1: 2017/05/28(日) 21:02:43.901 ID:p/zwPpQN0
 
-朝 タプリスの家-


 ピピピピピッ カチッ


タプリス『……もう、朝ですか? 早く……起きないと』


タプリス『んーっ、今日も良いお天気ですね』

タプリス『ふふ、学校まで並んで歩いていくには、もってこい、です』

タプリス『さてと、急いで準備をしましょうか』


――

タプリス『ハンカチよし、鍵よし……』

タプリス『前髪は……っと』スッ


 ピンポーン

タプリス『わわっ、もう先輩、来てしまいました』

タプリス『だ、大丈夫ですよね、きっと』

タプリス『はーい、今行きますー!』


 ガチャ

タプリス『お待たせして、すみません!』

ガヴリール『いいえ、こちらが少し早く着いてしまったみたいですから』

ガヴリール『気にしなくても良いですよ、それと……』


ガヴリール『おはようございます、タプリス』ニコッ

タプリス『はい、おはようございます、天真先輩っ』

13: 2017/05/28(日) 21:04:53.568 ID:p/zwPpQN0
 
-通学路-


タプリス『うーん……』スッ

ガヴリール『タプリス、どうしました?』

タプリス『あ、いえ! なんでもないです!』

タプリス(前髪がやっぱり、ちょっとだけ気になります……)

タプリス(こんなに綺麗な先輩と、一緒に歩いているんですから、尚更です)

ガヴリール『ちょっと、こっちを向いてもらえますか?』

タプリス『え? は、はい……』

ガヴリール『ふふっ、今日もちゃんと、かわいいですよ』

タプリス『先輩!? な、ななな、何を……』カァァ

ガヴリール『そんなに気にしなくても、大丈夫だと言いたかったんです』

タプリス『そ、そうですかね……? あ、ありがとうございます』


ガヴリール『そういえば今日は、みんなでお昼を一緒に食べる約束をしているんです』

ガヴリール『いつもの屋上で、なんですけど、タプリスも来ませんか?』

タプリス『は、はい! ぜひ行かせてください! 絶対行きます!』

ガヴリール『よかった。では、お昼休みに屋上で待ち合わせということで』

タプリス『了解です!』


タプリス(えへへ、先輩たちと一緒にお昼ごはん……)

タプリス(天気もとても良いですし、きっと楽しくなりそうです)

14: 2017/05/28(日) 21:07:01.869 ID:p/zwPpQN0
 
-お昼休み 学校の屋上-


ガヴリール『サターニャさん、またメロンパンだけですか?』

サターニャ『え、そうだけど』

ガヴリール『ダメですよ、それだと栄養が偏ってしまいますから』

ガヴリール『私のおかずを分けてますね』

サターニャ『ほんと!? いつも悪いわね、ガヴリール』パクパク

サターニャ『んーっ、いつ食べても、あんたのおかずはおいしいわ!』

ガヴリール『いえいえ、お気になさらないでください』ニコッ

タプリス『そ、それじゃ天真先輩の食べる分が減っちゃいますから、わたしのも!』

ヴィーネ『じゃあ、みんなでおかずを共有しましょうか』

ラフィエル『うふふ、いいですね』


サターニャ『お礼に今度、このサタニキア様が厳選した激ウマのメロンパンを』

サターニャ『みんなにごちそうしてあげるわ!』

ガヴリール『ありがとうございます、楽しみにしてますね』

ヴィーネ『もう、サターニャはほんと、メロンパン大好きね』

サターニャ『ふふっ、メロンパンに関してだけは、誰にも負けない自信があるわ』

ラフィエル『それ以外は……ちょっと、残念ですけどね』

サターニャ『残念って何よ! ひどいでしょ!』


みんな『あははははっ』


タプリス(みなさん、和気あいあいで、ごはんの時間がとても早く感じられます)

タプリス(お昼の授業は体育から始まるので、少しだけ憂鬱ですけどね)

15: 2017/05/28(日) 21:08:56.240 ID:p/zwPpQN0
 
-放課後 学校の図書室-


タプリス(何か面白そうな本は、あるでしょうか)

タプリス(ここにある本は、ほとんど読んでしまいましたからね)

タプリス(新しい本は……っと)


ガヴリール『あら、タプリス?』

タプリス『て、天真先輩じゃないですか。奇遇ですね』

ガヴリール『ええ、タプリスも、ここによく来るのですか?』

タプリス『はい、結構来ていますけど、もしかして、先輩も?』

ガヴリール『そうですね、私も頻繁に利用しています』

タプリス『そうだったんですか、知りませんでした……』

ガヴリール『ふふっ』

タプリス『先輩? どうしました?』

ガヴリール『いえ、こうやって、会う約束をしていないのに』

ガヴリール『自然と会ってしまうのって、なんだか良いなって』

タプリス『そうですね。偶然とはいえ、お会いできるなんて』

タプリス『わたしも嬉しいですっ』


ガヴリール『そうだ、タプリスのおすすめの本を教えてもらえませんか?』

タプリス『わたしのおすすめ、ですか?』

ガヴリール『ええ、普段タプリスがどんな本を読んでいるのか、知りたくて』

タプリス『えっと……笑わないでくださいね?』

ガヴリール『笑ったりなんかしませんよ』

16: 2017/05/28(日) 21:10:49.587 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール『童話、ですか。いいですね』

タプリス『はい、昔から好きなんです。特に女の子が、色んな場所へ旅する物語が』

タプリス『この年になっても読み続けてるなんて、恥ずかしいかもしれませんけど』

ガヴリール『恥ずかしいだなんて、そんなこと、絶対ありませんよ』

タプリス『そ、そうですかね』

ガヴリール『童話には、人としてどう生きるべきかの教訓が』

ガヴリール『たくさん詰まってますから』

タプリス『そこまで深くは考えたこと……なかったです』

ガヴリール『そうですか? でも、自分が知らないうちに、きっと学んでいるはずですよ』

ガヴリール『何か落ち込むようなことがあったとしても、好きな本を読んでいると』

ガヴリール『勇気や元気をもらえたり、しますよね?』

タプリス『は、はい、わかります! それは、何度もありました!』

ガヴリール『であれば、ちゃんとタプリスは学んでいるんです』ニコッ

タプリス『先輩……、ありがとうございます』

タプリス『そんなふうに言ってもらえたのは、わたし、初めてです』

ガヴリール『ふふっ、では改めて、タプリスの好きな本、教えてくれませんか?』

タプリス『はいっ、えっとですね……』



-その日の晩 タプリスの家-


タプリス『今日もたくさん、天真先輩とお話できました』

タプリス『わたしの好きな本、今頃、読んでくれてるかな……』

タプリス『明日、感想とか、いろいろお話できるのが、本当に楽しみです』

タプリス『……そうだ、わたしも前に借りた本、読まないと』

タプリス『ああ、でも今日はもう眠いですね、続きは明日にしましょうか』

タプリス『……おやすみなさい』

17: 2017/05/28(日) 21:12:49.640 ID:p/zwPpQN0
 
-朝 タプリスの家-


 ピピピピピッ カチッ


タプリス「……朝、ですね」

タプリス「学校、行かないと」


――

タプリス「ハンカチよし、鍵よし……」

タプリス「前髪は……よしっと」スッ

タプリス「いってきます」



-朝のHR 学校 タプリスの教室-


担任「今日は10人欠席だ。風邪が流行ってるから、皆も注意するように」

タプリス(昨日よりも、さらに増えましたね……)

タプリス(先輩たちは大丈夫でしょうか)



-お昼休み ガヴリールの教室-


サターニャ「ガヴリール達なら、体調不良で休みよ」

タプリス「え、月乃瀬先輩と白羽先輩もですか?」

サターニャ「ええ。まぁ、ガヴリールはズル休みかもしれないけどね」

タプリス「うちのクラスでも風邪が流行ってて、結構お休みの人が多いんです」

タプリス「もう夏になるっていうのに、珍しいですよね」

サターニャ「まぁ、この大悪魔であるサタニキア様は、風邪なんかに負けないけどね!」

タプリス「あははは……」

18: 2017/05/28(日) 21:14:53.762 ID:p/zwPpQN0
 
-ヴィーネの家-


ヴィーネ「来てくれてありがとうね、タプちゃん。ごほっ……ゴホゴホッ」

タプリス「いえ、気にしないでください。それより、お加減いかがですか?」

ヴィーネ「何日か前から、微熱と咳が続いてる感じね」

ヴィーネ「たぶん、風邪だと思う」

タプリス「そうですか……、天真先輩と白羽先輩もお休みらしいです」

ヴィーネ「ええ、そうみたいね。ガヴは、ほんとかどうか、わからないけど」

タプリス「……それでは、わたし、他の先輩たちのところにも行ってみたいと思います」

ヴィーネ「わかったわ、みんなによろしくね」

タプリス「はい、それでは失礼します」



-その日の晩 タプリスの家-


TV『現在、風邪が大流行しており、学級閉鎖になるところも増えて――』

 ポチッ

タプリス「どこの学校も、似たような感じみたいですね」

タプリス「でも、先輩たちだって、普通の風邪の症状みたいでしたし」

タプリス「すぐに良くなりますよね、きっと」

タプリス「……そうだ、あの本の続き、読まないと」


――

タプリス「……あれ、もうこんな時間。面白くて、ついつい読み込んでしまいました」

タプリス「天真先輩も……この本の主人公のように、更生してくれたら良いんですけど」

タプリス「まぁ、難しいですかね……」

タプリス「それでは、今日はもう寝ましょうか」

タプリス「……おやすみなさい」

19: 2017/05/28(日) 21:16:54.499 ID:p/zwPpQN0
 
-朝 通学路-


ガヴリール『タプリスが教えてくれた本、読みましたよ』

タプリス『……ど、どうでした?』

ガヴリール『とても優しさを感じられる良い本でした。私も大好きになりましたよ』

タプリス『本当ですか!? よかったぁ……』

ガヴリール『なんというかですね、読み進めているうちに』

ガヴリール『タプリスがどんなお顔をして、この本を読んでいるかが』

ガヴリール『目に浮かんできたんです』

タプリス『わたしが、ですか?』

ガヴリール『ええ。あ、ここで笑っただろうな、ここで泣いちゃっただろうな、って』

ガヴリール『この本をあなたが好きだって言った理由、わかった気がします』

タプリス『それは、すごく嬉しいですけど……少しだけ、恥ずかしいです』


ガヴリール『タプリス、今日の放課後、あなたのお家に寄っても良いですか?』

タプリス『え、もちろん、それは良いですけど』

ガヴリール『私のお気に入りの本を持ってきましたから』

ガヴリール『もしよかったら、一緒に読みたいなと思いまして』

タプリス『本当ですか!? ぜひ、読みたいです!』

ガヴリール『では、決まりですね』

20: 2017/05/28(日) 21:18:50.266 ID:p/zwPpQN0
 
-放課後 タプリスの家-


ガヴリール『ちょうど西日が差し込んでますね、綺麗です』

タプリス『暑くないですか?』

ガヴリール『いえ、ちょうどよいですよ。では、早速ですが』

タプリス『ところで、一緒に読むと言ってましたけど、どのように……』

ガヴリール『それはもちろん……』


――

タプリス(まさか、こんなに密着しながら並んで読むとは思いませんでした……)

ガヴリール『私はもう、何度も読んでいますから』

ガヴリール『タプリスのペースで進めていいですからね』

タプリス『は、はい』

タプリス(こうやって、誰かと一緒に本を読むなんて、いつ以来でしょう)

タプリス(子供の頃、お母さんに絵本を読んでもらった時、ですかね)

ガヴリール『なんだか、新鮮でいいですね』

タプリス『新鮮、ですか?』

ガヴリール『タプリスが本を読むペースが、よくわかるので楽しいです』

タプリス『遅くないですかね?』

ガヴリール『いえ、ちょうど良すぎて、驚いています』

タプリス『そ、それなら、よかったです』


タプリス『……』

ガヴリール『……』


 ぎゅぅ

タプリス『……先輩?』

ガヴリール『……こういうのって、昔から憧れていたんです』

21: 2017/05/28(日) 21:21:24.093 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール『自分の大好きな本を、こうして、一緒に読んでくれる相手がいる』

ガヴリール『それはとても、幸せなことだと思うから』

タプリス『そうですね、わたしも』

タプリス『先輩にわたしの好きな本を読んでもらえて、嬉しかったです』

ガヴリール『……それなら、よかった』


ガヴリール『夕日が、沈んできましたね。一日がもう、終わってしまいます』

タプリス『先輩?』

ガヴリール『この時間が、ずっと続けばいいのに』

タプリス『そうですね。わたしも、そう、思います』


タプリス『先輩。もし、よかったらなんですけど……』

タプリス『この後も、一緒に本を読みませんか?』



-その日の晩 タプリスの家-


ガヴリール『それでは、もう遅いですし、そろそろ寝ましょうか』

タプリス『そうですね……、名残惜しいですけど』


タプリス『……わたし、最近、眠るのが少し怖いんです』

タプリス『夢の中で、なにか怖いことが起こっている気がして』

タプリス『起きても全く、思い出せないんですけど……』

ガヴリール『……そんなの、ただの夢ですよ。気にする必要なんて、ありません』


 ぎゅぅ

タプリス『先輩?』

ガヴリール『……タプリスには、私が付いてますから』

タプリス『ありがとうございます、先輩……、おやすみなさい』

ガヴリール『おやすみなさい、タプリス』

22: 2017/05/28(日) 21:22:49.773 ID:p/zwPpQN0
 
-朝 タプリスの家-


 ピピピピピッ カチッ


タプリス「……朝、になっちゃいましたね」

タプリス「学校は……、ああ、学校閉鎖って連絡が来てましたっけ」


TV『原因不明の高熱を訴える患者が増大し、医療機関は――』

 ポチッ

タプリス「……先輩たちの様子を見に行かないと」



-サターニャの家-


サターニャ「ゴホッ、ゴホゴホッ、すまないわね」

タプリス「いえ、大丈夫です。あと何か、して欲しいこととか、ありますか?」

サターニャ「……メロンパンが食べたい」

タプリス「それは我慢してください……」

サターニャ「何よ、何でもって言ったじゃない! ゴホッ! ゴホッ!」

タプリス「あまり大声を出すと、お体に障りますよ」

サターニャ「情けないわ、まさか私がこんなになるなんて」

タプリス「胡桃沢先輩はまだ、軽い方ですよ」

タプリス「他の先輩方はもう……、歩くのも厳しい方もいますから」

サターニャ「そうなの。それにしても、一番ナヨナヨしてるあんたが元気とは」

サターニャ「わからないものね」

タプリス「ナヨナヨって……」

サターニャ「だったら、こんなところにいないで」

サターニャ「他のみんなのところに、行ってやってちょうだい」

タプリス「わ、わかりました。それでは、失礼しますね」

24: 2017/05/28(日) 21:26:18.771 ID:p/zwPpQN0
 
-その日の晩 タプリスの家-


タプリス「みなさんのお家を回ってたら、すっかり遅くなってしまいました」

タプリス「さすがに少し、疲れましたね」


タプリス(……でも、どうして)

タプリス(先輩方はみな、原因不明の高熱を出してしまっていて)

タプリス(クラスのほとんどの人も、お休みしてしまっているのに)

タプリス(わたしだけ平気なのでしょう)

タプリス(昔から特別、病気に強い体では、なかった気がするんですけど)


タプリス「……考えても仕方ありませんね」

タプリス「今日も、あの本を、読みましょうか」


――

 パタンッ


タプリス「やっぱりいいですね、この物語……」

タプリス「夕日が差し込む部屋で、一緒に読書とか、たまりません」

タプリス「いけない、もうこんな時間。そろそろ寝ないと……」


タプリス「早く、こちらのみなさんも、元気になりますように」

タプリス「ん……? こちらの? って、わたし、何言って……」

タプリス「わたしも、疲れてるのかもしれませんね」


タプリス「もうこれ以上、みなさんの具合が悪くなるのは……、つらいです」


タプリス「……おやすみなさい」

25: 2017/05/28(日) 21:28:55.964 ID:p/zwPpQN0
 
-お昼休み 学校の屋上-


サターニャ『ほら、いつぞやのお礼のメロンパンよ!』

ガヴリール『すごい数のメロンパンですね……』

ヴィーネ『こんなの、食べきれるはずないじゃない!』

ラフィエル『あらあら』

タプリス『でも、せっかく胡桃沢先輩が持ってきてくれたんですから!』

ガヴリール『では、いただきます』モグモグ

サターニャ『ど、どうよ』

ガヴリール『おいしいです、サターニャさん。とっても』

サターニャ『そう、私が用意したんだから、当然よ!』

タプリス『さすがメロンパン通の胡桃沢先輩ですね』

ヴィーネ『それしか、取り柄がないけどね』

サターニャ『だから、そんなことないってば!』


みんな『あははははっ』



-放課後 ガヴリールの教室-


タプリス『お邪魔……します』

ガヴリール『あら、タプリス。いらっしゃい』

ガヴリール『そうだ、今日この後、予定とかありますか?』

タプリス『えっと、今日は……』

ラフィエル『ごめんなさい、ガヴちゃん。今日、タプちゃんは私と予定がありまして』

タプリス『え? 白羽先輩……?』

ガヴリール『そうですか、残念です』

ラフィエル『では、タプちゃん。行きましょうか』

タプリス『えっ、えっ?』

26: 2017/05/28(日) 21:30:51.763 ID:p/zwPpQN0
 
-タプリスの家-


TV『現在、舞天市では、行方不明者が続出しており――』

 ポチッ

タプリス『行方不明だなんて、怖い話ですね……、犯罪でなければよいのですが』

ラフィエル『……おそらく、そろそろ限界ということでしょう』

タプリス『限界?』

ラフィエル『そして……なるほど、この本が引き金になったんですね』

タプリス『白羽先輩、何を言って……』

ラフィエル『タプちゃん、私は今から、あなたの前から消えますね』

ラフィエル『この本に、私が触れることで』

タプリス『えっ?』

ラフィエル『それが本来あるべき姿、ですから』

タプリス『い、言っている意味がよく……』

ラフィエル『もう薄々、わかっているんじゃないですか?』

タプリス『……』

ラフィエル『タプちゃん。向こうの私に会ってください』

ラフィエル『会って、よろしくお伝えくださいね』

タプリス『せ、先輩、待って――』


 スッ シュゥゥゥ



-その日の晩 タプリスの家-


タプリス『向こうの白羽先輩って、いったい……』

タプリス『よくわからないことだらけです……、もう、寝ましょう』

タプリス『……おやすみなさい』

28: 2017/05/28(日) 21:32:49.851 ID:p/zwPpQN0
 
-朝 タプリスの家-


 ピピピピピッ カチッ


タプリス「……朝、ですね」


TV『以前より発生していた、原因不明の高熱患者は徐々に減少し――』

 ポチッ


タプリス「……」

タプリス「白羽先輩のところへ、行きましょうか」



-ラフィエルの家-


ラフィエル「いらっしゃい、タプちゃん」

タプリス「し、白羽先輩、具合の方は……」

ラフィエル「ええ、もうすっかりよくなりました。すぐにでも、学校へ行けるほどです」

タプリス「それはよかったです!」

ラフィエル「それよりも、タプちゃん。その本は……」

タプリス「これは、白羽先輩に見ていただきたくて、持ってきたんです」

ラフィエル「もしかして……魔導書、ですか?」

タプリス「そ、そうなんですか?」

ラフィエル「ほとんど魔力は残っていないみたいですけど……」

ラフィエル「キャパシティ自体は、大した代物ですね。では、肝心の魔力はどこに……」

タプリス「おそらく、ですけど……その膨大な魔力がどこで使われたのか」

タプリス「わたしに、心当たりがあります」

ラフィエル「……詳しく、お話してもらえますか?」

29: 2017/05/28(日) 21:35:15.709 ID:p/zwPpQN0
 
ラフィエル「今のタプちゃんのお話からの推測ですが……」

ラフィエル「タプちゃんの願いと、本に蓄えられていた魔力が合わさり」

ラフィエル「現実の世界とそっくりの、鏡の世界が構成されてしまった、と」

タプリス「はい……、おそらくわたしは」

タプリス「夜に眠ると、そちらの世界へ行くことができるみたいです」


ラフィエル「ですが、次第に現実の世界の人々が」

ラフィエル「病に伏せるようになってしまったことから」

ラフィエル「鏡の世界の人の維持には、現実の世界と同じ人の精気が」

ラフィエル「必要だったようですね」

ラフィエル「だから、鏡の世界で存在が消えた人は、現実の世界で寛解した」


タプリス「なるほど……、そんなことが起きて……」

タプリス「だとしたら、わたしはとんでもないことを……」

ラフィエル「いえ、これは一種の事故のようなものです」

ラフィエル「タプちゃんが気にすることはありませんよ。幸い、氏者は出ていません」

ラフィエル「このまま、本の魔力が尽きれば、ゆっくりと鏡の世界は消えていくでしょう」

タプリス「そうですか……で、でも……」

ラフィエル「どうしました?」

タプリス「い、いえ、何でもありません……」


タプリス(そうだとしたら……)

タプリス(わたしはもう、あちらの天真先輩とは会えないんでしょうか……)

30: 2017/05/28(日) 21:37:02.875 ID:p/zwPpQN0
 
-数日後の放課後 学校 ガヴリールの教室-


サターニャ「やっと、体が本調子になってきたわ」

ヴィーネ「ええ、クラスのみんなもほとんど、復帰したみたいだしね」

タプリス「みなさんが元気になられて、よかったです」

ラフィエル「でも、ガヴちゃんが、まだ来ていませんね」

サターニャ「どうせまた、ズル休みじゃないの?」

ラフィエル「……まさか」

ヴィーネ「どうしたの、ラフィ」

ラフィエル「タ、タプちゃん、付いてきてください!」

タプリス「えっ、あ、はい!」



-ガヴリールの家-


ガヴリール「はぁ……はぁ……」

タプリス「天真先輩! だ、大丈夫ですか!」

ラフィエル「危険な状態ですね……、ガヴちゃんの精気がほとんど残っていません」

タプリス「ど、どうして。他の方は、もう治ったのに」

ラフィエル「もしかすると、鏡の世界のガヴちゃんが……」

ラフィエル「消滅を拒んでいるから、かもしれません」

タプリス「……ッ」

ラフィエル「このままでは、鏡の世界が消える前に……」

ラフィエル「ガヴちゃんの精気が尽きてしまいます」

タプリス「そんな、どうすれば……」


ガヴリール「大体……、事情は、飲み込めた……」

タプリス「せ、先輩、寝てないとダメです!」

31: 2017/05/28(日) 21:38:58.354 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール「……そんな、ワガママな私には」

ガヴリール「私自らが直接、触れないとダメってことだろ?」

ラフィエル「そうですね……、本に触れさせても、恐らく無駄でしょう」

タプリス「でも、直接なんて、どうやって……?」

ラフィエル「……では、みんなで川の字になって寝ましょうか」ニコッ

タプリス「え? 白羽先輩?」

ラフィエル「もちろん、タプちゃんと手を繋ぎながら、ですよ?」

ガヴリール「まぁ、それが……、一番だな」

タプリス「わ、わかりました! よくわかりませんけど、わかりました!」


 ぎゅっ

ラフィエル「では、おやすみなさーい」

タプリス「お、おやすみなさい」

ガヴリール「……狭いし、苦しい」


――――――

――――

――


-ガヴリールの家-


タプリス『ここは……天真先輩のお家? あ、綺麗なので向こうの、ですね!』

ラフィエル『そうみたいです、タプちゃん。無事、成功です』

タプリス『あ、白羽先輩! 天真先輩も!』

ガヴリール『……それで、もう一人の私ってどこだよ。家にいないってことは外か』

タプリス『そうですね、い、急いで探さないと!』

ラフィエル『ガヴちゃんは、私がおぶってあげますね?』

ガヴリール『……不本意だが、頼む、ラフィエル』

32: 2017/05/28(日) 21:40:49.974 ID:p/zwPpQN0
 
-住宅街-


タプリス『空に、たくさんの色が混ざってます……』

タプリス『それと、ところどころに、虹色の穴のようなものが……』

ラフィエル『この鏡の世界が、崩壊しかけている証ですね』

ラフィエル『それとその穴、間違っても触れてはいけませんよ』

タプリス『ど、どうしてです?』

ラフィエル『おそらくそれは、どの世界にも属すことのない、次元の狭間』

ラフィエル『落ちたら一生、戻ってこれませんから』

タプリス『わ、わかりました……』

ガヴリール『それで、どこ探すんだよ。時間もあまりないぞ』

ラフィエル『そうですね……』


タプリス『……わたしに、心当たりがあります』



-学校の図書館-


タプリス『天真先輩……』

鏡ガヴリール『タプリス、ラフィ、それと……あなたは、もう一人の私?』


ラフィエル『なるほど。この世界では、ガヴちゃんだけが、昔の姿だったんですね』

ラフィエル『ということは……タプちゃんの願いというのは、これですか?』

タプリス『はい、おそらく……』


ラフィエル『これで辻褄が合いました。なぜガヴちゃんだけが、消滅しなかったのか』

ラフィエル『……この世界で自我を強く、持ちすぎてしまったのですね』

ラフィエル『だから、タプちゃんと過ごした、この世界を』

ラフィエル『去りたくなかった、といったところでしょうか』


鏡ガヴリール『……そのとおりですよ、ラフィ』

33: 2017/05/28(日) 21:43:15.448 ID:p/zwPpQN0
 
鏡ガヴリール『ここは、タプリスとの思い出の場所、ですから』

鏡ガヴリール『お互いの大切なものを、共有して、分かち合って』

鏡ガヴリール『私たちは、心の奥底から、繋がることができたんです』

鏡ガヴリール『ここだけは……私が守らないといけません』

鏡ガヴリール『だから私が、消えるわけには、いかないんです』


ガヴリール『……言いたいことは、それだけか』

鏡ガヴリール『……』

ガヴリール『大切な場所? 守らなきゃいけない?』

ガヴリール『それはお前が、命張ってやらないといけないことなのか?』

鏡ガヴリール『……そうです』

ガヴリール『本当にお前、私の一部なのか? そんなことも、わからないくせして』

鏡ガヴリール『な、なにを言って……』

ガヴリール『お前のいちばん大切なものは、なんだよ? この場所なのか?』

鏡ガヴリール『……そ、そう――』

ガヴリール『違うだろうが!』

鏡ガヴリール『……ッ』


ガヴリール『お前がいちばん大切にしないといけないのは……、こいつじゃないのか?』

タプリス『て、天真先輩……?』

ガヴリール『場所なんて……過去の思い出なんて、どうでもいいんだよ』

ガヴリール『大事なのは、これからこいつと……どうするか、じゃないのか?』

鏡ガヴリール『わ、私には……未来なんて……』


ガヴリール『……私が氏んだら、お前も氏ぬんだぞ?』

ガヴリール『お前は、こいつから、私たちを奪う気なのか?』

鏡ガヴリール『……ッ』

35: 2017/05/28(日) 21:44:52.156 ID:p/zwPpQN0
 
鏡ガヴリール『……わかり、ました』

ガヴリール『そうか』

鏡ガヴリール『ですが、少しだけ……五分だけ、時間をいただけないでしょうか?』

鏡ガヴリール『この子と、五分だけ……、どうか、お願いします……』

ガヴリール『……わかった。ラフィエル、外に出るぞ』

ラフィエル『は、はい』


 バタンッ


タプリス『……』

鏡ガヴリール『……ごめんなさい、みっともないところを見られてしまいましたね』

タプリス『い、いえ、そんな……』

鏡ガヴリール『まさか、自分自身に説教をされるとは思いませんでした』

タプリス『せ、先輩、わたし!』

鏡ガヴリール『ありがとうね、タプリス』

タプリス『えっ』

鏡ガヴリール『偽りの私に、かけがえのない思い出をくれて、どうもありがとう』

タプリス『……い、偽りなんかじゃないです、先輩は』

鏡ガヴリール『タプリス?』

タプリス『わたしがどれだけ、先輩のことを尊敬していたと思ってるんですか』

タプリス『今の先輩は紛れもなく、あのときの天真先輩そのものです』

鏡ガヴリール『そう……それなら、よかった』


鏡ガヴリール『私の大好きな本、また、読んでくれると嬉しい』

タプリス『……もう、数え切れないくらい、読みました』

タプリス『先輩が、どんなお顔をして読んでいるかが、目に浮かんでくるくらいですから』

タプリス『だから……これからも、たくさん、たくさん読みます』

鏡ガヴリール『そうですか……では、いつでも会えますね』ニコッ

36: 2017/05/28(日) 21:46:50.133 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール『……時間だ。いくぞ』

鏡ガヴリール『みなさん、タプリスのこと、よろしくお願いします』

ラフィエル『ええ、任されました』

ガヴリール『……心配するな』


タプリス『先輩……ぐすっ……本当に、本当に、ありがとうございました』

タプリス『わたしの夢を叶えてくれて、ありがとう、ございました!』

鏡ガヴリール『……タプリス』


 ぎゅぅぅ

タプリス『あっ……』

鏡ガヴリール『また、会いましょうね』

タプリス『……はいっ』


 パァァァァッ


ガヴリール『……成功したか』

ラフィエル『これで、ガヴちゃんの精気の流出は、止まったはずです』

ラフィエル『あとは時間とともに、回復するでしょう』

ガヴリール『……タプリス、大丈夫か?』

タプリス『はい、わたしは大丈夫です』

タプリス『それより今回は、みなさんに、多大なご迷惑をおかけして……』

ガヴリール『お前の迷惑なんて、いつものことだろ』

タプリス『うぅ……』

ラフィエル『まぁ、そんなところもかわいいって、ガヴちゃんは言いたいんですよ』

タプリス『えっ?』

ガヴリール『……勝手に言ってろ』


ガヴリール『ほら、さっさと、帰るぞ』

タプリス『は、はい!』

37: 2017/05/28(日) 21:48:50.975 ID:p/zwPpQN0
 
-数週間後 ガヴリールの家-


タプリス「天真先輩、またこんなに散らかして!」

タプリス「あっちの先輩だったら、こんな汚部屋、絶対に認めないですよ!」

ガヴリール「私はな、常に進化してるんだよ」

タプリス「そうやって、意味のわからないことで誤魔化そうとして……」

ガヴリール「というわけで、掃除、よろしく頼むわ」


タプリス「はぁ、もう……しょうがないですね」

タプリス「まずは棚の掃除から……って、あれ、この本は……」

タプリス(そうですよね、こっちの先輩が持っていたっておかしくないですよね)

タプリス(昔好きだった本、ということですから)


 ぎゅぅ

タプリス(天真先輩……)


ガヴリール「どうしたんだ、本なんか抱えて」

タプリス「い、いえ、何でもないです」

ガヴリール「ああ、その本、まだあったのか」

タプリス「え、先輩もしかして、覚えて……」

ガヴリール「それ、もう読まないから処分していいぞ」

タプリス「はぁ!? な、何を言ってるんですか!」

ガヴリール「な、なんだよ、そんな大声出して……」

タプリス「信じられません! この本は、先輩の大好きな本なんですよ!」

ガヴリール「言っただろ、私は過去にとらわれない天使だって」

タプリス「聞いてませんし、言ってません!」

38: 2017/05/28(日) 21:50:50.076 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール「まぁいいや。じゃあ、私が処分するから、寄越せ」グイッ

タプリス「ダメです! 捨てさせません!」グイッ

ガヴリール「私の持ち物なんだから、どうしようと私の勝手だろ!」グイッグイッ

タプリス「これだけは、絶対にダメなんですってばッ!」グイッグイッ


 スポンッ

タプリス「あ」

ガヴリール「え?」


 ヒュゥン ゴスッ

ガヴリール「あがッ!!」


 バタンッ


タプリス「あわわ……、本の角が、先輩の頭に……」


ガヴリール「」


タプリス「せ、先輩、大丈夫ですか?」ユサユサ

ガヴリール「……ん」

タプリス「よ、よかったぁ、無事だったんですね」

ガヴリール「……タ、タプリス?」

タプリス「はい?」


 ぎゅぅぅ

タプリス「せ、先輩? 急に抱きつくなんて……」カァァ

ガヴリール「タプリス……また、会えて嬉しいです」

タプリス「えっ? ま、まさか……」

ガヴリール「ええ。そのまさか、です」

39: 2017/05/28(日) 21:53:45.937 ID:p/zwPpQN0
 
ガヴリール「やっと、表に出ることができました」

タプリス「せ、先輩っ!」


 ぎゅぅぅ

タプリス「わたしも……わたしも、お会いしたかったです!」

ガヴリール「もうタプリスったら、くすぐったいです」


タプリス「でも、どうして急に出ることができたんですか?」

ガヴリール「もしかすると、あちらの私の意識が途絶えたから、ですかね」

タプリス「あははは……心当たり、大アリです」

ガヴリール「ですけど……、一日くらい、体を借りてもいいですよね」

タプリス「はい、大丈夫です! わたしが許可します!」


ガヴリール「ありがとう。それにしても、ひどい部屋ですね。私の格好も」

タプリス「これが、あっちの先輩のスタイルですから……」

ガヴリール「ですが、全て片付けてたら、それだけで一日が終わってしまいます」

ガヴリール「最低限だけ準備して、すぐに出発しますよ、タプリス」

タプリス「え、ど、どこにですか?」


ガヴリール「それはもちろん……図書館です」

ガヴリール「タプリスと読みたい本がですね、まだまだ、たくさんあるんですから」

タプリス「あ……えへへ、わたしも、です」



ガヴリール「さ、タプリス、行きましょうか」


タプリス「はいっ、天真先輩っ」



おしまい

43: 2017/05/28(日) 22:27:43.952
おつ

44: 2017/05/28(日) 22:28:25.762
面白かった

引用元: ガヴリール「千咲ちゃん、鏡の世界に迷い込む」