7: 2012/05/04(金) 21:45:15.67 ID:8XKUwTr40
 8月上旬/午後/765プロ事務所

亜美・真美「あっづ~い……」ヘター

春香「ほんとに、夏はつらいよね~」パタパタ

亜美「壊れたエアコン!」

真美「オンボロのエアコン!」

亜美&真美「役立たずのエアコン!」

あずさ「そうねえ~……。ちょっと、胸元が蒸れちゃうわ~」ヒラヒラ

 ハム蔵「ktkr」ガタッ

響「こらハム蔵~。見ちゃダメだぞ~」ヘタリ

あずさ「あらあら。ハム蔵ちゃんはエOチなのね~」

千早「くっ……」ググッ

11: 2012/05/04(金) 21:47:46.16 ID:8XKUwTr40
伊織「それでね……、カーナビが示していたのは……」

伊織「ふか~い崖の、向こうだったの」

雪歩「ひぃっ」

真「……」ゴクッ

伊織「その時……耳元で……」

伊織「落ちればよかったのに……」ボソッ

雪歩&真「いやああああ!」ビクビクッ

伊織「にひひっ! どう? 涼しくなったでしょ?」

真「こ、怖すぎるよ伊織ぃ!」ガタガタ

伊織「まったく、感謝しなさいよね? それよりも……」

伊織「…………」

伊織(本当に暑いわね……)

伊織(スケジュールも真っ白。こんなんで良いのかしら……)

雪歩「……伊織ちゃん? どうしたの?」キョトン

伊織「へっ? な、なんでもないわよ」

13: 2012/05/04(金) 21:51:09.39 ID:8XKUwTr40
扉「ガチャ」

P「みんなー、アイス買ってきたぞ~!」

亜美「やったー! 兄(C)愛してる~!」パアア

真美「さっすが真美の見込んだオトコだねっ!」タタタ

春香「プロデューサーさん、お疲れ様です~」

響「真~! アイス食べるぞー!」

真「わかった! 行こ、雪歩」ガシッ

雪歩「うん! 伊織ちゃんも」

伊織「…………」

 雪歩「伊織ちゃん?」ハテナ

 伊織「そ、そうね。行きましょ」ガタッ

15: 2012/05/04(金) 21:54:53.85 ID:8XKUwTr40

P「ん? 伊織、食べないのか?」

伊織「しょ、食欲ないのよっ」

P「そっか。しかし、こう暑いと……捗らないよなあ」

伊織「はかどるも何も、仕事全然ないじゃない」ハア

P「うう、耳が痛い」

伊織「ね、ねえ……あんた」

P「なんだー?」ペロペロ

伊織「……ちょっと、話があるんだけど」

P「悩み事か? それじゃ、ちょっと場所移そう」


…………

……

17: 2012/05/04(金) 21:57:54.36 ID:8XKUwTr40
午後/765プロ事務所屋上

P「何もわざわざこんな場所に来なくても……」

伊織「い、いいのよ。ほら、ちゃんと日陰もあるでしょ?」

P「まあ、そうだな。座ろう、伊織」

伊織「ええ……」チョコン

P「…………」

伊織「…………」

 P「……って、何か話せよっ!」バシッ

 伊織「…………」


18: 2012/05/04(金) 22:01:35.10 ID:8XKUwTr40
 P「……伊織、どうしたんだ?」

 伊織「ねえ、私たち……もっと出来る事があるんじゃないかしら」

 P「……仕事が少ないことを言ってるのか?」

 伊織「何ていうか、その……」

 P「不安なのか? この先」

 伊織「ま、まあ……そんなところよ」シュン

 P「確かに、今の状況を見れば、焦る気持ちも分かるよ」

 伊織「どうすれば、いいんだろ……」

 P「でもさ。ちょっとずつ頑張っていくしか無いと俺は思うよ。皆と一緒にさ」

 伊織「そんなの……わかってるわよ」プイ

 P「…………」

 伊織「…………」


19: 2012/05/04(金) 22:04:23.48 ID:8XKUwTr40
 P「……なあ、伊織」スタッ

 伊織「なによ」

 P「どっか、行きたいところ無いか?」クルリ

 伊織「!? な、なんでそんな事……」アセアセ

P「どこか連れてってやろうと思って。あ、流石に海外とかは無理だぞ?」ニコッ

 伊織「……ふ、2人で?」

 P「伊織が嫌じゃなければ、それでも良いよ」

 伊織「…………あんた、へ、ヘンな事考えてるんじゃないでしょうね」ジトッ

 P「はは。そんなわけないだろ」

 伊織「…………」

 伊織「……そうね」

 P「……ん?」


22: 2012/05/04(金) 22:08:03.58 ID:8XKUwTr40
 伊織「海に、行きたいかな」

 P「よし。それじゃ、今度の休みに行こうか」

 伊織「ねえ、これって……その」

 伊織「で、デート……ってやつ?」カアア

 P「2人で行くんなら、そうなるんじゃないか?」

 伊織「……ま、まあ? 本来なら伊織ちゃんがアンタなんかと、で、デートするはずないんだけど? どうしてもって言うのなら付き合ってあげるわ」フンッ

 P「おっ! 何だかいつもの調子に戻ってきたみたいだな」

 伊織「う、うるさいわね。それより……」クルリ


23: 2012/05/04(金) 22:11:57.49 ID:8XKUwTr40
 P「な、なんだよ……」

 伊織「いいこと? この事は、ゼッタイに秘密よ?」ビシッ

 P「何でだ? 別にプライベートで海に行くことくらい……」

 伊織「そ、そうじゃなくって! その……」

 伊織(は、恥ずかしいなんて、言えない。それに、喋ったら春香たちも着いてくるかも……)

 P「……わかった。この事は、二人だけの秘密な」

 伊織「わ、わかればいいのよっ」フイッ

 P「はいはい。それじゃ、そろそろ戻ろう」


 …………

 ……

24: 2012/05/04(金) 22:14:20.28 ID:8XKUwTr40
前日/19:00/水瀬邸

電話『ぷるるる』

執事『はい……水瀬でございます』

執事『これはこれは……。少々、お待ちくださいませ』

扉「トントン」

執事「お嬢様。菊池真様からお電話です」

伊織「ちょっと今手が離せないの。そう伝えてくれるかしら?」

執事「……明日は、海水浴へ行くのでしたね」

伊織「え、ええ。だから、お願いね」

執事「はい。お身体に気を付けて、楽しんで下さいませ」

執事『お待たせいたしました。生憎、お嬢様はお忙しいようで……』

執事『ええ。その件でしたら、既にお嬢様は……はい。とても楽しみにしておられる様です……』

26: 2012/05/04(金) 22:18:31.09 ID:8XKUwTr40

伊織「…………」ウロウロ

伊織「…………」ウロウロウロウロ

伊織「ど、ど、どうしよ……」

伊織「何となく海に行きたいなんて言っちゃったけど……」

伊織「…………」

伊織「ていうかそもそも、どうしてプロデューサーなんかとこの伊織ちゃんがデートすることに……?」カアア

伊織「ま、まずは落ち着きましょ。そう、ただの慰安旅行みたいなものよ。リフレッシュ目的なんだから」

伊織「あ、明日の水着選ばなきゃ。プロデューサーはどんなのが好みなのかしら……?」

伊織「…………って」


28: 2012/05/04(金) 22:21:25.37 ID:8XKUwTr40
伊織「ど、どうしてアイツの好みなんかに合わせる必要があるのよ~!」バタバタ

ベッド「ばふん」

伊織「…………」

伊織「どうしちゃったんだろ……私」

伊織「ねえ、うさちゃん。分かる?」

うさちゃん「…………」

伊織「わかるわけ……ないよね」ハア

伊織「…………」

伊織「……準備済ませて、早く寝なきゃ」


…………

……


30: 2012/05/04(金) 22:25:10.98 ID:8XKUwTr40
当日/7:30/765プロ事務所前

伊織「…………」

春香「あっ! 伊織おはよー」ノシ

美希「もう、でこちゃん遅いよ~」

真「はは。美希もさっき来たばかりじゃないか」

伊織「な、何でアンタたちが居るのよ!?」

亜美「いやあ、絶好の海水浴びよりですなあ」

真美「いよ→っし! 今日は遊びまくるよ~!」


31: 2012/05/04(金) 22:28:44.37 ID:8XKUwTr40
やよい「海なんて何年振りかなあ~」キラキラ

あずさ「やよいちゃんは、海が好きなの~?」

やよい「はいっ! しっかり体操しなきゃですねっ!」

雪歩「響ちゃん。ハム蔵って泳げるの?」ハテナ

響「もちろん泳げるぞ! なっ! ハム蔵♪」

ハム蔵「おう」

貴音「潮の香りが待ち遠しいですね……」

千早「プロデューサー。荷物、全員載せ終わりました」

P「ああ。ありがとな。千早」

伊織「…………」ジトーッ


32: 2012/05/04(金) 22:30:56.30 ID:8XKUwTr40
P「や、やあ……おはよう、伊織」

伊織「……」ツカツカ

伊織「ちょっと……こっち来なさいよっ」

P「わわっ! 引っ張るなよ伊織」

伊織「アンタ、皆に話したの?」コソコソ

P「誤解しないでくれよ。俺は何も……」コソコソ

伊織「じゃあ、何でこうなってるのよっ!」

P「いやあ、実は昨日の夜……」

…………

……

33: 2012/05/04(金) 22:34:06.82 ID:8XKUwTr40
昨夜/20:00/765プロ事務所

P「ふう……やっと終わった」

P「もう遅くなっちゃったし。さっさと帰ろう」

携帯「ブルルル……。ブルルル」

P「誰からだ? ……わっ! 社長からだ!」

P『お疲れ様です。社長」

社長『いやあ、突然済まない。今どこに居るのかね?』

P『事務所ですが……、これから帰るところですよ』

社長『遅くまで悪いね。それより君、明日の予定はどうなっているんだね?』

P『明日ですか? 実は……海に行く予定がありまして……』

社長『もしや……〇×△浜かね?』



34: 2012/05/04(金) 22:37:01.15 ID:8XKUwTr40
P『ええ。そうですが……。どうかしたんですか?』

社長『いやね、私の古い友人が旅館を経営していてね。事務所のアイドルも連れて遊びに来ないかと、誘われてしまったんだよ』

P『ええ!? って言っても……、もう21時ですよ?』

社長『今日になって、突然部屋が空いたらしくてねえ。既に、アイドル諸君には連絡網で伝えてもらっているんだが……』

P『そ、そうだったんですか……急な話ですね』

社長『そこで、君にアイドル諸君の引率を任せたいんだよ。いや、安心してくれたまえ。律子君も、音無君も来てくれるそうだ』

P『は、はあ……了解しました』

社長『すまないね。それでは、明日は楽しもうじゃないか。はっはっは』

携帯『ブチッ。ツー、ツー』

P『伊織……。すまん』

…………

……

36: 2012/05/04(金) 22:40:55.53 ID:8XKUwTr40
P「とまあ、そんなわけで」

亜美「兄ちゃ~ん、早く出発しようよ~」ヤンヤ

真美「海が真美達を呼んでるよ~」ヤンヤ

伊織「……それなら、昨日のうちに電話くらい寄越しなさいよね」プイッ

P「すまん! 俺に連絡が来たのが遅かったから、迷惑かなと思ったし、準備とかで忙しくって」

伊織「……浮かれてた私がバカみたいじゃない……」ボソッ

P「ほんとにすまん!」

春香「プロデューサーさん! 準備おっけーですよ~」

P「わ、わかったー! 伊織。機嫌直してくれよ。せっかくの海なんだしさ」

伊織「……仕方ないわね。もう」


…………

……

37: 2012/05/04(金) 22:44:07.15 ID:8XKUwTr40
9:00/海・浜辺

春香「わあー! ウェミダー!」キラキラ

美希「ミキがいっちばんなのー!」タタタ

真「あっ! ずるいよ美希! ボクも!」タタタ

亜美「浮き輪よしっ!」

真美「水鉄砲よしっ!」

亜美&真美「いざ、突撃ぃ~!」タタタ

P「おーい! ちゃんと体操しろ~、怪我するぞ~」

律子「みんな、楽しそうですね」

P「そうだな。急な話だったのに、まさか全員で来れるなんて」

小鳥「みんな、どれだけ暇なんですかね~」


39: 2012/05/04(金) 22:48:38.30 ID:8XKUwTr40
P「いや……それ小鳥さんも同じじゃ……」

小鳥「放っといてください」ズウーン

P「そ、それじゃ、ちょっと社長に会って来ます」タッタッタ

律子「お疲れ様です。それじゃ小鳥さん、私たちも泳ぎましょう」

小鳥「そ、そうですね~。あ、律子さんは先にどうぞ~」

律子「そうですか? じゃあお先に」テクテク

小鳥「…………」

小鳥(水着になんてなれないわよ。常識的に考えて)ハア

小鳥「…………ぐすん」


…………

……

41: 2012/05/04(金) 22:52:36.31 ID:8XKUwTr40
11:00/浜辺・パラソル

春香「ちーはーやーちゃん」テクテク

千早「春香。どうしたの?」

春香「千早ちゃんこそ。泳がないの?」

千早「わ、私は……」

春香「ほらTシャツ脱いで! 皆で遊ぼうよ!」

千早「ちょ、春香ぁ、自分で脱げるから……」バタバタ

春香「千早ちゃんの水着、とっても可愛いよ?」


44: 2012/05/04(金) 22:55:36.06 ID:8XKUwTr40
千早「そ、そうかしら……?」モジモジ

あずさ「ええ。千早ちゃんらしくて良いと思うわよ~」

貴音「このような日陰でくすぶっているのは、勿体ないと思いますよ、千早」

春香「あずささんに貴音さん……い、いつの間に」

千早「…………」ジーッ

あずさ「……? どおしたの?」キョトン

貴音「なにやら胸に視線を感じるのですが……」

千早「な、なんでもありません……」

千早「…………」

千早「くっ」

…………

……

45: 2012/05/04(金) 22:59:56.59 ID:8XKUwTr40
12:00/浜辺

P(やっぱり伊織には悪いことしたな)

P(お詫びにはならないだろうけど、昼飯でもご馳走してあげよう)

P(えーと、伊織はどこだ?)キョロキョロ

伊織「…………」

P「よ。みんなと遊ばないのか?」

伊織「別にアンタには関係ないでしょ。それに、今はこうして海を眺めていたいの」ツーン

P「そっか。なあ、伊織」

伊織「……何よ」


46: 2012/05/04(金) 23:02:38.06 ID:8XKUwTr40
P「その水着、似合ってるよ」

伊織「……う、うそよ//」

P「いや、本当に」

伊織「……ほんとにホント?」

P「ああ。可愛いと思うよ」

伊織「……そ、そう! まあ、このスーパーアイドル伊織ちゃんの水着姿なんだから、見蕩れて当然よねっ!」パアア

P「自分で言うなよ。それと、ごめんな。こんな事になっちゃって」

伊織「……べ、別に気にしてないわよ」フンッ

P「本当か?」

伊織「いいのよ。社長の頼みだし、アンタは断れる立場じゃないのもわかってる」


49: 2012/05/04(金) 23:06:07.59 ID:8XKUwTr40
P「ほんとに、悪いな」

伊織「もういいわ。それより、伊織ちゃんお腹空いちゃった」

P「ああ。何が食べたい?」

伊織「なんでもいいわよ。アンタが決めなさいっ」ビシッ

P「ええ? 俺伊織の好みなんてわからないぞ?」

伊織「プロデューサーなんだから、アイドルの好き嫌いくらい把握しときなさいよねっ?」

P「はあ……わかったよ。とりあえず、行こう」

伊織「…………」

伊織(水着……か、かわいいって……///)

P「伊織~。早く来~い」

伊織「わ、わかってるわよ~」タタタ

…………

……

51: 2012/05/04(金) 23:11:23.13 ID:8XKUwTr40
12:15/海の家「ラビット」

P「結構混んでるなー」

伊織「まったく、なんで伊織ちゃんが、こんな人混みの中で食事しなきゃいけないのよ」

P「はは。仕方ないだろ。むしろ、そういう騒がしさを楽しまないと」

伊織「そういうものかしら?」

P「そういうもんさ。それじゃ、何頼もうかな」ペラ

伊織「とりあえず、オレンジジュースね♪」

P「え? オレンジジュース?」キョトン

伊織「な、何よその顔。なんか文句あるわけ!?」

P「いや、子供っぽいなと……痛っ!」ゲシッ

伊織「悪かったわね……子供で」

P「あ、足を蹴るなよ……。でも」

伊織「でも……なによ?」ジト


54: 2012/05/04(金) 23:23:42.43 ID:8XKUwTr40
P「それはそれで、可愛いと思うよ。俺は」

伊織「か、かわいい?」

P「まあ、なんとなくだけど」

伊織「……そっか。可愛い、ね。ふ~ん」

P「伊織? どうしたー?」

伊織「な、なんでもないわよっ! それより、オレンジジュースは身体に良いんだから。アンタも飲みなさいよね?」ビシッ

P「はいはい。わかったよ。他には何頼もうか?」

伊織「やっぱり海に来たんだから、普段とは違う料理が食べたいわね」

P「そうは言っても、伊織は一般人の俺とは違って、舌が肥えてるだろうしなあ。眼鏡に適うものがあるか……」

伊織「……あんた、間違ってるわよ」

P「え?」


56: 2012/05/04(金) 23:27:30.14 ID:8XKUwTr40
伊織「とびきり高くて良い素材を使った料理でも、一人で食べてちゃ美味しくないものなのよ」

P「誰かと一緒に食べることが重要ってことか?」

伊織「以前、やよいの家の夕食に招かれた時に、そう思ったの」

P「へえ……そんな事があったのか。それで、どうだった?」

伊織「それがね、やよいったらスーパーで、もやしばかり大量に買うから何を作るのかなって思ったら」

P「思ったら?」

伊織「炒めたもやしをそのまま」

P「やよい……。慎ましく、頑張っているんだなあ」ホロリ

伊織「でもね? とっても美味しかったのよ。やよいの兄妹と、テーブルを囲んで、『もやし祭り』開催だーっ! ってね」

P「そっか。俺も一度参加してみたいな」

伊織「きっと快く招待してくれるわよ」ニヒッ

P「そうだといいな。それじゃあ、シーフードカレーでも食べるか?」

伊織「いいわね。あまり長居するのもお店に悪いし、さっさと注文しちゃいましょ」

…………

……

57: 2012/05/04(金) 23:31:16.88 ID:8XKUwTr40
13:30/浜辺

伊織「あれ? 雪歩じゃない?」

P「ほんとだ。……あ、あいつ何をしてるんだ?」

雪歩「トンネルを~抜けたらそこは~♪」

伊織「雪歩……。アンタ余程暇なのね……」

雪歩「わっ! い、伊織ちゃん? それに、プロデューサーも……」

P「すごいなこれ。砂の城?」

雪歩「は、はい! もう少しで完成なんですよ~」キラキラ

伊織「もうこれは遊びというより芸術レベルね」ハア

P「雪歩は器用なんだなあ」

雪歩「そ、そんなに褒めないで下さい~///」

伊織「はいはい。せいぜい頑張って掘りなさい」

P「完成したら、呼んでくれよー」

雪歩「はいっ! 頑張ります~」グッ


59: 2012/05/04(金) 23:35:43.96 ID:8XKUwTr40
14:30/浜辺

春香「プロデューサーさん! ビーチバレー、やりませんか?」トテテ

美希「ちょうど、でこちゃんも居るから2対2で勝負なの!」

P「春香と美希か。どうだろ? 伊織」

伊織「アンタが良いなら、参加してあげてもいいわよ」フンッ

P「それじゃ決まりな。よし、やろう!」グッ

春香「乗り気ですね~。じゃあ、負けた方は、勝った方の言うことを何でも聞くってコトで!」

美希「それじゃあ、美希たちが勝ったら……」

P「勝ったら?」


61: 2012/05/04(金) 23:39:12.27 ID:8XKUwTr40
美希「今日1日、ハニーは美希のモノなの!」ピョン

伊織「なっ!」

春香「ええ~? そ、それはずるいよ~」アセアセ

P「って、おい。俺は誰かの所有物になる気はないぞ……」

美希「いいでしょ~? だって、負けなきゃイイんだよ?」

P「ま、まあそうだけどさ」

伊織「そ、そんなのこの伊織ちゃんが許さないわ!」ムムッ

P「い、伊織?」

春香「いきなりどうしたのよ伊織~」

美希「へえ……なら、ミキも本気だすの!」ムムムッ

P「ただの遊びに大袈裟な……」

伊織&美希「アンタ(ハニー)は黙ってて!」

P「」


62: 2012/05/04(金) 23:43:16.25 ID:8XKUwTr40
―30分後―

P「ま、まだ続けるのか~?」ヘタリ

春香「美希ぃ……もう私動けないよ~」ペタリ

伊織「まだまだ!」バシッ

美希「全然っ、余裕、なのっ!」ドシッ

P「ほんとに、元気だなあ……」

伊織「そろそろ……本気出していいかしら……?」

美希「望むところなの……。じゃあミキも、全力出すねっ!」

バン、バシッ、ドシッ、ピシッ……。

 『グシャ』

伊織「あ……」

美希「へ……?」

P「ぐしゃ? 何の音だ?」


65: 2012/05/04(金) 23:47:59.26 ID:8XKUwTr40
春香「あ……雪歩……」

雪歩「…………」ウルウル

P「ゆ、雪歩? 大丈夫か?」

雪歩「あ、後もう少しで完成だったのに……」ウルウル

伊織「つ、つい夢中になっちゃって……ごめんなさい」

美希「あわわ。ご、ごめんなさい……なの」ペコリ

雪歩「いえ……いいんです……」ズウーン

春香「ゆ、雪歩? 元気だして? 私も手伝うから」トテテ

美希「み、ミキも手伝おっかな!」

伊織「わ、私も!」

P「じゃあ俺も……」スッ

雪歩「が、頑張りましょう……!」ペタペタ

…………

……

71: 2012/05/04(金) 23:51:38.38 ID:8XKUwTr40
 16:00/浜辺

 P「結構時間たったなあ」

 伊織「涼しくなってきたわね」

 風がそよそよ、そよそよと流れてゆく。

 穏やかに打ち寄せる波のそばを、わたしはプロデューサーと並んで歩いていた。

P「偶には、こういうのも良いもんだな」

伊織「そうね……。気分がよくなるわ」

P「はは。もう許してくれたか?」

伊織「そ、それとこれとは話が別……と言いたいところだけど。もう気にしてないわよっ」

72: 2012/05/04(金) 23:55:12.91 ID:8XKUwTr40

 水着の上から羽織った、半袖の薄いパーカーが暖かい。

 海で泳いだせいで髪が生乾きだったけれど、今はそれさえも心地よく思える。

伊織「ねえ、もう少し向こう側まで行ってみない?」クルリ

P「いいけど、あまり皆と離れちゃまずくないかな?」

伊織「一応、集合まで1時間はあるし……いいでしょ?」

P「……ま、今日は伊織に従うよ」ハア

伊織「トクベツに、あんたを伊織ちゃんのしもべにしたげるわ」クスクス

P「はいはい。お姫様」


…………

……

74: 2012/05/04(金) 23:58:18.08 ID:8XKUwTr40
伊織「ねえ、あれ何かしら?」

 P「うーん、洞穴? 洞窟?」

浜辺の端まで歩いたところで、少し入り組んだところに洞穴の様なものを見つけた。

 大きな石を重ねて造られているようで、神秘的だなあという印象を受ける。

伊織「ちょっとだけ入ってみない?」

P「危なくないかな?」

伊織「少し中を見てみるだけよ」トテテ

P「わ、わかったから走るなよ」

 伊織「はやく来なさいよね~」

十メートルほど歩くと、開けた場所に出る。

 と、同時に頭上を見て思わず感嘆の声が漏れてしまった。


76: 2012/05/05(土) 00:02:01.90 ID:3IZ4zvmF0

 いおりん誕生日おめでとー━━━(゚∀゚)━━━!!

 伊織「すごい……ここ、中から空が見えるんだ」

P「へえ……。なんか秘密基地みたいだな」

伊織「なによそれ、子供っぽい感想ね」

P「う、うるさいな。男はそういうの好きなんだよ」

伊織「でも……分からなくはないわ」クルリ

徐々に空が赤みがかってゆく。

 普段、なにげなく目にしている光景が、この場所からは不思議と特別な様に感じられた。

P「お、伊織、法螺貝だ」ヒョイ

伊織「わっ。大きいわね」

P「貝を耳に当てると、波の音が聞こえるって言わないか?」スッ


79: 2012/05/05(土) 00:06:26.64 ID:3IZ4zvmF0

伊織「それって、耳を塞ぐと聞こえる血流の音っていうオチじゃなかったかしら?」

P「伊織……ロマンがないなあ」ハア

 伊織「うるさいわねっ。それに、波の音ならここからでも聴こえるじゃない」

P「……まあ、そうだな」

伊織「……ねえ」

P「んー?」

伊織「わたし、トップアイドルになんてなれるのかしら」

 P「どうしたんだよ。自信満々な伊織はどこ行ったんだ」

伊織「わたしだって……。不安になる事くらいあるわよ」シュン

P「……何か、あったのか?」

伊織「そうじゃないの」

伊織「何もないから、怖いのよ」

 P「…………」


80: 2012/05/05(土) 00:10:59.35 ID:3IZ4zvmF0
伊織「ねえ、わたしがアイドルになった理由、話した事あったかしら?」

P「聞いたよ。自分の手で何かやってみたい、ってヤツだろ?」

伊織「そう……。ずっと、与えられてばかり居た」

伊織「それはそれで、幸せなのかもしれない。もしかしたら、贅沢を言っているだけかもしれない」

伊織「それでも、私でも何か成し遂げられるんじゃないかって」

伊織「お兄様たちと比較されても、誇れる私になりたかったの」

P「それは……大した志だと思うよ」

 伊織「……そうかしら?」

 P「……なあ伊織」

伊織「なーに?」

P「俺には、見える気がするんだよ」

P「伊織が、たくさんのファンの前で、歌って踊って、笑顔を届ける姿がさ」

伊織「…………」


83: 2012/05/05(土) 00:15:37.96 ID:3IZ4zvmF0
 P「この業界は、ライバルも多いし、生き残って行くのも大変だ。それでも」

 P「伊織なら、前に進めると思うんだよ。お前は強いよ。自信持っていいんだ」

 伊織「…………」

伊織「…………ぷっ」

P「……い、伊織?」

伊織「な、なに真顔で恥ずかしいこと言ってるのよっ!」バシッ

P「お、俺なりに励まそうとだな……」アセアセ

伊織「笑っちゃったじゃない。もう、柄にも無い事、言わないでよねっ?」クスクス

P「悪かったな……。もう言ってやらないぞ」

 伊織「でも……、その……」モジモジ

 P「ん……?」

伊織「あ、ありがと」カアア

P「…………うん」


…………

……

84: 2012/05/05(土) 00:21:23.06 ID:3IZ4zvmF0

P「それじゃ、そろそろ戻るか?」クルッ

 伊織「わたしはもう少し、ここに残るわ」

P「そっか。集合までには間に合うようにな」タタタ

伊織「いちいち言われなくても、わかってるわよっ」

 伊織「…………」

伊織「…………」グスン

伊織「……やだ。どうして?」

頬をつたう涙に気づくまで、数秒はかかった。

 自分はこんなにも涙脆かったのかと思い、少し乱暴に目をこする。

 伊織「何で、止まらないのよ」

 悲しいわけじゃない。むしろ、嬉しかったはずなのに。

 まるで今まで我慢していたものが、心の底から溢れ出るように、とめどなく涙が流れた。


85: 2012/05/05(土) 00:24:51.43 ID:3IZ4zvmF0

伊織「アイツが……、あんなこと言うから……」
 
伊織なら前に進めると思う。

 そう言われて、やっと気付いた。

 私は、ただ安堵したかったのだろう。変に思い詰めていただけなのだ。

 トップアイドルに成らなければ、という目標の大きさに、ひたすら近道を探していたのかもしれない。

伊織「何で……私に優しくしてくれるのよ……」

先程まで話をしていた、プロデューサーの顔を思い浮かべる。

 少し頼りないけど、柔和で優しげな瞳。


86: 2012/05/05(土) 00:28:58.72 ID:3IZ4zvmF0

別に、私だけが特別、というわけではない。

事務所の抱えたアイドルだから。きっと、それだけ。

 伊織「そんなこと、分かりきってるのに」

この気持ちは、何だろう。

そもそも、どうして私は二人で出かけたかった?

どうして、美希に対抗心を燃やした?

散々、水着を選ぶのに時間をかけたのは何故?

そして、それを褒められた時に感じた幸福感は、何から生まれたの?

 ああ。悟ってしまった。私は、プロデューサーに……



87: 2012/05/05(土) 00:32:18.84 ID:3IZ4zvmF0

 伊織「恋してるんだ……」

洞穴の地面の砂浜にしゃがみこみ、人差し指を立てると、曲線を描くように滑らせる。

自分の名前と、プロデューサーの名前を書いて、その周りをハートマークで囲んでみた。

 えらく字が不格好になってしまい、思わず苦笑してしまう。

伊織「何やってるんだろ? 私」

急に恥ずかしくなってきて、慌てて手のひらで砂を均す。

 これは、許されない恋なのだ。決して成就することのない、儚い感情だ。

伊織「もう……戻らなきゃ」

ぱん、ぱんと手を叩き、砂埃を落とすと、わたしは立ち上がり出口へと歩きだした。

外に出て、夕日に照らされた海を眺める。

いっその事、気持ちごとあの波に攫われてしまえば良いのに。

そう思ったけれど。

 居場所を見つけた恋心は、ただただ深く、募るばかりだった。


89: 2012/05/05(土) 00:36:15.65 ID:3IZ4zvmF0

 17:40/旅館「ナツノハナ」

春香「うわー! すごい部屋だね、千早ちゃん!」キラキラ

千早「そうね……。海が綺麗だわ」

美希「ふかふかベッドが気持ち良いの~」スリスリ

伊織「…………」

春香「伊織? どしたの? ボーッとしちゃって」

伊織「へっ? な、なんでもないわよ」アセアセ

春香「そう? あ、見てよ千早ちゃん。有線があるよ」

千早「ジャズとか聴けるのかしら?」

春香「ちょっといじってみよっか」

美希「…………」スヤスヤ


90: 2012/05/05(土) 00:40:05.78 ID:3IZ4zvmF0

扉「ガチャ」

真「春香ー! 夕食は6時半だって」スタスタ

春香「ありがと~。ね、真たちの部屋はどんな感じなの?」

真「う~ん、この部屋とほとんど変わらないと思うよ。まあ、あっちはハム蔵もいるから4人と1匹だけどね」

春香「そっかあ。プロデューサーさんは、どこの部屋だっけ?」ハテナ

真「プロデューサーは二人部屋だから……。一つ上の階かな。何か用事?」

春香「一応、部屋割りの紙作っておいたから、プロデューサーさんに渡しておこうと思って」

千早「春香は気が利くわね」

真「まあ、よく転ぶけどね」ハハハ

春香「ちょ、ちょっと真~。それは関係ないでしょー!」プンプン

伊織「…………」

伊織(プロデューサー……)ポーッ

…………

……

92: 2012/05/05(土) 00:43:16.14 ID:3IZ4zvmF0

18:30/食堂

P「みんな、揃ったかー」

春香「大丈夫でーす!」ビシッ

美希「ハニー、早く食べたいの~」バタバタ

P「はいはい。それじゃ、いただきまーす」

『いただきまーす!』

P「あれ? 伊織、隣だったのか」

伊織「そ、そうよ? わたしが隣にいちゃいけないわけ?」ドギマギ

P「また捻くれた捉え方をする」

伊織「ふ、ふんっ」プイッ


93: 2012/05/05(土) 00:46:56.27 ID:3IZ4zvmF0

P「…………美味い!」パクッ

伊織「……確かに……美味しいわね」

P「いやあ、本当に来れて良かったな。伊織」ニコッ

伊織「…………そう、ね」ドキドキ

伊織(もう、どうして話しかけて来るのよ……! 緊張して箸が進まないじゃない……///)

P「ホント、社長には感謝しないとな」

伊織「そ、そういえば、社長は何処に居るのよ?」

P「ああ。さっき古い友人と飲みに出掛けて行ったよ。多分帰るのは夜中じゃないか?」

伊織「ふ、ふ~ん」

伊織「じゃあ、アンタは部屋に一人なわけね」

P「まあな。俺以外女の子ばかりだから、しゃーないよ」

伊織「…………」

P「……どした? 伊織。顔赤いぞ?」

伊織「な、なんでもないわよっ!」カアア


96: 2012/05/05(土) 00:50:56.67 ID:3IZ4zvmF0

P「そうか……。それより、食べ終わったら風呂だぞ。楽しみだよな」

伊織「そうかしら? 人と一緒に入るのは落ち着かないわね」

P「何でだよ。そんなの気にする必要ないだろ」

伊織「お、女の子にはいろんな事情があるのよっ!」プイッ

伊織(例えば……む、胸とか……)

P「よくわからないな……」パクパク

伊織「放っといてよ……って……」ジーッ

伊織(Pのほっぺたにご飯粒がついてる……)

P「ん? どうしたんだよ伊織。人の顔じろじろ見て」

伊織「ちょ、ちょっと……じっとしてなさいよねっ?」ソーッ

伊織「…………」パクッ

 伊織(わ、私ってばなんてことを……///)


99: 2012/05/05(土) 00:54:41.11 ID:3IZ4zvmF0

亜美「あ~! いおりんが兄(C)とらぶらぶしてる~!」

真美「ひゅーひゅー、お熱いねえお二人さんっ!」パフパフ

美希「で、でこちゃん! ハニーはミキのハニーなの!」

真「い、伊織って意外と可愛いところ……あるんだね」

伊織「……ちょ、ちょっと亜美、真美!」カアア

亜美「い、いおりんが怒った~!」

真美「怖いから逃げろ~! ごちそうさま!」タタタ

伊織「あ、ちょっと……なんなのよ。もうっ」

P「……い、伊織……」

伊織「み、みっともなかったから、取ってあげただけよ! 感謝しなさいよねっ?」ツン

P「あ、ああ。ありがとう……」

伊織(わ、わたしどうしちゃったのよ~~~///)バタバタ

…………

……

101: 2012/05/05(土) 00:59:16.65 ID:3IZ4zvmF0

19:00/大浴場

春香「ああ~。生き返るね~」ホワーン

真「あはは。お婆ちゃんみたいだね、春香」

春香「そ、それはひどいよ~」><

千早「……っ、……」プククク←爆笑

春香「ちょ、ちょっと千早ちゃんも笑い過ぎ!」

あずさ「でも、本当に良いお湯ね~」

貴音「ええ……。身体の芯から暖まるようです」

響「ハム蔵も、喜んでるみたいだぞ~」

ハム蔵「パイオツデカイデー」


103: 2012/05/05(土) 01:03:12.87 ID:3IZ4zvmF0

雪歩「ほわ~んとしますね~」

やよい「こんなに広いお風呂、初めてです~」キラキラ

亜美「やはり日本の伝統ですなあ~」

真美「よきかな、よきかな」

伊織「…………///」ブクブク

美希「あっ。そういえばミキね? 皆に聞きたいことあったの」

春香「え? 何なに?」

美希「みんな、ハニーの事どう思ってるの?」ハテナ

伊織「!?」ビクッ

春香「へっ……?」キョトン

真「ど、どうって言われても……」

美希「ミキみたいに、好きなのかなーって」


105: 2012/05/05(土) 01:07:08.14 ID:3IZ4zvmF0

真「は、春香はどうなの?」

春香「わ、私? うーん……好きは好きだけど、信頼してるって言ったほうが良いかな。千早ちゃんは?」

千早「親切だし、面倒見の良い人ね」

真「ボクも……。良い人って印象が強いかな。雪歩は?」

雪歩「へっ!? わ、わたしはそもそも男の人が苦手なので……」アセアセ

真「そうだよね。それじゃ、響は?」

響「自分は、友達って感覚が近いぞー」ウンウン

真「それじゃ貴音は?」

貴音「聡明な殿方と記憶しています」


106: 2012/05/05(土) 01:11:38.59 ID:3IZ4zvmF0

あずさ「わたしも好きと言えば、好きだと思うわ~。少し抜けたところも、可愛いじゃない?」

やよい「わたしも、皆のために頑張ってくれるプロデューサーのこと好きです~!」ニパッ

亜美「ほんとに、お兄ちゃんってカンジだよねっ! 真美」ポンッ

真美「そだねっ! あんな兄ちゃんが居たら楽しいよねっ!」

伊織「…………」

真「あれ……? 伊織は?」ハテナ

伊織「わ、わたしは……その……///」

春香「伊織? のぼせちゃった?」


107: 2012/05/05(土) 01:14:46.19 ID:3IZ4zvmF0

亜美「んっふっふ~。さては……いおりん、兄(C)に恋してますな?」キラーン

伊織「……!? そ、そんなわけないじゃない! 何言ってるのよ亜美!」バシャッ

真美「んっふっふ~。この慌てっぷり……クロですな」ギラリ

伊織「いーい!? ゼッタイにわ、わたしが……プロデューサーのこと、すき、とか……、ないんだからね!」ザバッ

伊織「…………」スタスタ

扉「パシン」

亜美「あ、行っちゃった」

真美「ちょっとからかっただけなのに~」

春香「ていうか、あの反応……」

真「ま、まさか。伊織に限ってそれは無いんじゃない?」

……………………

全員(ない……よねえ?)

…………

……

109: 2012/05/05(土) 01:18:35.90 ID:3IZ4zvmF0
 
 21:30/Pの部屋

P「ていうか……お前たちいつまでここに居るつもりなんだ」

亜美「だあって~。皆一緒の方が楽しいっしょ~?」ピコピコ

真美「そうだよ~! いっけ~7連鎖!」

 春香「パネポン懐かしいな~」

真「うわっ。またやよいが大富豪!? 強いなあ~」

響「ま、まったく勝てないぞ……」ヘタリ

雪歩「あ、新しいお茶淹れてきますね~」タタ

やよい「わあい! トランプではお金持ちになれました~」エヘヘ

真「やよいいい……」ホロリ


114: 2012/05/05(土) 01:22:58.25 ID:3IZ4zvmF0

P「それよりも、あずささん、飲みすぎですよ」

あずさ「そうですか~? ほら、プロデューサーさんももっと飲んで飲んで♪」

P「いやあのですね……。もうチューハイ何本目ですか」

あずさ「う~ん……わたし、わかりませぇ~ん」ポワーン

P「…………」

あずさ「ほらほらっ乾杯しましょ? せーの」

あずさ「じゅーしーぽーりいえぇ~~い」カンッ

P「……い、いえ~い」カン


115: 2012/05/05(土) 01:26:44.76 ID:3IZ4zvmF0

あずさ「そ~れ~よ~り、プロデューサーさん、伊織ちゃんと、何かあったんですかあ~?」トローン

P「え……? どうしてですか?」キョトン

あずさ「何だかあ~、伊織ちゃん、プロデューサーさんのことが、す、すうき~みたいですよ~?」

P「スキー? 今夏ですよ?」

あずさ「だあからあ……す、き……むにゃむにゃ」

P「あ~あ。春香、千早、ちょっと頼まれてくれるか?」

春香「はいっ! あずささんを、小鳥さんのトコに連れていけば良いんですね?」ビシッ

千早「だ、大丈夫ですか? あずささん……」

あずさ「わ、わたしだって……恋のひとつやふたつ~……」

春香「ささ、行きましょ」ズルズル

扉「ガチャ」


117: 2012/05/05(土) 01:31:09.81 ID:3IZ4zvmF0

P(そういえば、伊織の姿が見えないな)

P「なあ、伊織がどこに居るか知ってるか?」

真「伊織なら、さっき出ていきましたよ」ハイッ

雪歩「確か……浜辺に行くって言ってたような……」

P「そうか。ありがと。もう遅いし、ちょっと呼んでくるよ」

亜美「いってらっしゃ~い」ピコピコ

真美「しゃ~い」ピコピコ

P「お前たちも、そろそろゲームやめて、部屋にもどるんだぞ~」

…………

……

119: 2012/05/05(土) 01:35:40.62 ID:3IZ4zvmF0

22:00/浜辺

 伊織「どうすればいいのよ……」

プロデューサーの事が、頭から離れない。

 穏やかに揺れる海を眺めていても、ふとした拍子に思い浮かべてしまう。

伊織「こんな気持ち……わかんないわよ」

この歳になって、ようやく異性を好きになることを知った。

 思い描いていたよりも、辛くて、とても苦しい。

 こんな思いをするなら、恋なんてしなければ良かった。

伊織「好き……って、言っちゃ、ダメよね」

気持ちを伝えてしまえば、今の関係は確実に崩れてしまう。

 それが何よりも怖かった。いつも強がってばかりいたはずなのに、わたしはとんだ臆病者だ。

 P「伊織。なに、してるんだ?」


121: 2012/05/05(土) 01:39:21.78 ID:3IZ4zvmF0

突然、背後から声をかけられて、びくりと肩が震えてしまう。

 鼓動が速くなって、時計が刻む音とは程遠い不安定な心音が、直接頭の中で響くようだった。

伊織「……見てわからない? 海を眺めてるの」ツン

P「いや、そうじゃなくてだな。そろそろ戻ろう? 風邪でも引いたら大変だ」

伊織「……心配、してくれてるわけ?」チラッ

P「そんなの当然だろ? 俺はプロデューサーなんだから」

伊織「……そう」

プロデューサーだから。

その言葉を聞いて、チクリと胸が痛む。

 理解していたつもりだったのに、いざ言葉にされると辛くて、私は自嘲気味に小さく笑った。

P「何か……まだ悩んでるのか?」

伊織「べ、別に悩んでなんか……」


124: 2012/05/05(土) 01:42:30.74 ID:3IZ4zvmF0

P「嘘つけ。それぐらい俺にだってわかるよ」

伊織「…………バカ」

もう、いっその事すべて打ち明けてしまおうか。

 そうすれば、この胸に抱えたモノは消えるのだろうか?

 わからないけれど……。

伊織「ねえ……ちょっと話があるの。着いてきて?」

P「え……? いいけど、あまり遅くはなれないぞ?」

伊織「大丈夫……。すぐ済むから」

 月の浮かぶ夜空を見上げる。

 月には兎が住んでいると言うが、月の兎には、願いを叶える力があるのだろうか……?

 無くてもいい。それでも、わたしは洞穴へと向かう道中、ひたすら月に祈っていた。

 どうか、私に勇気を下さい。

 …………

……

127: 2012/05/05(土) 01:46:34.49 ID:3IZ4zvmF0

22:10/洞穴

洞穴の内部は明るかった。

夜空から注ぐ星と月の光に照らされて、さながら異世界に迷い込んだかのようだ。

P「夜じゃ暗いかと思ったが……すごいな」

伊織「私も驚いたわ。どうしてこんなに明るいのかしら? それに……」

とても、綺麗と思いつつ、まばたきする間も惜しいほど美しい月光に、私は身を委ねた。

中心に立つと、スポットライトに照らされたような気がして、何だか気恥ずかしい。

それでも、私は意を決して、プロデューサーへと向き直った。


129: 2012/05/05(土) 01:49:56.60 ID:3IZ4zvmF0

伊織「こうしていると、自分が特別な存在になれた気がするわね」

P「…………」

伊織「私ね、ずっと誰かのトクベツになりたかったんだと思う」

伊織「出来の良い兄たちに囲まれて、辛くて」

伊織「社長に無理を言って事務所に入れてもらって。皆に出会って。そして、アンタにも会えた」

P「……うん」

伊織「わたしね、すっごく感謝してるのよ。目標を持って生きるのって、楽しいからね」

伊織「でもね、今日の夕方、ここであんたに励まされた時に気づいちゃったの」

P「伊織?」


130: 2012/05/05(土) 01:54:00.07 ID:3IZ4zvmF0

伊織「わたしね? 恋、してた」

伊織「皆のために頑張るあんたも、優しいあんたも、ドジなあんたも、ちょっと頑固なあんたも」

 伊織「そして、私の背中を押してくれるあんたも、全部、好きになってたの」

P「…………」

これで、こんな気持ちともお別れだ。

 こんなに苦しい思いは、これっきりにしたい。今にも泣き出しそうなくらいに、胸が痛くて仕方なかった。

 伊織「…………っ」グスン

P「伊織? 泣いてるのか?」

伊織「…………」タタタ

P「……伊織」


132: 2012/05/05(土) 01:58:33.08 ID:3IZ4zvmF0

気づけば、私はプロデューサーの胸に飛び込んでいた。

 好きだと伝えた瞬間、消えると思っていた気持ちは、何倍にも膨れて弾けてしまった。

私は間違っていた。忘れることなんて、出来やしなかった。

伊織「ごめん……なさいっ! 迷惑だってわかってる!」

 伊織「でも……でもっ! 辛いの、苦しいの。ねえ、助けてよ……」

P「…………」

伊織「ちょっとだけでいいから……甘えさせてよ」

 柄にもない事を、口走っていたような気がする。

 でも仕方がなかった。だって好きなのだから。

 離れたくなくて、プロデューサーの体温を確かめるように、幼子みたいに頬ずりをする。

P「伊織……嬉しいよ。俺の事、そんな風に思ってくれていたなんて」

伊織「……私だって……、さっき気付いたばかりだもん」

P「そっか。でもさ、今は……駄目だよ」

伊織「…………」


133: 2012/05/05(土) 02:00:04.87 ID:3IZ4zvmF0

P「これから、どんどん仕事も増えると思うんだ。俺も律子も社長も、皆のために走り回ってる」

P「それに、伊織たちだって努力してる。ダンスや歌のレッスンをしたり、オーディションをいくつも受けたり」

P「そういう姿を見てるとさ、こっちまで楽しくなるんだ。俺も頑張らなきゃって、元気が湧いてくる」

P「だからさ、今はプロデューサーの仕事に力を尽くしたいんだよ」

 伊織「…………」

伊織「……それじゃ、いつか私と、その……」モジモジ

P「俺も、伊織の事は好きだし、可愛いと思ってるよ」


134: 2012/05/05(土) 02:04:33.96 ID:3IZ4zvmF0

伊織「な、なな!? う、嘘よっ!」ドキマギ

P「いやホントに。何ていうか、放っておけない感じ?」

伊織「……それって、馬鹿にしてる?」

P「いや、褒めてるよ」

伊織「よくわからないけど……。うれしい」スリスリ

P「お、おい……。でも、その付き合うとか……そういうのは……」アセアセ

伊織「わかってるわよ。でも、今だけは許して欲しいの」

P「……伊織」ナデナデ

伊織「こ、子供扱いしないでよねっ?」プクー

 P「……はいはい」

伊織「ね、ねえ……」

P「ん?」


136: 2012/05/05(土) 02:08:16.95 ID:3IZ4zvmF0

伊織「わたしがトップアイドルになったら……恋人にしてくれる?」

P「なれたらな」

伊織「い、言ったわね? 約束。ずうっと、忘れちゃダメだからね?」パアア

P「わかった」

伊織「……わたし、頑張るから」

P「ああ。俺も応援するよ」

伊織「ね、もう一度言って?」

P「……何を?」

伊織「好きって、言って?」

P「……好き」

伊織「でも、残念! 私の方が、もーっと好きだもんっ///」

…………

……

140: 2012/05/05(土) 02:11:59.88 ID:3IZ4zvmF0

翌日/10:00/旅館「ナツノハナ」前

春香「プロデューサーさーん! 皆準備おっけーです!」

P「わかったー。そろそろ出発しよう」

伊織「…………」

P「おい伊織。置いてくぞー」

伊織「よ、よく考えれば……。昨日の私、すっごく恥ずかしいコト言ってたような……」カアア

P「ああ。そうだなあ」

 P「『もっと甘えさせて~』『好きで好きでしょうがないの~』『私の方が好きだもん~』だっけ?」

伊織「ば、バカあああ~~~///」ポカポカ

P「い、痛いって! 冗談だから……」

伊織「つ、次は許さないんだからね?」ツーン

P「わかった。ほら伊織、行こう?」

141: 2012/05/05(土) 02:15:16.38 ID:3IZ4zvmF0

伊織「ね、約束。お、覚えてるわよね……?」モジモジ

P「ああ、勿論覚えてるよ。伊織がトップアイドルになったら……」

伊織「い、言わないでよもうっ! 皆にバレちゃったらどうするのよ!」

P「も、もうバレているような……」

亜美「真美隊員! いおりんが乙女の顔をしているでありますっ!」ビシッ

真美「こ、これは……間違いなくラヴの香りがするでありますっ!」

美希「も~、でこちゃん! ハニーは美希のなんだよ~?|」プンプン

伊織「亜美! 真美! ヘンなコト言わないでよね!?」カアア

P「ほら、さっさと乗るぞ。みんなが待ってる」

伊織「わかったわよ……」

伊織「ねえ……?」

 P「んー?」

伊織『スキスキ、だーい好き!』

FIN

142: 2012/05/05(土) 02:16:03.22
いいっすね

144: 2012/05/05(土) 02:16:43.26
乙です

151: 2012/05/05(土) 02:19:03.74 ID:3IZ4zvmF0

読んで下さり、ありがとうございました。

リクエストのあった、いおりんのSSを、誕生日に書けて良かったと思います。

『次はこんなキャラのこんなSSが読みたい!』

という、意見も頂ければ、検討します。

また、質問等あれば、レスを下さい。


158: 2012/05/05(土) 02:32:19.97 ID:3IZ4zvmF0
>>153

今まで真美、やよい、美希、貴音、そしていおりん

と書いてきましたが、一応全員書いてみたいなあと思っています。


161: 2012/05/05(土) 02:40:23.10 ID:3IZ4zvmF0
>>160

小鳥さんも大好きなので書きますよ~

ピヨピヨ

引用元: 伊織「スキスキ、だーい好き!」