1: 2010/12/10(金) 17:23:37.62 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM2:08 

学園都市― 
人口約230万人の内、学生が約8割を占める街。 
どこの学校も冬休みに入ったこの時期、 
街には至る所に学生が溢れていた。 
明日はクリスマス。 
あらゆる店はイルミネーションに彩られ、大音量でクリスマスソングを流している。 
クリスマスという一大イベントに、 
街も人も希望に満ち溢れているのだ。 
"彼"を除いて。 

「はぁー、何がジングルベルだよ…」 

彼は賑やかな街を眺めて、大きな溜め息を吐く。 
上条当麻― 
どこにでもいる平凡な高校生。 
ただ一つ、特殊な右手のせいで不幸体質という事を除けば、だが。



2: 2010/12/10(金) 17:26:03.58 ID:HQvgLVSRQ

「クリスマスなんかキリスト教のイベントだろ? 
どうせすぐに初詣行くのに。 
変だ!絶対変だ!」 

世間は冬休みというのに、上条はしっかり学生服を着ていた。 
別に校則で決められている訳ではない。 
致命的な勉強不足のせいで、地獄の補習を受けた帰りなのだ。 

「あんたねー、自分が補習だったからって、 
たかがイベントに変な言い掛かりはやめなさいよね」 

上条の隣を歩く制服の少女が呆れた顔でたしなめる。 
名門常盤台中学の制服を着た少女。 
御坂美琴― 
常盤台のエースにして、学園都市第3位のレベル5能力者。 
通称【超電磁砲】 
上条は補習の帰り道、偶然美琴と出会い、途中まで一緒に帰る事になったのだ。 

「で、あんたはその…ク…クリスマス当日は予定…とか…あるわけ?」 

突然顔を真っ赤にして尋ねる美琴を、鈍感な上条は不思議そうに見つめながら 

「へ?上条さんはクリスマスは特になにもありませんよ。 
強いて言えば出費の予定が… 
大出費、主に食費で。」 

訳あって家に居候している大食いシスターを思い浮かべ、肩を落として答える。 
クリスマスをダシに、肉だケーキだと騒ぐ大食いシスターが目に浮かぶ。


3: 2010/12/10(金) 17:29:55.30 ID:HQvgLVSRQ

「そういう御坂はどうなんだ?」 

「わっ、私!?私はその…あの…」 

上条にクリスマスの予定が無い事が分かり、 
内心ホッとしていた美琴は、突然の質問に慌てふためく。 
美琴も予定があるわけではなかった。 
もし上条を誘えば、クリスマスに会えるかもしれない。 
素敵なレストランで食事をして、プレゼントを渡して、そして― 

「べ…別に予定はない…けど」 

その先の言葉が出てこなかった。 
たった一言『私も予定ないから遊ぼう』と言えば良いのだが、 
こういう事に慣れていない美琴にとって、 
それを言うのは、学園都市第1位になる事より難しい気がしていた。


4: 2010/12/10(金) 17:30:53.47 ID:HQvgLVSRQ

「はは、そうだと思った」 

美琴の気持ちを知らない上条は、へらへらと笑っている。 
もちろん馬鹿にしている訳ではなく、 
常盤台のお嬢様なら、クリスマスだからといって、街に出て遊び回らないと思っただけなのだ。 
しかし美琴もまた上条の考えを知る筈もなく― 

「…あんたね」 

「へ?」 

美琴の前髪からパチパチと青白い電気が飛び散っている。 
上条の背筋を冷たいものが流れていく。 

「み、御坂…さん?」 

「馬鹿にしてんのかゴルァァァッ!」 

上条目掛けて特大の電撃が放出される。 

「ぎゃぁぁぁぁっ!不幸だぁぁぁぁっ!」


6: 2010/12/10(金) 17:31:50.07 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM3:10 

「とうまっ、とうまっ、とうまがおっそいー」 

上条の部屋に居候している銀髪碧眼のシスターは、 
今や自分のものとなったベッドの上で、 
愛猫スフィンクスをつつきながら歌を口ずさんでいる。 
上条が学校から帰るのはお昼過ぎの筈なのだが、 
おやつの時間を過ぎてもなかなか帰って来なかった。 

「とうまっ、とうまっ、とうまのおバカー」 

インデックスが作詞作曲自分の歌の二番を歌っている時だった。 
突然玄関のドアノブがガチャガチャと音をたてる。 

「あっ、スフィンクス!とうまが帰って来たんだよ!」 

インデックスはスフィンクスを胸に抱えると、パタパタと可愛い足音をたてながら玄関へ向かう。 
しかし―


 

7: 2010/12/10(金) 17:33:39.69 ID:HQvgLVSRQ

「ん?」 

玄関のドアは一向に開く気配がない。 
当然上条は鍵を持っているはずなので、 
部屋に入るのにこんなに時間がかかる筈はないのだ。 
インデックスは未だにガチャガチャと音をたてるドアノブを見つめ、 
恐怖と緊張で身体が硬くなる。 
胸に抱かれたスフィンクスが苦しそうにもがき、 
インデックスは自分の全身に力が入っている事に気がついた。 

(とうま!早く帰って来て!) 

これは明らかに異常事態だった。 
インターホンも鳴らさず、声を掛ける事もせず、 
いきなりドアを開けようとする人間がそこにいるのだ。 
さして頑丈でもない扉一枚隔てたすぐそこに。 
インデックスは音をたてないように、 
ゆっくりと部屋へ後退りする。 
ベランダからなら逃げられるかもしれない。


9: 2010/12/10(金) 17:35:10.93 ID:HQvgLVSRQ

先程まで音をたてていたドアノブは静かになり、 
今度は何か金属の擦れるような音が断続的に聞こえてくる。 
インデックスは以前見たテレビ番組を詳細に思い出す。 

(確か…ピッキングなんだよ) 

インデックスは完全記憶能力を持っている。 
一度見たものは決して忘れないこの能力で、 
10万3000冊の魔導書を一字一句記憶している。 
テレビ番組を詳細に思い出せたのもこの能力のおかげだった。 
しかし― 

(まさか…魔術師!?) 

この能力のせいで― 
正確には能力で覚えた10万3000冊の魔導書のせいで、 
インデックスは世界中の魔術師から狙われる立場にいた。 
魔導書の中には、当然とてつもない力を秘めたものもあり、 
魔術師にとってそれは、喉から手が出る程魅力的なのだ。 
結果、今までに何度も魔術師の襲撃に会い、 
その度に上条当麻に助けられた。 
しかし今はその上条も居ない。 
インデックスがベランダに足を踏み出すのと同時に、 
玄関のドアが音をたてて開かれる。 
どう考えても逃げる事は出来そうになかった。 

「一緒に来てもらおうか」


12: 2010/12/10(金) 17:36:51.11 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM3:15 

「さて、僕は土御門に呼ばれているからね。合流して情報を集めてくるよ」 

学園都市第七学区の路地裏、ステイルは煙草に火をつけると、 
苦々しい顔で煙を吐き出す。 
ヘビースモーカーである彼が、こんな顔で煙草をくゆらせているのには訳があった。 
ステイル・マグヌス― 
イギリス清教必要悪所属の魔術師。 
隣には、腰に刀を提げ、ジーンズの片方を太ももの付け根までバッサリ切った、 
個性的な格好の女性が立っている。 
神裂火織― 
ステイルと同じイギリス清教必要悪所属の魔術師にして、世界に二十人程しかいない聖人の一人だ。 
その神裂も口を開く。 

「私はあの子の元へ向かいます。 
上条当麻も一緒でしょうが、何か嫌な予感がしますから」


 

13: 2010/12/10(金) 17:38:41.80 ID:HQvgLVSRQ

科学の街である学園都市に、二人の魔術師がやって来たのは、ある情報を得た為だった。 
スパイとして学園都市に潜入している土御門元春から、 
インデックスを狙っている魔術師がいるかもしれないと連絡があったのだ。 
本来魔術側は学園都市での揉め事に介入する事はないのだが、 
狙われているのがインデックスであるという事で、 
学園都市に馴染みのあるステイルと神裂が調査に来たのだ。 
神裂は腰の刀の感触を確かめながら、ステイルに尋ねる。 

「しかし、一体何故あの子が狙われているのですか?」 

ステイルは再度苦々しい顔で煙を吐き出すと 

「それをこれから土御門に確認しに行くのさ。 
無駄話はこれくらいにして、早くあの子の所へ行ってくれ」 

そう言って路地の奥に姿を消した。


15: 2010/12/10(金) 17:40:25.95 ID:HQvgLVSRQ

神裂は路地の奥から、大通りに視線を移す。 
大通りでは沢山の人々が、幸せそうに街を行き交っていた。 
端から見れば微笑ましいその光景も、 
今は神裂の胸をきつく締め付ける。 

「あの子には…あんな風に毎日平和な日々を生きて欲しいですね」 

神裂はもう一度腰の刀に手を伸ばす。 
インデックスが平和を取り戻した時、隣に居るのが自分じゃなくてもいい。 
自分はただひたすら戦って、インデックスの平穏な日々と引き換えに命を落としたとしても、 
きっと後悔はしない。 

「だから…あの子は必ず守ってみせます!」


18: 2010/12/10(金) 17:43:08.53 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM3:10 

上条と別れた美琴は、真っ直ぐ帰るのはつまらないと、 
一人街をぶらついていた。 
週刊誌を立ち読みしたり、ゲームセンターを覗いたり。 
およそお嬢様らしくない時間の過ごし方だが、 
美琴にとってはこれが一番落ち着く過ごし方なのだ。 
学校ではレベル5のエースとして憧れや尊敬の眼差しで見られ、 
外に出れば名門常盤台のお嬢様として見られる。 
なので、こういう自由気ままに過ごせる時間は、とても貴重なのだ。 

「あら?あらあらまぁまぁ!」 

美琴が大通りのベンチで一休みしている時だった。 
聞き慣れた声が人混みの中から聞こえてくる。 

「お姉さまじゃありませんの!」 

美琴が声のした方に視線を移すと、人混みを掻き分けて、小柄な少女が現れた。 
美琴と同じ常盤台中学の制服を着ており、 
腕には風紀委員の腕章をつけている。 
白井黒子― 
常盤台中学の美琴の後輩で、 
レベル4の空間移動能力者だ。 
学生達で構成される街の治安維持部隊、風紀委員のメンバーでもある。


19: 2010/12/10(金) 17:47:19.82 ID:HQvgLVSRQ

「黒子、あんた今日風紀委員の仕事休みじゃなかったっけ?」 

「それが…ちょっと大変な事が起きてまして」 

そこまで言って、黒子はハッと息を呑む。 
こういう時、美琴は必ずと言っていいほど、首を突っ込もうとするのだ。 
黒子は大切な美琴を巻き込みたくないのだが、 
その気持ちを知ってか知らずか、美琴は毎回無茶をしようとする。 

「大変な事?」 

案の定、黒子の言葉に美琴は反応してしまった。 
自分の軽率な発言に、黒子は肩を落としながら 

「い、いえ。大したことじゃありませんの。 
お姉さまはゆっくりのんびり…」 

そこまで言って、美琴の顔がいつになく真剣なのに気付く。 
美琴もまた、大切な黒子の助けになりたいと、心から思っているのだ。 
興味本位で首を突っ込もうとしている訳ではないことを、 
黒子はちゃんと分かっていた。 

「黒子、何があったのか教えて」 

美琴は自分に出来る事があるかもしれないのに、 
何もしないで見ているだけというのは嫌なのだ。


 

20: 2010/12/10(金) 17:52:47.83 ID:HQvgLVSRQ

「はぁー、仕方ありませんわね。 
ですがお姉さま。お話する前に一つ約束して頂きますの」 

「約束?」 

「絶対に…絶対絶対絶対に一人で無茶はしない事! 
何かあったら必ず私に連絡して下さいな!」 

美琴は黒子の目をしっかりと見据え、頷く。 

「分かった。約束する」 

黒子は美琴の横に腰を下ろすと、 
静かに事の経緯を説明しだした。 

「昨日から行方不明が多発してますの。 
最初にアンチスキルに捜索願いが出されたのは昨日。 
それから今日まで立て続けに23件、行方不明者の数が異常なんですの。 
私も先程アンチスキルからの要請を受け、 
街をパトロールしてるという訳ですの」 

「23件?一体どうなってるのよ?」 

学園都市だからといって、行方不明者が全くいない訳ではないが、 
その数が余りにも異常だった。 
一年で23人ではない。 
たった二日で23人もの行方不明者が出ているのだ。


21: 2010/12/10(金) 17:54:04.90 ID:HQvgLVSRQ

「まだ詳しくは何も分かっていませんが、 
行方不明になったのは、全員学生なんですの」 

「全員…学生」 

人口の八割が学生である学園都市なので、 
行方不明者が全員学生だからといって、別段不思議はない。 
しかし美琴はそれがどうしても偶然とは思えなかった。 

「ねぇ黒子。その学生達に何か共通点はない?」 

「共通点?私も先程連絡を受けてパトロールしてましたので。 
そこまで詳しくは分かりませんわね。 
後で初春に聞いてみますの」 

「お願いね。何か分かったら教えて」 

黒子はベンチから立ち上がると 

「お姉さま、約束は守って下さいまし。 
絶対に一人で無茶はしないで下さいな」 

そう言って人混みの中へ消えていった。 
相変わらず行き交う人々はとても楽しそうで、 
それを見ていると、行方不明事件など最初から無かった事のように思えてくる。 

「何が…起きてんのよ」 


22: 2010/12/10(金) 17:56:20.31 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM3:17 

「一緒に来てもらおうか、禁書目録」 

押し入って来たのは、スーツに身を包んだ大柄な男だった。 
短く借り上げた頭髪に、スーツの上からでも分かる程筋肉質だ。 
その表情はサングラスでよく分からない。 
男は後ずさるインデックスに向かって、一歩ずつ近付いて来る。 

「い、いや!来ないで!」 

男の伸ばした手が、インデックスに触れようとした時だった。 

「インデックスから離れろ…」 

その声に男が振り向いた瞬間、 
顎に拳が叩き込まれる。 
脳を激しく揺さぶられ、男はその場に崩れ落ちた。 
どうやら意識を失ってしまったようだ。 


23: 2010/12/10(金) 17:57:19.31 ID:HQvgLVSRQ

「とうまっ!」 

そこに立っていたのは、紛れもなく上条当麻だった。 
助けてくれた上条に、インデックスは勢い良く飛び付く。 

「お、おい、インデックス」 

「遅いんだよ!とうまのおバカ!」 

口ではそんな事を言いながらも、 
インデックスの体は小さく震えていた。 
突然得体の知れない男が襲って来たのだ。 
いくら今まで色々危険な目にあったとはいえ、 
インデックスはただの女の子であり、 
それは無理もなかった。 
上条はインデックスの頭を撫でながら 

「ごめんな、インデックス」 

そう言って優しく微笑んだ。 

「ううん、とうまは助けてくれたもん。 
だから平気なんだよ」 


 

24: 2010/12/10(金) 17:58:46.37 ID:HQvgLVSRQ

上条は手近にあったガムテープで男を縛り上げると、 
状況を把握する為に、呼吸を整える。 
気持ちが落ち着いてくると、今度は徐々に怒りが込み上げてくる。 
毎回毎回、どうしてインデックスがこんな目に合わなければならないのか。 
いくら10万3000冊の魔導書図書館という存在とはいえ、 
それ以外は普通の女の子だ。 
笑ったり泣いたり、怒ったり悲しんだり。 
そんな当たり前の事を、簡単に踏みにじる権利は誰にもないはずだ。 
上条は右の拳を強く握り締める。 

(俺が…絶対に守ってやる!)


25: 2010/12/10(金) 18:00:24.35 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM4:25 

襲って来た男をアンチスキルに引き渡し、 
上条は部屋で一息ついていた。 
あれからアンチスキルに連絡、色々事情を説明し、 
この時間になってやっと解放されたのだ。 
詳しく説明する訳にもいかないので、インデックスの事は話さなかった。 

「おーい、上条当麻ー。お前んとこのシスターを返しに来たぞー」 

玄関に目を向けると、清掃用のロボットの上でクルクルと回る、 
メイド服の少女がいた。 
土御門舞夏― 
上条のクラスメイトである、土御門元春の義理の妹で、 
優秀なメイドを数多く輩出する名門、 
繚乱家政女学校の生徒だ。 
アンチスキルに通報する前に、隣の部屋に住む土御門元春にインデックスを預けようと思ったのだが、 
土御門は不在で、義妹の舞夏しか居なかった。 
そこで取り敢えず舞夏にインデックスを預けたのだ。 

「兄貴の為に作っておいた料理、このシスターが全部食べちゃったぞー。 
次からはお代を頂くからなー」 

そう言って、手をひらひらさせながら自分の(正確には兄の)部屋に戻っていた。 
上条は礼を言って、しっかりと玄関の戸締まりをする。 
襲撃があの一度とは限らない。 
上条は何度も鍵を確認し、最後にチェーンを下ろす。


26: 2010/12/10(金) 18:01:32.67 ID:HQvgLVSRQ

「ふう、これで取り敢えずは大丈夫か」 

上条が玄関の鍵を指差し確認していると 

「何が大丈夫なのかにゃー、カミやん」 

「うわぁぁぁぁっ!」 

突然声を掛けられ、自分でも情けない程間抜けな声が出る。 
慌てて振り返ると、そこには金髪にサングラス、 
前を開けたアロハシャツを着た男が立っていた。 

「つ、土御門!?お前どうやって!?」 

上条は、真っ先に玄関の鍵を確認する。 
鍵はかけられ、チェーンもしっかりと下ろされていた。 

「カミやん、ベランダの鍵をかけ忘れてたぜい」 

「しまったぁぁぁ!」 

上条はインデックスがベランダから逃げようとした事をすっかり忘れていた。 
窓は閉めたのだが、鍵をかけ忘れていたのだ。


27: 2010/12/10(金) 18:02:43.06 ID:HQvgLVSRQ

「まったく、相変わらずの間抜けぶりだにゃー、カミやん」 

土御門はやれやれといったジェスチャーをすると、 
ベッドの脇に腰を下ろす。 

「そういえば土御門、お前はインデックスが襲われた事知ってんのか?」 

土御門はイギリス清教所属の魔術師でありながら、 
この学園都市にスパイとして潜入している。 
土御門は魔術側、学園都市側の二重スパイだと言っていたが、 
それなら何か知っているかもしれない。 
上条の質問に、当たり前だというような顔で土御門は答える。 

「俺がここに来たのは、まさにその事に関して話があるからだぜい、カミやん」


 

28: 2010/12/10(金) 18:06:16.74 ID:HQvgLVSRQ

11月24日PM5:12 

「土御門、教えてくれ!どうしてインデックスが襲われたんだ!?」 

上条は土御門に詰め寄ると、今にも殴りかかりそうな勢いで問い詰める。 

「まぁ落ち着け、カミやん。全員揃ったら話す」 

「全…員?」 

一体何を言っているのだろうか。 
上条が訝しげに思っていると 

「と、とうまっ!」 

インデックスが突然大声をあげ、ベランダの方を指差している。 

「また敵か!?」 

上条がベランダに向かって身構えると、 
そこには意外な人物が立っていた。 
二人も、だ。 

「ステイル…それに神裂!?」 

ステイルは窓を開けろと指で合図を出し、 
神裂は申し訳なさそうに一礼する。


29: 2010/12/10(金) 18:08:36.42 ID:HQvgLVSRQ

「どいつもこいつも…何でベランダから入ってくるんだよ…」 

一人溜め息を吐く上条をよそに、土御門は 

「よし、全員揃ったな」 

部屋に入り、思い思いの場所に腰を下ろした二人をチラリと見ると、 
ポケットから封筒のようなものを取り出した。 
その封筒の中から一枚の紙を取り出す。 

「写真…か?」 

上条はその写真を受け取ると、隅々まで目を走らせる。 
隠し撮りしたのだろうか。 
写真は少しブレており、辛うじて人間が写っているのが確認出来る。 

「ステイルにはもう話してあるが…」 

土御門の言葉にステイルは頷く。 

「ねーちんはステイルと別れて、ここに来たんだよな?」 

神裂は姿勢を正し、丁寧に答える。 

「ええ。私がここに着いた時には、上条当麻が襲撃者を引き渡した直後でした。 
その後は向かいの建物から監視を」 

「ステイルは二度目になるが、ねーちんにも説明しておく。 
カミやんも聞いてくれ」


30: 2010/12/10(金) 18:21:32.12 ID:HQvgLVSRQ

土御門は上条から写真を受け取ると、 
写っている人物を指差しこう言った。 

「こいつは…魔術師だ」 

上条の体が緊張で強張る。 
ステイルと神裂が現れた時点で、 
魔術絡みという事は何となく分かっていた。 

「この写真が撮られたのは一昨日だが、 
魔術師自体は一年程前から学園都市に潜伏してたらしい。 
」 

「一年も前から!?」 

「あぁ、恐らく第十一学区から侵入したんだろう」 

第十一学区は、学園都市における資材や物資搬入の玄関口だ。 
高い壁に囲まれ、あらゆるセキュリティーが施された学園都市に侵入するのは容易ではなく、 
搬入業者に紛れて侵入出来る第十一学区は、 
外部からの侵入経路として選ばれる事も多い。 

「その魔術師が、急に動き出した…という事ですか」 

神裂は忌々しそうに呟く。 
土御門は頷くと、もう一枚写真を取り出した。


33: 2010/12/10(金) 18:45:25.16 ID:HQvgLVSRQ

「これはさっきの写真を拡大したものだ。 
こいつが持っているもの… 
禁書目録が狙われているのは、多分これと関係がある」 

「んー…ノートパソコンみたいに見えるな。 
魔術師だからてっきり霊装とかの類かと思ったけど」 

魔術師にノートパソコンという不自然な組み合わせに、上条は首を傾げる。 
狭い部屋だからなのか、そばにインデックスがいるからなのか、 
ステイルは噛み煙草を噛みながら 

「魔術師だって携帯電話も持つし、ノートパソコンだって使うさ。 
問題はその中身だよ」 

そう言って更に噛み煙草を口に放り込む。 

「中身…ですか?」 

神裂の疑問に、土御門は写真を指差しながら 

「情報では、この中には設計図が入ってるらしい。 
カミやん、AIMジャマーは知ってるな?」 


 

34: 2010/12/10(金) 18:46:48.89 ID:HQvgLVSRQ

突然そう聞かれた上条は、頭の中から何とか情報を引っ張り出す。 
以前学校の授業でならった筈だ。 
上条は自分の勉強不足を後悔しながら、微かな記憶を頼りに話し始めた。 

「確か…能力者が無意識に発生させてる力のフィールドがAIM拡散力場で… 
それを特定の周波数で乱反射させ、能力の使用を阻害する装置…だったような」 

頷く土御門とは対照的に、神裂とインデックスは、 
頭の上にクエスチョンマークが出そうな顔で聞いている。 

「まぁ簡単に言えば、能力者の能力を使えなくする装置ってとこだぜい」 

「な、なるほど。ですが話の筋が全く見えないのですが…」 

上条も神裂と同じ意見だった。 
土御門の言っている事が全く分からない。 
インデックスが狙われているという事と、魔術師の持つ何かの設計図や、 
AIMジャマーがどう関係しているのだろうか。 
そんな二人を見透かしたかのように、 
土御門は本題に入る。 

「この魔術師が持っている設計図。 
これはAIMジャマーのような装置の設計図らしいんだ。 
しかし俺たち対能力者用の装置じゃない。この設計図は…」 

土御門は一度息を整え、そして静かにこう言った。 

「対魔術師用の装置だ」


36: 2010/12/10(金) 18:49:40.31 ID:HQvgLVSRQ

「対…魔術師用!?」 

確かに土御門はそう言った。 
本来魔術側と学園都市は、表向きには友好的に付き合っているはずだ。 
上条達はイレギュラーだが、本来お互いに接触は避けており、 
学園都市の学生達は魔術師の存在など知らないのだ。 
それに気になる事がもう一つ。 

「待ってくれ土御門。学園都市がどうして対魔術師用の装置なんか作るんだ? 
それに…それを魔術師が持ってるってのも変じゃねーか」 

畳み掛ける上条を右手で制し、土御門は続ける。 

「落ち着け、カミやん。まずはその装置についてだ。 
あれはAIMジャマーの魔術バージョンってとこだ。 
魔術を使えなくする為の装置だな。 
便宜上、"マジックジャマー"って呼ぶ事にするが… 
そのマジックジャマーを、魔術師と学園都市内部の人間が協力して開発しているらしい」 

「一体何の為ですか?」 

神裂の質問に、今度はステイルが答える。 

「そこまではまだ分からない。 
ただマジックジャマーの開発が行われている事だけは確かみたいだね」 

噛み煙草では物足りなかったのか、 
話終えると、ステイルはベランダに出て煙草に火をつけた。


37: 2010/12/10(金) 18:52:03.26 ID:HQvgLVSRQ

「そして、禁書目録が狙われている理由。 
それはマジックジャマー開発に関係しているとみて間違いないだろう。 
魔術絡みだからな」 

土御門はインデックスの顔をチラリと見る。 
もう覚悟を決めているのだろう。真剣な顔で話を聞いている。 

「カミやんがアンチスキルに引き渡した男、 
あいつは第十学区の研究所に雇われた何でも屋だ」 

第十学区といえば、様々な研究施設の建ち並ぶ学区だ。 
世の為になる研究から、表には出せないような研究まで、 
ありとあらゆる研究が行われているという。 

「どうしてそんな事が分かるの?」 

インデックスが不思議そうに尋ねると、 
土御門は当たり前だという顔で答える。 

「忘れたか?ここは超能力者達が集まる街だぞ。 
心や記憶を読む能力者だってたくさんいるんだ」 

「じゃあ計画や黒幕なんかも分かるのですか?」 

そう聞いてみたものの、神裂にも分かっている。 
何でも屋には必要最低限の情報しか与えられていない筈だ。 
淡い期待を込めての質問だった。


 

38: 2010/12/10(金) 18:53:07.25 ID:HQvgLVSRQ

案の定土御門は 

「残念だが…あの男にそこまでの情報は与えられていなかった。 
まぁ当然だな」 

そう言って首を横に振る。 

「そうですか…ではこれからどうするか話合いましょう」 

神裂の提案に、上条は携帯の時計で時刻を確認する。 
ディスプレイには午後7時13分と表示されていた。 

「とにかく確かな情報が欲しい。 
今までの情報はほとんど裏が取れてないからな。 
俺は色々顔が利くから、とりあえず情報集めに専念する」 

土御門はそう言って立ち上がる。 
長い時間座っていた為だろうか、腰に手を当てて一言付け加える。 

「俺は一人の方が動きやすい。 
カミやんに禁書目録、ねーちんにステイルは取り敢えず待機しててくれ。 
全員で動くには情報が足りないからな」 

上条に戸締まりをしっかりするよう伝えて、土御門は部屋から出て行く。 
一体何本吸うつもりなのか、ステイルは相変わらずベランダで煙草を吹かしていた。


39: 2010/12/10(金) 19:01:43.80 ID:HQvgLVSRQ

「さて、取り敢えず飯にでもするか?」 

買い物に行けていない為、4人分も食材は無く、 
上条はデリバリーのチラシを机に広げる。 
とにかく腹拵えをしない事には、 
頭も体も働かないと、メニューを吟味している時だった。 

「残念だけど…食事の時間は無いみたいだね」 

さっきまでベランダに居た筈のステイルが、真剣な顔をして上条達を見回す。 
その手にはルーンが刻まれたカードが握られていた。 

「まさか…」 

神裂も素早く立ち上がると、刀の柄を握り締める。 

「そのまさかだよ。このマンションを20人程が取り囲んでいる」


40: 2010/12/10(金) 19:21:43.35 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM6:21 

黒子と別れた美琴は、近くにあったネットカフェに来ていた。 
行方不明事件について、ネットに何か情報がないか確かめに来たのだ。 

「何も…情報は出てないわね」 

様々なニュースサイトを見てみたのだが、 
行方不明事件について書かれているサイトは一つも無かった。 
たった二日で23人もの学生が行方不明になっているのに、だ。 
まるで揉み消されたかのようだ、と美琴は思った。 

「なら…ここは」 

次に美琴が開いたのは、学園都市の噂や情報が集まるコミュニティーサイトだ。 
美琴は検索キーワードに、行方不明、学生、集団などと入れてみる。 

「ビンゴね」 

検索結果には、行方不明事件の始まった昨日の日付に立てられたスレッドがあった。 
美琴はカーソルを合わせ、そのスレッドを開く。 
どうやら立てたのは行方不明になった学生の友人のようだ。


41: 2010/12/10(金) 19:24:45.63 ID:HQvgLVSRQ

「情報求む…か」 

行方不明の友人に関する情報を集めているのだろう、 
その友人の詳細な情報が書かれている。 

「霧ヶ丘女学院ニ年生…レベル3の読心能力者(サイコメトラー)か」 

美琴はページをスクロールしていく。 
殆どが茶化すような書き込みで、中には自分が犯人だという書き込みまであった。 

「ここもダメか…」 

美琴が諦め半分で書き込みを流し読みしていると、 
一つのレスに目が止まった。 
書き込まれたのはつい3時間程前で、 
詳細な目撃情報が載っている。 

「第十学区で行方不明の学生が誰かに連れて行かれるのを見た? 
第…十学区?」 


 

42: 2010/12/10(金) 19:25:53.48 ID:HQvgLVSRQ

第十学区といえば、様々な研究施設の集まるエリアだ。 
美琴は無意識の内に、拳を握り締めていた。 
研究施設― 
学園都市第1位の絶対能力者進化計画、それに伴う量産型能力者計画。 
嫌な思い出が脳裏をよぎる。 
もしこの書き込みが事実ならば、 
学生を誘拐した人物達は、何かの実験をするつもりなのかもしれない。 

「ふざけんじゃないわよ…」 

美琴はスカートのポケットから小さな端末を取り出す。 
普段は余り使う事はないのだが、ハッキングする際によく使っているのだ。 
美琴は電気を操る事が出来る為、 
電子ロックの解除や、コンピューターのハッキングも得意としている。 
行方不明事件の情報を得る為、海外のサーバーを経由し、 
第十学区にある研究施設のコンピューターに片っ端からハッキングを仕掛ける事にした。 

「絶対に…何か掴んでやる!」


44: 2010/12/10(金) 19:28:10.98 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM6:35 

パトロールを終えた黒子は、第七学区にある風紀委員の詰め所に戻って来ていた。 
街で聞き込みもしてみたが、行方不明事件について有力な情報を得る事は出来なかった。 

「一体何が起きているんですの…」 

誰にともなく呟いた黒子に、パソコンと睨めっこをしていた初春が振り返る。 
初春飾利― 
冊川中学一年生で、黒子と同じ風紀委員第177支部のメンバーだ。 
能力はレベル1なのだが、情報処理能力や洞察力には目を見張るものがあり、 
主に風紀委員のオペレーターとして高い評価を受けている。 
その初春が、パソコンのモニターを指差しながら話す。 

「白井さんに言われて行方不明者全23名のリストを取り寄せたんですが… 
少し気になる事があるんです」


45: 2010/12/10(金) 19:29:12.19 ID:HQvgLVSRQ

「気になる事?」 

黒子は初春の背中越しにモニターを覗き込む。 
そこには顔写真と共に、23名の詳細な個人情報が並んでいた。 
全員学生で、性別や年齢、在籍する学校はバラバラ。 
出身地や現住所も特に共通点は無かった。 
ただ一つ、ある項目を除いて。 

「初春…これは」 

行方不明者の個人情報には、その人物のレベルと能力も記載されている。 
黒子はその項目を何度も何度も見返した。 
見間違いではない。 
初春がモニターを見ながら呟く。 

「そうなんです。全員…"読心能力者"なんです!」


46: 2010/12/10(金) 19:37:13.67 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:13 

「取り囲まれてる!?」 

ステイルの言葉に、上条の心拍数は一気に上昇する。 
まさかこんなに早く次の手を打ってくるとは思っていなかったのだ。 
最初の襲撃が失敗し、敵も慎重になるだろうと高をくくっていた。 

「慌てるな上条当麻。 
冷静さを欠けば、君だけでなくその子も危険にさらす事になる」 

ステイルはそう言って、ベッドからシーツを剥ぎ取る。 

「僕と神裂は監視カメラに映らないようにここに来た。 
恐らく僕達がここに居る事を、彼らは知らない筈だ」 

上条は二人がベランダから現れた事を思い出す。 
確かにマンションの入り口や、エレベーター内には監視カメラが設置されている。 
二人はそれを避けてベランダから現れたのだ。


 

47: 2010/12/10(金) 19:37:58.35 ID:HQvgLVSRQ

「僕と神裂で彼らを何とかする。 
君はその子を連れて、安全な場所に隠れててくれるかな。 
この辺の土地勘は、君の方があるからね」 

ステイルは簡単に作戦を説明すると、 
最後にこう付け加えた。 

「もしその子に傷一つでも付けたら…その時は君を灰にする」 

ステイルの嘘か本当かも分からない冗談をたしなめ、神裂が作戦開始の合図を出す。 

「それでは、行きますよ!」


48: 2010/12/10(金) 19:42:33.76 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:18 

冬の日没は早く、辺りは暗闇に包まれていた。 
上条のマンションを取り囲む男達は、慎重に部屋の様子を伺っていた。 
ここに通じる道路は、工事中を装って既に封鎖してあり、 
男達はマンションの全ての出入り口に人員を配置していた。 

「あと2分で突入する。各自安全装置解除」 

リーダー格の男がインカムに合図を出すと、 
暗闇の中からカチャカチャと複数の金属音が聞こえてきた。 
男達は海外の特殊部隊のような服装で、 
全員サイレンサーを装備したサブマシンガンを携帯している。 

「目標は決して殺すな。他は構わない」 

リーダー格の男は、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。 
隠し撮りされたその写真には、白い修道服を着た少女が写っていた。 
彼が与えられた依頼は、手段を問わず、この少女を指定された場所まで連れて来る事。 
それ以外は何も知らされていない。 
彼らは元々、学園都市の裏で暗躍する"迎撃部隊(スパークシグナル)"に所属する兵士だった。 
迎撃部隊とは、学園都市の情報流出を防ぎ、関わった人物を抹消する為の部隊だ。 
しかし過去に任務で失敗、部隊は解散し、 
今は依頼があればどんな汚い仕事も引き受ける、 
裏社会の傭兵部隊に落ちぶれていた。 
メンバーは皆、リーダー格の男を慕って集まって来た、元迎撃部隊の兵士達。 
つまりは人殺しのプロ集団。


49: 2010/12/10(金) 19:43:21.86 ID:HQvgLVSRQ

「よし、全員作戦かい…っ!?」 

リーダーがインカムに指示を出そうとした瞬間、 
突然ターゲットの部屋の窓ガラスが砕け散る。 
次いでベランダから人影が飛び出した。 
暗視ゴーグルをしている男達にははっきりと見えた。 
誰かが白い修道服を着た人間を抱えて、 
ベランダからベランダへ飛び移って行く。 

「ちっ、気付かれたか!全員追え!」 

リーダーの一言で、男達は一斉に後を追う。 
ターゲットを抱えた何者かは、隣の建物の非常階段に飛び移り、屋上を目指して駆け上がる。 
どうやら建物伝いに逃げるつもりのようだ。 

「5人ずつ、4班に別れて追え!追跡プランはB!」 

リーダーの指示で、男達は訓練通り行動を開始する。 
一つの班は常に相手に姿を見せながら追跡、 
ニつの班が追い込むように、交互に相手を牽制し、先回りして待っている最後の一班の所へ誘導する。 
相手がターゲットを抱えている以上、 
無闇に発砲する訳にはいかないのだ。 
追い詰めて、確実に任務を遂行する。 
リーダーの顔に、自然と笑みが浮かんでいた。 
獲物を追い詰めるこの高揚感、そして緊張感。 

「逃げても無駄だ。必ず追い詰める!」


50: 2010/12/10(金) 19:45:01.29 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:26 

美琴は携帯端末の電源を落とす。 
第十学区にある研究施設のコンピューターを片っ端からハッキングし続け、 
ようやく全ての作業を終えたところだった。 
そこで見つけた一つの情報。 
研究施設の一つが、一ヶ月程前に23台もの学習装置(テスタメント)を搬入していた。 
学習装置とは、能力開発の為、学生の脳に、技術や知識を電気信号に変え、 
直接記憶させる装置だ。 
その使用法から、しばしば洗脳装置と揶揄される。 
学習装置自体、この学園都市では珍しく無いのだが、 
美琴が気になったのは搬入された台数だった。


 

51: 2010/12/10(金) 19:45:47.11 ID:HQvgLVSRQ

「学習装置が23台…行方不明者が23人、か」 

偶然にしては出来過ぎていた。 
それにもう一つ、データによれば、 
この研究施設は音が能力に与える効果を研究しているとある。 
例えば特定の音を能力者に聞かせ、能力の出力に強弱が出るのか。 
音楽で人の気持ちが左右されるように、 
能力にも影響を与えられるのか。 
そういった研究をしているとデータにはあった。 

「とにかく…一度黒子と合流するか」 

いくら考えても何も答えは出ず、会計を済ませ、仕方なくネットカフェを後にする。 
既に辺りは暗く、冬の寒さが肌を刺した。 

「うっ、スカートは流石に寒いわね…」


52: 2010/12/10(金) 19:47:23.61 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:38 

男達は逃げるターゲットを、使われていない廃倉庫に追い込んでいた。 
倉庫は一辺が100メートル程の正方形で、 
出入り口は二つしかない。 
その出入り口に、二人ずつ素早く配置につき、 
中のターゲットの逃げ場を塞ぐ。 
残りの男達は、慎重に銃を構えながら中に入る。 
軍用のブーツが割れたガラスを踏み、 
静かな倉庫にパキパキと音が鳴り響く。 
当然電気も通っておらず、 
男達は暗視ゴーグルを頼りに進む。 

「その女を渡せ」 

リーダーの暗視ゴーグルが、 
倉庫の奥に潜む人影を捉えた。 
傍らには白い修道服を着た人物がしゃがみ込んでいる。 

「もう逃げられないぞ」 

リーダーの言葉に、倉庫の奥から噛み殺した笑い声が聞こえてくる。 
追い詰められた人間にしては、あまりに余裕のある笑い声。 
リーダーも他の男達も、得体の知れない緊急が込み上げる。


53: 2010/12/10(金) 19:50:59.05 ID:HQvgLVSRQ

「くっ…くくっ。逃げられないのは君達だよ」 

突然倉庫の壁が勢い良く燃え上がる。 
まるで檻のように、あっという間に炎が倉庫を覆い尽くす。 
余りの眩しさに、男達は暗視ゴーグルを慌てて外し、初めて気がついた。 
白い修道服だと思っていたもの、 
それは只の白い布だった。 
その白い布を投げ捨て、中から女が現れる。 
ジーンズの片方を太ももの付け根まで切り、腰に刀を提げた長身の女。 
その女が刀を鞘から抜いた。 
長い刀身が炎を反射し、淡いオレンジ色に輝いている。 

「さぁ、色々聞かせてもらいますよ!」


54: 2010/12/10(金) 19:52:46.50 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:31 

上条とインデックスは、出来るだけ人通りの多い道を選びながら、 
安全に隠れられそうな場所を探していた。 
ステイルと神裂が囮になってくれたお陰で、 
何とか逃げ出す事が出来たのだ。 

「とうま、首がちくちくする」 

隣を歩くインデックスが、モゾモゾと首を動かす。 
変装の為に上条のパーカーを着せ、 
更に顔を隠す為にマフラーを巻いているのだが、 
どうやらそのマフラーが肌に合わないらしい。 

「ちょっとだけ我慢してくれよな。 
隠れられる場所を見つけたら、マフラーは外していいから」 

「うん…ちーくちく。ちーくちく。 
とうまのマフラーちーくちく」 

緊張感が無いのか、緊張を誤魔化す為なのか、 
インデックスは小さな声で、謎の歌を口ずさんでいる。 

「どこか隠れられる場所は…」 

上条は辺りを見渡す。 
ファミレス、デパート、コンビニ。 
様々な店が建ち並んでいるが、どこも隠れるには向いていない。 
かと言って、このまま歩き続けても仕方がない。 
上条が自分の担任の教師、月詠小萌を思い浮かべた時だった。


 

55: 2010/12/10(金) 19:54:46.55 ID:HQvgLVSRQ

「ちょっとあんた!」 

その声に慌てて振り返ると 

「あ!短髪だー!」 

お昼過ぎに別れた筈の、美琴が立っていた。 

「こんな時間にこんな場所で何してる訳?」 

美琴は上条とインデックスを交互に見ながら、 
訝しげな顔で尋ねる。 

「い、いや!別に何も!散歩ですよ、散歩っ!」 

頭を掻きながら笑う上条に、 
どれだけ誤魔化すのが下手なんだと美琴は呆れる。 
上条はどう考えても何か隠している。 


56: 2010/12/10(金) 19:55:26.35 ID:HQvgLVSRQ

「このクソ寒いのに、そんな薄着で散歩するバカがどこにいんのよ」 

美琴に指摘されて、上条は自分だけ着の身着のままで出て来た事に初めて気がつく。 
逃げる場所を探す事で頭が一杯で、 
寒いという感覚もすっかり忘れていた。 
指摘されると何故か急に、寒さに体が震えてくる。 

「はぁー…あんたはまったく。 
ほら、何があったか言いなさいよ」 

美琴は話すまでここから逃がさないといった顔で、上条に詰め寄る。 
これ以上誤魔化せないと思った上条は、 
仕方なく事情を説明する事にした。 
魔術師の話をする事は出来ないので、 
何者かに襲われ、安全に隠れられる場所を探している事だけを伝える。 
それを聞いた美琴は、腕を組みながらしばらく考え 

「いい所があるわよ。二人とも来なさい」 

そう言って、走って来たタクシーを捕まえた。 

「さ、行くわよ」


58: 2010/12/10(金) 19:57:03.90 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:42 

土御門は携帯のディスプレイに表示されている時間を、 
イライラしながら見つめていた。 
上条達と別れてから少しして、20人程の部隊に追われているとステイルから連絡があった。 
その連絡を受けてからすぐに、土御門は裏社会の情報屋に連絡を取った。 
情報屋は折り返し連絡すると言ったのだが、 
20分程経った今も、携帯は沈黙したままだった。


60: 2010/12/10(金) 19:58:39.29 ID:HQvgLVSRQ

「くそ…」 

一分一秒が惜しい今の状況で、 
待つ事しか出来ない自分に苛立ちが募る。 
開閉式の携帯電話を閉じたり開いたり。 
何度繰り返した時だろう、突然携帯電話が着信を知らせる。 

「何か分かったか!?」 

土御門は情報屋の話を一字一句逃さないように、 
しっかり頭に叩き込む。 
5分程の通話を終え、土御門は携帯電話を手にしたまま呆然としていた。 

(裏の傭兵部隊が動いているだと…) 

土御門が最初に考えていたよりも、事態が大規模になっていた。 
たかが一人の少女を攫う為に、プロの集団が動いているのだ。 
そしてそれだけの集団を動かせるのは、それなりの力がある組織でないと無理であり、つまり― 

「マジックキャンセラーっていうのも規模から考えて不自然… 
もう一度調べないといけないか…」


 

62: 2010/12/10(金) 20:17:13.93 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:42 

「撃てぇぇぇっ!」 

リーダーの指示で、男達は一斉にトリガーを引く。 
サイレンサーを付けている為、パスパスと乾いた音が倉庫に響く。 

「魔女狩りの王!」 

ステイルの声に応えて現れた炎の巨人が、 
男達の前に立ちふさがる。 

「はぁぁぁ!七閃っ!」 

炎の巨人の後ろから、神裂が刀を振るう。 
男達目掛けて光の線が縦横無尽に走り、 
サブマシンガンをバラバラに分解してしまう。 

「な、何なんだこいつらは!?」 

どんなに鋭利な刃物でも、サブマシンガンをバラバラにする程の切れ味を持つものなどない。 
そして炎の巨人。 
発火能力(パイロキネシス)のようだが、明らかにレベル4以上の力だ。 
与えられた情報では、少女と同居しているのはレベル0の少年の筈だった。 
焦る男達を見ながら、ステイルは凶悪な笑みを浮かべる。 

「さて、知ってる事を話してもらおうか」


63: 2010/12/10(金) 20:18:16.48 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM7:48 

どれくらい走っただろうか。 
上条達を乗せたタクシーは、豪華な建物の前で停車した。 

「おい、ここって…」 

清算を終えた美琴は、上条の言葉を無視してさっさとエントランスへ向かう。 

「ねぇねぇ短髪。ここはどこ?」 

インデックスは豪華な建物を物珍しそうに眺め、 
心なしかはしゃいでいるようだ。 

「お、おい御坂!ここって…」 

「そ、常盤台の寮よ」 

学舎の園にある名門常盤台中学の寮で、男子禁制。 
まさに禁断の花園だ。 
上条はひょんな事から一度訪れた事があるが、 
学園都市に住む男子、そして女子の憧れの場所なのだ。 

「ここならセキュリティーも万全だしね。 
それに、常盤台にはレベル5が2人、レベル4が47人いるから、 
無闇に手出しは出来ない筈よ」 

そう言いながら、美琴は暗証番号を入力し、 
エントランスの鍵を開ける。


64: 2010/12/10(金) 20:19:46.91 ID:HQvgLVSRQ

「寮長に見つかるとマズい…というか命の保証は出来ないから、 
ちょっとここで待ってなさい」 

立ち尽くす二人を残し、美琴はさっさと中に入っていってしまった。 
どうやら様子を伺いに行ったらしい。 

「ねぇとうま。ちくちくする」 

「まだ気になってたのかよ…もうマフラー取っていいぞ」 

そんなくだらないやり取りをしながら待っていると、 
美琴が中から手招きする。 

「今なら大丈夫よ。さっ、早く入って」 

そこは寮というより高級ホテルの様だった。 
調度品一つとっても、きっと上条には手の届かない程高価な物なのだろう。 
周りを警戒しながらしばらく歩くと、208と書かれたプレートの掲げられた部屋に辿り着いた。


65: 2010/12/10(金) 20:20:42.90 ID:HQvgLVSRQ

「ここが短髪の部屋?」 

「そうよ。まぁ私だけじゃないけどね。 
ほら、早く入りなさい」 

室内は綺麗に整理整頓されており、 
仄かに甘い香りがする。 
その女の子の部屋特有の甘い香りに、 
上条はガチガチに緊張してしまう。 

「何突っ立ってんのよ。適当に座っていいから」 

御坂は二つあるベッドの片方に腰掛けると、 
上条にも座るように促した。 
遠慮を知らないのだろうか、 
インデックスは美琴の向かい側のベッドに寝転んでいる。 
大の字で。 

「さて、ちゃんと話してよね」


 

66: 2010/12/10(金) 20:22:05.83 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM8:05 

ステイルは床に倒れている男達を一瞥し、煙草に火をつける。 
いくら武装したプロの戦闘集団といえども、 
何度も死地をくぐり抜けた炎の魔術師と、世界に20人程しかいない聖人を前に、 
勝利の可能性など少しも残されていなかった。 

「第十学区の研究施設に雇われた傭兵達か…やっぱりたいした情報は持っていなかったね」 

リーダーの男を締め上げて、ようやく聞き出せたのはたったこれだけ。 
しかしたいして期待していなかったステイルと神裂は、落胆する事はなかった。 
もともと傭兵というのはそういう存在なのだ。 
細かい事など気にしない。 
金さえ貰えれば、どんな仕事も請け負う。 
そういう存在。 

「ステイル、あの子達が心配です。 
すぐに合流しましょう」 

神裂はジーンズのポケットから携帯を取り出すと、 
電話帳の中から上条の番号を呼び出す。 

「神裂です。上条当麻、今どこにいるのですか?」


67: 2010/12/10(金) 20:23:21.18 ID:HQvgLVSRQ

神裂が上条と話している間、ステイルは一人考えていた。 

(どうもおかしいね…インデックス一人を攫う為にしては、相手の動きが余りに大掛かりだ) 

最初に襲撃して来たのは一人の男。 
恐らくそれで事足りると思ったのだろうが、 
それが失敗してからの、相手の動きが余りに大掛かり過ぎるのだ。 
たかが一人攫う為に、傭兵部隊まで動員して来た事。 

(つまり…相手の計画には絶対にあの子が必要…という訳か) 

そこまで考えて、ステイルは少し違和感を感じた。 
インデックスを狙っているという事は、 
すなわち10万3000冊の魔導書を狙っているという事になる。


68: 2010/12/10(金) 20:26:51.62 ID:HQvgLVSRQ

魔導書はどれも強力で、目を通しただけで精神は破壊され、 
命を落としてしまうようなものもある。 
魔術を封じる装置、マジックキャンセラーを造るには、 
その力は余りに不釣り合いなのだ。 
造る装置に対して、使うエネルギーが桁違いに多い気がする。 

(土御門の情報に、何らかの誤りがあるかもしれないね) 

ステイルは短くなった煙草を捨て、新しい煙草に火をつける。 

「ステイル、あの子達は無事です。 
今いる場所も聞きましたので、早く向かいましょう」 

ステイルは小さく頷くと、神裂と共に倉庫を後にする。


69: 2010/12/10(金) 20:27:52.94 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM8:10 

神裂からの電話を受けた上条は、 
自分達の居場所を告げて通話を切った。 
その様子を見ていた美琴は、心配そうに尋ねる。 

「あんた、そんなあっさり居場所を教えて大丈夫な訳?」 

「あぁ、大丈夫だ。今のは信用出来る仲間だからな」 

そう言いながら、上条はベッドから立ち上がる。 

「俺は今から出掛けるから、インデックスの事頼めるか?」 

「出掛けるって、あんた…一体何する気なのよ?」 

「そうだよとうま!とうまが行くなら私も行く!」 

上条にしがみつくインデックスを引き剥がし、 
上条はベッドに座らせる。 
もちろん傍にいて守れるなら、上条だってそうしたかった。 
しかし、今の状況を考えると、インデックスを外に出すわけにはいかない。


 

70: 2010/12/10(金) 20:28:38.75 ID:HQvgLVSRQ

「ダメだ。インデックスはここにいてくれ。必ず戻ってくるから」 

上条はインデックスの頭をポンポンと叩くと、 
そのまま部屋から出て行ってしまった。 

「あっ、とうま!」 

上条の後を追い掛けようとしたインデックスの腕を、 
御坂がしっかりと掴まえた。 

「離してよ短髪!とうまが行っちゃうんだよ!」 

暴れるインデックスを抱き締めて、 
美琴は優しく話し掛ける。 

「良い?あのバカはあんたの安全を考えて、一人で行くって決めたの。 
その気持ちを無駄にしちゃダメよ」 

「短髪…」 

御坂にもよく分かる。 
インデックスと同じ気持ちなのだ。 
ただ待つ事しか出来ない悔しさ、 
自分の為に傷付く上条を見る苦しさ。 
それでも― 
御坂は信じている。 
きっとインデックスも。 

「大丈夫。あのバカはきっとすぐ帰ってくるわよ」


71: 2010/12/10(金) 20:29:35.91 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM8:15 

土御門は第十学区に向かいながら、ステイルの携帯を呼び出す。 

「ステイル、傭兵部隊が動いてる」 

恐らくもう衝突しているかもしれないと、土御門は思っていた。 
案の定 

『彼らなら少し休んでもらってるよ。 
働き過ぎのようだったからね』 

ステイルはそう言って鼻で笑う。 
こんなに嫌味な人間を、土御門はステイル以外知らなかった。 

『それより、少し気になる事がある』 

「あぁ、多分俺も同じ事を考えていた。 
マジックキャンセラーを造るのに、禁書目録の魔導書は力が強過ぎる」 

土御門が得た情報では、 
マジックキャンセラーはAIMジャマーのような装置という事だったが、 
どうも信憑性に欠けるのだ。 
もしインデックスの魔導書を何らかの形で利用するのなら、 
そんな単純な物を作るだろうか。


74: 2010/12/10(金) 21:01:39.58 ID:HQvgLVSRQ

『あの子の中の知識を使うなんて… 
大規模な…それこそ一国を相手に出来るような装置でも造るつもりなのか』 

「そこまではまだ分からない。ただ、マジックキャンセラーは敵が巧妙に用意したブラフの可能性が高いな」 

本当の目的を嘘で隠し、その上を更に嘘で隠す。 
土御門が得た情報は、最初の嘘を剥がしただけ。 
敵にまんまと掴まされた情報だったという訳だ。 

「ただ、状況から考えて、対魔術師用っていうのは間違っていないはずだ」 

敵の狙いが魔導書である事。魔術側と相容れない科学側と手を組んでいる事。 
それにもう一つ、土御門には確証があった。 

「嘘を吐く時に大事なのは、嘘の中にほんの少し真実を混ぜる事だ。 
それだけで信憑性がグッと上がるからな」 

嘘が下手な人間には特徴がある。 
それは吐かなくていい部分まで嘘を吐く事だ。 
相手が気にしていない事、言わなくても良い事。 
こういう部分で嘘を吐くと、後で必ずボロが出る。 
嘘を吐くべき部分と真実を言うべき部分。 
スパイである土御門は、それを良く分かっていた。


 

75: 2010/12/10(金) 21:02:21.62 ID:HQvgLVSRQ

『対魔術師用という部分は本当で、マジックキャンセラーという部分が嘘だった訳か。 
まんまと騙されたね』 

ステイルは携帯の向こうで、自虐的に笑う。 

「もし大規模な対魔術用の装置だった場合、 
こちらの戦力じゃ厳しくなるかもしれない」 

『今から応援を頼んだところで、到着するのは明日だろうね。 
敵が大掛かりな行動に移っているところを見ると、 
装置自体はもう完成しているんだろう』 

「あぁ。装置が完成していないのに、禁書目録を攫う必要はないからな。 
そんな事をすれば、装置が完成していないのに禁書目録の捜索が始まり、 
確実に計画の邪魔になるだろうしな」 

装置が完成していると仮定すれば、残された鍵はインデックスだった。 
インデックスの頭の中にある10万3000冊の魔導書で、一体何をするつもりなのか。 

『とにかく今は僕達で何とかするしかないみたいだね。』 

「あぁ、俺は傭兵部隊を雇った第十学区の研究施設に行ってみる」 

「僕と神裂は、上条当麻と一度合流するよ。 
君は何か分かったら連絡をくれ」 
そう言ってステイルは通話を終了した。 
少し、ほんの少し、土御門は真実に近付いている気がしていた。 

「あとは…学園都市がこの件にどこまで介入しているかだな」


76: 2010/12/10(金) 21:03:39.44 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM8:42 

上条が出て行ってから、美琴の部屋は重い沈黙に支配されていた。 
上条の事も気になるのだが、美琴は行方不明事件の事を考えていた。 
今分かっているのは、第十学区の研究施設が関係している事。 
ただそれだけだった。 
重い沈黙を破るように、突然美琴の携帯が鳴り響く。 
ディスプレイを見ると、この部屋のもう一人の住人、白井黒子だった。 

「もしもし黒子?何か分かったの?」 

『遅くなって申し訳ありません、お姉さま。 
ですが、一つだけ分かった事がありますの』 

美琴は聞き逃さないよう、携帯をしっかり握り直す。 

『行方不明になっている学生23名。全員に共通点がありましたの』 

「共通点?」 

『はい、レベルに違いはありますが…全員が読心能力者でしたわ』 

「読心…能力者?」 

確かに美琴がネットカフェで見た情報にも、 
行方不明者の一人が読心能力者だと書いてあった。 
しかし、美琴には見当も付かない。 
読心能力者を23人も誘拐して、一体何をしようというのか。


77: 2010/12/10(金) 21:04:47.12 ID:HQvgLVSRQ

『で、お姉さまは何か分かりましたの?』 

「行方不明になった学生の一人が、第十学区の研究施設に 
連れて行かれるのを見たって、ネットに書き込みがあったわ。 
それにその研究施設…」 

美琴はハッキングで分かった事を黒子に伝える。 
その研究施設が23台の学習装置を搬入していた事、 
その研究施設は音を専門に扱う研究施設だという事。 
電話の向こう、黒子が初春に指示を出しているのが聞こえる。 
恐らく美琴の情報を確認させているのだろう。 

「ときにお姉さま…この情報、まさかハッキングした訳ではありませんわよね?」 

「う…」 

突然指摘された美琴は、言い訳も思い浮かばずに口ごもる。 

「はぁー、やっぱり。いいですの、お姉さま。 
黒子がいつも申し上げているように、ハッキングというのは犯罪で…」 

黒子のお説教が長引く前に、美琴は慌てて通話終了ボタンを押す。 
黒子のお説教は、接続が切れた事を知らせる電子音に変わっていた。 

「第十学区…行ってみるしかないか」


78: 2010/12/10(金) 21:06:06.53 ID:HQvgLVSRQ

美琴はチラリとインデックスに視線を移す。 
インデックスは連れてきた猫を抱いて、 
ベッドの上に大人しく座っている。 

(この子を置いて行く訳には…いかないわよね) 

一人になれば、恐らく上条の後を追って出て行ってしまうだろう。 
長い付き合いではないが、美琴には何となくそれが分かる。 

(という事は…) 

美琴はおもむろに立ち上がると、黒子のクローゼットを開き、 
何かをゴソゴソと探し始めた。 
インデックスは、その様子をキョトンとした表情で見ている。 

「よし、あんた。これに着替えなさい」 

美琴は黒子のクローゼットから取り出した何かを、 
インデックスに向かって放り投げる。


 

79: 2010/12/10(金) 21:08:06.62 ID:HQvgLVSRQ

「これ…」 

インデックスがそれを広げてみると、 
美琴が着ているものと同じ、常盤台の制服だった。 

「黒子とあんたは背も近いし、多分着れるでしょ?」 

「でも短髪、何の為に?」 

「私も確かめなきゃいけない事が出来たのよ。 
でもあんたを一人にはしない。 
だからそれに着替えて一緒に来なさい」 

そう言いながら美琴は、インデックスの修道服を脱がし始める。 
一体どうやって着ているのか、 
あちこち安全ピンで留められた修道服は、 
脱がすのにも一苦労だ。


81: 2010/12/10(金) 21:11:38.76 ID:HQvgLVSRQ

「あんたは必ず私が守ってみせる」 

命に代えても、とは言わなかった。 
それは相手に言うべき事ではない。 
もしそんな事を言って、本当に死んでしまったら。 
守られた方は、自分のせいだと一生苦しみを背負う事になる。 
だから美琴は、自分の心の中で誓った。 
上条に頼まれたのだ。インデックスを頼む、と。 
美琴にとってそれは、命を掛けるにふさわしい約束だった。 

(あんたは何があっても私が守ってみせるからね) 

インデックスを着替えさせ、美琴は自分の頬をピシャリと叩く。 

「よし!行くわよ!」


82: 2010/12/10(金) 21:13:27.66 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM8:17 

上条は常盤台中学学生寮の近くで、ステイル達と合流していた。 
上条は、インデックスを預けている事、 
預けたのは信頼出来る人物という事をステイル達に伝えた。 
初めは怒っていたステイルも、神裂に宥められ、今は落ち着いている。 
次にステイルは襲撃者達を倒した事を伝え、 
更に土御門と話した事、 
マジックキャンセラーがブラフである可能性も伝えた。 

「上条当麻、土御門は第十学区に向かった。 
僕達もそこに行く」 

土御門の情報では、傭兵を雇った研究施設は、 
第十学区の外れにある、音を専門に扱う研究施設らしい。 
上条は携帯で学園都市の地図を呼び出し、場所を確認する。 

「第十学区か…行方不明事件といい、どうなってんだよ第十学区は…」 

上条は、美琴に匿ってもらっている時に聞いた話を呟く。 
何の気なしにしていた話で、上条もつい呟いただけだったのだが―


83: 2010/12/10(金) 21:14:33.62 ID:HQvgLVSRQ

「行方不明…?上条当麻、その話を詳しく聞かせろ」 

何故かステイルが食いついた。 
呆気にとられる上条を余所に、神裂も何かを考えている。 
上条は美琴から聞いた話を二人に教える。 
昨日から合わせて23人の学生が行方不明になっている事。 
その内の一人が、第十学区で目撃された事。 
上条はそれ以上は知らなかった。 

「大規模な魔術を行う場合には、 
それに合わせて人数を揃える必要がある場合があります。 
例えばグレゴリオの聖歌隊のように」 

何かを考えていた神裂が口を開く。 
グレゴリオの聖歌隊。 
三沢塾の事件の際、規模は違うが、上条も実際に見ている。 
3333人の修道士が祈りを捧げ、任意の場所を、光の矢で灰にしてしまう強力な魔術だ。 

「もしかしたら、行方不明の23人も、今回の事件と何か関係あるかもしれません」 

「とにかく、話は第十学区へ行ってからだ。行くぞ」


 

86: 2010/12/10(金) 22:00:09.36 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM9:11 

第十学区の研究施設に向かって走っていた土御門は、 
思わぬ組み合わせの人物を見つけて立ち止まる。 

「あれは…」 

常盤台中学の制服を着た二人組。 
片方は学園都市第3位のレベル5、【超電磁砲】御坂美琴。 
そしてもう一人。 
常盤台中学の制服を着て、髪もツインテールにしているが、 
間違いなくインデックスだった。 
土御門は思わず駆け寄り声を掛ける。 

「よっ、お二人さん」 

ヘラヘラとした態度を装うが、サングラスの奥、 
土御門の目は絶えず周囲を警戒している。


87: 2010/12/10(金) 22:01:14.55 ID:HQvgLVSRQ

「あ、あんたは確かあのバカの…」 

美琴にも見覚えがあった。 
上条と時々一緒にいる人物だ。 

「そ、カミやんのクラスメートだにゃー。 
そっちの小さいのは確かカミやんちの…」 

土御門は敢えて知らない振りをしながら、 
状況を探っていく。 

「あぁ、この子はあのバカに預かったのよ。 
色々事情があってね」 

「そうか。んで二人はこんな時間に何をしてるんだ? 
もう完全下校時刻は過ぎてるぜぃ」 

「まぁちょっとね」 

誤魔化す美琴に、土御門は少しカマを掛けてみる事にした。 

「第十学区にでも行くのかにゃー?」 

「え…何でそれを…」 

効果は思った以上だった。 
美琴は明らかに狼狽している。 
しかし、次に美琴の口から出て来たのは、 
土御門も知らない話だった。


88: 2010/12/10(金) 22:02:15.60 ID:HQvgLVSRQ

「まさか…あんたも行方不明事件を追ってんの?」 

土御門はてっきり、美琴は自分達と同じ意図で動いているものだとばかり思っていた。 
探りを入れる為、土御門は更にカマを掛ける。 

「そう、俺もその事件を追ってるんだにゃー。 
結構有益な情報も持ってるぜぃ。 
ここは情報交換といかないか?」 

美琴は暫く考え、そして小さく頷いた。 

「私が知ってるのは、昨日から今日までの行方不明者は23人。 
その全員が学生で、しかも皆読心能力者。 
その内の一人が第十学区の、音を専門に扱う研究施設で目撃されてる。 
こんなとこね。で、あんたは?」 

美琴の話を聞いて、土御門の心拍数が一気に上がる。


89: 2010/12/10(金) 22:03:22.56 ID:HQvgLVSRQ

「なんだ、俺もまったく同じ情報しか持ってないぜぃ。 
俺だけのスクープだと思ったのににゃー」 

「何よそれ。それじゃあ何の役にも立たないじゃない」 

美琴はそう言いながら、インデックスの手を引いて去って行く。 
美琴が一緒なら、インデックスは大丈夫だろうと土御門は考える。 
それより― 

「23人の行方不明者に…読心能力」 

どうも今回の事件と無関係ではなさそうだ。 

「まさかな…」


 

91: 2010/12/10(金) 22:06:52.16 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM9:19 

上条達は、第十学区への近道をする為、 
今は使われていない廃工場の敷地を走っていた。 
廃工場の敷地は意外と広く、工場の建物以外は見渡す限りコンクリートの地面しかない。 

「あのフェンスの向こうが第十学区に続く大通りの筈だ」 

上条は携帯の地図を確認しながら走る。 
およそ200メートル程先に、ボロボロのフェンスが見えていた。 
フェンスの向こう側に、疎らながら車が走っているのも見える。 

「急ぐぞ」 

ステイルが後ろを走る神裂に視線を向けた時だった。 
突然ゴバッ!という音と共に、神裂目掛けて巨大なコンテナが落ちて来た。 

「ちっ、敵襲みたいだね!」 

何百キロもあるコンテナが、自然に落ちてくる筈はない。 
明らかに誰かが故意に落としたのだ。 

コンテナは神裂の目の前に落ちた為、前を走る上条とステイルの足は止まらなかった。 
だが神裂はその場で足止めを喰ってしまう。


92: 2010/12/10(金) 22:08:11.23 ID:HQvgLVSRQ

「ここは私が!二人は先に行ってて下さい!」 

そう叫んで素早く刀を抜き、 
敵の姿を探す。 

「分かった。ここは君に任せるよ、神裂」 

「気をつけろよ、神裂!」 

二人の姿が消えるのを見届け、神裂は暗闇に向かって声を掛ける。 

「出て来て下さい。私を狙ったのでしょう?相手になります」 

廃工場は電気も通っておらず、僅かな月明かりに照らされているだけだった。 
その暗闇の中から、月明かりの下へ誰かが歩いてくる。 

「腰に刀を提げた女か…やッぱどォ見てもテメェだよなァ?」 

現れたのは杖を突いた少年だった。 
髪も肌も真っ白で、その分赤い瞳が際立って見える。 

「あなたは何者ですか?」 

神裂は刀を構え、相手の動きを慎重に観察しながら尋ねる。 

「ンな事これから俺に倒される奴に言ってもしょォがねェだろォが」 

彼は首のチョーカーに触れただけで、 
構える事も、向かって来る事もしない。 
余裕、それが全身から溢れ出していた。


93: 2010/12/10(金) 22:10:01.46 ID:HQvgLVSRQ

「では…こちらから行きますよ!」 

神裂は腰に構えた刀を、大きく振り上げる。 

「七…閃っっ!」 

月明かりに照らされた七本の極細ワイヤーが、 
光の線を描きながら彼に襲い掛かる。 
ワイヤーは標的を確実に捉えた、 
その筈だった。 

「うっ…ぐあっ!」 

突然神裂の全身に激痛が走る。 
体のあちこちから血がながれ、 
危うく膝をつきそうになる。 

「何…が?」 

神裂が自分の体を確認すると、まるで切り刻まれたかのように、 
全身が細い傷だらけになっていた。


95: 2010/12/10(金) 22:13:47.81 ID:HQvgLVSRQ

(彼も…ワイヤーを?) 

神裂は痛みを抑えつけ、もう一度刀を構える。 

(くっ…次は…全力で!) 

「はぁぁぁぁ!!」 

神裂は全身に力を込める。 
聖人の力を解放していなくても、全力で七閃を放てば、並みの人間なら再起不能になるはずだった。 
しかし― 

「七閃っっっ!!」 

ワイヤーは確実に彼を捉えた筈だったのだが、 
その場に倒れ込んだのは攻撃した神裂の方だった。 

「かはっ…うっ…何…が?」 

倒れ込んだ神裂に、彼は一歩ずつ、 
ゆっくりと近付いて来る。


 

97: 2010/12/10(金) 22:17:27.02 ID:HQvgLVSRQ

「なんだァ?もう終わりかよ。サムライ女なら、武士道とかいうの見せてみろよ」 

そう言って神裂の腹に蹴りを入れる。 

「ぐっ、あぁぁぁっ!」 

ひ弱そうな体格の何処にそんな力があるのか。 
蹴られただけで10メートル程地面を転がった。 
コンクリートに全身を打ちつけ、 
傷口から更に血が溢れ出す。 
ポケットの中、携帯電話が粉々に砕け、 
破片が太ももに突き刺さっていた。 

「ぐっ…うぅっ!」 

神裂は次の攻撃を防ぐ為、刀を使って無理矢理体を引き起こす。 

「反射魔法のようなもの…ですか」 

魔術師は様々な防御魔法も持っており、 
反射魔法もその中の一つだ。 
そのままの意味で反射。 
相手の魔術を、魔法陣で防ぐのだ。 
反射と名は付いているが、実際は打ち消したり、 
軌道を逸らしたり。 
彼の使っている力とは似て非なるものだった。 
二度の攻撃で分かったが、彼は神裂の攻撃を、 
そのまま神裂に跳ね返したのだ。


98: 2010/12/10(金) 22:20:55.71 ID:HQvgLVSRQ

「あン?魔法?頭ン中メルヘンだなァ、オイ。 
まァ厳密に言えばベクトル操作って能力なンだけどな」 

「ベクトル…操作?」 

彼は神裂が立ち上がったのに、何一つ警戒していない。 
それどころか、余裕の笑みで言葉を吐き出している。 

「まァ、分かったところでテメェにはどォする事も出来ねェし、 
特別に教えてやるよ。 
俺はあらゆるベクトルを操作出来る。 
今は必要なもの以外反射するよォに設定してあるから、 
テメェの攻撃じゃァ、俺に傷一つつけられねェって訳だ」 

つまり、いくら神裂が攻撃したところで、 
それはそのまま神裂に返ってくるのだ。 
聖人の力を解放したとしても、勝てる可能性はかなり低そうだ。


102: 2010/12/10(金) 23:02:00.69 ID:HQvgLVSRQ

「テメェがあのガキにちょっかい出そうとしなきゃ、 
早死にしなくてすンだのによォ」 

彼は口の端を釣り上げて笑っている。 

「あのガキ?あのガキとは何ですか?」 

神裂に心当たりはない。 
ステイルは見た目から除外するとして、 
そもそも神裂の周りにいるガキと言える人物は、 
上条とインデックスくらいしかいない。 
あの二人にちょっかいを出しているのは、 
神裂ではなく敵の方なのだ。 
彼の言うあのガキとは、一体誰の事なのか。 

「誤魔化してンじゃ…ねェッ!!」 

彼は足の裏に集まる風のベクトルを操作し、 
爆発的な推進力を得る。 
神裂との間合いは一瞬でゼロになり 

「おらァァァァァァッ!!」 

そのまま勢いを利用し、神裂の顔面に拳を叩き込む。 

「くっ…っ!」 

咄嗟に刀の鞘で防御した神裂は、 
その余りの圧力に、滑るように地面を後退する。


103: 2010/12/10(金) 23:03:31.37 ID:HQvgLVSRQ

(彼の能力はベクトル操作…反射…) 

力で挑んでも、それは全て自分に返ってくる。 
神裂は別の活路を模索していた。どうすれば勝てるのか。 

(勝てる可能性は低い…そう、"勝てる"可能性は!) 

神裂は素早く距離を取り、ワイヤーを壁や地面に打ち込んでいく。 

「なンだよそれ?防御のつもりかァ?」 

彼の言葉に耳を貸さず、 
ひたすらワイヤーを周囲に張り巡らせていく。 
複雑に、しかし正確に。 

「無駄だっつってンだろォがよォォっ!!」 

彼は再度地面を蹴る。 
ワイヤーを引きちぎり、神裂の体を今度こそ破壊する為に。 
しかし―


 

105: 2010/12/10(金) 23:05:51.83 ID:HQvgLVSRQ

(なっ…体が…動かねェ!?) 

地面を蹴った瞬間、目の前に巨大な光が現れた。 
それを見た途端に、体が動かなくなったのだ。 

「体を拘束する初歩的な魔術です。 
この魔法陣は見た者の脳に作用し、一時的に体の自由を奪います」 

(なンだ?なンだなンだこれはァァァ!?) 

当然口を動かす事も出来ず、彼は石像のようにその場に立ち尽くす。 

「あなたに勝つ必要はありません。 
私は私の目的を果たせれば良いのですから」 

そう言ってその場から去っていく。 

(なンなンだよクソがァァァ!)


106: 2010/12/10(金) 23:07:01.89 ID:HQvgLVSRQ

彼の敗因。 
それは、光を反射しなかった事だった。 
光を反射すれば、当然視界は確保出来なくなる為、 
彼は光を反射するという選択肢を持っていなかった。 
神裂はそれに気付き、視認する事で効果を発動する魔術を行使したのだ。 
戦況に応じて臨機応変に対応し、最善と判断すれば、勝ちに拘らない。 
それが聖人であり一流の魔術師、神裂火織だった。 
神裂は少し歩いたところで振り返り、彼に声を掛ける。 

「2、30分程で動けるようになります。 
それから…あなたの言う"あのガキ"が誰を指すのか分かりませんが、 
私は誰かを狙ったりはしていませんので」 

そう言い残し、今度こそ走り去ってしまった。


107: 2010/12/10(金) 23:08:30.40 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM9:38 

第十学区に向かっていた筈の土御門は、 
あるビルの一室に居た。 
壁という壁がチューブの様な物に埋め尽くされ、 
静かな室内には、低く機械の稼働する音だけが響いている。 
部屋の中央には、何かの液体で満たされた巨大な筒があり、 
その中に逆さまの状態で人が浮かんでいた。 
人という表現が適切なのだろうか。 
その人物は、少年の様でもあり、青年の様でもある。 
男の様でもあり、女の様でもある。アレイスター・クロウリー― 
学園都市を造った人物にして、この街の最高責任者。 
そして、元世界最高の魔術師。 


「久しぶりだね。土御門元春。元気そうで何よりだ」 

男とも女ともとれる声で、アレイスターが話し掛ける。 

「それは皮肉か?アレイスター」 

土御門はアレイスターの挨拶に苛立ちを覚える。 
何もかもお見通しのくせに、元気そうで何よりなどと平気で言う。 
皮肉なのか本心なのか。 
それすら掴めないので、益々苛立つ。


 

108: 2010/12/10(金) 23:10:47.85 ID:HQvgLVSRQ

「まぁいい。アレイスター、一つ聞きたい事がある」 

無駄話をしても苛立つ一方なので、土御門は話を切り出す事にした。 
土御門が今一番知りたい事。 

「今学園都市で起こっている事。お前は全部知っているんだろう」 

アレイスターは学園都市内部の出来事を全て把握出来る状態にある。 
超極小のナノマシンを空気中に散布し、 
そこから学園都市の全ての情報を得ているのだ。 
案の定、アレイスターはそれを簡単に認める。 

「ああ。知っている。それがどうしたのかね?」 

「それがどうした…だと? 
対魔術師用の兵器を学園都市が開発しているなんて事が各国にバレてみろ、 
間違いなく戦争になるぞ」 

実際、土御門は最初からイギリス清教に全ての情報は渡していなかった。 
"禁書目録を狙われているかもしれない"としか伝えていないのだ。 
アレイスターの表情は一切変わらず、 
土御門の言葉に何を感じているのかも分からない。


109: 2010/12/10(金) 23:13:07.75 ID:HQvgLVSRQ

「そうかもしれない。"バレたら"の話だがね」 

「バレ…たら?まさか!?」 

土御門は何かに気付き、怒りで拳を握り締める。 

「統括理事会も一枚噛んでいるな。対魔術師用兵器が禁書目録という鍵を使い完成した場合、 
学園都市はそれを秘密裏に自分達の物にする。 
そういう筋書きか。」 

土御門の推測を聞いても、アレイスターは否定も肯定もしなかった。 

「仮に兵器がステイル達に潰されても、学園都市には何のダメージもないしな」 

つまり、兵器が完成しようがしまいが、学園都市にとっては0か1。 
マイナスにはならないのだ。 
土御門達は、最初からアレイスターの手のひらの上で踊らされていたという訳だ。 
土御門はアレイスターに、そして何より気付かなかった自分自身に腹が立っていた。


110: 2010/12/10(金) 23:14:46.95 ID:HQvgLVSRQ

「それからもう一つ。ねーちんに一方通行をけしかけたのは誰だ?」 

実はここに来る直前、土御門は神裂から、襲撃を受けたと連絡をもらっていた。 
襲撃して来た人物の特徴を聞いて、すぐに一方通行だと分かったのだ。 
土御門と一方通行は同じ裏の組織に所属しており、 
本来なら四人一組で行動するのが決まりだ。 
つまり、正規のルートで命令が出ていないという事。 
何者かが神裂とぶつかるように小細工をしたのだ。 

「いや、答えなくてもいい。 
どうせその兵器開発に一枚噛んでるどっかのお偉いさんだな」 

「魔術師最強の聖人と超能力者最強のレベル5。 
なかなか面白いものが見れたよ」 

国の利益や地位、そして名誉、娯楽、興味。 
そんなくだらないものの為に、弄ばれる人間達が世界中にたくさんいる。 
土御門はアレイスターに背を向け、ビルから出る為に案内人を呼ぶ。 
そして最後にこう言った。 

「お前のそのくだらない幻想。 
いつかあいつに殺されるかもな」 

幻聴だったかもしれない。 
アレイスターの笑い声が聞こえた気がした。


 

111: 2010/12/10(金) 23:26:35.88 ID:HQvgLVSRQ

12月24日PM10:02 

上条とステイルは、姿勢を低くして辺りの様子を伺っていた。 
第十学区の外れ、目的の研究施設が見える。 
距離はおよそ300メートル程か。 
ステイルは上条に携帯の電源を切るように指示し、 
自分も明かりが漏れない様、注意して電源を切った 
。 
「あの建物か。幸い、周りに他の建物は無いみたいだね」 

音を専門に扱う研究施設だからだろうか、 
周りには他の建物はなく、広大な土地が広がっている。 
舗装もされていない砂地のせいで、まるで砂漠の中に取り残されているようだった。 
研究施設の灯りが所々ついているとこを見ると、 
中に人がいるのかもしれない。 

「さて、敵も僕達が来る事くらい分かっているだろう。 
隠れる場所も無さそうだし、のこのこ近付いたら蜂の巣にされそうだね」 

ステイルは煙草を取り出し、火をつけようとして 

「ちっ…」 

そう言って煙草をしまう。 
例え小さな火の灯りでも、居場所を悟られると思ったのだろう。


112: 2010/12/10(金) 23:29:07.62 ID:HQvgLVSRQ

「とにかく、近付く方法を見つけないとな」 

上条とステイルが建物に意識を向けた時だった。 
背後でジャリっと砂を踏む音が聞こえた。 

「っ!?」 

敵に背後を取られたと思い、咄嗟に振り向いた二人は 

「あ…」 

間の抜けた声を出す。 
そこにいたのは常盤台中学の制服を来た二人の少女だった。 

「あ、あんた!何でこんなとこにいんのよ?」 

美琴は上条達の様に身を屈めながら驚いている。 

「御坂こそ…つーか、インデックス。何だその格好は?」 

最後に見た時は確かに白い修道服だったのだが、 
今は常盤台中学の制服を着ている。 
その上、髪の毛もツインテールになっていた。 

「これ?これは短髪が変装の為に着せてくれたんだよ。 
似合う、とうま?」 

上条はステイルをチラリと見やる。 
今にも似合うよと言いそうな顔で、インデックスをまじまじと見ていた。 
そんなステイルを見て、上条の中にほんの小さなイタズラ心が芽生える。


113: 2010/12/11(土) 00:00:45.00 ID:C+1vRQ8UQ

「良いんだぞ、ステイル。言ってやれ、可愛いって」 

「なっ、ばっ、バカな!僕はそんな事これっぽっちも!」 

そう言ってそっぽを向くステイルを、 
分かりやすいやつだと思いながら、 
上条は美琴に尋ねる。 

「もう一度聞くけど、御坂は何でここにいるんだ?」 

美琴は今までの経緯を簡単に説明していく。 
行方不明事件の事、それについて今分かっている情報。 
話を静かに聞いていたステイルが、 
小さく 

「読心能力者…?」 

そう呟いて、また黙り込んでしまう。 

「そう、行方不明になったのは全員読心能力者よ」 

物怖じしない性格なのだろう、美琴はステイルを気にする事なく話している。 

「そう言えばあんたも狙われてんでしょ?」 

御坂はインデックスに尋ねるが、代わりに上条が答える。 

「あぁ、インデックスは第十学区に雇われた奴らに狙われてたんだ」 

それを聞いた御坂の顔が、みるみる険しくなる。


115: 2010/12/11(土) 00:02:38.53 ID:C+1vRQ8UQ

何かマズい事を言ったのだろうか。 
上条が取り敢えず謝ろうか考えていた時 

「あんた、そういう大事な事はもっと早く言いなさいよ!」 

先に御坂が上条の頭にゲンコツを落とした。 

「この施設がこの子を狙ってるんでしょ? 
私この子連れて来ちゃったじゃない!」 

「ちょっと待て御坂! 
俺もお前に会った時は詳しいこと何も知らなかったんだって!」 

ゲンコツの落ちた場所を撫でながら、上条は必死に弁解する。


 

116: 2010/12/11(土) 00:04:14.25 ID:C+1vRQ8UQ

「ん?あの施設に狙われてんのよね?じゃああんたも読心能力者?」 

美琴はインデックスを疑いの眼差しで見つめながら 

「んな訳ないわよね」 

勝手に一人で納得してしまう。 

「ちょっと短髪!私違うなんて一言もこれっぽっちも言ってないんだよ!」 

「じゃあ読心能力者なの?」 

「違う!全然違うんだよ!」 

「あんたね…」 

自慢気に胸を張るインデックスを、美琴は呆れた顔で眺める。 
どうやら突っ込むのも面倒な様だ。 

そんな二人のやり取りの隙を突いて、 
先程から何か考え込んでいたステイルが、そっと上条に何かを手渡した。


117: 2010/12/11(土) 00:05:55.83 ID:C+1vRQ8UQ

「ん?何だこれ…」 

上条の左手には、何か魔法陣のような模様や、 
見たことの無い文字の書かれたカードが乗っている。 

『上条当麻、声を出さずに聞け』 
突然ステイルの声が頭に響く。 

「えっ!?」 

慌ててステイルの方を見る上条。 
だがステイルは相変わらず辺りを警戒していて、話し掛けてきた様子はない。 

『上条当麻、そのカードは魔術による通信機のようなものだ。 
声を出さずに、頭の中で会話しろ』 

やっと理解した上条は、慣れない頭の中の会話を試みる。


118: 2010/12/11(土) 00:06:42.43 ID:C+1vRQ8UQ

『な、なんか変な感じだな。 
で、何だ?』 

『さっきから考えていた。行方不明者は全員読心能力者と言っていたね? 
具体的にはどういう能力なんだ?』 

『そりゃその名の通り、考えている事を読み取ったり、記憶を読み取ったり…』 

美琴とインデックスは相変わらず小声で何か言い合っている。 
ステイルは二人から上条に視線を移すと 

『それが奴らの狙いだったみたいだね』 

『は?』 

『君は本当に察しが悪いね。それはもう…尊敬の念すら覚えるよ』 

そう言ってやれやれといったジェスチャーをする。 

『いいか、上条当麻。インデックスの頭の中には何がある? 
あの子の記憶の中に、何が保管されている?』 

上条は息を飲む。 
ステイルの言わんとしている事がようやく分かった。 

『10万…3000冊の魔導書!』


 

119: 2010/12/11(土) 00:08:18.05 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:01 

美琴の調べてくれた情報を精査していた黒子は、 
裏付けを取った情報を手に、第七学区にある、アンチスキル第73活動支部に来ていた。 

「どうやら第十学区の研究施設が事件に関与しているようですの」 

黒子の持ってきた資料に目を通しながら、 
黄泉川は夕食代わりの菓子パンをかじっている。 
黄泉川愛穂― 
彼女は上条の高校で体育教師をしながら、 
有志としてアンチスキルに所属している。 

「なるほど…確かに怪しいじゃんよ。 
で、その御坂は今どこにいる?」 

「電話も繋がりませんし… 
ここに来る前に寮にも寄ったんですが、居たのはこの子だけですの」 

黒子のセーターの襟元から、小さな猫がひょこっと顔を出す。 
黒子も黄泉川も知らないが、インデックスの愛猫、スフィンクスだ。 

「ほう、それが御坂か?随分可愛らしくなったじゃんよ」 

黄泉川は食べていた菓子パンをちぎり、 
スフィンクスに食べさせてやる。


120: 2010/12/11(土) 00:09:34.35 ID:C+1vRQ8UQ

「今は冗談を言ってる場合じゃありませんの。 
お姉さまの事ですから、恐らく第十学区に向かったのでしょう」 

「なるほど。それで白井は応援を頼みに来たって訳か」 

スフィンクスの頭を撫でながら、黒子は頷く。 
自分一人で美琴を追っても良かったのだが、 
相手の目的、戦力、人数、何もかも分からない。 
そもそも美琴の調べてくれた情報が、 
行方不明事件とどう繋がっているのか見当もつかない。 
そんな状況で黒子一人が応援に行っても、 
出来る事が少な過ぎるのだ。 

「確かに…23人の行方不明者に、23台の学習装置。 
何か関係がありそうじゃん」 

「では応援を…」 

「ダメだ」 

黄泉川ははっきりと言い切った。


122: 2010/12/11(土) 00:25:06.64 ID:C+1vRQ8UQ

「応援を回したいのはやまやまじゃんよ。 
けどな、今は人手が足りないんだ」 

「なぜ…ですの?」 

「実はな、学園都市各地で行方不明者の目撃情報が寄せられてる。 
数時間前から急にだ」 

黒子の心拍数が跳ね上がる。 
黒子の知らないところで、事態が大きく動いていた。 

「イタズラの可能性も否定は出来ないが、確認しない訳にもいかないじゃん。 
白井の言う研究施設も気になるが、優先すべきは攫われた学生達じゃんよ。 
すまないが分かってくれ」 

「…分かりましたの」 

黒子はスフィンクスを胸に抱きかかえると、席を立つ。 

「手が空いた奴から順番に応援に回す。 
それまで絶対に無茶はするなよ、白井」 

アンチスキルとして、教師として、 
そして大人として、黄泉川は何もしてやれない歯痒さで胸が一杯になる。 

「大丈夫ですの。私は…風紀委員ですから!」


 

123: 2010/12/11(土) 00:26:57.98 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:02 

「そんな怖い顔して何話してたのよ?」 

アレイスターの居た場所、第七学区、窓もドアも無い建物の前で、 
結標淡希は土御門に尋ねる。 
結標淡希― 
霧ヶ丘女学院の生徒で、レベル4の座標移動(ムーブポイント)能力者。 
土御門と同じ暗部組織"グループ"のメンバーであり、 
窓もドアも無いビルへ人を運ぶ、案内人でもある。 

「別にたいした事じゃない」 

土御門は結標を軽くあしらうと、携帯から一方通行の番号を呼び出す。 
神裂にぶつける為に彼が与えられた情報が間違っている事を伝える為だ。 

『なンだ?』 


「一方通行、ねーち…打ち止めを狙っていた奴とやり合ったのか?」 

土御門の質問に、彼の声色が低くなる。どうやら苛立っているようだ。 

『さすがに物知りだなァオイ。あの女、妙な能力使いやがって。 
やっと動けるよォになったぜ、クソ』 

土御門は結標をチラリと見やる。 
もうとっくに帰っていると思ったが、土御門と同じ様に誰かと電話をしていた。 
その様子を視界の端で捉えつつ、土御門は話を続ける。


124: 2010/12/11(土) 00:28:52.74 ID:C+1vRQ8UQ

「一方通行、その情報はデマだ。お前は利用されただけなんだよ」 

電話の向こう、彼の声に更に苛立ちが滲む。 

『あン?なンだそれはァ!?』 

「お前に情報を流した奴は、恐らく学園都市上層部の人間だろうな」 

『ふざけやがって…許さねェ。 
学園都市第1位を利用したってのが、どういう事になるか教えてやる』 

一方通行はそう言って通話を切ってしまった。 
恐らく利用した人間を探し出すつもりなのだろう。 

「今の電話の相手、一方通行でしょ?」 

こちらも電話が終わったのか、 
結標がガードレールに座ってニヤニヤしている。 

「これで海原でも出てくれば、ロリコン三人勢揃いなのにね」 

そんな軽口を叩きながら、足をパタパタさせている。


125: 2010/12/11(土) 01:02:17.17 ID:C+1vRQ8UQ

「結標、お前の電話は何だったんだ?」 

土御門の問い掛けに、結標は何か思い出したかのように、ガードレールから飛び降りた。 

「いけない。仕事頼まれたんだった」 

「仕事?グループのか?」 

結標は首を振りながら答える。 

「違うわよ。グループは原則4人一組で任務に当たるでしょう? 
私単独の仕事は、案内人以外滅多に無いわよ」 

嫌な予感がする。 
土御門の背筋を、冷たい汗が流れていく。 

「統括理事会からの依頼か?」 

この質問にも、結標は首を振る。


127: 2010/12/11(土) 01:03:14.96 ID:C+1vRQ8UQ

「なんて言ってたっけ?なんか長い名前だったような… 
でもさっき携帯で確認したら、きちんとお金は振り込まれてたし。 
楽な仕事だから引き受けたわ」 

「依頼された内容は何だ?」 

「言えないわよ、そんな事」 

結標は背中に張ってある低周波治療器が、 
正常に稼働しているのを確かめる。 
これを使ってリラックス状態にしていないと、 
結標の能力は暴走してしまうのだ。 

「じゃあ急ぐからこれで」 

「おい、ちょっと待て!」 

土御門の制止も間に合わず、結標は座標移動で姿を消してしまった。 
結標の能力、座標移動の最大移動距離は約800メートル。 
土御門の推測が当たっていた場合、 
今から追い掛けても間に合わない。 
土御門はもう一度携帯を取り出し、今度は上条の番号を呼び出した。 
第十学区に向かって走りながら、祈るように呟く。 

「出てくれよ…カミやん!」


 

128: 2010/12/11(土) 01:04:44.76 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:16 

「お待たせして申し訳ありませんでした」 

上条達のところへ合流した神裂は、 
体中切り傷だらけだった。 
所々裂けたTシャツは赤く染まり、顔にも痛々しい傷跡が残っている。 

「だ、大丈夫かよ神裂?一体何があったんだ?」 

上条の心配を右手で制して 

「私は大丈夫です。それより何故あの子がここに? 
今の状況と合わせて説明して貰えれば助かります」 

そう言いながら、上条の横に身を屈める。 
美琴は突然現れた神裂を不思議そうに眺め、 
インデックスはその傷口を痛々しそうに見ていた。 
上条は今分かっている事全てを、簡単に説明してやる。 
美琴と本人に聞かれないよう、インデックスに関する大事な部分は、 
ステイルから借りた通信用の魔術カードを使って説明する。


129: 2010/12/11(土) 01:06:07.65 ID:C+1vRQ8UQ

『なるほど。行方不明者の能力を使って、 
あの子の中の魔導書を読み取るつもりなのですね』 

『あぁ、多分な。それなら全てがあの研究施設と繋がる』 

神裂はステイルに目で合図すると、腰を低くしたまま立ち上がる。 
今度は全員に聞こえるように 

「私とステイルは、大きく迂回して研究施設の裏側に回ってみます。 
上条当麻。あなた達は、私達が戻るまでここに居て下さい」 

「お、おい神裂、その傷で大丈夫か?」 

「心配いりません。少し様子を見てくるだけです」 

それだけ言うと、ステイルと共に暗闇に消えていった。 
取り残された上条は、急に不安を覚える。 
インデックスはもちろん、レベル5とはいえ、美琴も中学生の女の子。 
いざという時は自分が守るしかない。 
不安を取り除くように上条は首を振る。 
その時― 
それはまさに突然だった。


130: 2010/12/11(土) 01:07:04.99 ID:C+1vRQ8UQ

「おっ、ターゲット発見!」 

上条達の背後から、女の声が聞こえた。 
近付く気配も、足音さえもしなかった。 
まるで最初からそこに居たかのように。 

「ちっ!」 

最初に動いたのは美琴。 
声から距離を取るように、素早くバックステップ。 
そのまま暗闇に向かって電撃を放つ。 
しかし― 

「残念ね。ハズレよ」 

さっき声がした場所とは、まったく正反対の位置から声がする。 
美琴の放った電撃の余波で、その女の姿がハッキリと照らされた。 

「あ、あんたは…」 

「久しぶりね。レベル5の御坂美琴さんっ」 

髪を二つに結んだ、上条達と同じくらいの少女。 
胸にはサラシのようなものを巻き、 
その上からブレザーを羽織っている。 
スカートの横、腰の辺りには懐中電灯のような物が一つぶら下がっていた。 
同じ物をもう一つ、少女が手に持って、くるくると回している。


131: 2010/12/11(土) 01:08:34.97 ID:C+1vRQ8UQ

「あれ!?インデックス!?」 

上条はさっきまで隣に居たインデックスが居ない事に気付き、声を上げる。 
すると何故か離れた場所から 

「とうまっ!!」 

インデックスの声が聞こえた。 

「な、どうなってやがる!?」 

慌てて周囲を見渡すと、薄暗い中にインデックスを見付ける。 
ただし― 
上条達と研究施設の、丁度中間地点に。 

「御坂美琴。あなたとは一度決着を着けたいとこだけど、 
今は仕事中だからこれで失礼するわ」 

「このっ、待ちなさいよっ!」 

美琴は少女に向かって再度電撃を放つ。 
しかしそこに少女の姿は無かった。 
代わりに、インデックスの横に少女の姿が現れる。 

「座標…移動っ!」 

まんまとやられた。 
美琴は地面を力一杯蹴りつける。


 

132: 2010/12/11(土) 01:11:38.02 ID:C+1vRQ8UQ

少女はインデックスと共に、跡形もなく姿を消した。 
恐らく研究施設に座標移動したのだろう。 

「くそっ、インデックスっ!」 

上条は研究施設に向かって走り出そうとする。 
しかし― 

「待ちなさい!」 

美琴が腕を掴んでそれを止めた。 

「くそっ、離してくれ!インデックスが!」 

「ダメよ。今ので私達の事は間違い無くバレたわ。 
あんただけで向かったら…多分殺される」 

上条の腕を掴む美琴の手は、微かに震えていた。 
それは自分への怒り。 
絶対に守るとインデックスに約束した。 
その約束を守れなかった自分への怒り。 
その怒りを、震えながら抑え込む。 
冷静さを欠いたら、今度こそ本当に何も出来なくなってしまう。 
美琴は、まだ諦めた訳ではなかった。


133: 2010/12/11(土) 01:12:20.00 ID:C+1vRQ8UQ

「離してくれ御坂!インデックスを助けに行かねーと!」 

「のこのこ身をさらしたら、あんた殺されるわよ。 
"あんただけなら"ね」 

美琴は自分の頬をパチンと叩く。 
取られたなら、取り返せばいい。 

「私の後ろをついて来て!絶対に私より前に出ないでよね!」 

上条も美琴の真似をして、頬を叩く。 
冷静さを取り戻す為、そして気合いを入れる為。 

「行くわよ!」 

「おうっ!」


136: 2010/12/11(土) 01:14:40.09 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:12 

「くそっ!」 

土御門は乱暴に通話終了ボタンを押す。 
先程から何度も電話をかけているのだが、 
返ってくるのは電源が切られているというアナウンスだけ。 
次にステイルの携帯を呼び出すが、こちらも上条とまったく同じだった。 

「ねーちんはっ!」 

土御門は神裂の番号を呼び出す。結果は同じ。 
誰一人連絡は付かなかった。 
一体どうなっているのか。 
神裂やステイルはそう簡単にやられたりはしないだろう。 
では上条は。 
インデックスは。 

(カミやんなら…きっと大丈夫だ) 

上条が強いとか、特殊な右手を持っているとか、 
そんな事で判断している訳ではない。 
土御門はあの少年を信じているのだ。 
どんな時も諦めず、どんな困難も正面からぶつかって行く。 
そんな姿を何度も見てきた。


 

137: 2010/12/11(土) 01:15:27.91 ID:C+1vRQ8UQ

(くそ、こんな事ならもっと運動しとくんだったな) 

土御門の目に、第十学区への案内標識が映る。 
走りっぱなしのせいで、足が棒のようになっていた。 
それでも走るしかない。 
出来る事があるなら、ただそれをするだけ。 
上条を見て学んだ事だ。 
土御門は走りながら、ステイルの携帯に繰り返し電話をかけ続ける。 

(俺は…俺に出来る事を!)


139: 2010/12/11(土) 02:01:08.80 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:24 

「裏側からも近付けそうにありませんね」 

大きく迂回して研究施設の裏側に回り込んだ神裂とステイルは、 
姿勢を低くして様子を窺う。 
距離にしておよそ200メートル程、 
正面からは見えなかったが、裏側には施設に沿うように小さな駐車場があった。 
そこだけコンクリートで舗装された、一辺が50メートル程の小さな駐車場。 
その駐車場には電灯が数本立てられており、 
そこからの光で施設の外観がぼんやりと照らされている。 

「まぁ、予想通りだけどね」 

ステイルの視線の先、電灯の光でぼんやり見える施設の屋上部分に、 
四角い箱のような物が見える。 
おそらく自動で発砲する銃のような物だろう。 
当然、正面にも同じように配置されているとみて間違いない。


140: 2010/12/11(土) 02:02:05.80 ID:C+1vRQ8UQ

「取り敢えず土御門に連絡をしてみましょう。 
施設に侵入するにしても、内部の見取り図が欲しいところですから」 

神裂はジーンズのポケットから携帯を抜き出し 

「あ…れ?」 

滅多に聞いた事のない間抜けな声を漏らす。 

「どうした?」 

「壊れちゃって…ますね」 

神裂の手のひらには、ディスプレイが粉々になり、 
所々から何かのコードや部品が飛び出した携帯が乗っかっていた。 

「そう…みたいだね」 


「ど、どうしましょう」 

「僕が連絡するよ。そのゴミは後で捨てておくといい」 

しょんぼりしながら携帯をポケットにしまう神裂を余所に、 
ステイルは懐から自分の携帯を取り出す。 
電源を切っていた事を思い出し、ステイルは明かりが漏れないよう、修道服の内側で電源を入れた。 
暗闇に慣れていたせいで、ディスプレイの明かりに思わず目を細める。


141: 2010/12/11(土) 02:03:53.02 ID:C+1vRQ8UQ

施設に背を向け、修道服のマントを頭から被り、 
土御門の番号を呼び出そうとボタンに手をかけた時だった。 
まるでタイミングを計ったかのように、土御門から電話がかかって来た。 

『やっと繋がった!ステイル!禁書目録は今どこにいるっ!?』 

「いきなり何だ?」 

『いいから答えろ!禁書目録は今どこだっ!?』 

土御門のあまりの剣幕に、ステイルは思わず携帯を取り落としそうになる。 

「あの子は今上条当麻と一緒だ。それがどうしたんだい?」 

『お前は禁書目録の近くにいないのか!?』 

「僕は神裂と一緒に少し離れた所にいるけど…」 

『いいか、よく聞け!禁書目録のもとへ能力者が向かった! 
もう接触しているかもしれない!』 

今度は別の意味で携帯を取り落としそうになる。


 

142: 2010/12/11(土) 02:04:52.33 ID:C+1vRQ8UQ

「能力者があの子のもとへ!?」 

ステイルの言葉を隣で聞いていた神裂は 

「ステイル、私は先に向かいます!」 

そう言ってその場を離れた。 
ステイルも携帯を握り直し、神裂の後を追う。 

『そいつはレベル4の座標移動能力者だ! 
カミやんでも厳しいかもしれない!急げ、ステイル!』 

「くそっ!」 

ステイルは乱暴に携帯を切ると、 
神裂か自分のどちらかが残れば良かったと激しく後悔する。 

(後悔先に立たず…か。まったくもってその通りだね)


143: 2010/12/11(土) 02:06:33.68 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:37 

「じゃあ行くわよ!」 

研究施設の真正面、身を隠す事もせず、上条と美琴は堂々と立っている。 
まだ何も動きはないが、このまま突っ立っていれば、 
攻撃される可能性は非常に高い。 

(一か八か…やるしかないわね) 

美琴の前髪から、パチパチと青白い電流が飛び散っていた。 
その電流は次第に大きく激しくなり、 
美琴の全身、そして足元へ絶えず流れ始める。 
次の瞬間― 
ドバッ!という音を立て、美琴の正面の砂が盛り上がった。 
それはまるで意志を持っているかのように、 
うねりながら形を変えていく。 

「な、何だこれ!?黒い…砂!?」 

暗闇という事を差し引いても、どう見ても普通の砂には見えなかった。 
自分の足元の砂と比べても、明らかに黒いのだ。 

「黙ってて!集中出来ないでしょ!」 

砂はどんどん集まり、膨らみ、 
美琴の前に巨大な壁を形成する。 
高さは2メートル、横幅は1.5メートル程だろうか。


144: 2010/12/11(土) 02:07:24.69 ID:C+1vRQ8UQ

「こんなもんね。ここが砂地で良かったわ」 

美琴の造り出した地面から生えた壁。 
それは砂鉄の壁だった。 
岩や石には磁鉄鉱という鉱石が含まれている事が多く、 
それが風化したり、建築資材用に細かく砕かれ、砂状になったものが砂鉄だ。 
簡単に言えば、極小の磁鉄鉱。 
そして電撃使いである美琴は、 
電流の三作用である、磁気、発熱、化学を自在に操る事が出来る。 
電流が流れる際に発生する磁気で、砂の中から砂鉄を集めたのだ。 
無論2メートルの壁を造るなんて芸当は、並みの電撃使いには出来ない。 
レベル5の美琴だから出来る事だった。 

「いい?あんたは絶対に私の前に出ないでよね。 
この壁を維持するだけでもかなりキツいんだから、 
余計な手間かけさせないでよ」 

「あぁ、分かった」 

美琴はゆっくりと歩き出す。 
それに合わせて、砂鉄の壁も地面を滑るように前へ移動を始めた。 
この壁を盾に、研究施設に近付いて行く。


145: 2010/12/11(土) 02:09:31.53 ID:C+1vRQ8UQ

「うぉっ!」 

突然パンっ!という乾いた音と共に、 
上条達の横の地面が小さく抉られた。 
発砲だ。それを皮切りに、パンパンと立て続けに乾いた音が響く。 
二人は自動銃の射程範囲に入ったのだ。 

「撃ってきた!撃ってたきたぞ御坂!」 

「うっさい!集中出来ないでしょ!」 

銃弾は砂鉄の壁に次々と撃ち込まれる。 
その度に壁の表面が弾け、美琴はそれを瞬時に修復していく。 

「御坂!この壁大丈夫なのか!?」 

砂鉄は鉄の原料となり、 
炭素を加え、熱を加え加工する事によって強靭な鉄に変わる。 
しかし御坂が操るのはただの砂鉄。 
そう何度も銃弾に耐えられるのだろうか。 


 

147: 2010/12/11(土) 02:11:16.19 ID:C+1vRQ8UQ

「大丈夫、相手がミサイルでも撃ってこなきゃね!」 

砂鉄の形状は正八面体。 
それを隙間なく並べ、さらに何層にも重ねる事によって、 
美琴は壁に強度を与えていた。 
さらに砂鉄は鉄よりも柔らかく、まるでネットのように衝撃を吸収するのだ。 

「もうすぐよ!」 

美琴は一瞬壁に小さな穴を作り、そこから前方を確認する。 
施設の正面玄関がすぐそこに見えた。 
銃撃は激しさを増し、壁を操る美琴の額には汗が滲んでいた。 
銃撃は施設の屋上からの為、近付くにつれ、 
銃弾の角度が上からのものに変わってきている。 
それに合わせ、美琴も壁の角度を徐々に変えていく。 
壁が屋根のように頭上に広がる頃には、 
施設の正面玄関に辿り着いていた。 
少し窪んだ玄関に身を隠すと、美琴は能力を解除する。 
砂鉄の壁はサラサラと音を立て、 
元の地面に戻ってしまった。


148: 2010/12/11(土) 02:13:15.24 ID:C+1vRQ8UQ

「くそ、ロックが掛かってる」 

玄関の横には数字の並んだパネルがあり、 
扉を開けるには暗証番号を入力するシステムになっていた。 
美琴は慌てる事なくパネルに手を触れると 

「はい、開いたわよ」 

電流を流してロックを解除してしまった。 

「御坂…まさかいつもこんな事を…」 

「ば、バカ!違うわよ!時々よ、時々!」 

扉の向こうはロビーのようになっており、 
小さな灯りが点いているだけで薄暗い。 
人影も無く、研究員などはここにはいないようだった。 
しかし油断していれば、何者かが襲ってくる可能性もある。 
美琴は施設の中を警戒しながら、上条の腕を引っ張った。 

「さ、無駄口叩いてないで行くわよ!」


149: 2010/12/11(土) 02:18:10.72 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:42 

「っ!?」 

突然沈黙を破る銃声。神裂の全身に緊張が走った。 
立て続けに二発、三発と、銃声は次第に増えていく。 
神裂の少し後ろを走るステイルも、 
その銃声に顔を強ばらせていた。 

「今のはどういう事だ!神裂!」 

「あの子に何かあったようです! 
上条当麻ともう一人、研究施設に向かっています!」 

神裂の視力は8.0。 
視線の先、何かを壁にしながら施設に近付く二人の姿が見える。 
もう少しで正面玄関に辿り着くようだ。 
そこにインデックスの姿は無く、つまり― 

「どうやら…あの子は施設の中に連れて行かれたみたいです!」 

上条達があんな強引な手段に出たという事は、 
つまりはそういう事態が起きているという事だ。 

「くそ!何をやっていたんだ、上条当麻は!」 

ステイルは血が滲む程唇を噛み締める。 
上条当麻だけじゃない。自分の不甲斐なさにも腹が立っていた。


150: 2010/12/11(土) 03:00:41.08 ID:C+1vRQ8UQ

「もう潜入などと言っている場合じゃありませんね。 
彼らはインデックスという鍵を手に入れたようですから。 
銃は私が引き受けます。ステイルはその隙に中へ!」 

「分かった!」 

上条達は正面玄関に辿り着き、中に入ろうとしている。 

「はぁぁぁぁっ!」 

神裂は聖人の証である"聖痕"を開放する。 
そうする事で、一時的に天使に匹敵する力をふるう事が出来るのだ。 
当然肉体には大きな負荷が掛かり、例え100パーセント力を発揮出来たとしても、 
体が使い物にならなくなるリスクもあるが。 

「はっ!」 

神裂は力一杯地面を蹴る。体は数十メートル飛び上がり、 
三階建ての施設を軽々越える高さに達し、屋上目掛けて降下を始める。


 

151: 2010/12/11(土) 03:04:15.05 ID:C+1vRQ8UQ

「あれは!?」 

神裂を捉えた銃口が一斉にこちらを向く。数はおよそ10台ほどか。 
更に屋上の中央に何かの装置が見える。 
人間サイズの巨大な十字架が横たえてあり、 
そこからケーブルのような物が何本も生えている。 
その十字架に、一人の少女が張り付けにされていた。 
その十字架の横には、黒い修道服を着た人物が立っている。 

「インデックス!」 

神裂を捉えた銃口が、一斉に火を噴く。 

「はぁぁぁぁぁっ!」 

聖人の力を開放した神裂の反射神経は100分の1秒にも達する。 
神裂は飛んでくる銃弾を、七天七刀で片っ端から叩き落としていく。 
そのまま屋上に着地し 

「七っ閃っ!」 

魔力で強化したワイヤーを素早く繰り出す。 
ワイヤーは全ての機銃をバラバラにし、使い物にならなくしてしまった。


152: 2010/12/11(土) 03:06:04.66 ID:C+1vRQ8UQ

「ふふ、お見事ね」 

パチパチと手を叩く音に神裂が振り返ると、 
上空から見たあの修道服の人物が立っている。 
上空からは確認出来なかったが、フードの下、その顔は女性だった。 

「あなたは、何者ですか!?インデックスをどうするつもりです!?」 

「あら、あなた…もしかして神裂火織さん? 
噂通りの変わった格好ね」 

「質問に答えなさい!」 

苛立つ神裂とは対照的に、女は面倒くさそうに溜め息を吐くと、 
まるでたいした事じゃないと言うようにこう言った。 

「これから滅ぶイギリス清教の人間に、 
教える事なんてないんだけれど、ね」 

「え…何を」 

「だからあなた達イギリス清教は、もうすぐ滅ぶんだってば」


153: 2010/12/11(土) 03:09:06.72 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:48 

「誰も…いないわね」 

施設に侵入した上条達は、そのあまりの静けさに拍子抜けしていた。 
武装した人間はおろか、研究員らしい人間すら見当たらない。 
防音設備が整っているのか、外の音も聞こえず、 
二人の足音だけが薄暗い施設の中に響いていた。 

「インデックスはどこだ?」 

上条達は部屋という部屋を片っ端から、かつ慎重に調べてまわる。 
いくつかの部屋は灯りが点いたままで、 
机の上のパソコンも、電源が入ったままになっていた。 
美琴はその中の一台に近付き、キーボードを叩き始める。 

「何してんだ?」 

「何か情報がないか調べてみる。パソコンは生きてるみたいだしね」 

パソコンスキルゼロな上条は、黙って美琴の作業を見守る。 
暫くキーボードを叩いていた美琴が、何かに気付いて声を上げた。


 

154: 2010/12/11(土) 03:10:05.14 ID:C+1vRQ8UQ

「ちょっと、これ見て」 

ディスプレイにはこの建物の見取り図が映っており、 
横に小さく数字の書かれた、赤や青のラインがその上を走っている。 

「これは?」 

「これは電力供給量を示すラインよ。 
赤は非接続、青は接続。横の数字は多分電力供給量ね。 
要するに、どこにどれだけの電力が割り振られているかを示してるの。 
こういった研究施設の場合、大規模な実験の際には、 
電力供給量をきちんと管理しないとダメなのよね。 
万が一実験の途中で電力の供給がストップしたら、 
大事故に繋がりかねないし」 

美琴はそう言いながら、見取り図の一番上、 
屋上と書かれた部分を指差す。


156: 2010/12/11(土) 03:11:01.33 ID:C+1vRQ8UQ

「ここ。何故かここに莫大な電力が供給されてる」 

「屋上に莫大な…電力?」 

上条の頬を汗が伝う。 
インデックスを鍵とし、何かをしようとしている研究施設。 
この莫大な電力は、その何かの為としか思えなかった。 

「ここから電力をカット出来ないのか!?」 

「無理ね。これはどのパソコンからでも見られる、ただの情報。 
カットするなら…そうね、コントロールルームのコンピューターからならもしかして」 

美琴がキーボードを叩くと、コントロールルームの場所が見取り図に表示される。 
地下一階、屋上とは正反対の場所だった。 

「俺は屋上に向かう!御坂はコントロールルームに行って、 
電力をカット出来ないか試してくれ!」 

「あ!ちょ、あんたっ!」 

美琴の制止も聞かず、上条は部屋を飛び出して行く。 
その背中を見送り、美琴は大きな溜め息を吐いた。 

「ま、あのバカは言っても聞かないわよね…」


164: 2010/12/11(土) 10:28:54.70 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:46 

「イギリス清教が…滅ぶ?」 

確かにそう聞こえた。 
イギリス清教はもうすぐ滅ぶ、と。 

「そう、その通りよ」 

女はインデックスが張り付けにされている装置の横まで行くと、 
ディスプレイを見ながらキーボードを叩く。 

「あ、いけないいけない。あなたに教えといてあげる。 
この装置はね、30分おきに私が調整しないといけないの。 
もしきちんと調整しなかったら、頭に負荷が掛かりすぎてこの子死んじゃうわ。 
それから、無理に装置を壊したり、無理にこの子を引き離しても同じ。 
この意味分かる?」 

つまり、女を倒す事も、装置を破壊する事も出来ない。 
聖人の力は何の役にも立たないという事。 

「くっ…」 

神裂は歯を食いしばり、刀を鞘に収める。 

「お利口さん。ご褒美に見せてあげる。 
イギリス清教が滅ぶとこを、ねっ」


165: 2010/12/11(土) 10:30:20.72 ID:C+1vRQ8UQ

女は装置に腰掛け、インデックスの頬に触れる。 
頭にはケーブルの沢山ついた機械を被せられ、 
気を失っているのかピクリとも動かない。 

「あら、お客様がもう一人」 

女がそう呟くと同時に、屋上の扉が勢い良く開かれる。 

「インデックスっ!」 

現れたのはツンツン頭の少年だった。膝に手をつき、肩で息をしている。 

「上条当麻!?」 

驚く神裂の横を、上条は女に向かって歩いていく。 

「てめぇ、インデックスを離せ!」 

「ダメです!上条当麻!」 

神裂は上条の肩を掴み、女の話していた事を教えた。 
女はその様子を、とても楽しそうに眺めている。


 

166: 2010/12/11(土) 10:31:41.05 ID:C+1vRQ8UQ

「だったら!あいつをぶん殴って装置を止めさせる!」 

「無理です!ここまで大掛かりな事をしでかした人間ですよ!? 
そう簡単に装置を止めるとは思いません!」 

それを聞いた女は、パチパチと手を叩くと 

「せいかーい。私はどんな事をされても、絶対に装置は止めないわよ。 
それにね、この場で装置を止めるのは無理。 
施設の電力をちゃんとした手順で落とすしか、止める方法はないの。 
残念だけど、あなた達はそこで大人しくしてるしかないわ。 
禁書目録を見殺しにすれば、私の計画は止められるけれど、ね」 

「てめぇ…っ!」 

上条は怒りで我を忘れそうになる。 
これだけの事をして、インデックスをあんなところに張り付けにして、 
それでも楽しそうに笑う女に、怒りが止め処なく込み上げる。 

「落ち着け、上条当麻!」 

後ろから突然掛けられた声に振り向くと、屋上の出入り口にステイルが立っていた。 

「話は聞いていた。冷静さを欠くな、上条当麻。 
本当に取り返しがつかなくなるぞ」


167: 2010/12/11(土) 10:32:34.91 ID:C+1vRQ8UQ

女は客が増えたと一人で喜び 

「あら、あなたは頭が良いのね。 
私はそこの坊やくらい熱い男の方が好みだけどね」 

そう言ってまた楽しそうに笑う。 

「黙れ。僕は君のような下品な女が大嫌いなんだ」 

「ふふ。嫌われちゃった」 

ペロッと舌を出し、女が立ち上がる。 
女は懐から小さな短剣と、一冊の古びた本を取り出した。 
それを見たステイルと神裂の顔色が変わるのを、 
上条は見逃さなかった。 
二人が反応したという事は、あれは魔術に関係する物という事になる。 
女はまるで祈るように天を仰ぎ、言う。 

「さて、と。星も綺麗に見える事だし、そろそろ始めましょうか」


168: 2010/12/11(土) 10:33:42.65 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM10:52 

「何とかなるかもとは言ったものの…」 

美琴はコントロールルームのメインコンピューターの前で溜め息を吐く。 
ここに辿り着くまでの電子ロックは楽々解除出来たものの、 
電力をカットするのはかなり難しそうだ。 
セキュリティーが何重にもかけられ、 
パスワードに至っては一度も間違えずに正しく三回入力しなければ、 
システムをシャットダウンする事が出来ないようになっている。 
唯一の救いは、IDによる認証と、掌紋の照合がない事くらいか。 

「はぁ…、これはかなり厳しいわね」 

「何が厳しいんですの?」 

「パスワードの解析が、よ。ってえっ!?」 

いつからいたのか、美琴の後ろからディスプレイを覗き込むように、 
黒子が立っている。 
いや、そもそも何故ここにいるのだろうか。


 

169: 2010/12/11(土) 10:35:25.80 ID:C+1vRQ8UQ

「あっ、あんたどうしてここに!? 
てゆーか何で私がここにいるって分かったのよ!?」 

「最初の質問ですが、私は風紀委員ですの。 
この施設は行方不明事件に関わっている様ですから、 
調査に来るのは当然ですわ」 

黒子は一呼吸置き 

「二つ目の質問。お姉さまも来ているだろうと施設に入ってみたら、 
至る所の電子ロックが解除されてましたの。 
まるでショートさせたみたいに。 
で、解除された電子ロックを辿っている内に、 
ここに辿り着いたという訳です」 

そう言ってコントロールルームの外に声を掛ける。 

「さ、あなたも入ってくださいな」 

黒子に呼ばれて、一人の少女が恐る恐る部屋に入ってくる。 
頭には花飾りをつけ、柵川中学の制服を着た少女。


170: 2010/12/11(土) 10:36:25.45 ID:C+1vRQ8UQ

「う、初春さん!?なんで!?」 

「あら、お姉さま。初春も立派な風紀委員ですのよ?」 

それは美琴にも分かってはいるのだが、 
初春は本来オペレーターとして第177支部にいる事が多いのだ。 
こんな危険な場所に来る事は珍しかった。 

「あ、あの。白井さんがここに行く事を聞いて… 
何か出来る事があるかもって、ついて来たんです」 

研究施設なら当然コンピューターもあり、 
そこから何か情報が得られるかもしれない。 
初春はそう考えたのだ。 

「御坂さん、ちょっと変わって下さい」 

初春は美琴の座っていた席に腰掛けると、 
鞄から自分のノートパソコンを取り出す。 
それをメインコンピューターと繋いで、 
大きく深呼吸をした。 

「私…やってみます!」


171: 2010/12/11(土) 10:39:15.59 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM11:01 

「あれは!?」 

神裂とステイルの視線の先、女の手に握られた短剣、そして古びた一冊の本。 
上条にはそれが一体何なのか分からなかったが、 
どうやら魔術側の物らしい事は、二人の反応を見れば分かる。 
女はまるでおもちゃを自慢する子供の様に、 
短剣と本を上条達に掲げ、楽しそうに口を開く。 

「ふふ。やっぱり知ってるわよねー。よく勉強してる。偉い偉い。」 

「アサメイと…ハバクク書だと!?」 

「せいかーい。もっとも…ハバクク書はオリジナルじゃないけれどね」 

ステイルをからかうように、女は短剣をクルクルと手の上で弄ぶ。 
どうやら魔術の世界ではそれなりに名の知れた物らしい。 

「おい、ステイル。あれは一体何なんだ?」 

上条の問い掛けに、神裂が口を開く。


 

172: 2010/12/11(土) 10:40:50.21 ID:C+1vRQ8UQ

「私が代わりに。あの刃を落とした短剣はアサメイという物です。 
アセルメイ、アセイミーという別名もありますが… 
簡単に言えば、魔女が使う儀式用の短剣です。 
短剣の黒い柄から宇宙のエネルギーを吸収し、 
剣先からそれを放出する事によって、 
強力な魔法陣を描いたり、様々な魔術に使います。 
その力から、別名"真の魔女の道具"と呼ばれています」 

神裂の言葉に耳を傾けながら、女はうんうんと頷いている。 
神裂の説明は正しいという事だろうか。 

「そしてあの本ですが…あれはハバクク書という物です。 
800巻あるとされる"死海写本"の内の一冊で、 
著者はユダヤの預言者ハバククとされています」 

「短剣は何となく分かる。けどあんな本を一体何に使うんだ?」 

パチパチと手を叩く女を睨みつけ、ステイルが代わりに答える。


173: 2010/12/11(土) 10:42:41.67 ID:C+1vRQ8UQ

「霊装というのは、その伝承や内容により能力が付加されるんだ。 
ハバクク書に付加された力は、"第三章"の内容に起因するものだ」 

「内容?」 

「音楽を伴う祈祷。第三章にはその詳細が書かれている。 
ハバククも楽器を演奏しながら祈祷する預言者だったそうだからね。 
あのハバクク書は 
"音に関する魔術や術式の力を爆発的に増幅する"力があるんだよ」 

「でもあれはオリジナルじゃないんだろ?そこまで凄い力があるとは…」 

「あれは死海"写本"の内の一冊。 
写本とはその名の通り、オリジナルを正確に写した本だ。 
ハバクク書のオリジナルはそもそも見つかっていないんだよ。 
つまり…あれはもうオリジナルと言っても差し支えない」 

女はわざとらしく驚き、ステイルにも拍手を送る。 
どこまでも挑発的な態度。


175: 2010/12/11(土) 11:03:06.77 ID:C+1vRQ8UQ

「そこまで知ってるの?さすがは一流の魔術師といったところね」 

女の持っている物が何なのかはだいたい分かった。 
しかしそれを一体どう使うのか、上条にも、 
そしてステイルと神裂にも分からなかった。 

「お勉強は終わった?じゃ、そこで大人しく見てなさい」 

装置のボタンをいくつか押すと、女はハバクク書を開き、 
短剣を夜空に向かって掲げた。 
まるで意志を持っているかのように、淡く白い光が夜空から降り注ぎ、 
短剣へと吸い込まれていく。 
それに呼応するかのように、インデックスが苦しそうにもがき始めた。 


「くそ!ステイル!何か手はないのかよ!?」 

「僕達があの女に手を出せば、あの子は死ぬかもしれないんだ。 
何をしようとしているかは分からないが、 
目的を果たす為にあの子が必要なら、すぐには殺されたりしない」 

ステイルは淡々とそう言った。 
目の前でインデックスが苦しんでいるのに、 
まるで感情の無い機械のように。


 

176: 2010/12/11(土) 11:06:07.56 ID:C+1vRQ8UQ

「…てめぇ、本気で言ってんのか!?」 

「やめて下さい、上条当麻!ステイルは…」 

神裂の制止も聞かず、上条は思わずステイルの胸倉を掴んだ。 
その拍子にステイルがくわえていた煙草が地面へ落ちる。 
煙草からステイルへ、上条は視線を移し― 
その顔が苦痛に歪んでいる事に気がつく。 

「ステイル…お前」 

「ステイルだって悔しいんです。何も出来ない自分が。 
分かって下さい、上条当麻」 

そうだった。ステイルが最強の魔術師であろうと決めた理由。 
それはたった一人の少女、インデックスを守る為。 
何も出来ない状況が、悔しくない訳がないのだ。 
上条は掴んでいた手を離す。 

「悪い…つい…」 

「ふん…」 

ステイルは修道服の襟元を正すと、新しい煙草に火をつける。 
すると突然― 

「ステイル!見て下さい!」 

神裂が夜空を指差す。 
上条も視線を上に向け、その光景に息を呑む。


177: 2010/12/11(土) 11:08:06.40 ID:C+1vRQ8UQ

夜空に巨大な魔法陣が現れていた。 
白い光で描かれた、円形の魔法陣。 
その光の円に沿うように、上条の知らない文字や数字のようなものが並び、 
中央には巨大な六芳星が描かれている。 
現在の直径は30メートル程だったが、 
上条達が見ている間にも、魔法陣はその直径を大きく広げていた。 

「これは!」 

「そうだ、星を使った大規模魔術だ」 

何かに気付いたステイルの声に、ここに居ないはずの人物の声が答える。 

「土御門っ!?」 

上条達が振り向くと、土御門が腕を組み屋上の扉にもたれかかっていた。 

「悪い。遅れちまったな」 

「そんな事より土御門!今のはどういう意味だ!?」 

「カミやん。冬の大三角形は知っているか?」 

土御門の質問の意図が掴めず、上条は首を横に振る。


178: 2010/12/11(土) 11:09:08.82 ID:C+1vRQ8UQ

「オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン。 
この三つの星を結ぶ三角形の事だ」 

「それが一体…」 

「いいか、カミやん。 
三角形というのは、魔術の世界ではただの図形ではないんだ。 
上向きの三角形は男と火、そして神聖渇望心の象徴。 
下向きの三角形は女と水、更に聖寵、慈愛、慈悲の象徴」 

土御門は頭上の魔法陣を指差し続ける。 
その直径はおよそ100メートルに達しようとしていた。 

「そして六芳星。三角形を二つ合わせて出来た、六つの頂点を持つ星。 
その六つの頂点は、東西南北、上、下を意味している。 
つまり世界…地球を表しているんだ」 

あまりにスケールの大きな土御門の話に、 
上条含め、その場の誰もが息を呑む。 

「じゃああの魔術は、世界中を対象にしてるのか?」 

「いや、いくら霊装で底上げされた魔術でも、さすがにそれは無理だ。 
だが…国一つくらいなら対象に出来るかもしれない」 

「国…一つ!?」 

対魔術師用どころじゃない。 
国を対象にして、一体何をしようというのか。 
インデックスの頭の中にある、"音に関する魔術"とは一体何なのか?


179: 2010/12/11(土) 11:10:48.02 ID:C+1vRQ8UQ

(音に関する…魔術?) 

上条の頭の中の記憶。 
その記憶の中に、ぼんやりと何かが浮かび上がった。 
それは次第にハッキリと、鮮明に蘇ってくる。 

「なぁ土御門。この大規模魔術って音が関係する魔術なんだよな?」 

「あぁ、そうだ。あの女はハバクク書を持っているしな」 

「それに、対魔術師用でインデックスの頭の中にある魔術…」 

その条件に当てはまる術式を、上条は一つだけ知っている。 
過去にインデックスが使用しているのを見たことがあった。 

「まさか…ステイル、覚えてるか!? 
オルソラを助けに行ったあの教会で、インデックスが使った魔術!」 

記憶の糸を辿り思い出したステイルの目が見開かれる。 

「そうか!魔滅の声か!」 

魔滅の声(シェオールフィア)― 
魔術ではなく正確には術式。 
10万3000冊の魔導書の知識を使い、 
教徒の信仰する教義の矛盾を徹底的に糾弾する事により、 
その教徒の自我を一時的に崩壊させる術式。 
インデックスが強制詠唱と共に、身を守る為に使用する術式だ。 
上条達の話を聞いた土御門が、何かに気付いて口を開く。


 

180: 2010/12/11(土) 11:12:07.21 ID:C+1vRQ8UQ

「なるほど…魔滅の声か。 
カミやん、あの女の目的はそれだ。 
まず禁書目録から魔滅の声の知識を吸い出す。 
次にハバクク書で魔滅の声の能力を爆発的に増幅し、 
それをアサメイで描いた大規模魔術用の魔法陣を通して、 
目的の場所に送り込むつもりだ」 

「そうか…その為に読心能力者を誘拐してたのか!」 

美琴が言っていた。行方不明者は全員、読心能力者だと。 
恐らくインデックスの記憶を― 
つまりは魔導書の知識を吸い出す為に使っているのだ。 
ここで上条の頭にもう一つ疑問が浮かぶ。 

「じゃあ…23台の学習装置はどういう目的が…」 

「恐らく…いや、間違いなく、 
インデックスと読心能力者達とのパイプの役目を果たしているはずだ」 

つまり、23人の読心能力者がインデックスから魔導書の知識を受け取る。 
そして学習装置で脳にその知識を一字一句記憶させ、 
意識を奪った学生達に強制的に詠唱させる。 
これが土御門の推測したプランだった。


181: 2010/12/11(土) 11:13:49.75 ID:C+1vRQ8UQ

「でも行方不明の23人はどこにいるんだ? 
この建物の中にも居なかったぞ」 

「カミやん。身の回りで23という数字に心当たりはないか?」 

上条は考える。 
身の回りで23の数字が関わるもの。 

「…学区…か?」 

「そうだ。学園都市は全23学区から成り立っている。 
しかも…学園都市は円形なんだよ。 
恐らく一学区に一人、行方不明の人間が配置されてるはずだ」 

土御門の言葉に、今まで黙って聞いていた神裂も口を開く。 

「まさか!?学園都市全体も魔法陣の一部にする気ですか!?」 

上条が慌てて頭上を見上げると、白い魔法陣はとてつもない大きさになっていた。 
上条達には分からなかったが、魔法陣は既に学園都市の60パーセントを覆っている。 
魔法陣が大きくなるにつれ、 
インデックスから苦しそうな息が漏れる。


183: 2010/12/11(土) 11:15:31.23 ID:C+1vRQ8UQ

「あの魔法陣と対になるよう、学区ごとに特定のポイントがあるはずだ。 
そこに行方不明の人間を配置してるんだろう。 
これも術式の力を跳ね上げる為だ」 

ステイルは苦々しく言葉を吐き出し、新しい煙草を取り出す。 
その時だった。 

「あ…あ、あぁぁぁぁぁぁ!」 

インデックスが今までにない苦痛の叫び声をあげる。 
魔法陣の大きさと比例し、インデックスへの負担も大きくなっていた。 

「くそっ!あの短剣に俺が右手で触れば、魔法陣は消えるんだろ!?」 

「落ち着けカミやん! 
まずは禁書目録から知識を吸い出している装置を止めないと始まらない! 
魔法陣を消すのはその後だ! 
じゃないと…禁書目録の脳がもたない!」


185: 2010/12/11(土) 11:22:00.98 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM11:03 

「………」 

初春は黙々とキーボードを叩く。 
あれから2つパスワードを解析し、残りは1つになっていた。 
美琴と黒子は別のパソコンを使い、 
行方不明事件とこの施設を結ぶ証拠を探していた。 
黒子はディスプレイを眺めたまま、隣でキーボードを叩く美琴に尋ねる。 

「ときにお姉さま」 

「なによ?」 

「お姉さまならあんな回りくどい事をしなくとも、 
電撃一発で電力の供給を止められたと黒子は思いますの」 

黒子はその回りくどい事をしている初春をチラリと見る。 
額の汗を拭い、一生懸命キーボードを叩いている。 

「それは私も真っ先に考えたわよ。 
だけど調べてみたらね、強制的に電力を落とした場合、 
施設のデータは消えて、二度と復元出来ないみたいなの。 
きちんと手順を踏んで電源を落とすしかないって訳。 
そうすれば、後でデータの復元も可能なのよ。 
もし今何も証拠が見つからなくても、 
データさえ無事なら後は風紀委員かアンチスキルの仕事ね」


 

187: 2010/12/11(土) 12:10:08.55 ID:C+1vRQ8UQ

「なるほど。もしデータが全て消えれば、誘拐の証拠なんかも見つかりませんものね」 

「さっ、喋ってないで尻尾を掴むわよ」 

美琴と黒子はディスプレイに意識を戻し、 
再度キーボードを叩き始める。 
すると突然― 

「お、お二人共っ!ちょっと来てください!」 

黙々と作業していた初春が二人を呼び、 
慌ててディスプレイを指差す。 

「どうしましたの?初春」 

「あの、最後のパスワードが分かったんですけど…」 

その含みを持たせた言い方に、美琴は首を傾げる。 

「けどって…どうしたの?」 

「候補が二つあるんです…」 

初春の指差すディスプレイを覗き込むと、 
確かに二つ文字が並んでいる。 
どちらも八文字。 
"soror103"と"sound101"


188: 2010/12/11(土) 12:10:54.32 ID:C+1vRQ8UQ

「あの…どちらかはフェイクだと思うんですけど、 
これ以上はどうやっても絞り込めなくて」 

「片方は分からないけど、もう一つはsound…音よね。 
この施設は音に関する研究をしてるから、こっちじゃない?」 

「まぁ、お姉さま!なんて単純な! 
そんな分かりやすいはずないじゃありませんの」 

「う…いや、でも分かりやすいからフェイクと見せかけて、 
実はこっちが当たりって事も」 

「いいえ、お姉さま。 
フェイクと見せかけて当たりなんて、黒子はそうは思いません。 
フェイクと見せかけていない方がフェイクじゃないから…あれ?」 

「えーい、ややこしい!初春さん!あなたが選んで!」 

「あっ、はい分かりまし…えぇぇぇっ!?」 

突然話を振られ― 
もとい、責任を押し付けられ、初春の体がブルブルと震える。 
まるで狼に追い詰められたウサギだ。


189: 2010/12/11(土) 12:11:43.46 ID:C+1vRQ8UQ

「さっ、初春さん!思い切って!」 

「初春…分かってますの?失敗したら大変な事に…」 

「ひぃっ!どどどどーしましょう!?」 

「黒子!あんたは黙ってなさい!ここは初春さんの運に任せるわよ」 
美琴は黒子を羽交い締めにして、初春を安心させるように頷く。 

「もし失敗しても、それは私達みんなの責任よ。 
だから初春さんの運を信じるわ」 
「わ…分かりました!私やります!」 

初春はディスプレイに向き直り、 
マウスを力一杯握る。 

(頑張れ私!答えは二分の一!) 

二つのパスワードの間を、カーソルが行ったり来たりしている。 
初春の思考そのままに。 
美琴と黒子はその様子を、固唾を飲んで見守っている。 
と、突然― 

「くちゅんっ!」 

可愛らしいクシャミをした初春が振り返り、 
後ろで見守っている二人を申し訳なさそうに見つめる。 
何故かその目には大粒の涙が溜まっている。


190: 2010/12/11(土) 12:13:59.38 ID:C+1vRQ8UQ

「あの…」 

「ん?どうしたの、初春さん」 

「…押しちゃいました」 

「え?」 

「パスワード…今ので押しちゃいました」 

「えぇぇぇぇぇっ!?嘘でしょ!?」 

美琴と黒子が慌ててディスプレイを確認すると、確かにパスワード入力が完了していた。 
選ばれたのは"soror103" 


 

191: 2010/12/11(土) 12:15:21.92 ID:C+1vRQ8UQ

「ご…ごめんなさいっ!」 

初春は深々と頭を下げる。 
もし間違ったパスワードを選んでいたら。 
三人の背中を嫌な汗が流れた時だった。 
突然室内の灯りが落ちる。 
どうやらコンピューターの電源も落ちているようだ。 
あとは― 

「このまま予備電源に切り替わらず、完全に電力がストップしていれば…」 

「初春は幸運という事になりますわね」 

それから数分待ってみたが、一向に灯りは点かない。 
つまり― 

「やった!電源をカット出来たわね!」


192: 2010/12/11(土) 12:33:02.47 ID:C+1vRQ8UQ

12月24日PM11:24 

「電力が…カットされた!?」 

インデックスの張り付けられた装置のディスプレイが、突然真っ暗になる。 
女は慌てていくつかのボタンを押すが、 
装置は何も反応しなかった。 

(馬鹿な!?何重にもセキュリティーを掛けてあったのに! 
一体何故っ!?) 

きちんとした手順を踏み、完全に電源が落とされてしまった為、 
予備電源にも切り替わらない。 
その上、調整しなければインデックスの命が無いという保険も、 
無駄になってしまった。 
無理に電源が落とされれば、インデックスの脳に負荷が掛かり、 
命を落とすはずだったのだ。 

「御坂か!?」 

きっとそうだ。 
上条は美琴に心の中で感謝する。 
そして―


193: 2010/12/11(土) 12:33:58.12 ID:C+1vRQ8UQ

「ステイル、神裂、土御門!あとはあいつを何とかすればいいんだな!?」 

「あぁ。行くぞ神裂!」 

「はい!」 

「カミやんの右手、役に立ってもらうぞ!」 

四人は女に向かって走り出し― 
その女が楽しそうに笑っているのに気付いた。 
装置は止まってしまい、切り札は失ったはずなのに。 

「あっははは!切り札っていうのはね! 
最後まで取っておくものよ!」 

女はハバクク書のページを捲りながら、 
何かを呟き始める。 


「うっ…」 

すると突然、ステイルがその場に膝をつく。 
次に神裂、そして土御門も。 

「くっ…これは…一体!?」 

神裂は立ち上がろうと膝を立てるが、 
まるで巨大な岩を背負っているかのように体が重い。 

「なんだよ!?みんな一体どうしたんだ!?」


 

194: 2010/12/11(土) 12:35:18.72 ID:C+1vRQ8UQ

上条の体には何も変化が無い。という事は― 

「魔術か!」 

「そうよ。あなたが普通に立っているのは驚きだけれどね」 

女はそう言うと、上条に向かってパチパチと手を叩く。 
この女は拍手するのが癖なのだろうか。 

「音って不思議よね。耳だけじゃなく、骨なんかからも受け取れるんだもの。 
骨伝導って言ったかしら。 
今のはね、その骨伝導を利用した魔術なの。 
あなた達の体の中、音に混ぜた私の魔力が全身の骨を伝って、 
体の自由を奪ってるのよ。 
まぁ本来は一時的なものだけれどね。 
ハバクク書で強化してあるから、暫くは動けないでしょうね」 

本来魔術師は体内に、魔術に対する抵抗力がある。 
土御門は例外だが、神裂やステイル程の魔術師なら、 
体の自由が奪われるのは一瞬なのだ。 
しかし、女がハバクク書を使って強化したせいで、 
三人の体は一向に言う事を聞かなかった。


195: 2010/12/11(土) 12:37:11.50 ID:C+1vRQ8UQ

「くそ、上条当麻!君が何とかしろ!」 

言われるまでもなかった。 
もしあの魔術が単純に耳だけを狙うものなら、 
上条もどうなっていたか分からない。 
しかし、全身を対象にしているのだ。 
それならば― 
上条は右の拳を握り締める。動けるのは自分だけなのだ。 

「うぉぉぉぉっ!」 

上条は女に向かって走り出す。 
その勢いのまま、短剣に向かって右手を振り抜く。 
しかし― 

「ぐっ、あぁっ!」 

上条の右手以外、全身に鋭い痛みが走る。 
まるで刃物で切られたように、細い傷口から血が溢れ出す。 

「知らなかったかしら?このアサメイはね、魔法陣を描くだけじゃないのよ」 

女はクルクルとアサメイを回し、離れた上条に向かって振り下ろす。 

「くっ!」 

咄嗟に右手を前に差し出し、何かが打ち消されるのを感じる。


197: 2010/12/11(土) 13:07:27.55 ID:C+1vRQ8UQ

今度は上条にも確認出来た。女が振り下ろしたアサメイから、 
無数の刃が放たれたのだ。 
それはまるで鎌鼬だった。 

「く…カミやん!アサメイは四大属性の"風"に属してる! 
気をつけろ!」 

女は更にアサメイを振り下ろす。 
無数の刃が牙を剥き、上条の右手で打ち消される。 
消しきれなかった風の刃が、上条の太ももを切り裂いた。 

「あら…あなた資料ではただのレベル0だったはずだけれど、 
一体どんなトリックを使ってる訳?」 

女は知らなかった。 
上条の右手には、異能の力なら、それが例え神によるものでも打ち消す力、 
"幻想殺し"が宿っている事を。 

「うぉぉぉっ!」 

答える気の無い上条は、再度女との距離を詰める。 

「ちっ、しつこい男は…好きじゃないのよっ!」 

女は風の刃を立て続けに放つ。


 

198: 2010/12/11(土) 13:08:25.56 ID:C+1vRQ8UQ

右手で防ぎきれる筈もなく、上条の全身に再度激痛が走った。 
それでも足を止める訳にはいかない。 
上条は激痛に耐え、女の顎目掛けて拳を振り抜く。 
女はそれをバックステップでかわすと、 
今度はアサメイを使わず、上条の脇腹に回し蹴りを叩き込んだ。 

「がはっ!」 

前に体重を掛けていた上条は、その衝撃を受け、思わず地面に手をつく。 
それを逃さず、女はうずくまる上条の顔を蹴り上げた。 

「っがぁぁぁ!」 

一瞬意識が飛び、次に夜空に浮かぶ魔法陣が目に入る。 
そこで初めて上条は自分が仰向けに倒れている事を知った。 

「邪魔が入ったせいで出力は70パーセント程だけれど、 
これでも十分ね。 
上条と言ったかしら。あなたもそこで見てなさい。 
イギリスが滅びるところを、ね」 

女は倒れた上条を一瞥すると、ハバクク書を開き、 
アサメイを魔法陣に向かって掲げる。 

「マズい!魔滅の声をイギリスに向けて発動する気だ!」 

ステイルは何とか体を動かそうとするが、 
指一本言うことを聞かなかった。


199: 2010/12/11(土) 13:10:48.80 ID:C+1vRQ8UQ

「くそ、70パーセント程度でも… 
イギリス清教に属する魔術師や一般人は再起不能になるぞ!」 

ステイルの言葉に、土御門も付け加える。 

「それだけじゃない。さらわれた23人は学園都市の能力者だ。 
無理にあんな強力な魔術を使わされたら…死ぬかもしれない!」 

土御門も同じ。魔術師でありながら、スパイとして学園都市に潜入し、 
超能力開発を受けたのだ。 
相容れぬ二つを手に入れた代償。 
それを誰よりも分かっていた。 

「そういえば…魔滅の声は一定数の人間が集まっていないといけないのではないですか?」 

神裂の言葉にステイルが首を振る。 
確かに集団心理を利用する魔滅の声は、 
同じ宗派の人間などが一定以上集まっていなければ、 
あまり効果を発揮しないのだ。 
所謂その場の純度が威力を左右する。 
しかし― 

「こんな無茶苦茶な術式だからね。 
何があるか分からない。 
それに…今日が何の日か覚えてるかい、神裂」 

「今日…?」 

今日は12月24日。クリスマスイブ。 
神裂はハッと息を呑む。


200: 2010/12/11(土) 13:11:52.76 ID:C+1vRQ8UQ

「そうだ。日本とイギリスの時差は9時間。 
正確な時間は分からないけど、 
向こうは今クリスマスイブの昼過ぎくらいだ」 

十字教徒が多数を占めるイギリスにとって、 
12月24日、12月25日の二日間は日本でいう正月と言っても過言ではない。 
ほとんどの会社や店は休みとなり、 
家族、友人、同じ宗派の人間が、パーティーやミサに参加するのだ。つまり― 
同じ宗派の人間達が、かなりの確率でイギリス各地に集まっている。 

「そこまで考えてこの日を選んだという事ですか!?」 

「だろうね。だから…何としても止めなければならない」 

「当たり…前だっ!」 

「っ!?」 

ステイル達の視線の先、傷だらけの上条が立ち上がる。 
その目にはまだ諦めの色は無い。


 

201: 2010/12/11(土) 13:16:10.98 ID:C+1vRQ8UQ

女は立ち上がった上条を見て、今度は本当に驚く。 
あれだけやってもまだ立ち上がって来るとは。 

「あなた…一体何者?ただの無能力者じゃなさそうだけれど」 

「何で…」 

「え?」 

「何でこんな事をするんだよ!イギリスを滅ぼすとか… 
何がお前をそこまでさせるんだ!?」 

女が一瞬、ほんの一瞬悲しそうな顔をした。 
そして今度は怒りを滲ませて上条を睨む。 

「いいわ…教えてやる!イギリス清教が"私達"に何をしたか!」


202: 2010/12/11(土) 13:20:39.59 ID:C+1vRQ8UQ

女には双子の妹がいた。一卵性で瓜二つ。 
とても優しい、心の綺麗な妹。 
好きな歌も、好きな食べ物も、好きな遊びも、何もかも一緒だった。 
何をするのも二人は一緒。 
今までも、そしてこれからも。 
女はそう思っていた。 
その想いが打ち砕かれたのは、姉妹が22才になった頃だった。 
魔術師だった父と母の影響で、姉妹そろってイギリス清教の魔術師になっていた二人は、 
諜報活動をする部署に配属されていた。 
ある時、そこの上司に命令され、任務としてロシア正教に潜入する事になった。 
潜入して一年程経った頃、大きなトラブルが発生した。 
姉妹がイギリス清教のスパイである事がバレたのだ。 
妹は女を逃がす為に囮となり捕まった。 
自ら犠牲になる事を選んだのだ。


203: 2010/12/11(土) 13:21:22.68 ID:C+1vRQ8UQ

女はイギリス清教に帰るとすぐに応援を頼んだ。 
妹を助けて欲しいと。 
ところが― 
女は何故か牢に投獄され、上司から心をズタズタに引き裂く事を聞かされた。 

"妹は諦めろ" 

後で知った事だが、上司はロシア正教にこう言っていたのだ。 

"潜入は姉妹が独断で行った事。よって、妹はロシア正教で裁いてくれて構わない。 
姉はイギリス清教で処理する"と。 
勿論それでロシア正教が納得するはずはなかったが、 
多額の金、いくつかの霊装を渡し、この話は秘密裏に決着がついた。 
結果― 
妹は拷問の末に命を落とした。


204: 2010/12/11(土) 13:22:22.25 ID:C+1vRQ8UQ

女には妹の苦しみが、そして妹の死が分かった。 
対を失った感覚を、ハッキリと感じたのだ。 
女は三日三晩泣き叫んだ。 
そして女の処分の日。 
任務の失敗を外部に知られぬよう、上司は女を殺す事にしたのだ。 
それに反発した一人の魔術師が、女を牢から逃がした。 
そして― 
女は復讐を心に決め、 
イギリス清教も手が出しにくい学園都市に潜んでいたのだ。 
それが丁度一年前。


 

205: 2010/12/11(土) 13:23:54.63 ID:C+1vRQ8UQ

「それからこの街で、私はどんな汚い事でもやった!生きる為にね! 
ようやく協力者を見つけ、ここまで来たんだ!邪魔をするなっ!」 

女は上条にアサメイを振り下ろす。 
今度はかなりの数の風の刃が上条を襲う。 
右手だけではカバーしきれず、体中が切り刻まれた。 
それでも上条は倒れない。 

「ふざけんな…」 

「な…?」 

「ふざけんなって言ったんだ!」 

「何だと!?」


206: 2010/12/11(土) 13:24:55.81 ID:C+1vRQ8UQ

「お前が妹を失った苦しみや悲しみは俺には分からない! 
けどな、妹はお前にそんな復讐をさせる為に犠牲になった訳じゃねぇだろ! 
囮になってお前を逃がした妹も、お前が殺されないよう逃がした仲間も、 
お前には幸せに生きて欲しかったんじゃねーのかよ!」 

「知ったような事を言うなっ!お前に私や妹の気持ちが分かる訳ないだろ!」 

「ならお前は胸張って言えんのかよ…」 

「何…が…」 

「沢山の関係無い人間巻き込んで… 
これはあなたの為にした事よって… 
妹に胸張って言えんのかって聞いてんだ!」 

「それ…は…」 

「お前の妹と仲間が繋いでくれたその命で、 
どうして妹の分まで幸せに生きてやらないんだよ!」 

「黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇっ!」 

女の目からは涙が溢れていた。 
分かっていた。 
優しい妹がこんな事を望むはずが無いと。


209: 2010/12/11(土) 14:13:40.39 ID:C+1vRQ8UQ

それでも― 
それでも、この苦しみや怒りを上手く受け止める事が出来なかったのだ。 
復讐する事で解放されると、そう思ったのだ。 
いや、思わなければその苦しみや怒りに押し潰されていた。 

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!」 

女はアサメイを振り上げ、残りの魔力の全てを注ぎ込む。 

「お前が復讐でしか自分を救えないって言うんなら…」 

上条は女に向かって走り出す。 
その右拳に残った力の全てを込める。 
女が振り下ろしたアサメイは、 
完全に振り下ろされる前に上条の左肩に食い込む。 

「そのふざけた幻想をぶち殺す!!」 
鈍い音が響き渡る。 
上条の右拳が、女の顔面を打ち抜いていた。 
女はそのまま薙ぎ倒され、完全に意識を失った。 
聞こえていないだろうが、上条は女に声を掛ける。


 

210: 2010/12/11(土) 14:15:12.61 ID:C+1vRQ8UQ

「お前はまだ…やり直せるはずだ」 

女が意識を失った事で、ステイル達の体もようやく自由になった。 

「上条当麻。右手でアサメイに触れるんだ。 
魔法陣はそれで消える」 

「あぁ」 

上条は女が落としたアサメイを拾い上げる。 
儀式用に刃が落とされていた為、 
上条の左肩に食い込むだけで済んだ。 

「これで…いいのか?」 

アサメイには何も変化はない。 
神裂は上条に目で合図を出し、夜空を指差した。 

「あ…」 

白く巨大な魔法陣に、まるでガラスの様な亀裂が入っていた。 

「そうだ、インデックス!」 

上条は張り付けにされたインデックスの拘束を解き、 
体と膝下に手を入れ抱き上げる。


211: 2010/12/11(土) 14:15:56.09 ID:C+1vRQ8UQ

「良かった…大丈夫そうだ」 

インデックスの体は温かく、表情も穏やかなものになっていた。 
しばらく見つめていると、インデックスがゆっくり目を開ける。 

「とう…ま?」 

「インデックス!大丈夫か!?」 

上条に抱きかかえられたまま、インデックスが空を指差す。 

「とうま…雪」 

上条が空を見上げると、小さな白い粒が無数に舞い降りてきた。 
その一粒を、インデックスが右手を伸ばして捕まえようとする。 
しかし雪はインデックスの手のひらをすり抜け、 
地面に落ちて消えてしまった。 
インデックスを抱きかかえたまま、上条も同じように右手を差し出す。 
雪の粒は手のひらをすり抜けず、 
右手に触れた瞬間に小さく弾けて消える。 

「そっか…これ、魔法陣のカケラなのか」 

光の粒は学園都市全体に降り注ぎ、街の灯りを反射してきらきらと輝いている。


212: 2010/12/11(土) 14:17:01.76 ID:C+1vRQ8UQ

「ホワイトクリスマスだね、とうま」 

決して積もる事のない雪を見つめながら、 
インデックスは嬉しそうに呟いた。 
この笑顔を見られるなら、どんな事だって出来る。 
上条はそう思った。 

「ちょっと、一体何があったのよ!?」 

屋上に上がるなり、美琴の目に傷だらけの上条が飛び込んだ。 
腕にはインデックスを抱え、傍らには修道服の女が倒れている。 

「いや、まぁ色々ありまして…」 

「色々って…あんた血まみれじゃない!」 

美琴はスカートのポケットから、カエルのプリントされたハンカチを取り出し、 
上条に差し出した。 
そんなやり取りをよそに、ステイルは倒れている女を肩に担ぐと 

「じゃあ僕と神裂はこれで。この女は一度イギリスへ連れて帰るよ」 

そう言って屋上から出て行く。 
神裂は深々と頭を下げ、上条にお礼を言った。 

「あの、また助けて頂いてありがとうございました。 
このお礼はいずれ。失礼します」


 

213: 2010/12/11(土) 14:18:47.02 ID:C+1vRQ8UQ

そんな二人を、黒子は慌てて引き止める。 

「ちょ、ちょっとお待ちになって下さいまし! 
あなた達は学生には見えませんが、IDの確認を…」 

ステイルは足を止めず、神裂もぺこりと頭を下げてその場を後にしてしまった。 
気付けば土御門の姿も無い。 

「逃げやがったな…あいつら」 

「ねぇ、とうま」 

インデックスが上条の服をちょいちょいと引っ張った。 

「クリスマスパーティーしよう」 

「へ…今から?」 

確かに日付は変わって、今日はクリスマス。 
しかし、今は真夜中だ。 

「うん、今からなんだよ!せっかくのホワイトクリスマスだもん!」 

そう言って無邪気に笑うインデックス。


214: 2010/12/11(土) 14:19:42.02 ID:C+1vRQ8UQ

上条は頭を掻きながら暫く考え 

「そうだな…やるか!クリスマスパーティー!」 

「うん!でもまずは病院で手当てだね、とうま!」 

綺麗に落ちが決まりそうなところで、 
美琴が素早く水を差す。 

「ちょっと、何二人で盛り上がってんのよ」 

「そうだ、短髪も来る?パーティー!」 

「え…私?」 

「そうだな。お前には今回色々助けてもらったし… 
良かったら今からうちでパーティーしないか?」 

「あ、ああああんたんち!?」 

「おう。ダメか?」 

「ダメじゃないっ!いや、違う!あの…あんたがどうしてもって言うなら…」 

美琴は顔を真っ赤にして俯いてしまった。 
そんな美琴の背後から、鬼の形相で黒い影が迫る。


215: 2010/12/11(土) 14:21:51.34 ID:C+1vRQ8UQ

「お姉さま…」 

「ひっ…」 

「お姉さまには色々聞かなければいけない事、もといっ! 
色々お説教がありますの。 
ですからパーティーなんか参加してる暇はないんですのよ」 

黒子は上条を見て付け加える。 

「あなた達にも聞きたい事は山ほどありますの。 
ですが今は時間も時間ですし、明日にさせて頂きます」 

「ちょ、ちょっと待って、黒子!」 

「問答無用!」 

黒子が美琴ともう一人の少女の肩に手を置くと、 
その姿は一瞬で消えてしまった。 

「じゃあ、俺達も帰るかインデックス」


 

216: 2010/12/11(土) 14:22:49.24 ID:C+1vRQ8UQ

「全員保護出来たか」 

黄泉川は受話器を置くと、ぐったりとソファーにもたれかかる。 
行方不明者の捜索が難航していたところに、 
突然匿名で垂れ込みがあったのだ。 
時計の針は夜の12時を回っていた。 
窓の外にはまるで黄泉川を労うように、きらきらと雪が降っている。 

「さて、書類を書き終わったら小萌んとこでも行くじゃんよ」 

黄泉川が大きく伸びをした時、 
机の上の携帯が鳴る。 
ディスプレイには学園都市一番の問題児の名前が表示されていた。 

「もしもし―」


222: 2010/12/11(土) 15:01:20.37 ID:C+1vRQ8UQ

「くそっ、くそっ、くそぉっ!」 

男は高級外車の後部座席で悪態を吐いた。 
その声に、運転手がビクリと肩を震わせる。 
計画は全て順調に進行しているはずだった。 
禁書目録を鍵とし、全ての魔術師にとって脅威になる兵器を完成させる。 
その兵器と技術を独占し、学園都市で確固たる地位を築く。 
そしてゆくゆくは魔術側さえ自分のもとにひれ伏すはずだった。 
その為に莫大な私財を投じ、ここまでこぎ着けたのだ。 
それなのに― 

「許さん…許さんぞ!」 

全てが無駄になってしまった。 
今まで裏で協力していた学園都市の有力者達も、 
計画の失敗を知ると、男に責任を押し付けて身を引いてしまった。 

「見ていろ…このままでは終わらん!」 

男を乗せた車は、一方通行の細く薄暗い道へ入る。 
学園都市の外へ身を隠す為、 
知り合いの逃がし屋へ連絡をしようと携帯を取り出したその時―


223: 2010/12/11(土) 15:02:51.12 ID:C+1vRQ8UQ

「っ!?」 

突然急ブレーキがかけられ、男は携帯を取り落としてしまう。 

「何やってんだ!」 

運転席に向かって怒鳴りつけ、男は座席を蹴りつける。 

「そ、その、人が…人がいたので」 

「あぁ!?人だと!?」 

男は後部座席から身を乗り出し、前方を確認する。 
確かに車の前に立ちはだかるように、少年が立っていた。 
ヘッドライトに照らされている事を差し引いても、 
その肌も髪も真っ白。 
ただし、その両目だけが異様に赤く輝いている。 

「まさか…くそっ!轢けっ!」 

「え?ですが…」 

「いいから轢けぇぇぇっ!」 

男の剣幕に押され、運転手はアクセルを目一杯踏み込む。 
タイヤが地面を擦る甲高い音が鳴り響き、そして―


 

224: 2010/12/11(土) 15:04:10.64 ID:C+1vRQ8UQ

「ち、もうちょっと頭使うかと思ったんだけどよォ」 

車は少年に激突し、その衝撃に男は運転手席に頭をぶつける。 

「うっ…」 

男が痛みに耐えて目を開けると、フロントガラスは粉々に砕け散り、 
運転手は額から血を流し気絶していた。 

「そん…な」 

少年はまだそこに立っていた。 
車のフロント部分は、まるで電柱に激突したかのように大破している。 
いや、それ以上だ。別の方向から力が加えられたとしか思えない程、 
不自然な形に潰れていた。 

「残念だったなァ」 

少年は道路標識を指差している。 

「こっから先は"一方通行"だ」 


学園都市第1位のレベル5。 
最強にして最凶の能力者。 
一方通行。 
それが目の前で笑っていた。


225: 2010/12/11(土) 15:05:13.89 ID:C+1vRQ8UQ

「ひぃっ!」 

男は変形してしまった後部座席のドアを無理矢理こじ開け、 
車の外に這い出す。 

「やっと見つけたぞ、おい。 
てめェが俺を利用しやがった身の程知らずだなァ?」 

「ま、待ってくれ!違う!違うんだ!」 
腰が抜けて立てなくなった男は、 
ズリズリと這いずりながらまくし立てる。 

「あ、あれは俺が指示したんじゃない!だ、誰かが勝手に!」 

男の言い訳に、一方通行の顔から笑みが消える。 
彼の一番嫌いなタイプの悪党。


227: 2010/12/11(土) 15:07:01.94 ID:C+1vRQ8UQ

「そんな事俺の知ったこっちゃねェ」 

「そ、そんな…」 

「心配すンな、殺しはしねェよ。 
てめェみたいなクズを殺したら後味悪そォだしなァ」 

思いがけない一方通行の言葉に、助かるかもしれないと男は安堵する。 

「ただし―」 

「え…?」 

「死ンだ方がマシだと思える状態にはなるけどなァァァァァ!」


 

228: 2010/12/11(土) 15:10:05.72 ID:C+1vRQ8UQ

一方通行は足元に転がる男を一瞥する。 
たった一発顔面を殴っただけで、男は気を失ってしまったのだ。 
一方通行はそれ以上攻撃を加えなかった。 
昔の彼なら、男は殺されるか、それこそ死んだ方がマシな状態にされていただろう。 
一方通行の脳裏に浮かんだ一人の少女が、 
彼の性格に大きな影響を与えていた。 

「あァ、くそ。なンか疲れた」 

パキパキと首を鳴らし、一方通行はその場を離れようと踵を返す。 
丁度その時、ポケットの中の携帯が着信を知らせる。 
ディスプレイには見慣れた番号が表示されていた。


229: 2010/12/11(土) 15:12:28.16 ID:C+1vRQ8UQ

「…なンだ?」 

『あ、もしもし?出掛けたっきりなかなか帰ってこないから心配したんだよ、 
ってミサカはミサカは夫の帰りを待つ主婦の気持ち風に話してみたり』 

「…切るぞ」 

『あー、待って!待ってってば! 
今のは冗談、ってミサカはミサカは調子に乗った事を反省してみたり』 

「…用はなンだ?」 

『あのねあのね!日付が変わって今日はクリスマスでしょ? 
帰りにケーキを買って来て欲しいな、ってミサカはミサカはおねだりしてみる! 
もちろんコンビニのじゃないよ! 
ケーキ屋さんの丸くておっきくて 
苺がいっぱい乗ってるケーキが良いな、ってミサカはミサカは…』 

「断る。つーかこンな時間に開いてるケーキ屋なンざねェよ」 

『じゃあさ、じゃあさ! 
こんな時間でも開いてるケーキ屋さんを探して買って来て欲しいな、ってミサカはミサカは…』 

一方通行は今度こそ本当に電話を切った。 
毎回毎回、この少女と話していると頭が痛くなる。 
ある意味、学園都市最強はこの少女かもしれない。


230: 2010/12/11(土) 15:13:26.42 ID:C+1vRQ8UQ

一方通行は家路を歩きながら暫く考え、 
ポケットから携帯を取り出す。 
GPSを使おうと思ったが、何故か電波が届いていなかった。 
どうやらさっきから降り注いでいる、雪のようなものの影響らしい。 
一方通行は仕方なく電話帳を開き、ある人物の番号をコールした。 

『もしもし?珍しいじゃん、お前が電話してくるなんて。 
それもこんな時間に』 

「いいか、黄泉川。今から俺がする質問に答えろ。 
余計な事は言わずに、聞かれた事だけに答えろ。 
少しでも余計な事を言ったら殺す」 

『はぁ?話が見えないけど…まぁいいじゃんよ。何だ?』 

「この時間に開いてるケーキ屋を教えろ」 

『………は?』 

「いいから答えろ」 

『なるほど!あの子に頼まれたのか… 
じゃあ今日はお前がサンタクロースじゃんよ!ぷぷっ!』 

「黄ォォォ泉ィィィ川ァァァ!」


231: 2010/12/11(土) 15:15:11.23 ID:C+1vRQ8UQ

12月25日AM8:11 

「知っていたのだな、ローラ・スチュアート」 

アレイスターは、ディスプレイの向こうで微笑む女に問いかける 
。 
「あら?何の事かしら?」 

ローラ・スチュアート― 
イギリス清教の最大主教、ステイル曰わく"女狐"だ。 
ローラは美しい金色の髪をとかしながら、挑発的な口調で話している。 

「今朝、あの研究施設で原因不明の爆発事故が起きた。 
君の仕業だな、ローラ・スチュアート」 

それは朝の6時過ぎだった。研究施設が突然爆発したのだ。 
あの装置もデータも、建物諸共全てが灰になってしまったのだ。


 

233: 2010/12/11(土) 16:01:08.38 ID:C+1vRQ8UQ

「それは大変。心中お察しするわ」 

「あれは"グレゴリオの聖歌隊"だろう?」 

グレゴリオの聖歌隊とは、バチカン聖堂に3333人の修道士を集め、 
聖呪を集積、任意の場所を灰に帰す大規模魔術。 
その赤い神槍が研究施設に落とされたのだ。 
幸い施設の捜索は午後からだった為、巻き込まれた人間はいない。 

「あら、どうしてそう思いけるの?」 

その質問に、アレイスターは笑った。少なくともローラにはそう見えた。 

「私を誰だと思っているんだ、ローラ・スチュアート。 
グレゴリオの聖歌隊は発動まで時間が掛かる。 
禁書目録を使った兵器の存在、 
君は最初から知っていたんだろう」 

「それはお互い様。あなたも最初から知っていて、 
イギリス清教には黙っておったのだからね」 

ローラはとかし終わった髪を、器用に束ねている。


234: 2010/12/11(土) 16:03:42.34 ID:C+1vRQ8UQ

「もしもあの少年達が兵器を止められなかったら… 
君はあの少年達ごと焼き払う気だった。 
しかし彼らは兵器を止めた。 
イギリス清教としては、兵器やデータが邪魔だろうからね。 
遅かれ早かれ、グレゴリオの聖歌隊は発動するつもりだったのだろう?」 

ローラの表情は変わらない。 
いつ話しても、ローラの心の内を読む事は出来ないのだ。 
それはアレイスターも同じだが。 

「アレイスター・クロウリー、最大主教たる私はクリスマスの準備で忙しいのよ。 
やる事が山ほどありけるの。 
もう失礼するわね」 

ローラの姿が一度ディスプレイから消え、突然顔が大写しになる。 
カメラに顔を近付けたのだろう。 
そして満面の笑みでこう言った。 

「メリークリスマス♪」


235: 2010/12/11(土) 16:04:47.61 ID:C+1vRQ8UQ

12月25日PM6:22 

バスルームで爆睡していた上条は、携帯の呼び出し音で目を覚ます。 
病院に行ったあと、 
インデックスのワガママに付き合って朝までパーティーをしていたのだ。 
気付けばもう夕方になっている。 
上条は大きく伸びをし、通話ボタンに指をかけた。 

「はい…もしもし」 

「相変わらず間抜けな声だね」 

開口一番の嫌み。それだけで電話の相手が分かる。 

「ステイルか…なんだよ?」 

「あの女の事を、君にも教えておこうと思ってね」 

上条の寝ぼけていた頭が、一気に回り始めた。 
それは上条も気になっていた事だった。 

「イギリス清教への背信行為。これは重罪だ。 
かなり厳しい罰を受けるだろうね」 

「そんな…」 

確かに女のした事は間違っていたかもしれない。 
しかし、女にも苦しい思いがあったのだ。 
上条の胸がチクリと痛む。


236: 2010/12/11(土) 16:07:01.59 ID:C+1vRQ8UQ

「ただし…」 

「え?」 

「最大主教は事情を汲むと言っていた。 
暫く自由は奪われるだろうが、やり直すチャンスは与えられるだろうね。 
僕と神裂からもよく言っておくよ」 

「そっか!よかった!」 

どんな人間もきっとやり直す事が出来る。意志さえあれば何でも出来る。 
上条の顔には、自然に笑みがこぼれていた。 

「それから、これは僕からのクリスマスプレゼントだ」 

「ん?」 

「soror103、我が命は常に対と共に」 

「何だそれ?」 

「彼女の魔法名さ。君が覚えていてやってくれ」 

それだけ告げて、ステイルは電話を切ってしまった。


 

238: 2010/12/11(土) 16:09:57.04 ID:C+1vRQ8UQ

「さてと!」 

上条は清々しい気分でバスルームのドアを開く。 
もう遅い時間だが、今日はやる事が山積みだ。 
御坂のところへスフィンクスを迎えに行き、 
クリーニングした制服を返す。 
病院にも行かなければいけないし、風紀委員へのごまかしも考えなくてはいけない。 
更にパーティーの後片付けだってある。 
しかし、今日の上条はそれを不幸だとは思わなかった。 
あの女が今度こそ幸せに生きてくれるのなら、 
今日は不幸を受け入れる。 
神様があの女に幸せをプレゼントしてくれるのなら― 
そう、今日は誰もが幸せをプレゼントされるべき日なのだ。 

「クリスマス…だもんな」 


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