1:2019/10/31(木) 19:52:31.771 ID:ffkxnGk60HLWN.net
カキーンッ…
カキーン…
カキィーン…
男「……」
男(俺の趣味はこうして、バッティングセンターで腕組みしながら他人のバッティングを見ること……)
男(なぜならこうしてると、まるで自分がバッティングの達人になったように思えてくるからだ)
男(野球経験? もちろんない。ていうか、ここで一番遅い90km/hのボールもまともに打てない。文句あっか)
カキーン…
カキィーン…
男「……」
男(俺の趣味はこうして、バッティングセンターで腕組みしながら他人のバッティングを見ること……)
男(なぜならこうしてると、まるで自分がバッティングの達人になったように思えてくるからだ)
男(野球経験? もちろんない。ていうか、ここで一番遅い90km/hのボールもまともに打てない。文句あっか)
18:2019/10/31(木) 19:55:58.519 ID:ffkxnGk60HLWN.net
少年「ねえ、お兄さん」
男「ん?」
少年「いっつもここにいるけど、もしかしてニートなの?」
男「む!」
男(なんだこのクソガキ……失礼すぎるだろ。だいたいニートじゃねえよ! フリーターだよ!)
男(バイトまでの時間ヒマだから、いつもここでバッティング見物ごっこしてんだよ!)
男(……なぁんて正直に説明したら、下手すりゃさらにバカにされるかもしれない)
男(そうだ!)
男「ん?」
少年「いっつもここにいるけど、もしかしてニートなの?」
男「む!」
男(なんだこのクソガキ……失礼すぎるだろ。だいたいニートじゃねえよ! フリーターだよ!)
男(バイトまでの時間ヒマだから、いつもここでバッティング見物ごっこしてんだよ!)
男(……なぁんて正直に説明したら、下手すりゃさらにバカにされるかもしれない)
男(そうだ!)
23:2019/10/31(木) 19:58:47.888 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男「俺はね……元プロ野球選手なんだ」
少年「え、そうなの!?」
少年「だけどお兄さんなんて見たことないよ……」
男「そりゃそうさ。プロになった年に大怪我して、あっという間に引退しちゃったからね」
男「だけど野球には未練があるから、いつもこうやってバッティングを見させてもらってるのさ」
男(どう考えても無理のある設定だが……)
少年「すっげ~!」キラキラ
男(どうやら騙されたようだ)
少年「え、そうなの!?」
少年「だけどお兄さんなんて見たことないよ……」
男「そりゃそうさ。プロになった年に大怪我して、あっという間に引退しちゃったからね」
男「だけど野球には未練があるから、いつもこうやってバッティングを見させてもらってるのさ」
男(どう考えても無理のある設定だが……)
少年「すっげ~!」キラキラ
男(どうやら騙されたようだ)
24:2019/10/31(木) 20:01:07.805 ID:ffkxnGk60HLWN.net
少年「ポジションはどこだったんですか!?」
男「え!? え、と……確かセカンドだったかな。二塁二塁」
少年「バッティングは?」
男「ああもう……凄かったよ。“打撃の申し子”“ホームラン製造機”と呼ばれたくらいだ」
少年「すっげ~!」
少年「あ、あのっ!」
男「なんだい?」
少年「僕にバッティングを教えて下さい!」
男「!」
男「え!? え、と……確かセカンドだったかな。二塁二塁」
少年「バッティングは?」
男「ああもう……凄かったよ。“打撃の申し子”“ホームラン製造機”と呼ばれたくらいだ」
少年「すっげ~!」
少年「あ、あのっ!」
男「なんだい?」
少年「僕にバッティングを教えて下さい!」
男「!」
28:2019/10/31(木) 20:04:25.262 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男「なぜ……?」
少年「僕、少年野球やってるんですけど、守備はともかく打撃が下手で……」
少年「いっつもチームに迷惑かけちゃってるんです」
男「たしかに……野球は点を取らねば勝てないスポーツだからな。打てなければ話にならない」
少年「だからお願いします! ぜひご指導を!」
男「わ、分かった……とにかくフォームを見てみよう。打席に入るがいい」
少年「分かりました! じゃあとりあえず90km/hの打席で……」
少年「僕、少年野球やってるんですけど、守備はともかく打撃が下手で……」
少年「いっつもチームに迷惑かけちゃってるんです」
男「たしかに……野球は点を取らねば勝てないスポーツだからな。打てなければ話にならない」
少年「だからお願いします! ぜひご指導を!」
男「わ、分かった……とにかくフォームを見てみよう。打席に入るがいい」
少年「分かりました! じゃあとりあえず90km/hの打席で……」
29:2019/10/31(木) 20:07:50.583 ID:ffkxnGk60HLWN.net
少年「でやっ!」スカッ
少年「えいっ!」カキーンッ
少年「ていっ!」スカッ
少年「半分ぐらいしか当てられませんでした……」
男(俺よりよっぽどすごいじゃねえか)
少年「じゃあ、次はお手本を!」
男「え!?」
男「いや! 俺は怪我してるといったろう? もうバッティングできる体じゃないんだ……」
少年「失礼しました!」
男「だから、俺がフォームを直してやろう、うん!」
少年「えいっ!」カキーンッ
少年「ていっ!」スカッ
少年「半分ぐらいしか当てられませんでした……」
男(俺よりよっぽどすごいじゃねえか)
少年「じゃあ、次はお手本を!」
男「え!?」
男「いや! 俺は怪我してるといったろう? もうバッティングできる体じゃないんだ……」
少年「失礼しました!」
男「だから、俺がフォームを直してやろう、うん!」
32:2019/10/31(木) 20:11:17.213 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男(……と、ここで普通にフォーム直してやってもつまらんな。そもそも正しいフォームなんか知らんし)
男(ここはひとつ……からかってやるか)
男「俺が素晴らしい打法を教えてやろう」
少年「ぜひ!」
男「まずこうやって片足を上げるんだ」
少年「これはまさか……一本足打法!?」
男「いや、あれの進化系ともいうべき打法だ」
少年「なんですって!?」
男「続いて、この上げた足を後ろに曲げる。こうすると、まるで尻尾みたいになるだろう?」
男「この姿勢のまま、バットを振るんだ。これぞまさに“尻尾打法”!」
少年「尻尾打法……!」
男(ここはひとつ……からかってやるか)
男「俺が素晴らしい打法を教えてやろう」
少年「ぜひ!」
男「まずこうやって片足を上げるんだ」
少年「これはまさか……一本足打法!?」
男「いや、あれの進化系ともいうべき打法だ」
少年「なんですって!?」
男「続いて、この上げた足を後ろに曲げる。こうすると、まるで尻尾みたいになるだろう?」
男「この姿勢のまま、バットを振るんだ。これぞまさに“尻尾打法”!」
少年「尻尾打法……!」
34:2019/10/31(木) 20:12:08.256 ID:eveOstgjrHLWN.net
これはひどい
35:2019/10/31(木) 20:14:44.876 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男「ちょっとやってみな」
少年「はいっ!」
スカッ スカッ スカッ …
少年「ダメだ、全然当たらない! この姿勢じゃ力入らないし!」
男(そりゃそうだ)
男「それはまだ、君が未熟だからだ」
男「“尻尾打法”は理論上、最強の打法なのだ! 練習を繰り返せば必ず打てるようになる!」
少年「分かりました!」
男(ぷくくく……完全に信じ込んでやがる)
少年「はいっ!」
スカッ スカッ スカッ …
少年「ダメだ、全然当たらない! この姿勢じゃ力入らないし!」
男(そりゃそうだ)
男「それはまだ、君が未熟だからだ」
男「“尻尾打法”は理論上、最強の打法なのだ! 練習を繰り返せば必ず打てるようになる!」
少年「分かりました!」
男(ぷくくく……完全に信じ込んでやがる)
37:2019/10/31(木) 20:17:44.873 ID:ffkxnGk60HLWN.net
少年は毎日のように――
少年「尻尾打法!」
少年「ていっ! えいっ! てやっ!」スカッ スカッ スカッ
少年「ダメだ……ちっとも当たらない」
男「うーむ、理論上は最強のはずなのだが……君には難しすぎたかな?」
少年「す、すみません!」
男「だったら仕方ない。さらに上の打法を教えてやろう」
少年「上があるんですか!」
少年「尻尾打法!」
少年「ていっ! えいっ! てやっ!」スカッ スカッ スカッ
少年「ダメだ……ちっとも当たらない」
男「うーむ、理論上は最強のはずなのだが……君には難しすぎたかな?」
少年「す、すみません!」
男「だったら仕方ない。さらに上の打法を教えてやろう」
少年「上があるんですか!」
39:2019/10/31(木) 20:20:31.300 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男「上げた片足を、膝からグルグル回すんだ」
男「こうすることで空気の渦が発生し、ホームランを打ちやすくなる」
男「これぞ名づけて尻尾グルグル打法!」
少年「すごい! なんて科学的なんだ!」
男「じゃ、やってみな」
少年「はいっ!」
少年「でいっ! うりゃ! ええいっ!」スカッ スカッ スカッ
男(ホントにやってるよこいつ、ヤバイ笑いそうになっちゃう)プププ…
男「こうすることで空気の渦が発生し、ホームランを打ちやすくなる」
男「これぞ名づけて尻尾グルグル打法!」
少年「すごい! なんて科学的なんだ!」
男「じゃ、やってみな」
少年「はいっ!」
少年「でいっ! うりゃ! ええいっ!」スカッ スカッ スカッ
男(ホントにやってるよこいつ、ヤバイ笑いそうになっちゃう)プププ…
41:2019/10/31(木) 20:23:23.049 ID:ffkxnGk60HLWN.net
カキンッ
少年「あ!」
少年「やった! 当たりました! ゴロだけど……」
男「おお~、すごいじゃないか。だが、ゴロで満足してちゃダメだ。もっと練習しなきゃ!」
少年「はいっ!」
男(そりゃあんだけやってりゃ、たまには当たりもするわ)
少年「あ!」
少年「やった! 当たりました! ゴロだけど……」
男「おお~、すごいじゃないか。だが、ゴロで満足してちゃダメだ。もっと練習しなきゃ!」
少年「はいっ!」
男(そりゃあんだけやってりゃ、たまには当たりもするわ)
42:2019/10/31(木) 20:25:33.709 ID:ffkxnGk60HLWN.net
ある日――
少年「……」ショボン
男「どうした?」
少年「実は試合で尻尾打法をやったら……監督に怒られて……」
少年「“そんなふざけた打ち方するな”って……」
男(そりゃそうだ)
少年「……」ショボン
男「どうした?」
少年「実は試合で尻尾打法をやったら……監督に怒られて……」
少年「“そんなふざけた打ち方するな”って……」
男(そりゃそうだ)
43:2019/10/31(木) 20:26:42.606 ID:dGVY+TLUrHLWN.net
そりゃそうだww
44:2019/10/31(木) 20:29:34.274 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男「言いたい奴には言わせておけばいい。無視しろ」
少年「!」
男「君は元プロの天才である俺と、そこらの少年野球チームの監督、どっちを信じる?」
少年「もちろんあなたです!」
男「よくいった」
男「ならば誰になんと言われようと、尻尾ブルブル打法を極め……」
少年「尻尾グルグル打法ですよね?」
男「あ、ああそうだった。尻尾グルグル打法を極めるのだ!」
少年「そうします!」
男(あーあ、どんどん泥沼にはまってるよ、こいつ)
少年「!」
男「君は元プロの天才である俺と、そこらの少年野球チームの監督、どっちを信じる?」
少年「もちろんあなたです!」
男「よくいった」
男「ならば誰になんと言われようと、尻尾ブルブル打法を極め……」
少年「尻尾グルグル打法ですよね?」
男「あ、ああそうだった。尻尾グルグル打法を極めるのだ!」
少年「そうします!」
男(あーあ、どんどん泥沼にはまってるよ、こいつ)
45:2019/10/31(木) 20:32:12.921 ID:ffkxnGk60HLWN.net
男(とはいったものの……)
少年「てやっ!」スカッ
少年「えいっ!」キンッ
少年「だりゃ!」スカッ
男(さすがに気の毒になってきたな。金も相当使ってるだろうし)
男(そろそろ本当のことを……)
カキィーンッ!
男「……え!?」
少年「てやっ!」スカッ
少年「えいっ!」キンッ
少年「だりゃ!」スカッ
男(さすがに気の毒になってきたな。金も相当使ってるだろうし)
男(そろそろ本当のことを……)
カキィーンッ!
男「……え!?」
47:2019/10/31(木) 20:36:24.173 ID:ffkxnGk60HLWN.net
少年「ほれっ!」カキィーンッ!
少年「もいっちょ!」カキィーンッ!
男「……ホームラン!? あの打ち方で!?」
少年「やっと……やっと尻尾グルグル打法のコツを掴めました!」
男「コツ……!?(んなもんあるのかよ)」
少年「グルグルのやり方さえしっかりすれば、たしかにこれホームランどんどん打てますね!」
カキィーンッ! カキィーンッ! カキィーンッ!
ザワザワ… スゲエ… マジカヨ…
男「えええ……!?」
少年「もいっちょ!」カキィーンッ!
男「……ホームラン!? あの打ち方で!?」
少年「やっと……やっと尻尾グルグル打法のコツを掴めました!」
男「コツ……!?(んなもんあるのかよ)」
少年「グルグルのやり方さえしっかりすれば、たしかにこれホームランどんどん打てますね!」
カキィーンッ! カキィーンッ! カキィーンッ!
ザワザワ… スゲエ… マジカヨ…
男「えええ……!?」
49:2019/10/31(木) 20:39:24.627 ID:ffkxnGk60HLWN.net
年月は流れ……
ワァァァ…… ワァァァ……
実況『さあ、今年の夏の甲子園はとんでもない怪物が誕生しました!』
実況『今までになかった独特すぎる打法で、なんと予選大会から全打席ホームラン!』
実況『この打席はどうなるでしょうか……』
カキィーンッ!!!
実況『またもホームラン! 白い打球が鮮やかな放物線を描きました!』
ワァァァ…… ワァァァ……
実況『さあ、今年の夏の甲子園はとんでもない怪物が誕生しました!』
実況『今までになかった独特すぎる打法で、なんと予選大会から全打席ホームラン!』
実況『この打席はどうなるでしょうか……』
カキィーンッ!!!
実況『またもホームラン! 白い打球が鮮やかな放物線を描きました!』
50:2019/10/31(木) 20:42:14.208 ID:ffkxnGk60HLWN.net
パシャッ パシャシャッ パシャッ
記者「甲子園優勝、おめでとうございます」
球児「ありがとうございます」
記者「今年の甲子園は、まさにあなたの年でした」
球児「チームに貢献することができて、嬉しいです」
記者「ところで、あの不思議な打法はどうやって身に付けたんですか?」
球児「地元のバッティングセンターで知り合った人が教えてくれたんです」
球児「あの人には本当に感謝しかありません……」
記者「甲子園優勝、おめでとうございます」
球児「ありがとうございます」
記者「今年の甲子園は、まさにあなたの年でした」
球児「チームに貢献することができて、嬉しいです」
記者「ところで、あの不思議な打法はどうやって身に付けたんですか?」
球児「地元のバッティングセンターで知り合った人が教えてくれたんです」
球児「あの人には本当に感謝しかありません……」
53:2019/10/31(木) 20:45:14.446 ID:ffkxnGk60HLWN.net
ドドドドドドド…
「いたぞ!」 「彼だ!」 「彼があの打法を伝授した……!」 「元プロらしいぞ!」 「ぜひ一言っ!」
男「!」ギクッ
男(あの子が大活躍したのはよかったが、やっぱり俺んとこまでマスコミが押し寄せてきやがった!)
男(ここは尻尾巻いて逃げるしかねえ!)ダッ
~おわり~
「いたぞ!」 「彼だ!」 「彼があの打法を伝授した……!」 「元プロらしいぞ!」 「ぜひ一言っ!」
男「!」ギクッ
男(あの子が大活躍したのはよかったが、やっぱり俺んとこまでマスコミが押し寄せてきやがった!)
男(ここは尻尾巻いて逃げるしかねえ!)ダッ
~おわり~
54:2019/10/31(木) 20:47:04.413 ID:K20QPTkE0HLWN.net
( ;∀;)イイハナシダナー
55:2019/10/31(木) 20:48:54.620 ID:Dg4VKMaU0HLWN.net
感動的だったわ
56:2019/10/31(木) 20:49:16.611 ID:msVObJLwrHLWN.net
師匠もちゃんと尻尾使ってるな乙
57:2019/10/31(木) 20:51:18.072 ID:MVNW512i0HLWN.net
尻尾だけにか
59:2019/10/31(木) 21:03:24.647 ID:WWVZ+RTPdHLWN.net
オチうまいな乙
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1572519151
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