1:2018/09/07(金) 22:32:19.305 ID:cLQJ0xM8D.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    有吉力也(30) 介護職員

    【シルトピア】

    ホーッホッホッホ……。」
2:2018/09/07(金) 22:34:27.406 ID:cLQJ0xM8D.net
東京郊外。鉄筋コンクリートによるクリーム色の3階建ての建物が建っている。

建物の敷地内の入り口の塀には、「特別養護老人ホーム りんどう荘」の文字が見える。

老人ホームの廊下の壁には、施設の入居者たちが書いたと思われる習字が貼られている。

壁に貼られている習字は皆、平仮名で書かれていて、いも虫が這ったような字ばかりだ。

ベッドで寝そべる老婆に対し、「おはようございます」と笑顔で話しかける女性の介護職員。

車椅子に乗った老人が、料理の皿が乗った机に向かう。老人に対し、スプーンで食事を運ぶ女性の介護職員。

ベッドの布団やシーツを取り換える男性の介護職員。医務室では、看護師たちが机に向かっている。

日光浴のため、車椅子に乗った老人を庭へ連れ出すある男性の介護職員。

テロップ「有吉力也(30) 介護福祉士・特別養護老人ホーム職員」

有吉「村田さん、今日もいい天気ですねー」

村田「ううう……」

車椅子に乗った村田を見つめ、何かを思う有吉。

有吉(本当に、これが人間なのか……!?まるで、生きる屍じゃないか……)
4:2018/09/07(金) 22:36:21.474 ID:cLQJ0xM8D.net
呆けた表情のまま、焦点の定まらない目で外を見つめる村田。両手を震わせる有吉。

有吉(こ……、このクソジジイめ……!)

有吉の両手が、車椅子に乗った村田の首へと向かっていく……。

有吉(ま、待て……。今ここで入居者を頃すなんて……。人間として最低最悪の行いじゃないか……)

村田の首を絞めようとした有吉は、辛うじて両手を引っ込める。

有吉(何てことだ……。俺は前にも、無意識のうちに老人の首を締めたいという気持ちになっていた……)

村田が乗った車椅子を押して、「りんどう荘」の建物の中に戻る有吉。

りんどう荘。入居者の老人たちが、介護職員たちとともに童謡を歌っている。引きつった表情の有吉。

有吉(俺は老人が憎い……。介護の仕事が憎い……。毎日が嫌で嫌でたまらない……)


夜。居酒屋チェーン店。仕事帰りの一般客たちが徒党を組んで酒を飲む中、有吉は一人で酒を飲んでいる。

スーツ姿のサラリーマンたちの客を見つめる有吉。

有吉(こいつらはどこかの企業の正社員か……。おそらく、いい大学を出て就活もうまくいったんだろう……)
   (俺とは大違いだ……。俺は昔から勉強ができなくて、成行きのままFラン大学に入学し……)
   (成行きのまま大学卒業後に介護の仕事に就職した……)
5:2018/09/07(金) 22:38:33.408 ID:cLQJ0xM8D.net
大学4年のころを回想する有吉。

同期生A「有吉、お前就職決まったのか?」

有吉「ああ……。介護だよ……。俺は福祉の学部にいたから、それしかやれる仕事がないだろ……」

同期生B「へえー、介護か。うらやましいなぁ。俺らの大学に通う人間で、就職が決まるなんて……。お前、勝ち組じゃん」


場面は居酒屋チェーン店に戻る。

有吉(介護は勝ち組なんかじゃない……。社会の負け組だ……)


有吉の頭の中に、「りんどう荘」に入居する老人たちの顔が次々と思い浮かぶ。

有吉(あの汚らしいジジババたちの世話をするなんて……。もはや、我慢の限界だ……)

眉間にしわを寄せ、憎悪をこらえた表情になる有吉。

有吉(最近では、施設の中にいる老人を殺してやりたいという気持ちに何度も駆られた……)
   (俺は、老人が憎くて憎くてたまらない……。だが、問題はそれだけじゃない……)

有吉の頭の中には、施設内の女性職員たちや看護師たちの顔も思い浮かぶ。

有吉(俺が働いている施設は、女性の職員が多すぎる……。だから、俺は彼女たちとは話が合わない……)
7:2018/09/07(金) 22:40:37.822 ID:cLQJ0xM8D.net
さらに、介護施設の男性職員の顔も思い浮かべる有吉。

有吉(男性職員も一定数はいる………。だが……。あいつらはマイルドヤンキーそのもので、俺とは価値観が違う……)
   (だから、介護施設の中では俺は一人ぼっちだ……)

勢いよく酒を飲み、コップを置く有吉。有吉はうつむいたままだ。

有吉(くそっ……!!くそっ……!!くそっ……!!)

顔を上げる有吉。考え事をしていた有吉は、しばらくして何かの声を聞く。店内に響く年配の男性の怒鳴り声。

老人の男性客が、居酒屋のベトナム人店員に絡んでいる。店員の胸には、「トゥアン」と書かれた名札がついている。

酒に酔った勢いで、悪口雑言の数々を叫びまくる老人。老人は、トゥアンの胸ぐらを掴む。困惑した表情のトゥアン。

トゥアンに絡む老人の客を、苦々しい表情で見つめる店内の大勢の客たち。有吉も、例の老人の客を見つめる。

有吉(また、老人が社会に迷惑をかけているのか……。今時の老人は、本当に民度が低いな……)
   (こんな奴らに、『最近の若いもんは』なんて言われたくねぇよ……。老人の存在こそが、社会悪だろうが……)


居酒屋の自動ドアが開く。店の中に入る喪黒福造。喪黒は、ベトナム人店員に絡む老人の客を目にする。

老人の側に近づく喪黒。喪黒は、老人の客と話をしているようだ。老人に何かを諭す喪黒。
10:2018/09/07(金) 22:48:45.610 ID:cLQJ0xM8D.net
老人は、トゥアンの胸ぐらから手を離す。恥ずかしそうな表情になり、トゥアンや喪黒に何度も頭を上げる老人。

有吉(すげえな、あのおっさん……。店員にしつこく絡んでいた酔っ払いのジジイを、一発で黙らせたぞ……)

有吉は、喪黒の方を見つめる。有吉が座っているテーブルへと近づき、椅子に座る喪黒。

有吉(おっ……。いきなり俺のところにやって来たぞ……。このおっさん……)

喪黒「あなた、お一人で飲んでいるのですか」

有吉「ええ、まあ……」

喪黒「世の中について、いろいろ知るために……。あなたのような若い人とも交流を深めようと思いましてねぇ……」

有吉「そ、そうですか……」

喪黒「何しろ……。私は仕事柄、様々な世代の人たちを相手にしているのですよ。なぜなら、私はこういう者ですから……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

有吉「……ココロのスキマ、お埋めします!?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

有吉「か、変わったお仕事ですね……」
   (ますます、わけの分からん奴だ……。全く、胡散臭いおっさんだな……)
11:2018/09/07(金) 22:51:18.756 ID:cLQJ0xM8D.net
喪黒「私はですねぇ……。わけの分からない人間だとか、胡散臭い人間だとかそういう類の者ではありませんよ……」

有吉「えっ!?」
   (も、もしかして俺が考えていることを読みとったのか!?気のせいだろ……)

喪黒「多くの世代と接し、人々を救うためのボランティアみたいな仕事ですから……。私のしていることは……」
   「ひょっとすると……。あなたも仕事の関係で、他の世代と接することが多いのではないですか!?」

有吉「そ、それはその……」
   (い、いや……。気のせいだよな……。もしも俺の心を本当に見抜いていたら、化け物じゃねーか。こいつ……)

喪黒「たぶん……。あなたの職業は、介護とか福士とかそういう関係ではないですかねぇ?」

有吉「あっ……、あんた……。一体何者なんだ……!?」

喪黒「いやぁ……、私はセールスマンですよ。他のセールスマンとは、一味違っていますがね……」
   「何なら、私があなたの相談に乗りましょうか!?」


BAR「魔の巣」。喪黒と有吉が席に腰掛けている。

有吉「最近の俺は……。介護の仕事が嫌で嫌でたまらないんですよ……」
   「それどころか……。老人という存在に対して、心から憎しみや殺意を抱くようにさえなりました……」

喪黒「有吉さん。今のあなたは、精神的にも身体的にも相当参っているでしょう!?」
12:2018/09/07(金) 22:53:27.521 ID:cLQJ0xM8D.net
有吉「はい……。介護の仕事なんか、やらなきゃよかったですよ……」

喪黒「……とはいえ、介護のお仕事を辞めても……。他の就職先は、そう簡単には見つかりそうにないですからねぇ」

有吉「そのことは、俺も分かっていますよ……。結局、介護の仕事でも……」
   「ないよりはマシというのが現実ですからね。俺は一体、どうすればいいのか……」

喪黒「まあまあ、有吉さん……。介護のお仕事も、今の日本では社会のために役に立っている立派な職業ですよ」
   「世界一の高齢社会である日本では、介護の仕事が果たす役割は非常に大きいと言っても過言ではありませんよ」

有吉「それは建前の話ですよ。実際は……。介護の仕事はやる側からすれば、これ以上なくキツいですから……」
   「老人の食事の世話をしたり、入浴の介助をしたり……。さらには、シモの世話までやる……」
   「それだけでなしに、認知症になった老人の相手までやるんですよ……」
   「認知症で精神的に子供帰りした老人から……。罵声を浴びたり暴力を受けたりすることも、たまにあるんです」

喪黒「大変ですねぇ……」

有吉「ええ……。一般人が考えている以上に大変なものです。介護のキツさは、体験者でないと分かりませんよ……」

喪黒「あなたのお気持ちは、よーく分かります。ですが……。高齢者が多い今の日本では……」
   「誰かが何かしらの形で、引き受けなければならないのですよ。この介護という仕事は……」

有吉「そのことは、俺も承知していますよ……。承知しているんですけど……」

喪黒「だったら、有吉さん……。あなたはむしろ、介護の仕事に対して誇りを持つべきなのです」
   「それに、あなたもやがては高齢者となり……。自ら若い人たちの世話を受ける立場となるのですから……」
13:2018/09/07(金) 22:55:28.596 ID:cLQJ0xM8D.net
有吉「俺にそんな日が来るなんて……。あの醜いジジババのように、俺がなるなんて……。それだけは絶対に嫌だ!!」

両手で顔を多い、叫び声を上げる有吉。

喪黒「有吉さん、私に着いて来てください。今のあなたにぴったりの所へ案内しますよ」

喪黒に誘われ、外に出る有吉。2人はいつの間にか、電車に乗っている。

喪黒「次の駅を降りたすぐ近くに、とってもいい場所があるんですよ」

電車を降りた喪黒と有吉。駅を出て2人がしばらく歩くと……。見慣れない巨大な建物が目の前に見えてくる。

建物は近未来的なデザインをしているが柔和なピンク色で、見る人に穏やかなイメージを感じさせる。敷地内に立つ喪黒と有吉。

喪黒「ここは『シルトピア博物館』です」

有吉「シルトピア!?」

喪黒「はい。『シルトピア』とは、『シルバー』と『ユートピア』の語を足して作った言葉です」
   「つまり、ここは高齢社会や老人問題に関する博物館なのですよ」

有吉「なるほど……。今の日本なら、こういう博物館があってもおかしくないですね……」

喪黒「この博物館では、自ら、老人の身体の機能を体験するコースもあります」
   「有吉さん、私があなたをここに連れてきた理由が分かりますか?」

有吉「どういうことです!?」
14:2018/09/07(金) 22:57:29.745 ID:cLQJ0xM8D.net
喪黒「あなたは、まず想像力を持つことから始めるべきです。『自分も将来は老人になる日が来る』と」
   「自分が老人になった時のことを考えてください。自分が老人として世話をされる立場になったことを想像してください」

有吉「そ、それは……。喪黒さんに指摘されるまで気付きませんでしたよ……」

喪黒「さあ……、博物館の中に入りましょう。有吉さん」

建物の中に入る喪黒と有吉。2人は、受付で入館券を貰う。博物館の中を歩く喪黒と有吉。

2人は館内にあるパネルを見つめる。パネルの一つには、高齢社会の実態が事細かに記されている。

有吉「データ付きで、ずいぶん詳しいな。日本は高齢者が人口の27%もいるのか……」

さらに館内を歩く喪黒と有吉。壁には、老人が描いた画用紙の絵がいくつも飾られている。

喪黒「ここに飾られている絵は全て、認知症の人が描いたものです」

有吉「これが、そうなんですか……。こんなのが本当に絵なんですかね……?」

喪黒「これも立派な芸術ですよ。そもそも芸術の本質は、人間による命の叫びでもありますからねぇ……」


ある部屋。館内職員により、ヘッドホーン・特殊な眼鏡・手足の重りなどが喪黒と有吉に装着される。杖を持つ2人。

有吉「ぐっ……!身体が重い……」

喪黒「これは、高齢者疑似体験コースです……。有吉さん、高齢者になると身体の機能にいろいろ不具合が生じるんですよ……」
15:2018/09/07(金) 22:59:41.112 ID:cLQJ0xM8D.net
廊下を歩く喪黒と有吉。

喪黒「この施設には特別な部屋があります。あなたにはぜひとも、一度体験していただきたいものがあるんですよ」


とある広い部屋。室内には、白い卵型の機械のカプセルがいくつも並んでいる。

喪黒「これは、『シルトピアカプセル』です。このカプセルは使用者に、老人になった自分のヴィジョンを夢で見せる効果があります」

有吉「へえ……」

喪黒「さあ、有吉さん。いい夢を見てください」

『シルトピアカプセル』の中に入る有吉。彼は目を閉じて眠りにつき、そのまま夢を見る。

夢の中。老人になった有吉が自宅のベッドで目覚める。タクシーの後部座席に乗る有吉。彼は立派なスーツを着ている。

介護施設で、入居者の老人たちと握手をする有吉。とある小学校の体育館で、児童たちに講演を行う有吉。

夕方。家族たちと食事をしながら団欒をする有吉。幼い孫は有吉のことを慕っているようだ。……ここで目が覚める有吉。

カプセルのふたが開く。有吉を見つめる喪黒。

喪黒「どうでしたか、有吉さん?」

有吉「素晴らしい夢でしたよ……。夢の中での俺は、いい形で年を取っていました……」
   「若いころの介護の経験を生かし、自ら介護の企業グループを立ち上げて成功者となったのですから……」
   「実業家として財を成し、福祉のためにあちこちで寄付を行い……。社会からも家族からも慕われる老人……」
   「それが夢の中の俺でした……」
16:2018/09/07(金) 23:02:08.432 ID:cLQJ0xM8D.net
喪黒「『シルトピアカプセル』は使用者に、理想の老後のヴィジョンを見せる効果があるのですよ」
   「有吉さん。あなたはこれでもう、年を取ることに対する恐怖心はなくなったでしょう?」

有吉「はい。それに、自分の老後のヴィジョンを見た後の俺なら……」
   「老人に対する嫌悪もなくなっているでしょうし、介護の仕事も着実にこなせると思いますよ」

喪黒「そうであって欲しいですよ、有吉さん……。だから、あなたは私と約束をしてください」
   「この博物館を訪れるのは、今回の1度だけにすべきです。今回の訪問で、あなたは十分学んだのですから……」

有吉「わ、分かりました。喪黒さん……」


りんどう荘。ベッドに寝そべる老人に声をかける有吉。

有吉「おはようございます。武見さん」

机の上には、料理が載った皿が並ぶ。スプーンを持ち、車椅子に乗った老人の食事の手助けをする有吉。


休憩中の女性職員たちが、有吉について会話をしている。

女性職員たち「有吉さん、最近変わったよねー」「うん。彼は、前よりも仕事を一生懸命やるようになった気がする」


レクリエーションタイム。老人たちや職員たちと一緒に、有吉は笑顔で歌を歌っている。

机に向かい、女性入居者と一緒に折り紙を折る有吉。彼の表情は実に楽しそうだ。
18:2018/09/07(金) 23:08:33.817 ID:cLQJ0xM8D.net
BAR「魔の巣」。喪黒と有吉が席に腰掛けている。

有吉「あの博物館を訪れたおかげで、俺の人生は変わりました。前と違って、老人に対する憎しみがなくなり……」
   「あれほど辛かった介護の仕事にもやりがいを感じるようになりました」

喪黒「よかったですなぁ……」

有吉「年を取った世代の人たちも、俺たちと同じく人間なんだということを……。心から実感しましたよ」

喪黒「老人もまた、人間なんですよ。ただ、人間である以上……。美しい面だけでなく、醜い面も当然あります」
   「何しろ……。『シルトピアカプセル』で見たビジョンは、理想の老年期を映した仮想現実に過ぎませんから……」
   「実際は、あのカプセルのような年の取り方ができる人は稀なんですよ」

有吉「それは、俺も分かっていますよ……」

喪黒「人間としての負の感情や、醜い部分、矛盾……。相手のそういったものを受け入れる心の広さも、介護の仕事には必要ですよ」


りんどう荘。ベッドの老人に声をかける有吉。

有吉「おはようございます。渡部さん」

テロップ「渡部喜一郎(93) 『りんどう荘』入居者」

有吉「ケッ……!!まぁた、おぉ前か……!!」
19:2018/09/07(金) 23:11:16.003 ID:cLQJ0xM8D.net
食事中。車いすに乗る渡部にスプーンを運ぶ有吉。渡部は食べ物を口にした後、ペッと吐きだして悪態をつく。

渡部「こぉんなものぉ、食ぅえるかあ!!」

四つん這いで廊下を這いずり、玄関へ向かう渡部。徘徊をする渡部を必死で止めようとする有吉。

浴室。入浴の介助をしようとする有吉に対し、洗面器を投げつける渡部。


ある日。車椅子に乗った渡部が、有吉とともに庭で日光浴をしている。

有吉(俺がこんなに一生懸命、世話をしてやっているのに……。こいつは……)

渡部「おぉれ……。おぉ前のこと……。きぃらいだぁから……」

有吉「ああ……。俺もお前のことが大嫌いだ……」

頭に血が上り、両手で渡部の首を絞める有吉。うめき声を上げる渡部。

有吉「氏ねえ!!!」

有吉が渡部の首を絞めている光景を、女性職員が目撃する。驚く女性職員。

女性職員「有吉さん、あなた何をしているんですか!!」

女性職員の声を聞き、我に帰る有吉。彼は、渡部を置いてりんどう荘の塀の外へ飛び出す。
20:2018/09/07(金) 23:12:06.839 ID:3qEv6kJea.net
認知症患者を相手にしてこっちの精神がやられる前に介護職を辞めた人間としては続きを読むのが恐い…
21:2018/09/07(金) 23:13:22.841 ID:cLQJ0xM8D.net
介護施設のユニフォームを着たまま、泣きながら街の中を走る有吉。通行人たちは、有吉を稀有な目で見つめる。

電車に乗る有吉。有吉はある目的地へ向かっている。

有吉(辛い……!!苦しい……!!逃げ出したい……!!俺はもう一度、あの博物館の中に入って……)
   (あのカプセルの中でいい夢を見るんだ……!!カプセルがもたらす気持ちいい夢で、心の底から癒されたい……)

駅を出る有吉。有吉は、『シルトピア博物館』があるはずの場所へ足を運んだものの、そこは……。

有吉「おかしい……!!ここにあったはずの『シルトピア博物館』がなくなっている……!!」
   「何で、この辺りがラブホテル街になっているんだ……!?」

有吉の後ろから、聞きなれたあの声がする。

喪黒「有吉力也さん……。あなた約束を破りましたね」

有吉「も、喪黒さん……!!」

喪黒「私はあなたに言ったはずです。『シルトピア博物館』を訪れるのは1度だけにすべきだ……と」
   「この間、例の博物館を訪れたことで……。あなたは老人問題について十分学んだはずですよ……」

有吉「で、でも……。俺は……」

喪黒「もしかして、有吉さん……。あなた、施設の入居者に対して虐待をしてしまったのですかねぇ!?」

有吉「ううっ……!!」
22:2018/09/07(金) 23:15:40.776 ID:cLQJ0xM8D.net
喪黒「どうやら図星ですか……。おそらく、こういうことでしょう。……高齢者への虐待を同僚の職員に目撃されたあなたは」
   「介護の仕事を放り出して、ある目的のために『シルトピア博物館』を訪れました。その目的とは……」
   「『シルトピアカプセル』に入っていい夢を見ることで、現実逃避をするため……。そうですよね!?」

有吉「あ、あああ……」

喪黒「有吉さん……。何なら、私があなたを今すぐ老人にしてあげますよ!!」

喪黒は有吉に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

有吉「ギャアアアアアアアアア!!!」


ラブホテル街を立ち去る有吉。彼は、疲れ切った身体でヨロヨロと歩く。

有吉「ハア……、ハア……、ハア……、ハア……」

駅の中に入る有吉。覚束ない足取りの有吉が、若者の通行人にぶつかりそうになる。

トイレに入る有吉。小便を終え、洗面所に向かうと……。鏡には、白髪頭でしわだらけとなった有吉の顔が映っている。

有吉「こ……、これが……。俺か……。こんなしわくちゃでヨボヨボのジジイが……。今の俺だなんて……」
   「ア……、アアアアアアアアアアアッ!!!」

トイレを出る有吉。彼はそのまま昏倒し意識を失う。駅の景色や通行人の姿がグニャリと歪む。歪んだ輪郭の中へ吸い込まれる有吉。
24:2018/09/07(金) 23:18:12.267 ID:cLQJ0xM8D.net
りんどう荘。ベッドに寝そべる老人に対し、若い男性職員が悪態をついている。

老人の顔と、男性職員の顔は……。前いた世界では、お互いに正反対の立場だった人間の面影がある。

有吉「うっ……。ううう……。おおお……」

テロップ「有吉力也(93) 『りんどう荘』入居者」

渡部「この老いぼれ!!クソジジイ!!」

テロップ「渡部喜一郎(30) 介護福祉士・『りんどう荘』職員」

認知症の老人となった有吉の顔にビンタをする男性職員・渡部。うめき声を上げる有吉。

渡部「てめえは社会のゴミだ!!さっさと氏んじまえ!!」


りんどう荘の塀の前にいる喪黒。

喪黒「総人口の約27%が高齢者となった今の日本は……。まさに、世界一の高齢社会と言っても過言ではありません」
   「人口の高齢化が年々進みつつある中……、介護や福祉の仕事が果たす役割は非常に大きいものと言えましょう」
   「そもそも……。現在の若者たちも将来は必ず老人となりますし、今の老人たちも昔は若者の時期がありました」
   「全ての人間が年を取る生き物である以上……、私たちは『老い』について想像力を深めるべきなのかもしれません」
   「とはいえ……。多くの人間は、自ら老人にならないと『老い』とは何なのかを理解できないものですよ。有吉さんのように……」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
28:2018/09/07(金) 23:35:16.093 ID:sz36ABmYM.net
こういう社会問題ネタはアニメじゃ流せないからワクワクした
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1536327139