1: 2013/09/09(月) 18:00:12.14 ID:1jzpEnI60
商人「……で、その義賊さまがこんな道端でなにしてるの?」

盗賊「いえ……路銀が尽きまして……。あ、あなたすごい”くま”ですね。疲れてるんですか?」ピクッ、ピクッ

商人「これは素よ。ほっといて。それより、あんたの方がやばそうだけど?」

盗賊「す、すみませんが、なにか、食べ物を……」グゥゥゥゥ

商人「食用マンドラゴラならあるけど……」ゴソゴソ

盗賊「マ、マンドラゴラって食べられるんですか?」

商人「わりとおいしい」

 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378717211

2: 2013/09/09(月) 18:05:40.18 ID:1jzpEnI60
盗賊「はむ……あぐ……むぐ……」ガツガツ

商人「食べ方汚いなぁ……」

盗賊「あなたはテンション低めですね……」

商人「一応それ、商品だから」

盗賊「なんと! ならば、恩は返さないといけません」

盗賊「しかし、私にはお金がない。……そうだ!」

商人「……?」

盗賊「あなたの行商を手伝わせてください!」

商人「……まぁ、それなら……」

盗賊「契約成立ですね!」

盗賊「私は恩に報いるため、あなたについていきます!」

商人「……ま、いっか」

3: 2013/09/09(月) 18:12:56.01 ID:1jzpEnI60
盗賊「商人は、どんなものを売り歩いているんですか?」

商人「……野菜とか果物」

盗賊「あ~、いいですよね。野菜に果物。健康にいいって聞きますし」

商人「食べるのは私じゃないけどね……」

盗賊「あ、そうですね……」

商人「うん……」

盗賊(話が続かない……)

商人(う~む。話題が思い浮かばない……)

盗賊「そういえば、目下の目的地はどこですか?」

商人「北の村」

盗賊「北の村といえば、人参が……」ペラペラ

商人(連れてきたの失敗だったかなぁ……)


4: 2013/09/09(月) 18:22:32.38 ID:1jzpEnI60
<北の村>

北商人「こんにちは、儲かってますか? くたばれ」

商人「ぼちぼちです。くたばれ」

盗賊「な、なんですか、今の挨拶」

商人「商人は敵同士。互いに潰しあいたいから、本音が出るのは必然なのよ」

盗賊「そ……そういうものなんでしょうか?」

商人「そんなことより、取引相手のところに行くわ」

盗賊「あ、はい!」

5: 2013/09/09(月) 18:31:05.53 ID:1jzpEnI60
商人「こんにちは」

男「お待ちしておりました。商人さん。はは、今日も麗しい」

商人「あ、そういうのいいんで、巻きでお願いします」

男「はい……」

盗賊「すごく……ドライです」

男「ええと、今回の品は食用マンドラゴラ。葡萄苺他、十二品目ですね?」

商人「はい……」

男「いや~、なかなかね。商人さんの品はどこよりも素晴らしいんですが、その……値段がですね?」

商人「嫌なら、他をあたりますけど?」

男「い、いえいえ、滅相もない! 我が食堂で使用させていただきますとも!」

商人「交渉成立ですね」

盗賊(すごい強引ですね……)

6: 2013/09/09(月) 20:46:14.45 ID:1jzpEnI60
商人「あとは……ここで得たお金を妹たちに……」

盗賊「妹さんがいるんですか?」

商人「うん。四人。うちは、両親いないから、私が養っていかないと……」

盗賊「……」ブルブル


商人「盗賊?」

盗賊「感動しました! 妹のために一生懸命働く姉! なんと素晴らしいことでしょうか! あ、小銭落ちてる」

商人「……落ち着きなさいよ」ジトー

盗賊「あ……あはは。お、お見苦しいところを……」

商人(私に食べ物もらったのは見苦しくないのかなぁ?)

7: 2013/09/10(火) 07:04:42.05 ID:jdLJcunH0
盗賊「商人の家は、どこにあるんですか?」

商人「西の町」

盗賊「そこはあんまり詳しくないです、私!」

商人(詳しかったら、なんだったんだろう)

商人「……マンドラゴラ畑があるわ」

盗賊「へー! 阿鼻叫喚な感じになりそうですね!」

商人「まぁね」

盗賊「では、しゅっぱ~つ!」

商人「あれ? あんたが指揮とるの?」

8: 2013/09/10(火) 07:35:38.68 ID:jdLJcunH0
商人「あ、あれなんだろう?」

キノコ「赤いぜ!」ズォォォオォ

盗賊「ああ、これは紅天狗ですね。猛毒ですよ」

商人「なんだ、売り物にならないのか」

盗賊(この子の判断基準はそれだけなんでしょうか……)

少女の声「いやー! 離して!!」

貴族「へっへっへっ! てめーら平民は俺たち貴族の慰みものになってりゃいいんだよ!」

取り巻き「ほっほっほ」

商人「……!」

盗賊「待ちなさい!」

商人「あ……」

10: 2013/09/10(火) 17:01:16.29 ID:jdLJcunH0
貴族「なんだぁ、てめぇは!? 面妖なお面しやがって!」

少女「お面の人……」

商人「お面? ……あ、いつの間に」

盗賊「ふん! 悪党に名乗る名前などありません!」オメーン

貴族「悪党だぁ? おいおい、貴族にそんなこと言って、許されると思ってんのかよ!」

商人「許されないのは、あなたたちの方よ」

貴族「あ?」

盗賊「商人?」

商人「そんな小さい子を寄ってたかっていじめるやつらが、悪党じゃなくてなんだって言うのよ!」

貴族「くく、面白れぇ! 野郎ども、やっちまいな!」

取り巻き「はっ!」

商人「待っててね、すぐ助けてあげる」ニコ

少女「う……うん」ポッ

11: 2013/09/10(火) 17:26:37.93 ID:jdLJcunH0
商人「……」チラ

盗賊「……? (……ああ、なるほど)」コク

商人「行くわ」スチャ

取り巻き「ふはは! 我等に勝てるとで……」

商人「うるさい」ヒュッ

取り巻き「は、速い! ぐぁぁ!!」ブシュッ

商人「次!」

取り巻き「お、女に遅れを取るなぁ!」

商人「時代遅れな連中ね」

商人「風 塵 壁!」ゴォォォォォォォ!!

取り巻き「こいつ、魔法まで! ぬぉわぁぁぁ!!」ヒュゥゥウゥ!!

商人「……」ギロ

貴族「ふ、ふふふ、な、なかなかやるようだな。だが、これはどうだ!」スチャッ

少女「ひっ!」

商人「女の子人質にとれないと戦えないとか、哀れな人ね」

貴族「な、なんとでも言え! 口でなんと言おうと、俺の有利はかわらない!」

商人「はぁ……」

12: 2013/09/10(火) 17:31:41.53 ID:jdLJcunH0
貴族「どうした、観念したのか?」

商人「逆よ。気づかない?」

盗賊「な~んで、私目立てなかったんでしょうね?」ゴリッ

貴族「お面やろう!」

盗賊「野郎じゃないです。……その子を話しなさい。さもなければ、私の銃弾があなたを貫きますよ」

貴族「くっ!」バッ

商人「こっちに来て!」

少女「う……うん」タタタ

商人「よしよし、もう大丈夫(この子、よく見たら角が生えてる。魔族?)」ギュッ

盗賊「ま、そういうことです」

13: 2013/09/10(火) 18:00:34.01 ID:jdLJcunH0
盗賊「で、これからどうするんです?」

商人「そいつふんじばって、森の中にでも捨てましょうか」

盗賊「物騒ですが、いい提案です。まぁ、私もそういう心得はあります。はっ!」

貴族「なっ!? 近場の木が蠢いて!?」

盗賊「土魔法には、そういった系統のものもあります」

木「……」ヒュンッ

貴族「ぐぇっ!!」

盗賊「さて……ここからは早く逃げた方がいいですね」

少女「どーして?」ダキッ

商人「~~!!」ドキドキ

盗賊「悪徳貴族は別の組織と繋がってたりしますから。ただし、もらうものは頂いて……って商人、どうしたんですか?」

商人「な……なんでもない」カァァ

少女「お姉ちゃん、どきどき?」

商人「え?」キュン

盗賊「はいはい、行きますよ」

商人「う……うん」

盗賊(ツッコミがない……さびしい)

14: 2013/09/10(火) 18:19:10.33 ID:jdLJcunH0
盗賊「有り金はす~べていただいて~っと」ゴソゴソ

盗賊「ふふふ。一割は私のものに……」

商人「義賊じゃなかったの?」

盗賊「お、調子が戻ってきたみたいですね。……ふふふ、甘いですね」

少女「?」

盗賊「義賊と言えども、私生活があるんです!」パカッ

商人「まぁ、そうね」

盗賊「あ、はい。(……仮面とって大振りアクションまでしたのに、反応が薄い……)」

商人「あなた、お家は?」

少女「お家、ないの。悪い人に焼かれちゃった……」

15: 2013/09/10(火) 18:57:23.30 ID:jdLJcunH0
商人「……私の家に来なさい」

少女「え?」

商人「私があなたを養ってあげる」

少女「いいの?」

商人「似たような子、いっぱいいるから」

少女「煮たような子?」

商人「うん。みんな家も、親もいないの。……大丈夫。大人になるまでは私が養ってあげるから、ね?」

少女「う……うん」コクッ

盗賊「なんか、私より義賊っぽいです……」

商人「……盗賊も、少しは見直したよ」

盗賊「ああ、、やっぱり最初の評価悪かったんですね。とっ、早くここから離れましょう!」

商人「うん」カカエ

少女「うわ!?」

商人「あ……ごめん。でも、私が抱えて走るからね」

少女「うん」

盗賊(商人は子供相手には優しい顔を見せますね……)

16: 2013/09/10(火) 19:37:10.75 ID:jdLJcunH0
盗賊「はっ! まさか口リコン!?」タタタ

少女「ろりこん?」

商人「なにそれ?」タタタ

盗賊「え? 少女は予想できてましたけど、商人も知らないんですか?」タタタ

商人「知らない」

少女「知らな~い」

盗賊(案外、商人は純情な子なのかも……)

盗賊「……とっ、ここまでくれば大丈夫でしょう」キュッ

商人「じゃあ、あとは私の家に向かおう」

少女「むかう~!」

盗賊(すっかりなついてる。はっ! 天然たらし! ……いや、私が汚れすぎなだけですね)

17: 2013/09/10(火) 20:42:59.40 ID:jdLJcunH0
盗賊「おや? この道端に見えるのはもしや?」

マンドラゴラ「ゴルァ!!」ジー

商人「うん。マンドラゴラ。少女、危ないから目を合わせちゃダメだよ?」

少女「え?」ズボッ

マンドラゴラ「ギャァァァァア!!」

少女「うわ、すごい声!」キィィィィィン

商人「盗賊、大丈夫?」キィィィィィン

盗賊「な、なんであなたたち平気そうなんですか……?」ビクッビクン!

商人「慣れてるから」

少女「わたしはね、たいせーがあるんだって」

盗賊「そ、そうですか……」ビクンビクン

18: 2013/09/10(火) 20:54:27.45 ID:jdLJcunH0
少女「あ……でも、二人とも、魔族は嫌い?」

商人「私をあんなやつらと一緒にしないでよ。あなたの種族なんか関係ないわ。困っている子がいたら、助ける」ニコッ

少女(かっこいい……)

盗賊「私は、前から魔族の友人がいますよ」

商人「あんた、意外と交友関係広いのね……」

盗賊「意外とはなんですか、意外とは」

少女「あはは」

盗賊「その子は今は連絡取れませんけどね。ま、生きていればまた会えるでしょう」

少女「とーぞく、前向き」

盗賊「人間、前向きが一番です」ナデナデ

少女「ん……」タタ

盗賊「あ……」

少女「おねーちゃん、あれやって、とーぞくがやったの」

商人「あ、頭撫でればいいの?」ドキドキ

盗賊「はは、ふられましたか」

商人「……」ナデナデ

少女「気持ちいい」

商人「それはよかった」

盗賊「ま、よしとしましょう」

19: 2013/09/11(水) 16:06:43.85 ID:5/UK20yZ0
盗賊「しかし……私は仮面をしていて身元が割れていないのですが、少女と商人は顔を知られてしまいましたね」

商人「追ってが来るかもしれない……ってこと?」

少女「こわい人たち……」ブルブル

商人「大丈夫、お姉ちゃんがついてる」ナデナデ

盗賊「しかし、そうなった場合どうするんですか?」

商人「その時考えるわ」

盗賊「商人って、意外と楽天家ですよね」

商人「あんたに言われたくはない」

少女「ないー」

盗賊「うう……少女の無邪気さが私を傷つける……」

20: 2013/09/11(水) 20:30:28.47 ID:5/UK20yZ0
盗賊「まったく、名誉毀損です! 訴えますよ?」

商人「……」

盗賊「ど、どうしたんですか?」

商人「あんた、それでも義賊よね?」

盗賊「そうですけど?」

商人「なら、あんたを役所に突き出せばお金がもらえるんじゃ……」

盗賊「うわぁ! すごくドライな関係! 悪魔ですか!?」

商人「いや、元々そんな深い関係でもないし……」

盗賊「ひぃ!」

商人「ま、冗談よ。あんた捕まえさせても、その後あんたが夢で襲ってきそうだし」

盗賊「私のことなんだと思ってるんですか……」

21: 2013/09/12(木) 07:09:39.74 ID:G5prKSP00
盗賊「あーもういーですよーだ! 貴族の館荒らしに行きますー!」

商人「いや、そんなすねなくても……。……あ、でもいいわね、それ」

盗賊「取引相手の危機が起きてもなにも感じないなんて、商人は行商人としては失格みたいですね」

商人「あんた、もしかして、商人が全部悪徳貴族やら領主とつながってると思ってるの?」

盗賊「違うんですか?」

商人「違う」

少女「ちがうー」

商人「それに、人間失格になるくらいなら、行商人失格でもいいわ」

盗賊「商人、かっこいいです……。少女が惚れるのもわかりますね」

少女「……!」ドキッ

商人「え? なんのこと?」

少女「むぅ……」ガスッ

商人「いたっ! 少女、すね蹴らないでよ……」

盗賊(すごく鈍感ですね……)


22: 2013/09/12(木) 07:13:38.37 ID:G5prKSP00
商人「あ、でも少女を送り届けてからじゃないと……」

少女「おねーちゃんと一緒がいー!」ギュッ

商人「でも、またあの怖い人たちに会っちゃうかもしれないんだよ?」

少女「……」ビクッ!

少女「お、おねーちゃんがいるから大丈夫。あととーぞくも!」

盗賊「わ、私も数に入っているんですか?」

少女「うん! おねーちゃんもとーぞくも、すっごく強いから!」

商人「ちょっと、照れくさいなぁ……」モジモジ

盗賊「わっかりました! そういうことならこの盗賊! しっかりと期待に答えましょう!」

23: 2013/09/12(木) 21:56:29.31 ID:G5prKSP00
<???>

大貴族「……娘を逃がしたと?」

貴族「は……はい……」

大貴族「ふむ、今日のワシは機嫌がいい。お前とは別のルートで二人も娘を手に入れた」スチャッ

貴族「は……はぁ……。大貴族さま、それは?」

大貴族「む? ああ、これは写真というらしい。一瞬を一枚の紙に記録するそうだ」レロォ

貴族(うわっ、キモ)ヒキッ

大貴族「ふん。いつワシの気が変わるか知れん。とっとと失せろ!」

貴族「はっ、はい!」ソソクサ

大貴族「ふむ。なるほど、この娘もなかなか……」レロ…レロォ


24: 2013/09/13(金) 06:35:47.55
商人「路銀は……行商しながら稼ぐとして……しょうがない、配達業者に頼むかなぁ……」

盗賊「配達業者?」

商人「知らないの?」

少女「しらなーい」

商人「いや……少女は仕方ないけどさ」

盗賊「私は仕方なくないんですか?」

商人「……簡単に言えば、荷物を本人の代わりに届けてくれる人よ。色々手続きが面倒だから頼りたくはないけどね」

盗賊(あ、スルーされた)

少女「ごめん……」

少女「少女は気にしなくていいのよ」ナデナデ

盗賊(むぅ……。撫でるのがすっかり板についてますね。というか、初めから慣れた動きだったような……)

盗賊「さすがに、四人の妹がいると貫禄があるということでしょうか」

商人「?」

盗賊「いえ、なんでもありません」

25: 2013/09/14(土) 05:43:53.05 ID:SnJRQcC20
<町>

配達業者「では……、西の村までですね?」

商人「はい。よろしくお願いします」

配達業者「かしこまりました!」タタッ

商人「ふぅ。後は、あの貴族の大元を探るだけね。でも、どうやって?」

盗賊「ふふふ。私を侮ってはいけません! ここらへんの悪徳者のことなど、すでに調べ尽くしています!!」

少女「わー、とーぞく、すごい?」パチパチパチ

盗賊「そうです。私はすごいんです! もっと褒めてください!」

商人「そういうのはいいから、話進めてよ」

盗賊「商人、やっぱり冷たいです……」シクシク

少女「とーぞく、きっといいことあるよ」ポンポン

盗賊「うう……。ありがとうございます。少女は優しいですね」ズビー

商人(小さい子に慰められる義賊……)

26: 2013/09/14(土) 08:04:10.71 ID:SnJRQcC20
盗賊「ま、ともかくですよ? 場所はわかっているということです」

商人「じゃあ、さっそく殴り込みに……」

盗賊「ダメです」ガシ

商人「……なんでよ?」ムッ

少女「なんで~?」

盗賊「昼間は警備が厳重です。夜に行くのがいいでしょう」

商人「なるほど……」

盗賊「それまでは、どこぞの宿で時間を潰しましょう」

商人「了解」

少女「りょーかい」

商人(なんだか私たち、少女に悪影響を与えているような……)

30: 2013/09/14(土) 20:31:58.44 ID:SnJRQcC20
<宿>

商人「……」ゾゴゴゴゴ

受付「え、えっと大人二名、子供一名でよろしいでしょうか?」

盗賊「はい、お願いします」

少女「……」ゾゴゴゴゴ

受付「で、ではどうぞごゆっくり……」

盗賊「ありがとうございます」

商人「……」スタスタスタ

少女「……」スタスタスタ

受付「は、般若面?」

31: 2013/09/14(土) 20:36:25.05 ID:SnJRQcC20
<部屋>

商人「ぷはっ」カポッ

少女「ぷはぁ」カポッ

盗賊「ふぅ。バレずに済みましたね」

商人「盗賊、もっとマシなチョイスなかったの?」

盗賊「あいにく、持ち合わせがそれしかなくて……」

商人「かえって怪しまれた気がするけど……」

少女「はんにゃ、あやしい?」

盗賊「大丈夫です! 怪しまれても、正体がバレなきゃいいんですよ!」

商人「……そうだけどさぁ」

盗賊「つべこべ言わずに寝なさい!」

商人・少女「は~い」

32: 2013/09/15(日) 07:17:09.20 ID:B2OJA0x30
少女「……」スピー

商人「やっぱり、子どもは寝るのが早いわね」

盗賊「健康的です」

商人「ねぇ、盗賊?」

盗賊「なんですか?」

商人「少女は連れてかない方がいいんじゃ……」

盗賊「心配なのはわかりますが、一人にしておいた方が危険ということもあります。結果的には連れて行った方が安全でしょう」

商人「……うん。ところでさ」

盗賊「今度はなんですか? そろそろ私も寝ますよ?」

商人「義賊って言っても、あんたは無職よね」

盗賊「それは言わないお約束です……」

33: 2013/09/15(日) 18:44:00.47 ID:B2OJA0x30
<朝>
受付「さくばんはおたのしみでしたね」

盗賊「誤解を招くようなことは言わないでください」

商人「楽しいこととかする前に寝ちゃったけど……」

少女「うん。すぐにねた~」

盗賊「いや、そういう意味じゃ……ま、いっか」

受付「では、ご利用ありがとうございました(二度と来るな!)」

盗賊「はい。またいつか!」

受付(またいつかじゃねぇよ)

34: 2013/09/15(日) 20:46:53.55 ID:B2OJA0x30
商人「……盗賊、まだ般若面つけてないといけないの?」

盗賊「当然です! バレたら元も子もありません!」

商人「その理論だと、私と少女は一生これつけてないといけなくなるんだけど……」

少女「やだ~!」

盗賊「それは……仕方なかったと思うしかないんです」

商人「私も絶対やだ」

盗賊「それはともかく、さっそく貴族のところへ潜入しましょう!」

商人(盗賊って、なんでついてきたんだっけ……)

37: 2013/09/17(火) 07:01:39.06 ID:Gpi6JMwP0
<郊外の森>

盗賊「あそこから見えるでっかい建物が、貴族の居場所です」スッ

少女「みえな~い」キョロキョロ

商人「ああ、少女はまだ、夜目が効かないのね……」

盗賊「私も商人も、旅をしていると、夜を過ごすのは必然になりますからね……」

商人「ねぇ、少女、おなかすかない?」

少女「すいた~」

盗賊「夜食は感心しませんよ?」

商人「まぁ、ちょっとだけよ。おなか減って動けません、じゃ洒落ににならないでしょ?」

盗賊「まぁ、それも、一理ありますね」

商人「じゃ、ごはんたべよっか」

少女「わ~い!」

38: 2013/09/17(火) 07:08:14.27 ID:Gpi6JMwP0
商人「はい、できたよ。受け取って」ホカホカ

盗賊・少女「は~い!」

盗賊「さすがにできたては熱いですね」

少女「あつい……」

商人「ゆっくり、冷ましてからでいいよ」

盗賊「しかし、商人って、なんかそっち系のキャラだと思ってたから、料理できるのって意外です」

商人「そりゃあ、一人旅してるんだから、できるようにもなるでしょ。あんたもそうなんじゃないの?」

盗賊「いや~、私は悪徳者からくすねた金の一部で生活してますから」アハハ

商人「おい、義賊……」


39: 2013/09/17(火) 07:27:32.88 ID:Gpi6JMwP0
商人「……」トッ、トッ

盗賊「商人。なんですかこれ?」

商人「ん? ああ、私が旅の途中で作った調味料。味は保証するよ」

盗賊「つまり、おいしいってことですね!?」

少女「おいしい~!」ガツガツ

商人「ああ、ダメだよ、いただきます言ってからじゃないと、あと、もう少しきれいに食べた方が……」

盗賊(いやぁ、お姉ちゃんですねぇ)ホクホク

商人「……」


40: 2013/09/17(火) 07:59:48.27 ID:Gpi6JMwP0
商人「ごちそうさまでした。ほら、少女も」

少女「ごちそうさまでした?」

商人「うん。そうそう。よくできました」ナデナデ

少女「えへへ」

盗賊「私も、ごちそうさまでした」

商人「うん……」

盗賊「どうしたんですか? 暗い顔して……」

商人「盗賊、少女、ごめんね」

少女「え?」

盗賊「あれ……なんか、体が痺れて……」ピリピリ

少女「わ、わたしも……」ピリピリ

商人「……行ってくる」

盗賊「しょ、商人。待ちなさ……い」

少女「おねえ……ちゃ」

商人「そこは、誰にも見つからないと思うから……」タッ

45: 2013/09/17(火) 16:39:55.55 ID:Gpi6JMwP0
<貴族の館・周辺>

商人(見張りは……それなりってとこね)

商人「なら……飛行魔法」ボソッ

商人「上から行けば、外に見張りがいようと関係ないわ。ちょうど暗くて見えないだろうし……」フワフワ

商人「……。一応、大丈夫だとは思うけど、あの二人になにかないか心配だなぁ」フワフワ

商人「よし、屋上に到着!」トッ

46: 2013/09/17(火) 16:42:46.53 ID:Gpi6JMwP0
商人「うん、さすがに階段くらいはあるよね……」

商人「あんまり、こういう手は使いたくないんだけど……」

商人「風に、眠たくなる粉を乗せてっと……」ヒュォォォ

商人「……」タッタッタッ

兵士「……ぐー」スピー

商人「よし、眠ってる……」

47: 2013/09/17(火) 16:46:05.11 ID:Gpi6JMwP0
商人「無計画に来ちゃったけど、貴族はどこにいるんだろ?」スタスタスタ

商人「……。うわ、なんか落ちた!?」ガタッ

商人「とぉ!」ガシ

商人「ふぅ~、セーフ。でも、なにこれ、水晶?」

水晶「……」ジー

商人「ま、よくわかんないけど、戻しとこ」コトッ

48: 2013/09/17(火) 16:56:13.47 ID:Gpi6JMwP0
<郊外>

盗賊「しょう……にん、早まっちゃいけません」タンッ!

盗賊「あぐっ!」

少女「とーぞく!?」

盗賊「これくらいどうってことないです……。私は、これから、商人のところに向かいます」

盗賊「あなたはどうしますか、少女?」

少女「いく! いかなきゃいけないの!」

盗賊「決まりですね」ガシッ

少女「とーぞく?」

盗賊「抱えて走ります。なぁに、商人ほどじゃないにしろ、体力には自信がありますよ」ニコッ

少女「うん!」

49: 2013/09/17(火) 17:29:39.40 ID:Gpi6JMwP0
商人(それらしい部屋があった……)コソッ

貴族「ええ、まだ捜索中でして……」

商人(貴族の声! ……誰かと話してる?)

大貴族「ふん、この娘どもも、いつ飽きてしまうかわからん。とっとと連れ戻して来い」

貴族「はっ、はい!」

商人(この娘ども? ……誰かいるの?)

貴族「まったく、……大貴族さまは……」ブツブツ

商人(貴族の声……近づいて来てる……」

貴族「……」ガチャ

貴族「ん? 誰か……ふぐ!」

商人「動かないで」パタン

商人「動くと命はないわ、OK?」チャッ

貴族「……」コクコク

50: 2013/09/17(火) 17:36:20.00 ID:Gpi6JMwP0
大貴族「だれぞ、おるのか?」

商人(なんとなく、人質が有効なタイプとは思えないけど……)

大貴族「だれぞ、おるのかと聞いておる!」

商人「……」ガチャ

大貴族「ほ~う。面妖なものをつけおって……」ジロジロ

商人「明らかに視線が私の方を向いてないけど?」

魔少女「……」プルプル

魔翌幼女「……」プルプル

大貴族「ふはは、怪しげなものより、男は華を好むということよ!」

51: 2013/09/17(火) 17:56:58.91 ID:Gpi6JMwP0
商人「その子たちを、どこかに売り飛ばすの?」

大貴族「ふはは! 察しがいいではないか、と言いたいところだが、少し違うな……」

貴族「ん~! ん~!」

商人「あんたは黙ってて」トッ

貴族「んぐっ!」ガクッ

大貴族「ほぉう? 人質をあっさり解放したな?」

商人「人質とって止まるタイプでもないんでしょう?」

大貴族「ふはは! まぁな!!」

商人「で、その子たちをどうするつもりよ」

大貴族「くくく……仮面越しでも怒りが伝わってくるな……」

52: 2013/09/17(火) 20:25:22.37 ID:Gpi6JMwP0
大貴族「魔族が人間と比べ、力が強い、とうことを知っているか?」

商人「まぁ、この世界の一般教養ね……」

大貴族「そうだ。だが、そんな魔族でも、人間に力で及ばぬ時がある」

商人「子どもの時……」

大貴族「ふふ。面妖な被り物をしているわりには、察しが早いではないか……」

商人「好きでつけてるんじゃないわ」

大貴族「ともかく、その子どもの時に、”しつけ”を済ませておくのだよ。逆らえないようにな」グィッ

魔翌幼女「あう!」

商人「あんた!」

大貴族「きさまの相手は、わしではない……」

53: 2013/09/17(火) 20:31:56.70 ID:Gpi6JMwP0
魔少女「……」ザッ

大貴族「この娘が相手よ。貴様も、娘が相手では手を出せまい?」

商人「……卑怯者!」

大貴族「そう呼ばれるのは、実に気分がいい」

大貴族「自分が相手より優位に立っていると、認識させてくれる! やれ!」ギョロッ

魔少女「ひっ! ご、ごめんなさい……」ドゴッ

商人「うぐっ……」ガクッ

大貴族「そして、その娘は魔族。子どもとはいえ、無抵抗の相手を制することくらいはできる」

魔少女「……」ドゴッ

商人「あう……」ガクッ

大貴族「ふふふ。正義ごっこのあしらい方とは、こうするものなのだ」ニマァ

商人「あ……」ドサッ


54: 2013/09/17(火) 20:42:02.44 ID:Gpi6JMwP0
――

商人「う……」ボーッ

大貴族「くく……目が覚めたか?」

商人「あんたは!」ジャラッ

商人(鎖? 般若面も外されてる……)

大貴族「ふふ、勇ましいことよ。もう少し大人しければ売り物になったものを……」

大貴族「いや、これから売り物にすればいいだけか……」スチャッ

商人「その水晶は……」

大貴族「ん? ああ、これか? 映像記録水晶といってな、その名の通り、映像をその身に記録する水晶だ」

商人「それで、どんな映像を記録するつもり?」

大貴族「ははは、現実から目を背けるなよ?」バシィ!

商人「……」ビリビリビリ

大貴族「わしの平手ごときでは声ひとつあげぬか」

大貴族「貴様は顔だちはいい。その顔立ちに悲鳴をそえれば、美しくなると思うのだがな」

商人「全てがあんたの思惑通りにいくとでも?」

大貴族「わしは今までいかせてきた。貴族! 手伝え!」

貴族「はい!」

55: 2013/09/17(火) 20:48:30.01 ID:Gpi6JMwP0
大貴族「まぁ、つまりは、そういうことだ」ヌッ

貴族「ははは、大貴族さまにたてついたお前が悪いんだ。大人しくしな」ヌッ

商人(やだ……。怖いよ……)ジワ

盗賊「そこまでです!」バンッ

少女「です!」ババンッ

商人「盗賊、少女!? どうして!?」

盗賊「どうしてもなにも、一人で無茶する馬鹿な子を助けに来たんですよ」

少女「おねーちゃんいなくなったらかなしい!」

大貴族「お仲間が増えたか、構わん。魔少女、やれ!」

魔少女「はい……」ビクッ

56: 2013/09/17(火) 20:59:05.15 ID:Gpi6JMwP0
少女「……」ゴゴゴゴゴ

魔少女「……」ビクッ

魔翌幼女「……」ガクガク

貴族「あ、あの娘が昼間のです……。面妖な被り物をしていますが……」ボソッ

大貴族「ふむ……」

盗賊「……なるほど、だいたい事情は飲み込めました。商人がそんなことになってるのは、そういうことでしたか」

大貴族「わかってなんになる? この小娘と貴様らが同類な以上、どの道、貴様らもこうなる」グリッ

商人「あぐっ……」

盗賊「はぁ……私は商人と違って、甘やかす主義はないんですよ。そ・れ・に……」

少女「……おじさん、おねーちゃんいじめた!」スッ

大貴族「なっ!? こいつ、いつの間に懐に!? 魔少女はなにをしている!?」

盗賊「あ~、怖いですねぇ。あなたの恐怖なんかより、もっと上の恐怖を感じたのでしょう」

魔少女「あ、あう……」ガクガク

魔翌幼女「ひっ……」ガクガク

盗賊「よーするに、です。あなたは、開けてはならぬものを開けてしまったのですよ」

少女「……」ギュム

大貴族「な、なにを……」

少女「ふん!」ブチィ!

大貴族「ひ、ひぎぃぃぃぃ!!」

57: 2013/09/17(火) 21:07:44.94 ID:Gpi6JMwP0
貴族「な、なぜ! 昼間は些細な抵抗しかしなかったこいつが!」

盗賊「恐怖なんて、さらに大きな希望の前では、無力なんですよ?」スッ

盗賊「まったく、あなたはこんな無茶して……一人で危険な目に遭って……」ガチャガチャ

商人「ごめん……」

盗賊「取れました……」パキッ

盗賊「こういう時に……言う言葉は……ごめんじゃないですよぉ……」ボロボロ

少女「おねーちゃんがぶじなら、それでいいよ!」

商人「うん。盗賊、少女。……ありがと」

貴族「ひっ、ひぃ!」

盗賊「……逃がしませんよ」

商人「うん、そうだね」スッ

商人「私は甘いけど、あんた相手なら、気兼ねなくやれる!」ガッ

貴族「あごっ!」ドサッ

商人「……あなたたちはどうするの?」

魔少女「え?」ビクッ

魔翌幼女「私たち?」

58: 2013/09/18(水) 00:02:51.58 ID:0eXx9tXn0
商人「あなたたちを縛るものは、もうなくなったわ」

盗賊「う~む。私は面倒見きれませんね」

魔少女「私たち、行く場所がない……」

商人「んじゃ、決まりね」

魔翌幼女「え?」

商人「私の家は、魔族でも人間でも大歓迎! あなたたちが大人になるまでは、私が養ってあげる!」

少女「わ~い!」

魔少女「で、でも……」チラッ

大貴族「……」ビクッ、ビクッ

貴族「……」シーン

商人「ああ、そいつらなら大丈夫」スッ

盗賊「それは?」

59: 2013/09/18(水) 00:07:20.37 ID:0eXx9tXn0
商人「映像記録水晶って言ってたわ。映像を記録するんだって」

盗賊「まんまですね……。あ、それって!」

商人「そ。あとで修正入れるつもりだったか知らないけど、こいつらの悪事は全部この中に入ってるわ」

盗賊「では、商人がそれをこいつらと一緒に届ければ……」

商人「全部解決ってこと」

商人「じゃ、改めて、どうする?」クルッ

魔少女「ふ、ふつつかものですが……」

魔翌幼女「よろしくおねがいします」

盗賊「その言い方は誤解を招きかねないですね……」

60: 2013/09/18(水) 00:14:40.71 ID:0eXx9tXn0
――

<西の村>

盗賊「ふぃ~、後始末も全部終わりましたね~」

商人「盗賊はさ、これからどうするの?」

盗賊「そうですね……義賊をやっていても厳しい気がしますし、ここは警察にでもなりますか!」

商人「ぶふっ!」ブッ

盗賊「わ、笑わないでくださいよ……」

商人「いや、笑いたくもなるでしょ。似合わないって」

盗賊「言いましたね!? 私が警察になったら、なにかおごってくださいよ?」

商人「おっけー、おっけー」

盗賊「似合わないついでに言いますが、私は、そう遠くないうちに、魔族と人間が肩を並べて笑い合える日が来ると思うんですよ」

商人「それは、あんたらしいわ。来たらいいわね」

盗賊「否定しないんですね」

商人「私も、そんな世界が来てほしい、だから否定しないわ」

盗賊「あ、そうそう。商人」

商人「なに?」

盗賊「”くま”、とれてますよ?」

61: 2013/09/18(水) 00:19:37.29 ID:0eXx9tXn0
 数年後、商人は世界を救う勇者パーティの一員となり、盗賊もそれに手を貸す形になるが、それはまた別のお話。

 今、魔族と人間の少女たちが一人の姉の元、仲良く暮らしている。

 それが世界中で起こることになるのを、まだ誰も知らない。

おわり

 どっかで書いたSSに続くかもしれない話。

引用元: 商人「義賊?」盗賊「はい!」