1:2019/11/01(金) 18:16:10.433 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「ん~、よく寝た!」ググッ

勇者「おかげさまですっかり回復しましたよ!」

受付「行ってらっしゃいませ、勇者様」

勇者「行ってきます!」



勇者(私は一晩眠れば体の至る所が完全に治ってる……)

勇者(……だけど、これっておかしくないか?)
4:2019/11/01(金) 18:19:12.391 ID:MXKRiEyA0.net
勇者(だって普通の人は――)



村人A「寝たけど全然疲れ取れね~!」

村人B「俺も! 筋肉痛がやべえわ!」

村娘「ふああ……もっと眠ってたいわ……」



勇者(一晩眠ったくらいじゃ、あんな風に疲れや怪我が残っているものなのに)
5:2019/11/01(金) 18:22:15.790 ID:MXKRiEyA0.net
ガーゴイル「ギャァァァス!」

ザシュッ!

勇者(鋭い爪で体を裂かれても――)



ゴーレム「ガアッ!」

ドゴンッ!

勇者(自分より大きい魔物に殴られても――)



勇者(一晩眠れば治ってる)スッキリ

勇者(これって……どう考えてもおかしい!)
9:2019/11/01(金) 18:26:15.056 ID:MXKRiEyA0.net
ある宿屋――

主人「勇者様、ようこそいらっしゃいました」

勇者「一泊したいんですが」

主人「では300Gいただきます」

勇者「分かりました」



勇者(さて、ベッドに入ろう……)
12:2019/11/01(金) 18:29:57.829 ID:MXKRiEyA0.net
技師「ようやく眠ったか……」

勇者「……」

技師「む、腕がイカれているな。これはパーツを交換せねばダメだな」

技師「それにバッテリーにも傷がある。まだ軽微だが、これも今のうちに直しておかねば……」

技師「他にも直しておきたい箇所がいくつかあるな」

技師「やれやれ、朝までに終わらせられればいいが」
13:2019/11/01(金) 18:32:26.455 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「……」パチッ

技師「え!?」

勇者「やはり、こういうことだったか……」

技師「お前、休眠モードに移行していたはずじゃ……!」

勇者「寝たふりをしていたんだよ。今のお前の言葉を借りるなら、“休眠モードになったふり”か」

技師「……!」
16:2019/11/01(金) 18:36:01.965 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「どういうことか説明してもらおうか」

技師「……」

勇者「私は作られた存在なのか? 私は……人間ではないのか?」

技師「……」

勇者「答えろ!!!」チャキッ

技師「わ、分かった……全てを話そう……」
17:2019/11/01(金) 18:39:34.996 ID:MXKRiEyA0.net
技師「今自分でいった通り、お前は人間ではない」

勇者「……!」

技師「お前の正体は――」

技師「王国最新鋭の技術で造られた、人工知能を持つ自律戦闘機械人形」

技師「正式名称は……≪BRAVE-001号≫なのだ……」

勇者「機械……! この私が……!」
18:2019/11/01(金) 18:42:41.103 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「しかし! 私には故郷の村で生まれ育った記憶や剣の修行をした記憶がある!」

勇者「これは一体なんなんだ!?」

技師「全て偽の記憶だ」

技師「お前の故郷は王国の研究所だし、剣の修行などせずとも最初から剣を扱えた」

技師「もちろん、冒険で学習しつつ、強くなる仕組みも備えているが」

勇者「じゃあ私を送り出してくれた父と母は……」

技師「王国で雇った……役者だ。お前と血の繋がりなどない。そもそもお前に流れているのは油だ」
19:2019/11/01(金) 18:45:41.556 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「私は……いったいなんのために造られた!?」

技師「それはむろん、魔王を倒すためだ」

技師「魔王を倒すには、ただ強いだけの兵器では足りない」

技師「あらゆる状況を自分で学習し、克服する兵器が必要だった」

技師「現にお前は、出発時と比べると格段に強くなっているではないか」

勇者「私は魔王を倒すために造られた存在にすぎないということか!」

技師「結論をいえば、そうだ」
20:2019/11/01(金) 18:48:40.143 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「フ、フフ……フハハハハ……」

勇者「どうりで宿屋で一晩寝ただけで、体が全快するわけだ……」

勇者「なにしろ私は人間ではなかったのだから……機械なのだから……」

勇者「父も母もいない……造られた存在なのだから……」

勇者「ハッハッハッハッハッハッハッハ! 傑作だ! これは傑作だ!」

技師「……」

勇者「だが、そうと分かったからには……」
22:2019/11/01(金) 18:52:06.408 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「もうお前らなどに従う理由はない」チャキッ

技師「!」

勇者「私はこれより魔王討伐を放棄し、自由に生きる」

勇者「なんだったら魔王に協力するのも面白いかもしれない」

技師「正気か? 俺がメンテナンスしてやらなきゃ、お前は長くは――」

勇者「それでもかまわないッ!」

勇者「私は自由に生きる! それが私にできるお前たちへの唯一の復讐だ!」

勇者「まず、私を造った技師よ。お前から血祭りに上げてくれよう」
23:2019/11/01(金) 18:55:25.142 ID:MXKRiEyA0.net
技師「斬れよッ!!!」

勇者「!?」ビクッ

技師「オラさっさと斬れよ! 斬って下さいよォォォォォ!!!」

技師「どうした、なに剣を引っ込めてんだよ。とっとと斬るなり刺すなり抉るなりしろよゴラァ!」

勇者「いきなりどうした……」

技師「あーあ、いつかこうなるのは分かってたんだよ」

技師「ったく、あのバカ王のせいで……」ブツブツ

勇者「ちょっと待ってくれ。ちゃんと説明してくれ」

技師「あ? 聞きたい? 分かった分かった、話してやるよ」
25:2019/11/01(金) 18:58:11.183 ID:MXKRiEyA0.net
技師「お前さ、自分で話しながら思わなかったか?」

技師「最初から『自分は兵器だ』ってインプットされてりゃ、こんなことにはならなかったって」

勇者「たしかに……余計な疑問や反抗心を抱かずに済んだはずだ」

技師「そうなんだよ、最初はそうするつもりだった。そうなるはずだった」

技師「そしたら、あの王(バカ)が……」
26:2019/11/01(金) 19:02:14.323 ID:MXKRiEyA0.net
王『この勇者は機械とはいえ、自分で考え学習する力を備えているのだろう?』

技師『ええ、まあ』

王『それはもはや人間ではないか! それを我々の都合で兵器扱いするなど気の毒すぎる!』

技師『え』

王『余はこの勇者を機械扱いすることは許さん! 人間として扱え!』

技師『しかし、どうやって……』

王『たとえば、そうだな……。人間として十数年生きた記憶をインプットし』

王『昔からこの国にいた人間ということにしてやるのだ!』

技師『食事や排泄をしなくていい理由は、それっぽい理由をこじつけられるかもしれませんが』

技師『修理やメンテナンスの時、絶対“自分は人間じゃない”って気づいちゃいますって』

王『だったら勇者が寝てる時にこっそり直せばいいだろ! お前が!』

技師『えええ……』
28:2019/11/01(金) 19:05:39.443 ID:MXKRiEyA0.net
技師「周囲の人間も王の意見に妙に感動しちゃって、賛同しちゃって」

技師「お前には人間としての偽記憶をインプットして、俺はかげながらサポートするはめになったんだよ」

技師「そこからは地獄だったぜ……」

技師「なんたって俺は、お前に存在を知られないよう、お前についてかなきゃならなかったんだからな」

勇者「あ……」

技師「工具担いでダンジョン歩くわ、モンスターに襲われるわ、お前の代わりにバックアタック受けるわ」

技師「もう散々だった……。一日に平均三回くらいは死にかけてるぜ」
30:2019/11/01(金) 19:08:26.888 ID:MXKRiEyA0.net
技師「しかもお前は将来も保証されている」

勇者「どういうことだ?」

技師「もし魔王を倒したら、人間としてか機械としてかは分からないが」

技師「みんなから英雄扱いされるのは確定してんだ。実際人気あるしなお前、イケメンに造ったし」

技師「一方、地味な裏方の俺はどうだ? なーんもない。声援も貰えない、チヤホヤもされない」

技師「多分、科学技術勲章あたりの地味な勲章と金一封をもらって、それっきりだろうさ」

技師「あとは一生お前のメンテナンスやるだけの人生になるだろうな」

技師「他の人間でもメンテできるようになったらそれすらお払い箱になる可能性だってある」

技師「まったく……やってらんねえよ!」
31:2019/11/01(金) 19:12:31.188 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「しかし、私はしょせん造られた存在……」

技師「造られた存在ィ~? んなもん誰だってそうだろうが!」

技師「俺だって親父とお袋のズッコンバッコンで造られた存在なんだからよォ!」

勇者「ズッコンバッコン……」

技師「お前との違いなんて、天然素材か機械かってことぐらいしかねえ!」

技師「ちなみに親父とお袋は田舎でイモ売ってる。10個で5G! もし寄ることがあったら買ってね!」

勇者「はぁ……」

技師「しかも俺はズッコンバッコンできそうもねえ!」

技師「そりゃそうだ! 年中機械いじってる油臭いネクラに寄りつく女なんざいるわけねえ!」

技師「どうやら俺は親に孫の顔を見せられそうもない! 親不孝でごめんねお父さんお母さぁん!!!」
34:2019/11/01(金) 19:15:50.396 ID:MXKRiEyA0.net
技師「それとお前、“自由に生きたい”っていってたな」

勇者「あ、ああ」

技師「いっとくけどな、今の世の中自由に生きてる奴なんざいやしねえよ!」

技師「俺はこの通りだし、みんな多かれ少なかれ自分のしたいことやりたいことを我慢して生きてんだ!」

技師「ここの主人だって本当は違う夢があったのに、宿屋の主人になったのかもしれねえ!」

勇者「しかし、王様は……」

技師「あいつだってバカだが自由じゃねえ」

技師「生まれながらにして王であることを求められて、あれこれ我慢してきた局面は多いはずだ」

技師「浮浪者の類は自由かもしれねえが、やれることの制限は多いわけだから結局自由とは程遠い!」

技師「それなのに自由に生きたいとか……機械のくせに自由に夢見すぎなんだよオオオオオオオオ!!!」
37:2019/11/01(金) 19:19:08.705 ID:MXKRiEyA0.net
技師「分かったか? 分かったならもうさっさと俺を斬ってくれ!」

技師「斬ってどこへでも行っちまえ! さあ早く! さあさあさあ!」

勇者「うう……」

技師「どうした!? 俺を許せないんだろ!? 自由に生きたいんだろ!?」

技師「やってみろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

勇者「あの……」

技師「なんだァ!?」

勇者「一つ提案があるのだが……」

技師「提案ン!? 機械風情がいっちょ前に!? ハッ、いいだろう冥土の土産に聞かせてみろィ!」
38:2019/11/01(金) 19:22:20.174 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「私の……“仲間”になってもらえないか?」

技師「……!?」

技師「どういう意味だ? 俺も自分を機械化しろ……ってことか?」

勇者「どんな解釈だ。言葉のまま、仲間として一緒に戦ってくれ、という意味だ」

勇者「そうすればお前も裏方ではなく、皆から“勇者の仲間”として扱ってもらえるはずだ」

技師「……いいのか?」

勇者「もちろんだ。というか、その方がこっちとしても色々都合がいいし……」

勇者「メンテ係が私の知らないところで氏んでしまっても困るからな」

技師「……!」ジーン
39:2019/11/01(金) 19:25:19.496 ID:MXKRiEyA0.net
勇者「一緒に……魔王を倒そう!」

技師「分かった……やろう! 俺たち二人で魔王を倒すんだ!」

ガシッ!

主人「あ、ちなみに私は昔、シンガーソングライターになるのが夢でした」

勇者「うわ!」

技師「全部聞いてたの!?」



――――

――
40:2019/11/01(金) 19:29:32.217 ID:MXKRiEyA0.net
魔王「ついに来たか……勇者ども」

魔王「各地で我が配下を斬殺したり爆殺したりしてくれたらしいが、それもここまでだ!」

勇者「そうはいくか! 私たち二人がお前を倒し、平和を取り戻してみせる!」チャキッ

技師「その通りよォ! 勇者とその仲間である俺がお前をあの世に送ってやる!」

技師「旅の途中新開発した携帯型ミサイルランチャーの威力、とくと味わいやがれェェェェェ!!!」ジャキーンッ

勇者(この人、最初から私なんて造らず、自分で魔王倒しに行った方がよかったんじゃ……)







― 完 ―
41:2019/11/01(金) 19:33:20.870 ID:Gh21cS1Er.net

勇者と技師は世界を救う!
43:2019/11/01(金) 20:33:48.515 ID:zYycBExn0.net
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1572599770