1: 2014/07/27(日) 01:17:24.67 ID:hFlWJWgko

千早「……」フゥ

千早「ああ……私は、鳥になりたい……」

千早「二つの翼で、大空を駆ける、あの鳥たちに……」

千早「何者にも囚われない、あの広い広い空を、どこまでも飛んでいきたい……」

千早「どこまでも……」

(スッ)

春香「千早ちゃん……」

千早「春香……」

 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406391434

2: 2014/07/27(日) 01:19:12.57 ID:hFlWJWgko

春香「千早ちゃんは……魚……」

千早「!?」

春香「私たちを見つめながら、足を手に入れて、地上を駆けめぐりたいと願う」

春香「魚……」

千早「いえ、違、私は」

春香「でも、私たちは知っている……」

春香「地上を走れたところで、特に何も得るものはないことを……というか疲れるだけなことを……」

春香「それどころか、車だのなんだの発明して、歩くこと自体を放棄しようとしていることを……」

千早「……でも、魚が足を得て地上を手に入れたことで、生命は進化し、私たちも生まれたわ」

春香「そうだね、長期的に見ればね……」

3: 2014/07/27(日) 01:21:47.38 ID:hFlWJWgko

春香「……エルギネルペトン」

千早「!?」

春香「じゃあ千早ちゃんは、エルギネルペトン……」

千早「エル……なんですって?」

春香「現在発見された中で、最も原始的な四肢動物……」

春香「要は魚に足が生えた状態、太古の両生類……」

千早「え、ちょ、いえあの」

春香「……はっきり言って、きもい」

千早「あの」

4: 2014/07/27(日) 01:27:27.62 ID:hFlWJWgko

春香「千早ちゃんは、空を飛べる鳥になりたいと言う……」

春香「魚は地上を駆けたいと願い、エルギネルペトンになった……」

春香「つまり千早ちゃんは……エルギネルペトン……」

春香「魚に足が生えた、異様……」

春香「千早ちゃんは、自ら望んでそれになりたいと言う……」

千早「……」

春香「まな板の上の……千早……」

春香「……なるほど、哲学的に、非常に高度な思考実験なのかな……」

千早「……」



千早「……人は人ね。鳥になれなくてもいいわ」

春香「そうだね……」

5: 2014/07/27(日) 01:30:33.05 ID:hFlWJWgko




千早「……」フゥ

千早「私は、もっと上を目指したい……」

千早「もっともっとたくさんの人に、私の歌を聴いてほしい……」

千早「そして、その心を魅了し、掴みたい……」

千早「日本中の……いえ、世界中の人々の……」

(スッ)

春香「千早ちゃん……」

千早「春香……?」

7: 2014/07/27(日) 01:37:51.82 ID:hFlWJWgko

春香「千早ちゃんは……発情期……」

千早「!?」

春香「さて……ここで自然の生き物に目を向けてみましょう……」

春香「人間以外にも、歌やそれに近いものを用いる生物は数多くいる……」

春香「そのほとんどは、求愛行動によるもの……」

千早「そういうことじゃなくて」

春香「主に雄が、雌を我が物にせんとして……」

春香「ライバルの雄たちと、競い合い、奪い合う……」

春香「世は正に、大発情時代……」

千早「……何も異性の気を引こうとしてるわけじゃないから、当てはまらないわ」

春香「そうだね、今の話だけならね……」

9: 2014/07/27(日) 01:42:49.24 ID:hFlWJWgko

春香「……かたつむり」

千早「!?」

春香「じゃあ千早ちゃんは、かたつむり……」

千早「かたつ……えっ」

春香「雄も雌もない、両性……」

春香「とりあえず生殖活動しようと思ったら、個体がもう一体いればいい……」

千早「いや、私そういうのじゃ」

春香「男も女もない、のべつ幕なしにサーチアンド生殖……」

千早「聞いて」

10: 2014/07/27(日) 01:44:30.14 ID:hFlWJWgko

春香「歌とは、異性を獲得するための生殖活動の一環……」

春香「千早ちゃんは単純な自己顕示という枠を超え……」

春香「世界中に、自分の子孫を繁栄させたいと願ってる……」

春香「男女見境なくターゲットにする様は、まさにかたつむり……」

春香「良かったね……世界中に認められたら、世界中から愛が殺到するよ……」

千早「……」

春香「……つまり、千早ちゃんは愛が欲しい……?」

春香「そっか……千早ちゃん、愛を求めて寂しがってたんだね……」

千早「……」



千早「私、何のために歌ってるのか分からなくなってきたわ……」

春香「そっか……」

11: 2014/07/27(日) 01:51:09.23 ID:hFlWJWgko



千早「……」フゥ

千早「私は本当は、あまりバラエティに出たくない……」

千早「プロデューサーは知名度のためだというけれど……」

千早「正直、もう少し減らしてもいいと思う……」

千早「事務所の知名度も上がってるし、やりたい人だけやれば……」

(スッ)

春香「千早ちゃん……」

千早「ひっ、は、春香っ……」

12: 2014/07/27(日) 01:58:00.14 ID:hFlWJWgko

春香「千早ちゃんは……カッコウ……」

千早「!?」

春香「知名度を上げるのは、アイドルにとって大切なこと……」

春香「そしてそれは、自分の実力で積み重ねていかなければいけないこと……」

春香「人にやってもらってお零れに預かろうなんて……」

千早「そ、そんなつもりじゃ」

春香「気持ちが分からないわけじゃない……」

春香「でも私は親友として、心を鬼にする……」

春香「思い上がるな……」

千早「で、でも……そうよ、効率よ、その間に私は私ができることで事務所のために」

春香「そこまで、やりたくないんだね……」

13: 2014/07/27(日) 02:10:18.23 ID:hFlWJWgko

春香「……ロボトミー」

千早「!?」

春香「そんな千早ちゃんには、ロボトミー手術をプレゼント……」

千早「ロボト……えっ、切除?」

春香「言うこと聞かなきゃこれ一本……」

春香「映画『カッコーの巣の上で』でも大活躍……」

千早「あれって確か前頭葉を切断……」

春香「ちょきんと一発あら不思議……抵抗する気はなくなります……」

千早「やめて」

14: 2014/07/27(日) 02:12:43.49 ID:hFlWJWgko

春香「まぁ、冗談はさておき……」

春香「人の巣でぬくぬく育ててもらおうなんて、甘い……」

春香「苦手なら、逃げるんじゃなくて、好きになる努力を……」

春香「逃げるのなら、こんな業界辞めちゃうべきだよ……」

春香「出来ることは無意味でもやる、くらいじゃないと、成果は出ないよ……」

千早「……」

春香「千早ちゃんは、出来るんだから……」

春香「私も傍にいるよ……」

千早「……」



千早「ありがとう、春香……私、間違ってた……」

春香「いい話だなぁ……」

15: 2014/07/27(日) 02:16:03.80 ID:hFlWJWgko



千早「……」フゥ

千早「どちらにしようかしら……」

千早「100g50円のもやしと、1kg400円のもやし……」

千早「単価的には……1kgは実に2割引き」

千早「やっぱりこっちの1kgを……」

(スッ)

やよい「千早さん……」

千早「はるっ……なんだ、高槻さんね……」

17: 2014/07/27(日) 02:22:36.54 ID:hFlWJWgko

やよい「千早さんは……カモ……」

千早「えっ!?」

やよい「確かに一見すると、単価は1kgの方が安いです……」

やよい「でも、一人暮らしの千早さんが、1kgも食べますか……」

やよい「値段に踊らされたカモが、ネギ背負ってレジへ……」

千早「そ、それは……」

やよい「賞味期限は、明後日……単純計算でも、それまで6食……」

やよい「1食当たり170g弱のもやし……」

やよい「……まず食べない……」

千早「で、でももやしパーティーで食べたのは美味しかったわ、あれなら……」

やよい「もやしパーティーですか……」

18: 2014/07/27(日) 02:26:32.54 ID:hFlWJWgko

やよい「……怪奇、鉄板女……」

千早「!?」

やよい「新たなる都市伝説の誕生……」

千早「てっぱ……いえ、さすがに持ち歩きは」

やよい「もやしパーティーは焼きたてが命……」

やよい「食べたいなら、毎食鉄板が必須……」

千早「そんなに奥深いものだったのね……」

やよい「もやし料理の神髄を、甘く見ないで下さい……」

千早「あ、はい……」

19: 2014/07/27(日) 02:35:01.12 ID:hFlWJWgko

やよい「千早さんのようなカモは、小売業界には大人気……」

やよい「『私、賢くお買い物してる!』と思わせたもの勝ち……」

やよい「いえ……美希さん曰くカモ先生から何も考えないことを学ぶそうなので……」

やよい「カモ以下ですね……」

やよい「あ、考えてみたら鉄板、常に携帯してましたね、胸部に……」

千早「……」

やよい「ちなみに、ここのもやし高いってレベルじゃないです……」

やよい「千早さん、やっぱり何も考えてないんですね……」

千早「……」



千早「……罵られるのが若干、気持ちいいわ……」

やよい「そうですか……」

20: 2014/07/27(日) 02:39:00.42 ID:hFlWJWgko




千早「……」フゥ

千早(どうしようかしら……)

千早(特に悩みとかはないわね……)

千早(困ったこともないし……)

千早(ため息つく振りまではしてみたけれど……)

(ジーッ)

春香「……」チラッ

千早(監視されてる……)

21: 2014/07/27(日) 02:45:35.71 ID:hFlWJWgko

春香「……千早ちゃん……ううん、もっと深刻そうに……」

千早(リハーサルしてる……)

春香「千早ちゃんは……カメムシ……」

千早(やめて……私を何に例えようとしてるの……)

春香「いまいちかな……カマドウマの方がいいかな……」

千早(離れて、虫から離れて……)

千早「どうしたら離れてくれるのかしら……」

(スッ)

やよい「千早さん……」

千早「た、高槻さん……」

春香「あっ」

千早(春香……出遅れたわね……)

22: 2014/07/27(日) 02:51:12.13 ID:hFlWJWgko

やよい「千早さんは……サークルクラッシャー……」

千早「!?」

やよい「思わせぶりな態度で……周囲を籠絡……」

やよい「その毒牙にかかったものは、逃げられません……」

やよい「でもその気はないなんて……酷い……」

千早「ま、待って。それってどういう」

やよい「春香さん……」

春香「っ」ビクッ

やよい「いますよね……かむひあ……」

春香「何故……茂みに潜んでいた私の存在を……」ガサガサ

千早「リボン、はみ出してたわよ……」

29: 2014/07/27(日) 19:07:40.77 ID:hFlWJWgko

やよい「春香さんは……蛾……」

春香「!?」

やよい「夜の明かりに吸い寄せられるように迷い込む……」

やよい「哀れな蛾……」

やよい「千早さんの思わせぶりな態度に、騙されて……」

千早「えっ私のせい」

やよい「飛んで火に入る夏の虫……」

やよい「電灯の容器の中に迷い込み……」

やよい「そのまま出られず、干からびてエンド……」

春香「……それでも構わない。私は、千早ちゃんといられるなら」

千早「は?」

やよい「ふふふ……可哀想な春香さん……」

30: 2014/07/27(日) 19:14:18.06 ID:hFlWJWgko

やよい「……勘違い女……」

春香「今なんて」

やよい「春香さんは……勘違い女……」

やよい「ここで、蛾の生態についてワンポイントレッスン……」

やよい「夜、蛾が明かりに集まるのは、光を求めているからではありません……」

千早「え、そうなの?」

やよい「走光性を持つ蛾は、本来太陽や月、星の光を受け、その角度を保つことで飛行姿勢を制御します……」

やよい「しかし電灯などの明かりがあると、それと誤認し、角度を保とうと周囲をぐるぐる飛び回る……」

やよい「そして徐々に螺旋を描いて近づいていき……明りから離れられなくなるのです……」

千早「なるほど、つまり」

やよい「そう、つまり……」

やよい「はる蛾さんは、千早さんを光と見間違えただけ……」

春香「今なんて」

やよい「はる蛾さん……」

春香「今なんて」

31: 2014/07/27(日) 19:52:21.60
はる蛾さんとこ蝶りさん
一体どこで差がついたのか…

32: 2014/07/27(日) 20:29:42.49 ID:hFlWJWgko

春香「いい度胸してるね、やよい……」

やよい「うっうー……やりますか……」

春香「中学生と高校生の腕力の違い、思い知らせてあげる……」

やよい「飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのこと……私の腕力を知りませんね……」

春香「おりゃー……」

やよい「ほあー……」

千早「二人とも、私のために争わないで!」



千早「はっ」

千早「夢ね……」

33: 2014/07/27(日) 20:31:07.68 ID:hFlWJWgko

千早「……」フゥ

千早「一体私は、どうしてしまったのかしら……」

千早「あんな夢見るなんて、どうかしてるわ……」

千早「きっとおかしくなってしまったのね、私……」

(スッ)

春香「あれ? 千早ちゃん、どうしたの?」

千早「春香……」

34: 2014/07/27(日) 20:44:00.68 ID:hFlWJWgko

春香「そんな深刻そうな顔しちゃって。悩み事かな?」

千早「少し気分が落ち込んでて……」

春香「そっか……そんな時は歌うのが一番だよ!」

千早「歌……」

春香「歌って、ダンスして、身体いっぱい動かそう!」

春香「そうすれば気分も晴れて、楽しくなるよ!」

千早「春香……」

35: 2014/07/27(日) 20:47:27.49 ID:hFlWJWgko

千早「春香は……インド映画……」

春香「!?」

千早「主人公を襲う脅威……ヒロインに迫る魔の手……」

千早「さぁ、クライマックスの盛り上がり、どのようなグッドエンドか……バッドエンドか……」

千早「いいえ、ダンスです……」

春香「え、違、そういう意味じゃ」

千早「敵味方入り乱れのダンスパーティー……とりあえず踊っときゃ満足だ……」

春香「と、とりあえずとかじゃなくて」

千早「でも残念……誰もが皆インド人ではない……」

千早「というか……誰が踊り子を用意するの……自費か……」

春香「……」

36: 2014/07/27(日) 20:57:00.33 ID:hFlWJWgko

春香「うわぁん!」

P「どうした」

春香「千早ちゃんが! 千早ちゃんがぁ!」

P「ほう、千早が」

春香「千早ちゃんが……」

P「そうか……大丈夫だ春香、俺が何とかする……」

春香「プロデューサーさん……!」

(スッ)

千早「プロデューサー……」

春香「ち、千早ちゃん……」

37: 2014/07/27(日) 21:03:48.42 ID:hFlWJWgko

千早「プロデューサーは……カマキリ……」

P「ほう」

千早「……ハリガネムシ寄生済み……」

P「!?」

千早「脳の髄まで社畜に侵され、意思とは関係なく水辺へ連れて行かされる……」

千早「到着したらもう用はない……内臓食われてジ・エンド……」

千早「自分の意思で動いてると思いこんで……」

P「そ、そんなことはない……そんなことは……」

千早「では、この曲をお聴きください……」

38: 2014/07/27(日) 21:08:01.30 ID:hFlWJWgko

(カチッ)

『テケテンテテンテンテンテテン♪ テケテンテテンテンテンテテン♪』

P「うわああああ時間制限がああああ」

『ポポポポポポポポポポポポ』

P「うわああああメッセージがああああ」

千早「そう……プロデューサーの行動は自分の意志などではない……」

千早「全ては決められた行動……」

千早「データが消えるその日まで……」

P「……」



P「そうだったのか……俺は所詮……」

春香「プロデューサーさぁん!」

千早「また一人……迷える子羊が増えてしまったわ……」

39: 2014/07/27(日) 21:12:12.27 ID:hFlWJWgko

千早「……」フゥ

千早「春香もプロデューサーも、この気持ちを治すことはできなかった……」

千早「これはもうダメみたいですね……」

千早「ああ、大空を小鳥が飛んでいる……」

千早「初心に戻って、鳥になりたい……」

(スッ)

やよい「千早さん……」

千早「高槻さん……」

40: 2014/07/27(日) 21:15:14.87 ID:hFlWJWgko

やよい「えへへ、千早さん。だいじょーぶですよ」

千早「高槻さんは……」

やよい「別に、何かに例えなくてもいいかなーって」

やよい「私は私だし、千早さんは千早さん」

やよい「ありのままで居てくれるだけで、私は嬉しいです!」

千早「高槻さん……」

やよい「辛いことも悲しいことも、いっぱいあると思います」

やよい「でも、私は千早さんに、どんなに辛いこと言われても悲しいこと言われても」

やよい「それでも、千早さんのことがだーいすきです!」

千早「そんな……私はそんな言葉をかけられるような人間じゃ……」

やよい「それを決めるのは私ですー!」

41: 2014/07/27(日) 21:18:39.86 ID:hFlWJWgko

やよい「どんな時でも、私がいます、千早さん」

千早「高槻さん……私は……私は……!」

やよい「もうだいじょうーぶですよ……だから、私と一緒に……」

千早「高槻さぁん!」

千早「私、高槻さんがいないとダメ! 高槻さんが居てくれないと、私……!」

やよい「千早さん……」

42: 2014/07/27(日) 21:19:37.50 ID:hFlWJWgko

やよい「……千早さんは、賞味期限間近の特売セール品女……」

千早「えっ今なんて」

やよい「持ち上げればすぐ落ちる、安い女」

千早「今なんて」




おしまい

43: 2014/07/27(日) 21:20:46.40 ID:hFlWJWgko
最初の一発ネタができればとりあえず満足でした
お疲れ様でした

45: 2014/07/28(月) 03:38:59.76
やよいこわい


引用元: 千早「鳥になりたい……」