1:2019/10/10(木) 18:31:56.523 ID:B1gxOZl501010.net
陽キャ「なんだ? いじめ対策課って……」

職員「ややっ。陽キャさんはもしかして、先日施行された『いじめ対策法』をご存知でない?」

陽キャ「あ? そういえば最近なんかニュースになってたような?」

職員「ままま、詳しいお話は中で……」
3:2019/10/10(木) 18:33:38.284 ID:B1gxOZl501010.net
職員「やあ、立派なおうちですなあ。2LDKといったところですか」

陽キャ「家族三人で住むには少し手狭ですがね。私の給料ではこの程度で手いっぱいです」

職員「いやはや、大したものですよ」

職員「陽キャさんのご年齢でこれだけのお家に住めるというのは……」

職員「いささか生臭い話になりますが、現在の収入も十分なのでしょう?」

陽キャ「はあ。いやまあ、それなりには……」

職員「ははは、そうご謙遜なさらずに」

職員「さて、それでは早速ですが本題に入りますがね、陽キャさん」

職員「あなたはこちらの男性をご存知ですね?(写真ペラリ)」
4:2019/10/10(木) 18:35:18.557 ID:B1gxOZl501010.net
陽キャ「コイツは……誰だっけかな」

職員「おやおや、オトボケになられては困りますなあ」

職員「それとも本当に忘れてしまっているのですかな?」

職員「いずれにしても結構ですが……。おーい、もう良いですよー。さささ、どうぞどうぞ」ガチャリ

陽キャ「あん?」

俺「……」
6:2019/10/10(木) 18:37:20.418 ID:B1gxOZl501010.net
職員「さて陽キャさん。こちらの彼を見てもまだ思い出しませんかな?」

陽キャ「いや、なんだよこのキモいハゲのデブは。見たこともねえよ」

俺「……」

職員「おやおや、仕方ありませんなあ」

職員「それでは僭越ながらわたくしがご説明しましょう」

職員「こちらはですな、陽キャさんの中学時代の同級生であり……」

職員「その写真の男性でもある『俺』さんです」

陽キャ「あ?」

俺「……」
7:2019/10/10(木) 18:39:26.638 ID:B1gxOZl501010.net
陽キャ「あのさ、ソイツがオレの昔の同級生だってのはわかったよ」

陽キャ「でも、それがなんだっていうんだ?」

職員「ははは、陽キャさんは忘れっぽいですなあ」

職員「良いですかあ? はじめ、わたくしはなんと名乗りましたか?」

陽キャ「……あ?」

職員「わたくしは『いじめ対策課』の職員なのですよ」
9:2019/10/10(木) 18:41:20.774 ID:B1gxOZl501010.net
職員「我々の調べによると、陽キャさんは中学時代にですな」

職員「こちらの俺さんをまあ、いじめていたという事実が確認できておるんです」

俺「……」

陽キャ「いじめだ? そんなことあったかな?」

職員「ふむ。ま、当然ですな」

職員「いじめというのは被害者にとっては一生忘れられない経験であっても」

職員「加害者からすると他愛ない日常の一コマに過ぎないのですからなあ」

陽キャ「おい。『加害者』たあなんだよ、人聞きの悪い。犯罪者みてえに言うなよ」
10:2019/10/10(木) 18:43:24.477 ID:B1gxOZl501010.net
職員「ははは、これは失敬。しかしですな、お言葉ですが……」

職員「正確な現状認識がお出来になっていないのはどうやら、陽キャさんの方らしいですぞ」

陽キャ「……あ?」

職員「良いですかあ? 陽キャさん。『いじめ対策法』が施行された現在では」

職員「過去にいじめの事実が認められた陽キャさんは『れっきとした犯罪者』なのです」

陽キャ「なんだと?!」

俺「……」
12:2019/10/10(木) 18:45:44.704 ID:B1gxOZl501010.net
職員「昨今決議された『いじめ対策法』ではですな」

職員「いじめを行なった者へは厳罰が課せられることとなっておるのです」

陽キャ「厳罰?」

職員「左様ですな」

職員「とはいえ、現行法では現在進行形でいじめに困っている場合などにはですな」

職員「我々としても介入が難しいのですよ」

職員「なにせ相手は未成年ですからね。どうしても法的な責任は取らせにくい」

職員「そこで『いじめ対策法』ではまったく異なったアプローチをすることにしたのですよ」

職員「さ、陽キャさん、それでは今一度俺さんをご覧ください」

俺「……」

陽キャ「うっ……」
14:2019/10/10(木) 18:48:15.931 ID:B1gxOZl501010.net
職員「おわかりいただけたようですな」

職員「見ての通り俺さんは外見からして、まあその、なンですな」

職員「清潔感にも欠けておりますし、到底まっとうな社会人とは言い難いですわな」

陽キャ「それは、まあ……」

職員「そのうえ俺さんには学歴もなければ社交性にも乏しい」

職員「おまけに失語症かと疑いたくなるほど、ちっとも口を開かない」

職員「それでいてこれといった精神病は患っていないようなのがまた悩みの種です」

俺「……」
15:2019/10/10(木) 18:50:30.478 ID:B1gxOZl501010.net
職員「ねえ陽キャさん。俺さんはね、これまで数々の仕事に就こうとしてことごとく失敗し」

職員「最後の手段とばかりに生活保護の申請を受けたもののこれまた認められず」

職員「いわば人生の崖っぷちに立たされておるんです」

陽キャ「あ、あぁ、そうかい。そ、そりゃ気の毒だがよ」

陽キャ「でもそんなのは自業自得だろうが。単にそいつの努力が足りねえンだよ」

職員「いえいえ、それがそうでもないのですよ」

陽キャ「なっ、なに?」

職員「そこで今一度『いじめ対策法』を思い出して欲しいのです」

俺「……」
17:2019/10/10(木) 18:52:28.421 ID:B1gxOZl501010.net
職員「そもそも『いじめ』とは何ぞや? という命題について考えてみましょう」

職員「まず我々が学校というものをどう捉えているか、とお話しますとですな」

職員「それは極めて閉鎖的ではあるものの」

職員「子供だけで形成された一種の縮小化された『社会』である、と認識しておるのですよ」

職員「その中で必然的に現出する生物的淘汰がいわゆる『いじめ』なのですな」

陽キャ「弱肉強食……みたいなコトかよ?」

職員「理解が早いようで重畳ですな」
18:2019/10/10(木) 18:55:03.516 ID:B1gxOZl501010.net
職員「現に我々が保有しておるデータでは、過去に『いじめられた経験のある人間』に比べ……」

職員「『いじめをした経験がある人間』の方が成人以後になると」

職員「遥かに高い年収を得ていることが明らかになっておるのですよ。ま、中央値ですがね」

職員「あえて言葉を選ばずに言うとするならば」

職員「『いじめっ子は優秀だからこそいじめを行う』のであり」

職員「『いじめられっ子は無能であるがゆえにいじめられる』」

職員「とまァ、そういうことになりますわなあ」

俺「……」
19:2019/10/10(木) 18:57:16.921 ID:B1gxOZl501010.net
陽キャ「話が見えない。それにさっきオレのことを犯罪者とか言ってなかったか」

職員「そうそう、そうでしたな」

職員「いやわたくしは『いじめ対策課』の職員の中でもかなり特殊な方でしてな」

職員「『本音と建前』という言葉があるでしょう?」

職員「しかしわたくしはその『建前』というヤツの使い方がどうにも苦手で」

職員「本音ばかりズケズケ言ってしまうのです」

職員「ですが陽キャさん。よく考えてみてください」

職員「先ほどわたくしが口にした主張など、公の場で通るとお思いですか?」

陽キャ「あー……そりゃまあ、無茶だろうな」
20:2019/10/10(木) 18:59:10.337 ID:B1gxOZl501010.net
職員「そう。無茶です」

職員「『いじめはいじめる側が絶対的に悪い』」

職員「『いじめは必ずなくさなくてはいけないものだ』」

職員「皆が口を揃えてそう言います」

職員「しかしそれは問題解決の根本から目を背けただけの、単なる思考停止に他なりません」

陽キャ「あん? そういうものなのか?」
21:2019/10/10(木) 19:01:20.204 ID:B1gxOZl501010.net
職員「そういうことですな。もしいじめ問題を本当に解決したいと思うならば」

職員「先ほどわたくしが提示した『いじめる側が優秀』『いじめられる側が劣等』という」

職員「厳然たる事実をまず大前提として理解する必要があるのです」

職員「しかしこの手の正論はいつでも無視され続けている」

職員「だからこそいじめはなくならないのだ、という現実には皆が見ないふりをしつつね」

陽キャ「……」

俺「……」
23:2019/10/10(木) 19:03:34.507 ID:B1gxOZl501010.net
職員「そこで先ほどの言葉を続けるとしたらばですな」

職員「いじめられっ子にはつまり『社会的価値が低い人間』が多く見受けられるワケです」

職員「ですがね、そういった『高額な税金の納付が期待できない人間』に対してですよ」

職員「果たして国や自治体が保護、あまつさえ金銭的な補助をする価値があるか?」

職員「という結論に至るワケなのですよ。これでは生活保護の不正受給とさして変わらない」

職員「ま、税金の無駄遣いを嫌うのは国民の総意でもあるワケですしな」

陽キャ「相変わらずヒデエ言葉遣いだな……」
25:2019/10/10(木) 19:05:28.647 ID:B1gxOZl501010.net
職員「いやはや、わたくしはどうにも口が悪くて困りますな」

陽キャ「そりゃもう慣れたけどよ」

職員「ははは、それは恐れ入ります」

職員「しかし正論はいつでも形を変え、耳触りの良い言葉へと還元されるのが世の常です」

職員「さて、ここでこれまでのわたくしの主張を端的に纏め……」

職員「かつ公的な文言へと変換するとまァ、こうなりますな」
27:2019/10/10(木) 19:07:27.000 ID:B1gxOZl501010.net
職員「『成人したいじめられっ子は社会的弱者であり、なおかつ一方的な被害者である』」

職員「『したがって、生活苦へ陥った場合の責任はすべて――かつてのいじめっ子に帰するものとする』」


陽キャ「なっ……!? な、なんだと?!」

俺「……」
28:2019/10/10(木) 19:09:17.522 ID:B1gxOZl501010.net
職員「陽キャさん。貴方には過去俺さんをいじめた事実があります」

職員「そして俺さんは現在、生存権すら手放しかねないほどの苦難と相対している」

職員「その根本的素因を突き詰めるとするならば、やはりそれは結局のところ貴方に至るのですな」

陽キャ「そっ、そんな……無茶苦茶だ! 暴論だ!」

職員「おやおや。お気持ちはわかりますがなあ」

職員「しかしあいにく法が定めた責任からは逃れられないのですよ」

職員「そのため陽キャさんはすでに俺さんに対して」

職員「経済的な補助・扶持する義務が発生しておるのです」

陽キャ「ば、馬鹿なことをぬかすな! そんなこと、できるものか!」

俺「……」
29:2019/10/10(木) 19:11:26.651 ID:B1gxOZl501010.net
職員「ほう、左様ですか」

職員「しかしですな、これはあくまでもれっきとした法律の一部なのです」

職員「もしどうしても逆らうというのであれば」

職員「こちらとしても強硬策に出なければなりませんなあ」

陽キャ「きょ、強硬策!? 一体何をするというんだ!?」

職員「はて、そうですなあ」

職員「さしあたって陽キャさんには現在一千万円弱の預貯金があるようなので」

職員「そちらが全額俺さんへと贈与されることになりますな」

陽キャ「なッ……!?」
30:2019/10/10(木) 19:13:36.837 ID:B1gxOZl501010.net
職員「更に陽キャさんには今後、俺さんが生きている限りは追徴金が発生し続けます」

職員「ああ、念のため釘を刺しておきますが、短絡的な考えはお止しになった方が賢明ですぞ」

職員「もし俺さんの身に不幸があったりした場合には、警察の手による綿密な調査が入ります」

職員「そこでよしんば当事者であるところのいじめ加害者に当該事件への関与が認められたならば」

職員「以降も俺さんへと生前振り込む必要のあった金額と同等の額を」

職員「国庫へと納める義務が発生します。その点に関してはまァ、あしからず」

陽キャ「うっ……ぐっ……」

職員「ま、我々としてはそちらの方がむしろ手間が省けて助かるくらいですが……おっと、いや失礼」

職員「そう滅多なことを口にするべきではありませんな、いやはや」

陽キャ「そ、そんな……」

俺「……」
31:2019/10/10(木) 19:16:10.224 ID:B1gxOZl501010.net
職員「陽キャさん。貴方は実に優秀だ」

職員「若くして十分な収入があり、美人な奥さんと可愛い娘さんまでいらっしゃる」

職員「そんな順風満帆でしかなかった人生に突如として」

職員「こんな横やりが入れられてしまうのは誠に不本意でしょう」

職員「お気持ちはよーくわかります」

職員「しかしですな、ま、いかんせん法で定められておることですのでね」

職員「恨むのなら過去の自分を恨むのですな」
32:2019/10/10(木) 19:18:17.760 ID:B1gxOZl501010.net
陽キャ「う、うう……うう……」

職員「さて、それではこちらの用件も済んだことですし……」

職員「わたくしどもはこれで失礼させていただくこととしますか」

職員「ささ、行きましょう。俺さん」

俺「……」

陽キャ「ちくしょう……ちくしょうーーー!!」
33:2019/10/10(木) 19:20:27.211 ID:B1gxOZl501010.net
職員「さて、さっきの方で四人目ですか。しかし対象はまだまだいる……」

職員「俺さん。貴方は学生時代に一体、何人の人間からいじめられていたんです?」

俺「……」

職員「このままゆけば何もしないままに百万長者ですな。いやはや夢のようなハナシだ」

俺「……」

職員「かといって貴方、これからどう生きてゆくというのです?」

俺「……」

職員「社会から外れ、ただ一人、ずっと引きこもって暮らしてゆくのですか?」

俺「……」
35:2019/10/10(木) 19:22:44.473 ID:B1gxOZl501010.net
職員「その対価がまあ、この行き過ぎとも言える課徴金なのでしょうが……」

職員「しかし貴方はすでに、金では買えない様々なものを得る機会を逸しておる」

職員「友人……恋人……人生のあらゆる場で出会えたであろうはずの」

職員「目映いまでに輝かしい『時間』を、永遠の彼方へと置き去りにしたままだ」

職員「なるほど確かに金は唸るほどある。時間もごまんとある。だからとて……」

職員「だからとてあたしはおたくを到底、羨ましいとは思えませんなあ」

俺「……うう」

俺「……ううう」

俺「うううああああああああああああああ!!!!!!」


おわり
36:2019/10/10(木) 19:23:35.639 ID:B1gxOZl501010.net
以上です。
「いじめはいじめる側が100%悪い!!」っていう風潮を逆手にとって、
有能陽キャに寄生できる日が来ねえかな、って思う。
38:2019/10/10(木) 19:28:31.571 ID:9LKkXAedM1010.net
俺くんなんで最後責められてんの?
39:2019/10/10(木) 19:30:50.236 ID:z7qhN2wq01010.net
もう遡及法くらいしか反撃の目がないんだなって思うと可哀想だな
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1570699916