1: 2019/12/30(月) 20:32:10.33 ID:fdNmsaD40
「うう~…なんで、なんでなのよ!」
「全くだ。なんでわたしが沙織の世話をしなきゃならん」
 麻子は面倒くさそうな態度を隠そうともせずに、今この状況への不満を漏らした。
 高校を出てから、こうやってクリスマスに女二人で集まって愚痴を(主にわたしだけが)零すことが不本意ながら定番の流れになっていた。なんとかクリスマスまでに男を捕まえたい!って意気込むほどに相手に引かれちゃって、結局は一緒にこたつに入った麻子の元で泣き言をまき散らしている。

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1577705530

2: 2019/12/30(月) 20:33:03.79 ID:fdNmsaD40
 麻子は落ち込むわたしなんて気にもせず、わたしの持ってきたケーキをもそもそと食べている。気遣う様子なんて微塵も見せず、いつも通り。今はそれがありがたかった。
「ねえ。麻子は…」
「なんだ」
 よく分からない。感情が読めない。無神経な言葉を麻子は言われ慣れてるから、それは言いたくないし、わたしなら彼女の感情の機微を感じられる自信があった。他の人が感じられない麻子の本心を理解できた。
 でも、わたしが恋愛の話をすると、すっと膜が張られたみたいに、分からなくなる。ただ面倒なだけ。興味が無い。そう見せようとしているような、そうでないような。
「好きな人とか、いないの?」

3: 2019/12/30(月) 20:33:43.78 ID:fdNmsaD40
「さあな」
 さあな、って。はいでも、いいえでもない。出来ればわたしたち、二人だけのときには使って欲しくないな。どれだけ失礼でも、私には本音を吐き出して欲しかった。
「……ね、甘えていい?」
「は?」
了解を取るよりも先に、わたしは麻子の胸に飛びついた。体重の軽い麻子はわたしに押し倒され(わたしが重いという意味ではない)、ぐえ、と小さく息を吐いた。
わたしが麻子の胸で泣いて、恐る恐るわたしの頭を撫でてくれる。

4: 2019/12/30(月) 20:34:14.67 ID:fdNmsaD40
「麻子って、胸も小さいよね」
「悪かったな」
 わたしの頭を抱いてくれる麻子の胸は、わたしよりもずっと小さくて、暖かった。
 滲み出した涙をぐりぐりと擦り付けても、麻子は優しく頭を撫でてくれた。
「うん。小さいけどね、あったかいよ」
「…なら、良かった」
「ごめんね、いっつもいっつも…面倒だよね」
「なんだ、今更。お前が面倒くさいことくらい。とっくに知ってる」
 失礼な口調だけれど、わたしを知ってくれている軽口が嬉しかった。
「…あんまり口に出したくないが、私はお前に、本当に感謝してる。だから、その、お前には幸せでいてほしいし、落ち込んでほしくない」
「………」

5: 2019/12/30(月) 20:34:47.05 ID:fdNmsaD40
「それで、泣きたいときは私の胸ならいつでも貸してやる。お前なら、必ずもっといい男と結ばれる。もしその男も駄目だったとしても、また泣きに来い。遠慮なんかするなよ。またこうして、抱くくらいはしてやる」
「麻子、それって」
 麻子の顔を見たくなって、もぞもぞと頭を動かした。
「顔は見るな」
「それってなんか、告白みたい」
「そういう意味じゃない。色ボケめ」
「でも、顔紅いよ」
「うるさい」
 わたしを黙らせるように強く抱きしめた麻子の胸に耳を当てると、やけに強い鼓動が返ってきた。なんだ。麻子もわたしと同じなのか。
 同じくらいに高鳴る彼女を抱いたまま、麻子の鼓動をいつまでも聴いていた。

6: 2019/12/30(月) 20:35:16.17 ID:fdNmsaD40
おわり


引用元: 沙織「うう~…なんで、なんでなのよ!」