1:2018/09/09(日) 00:01:41.072 ID:cWCll7ExD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    中森常寛(25) 無職

    【アイドルとデート】

    ホーッホッホッホ……。」
4:2018/09/09(日) 00:03:36.708 ID:cWCll7ExD.net
中森のモノローグ「小学校のころに両親が離婚し、僕は母子家庭で育った」

中森の自宅。台所で言い争いをする父と母。両親を脅えた目で見つめる小学生の中森。

中森の母「もう、あなたとは離婚よ!!」

中森の父「ああ、望むところだ!!こんな家、出て行ってやる!!」


中森のモノローグ「学校では……。僕は友達がおらず、一人ぼっちだった」

高校。教室で、生徒たちが各グループを作り弁当を食べている中……。自分の席で一人で弁当を食べる中森。


中森のモノローグ「女の子たちは、ろくな理由もないのに僕を煙たがった」

運動会。校庭でフォークダンスを踊る生徒たち。中森に対し、冷たい言葉を言い放つ女子生徒。

女子生徒「私、中森君と手をつなぎたくない。だって、あんたキモいから――」


中森のモノローグ「僕は中堅大学を出て、東京の企業に正社員として就職した。しかし……」

ビジネス街、ある企業。誰もいない部署で、机に一人座っているだけの中森。
6:2018/09/09(日) 00:05:37.325 ID:cWCll7ExD.net
中森のモノローグ「仕事ができない僕は『追い出し部屋』に飛ばされ、会社を3年でクビになった」

ある企業。上司に呼び出される中森。

上司「中森君。毎日毎日、『あの部屋』に一人でいて何もしないのは、精神的にキツいだろう……」
   「だからなぁ、もう無理する必要はないんだよ。君にとっても、我が社にとっても……、楽になる方法があるだろ」


中森のモノローグ「家族も……。学校も……。会社も……。僕のことを全く受け入れてくれなかった」

真っ暗になる画面。

中森のモノローグ「しかし、そんな僕を受け入れてくれる仲間や居場所が辛うじてあった」

とある劇場。ステージの上に立つ8人の若い女性アイドル。暗い室内にステージライトが照らされる。

テロップ「地下アイドル『乙女軍団(おとめウォーリアーズ)』」

アイドルたちに向かって、サイリウムを振り回すファンたち。アイドルファンは男性が多い。

アイドルファンの観客たちの中には、中森が混じっている。

テロップ「中森常寛(25) 無職・失業中」

サイリウムを振る中森の顔のアップ。
7:2018/09/09(日) 00:07:32.415 ID:cWCll7ExD.net
東京、秋葉原。リュックを背負った若者たちが、電気街の中を歩いている。

メイドカフェやアイドルカフェなど、オタクの若者を客層とした店がいくつも見える。

秋葉原の街を歩く喪黒福造。喪黒に対し、メイド服を着た2人の女性が客引きをしている。

メイドたち「こんにちはー。『メイドガイア』でーす」

客引きをするメイドに目もくれず、道を歩き続ける喪黒。喪黒は道の前の方に、一人の男性――中森の姿を目にする。

リュックを背負った中森が、何やらウキウキしたような表情で道を歩いている。

中森(傷ついた僕の心を癒してくれるのは……、乙女軍団の女の子たちだけだ……)

どうやら……、喪黒は中森の姿を見つめながら、何かの企みを思いついたようだ。

喪黒「…………」

こっそりと中森の後ろを歩く喪黒。中森は、喪黒に後をつけられていることに全く気付いていない。


地下アイドル劇場「秋葉原エンジェルステージ」。店の1階の部分はカフェとなっている。

カフェには何人かの男性客がいる。劇場の中には、地下アイドル・乙女軍団のグッズやCDの売り場もある。
8:2018/09/09(日) 00:09:31.696 ID:cWCll7ExD.net
劇場の地下。ステージの上でライブを行う乙女軍団のメンバー。彼女たちはドレスを着て歌を歌っている。

サイリウムを振りながら、乙女軍団を応援する観客たち。中森も必死でサイリウムを振っている。

中森の隣には、喪黒が何やらぎこちない動きでサイリウムを振っている。

服装といい、様子といい、喪黒が観客の中で一人だけ浮いているようにも見えなくもない。

しかし、観客たちはアイドルの応援に夢中になっていて、喪黒の場違いさに全く気づいていない。

ライブが終わり、1階のカフェで中森はアイスコーヒーを飲みながらくつろぐ。中森がいる席にやって来て、椅子に座る喪黒。

喪黒「あなた、ここのグループのファンですか?」

中森「ええ、そうですよ。もしかして、あなたもそうなんですか?」

喪黒「いいえ、私は違いますよ。まあ、何と言うか……。最近の流行や、今の時代の世相を知っておくために……」
   「この劇場を訪れてみたのですよ。ほら、最近の日本はアイドル文化が何かと盛んですから……」

中森「そうなんですか……。好奇心が旺盛な人なんですね、あなた……」

喪黒「私の場合は、仕事柄の影響もあるんですよ。何しろ、私はこういう者ですから……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
9:2018/09/09(日) 00:11:30.493 ID:cWCll7ExD.net
中森「……ココロのスキマ、お埋めします!?」

喪黒「実はですね……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」

中森「へぇ……。変わったお仕事ですね……」

喪黒「人々がどのようなことで心にスキマを抱えているかを知るには……」
   「まずは、今の時代の世相について知っておく必要があると思いまして……ねぇ」

中森「それで、ですか……」

喪黒「見たところ……。あなたの心にも、スキマがおありのはずではないですか?」

中森「い、いや……。僕は別に何も……」

喪黒「隠さなくてもいいですよ。ほら、もしかするとあなた……。失業中ではないですか!?」

中森「ど、どうしてそれを!?」

喪黒「だって、あなた……。平日の昼間に、地下アイドルの劇場へ通っているでしょう!」

中森「いやぁ、そこまで見抜かれるとは……。何も返す言葉がありません……」
   「次の仕事を探すべき大事な時期に……。こうやって地下アイドルにのめり込むなんて……」
   「全く、僕は典型的なダメ人間ですよね……」

喪黒「何も自分を卑下することはありませんよ。あなたも、いろいろ複雑な事情があるのでしょうから……」
   「おそらく、あなた……。傷ついた自分の心に対する癒しを、アイドルに求めているのではないですかねぇ?」
10:2018/09/09(日) 00:13:38.783 ID:cWCll7ExD.net
中森「おっしゃる通りですよ……」

喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。何なら、相談に乗りましょうか?」


BAR「魔の巣」。喪黒と中森が席に腰掛けている。

喪黒「なるほど……。中森さんは、ずいぶん寂しい生い立ちを送ってきたようですなぁ……」

中森「はい。僕は、生まれから今に至るまで……。誰にも愛されず、どこにも居場所がありませんでした」
   「しかし……。そんな僕のことを、愛してくれる存在と居場所が……。ようやく見つかりました」
   「それが……。乙女軍団の女の子たちであり……、秋葉原エンジェルステージでした」

喪黒「地下アイドルの女の子と劇場が、傷ついたあなたの心の癒しとなったのですねぇ」

中森「はい。それだけではなく、アイドルファンたちと共に乙女軍団を応援するってのは……」
   「つまり……。『自分は仲間たちと行動を共にしているんだ』と感じる行為でもありますからね」

喪黒「そうですか……。まさに、地下アイドルを応援するというのは……」
   「中森さんにとっては、自分の存在の確認するための意味合いもあるのでしょうなぁ……」

中森「言われてみれば、そうかもしれませんね……」

喪黒「しかしですよ……。そんな生活を送って、あなたは本当に満足なんですか?」

中森「ええ、満足していますよ。だから、僕はアイドルの追っかけを続けているのです」
13:2018/09/09(日) 00:16:13.194 ID:cWCll7ExD.net
喪黒「いいえ……。あなたは今の生活に対して、心から満足していないでしょう……」
   「なぜなら、地下アイドルの応援をすることの無意識にあるのは……」
   「すなわち、自己逃避を欲する気持ち……。それでしょう!!」

中森「うっ……!!」

喪黒「誰にも愛されない寂しい生い立ちを送り、その上、社会人としての生活も行き詰まったあなた……」
   「自分の悲惨な人生の現実から、目をそむけるための道具……。それが、中森さんにとっての地下アイドルでしょう!?」

中森「い、いくらなんでも……。そんな言い方はあんまりですよ!!」

喪黒「そろそろ、自分の現実に目を向けたらどうです!?あなたはまだ若いんだから、いくらでも人生をやり直せますよ……」

中森「……ですよね。地下アイドルに癒しを感じていても、僕の今の現状は全然変わっていないし……」
   「それに、アイドルの追っかけを続ければ続けるほど貯金も減る一方で……」

喪黒「だから……。中森さんも今の生活と、どこかでけじめをつける必要があります」

中森「分かっていますよ……。でも、そのための決断がまだできないんです……」

喪黒「例えば……。中森さんが応援している乙女軍団のメンバーの女の子と、直接デートができれば……」
   「あなたも思い残すことは何もないでしょう。今の生活と決別するための、いいきっかけになるはずです……」

中森「確かに……。大好きなアイドルの子と実際に接することができれば……。僕も踏ん切りがつくでしょうね……」
   「でも、そういうのは現実にはあり得そうもない話ですよ」

喪黒「それが、あり得るんですよねぇ。なぜなら、私は乙女軍団の運営と知り合いですから……」
14:2018/09/09(日) 00:18:20.489 ID:cWCll7ExD.net
中森「えっ……!?……ということは、まさか」

喪黒「もちろん、私の力で不可能を可能にして見せます。つまりです、中森さん……」
   「あなたを、地下アイドルの女の子とデートさせてあげますよ」

中森「じゃあ、僕は……」

喪黒「そうです。あなたは晴れて、乙女軍団の女の子と楽しいデートをすることができます」
   「しかも、中森さんが一番好きなメンバーの子と一緒に……ね」

中森「その話が本当なら……。ゆ、夢のようですよ……!!」

喪黒「ただし……。私が、この夢のようなデートを中森さんに実現させるのは……」
   「あなたの更生と人生のやり直しのためを思ってのことですから……!」

中森「そ、それは覚悟しています……」

喪黒「だから、中森さん……。あなたには私と約束していただきたいことがあります」

中森「約束!?」

喪黒「そうです。地下アイドルの女の子とのデートは、たった1度きりにしておいてください」
   「当然……。今後は、乙女軍団のグッズやCDは全て処分し、地下アイドルの劇場に通うこともやめる……」
   「それが、今後のあなたの歩むべき人生です。いいですね、約束ですよ!?」

中森「わ、分かりました……。喪黒さん……」
15:2018/09/09(日) 00:20:21.011 ID:cWCll7ExD.net
ある駅。中森は、とある銅像の側にいる。腕時計をチラリと見つめる中森。

容姿端麗な若い女性を連れて、中森の前に現れる喪黒。女性の私服は、ファストファッションのようだ。

テロップ「菊池沙織(19) 乙女軍団メンバー」

沙織「こんにちは、中森さん」

中森「さ、さおりんが僕の目の前にいる……!」

喪黒「どうです、中森さん。乙女軍団であなたが一番好きなメンバーをお連れしましたよ」

中森「ほ、本当にこんなことができるなんて……」

喪黒「ですが、中森さん。何度でも言うように……。私が中森さんに今回のデートを手配したのは……」
   「あくまでも、あなたの更生と人生のやり直しのためを思ってのことですから……」

中森「え、ええ……。それは承知していますよ……」

喪黒「さあ……。中森さん、菊池さん。今日は思う存分、デートを楽しんでください」

中森「あ、ありがとうございます……。喪黒さん……」

駅を出る中森と沙織。
17:2018/09/09(日) 00:22:23.671 ID:cWCll7ExD.net
街の中を歩く中森と沙織。2人は手をつないでいる。2人の姿を一瞥する通行人。

沙織「ファンの人とデートをするというのは……。私、わくわくしますよ……」

中森「ぼ、僕も君とデートをするのは……。とっても、わくわくしますから……!」

顔を赤らめ、緊張した様子の中森。


プラネタリウム。館内で、天井に移る星空の映像を眺める中森と沙織。

百貨店。手をつなぎながら、雑貨屋の中を散策している中森と沙織。

川を行く水上バス。水上バスの座席に、中森と沙織が隣同士で座っている。

水族館。イルカショーを見る中森と沙織。イルカが飛び跳ねる瞬間、指を差す沙織。

レストランの中で食事をする中森と沙織。2人は会話が弾み、楽しそうな雰囲気となっている。

夜。東京タワー。展望台に立つ中森と沙織。2人は東京の夜景を眺めている。


BAR「魔の巣」。喪黒と中森が席に腰掛けている。

中森「喪黒さん……。この間はさおりんとのデート、本当に楽しかったですよ……」
   「貴重な経験ができて、喪黒さんには本当に感謝しています……」
19:2018/09/09(日) 00:24:34.084 ID:cWCll7ExD.net
喪黒「中森さんが喜んでくださるのなら、何より……。ですが……、私との約束はどうなっていますか?」

中森「もちろん、喪黒さんの言いつけを守り……。あのデートを最後に、地下アイドルの追っかけはやめています」
   「乙女軍団のグッズやCDは全て処分しましたし、秋葉原エンジェルステージに通うこともやめました」

喪黒「そうです、その調子!」
   「今回のデートを最後に、あなたは地下アイドルの追っかけからきっぱりと足を洗ってください」
   「乙女軍団のメンバーとのデートを期に、アイドルの追っかけをやめ……。何かしらの形で真面目に働くべきなのです」

中森「はい……。必ずそうしますよ……」

喪黒「地下アイドルの追っかけも、菊池さんとのデートも、一時的にいい夢を見たと思えばいいのです」
   「夢から覚めた後の現実の生活を、しっかり生きてくださいよ」

中森「ええ……。分かっていますよ……」


とある会社。中森の履歴書を見つめる社員。数人の社員たちを前に、面接に臨む中森。

中森はリクルートスーツを着ていて、非常に緊張した様子のようだ。険しい表情で、中森に何かを言う社員。

中森の表情が、みるみる暗くなっていく。会社を出て、意気消沈した様子で街を歩く中森。

中森(今回も結局、不採用……。再び正社員になることは、どうやら厳しいようだな……)
21:2018/09/09(日) 00:26:32.110 ID:cWCll7ExD.net
アパート。コタツに向かい、ノートパソコンを見つめる中森。

パソコンの画面には、アルバイトの情報がいくつも載っている。求人情報は、人材派遣の仕事ばかりが目立つ。

中森「仕方ない……。派遣会社に登録して、糊口を凌ぐしか方策がないな……」


倉庫内で、他の派遣社員とともに段ボールを運ぶ中森。中森は、へっぴり腰で辛そうな表情をしている。

中森を見つめながら、ニヤニヤ笑う倉庫勤務の男たち。彼らはヤンキー崩れで、ガラの悪そうな顔つきをしている。


とあるパン工場。防塵服に身を包んだ中森が、金網の上に焼きたてのパンを乗せている。

朝。マイクロバスに乗る派遣社員たち。後ろの方の座席で眠そうな表情をしている中森。

中森(辛い……。クタクタだ……。夜勤明けは、身体に非常にこたえる……)


とある仕事。休憩時間に、談笑する2人の中年派遣社員。苦々しい表情で2人を見つめる中森。

中森(全く、こいつら……。酒とギャンブルのことしか話題がないのかよ……)
23:2018/09/09(日) 00:28:44.481 ID:cWCll7ExD.net
牛丼屋。食事をしながら考え事をする中森。

中森(派遣社員としての身分は不安定……。でも、僕は正社員になれそうにない……)
   (しかも、僕は他の派遣社員たちと話が全く合わない……。仕事場で、僕がたった一人浮いている……)


派遣会社のマイクロバス。座席でスマホを操作する中森。スマホの画面に、乙女軍団の動画が映る。

中森(懐かしいな……。乙女軍団か。とりあえず、今回だけは……。彼女たちの歌を久しぶりに聴いてみるか)

スマホにイヤホンを装着する中森。彼がスマホを操作すると、イヤホンから両耳に甘美な歌声が聞こえる。涙を流す中森。

中森(この歌声……!!まさに、砂漠の中で出会ったオアシスのようだ……!!)


約2週間後。地下アイドル劇場「秋葉原エンジェルステージ」。ステージの上で熱唱する乙女軍団。

サイリウムを振り回す観客たち。観客たちの中には、あの中森常寛の姿もある。笑顔の中森。

中森(長い間味わっていなかった、この感覚……!久しぶりに味わった!やはり、僕の居場所はここしかないんだ!)

秋葉原エンジェルステージを出る中森。彼が充実した表情で秋葉原の街を歩いていると……。目の前に喪黒が姿を現す。

喪黒「中森常寛さん……。あなた約束を破りましたね」

中森「も、喪黒さん……!!」
24:2018/09/09(日) 00:31:48.004 ID:cWCll7ExD.net
喪黒「私はあなたに忠告しました。菊池さんとのデートを期に、地下アイドルの追っかけからはきっぱり足を洗え……と」
   「それにも関わらず……。中森さんは私との約束を無視し、また秋葉原の劇場へ足を運びましたね……」

中森「だ、だって喪黒さん……!!アイドルの追っかけは、失業中の僕の心の癒しになっていました……!」
   「し、しかし……。派遣社員になってからの僕は……、心の癒しが全くない状態のままですし……」
   「何よりも……。地下アイドルの劇場では僕も居場所があったけど、仕事場での僕は孤独なんですよ……!」
   「だから……。そう簡単にアイドルへの想いとは決別できません!!僕は今も辛いんです!!」

喪黒「……私は中森さんに、こう言ったはずですよ。夢から覚めた後の現実の生活をしっかり生きろ……とね」

中森「喪黒さん!!もう一度だけ……!もう1度だけ……!さおりんとデートをさせてください!!」
   「そうすれば……、僕も今度は本当に気持ちのけじめがつくはずです!!だから……」

喪黒「中森さん。地下アイドルの女の子とのデートは1度だけにしておくのが……、あなたと私との約束でしたよねぇ?」

中森「それは分かっています!!でも、もう1度だけ……!これは僕の一生のお願いです!!」

喪黒「仕方ありません……。そこまで言うのなら、もう1度だけ菊池沙織さんとのデートを認めましょう!」
   「ですが……、どんなことになっても私は知りませんよ!!」

喪黒は中森に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

中森「ギャアアアアアアアアア!!!」
25:2018/09/09(日) 00:35:14.324 ID:cWCll7ExD.net
休日、とある遊園地。遊具施設が並ぶ中、家族連れやカップルたちが敷地内を歩いている。

ゆっくりと回る巨大な観覧車。観覧車のとあるゴンドラに、2人だけで乗っている中森と沙織。

中森「また君に出会うことができて、本当によかったですよ……。僕は寂しい思いをしていましたから……」

沙織「私もですよ、中森さん……。なぜなら、私はずーっと悩みを抱えた状態で生きてきました……」
   「何しろ、地下アイドルの世界も……。裏側では闇社会の関係者たちが、いろいろ汚いことをやっていますから」
   「枕やら……、薬やら……」

中森「え!?」

沙織「私は、支配人に騙されて上、半グレやヤクザたちに相次いで身体をおもちゃにされました……」
   「だからもう、私の心と身体はボロボロ……。いつも、『死にたい、死にたい』と思いながら生きてきたんです」

中森「そ、そんなこと言われても……!僕にはどうすることも……」

沙織「中森さんとの2度のデート、本当に楽しかったです……。死ぬ前のいい思い出ができました」

ハンドバッグからナイフを取り出す沙織。沙織は、中森の心臓めがけてナイフを突き刺す。ドスッ!!

中森「ま、まさか……!!君……!!」

中森の衣服の左胸がみるみる血でにじむ。意識が遠ざかる中森。ナイフを座席に置く沙織。
26:2018/09/09(日) 00:38:25.106 ID:cWCll7ExD.net
沙織はさらに、油の入ったペットボトルをハンドバッグから取り出す。ペットボトルのふたを開け、床に油を撒く沙織。

いつの間にか沙織は、マッチも取りだす。火のついたマッチを床へ放り込む沙織。ゴンドラの床が真っ赤な炎で燃え上がる。

炎に囲まれた空間の中で再びナイフを持ち、自らの喉笛へ刃物を突き刺す沙織。沙織は笑顔のまま倒れる。

絶命した中森と沙織が、ゴンドラの中で炎に包まれる。2人の乗ったゴンドラのガラスが割れ、炎が外へ飛び出る。

回る観覧車。燃えるゴンドラがひときわ目立つ。炎が上がるゴンドラを指差し、驚いた様子の一般人たち。


遊園地にいる喪黒。

喪黒「ここ10数年、日本社会はアイドル文化がいたるところで盛んになっており……。今も衰えの兆しを見せていません」
   「アイドルには『偶像』の意味がありますが……。昨今のアイドルブームは、形を変えた偶像崇拝とも言えましょう」
   「なぜなら、世の中の大多数の人間は……。心の中に何かの偶像を作り出さないと生きていけない弱い存在だからです」
   「とはいえ、自分の人生は自分で切り開くしかないですから……。偶像を崇拝しても救われることは決してあり得ません」
   「どうやら、中森常寛さんが人生をかけて崇拝した偶像の正体は……。彼の魂をあの世へと運ぶ死神だったようですねぇ」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
27:2018/09/09(日) 00:39:25.296 ID:s99hamb+0.net
推しと心中できるなら喜んで死ぬわ
30:2018/09/09(日) 00:40:26.281 ID:tTGKhUVza.net
中森が刺されたのはなんでや?
28:2018/09/09(日) 00:39:30.285 ID:2H+xb4zA0.net
相変わらずのクオリティ
おつ
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1536418901