1: 2012/06/30(土) 21:52:41 ID:TW4Rgm.Y
爺「ほっほ、それじゃあ今日は伝説の剣の話しでもしてやるかのう」
孫「伝説の剣?」
爺「そうじゃ」
孫「それって、昔の英雄が使ってたっていう?」
爺「おぉ、よく知っておるの」
孫「切れ味が鋭すぎて、鞘に納められていながら何もかもを両断したっていう?」
2: 2012/06/30(土) 21:55:17 ID:TW4Rgm.Y
爺「ほっほ、その通りじゃ」
孫「それってだいぶ前にしてくれた話じゃんか!」
爺「おやおや……」
孫「おやおや、じゃないよ。しっかりしてよね」
爺「これは手厳しいのう……」
孫「ボケるには早いよ!」
爺「とは言え年なんじゃ、許しておくれ」
3: 2012/06/30(土) 21:59:09 ID:TW4Rgm.Y
孫「そうだねぇ。じゃあ、その英雄の話をしてよ」
爺「……ふむ、英雄の話とな」
孫「そうそう」
爺「そんなの、絵本にいくらでも載ってるじゃろ?」
孫「絵本の話は簡潔すぎるもん」
爺「ふぅむ……。儂も全て知っておるというわけでは無いんじゃがのう」
4: 2012/06/30(土) 22:02:51 ID:TW4Rgm.Y
孫「知ってる限りでいいよ」
爺「ほっほ。いつの時代も英雄は子どもの憧れ、か」
孫「だって、すごいよ」
爺「うむ」
孫「魔族から世界を救ってくれたんだもん!」
爺「……では、その後のことでも話そうかのう」
5: 2012/06/30(土) 22:05:35 ID:TW4Rgm.Y
――――
剣士「英雄だってさ、俺」
少女「それはそうでしょ」
剣士「いいのかなぁ」
少女「だって、魔族の長を倒したのはあなただよ?」
剣士「ううん、そういうことじゃなくてさ」
少女「なぁに?」
6: 2012/06/30(土) 22:09:44 ID:TW4Rgm.Y
剣士「その英雄が、魔族である君と一緒にいていいのかな、って」
少女「……」
剣士「南の大陸全土を支配していた魔族は今や混乱のさなか」
少女「うん」
剣士「人間は力で劣るも、多勢で押すだろうね」
少女「そうだね。戦術って言うの? すごいと思うわ」
7: 2012/06/30(土) 22:11:36 ID:TW4Rgm.Y
剣士「何より、長を失った魔族なんて烏合の衆だ」
少女「もともと個の力を重視する種族だからね」
剣士「俺は約束通り、魔族の長を倒した」
少女「うん、感謝してる」
剣士「それで、俺たちはこれからどうするんだ?」
少女「以前話した通りに動くだけだよ」
8: 2012/06/30(土) 22:13:37 ID:TW4Rgm.Y
剣士「あの話、か……」
少女「あ、その顔は信用してない顔だね」
剣士「信用はしてるけど、想像ができないんだよ」
少女「人間と魔族が、手を取り合って生きる世界?」
剣士「うん」
少女「だいじょうぶ、必ず実現する」
9: 2012/06/30(土) 22:15:57 ID:TW4Rgm.Y
剣士「言い切ったね」
少女「……長の持っていた力は大きすぎた」
剣士「そうだね、あれは強かった」
少女「どの魔族もかなわなかった。だからみんな言うことを聞いていたの」
剣士「恐怖政治っていうやつなのかな」
少女「でも、実は多くの魔族が人間との共存を望んでいたんだよ」
10: 2012/06/30(土) 22:19:01 ID:TW4Rgm.Y
剣士「少し前までは、民間での交流があったらしいしね」
少女「全てはあの突然変異体、長が生まれたせいだから」
剣士「つまり今こそ、人と魔族が共に立つ時だと?」
少女「そこまでいかなくてもいいの。ただ、以前みたいな関係に戻ることができたら」
剣士「とすると、現状は良くないね」
少女「勢いづいた人間が、南の大陸全土を支配しようとしてる……」
11: 2012/06/30(土) 22:22:04 ID:TW4Rgm.Y
剣士「魔族も徹底抗戦するだろうね」
少女「そうなる前に止めたい」
剣士「……人間は俺が」
少女「……魔族は私が、説得する」
剣士「気をつけてね」
少女「あなたもね。私がいないからって無茶したらダメだよ」
12: 2012/06/30(土) 22:25:13 ID:TW4Rgm.Y
剣士「君に言われたくはないけど、肝に銘じておくよ」
少女「……もし、私たちの望む世界をつかむことができたら」
剣士「……その時はゆっくり暮らしたいね」
少女「……」ジーッ
剣士「……二人で、ね」
少女「うんっ」
13: 2012/06/30(土) 22:30:09 ID:TW4Rgm.Y
―――
孫「ふぇーっ」
爺「びっくりしたようじゃの?」
孫「だってだって、絵本だと世界を救って終わりなんだもん」
爺「そうじゃのう……」
孫「英雄は魔族の少女と共に、見事魔王を討ち果たしました。それで終わり」
爺「なんとも幸せな結末じゃなあ……」
孫「悲しいお話なの?」
爺「どうだろうかのう。お前のとらえ方次第じゃ」
14: 2012/06/30(土) 22:31:26 ID:TW4Rgm.Y
孫「僕、英雄と魔族の少女には幸せになってもらいたいなぁ」
爺「ふむふむ、それは何故じゃ?」
孫「だって、いっぱい苦労したんでしょ? 報われなきゃおかしいよ」
爺「ほっほ。そうかそうか」
孫「むーっ、なんで笑うのさ!」
15: 2012/06/30(土) 22:33:19 ID:TW4Rgm.Y
爺「いやいや、お前が良い子に育って嬉しいんじゃよ」
孫「ほんとかなぁ……」
爺「それより、話の続きをしようかの」
孫「うん、もっと聞かせて!」
爺「はて、どこまで話したか……?」
孫「もうっ」
16: 2012/06/30(土) 22:37:32 ID:TW4Rgm.Y
――――
剣士「王様」
王「剣士か。もう怪我はよいのか?」
剣士「はい、おかげさまで」
王「それはよかった。では早速戦線に入ってくれ」
剣士「……いえ。俺は、その」
王「どうした?」
17: 2012/06/30(土) 22:39:19 ID:TW4Rgm.Y
剣士「……俺はもう、戦いをする気はありません」
王「……」
剣士「……」
王「……構わん。魔族の長亡き今、軍のみで事足りるからな」
剣士「……そのことなのですが、王様」
王「お前には感謝してもし足りんよ。ゆっくり休んでくれ」
剣士「あ、あの、王様」
18: 2012/06/30(土) 22:42:28 ID:TW4Rgm.Y
王「褒美は戦が終わってからとらそう。今後のお前の生活も、国の方で面倒を見る」
剣士「……王様、聞いてください!」
王「なんだ?」
剣士「大事な話があります」
王「ふむ。というと、魔族の少女のことか?」
剣士「――!」
王「私を舐めるな。私は王。支配者だ」
19: 2012/06/30(土) 22:45:36 ID:TW4Rgm.Y
剣士「……魔族まで、支配するつもりか?」
王「王の使命だ。才能あるものは、それを発揮せねばなるまい」
剣士「魔族の支配ができないということは、歴史が証明しているだろう!」
王「ならば私が為そう」
剣士「……本気で言っているのか? どれだけの血が流れると思っている!」
王「血など洗い流せばいい」
剣士「……貴様っ」
20: 2012/06/30(土) 22:48:39 ID:TW4Rgm.Y
王「哀れなことだな、剣士よ」
剣士「哀れだと?」
王「サキュバスという魔族を知っているか?」
剣士「……何が言いたい」
王「知っているようだな。やつらは妖術をもって男を操るらしいぞ」
剣士「何が言いたいっ!」
王「直に解放される。……安心して、待っているがいい」
21: 2012/06/30(土) 22:50:29 ID:TW4Rgm.Y
剣士「……ま、まさか」
王「すでに軍は動かしている。今頃衝突しているだろう」
剣士「……殺す! 貴様はここで殺す!」
王「……好きにしろ。愛しいおなごの亡骸はこちらで葬っておいてやる」
剣士「……くっ」ダッ
王「……許せ、剣士よ」
王「これは悪い夢なのだ。すぐに目覚めさせてやる」
22: 2012/06/30(土) 22:52:26 ID:TW4Rgm.Y
…………
………
……
…
剣士「ねぇ、少女」
少女「……なぁ、に」
剣士「俺は、人間を許すことはできないみたいだ」
少女「……あなたも、魔族だったら良かったのにね」
23: 2012/06/30(土) 22:53:51 ID:TW4Rgm.Y
剣士「そうだな。でも俺は、やっぱり人間なんだよ」
少女「……私も、人間を、許せそうにない」
剣士「ははっ。わがままだな、俺たち」
少女「でも、あなたという人間は、好きだよ。……愛してる」
剣士「俺も、お前という魔族を愛しているよ」
少女「ふふ。……なぁんだ」
24: 2012/06/30(土) 22:55:07 ID:TW4Rgm.Y
剣士「簡単なことだったんだね」
少女「……私、少し眠くなってきちゃった」
剣士「うん、ゆっくりお休み」
少女「次に目が覚めたら、朝日は、昇っているかな」
剣士「あぁ。きっと、新しい世界を照らしてくれるはずだ」
少女「私に、おはようって、言ってくれる?」
25: 2012/06/30(土) 22:56:43 ID:TW4Rgm.Y
剣士「誓うよ」
少女「……じゃあ、安心だね」
剣士「うん。……さぁ、もう目を閉じて」
少女「……おやすみ、剣士」
剣士「……おやすみ、少女」
剣士「……俺たちが望んだ世界で、いつかまた、必ず会おう」
26: 2012/06/30(土) 23:00:35 ID:TW4Rgm.Y
――――
孫「……」
爺「……」
孫「……それで、結局どうなっちゃったの?」
爺「お前は、魔族という種を見たことがあるか?」
孫「……ううん、ないよ」
爺「だったらそれが答えじゃ」
27: 2012/06/30(土) 23:02:03 ID:TW4Rgm.Y
孫「……悲しいね」
爺「そうじゃなあ」
孫「結局、二人が望んだ世界はつくれずに、離れ離れになっちゃったんだね」
爺「……そうかも、しれんな」
孫「なんだか僕、人間であることが嫌になっちゃいそうだよ」
爺「孫よ、それだけは言ってはいかん」
28: 2012/06/30(土) 23:03:07 ID:TW4Rgm.Y
孫「どうして……?」
爺「英雄は人間であり、魔族の少女が愛した男もまた人間だった」
孫「……うん」
爺「彼は人間を憎んだが、人間をやめようとはせなんだ」
孫「……そうだね」
爺「それが彼の強さじゃと、この老いぼれは思うんじゃよ」
29: 2012/06/30(土) 23:05:01 ID:TW4Rgm.Y
孫「……」
爺「ほっほ。お前にはちと難しかったかのう」
孫「……英雄は」
爺「うむ」
孫「人間を憎んだ英雄は、それでも人間として、人間と共に生きたんだね」
爺「……彼にしかできん方法でな」
30: 2012/06/30(土) 23:06:44 ID:TW4Rgm.Y
孫「そっかぁ」
爺「……どれ、気分が沈んだなら外で遊んでくるといいぞ」
孫「うん、そうだね。あっ、でも最後に」
爺「なんじゃ?」
孫「それって、どれくらい昔の話なの?」
爺「そうじゃのう。……ざっと、350年くらい前かの」
31: 2012/06/30(土) 23:08:31 ID:TW4Rgm.Y
孫「じゃあ、爺ちゃんが生まれるちょっと前くらいかぁ」
爺「そんなことを聞いてどうする?」
孫「ううん。だから詳しいんだなって思ってさ!」ダッ
――額から歪な角を生やした赤い眼の少年はそう言うと、丁寧に折り畳んでいた二対の翼を力強くはためかせ、大空へと飛び立っていった――
おわり
32: 2012/06/30(土) 23:08:54 ID:TW4Rgm.Y
読んでくれた人乙
33: 2012/06/30(土) 23:11:11 ID:dcHgKB5g
乙
35: 2012/07/01(日) 11:19:17 ID:T75PcyKI
不思議と清清しいSSだ 地元のじーちゃん思い出したわ
乙
乙
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