1: 2017/05/07(日) 22:02:15.185 ID:wtcqmvjF0
-薄暗い石畳の部屋-
ガヴリール「ん……」
ガヴリール「あれ、私……寝ていたのでしょうか」
ガヴリール「……それにここは、どこでしょう」
ガヴリール「どこかの地下、のように思えますが……」
ガヴリール「部屋の中には何もありませんし」
ガヴリール「どうして、私はこんなところに……」
ガヴリール「あ、あれ……うそ……」
ガヴリール「何も……思い出せない」
3: 2017/05/07(日) 22:05:00.949 ID:wtcqmvjF0
ドンドンッ
ガヴリール「誰か! 誰かいませんか!」
ガヴリール「……」
ガヴリール「はぁ、ドアも外から鍵がかけられているみたいですし」
ガヴリール「壁にも特に細工などはありませんね……」
ガヴリール「ど、どうすれば……」
ガヴリール「でも、慌てても仕方がありません」
ガヴリール「大人しく座って、思い出せることがないか、考えてみましょう」
――
ガヴリール「……あれ」
ガヴリール「いけない、少し眠って……」
ガチャ
ガヴリール「ッ!? ド、ドアが……」
ギィッ
ガヴリール「……だ、誰?」
タプリス「……やっと、見つけました」
8: 2017/05/07(日) 22:07:32.313 ID:wtcqmvjF0
タプリス「まさか、こんなところに、いらっしゃるなんて……」
タプリス「探すのに手間取ってしまって、ごめんなさい」
タプリス「随分、お待たせしてしまいましたよね」
タプリス「……でも、もう大丈夫ですから」
タプリス「さぁ、行きましょうか」
ガヴリール「あの……」
タプリス「どうしました? 天真先輩」
タプリス「あ、どこか調子が悪かったりします?」
タプリス「でしたら、少し休んでからでも……」
ガヴリール「えっと……」
タプリス「……?」
ガヴリール「あなた……どなたですか?」
14: 2017/05/07(日) 22:10:12.913 ID:wtcqmvjF0
タプリス「……ッ」
ガヴリール「ごめんなさい、私、自分の名前以外、思い出せなくて……」
ガヴリール「あなたは、私のお知り合いみたいですけど……」
タプリス「……そうですね、こういう可能性だってあったんですよね」
タプリス「わかってたとしても、やっぱりつらいです……」
ガヴリール「あの……、どうしました?」
タプリス「い、いえ、何でもありませんっ」
タプリス「わたしはですね、天真先輩の後輩で」
タプリス「とても、とーっても、先輩にお世話になった者です」
タプリス「ですから、その恩を少しでも返したくて……」
ガヴリール「……」
タプリス「だから、その……ですね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「天真先輩、あなたを助けにきました」
17: 2017/05/07(日) 22:12:31.668 ID:wtcqmvjF0
タプリス「とはいえ、いきなり知らない人にこんなこと言われても」
タプリス「怖いだけですよね、あははは……」
ガヴリール「そ、そんなことは……」
タプリス「で、でも、これだけは信じてください」
タプリス「わたしは絶対に、先輩を裏切ったりしません」
タプリス「絶対に先輩を、ここから救い出してみせますから!」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしが言えるのはここまでです」
タプリス「……それでも、わたしを信じてくれるなら」
タプリス「わたしの手をとってください」スッ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「……ごめんなさい」
18: 2017/05/07(日) 22:15:11.114 ID:wtcqmvjF0
タプリス「そ、そうですよね……」
タプリス「そんな、すぐに見ず知らずの人を信じるなんて、無理ですよね」
ガヴリール「いいえ、そうじゃないの」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私なんかのために、ありがとう」
ガヴリール「なぜかはわからないけど、あなたの言葉は……」
ガヴリール「すっ、と胸の中に入ってきて、私を安心させてくれる」
ガヴリール「そんな気がしますから」
タプリス「先輩……」
ガヴリール「それに……ここに一人で居たって、何も始まらないし」
ガヴリール「だったら私は、あなたに賭けてみたい」
タプリス「あ、ありがとうございます、先輩」
ガヴリール「お礼を言うのはこちらの方。改めて、本当にありがとう」
ガヴリール「こんな私ですが、よろしくお願いしますね」
ぎゅっ
タプリス「はい、任されました」
タプリス「……絶対に、手を離さないでくださいね」
19: 2017/05/07(日) 22:18:16.267 ID:wtcqmvjF0
-薄暗い通路-
タプリス「ここを抜けると、吹き抜けになっている塔の一階に出ます」
ガヴリール「塔、ですか?」
タプリス「はい、高い高い塔です。100階まであると言われています」
ガヴリール「すごい高さですね……」
タプリス「ええ、それをわたしたちは今から、上っていくんです」
ガヴリール「えっ……ど、どこまでですか?」
タプリス「もちろん、一番上までですよ」
ガヴリール「そ、そうですか。上りきる自信がないですけど……」
タプリス「大丈夫です、階段の傾斜はそこまできつくありませんし」
タプリス「ちゃんと休憩も挟みます」
ガヴリール「一番上には何があるんですか?」
タプリス「それは……ごめんなさい」
タプリス「わたしの口からは言えないんです」
タプリス「でも、先輩にとって、とても大切なものですから」
20: 2017/05/07(日) 22:20:45.737 ID:wtcqmvjF0
-塔1階 はじまりの広間-
ガヴリール「すごいですね……上は、本当に吹き抜けになっています」
ガヴリール「床に彫られているのは、フクロウですかね」
ガヴリール「今にも動き出しそうで美しいです……」
タプリス「わたしたちが歩くのは、あそこからです」
ガヴリール「か、壁に沿って、螺旋のように階段が続いているみたいですが」
ガヴリール「一番上が、全然見えませんね……」
タプリス「ここからだと……少し見えづらいかも、ですね」
ガヴリール「あなたは、ここを上ったことがあるんですか?」
タプリス「いえ、厳密にはありませんが……」
タプリス「似たような塔なら、一度だけ上ったことがあります」
ガヴリール「なるほど。それで、そんなに詳しかったのですね」
タプリス「あはは、ある程度はですけどね」
タプリス「準備がよろしければ、出発しましょうか」
ガヴリール「はい、大丈夫です。もともと、何も持っていませんしね」
タプリス「わかりました、では行きましょう」
タプリス「つらくなったら、いつでも言ってくださいね、休憩しますから」
ガヴリール「はい、ありがとう」
21: 2017/05/07(日) 22:22:59.018 ID:wtcqmvjF0
-塔11階-
コツコツコツ
タプリス「大丈夫ですか? きつくありませんか?」
ガヴリール「ふふっ、あなたったら、さっきからそればっかり」
ガヴリール「もしかしたら、一階上がるごとに言ってるんじゃないかしら」
タプリス「そ、そうですかね。そんなつもりはなかったんですが」
ガヴリール「大丈夫です、全く問題ありませんよ」
ガヴリール「あなたが前で、私の手を引いてくれていますから」
ガヴリール「あなたの方こそ、疲れたら言ってくださいね」
タプリス「わ、わかりました。ありがとうございます」
ガヴリール「いえいえ、どういたしまして」
タプリス「ふふっ」
ガヴリール「どうしました? 笑ったりして」
タプリス「記憶を失ってても、やっぱり先輩は先輩だなって」
ガヴリール「えっ、どういうことですか?」
タプリス「いえ、何でもありません。先を急ぎましょうか」
22: 2017/05/07(日) 22:25:18.165 ID:wtcqmvjF0
-塔25階 赤の回廊-
ガヴリール「あれ、階段がここで途切れていますね」
タプリス「やはり、ここにもありましたか……」
ガヴリール「えっ」
タプリス「この塔にはこうやって、回廊になっている階がいくつかありまして」
タプリス「反対側に回らないと、次の階に行けないんです」
ガヴリール「そうなんですか……でも、今まで階段ばかりでしたし」
ガヴリール「こうやって平坦な場所を歩くのも、気分転換になって」
ガヴリール「良いかもしれませんね」
タプリス「……そうでもないんです、ここは」
ガヴリール「ど、どういうことですか?」
タプリス「先輩、今からわたしが言うことを、絶対に守ってくださいね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「この回廊では、何が起こったとしても……」
タプリス「絶対に、振り返らないでください」
23: 2017/05/07(日) 22:28:19.006 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「わ、わかりました……ですけど」
ガヴリール「もし……振り返ってしまったら、どうなるんです?」
タプリス「先輩にとって、よくないことが起こります」
ガヴリール「よくないこと……」
タプリス「それはきっと、取り返しがつかないことです」
ガヴリール「わ、わかりました……気をつけますね」
タプリス「大丈夫です。わたしと手を繋いで、しっかり歩けば」
タプリス「すぐ次の階段に着きますから」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「では行きましょうか」
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
『ようやくここまでたどり着いたのね、ガヴリール』
26: 2017/05/07(日) 22:30:40.160 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「う、後ろから誰かの声が……」
タプリス「駄目です、天真先輩。彼女の言葉を聞いてはいけません」
タプリス「彼女は惑わす者、なんですから」
ガヴリール「惑わす者?」
タプリス「ええ、先輩を永久にここに閉じ込めるべくして、生まれた存在です」
タプリス「だから、どんな言葉であろうと、耳を傾けてはいけません」
『ずっとここで待っていたのよ、あんたの永遠のライバルとしてね』
ガヴリール「なんでしょう、思い出せないはずなのに」
ガヴリール「なんだかとても、懐かしい感じがします……」
タプリス「それも、彼女の狙いです、だから……」
『私は長い時間をかけて、ついに世界のすべてを、この手中に収めたわ』
『これで私の心は全て、満たされるはずだった』
『……でも、そうはならなかった。一つだけ、心にぽっかりと穴が空いていたの』
『そう、それはね。あんたにだけ……、一度も勝てなかったことよ』
27: 2017/05/07(日) 22:33:28.770 ID:wtcqmvjF0
『このままじゃ私は、悔やんでも悔やみきれない』
『勝ち逃げだなんて、絶対に許さない』
『……私と勝負しなさい、ガヴリール』
ガヴリール「……」
『もちろん、ただでとは言わない……もしあんたが勝てば……』
『私の世界の半分を、あんたにくれてあげるわ』
『だからもう一度だけ、私と勝負を――』
ガヴリール「……ごめんなさい」
ガヴリール「私、世界になんて興味はないし」
ガヴリール「勝負なんてもっとそう。あなたと争うくらいなら」
ガヴリール「私の負けで構わない」
『……そう、それがあんたの答えなのね』
ガヴリール「ええ、ごめんなさい……そして、さようなら」
『ふんっ……せいぜい、後悔するといいわ』
タプリス「せ、先輩……」
ガヴリール「さ、行きましょう」
29: 2017/05/07(日) 22:36:42.755 ID:wtcqmvjF0
-塔42階-
コツコツコツ
ガヴリール「……ありがとうね」
タプリス「えっ、突然どうしました?」
ガヴリール「いえ、さっきの回廊を抜けられたのは」
ガヴリール「あなたのおかげ。だから、ありがとう」
タプリス「そ、そんな、違いますよ。天真先輩の心が強かったからです」
タプリス「わたしはただ、少し助言をしただけですから」
ガヴリール「……あなたがずっと、手を握っていてくれたから」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私も、心を強く持てたんだと思うの」
ガヴリール「だから、私を助けてくれて、ありがとう」
タプリス「は、はい。ど、どういたしまして、です」カァァ
30: 2017/05/07(日) 22:38:24.129 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「ふふっ、すっかり照れてしまって、かわいい」ナデナデ
タプリス「……ッ」
ガヴリール「あら、ごめんなさい。頭を撫でられるのは嫌でしたか?」
タプリス「い、いえっ、そうではなくて、その……」
タプリス「もしかして、無意識だったんですか?」
ガヴリール「そうですね、確かに」
ガヴリール「自然と、手が伸びてしまいました」
タプリス「先輩はよく、わたしの頭を撫でてくれたんです、だから……」
タプリス「何か思い出してもらえたのかなって思って」
ガヴリール「ごめんなさい、そこまでは……」
タプリス「そ、そうですよね。大丈夫です、ゆっくり焦らずにいきましょう」
31: 2017/05/07(日) 22:41:01.086 ID:wtcqmvjF0
-塔50階 白の回廊-
タプリス「ようやく50階、半分到達ですね」
ガヴリール「また階段が途切れている……ということは」
タプリス「ええ。ここも、です」
タプリス「一度、乗り越えている先輩でしたら、大丈夫ですよ」
タプリス「さぁ、行きましょう」
ぎゅっ
ガヴリール「は、はい」
コツコツコツ
『やっと、お会いできましたね、ガヴちゃん』
ガヴリール「……ッ」
タプリス「天真先輩、優しい声色に騙されてはいけません」
『私はあなたのことをずっとずっと、待っていたんです』
『そして、ずっとずっと、会いたかった……』
『だって私は、あなたと一番お付き合いが長い……』
『言わば、幼馴染のようなものですから』
32: 2017/05/07(日) 22:43:15.119 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「……幼馴染?」
『あなたは、全てを忘れてしまいましたが』
『私はあなたのことを、小さい頃から知っているんです』
『初めてお会いした時も、そして、お友達になった時も』
『……あなたの記憶が失われてしまったことは、本当に仕方のないこと』
『ですから、私が一から、あなたに教えてあげます』
『私の知る、あなたの全てを……』
ガヴリール「私の、全て……」
タプリス「……」
『……今、あなたと一緒にいる子』
ガヴリール「えっ?」
『その子は、いったい何者なのでしょうか』
『私は、その子のことを何も知りません』
ガヴリール「そ、そんな……」
『もしかすると、記憶を失ったガヴちゃんに取り入り、騙して』
『陥れようとしているのかもしれません』
33: 2017/05/07(日) 22:45:42.981 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「違います! この子はそんなんじゃ……」
『そうではない、と本当に言えますか?』
ガヴリール「えっ……」
『あなたは今、その子に言われて、この塔を上っていますが』
『最上階に何があるのか、知っていますか?』
ガヴリール「そ、それは……」
『やましい理由がなければ、隠す必要なんてないはず』
『真実を言わないということは、あなたを騙していることと同義なんです』
ガヴリール「……」
『さぁ、私と行きましょう、ガヴちゃん』
タプリス「……天真先輩」
ガヴリール「……」
34: 2017/05/07(日) 22:48:12.386 ID:wtcqmvjF0
タプリス「……全ては、先輩にお任せします」
タプリス「ですが……ですけど、これだけは、信じてください」
ぎゅっ
タプリス「わたしは絶対、先輩に嘘はつきません」
ガヴリール「……」
『この世に<絶対>ほど、信用のできない言葉はありません』
『ですから、私と一緒に――』
ガヴリール「……お断りします」
『今なんと言って……』
ガヴリール「お断りします、と言ったんです」
『どうしてですか、そんな子を信じるというのですか』
ガヴリール「この子が本当に、私を陥れようとしているなら」
ガヴリール「こんなにも震えた手で、私の手を握るはず、ありません」
タプリス「……ッ」
35: 2017/05/07(日) 22:50:56.371 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「信じてください、という強い決心の裏で」
ガヴリール「私の言葉を待ちながら、こんなにも怯えている」
ガヴリール「この子の情味あふれる仕草や、私への思いやりの心は」
ガヴリール「私にとって、信じるに値します」
ガヴリール「ですから、あなたとは一緒に行けません」
『そうですか、わかりました』
『そこまで言うのでしたら、私は止めません』
『どうぞご自分の目で、真実を確かめてきてください』
ガヴリール「えぇ、ご忠告、感謝します」
ガヴリール「それでは……さようなら]
ガヴリール「……あなたとは、もっと違う形でお会いしたかった」
『ええ、私もです。それでは、ごきげんよう』
ガヴリール「さぁ、行きましょうか」
タプリス「は、はい……」
36: 2017/05/07(日) 22:53:14.639 ID:wtcqmvjF0
-塔64階-
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ぎゅっ
ガヴリール「……どうしました?」
タプリス「えっ、あ、その……す、すみません」
タプリス「ちょっと考え事をして、力んでしまって……何でもないですからっ」
ガヴリール「……そうですか」
タプリス「は、はい」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「すみません、ちょっといいですか?」
タプリス「えっと、何でしょう」
ガヴリール「私、足に疲れが溜まってきてしまって」
ガヴリール「ここ、ちょうど踊り場になっていますし」
ガヴリール「少し休憩しませんか?」
タプリス「あ……ごめんなさい、気づかなくて。わ、わかりました」
37: 2017/05/07(日) 22:55:45.016 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「見てください。下がもう、ほとんど見えません」
タプリス「ええ、もう64階ですから」
ガヴリール「……お隣、座ってもいいですか?」
タプリス「は、はい、どうぞ」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「あの」
タプリス「あのっ」
ガヴリール「あ、あなたからどうぞ」
タプリス「いえ、先輩の方から」
ガヴリール「……ふふっ」
タプリス「……あははっ」
ガヴリール「……この手のぬくもりと」
ガヴリール「あなたがどれだけ、私を大事に思ってくれているかという気持ちから」
ガヴリール「私にとっても、あなたがどれだけ大切な存在だったのかが、よくわかります」
ガヴリール「たとえ記憶を失ってても、私のどこかで、それを憶えている」
ガヴリール「そんな気がするんです」
タプリス「先輩……」
38: 2017/05/07(日) 22:58:09.125 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「最上階で、何が待っていようとも」
ガヴリール「あなたとならきっと……乗り越えられる気がします」
タプリス「はい……、わたしの決意も固まりました」
タプリス「先輩を必ずや、最上階までお連れします」
タプリス「それがわたしの……使命であり、望みですから」
ガヴリール「ええ、ありがとう。でも……」
ガヴリール「私たちは、先輩と後輩の仲だったんでしょう?」
タプリス「は、はい、そうですけど」
ガヴリール「だったら、そんな使命とか、堅苦しいことは抜きにしましょう」
ガヴリール「そうですね……、手繋ぎデートなんてどうでしょうか」
タプリス「て、てててっ、手繋ぎデートですかっ」
ガヴリール「ええ。その方が、気楽に楽しく進めそうで良いじゃないですか」
タプリス「そ、そうです、かね。そ、そうですね……、恐縮です」カァァ
ガヴリール「ふふっ、顔を真っ赤にしちゃって、かわいいんだから」ナデナデ
ガヴリール「それでは、そろそろ行きましょうか」
タプリス「あ……」
ガヴリール「どうしました?」
タプリス「あの……、えっと……もう少しだけ……」
タプリス「もう少しだけ……このままでも、いいですか?」
ガヴリール「……ええ、もちろんですよ」
39: 2017/05/07(日) 23:00:56.861 ID:wtcqmvjF0
-塔75階 紫の回廊-
タプリス「おそらくここが、最後の回廊です」
ガヴリール「そうですか……、なんだか前の二つと雰囲気が違いますね」
タプリス「ですが、ここまで乗り切ってきた先輩なら、問題ありません」
タプリス「わたしの手を、離さないでくださいね」
ガヴリール「ええ、もちろん」
コツコツコツ
『久しぶりね……ガヴ』
ガヴリール「……ッ」
『こんな形でも、また、あなたに会うことができて、よかった』
『だって本当なら、あの時点で……』
『私たちはもう、二度と会うことはできなくなってたんだもの』
『だから、本当に嬉しい』
41: 2017/05/07(日) 23:03:28.198 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「記憶に無いはずなのに……どうして……」
『ねえ、ガヴ。憶えてる? 私たちが初めてあった時のこと』
『私が下界に来て早々、道に迷って困っていた時に』
『あなたは優しく、声をかけてくれたよね』
『そして、友達になってくださいって、言ってくれたよね』
『私、あの時、本当に嬉しかった』
ガヴリール「この声は……特に、頭に響いてきて……」
タプリス「先輩……」
『堕天してしまってからは、本当に手がかかる子だったけど』
『素っ気ない態度をとりつつも、大事なときにはいつも』
『一緒に、付き合ってくれた』
『私が落ち込んでいるときにはいつも、励ましてくれて』
『そして、優しく……してくれた』
42: 2017/05/07(日) 23:05:57.136 ID:wtcqmvjF0
『私が風邪を引いたときなんか、一目散に駆けつけてきて』
『普段は料理なんてしないのに、張り切っちゃって……』
『正直、味は微妙だったけど、本当に、本当においしかった』
『だって、あなたの真心がこもっていたんだもの』
ガヴリール「……」
『だからね、ガヴ。あなたにはお礼を言いたい』
『私と友達になってくれて、ありがとう』
『私と出会ってくれて、ありがとう』
『そして、あなたと過ごした日々に、ありがとう』
ガヴリール「……本当に」
タプリス「えっ」
ガヴリール「この子の言っていることは……本当に嘘なんでしょうか……」
タプリス「そ、それは……」
43: 2017/05/07(日) 23:08:21.360 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「頭ではいけないってわかってるのに」
ガヴリール「心のどこかで……この子の優しさを憶えてる……」
ガヴリール「本当に迷惑をかけたって、憶えてる……」
タプリス「先輩……」
『私はここで、あなたをずっと見守っているから』
『たとえ一人になっても、あなたの幸せをずっと願っているから』
ガヴリール「……ッ」
『最後に、ずっと伝えることができなかったけど』
『私は、そんな不器用で優しいあなたのことが……』
『大好きでした』
44: 2017/05/07(日) 23:11:53.043 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「……ッ!」クルッ
タプリス「先輩っ!?」
『ありがとうね、私を選んでくれて』
『これからは二人で、ここにいましょう?』
『そう、永遠に――』
ガヴリール「うそ……、何も、ない……?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「いけない! 先輩、急いで! 天井がっ!!」
ガヴリール「なっ!?」
ピシッ ピシピシッ
ガヴリール「だめっ、間に合わな――」
タプリス「先輩、危ないっ!!」ガバッ
45: 2017/05/07(日) 23:14:12.005 ID:wtcqmvjF0
からんからん
ガヴリール「せ、背中が……」
タプリス「……先輩、無事ですか?」
ガヴリール「ええ、なんとか……って……」
タプリス「えへへ、ゴホッ……間に合って、よかった」
ガヴリール「う、うそ……あなた、両脚が……」
ガヴリール「い、今、瓦礫をどけるから!」
ガヴリール「ぐっ……ぐぐぐぐっ……」
タプリス「無理です……こんな大きいの、とても動かせません」
ガヴリール「どうして……どうして、私なんかをかばって……」
タプリス「身体が勝手に……ゴホッ、動いて、しまったんです」
タプリス「仕方がないじゃないですか」
ガヴリール「……私のせいなのに」
ガヴリール「私があなたの言いつけを破って、振り返ってしまったせいなのに」
タプリス「……それも、仕方がないんです」
ガヴリール「えっ」
タプリス「あの方が言っていたことに、嘘偽りはなかった」
タプリス「ですからわたしは……」
タプリス「改めて先輩が、ほんとに本当に優しい方なんだってわかって」
タプリス「嬉しかったです」
46: 2017/05/07(日) 23:17:36.546 ID:wtcqmvjF0
ゴゴゴゴゴゴゴッ
ガヴリール「この音は……」
タプリス「じきに、ここも完全に、崩れます……」
タプリス「どうやら、わたしは……ここまでの、ようです」
ガヴリール「だめです! あなたを置いてなんて行けません!」
タプリス「もう時間が、ありませんから……よく聞いてください」
タプリス「これから、最後の力を、振り絞って……」
タプリス「先輩を……階段まで、転移させます」
ガヴリール「なっ!?」
タプリス「本当は……使いたく、なかったんですけどね」
タプリス「わたし、動けなく、なっちゃうから」
タプリス「でも……今なら、使うことができそうです」
ガヴリール「やめて、お願いだから……」
タプリス「一緒に行くって約束……守れなくて、ごめんなさい」
ガヴリール「……ッ」
47: 2017/05/07(日) 23:19:29.664 ID:wtcqmvjF0
タプリス「すみません、先輩……まだ、そこに、いますか?」
ガヴリール「えっ……」
タプリス「もう、目が、よく見えなくて……」
ガヴリール「……ッ」
ぎゅぅぅ
タプリス「あっ……」
ガヴリール「いやっ! 絶対に嫌っ! あなたを置いて行くくらいなら、私もここに――」
タプリス「それ、以上は、だめです。先輩……」
タプリス「先輩は……進まないと、いけないから」
タプリス「最上階へ、たどり着かないと、いけないから」
ガヴリール「どうして!? 最上階にいったい、何があるっていうの!?」
ガヴリール「あなたを見捨ててまで行く価値なんて、本当にあるっていうの!?」
タプリス「……はい」
ガヴリール「……ッ」
タプリス「わたしは……そのために、来たんですから」
49: 2017/05/07(日) 23:22:26.771 ID:wtcqmvjF0
タプリス「そうだ、最後にこれを……」スッ
ガヴリール「これは……あなたの髪飾り……」
タプリス「はい……これ、先輩に、もらったもの、なんですよ」
ガヴリール「私が……?」
ガヴリール「……ッ」
ガヴリール「これは……あぁっ、そんな……」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「……時間です、先輩」
タプリス「神よ、我に力を」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ、やめてっ!!」
タプリス「今まで、本当にありがとう、ございました」
50: 2017/05/07(日) 23:26:02.378 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「お願いだからっ……、タプリスッ!!」
タプリス「……ッ」
ガヴリール「私もう、絶対に忘れない! あなたのこと、忘れないからっ!」
ガヴリール「だからお願い! こんなこと、やめてっ!」
ガヴリール「お願い、だからぁ……」
タプリス「やっと、わたしの名前……呼んでくれましたね」
タプリス「これで、思い残すことは……ありません」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ……いやぁぁぁぁぁっっ!!」
ガヴリール「タプリスーーーーッ!!」
タプリス「さようなら、天真先輩」ニコッ
51: 2017/05/07(日) 23:28:28.482 ID:wtcqmvjF0
ゴゴゴゴゴッ ズドンッ
-塔76階-
シュンッ
ガヴリール「あぁ、あぁぁっ……」
ガヴリール「わ、私が……タプリスを……」
ガヴリール「私が、守ってあげなくちゃ……いけなかったのに」
ガヴリール「大切な後輩を……守ってあげなくちゃ、いけなかったのに……」
ガヴリール「……」
ガヴリール「ごめっ……ぐすっ……ごめんなさい、タプリス……」
ガヴリール「本当にごめんなさい……」
パサッ
ガヴリール「これは……あの子の、髪飾り」
ガヴリール「……」スッ
ぎゅぅ
ガヴリール「……」
ガヴリール「……タプリス、そうですよね」
ガヴリール「あの子が望んでいたことを、叶えなきゃ……」
ガヴリール「私が、叶えなくちゃ……」
52: 2017/05/07(日) 23:31:26.499 ID:wtcqmvjF0
-塔85階-
タッタッタッ
ガヴリール「急がないと……、もっと急がないと……」
ガクッ
ガヴリール「……ッ」
バタンッ パサッ
ガヴリール「いたっ……あっ……」
ぎゅっ
ガヴリール「……これは、絶対に落とさない」
ガヴリール「大丈夫……まだ走れる」
ガヴリール「こんなの、あの子の痛みに比べたら、なんでもない」
ガヴリール「絶対に、たどり着いてみせる」
タッタッタッ
54: 2017/05/07(日) 23:34:14.931 ID:wtcqmvjF0
-塔100階-
ガヴリール「はぁ……はぁ……やっと、着いた」
ガヴリール「ここは……庭園? 空が眩しい……」
天使「遅かったな」
ガヴリール「えっ……あ、あなたは……」
天使「待ちくたびれたぞ」
ガヴリール「私、なの……?」
天使「ああ、そうだよ。お前は、私だ」
ガヴリール「ねぇ、教えて! ここはいったい何なの!?」
ガヴリール「どうして、私がもう一人、ここにいるの!?」
ガヴリール「私はどうして、ここに来なければならなかったの!?」
天使「おいおい、質問は一つずつにしろよ」
ガヴリール「あ、ごめんなさい……」
天使「その様子だと、あいつはここまで、来られなかったようだな」
ガヴリール「タプリスのことを知っているの?」
天使「……まずは順に話していこうか」
56: 2017/05/07(日) 23:36:30.205 ID:wtcqmvjF0
天使「ここは私の記憶の遺跡、お前らは塔って呼んでたけど」
天使「実際はここがスタート地点。お前のいたところが、おそらく最下」
天使「そして、私はお前を見つけて、ここに連れて来なければならなかった」
天使「けど私は、ここで体の維持をしなくてはならず、ここを動けない」
天使「だから、タプリスにお前を探させたんだよ」
ガヴリール「では、私とあなたは、どういう……」
天使「お前はな、私がはるか昔に捨てた、別の人格」
ガヴリール「なっ……」
天使「今までは必要なかったから、放っておいたんだけど」
天使「そのせいで、記憶まで失ってしまったみたいだな」
ガヴリール「……」
天使「でも、とある理由から、お前が必要になったんだ」
ガヴリール「私が……必要……?」
58: 2017/05/07(日) 23:39:08.044 ID:wtcqmvjF0
天使「ああ。でもまさか、あんな奥の、そのまた奥にいるとは思わなかったよ」
天使「お前のことを一番慕っていた、あいつに任せて正解だった」
ガヴリール「……あの子がどうなったか、知っているんですか」
天使「もちろん」
ガヴリール「どうしてそんな……平然としていられるんですか」
ガヴリール「あなたが私なら、あなたにとっても大事な存在じゃないんですか!?」
天使「ああ、そうだよ。だから、お前を呼んだんだ」
ガヴリール「そ、それは、どういう……」
天使「お前と私が、一つになるためにな」
59: 2017/05/07(日) 23:41:20.522 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「私とあなたが、一つに、ですって……」
天使「ああ、お前も私の一部だからな」
天使「あいつが慕ってたお前がいないと、あいつも寂しがるだろ」
天使「それに何より、全ての私が揃わないとダメなんだよ」
ガヴリール「全てって、どういうことです……?」
天使「まぁ、それはやってみればすぐにわかる」
ガヴリール「やってみればって……そんな大雑把な」
天使「あいつに会いたくないのか?」
ガヴリール「……ッ」
天使「私は、会いたい。だからこうして頼んでいる」
ガヴリール「……」
天使「あいつにもう一度会うために、協力してくれないか」
ガヴリール「一つになったら、私はどうなるんですか?」
天使「そうだな。たぶん、私が主人格だから……」
天使「お前はあまり、出てこられないだろうな」
ガヴリール「そう、ですか。でも、あの子にもう一度、会えるんですね」
ガヴリール「あの子がもう一度、笑ってくれるんですね」
天使「ああ、約束する」
ガヴリール「……わかりました、お願いします」
60: 2017/05/07(日) 23:43:45.633 ID:wtcqmvjF0
天使「手を合わせて……」
ガヴリール「こう、ですか?」
天使「ああ、準備はいいか?」
ガヴリール「はい、いつでも」
天使「それじゃあ、いくぞ」
ガヴリール「あの子のことを、頼みました」
天使「ああ……頼まれた」
パァァァッ
――――――
――――
――
61: 2017/05/07(日) 23:46:26.370 ID:wtcqmvjF0
-病室-
ピッ ピッ ピッ
ガヴリール「思い、出した……あの頃の、天使学校時代の……」
ガヴリール「あの子が、慕っていた、私を……」
ガヴリール「ようやく、見つけることができた……」
ガヴリール「これでやっと、みなに……会いにいける」
ガヴリール「サターニャ、ラフィエル、ヴィーネ……」
ガヴリール「そして……タプリス」
ガヴリール「私も、お前たちのところへ……」
ピッ ピッ ピーーーーーッ
62: 2017/05/07(日) 23:48:37.647 ID:wtcqmvjF0
ガヴリール「ん……ここは……」
サターニャ「あ、ようやく来たみたいね」
ヴィーネ「まったく遅いのよ、ガヴったら」
ラフィエル「まさか、ガヴちゃんが一番長生きするなんて思いませんでしたね」
ガヴリール「お、お前たち? ってことは、ここが……」
ラフィエル「ええ、ご想像のとおりです。お久しぶりですね」
ガヴリール「そうか……、お前も元気そうで何よりだ、ラフィエル」
サターニャ「来て早々だけど、とりあえず勝負よ!」
ガヴリール「は? 何言ってるんだよ」
サターニャ「景品はそうね、世界の半分なんてどうかしら」
ガヴリール「そんなのやるわけねーだろ」
ガヴリール「お前は何も変わらないな、サターニャ」
ヴィーネ「ガヴ……」
ガヴリール「ヴィーネ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
ガヴリール「私はもう……どこにも行かない」
ヴィーネ「うんっ……うんっ……」
ガヴリール「ところで……あいつは?」
65: 2017/05/07(日) 23:51:34.736 ID:wtcqmvjF0
タプリス「……遅いです、天真先輩」
ガヴリール「すまん、ちょっと忘れ物を取りに行っていてな」
ガヴリール「お前は知ってるだろうけど」
タプリス「そうですね、無事にお届けできたみたいで、よかったです」
ガヴリール「あと、もうちょっと、だったけどな」
タプリス「うぅ……先輩の意地悪」
ガヴリール「まぁ、なんだ。その……おほんっ」
ガヴリール「タプリス。また、会えましたね」ニコッ
タプリス「あ、あぁ……あの頃の先輩……」
ガヴリール「これをあなたに、返さないと」
タプリス「これは……わたしの髪飾り?」
ガヴリール「付けてあげますね」スッ
ガヴリール「やっぱりあなたにはこれが、よく似合います。かわいいです」
ぎゅぅぅ
タプリス「えへへ……また先輩に会えて、嬉しいです」
ガヴリール「ええ、私もですよ」
ガヴリール「もう絶対に、タプリスのことを忘れたりしません」
ガヴリール「だから、ずっとずっと、私と一緒にいてくださいね」
タプリス「はいっ、先輩!」
おしまい
66: 2017/05/07(日) 23:52:12.485
ハッピーエンドなのか…?乙
68: 2017/05/07(日) 23:54:32.083
皆氏んでんじゃねえか…?
69: 2017/05/07(日) 23:56:33.784
乙
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