1: 2011/07/27(水) 10:34:12.86 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「大した……もてなしもできず、申し訳ないが……」

吸血鬼「まぁ……こうして鎖に繋がれ鉄の檻から逃げ出せない様子を見物にきたのだろうが……」

吸血鬼「何が面白いのか……人間とは、本当に理解に苦しむ。悪趣味なものだ……」

吸血鬼「しかし……暇なものでね……早く終わってしまえばいいんだが……」

吸血鬼「こうなると……自分のしぶとさが怨めしい……」

吸血鬼「こんな哀れな老いぼれの為に……一つ、話し相手になっては……くれないだろうか」

吸血鬼「勿論……無理にとは言わないさ……」

9: 2011/07/27(水) 10:40:57.77 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「すまないな……ここはどうにも、寒くてかなわん……」

吸血鬼「指を動かすのも億劫な程気だるいが……気が紛れる……」

吸血鬼「それに、何より……喋るのは嫌いではない……」

吸血鬼「……それにしても、ここは寒いな……」

吸血鬼「客人……君は、寒くないのかね……?」

吸血鬼「もっとも……寒いと言われたところで何をしてやれる訳でもないのだが……」

吸血鬼「ふふ。まぁここの冷たさには……もう慣れたがね」

14: 2011/07/27(水) 10:48:23.79 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「紅茶が飲みたい……」

吸血鬼「静かな湖畔で……ゆったりと……鳥の唄声を聞きながら……」

吸血鬼「ふふ。贅沢な願い……だな……」

吸血鬼「今の私には……叶わない……遠い記憶だ……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「私は静かに……暮らしていただけなのだが……」

吸血鬼「お前ら人間は……他者の平穏がよほど憎いらしい……」

吸血鬼「何故そこまで……他人の不幸に必死になれるのか……物好きな奴らなことだ……」

16: 2011/07/27(水) 10:56:42.45 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……ゴホッ……けほっ」

吸血鬼「すまないな……ここはどうにも……空気が澱んでいて……気分が悪い」

吸血鬼「最低な……場所だよ……」

吸血鬼「ところで……聞きたいのだが……客人の瞳には……私はどんな風に映っているのかな」

吸血鬼「薄汚い……鎖と楔に繋がれた……哀れな姿か……」

吸血鬼「ああ、そうだ。永いこと……忘れてしまっていた……」

吸血鬼「水浴びがしたいな……もし、外に出れるなら……だが……」

17: 2011/07/27(水) 11:03:33.15 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「客人……君は、花は好き……か?」

吸血鬼「私は、好きだ……心安らぐ……」

吸血鬼「あの花の香りも……もはや二度と……」

吸血鬼「いや、よしてくれ……こんな所に連れて来られてしまったら……花が可哀想だ」

吸血鬼「それに……水も与えられないのでな……」

吸血鬼「……ただ枯れ落ちて行く花を見つめるのは……悲しい」

吸血鬼「客人……君の気持ちは受け取っておくよ……ありがとう」

吸血鬼「それだけで充分だ……心に……客人のくれた花が咲いたのでな……」

吸血鬼「もっとも……どんな花かは全く……わからないが」

18: 2011/07/27(水) 11:12:03.71 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「私にも……名前はあったが……」

吸血鬼「いつからか……覚え出せなくなってしまった……」

吸血鬼「友の……名前はまだ覚えているのだが……」

吸血鬼「いつか……忘れてしまうのだろう……」

吸血鬼「悲しいものだ……もし、そうなったとしたら……」

吸血鬼「私は錯乱してしまうかもしれない……いや、既に壊れているのかもしれないな……」

吸血鬼「友の名も……思い出せないならば……私には唯一の繋がりすらも無くなってしまうのだから……」

吸血鬼「……その時は……客人、君が……私の傍に居てくれるかい……?」

吸血鬼「ふふ。冗談だ……こんな所に……わざわざ来る事など……一度で充分だからな」

20: 2011/07/27(水) 11:18:03.97 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「客人、よしたほうがいい……」

吸血鬼「なんのつもりかは知らないが……鉄格子には触れぬほうが……身の為というものだ……」

吸血鬼「私を閉じ込めておく為の……檻だからな……どんな……仕掛けがあるのか……」

吸血鬼「……想像もしたくない」

吸血鬼「客人、忠告は聞き入れたほうが良い……どうしてもと言うのなら止めはしないが……」

吸血鬼「話し相手が居なくなるのは……寂しいものだから……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「すまない……私の言葉を聞き入れてもらえて何よりだよ……」

23: 2011/07/27(水) 11:26:55.99 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「城の中庭には……噴水があってね……」

吸血鬼「そこで良く友と語り合ったものだよ……」

吸血鬼「詩を吟じ……歌い踊ったものだ……」

吸血鬼「踊りは得意でなかったが……皆の楽しげな顔は……好きだった……」

吸血鬼「私は……詩が得意でね……良く賞賛されたものだったが……」

吸血鬼「今ではもう……何も……」

吸血鬼「こうして、少しずつ……気付かぬ間に抜け落ちていく……」

吸血鬼「嫌な……感覚だ……」

吸血鬼「……」

27: 2011/07/27(水) 11:32:49.78 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……客人、もう帰ったほうが良い……」

吸血鬼「ここはよくない……」

吸血鬼「……囚人も看守も皆、死んだ目をしている……」

吸血鬼「もっとも、他の囚人など……見た事も無いのだが……」

吸血鬼「なに……どうせ私と変わるまい……」

吸血鬼「君と話せて楽しかった……客人との一日はこの牢獄で唯一光の見える……思い出になるだろう」

吸血鬼「それと、一つ……いいだろうか」

吸血鬼「帰り際……もしよければ看守に……できれば、本をくれるように……頼んではくれないだろうか」

吸血鬼「……君からならば……聞き届けられるかもしれんのでな……まぁ……期待はしていないが……」

吸血鬼「さよならだ、客人」

30: 2011/07/27(水) 11:35:39.07 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……」

吸血鬼「二度も私を訪ねるだなんて……物好きだな」

吸血鬼「それとも、この姿がお気に召したのかな・……」

吸血鬼「ふふ……何、こう、永いこと……一人でいると……」

吸血鬼「疑心暗鬼になってしまってな……正直に嬉しいといえないのだ……」

吸血鬼「しかし……私を訪ねてくれるのは嬉しいが……」

吸血鬼「あまりここには来ない方が、賢明だと思うがね……」

33: 2011/07/27(水) 11:39:41.22 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「本か……残念だったが……届けられなかったようだ」

吸血鬼「私の願いを聞いてくれたことに感謝する……」

吸血鬼「客人、君の名前を……聞かせて欲しい」

吸血鬼「たとえ……この日々を忘れたとしても……」

吸血鬼「名前だけは、忘れたくないのでな……」

吸血鬼「うん……良い名だ」

吸血鬼「さて……今日は外の話を聞かせて欲しい」

35: 2011/07/27(水) 11:45:08.96 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「どんな話でも……構わない……」

吸血鬼「今どんな音楽が流行っているのかとか……人気の詩とか……」

吸血鬼「劇場ではどんなものがやっているのかとか……そんなものでいいのだ……」

吸血鬼「そうか……あいつに口止めされているのか……」

吸血鬼「全く……聞いたところで何ができると言う訳でもないだろうに……看守どもも……狭量なものだ……」

吸血鬼「それじゃあ……どんな花が咲いたか……空は晴れているのか……教えてくれないか……」

吸血鬼「その程度でいい……それだけで……」

吸血鬼「ありがとう……」

37: 2011/07/27(水) 11:51:51.20 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「ごほっ……ごほっ……」

吸血鬼「臭いだろう……キツイ化粧と香水の……牝の匂いだ……」

吸血鬼「私をここに閉じ込めた人間の……愛人さ……」

吸血鬼「よく……私を見物に来る……君が来るまでの間……居たんだ」

吸血鬼「頭に行くべき養分が……胸と尻に行った……くだらん女だ……」

吸血鬼「私は……好まぬ……類だ……げほっ」

吸血鬼「すまないな……どうにも……不快で……ただ、君が来てくれたから……幾分かはマシになった」

吸血鬼「できることなら……空気を入れ替えて欲しいものだ……全く……」

38: 2011/07/27(水) 11:54:31.80
カワイソス

39: 2011/07/27(水) 11:55:59.26 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「けほっ……けほっ……」

吸血鬼「喉が……渇いた……」

吸血鬼「喋りすぎたかな……喉が痛くてかなわんよ……」

吸血鬼「君と……居る時間は楽しい……」

吸血鬼「また来てくれれば嬉しいのだが……飽きたなら……何も告げず……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「すまないな。君には感謝している……」

吸血鬼「ただ、頻繁に来るのには……賛同しかねるが……ね」

43: 2011/07/27(水) 12:01:19.78 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「やあ……来てくれたのか」

吸血鬼「そうか……今日は……雨か……」

吸血鬼「濡れては無いか……? こんな寒い所で……雨に濡れてしまっているのなら……大変だ」

吸血鬼「私には……してくても何もできないが……看守に言えば……服くらいは寄越してくれるだろう……」

吸血鬼「こんな所に来て風邪を引いてしまっては……馬鹿馬鹿しい……だろう……?」

吸血鬼「……私は待っているよ……」

吸血鬼「勿論……気が変わったなら帰ってしまっても……構わないがね……ケホッ」

45: 2011/07/27(水) 12:05:33.00 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「君は……孤独な人間なのだな……」

吸血鬼「孤独でない人間は……わざわざ何度も……こんな所に来やしない……」

吸血鬼「ゴホッ……ゲホッケホッ……ゲホッ……」

吸血鬼「すまない……咳が止まらなくてね……ゲホッ……」

吸血鬼「まぁ……咳をしても……一人じゃないだけ……マシだ……」

吸血鬼「君のように、心配してくれる……人もいるからね……」

吸血鬼「ゴホッ……ゴホッ……」

吸血鬼「孤独は……嫌なものだ。忘れていたものを君は……」

吸血鬼「いや……なんでもないさ……ケホッ」

47: 2011/07/27(水) 12:13:56.65 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「足を直接……床に打ち付けるなど……」

吸血鬼「表情一つ変えず……人間はよくできるものだ……」

吸血鬼「……こうして……自由を奪われて……」

吸血鬼「初めて……分かるものもある……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「湖面に映る夕陽が……懐かしい……」

吸血鬼「最早……何も望みはしないがね……」

吸血鬼「平和を享受できるうちは……思う存分謳歌しておいた方が良い……何が起きるかわからないし……」

吸血鬼「私のようになってからでは……遅いだろう?」

50: 2011/07/27(水) 12:22:48.74 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「愛だの……なんだの……くだらないことだと思わないかね……」

吸血鬼「どうせ……薄れ往く……モノだというのに……」

吸血鬼「愛の営みなどと言うものほど……醜く……汚らわしいものは無いというのに……」

吸血鬼「好きだ、愛している……なんて……そんな嘘臭い台詞のどこがいいのか……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「くだらないな……」

吸血鬼「それでも、心安らぐ自分が……怨めしい……」

吸血鬼「私の願いは……ただ、穏やかに……死ねる事だけだ……ケホッ」

吸血鬼「願わくば……愛を感じながら……死にたい……」

54: 2011/07/27(水) 12:27:57.21 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「以前は……私にも美しい翼があったのだが……」

吸血鬼「見せてあげたかったな……君に……」

吸血鬼「燃えるような……赤い、赤い……翼だったんだ……」

吸血鬼「それは……もう……見るものを畏怖させ……」

吸血鬼「ふふ。牙も爪も……抜かれた私にとって……夢物語のようだがな……」

吸血鬼「ただの人間に見えるか……?」

吸血鬼「本当だったんだぞ。見せてあげたかったものだ……」

吸血鬼「自慢の……翼だったんだか……」

56: 2011/07/27(水) 12:35:55.13 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「昔はよく……供も連れずに街へ遊びに行ったものだ……」

吸血鬼「人々の喧騒が……好きだった」

吸血鬼「あの輝かしい……月明かりに照らされる……街並みが……」

吸血鬼「……もっとも……うるさいのは、そんなに好きではなかったんだがね……」

吸血鬼「何故だか……心地良いものだった。酔っ払いの歌声さえも……」

吸血鬼「ここは光も届かぬ……場所だ……」

吸血鬼「気分が悪くならないうちに……お前も……帰ったほうが良い」

吸血鬼「気分が悪くなってしまったら……私が……心苦しい……」

57: 2011/07/27(水) 12:41:43.02 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「喉が……渇いた……」

吸血鬼「……君の、血を……いや、君の血が……欲しい」

吸血鬼「一口で良い……こんな私の姿を哀れに思うのなら……」

吸血鬼「ふふ。冗談だよ……」

吸血鬼「君の血を飲んだところで……この喉の渇きが癒える訳でもない……」

吸血鬼「それこそ……君を……」

吸血鬼「ふふふ。ああ、喉が渇いた……掻き毟りたくとも……できぬ……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「そう怖がるな……噛み付きたくとも……牙も無い……」

吸血鬼「それに、この鉄の檻から……出れやしないさ……」

61: 2011/07/27(水) 12:47:58.94 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「ゴホッ……ゲホッ……」

吸血鬼「今日は、調子が悪い……」

吸血鬼「もっとも……良い日などありはしないのだがな……」

吸血鬼「……けど……」

吸血鬼「君が来てくれると……心が躍る。君と話していると心が安らぐ」

吸血鬼「いつからか……こんな脆弱な……モノに成り下がったのか……」

吸血鬼「感謝している……」

吸血鬼「くれぐれも、私より先に……死ぬなんてことは……ないように気をつけてくれ……」

吸血鬼「私がそれを知る術はないのだからな……」

63: 2011/07/27(水) 12:56:36.53 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「もっと……近くに来てくれ……」

吸血鬼「顔を近づけてくれ……よく見えない……」

吸血鬼「なに……安心してくれ……何もしやしないさ」

吸血鬼「ああ、良く見える。君の顔を見ていると……安心するよ」

吸血鬼「……石の床は冷たいな……すまなかった。戻ってもいいぞ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「戻ればよいものを……君も物好きなものだ」

吸血鬼「君を友と呼んでも良いかな……」

吸血鬼「なに、一方的に……で構わない。君が許してくれれば、友として名を刻みたかっただけだ」

吸血鬼「…………ありがとう。しかし私なんぞは覚えていても……君の生に陰りを見せるだけだよ……」

64: 2011/07/27(水) 13:04:08.47 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「人間……人間どもよ」

吸血鬼「短い生を精々謳歌するが良いさ」

吸血鬼「貴様らがランプに灯る光に魅せられた蛾を笑うように……我々も人間と蛾の区別などつかぬ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「憎む事など……無駄だ。誰かを恨み憎んで……どうするのか」

吸血鬼「そんなことをしたところで……この身体は楽になりやしない」

吸血鬼「疲れた……」

吸血鬼「ただ一つ怨めしいのは……この身体だ。苦しいだけで……しぶとく生き長らえる……」

吸血鬼「ふっ……かがり火に飛び込む蛾にすらなれない……」

66: 2011/07/27(水) 13:10:44.32 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「最近は……君が居ない時ばかりを思う」

吸血鬼「普通逆だと思うかね? ふふ……」

吸血鬼「君と居る間は……何も考えずにすむ……が……」

吸血鬼「君が居なくなると……途端に……ね……今まではこんな事は……最初の頃しかなかったんだが……」

吸血鬼「空虚……とまでは言わないが……暗く鬱々として寂しいものだ……」

吸血鬼「別に……急かしている訳ではないよ……沢山来てくれるのは嬉しいが……」

吸血鬼「その結果ぱたっりと来なくなっても……困るからな……」

吸血鬼「ゆっくりと、ゆっくりと……頻度を減らして……自然消滅してくれれば……」

吸血鬼「私も諦めがつく……と言うものだ……」

吸血鬼「勿論……それは、辛く悲しいものだがね」

69: 2011/07/27(水) 13:18:31.29 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「昔は地位も力もあった」

吸血鬼「あの頃に……驕りは確かにあっただろうな」

吸血鬼「遠い昔だが……よく、人の心に手を差し込むのを楽しんでいた時期もあった」

吸血鬼「もっとも、人間に罰せられる謂われはないが……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「外で何を吹き込まれたかは知らぬが……私は私に誓って自らの手で人を殺めた事は無いよ」

吸血鬼「本当さ……信じて欲しい……」

吸血鬼「まぁ……信じて貰ったところで……何もないがね……」

70: 2011/07/27(水) 13:18:50.80 ID:dZMnaCMA0
飯落ち

75: 2011/07/27(水) 13:51:07.22 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……お前たち人間の神は……」

吸血鬼「私の魂も救済してくれるのかな……?」

吸血鬼「……試してみるか……?」

吸血鬼「…………君の後ろに銃があるだろう……?」

吸血鬼「アレは君の銃だよ。いつでもそれで私を撃ちぬけるのさ……」

吸血鬼「色んな見物客が来る……色んな、と言ってもそうは居ないが……」

吸血鬼「常連は君と、あいつの愛人だよ。この弱りきった身体には……その程度の銃でも死ねる」

吸血鬼「どうせ会ったばかりの奴やあの女に殺されるくらいなら、君に殺される方が本望だよ……」

吸血鬼「何より……もう私は……疲れた……」

吸血鬼「勿論、無理にとは言わないさ……」

76: 2011/07/27(水) 13:57:00.59 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「それに、気に入らなければ得物を変える事だってできる」

吸血鬼「まぁ……とは言えナイフなどはやめた方が賢明だ」

吸血鬼「私の返り血を浴びる事になるからな……」

吸血鬼「ふふ。安心したまえ……浴びたところで、私のような人ならざるものにはならないよ……」

吸血鬼「ただの生臭い液体だ……そんな汚物をわざわざ浴びるような真似はしたくないだろう……?」

吸血鬼「それに……私としても、ナイフでは一思いに死ねなさそうだ」

吸血鬼「どうせなら、楽に……苦しまずに……」

吸血鬼「そう願う事くらい……別に良いだろう……?」

吸血鬼「ごく当たり前な……お願いさ……罰が当たるものでもあるまい……」

80: 2011/07/27(水) 14:07:53.34 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「殺してくれ」

吸血鬼「辛いんだ」

吸血鬼「もう私は疲れたんだ」

吸血鬼「愛する君よ」

吸血鬼「君の手でその引き金引いて」

吸血鬼「私の胸を撃ってくれ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「……我儘を言ってしまったね……すまない……」

吸血鬼「さぁ、今日は帰った方が良い」

吸血鬼「これ以上一緒に居ると毒されるぞ」

82: 2011/07/27(水) 14:18:26.69 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「私の瞳に映るのは……過ぎ去った幸福な日々ばかりだ……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「同じ景色……」

吸血鬼「暗い……闇……繋がれた鎖……打ち付けられた楔……」

吸血鬼「蝋人形のような看守の顔と……」

吸血鬼「頭の空っぽの好かぬ女……」

吸血鬼「そして……その後に現れる……お前だ」

吸血鬼「死にたくなるのも……当然だろう……?」

吸血鬼「……」

吸血鬼「君が手を掛けてくれるまで……私は待つさ……」

84: 2011/07/27(水) 14:24:18.48 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「城で……詩人の卵を飼っていたときがあった……」

吸血鬼「残念だが……才能はなかったが……」

吸血鬼「とても美しい男だった……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「小鳥を飼うことが許されたんだ……」

吸血鬼「籠に入れて……飼っていた」

吸血鬼「小鳥は3日後、いつのまにか居なくなっていたよ」

吸血鬼「どこかへ飛び立ったんだろう」

吸血鬼「……」

吸血鬼「あの男もどうなったんだろうか……」

吸血鬼「無事にあの後飛びたてたのか……それとも……」

86: 2011/07/27(水) 14:33:35.80 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「ああ、水差しは……そこに置いといてくれ……」

吸血鬼「後は、彼に頼む……」

吸血鬼「……すまないが、一口先に飲んでもらえないか?」

吸血鬼「どうだ? 変な味はしないか?」

吸血鬼「そうか……すまないな……毒見のような事をさせて」

吸血鬼「偶に、飲み水と聖水をすりかえられてることがあるんだ……」

吸血鬼「……嫌がらせのつもりだろうが……今の私にはたまったものじゃないよ」

吸血鬼「ところで……まさかとは思うが十字架などの聖具は持っていないだろうな?」

吸血鬼「苦しくてたまらないんだ。もし私に当てつけるようなことはしないでくれよ」

吸血鬼「死にはしないが……死ぬほど苦しいんだ」

87: 2011/07/27(水) 14:36:56.06 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「石の床は冷たいな……」

吸血鬼「君の膝の上は暖かそうだな」

吸血鬼「……」

吸血鬼「寝ることはできない……床に寝転がる事はおろか……よりかかる壁もないからな」

吸血鬼「……それでも時々寝ているのか気を失っているのか……」

吸血鬼「幻想のような夢を見る」

吸血鬼「次眠ったら……二度と目が覚めない気がするよ……」

吸血鬼「ふふ。願望以外の何者でもないな」

89: 2011/07/27(水) 14:44:34.25 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「遠いな……顔は見えるのに」

吸血鬼「私とお前を隔てる距離はこんなにも遠い……」

吸血鬼「忌々しい檻だ……これさえなければ……」

吸血鬼「お前もこちら側へ着て欲しいものだ」

吸血鬼「そうすれば、死にたいと思う事も無いだろう……」

吸血鬼「こんな所でも、ずっと一緒に居てくれる友人がいるならば……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「無駄な願いだな……」

吸血鬼「……もう一度。月明かりを浴びてみたいものだ」

90: 2011/07/27(水) 14:50:46.51 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……」

吸血鬼「久し振りだな」

吸血鬼「もう来ないものだと思っていたぞ」

吸血鬼「正直君が来てくれてほっとしている。もし足が楔で打ち付けられていなかったなら小躍りしているところだ」

吸血鬼「ふふふ。冗談だよ……そんな事をするように見えるかね?」

吸血鬼「けど嬉しいのは本当さ。もし私たちを隔てるものがなければ……君の手を取っただろう」

吸血鬼「そしてこちらへ引きずりこんだだろう」

吸血鬼「二度と外になんか出さないように……な……」

吸血鬼「ふふ……」

吸血鬼「感謝したまえよ。今回ばかりはこの檻に助けられたぞ」

91: 2011/07/27(水) 14:57:07.73 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「今日が最後になるのかな?」

吸血鬼「それとも、これからも来てくれるのか」

吸血鬼「……そうか、今日が最後か」

吸血鬼「結婚でもするのかね? それとも、ただ単に面倒になっただけか」

吸血鬼「どちらでもいいか」

吸血鬼「それじゃあ、今日は楽しまないといけないな」

吸血鬼「最後の晩餐……と言うわけだ」

94: 2011/07/27(水) 15:03:26.82 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「ああ、今日は思う存分話したぞ」

吸血鬼「喉がカラカラだ……ケホッ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「寂しくなるな」

吸血鬼「さぁ、フィナーレを飾ってくれ」

吸血鬼「君と出会えてよかったよ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「……最後は、痛くないように頼むぞ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「……鍵を持っているのか……? よく看守どもに許されたな」

吸血鬼「まぁいい。ようこそ、我が牢獄へ」

96: 2011/07/27(水) 15:07:54.22 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「やっと、連中もわかってくれたか」

吸血鬼「私にそんな力は残ってないんだと……」

吸血鬼「鎖を外して……どうするつもりだ? 外に出してくれるのかい?」

吸血鬼「ありがたいが……実のところ膝から下の感覚全く無いんだ。歩けないんだ」

吸血鬼「それに、楔もあるからな……」

吸血鬼「……まさか切り落とすつもりか?」

吸血鬼「呆れた奴だ……そんな事してどうする。ここで一発、打ち込めば良い話じゃないじゃないか」

吸血鬼「……」

吸血鬼「感謝するよ……」

97: 2011/07/27(水) 15:12:04.08 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「どうにも……自分の足が転がっているのを見ると言うのは……不思議な感じだな」

吸血鬼「気分の良いものではないが……君も、物好きだな」

吸血鬼「……すまないな。おぶってもらうよ」

吸血鬼「うん……? 猿轡か。まぁ万が一噛まれたりしたら大変だからかな……?」

吸血鬼「全く……自分たちで牙も爪も抜いたと言うのに……ご苦労な事だ」

吸血鬼「まぁ、甘んじて受け入れるよ。もう一度、外の景色を見れるなら、ね」

吸血鬼「……」

100: 2011/07/27(水) 15:18:25.79 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「!!」

吸血鬼「ぷぁっ……!」

吸血鬼「素晴らしい……なんで素晴らしいんだろう……」

吸血鬼「あ、はは……はははは……」

吸血鬼「ああ……満月だ……見ろ、花が咲いている! 草がある! 澄んだ空気だ!」

吸血鬼「あはは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! あははは!!」

吸血鬼「……」

吸血鬼「……ありがとう……もう、何も思い残す事は無いよ……」

吸血鬼「さぁ、撃ってくれ。君には感謝してもしきれない」

吸血鬼「……君と出会えて本当に良かった」

102: 2011/07/27(水) 15:23:04.17 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「……」

吸血鬼「ごふっ……」

吸血鬼「はぁ……はぁ……」

吸血鬼「ありがとう……」

吸血鬼「やっと、死ねる……とても、心穏やかだ……」

吸血鬼「……? どうしたんだい……指なんて差し出して……」

吸血鬼「……噛めと……? ははは。冗談だろう? ゴホッ……」

吸血鬼「今更そんな少量の血を飲んだって……ゲホッ……意味なんてないさ……」

吸血鬼「それに、なんのつもりかは……ゲホッ……知らないけど……」

吸血鬼「友にそんな事しないよ……」

104: 2011/07/27(水) 15:28:05.65 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「仇討ちかい……? そんな事望んでないよ」

吸血鬼「不老不死かい? ふふ。不老不死にはなれない」

吸血鬼「ちょっと人間より長生きして頑丈なだけだ……」

吸血鬼「限りある生の中で生き、老いて死ぬ……それがあるべき姿だろう……?」

吸血鬼「……もう、眠くなってきた」

吸血鬼「……友達の証、か……」

吸血鬼「牙がないんだ、痛いぞ?」

吸血鬼「はは……冗談だよ……噛んだりしないさ……」

吸血鬼「そこまで言うのなら……ちょっとだけ、貰うよ。私の願いを聞いてくれたお礼に、君の願いを聞く」

吸血鬼「んく……懐かしい味だ……美味しい」

吸血鬼「……」

109: 2011/07/27(水) 15:39:56.35 ID:dZMnaCMA0
吸血鬼「ありがとう……」

吸血鬼「まずは、仇討ちだ。君をこんな目にした奴らを全員殺す」

吸血鬼「元々僕は人間なんて、好きじゃなかったんだ……」

吸血鬼「それに、僕が君と同じになりたかったのは、時間が欲しかったからさ」

吸血鬼「調べたよ。聞いたよ。吸血鬼は、千夜毎に月の光を浴びて、1億の夜を越えれば……復活する」

吸血鬼「絶対に君をまた生き返らせてあげる……だから、待ってて」

吸血鬼「……それまで、ずっと僕は待つよ」

吸血鬼「君は……詩が好きだったね。僕も、今詩ってみるよ」

吸血鬼「見つけたぞ! 何を? 永遠を!」

                         終り

110: 2011/07/27(水) 15:41:08.37 ID:dZMnaCMA0
はい終わった
ランボー

111: 2011/07/27(水) 15:41:54.31

114: 2011/07/27(水) 15:42:35.23
乙であります

115: 2011/07/27(水) 15:42:53.95

最後は血を吸われて吸血鬼になったのか?

116: 2011/07/27(水) 15:44:52.13 ID:dZMnaCMA0
>>115
イエス。その通りであります
最後のやつだけは君視点です

117: 2011/07/27(水) 15:47:01.43

引用元: 吸血鬼「客人……今しばらく私の話し相手になってはくれないか……」