4: 2011/02/22(火) 22:30:26.52 ID:+vMoBVlVO
憂「え? 軽音部に入ってくれるの?」

梓「うん」

憂「でも、またどうして? 最初はジャズ研に興味があったんでしょ?」

梓「ああ……まあ、ね。でも新歓ライブ見て、軽音部からはジャズ研にはない、ろっくんろーるを感じたから」

憂「よくわからないけど、とにかく軽音部に入ってくれるんだね」

梓「まあね」

梓(まあ楽器なんて鍵盤ハーモニカとソプラノリコーダと
アルトリコーダとトロンボーンとユーフォニウムとハーモニカしかできないけど)

5: 2011/02/22(火) 22:31:32.28 ID:+vMoBVlVO
梓「とりあえず入部しに来ました一年の中野梓です」

律「入部してくれるの!?」

梓「ええ」

唯「これからよろしくね、梓ちゃん!」

梓「こちらこそよろしくお願いします。
  どうでもいいですけど、私の父はジャズをたしなんでいるんです」

紬「まあ、それは素敵」

澪「ということはギターかなにか弾けたりするのか?」

梓「むむ。いきなりビジネスライクな話ですね」

澪「ビジネスライク……?」

梓「失礼。今のは忘れてください」

6: 2011/02/22(火) 22:34:43.03 ID:+vMoBVlVO
律「それでそれで。なにが弾けるの?」

梓「エレキギターです」

梓(本当はできないけど。しかし、この軽音部の連中はなかなかハイレベルそうだ。
  もしかしたら、楽器が弾けないと言ったらボコボコにされるかもしれない……。
  ならばここは、まずは専門用語の『エレキギター』という単語を出して音楽熟練者に思わせる!)

唯「ほんとう!? わたしもギターやってるんだよ!」

梓「なんと!」

梓(チッ……ギターはもういたのか。これは大きな誤算!
  たしかバンドにギターは二人もいらないはず)

澪「って、いうことはツインギターになるってことか」

梓「?」

梓(な、なんだ? つ、ついんギター? むむ。聞き慣れない言葉だな)

紬「すごい汗かいてるけど大丈夫?」

7: 2011/02/22(火) 22:37:48.60 ID:+vMoBVlVO
梓「大丈夫です。心配ないです」

紬「そう? ならいいんだけど」

律「ていうか、せっかくなんだしギター弾いてもらうのはどうよ?」

紬「そうね。私も梓ちゃんの弾くギターを聞いてみたいわ」

梓「む、むむっ……!」

梓(な、なんという不測の事態! いったいぜんたいどうすればいいんだ!?)

澪「ん? 今日はギター持ってきてないの?」

梓「え?」

澪「だから、ギター持ってきてないの?」

梓「ハハハッ、持ってるわけないじゃん!」

9: 2011/02/22(火) 22:42:12.26 ID:+vMoBVlVO
澪「えっ?」

梓「あ゛?」

梓(あ゛……じゃ、ないし! 私はなにを言ってるんだ!?)

梓「あ、あははは、なんて言っちゃったりして~」

澪「……」

律「……」

紬「……」

梓(むむ……視線で死ねそうなくらい白い目!)

唯「あはは~、梓ちゃんは面白いね」

10: 2011/02/22(火) 22:45:43.00 ID:+vMoBVlVO
梓「そ、そうですか? いえ、実はよく言われるんです。この前も……」

唯「それで。梓ちゃんはギター持ってきてないの? わたし、聞いてみたいなあ」

梓「そ、そんな大したことないですよ?」

梓(話を逸らそうとしたのに、逆に話題がもとに戻ってしまった!)

唯「とにかく聞いてみたい! 下手くそでもわたしが教えてあげるから大丈夫だよ」

律「いやいや、唯も始めてからまだ一年しかたってないからな」

澪「で、結局ギターはあるのか?」

梓「…………」

11: 2011/02/22(火) 22:48:31.95 ID:+vMoBVlVO
梓「あの、お言葉ですけどひとつ言わせてもらってもいいですか?」

澪「私に言ってるのか?」

梓「はい。あなた以外にいません。ていうか一言申し上げる前にひとつ。お名前は?」

澪「…………秋山澪」

梓「澪……船が通ったあとにできる水の筋のことですね。いい名前です」

澪「そ、そう?」

梓「しかしまあ、そんなことは関係ないんですよ。
  澪先輩。ガツンと一発言わせていただいてもいいですか?」

澪「ガツン……?」

12: 2011/02/22(火) 22:50:48.47 ID:+vMoBVlVO
梓「そもそも私は大事な大事な新入部員なんじゃないですか?」

澪「そうだよ。私たちの部活は四人しかいないからな。人数が増えれば音楽の幅は広がる」

梓「はあ~、またですか?」

澪「なにが?」

梓「澪先輩ってさっきからビジネスライクなことしか言ってませんよね?」

澪「なんだよ、ビジネスライクって?」

梓「つまり、私自体には全く興味がないんですよね? そうなんですよね?」

唯「わたしはそうでもないよ。梓ちゃん、カワイイし」

梓「ありがとうございます先輩」

13: 2011/02/22(火) 22:54:17.41 ID:+vMoBVlVO
澪「その……さっきからなにが言いたいのか意図が見えてこないんだけど……」

梓「はあ、ダメですね。私が言いたいことはつまりですね。こういうことです。
  ギターができるとか以前に、まず私という新入部員を歓迎するのが必要最低限の礼儀というものでしょう?」

紬「おおっ……!」

唯「あ、梓ちゃんカッコイイ……!」

澪「……」

律「んー、まあ一理あるかな。
  たしかにせっかく軽音部に来てくれたんだしな。これからよろしくな」

梓「こちらこそ。いやあ、にしても大人の対応ですね」チラッ

澪「…………」

澪(なんかムカつく、この新入部員)


15: 2011/02/22(火) 22:55:50.23
これは腹パンされてもしかたない

16: 2011/02/22(火) 22:57:47.00 ID:+vMoBVlVO
唯「うんうん、梓ちゃんの言うとおりだよ!
  せっかく新しい部員さんが来たんだから、今日はお茶にしようよっ」

紬「そうね。そうしましょう」

梓「お、お茶……?」

梓(なにかの音楽用語か? あるいは隠語……?)

紬「梓ちゃん。紅茶は好き?」

梓「こ、紅茶……?」

梓(次は紅茶……? くっ……先輩たちがなにを考えているのか全くわからない!)

澪「『今日は』ていうか、『今日も』だけどな」

梓(今日も? どういうことだ? いや、つまり毎日やっているということか?
  だ、ダメだ! 音楽という名の海は私には深すぎてついていけない!)

17: 2011/02/22(火) 23:00:05.52 ID:+vMoBVlVO
梓(いや、実はこれは文字通り『お茶』という意味しかないのでは?
  だがここで、もしヘマをしたら私が音楽トウシロだとばれてしまう)

紬「それで、梓ちゃんは紅茶は飲めるの?」

梓「え? あ、ええ! もうドンとこいです!」

律「なんか異様に汗かいてるけど大丈夫か?」

梓「あ、その、発情期なだけなんで大丈夫です! 安心してください!」

律「……え?」

梓「あー、(音楽を)早くヤりたいなあ!」

律「……」

澪「……」

梓「さあさあ、早くお茶しましょう!」

18: 2011/02/22(火) 23:05:21.17 ID:+vMoBVlVO
紬「はい、紅茶」

梓「いい香り……ていうか普通に紅茶でしたね」

紬「え?」

梓「あ、いえ。こちらのお話です」

紬「そう? あ、そうそう。それからケーキもあるんだけど、なにがいい?」

梓「ケーキ!? ケーキまで出るんですか?」

唯「えへへ。毎日ムギちゃんがお菓子もってきてくれるんだよ」

梓「な、なんと……」

梓(どうやら本当にただのお茶らしい。安心安心)

19: 2011/02/22(火) 23:07:14.91 ID:+vMoBVlVO
梓「いや~、イッパイ食べちゃいました」ゲポッ

澪「ひとりで三つもケーキ食べるなんて……」

紬「まあまあ。今日は梓ちゃんの歓迎会なんだし、いいじゃない?」

唯「そうだよ、澪ちゃん」

律「しっかし、見てて気持ちいいくらいの食いっぷりだったな」

梓「あ、すいません。つまようじありませんか? 歯にものが挟まっちゃった」シーシー

澪「…………」

澪(本当にこの子で大丈夫なんだろうか?)

22: 2011/02/22(火) 23:11:34.87 ID:+vMoBVlVO
憂「それで軽音部はどうだった?」

梓「あー、うん。なかなか音楽に対してストイックって言うのかな?
  まあ思ったより硬派な部活だったよ」

憂「へえ」

梓「とりあえず今日から軽音部で頑張ることにするよ」

憂「応援してるね」

純「じゃあわたしも応援しておこ」

梓「ありがとうモップさん」

23: 2011/02/22(火) 23:14:03.00 ID:+vMoBVlVO
唯「ほーらお食べ。梓ちゃん、あーん」

梓「あーん。んんっ……むむっ……これまた昨日に続き、なんと美味なフルーツタルト!
  生地に始まり、上に乗っかってるフルーツに終わり、まさに至高の味!」

紬「紅茶もあるから一緒に飲んでね」

梓「なんかすいませんね。こんな美味しいものを後輩の私が食べさせていただけるなんてっ」



澪「おい、律」

律「んー、なに?」

澪「部長として言うべきことがあるんじゃないのか?」

律「……なんだっけ?」

澪「練習はどうしたんだよ!?」

25: 2011/02/22(火) 23:17:34.32
ここまで来ると許せる

26: 2011/02/22(火) 23:18:45.48 ID:+vMoBVlVO
律「そんなこと言われてもなあ。見てみろよ、あの幸せそうな顔」



梓「(#^ω^#)」ウメー、ナマクリームペロペロ



澪「……」

律「なっ? あんな幸せそうな顔されちゃうと、注意するのはちょっと……」

澪「情けない部長め。私がきちんと注意して練習させるしかないな」

律「今日ぐらいべつにいいじゃん。まだまだ文化祭は先だし……って、聞いてないし」

澪「おい、梓」

梓「(^ω^)」ナマクリームペロペロ

澪「……」イラッ

28: 2011/02/22(火) 23:22:27.75 ID:+vMoBVlVO
澪「あ! ず! さ!」

梓「(^ω^)」ハイ?

澪「……とりあえずその顔をやめろ」

梓「(^ω^)」

梓「 (¨ω¨)」キリッ

梓「……失礼しました。私ってば美味しいものを食べると、ついついシマリのない顔をしてしまうもので」ペロペロ

澪「あとクリームをなめるのもだ。」

梓「わかりました」


澪「あのな、梓。私たち軽音部はお茶をするのが目的じゃない。
  楽器で演奏することこそが、本来の軽音部の姿なんだ」


30: 2011/02/22(火) 23:27:53.85 ID:+vMoBVlVO
梓「なんか、すごく当たり前のことを言いますね」

澪「…………。
  たしかにそれは当たり前。でも、その当たり前のことがうちの軽音部はできてない」

梓「肝心の先輩方が私に、それはそれは甘いスイーツをよこしてくれますからね」

唯「このタルト、すごくおいしいのに澪ちゃんは食べないの?」

澪「それはあとで食べる」

梓「食べるんですか」

澪「当たり前だろ。食べ物を粗末にするとバチが当たるからな。
  でも、今はべつだ。とにかく軽音部に入部したからには練習しなきゃな」

梓「澪先輩っていい意味でカタイですね。あ、マジメって言ったほうがいいですか」

澪「これが普通なの」


32: 2011/02/22(火) 23:30:21.59 ID:+vMoBVlVO
梓「まあ、たしかに私たちは軽音部ですからね。
  練習しなきゃいけませんよねえ」

澪「そういうことだ」

紬「そういえば、梓ちゃんはギターが弾けるのよね?
  せっかくだから演奏してみてほしいなあ」

唯「わたしも梓ちゃんのギター見てみたいなあ」

梓「なかなか良い機会です。せっかくなので、私のギターを披露しましょう」

澪「……私の気のせいかもしれないけど、梓のギターらしきものがどこにもないんだけど」

梓「それは当たり前ですよ。なにせもってきてないんですから、はい、当前のことです」

澪「あははは、なんだもってきてないのか」

33: 2011/02/22(火) 23:33:04.56 ID:+vMoBVlVO
澪「……って、おい!
  なんでギターをもってこないんだよ!?」

梓「…………」

律「梓? どうした急に黙っちゃって。
  べつにギター忘れたからって怒ったりしないぞ?」

梓「いえ、忘れたわけではありません。わざともってこなかっただけです」

澪「……」

梓「いや、そんな怖い顔しないでくださいよ。一応理由はありますから」

澪「できれば、一応じゃなくてきちんとした理由を聞かせてほしいな」

梓「そこらへんは聞いてから判断してほしいですね。
  実はですね。私のギターは父からもらったものなんです」


34: 2011/02/22(火) 23:38:54.30 ID:+vMoBVlVO
唯「へえ、カッコイイね。梓ちゃんはどんなギターを使ってるの?」

梓「…………」

唯「梓ちゃん?」

梓「……まあ、それはあとからお話しましょう。
  とにかく今は、私の話を聞いてください」

唯「はーい」

梓「さて、先に述べたように私のギターは父から受けとったものです」
  
澪「それで? 梓がギターをもってこなかったことと、それがどう結びつくんだ?」

梓「……実は、私の父はもうこの世にはいないんです」

紬「……え?」

律「そ、そんな……」

35: 2011/02/22(火) 23:42:53.70 ID:+vMoBVlVO
梓「父がいない私の家はそれはそれは貧しいもので、食事すらままならないときもありました」

唯「ああ……だから梓ちゃんはそんなにひんそーなカラダをしてるんだね」

梓「唯先輩も人のこと言えないと思いますけどね」

唯「えへへへへ」

梓「うっししし」

唯「いえーい♪」タッチ「いえーい♪」梓

澪「……梓、早く続きを話してほしいんだけど」

梓「失礼しました。それでは話を続けましょう」

36: 2011/02/22(火) 23:45:57.93 ID:+vMoBVlVO
梓「父が亡くなったのは、今から五年前です。
  そのせいで、母は五年前からジャズ演奏家をやめ、家の近くの某運送会社で働きはじめました。
  私は私で働けないながらも、友達と遊ばないといった感じでお金の無駄遣いをしないようこころがけました」

澪「…………」

梓「ただ、そんな私にもひとつだけ趣味がありました」

律「ギターだな」

梓「はい。私は時間があれば父からもらいうけたギターを常に演奏していました」

澪「もしかして、それだけ大切なギターだから学校にもって行きたくないってこと……?」

梓「いいえ、そんな理由でしたらそもそも軽音部に入りません。
  問題は……最近ギターを弾いてるとナニか出るんですよね」

律「……はい?」

37: 2011/02/22(火) 23:50:37.90 ID:+vMoBVlVO
梓「より正確に申し上げるなら、ギターを弾いたその日の夜に……出るんですよね」

澪「な、なにが……?」


梓「幽霊が」


澪「な、な、なにを言ってるんだ。幽霊なんて存在するはずがないだろ……」

梓「ええ、私も澪先輩に同感でした、あのときまでは」

唯「もしかしてホントに幽霊に会ったとか?」

梓「おそらく、はい。
  私がその幽霊らしきものに出会ったのは、一ヶ月ぐらい前です。
  その日もいつもと同じように練習して、お風呂に入ってごく普通にベッドで寝ました」

紬「うんうん、それで?」

38: 2011/02/22(火) 23:53:55.02 ID:+vMoBVlVO
梓「途中まではいつものように眠っていました。
  しかし、なぜだか人の視線のようなものを感じて……目を覚ましました。
  誰かいるのかな、そう思って首だけ動かそうとしたんですが、カラダが動かなかったのです」

澪「あ、アレだろ!? 脳は起きてるけど身体は起きてないっていう……!」

梓「まあ、カラダが動かないだけであればその説も有り得ますが残念ながら私、見ちゃったんですよね」

唯「なにを?」

梓「人の形をした黒い影です。
  まるで、まっくろくろすけが集まって人の形を作っているかのようでした」

澪「も、もういい!
  だいたい花粉が舞うこの爽やかな季節に、なんでそんな怖い話を聞かなきゃならないんだよ!?」

梓「まあまあ、そんなに遠慮しないでくださいよ、澪先輩」

澪「いや! もういい! わかった。私が悪かった!
  梓がギターをもって来ない事情はよくわかった! だからもうなにも話さないで!」

梓「そうですか」

梓(昨日、下校中に唯先輩から澪先輩の弱点を聞いておいてよかった)ニヤリ

39: 2011/02/22(火) 23:56:25.27 ID:+vMoBVlVO
梓「とにかくそういうわけで、私は自分のギターを弾くのはイヤなのです」

唯「またまたそれは大変だねえ、梓ちゃんも。
  今度わたしの家においで。おいしいお料理をごちそうしてあげるから」

梓「ああ、この世には幽霊もいるみたいですが、どうやら天使もいるみたいですね」

唯「もう、天使だなんて……わたしが天使だったら梓ちゃんはパトラッシュだよ」

梓「うっししし」

唯「えへへへへ」

梓「いえーい♪」タッチ「いえーい♪」唯


40: 2011/02/22(火) 23:57:38.93 ID:+vMoBVlVO
律「……しかしそうなると、梓はどうやってギターを弾けばいいんだ?」

梓「それでしたら他のギター……つまり、私のギターでなければ弾いても幽霊は出ませんよ」

律「うーん、じゃあ唯。ギターを梓に貸してあげたらどうだ?」

梓「ああ、その必要はないですよ」

紬「どういうこと?」

梓「澪先輩のベースギターを借ります」

澪「は……?」

42: 2011/02/23(水) 00:00:35.98 ID:jQmGsVX3O
梓「ですから、澪先輩のベースを借ります」

澪「いや、私のはベースであってギターではないんだけど」

梓「弘法は筆を選ばずと言うでしょう?
  私はこれでもギターと一緒に生まれてきたと言われるぐらいには才能があります」

唯「え? 梓ちゃんはギターと一緒に生まれてきたの?」

紬「そうだとしても不思議じゃないぐらい、ギターが上手だって意味じゃないかしら?」

唯「なるほど。梓ちゃんはとにかく、すごくギターが上手いんだ」

律「いやいや。だからって、ギターとベースはべつもんだろ」

梓「試してみますか?
  私の溢れるロックソウルにかかれば、どんな楽器もギターの音しか出ませんよ」

43: 2011/02/23(水) 00:03:48.70 ID:jQmGsVX3O
澪「ベースは貸しません」

梓「なんでですか?」

澪「言うまでもないだろ。
  ベースではギターの音は出せない。なにより……」

梓「ふと思い出したんですが、私がギターを弾いたときに出る幽霊はそれはそれは恐ろしい霊でして。
 低くくぐもった声で『ギターを弾かせておくれ、梓』と……って澪先輩?」

澪「見えない聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえないていうかやめてください」

梓「じゃあ澪先輩の楽器貸してくれますか?」

澪「喜んで」

梓「ありがとうございます」

44: 2011/02/23(水) 00:08:15.13 ID:jQmGsVX3O
律「なにしてんの?
  なんかネックにつけてるけど」

梓「より良いロックを追求するために少し澪先輩のベースに手を加えさせてもらいます。
  そんなに大したことではありませんので、気にしないでいいですよ」カチャカチャ

唯「より良いロックってなに?」

梓「またまたご冗談を。唯先輩ほどのお方が、ロックについて私に質問なんて」カチャ、カチャ、グギギッ

紬「わたしたちのやってる音楽はどちらかというと、ポップスよりだと思うけど」

梓「そうかもしれません。
  しかし、私のロックスピリットに火をつけたという意味では先輩方が築きあげた音楽はロックですよ」カチャ、カチャカチャ

澪「あの……私のベースになにしてるの?」

梓「そんな見ればわかるようなことを聞いてくるなんて、澪先輩って鬱陶しいですね」

澪「え?」

梓「あ、いい意味で、ですよ?」カチャン

46: 2011/02/23(水) 00:12:29.72 ID:jQmGsVX3O
梓「よし、こんな感じでいいかな……」

唯「んー、梓ちゃん、澪ちゃんのベースいじってたけどイマイチどこが変わったかわかんないよ」

梓「ふふふ、まあ見ててくださいよ。
  
  スイッチオン!」

唯「アンプにつないですらいないけど、あれで演奏するのかな?」

律「さあ?」


ジジジジジジジジ

47: 2011/02/23(水) 00:14:23.50 ID:jQmGsVX3O
紬「なにか音がしない?
  梓ちゃんのベースから音が聞こえてるような気がするんだけど」

律「というか、梓はなんでベース弾かずに棒立ちしてるんだ?」

唯「でもでも。立ち姿からしてなんだかホンモノっぽいオーラが出てるよ」


ジジジジジジジジジジ


梓「……っ!
  来た……今、私のロックソウルスピリットをこのベースから放ちます!」

唯「あ、あれは……!」

律「み、澪のベースの先端から……」

紬「火花が出てる……!」

澪「(゜o゜)」

48: 2011/02/23(水) 00:18:57.33 ID:jQmGsVX3O
次の瞬間。
梓は肩にかけていたベースを勢いよく高々と掲げた。
ちんちくりんな身体で背伸びしているので微笑ましく見えないこともないが、本人は至って真剣である。
ない胸を精一杯張って、梓は高らかに叫んだ。


梓「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


いったいこの小柄な身体のどこからこのような力強い声を出しているのだろうか。
梓の声は部室に響き渡り、何度も反響して窓ガラスを震わせる。
しかし、ただ梓は叫んでいるだけではなかった。
梓のベースの先端からはまるで花火のように火花が威勢よく噴出していた。
やがてそれはどんどん強くなっていく。
まるで、梓の肉体から滲み出るロックスピリッツがベースを経由して溢れているようだった。

梓「これで終わりです!」

梓が再び咆哮する。


未だに火花を撒き散らすベースを梓は窓に向かって投げ捨てた。

49: 2011/02/23(水) 00:22:41.58 ID:jQmGsVX3O
ガラスが砕ける音。
梓が放り投げたベースは窓ガラスを突き破り、砕けたガラスをまとって放物線を描く。
相変わらずベースは花火のような火花を撒き散らしたままだ。

澪「え? え? あれれれ?」

澪が目を白黒させる。
状況をきちんと把握できてないらしく、その光景を呆けたように眺めることしかできない。
他の部員も同様だった。


そして火花を撒き散らしていたベースが爆発した。


澪「……はい?」

澪の呆然とした呟きは爆発音によって掻き消される。
澪のベースは見事に空中で爆発してチリと化した。
軽音部一同、なにが起きたかまるでわからなかった。
炎上したベースの火が梓の自慢げな顔を赤く照らし出した。



51: 2011/02/23(水) 00:28:45.16 ID:jQmGsVX3O
梓「どうです? これが私のロックってやつです。
  弘法は筆を選ばず。先に言ったとおり、私にはどんな楽器だろうと関係ありません。
  どんな楽器だろうとそれが音を鳴らすならロックンロールを奏でてみせますよ」

紬「……ベース弾いてたっけ?
  音が全然聞こえてこなかったんだけど」

梓「なにを言ってるんですか、ムギ先輩。思いっきりしてたじゃないですか。
  大地を震わせるかのような圧倒的な爆発音。
  芸術は爆発だ、とはよく言ったものです。皆さんも聴き入っていたでしょう?」

律「いやいやいやいや。
まさかベースを爆破させるなんて、夢にも思わなかったから呆然としてたんだよ」

梓「そんなに驚くものですかね?
  ジミヘンとかザ・フー、日本だとエックスジャパンとかがパフォーマンスで楽器破壊してるじゃないですか」

唯「梓ちゃんのは破壊というか爆発してたよ」

梓「まあ、しょせん単なる破壊行為はパフォーマンスの域を出ませんからね。
  その点、爆破というものには芸術性とともにロマンを感じます」

律「……だそうだ、澪」

澪「\(^o^)/」バタン

52: 2011/02/23(水) 00:32:19.03 ID:jQmGsVX3O
唯「あまりのショックに澪ちゃんが気絶しちゃったね」

梓「いささかやりすぎましたかね? 久々に本気を出してみたんですけど。
  ちなみにベースのあの火花や爆発のための装置は、工学部に通ってる友達に頼んで作ってもらったんですが……。
  まったく……今後このようなことがないように注意しておきますね」

律「この一瞬の間にさりげなく責任転嫁しようとしてない?」

梓「まさか。この中野梓にかぎってそんなことがあるわけないでしょう。
  たとえどんな苦難や困難が立ちはだかろうと、私は逃げたりしませんよ」


ガチャ


和「ちょっと失礼していいかしら?
  今しがた、どこかで爆発があったみたいだけど知らない?
  とりあえず犯人を見つけたらソイツをとっ捕まえて謹慎処分に……」


梓「ニッゲロー 三┏( ^o^)┛」


53: 2011/02/23(水) 00:37:08.81 ID:jQmGsVX3O
数日後


梓「はあ……この前迷惑かけたから行きたくないなあ」

憂「そもそもなんで軽音部分に入ったの?」

梓「新歓ライブを見たら、ミエナイチカラに動かされて……」

純「ていうか、今は自宅謹慎中なんじゃないの?」

梓「ベース爆破と器物破損でね。
  まったく、あのオシャレ眼鏡女が教師にチクらなければこんなことにはならなかったのに」

純「それより聞いて聞いて。ストパーかけたんだよ
  おかげで髪縛らなくてもよくなったんだ」

梓「ふうん」

55: 2011/02/23(水) 00:42:07.74 ID:jQmGsVX3O
梓「というわけで休日をはさんでのこんにちはになりますね。
  みなさん、こんにちは」

律「……」

紬「……」

澪「……」

唯「……」

梓「おやおや? みなさんどうしたんですか?
  中野梓ですよお。みなさんのカワイイ後輩の中野梓ですよ」

律「……なんで梓が学校に来てんだよ? 今、自宅謹慎中だろ?」

梓「私はロックンローラーですよ。
  たかが校則ごときに縛られたりしません。むしろ積極的にぶち壊しますよ」


56: 2011/02/23(水) 00:45:04.62 ID:jQmGsVX3O
澪「……なにしにきたんだ?」

梓「お詫びをしにきたんです、澪先輩に」

澪「…………」

梓「正直に申し上げて、少し調子に乗っていました。
  私ったらつい、ハシャぎすぎちゃったみたいです。
  皆さんに自分のギタープレイを披露できるのが嬉しかったんです」

澪「……ああ、うん。百歩譲って梓の申しわけないっていう気持ちは伝わった。
  でもな。謝ったところで梓が壊してしまった私のベースは、帰ってこないんだ」

梓「百も承知です。なので、この休日の時間を利用して手に入れたんです」

澪「……まさか私のために……」

梓「はい」

57: 2011/02/23(水) 00:48:49.44 ID:jQmGsVX3O
梓「日雇いのバイトをしてお金を稼ぎました」

澪「梓……」

梓「バイトで稼いだお金は大事に貯金しました。
  そして、澪先輩へのお詫びの品は父からもらいうけました」

澪「ていうか、梓のお父さんって亡くなられたんじゃなかったのか?」

梓「……澪先輩。あまり細かいことを気にしてるとハゲますよ?」

澪「…………」

梓「まあ、お互い細かいことは気にしないでおきましょう。
  私もハゲたくはありません、死ね。
  それより、受け取ってください。私の誠意です」

澪「あ、ああ……ありがとう」


梓「スッポンもどきのトンちゃんです。どうぞ」ヒョイ


澪「………………………………………………………………………………………………………………はい?」

59: 2011/02/23(水) 00:54:37.60 ID:jQmGsVX3O
梓「やっぱり傷心の人のこころを癒すのは動物だと思ったんですよ。
  本来なら犬や猫を差し上げたいところでしたが、そのようなアテはさすがになくてですね。
  まあでも、アレですよ。犬はお世話が大変ですし、猫にしても壁ひっかいたりと色々と厄介ですし」

澪「……どうしてカメなの?」

梓「たまたま父が知り合いからもらったものでして。
  あ、ちなみにカメではありませんよ。先程申しあげたようにスッポンモドキです。
  これは小さいからまだ安いんですけど、それでも一万五千円ぐらいはするらしいです」

唯「すごいカワイイね! 名前はトンちゃんって言うんだっけ?」

梓「ええ。鼻が上に向いていてどことなく豚を彷彿とさせるので、そのような名前にしました」

紬「ところで、トンちゃんが入ってるこれって……」

梓「ああ、それは虫かごですよ。学校にもって行くのに大きな水槽は不便なので」

60: 2011/02/23(水) 00:57:04.15 ID:jQmGsVX3O
澪「…………と、トンちゃん」

梓「どうです? 気に入ってもらえれば、私としては嬉しいんですけどね。
 個人的な見解なんですけど澪先輩ってカメとか好きそうですよね。
 
 特にカメの頭、とかね」

澪「……?」

梓「まあ、とにかく大事に育ててあげてくださいね。
  ちなみにこのトンちゃんなんですが……」


ガチャ


和「ちょっといいかしら?
  最近、楽器店とかでギターやベースが相次いで盗まれてるって話があってその中に……」

梓「ニッゲロー 三┏( ^o^)┛」

61: 2011/02/23(水) 01:00:04.55 ID:jQmGsVX3O
一週間後……


唯「梓ちゃん、部活に来てくれないね」

紬「まだ謹慎が続いているのかも。
  自宅謹慎中に学校に来ちゃったのが見つかっちゃったし……」

律「ていうか、結局梓はなにがしたかったんだろうな。
  澪のベースを爆発させたあげく、お詫びにスッポンモドキを渡してくれて……」

澪「最終的にトンちゃんは部室で育てることになったとはいえ。
  ベースは金銭的な問題で買えないしな」

唯「ここ一週間は本当に一回も楽器を触ってないよね。
  なんだか不思議なんだけど、澪ちゃんのベースが壊れてからむしょうに練習したいんだ。
  なんでだろうね?」

澪「知らない。ハア……」

律「最近は楽器店の楽器が盗まれる事件が相次いでいるって理由で、あの楽器店も値引きしてくれなかったしな」

紬「短期のバイトの募集も見つからないしね」

64: 2011/02/23(水) 01:04:39.69 ID:jQmGsVX3O
唯「まさにはっぽーふさがりだね」

澪「新入部員も梓以外は誰も来なかったしな。
  ……なんでだろ。もう新歓ライブが遠い過去のことに思えてくる(遠い目)」

 「ああ、それはアレですよ。歳をとるにつれて時間の感覚がどんどん早くなる現象ですよ。
  大人になれば会社や社会に拘束される分、自由な時間は減ってしまいますからね。
  かと言って自由な時間のためにニートになっても、今度は周囲の目が気になって、結局は自分の部屋に拘束される。
  つまるところ、人生の豊かさというのは時間をいかに有効に使うか、というところにあるんだと思います」

澪「べつにそんな小難しい話はしていない」

 「そうですね。ちなみに、澪先輩は引きこもりの素質があると思いますよ。
  いい意味で」

澪「いい意味でとつければ、なに言っても許されると思ってないか?」

律「ていうか、この声は……」

梓「やっほー。みなさんの癒し系女子高生のあずにゃんですよ」

65: 2011/02/23(水) 01:08:39.59 ID:jQmGsVX3O
律「……」

澪「……」

梓「あらら? みなさん、どうかしましたか?
  ああ、もしかして私の存在そのものを忘れられていたとか?
  いやあ、子どものころからけっこう存在を忘れられていたりするんですよね」

澪「少なくとも、私は、あと半世紀は梓のことを忘れられないと思うけどな」

梓「これはこれは。嬉しいことを言ってくれますね。
  いや、でも真面目に私ってばクラスの打ち上げとかに呼ばれたことないんですよね。
  やっぱり、私の名前がいけないんですかね?」

紬「名前?」

梓「中野梓。
   ↓
  N・A
   ↓
  Natural・Air
 
  ほら、最終的に自然に空気ですよ」

澪「すごくどうでもいいな」

66: 2011/02/23(水) 01:12:29.10 ID:jQmGsVX3O
梓「しかし、軽音部の顧問の……山中さわ子先生でしたっけ?
  あの方が私に素晴らしいあだ名をつけてくれました。
  
  あずにゃんです」

律「……もしかして、さっきから猫耳みたいなものをつけているのは、さわちゃんのせいか?」

梓「ええ。謹慎中に反省文を書かされたんですけど、反省していますしか書かなかったら
  『反省しているなら、反省している証拠として、これをつけて』と猫耳カチューシャを渡されました。
  自分で言うのもアレですけど、すごい似合ってませんか?」

唯「うん、すごい似合ってるよ! ホントの猫さんみたい。
  わたしもあずにゃんって呼んでいい?」

梓「もちろんです。よかったらみなさんも私のことを、あずにゃんって呼んでくださいね」

律「わたしは梓のまんまでいいや」

紬「わたしも、梓ちゃんのままでいいかな」


67: 2011/02/23(水) 01:17:39.53 ID:jQmGsVX3O
澪「私も遠慮しておく」

梓「は?」

澪「え?」

梓「澪先輩、今なんておっしゃいましたか?」

澪「だから、梓のことはこれからも普通に梓って呼ぶってことだけど……」

梓「ええ!? 私のキモチを無駄にする気ですか!?」

澪「気持ち?」

68: 2011/02/23(水) 01:24:57.21 ID:jQmGsVX3O
梓「澪先輩のベースを破壊してしまった、そのお詫びに私のことをあずにゃんと呼ばせてあげると言っているのに。
  そんな健気な後輩のキモチを無下にするつもりなんですか?」

澪「とりあえず、私としては壊されたベースをどうにかしてほしいんだけど」

梓「そういうとこはぬかりありませんね、先輩。
  しっかりしてるというか、ちゃっかりしているというか」

澪「あだ名を呼ばせるだけでお詫びを済まそうとしている梓のほうが、ちゃっかりしてると思うけどな」

梓「じゃあ私たち、似たものどうしですね」

澪「…………」

梓「いえーい♪」タッチ「い、いえーい……」澪


69: 2011/02/23(水) 01:38:20.63 ID:jQmGsVX3O
梓「まあ、お詫びの件ですが、さっきのは冗談で実はきちんとあるんです。
  お詫びの品が」

澪「ふうん」

梓「むむっ、その目は信用していない目ですね。
  まあ澪先輩ってどことなく人間不信っぽいですからね。
  あ、もちろんいい意味で、ですよ?」

澪「何度も同じネタを使い回すな」

梓「なかなかどうして手厳しいですね、先輩は。
  しかし、鬼畜な澪先輩といえどもこれを見たらさすがに納得していただけるでしょう。
 
  じゃーん」

澪「こ、これは……!?」


70: 2011/02/23(水) 01:41:51.65 ID:jQmGsVX3O
紬「これってベース……よね?」

梓「ええ。まぎれなくモノホンのベースですよ。
  当たり前ですが以前、澪先輩が使用していたモデルのものです」

律「もしかして買ったのか?
  いや、でもたしか澪のベースって七万はしたよな?」

澪「う、うん……もしかして、梓。
  親に頼んで買ってもらったとか?」

梓「そんなわけないでしょう。
  私の父は会社の手となり足となりクビになりましたから
  そのようなお金は一切ありません」

律「ジャズ演奏家じゃなかったのかよ、お前のお父さん。
  ていうか、うまいこと言ってんじゃねえよ」

梓「うひひひ」

71: 2011/02/23(水) 01:43:26.73 ID:jQmGsVX3O
唯「あずにゃん。これどこで手にいれたの?」

梓「……」

唯「あずにゃん?」

梓「ヒミツです」

澪「わざわざ隠す必要もないだろ。というか隠すな。
  もし、梓のお父さんやお母さんが私のためにベースを弁償してくれたっていうなら、お礼ぐらいは言いたいし」

梓「父も母もこのことには関与していませんから。気にしなくていいです。
  そもそも、私が澪先輩のベースを破壊したのが原因です。
  澪先輩はなにも悪くありません。悪いのは私で、悪いことをしたのも私ですから」

澪「……」

梓「またそんな白い目で人のことを見て。
  ……なんですか?」

澪「いや、急に梓がまともなことしか言わないから心配になっただけ」

72: 2011/02/23(水) 01:44:50.73 ID:jQmGsVX3O
律「なにはともあれ、よかったじゃん。
  澪のベースはもとに戻ったし、これで練習も普通にできるようになったわけだ」

澪「律や唯がきちんと練習してくれればな」

唯「いや~、それを言われるとキツイねえ」

澪「さっき、私のベースが壊れてからはむやみやたらに練習したくなったとか言ってなかったか?」


紬「あの……ひとつ言いたいこと、というか聞きたいことがあるんだけどいいかな、梓ちゃん」

梓「どうしたんですか、ムギ先輩?」

紬「梓ちゃんのギターはいつ聞かせてもらえるのかな、って思って」

 
梓「 (=_=;) 」ギクッ

73: 2011/02/23(水) 01:50:09.90 ID:jQmGsVX3O
唯「そうだよ。わたしもまだ、あずにゃんの演奏聞いてないよ?
  澪ちゃんのベースがバクハツしちゃう音なら聞いたけど」

梓「……演奏したいのは山々なんですが、大変残念ながら無理です。
  なにせ……いえ、なんにもです」

律「……梓の話ってどこからどこまでが本当の話かわかんないんだけど。
  ギターが弾けない事情でもあるの?」

梓「まあ、ねえ……」

澪「もしかして……梓。
  梓がベースを買えたのは、その、自分のギターを売ったからなんじゃ……」

梓「……そんなわけ、ありませんよ。
  すみません。今日はもう帰ります。
  ここしばらく学校に行ってなかったので、勉強しないといけませんから」

澪「…………」

75: 2011/02/23(水) 01:51:51.23 ID:jQmGsVX3O
梓「ふう、困ったなあ。
  思わせぶりな態度とっちゃったけど、そもそもギターじたいをもってないのに売って、お金を工面するとか無理だから。
  ……あ、メールだ。真鍋先輩からだ」

和『ぁす〃さちゃωきょぅは∧〃んきょぅUT=(#^.^#)?』

梓「相変わらず、リアルのイメージとメールの内容が一致しない人だなあ。
  『ええ。今日は授業も集中してとりくみましたよ』っと」

和『このちょぅUでか〃ωは〃りなさぃょ!(^^)!』

梓「ベース爆破の件をチクられた腹いせに、嫌がらせしようとしてメアド聞いたのが間違いだったかも。
  メールボックスが真鍋先輩からのメールで全部埋まってるし……。
  そうだ。あのことを相談してみよう。

  『私、軽音部のみなさんにギター弾けるって嘘ついてるんですけど、どうしたらいいですか?』」

和『そぅレヽぇば ぁす〃±ちゃωッはTょレニけ〃レニけレヽぉん、ζ,〃レニはぃッてるσЙё?? 受レナゑ(藁)』

108: 2011/02/23(水) 18:20:16.31 ID:jQmGsVX3O
梓「『けっこうこっちはマジメに相談してるんですけど。
  生徒会執行部を務める真鍋先輩からなら、なにか助言を頂けるかと思ったんですが(汗)』……送信っと」

 
♪アノコハタイヨーノコマチエンジェエ-ル♪


梓「って、もう返信きた」

和『ナ=〃ッナ=らぁナょナ=がホ〃→ヵ儿ゃれは〃レヽレヽし〃ゃナょぃ(ノ><)ノ』

梓「『だったらあなたがボーカルをやればいいじゃない』。
  
……その発想はありませんでした。さすが、執行部を務めるだけありますね。
  うん、私がボーカルやろ。歌なら私でも歌えるし、そうしようっと」


キタエヌカレルドゥイッドゥイッドゥイッドゥイッヴェーイ!


梓「もういいや、真鍋先輩のメールは無視しよ。
  さて、さっそく土日明けにボーカルの件を伝えなきゃ」

109: 2011/02/23(水) 18:27:55.76 ID:jQmGsVX3O
数日後


梓「そういえば、純ってどこの部活にも所属してないんだっけ?」

純「まあね。最初はジャズ研に入ろうかと思ったんだけど。
  ストパーかけたりとか、髪の毛のケアでお金がかなりかかるからバイトしてるの」

梓「そこまで純の髪って長くないと思うけど」

純「そりゃあ梓に比べたらね。
  ……っと、もうこんな時間。あたし、バイト行くね」

梓「はいはい、ガンバ。
  私も部活行こうっと」

111: 2011/02/23(水) 18:34:40.60 ID:jQmGsVX3O
梓「こんにちわー」

唯「あずにゃーん!」ダキッ

梓「おやおや。唯先輩ったらいきなりそんな熱い抱擁なんて。
  ……ん? そんなにニヤニヤしてどうかなさいましたか?」

唯「えへへ。実は、わたしたちからあずにゃんに素晴らしいプレゼントがあるんだよ」

梓「プレゼント?」

紬「たぶん、見たら喜んでくれると思うよ」

梓「はあ……私が喜ぶものですか」

112: 2011/02/23(水) 18:42:21.75 ID:jQmGsVX3O
澪「……梓」

梓「なんですか、澪先輩? 相変わらずベッピンさんですけど」

澪「その……梓がベースを私にくれたおかげで、また練習ができるようになった。
  それで……お礼というわけじゃないんだけど、渡したいものがあるんだ」

梓「はあ、そうですか。私が澪先輩のベースを木っ端みじんにしたのに。なんかすみませんね。
  それで、私に渡したいモノとはなんですか?」

澪「ギターだ」


梓「\(^o^)/」

唯「あずにゃん。よっぽど嬉しいんだね。
  嬉しさのあまりバンザイしちゃうなんて」

114: 2011/02/23(水) 18:49:26.56 ID:jQmGsVX3O
澪「誤解のないように言っておくけど、これは私が買ったものじゃない。
  もちろん、ほかのみんなもギターを買ったりはしてない」

律「先週の金曜日にさ、澪が私に提案したんだ。
  もしかしたら部室のどこかにギターがあるかもしれないって。
  それで、実際に土曜日に私と澪と唯とムギとで集まって、部室全体を探してみたんだ」

紬「そしたら本当にギターがあったの」

唯「もともとはさわちゃん先生が親戚の人からもらったものらしいけど。
  あずにゃんのことを話したら、そのギターをあげるって言ってくれたんだよ」

澪「それがそのギターなんだけど。
  保存状態もいいし、たぶん使えるはずなんだ」

梓「…………」

唯「あ、もしかしてあずにゃんったら、嬉しさのあまり泣きそうなのかな?」

梓「ええ。すごく泣きたい気分です」

115: 2011/02/23(水) 18:56:18.79 ID:jQmGsVX3O
梓「適当に理由つけて、部活から抜けてきたけどこれからどうしたらいいんだろ。
  ギターをもらってしまった以上はギターを弾かなきゃならないし……本気で困った」


レディナビゲーションユアフレッシュ♪


梓「あ……澪先輩からメールだ」

澪『もしギターに不具合があるなら、楽器屋に見てもらうといいよ
  なんなら私のわかる範囲で見てもいいし
  まあお互いにガンバろ
  ファイティーン!!』

梓「……澪先輩ってわりといい人なのかな。

  ん……楽器店?

  そうだ! その手があった! こうなったら急いで楽器店に行かなきゃ!」


117: 2011/02/23(水) 19:07:14.47 ID:jQmGsVX3O
店員「いらっしゃいませー」

梓「あの、すみません。
  ギターを売りたいんですけど見てもらってもいいですか?」

店員「…………」

梓「な、なんですか?
  そんなにジットリ眺められても、困ることしかできませんよ」

店員「……いえ、失礼しました。どこかで拝見したことあるお顔だったような気がしたもので」

梓「気のせいでしょう。ええ、どう考えても気のせいです。
  それよりギターを見ていただきたいんですが」

店員「……そうですね。
   それではギターを拝見させてもらいます」

120: 2011/02/23(水) 19:12:26.95 ID:jQmGsVX3O
次の日


梓「こんにちわー」

澪「よっ、梓。
  昨日は帰ってからギターのほうは試したか?」

梓「…………」

唯「どうしたのあずにゃん?
  なんだかすごく、気まずそうな顔してるけど」

紬「もしかして体調がよくない?
  なんなら保健室にいっしょに行こうか?」

律「ていうか、梓。
  なんでギターをもってないんだ?」

梓「実は……」

121: 2011/02/23(水) 19:17:50.59 ID:jQmGsVX3O
唯「ホントに大丈夫、あずにゃん?
  なんだか顔色が悪いよ?」

梓「い、いえ……大丈夫です。それより私の話を聞いてください。
  実はギターなんですが……」

澪「なんだ?
  もしかして、思いのほか使えなかったとか、どこかに不具合があったりしたのか?」

梓「違います。

  ギター、売っちゃったんです」

律「(´Д`)」はあ!?

122: 2011/02/23(水) 19:23:43.67 ID:jQmGsVX3O
梓「より、正確に情報をお伝えするなら売られてしまったんです。
  澪先輩が私にくれたギターは」

澪「……どういうことだよ?」

梓「お恥ずかしい話なのですが、実は私の母は生粋のギャンブル狂でして……。
  毎日毎日、ほとんど欠かさずにパチンコや競馬をやるような人間なんです」

唯「パチンコはお金がなくなっちゃうからやっちゃダメなんだよ?」

梓「ええ、唯先輩のおっしゃるとおりです。
  実際、母はかなりの負債を抱えています。
  なのに、それにも構わず借金までしてギャンブル三昧でして……」

律「麻雀とかもやっちゃったりするわけだ」

梓「ええ。雀荘とか行きまくりですよ」

124: 2011/02/23(水) 19:31:19.34 ID:jQmGsVX3O
紬「それは大変ね」

澪「つまり、梓のお母さんは自分のギャンブルのために……その、ギターを売ったんだな……」

梓「ええ……。本当にすみませんでした。
  私がもっとしっかりしていればこんなことには……」

唯「あずにゃんはなにも悪くないよ。そういうこともあるよ」

梓「唯先輩……そうですね。
  悪いのは私の母のような人間であり、私の母みたいな人間を生み出してしまう社会ですよね」

澪「そこまでは言ってない」

紬「でも、これからどうしよう……」


梓(どうやら大丈夫みたいですね。なんとかごまかせたみたいです。
  まったく……お人よしな先輩たちです)

126: 2011/02/23(水) 19:41:39.85 ID:jQmGsVX3O
昨日・回想


店員「ぁす〃レニゃωσヶ〃ノまωこきもちレヽレヽ。
  すこ〃<UまりヵゞレヽレヽЙё。
  レま〃<もレヽッちゃぅそぅT=〃∋。τレヽぅヵゝこσままぉUッこUτレヽレヽ」

梓「……はあ」

店員「それレニ小±Tょぉッはoレヽはけッこぅ需要ヵゞぁりますヵゝらЙё。
   禾ムも貧乳ヵゞ女子きτ〃Uτ」

梓「あの……専門用語とか出されてもわからないんで、ギターの値段だけ教えてもらっていいですか?」

店員「五十万です」

梓「……はい?」

店員「五十万円になります」

梓「(#^ω^#)」

127: 2011/02/23(水) 19:52:10.57 ID:jQmGsVX3O
回想終了


梓(まさか、私がギターを弾かないため口実のために売ったギターが五十万もする代物だったとは……。
  笑いが止まらないとはまさにこのこと。
  もちろん、五十万はきっちり預け入れしてあるし問題ない)

唯「あずにゃん、笑ってるの?」

梓「へ……?
  い、いえ、違いますよ。くしゃみが出そうだったもので」

梓(いけない、いけない。思わずニヤニヤしてしまった)

律「しかし、ギャンブル好きの親っていうのも困ったもんだよな。
  わたしの両親はそんなんじゃなくてよかったよ」

澪「律、そんな言い方はないだろ」

律「ん、ああ……ゴメン、梓」

梓「いいえ、いいんです。気にしないでください」


梓(まあ、私のお母さんがギャンブル狂なんて嘘だけどね)

130: 2011/02/23(水) 19:59:41.57 ID:jQmGsVX3O
梓「それで、先輩。
  私からみなさんに提案があるんですが聞いてもらってもいいですか?」

澪「なんだ?」

梓「ギターがない私にできることは、私が思いつくかぎりひとつしかありません。
  
  ボーカルです。私にボーカルをやらせてくれませんか?」

律「まあ、そうなるわな」

唯「わたし、ギターとボーカルだけど。
  仮にあずにゃんがボーカルやったらどうするの?」

133: 2011/02/23(水) 20:06:07.10 ID:jQmGsVX3O
梓「ギターだけやってればいいと思うんですけど。
  それに歌いながらギターを弾くのって疲れるでしょうし、私が代わりに歌ってあげますよ」

唯「えー。わたし、ギターもやりたいけどボーカルもやりたいよ」

梓「しかし、唯先輩が歌ってギターやったら私はなにをすればいいんですか?」

澪「……ダンスとか?」

梓「澪先輩は魔法以上にユカイなことを言わないでくれますか?」

律「まあ、せっかくだし梓と唯で歌い比べてみるのはどう?
  ボーカルはバンドの顔だしさ」

梓「なるほど、悪くありせんね。
  そうしましょうか」

136: 2011/02/23(水) 20:14:01.72 ID:jQmGsVX3O
澪「とりあえず、唯と梓の歌を聞き比べしてうまいほうをボーカルとして採用するということで。
  これでいいか、二人とも?」

唯「いいよ」

梓「はい。それでいいです」

紬「それから、二人が歌う歌は、唯ちゃんは『ふわふわ時間』で。
  梓ちゃんは……ギリギリ……ちょっぷ、って曲でいいんだよね?」

梓「はい。それでお願いします。
  私は先輩方が作ったオリジナル曲を知りませんからね」

律「んじゃあ、まずは唯からスタート」


唯「すぅ~はぁ~……キミを見てるとハートどきどき……」


梓(以下略)

139: 2011/02/23(水) 20:21:57.62 ID:jQmGsVX3O
梓「き〃りき〃り→か〃けぇσぅぇをぃ<ょ→にふらふらUたっτぃぃU〃ゃなぃかょぉ!!」


澪「梓、なかなかハードな動きをするな」

律「あんなにぴょんぴょん動いてるのに、よく歌えるな。
  梓は運動が得意だったりするのか?」


梓「それτ〃もまぇにぃ<Uかなぃωた〃からぁ!!」


紬「動きかたとかすごくカッコイイんだけと……」

唯「うん。たしかにすごくカッコイイんだけと……」


梓「た〃ぃU〃ょぉふ〃ほ〃<σは〃ぁぃゎぁぁあああああ!!!!」


唯澪律紬(滑舌が悪すぎてなに言ってるのかわからない……)

140: 2011/02/23(水) 20:29:25.26 ID:jQmGsVX3O
梓「はあはあ……やはりこの曲は疲れますね。
  どうでしたか、みなさん。私のタマシイの歌声(歌声と書いて生き様と読む)は?」

律「ん? ああ、その……」

唯「あんまりうまくないね!」


梓「……今、なんて言いました?」

唯「え? だからあんまりうまくないね、って言ったんだよ。
  実際にわたしのほうがうまいよね?」

澪「まあ、な……」

梓「ちょ、ちょっと待ってください。
  私はこれでもヒトカラーなんですよ。
  こんな性格してるからあんまり友達がいないから、毎日が暇で。
  そんな暇をつぶすために、カラオケに通いまくって歌いまくりのこの私が……下手?」

紬「うん……正直、あまりうまくないと思う……」

141: 2011/02/23(水) 20:40:50.42 ID:jQmGsVX3O
梓「……では、ボーカルは唯先輩に決定ということですか?」

律「まあ、今のところはな。悪いけど、唯と比べると梓の歌唱力はちょっと……」

梓「でも、待ってください。
  そしたら私はどうしたらいいんですか?
  私はなんのために軽音部にいるんですか? ていうか、いる意味なんてありませんよね?」

紬「ええと、梓ちゃんはかわいいから客引きになるんじゃ……」

梓「みなさんも十分かわいいですから。
  ていうか、お願いします。私にボーカルをやらせてください」

澪「みんな。私からひとつ案があるんだけど……。
  歌だって練習すればうまくなるから、賭けてみないか?」

唯「なにに?」

澪「梓の歌がうまくなる可能性に、だ」

144: 2011/02/23(水) 20:50:04.62 ID:jQmGsVX3O
梓「澪先輩……」

澪「唯だって、最初の頃は歌いながらギターを弾くのは無理だった。
  でも、最終的には練習してできるようになったんだ。
  梓だって、練習すればきっと歌もうまくなると思う」

紬「そうね。澪ちゃんの言うとおりかも」

律「そうだな。唯もいいだろ?」

唯「うんっ! あずにゃん、歌のことならまかせて!」

梓「みなさん……ありがとうございます!」

146: 2011/02/23(水) 21:00:19.99 ID:jQmGsVX3O
それから二週間後


律「今日はみんなにいい報せがあるぞ」

梓「なんですか」シーシー

律「とりあえず、爪楊枝をしまえ。
  ていうかなんでそんなに爪楊枝使う率が高いんだよ」

梓「イチゴが歯と歯の間に挟まったみたいです。
  わりとすきっ歯なのかもしれません。
  まあ歳をとると、誰もがすきっ歯になってしまうらしいですけどね」

律「まあ、そんなことはいいや。それより聞いてくれ」

紬「なになに?」

律「部長会議で決まったことなんだけど、今年の夏に備えてクーラーが設置されることになりました」

澪「へえ、今年の夏は快適に練習できるな」

梓「なん……です、と?」

紬「どうかしたの、梓ちゃん?」

147: 2011/02/23(水) 21:08:03.29 ID:jQmGsVX3O
梓「クーラーなんてダメです!」

律「……なにを急に言い出すかと思えば。
  なんでクーラーがダメなんだよ。
  ドラマーのわたしとしてはメチャクチャありがたいぞ」

澪「楽器弾いていると、けっこう体温が上がるしな」

唯「わたしはクーラー苦手だからなんとも言えないや。
  ……あ、もしかしてあずにゃんったらわたしの心配してくれたの?」

梓「え? あ、ああ……唯先輩がクーラー苦手なことはもちろん心配でしたよ。
  しかし、問題はそっちじゃありません」

澪「じゃあ、なんだ?」

梓「はあ……。これだから頭の回転が鈍い人は困りますねえ。
  少し考えればわかるでしょう?

  私はボーカリストなんですよ?」

148: 2011/02/23(水) 21:14:47.02 ID:jQmGsVX3O
澪「全然わからないんだけど」

梓「あのですね。
  ボーカリストが一番気づかわなければならないものはなにか。
  それは喉です。喉はギターの弦みたいにとり替えも聞きません」

澪「それがどうした?」

梓「これだけ言ってまだわからないなんて……。

  クーラーなんて使ったら私の喉が傷んでしまいます」

澪「いや、B'zのボーカルじゃあるまいし、そこまで気をつかわなくても……」

梓「先輩、やる気あるんですか?
  私たち高校生の青春なんてホントに一瞬ですよ?
  なにごとにも全力で取り組むべきです」


154: 2011/02/23(水) 21:48:10.39 ID:jQmGsVX3O
唯「あずにゃんって、ときどきすごくいいこと言うよね」

律「うん、たしかにすごくいいこと言うんだけど。
  言動と行動がイマイチ、マッチしてないんだよなあ」

澪「今だってひとりだけラスク食べてるしな。
  今のうちに発声練習でもすればいいのに」

梓「何度も言わせないでください、澪先輩。
  そして何度も練習、練習と同じことを言わないでください。
  まあ加齢が進むと同じことを何回も繰り返して言ってしまうらしいですけどね」

澪「…………」

梓「何回も言ってると思いますけど、喉――つまり、声帯は大事にしなければいけないんです。
  私のカワイイ声が台なしになったら、バンドまで台なしになってしまいますよ」

156: 2011/02/23(水) 21:53:19.44 ID:jQmGsVX3O
澪「……そうだな。
  悪かったよ。でも、あとからきちんと練習しような?」

澪(ここはガマンだ。梓はもともと口が悪いだけで、悪気はないんだ)

梓「はいはい。
  ていうか、また練習って言いましたね」ボリボリッ

澪「……ごめん」

梓「いいですよー」ボリボリッ

紬「梓ちゃん、まだまだたくさんラスクあるから食べてね」

梓「うんうん。どうせ太るならうまいもので太りたいですよねー。
  うみゃー」ボリボリッ

澪(大丈夫……だよな?)

159: 2011/02/23(水) 22:03:45.31 ID:jQmGsVX3O
時間は進んで、季節は夏


澪(あんまり練習できてないまま、気づいたら七月になっていた……)


梓「このクソ暑い部室でしゃべるのは、それだけでなかなかの労力ですがそれでも言います」

律「なんだよ?
  ていうか、暑い。暑すぎる。クーラー欲しい」

梓「私の喉に毒ですからダメです。
  ……それで、提案、というかなんというか」

澪「早く言え。前置きが長い」

梓「はい、言います。

  ティーセットは撤去するべきです!」


紬「……はい?」

160: 2011/02/23(水) 22:12:42.97 ID:jQmGsVX3O
唯「イヤだよ、あずにゃん!
  わたしたちの軽音部に、ティータイムがなくなったらただの軽音部だよ!」

律「唯、落ち着け。なにが言いたいかはわかるけど、言ってることがメチャクチャだぞ。
  梓もだ。なに意味不明なこと言ってんだよ?」

梓「そうですね。より、きちんとわかりやすく話しましょう。
  ティータイムに代わって新たなタイムを導入しようと思いまして」

紬「ティータイムに代わって……?
  なにをするの?」

梓「鍋タイムを導入しようかと思います」

澪「また意味のわからないことを……」

梓「人の話を最後まで聞かないうちから、意味がわからないと決めつけるのはどうなんでしょうね?
  澪先輩のメルヘン歌詞より、よっぽど論理的な考えのもとで私はこの提案をしているんですけどねえ」

澪「メルヘン歌詞……」

162: 2011/02/23(水) 22:22:08.72 ID:jQmGsVX3O
紬「ええと、梓ちゃんはどうして鍋タイムの導入なんてしようと思ったの?」

梓「実はあるアーティストのNHKの特集を見ましてね。
  そのボーカルの人が鍋を食べてたんですよ。
  なんでも声帯を温める効果があるとかうんたん」

澪「だからってティータイムをやめてまで、鍋を食べる必要があるのか?
  いや、そもそも部活で鍋を食べることじたいおかしいだろ」

梓「部室でティータイムしているくせに、なにを今さら」

律「つうか、このただでさえ暑い夏場になんで部室で鍋しなきゃならないんだよ」

梓「いいバンドにはいいボーカリストがいるべきでしょう?
  私が鍋を食べて、それででバンドがよくなるならいいでしょう?」

165: 2011/02/23(水) 22:31:42.65 ID:jQmGsVX3O
澪(そして、そんな梓の馬鹿げた提案のもと私たち軽音部は放課後に毎日、鍋を食べるはめになった。
  夏場に汗を大量にかきながら、ひいひい言って鍋を食べる軽音部。
  私の目標としていた軽音部の姿はすでにない)


梓「ふはっー、あちち……やっぱり夏に食べるキムチ鍋はうまいですね」

唯「ふー、ふー……」

律「いつか脱水症状で、全員死ぬかもな……」

紬「梓ちゃん、韓国産のキムチはどう?
  本場のキムチだからそれなりにうまいと思うんだけど……」

梓「あちぃ……全然うまくないですね。ただたんに辛いだけって感じです。
  やっぱりキムチは日本の松前風キムチにかぎりますよ」

澪「……」グスッ

166: 2011/02/23(水) 22:41:12.68 ID:jQmGsVX3O
澪(さらに時間は経過して、気づいたら文化祭一週間前。
  私たち軽音部一同はバンドの名前を考えていた)


唯「タンスの角に薬指」

澪「ピュアピュア」

律「なんかどれもパッとしないな……」

紬「大器晩成とかは?」

律「一応、わたしらまだ高校生だから」

梓「そんなんじゃダメですー!!」

澪「……梓にはなにか名前の案でもあるのか?」

梓「はい、当たり前でしょう。
  澪先輩みたいに批判するだけして、意見出さないカボチャ頭とは違いますから」

167: 2011/02/23(水) 22:50:36.42 ID:jQmGsVX3O
澪「……で、名前は?」


梓「放課後に鍋ばっかりしてることから、放課後ナベタイムでどうですかね。
  正直、私が考えた提案した名前が一番いいですね」

律「まあ……いいんじゃないか?
  他に案もないみたいだし、これで決定だな」

梓「いやあ、バンド名も決まったし、みなさんの演奏も順調ですし懸案事項はもはやありませんね。
  私たち放課後ナベタイムはやればできる子の集まりですね」

澪「梓、ひとつ忘れてることないか?」

梓「なんですか?」

澪「お前の歌だ」

梓「(´Д`)」

169: 2011/02/23(水) 22:59:14.26 ID:jQmGsVX3O
澪「私たち、いまだに梓の歌声を春以来聞いてないんだけど」

梓「じょぶじょぶだいじょうぶですよ」

澪「……ホントにか?
  せっかくだから、今から聞かせてほしいんだけど」

唯「わたしもあずにゃんの歌聞きたいなあ」

律「そうだな。せっかくだから歌ってみろよ、梓。
  わたしらが今から演奏するからさ」

梓「ゲホゲホっ……い、いけませんねえ、どうやら喉の調子が悪いみたいです。
  これで歌ったら本番前に喉を痛めてしまうかもしれません。
  これはしばらく喉を休めたほうがいいですねえ……ゲホっ、ゲホゲホゲホっ!」

澪「……まあ、梓がそこまで言うなら……」


澪(大丈夫だ。梓はやるときはきっとやってくれるはず)

174: 2011/02/23(水) 23:06:44.11 ID:jQmGsVX3O
梓(さて、いよいよ本番の前日です。
  私は真鍋先輩に一通のメールを送りました)


梓『先輩、どうしましょう。
  五ヶ月も歌の練習したのに全然歌がうまくなりませんでした』

梓(まあ、こんなメールしてもしかたないんだけど……
  にしても、いつもに比べると返事遅いなあ)


ウルトラソウッ!♪


梓「はい、遅いとか思ってたらメールが来ましたよ……あれ?」


179: 2011/02/23(水) 23:15:20.70 ID:jQmGsVX3O
和『私に相談されても困るわね。
  私、かなり歌うまいから、歌が下手な人の気持ちなんてわからないわ』

梓『さらりとヒドイ言いますね。
  ところでセンパイ、いつもとメールの感じがちがいますけど』

和『…………。
  ほら、唯ってば今になって風邪をひいちゃったでしょう?
  だから心配になってメールしたの。そしたら……

  和ちゃんにギャル文字は気持ち悪いよって指摘してきたの』

梓『(笑)』

和『笑わないで。
  たぶん、唯ったら風邪ひいちゃってそのせいで、こころにもないメールしちゃったんだろうけどね
  正直すごく傷ついたわ』

梓『そうですか。で、私の愚痴に対してなにか言うことはありませんか?
  もう明日の文化祭なんてなくなってしまえばいいのに(泣)』

和『文化祭はなくならないだろうけど、あなたたちの発表はなくなる可能性はあるんじゃない?』

梓『??』

180: 2011/02/23(水) 23:22:23.68 ID:jQmGsVX3O
和『だから、唯が風邪ひいてるんでしょ?
  だったらそのまま唯が風邪のままだったら学校にも来れないわけで。
  あとは言わなくてもわかるわよね?』

梓『なるほど! センパイって本当に頭いいですね!』

和『よく言われるわ(和)。
  とにかく唯が学校に来ないように祈っておいたら?』

梓『はい! 今から伊勢神宮まで行って神様にお願いしてきます』

和『そんな時間とお金があるの?』

梓『時間は……知らないですけど、お金はたんまりあるんで大丈夫ですよ(藁)
  それじゃ、さよならセンパイ』

185: 2011/02/23(水) 23:28:48.91 ID:jQmGsVX3O
和『えー、もうちょっとメールしましょう』

梓『いやです。ていうか、めんどくさいです(-.-;)』


和『ていうか……ゃっはoり≠〃ャ儿文字か〃ぃぃょ→o(^-^)o』

和『ぁす〃±ちゃωもそぅ思ぅτ〃Uょ? 思ぅ∋Йё(^_-)-☆?』

和『τレヽぅヵゝ禾ムほど〃≠〃ャ儿文字レニぁぅJKレヽナょレヽヵゝらo(^-^o)(o^-^)o』


梓「しね」

189: 2011/02/23(水) 23:36:52.53 ID:jQmGsVX3O
次の日


紬「唯ちゃん、来ないね」

澪「唯は風邪だから、もしかしたら来れないかもしれないってことはわかってたけど……」

律「なんで梓まで来ないんだろうな。
  まさかアイツサボる気か……?」


梓「ところがどっこい、あずにゃんこと中野梓はここにいるんですよね」

澪「いつのまに……いや、まあいい。
  よかったよ、梓が来てくれて」

梓「……」キョロキョロ

紬「どうしたの、梓ちゃん? そんなにキョロキョロしちゃって」

196: 2011/02/23(水) 23:44:08.10 ID:jQmGsVX3O
梓「唯先輩がいないか探しているんですよ。
  先輩がいなかったら、放課後ナベタイムは成立しませんからね」

澪「唯は……まだ来てないんだ」

梓「そうですか……ふう、苦労に苦労を重ねたかいがあったみたいですね」

律「は?」

梓「気にしないでください。こちらの話ですから」

澪「ていうか、梓がからだにつけてる紙はなに?
  あと手首にも数珠みたいなのいっぱい巻いてるし……」

梓「だから気にしなきていいって言ってるでしょう。
  澪先輩って人の話を右から左へ聞き流すのが得意なんですか?」

澪「…………」

197: 2011/02/23(水) 23:51:57.80 ID:jQmGsVX3O
律「まあまあ、そう梓も怒るなって。唯がいなくて気がたってるのはわかるけどさ。
  今のうちにわたしらだけでも練習しとこうぜ」

紬「そうね。そうしましょう」

梓「……みなさんはクラスのほうのお手伝いとかないんですか?」

律「あー、そうだ。わたしとムギ、あと30分したら当番だよ」

梓「そちらに行ったほうがいいんじゃないんですか?
  割り当てられた仕事はきちんとこなさないと迷惑になりますよ」

澪「でも唯が……」


がちゃ!


唯「やっほー! みんなお待たせー!」

梓「(^ω^)」

199: 2011/02/24(木) 00:01:55.04 ID:KJqqcroDO
紬「唯ちゃん……よかった。もう風邪は大丈夫なの?」

唯「うん、きちんと食べて寝てをしてたら、すっかり体調よくなったよ。
  みんな、心配かけてごめんね」

梓「……」

唯「あずにゃんも心配かけてごめんね……って、その格好どうしたの?」

梓「はははは、よかったよかった……はははは、唯先輩が無事に学校に来てよかった……」

唯「久々にあずにゃん分を補給しておかなきゃね」ダキッ

律「唯、梓に抱き着いてる場合じゃないぞ。
  これからクラス当番だぞ」

唯「あ、そうだった!
  あずにゃん、澪ちゃん、またあとでね!」

201: 2011/02/24(木) 00:05:55.69 ID:KJqqcroDO
澪「……私もクラスのほう見てくるな。
  ふたりだけじゃ練習もできないしな」

梓「…………」

澪「梓?」

梓「は、はい!?」

澪「どうした? 珍しくぼうっとして」

梓「な、なにもです。大丈夫です。
  わ、私もクラスが心配なんで見てきます!」

澪「そうか。じゃあまた1時にここに集合な」

203: 2011/02/24(木) 00:13:50.36 ID:KJqqcroDO
憂「いよいよ、本番だね。
  わたしと純ちゃんも見に行くからがんばってね」

純「講堂って、人が集まって暑いところだから本当はいやだけど、一応見に行くよ。
  はあ……髪ゴワゴワしないか心配だな」

梓「ああ、うん、ふたりともありがとう」

憂「そうそう、聞いて。
  お姉ちゃんったらね、危うくギターを忘れそうになったんだよ。
  わたしが気づいてなかったら危なかったよ」

純「いかにも憂のお姉ちゃんらしいね」


梓「……! それだ! ありがとう、憂! とっておきのアイディアが浮かんだよ!
  こうしちゃいられない、あそこに行かなきゃ! またあとでねっ!」


憂「……どうしたんだろ、梓ちゃん」

純「なんか急に生き生きしだしたね」

204: 2011/02/24(木) 00:20:29.34 ID:KJqqcroDO
PM:1:05・音楽室 


梓「すみません……少し遅れました」


唯「ない、ないよ!!」


梓「どうしたんですか、唯先輩?
  もう本番の30分前なのに落ち着いていないと……失敗しちゃいますよ。
  せっかく5人で初めての文化祭での演奏なんですから」

唯「で、でも……それどころじゃないよ!」

梓「どうしたんですか、澪先輩?」


澪「実は……私たちが部室を空けているうちに唯のギターがなくなったんだ」

唯「うわああああああんっギー太ああああ!!」



梓「……」ニヤリ

210: 2011/02/24(木) 00:32:05.18 ID:KJqqcroDO
梓(うししししっ……まったく、初めからこうしていればよかった……。
  どんなに楽器がうまくても楽器がなければ、なにもできないでしょう)

律「まさか本番直前にこんなアクシデントに見舞われるなんて……!」

澪「とにかく時間が許すかぎり、唯のギー太を探すぞ!」

梓「今から探して間に合いますかねえ?
  本番まで残り30分しかありませんよ?」

澪「いいから! 学校中を探すぞ。諦めるな!」


梓(うひひひっ……はたして先輩たちで私が隠した唯先輩のギターを見つけられますか?)

214: 2011/02/24(木) 00:41:34.48 ID:KJqqcroDO
澪「時間がない。みんなで手分けして探すしかないな。
  とりあえず、唯と私で……」

梓(意外と澪先輩、頼りになりそうですね。
  意外です。まあ、どうせ30分以内に見つけることなど不可能ですがね)

律「じゃあ、わたしは二階を探してくる。ムギは外を頼む」

紬「わかった」

梓(無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。
  まあ、努力は認めてあげますけどね。さて、私は高見の見物といきますか……)


がちゃ


憂「お姉ちゃーん、ギー太が校長先生の銅像の前に落ちてたから届けに来たよ」

梓「(^O^)」

218: 2011/02/24(木) 00:52:20.41 ID:KJqqcroDO
梓(こうして、私の放課後ナベタイムライブ崩しはあっけなく終わった。
  残ったのは、本番前の地獄のような時間だけである)


律「よし、わたしら放課後ナベタイムの成功を祈ってエンジン組むぞ!」

梓「…………」

澪「梓……結局、一回も練習してこなかったが大丈夫か?
  いや、今さら大丈夫か、なんて聞くのはおかしいな」

唯「そうだよ! ギー太も戻ってきたし、がんばろうよ」

紬「せっかくだし、梓ちゃんがエンジンのかけ声をやったら?」

梓(もうどうにもなれ……!)


219: 2011/02/24(木) 00:55:46.26 ID:KJqqcroDO
梓「わかりました。

  ヤッてやるです!」





梓「生一丁っっ!」


唯澪律紬「「「「喜んで!!!!」」」」






225: 2011/02/24(木) 01:03:52.97 ID:KJqqcroDO
梓(私はステージに立って思わずメマイがした。
  たかが女子高生のバンド演奏になんでこんなに人がいるんだろう)


キャーヮ-ヮ-ホウカゴナベタイムダアア ナマエダセエ

ミオターンコトシモパンツミセテネエカイチョウヨリ

シャベッタアアアアアアアアアアアアァ


梓「あー、あー、放課後ナベタイムです。
  今から演奏するんで聞いてください」チラッ

律「ワンツースリー!」


…………

228: 2011/02/24(木) 01:13:09.30 ID:KJqqcroDO
梓(結論から言うなら、ライブは大成功だった。
  なにせ私の歌唱力はあがっていたのだから。
  ていうかなんなんだろ、この謎の達成感は……?)

澪「やったな、梓。大成功だ。練習の成果がきちんと出た結果だ。
  正直に白状すると、私は梓のことを疑ってたんだ。
  きちんと練習してないんじゃないかって。部活でも鍋食べてばかりだったし」

梓「……澪先輩」

澪「でも、きちんと練習してたんだな。疑っててごめん。
  そして……歌、すごく上手だったよ」

唯「うん、あずにゃんの歌声は最高だよ!」

紬「ええ、ステキな歌声だったわ」


アンコール! アンコール! アンコール!


律「へへっ、放課後ナベタイムのライブは大成功だったな。
  さて、アンコールいくぞ!」

231: 2011/02/24(木) 01:21:02.72 ID:KJqqcroDO
どうもこんにちは。鈴木純です。


いきなりわたしの出番で、わたし自身が焦ってますけど、どうやら放課後ナベタイムのライブは成功してるみたい。
講堂に溢れる割れんばかりの歓声が、なんかスゴイです。

憂「アンコール! アンコール!」

隣の憂も目茶苦茶はしゃいでるし。

純「アンコール!アンコール! 梓、アンコール!」

かくいうわたしも梓の歌声にすっかりやられたみたい。

いや、真面目に梓の歌声はすごいすごい!
ロックの片鱗を垣間見た気がする。


あれ? 梓がなぜか澪先輩を蹴り飛ばしてベースを奪ったけど……なんで?

梓「さあ、みなさんのアンコールに応えて私が真のロックンロールを見せてやります!」

梓がマイクを使って叫んだ。

真のロックンロール?

なにそれ?

239: 2011/02/24(木) 01:27:52.90 ID:KJqqcroDO
梓の謎のパフォーマンスによってさらに会場はヒートアップする。

と、そのとき。

梓のもってるベースの先っぽから火花が出ました。
真っ赤な火花です。火花はどんどん大きくなります。

梓はベースを振り回しまくります。正直危ないです。
澪先輩たちはあたふたしています。さらに火花はでかくなります。

そして。


梓「私からのロックンロールを受けとってください!!」


梓がベースを豪快に投げます。
あんな小柄なのに、会場のほとんど一番うしろで眺めていたわたしのとこまでベースは届きました。


そしてベースはわたしの目の前で爆発した。

242: 2011/02/24(木) 01:33:31.63
どうしてこうなった

244: 2011/02/24(木) 01:34:58.03 ID:KJqqcroDO
【エピローグ】


なにから話せばいいのか迷うけど、最初に話しておかなければいけないのはやはりあのことだ。


梓は、あのライブのあと警察に捕まった。


わたしをベース爆破によって傷つけたことはこのことにはあまり関係ない。
いや、ベースは関係あるんだけど。


春に梓は澪先輩のベースを今回と同じように、爆破したらしい。
そして同じモデルをプレゼントしたそうだ。


そう、ベース。実はそのベースは楽器店から盗み出したものらしかった。
ちなみに梓が捕まる決定打になったのは楽器屋の店員の証言。

梓が楽器屋にギターを売りに行ったとき、店員は夜にベースを盗んだ犯人と似ていることに気づいたそうだ。


249: 2011/02/24(木) 01:46:02.74 ID:KJqqcroDO
そしてストパーをかけて真っ直ぐに整えていたわたしの髪は……またもとのモップ状態になった。
あれほど金と時間をかけたわたしの髪はあっけなく台なしになった。

しかし、わたしは梓に感謝している。
わたしはあのライブでわたしの中のロックンロールに気づけた。

もはや、今のわたしはロックの虜だ。

そして、ロックにとりつかれた人間の髪型が普通ではダメだろう。

だから、わたしはこのモップヘアーでもういいのだ。


純「梓、待っててね」

さっきは梓は警察に捕まったって言ったけどもう逃亡してしまったらしい。さすがロックだ。

なんでも今はマニラに逃亡したとか。

そしてロックにとりつかれたわたしは梓を追うのだ。どこまでも。

純「絶対に捕まえるんだから、梓!」


わたしはそう声に出して、大破したベースを背負って、飛行機の搭乗口に足を踏み入れた。




    お わ り

250: 2011/02/24(木) 01:48:26.66
すごいパンクなSSだった、乙

251: 2011/02/24(木) 01:48:48.32

楽しかった

252: 2011/02/24(木) 01:48:54.68
激しかったな乙

引用元: 梓「ギターとか弾けませんけどなにか?」