1: 2011/02/12(土) 18:58:11.28 ID:Q3BplXdfP
P「やったな美希! 今日のライヴは大成功だ!」

美希「えへへ、ハニーのおかげだよ~」

P「この調子ならAランクも夢じゃないな! 美希なら本当にトップアイドルになれるよ!」

美希「それもハニーのおかげなの。 ミキ一人じゃここまで来れなかったって、ミキ思うなっ」

P「この調子でこれからも頑張ろうな、美希!」

美希「うんっ! ハニー愛してる!」

春香「あ、あの……、プロデューサーさん、私も頑張りましたよ! バックダンサーだけど……」

P「ん? ああ、いたのか春香。 外は寒いから気を付けて帰れよ」

美希「それじゃ帰ろっ、ハニー」

P「よし、車を回そう。 ちょっと待っててくれ」

春香「……お疲れ様でした」

2: 2011/02/12(土) 19:01:26.93 ID:Q3BplXdfP
  ~帰り道~


春香「はぁ……、美希は凄いなぁ……、アイドル始めてたったの半年でAランク目前だもんなぁ……。
   私なんか、1年やってるのに未だにEランク……。 アイドル向いてないのかなぁ……」

  びゅううううう

春香「……プロデューサーさんだって、そりゃ美希の方を好きになるよね……。
   私と美希じゃ、勝負にならないよ……。 でも…………」

春香(アイドルとして負けるのは我慢できても、恋で負けるのだけは耐えられそうにないよ……)

  とぼとぼ…… とぼとぼ……

春香「あれ、駅ってこっちじゃなかったっけ……?」

 初めて来た現場の上、考え事をしながら歩いていたため、
 道に迷ってしまった春香は、キョロキョロしながら辺りを見渡した。
 周りは閑散とした住宅街であり、人っ子一人歩いていない。

春香「うー、薄暗いなぁ……寒いし……。
   栄えてる場所から出るとすぐこれだよ……、これだから千葉は……」

 埼玉県民の春香は、千葉県に対抗心を持っていた……。

3: 2011/02/12(土) 19:01:54.32
ドーン!

4: 2011/02/12(土) 19:05:47.01 ID:Q3BplXdfP
春香「疲れてるのに……まいったなぁ…………んっ?」

 春香は、薄暗い路地でアクセサリーか何かを売っていると思われる露天商を発見する。
 何故、こんな場所、それも夜に露天なんかを……?と思ったが、
 道を尋ねるチャンスと思い近寄った。

春香「あのぉ、すいません」

ミザリィ『いらっしゃい。 ゆっくり見ていって』

 露天商の女は、非常に美しく整った顔立ちで、
 ウェーブのかかった綺麗な長髪の女性だった。
 春香は思わず面食らってしまう。

春香「あ、いえ、道を尋ねたいんですが……、駅ってどっちでしょうか?」

ミザリィ『あら残念……。 駅ならこの道を真っ直ぐ行って右に曲がれば辿りつくわ』

春香「そうですか、ありがとうございます」

ミザリィ『何か悩みを抱えているようね?』

春香「えっ?」

ミザリィ『こうして出会ったのも何かの縁。 よかったら見ていってちょうだい』

春香「はぁ……、何を売ってるんですか?」

 正直、こんな怪しい露天など興味もないし、風に吹かれて寒いのでさっさと帰りたかったが、
 こうハッキリ言われては無下に断ることはできなかった。

5: 2011/02/12(土) 19:10:47.53 ID:Q3BplXdfP
ミザリィ『オカルトグッズよ。 と言っても変に捉えないでちょうだい?
     幸運を呼び込むアクセサリーってところかしら』

春香「はぁ……、そうですか」

春香(魔人の手……幸運の干し首……妖精の剥製……、怪しいのばっか……)

春香「んっ? これ……」

 春香は、ドクロのデザインの腕輪に興味を引かれる。

ミザリィ『あら、フォーチュン・リングに目を付けるなんてセンスあるわね?』

春香「あ、いやぁ……」

春香(恐ろしくダサいデザインだなぁと思っただけなんだけど……)

ミザリィ『それはね、持ち主の願望を何でも叶えて幸運を導く腕輪なのよ』

春香「へぇ、どうすれば叶うんですか?」

ミザリィ『簡単よ、その腕輪を腕に着けて願うだけでいいの』

春香(何かいい加減だなぁ……)

6: 2011/02/12(土) 19:15:44.89 ID:Q3BplXdfP
ミザリィ『ふふ、いいわ。 それ、あなたにあげる』

春香「えっ、いいんですか?」

ミザリィ『ええ、その腕輪もあなたを気に入ったみたい。 お代はいらないわ、持っていって』

春香「はぁ……ありがとうございます」

 内心、こんなモノを貰ってもあまり嬉しくないと思ったが、
 いらないとも言いづらいので、素直に受け取り、春香はその場を後にした。


  タッタッタッタッ


ミザリィ『……皆さん、こんばんは。 アウターゾーンの案内人・ミザリィです。
     彼女が手にした腕輪は、もちろんアウターゾーン製……。
     彼女は上手く使いこなせるでしょうか』

7: 2011/02/12(土) 19:22:04.02 ID:Q3BplXdfP
  ~春香の部屋~


春香「はぁ~、疲れたぁ~。 やっぱ移動時間がしんどいなぁ。 高校出たら都心で一人暮らししたいよ」

 春香はバッグを床に放り投げ、ベッドに飛び込む。

春香「……眠い、でもせめて歯を磨かないと……。 あ、そういえば……」

 春香は、バッグから先ほどもらった幸運の腕輪を取り出した。

春香「何でも願いを叶えるかぁ……」

 そして、腕輪を左腕に着け、手の平を合わせて天に祈った。

春香「アイドルランクが上がりますようにっ!」

  ビリビリビリッ

春香「きゃっ! 一瞬、腕輪から電気が流れたような……。 気のせい……じゃないよね?」

 春香はほんの少し痺れた腕をさすりながら、時計に目を移す。

春香「あー、もうこんな時間! 早く寝ないと……」

8: 2011/02/12(土) 19:27:31.21 ID:Q3BplXdfP
  ~翌日、765プロ事務所~


春香「おはようございまーす!」

P「――それで怪我は大丈夫なのかっ? わ、分かった、こっちのことは気にしなくていい……ああ……」

春香(……? 誰と電話してるのかな……。 何だか焦ってるみたいだけど……)

P「ああ……、後でお見舞いに行く……。 ああ、そっちは任せたぞ。 うん、それじゃ」ピッ

春香「プロデューサーさん、何かあったんですか?」

P「春香か……。 実は今律子から電話があってな、真が事故に遭って怪我をしたらしいんだ……」

春香「ええっ!? た、大変じゃないですか! 真、大丈夫なんですか!?」

P「大した怪我じゃないらしいんだが……、明日の番組出演は見送らざるをえない」

春香「あっ、生放送の特別番組ですよね。 真がやっとの思いで掴んだ仕事なのに……」

P「ああ、それに事務所としても穴を空けるわけにはいかない。
 番組側には、代わりに春香を出演させてもらえないか打診するつもりだ」

春香「ええっ? わ、私ですかぁ?」

9: 2011/02/12(土) 19:32:05.86
もうバッドエンドしかないじゃん

10: 2011/02/12(土) 19:32:19.71 ID:Q3BplXdfP
P「お前も1年間この業界にいて、トークに慣れてきたはずだ。 いきなりの全国放送だが……やれるな?」

春香「で、でも、真の仕事を横取りするみたいでなんだか……」

P「事故なんだから仕方ないさ。 それにな、この業界は弱肉強食の厳しい競争社会だ。
 他人を蹴落とすくらいの気持ちを持たないと、お前が蹴落とされるぞ?」

春香「わ、分かりました……。 やらせてください!」

P「よし、今日はテレビ局に向かって番組のディレクターと打ち合わせをするぞ」

春香「はいっ!」

13: 2011/02/12(土) 19:37:02.15 ID:Q3BplXdfP



 春香は、このチャンスを見事ものにし、番組は大成功に終わった。



社長「2人ともお疲れ様! 番組見ていたよ! 実に素晴らしかった!」

春香「い、いやぁ、ちょっとしか映ってなかったと思いますけどっ」

P「いや、あれだけ喋れば大したもんだ。 よくあれだけ積極的にトークに参加できたな」

春香「えへへ、プロデューサーさんが私を代理にしてくれたのが嬉しくって……。
   期待に応えようって思ったら、自然と体が動いてました!」

社長「あの番組の視聴率は20%超えだそうだ! 春香くんも、これで大きなステップアップを果たしたな!」

P「ああ、もうDランクアイドルと言ってもいいだろう。 頑張ったな、春香!」

春香「Dランク……、ありがとうございます! これからも頑張ります!」

14: 2011/02/12(土) 19:41:43.48 ID:Q3BplXdfP
  ~その夜、春香の部屋~


春香「えへへぇ~、プロデューサーさんに褒められちゃったぁ~。
   遂に私もDランクかぁ~。 う~、わっほい!」

 春香は浮かれまくりで、ベッドの上で枕を抱きながらゴロゴロ転がった。
 と、そこで、左腕の腕輪のことを思い出す。

春香「そうそう、この腕輪……。 これに願ったら本当にアイドルランクが上がっちゃったよ。
   すごいなぁ、ひょっとして本当に願いを叶える力があるのかなぁ。
   ダサいのを我慢して着けてた甲斐があったよ~」

 春香は目を閉じ、再び腕輪に願いを伝えた。

春香「……プロデューサーさんともっと仲良くなれますようにっ!」

  ビリビリビリッ

春香「えへへ、これでよしっと! さ、今日はもう寝よっ! 明日もレッスンがあるしねっ」

16: 2011/02/12(土) 19:46:10.66 ID:Q3BplXdfP
  ~その翌日、レッスンルーム~


春香「ねぇねぇ千早ちゃん、私ね、Dランクになったんだぁ♪」

千早「もう3回目よ、それ聞くの。 嬉しいのは分かるけど、気を引き締めなさい」

春香「ぶー、千早ちゃんはいいよねぇ。 もうすぐBランクだもん。
   歌が上手い人が羨ましいよ……。 私なんか、デパートの屋上で歌ったとき、
   子供たちにズコーって言われたもん…………」

千早「私だって毎日努力してるのよ? 春香は私と同じくらい真面目に訓練してるのかしら?」

春香「わ、分かってるよぉ。 真面目に頑張りまーす……」

  ガチャッ

P「よお、ちゃんとやってるか? 今から真のお見舞いに行くが、お前らも来るか?」

春香「あ、じゃあ私も行きます!」

千早「私は結構です。 レッスンがありますから」

春香「薄情だなぁ」

P「はは、まぁいいさ。 よし、それじゃ行くか、春香」

春香「はーいっ!」

20: 2011/02/12(土) 19:50:01.07 ID:Q3BplXdfP
  ~病院~


P「よお真、元気か?」ガチャ

春香「えへへー、ケーキ買ってきたよ~」

真「あ……、プロデューサー……、それに春香も……」

P「怪我したの足だろ? 立つのは無理そうか?」

真「はい、1週間入院してなさいってお医者さんが……」

春香「災難だったねぇ……」

真「うん……、テレビ見たよ……。 春香目立ってたね」

春香「本当は真があそこに立つはずだったのに、ごめんね」

真「ううん、こんな時期に怪我をしたボクがいけないのさ」

P「…………」

真「ボク……、アイドル引退します……」

春香「え、ええっ!?」

真「今回のテレビ出演を最後のチャンスにするつもりでした。 でも……駄目だった……」

春香「そ、それは怪我のせいで……真が悪いわけじゃ……!」

22: 2011/02/12(土) 19:53:43.54 ID:Q3BplXdfP
P「よく考えたのか?」

真「……はい」

春香「そんな! 止めてくださいよ、プロデューサーさん!」

真「いいんだよ、春香……」

P「……俺たちはこれから仕事がある。 すまないが、もう行くな」

春香「プロデューサーさん!」

真「はい、……今までお世話になりました」

P「ああ……」

真「春香……、頑張ってね……」

春香「真ぉ……」ジワァ


 Pと春香は、傷心の真を部屋に残し、その場を後にした……。


24: 2011/02/12(土) 19:56:55.81 ID:Q3BplXdfP
春香「寂しくなりますね……」

P「そうだな。 美希に続いて真まで……」

春香「へっ? 美希がどうかしたんですか?」

P「ん、春香には言ってなかったな……。 美希は…………」


美希「あれ、プロデューサー、それに春香もっ」


P「……美希」

春香「あれ、美希も真のお見舞い?」

美希「うん、元同僚だしね。 一応、顔を出しておこうって思って」

春香「あっ、美希はもう聞いてたの……? 真がアイドル辞めるって……」

美希「え、そうなの? 初耳なの」

春香「へ? だって、元同僚って……」

P「……美希はな、765プロを辞めたんだ」

春香「え、ええええっ!!? なんでっ!!?」

25: 2011/02/12(土) 20:02:31.79 ID:Q3BplXdfP
美希「961プロの方がお給料いいのっ! それに――」


冬馬「おい美希。 いつまでくっちゃべってるんだ」


美希「あっ、紹介するの! ミキの新しいハニーの天ヶ瀬冬馬くんなの!
   冬馬くんは961プロ所属のアイドルだから、ミキも961に移ることにしたんだ!」

春香「ええええっ!!? だ、だって、ミキ……、
    あんなにプロデューサーさんのこと、好きだ好きだって言ってたのに……」

美希「う~ん、ミキもよく分からないけど、つい昨日、急に冬馬くんのことを好きになったのっ!
   もうプロデューサーのことは、別に好きじゃないの!」

P「…………」

春香「そ、そんなのおかしいよ! あんなに仲良かったのに!
   それに散々世話になって育ててもらったのに、あっさりライバル事務所に寝返るなんて!」

美希「あふぅ、春香にそんなこと言われたくないの。 これからは敵同士なの。 容赦しないの」

冬馬「美希、さっさと見舞い終わらせて事務所に戻ろうぜ」

美希「うんっ! それじゃあね、2人ともっ!」


 美希と冬馬は、仲の良い恋人同士のように腕を組みながら、病院の奥へと消えていった。


26: 2011/02/12(土) 20:10:36.04 ID:Q3BplXdfP
春香「な、何があったんですか?」

P「俺にもさっぱりだ……。 突然、美希の奴がああ言い出してな……」

春香「酷いじゃないですか……あんなの……」

P「俺が悪いんだよ……。 結局のところ、美希と信頼関係を築けてなかったってことなんだから……」

春香「そんなことありませんよ! だってプロデューサーさんは美希のためのずっと一生懸命で――」

P「よそう、こんな話。 過ぎたことを考えても仕方ないさ……。 それに俺にはまだ春香がいるしな」

春香「私……ですか……?」

P「今までは美希にばかり構っていたが、これからはお前の面倒を十分見られる。
  今まですまなかったな……。 お前のランクが中々上がらなかったのも、
  俺が放任してきたからだ……。 本当にすまなかった……」

春香「そ、そんな! プロデューサーさんは悪くありませんよ!
   誰がどう見たって、私より美希の方が才能あったし、
   私が中々売れないのは、私自身の落ち度です!
   決して、プロデューサーさんのせいではありません!」

27: 2011/02/12(土) 20:14:45.24 ID:Q3BplXdfP
P「春香……、お前はいい奴だな……」

 Pは春香の頭をそっと撫でる。

春香「わっ、プロデューサーさん……?」

P「お前には美希のようなセンスはない……。 だが、人の心を惹きつける魅力がある!
  それは、お前にとって何よりの武器になるはずだ。 一緒に目指そう。 トップアイドルを!」

春香「は、はいっ!」



  ~春香の部屋~


春香「あー、今日も疲れたぁ……。 今日は色々あったなぁ……」

春香(まさか美希が事務所を移るなんて……)

 正直、春香にとって美希は目の上のタンコブであった。
 周りが美希ばかりチヤホヤするのは気に入らなかったし、その才能に嫉妬もしていた。
 何より、美希は恋のライバルであり、美希とPがくっつくのは時間の問題かと諦めかけていたため、
 今回の件は、春香にとってはこの上ない僥倖だった。
 しかし、それでも手放しで喜ぶ気にはなれない……。

28: 2011/02/12(土) 20:20:00.79 ID:Q3BplXdfP
春香(プロデューサーさん、落ち込んでたなぁ……。 当たり前だよね。
   あれだけべったりだったのに、あっさり自分を見捨てて他の男の子に乗り換えるんだから。
   でも、信じられない……。 美希はプロデューサーさんのことを本当に慕っていたのに……)

 春香は左腕に着けた腕輪をじっと見つめる。

春香(アイドルランクが上がった……けど代わりに真がアイドルを辞めてしまった……。
   プロデューサーさんと毎日一緒にいられることになった……。 けど美希が……)

 春香は腕輪を外し、机の上に置く。

春香(これ……、ひょっとして、他の人の幸運を吸い取ってるだけなんじゃ……。
   きっとそうだ……。 もうこれを着けるのはやめよう……)

 今日も一日仕事に追われて疲労困憊の春香は、電気を消してベッドに潜り込んだ。


  チックタック チックタック


春香(……でも、あの腕輪がなかったら、私はきっとEランクでうだつが上がらないままだった。
   それに、プロデューサーさんと美希が付き合うことになってたかもしれない……)

29: 2011/02/12(土) 20:25:24.74 ID:Q3BplXdfP

 春香はベッドから起き上がり、机に置かれた腕輪に手を伸ばす。

春香「もうちょっとだけ……いいよね? もう1回くらいなら…………」

 そして、再び腕輪を着け……願いを掛けた。


春香「千早ちゃんより歌が上手くなりますように!」


  ビリビリビリッ

春香「うんうん、これくらいなら平気だよね。 歌さえ上手くなれば後は実力でやっていけるもん!」

 この時、まだ春香は気付いていなかった。
 自分がどれだけ恐ろしいことを願ったかということに…………。

31: 2011/02/12(土) 20:33:57.29 ID:Q3BplXdfP
  ~そして翌日、テレビ局の楽屋~

  コンコンッ

千早「失礼します。 私、本日『Mステ』に出演させていただきます如月千早です。
    新人ですが、よろしくお願いします」

タモリ「髪切ったぁ?www」

千早「では失礼いたします」

タモリ「うきうきウォッチンwww」


千早(ふう、大物タレントに挨拶するのは緊張するわね……。 ん……あれはっ!)


美希「あれー、千早さんなのー」

  ツカツカツカッ

美希「そっか、千早さんもこの番組に――」

  パアーンッ!!

美希「うっ……! 何するのっ!!」

 出会うなり、いきなり平手打ちを喰らわせてきた千早に激昂する美希。

32: 2011/02/12(土) 20:39:20.77 ID:Q3BplXdfP

千早「よくもまぁ、裏切っておいていけしゃあしゃあとしていられるわね。
   その面の皮の厚さだけは尊敬するわ」

美希「ふん! 何を偉そうに……! 事務所を変えたくらいでとやかく文句を言われる筋合いはないの!」

千早「プロデューサーに散々面倒を見てもらっておきながら、よくそんなことを言えるわね!
   恩を仇で返すとはこのことだわ!」グイッ

美希「さ、触らないで……! この……鬱陶しいの!!」ドンッ

 腕を掴まれた美希が、千早を思いっきり突き飛ばす。
 千早の後ろには……下り階段があった。

千早「……っ!!」グラ…

美希「あっ……!」


  ドンッ! ガンッ! ガシャーンッ!


 千早は階段を転げ落ち……、そのままピクリとも動かなくなった……。


千早「…………」

美希「あっ……ああ……、ミ、ミキは悪くないの……。 ミキのせいじゃないの…………!!」

33: 2011/02/12(土) 20:45:16.33 ID:Q3BplXdfP
  ~更に翌日、765プロ事務所~


春香「おはようございまーす!」

P「…………」

小鳥「あ、春香ちゃん……」

春香「……? 何かあったんですか?」

小鳥「その……千早ちゃんが…………」

春香「えっ? 千早ちゃんがどうしたんですか……?」

P「昨日、テレビ局で事故が遭ってな……千早が階段から落ちて……、酷い怪我をしたんだ……」

春香「え……、う、嘘でしょ……?」

P「命に別状はないんだが……、喉を強く打ったみたいで……。
  医者の話じゃ、もう歌を歌うのは難しいって…………」

春香「……っ!!?」

34: 2011/02/12(土) 20:50:05.03 ID:Q3BplXdfP
小鳥「何で……、何でこんなことばかり起きるのかしら……。 まるで呪われてるみたいだわ……!」

春香「あ……ああ…………」

 春香は思い出す……。 腕輪にした願いのことを…………。



          『千早ちゃんより歌が上手くなりますように』



春香(私のせいだ……!! 私があんなお願いしたから…………!!)

春香「わた……私……、あ、ああ………!!」ヨロッ

小鳥「春香ちゃん……?」


春香「うわあああああああああああああああああああああ!!!」ダッ


P「お、おい! 春香!!」

 春香はたまらず駆け出した。
 自分の犯した罪から逃れるように……。

35: 2011/02/12(土) 20:54:41.10 ID:Q3BplXdfP


  ダッダッダッダッ


春香「ハァ…ハァ…ハァ……! ぐっ、うあっ!」ガシャンッ

 何もないところでも転ぶ春香である。
 全速力で走って転ばないわけがなかった。
 彼女は地面に倒れこみ……、そのまま泣きじゃくった。

春香「う、ううう……ごめんなさい……ごめんなさい……!」ポロポロポロ


  ブオオオーンッ!!


春香「え……?」

 と、そこへ、道路の真ん中で倒れこんだ春香の目の前にトラックがやってくる!

運転手「人が倒れてる……!? く、くそっ! ブレーキ!!」

  ビリビリビリッ

春香「きゃっ! 腕輪が……!」

37: 2011/02/12(土) 20:58:16.76 ID:Q3BplXdfP


  キキイイイイイイイイイイイイイッ!! ドオオオオオーンッ!!!


 急ブレーキでハンドルを切ったトラックは止まりきれず、
 そのまま建物に突っ込んでしまった!


通行人「じ、事故だー!」

女性「いやあああ!! お店の中に子供があああっ!!!」


  『火事になるかもしれない、離れろ!』 『人が血だらけで倒れてるぞー!』 『救急車だー!』


春香「あ…ああ……」ガタガタ

 春香は腕にはめた腕輪に目を落とす……。
 何故、こんなドクロの悪趣味な腕輪を幸運の腕輪などと思えたのだろうか。

春香「不幸の腕輪だ……。 こんなの周りを不幸にするだけだ……!!」

 春香はたまらず腕輪を外そうとする。
 しかし……!?

春香「えっ! なにこれ! 外れない!! ひ、皮膚にくっついてる……!!」

 なんと、腕輪は春香の腕を掴むように、皮膚と同化していた!

38: 2011/02/12(土) 21:03:28.45 ID:Q3BplXdfP


  『私の子供が中にいるのよおおおっ!!』 『よせ! 危険だ!』 『救急車はまだか!』


春香(私のせいで……みんな不幸になる……! 真も、プロデューサーさんも、千早ちゃんも……!
   そして、目の前の人たちが……!!)


  『くそっ! 怪我人がいるぞー!』 『運転手も血まみれだ! 早く助けないと!』


春香「お願い……、私はどうなってもいい……。 だから……みんなを…………」


 春香は、呪いの腕輪に許しを請うように縋り……、そして願った……。



            「 み ん な を 助 け て !! 」




40: 2011/02/12(土) 21:07:06.54 ID:Q3BplXdfP
『春香……』


春香「…………」


『春香ちゃん……』


春香「……ん…………」


『春香……!』


春香(あれ、プロデューサーさんの声だ…………)


『起きろ! 春香……!!』


春香「ん……ぁ…………」

P「あ……、春香……! 俺のことが分かるか……!?」

 気が付くと、春香は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。

春香「プロデューサーさん……?」

小鳥「ああっ! よかった……、本当によかった……」ポロポロポロ

41: 2011/02/12(土) 21:10:16.42 ID:Q3BplXdfP
春香「ここは……?」

P「病院だ……。 お前、道路の真ん中で倒れてたんだぞ……? 覚えてるか?」

春香「そうだ……、目の前で事故が遭って……。 人が……血だらけで…………」

小鳥「大丈夫よ、春香ちゃん。 亡くなった人はいないって。 事故に遭った人は怪我だけで済んだみたい」

春香「ほ、本当ですか!? でも、呪いの腕輪が……あれっ……?」

 春香は左腕に目を落とすが、そこに腕輪はない。
 しかし、腕輪をはめていた痕だけはくっきりと痣となって残っていた。

春香「どこに……いったんだろ……」

P「お前が無事で本当によかった……。 疲れたろ……ゆっくり休んでくれ……」

春香「はい…………」

春香(私、いつの間に気を失ったんだろ……。 それに剥がれなかった腕輪はどこへ……)

42: 2011/02/12(土) 21:14:38.30 ID:Q3BplXdfP
  ~それから一週間後~


真「おはようございまーす!」

小鳥「おはよう、真ちゃん」

P「もうすっかり元気そうだな。 ちょっと前まではアイドル引退するなんて言ってたくせに」アハハ

真「いや~、よく考えたらあれくらいで諦めるのは早すぎですよねー。 あははっ」

小鳥「うんうん、真ちゃんが元気になってよかったわぁ」

P「ああ、まったくだ。 それに千早も――」


千早「おはようございます」ガチャ


小鳥「ち、千早ちゃん! もう出てきて平気なのっ?」

千早「はい、ご迷惑をおかけいたしました。 休んだ分、取り戻すつもりです」

P「……そうか。 医者が言っていたよ。 後遺症もなくすぐに治ったのは奇跡だって」

千早「……そうですね。 歌を歌えなくなるかもって思ったら本当に怖かったです……」

44: 2011/02/12(土) 21:18:41.97 ID:Q3BplXdfP
小鳥「でも、何ともなくてよかったわ。 これで全部元通り――」


美希「ハニ~~~~!!」タッタッタッ


P「美希、走ると危ないぞ」

美希「だって1秒でも早くハニーに会いたい気分だったの!」

千早「……まったく、随分身のこなしが軽いわね」

美希「961プロは最悪だったの! 向こう1年間休み無しって言うんだよぉ?
   ミキ死んじゃうの! それに冬馬くんもよく考えたら全然タイプじゃなかったの!
   ミキのハニーはハニーだけなの!」

P「はは……、美希が戻ってきてくれて……嬉しいよ……」

美希「ハニー、ゴメンね? ミキ、自分でも何であんなことをしたのか、サッパリ分からないの……」

P「いいさ、今回の件で俺も色々気付かされた。 いい勉強になったよ」

美希「千早さんも、ごめんなさい」

千早「ううん、いいのよ。 私も感情的になりすぎたわ」

小鳥「うんうん、元の鞘に納まったわね。 美希ちゃんも契約する前に目を覚ましてくれてよかったわ」

46: 2011/02/12(土) 21:21:23.68 ID:Q3BplXdfP
P「そういえば、春香の奴、今日は遅い――」


  バアンッ!


春香「ご、ごめんなさい~! 遅れました~!」ゼェゼェ


P「まったく、今日はオーディションだろ? そんなんで大丈夫か?」

春香「えへへっ! 昨日も遅くまで公園でダンス練習してたんですよっ! だからバッチリです!」

P「そうか。 俺は美希に付き添わなきゃならないから、ついていってやれなくてすまないが……」

春香「いえ! 一人で大丈夫です!」

48: 2011/02/12(土) 21:24:44.22 ID:Q3BplXdfP
P「いいか、オーディションにラッキーはないからな。 頼れるのは日頃の成果だけだぞ」


 春香は、左腕の消えかかった痣に一瞬目を落とし……、そしてすぐに明るい笑顔を見せた。


春香「はいっ! 幸運になんか頼りません! 自分の道は――――」



              「自分で切り開いてみせます!!」




ミザリィ『周りの人間を不幸に落とすことで、自分を相対的に幸福にするフォーチュン・リング。
     しかし、彼女が他人の幸福を願ったことで、存在意義を失ったようです。
     やはり、人間、楽して実を得ようとしても、ろくなことにはならないようですね。
     本当の幸福とは、努力の末にしか手に入らないのかもしれません……』



 おわり

49: 2011/02/12(土) 21:26:16.83

52: 2011/02/12(土) 21:30:00.03
おっつおっつ
面白かったぜ。やっぱりハッピーエンドがいいよ

55: 2011/02/12(土) 21:37:21.82
このシナリオの元ネタは10年以上前に読んだけど覚えてる
違和感なくはまってるな

引用元: 天海春香「アウターゾーン?」