事もなかったな」

娘「ただ立っているだけで何かが起こると思っているのですか」

男「時々な」

娘「まったく、そんなでは貴方はそのうちに死んでしまいますよ?」

男「その覚悟は出来ている」

娘「な、なんて覚悟をっ!!」

男「?」

娘「貴方は親に恥ずかしいと思わないのですかっ!!」

男「そんなことは何回も考えた」

娘「……駄目だこの人、筋金入りです…」

男「……?」

12: 2009/08/08(土) 22:24:10.25 ID:iMQe5rYf0
娘「世の中にあなたの様な人がいるなんて…」

男「まぁ、住む世界が違うってことだ」

娘「そんな世界感は知りたくありません」

男「俺も知って欲しくないと思っている」

娘「そんな他人事みたいに」

男「……」

娘「貴方は労働の素晴らしさを知らないだけです」

男「ふむ」

娘「あの開放感や充実感を味わったことがないのです」

男「なるほど」

娘「まぁ、私は面倒ですとかつまらないですとか思いますが」

男「お前は何が言いたいんだ」

13: 2009/08/08(土) 22:28:21.20 ID:iMQe5rYf0

娘「おはよう御座います」

男「おはよう」

娘「さて、今日は働いてもらいますよ」

男「わかった」

娘「昨晩私なりに……ってあれ?」

男「どうした?」

娘「いや、わかった、と聞こえたような気がして…」

男「聞えたもなにも、そう言ったんだ」

娘「……本当ですか」

男「ああ」

娘「お母様、私はやりました」

男「そこまで喜ぶものなのか…」

14: 2009/08/08(土) 22:33:27.89 ID:iMQe5rYf0
男「で、俺は何をすればいい」

娘「では、この鍬で畑の残り半分を耕してもらいます」

男「わかった、お前は?」

娘「私は、この種を蒔いております」

男「そうか、ところで種って釜の中に入っているのか?」

娘「そんなわけないでしょう」

男「わかったから一度家に帰れ」

15: 2009/08/08(土) 22:36:22.29 ID:iMQe5rYf0
ザクッ、ザクッ…

男「終わったぞ」

娘「全然駄目ですね」

男「駄目出しか」

娘「ただ力任せに振り下ろしてるだけですね、それではいけません」

男「なら、どうすればいい」

娘「叩きつけるのではなく、掘るようにするんです」

男「ほぅ」

娘「ちょっと貸してください」

16: 2009/08/08(土) 22:44:06.80 ID:iMQe5rYf0
ザクッ、ズッ… ザクッ、ズッ…

娘「こうです、わかりましたか」

男「良く出来ているな」

娘「当たり前です、これで生活しているのですから」

男「そうか」

娘「むしろ、なぜ貴方は出来ないのですか……」

男「こんなこと、殆どやったことがないからな」

娘「なにとんでもないことを言っちゃってるんですか」

男「おかしいか?」

娘「おかしいに決まってるでしょう」

男「そうか」

17: 2009/08/08(土) 22:50:10.84 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、お昼休みです」

男「やっとか、中々大変だな」

娘「そうでもないですよ、慣れれば簡単です」

男「そうか」

娘「今日のお昼ご飯です、どうぞ」

男「いいのか?」

娘「いらないなら捨ててしまいます」

男「なら貰う」

娘「はい、どうぞ」

18: 2009/08/08(土) 22:56:57.29 ID:iMQe5rYf0
モクモク……

男「美味いな」

娘「しっかり体を動かせて働いた後の食事は美味しいものです」

男「そういうものか」

娘「そういうものです」

男「そうか」

モクモク……

娘「お茶をどうぞ」

男「ありがとう」

……

娘「いい天気ですね」

男「そうだな」

娘「先日より今日の方が気持ちいいでしょう」

男「……そうだな」

19: 2009/08/08(土) 23:05:46.44 ID:iMQe5rYf0
娘「今日は一日、お疲れ様でした」

男「ああ」

娘「お陰で仕事もはかどりましたよ」

男「それはよかった」

娘「ということで、お礼をさせてもらいたいとおもいます」

男「別にいらん」

娘「他人の好意を無碍にするのは失礼ですよ」

男「そうか」

娘「ということで、家に招待しましょう」

男「わかった」

20: 2009/08/08(土) 23:08:42.13 ID:iMQe5rYf0
娘「こちらが私の家です」

男「普通の家だな」

娘「私は普通の人ですから」

男「そうだな、俺は何を言っているんだか」

娘「偶然話しかけてきた女性が、実は高貴な生まれであわよくば結婚して」

男「それは何の話だ」

娘「貴方の脳内計画を」

男「それは無い」

21: 2009/08/08(土) 23:11:24.57 ID:iMQe5rYf0
娘「お食事の時間ですよ」

男「ありがとう」

娘「いえ、余りかたくならずにしてください」

男「そうか」

娘「これは昼間のお礼ですから、気を使われると寧ろ嫌です」

男「そうか、なら出来る限り楽にさせてもらうよ」

娘「そうしてもらえると、こちらも楽です」

男「ところで、お前の食事はパンだけなのか?」

娘「失礼な、ちゃんとスープもありますよ」

男「そうだな、俺にはスープだけしかくれないのかと思った」

22: 2009/08/08(土) 23:14:27.65 ID:iMQe5rYf0
男「ご馳走様」

娘「はい、お粗末さまです」

男「美味しかったよ」

娘「それは体をしっかり動かしたからですよ」

男「いや、それだけじゃない」

娘「他に何があると言うのですか」

男「お前の料理が上手かったからだろう」

娘「にゃにおいってるのですか」

男「噛んでいるぞ」

娘「コホン、何を言っているのですか」

男「思ったことをそのまま言っただけだが」

娘「でしたら、その言葉を素直に受け取っておきます」

男「そうか」

23: 2009/08/08(土) 23:18:00.91 ID:iMQe5rYf0
男「本日はありがとう」

娘「いや、しかし大丈夫なのですか?」

男「世話になりっぱなしは悪いし、これくらいの方が丁度いい」

娘「そうですか、まぁベッドで寝たい時がありましたら部屋を貸してあげますよ」

男「ありがとう、その時はよろしくお願いするよ」

娘「はい、それでは御自愛を」

男「あぁ」

バタンッ

………

娘「家ってこんなに暗いところでしたっけ?」

男「お前は何をしてる」

娘「あれ?ヨウヘイさんはなぜ室内にいるのですか?」

男「娘、ここは外だ」

24: 2009/08/08(土) 23:28:57.41 ID:iMQe5rYf0
娘「おはよう御座います」

男「おはよう」

娘「今日もいい天気ですね」

男「そうだな」

娘「気分もいいので、張り切ってご飯を作りましょう」

男「それは楽しみだ」

………

娘「ところでなぜヨウヘイさんがここに?」

男「一々夢遊病の者を連れて行くのが面倒でな」

娘「それはお疲れ様です、大変でしたのですね」

男「誰のせいだと思ってるんだか」

娘「ところでなぜここに?」

男「自覚なしか、そうか」

25: 2009/08/08(土) 23:33:41.92 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、今日も働きに行きましょうか」

男「あぁ、頑張れ」

娘「………」

男「なんだ」

娘「貴方もですよ」

男「なに?」

娘「働かざる者喰うべからず、です」

男「ふむ」

娘「朝食を食べた貴方に拒否権はありません」

男「なるほど、今度から気をつけよう」

26: 2009/08/08(土) 23:36:20.80 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、畑までやってきました」

男「今日は何をするんだ」

娘「主に水撒きと苗植えです」

男「なるほど」

娘「ヨウヘイさんはバケツで水を汲んできてください」

男「わかった、ところでバケツはどこだ」

娘「あそこにあるじゃないですか」

男「あれはゴミ箱だ」

27: 2009/08/08(土) 23:42:47.42 ID:iMQe5rYf0
ドスンッ

男「水だ」

娘「有難う御座います、やはり力仕事は男手が一番ですね」

男「否定はしないがな」

娘「それは、不本意であるということですか」

男「安易だということだ、現に俺は俺よりずっと力の有る女性を見たことがある」

娘「それは女性といいませんよ」

男「そうか、素晴らしい女性だったぞ」

娘「そうですか」

男「最初会って、80歳の婆さんに投げとばされた時はショックだったがな」

娘「それは人間ではありません」

28: 2009/08/08(土) 23:50:31.87 ID:iMQe5rYf0
男「さて、流石に水が余ったな」

娘「本当ですね、こういう時は」

男「どうするんだ」

娘「道に水撒きでもしましょう、涼しくなりますし面倒も少なくなります」

男「なるほど」

娘「ということで、水撒き先に居ると濡れてしまいますから気をつけてください」

男「ああ、わかった」

娘「行きますよ、えいっ!」バシャッ ドンッ

ギギギギ………

ドゴォ ザッバァァァ……

男「……水撒きとはこんな豪快なものだったか」ポタポタ…

娘「ゴメンナサイ、悪気はありませんでしたが水溜を倒してしまいました」

男「そうだな、ついでに俺も巻き込まれた」ポタポタ…

娘「そうですね」

29: 2009/08/08(土) 23:57:26.99 ID:iMQe5rYf0

娘「さて、お風呂の準備が出来ました」

男「ありがとう」

娘「いえ、私が悪いので気にしないで下さい」

男「それでは、湯を貰っていくぞ」

娘「どうぞ」

ザバッ…

男「ありがとう、では」

娘「ちょっとなに考えてるのですか」

男「おかしいか?」

娘「片手のバケツにお湯を汲んで、なにかのギャグですか」

男「え?」

娘「え?」

30: 2009/08/09(日) 00:00:53.96 ID:iMQe5rYf0
娘「ちょっと待ってください、いつもお風呂はどうしているのです?」

男「そこの川で水を汲んで、布で体を」

娘「なるほど、それで今日は目の前にお風呂がありますよ」

男「だから、湯を貰って今日は暖かい布で体が拭けると」

娘「冗談はいいのでお風呂に入ってください」

男「……?」

娘「え、じゃなくて」

男「……そういえば、風呂とはなんだ」

娘「………え?」

31: 2009/08/09(日) 00:07:11.91 ID:iMQe5rYf0
男「……これが、風呂か…」ホカホカ

娘「どうでしたか」

男「落ち着かん、今度からは遠慮する」

娘「なんと贅沢な」

男「ところで俺の服はどうしたんだ」

娘「今洗って乾かしてあげてますよ」

男「このヒラヒラした服はなんだ」

娘「それは、私の父のものです」

32: 2009/08/09(日) 00:09:54.63 ID:iMQe5rYf0
男「そうか、なんか落ち着かんな」

娘「そうですか?案外似合ってますよ、可愛く見えて」

男「可愛くなんかない!!」

娘「ひっ、どどどうしましたか!?」

男「可愛くなんか、僕は、違う!俺は可愛くない、可愛く……」

娘「あ、あの、ヨウヘイさん?」

男「………取り乱した、すまない」ガクガクブルブル

娘「は、はぁ…」

47: 2009/08/09(日) 01:52:34.12 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、そろそろ遅いですし寝ましょう」

男「あぁ、そうだな」

娘「寝る時はソチラの部屋を使ってください」

男「わかった」

娘「それでは、おやすみなさい」

男「おやすみ」

バタンッ

男「……そういえば、なんで俺はここに居るんだ?」

………

男「仕事もしていなかったな、この頃」

48: 2009/08/09(日) 01:56:29.29 ID:iMQe5rYf0
ザザザッ……

男「A点、異常なし」

ザザザッ……

男「B点、異常なし」

ザザザッ……

男「C点、異常なし」

ザザザッ……

男「人影……?」スッ…

コツッ……コツッ……

男「歩幅、格好から女性と認識、というか……」

娘「クー、クー……」コツッ…コツッ…

男「なにやってるんだ」

娘「ここは農民の村です……クー、クー…」

男「どんな寝言だ」

49: 2009/08/09(日) 02:01:22.46 ID:iMQe5rYf0
チュン……チュンチュン…

娘「おはよう御座います」

男「ああ、おはよう」

娘「さて、朝食の準備をしましょうか」

男「いや、いらない」

娘「え、どうしましたか?」

男「今日は手伝わない」

娘「……なるほど、でしたら今日の食事は一人分の支度でいいんですね」

男「あぁ、それでは」

ガチャ バタン

………

50: 2009/08/09(日) 02:05:19.50 ID:iMQe5rYf0
男「異常はなし、と……」

………ぐぅ~

男「……そういえば、飯を取ってなかったんだったな」

………

男「まぁ、一日食わなかったくらいで死ぬこともないだろう」

娘「ですが、心を貧しくします。食事は大切ですよ」

男「……こんにちは」

娘「まったく、こんなことだと思ってましたよ」ホイッ

男「……これは?」

娘「お昼ごはんの余りです」

男「貰っていいのか?」

娘「食べないのでしたら、捨てるだけです」

男「……ありがとう」

娘「どう致しまして」

51: 2009/08/09(日) 02:10:26.89 ID:iMQe5rYf0
男「ムグムグ……」

娘「まったく、働かずに食べる食事は美味しいですか?」

男「美味いとは思う」

娘「そうですか」

………

娘「私は、考えを変えました」

男「なんだ」

娘「色々と、大目に見ようと思います」

男「………」

娘「貴方に野垂れ死にされると私の心によくありませんからね」

男「それは有難う」

娘「まぁ、食事には来て下さい。無理矢理働けなんていいませんから」

男「いいのか?」

娘「好意を無下にするのは無礼ですよ?」

男「……ありがとう」

娘「ふふっ、どう致しまして」

52: 2009/08/09(日) 02:14:55.21 ID:iMQe5rYf0
娘「まったく、私はなにを考えているのでしょうか……」

コツコツ………

娘「ああいう人は、甘い顔をすればその分駄目になるというのに」

コツコツ………

娘「でも、ほおっておけませんし……貧乏くじですよ」

コツコツ……

娘「明日からまた二人分作らなければならないのですか」

コツコツコツ……

娘「まぁ、せっかくですから頑張りましょうか」

コツコツコツ……

娘「って、なんで頑張らなきゃならないんですか……ふむ…」

53: 2009/08/09(日) 02:18:45.06 ID:iMQe5rYf0
娘「よし、完璧です」

グツグツ……

娘「パンもありますしスープも、でも他に一品くらいつけちゃったりしても…」

………

娘「って、私はなにを考えているんですか! たかが夕食になにしちゃってるんです!!」

グツグツ……

娘「……で、でも、食べてくれるのでしたら美味しいと言ってもらいたい、そう!そういうことです!!」

トントントン……

娘「それに、男の人はたくさん食べるって……」

トントン ガチャ

男「夕食を貰いに来たのだが、迷惑か?」

娘「そういう事を言ってしまうと、本当に迷惑だと思ってても言えないものですよ」トントン……

男「そうか」

娘「しかし、貴方も間が良いですね。丁度準備が終わりましたよ」カタッ

男「カツオブシはナイフで作るものなのか」

54: 2009/08/09(日) 02:21:58.63 ID:iMQe5rYf0
男「ご馳走様でした」

娘「お粗末様でした」

男「相変わらず美味しかった」

娘「褒めたところで何も出ませんよ」

男「そんな期待、していない」

娘「まぁどうでもいいです」

男「明日は手伝うぞ」

娘「そうですか、でしたら早めにお休みになった方が良いですよ」

男「そうだな」

娘「では、お先におやすみなさい」

男「うん、おやすみ」

55: 2009/08/09(日) 02:26:57.18 ID:iMQe5rYf0
………

男「………」

娘「………」

男「なんでここに居る」

娘「私の家です、どこに居ようと勝手です」

男「そうだが、さっき寝ると」

娘「いつ寝るかも私の勝手です」

男「そうか」

………

娘「何か話してください」

男「いきなりなにを言う」

娘「会話は大事なコミュニケーションです」

男「まったく…」

娘「つまらないのです、何か娯楽を提供してください」

男「俺をなんだと思ってるんだ」

56: 2009/08/09(日) 02:31:48.63 ID:iMQe5rYf0
娘「……つまり貴方のご両親はご立派な方だったと」

男「立派なんてものじゃないよ」

娘「ご立派ですよ、それなのに貴方はこんな……」

男「そうか、でも俺と親父は似たようなものだったぞ」

娘「ダメ息子は大抵そういう事を言うものですから」

男「耳の痛いことだ」

娘「少しは自覚してください」

男「そうだな、すまない」

娘「私に謝られても困りますよ」

男「それじゃ、俺はどうすれば良いんだ?」

娘「そうですね、父親さんに笑われないようにしろ、としか言えませんね」

男「なるほど」

………

57: 2009/08/09(日) 02:35:18.43 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、本当にそろそろ寝ます」

男「そうか」

娘「ヨウヘイさんも早く寝てくださいね」

男「あぁ」

………

娘「……ヨウヘイさん」

男「なんだ」

娘「話し相手になってくれて、ありがとう」

男「……あぁ」

娘「では、おやすみなさい」

バタン

………

男「…………仕事に行こう」

58: 2009/08/09(日) 02:40:48.87 ID:iMQe5rYf0

娘「おはよう御座います」

男「……おはよう」

娘「今日はヨウヘイさんより早く起きられました」

男「そうだな」

娘「ということで、食事に手間をかけてみました」

男「それは楽しみだ」

娘「そういってもらえると嬉しいです」

男「ところで今は何時だろうな」

娘「お昼時ですかね……」

男「寝すぎだな」

娘「貴方もですね」

59: 2009/08/09(日) 02:45:03.51 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、朝の分を取り戻すために頑張りましょう」

男「あぁ、そうだな」

娘「ヨウヘイさんにもたくさん仕事を回しますので、そのつもりで」

男「あぁ…」

娘「どうしましたか?」

男「なんでもない」

娘「そうですか、それではこのスコップをもって下さい」

男「それは物干竿だ」

60: 2009/08/09(日) 02:49:18.20 ID:iMQe5rYf0
男「暑いな」

娘「仕方ありませんよ、遅くなった私たちが悪いのです」

男「そうだが、それでもな」

娘「確かにこれは気が滅入りますね……」

男「水でも汲んでくるか」

娘「それをどうするんですか」

男「地に撒けばマシになるだろう」

娘「なるほど」

男「お前が昨日言っていたことだぞ」

娘「そうですね、ならお願いします」

男「わかった」

61: 2009/08/09(日) 02:53:07.53 ID:iMQe5rYf0
ザバァ

男「これでいいか」

娘「はい、十分です」

男「今度は倒してくれるなよ」

娘「当たり前です、同じことを二度もやるお馬鹿さんではありません」

男「そうか」

娘「まったく、少しは信用してください」

男「あぁ、悪かった」

………

男「どうしたんだ」

娘「……背が届かないんです」

男「………そうか」

62: 2009/08/09(日) 02:58:24.57 ID:iMQe5rYf0
男「だから、俺がやると言っているだろ」

娘「いいえ、これは私がやります」

男「効率悪いぞ」

娘「そういう問題ではありません、これは意地です」

男「……まぁ、頑張ってくれ」

娘「はい」


グググッ……

男「その梯子から落ちるなよ」

娘「そんなことあるわけ」ズルッ

ドボンッ……

………

男「……水溜の中に、か… 助けなきゃな……」

63: 2009/08/09(日) 03:02:16.64 ID:iMQe5rYf0
娘「ハァ、ハァ…… し、死ぬかと思いました……」

男「そうか」フイッ

娘「た、助けてくれて有難う御座います」

男「気にするな」フイッ

娘「まったく、お陰でビショビショです」

男「あぁ、さっさと服を変えて来い」フイッ

娘「いえ、涼しくなりましたのでこれでいいと思います」

男「いいから変えて来い」フイッ

娘「……なんでこちらを見ないのですか?」

男「……透けてるぞ、それ」

娘「………」

64: 2009/08/09(日) 03:06:18.16 ID:iMQe5rYf0
娘「……見ましたか?」

男「見てない」

娘「見たのですね?」

男「見てない」

娘「嘘はおやめ下さい、見たのですね?」

男「見てないし、見えてもいない」

娘「私の胸は見えるほど大きくもない、とでもいいたげですね」

男「それはない」

娘「どうせ胸はありませんよ! あんなものはただの脂肪の塊、邪魔です!」

男「ならどうしてそう固執する」

娘「えいっ」

――――――――――――

娘「おはよう御座います」

男「……おはよう」

娘「もう夕刻ですよ、あなたは寝ぼすけさんですね」

男「そう、みたいだな」

65: 2009/08/09(日) 03:09:08.07 ID:iMQe5rYf0
男「すまないな、一日寝てただけみたいだな」

娘「気にしないで下さい、私も余り気にしてませんので」

男「そうか」

娘「さて、ご飯にしますよ」

男「あぁ、ところで質問なんだが」

娘「どう致しましたか」

男「頭が痛いのだが、なにか心当たりはないか?」

娘「知りません」

男「そうか、些細なことでも」

娘「知りません」

男「そうか」

娘「そうです」

………

66: 2009/08/09(日) 03:12:15.20 ID:iMQe5rYf0
男「今日はすまなかった」

娘「いえ、過ぎてしまったことですから気にしないで下さい」

男「そういうわけにはいかないだろう」

娘「う~む…」

男「俺はどうすればいい」

娘「でしたら、なにか面白い話をしてください」

男「お、面白い……」

娘「あぁ、そこは気にしないで下さい 何でもいいので娯楽を提供してください」

男「……まぁいいか」

67: 2009/08/09(日) 03:17:21.38 ID:iMQe5rYf0
男「親父はプレゼントを持って家の前に立ち、静かに待った」

娘「そ、それで……」ワクワク

男「人の気配を察知してから、飛び出して『付き合ってくれ』と言おうとした」

娘「それでっ!」ワクワク

男「だがそこに立っていたのは相手の父親で……」

娘「な、なんですかその落ちは!」

男「いや、そんなことを言われても……」

………

娘「もう遅いですね」

男「そうだな」

娘「それでは、そろそろ寝ましょう」

男「あぁ、おやすみ」

娘「はい、おやすみなさい」

バタンッ

男「……俺は、なにを話しているんだ」

68: 2009/08/09(日) 03:20:15.83 ID:iMQe5rYf0
娘「おはよう御座います」

男「おはよう」

娘「さて、朝の食事ですよ」

男「あぁ」

娘「今日はパンスープです」

男「………」

娘「た、食べたことないんですか?パンスープを」

男「素直に言え」

娘「パンを落としてしまいました、すみません」

69: 2009/08/09(日) 03:24:38.01 ID:iMQe5rYf0
男「ご馳走様でした」

娘「お粗末さまでした」

男「仕事だったな」

娘「はい、今日は雑草を取り除く作業をしてもらいたいと思います」

男「わかった、どうすればいい」

娘「まずは手で大きなものを抜いて、細かいものはこれで掘ってしまえば」

男「で、お前はなんで壁を叩いているんだ」

娘「器具を取ろうとしているだけです、2,3個もあるのに触れられませんが」

男「……娘、これは何本に見える」ヒョイ

娘「三本ですね」

男「一本だ馬鹿、寝てろ」

70: 2009/08/09(日) 03:27:48.72 ID:iMQe5rYf0
娘「はふぅ…」

男「熱があるんだ」

娘「目がまわります……」

男「我慢しろ」

娘「でも仕事が…」

男「俺がやる、安心しろ」

娘「でも……」

男「こういうときの為に、俺がいるんだろう」

娘「………」

男「任せろ」

娘「……任せました」

71: 2009/08/09(日) 03:31:31.09 ID:iMQe5rYf0

………

娘「もう、何時間たったのですか……」

………

娘「あぅ、頭が痛い……」

………

娘「………」


娘「……グスッ…やだ……」

……

娘「パパ、ママ……グスッ…・・・

  置いて行かないでぇ……」

72: 2009/08/09(日) 03:33:09.21 ID:iMQe5rYf0
ガチャッ

男「戻ったぞ」

娘「………」

男「おい、大丈夫か?」

娘「え……あ、だ、大丈夫です」

男「そうか、ならよかった」

娘「は、はい…」

男「今は熱を下げることに集中しろ、いいな」

娘「はい……」

男「飯は俺が作る、熱を下げる草も取って来たしな」

娘「食事を作れるのですか」

男「食える物、ならな」

73: 2009/08/09(日) 03:35:26.30 ID:iMQe5rYf0
娘「ご馳走様でした」

男「あぁ」

娘「なんとも言いがたいものでしたね」

男「言っただろ、食える物だと」

娘「もう少し料理に関心を持つべきだと思います」

男「次はこれを飲め」

娘「なんですか?」

男「熱を下げる効果がある」

娘「でしたら、いただきます」

コクッ…… バフンッ!

娘「ゲフッ、ゲフッ…… これは何ですか」

男「薬、というものだ」

娘「人の飲み物ではありません、拒否します」

男「いいから飲め」

74: 2009/08/09(日) 03:38:01.52 ID:iMQe5rYf0
娘「不味い物は滅べばいいんです……」

男「後は安静にしていろ」

娘「わかりました」

男「欲しいものはあるか」

娘「水と娯楽です」

男「なにを言っている」

娘「今日一日暇だったんです、何か話をしてください」

男「……まぁ、わかった」

75: 2009/08/09(日) 03:40:56.23 ID:iMQe5rYf0
男「ということで親父は母親の名前を叫んで突っ走ったんだ」

娘「ほ、ほぅ……」ドキドキ

男「そして母親も親父に向かって走り出し…… そして」

娘「………」ドキドキ

男「親父を殴り飛ばした」

娘「なんでですかっ!!」

男「いや、俺に言われても」

………

娘「いや、楽しかったです」

男「それは何よりだ、そろそろ寝るだろ」

娘「はい」

男「じゃあ、俺は行くぞ」

娘「はい、おやすみなさい」

男「あぁ、おやすみ」

バタンッ

76: 2009/08/09(日) 03:43:34.17 ID:iMQe5rYf0
………

娘「………」

………

娘「………怖くない、怖くない……」

………

娘「怖くなんてない、怖くなんて……」

………

77: 2009/08/09(日) 03:45:43.80 ID:iMQe5rYf0

男「おはよう」

娘「お、おはよう御座います」

男「……目も赤い、まだ悪いのか」

娘「いえ、もう大丈夫です」

男「少し待て」ピトッ

………

男「まだ熱は有る、寝ていろ」

娘「本人は大丈夫と」

男「いいから寝ていろ、仕事は俺がやる」

娘「……はい…」

78: 2009/08/09(日) 03:49:56.48 ID:iMQe5rYf0
………

娘「なにも……することがない…」

………

娘「私は、動かなくていい」

………

娘「私は……居なくていい……?」

………

娘「だから、捨てられた……?」

………

娘「って、駄目です、違います、そうじゃない!」

………

娘「私は…… 要らなくないです……」

79: 2009/08/09(日) 03:51:56.07 ID:iMQe5rYf0
男「こんなところか……」

ザクッ……

男「雑草は無、根から殲滅した、立て直すことはないだろう

  って、俺はなにをしているんだか……」

………

男「まぁ、いいか」

娘「良くないですよ」

男「……なにしているんだ」

娘「まだ甘いです、まったく…… 私が居ないと駄目ですね」

男「そんなことを聞いていない、帰れ」

娘「ここは私の畑です。あなたに任せっぱなしでグチャグチャにされては困ります」

80: 2009/08/09(日) 03:53:39.44 ID:iMQe5rYf0
男「それは悪かった、どうにかする」

娘「初心者の方にそんなことは出来ません」

男「指示だけ出してくれ、それだけでいい」

娘「それだけでよければこんなことになっていません、働きます」

男「熱がなければそれでもいい、だが今は駄目だ」

娘「この程度で大事になると? そんなわけありません」

………

男「わかった、勝手にしろ」

娘「はい、勝手にさせてもらいます」

男「ああ、俺も勝手にする」

娘「………」

コツ、コツ、コツ……

男「勝手に家へ連れて行かせてもらう」ピタッ

娘「……?」

81: 2009/08/09(日) 03:55:24.57 ID:iMQe5rYf0
グググッ!

娘「え、えっえええ!!」

男「やはり軽いな」

娘「こ、これって、お、お姫様抱っこって、さ、触らないで下さい!」

男「拒否する」

娘「いや、その、ええと……」

男「今のお前はおかしい、連れて行ってやらなければなにをするか不安だ」

娘「でも、あの、あぅ……///」

男「静かにしていろ」

娘「……はぃ///」

82: 2009/08/09(日) 03:59:05.05 ID:iMQe5rYf0
男「いいな、寝ていろ」

娘「………」

男「寝なければ、治るものも治らん」

娘「……寝たくありません」

男「馬鹿を言うな」

娘「本気です、働きたいんです」

男「仕事は俺がやる、気にするな」

娘「……なんで、ですか…」

男「……?」

娘「なんでそんなこと、するんですか……」

男「世話になっているからだ」

娘「私がそれを望んでいないのに?」

男「死ぬかもしれないのに、放っておくことは出来ない」

83: 2009/08/09(日) 04:03:19.94 ID:iMQe5rYf0
娘「…私が、死ぬことすら望んでいたらどうするんですか」

男「それは関係ない」

娘「なんでですか」

男「俺がそれを望んでいないからだ」

娘「……身勝手です」

男「だが本心だ」

娘「………」

男「さて、俺は仕事に行ってくるぞ」

娘「………話を聞いてください」ギュッ

男「何の話だ」

娘「……聞けば解ります」

84: 2009/08/09(日) 04:07:22.12 ID:iMQe5rYf0
男「馬鹿を言うな、畑仕事があるだろ」

娘「そんなの、いいです」

男「良くないだろ」

娘「いいから、ここに居てください」

男「俺にそうする理由がないぞ」

娘「元々、働く理由もないはずですよ」

男「……どうしたんだ」

娘「ここに、居てください……」

男「……わかった」

85: 2009/08/09(日) 04:09:17.86 ID:iMQe5rYf0
娘「………」

男「………」

娘「………」

男「………おい、娘」

娘「私、お父さんとお母さんが居たんです」

男「いや、当たり前だろ」

娘「ここでみんな一緒に暮らしてて、とても楽しかった

  私の畑も、家も父と母の残していったものです」

男「……ん…」

娘「お父さんは夜遅くまで働いて、私はお母さんの料理を手伝ってて

  お裁縫や家具作りなんてこともやってました」

男「ふむ」

娘「でも、父と母は私を捨てたんです」

男「捨てた?」

娘「そうじゃないのですけど、ね……」

男「……訳が解らん」

86: 2009/08/09(日) 04:13:47.86 ID:iMQe5rYf0
娘「父と母は、何か悪いことを考えていたようです

  それが村の人にばれて、捕まってしまい…… 多分殺されたのだと思います」

男「なるほど」

娘「私は両親から何も聞かされておらず、色々ありましたがこうして村に暮らせています」

男「ふむ」

娘「私を、娘を巻き込まない為に事情を話さないという、両親の愛に包まれた子だと思いますか?」

男「さぁな」

娘「私は、一緒に死にたかった」

男「……何を言っている」

娘「私は、親に隠し事をされていたんですよ?

  家族が、親が世界の全てでした、でもそれに騙されたんですよ?」

男「それは、騙されたとは違うだろ」

娘「それくらいわかってます! でも、結局は違わないんですよ!」

87: 2009/08/09(日) 04:16:16.48 ID:iMQe5rYf0
娘「一番信じていた親に、結果として裏切られたんですっ!」

男「………」

娘「私は何を信じればいいんですか? なにに縋っていいんですか?

  私は弱い人間です、縋れるものがなければ生きることも出来ないんです」

男「……お前は…」

娘「そうですよ? 結局世話をしているのも、あなたに話しかけているのも

  私のためです、『立派な私』に酔ってるだけです! それがなんなんですか!?」

男「……そうか…」

娘「わかったら、行ってください…… さよなら……」

………

88: 2009/08/09(日) 04:19:14.18 ID:iMQe5rYf0
………
娘「なんでまだ居るんですか」

男「……俺はどうすればいい?」

娘「………え?」

男「お前は何を必要としているんだ?」

娘「え、ええと……」

男「今までの生活を続けられればいいのか?」

娘「え? そ、そうです……」

男「そうか」


娘「え? ……え?」

男「なんだ? 結論は出ただろう」

娘「……私、酷いことを言ってますよ?」

男「俺はそう思わなかった」

娘「………」

男「他に話すことはあるか?」

娘「……ないです」

89: 2009/08/09(日) 04:23:21.97 ID:iMQe5rYf0
娘「でも…… なんといいますか……」

男「聞いてくれ」

娘「は、はいっ」

男「もし、お前の『縋る』という行為が、今までの生活にあったなら

  今までどおり縋ってくれ」

娘「……いいんですか?」

男「その方が、俺も助かる」

娘「……そう、ですか…」

男「そうだ」

娘「そうですか」

男「そうだ」

娘「……有難う御座います」

男「礼を言われるようなことをされた憶えはないぞ」

娘「茶化さないで下さいよ」

90: 2009/08/09(日) 04:26:15.16 ID:iMQe5rYf0
………

男「飯はあり合せの物だがな」

娘「それ、私の物なんですけどね」

男「まぁ気にしないでくれ」

娘「まったく…… 有難う御座います」

男「気にするな」

娘「気にしますよ、それではいただきます」

男「あぁ」

………

娘「なんでしょう、全くすくえません」

男「娘、それはナイフだ」

91: 2009/08/09(日) 04:28:33.03 ID:iMQe5rYf0
………

娘「それでは、おやすみなさい」

男「あぁ、おやすみ」

バタンッ

娘「………」

………

娘「………怖くない、怖くない……」

………

娘「本当に怖くない…… 私は単純なのでしょうか……」

………

娘「まった……く…… クー……」

………

92: 2009/08/09(日) 04:32:23.95 ID:iMQe5rYf0

娘「おはよう御座います」

男「……おはよう」

娘「ご飯の準備が出来ました」

男「そうか」

娘「終わりましたら、早速畑に行きますよ」

男「元気そうで何よりだ、ところで」

娘「なんでしょうか」

男「外はまだ暗いぞ」

娘「その分、仕事がありますよ?」

男「………」

娘「張り切ってご飯も作りましたので、頑張りましょう」

男「……わかったよ…」

93: 2009/08/09(日) 04:34:51.36 ID:iMQe5rYf0
ガチャッ

娘「さあ、行きましょうか」

男「あぁ」

娘「どうしましたか」

男「もう完調だな」

娘「当たり前のことを言わないで下さい」

男「…そうだな」

娘「なんですか」

男「気にするな」

娘「気にしますよ」

男「そうか」

………

男「とりあえず、靴を履こうか」

94: 2009/08/09(日) 04:37:34.14 ID:iMQe5rYf0
数日後



娘「さて、今日も一杯働きましたね」

男「……そうだな」

娘「どうしましたか」

男「すまないが、明日は抜ける」

娘「そうですか、わかりました」

男「あぁ、済まない」

娘「気にしないで下さい」

男「そうか」

娘「その分、仕事が増えるだけですから」

男「………」

95: 2009/08/09(日) 04:40:34.11 ID:iMQe5rYf0
ガサガサッ

男「……足跡…か……」

ガサッ

男「丁寧に人の形跡まで残しやがって……」

………

男「……」

………

男「伝達前に、やれるか……」

96: 2009/08/09(日) 04:42:49.87 ID:iMQe5rYf0

娘「おはよう御座います」

男「……おはよう」

娘「元気がないですね」

男「こんなものだ」

娘「そうですか、とにかく食事にしましょう」

男「あぁ」

娘「まったく、元気がないですね」

男「……すまないな」

97: 2009/08/09(日) 04:44:09.98 ID:iMQe5rYf0
………

男「まさか、あそこまで近くに居たとはな……」

………

娘「こんにちは、働かない男さん」

男「それは誰のことだ」

娘「ヨウヘイさんのことです」

男「まったく……」

娘「そんな貴方にお昼ご飯をもってきてあげました」

男「……ありがとう」

娘「回ってワンとお鳴きなさい」

男「いらん」

娘「冗談です」

98: 2009/08/09(日) 04:45:30.64 ID:iMQe5rYf0
娘「あなたはそんなにここに居たいのですか」

男「まぁな」

娘「まったく…… もう慣れましたけど」

男「お前はなんでここに来たんだ」

娘「貴方みたいな人をほっとけないからですよ」

男「それは済まない」

娘「言葉が違いますよ」

男「……ありがとう」

娘「いえ、どう致しまして」

99: 2009/08/09(日) 04:46:43.50 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、私はもう一働きしてきます」

男「あぁ」

娘「これからは力仕事が多いですね」

男「……済まない」

娘「……まったく、いいですよ」

男「今夜の分はいらない」

娘「言われなくても作りませんよ」

男「そうか」

100: 2009/08/09(日) 04:47:59.73 ID:iMQe5rYf0
娘「なんであれを冗談か何かと思ってくれないのでしょうか」

………

娘「本当に来ないとは思っておりませんでした」

………

娘「そういえば、あの方はそういう人でしたね……」

………

娘「仕方ないのでいただきましょう」

モグモグ……

娘「…んくっ……まったく、一人の食卓は寂しいですね」

101: 2009/08/09(日) 04:50:20.73 ID:iMQe5rYf0
娘「おはよう御座います」

男「おはよう」

娘「まったく、昨日は何をしていたのですか」

男「向こうの森に居た」

娘「そうですか」

男「済まない、朝飯もいらない」

娘「え、な、なぜです?」

男「忙しいからだ、じゃ」

バタンッ

娘「……忙しい……?」

102: 2009/08/09(日) 04:53:06.75 ID:iMQe5rYf0
………

男「まだ、動きはない まだ、な」

………

娘「まったく、またここですか」

男「娘、か」

娘「忙しいと言ってなにをしているのかと思えば…… まったくです」

男「……お前、荷は?」

娘「に?なにを言っているのですか?」

男「なん……だと…!!」

娘「どどどどうしましたここ怖いですよ!」

男「……すまない、気にするな」

娘「は、はぁ……?」

103: 2009/08/09(日) 04:55:09.13 ID:iMQe5rYf0
男「………」

娘「今日は隣の人もなんだか忙しそうにしておりましたよ」

男「そうか」

娘「ところで、ヨウヘイさんは今日なにをしていたのですか」

男「村長の所に行っていた」

娘「そうですか、まぁ内容は気にしないでおきましょう」

男「なぁ娘、一緒にこの村を離れないか?」

………

娘「え?」

………

男「なに真っ赤になっているんだ?」

娘「……知りません!」

104: 2009/08/09(日) 04:58:50.92 ID:iMQe5rYf0
………

娘「なるほど、村が襲われそうになっているのですか」

男「あぁ、村にはもう伝わっている、まさかお前に伝わってないとは……」

娘「そうですか」

………

男「まぁ、伝わってよかった」

娘「そうですね」

男「さっさと準備しろ」

娘「なにを言っているのです、私は残りますよ」

105: 2009/08/09(日) 05:01:47.72 ID:iMQe5rYf0
男「…馬鹿を言うな」

娘「いたって真面目です」

男「今から襲われるんだぞ!」

娘「らしいですね」

男「…死ぬぞ」

娘「ヨウヘイさん、質問です」

男「なんだ」

娘「全てを捨てて生きるのと、全てを守って死ぬのは、どちらが幸せだと思いますか?」

男「死ねば、どんなことも戯言だろ」

娘「私はそんな人ではありませんので」

男「………」

106: 2009/08/09(日) 05:04:20.53 ID:iMQe5rYf0
娘「この土地には、どんな形でも私の父や母が眠っています

  父や母の思い出全てが詰ってます。といえば聞こえはいいですが

  ここがあるから、今の私が存在出来ます

  ここを捨てたら今後『私』として生きていけません

  外見だけ私に似た、『全てを捨てた私』として生きなければなりません」

男「下らん」

娘「ですが、私には命をかけるに値します」

男「そんなものの為に死ぬのか! それでいいのか!?」

娘「私は、それでいいと思います」

男「……クソが……」

娘「同い年くらいの子がなにを言ってますか」

107: 2009/08/09(日) 05:07:00.81 ID:iMQe5rYf0
………

男「ここに残るんだな?」

娘「はい」

男「狂っているのか」

娘「いたって普通ですよ」

男「怖くないのか」

娘「そんなわけないじゃないですか」

男「なら……!」

娘「ここを失うことの方が、ずっと怖いんですよ……」

男「……っ」

娘「私だって、死にたくないんですよ、気付いてください、バカ……」

男「……」

108: 2009/08/09(日) 05:09:52.80 ID:iMQe5rYf0
娘「さて、晩御飯にしましょうか」

男「そうか」

娘「今日はもっと美味しいのを作ってみせますよ」

男「それは期待だ」

娘「既に貴方が食べることが決まってるのですか」

男「だめか」

娘「構いませんよ」

男「ありがとう」

娘「いえ、こちらこそ有難う御座います」

109: 2009/08/09(日) 05:13:19.61 ID:iMQe5rYf0
娘「その時、私のお母さんがですね……」

男「ふむ」

………

娘「もう、遅くなりましたね」

男「そうだな」

………

娘「それでは、おやすみなさい」

男「あぁ」

ガチャ バタン

………

男「………」

110: 2009/08/09(日) 05:15:00.68 ID:iMQe5rYf0
ガチャ

娘「………」

男「……寝れなくて、こっちに来た」

娘「……身勝手ですね」

男「あぁ、すまない」

娘「まったく」

………

男「怖く、ないのか?」

娘「怖いです、今も震えてます」

男「そうか」

娘「でも、外に逃げる勇気もないんです」

男「そうか」

111: 2009/08/09(日) 05:17:09.64 ID:iMQe5rYf0
娘「……生きていたいです」

男「………」

娘「でも、私、臆病だから、思い出も大事だから、動けないんです……」

男「………」

娘「助けて……」

男「………」

娘「…………よし! 弱音は全部、吐きました これで大丈夫です」

男「…そうか」

娘「そろそろ本当に寝ますよ」

男「そうか、なら俺も寝よう」

娘「はい、おやすみなさい」

男「あぁ、おやすみ」

バタンッ

………

男「大丈夫なわけ、ないだろうが……」

112: 2009/08/09(日) 05:18:07.72 ID:iMQe5rYf0

娘「おはよう御座います」

男「おはよう」

娘「さぁ、食事にしましょうか」

男「……悪い、娘」

娘「話はご飯を食べてからです」

男「…あぁ」

113: 2009/08/09(日) 05:19:08.60 ID:iMQe5rYf0
娘「で、なんですか?」

男「俺は行く」

娘「それは当たり前でしょう、あなたもなんて許しませんよ」

男「それで、万が一の話なんだがいいか?」

娘「なんでしょうか」

男「もし生きてたら、また飯を食いに来てもいいか?」

娘「とんでもない身勝手ですね」

男「すまない」

娘「まったく、もう諦めてますよ」

男「それは残念だ」

娘「まったく……なんで好きに……」ブツブツ

男「なんだ」

娘「なんでもないです」

114: 2009/08/09(日) 05:22:10.11 ID:iMQe5rYf0
娘「それでは、これはお弁当です」

男「ありがとう」

娘「どう致しまして」

………

男「それじゃ」

娘「それは追及点です」

男「……?」

娘「もっと良い言葉を考えてください」

男「ええと?……じゃ、また」

娘「まったく、酷いですね」

男「それはすまない」

娘「ギリギリ合格にしてあげますよ、また会いましょう」

男「うん、また」

ガチャ バタンッ

娘「……さて、色々と備えなければですね」

115: 2009/08/09(日) 05:23:57.09 ID:iMQe5rYf0
男「さてと、備えも終わった」

………

男「罠も全部作った、武器はありったけ……まったく…」

………

男「親父、女性は人をダメにするって本当だな」

………

男「多弁になったし、餓鬼っぽくなった……」

………

男「でも、アンタの言うとおり幸せな気持ちだよ、ったく……

  俺は、アンタが誇れる息子になっているか?」

………

男「……命に代えても、村には通さねぇ」

116: 2009/08/09(日) 05:26:23.98 ID:iMQe5rYf0
娘「……今日で4日目、ですか…」

………

娘「畑、大丈夫でしょうか……」

………

娘「ちょっと外に出てみましょうか」

………

娘「えっと、お鍋のふたと鍬を……」

………

117: 2009/08/09(日) 05:28:21.31 ID:iMQe5rYf0
娘「これで一週間でしょうか、本当に狙われているんでしょうか」

………

娘「まぁ、用心するに越したことはないでしょう」

………

娘「用心、用心…ようじん……」

………

娘「グー……グー……」

118: 2009/08/09(日) 05:30:19.19 ID:iMQe5rYf0
娘「ん、なんか外が騒々しいですね」

ガチャッ

娘「あれ…… 皆さんが戻ってきていますね」

………

娘「ということは、もう安心していいのでしょうか?」

………

娘「まったく、何事もありませんでしたし、人騒がせな話ですよ」

………

娘「さて、こうしては居られませんね、あの人がまた食事に来るでしょうから」

119: 2009/08/09(日) 05:44:37.93 ID:iMQe5rYf0
娘「……遅いですね」

………

娘「女性を待たせるとは、やっぱり悪い男です」

………

娘「なんで来ないんですか、まったく……」

………

娘「……来て、くださいよ…」

134: 2009/08/09(日) 21:26:02.39 ID:iMQe5rYf0
………

娘「村の入り口…… ここはあなたのお気に入りの場所じゃないんですか?」

………

娘「私はここに居るんですよ?」

………

娘「ひょっこり、待たせてゴメンなんて、言いに来ないんですか?」

………

娘「そうですか……」

………

娘「そっちがその気なんでしたら、こっちも黙っていられません」

………

娘「この街で、貴方を待ち続けてあげますよ、まったく…」

135: 2009/08/09(日) 21:33:35.59 ID:iMQe5rYf0
ずっと後のある日




娘「まったく、隣町まで足を伸ばしても

  今回もそれらしい情報はありませんか……

  どこに居るというのですか」

………

娘「まぁ、約束ですので仕方なく待たせてもらいますよ……ブツブツ」

………

娘「っと、誰か来たようですね 前みたいに粗相のないようにしなければ……ええと」

コツコツコツ………

娘「んん、コホン。 おはよう御座います、ここは農民の村です」

end

137: 2009/08/09(日) 21:37:08.67 ID:fZ6JKZ4xO
なんと……!

138: 2009/08/09(日) 21:39:39.89 ID:bXYvBPUrO
1乙
面白かったよ

139: 2009/08/09(日) 21:51:12.56 ID:iMQe5rYf0
人生に於いて、ほんの短い時間を過ごした場所だった

でも、目を瞑ればその瞼に、写らない日など無い

俺は、今日そこに帰る

?「今まで有難う、本当に助かったよ」

??「だが、やっぱりわかんねぇなぁ? 俺達ぁ救世主様だぜ?」

???「その辺の討論はもう済んだでしょう?」

??「だがなぁ!」

???「でも、確かに気になるなぁ。 なにか、大事なものがあるのかい?」

「あぁ、俺の、何より大事なものだ」

あいつは相変わらずなのだろうか、笑っているのだろうか、泣いているのだろうか

それとも、怒っているのだろうか

?「それじゃ、ここでお別れだね」

これから、彼らは英雄として生きていくだろう

俺も望めばそこに行けるらしい、だが

「あぁ、じゃあまたな」

どうやら、俺は平凡に、合格点を貰って生きたいようだ

muriyari happy end

140: 2009/08/09(日) 21:54:26.46 ID:iMQe5rYf0
今まで見てくれて有難う御座いました
>>139の最後は、自分がとにかくハッピーなの大好きなので
無理矢理作ったものです、脈絡ないです、酷い出来です

でも、書かずにいられなかった俺を許してくださいorz
一応、>>135で終りです。ですから、コレは無いと思った方は
見なかったことに(-w-; ゴミンナサイ

では、これからバイトがあるので失敬させてもらいますm(_ _)m
お付き合いしていただいた皆様、本当に有難う御座います

141: 2009/08/09(日) 22:04:47.06 ID:4tJE/xLC0
乙です
うん、やっぱハッピーエンドっすよ。大好きっす

143: 2009/08/09(日) 22:25:10.73 ID:PrO5B2yo0
おつでした


引用元: 村娘「あなたはどちら様ですか?」