1: 2012/02/07(火) 00:16:41.29 ID:d9PyZXT1O
「お久しぶりです、小鳥さん」

「こちらこそ。お元気そうですね」

久しぶりに見た小鳥さんの笑顔は以前と同じで優しかった
変わっていることといえば…

母親の顔になっている、というところだろう

3: 2012/02/07(火) 00:19:44.58 ID:d9PyZXT1O
「おいくつになりますか?」

「失礼ですよプロデューサーさん!いちおう女なんですからね?」

「いや、お子さんの話です」

「へ?あ、あぁ、子供ですか」

一歳半になります

そう告げた小鳥さんの口調も、やっぱり母親のものだった

5: 2012/02/07(火) 00:23:13.25 ID:d9PyZXT1O
「新しい事務所はどうですか?」

「みんな"ギョーカイ人"って感じです。俺以外はね」

「フフ…相変わらずみたいで何だか安心しました」

およそ三年前、765プロは廃業した
所属アイドルたちは散り散りになり、別の道に進む者もいた

「もう三年かぁ」

俺の思考に同調したかのように、小鳥さんがそう呟いた

6: 2012/02/07(火) 00:25:46.69 ID:d9PyZXT1O
「夫婦仲はどうですか?」

「もちろん良好ですよ」

こうしてピアノバーのカウンターに並んで座っていると、どうしても"あの頃"の記憶が甦ってくる

それは小鳥さんも同じだったようで、しきりに"彼女たち"の話題を口にしている

7: 2012/02/07(火) 00:28:41.98 ID:d9PyZXT1O
「今夜は酔いたい気分です」

「私もです」

この三年間、俺は何かを抱え込んだまま生きてきた
小鳥さんもきっと同じだろう

だから今日は、それを降ろすために来た
そうでしょう、小鳥さん?

ピアノマンがサティのジムノペティを奏で始めた

語りましょうか、小鳥さん
時には昔の話を

10: 2012/02/07(火) 00:33:34.25 ID:d9PyZXT1O
「ライブですかぁ!?」

真っ先に声をあげたのはやよいだった
まぁ、そのとき事務所にはやよいしかいなかったんだけど

「あぁ。765プロの、765プロによる、ファンのためのライブだ」

「うっうー!すごいですぅ!!」

「開催日は三カ月後の5月4日。G.W中だからお客さんの入りも見込めるだろう」

「やよいちゃんラッキーね、最初に教えて貰えて」

「はい、小鳥さん!今日はお仕事無くて良かったです!」

「いや、そこは喜ぶなよ…」

13: 2012/02/07(火) 00:36:39.05 ID:d9PyZXT1O
全員が事務所に帰ってきたところで、あらためてライブの件を告げた

「たまにはいい仕事するじゃないですか」

これは律子

「まぁ、誉めてあげてもいいかもね」

これは伊織

…素直になれよ、二人とも

15: 2012/02/07(火) 00:39:38.16 ID:d9PyZXT1O
「千早ちゃん!ライブだよ、ライブ!」

「えぇ、たくさん練習しなくちゃ」

「プロデューサー!ボクのフェロモンでお客さんをメロメロにしちゃいますからね!」

うんうん
そうやって素直に反応してもらえると、骨折りの甲斐があるってもんだ

17: 2012/02/07(火) 00:43:55.83 ID:d9PyZXT1O
「よし、みんな聞いてくれ。ライブに向けて二回の合宿を行おうと思う。一回目は今月末で二泊三日。二回目はライブ前の四月第四週で、同じく二泊三日」

「やったね!みんなでお泊まりだよ、亜美!」

「つまり、枕投げですな、真美!」

「こらこら。遊びに行くんじゃないんだぞ?」

「じゃあ何しに行くの、ハニー?」

コイツら…

18: 2012/02/07(火) 00:47:58.89 ID:d9PyZXT1O
「合宿だってプロデューサーが言ったでしょ?ライブに向けて個々のスキルアップを図るのよ」

「律子の言う通りだ。それに結束を高める狙いもある」

メンバー間の仲がいいのはよくわかってる
でも、プロ意識に欠けるところがあるんだよな
悪く言えば"放課後のサークル活動"ってところか


だから二回の合宿を通して意識改革を促すって狙いもあった

20: 2012/02/07(火) 00:56:51.13 ID:d9PyZXT1O
「私、ちゃんと合宿所までたどり着けるかしら?」

「あずささん、現地集合ってわけじゃないですから」

「あらぁ、そうなんですか?」

「当日は事務所集合です。バスをチャーターしますから」

「ねぇねぇ、ハム蔵たち連れて」

「ダメ」

「せめて最後まで言わせてほしいぞ…」

こういう部分から矯正していかないとな

22: 2012/02/07(火) 01:00:12.66 ID:d9PyZXT1O
そして合宿出発の朝

最初に来たのは貴音と雪歩だった

「おはよう。早いな二人とも」

「早起きは三文の得と申しますから」

「何か得したか?」

「はい。途中で萩原雪歩と会うことが出来ました」

「えへへ…」

23: 2012/02/07(火) 01:03:07.17 ID:d9PyZXT1O
「雪歩、親父さんは心配しなかったか?」

「してましたけど、何とか説得できました」

「そうか。一緒に行くって言い出しかねないもんな」

「言い出しましたぁ…『ダメ!』って言って叱りましたけど」

相変わらずだな、あの親父さん

24: 2012/02/07(火) 01:07:04.81 ID:d9PyZXT1O
「あら。おはよう、雪歩ちゃん貴音ちゃん」

「おはようございます、小鳥さん」

「おはようございます、小鳥嬢」

「寒かったでしょう?何か飲む?」

「ありがとうございます。私はお茶がいいです」

「わたくしもお茶を頂きます」


27: 2012/02/07(火) 01:13:14.06 ID:d9PyZXT1O
四人で雑談していると、他の子たちも事務所にやってきた

次第に、修学旅行を引率する教師の気分になってきた


そして、最後にきたのは…

「あふぅ…」

もちろんコイツだ


28: 2012/02/07(火) 01:17:33.26 ID:d9PyZXT1O
「ミキ、起きろ!」

「…ハニーに起こしてほしいな」

「どうやって?」

「おはようのチュ」

「よし、みんなバスに乗ってくれ」

「…せめて最後まで言わせてほしいの」

29: 2012/02/07(火) 01:20:39.03 ID:d9PyZXT1O
道中のバスの中は…

思ったより静かだった

まぁ、朝早いしな
みんな眠いんだろう

「嵐の前の静けさです」

…律子
そういう予告はいらないから

30: 2012/02/07(火) 01:25:42.75 ID:d9PyZXT1O
合宿所は山中湖付近にあった
そこに近づくにつれ、どんどん大きくなる富士山

そういえば、間近で見るのは初めてなんだよな、俺

雪化粧を施して悠然と佇む富士山

この姿を見れば、古来から信仰の対象になってきた理由が何となく分かるよ

33: 2012/02/07(火) 01:33:40.65 ID:d9PyZXT1O
「よし、着いたぞ」

元気よく返事をしてバスを降りてゆくアイドルたち
ホントに引率の教師だな、俺

「ん?どうした春香?」

「よ、酔っちゃったみたいで…」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。歩けます」



あーあ
転ぶよな、やっぱり

35: 2012/02/07(火) 01:37:46.55 ID:d9PyZXT1O
「ホラ、負ぶされ」

「へ?わ、悪いですから」

「気にすんなって。ヨイショっと」

「ごごごごめんなさい。重くないですか?」

「軽いから心配すんな」

「…はい」

転んだ拍子に吐かれたら面倒だしな
これも業務のうちさ

36: 2012/02/07(火) 01:42:19.24 ID:d9PyZXT1O
「あー!春香ズルいの!」

予想通りな美希の反応

「仕方ないだろ?バスに酔ったんだから」

「ミキ、もう一回バスに乗ってくる!」

「バカなこと言ってんじゃないわよ」

「ぶー。でこちゃんだってホントは羨ましいくせに」

「な、何言っちゃってんのよ!そんなワケないじゃない!」

お前らは元気なようで何より

37: 2012/02/07(火) 01:48:09.46 ID:d9PyZXT1O
「はーい。それじゃあ部屋割りを発表するわね」

合宿所のロビーでは律子が手帳を広げながら指示を出していた
さすが、頼りになるヤツだ

「部屋は綺麗に使うこと。大きな音を立てないこと。他の宿泊客に迷惑をかけないこと」

うんうん
そうだそうだ

「わかりましたか、プロデューサー?」

俺かよ!

39: 2012/02/07(火) 01:53:20.91 ID:d9PyZXT1O
自分の部屋に荷物を置いてから、765プロに電話をかけた

「お待たせ致しました、765プロダクションでございます」

「お疲れ様です、小鳥さん」

「あら、プロデューサーさん。お疲れ様です」

「さっき合宿所に入りました。そちらは大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です。ちょっと静かすぎるくらいです」

まぁ、騒がしいさの元凶共はみんなこっちにいますからね

40: 2012/02/07(火) 02:00:20.13 ID:d9PyZXT1O
「お土産期待してますね?」

「律子に言って下さい。アイツが金庫番なんで」

「ウフフ。では、頑張って下さいね」

「はい。また電話します」

頑張りますよ
オレもアイツらも

窓から見える富士山は、相変わらず悠然と佇んでいる
超然、と言ってもいいかもしれない

まるで、近い将来に起こる全てを見透かしたように…

43: 2012/02/07(火) 02:09:58.04 ID:d9PyZXT1O
食堂で昼食をとったあと、早速レッスンが始まった

今回の合宿の重点課題は"ダンス"

まず九人を三組に分け、真、響、美希をそれぞれの各組にお手本として据えた

そして合宿の最後に各組による発表会を催す、と

44: 2012/02/07(火) 02:14:25.23 ID:d9PyZXT1O
一組目は春香、やよい、雪歩にお手本は美希

二組目は千早、真美、貴音でお手本は真

三組目は竜宮小町&響

本当は竜宮小町のメンバーをバラけさせたかったんだけどな
律子と協議した結果、ユニットとしての完成度を上げることを優先させることにした

46: 2012/02/07(火) 02:20:46.79 ID:d9PyZXT1O
「竜宮小町は任せたぞ。俺は残りの二組を見るから」

「えぇ、わかってます」

プロである以上、所属事務所が同じであってもライバルには変わりない
いままではその辺りがなぁなぁだったんだよな

「雪歩、もっと指先を意識しろ!」

「は、はい!すみません!」

今回からは厳しくやらせて貰うことにするよ
律子にドヤ顔されるのも癪だしな

48: 2012/02/07(火) 02:30:01.42 ID:d9PyZXT1O
「まこちん、ここの部分はもっと肘を曲げた方がいいかな?」

「うん、そっちの方がいいね。あと、真美はもっとメリハリを付けた方がいいよ」

「やよい、美希がいまのトコ踊るから、足の動き見てて!」

「わかりましたぁ!」

問題児だと思っていた美希や真美にも、どうやら火が着いたようだ

50: 2012/02/07(火) 02:34:10.11 ID:d9PyZXT1O
気が付くと、予定していた三時間はいつの間にか過ぎようとしていた

「よし!各組ごとに通して踊ってみてくれ。それで今日のレッスンは終わりにする」

はい!

という12色の声がスタジオ内に響いた
初日は上々、ってところかな?

51: 2012/02/07(火) 02:40:06.35 ID:d9PyZXT1O
アイドルたちが風呂に入っている間、俺と律子で初日の内容を振り返った

どうやら、律子の感想も俺と同じだったらしい

「みんないいテンションですね。三組に分けたのは正解だったかも」

「何気に負けず嫌いだからな、アイツら」

「えぇ。プロデューサーさんにも見習ってほしいものです」

「俺はホラ、文科系だから」

「まったく意味がわかりませんけど」


52: 2012/02/07(火) 02:46:48.24 ID:d9PyZXT1O
「小町の方はどうだ?」

「伊織がリーダーシップを取ってますよ」

「いいチームだな」

「はい。我ながら」

集団が一つの目的に向かったとき、大きな力を発揮する
俺はそれを目の当たりにしてたんだろうな

「成功させようぜ、ライブ」

「当然です」

一番負けず嫌いであろう後輩プロデューサーが、そう言って不敵に笑った

55: 2012/02/07(火) 02:52:43.35 ID:d9PyZXT1O
食堂で晩飯を食べている間、アイドルたちの話題は初日の反省と明日への課題だった

特に熱く語ってたのは美希
もともと素質があるのは皆の知るところ
この合宿を期に一皮むけてくれるといいんだけどな

それにしても、こうやって眺めていると…
青春だな、なんか

口に出すのはちょっと恥ずかしいけどな


57: 2012/02/07(火) 02:59:17.22 ID:d9PyZXT1O
自分の部屋に帰ると、やっとアルコールを口に出来た
律子に勧めても飲まないだろうしな、アイツ

まぁ、夜の富士山を眺めながらの一人酒も乙かもな

日本一の霊峰に向けて缶ビールを掲げてみた
ちょっと照れくさいけど、たまにはこうのもいいさ

58: 2012/02/07(火) 03:04:21.29 ID:d9PyZXT1O
二日目の午前のレッスンを終え、昼食を取った

午後のレッスンまで二時間の休憩を設けたから、その間に合宿所の近辺を散歩してみることにした

真っ青な空と柔らかな日差し
もうすぐ春が訪れるということを、地上にいる俺たちに教えようとしているのかもしれない


59: 2012/02/07(火) 03:11:17.21 ID:d9PyZXT1O
名前の分からない木々の間の小道を抜けると、10メートル四方ほどの小さな休憩所に出た

端に置かれた木製のベンチが、仄かに郷愁を誘う

そこに腰掛けてボーっとしていると、小さな足音が近づいてくるのが聞こえた

「あっ!プロデューサーさん!」

60: 2012/02/07(火) 03:15:07.13 ID:d9PyZXT1O
「おう、春香。どうした?」

「いえ、お散歩してたらここに出ました」

「そうか。俺と一緒だな」

「そうなんですか?」

「ああ。転ばなかったか?」

「…二回ほど」

たしかに、ジャージの両膝部分には土が着いていた

62: 2012/02/07(火) 03:19:57.43 ID:d9PyZXT1O
「座るか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

春香のためにスペースを空けてやると、ストン、と腰を下ろした

「暖かくなりましたね」

「もう二月も終わるからな」

そのとき、赤いリボンの端が微風に揺れていたのを、俺は後々まで覚えていた

64: 2012/02/07(火) 03:23:41.98 ID:d9PyZXT1O
「合宿、キツいか?」

「いえ、全然!楽しいくらいです!」

「そうか。じゃあ午後からはもう少し厳しくいくか」

「えぇ!」

「みんなには『春香に言われて仕方なく…』って言っとくから」

「や、止めて下さい!絶対ダメですからね!」


66: 2012/02/07(火) 03:26:30.91 ID:d9PyZXT1O
その後しばらく、二人でボーっとしていた

そろそろ戻るか

そう言いかけたとき、春香が口を開いた

おそらく、彼女なりに精一杯の決意を込めて

「あの、プロデューサーさん…」

67: 2012/02/07(火) 03:30:12.67 ID:d9PyZXT1O
「どうした?」

「えっと…その…」

「ひょっとして悩み事か?」

「いえ、そういうワケじゃなくて…」

俺だってそこまで馬鹿じゃない
春香が何を言いたいのか、何となく勘づいていた
いままでの春香の気持ちに勘づいていたように

68: 2012/02/07(火) 03:33:15.63 ID:d9PyZXT1O
「あの…ライブが終わったら」

「終わったら?」

「えっと、私…お話したいことがあるんです、プロデューサーさんに!」

「いまじゃなくてか?」

「いまは…いまは頑張らなきゃいけない時だから!」

偉いな、春香
本気でそう思ったよ

69: 2012/02/07(火) 03:36:59.73 ID:d9PyZXT1O
「そうか。わかった、ライブが終わったら聞かせてもらうよ」

「はい!私、頑張りますから!だから…見てて下さい!」

「ああ、わかった。ちゃんと見てるよ、春香の頑張る姿を」

「ありがとうございます、プロデューサー」

上気した顔で春香が笑った
リボンは相変わらず、微風に揺れていた

71: 2012/02/07(火) 03:44:44.90 ID:d9PyZXT1O
「可愛いですね、春香ちゃん」

「ちょっと泣きそうになってましたけどね」

三杯目のウイスキーを飲み干した頃、時計の針は23時を指した

ピアノから流れてくトロイメライが、あのときのベンチと同じように郷愁を誘う

「話を続けましょうか、小鳥さん」

「はい」

四杯目がカウンターに置かれ、俺は時計の針を巻き戻した

74: 2012/02/07(火) 03:53:05.52 ID:d9PyZXT1O
合宿の最終日、予告していた通り各組によるダンス発表会を行った
踊っている三人に対して、他のアイドルたちに採点させることにした

ユニット、個人それぞれに50点満点で点数を付けるという方式


75: 2012/02/07(火) 03:57:20.28 ID:d9PyZXT1O
やはりというべきか、最も合計点数が高かったのは竜宮小町

そしてこれもやはりというべきか、ドヤ顔されちまったよ、律子に
お前、けっこう憎たらしい子なんだな

いや、知ってたけどさ

いやいや、冗談です


77: 2012/02/07(火) 04:01:59.98 ID:d9PyZXT1O
そして個人では…

以外なことに、と言っては失礼かもしれないが、一番は雪歩
二番はやよい

なるほど
実力そのものより、合宿期間中の成長具合が評価されたってことか

仲間内での採点だとそうなってしまうのかもな

78: 2012/02/07(火) 04:06:00.37 ID:d9PyZXT1O
でもな…

オーディションの審査員は成長過程なんて見てくれないんだぜ?

その日そのときの出来が、それから先の芸能活動を左右するかもしれないんだぜ?

まぁ、そんなことは口にできなかったけどさ
満面の笑みを浮かべた雪歩とやよいの前では、ね

79: 2012/02/07(火) 04:11:05.49 ID:d9PyZXT1O
「はい。これにて第一次合宿の日程は全て終了よ」

律子がそう告げると、口々に安堵息が漏れた

「じゃあ、シャワーを浴びたあとそれぞれの部屋の清掃。まだ気を抜かないようにね。いいわね?」

「はーい!」

「いい返事です、プロデューサー」

お褒めにあずかり光栄です、秋月プロデューサー殿!

81: 2012/02/07(火) 04:16:06.68 ID:d9PyZXT1O
帰りのバスが走り出し始めると、みんな眠り始めた

まぁ、それも仕方ないか
愚痴をこぼすヤツはいなかったけど、かなりハードな日程だったはずだからな

お疲れさん

心の中でそう呟いて、俺も目を閉じた
バスの揺れと窓越しの太陽が、心地よかった

83: 2012/02/07(火) 04:21:40.83 ID:d9PyZXT1O
バスが事務所の前に着く頃には、辺りは暗くなり始めていた

「よし、着いたぞ。起きろみんな」

さすがに、どの顔も疲労の色は隠せないようだ
特に春香が…

って
ひょっとしてお前、また酔ったのか?


84: 2012/02/07(火) 04:25:20.66 ID:d9PyZXT1O
「だ、大丈夫です…」

いやいや
ウプっ、とか言ってるし

「とりあえず事務所のトイレまで背負ってやるから」

「ごめんなさい、最初から最後まで…」

「気にすんな。別に悪さしてるわけじゃないしな」

「はい…」

86: 2012/02/07(火) 04:30:40.02 ID:d9PyZXT1O
「あー!春香またズルいの!」

「もう一回バスに乗るか?」

「…もう乗りたくないの」

「気をつけて帰れよ。家に着くまでが合宿だ」

「はーいなの」

みんながどう思ってるかは分からないけど、この合宿で一番成長したの美希だと、俺は思ってる
特に精神面が

「ハニー、また明日なの!」

本気になってくれたのかな、美希も

87: 2012/02/07(火) 04:34:29.81 ID:d9PyZXT1O
「ただいまです、小鳥さん」

「おかえりなさい、プロデューサーさん。あら?春香ちゃんどうしたんです?」

「バスに酔ったみたいです」

「た、ただいまです…」

「いいから喋るな。さっさとトイレ行くぞ」

「はいぃ…」

俺を見る小鳥さんの目が

保護者さん

って言ってるように見えたけど、たぶん気のせいだ

88: 2012/02/07(火) 04:41:44.58 ID:d9PyZXT1O
春香をトイレに放り込み、三日ぶりに事務所のソファーに座った

「コーヒーどうぞ」

「あ、すいません」

「お疲れ様でした」

「疲れました」

「ウフフ」

トイレから出てきた春香を見送り、俺の第一次合宿は終了した
そして、陳腐な言い方をするなら…

終わりが、始まった

93: 2012/02/07(火) 05:00:56.60 ID:d9PyZXT1O
「だいぶ酔ってきました、俺」

「私もです。でも…」

「どうしました?」

「酔わなきゃ話せませんものね、この先は」

「…ええ」

ピアノの音が止んだ店内は、静謐とも言うべき雰囲気に包まれていた

まるで、話の続きを促すかのように

96: 2012/02/07(火) 05:07:30.96 ID:d9PyZXT1O
合宿で着いた火は消えることは無く、業界内でも765プロの評判は上がっていった

千早から

「もっと上手にトークできるようになりたいのですが。それにダンスも」

って言われたとき、彼女たちの熱意は本物なんだと確信した


98: 2012/02/07(火) 05:12:28.45 ID:d9PyZXT1O
日々瞬く間に過ぎ、神宮外苑の桜もいつの間にかほとんど散ってしまっていた

そして、二回目の合宿を翌週に控えたある日の午後

外回りから帰った俺に小鳥さんが声をかけてきた

「おかえりなさい、プロデューサーさん。あ、社長がお呼びでしたよ」

101: 2012/02/07(火) 05:15:28.90 ID:d9PyZXT1O
「社長が?何だろ?」

「帰ったら社長室に来させるように、って」

「わかりました。行ってみます」

社長室のドアをノックしたとき、返ってきた声が重く沈んでいたのを覚えている

違和感を感じながら、俺はドアを開けた

102: 2012/02/07(火) 05:19:09.15 ID:d9PyZXT1O
「ただいま戻りました。お呼びですか?」

「ああ、かけたまえ」

促されるまま、黒いソファーに座った

二杯のコーヒーを運んできた小鳥さんが部屋を出ても、社長は俺の顔を見ようとはしなかった

しばらく沈黙が続いたあと、社長が口を開いた

104: 2012/02/07(火) 05:23:13.08 ID:d9PyZXT1O
「天海春香君のことなんだかね?」

「春香がどうかしましたか?」

「昨日から仕事を休んでいるね」

「はい。親類の法事だと聞いていますが」

コーヒーから立ち昇る湯気が弱々しくなっていた
社長が口を着けていない以上、先に俺が飲むわけにはいかない

106: 2012/02/07(火) 05:28:15.98 ID:d9PyZXT1O
「先ほど、お父様から連絡があってね」

「はい」

社長がコーヒーを口に含んだ
だけど俺は、飲もうという気にならなかった

重苦しい空気がそれを許さなかったから

冷めたコーヒーを飲み干すと、社長は初めて俺の目を見た
そして告げた

「春香君が…妊娠しているそうだ」

115: 2012/02/07(火) 05:32:24.23 ID:d9PyZXT1O
「はい?」

聞き返した俺は間違っていないはずだ
だけど社長は、俺を無視して話を進めた

「7週目に入っているそうだ」

「あの、すいません。話がよくわかりません」

俺の目を見据えたまま、社長が言った

「春香君が妊娠していて、現在7週目に入っている」

117: 2012/02/07(火) 05:37:10.62 ID:d9PyZXT1O
「妊娠…?まさか?」

「昨日休んだのは法事ではなく、産婦人科に連れて行くためだったそうだ。今日休んだのは…私が親でも休ませているだろうね」

「妊娠って…つまり」

「お腹の中に赤ん坊がいるということだ」

端的に言われても、信じられるワケが無かった

119: 2012/02/07(火) 05:40:38.87 ID:d9PyZXT1O
「話を整理してみようじゃないか。もうすぐ妊娠7週目。わかるかい?」

「はい…」

「7週間ほど前、何があったかね?」

半ば思考停止した頭を無理やり回転させ、日数を逆算した

「…合宿」

123: 2012/02/07(火) 05:45:28.32 ID:d9PyZXT1O
「そうだ、合宿だ」

「まさか、社長」

「何かね?」

「俺を疑ってらっしゃるんですか?」

「いや、君が所属アイドルに手を出すような男では無いことは、よくわかっている。ただね…」

「ただ、何です?」

「春香君のご両親が君を疑っていらっしゃる。春香君が相手について喋ろうとしないらしくてね」

125: 2012/02/07(火) 05:49:45.13 ID:d9PyZXT1O
合宿中の春香を思い返してみる

まず思い浮かんだのは…

バスに酔ったことだ
行きも帰りも

つわり…
なワケは無いよな

妊娠したかしないかの時期なんだから

128: 2012/02/07(火) 05:52:19.98 ID:d9PyZXT1O
他には…

二日目の休憩中、木製のベンチに並んで座った

あのとき春香はこう言った

「ライブが終わったら、話を聞いてほしい」



その"話"というのが、今回の件と関係あるんだろうか?

129: 2012/02/07(火) 05:56:56.47 ID:d9PyZXT1O
「その顔を見た限りだと、本当に君では無さそうだね」

「え?あ、すいません。合宿中のことを思い返すのに必氏で」

「しかし春香君が何も言わない以上、ご両親の君に対する疑いは晴れないだろう。君を庇っていると受け取られるかもしれんからね」

「でしょうね…」

「君だけではなく、765プロに対する不信もだがね」


131: 2012/02/07(火) 06:00:49.96 ID:d9PyZXT1O
「このことはほかの子たちには?」

「言えるわけが無いだろう。小鳥君や律子君に対してもだ」

「わかりました」

「各方面には体調不良でしばらく休業するといっておくように」

「はい」

「話は以上だ。何か分かればまた呼ぶことにする」

「では、失礼します」

132: 2012/02/07(火) 06:06:41.25 ID:d9PyZXT1O
「プロデューサー、大丈夫ですかぁ?なんだか顔色悪いです」

「ん?あぁ、やよいか。何でもない、大丈夫だ」

やよいの表情が陰って見えたのは、俺のフィルターが黒く曇ってしまったからだろう

会議室に誰もいないことを確認すると、中から鍵をかけ携帯電話を取り出した

春香に話を聞くために

133: 2012/02/07(火) 06:11:21.57 ID:d9PyZXT1O
「…もしもし」

12回目のコール音のあと、春香の声が聞こえた

「春香…おはよう」

「…おはようございます、プロデューサーさん」


業界での挨拶は、夕方だろうと深夜だろうと"おはようだ"

それは俺から春香へのメッセージだった

プロとして話をしよう

という意味の

135: 2012/02/07(火) 06:15:16.10 ID:d9PyZXT1O
「…もしもし」

12回目のコール音のあと、春香の声が聞こえた

「春香…おはよう」

「…おはようございます、プロデューサーさん」


業界での挨拶は、夕方だろうと深夜だろうと"おはようだ"

それは俺から春香へのメッセージだった

プロとして話をしよう

という意味の

137: 2012/02/07(火) 06:18:34.59 ID:d9PyZXT1O
「本当なのか?」

「…はい」

「そうか…」

「…はい」

それは社長に聞いた話を確認するだけの、ただの"作業"だった


138: 2012/02/07(火) 06:23:12.05 ID:d9PyZXT1O
「…相手のことは、言いたくありません」

先に切り出したのは春香だった

「…ご両親が心配してるぞ?」

そんな当たり前なことしか言えない自分が情けなかった

「わかってます…だけど言えません」

「…誰になら言える?」

「え?」

139: 2012/02/07(火) 06:27:43.16 ID:d9PyZXT1O
「なぁ、春香。言いたくないって気持ちも分からなくはないけど、ずっと隠してるわけにはいかないんだ。分かるだろ?」

「…はい」

「俺に言い辛いなら、他の人間に話を聞かせるからさ。な?」

しばらくの沈黙
そして

「小鳥さんか…あずささんになら」

143: 2012/02/07(火) 06:31:01.01 ID:d9PyZXT1O
「分かった。社長に相談してみるよ。またあとでかけ直す」

「…はい」

「うん、それじゃ」

「あの、プロデューサーさん!」

「どうした?」

「…いえ…ごめんなさい」

「…それじゃ」

携帯電話を床に叩きつけたい衝動に襲われたけど、何とかこらえた

144: 2012/02/07(火) 06:36:10.17 ID:d9PyZXT1O
「…なるほど」

「どうしますか?」

「あずさ君にはまだ言わない方がいいだろう」

「では、小鳥さんに?」

「あぁ」

「では…小鳥さんを呼んできます」

伝えるのがこれほど辛いとは思わなかった
俺に伝えたとき、社長は一人でこの辛さに耐えていたのか…

148: 2012/02/07(火) 06:41:32.44 ID:d9PyZXT1O
社長が事情を伝える間、俺は小鳥さんの横顔を見ていた

「まさかそんな…だって春香ちゃんは」

「だって…何かね?」

「春香ちゃんは、その…」

横目で俺を見た小鳥さん
何を言いたいのかはすぐに分かった
自分では口に出せなかったけど、俺も不思議に思っていたことだったから

「プロデューサーさんのことが好きなんだとばかり」

149: 2012/02/07(火) 06:45:39.73 ID:d9PyZXT1O
「君は気付いていたのかね?」

「おぼろげながら…」

「そうか。それは個人の感情だからとやかく言うつもりは無いんだが…」

社長も同じ疑問を感じたらしい

「春香君の性格を考えれば、他の誰かと関係を持つとは思えんのだが」

その言葉に、小鳥さんが小さく頷いた

151: 2012/02/07(火) 06:49:09.00 ID:d9PyZXT1O
「小鳥君」

「はい」

「嫌な役目を押し付けてすまないが、春香君に電話してやってくれるかね?」

「はい、社長」

このとき三人の頭には、おそらく同じ言葉が頭をよぎった思う
だけどそれは、口にしていい言葉ではなかった

156: 2012/02/07(火) 06:54:33.25 ID:d9PyZXT1O
会議室で電話をかける小鳥さんを待っている間も、嫌な予感は消えなかった

例えば春香が同級生の男子と関係を持ったとして、俺は"裏切られた"だなんて思わない

だから…

予感が当たらないことを、俺は本気で祈った

157: 2012/02/07(火) 06:58:57.81 ID:d9PyZXT1O
10分も経たないうちに、小鳥さんは社長室に戻ってきた

「どうでした?」

「それが…直接会ってお話ししたい、と」

「春香君がそう言ったのかね?」

「はい」

「そうか」

祈りが通じた…ことにはならないよな、これじゃあ
先延ばしになっただけだ

161: 2012/02/07(火) 07:02:01.53 ID:d9PyZXT1O
明日春香ちゃんの実感を訪れることになった

って、小鳥さんが言った

俺が言えることは何も無かった

社長も、もう何も言わなかった

163: 2012/02/07(火) 07:09:05.13 ID:d9PyZXT1O
翌日、小鳥さん春香の実家を訪問してから出勤することになった

…いつかは
他の子たちにも伝えなければならないのだろう
伝えずにすむ可能性があるとしたら…

中絶を決めたときだろう

だけど、それはもう、事務所が口を挟める次元の話ではなかった

164: 2012/02/07(火) 07:14:31.53 ID:d9PyZXT1O
小鳥さんが出勤したのは昼過ぎだった

おはようございます

と挨拶したその顔は、血の気が引いてしまっていた

目を合わせようとしない小鳥さんの姿に、俺は予感が当たってしまったことを確信した

167: 2012/02/07(火) 07:19:21.04 ID:d9PyZXT1O
だから社長室で報告を受けているときも、意外なほど冷静でいられた
それは社長も同じだったらしい

誰も言葉を発しなくなった社長室に、小鳥さんの嗚咽だけが漏れていた

受け止めるには余りにも重たい現実
何をすべきかなんて分かるはずが無かった

170: 2012/02/07(火) 07:25:46.89 ID:d9PyZXT1O
あの日…

事務所から出た春香は、まだバス酔いが完全には治まっていなかった
事務所の最寄り駅から実家の最寄り駅までは二時間近くかかる

合宿での疲労とバス酔いによる頭痛、吐き気
それに耐えかねた春香は、ある選択をした

駅から実家まで、いつもとは違う道を通るという選択

その道の方が5分ほど早く帰れるから

175: 2012/02/07(火) 07:32:12.26 ID:d9PyZXT1O
"公園の中を突っ切る"という単純なショートカットだった

すでに日は暮れている
田舎だから公園の照明に金をかける余裕もない
だから園内も暗い

いつもなら絶対にしない選択
一人歩きのときなら尚更だ


180: 2012/02/07(火) 07:36:53.64 ID:d9PyZXT1O
その真ん中あたりで春香は…

転んでしまった

そこへ声をかけてきた二人の男
声はまだ若かったが、顔はよく覚えていない

大丈夫です

と言って立ち去ろうとした

しかし

あそこのベンチで休んでいきなよ

そう言って手を引かれた
正確には、引っ張られた

183: 2012/02/07(火) 07:42:37.42 ID:d9PyZXT1O
そのあとのことは…

小鳥さんが口を閉ざしてしまったから分からない
できることなら、聞きたくもないし想像したくもない

だけど…

受け止めなければならない…

185: 2012/02/07(火) 07:47:12.81 ID:d9PyZXT1O
重い沈黙を破ったのは社長だった

「そのこと、ご両親には?」

「…伝えるそうです、今日」

「子供は…どうするのかね?」

「…産みたいと」

「誰の子供かわからないんでしょう!」

「私もそう言いました!だけど…だけど春香ちゃんが…」




186: 2012/02/07(火) 07:53:01.77 ID:d9PyZXT1O
「春香君が本気に産むつもりなら…事務所側にできることは三しかない」

「何ですか、それは?」

「公表した後に引退させるか、隠したまま引退させるか、出産を終えるまで休養させるかだ。もちろん妊娠のことは隠したままでね」

隠し通せるとは思えない
それに…

「他の子たちには何と説明するんですか?」

187: 2012/02/07(火) 07:57:54.81 ID:d9PyZXT1O
「まず、事務所の方針を決めてからだ」

「彼女たちにも隠すんですか?」

「この場合の"隠す"とはそういう意味だよ。言い方は悪いかもしれんが、どこから話が漏れるか分からないからね。それに彼女たちの大半は思春期だ」

「思春期だから?」

「ショックも大きいだろう。仕事に影響が出る。これも嫌な言い方だがね」


190: 2012/02/07(火) 08:02:08.16 ID:d9PyZXT1O
「まずは、春香君とご両親との話し合いの結果を待とう。現時点で我々にできることは無い」

「…はい」

「私…今日は失礼させていただいてよろしいでしょうか?」

「あぁ。難しいかもしれないが、ゆっくり休んでくれたまえ。酷な役目を押し付けて本当にすまなかったね」

「いえ…では、失礼します」


194: 2012/02/07(火) 08:10:07.14 ID:d9PyZXT1O
「君は大丈夫かね?」

「あまり大丈夫だとは言えませんが…仕事に戻ります」

「あぁ。よろしく頼む」

「はい。失礼します」

社長室から出ると真に声をかけられた

「あ、プロデューサー。小鳥さん、どうかしたんですか?」

「ん?あぁ、体調が悪いらしくてな。今日は早退するそうだ」

"隠す"というのはつまり"嘘をつく"ということだろう
いつまで耐えることができるのか、自分にも分からなかった

197: 2012/02/07(火) 08:18:56.80 ID:d9PyZXT1O
翌日、事務所の前で見知らぬ男に声をかけられた

「すみません、765プロの方ですか?」

「はぁ、そうですが」

「ちょっと話を聞かせて貰えませんか、天海春香さんのことで」

「…天海が何か?」

「妊娠している、と」

血の気が引いて行くのがわかった

何かの間違いです

と言った声が、自分の物ではないように感じられた
食い下がる男を無視して、事務所に飛び込んだ

事務所には、小鳥さんの他に千早と律子が来ていた

198: 2012/02/07(火) 08:22:33.58 ID:d9PyZXT1O
「…おはよう」

三人からの返答は無かった

代わりに

「どういうことですか、プロデューサー?」

という律子の声
小鳥さんは青白い顔で俯いている

小鳥さんが情報をリークしたとは考えられない
だとしたら何故…?

律子の問いかけには答えずに、俺は社長室に飛び込んだ

199: 2012/02/07(火) 08:28:19.20 ID:d9PyZXT1O
「社長!一体どういうことですか!」

「…今朝早く、私の携帯電話が鳴ってね」

「はい?」

「春香君のお父様からだったよ」

「…それで?」

「765プロを訴えると。監督責任を問うそうだ」


200: 2012/02/07(火) 08:32:52.56 ID:d9PyZXT1O
「そんなことをしたら春香の妊娠のことが!いや、最悪の場合妊娠の経緯まで!」

「私にも分かっているよ、それくらいのことは」

「もう隠しようが無いってことですね?少なくとも、妊娠の事実に関しては」

「あぁ、そうだ」


202: 2012/02/07(火) 08:38:53.68
もう警察に言えよ

205: 2012/02/07(火) 08:39:42.33
SSなのに本当に悔しいな

208: 2012/02/07(火) 08:41:52.56 ID:d9PyZXT1O
「765プロはどうなりますか?」

「…所属アイドルが妊娠ということは事実だ。しかも17歳のね。それだけで致命傷だよ」

「延命の方法は?」

「無い。例え裁判に勝ったとしてもね。イメージが大きくモノを言う世界だからね。」

…確かに、今後765プロに入ろうという女の子がいなくであろうことは容易に想像できた
本人にその意志があっても、保護者が許さないだろう

210: 2012/02/07(火) 08:46:52.32 ID:d9PyZXT1O
それにいまはインターネットが大きな影響力を持っているご時世だ

765プロについて調べたとき、かなりの確率で今回の件を目にすることになるだろう
そしてそれは半永久的に続く…

765プロが業界やマスコミに対して影響力を持っているなら話は別だけど、残念ながらそんな力は無い

211: 2012/02/07(火) 08:51:40.01 ID:d9PyZXT1O
「失礼します」

「何かね、小鳥君」

「全員揃いました…」

「うん、わかった」

「社長?」

何をするつもりですか?

「…伝えるんだよ、春香君の事を」

216: 2012/02/07(火) 08:55:15.00 ID:d9PyZXT1O
「どこまで伝えるおつもりですか?」

「妊娠の事実だけだよ。経緯について話せるほど、私は強くない」

「俺はもっと弱いです…」

「これから強くなればいい」

別の場所で

そう言いかけて止めたように、俺には思えた

218: 2012/02/07(火) 08:59:55.35 ID:d9PyZXT1O
全員が集められた会議室
誰の目にも、不審と不安が宿っていた

亜美と真美ですら、軽口を叩こうともしていない

その重苦しい空気の中、社長の話しは始まった

耳を塞ぎたい衝動を何とかこらえ、社長を見据えた

221: 2012/02/07(火) 09:05:10.08 ID:d9PyZXT1O
「おはよう諸君。単刀直入に言う」

一度会議室内を見回し、全員に心の準備をさせた

「天海春香君が妊娠した。私は三日前から知っていたが、あえて諸君らには黙っていた。その事については謝る。すまなかった」

頭を下げることで一呼吸置き、全員に今の言葉の意味を理解させる時間を作った

224: 2012/02/07(火) 09:11:30.36 ID:d9PyZXT1O
「相手…つまり子供の父親については、現時点では言えない。春香君から許しを得ていないからね」

何人かが俺の方を見たが、気付かないフリをした

「わかっていることはあと二つ。現在妊娠7週目であるということ。そして…現時点で、春香君は産むつもりであるということ」

何故産むのかについては、俺には理解できない
いや、俺だけじゃなく…

きっと、春香以外の誰にもわからないのだろう

228: 2012/02/07(火) 09:21:41.90 ID:d9PyZXT1O
「そしてもう一つ。春香君のお父様は765プロを訴えるつもりであるということ。監督責任を問うそうだ」

ここで初めてざわめきが起きた

「おそらく裁判はこちらが勝つだろう。プロデューサーから話を聞いた限り、こちら側に手落ちは無い」

765プロを訴えたい、というのとは少し違うと思った

婦女暴行で刑事裁判を起こせば、春香は全てを話さなければならない
それは父親としも避けたい
だから、半ば八つ当たり気味に…

この気持ちも、自分の娘が同じ状況に置かれてみなければわからないのだろう

231: 2012/02/07(火) 09:28:06.63 ID:d9PyZXT1O
「しかし、裁判に勝敗に関わらず…いや、実際に訴えられるかどうかに関わらず」

社長の唇が微かに震えていた
春香本人と家族以外で一番悔しいのは間違いなくこの人だろう

「765プロは廃業することになるだろう。もはや妊娠を隠すことはできない。そうなれば、芸能プロダクションにとって致命的なイメージダウンになる」

ざわめきはまだ続いている
だけど俺は、何も言葉を発することが出来ずにいた

233: 2012/02/07(火) 09:32:28.29 ID:d9PyZXT1O
会議室から出るとざわめきは消え、代わりに沈黙が支配した

何を考えればいいのかすら分からない

全員がそんな状態だった

そんな中、一人のアイドルが声をかけてきた

「プロデューサー、ちょっとよろしいですか?」

声の主は、千早だった

241: 2012/02/07(火) 09:39:36.46 ID:d9PyZXT1O
「どうした千早?」

「…春香と連絡を取っても構いませんか?」

「…それは俺が許可することじゃない。春香の友達だちとして、千早自身が決めることだ」

「わかりました」

「なぁ千早。こんな状況になってしまったら、上司とかそんなのはもう関係ないよ。あとは人間対人間の繋がりなんじゃないかって、俺はそう思う」

「人間対人間、ですか?」

「あぁ。人と人、だな」

「わかりました。ありがとうございます」

252: 2012/02/07(火) 10:03:06.45 ID:d9PyZXT1O
「プロデューサー」

「今度律子か。どうした?」

「春香は相手の人のことを言わなかったんですか?それとも、本当は春香から聞いたのに黙ってるんですか?」

「何でそう思う?」

「春香は…プロデューサーのことが好きでしたから」

「…あぁ」

「他の人と関係を持つなんて考えられません」

「…律子」

「ひょっとして春香は…春香は!」

「もういい律子。最後まで言うな」

大粒の涙を流しながら肩を震わせている律子
かけてやるべき言葉は、見つからない

255: 2012/02/07(火) 10:10:27.66 ID:d9PyZXT1O
「私…私、悔しいです!妊娠の理由も、春香に何もしてやれない自分も!」

「何もしてやれないのはみんな同じだ」

「そいつらのこと頃してやりたい!」

「律子!思っても口に出すな!」

「だって…だって!」

何も言わずに抱きしめることしか、俺にはできなかった

256: 2012/02/07(火) 10:15:13.39 ID:d9PyZXT1O
その日はそれで解散となった

外で何を聞かれても答えるな

俺に出来たのは、全員にそう伝えることだけだった

ここにいるヤツらにすら、俺は何もしてやれない

ましてや春香本人には…

259: 2012/02/07(火) 10:25:18.90 ID:d9PyZXT1O
部屋で携帯電話を眺めながら、春香に言うべき言葉を探した
気が付くと三時間が過ぎていたけど、結局何も見つからなかった

春香の父親にマスコミ、それに765プロ

それぞれがそれぞれの思いや損得勘定で動いている

春香本人のことは置き去りにしたままで…

春香の意志や感情のことを本気で考えている人間は、果たして何人いるのだろうか?

俺もその中の一人だ、と言える自信は、残念ながら無かった

262: 2012/02/07(火) 10:29:42.43 ID:d9PyZXT1O
翌日、何人かの記者を無視して事務所に入った

相変わらず重苦しい空気
全員来ることになっているけど、本当に集まるという確証は無かった

二時間後、何とか全員が顔を揃えたけど、会話はほとんど無い

そんな空気の中へ、彼女は入ってきた

263: 2012/02/07(火) 10:34:50.47 ID:d9PyZXT1O
「春香!」

最初に気付いたのは響
全員の視線が、その声の先へと伸びる

「あの…おはようございます」

小さく頭を下げた春香

何人かは嫌悪感を含んだ視線を送っているだけど、それも無理ないのかも知れない

なぜなら、律子以外は知らないんだから
春香が妊娠した理由を

勝手なことをして迷惑をかけた

って思う人間がいたとしても、責めることはできない

264: 2012/02/07(火) 10:38:23.00 ID:d9PyZXT1O
「春香、おはよう」

「おはようございます、プロデューサーさん」

数日ぶりに見た春香、すっかり頬が痩けてしまっていた

「外出して大丈夫なのか?」

「お母さんに車で送ってもらいました。私のこと、ちゃんと分かってくれてますから」

母は強し、ってことかな?

266: 2012/02/07(火) 10:42:05.05 ID:d9PyZXT1O
「春香…おはよう」

「おはよう、千早ちゃん」

春香を見つめた千早の視線には、嫌悪感などなかった

昨日、春香に連絡してもいいか、と訊ねた千早

ここからは人間対人間だ、と答えた俺

千早は人間として、春香と向き合ったのだろう
そして、全てを知ったのだろう

267: 2012/02/07(火) 10:46:58.38 ID:d9PyZXT1O
「本当に大丈夫なの、春香?」

「うん」

携帯電話越しの二人の間にどんなやり取りがあったのかは知らない

知る必要もない

最も春香のことを考えていた千早が何事かを決断させた
そして最も春香を理解していた母親が、春香をここまで運んだ

それだけで良かった

269: 2012/02/07(火) 10:50:48.45 ID:d9PyZXT1O
「みんなに話したいことがあります」

悪びれることなく、全員を見据えた春香

何を話そうとしているのかは、察しがついた

こんな状況になってまで、お前はどこまでも真っ直ぐなんだな


272: 2012/02/07(火) 10:56:54.19 ID:d9PyZXT1O
昨日と同じように、全員が会議室に入ったただし、俺と社長は遠慮しておいた
男には聞かれたくないだろうからな

誰もいなくなった広間のソファーに座り、天井を見上げた

もうすぐ見納めになるのかと思うと、少し寂しかった

20分ほど経った頃だろうか?
会議室から、誰かの大声が漏れてきた

277: 2012/02/07(火) 11:02:11.32 ID:d9PyZXT1O
ケンカが始まったのかと思い会議室に入った

声を荒げていたの伊織

涙混じり…というより、ほとんど泣き声だった

「何でよ!何でそんな辛いこと無理して話すのよ!」

春香は微笑を浮かべながら、その声を受け止めている

右隣に座った千早は、春香の左手を握りしめていた
春香が話している間、ずっとそうしていたのだろう

281: 2012/02/07(火) 11:07:47.06 ID:d9PyZXT1O
「私のせいでみんなが辛い思いしてるって思ったから。だからちゃんと話さなきゃ、って」

「一番辛いのはアンタじゃない!なんで…なんで私たちのことなんて心配すんのよ!」

「だって…だってみんなは…」

このとき春香が言った言葉の鮮やかさを、俺は一生忘れないだろう

仲間だから

という、その言葉の鮮やかを

286: 2012/02/07(火) 11:13:59.12 ID:d9PyZXT1O
「春香ちゃん、聞いてもいいかな?」

雪歩が微かに震えた声で言った

「何、雪歩?」

「どうして産もうと思ったの?」

誰もが疑問に思うことだった
そんな経緯で出来た子供を何故産むのか?
本当に産んだとして、愛せるのか?

切なさを湛えた微笑を浮かべながら、春香は答えた

「心臓の音、聞いちゃったから」


289: 2012/02/07(火) 11:22:32.36 ID:d9PyZXT1O
「7週目に近くなるとね、心拍を確認できるようになる。もちろん、機械を通してだけど」

自分の身体の中に出来た、もう一つの心臓
機械を通さなければ聞こえないほどの小さな音で、だけどハッキリと"生きている"と伝えてくる

「その音を聞いちゃったからね、もう無理。下ろせない」

まだ幼さの残る春香の顔が、母親としての表情を見せた
それが愛しいものに思えて、自分でも驚いてしまった

293: 2012/02/07(火) 11:33:46.17 ID:d9PyZXT1O
「春香ちゃん、お母さんになるのね?」

「はい、あずささん」

「…おめでとう、っていうべきではないと思うから…だから、こう言わせて下さい。いつでも頼ってね、春香ちゃん」

「…はい…ありがとうございます、あずささん」

初めて見せた春香の涙

「俺以外の相手になら話せるか?」

と聞いたとき、春香は

「小鳥さんかあずささん」

と答えた

その理由が分かった気がする

295: 2012/02/07(火) 11:39:00.47 ID:d9PyZXT1O
全員の泣き始めてしまったから、俺は会議室を出た
小鳥さんと律子もあとに続いた

いまこの中に入っていいのは、あの12人だけだ

小鳥さんも律子も、それを察したのだろう

自分の椅子に座り、静かに泣き始めた

298: 2012/02/07(火) 11:43:26.98 ID:d9PyZXT1O
会議室から出てきたとき、全員の顔がスッキリとしていた

真美が俺に言った

「はるぴょんの辛さに比べたら、真美たちのなんてどってことないじゃんか!」

亜美が続く

「亜美、もう泣かないもんね!次に泣くのははるぴょんの赤ちゃんが産まれたときだもん!」


303: 2012/02/07(火) 11:49:59.69 ID:d9PyZXT1O
最後に出てきた春香が言った

「お父さんに訴訟を取り下げるように言いましたから。お母さんと二人で」

「そうか…ありがとな、春香」

「そうすれば…765プロ、大丈夫ですよね?」

そんなことまで考えてくれてたんだな
だけど…

「イメージダウンが深刻過ぎる。もう765プロとしては無理だろうな。勘違いするなよ、春香のことを責めてるわけじゃない」

「…はい…でも…」

残念です

そう言い終えた春香を、無意識のうちに抱きしめていた

307: 2012/02/07(火) 11:57:13.23 ID:d9PyZXT1O
「みんな聞いてくれ」

社長がみんなの前に立ち、話し始めた

「さきほど春香君のお父様から連絡があった。訴訟は取り消すとね。そして、すまなかった、と」

文句を言いたそうな伊織を目で制して、社長が続ける

「諸君、春香君のお父様を恨んではいけないよ。理由は分かるね伊織君?」

「…はい」

お父さんも間違いなく被害者なのだから

そういう風に、俺は受け取った

310: 2012/02/07(火) 12:02:59.50 ID:d9PyZXT1O
「そしてもう一つ。ライブの件だ」

あぁ
ライブのことなんてすっかり忘れてた…

「残念ながら、中止だ」

だろうな、やっぱり

「変わりに500人ほどのハコを仮抑えした」

え?

「開催日は連休明けの火曜日。どれほどお客さんが来てくれるかは分からない。ヤジを飛ばすために来る人間もいるだろう。それでもやるかい、諸君?」

312: 2012/02/07(火) 12:08:11.35 ID:d9PyZXT1O
突然のことに、誰も何も言えないでいた

ここ数日間、ほとんど練習できていない
いや、身体的なことよりも精神的な疲労が大きい

開催したとしても、満足のいく内容足り得るだろうか?

誰もが同じことを思ったはずだ

だけど、一人だけそう思わない奴がいたらしい

「やりましょう」

貴音の声だった

314: 2012/02/07(火) 12:13:37.84 ID:d9PyZXT1O
「最後なのでしょう、これで?」

「あぁ、そうだ」

「ならば、必ず後悔することになります。何故あのとき、と」

「君は、怖くはないのかね?」

「怖いです。しかしそれ以上に…騒ぎたいのです、皆と一緒に」

貴音の口から"騒ぎたい"ってセリフが飛び出したので、社長は驚いたようだ

もちろん、俺たちも

318: 2012/02/07(火) 12:22:29.41 ID:d9PyZXT1O
「…やろう!765プロの、765プロによる、ファンのためのバカ騒ぎを!」

真が右手で握り拳を作り、それを突き上げた

バカ騒ぎ…
長い人生の中のほんの一瞬
だけど、人生で一番大切な"青春"呼ばれる時期を一緒に過ごした仲間たち

真に倣い、次々と握り拳が突き上げられる

彼女たちの、彼女たちによる、彼女たちのための"バカ騒ぎ"が、幕を開けようとしていた

319: 2012/02/07(火) 12:29:36.58 ID:d9PyZXT1O
春香は舞台に立つことを辞退した

彼女の意志を尊重した俺たちは、"舞台袖"という特等席を用意することにした

「当日を楽しみにしています」

そう言い残して、春香は事務所を後にした

事務所を訪れるのは最後になるから…

そう呟いて名残惜しそうにしていたけど


「大丈夫よ。打ち上げもここだから。はぁ?お店貸し切る予算なんてあるわけないでしょ?」

の一声で、笑いながらドアを出ていった

322: 2012/02/07(火) 12:36:46.41 ID:d9PyZXT1O
「そういえば、二回目の合宿はどうするんだ?自分、みんなと練習ときたいぞ」

「あぁ、そういえば三日後からの予定だったな。いまからだとキャンセル料取られるな」

「ミキ、行きたいの!」

「うっうー!私も行きたいですぅ!」

意見は全員一致
どうやら決まりみたいだな


324: 2012/02/07(火) 12:41:58.50 ID:d9PyZXT1O
前回と同じ合宿所

一人欠けただけで、スタジオがずいぶん広く感じられた

まぁ、俺は見てただけなんだけどね

だってアイツら、俺が口を挟めないくらい熱が入ってたんだから

嬉しい反面、少し疎外感を感じたりもした

子離れの時期かね、俺も

325: 2012/02/07(火) 12:46:18.74 ID:d9PyZXT1O
二日目の昼休憩

前回と同じように、木製のベンチに座っていた
あのときは冬の終わりで、いまは春真っ只中

風も太陽も心地良い

空を見上げたまま目を閉じていると、足音が近付いてきた

目を開けて音の方に視線をやると…

美希が立っていた

327: 2012/02/07(火) 12:48:27.66 ID:d9PyZXT1O
「おう。美希も散歩か?」

「うん」

「座るか?」

「うん。座るの」

あのときの春香と同じ場所に腰を下ろした美希

何かを言うためにここに来たのは、表情でわかった

329: 2012/02/07(火) 12:52:00.37 ID:d9PyZXT1O
「どうした美希?」

「うん…」

「言い辛いことか?」

「ちょっとだけ」

合宿初日に事務所に集合したとき、長かった髪は切られ、派手だった金髪も茶色に変わっていた

きっと美希なりの、"いま"に対するケジメなのだろう

332: 2012/02/07(火) 12:57:11.30 ID:d9PyZXT1O
「あのね、ハニー」

「何だ?」

「春香…あのときは元気なフリしてたけど、絶対にツラいはずなの」

「…そうだな」

「だからね?だから…春香は、ハニーのことが大好きなんだから…」

あぁ…
この言葉を言うために、美希はこの合宿に来たんだ
自分の中の何かを、ちゃんとと終わらせるために

「春香を、幸せのしてあげてほしいの」


335: 2012/02/07(火) 13:01:37.58 ID:d9PyZXT1O
「美希…」

「ミキはね?…ミキは大丈夫だから…ツラくないから…だからハニー、春香をよろしくお願いしますなの!」

「…俺にできることがあるのかな?」

「そんなの、自分で考えてほしいの!」

そりゃそうだ

「相変わらず頼りないなぁ、ハニーって」


337: 2012/02/07(火) 13:03:11.67
美希良い子だな

341: 2012/02/07(火) 13:06:38.37 ID:d9PyZXT1O
「…これから頼もしくなるよ。美希のお願い聞いちゃったからな」

「…うん。ありがとなの」

「強くなったな、美希」

「ミキ強くなんてない。ホントに言いたいことが、怖くて言えないんだもん」

「そっか…」


351: 2012/02/07(火) 13:15:22.58 ID:d9PyZXT1O
「…ねぇ、ハニー。むこう向いててほしいの」

「ん?こうか?」

俺が顔を背けると、美希が右肩に頬をうずめた

そして、ハッとするほど優しい声で言った

「ハニー。ミキはハニーが大好きでした」

その言葉で、美希は何かを終わらせた

ありがとう、美希

という、俺の声と共に

359: 2012/02/07(火) 13:24:57.47 ID:d9PyZXT1O
"バカ騒ぎ"の当日

春香が控え室を訪れると、みんなが一斉に駆け寄った

早く騒ぎたくてたまらない

って、どの顔にも書いてあるよ

あぁ、今日だけは許してやる

そうだろ、律子?


367: 2012/02/07(火) 13:30:35.03 ID:d9PyZXT1O
ライブ開始まで残り一時間

舞台袖から客席の入りをチェックしてみた

…300人弱ってとこか

ここで満員になるほど、さすがに世の中甘くないよな

控え室に戻るために歩いていると、廊下のソファーに律子と伊織が座っていた

出て行き辛い雰囲気だったから、曲がり角に隠れておくことにする

368: 2012/02/07(火) 13:33:49.53 ID:d9PyZXT1O
「何よ、律子。こんなとこに連れてきて?」

「まぁ、ちょっと聞きなさい」

「さっきから聞いてるでしょ?アンタこそさっさと言いなさいよ」

「うるさいわねぇ」

「何よ!アンタに言われたくないわよ!」

うーん
いつも通りと言えばいつも通りだけど…

369: 2012/02/07(火) 13:38:46.23 ID:d9PyZXT1O
「いい?一度しか言わないからよく聞きなさい?」

「だからぁ、聞いてるってばぁ!」

話し纏まんのかな、アレ?
早く控え室に帰りたいんだけど…

「伊織、アンタが竜宮小町のリーダーよ?」

「はいはい。それくらい知ってるわよ」

「…良かっ…思っ…る…よ」

「はぁ?何言ってるかぜんっぜんわかんないんだけど!」

370: 2012/02/07(火) 13:41:57.01 ID:d9PyZXT1O
「えっと…だからね…つまり」

「つまり?」

「アンタをリーダーにして良かった…って思ってる」

「な、なによ…なによいきなり…」

少しは素直になったな、律子

ほら、次は伊織の番だぞ?

373: 2012/02/07(火) 13:48:14.47 ID:d9PyZXT1O
「わ、私は…別に…誉めてもらおうとかそんなつもりで…」

「誉めてるんじゃないわ」

「へ?」

「お礼…かな?私をサポートしてくれた」

「…バカ」

「うん。大バカ」

「開き直んないでよ」

「ウフフ」

「…ありがとう。最後まで面倒みてくれて」

「うん。私もありがとう」



お前らなら、これからも大丈夫だよ
そう言ってやりたかったけど、照れるだろうから止めといた

いや、その前に怒られか
盗み聞きしてんじゃないわよ!
ってさ?

374: 2012/02/07(火) 13:53:47.69 ID:d9PyZXT1O
「公演開演10分でございます」

小鳥さんのアナウンスが場内に響いた

全員揃って、ステージ脇に移動する

トップは美希、響、貴音による"オーバーマスター"

三人を舞台に送り出す前に小さく円陣を組んだ

もちろん、春香も一緒に

376: 2012/02/07(火) 13:58:34.38 ID:d9PyZXT1O
「誰が音頭取るんだ?」

「兄ちゃんでいいんじゃない?」

「うん、真美も兄ちゃんでいいや」

…そういうのは最後まで適当なんだな
でも、何て言えばいいんだ?

「765プロー、ファイ!でいいと思いますけど?」

古くさくないか、雪歩?

377: 2012/02/07(火) 14:02:16.03 ID:d9PyZXT1O
「何でもいいから早くしなさいよね!」

「ボク、お手洗い行きたいんですけど」

…俺が悪いのか、これ?

まぁいいや

「よし、じゃあ行くぞお前ら!」

オー!

「765プロー!」

ファイッ!

そして、祭りは始まった

379: 2012/02/07(火) 14:07:23.83 ID:d9PyZXT1O
一時間前に覗いたときよりは増えているけど、それでも350人くらいか

三人のパフォーマンスは見事なのに、なかなか熱が伝わらない

それに社長の言ったとおり、ヤジを飛ばすために来たヤツも少なからずいるようだ

そんなことのために金払うなんて、物好きだねアンタら

381: 2012/02/07(火) 14:11:51.88 ID:d9PyZXT1O
最後のフォーメーションも決まり、三人が舞台を降りてくる

客席のレスポンスの悪さにいくらか驚いたようだ

「三人とも良かったです!」

春香にそう称えられても、顔は曇っていた

「どうしたどうした!バカ騒ぎするんだろ!次の出番のときにもっと暴れてやれ!」

三者三様に返事を返して、控え室へと戻っていった

383: 2012/02/07(火) 14:15:28.79 ID:d9PyZXT1O
次は真のソロで"迷走Mind"

客席から黄色い声援が飛ぶ

真にとっては複雑だろうけど、声援にはかわりない

お前が"バカ騒ぎ"の言い出しっぺなんだ
盛り上げてくれよ、真

388: 2012/02/07(火) 14:26:10.18 ID:d9PyZXT1O
真のパフォーマンスも見事だったけど、イマイチ盛り上がりに欠けた

このままだと、客席のテンションが低いまま五曲目の"蒼い鳥"に突入してしまう
下手したら、そのままズルズルとライブが進行してしまうかも…

その生焼けなテンションは三曲目の"スタ→トスタ→"が終わっても変わらず、予感は的中するに思えた

でも、四曲目でやよいがやってくれた

393: 2012/02/07(火) 14:32:32.39 ID:d9PyZXT1O
曲は"きゅん!ヴァンバイアガール"
ゴシック口リータ風の衣装に身を包んだやよいの可愛らしさに、会場のテンションが一気に上がる

歌もダンスも、上手いとは言えないかもしれない
だけどやよいには、どんな曲でも自分の世界にしてしまうという武器がある

やよいもきっと、大丈夫だ

398: 2012/02/07(火) 14:38:33.00 ID:d9PyZXT1O
「よくやったぞ、やよい!」

「うっうー!お客さん盛り上がってくれましたぁ!」

「すっごい可愛かったよ、やよい!」

「ありがとうございますぅ!」

そして"キメ"はもちろんアレ

「いきますよぉ!二人とも、ハイ、タッーチ!」

俺が右手で、そして春香が左手でやよいのタッチを受けた

そして三人で

「イェイ!」

やっと、765プロのライブらしくなってきた

400: 2012/02/07(火) 14:44:08.65 ID:d9PyZXT1O
一度客席が盛り上がってしまえば、あとは驚くほど簡単だった

途中に何曲か挟んだバラードでもテンションが落ちることはなく、文字通り"バカ騒ぎ"の様相を呈してきた

曲の合間に聞こえていたヤジも、もうほとんど聞こえない

そして客席とは反対に、俺のテンションは少しずつ下がっていった

ライブが進行するということは、祭りの終わりが近付くということだから…

404: 2012/02/07(火) 14:48:23.10 ID:d9PyZXT1O
ライブは後半に入り、ユニット単位でのパフォーマンスが増えてきた

「プロデューサーさん、このユニット面白いですね?」

「だろ?」

ステージ上では、やよい、真美、貴音による"おはよう!!朝ご飯"

何を狙ったかは…

あえて言わずにおくよ

407: 2012/02/07(火) 14:54:40.84 ID:d9PyZXT1O
「お前も出たいんじゃないか?」

いつの間にか舞台袖に来ていた律子に言ってやった

からかったつもりだったんだけど

「えぇ、現役復帰したくなってきました」

って真顔で言われた

「そのときはプロデューサーお願いしますね、偉大なる先輩」

「ギャラ次第だな、出来の悪い後輩」

横で聞いていた春香が苦笑している

出来の悪いのはどっちだよ

って意味ではないよな、たぶん

410: 2012/02/07(火) 15:02:00.13 ID:d9PyZXT1O
ライブも残り三曲となり、ここからはメンバー全員がステージに上がる

それぞれがイメージカラーに沿った衣装を纏っている

色とりどりの衣装がライトの中で跳ねまわり、まるで花ビラが舞っているように見えた

だけど…

風に舞い上がった花ビラは、いつか地上に落ちる

左隣からは律子の嗚咽
そして右からは春香の

415: 2012/02/07(火) 15:16:38.74 ID:d9PyZXT1O
最後の曲は"GO MY WAY!!"

我が道を行く…

これから新しい道を歩み始める彼女たちにとって、これほど相応しい曲はないだろう

白い花と黒い花が手を繋ながら歌っている

二つの黄色い花は、ステージを走り回っている

青い花はライトグリーンの花と並んで満面の笑みを作っている

どの花も、ステージの上に凛と咲いていた

417: 2012/02/07(火) 15:21:05.99 ID:d9PyZXT1O
最後のフレーズを全員で歌い終わり、彼女たちの"バカ騒ぎ"は終わった

だけど、誰一人としてステージから降りてこようとしない

アンコールを待つなら、一度ステージを空けるべきだと思うが…

普段のライブとは異なる展開に、客席もざわついている

千早にマイクが渡されても、ざわめきは収まらなかった

419: 2012/02/07(火) 15:25:43.93 ID:d9PyZXT1O
「あの…如月千早です」

いまさらな自己紹介に、客席が沸く

「あっ!今日は来て下さってありがとうございました」

"ました"って…

意味不明なまま締めるつもるか?

「もっと上手にトークが出来るようになりたいのですが」

って言ってたけど、先は長そうだな

421: 2012/02/07(火) 15:32:42.87 ID:d9PyZXT1O
「765プロとしてのライブは、これが最後になります。そして明日から、私たちは別々の道を歩みます」

客席からは大きな拍手と765プロ廃業を惜しむ声

だけど、それを言うためにステージに残ってたわけじゃなさそうだしな

「私たちは、12人でした。だからその…なんというか…」

春香のことを言いたがってるのか?

422: 2012/02/07(火) 15:39:15.27 ID:d9PyZXT1O
「だから…ごめん伊織!お願い「」

隣にいた伊織にマイクを押し付けてしまった

みんな目が点になったなぁ
ステージの上も下も横も

「まったく、しょうがないわねぇ」

その呟きもしっかりと拾われていた
伊織らしいけどな、まったく

「いいわ、じゃあ千早の代わりに言わして貰う」


そして、こちらを見ながら続けた

「いま、舞台袖には春香がいるわ」

425: 2012/02/07(火) 15:44:12.84 ID:d9PyZXT1O
どよめく客席

そんなもの関係ないとばかりに、今度は客席に向かっていった

「春香をステージに上げようと思う。でも、私たちにそんなこと決める資格は無い」

驚いた春香がパイプ椅子から立ち上がった

「社長にもプロデューサーにも、その資格はない。資格を持っているのは、客席にいるアンタたちだけよ」


428: 2012/02/07(火) 15:47:49.92 ID:d9PyZXT1O
ステージ上の他の10人に、驚いている様子はない
決めてたってことか、最初から

11人全員で

「春香を上げても構わないなら、拍手を頂戴!」

呆然としている客席
当然、拍手は起こらない


432: 2012/02/07(火) 15:53:16.79 ID:d9PyZXT1O
「拍手を…みんなの拍手を頂戴よ!」

伊織が叫ぶ

その声に呼応したように、パチパチ、という乾いた音がいくつか鳴った

だけどまだ、拍手というにはほど遠い

当然かもしれない

春香のことはただ"妊娠した"としか公表されていない
経緯など公表できるわけはなかった

だから観客にとっては

765プロを廃業に追い込んだ張本人

としか思えないのだろう

434: 2012/02/07(火) 16:00:59.61 ID:d9PyZXT1O
結局、拍手と呼べるほどのものは巻き起こらなかった
ステージ上の11人がどんなに煽ろうとも

最後は全員が泣いていた
だけどそれとは対象的に、客席は醒めていった

一人、また一人と、観客が会場から去り始める

やがて規定の時間が過ぎ、小鳥さんのアナウンスが場内に響いた

「…ただいまを持ちまして、本日の公演は全て終了となります」

客席には、もう誰もいなかった

437: 2012/02/07(火) 16:07:40.87 ID:d9PyZXT1O
空になった客席を見つめながら、ステージに佇む11人
徹頭徹尾の現実が、彼女たちの目の前に広がっていた

その11人を見つめながら、律子が呟いた

「これで終わりなんですね、ホントに」

"終わり"という言葉がピッタリな光景

春香は胸の前で両手を握りしめている

439: 2012/02/07(火) 16:11:26.37 ID:d9PyZXT1O
「なぁ、春香?」

「…」

「もう、観客はいない」

「…はい」

「俺たちには、お前をあそこに上げてやる資格がない」

「…はい」

「だから、自分で決めろ」

「えっ?」



441: 2012/02/07(火) 16:19:55.10 ID:d9PyZXT1O
11人でも幕を降ろすことはできる
だけどそれは、ただの"終わり" でしかない

始まりの幕を開けるには、やはり12対の腕が必要なんだ

「春香、俺が言ってやれることはこれが最後だ」

「プロデューサーさん…」

「終わらせてこい。そして、始めてこい。12人で」

数秒の沈黙のあと、春香は顔を上げた

それから力強く言った

「上がります、ステージに」

そして、最初の一歩を踏み出した

444: 2012/02/07(火) 16:25:35.64 ID:d9PyZXT1O
私服のままステージ中央へと歩みよっていく春香
そこには涙でグショグショになった11個の顔があった

こちらに背中を向けている春香の顔も、たぶん同じだろう

誰もいない客席、ステージの上の12の泣きっ面

さぁ、アンコールだ

765プロの、765プロによる、765プロのための

450: 2012/02/07(火) 16:31:33.08 ID:d9PyZXT1O
春香にマイクが渡された

ステージ上の会話はよく聞き取れない
そもそも、会話らしい会話などほとんど無かったのかもしれない

後は歌声だけで繋がれば良かったんだから…

伊織がブースに向かってキューを出し、ラストソングが始まった

曲は"またね"

455: 2012/02/07(火) 16:42:56.00 ID:d9PyZXT1O
君と 偶然 話した 雨の帰り道
二人で 走ってた 傘無くても 楽しかった

春香の声が空っぽの客席に吸い込まれていく
久しぶりに歌うせいか、声には延びが無くて、音程もフラフラしている

だけど誰も、そんなことは気にしていなかった

458: 2012/02/07(火) 16:56:51.55 ID:d9PyZXT1O
約束したわけじゃないけど 週に一度のベル
会わない週末の報告
毎日約束なんてしなくても 会えたね でも
それは卒業まででした



事務所に行けば彼女たちに会えた
偶然同じ場所に集められた12人に

だけどそれも今日まで
明日からは、そこにはもう誰もいない

それを卒業と呼ぶのなら…
もう少しだけ、見ていたかったよ

461: 2012/02/07(火) 17:11:41.82 ID:d9PyZXT1O
2コーラス目は全員で歌った

一つ一つのフレーズを愛しむように
自分の隣にいる誰かを、慈しむように

そしてただただ、優しく


またねって別れたあの日から 言えない
いま 大切な人は 君だって…


最後フレーズを歌った12の声が溶け合い、そして消えた

それが…
俺が見た、彼女たちの終わりであり、そして始まりだった

463: 2012/02/07(火) 17:17:48.57 ID:d9PyZXT1O
「みんな笑ってましたね」

「えぇ、プロデューサーさんと律子さんも」

「小鳥さんは?」

「…ボロボロ泣いてました」

閉店間際のピアノバーにいるのは俺たちと、カウンターの隅に座った初老の男性だけ

464: 2012/02/07(火) 17:20:53.03 ID:d9PyZXT1O
「春香ちゃんに何て言われたんですか?」

「えっ?」

「ステージを降りたあと、抱きつかれてましたよね?」

「よく聞こえなかったんです、周りがウルサくて」

「ホントですかぁ?」

「小鳥さん、けっこう野暮ですね」

「えぇ、主婦ですからね」

いや、意味わかりませんけど

466: 2012/02/07(火) 17:23:11.05 ID:d9PyZXT1O
「プロデューサーさんは何て言ったんです?」

「いつのですか?」

「打ち上げの途中に二人で外にでたでしょ?」

「よく見てますねぇ」

「なんせ主婦ですから」

…当時独身じゃないですか 、あなた

467: 2012/02/07(火) 17:26:32.89 ID:d9PyZXT1O
「内緒ですよ、内緒」

「あら。口癖まで移ったんですか?」

「いまのはワザとです」

子供産んでから絡み酒になったな、小鳥さん

「そして今も、春香ちゃんにフラれ続けている、と」

「大きなお世話です」

468: 2012/02/07(火) 17:29:38.98 ID:d9PyZXT1O
「強い子ですね、春香ちゃんって」

「はい。『同情で好きにならないで下さい』ですからね」

「そんなこと言われたんですか!?」

「えぇ。あの日の打ち上げのときに」

美希に顔向けできないよ、まったく

473: 2012/02/07(火) 17:34:34.33 ID:d9PyZXT1O
「まだ高校生でしたっけ?」

「はい。通信制の二年生です。卒業したら大学に行きたい、って」

「大学かぁ。モテますよぉ、春香ちゃん?」

「ハハ、俺が大学生のガキンチョに負けるわけないじゃないですか」

「うーん…」

いや、フォローお願いします
ホントはけっこう心配なんで

477: 2012/02/07(火) 17:38:30.23 ID:d9PyZXT1O
「閉店みたいですね」

「帰りましょうか、奥さん」

「なんかイヤラシいです!」

「気のせい気のせい」

勘定を済ませて外に出ると、6月の湿った空気が肌を撫でた

481: 2012/02/07(火) 17:44:56.55 ID:d9PyZXT1O
タクシーに乗り込む前に、小鳥さんが言った

「また飲みましょうね。今度は三人で」

「えぇ、是非」

タクシーが見えなくなるまで見送ると、俺は歩き出した

いつもより少し遅いスピードで

487: 2012/02/07(火) 17:53:49.35 ID:d9PyZXT1O
それぞれに"いま"がある
もちれん俺にも

自分の居場所を作れるのは自分だけで
守れるのもやっぱり自分だけだ

何年かしたら、みんなで集まろう
大人になってしまったお互いのことを笑い合おう
そのときがくるまでは、前だけを向いて生きて行こう

そしてその日がやってきたら

時には昔の話を




お し ま い

492: 2012/02/07(火) 17:55:21.97
春香は犠牲になったのだ…
ちょっと許せねェ

494: 2012/02/07(火) 17:56:04.97
終わりか…

引用元: P「時には昔の話を」