2: 2019/12/09(月) 20:59:37.15 ID:wqVA7QGc0

──

私(A国は国中のあらゆるものがお菓子でできているので別名「お菓子の国」と呼ばれている)

私(お菓子の国のお菓子はどれも美味しいが、A国の言語を理解できる人が少ないので、日本の輸入量はごく僅かだ)

私(私は今から外国語を勉強し、将来はお菓子の国との貿易に携わる職業に就きたいと考えている)

私(進路面談では、今と同じことを担任に伝えた)

担任「いいんじゃないか。中学生の夢らしさもありつつ、ちゃんと現実性がある」

私「はい」

担任「親御さんにはもう話したの?」

私「ええ。相談して決めました」

担任「そうか。じゃあ先生から言えることは何もないな」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:00:57.25 ID:wqVA7QGc0

私「なんだか嬉しそうですね先生」

担任「楽チンで助かったから。手のかからない子ほど可愛いものだね」

私「普通逆では?」

担任「もっと情熱的な教育者ならそうかも知れない。でも俺は違う……お茶でも飲むか?」

私(机の上にポットが置かれていた。パックの入った紙コップに熱湯が注がれた)

私「こんなダラダラしてていいんですか? 私の次の子が、もう外で待ってると思いますけど」

担任「進路面談は1人5分使うようにと校長から言われてるんだ。お前は早すぎる」

私「そっちの都合じゃないですか」

担任「お茶冷めるよ」ズズ…

私「もう……」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:01:57.04 ID:wqVA7QGc0

私(そこからしばらく無言が続いた。先生はスマホを触り、私は外の景色を見ていた)

私(今は冬だった。校庭の桜の木の葉はすでに枯れ落ちている)

私(入学してから2年近く経っていた。小学生の頃とは比べ物にならないぐらい時間が経つのを早く感じる)

担任「……あそうだ。パスポートの用意しておけよ」

私「え、どうして?」

担任「職業体験があるから。お前の場合、お菓子の国へ行くことになる」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:03:16.94 ID:wqVA7QGc0

ガララララ…バタン

私「……あ」

不良「……」

私(教室前に置かれた椅子に、不良は足を組んで座っていた)

私(私は私の後ろの出席番号が彼女であることを、今まですっかり忘れていた)

私「ええと、久しぶり。学校来てたんだ」

不良「……」

私(不良は髪を金色に染めている。耳にはイヤーカフを留め、スカート丈は膝上20cmほど。無論どれも校則違反だ)

私(実を言うと彼女が"こう"なる前まで、私たちは仲良しだった。小学生の頃は同じクイズ同好会に入っていたし、毎日のように一緒に遊んでいた)

私(中学に上がってから彼女は次第に不良に染まっていった。タバコを吸ったのを決定的に、私たちの関係は疎遠になった)

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:04:23.77 ID:wqVA7QGc0

私「でも意外。進路面談に来るなんて、真面目なところあるじゃん」

不良「……」

私「先生待ってるよ。教室あったかいよ。入れば?」

不良「……」

私「ま、いいや。じゃあね」

スタスタ

私(校庭を見ると陸上部の女の子が半袖でランニングしていた)

私(紺のセーターを着た吹奏楽部の男女が、スーザフォンを慎重に運んでいる)

私(お菓子の国に行ったらチョコレートをたらふく食べてやろうと思った)

私(チョコは私の好物なのだ)

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:06:11.52 ID:wqVA7QGc0

──空港──

私「搭乗までまだ時間があるなぁ。あそこのソファーで待とう」

ドサッ

私(隣に金髪の少女が座ってきた。空席はそこら中にあるのに。一瞬外国人かと思ったが違った)

不良「……先生から」スッ

私「え?」

私(不良はプリントを差し出してきた。校章が入った学校関連の資料だ)

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:07:41.01 ID:wqVA7QGc0

私「ど、どうしてあなたがここに?」

不良「……同じ」

私「同じって?」

不良「……」

私(ポツリポツリと喋る不良の話をまとめると、彼女も進路面談でお菓子の国に関する職業を希望したのだという)

私(何もかも意外だった。彼女がそんな夢を持っていたことも、私にプリントを届けてくれたことも)

私「ありがと。助かったよ」

不良「……」

私(不良はそっぽを向いて、そのままどこかに行ってしまった)

私(やがて飛行機が来て、私たちはお菓子の国へと到着した)

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:09:41.97 ID:wqVA7QGc0

──お菓子の国──

私(お菓子の国の空港は一面お菓子で作られていた)

私「すごい。壁や柱は色付けされたチョコだし、荷物を乗せたベルトコンベアは分厚いグミだ」

青年「こんにちは」スッ

私「あ、はい、こんにちは。……あれ、日本語?」

青年「僕は日本とA国のハーフなんだ。君の学校から職業体験のインストラクターを任されている」

私「あ、そうだったんですね。よろしくお願いします」ペコ

青年「よろしく。もう1人女の子がいるって聞いてたんだけど、一緒じゃないの?」

私「あぁ、ええと……」

不良「ここです」スッ

私「わっ、ビックリした!」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:10:49.85 ID:wqVA7QGc0

私「もう、いたなら声ぐらいかけてよ」

不良「……」プイ

青年「あー……えっと、荷物も重いことだろうし、早速ホテルに向かおうか。外に車を止めてあるんだ」

──

私「……この車、もしかしてラムネ菓子でできてます?」スンスン

青年「その通りだよ。ラムネカーの良いところは軽くて速いところ。脆くて故障しやすいのが玉に瑕だけど……さぁ乗って」

私(発車と同時に笛ラムネみたいな音が高く響いた)

私「……すごい。木や地面もよく見るとアイスとかウエハースでできてるんですね」

青年「うん。なんと言ったってここはお菓子の国だからね」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:12:21.71 ID:wqVA7QGc0

──ホテル──

私(ホテルも何らかのお菓子で出来ているようだった。多分カルメ焼きとか、そういう類のお菓子だ)

青年「2人で1部屋しかとってないんだけど、大丈夫かな?」

私「ええ、大丈夫です。ね?」

不良「……」

私「黙認ということですので、どうか気にしないでください」

青年「はは……今日は疲れたろうから、早めに休むと良い。僕の電話番号を渡しておくから、困ったことがあったら連絡してね。それじゃ」

スタスタ

私「……」チラ

不良「……」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:13:25.10 ID:wqVA7QGc0

──

私「見てこの部屋のベッド、カステラでできてる。窓際にあるソファーはマシュマロ製じゃない?」

不良「……」

私「なんだか思い出すね。小学校の臨海学習で同じ班になった時も、こうして一緒の部屋に──」

バタン

私(不良は何も言わずシャワールムに入ってしまった)

私「……そう簡単にはいかないか」

私(ベッドに腰掛けて上を見上げる。インストラクターのお兄さんの言う通り、今日はもう寝てしまおうかと思ったその時)

ガタンッ

私「!」

私(大きな物音がしたので急いでシャワー室を開けた)

私(そこには、シャワーから出た水飴に滑ってすっころんだ不良の姿があった)

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:14:10.70 ID:wqVA7QGc0

私「ちょっと、大丈夫!?」

不良「……か、勝手に入んないで」

私「肩貸すよ。ほら捕まって」

不良「! いい、出て行って!」

バタンッ

私(怒鳴られてシャワー室を追い出された)

私「……」

私(出る直前に見えてしまった)

私(彼女の裸には、複数箇所に黒っぽい痣のような痕が残されていた)

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:15:19.55 ID:wqVA7QGc0

──翌日──

青年「ここが僕の職場だよ」

私「へぇ。倉庫みたいな場所ですね」

青年「僕はここで商品の管理や取引の通訳をしているんだ」

私「大変そうなお仕事ですねぇ」

青年「そうだね。でもやってる内容的には、日本の貿易業とあまり変わりないと思うよ」

青年「ただしここの場合、全ての商品が食品という扱いになるから、あらゆる審査が厳しくなるんだ」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:17:17.82 ID:wqVA7QGc0

私(そこから先は小難しい仕事の話が続いた)

私(はじめは私も真面目に聞いていたのだが、途中から集中して話を聞いてられなくなっていった)

私(彼の業務について詳細に紹介され、倉庫をぐるっと一周回った頃には、私はもうヘトヘトだった)

青年「──と、こんな感じ。2人は僕と同じ職種を希望してるんだよね。なら今話したことと似たようなことを任されることになると思う」

私「はい、ありがとうございます……」

青年「ごめんね、疲れたでしょ。でも明日からは自由行動にするつもりだから、ゆっくり羽を伸ばしてね」

私「? どういうことですか?」

青年「学校からは滞在期間の全てを業務紹介の時間に充てるよう言われてるんだけど、君ぐらいの年代の子には知識よりも楽しさや興味心を与えたほうが身になると僕は考えている」

青年「だから仕事の話は今日1日で一気に終わらせて、明日からは自由にお菓子の国を回って欲しいなって」

私「わぁ……ありがとうございます!」

青年「ふふ。お菓子の国を満喫してね」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:18:46.90 ID:wqVA7QGc0

私「やったね。どこ回ろっか」ワクワク

不良「……」

青年「自由行動とは言ったけど、1つだけ約束して欲しいことがある」

私「はい。何ですか」

青年「……この国には魅力的なお菓子であふれている。もちろん見物すると良いし、食べてもらっても構わない」

青年「だけど、絶対に『お菓子になりたい』とは考えちゃダメだ」

私「お菓子になりたい?」

青年「意味が分からなければそれで良い。ただし今の注意は決して忘れないこと。いいね?」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:20:23.55 ID:wqVA7QGc0

──

私「はぁー。今日は一段と疲れた」ドサッ

私「でも自由行動は嬉しいな。あのインストラクターのお兄さん優しくてイケメンで、良い感じの人だね」

不良「……」

私(不良は無言のままシャツのボタンを外し、スウェット姿に着替えた)

私「だけど、不思議なことも言っていたね。『お菓子になりたいと考えないで』って。あれの意味わかった?」

不良「……」

私「多分だけど、冗談を言ったつもりだったんじゃないかな。ハーフとは言ってもずっとお菓子の国にいるわけだし、私たちの感覚とズレてても不思議じゃないから」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:21:17.42 ID:wqVA7QGc0

不良「それは違う」

私「えっ?」

私(急に返事が返ってきて驚いた。私は彼女の方を振り返った)

不良「冗談じゃない。あの人の言ってたことは本当」

私「どういうこと?」

不良「……知らないの?」

私「何が?」

不良「お菓子の国にはお菓子の神様がいて」

不良「祈りを捧げると、自分をお菓子に変えてくれるの」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:22:34.92 ID:wqVA7QGc0

不良「言葉に出さなくても心の中で強く願うだけで済む」

不良「いつだってどこにいたって、お菓子の神様は私たちのことを見てくれているから」

私「……」ポカーン

不良「……」

私「つ、疲れたね。今日はもう寝よっか」

不良「うん」

私(それぞれ別のベッドに入って、その日はそのまま就寝した)

チュンチュンチュン…

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:24:10.79 ID:wqVA7QGc0

私「さぁ自由行動開始だ。どこに行こっか」

不良「勝手に1人で行けば?」

私「私はそれでも平気だけど、あなたはこの国の言葉喋れないでしょ」

不良「……」プイ

私「こんなこともあろうとガイドブック買っておいたんだ。なになに『お菓子の国で絶対に行くべき3つのスポット!』」

私「『ふわふわの森』『とろとろの海』『さくさくの街』」

私「今日からこの3つを順番に回っていこっか」

私(私たちはホテルで自転車を借りた。自転車は餅のような何かでできていて、乗り心地はまあまあだった)

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:25:43.62 ID:wqVA7QGc0

──ふわふわの森──

私「見てよこの森。全部わたあめだ。色とりどりでキレイだね」

私「少し食べてみよう。ほいっと」

ピョン

私「もぐもぐ……うん、美味しい。あなたも食べる?」

不良「いらない」

私「そんなこと言わないで。ほら」

不良「むぐ……」

私「目で楽しみ口で味わう、これこそ観光の醍醐味だよ。なんてね」

不良「……」モグモグ

私(不良はそっぽを向いて歩いて行ってしまった。私は急いで後を追いかけた)

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:26:55.97 ID:wqVA7QGc0

私(森の奥の方に行くにつれ、気温が次第に下がってきた)

私(木々もわたあめではなく、いつの間にかかき氷に姿を変えていた)

私「寒くない? 戻ろうよ」

不良「勝手に戻れば」

私「冗談言わないで。こんなところに1人でいたらあなた迷子だよ」

不良「……別に良い」

私「良くないでしょ。帰れなくなったらどうするの」

不良「……」

私(不良は何も言わず、ビスケットの枯れ葉の道を歩き続けた)

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:29:01.25 ID:wqVA7QGc0

私「……ねぇ。少し偉そうなこと言ってもいいかな」

不良「……何」

私「学校にはさ、ちゃんと来た方がいいと思うよ。あなたにも色々事情があるのは察してるし、今更真面目に学校に出る気まずさもあると思うけど」

私「それでも中学ぐらいは社会に従った方が”楽”だよ。今ならまだやり直せるから……」

不良「……やり直せる?」

私(不良はピタリと足を止めた)

不良「勝手なこと言わないで。私のこと何も知らないくせに」

私「知ってるよ。友達だもん」

不良「もう違う」

私「私は今でも友達だと思ってるよ。疎遠になったってそれは変わらない。タバコのこと誰にもチクってないのがその証拠」

不良「……本当に?」

私「本当だよ」

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:29:45.21 ID:wqVA7QGc0

不良「本当に、私のことを友達だと思ってる?」

私「……。思ってる」

不良「じゃあ、クイズに答えてみて」

私「クイズ?」

不良「私には、あなたにしてほしいと思っていることがある。それを当ててみて」

私「え、何それ。漠然としすぎだよ。クイズですらないし」

不良「もしその答えがわかって、仮に実践できたら……いいよ。また友達に戻ってあげる」

私「……約束だからね?」

不良「……」コクン

私(森の奥にはチョコレートでできた険しい山脈がそびえていた)

私(そういえば、あれほど食べたいと思っていたチョコを、この国でまだ一口も食べていないことに気がついた)

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:31:20.70 ID:wqVA7QGc0

──夜──

私(甘い夜風に吹かれながら、私はホテル周辺を散歩していた)

私「私にしてほしいこと、か……」

青年「こんばんは」ヒョコ

私「わっ!」

青年「あ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ。立てる?」サッ

私「へ、平気です。あ、ありがとうございます」ドキドキ

青年「うわのそらな感じで歩いていたけど……何か考え事をしていたの?」

私「ええと、はい。色々と考え中でして」

青年「そっか……その歳だもの、考え事や悩みは尽きないよね。学業や人間関係、そして進路……」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:32:33.35 ID:wqVA7QGc0

青年「そういえば君はどうして将来お菓子の国で働きたいと?」

私「子供の頃からの夢だったんです。今も子供ですけど……ずっとお菓子の国に憧れていて」

青年「憧れ、か。その気持ちはここに来てからも変わらないかい?」

私「はい。昨日のお話を聞いて大変そうだなとは思ったけど、だけどやっぱり私はこのお菓子の国と働きたいです」

青年「……偉いね。まだ中学生なのに、そんなにしっかりとしてるなんて」

私(青年の顔が近づく。私は思わず顔が赤くなった)

青年「君は将来が楽しみだ。──あっちの子とは違って」

私(言葉を理解するのに1秒かかった)

青年「それじゃあね。遅くならないうちに帰るんだよ」

テクテク

私(火照っていた体は急激に熱を失った。ぶつける先のない怒りを抱え込んだまま、私はホテルへと帰った)

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:33:45.16 ID:wqVA7QGc0

──とろとろの海──

私「砂浜は砂糖、海は蜂蜜……かな」

不良「……多分ね」

私「小学校の頃さ、給食のデザートでハニーラスクが出たよね。大人気で1枚も余らなかった。この国なら何億枚でも食べられそう」

不良「この海を見て出る感想がそれなの?」

私「なっ……じゃああなたの感想を聞かせてよ。さぞ高尚なことが言えるんでしょうね」

不良「……この場に立っているだけで糖尿病で死ねそう」

私「もう、私よりひどいじゃん。どうしてそういうこと言うかな。よりにもよってこの夢の国で」

不良「私はここを夢の国だなんて思ってない」

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:35:22.73 ID:wqVA7QGc0

私(角砂糖のテトラポットに粘着質の波がさざめき立っている)

私「……ねぇ。ヒントちょうだいよ」

不良「何の話?」

私「あなたが言ってたクイズの話。正直言って見当もつかないの」

不良「あぁ……まだ考えてたんだ」

私「当たり前でしょ。絶対に正解を当てて見せるんだから」

不良「……好きにすれば」

私「うん。だからヒントちょうだい」

不良「……」プイ

私(不良は無言のままそっぽを向き、砂浜を歩き始めた)

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:36:57.57 ID:wqVA7QGc0

ザクザク…

私「じゃあ質問を変えるよ。あなたはどうして、このお菓子の国で働きたいと思ったの?」

不良「……何でそんなこと聞くの」

私「だって意外なんだもの。私は小学校からその夢を口にしていたけど、あなたは同調するそぶりを全く見せなかったじゃない」

不良「……」

私「気が変わったって言うのならそれまでの話だけどさ……だけど、今日までお菓子の国で一緒に生活してきたけど、やっぱりそんな風には見えないから」

不良「……どういう風に見える?」

私「だから、まるでお菓子の国に興味がないみたいに見える」

フフ…

私(不良は不気味に笑った。お菓子の国で初めて見せた笑みだった)

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:38:09.91 ID:wqVA7QGc0

不良「その通りだよ。だって興味ないもの。昔も今も」

私「……じゃあどうしてここまで来たの。わざわざ面談にまで出席してさ」

不良「お菓子になるため」

私「え……?」

不良「私はお菓子になるためにこの国に来た。普通の手段じゃ親の許可が下りなくて海外にいけない。だから中学校行事を利用した」

私「……本気で言ってる?」

不良「もちろん」

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:38:50.42 ID:wqVA7QGc0

私「……お菓子になってどうするの?」

不良「分からない。お菓子は何も考えないから。でもきっとこの国の景観の一部となって、静かに暮らすんじゃないかな」

私「その後は?」

不良「知らない。そのままそこに存在し続けるか、物好きな誰かに食べられるよ」

私「……」

私(不良はタバコを吸うように、ため息のような白い息を上空へと吐いた)

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:39:56.73 ID:wqVA7QGc0

──ホテル──

私(私は日本から持ち込んだPCでスカイプを起動させた)

先生『よう。久しぶりだな』

私「はい先生」

先生『じゃあ面倒臭いけど、定例報告を始めるか。えー、体調に問題はありませんか』

私「棒読みやめてください」

先生『ふふ、大丈夫そうだな。じゃあ次は……』

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:41:27.68 ID:wqVA7QGc0

──

先生『こんなところか。楽しんでやれてるみたいで何よりだよ』

先生『それで、次はお前じゃなく、お前の同居者の話になるんだが……』

私(先生はバツが悪そうに目線をそらした)

先生『うまくやれているか?』

私「ええ。今の所何も問題なく生活できてますよ」

先生『それを聞いて安心した。すまない、お前以外にもお菓子の国への希望者がいることを、たまたま伝え忘れてて……』

私(その言葉は嘘だとわかっていた。彼女と一緒に職業体験をすると知って私が休みでもしたら、学校側としては困る。つまりはそう言うことだ)

先生『不審な行動を取ってるとかはないか? 例えばタバコや怪しい薬を摂取していたり……』

私「いいえ。全く」

先生『そうか。じゃあ、暴力は起きていないか? 少しでも叩かれたり蹴られたりしたら報告してくれ』

私「……お言葉ですけど先生。彼女は他人を傷つけるようなことはしませんよ」

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:42:48.45 ID:wqVA7QGc0

私「彼女は髪を染めてますし耳に穴も開けていますが、暴力が他人に向かったことは1度だってありません」

私「痛めつけているのはいつだって自分の身体です」

先生「……」ポカーン

私「あ、えっと……もう切りますね。また日本でお会いしましょう」

私(スカイプを切って後ろを振り返ると、不良はいなかった。多分シャワー室だろう)

私(私は胸をなでおろした。カステラのベッドでその日はもう眠った)

──

私(朝目を覚ましても、彼女の姿はどこにも見えない。代わりにソファーの上に手紙が置いてあった)

『先にさくさくの街で待ってる』

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:45:01.73 ID:wqVA7QGc0

──さくさくの街──

ザワザワ

私「もー、街で待ってるって言ったってこの人数じゃ……いつもいつも言葉足らず何だから」ブツブツ

青年「こんにちは。何やらお困りのようだね」

私「あっ、こんにちは」

青年「今1人? 僕で良かったら街を案内するけど」

私「ありがとうございます。でも大丈夫です、人を待ってますので」

青年「そっか……ここはお菓子の国で一番大きな街だから色々なものが買える。日本へのお土産をたくさん買うといい。じゃあね」

スタスタ

私「……」

不良「ついていっても良かったのに」スッ

私「わっ!」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:47:04.93 ID:wqVA7QGc0

私「い、いつからいたの」

不良「5分ぐらい前から」

私「いたなら話しかけてよ。空港でも言ったじゃんっ」

不良「……何でついて行かなかったの。いい感じの人だって話してたでしょ」

私「え? あなたとの約束があるじゃない。それにもう……気が変わったの。そう言うことってあるものだよ、誰にだって」

不良「……まぁ、別になんだって良いけど」

私「回る場所は決めてる?」

不良「決めてない。私はどこでも良いよ」

私「じゃあブティックを見よう。お菓子の服なんてこの国じゃないと買えないもの」

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:47:46.10 ID:wqVA7QGc0

──

私「ふー、買った買った」

不良「大量だね」

私「まあね。そっちは全然買わなかったね。手持ちのお金が少ないの?」

不良「違うよ。これからお菓子になる人間が、服なんて買わないでしょ」

私「……なんだっけ、お菓子の神様の話」

不良「お菓子の国にはお菓子の神様がいて、願うと自分をお菓子に変えてくれる」

私「っていう都市伝説があるってことだよね?」

不良「……」クス

私(不良はまた不敵に笑った。砂糖のビーチで見たときより、表情が柔らかいように思えた)

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:49:07.90 ID:wqVA7QGc0

私(それから2人で街を見て回った。服も追加で買ったし、家族や学校の友人へのお土産もたくさん買った)

私(時間が経つにつれ人もまばらになっていった)

私(夕方になる頃には、スコーンでできた石畳には私と彼女しかいなかった)

テクテク

私「はぁー楽しかった」

不良「いくら何でも買いすぎじゃない?」

私「貯めていたお年玉を全部使ったからね。ここにこれるのなんて早くて5年後とかだし、金に糸目をつけられないよ」

不良「そう……5年後ね」

私(不良は立ち止まった。つられて私も足を止めた)

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:51:00.61 ID:wqVA7QGc0

不良「……私は明日、お菓子になる」

私「……」

不良「日本には1人で帰ってね。私はここでお菓子として生まれ変わるから」

私「……人間はお菓子にはなれないよ」

不良「なれる。ここはその願いが叶う場所だから」

私(逆光で不良の表情はよく見えなかった。しかし声の調子から、彼女が冗談を言っているわけではないとわかった)

不良「……昨日の先生との会話、聞こえてたよ。ありがとう」

私「!……」

不良「クイズの答えはわかった?」

私(私は首を横に振った。不良は静かに笑った。小学生のときと同じ屈託のない笑顔だ)

不良「答えは、私を食べて欲しいだよ」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:52:08.15 ID:wqVA7QGc0

──

私(翌朝、不良はソファーの上でチョコと化していた)

私(チョコの下には手紙が敷いてあった。手紙にはこのように書いてある)

『この手紙を読んでいるということは、私はすでにお菓子になったということでしょう』

『初めはもっと長持ちするお菓子にしようと思っていました。だけどこの数日あなたと生活して考えを変えました』

『私は5年も持ちません。溶けないうちに食べてください』

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:53:13.78 ID:wqVA7QGc0

──

私は、彼女の本当の望みがわかった気がした。

今になって彼女の全てを理解できたと思えた。

だから神様に願った。

『私を牛乳にして彼女と混ぜてください。そうしてミルクチョコレートにしてください』と。

願いは叶えられ、私たちは一緒のお菓子になった。

お菓子は誰にも食べられることなく、窓から降り注ぐ日差しによって溶かされてしまった。

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/09(月) 21:53:43.12 ID:wqVA7QGc0



おわり

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/12/12(木) 17:06:07.83 ID:Daj3/m3do

良かったよ

引用元: 私「お菓子の国にはお菓子の神様がいて」