2: 2012/07/02(月) 22:59:33.45 ID:scZOG8re0
小鳥「Pさん、起きましたか?」

P「あ、はい。おはようございます」

小鳥「よく寝てましたね。疲れちゃいました?」

P「そういう訳でもないんですけど……」

小鳥「ふふ、いい事だと思いますよ」

P「はい」

小鳥「もうすぐ朝ごはんですから、」

P「それまでに顔を洗ってきますね、小鳥さん」

小鳥「……はい」

ペタペタペタ……

3: 2012/07/02(月) 23:00:24.60 ID:scZOG8re0
部屋を出て長い廊下を歩き出す。

コップと歯ブラシも忘れずに持った。

窓から差し込む陽光が、窓枠を使って複雑な影を廊下に落としている。


蛇口が6個も並んだ洗面所には先客がいた。

P「おはよう」

千早「……おはようございます」

P「昨日は良く眠れた?」

千早「………………」

あまり機嫌はよろしくないようだ。

4: 2012/07/02(月) 23:03:32.08 ID:scZOG8re0
目線を蛇口に向ける。

蛇口。蛇の口。

似てるといえば似てるし、似てないといえば似てない。

星座もそうだが、古人のネーミングセンスはよく分からない


P「そこんところどう思う?」

歯ブラシを突き出して聞いてみた。


隣には誰もいなかった。

7: 2012/07/02(月) 23:06:13.87 ID:scZOG8re0
俺達は現在強化合宿に来ている。

大規模ライブに向けての特訓だ。

山の中の廃校を借り受けて、毎日を集中して過ごしている。


廃校と言うと聞こえが悪いが、修繕はしっかりとしてあってガタつくことも無い。

リノリウム張りの廊下をペタペタと歩くのは、ひどく懐かしい感覚だ。

P「あいつらにとっては有り触れたものだろうけどな」

郷愁を込めてつぶやく。


ペタペタペタペタ

音を立てながら歩いた。

目指すは中庭だ。

11: 2012/07/02(月) 23:08:22.88 ID:scZOG8re0
管理者は偏屈で中庭に出られる時間が決まっている。

鍵が開くのを今か今かと待ちわびる姿の中に、見知った顔を見つけた。

P「おはよう」

真「おはようございます!」

コイツは朝から元気だな。

周りからジ口リと見られてしまった。


P「こ、声が大きいって……」

真「あはは、ごめんなさい」

P「ここは俺達だけが使ってるんじゃないからな」

真「そうでしたっけ?」

おいおい、しっかりしてくれよ。

13: 2012/07/02(月) 23:12:52.92 ID:scZOG8re0
この廃校は規模の大きさと料金の安さで、一部の間では有名……なはずだ。

今回も都内の劇団だっけ?が合同で使っている。


P「あまり目立つようなことはしないでくれよ」

真「むー……」

真は不満げに口を尖らせた。


管理者「はーい、開けますよー」

ザワザワ……

管理者の声で人が流れ出した。

もう一言だけ注意しようと思ったのだが

P「あれ、行っちゃったか」

真はとっくに中庭に出てしまっていた。

14: 2012/07/02(月) 23:16:39.30 ID:scZOG8re0
この廃校は大部分が木造なので室内は禁煙だ。
中庭に複数ある灰皿の周りには、早くも煙が立ち込めている。

俺は中庭の中心にある大木まで行くと、芝生に腰を下ろした。
真夏の太陽は早朝といえども容赦ない。
木陰から漏れた量で十分だった。

亜美「兄ちゃんそこ好きだよね→」

真美「中庭に出るといつも同じ場所じゃん」

P「ん?どこだ?」

横着して首だけを動かした。

亜美「んっふっふ→」。

真美「そんなところにはいないよ→?」

あちらこちらに人の塊があるが、どれも距離がありすぎる。

まさかな。

そう思いながら上を見た。

亜美「ありゃりゃー、もうバレちったよ→」

真美「ちょっと喋りすぎちゃったかもね」

双子は大きく張り出した木の上にチョコンと座っていた。

15: 2012/07/02(月) 23:21:15.06 ID:scZOG8re0
P「な、なにやってんだよ!危ないから降りてきなさい!」

驚いて声が大きくなってしまった。

管理者「……どうかしましたか?」

P「あ、いえなんでもないです。独り言です」

管理者「ふーん……?」

まるっきり人を信用してない顔でジロジロと見られた。

不愉快だがここは我慢だ。

利用規約で、特定の場所以外ではみだりに騒がないようにと決められているからだ。

管理者「ならいいですけど……」


P「……セーフ」


説教してやろうと見上げると、

P「あれ……」

双子はとっくに逃げた後だった。

16: 2012/07/02(月) 23:26:30.72 ID:scZOG8re0
ここの食事はは学校の給食みたいだ。

白米、シイタケの味噌汁、冷奴、切り干し大根の煮物、カットオレンジに牛乳。


品数は多く、栄養のバランスも取れているから文句は無い。

文句は無いが物足りなかった。

これだけの人がいるのに聞こえる音は、咀嚼音と食器のぶつかる音、それにテレビだけだ。

P(なんだか気持ち悪いなぁ……)

とは言え、俺も見知らぬ人と談笑しながら食べる気にはなれなかった。

咀嚼と食器をぶつけて、この陰気な合奏に加わった。

18: 2012/07/02(月) 23:29:47.29 ID:scZOG8re0
ペタペタペタペタ

朝食を終えた俺は廊下を歩いている。

ペタペタペタペタペタペタペタペタ

レッスンを見に行けばいいものを、なぜかこうして歩いている。

ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ

部屋にいてもやることがないし、外に出ても見るものが無い。

ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタン


廊下の端には大きな金属製の扉があった。

これはなんだろうか?

ひんやりしたドアノブを握ってみる。

ガチッ

硬い音がした。

鍵が掛かっている。

20: 2012/07/02(月) 23:34:01.48 ID:scZOG8re0
小鳥「……Pさん?どうしました?」

声で小鳥さんだとわかった。

振り向かずに返事をした。手をドアノブから離していけないような気がしたのだ。

P「あ、いえ。こんなところにドアあったかな?って思って」

ガチッ ガチッ

確かめてもやはり鍵が掛かっている。


P「それでどこに繋がってるのかなって」

ガチッ ガチッ ガチッ ガチッ ガチッ ガチッ

無意味なようだが、こうして繰り返していれば鍵が開くかもしれない。


小鳥「……鍵が掛かってるってことは勝手に入ってほしくない場所なんですよ。
   やめましょう、ね?」

P「はい」

右手をだらんと落とした。

力を入れすぎて、手のひらが赤くなっていた。

22: 2012/07/02(月) 23:40:00.44 ID:scZOG8re0
小鳥「……よく出来ました。今日のお昼はお部屋で食べましょう」

P「え?もうですか?」

さっき食べたばかりなのに。

小鳥「ここは早め早めにご飯になりますから」

小鳥さんがいうのならばそうなのだろう。



廊下にペタペタペタペタ音を響かせながら歩き出す。


バッタン  
        ガチャ


振り返ると誰もいなかった。

小鳥さんはどこへ行ったのだろう?

23: 2012/07/02(月) 23:45:23.33 ID:scZOG8re0
部屋に戻ると響がいた。


P「なんだ来てたのか」

響「うん、小鳥が連れて来てくれたんだ」 

P「ふーん……」


響はどこから持ってきたのかルームランナーの上を走っていた。

P「よく走ってるよな、お前」

響「うん!自分運動が大好きだからな!」

P「練習はどうだった?」

響「みんなすごい頑張ってたぞ。プロデューサーも後で見に来ればいいよ」

P「そうだよな、見に行けばいいんだよな」



なぜか見に行く気にはなれなかった。

24: 2012/07/02(月) 23:50:19.31 ID:scZOG8re0
響が走るとルームランナーも連動して動く。

くるくるくるくる

足元の機械までを含めて、一つの生き物みたいだ。

一つ一つの部品が密接に連動して、単純な駆動が複雑な稼動になる。

体内を流れる血液と、骨と、細胞と、内臓と、神経と、脳を想像した。

興味本位で読んだ医学書のままならば、外見からはおよそ信じられないほどグロテスクなはずだ。

白と赤とピンクが俺の色。

柔らかく硬く熱く粘性が俺の本性。

ドロドロに溶けて部屋を覆いつくす。

俺はその液体のどこに魂があるのかをずっと考えていた。

25: 2012/07/02(月) 23:56:28.60 ID:scZOG8re0
小鳥「Pさん?お昼持って来ましたよ?」

ゲル状になって壁の隙間にまで入り込んでいた精神を急いで戻した。

P「あ……あ……」

まだ収まりきっていないので上手く喋れなかった。

小鳥「………………」

小鳥さんが不審な目をしている。

P「あ、はい、すいません。ちょっと考え事をしていたので……」

危ない。

俺がこんなことを考えていたなんて知られてはいけない。

……何を考えていたんだっけ。


小鳥「考え事……ですか?」

27: 2012/07/02(月) 23:59:46.79 ID:scZOG8re0
P「はい、嘘じゃないです」

小鳥「いえ、疑ってるわけじゃないんですよ?」

嘘だ。

目の動きで分かる。


P「……どうして疑うんですか?」

小鳥「疑ってませんよ」

また嘘だ。

表情がどこか硬い。

声色が落ち着いてるのが逆に怪しい。


どうして俺を疑うのだ。

P「嘘なんかじゃないんです!本当なんですってば!」


なぜ信じてくれないのだ。

28: 2012/07/03(火) 00:03:52.32 ID:8qRwObde0
なぜ信じてくれないのだ。

俺がドロドロのバケモノだからか?

自分と違うからなんて理由で人を信じることが出来ないなんてバカげている。

人は人を信じるはずだ。

バケモノだって信用していいはずだシンジテクレヨハルカ俺は人間だおかしチハヤいだろうなにイオリがおかしいのマコトだ
わからないわからないリツコシンジテ気持ちがアズササン悪い気分が悪いタカネ様子がおかしい信用ミキできない嘘だ
本当だ怖いヤメロ溶けるなぜ疑う人間なミのかヒビキなぜ何もアミ言わないのだマミその目はなんだやめろ見ヤヨイ
るな殺さなユキホい嘘じゃないタスケテはきそうコトリサンだ見るな見るな見るな見タスケテるな見るなおタスケテ前は誰
タスケテだダレカタスケテトどうして?ハルカイオリアズサチハヤヤヨイ!マコトユキホリツコアミマミコトリサンミキヒビキタカネなのかヒビキなぜ
何もアミ言わないのだマミその目はなんだやめアろ見ヤヨイるな殺0さなユキホいで嘘じゃないはきそうコトリサンだ見る
な見るな見るなトメテクレ見タスケテるな見るなおタスケテ前は用していいはずだハルカ俺は人間だおかしチハヤいだろうなに
イオリがおかしいのマコトだわからないわからないリツコ気持ちがアズササン悪な見タスケテるな見るなおタスケテ前は誰タスケテ
だダレカタスケテハルカイオリだおかしチハヤいだろうなにイオリがおかしいのマコトだわからないわからないリツコ気持ちがアズサ
悪い気分が悪いタカネ様子がおかしい信用ミキできない嘘だミ本当だ怖い溶けるなぜ疑う人間なのかヒビキなぜ何も
アミ言わないのだアズサチハヤヤヨイマコトユキホリツコアミマミコトリサンミキヒビキタカネなのかヒヒキなぜ何もアミ言わお前は誰なんだ。
いタカネ様子がおかしい信用ミキできない嘘だ本当だ怖い溶けるなゲヒュぜ疑うバ人間なミのかヒビキなぜ何もアミ言わ
ないのだマミその目はなんだやめろ見ヤヨイるな殺さなユキホい嘘じゃないは消そうコトリサンだ見るな見るな見るな
見タスケテるな見るなおタスケテ前は誰タスケテだダレカタスケテ目が痛いハルカイオリアズサ狂いそうだチハヤヤヨイマコトユキホリ
アツコアミマミゃないはきそうコトリサンだ見るコトリサンミキヒビキタカネなのかヒビキなぜ何も誰もどこもいつも俺は俺は俺は





コイツは誰なんだ。

29: 2012/07/03(火) 00:05:34.57 ID:8qRwObde0
P「ひぃっ……!!」

誰だこいつは

小鳥「あ、あの……」

決まってる。悪魔だ。

優しい笑顔がひどく邪悪で醜悪に見えた。

恐慌が脳髄を満たす。


P「く、来る、くるなぁ!」

手当たり次第にモノを投げつける。

スリッパと枕と着替え用のパジャマとコップとゲージをばら撒いた。

狙いもつけずに放り投げたものだから一つも当たらなかった。

それでも小鳥さんはどこかに行ってしまった。

P「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

響も逃げてしまったようだ。

ゲージの蓋が開いていた。

30: 2012/07/03(火) 00:10:10.89
おうおう

31: 2012/07/03(火) 00:10:29.36 ID:8qRwObde0
シーツに包まって息を頃した。

小鳥さんは悪魔だった。

信じていたのに。

恐ろしさと悲しさで俺は笑った。

声が裏返ったヒステリックな独笑だった。

32: 2012/07/03(火) 00:11:15.62 ID:8qRwObde0
この部屋に時計は無く、俺は時間の概念が薄い。

だからどれくらい経ったのかはさっぱり分からなかった。


ずっと座っていると、顔だけ知っている男が部屋に入ってきた。

男「立てるか?」

頷く。声を出すのが億劫だ。


部屋を出ると小鳥さんが俺を見ていた。

無表情なのに嘲笑っている。

P「…………!」

近づこうとするとガッチリと腕を取られた。

男「そっちじゃないよ。ほら時間ないんだから」


ずるずると引きずられてしまった。

33: 2012/07/03(火) 00:15:09.61 ID:8qRwObde0
太った白衣の男がいる。

ここはその男の部屋だ。


なぜここにいるのだろうか。


白衣「それで、今日はどんなことがありましたか?」

なぜ答えなければならないのか。


白衣「興奮したみたいだけど、どうしたのかな?」

なぜ答えなければならないのか。


白衣「最近なにか夢を見ましたか?」



P「はい」

なぜ答えなければならないのか。

34: 2012/07/03(火) 00:20:47.73 ID:8qRwObde0
俺が毎日見る夢は決まっている。

彼女達をトップアイドルにすることだ。

煌びやかな舞台に、満席のスタンド。
華やかな衣装に鮮やかなパフォーマンス。
観客と一体となって熱狂させるのだ。

そんなことはもう何年も前から決まっている。


P「黒い空とオレンジの大地の夢です。
  空は星ひとつ無いのに、大地がはっきりと見えます。
   流れる川は臓物の色で、血を噴き出しながら子供が遊んでいます。
    オレンジの砂粒は体液が固まったものでしょう。臭いでわかります。
     大きな目玉が風に吹かれて転がってますが、すべて俺を見ています。
      そこを歩いていると大きなクレバスがあって、尖った歯が並んでいます。
       俺はその割れ目に彼女達をひとりずつ放り込むんです。」


                   
                     

                                ………………あれ?

36: 2012/07/03(火) 00:25:46.10 ID:8qRwObde0
白衣「…………彼女たちというのは?」

P「俺がプロデュースしているアイドルです。知っているでしょう?」

口が勝手に動く。

なんだこれは。


白衣「あなたはプロデューサーなのですね?」

P「はい、そうです」

誰かに操られているのか。

思考を操られているとしか思えない。


P「いいえ、違います」

白衣「…………と、いいますと?」

P「そんなことは考えたこともありません。デタラメです。誰かが俺に催眠術をかけたんです」

情動が上手く伴わなくて淡々とした喋りになってしまった。

37: 2012/07/03(火) 00:30:42.77 ID:8qRwObde0
白衣「ふむ、そうですか。誰がかけたか心当たりはありますか?」

それは間違いなく

P「悪魔です。間違いありません」

白衣「………………」


P「悪魔は若く魅力的な女の姿で僕を油断させます。
  時にアイドルの姿を模して出てくるので油断が出来ません。卑怯なやつらなんです」



今日の悪魔は小鳥さんだけだったのだろうか。自信がない。




話し疲れた俺は、その後の質問をすべて沈黙で返した。

38: 2012/07/03(火) 00:35:04.15 ID:8qRwObde0
部屋に戻る途中でトイレに寄った。

個室はドアの上下がかなりの割合でカットされていて、外から丸見えだ。

管理者は変態に違いない。

陶製の便器に用を足しながらそう思った。

流れ行く尿を見ていると頭が真っ白になりそうだ。

この穴から俺も流れ出していけないだろうか?


男「終わったらすぐ出なさい」

P「………………」

男「おい、聞こえてるのか?」

P「……………………」

男「ちっ、またかよ」

男「おい、そっち側持ってくれ」


ズルズルズルズル……

39: 2012/07/03(火) 00:40:04.66 ID:8qRwObde0
物思いにふけっていると、自分が何をしていたのかわからなくなる時がある。

気がつくと俺はベッドの上にいた。

よくあることだ。


軽く空腹を覚えたが、外は真っ暗だ。

夕食の時間は終わっている。

覚えていないだけで食べたのだろう。

よくあることだ。


することもないので、天井をずっと見ていた。

やよい「プロデューサー、どうしたんですか?」

やよいが窓の外にいた。

よくあることだ。

40: 2012/07/03(火) 00:46:09.48 ID:8qRwObde0
P「ちょっと考え事をね」

やよい「考え事ですかー?プロデューサーは大変ですねー!」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」

P「ありがとう、やよいは優しいなぁ」

やよい「えへへ……プロデューサーも優しいですよ?」


飽きるまで繰り返した。

41: 2012/07/03(火) 00:50:28.82 ID:8qRwObde0
P「……なんだ夢か」


小鳥「Pさん、起きましたか?」

P「あ、はい。おはようございます」

小鳥「よく寝てましたね。疲れちゃいました?」

P「そういう訳でもないんですけど……」

小鳥「ふふ、いい事だと思いますよ」

P「はい」

小鳥「もうすぐ朝ごはんですから、」

P「それまでに顔を洗ってきますね、小鳥さん」

小鳥「……はい」

ペタペタペタ……

43: 2012/07/03(火) 00:53:31.64 ID:8qRwObde0
イヤな夢を見た。

コトりさんが悪魔だなんてアホ臭い。

疲れているのだ。たぶん。


部屋を出て長い廊下を歩き出す。

コップと歯ブラシも忘れずに持った。

窓から差し込む陽光が、窓枠を使って複雑な影を廊下に落としている。


蛇口が6個も並んだ洗面所には先客がいなかった。

P「おはよう」

返事はなかった。

46: 2012/07/03(火) 00:56:40.18 ID:8qRwObde0
リノリウム張りの廊下をペタペタと歩いて中庭に行った。

管理者は偏屈で中庭に出られる時間が決まっている。

鍵が開くのを今か今かと待ちわびる姿の中に、見知った顔を見つけた。

P「おはよう」

真「……………………」

コイツは朝から元気だな。

無関心な人間が多いから助かっているものを。

P「こ、声が大きいって……」

真「……………………」

P「ここは俺達だけが使ってるんじゃないからな」

真「……………………」

おいおい、大丈夫かコイツ。

注意しようと思ったらもういなかった。

48: 2012/07/03(火) 00:59:19.65 ID:8qRwObde0
中庭に出ると煙の匂いが鼻につく。

逃げるように中心の大木に寄り添った。

真美「んっふっふ→」

亜美「んっふっふ→」

P「ん?どこだ?」

横着して首だけを動かした。

真美「んっふっふ→」

亜美「んっふっふ→」

亜美と真美にからかわれながら時間を潰した。

49: 2012/07/03(火) 01:03:01.24
実際、夢ってこんな感じだよな……


こう思うの俺だけ?

50: 2012/07/03(火) 01:03:23.74 ID:8qRwObde0
ペタペタペタペタ

朝食を終えた俺は廊下を歩いている。

ペタペタペタペタペタペタペタペタ

レッスンを見に行けばいいものを、なぜかこうして歩いている。

ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ

部屋にいてもやることがないし、外に出ても見るものが無い。

ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタン


廊下の端には大きな金属製の扉があった。

これはなんだろうか?

ひんやりしたドアノブを握ってみる。



ガチャン……



手ごたえは軽く、ドアがゆっくりと開いた。

53: 2012/07/03(火) 01:08:15.26 ID:8qRwObde0
おかしいな。

ここは開かないはずなのに。


デジャブに違和感を合わせて混乱しながら俺はドアを開いた。

ドアの先はすぐ階段になっていた。

上に向かって歩くとすぐに下向きの階段があった。

降りていくと右手にドアがあって、抜けると下り階段が。

降りて潜って登って曲がって休んで歩いて思考して直進した。


どれだけ進んでも人の気配はない。

俺は外の空気が吸いたくなってきた。

思考が指向を持つと丸く歪んだ道筋が意味を成してくる。

難解なヒントを元に謎を解き、矢印の示す方向へひたすら歩いた。

54: 2012/07/03(火) 01:12:10.16 ID:8qRwObde0
P「たかね……?」

病院のロビーみたいな部屋で、並んだ椅子に座っているのは間違いなく四条貴音だ。

どうしたのだろうか。まさか病気でもしたのだろうか?

P「どうしたんだ貴音。なにかあったのか?」

貴音「………………?」

プロデューサーである俺になんの相談もないとは水臭い。

気兼ねしないように隣に腰を下ろすと腕を肩に回した。
怪訝そうな顔をされたが気にしない。照れているだけだ。


P「どうしたんだよ、こんなところに来て。病気なのか?」

貴音「…………いえ、そういうわけではありません」

P「そうかそうか、ならいいんだけどさ」

ラーメンの食べすぎで糖尿になったのかと思ったよ。

貴音「あの……つかぬ事をお聞きしますが」

P「うん?」


貴音「どちら様でしょうか?」

55: 2012/07/03(火) 01:16:20.62 ID:8qRwObde0
この娘は何を言っているんだろう。

P「あんまり面白くない冗談だな」

貴音「………………」

仕方ない。彼女の戯言に付き合うのも一興だ。

P「俺はお前のプロデューサーだよ」


パチィン!


手がひりひりとする。

貴音は立ち上がって俺を見下ろしていた。

貴音「何をふざけた事を。私は貴方など知りません」


え?

貴音「失せなさい、率直に申し上げますと非常に不愉快です」

56: 2012/07/03(火) 01:21:24.29 ID:8qRwObde0
黒い点が見えた。

貴音の顔の真ん中にポツンと、マジックで描いたような点が一つ。

見る間に点は大きくなって円となり球となった。

ざわめきも好奇の視線も貴音の気高い精神もすべてが黒く丸くなる。

ぐにゃぐにゃと醜悪に歪みながらユラユラと動いた。


P「あ、あ、ああああああああああああああ!!」

俺のアイドルが飲み込まれていく。

返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ

飛び掛って食らいついた。

甲高い鳴き声が聞こえる。視界がノイズで埋まっていく。

引き締まった肉塊に歯を立てて血を啜った。


ゴツゴツと音がして

ダレカの叫ぶ声がして

世界が重みを増して―――俺は潰された。

58: 2012/07/03(火) 01:26:13.86 ID:8qRwObde0
医者「……申し訳ありませんでした。このたびの事故は我々の責任です。本当になんとお詫びを申し上げたら……」

貴音「いえ、よいのです。自衛も淑女の嗜みなれば私にも責任の一端はありますので」


わたくしは左の腕に巻かれた包帯と、その下に隠れた歯型を思い少し憂えました。

当分仕事は限られてしまうでしょう。

ですが、父ほど離れた年齢の殿方に頭を下げてもらっても心苦しいばかりです。


医者「また日を改めてお詫びにうかがわせていただきます」

貴音「では、また」

わたくしがここにいる限りこの方は謝罪を続けることでしょう。

去り際に気になったことを一つたずねました。


貴音「あの者は一体……?」

医者「はぁ、先日盲腸で入院したんですが、急に容態が急変しまして。
    精神科の受け持ちになりました。隔離病棟にいたはずなのですが……。いやはや」

貴音「そう……ですか……」

医者「現在は保護室に移動してるはずで……、いや、移動しています。ご安心を」

59: 2012/07/03(火) 01:29:47.19 ID:8qRwObde0
夢を見た。

俺の手がけたアイドルたちが大きな舞台で大活躍する夢だ。


煌びやかな舞台に、満席のスタンド。

華やかな衣装に鮮やかなパフォーマンス。

観客と一体となって熱狂させるのだ。

目を覚ますと舞台袖に一人寝転がっていた。


P「忙しかったからかな」

疲れて居眠りをしていたようだ。

硬い手摺りの隙間からそっと舞台を覗くと、ライトが強く当たって白く光っていた。

P「早くみんな来ないかな」

一足先に来てしまったようだ。

61: 2012/07/03(火) 01:33:18.38 ID:8qRwObde0
俺は待つ。

待っている。

待ち続ける。

待たなければならないのだ。


ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと

待っていたのだ。

待機して待望して待ち焦がれて渇望したのだ。

トップアイドルまであと少し、あと少しだ。


ライブの開幕を思い俺は笑った。

62: 2012/07/03(火) 01:35:49.31 ID:8qRwObde0
わたくしが事務所に参るとあの方が血相を変えて詰め寄ってまいられました。

P「貴音!大丈夫か!?」

貴音「? え、えぇ……。どうなされましたか?」

P「病院から連絡があったんだよ、怪我はどうだ?痛まないか?」

貴音「くす……。それほど心配しなくてもよろしいのですよ?」

P「なに言ってるんだよ!もう……、やっぱり俺もついていけばよかった……」

律子「健康診断くらいで付き添いだなんて、さすがに甘やかしすぎじゃないですか?」

P「そう思った結果がコレだよ!バカバカ!俺のバカ!」


子供のように己を責めるプロデューサーの姿を目にすると、なぜか胸の内側がほぅっと暖かくなりました

64: 2012/07/03(火) 01:38:32.05 ID:8qRwObde0
貴音「では、次からはお願いしてもよろしいですか?」

P「もちろんだよ!いくらでも付き合うからな!」

貴音「ふふ……それは楽しみでございます」

?「あー、ずるいずるい!だったら私のときも付いてきてくださいよプロデューサーさん!」


はて……この者は何者でございましょうか。

親しげな様子で話されているところを見ると、プロデューサーの縁故ある方なのでしょうか。


リボンをつけた少女に心の内で誰何していると、ズクン、と左腕の歯型がうずきました。


少女の匂い立つようなうなじが、不思議なことに、とても 【おいしそう】 に見えました。






おしまい

65: 2012/07/03(火) 01:39:02.60 ID:8qRwObde0
ありがとうございました

いやぁ……気持ち悪くてたまりませんね


66: 2012/07/03(火) 01:39:31.85
解説くれよ……釈然としない……

74: 2012/07/03(火) 01:44:28.17 ID:8qRwObde0
えーと 最後のオチは糖質患者に見せかけて、感染症というか呪いのつもりです  

そういう指定だったんで

76: 2012/07/03(火) 01:45:53.99
おおこわいこわい
でもホラーあんまりないから新鮮

84: 2012/07/03(火) 02:04:50.69 ID:8qRwObde0
感染するくだりをもうちょっと丁寧に書いたほうがよかったですね スイマセン
次回に生かしたいと思います

引用元: P「……なんだ夢か」