1: 2010/10/30(土) 14:26:49.38 ID:w/ger7Mf0
男「こんなところに人がいるとは…」

少女「…」

男「こんなところでなにを??」

少女「私はここには、不似合いかしら??」

男「そりゃあ…ここは…」

少女「戦場ですものね」

少女「ふふふ」


3: 2010/10/30(土) 14:29:37.08 ID:w/ger7Mf0
男「危ないから、隠れていな」

少女「ずっとここで暮らしているけれど、危険な目にあったことはないわ」

男「そんな馬鹿な」

少女「…ちょっと嘘をついたわ」

少女「少ししか、危険な目にあったことはないわ」

男「どうしてこんな場所に住んでいるんだ」

少女「あら、それは心外ねえ」

少女「この戦争が始まるずっと前から、私はここで暮らしているのに」

4: 2010/10/30(土) 14:33:49.61 ID:w/ger7Mf0
男「…きれいな家だな」

少女「休んでいく??兵士さん」

男「ああ…そうさせてもらおうか」

少女「こっちよ」

男「ああ」

少女「そこの花壇には近づかないでね」

男「ああ。なにを育てているんだ??」

少女「禁断の果実よ」

男「…」

男「禁断の果実ってリンゴじゃなかったか」


5: 2010/10/30(土) 14:37:07.69 ID:w/ger7Mf0
少女「いいじゃない、細かいことは」

男「そうだな」

少女「さ、こっちよ」

ガチャ

男「すまないな」

少女「それから、その物騒なものをしまってくれる??」

男「あ、ああ、すまない」ガチャリ


6: 2010/10/30(土) 14:43:08.39 ID:w/ger7Mf0
少女「ケガしてるわね」

男「こんなもの、大したことない」

少女「待って、包帯を持ってくるから」

男「あ、ああ」

パタパタ

男「…」

男「あの子、一人なのかな…」

パタパタ

少女「はい」

男「あ、ああ、すまない」


8: 2010/10/30(土) 14:47:30.74 ID:w/ger7Mf0
少女「包帯の巻き方って、よくわからないのだけれど」

男「ああ、いいよ。自分でできる」

少女「そう??」

男「んっ」

バサッ

少女「きゃあ!!」

男「ん??」

少女「血がいっぱい…」

男「ああ、すまん。あっち向いてな」


9: 2010/10/30(土) 14:51:53.90 ID:w/ger7Mf0
ギュッ

男「ふう…これで何とか」

少女「…痛かった??」

男「いや、大したことない」

男「何日も前の傷だしな」

少女「そうなの??」

男「血、茶色くなってたろ」

少女「よく見てなかったから…」

男「そうか」

男「ま、包帯、ありがとうな」

少女「うん」


10: 2010/10/30(土) 14:56:00.96 ID:w/ger7Mf0
少女「お水でいいかしら」

コト

男「ああ、ありがとう」

ゴクゴク

少女「うふふ」

男「??」

少女「毒を盛られるかも、なんて、思わないの??」

男「ここは戦場だ。氏ぬこともあるさ、運命だ」

少女「ふうん」

男「なんだ」

少女「つまんない」

男「そりゃあ悪かったな、お嬢ちゃん」


12: 2010/10/30(土) 15:02:17.57 ID:w/ger7Mf0
少女「お嬢ちゃんなんて、久しぶりに言われたわ」

男「こんなところに人はめったに来ないだろう??」

少女「そうなのよ」

男「しかし周りは廃墟になってるのに、なぜこの家だけきれいに残っているんだ」

少女「私が住んでいるからよ」

男「うん??」

少女「私、氏なないの」

男「へえ」


13: 2010/10/30(土) 15:06:38.56 ID:w/ger7Mf0
少女「へえって…リアクションそれだけ??」

男「無敵の兵士なんてそこらじゅうにいるからな」

男「珍しくもない」

少女「そっか」

男「冗談は置いといて、あんた、本当にここを離れたほうがいいんじゃねえか」

少女「ご忠告ありがとう」

少女「でも私は、ここから離れられないのよ」

男「どうして」

少女「あの苺があるから」


14: 2010/10/30(土) 15:11:33.95 ID:w/ger7Mf0
男「さっきの花壇の??」

少女「そう」

少女「あれは私がママから受け継いだ、とても大切なものなの」

男「お母さんはどうしてる」

少女「亡くなったわ、この戦争で」

男「…」

男「そうか…すまない」

少女「あなたが頃したわけじゃないもの、謝らないで」

男「…」


15: 2010/10/30(土) 15:18:38.85 ID:w/ger7Mf0
少女「ほら、そこの写真立て」

男「うん??」

少女「私とママよ」

男「…」

男「…きれいな人だな」

少女「二人とも、ね」

男「ああ、本当に」

少女「あら、冗談のつもりだったのに」

男「あんただってきれいなもんだ」

少女「それはありがとう」


16: 2010/10/30(土) 15:26:45.01 ID:w/ger7Mf0
男「お父さんは」

少女「いないの」

男「へえ」

少女「私が物心つく前に、家から出て行ったの」

少女「ママが言ってたわ」

男「そうかい。甲斐性のない父親だな」

少女「別に恨んではいないわ」

男「どうして」

少女「男には男の『為すべきこと』があるのよ」

少女「ってママが言ってたの」


17: 2010/10/30(土) 15:30:26.98 ID:w/ger7Mf0
男「兵士になったのか??」

少女「そうかもしれない」

男「あんたは知らないのか??」

少女「ママは教えてくれなかったわ」

男「じゃあ生きているかもわからないのか」

少女「そうね」

少女「それに…」

男「それに??」

少女「パパは私のことも、ほとんど知らないんじゃないかしら」

男「悲しいか??」


18: 2010/10/30(土) 15:35:08.87 ID:w/ger7Mf0
少女「別に」

少女「私はこの暮らしに不満はないし、特になんとも思ってないの」

男「強いんだな」

少女「兵士さんは、家族は??」

男「氏んだよ」

少女「…やっぱり戦争で??」

男「ああ、守れなかったんだ」

少女「ごめんなさい」

男「なにを謝ることがあるんだ、気にするな」


19: 2010/10/30(土) 15:39:47.30 ID:w/ger7Mf0
少女「ねえ、思ったんだけど」

男「うん??」

少女「その銃、変わった形をしているのね」

男「ああ、見るか??」

少女「うん」

男「ほらよ」

ガチャリ

少女「わ、重…」

男「人を頃す道具だ」


20: 2010/10/30(土) 15:44:28.46 ID:w/ger7Mf0
少女「この横についてる鉄線はなあに??」

男「ああ、ギターって知ってるか」

少女「ええ」

男「それと同じだ」

男「音を鳴らすんだよ」

少女「武器なのに??」

男「武器なのに」

少女「おかしいわ」

男「大真面目だぜ??」


21: 2010/10/30(土) 15:54:44.25 ID:w/ger7Mf0
少女「ギターを弾きながら人を頃すの??」

男「違う、頃した相手に鎮魂歌を捧げるんだ」

少女「それで殺された相手は救われるの??」

男「さあな、魂だとか神様なんてもんはあんまり信じちゃいないから」

少女「だったら…」

男「そういう隊風なんだよ」

少女「よくわからないわ」

男「そう隊長さんにも言ってくれよ」


22: 2010/10/30(土) 15:59:18.38 ID:w/ger7Mf0
男「なにか弾いてやろうか」

少女「いらない」

少女「私が氏んだみたいじゃない」

男「鎮魂歌だけを弾くもんでもないんだが…」

少女「変なの、変なの」

男「ま、じゃあしまっておくよ」

少女「弾は出ないようにしておいてよ」

男「そういうわけにはいかない」

男「家の中とはいえここは戦場なんだ」

少女「…怖いわ」

男「大丈夫、扱いには慣れてるよ」


23: 2010/10/30(土) 16:04:29.81 ID:w/ger7Mf0
少女「何人頃したの??」

男「さあ…数えてないな」

少女「数えきれないくらい??」

男「とりあえず両の手では足りないな」

少女「足も足したら??」

男「それでも足りないな」

少女「私の指も足したら…」

男「それでも足りないな」


24: 2010/10/30(土) 16:10:58.32 ID:w/ger7Mf0
少女「戦争って嫌ね」

男「おれもそう思ってるよ」

少女「じゃあ、なんで」

男「国が、『そう』なっちまったからだ」

少女「『そう』って??」

男「イカレちまったんだ、追い詰められちまったんだ」

男「戦争をしなきゃいけないって」

少女「それは誰が決めるの??」

男「偉い人たちだ」

少女「偉いのに、そんな選択をしてしまうの??」

男「ああ、偉いのも考えもんだ」

男「一歩間違えるとイカレちまうからな」


26: 2010/10/30(土) 16:16:14.54 ID:w/ger7Mf0
男「その点、おれみたいに頭が空っぽの方が気楽なもんだ」

少女「頭空っぽなの??」

男「ああ」

男「難しいことを考えずに引き金を引ける」

少女「あなたは戦場に来て何年??」

男「6年、かな」

少女「…長いわね」

男「よく生きてるもんだと思うよ」


27: 2010/10/30(土) 16:20:49.34 ID:w/ger7Mf0
少女「お水、もっといる??」

男「ああ、もらいたいな」

少女「はい」

チャポチャポ

男「この家、水道はまだ生きてるのか」

少女「奇跡的にね」

男「電気も」

少女「そうよ」

男「氏にかけの兵士が来たこともあるだろう」

少女「何度かね」

男「どっちの軍だ??」

少女「どっちも来たことがあるわ」


28: 2010/10/30(土) 16:30:46.82 ID:w/ger7Mf0
男「そいつらは??」

少女「元気になって出て行った人もいれば、氏んだ人もいるわ」

男「そうか…」

少女「裏にお墓があるのよ」

男「…」

男「あとで手を合わせておくよ」

少女「私と同じくらいの年の子もいたわ」

男「お嬢ちゃん、歳は」

少女「14歳よ」


29: 2010/10/30(土) 16:36:19.90 ID:w/ger7Mf0
男「14歳か」

男「それにしちゃあ大人びてるな」

少女「…」

男「ん??」

少女「兵士に襲われたこともあるわ」

男「あ、ああ」

男「そうか、すまない」

少女「どうして謝るの」

男「兵士は、基本的に極限の禁欲生活だからな」

少女「返り討ちにしてやったけどね」

男「うお、そうか」


30: 2010/10/30(土) 16:42:41.28 ID:w/ger7Mf0
少女「その人も裏に埋まってるの」

男「…」

少女「瓶で殴ったら氏んじゃったのよ」

少女「頃すつもりはなかったの」

男「いや、責めるつもりはないさ、当然の報いだ」

少女「あなたはどうかしら」

男「その話を聞いて襲おうと思うほど元気じゃないさ」

少女「この話をしなかったら襲ってた??」

男「おいおい、勘弁してくれ」

男「氏んだ娘と年齢が近いんだ、そんな気になるもんか」


31: 2010/10/30(土) 16:48:23.40 ID:w/ger7Mf0
少女「娘さんがいたの…」

男「ああ、妻に似て美人だった」

男「あんたほどじゃないがな」

少女「よして」

男「この戦争は、おれにとって弔い合戦なんだ」

男「氏ぬまで、生き延びてやるつもりだ」

少女「…」

少女「私はどちらの軍も応援しないけれど、あなたの応援ならするわ」

男「そうかい、ありがとう」


32: 2010/10/30(土) 16:52:39.58 ID:w/ger7Mf0
少女「あなた、一人??」

男「ああ」

少女「軍隊とはぐれたの??」

男「まあ、そういう感じだ」

少女「隊と連絡は取れないの??」

男「無線機はずっと前から故障しっぱなしだからな」

少女「悪いけど、ここには電話はないの」

男「いいさ、一人には慣れてる」


33: 2010/10/30(土) 16:59:52.47 ID:w/ger7Mf0
男「お嬢ちゃん、昼間は何をしているんだ??」

少女「ね、そのお嬢ちゃんっての、やめてくれない??」

男「どうして」

少女「なんだか馬鹿にされてるみたいだもの」

少女「私もう子どもじゃないわ」

男「…じゃあ名前はなんていうんだ」

少女「忘れた」

男「あん??」

少女「名前なんて、ここじゃあ意味がないもの」

男「それもそうか」


34: 2010/10/30(土) 17:05:43.70 ID:w/ger7Mf0
少女「あなたこそ、名前は??」

男「特にない」

少女「そう」

男「誰にも呼ばれやしないからな、おれだって名前は必要ないのさ」

少女「じゃあ兵士さん、でいいかしら」

男「構わないよ」

少女「黒いギターの兵士さんね」

男「そりゃあちょっと長いだろ」

少女「黒兵さんね」

男「ギターはどこに行ったんだ」


36: 2010/10/30(土) 17:09:18.81 ID:w/ger7Mf0
男「君は…」

少女「それも変」

少女「あんた、でいいわ」

男「そうかい、変わった子だな」

少女「そうかしら」

男「女の子は普通名前を呼ばれたがる」

少女「へえ…」

少女「いったい何人の女の子を泣かしてきたの??」

男「おいおい、娘の話だよ」

少女「うふふ」


38: 2010/10/30(土) 17:15:54.11 ID:w/ger7Mf0
男「で、昼間は何をしてるんだ??」

少女「花壇のお世話と、畑仕事かしら」

男「畑もあるのか」

少女「小さいけれどね」

男「それで食べていけるのか??」

少女「一人分なら楽に暮らしていけるの」

男「あ、ああ、そうか…」

少女「食べ物がほしければ、少しならあげるわよ」

男「あ、いや」

少女「遠慮しないで」


39: 2010/10/30(土) 17:21:29.97 ID:w/ger7Mf0
男「すまない、恩に着る」

少女「そのかわり」

男「うん」

少女「禁断の果実だけは、食べちゃあダメよ」

男「ああ、大切なものなんだろ」

男「食べやしないさ」

少女「それだけじゃないの」

男「??」

少女「あれは禁断の果実」

少女「食べたら苦しんで氏んじゃうの」


40: 2010/10/30(土) 17:27:50.99 ID:w/ger7Mf0
男「冗談だろ??」

少女「うふふ」

男「そんな脅しをかけなくたって食べないさ」

少女「はいはい」

男「ふう…」

少女「…」

男「…」

男「なあ」

少女「うん??」

男「地図ないか??」


41: 2010/10/30(土) 17:35:59.46 ID:w/ger7Mf0
少女「チーズ??悪いけれどここらに牛はいないから…」

男「いや、地図」

少女「マップのこと??」

男「そうそう」

少女「私はどこにも出かけないから、地図なんてないわ」

男「そうか…いや、期待はしていなかったが」

少女「ここがどこかもわからないの??」

男「ああ、この国は広すぎるからな」

少女「ヘリとかで飛んだら、狭く感じるんじゃないの」

男「そんな御大層なものに乗ったことはないのでね」

少女「そう」


42: 2010/10/30(土) 17:43:31.89 ID:w/ger7Mf0
男「これからどうしようかな」

少女「あなたの目的は??」

男「特にない」

男「敵兵と出会えば頃す、それだけさ」

少女「ふうん」

男「最後に、おれ以外の兵士が来たのはいつだ??」

少女「ひと月ほど前かしらね」

男「その前は??」

少女「半年ほど前かしらね」

男「そうか…」


43: 2010/10/30(土) 17:49:11.26 ID:w/ger7Mf0
少女「もう日が暮れるわね」

男「ああ」

少女「夜は怖い??」

男「どうして??」

少女「闇夜に紛れて奇襲、とか」

男「今どき、そんな元気なやつはいないよ」

男「兵士だって夜は普通に寝るんだ」

少女「あら、そうなの」

男「兵士らしくないか??」

少女「イメージが壊れたわ」


44: 2010/10/30(土) 18:03:15.46 ID:w/ger7Mf0
男「真面目に戦争をしているやつは少ない」

男「ほとんど義務感だけさ」

男「誰もが、『早く終わってほしい』と願ってる」

少女「そう…」

男「こんな茶番を何年も続けて、救われた人間は一人もいないんだ」

男「敵兵に恨みも持っていないしな」

少女「でも頃すんでしょう??」


45: 2010/10/30(土) 18:13:46.83 ID:w/ger7Mf0
男「氏にたくないからさ、だから頃すんだ」

少女「氏ぬこともあるって、運命だって、言ったじゃない」

男「おれはそう思ってるよ」

少女「じゃあ他の人は違うの??」

男「ああ…」

男「いや、おれ自身も心のどこかで『氏にたくない』と思っている」

男「その一方で、『早く楽になりたい』と思っている部分もあるんだ」

少女「ふうん…」

少女「難しくて、よくわからないわ」

男「大人の話だ」

少女「私、子どもじゃないわ」


46: 2010/10/30(土) 18:17:38.75 ID:w/ger7Mf0
男「そうだったな、訂正しよう」

男「兵士の話、だ」

少女「そう」

少女「…それならわからなくても無理はないわね」

男「そういうことだ」

少女「氏んだら何も残らないわ」

男「そうだな」

少女「あなたが氏んだら、その銃はどうなるの??」

男「え…」

少女「ん??」


47: 2010/10/30(土) 18:27:26.47 ID:w/ger7Mf0
男「あ、ああ、この銃か…」

少女「??」

男「おれを頃したやつが持っていくんじゃないかな」

少女「…」

男「この銃、ほしいのか??」

少女「いいえ」

少女「ただなんとなく、そう思っただけよ」


48: 2010/10/30(土) 18:31:27.61 ID:w/ger7Mf0
男「今日はこの家に厄介になって、いいか」

少女「どうぞ」

少女「それから出ていくときは、ご勝手に」

男「ああ、ありがとう」

少女「あなたの分のベッドはないわよ」

男「いいさ、絨毯があるだけ天国だ」

少女「晩御飯食べる??」

男「いや…それは…」

少女「遠慮しないで」


49: 2010/10/30(土) 18:38:29.73 ID:w/ger7Mf0
コト

男「う、うおお」

少女「トマトのスープよ」

男「戦場でこんなものが食べられる日が来るとは…」

男「ありがとう」

少女「いいえ」

男「い、いただきます」

少女「はい、召し上がれ」


50: 2010/10/30(土) 18:42:29.75 ID:w/ger7Mf0
ズズ ズズ

男「…」

少女「…」

男「うめえ、うめえ…」

ズズ ズズ

少女「うふふ」

男「ぷはあ」

少女「おかわり、いるかしら??」

男「え、あ」

少女「どう??」

男「…」

男「い、いただきます」


51: 2010/10/30(土) 18:46:36.25 ID:w/ger7Mf0
少女「私の料理を食べてくれる人がいるって、素敵ね」

男「ふふ」

少女「前の人は水だけ飲んで氏んじゃったから…」

男「…」

少女「あ、ごめんなさい、食事中に」

男「いや…」

ズズ ズズ

少女「良い食べっぷりね」

少女「あ、この場合は飲みっぷり、かな」

男「酒みたいに言うなよw」


52: 2010/10/30(土) 18:53:31.09 ID:w/ger7Mf0
少女「あ、少しならお酒もあるわ」

男「いや、いいよ」

少女「遠慮しないで」

男「まだここは戦場だ、酒に呑まれるわけにはいかない」

男「…弱いしね」

少女「そう…」

男「ごちそうさま」

少女「はあい、お粗末さま」

男「いや、この6年間で一番うまい夕食だったよ」

少女「うふふ、ありがとう」


53: 2010/10/30(土) 18:59:49.77 ID:w/ger7Mf0
男「なあ、この家にラジオなんて…」

少女「もちろんないわ」

男「そうだよな」

少女「と、言いたいところだけど、あるにはあるの」

少女「壊れちゃってるけどね」

男「そうか!!」

少女「古いものだから…でも直せば使えるかも知れないわね」

男「それ、使わせてくれないか??」

少女「ラジオが必要なの??」

男「まあな」

ちょっと私用で出てきます
人いなさそうだけど、まだ残ってたら続き貼りますので

55: 2010/10/30(土) 20:15:53.36 ID:w/ger7Mf0
男「ラジオが使えれば、無線が傍受できる」

少女「へえ」

男「特殊な機械が必要だがな。捨てないで持っていて助かった」

男「そのラジオ、持ってきてくれないか」

少女「いいわよ」

男「工具もあったら助かる」

少女「うふふ、遠慮のない居候さんね」

男「使えるものはしっかり使う主義でね」


56: 2010/10/30(土) 20:21:03.77 ID:w/ger7Mf0
少女「はい、ラジオと工具」ドン

男「うお…これはまた年代物だな」

少女「戦争が始まるよりもずっと昔のものだから」

男「形見か??」

少女「お父さんのものらしいわ」

男「よし、生き返らせてやろう」

少女「長くかかりそう??」

男「ああ、先に寝てくれて構わないからな」


57: 2010/10/30(土) 20:25:57.61 ID:w/ger7Mf0
少女「…」

男「…」カチャカチャ

少女「…」

男「…」カチャカチャ

少女「…ふあ」

男「眠いか??」カチャカチャ

少女「うん、もう寝るわ」

男「ああ、おやすみ」カチャカチャ

少女「…おやすみなさい」


58: 2010/10/30(土) 20:31:09.26 ID:w/ger7Mf0
男「…ふう」

男「こんなもんか」

男「どれ…」カチャカチャ

ガガッ…ガガッ…

ピピッ…ピガッ…

『ザザー…ザザー…』

男「よし」

男「あとは明日にするか」

男「この家に時計はないみたいだな」

男「どれくらい没頭してたんだろう」


59: 2010/10/30(土) 20:36:31.70 ID:w/ger7Mf0
男「あの子が入った部屋は…ここか??」

ガチャ

少女「!!」ビクッ

男「うおっと!!」

少女「…な、なに??」

男「ああ、いや、すまん」

男「ラジオが直ったもんでな、おれも寝ようかと」

少女「…」

男「毛布かなにか、あればうれしいんだが」

少女「…ん」スッ

男「ああ、これな、もらうぜ」


60: 2010/10/30(土) 20:39:59.02 ID:w/ger7Mf0
少女「…」

男「そんな目で見るなって、ちゃんとあっちで寝るから」

少女「…」

男「だからその物騒なもの、しまってくれないか」

少女「…」

男「…」

男「ま、いいや」

少女「…」

男「おやすみ」


61: 2010/10/30(土) 20:49:22.02 ID:w/ger7Mf0
―次の日―

男「おはよう」

少女「…うん」

男「元気ないな」

少女「昨日、部屋に入ってきたとき、ちょっとびっくりしちゃって」

少女「ごめんなさい」

男「いや、気にしてないよ」

少女「…そう」

男「畑仕事とかあるなら、手伝おうか」

少女「それより先に、なにか食べなきゃ」


62: 2010/10/30(土) 20:53:30.25 ID:w/ger7Mf0
男「なにか食わせてくれるのか」

少女「こんなものしかないけど」

男「トウモロコシか」

男「ごちそうだ、頂くよ」

少女「どうぞ」

男「…」ムシャムシャ

少女「ラジオ、どうだったの??」

男「ああ、音は出るようになった」

男「あとはチューニング系統だけだ」

少女「本当!?ありがとう!!」


63: 2010/10/30(土) 20:59:59.50 ID:w/ger7Mf0
男「あともう少し作業をしたら、普通にラジオとしても使える」

少女「うん、ありがとう」

男「トウモロコシ、ごちそうさま」

少女「いえいえ」

男「あんたは、なにかすんのか」

少女「ええ、畑にお水をやってこなくちゃあ」

男「そうか」


64: 2010/10/30(土) 21:04:59.30 ID:w/ger7Mf0
男「なあ」

少女「うん??」

男「昨日のあれ、どこで手に入れた??」

少女「あれって??」

男「銃だよ」

少女「…」

男「ここで氏んだ兵士のもんか??」

少女「…そうよ」


65: 2010/10/30(土) 21:16:39.41 ID:w/ger7Mf0
男「護身用か」

少女「まあね」

男「悪いが、おれはあんたを襲おうとも殺そうとも、一切思ってない」

少女「でも兵士は少し怖いもの」

男「じゃあどうして家に招き入れたんだ??」

少女「それは…」

男「??」


68: 2010/10/30(土) 21:23:21.87 ID:w/ger7Mf0
少女「パパにちょっと、似ている気がしたから」

男「知らないんじゃなかったのか」

少女「なんとなくよ、そう、なんとなく」

男「…」

男「まあいいや、好きにしな」

少女「…畑、行ってくるね」

男「ああ」


70: 2010/10/30(土) 21:27:47.35 ID:w/ger7Mf0
ガチャガチャ

男「っと、あとはこれを」

ガチャガチャ

男「おっし、これでよし」

『ザザー…ザザー…』

男「すぐに無線も入らないだろうし、置いといても大丈夫、だよな」

男「あいつまだ帰らんな」

男「ちょっと畑とやらを見に行ってみるか」


71: 2010/10/30(土) 21:32:13.57 ID:w/ger7Mf0
少女「♪」シャワシャワ

男「おうおう、立派な畑じゃないか」

少女「あら、もういいの??」シャワシャワ

男「ああ、立派に生き返ったぜ」

少女「すごい、ありがとう」シャワシャワ

男「飯と宿のお礼、それに実益も重ねてるからな」

男「お安い御用だ」

少女「そこ、踏まないでね」シャワシャワ

男「あ、ああ、すまん」


72: 2010/10/30(土) 21:38:41.64 ID:w/ger7Mf0
少女「水、ここにも引いてあるの」

男「家からいちいち汲んでくるには、ちょっと遠いもんな」

少女「あら、銃を持ってきたの??」

男「まあ外を歩くんだから、用心はしないとな」

少女「黒いギター、似合うわね」

男「そんなこと言われても、嬉しくないなw」


74: 2010/10/30(土) 21:45:24.91 ID:w/ger7Mf0
少女「お墓も見ていく??」

男「ああ、一応見せてくれるか」

少女「こっちよ」

男「…」

少女「なんだか、ボディガードができたみたい」

男「そうか??」

少女「あなたは、今まで来た兵士さんとは少し違うわね」


75: 2010/10/30(土) 21:50:10.62 ID:w/ger7Mf0
男「どう違うんだ」

少女「目つきがあまりギラギラしていないもの」

男「枯れた兵士ってことか」

少女「うーん、よくわからないけれど」

少女「今までの人ほど、怖くないわ」

男「そりゃあどうも」

男「怖くない兵士が戦場で役に立つとは思えないけどな」


76: 2010/10/30(土) 21:56:34.69 ID:w/ger7Mf0
少女「ここよ」

男「これは…なんというか…」

少女「なあに??」

男「想像以上だ」

少女「だって戦争が始まってからずっとだもの」

男「よくこんなに…頑張ったな」

少女「最初はママと一緒に埋めてあげたから」

男「それにしても…」


77: 2010/10/30(土) 21:59:37.74 ID:w/ger7Mf0
少女「手を合わせていく??」

男「ん」スッ

少女「…」

男「…」

少女「あなたの敵側の軍もいるわ」

男「関係ないさ」

男「氏んだら同じ人間だ」

少女「そう」


78: 2010/10/30(土) 22:05:08.89 ID:w/ger7Mf0
男「おれも氏んだら、ここに埋めてくれ」

少女「ちょっと、氏なないでよ」

男「氏ぬかもしれないだろ」

少女「あなたのことは応援してあげるって言ったじゃない」

男「そうか」

少女「そうよ」

男「よし、じゃあおれがこの戦争で氏ななかったら、禁断の果実をくれ」

少女「ダメよ」


79: 2010/10/30(土) 22:09:51.51 ID:w/ger7Mf0
男「そんなにダメか」

少女「ダメったらダメ」

男「今まで、ここに来た兵士であの苺を食べたやつはいないのか」

少女「いっぱいいるわ」

男「いっぱいいるのか」

少女「どの兵士も、ここで眠っているわ」

男「え…」


80: 2010/10/30(土) 22:15:04.18 ID:w/ger7Mf0
少女「食べたら氏ぬって、言ったでしょう」

男「え、本当に??」

少女「そう、だから絶対に食べちゃあダメなの」

男「そ、そんな」

男「そんな果実を、なぜ君は」

少女「言ったじゃない」

少女「ママの大切なものだったって」


81: 2010/10/30(土) 22:24:14.52 ID:w/ger7Mf0
少女「だから私は育て続けるのよ」

男「恐ろしい…」

少女「それでも食べてみる??」

男「いや、悪かった、食べないよ」

少女「ね、それでいいの♪」

男「ふう、冗談にしてもきついぜ」

少女「うふふ」


82: 2010/10/30(土) 22:31:12.76 ID:w/ger7Mf0
男「家に戻ろうか」

少女「ええ」

男「ラジオで海外の電波が拾えるか、やってみよう」

少女「じゃ、じゃあ音楽が聴けるの!?」

男「ああ、多分な」

少女「はやく!!はやく帰りましょう!!」

男「はは、慌てなくたってラジオは逃げないさ」


83: 2010/10/30(土) 22:36:00.46 ID:w/ger7Mf0
ガチャ

少女「ただいまー」

男「はは、誰に言ってんだよ」

『動くな!!』

少女「!!」

男「!!」ガチャリ

『ここの住人か!?』

少女「は、はい…」


84: 2010/10/30(土) 22:45:53.07 ID:w/ger7Mf0
『後ろのやつは…』

男「…!!」

『なんだ…敵かとおm』

ガガガガガガガガッ

『ぐあああああああっ!!!!!』

少女「きゃあ!!」

ガシャン!!パリンパリン!!


86: 2010/10/30(土) 22:51:08.58 ID:w/ger7Mf0
男「…ふう」

少女「…し、氏んだの??」

男「ああ」

少女「どうして撃ったの??」

男「どうしてって、敵に会えば頃す、そう言っただろう」

少女「言ったけど…」

少女「その人…同じ軍じゃないの!!」

少女「仲間を、どうして頃したの!!」


87: 2010/10/30(土) 22:58:48.33 ID:w/ger7Mf0
男「…え??」

少女「ほら、あなたと同じ軍のマーク…」

男「ああ、気がつかなかったな」

少女「う、うそ!?」

男「室内で暗かったし…反射的に頃してしまった」

少女「それにしても」

男「すまん、埋めてくる」


89: 2010/10/30(土) 23:07:42.68 ID:w/ger7Mf0
少女「え」

男「さっきの墓に埋めてくる」

少女「でも…」

男「割れちまったもんも片付ける、そのままにしておいてくれ」

ズル ズルズル…

少女「…」


90: 2010/10/30(土) 23:13:57.64 ID:w/ger7Mf0
男「…ふう、こんなもんか」ゴシゴシ

少女「…」

男「すまない、床に少し血の跡が」

少女「いいわ、気にしないから」

男「どうも神経が過敏になっているようだな」

少女「いいから」

少女「…少し、部屋で休むわ」

男「ああ」

ガチャ バタン


91: 2010/10/30(土) 23:19:36.63 ID:w/ger7Mf0
少女「あの人…どうして…同じ軍の人を頃したの…」

男「まだ若い女の子があんなものを目の前で見たんだ…神経が参っても仕方ない」

少女「薄暗かったからって…同じ軍の人を間違えるはずない…」

男「ゆっくり休ませよう」

少女「どうして…どうして…」

男「今のうちに、無線でも聞いておくか」

少女「どうして…」モゾモゾ


93: 2010/10/30(土) 23:25:33.15 ID:w/ger7Mf0


少女「…ゴメン、寝ちゃってた」

男「ああ、おはよう」

少女「今、何時??」

男「この家には時計がないだろう??」

少女「外が暗い、ってことしかわからないわ」

男「おれも時計なんて持ってない」

男「あ、すまんがトウモロコシをもう一本もらったぞ」

少女「ああ、ええ、いいわ」

少女「ご飯、食べましょう」

男「無理するな」


94: 2010/10/30(土) 23:33:33.19 ID:w/ger7Mf0
少女「無理なんて」

男「目の前で兵士が氏んだんだ」

男「あんたみたいな若い娘なら、参って当り前だ」

少女「あなたは、平気なの??」

男「両手でも足りないほど頃してきたと言っただろう」

少女「それでも…」

男「慣れている、問題ない」

少女「そう…」


95: 2010/10/30(土) 23:39:29.68 ID:w/ger7Mf0
男「今日はもう休んでな」

少女「うん、そうするわ」

男「おれはまだ起きてるから」

男「安心して寝るには少し早いからな」

少女「そう…」

男「銃もちゃんと持ってろよ」

少女「…わかってるわよ」

男「ん」

少女「…おやすみなさい」

男「ああ、おやすみ」


96: 2010/10/30(土) 23:43:32.97 ID:w/ger7Mf0


少女「…」

ジャーンジャーンジャーン♪

ジャーンジャジャジャーン♪

男「おお、ラジオ聴いてるのか」

少女「おはよう」

男「ああ、早いな」

少女「昨日は寝すぎちゃったからね」

男「気分はどうだ??」

少女「もう平気よ」

男「すまなかったな」

少女「いいのよ、仕方ないもの」


97: 2010/10/30(土) 23:47:09.85 ID:w/ger7Mf0
男「これ、なんて曲だ??」

少女「知らない、適当に回してみたもの」

男「ふうん」

Stop! Fallin’ love with me again♪
You’re fate to be happy with me♪

少女「音楽が聴けるって素敵よね」

男「ああ、癒されるな」

少女「この歌詞、どういう意味かしら」

男「よくわからん」

男「おれには学がないからな」

少女「そう」


98: 2010/10/30(土) 23:52:11.69 ID:w/ger7Mf0
男「今入ってる電池は古いものだから、あんまりもたないぜ」

少女「大丈夫よ、まだまだあるから」

男「兵士たちのもんか??」

少女「そう」

少女「氏んだ兵士さんたちには悪いけれど、色々と有効活用させてもらってるの」

男「そうか」

少女「その辺のもの、食べていていいわよ」

少女「私、ちょっと畑に行ってるわ」

男「わかった」


99: 2010/10/31(日) 00:01:53.50 ID:U11bxgjm0
少女「ラジオ、使う??」

男「ん、ちょっと使わせてくれ」

少女「わかった」

男「あとで畑に持って行ってやろうか」

少女「いいわ、あとでいっぱい聴くから」

男「ん」

少女「家探しとかしないでよね」

男「ここから動かないから大丈夫だよ」

少女「そう」


100: 2010/10/31(日) 00:06:00.16 ID:U11bxgjm0


男「…」

男「あいつ、遅いな」

男「…」

男「って言っても、どれくらい時間が経ったのかわからんが」

男「…」

男「無線も少し傍受できたし、見に行ってみるか」


101: 2010/10/31(日) 00:12:48.35 ID:U11bxgjm0
男「おーい」

シーン

男「あれ??ここじゃないのか??」

少女「…ここ…」ハアハア

男「なんだ、いるんじゃねえか」

男「って、おい、どうした」

少女「ちょっと…気分が悪くなっただけ」ハアハア

男「おい、顔色悪いぞ!!大丈夫か!!」


102: 2010/10/31(日) 00:16:30.37 ID:U11bxgjm0
少女「ちょっと…無理かも…」ハアハア

男「とりあえず家の中へ!!」

少女「歩けない…」ハアハア

男「おぶって行ってやるから!!」

少女「…」ハアハア

少女「あ、りがと」ハアハア

男「…」


103: 2010/10/31(日) 00:23:35.18 ID:U11bxgjm0
少女「…」ハアハア

男「すごい熱だ」

男「おい、タオルかなんかあるか」

少女「台所に…」ハアハア

男「ちょっと待ってろ」



少女「あー気持ちいい…」

男「ベッドに連れていくぞ、タオル押さえてろ」

少女「う、うん」


104: 2010/10/31(日) 00:27:17.50 ID:U11bxgjm0
男「よ」グイ

少女「きゃあ」

男「軽いな、あんた」

少女「はは…あんまりロマンチックじゃないわね」

男「知ってるか、これ、お姫様だっこって言うらしいぞ」

少女「知ってる」

男「お姫様はおとなしく休んでなさいってことだ」

少女「うん、ありがと」


105: 2010/10/31(日) 00:31:31.84 ID:U11bxgjm0
ドサ

男「布団かぶって、タオルで頭冷やしてろ」

少女「うん」

男「水持ってきてやるから」

少女「うん」

男「あとなにか、ほしいものはあるか」

少女「うーん…わからない」

男「ま、ゆっくり休め」


106: 2010/10/31(日) 00:35:08.23 ID:U11bxgjm0
男「少しだけ、見回りをしてくる」

少女「うん」

男「すぐ戻るから」

少女「いいのよ、もともと兵士なんだもの」

少女「見ず知らずの女なんか放って行ってもいいのよ」

男「そういう訳にはいかない」

男「飯と寝床とラジオの恩があるんだからな」

男「ちゃんと治るまで面倒見るさ」

少女「ふふ」


107: 2010/10/31(日) 00:40:13.12 ID:U11bxgjm0
男「どうした??」

少女「そんなことを言う兵士さんは、初めてだったから」

男「そうか」

少女「感謝してくれる人もいたけど、たいていは横柄だったり余裕のない人だったわ」

男「恩知らずなやつもいるんだな」

少女「そういう方が多いわよ」

少女「やっぱりあなたは、なにか違うわ」

男「…」


108: 2010/10/31(日) 00:45:01.15 ID:U11bxgjm0
少女「ありがとう」

男「感謝し足りないのはこっちのほうさ」

少女「…うん」

男「じゃ、ちょっと行ってくる」

少女「うん、気をつけてね」

男「ああ」


109: 2010/10/31(日) 00:49:18.82 ID:U11bxgjm0


男「さて、と」

男「近くに爆撃音もないし、安全だとは思うが…」

男「あの丘の辺りでも見に行くか」



男「あの子の言う通り、この辺りは確かに…」

男「なんと言うか、平和だな」

 少女『私が住んでいるからよ』

 少女『私、氏なないの』


110: 2010/10/31(日) 00:53:18.44 ID:U11bxgjm0
男「はは、あの子にはなにか特別な力でもあるんだろうか」

男「戦争が終わっても、あの家だけは無事な気がするな」

男「お、熱に効く薬草があるぞ、持って帰ってやろう」



男「ん??墓??」

男「…」

男「…これ、は…」


113: 2010/10/31(日) 00:58:29.79 ID:U11bxgjm0
少女「あら、お帰り」

男「うん」

男「気分はどうだ」

少女「だいぶマシよ」

男「熱は」ピト

少女「んん」

男「まだあるな、ちょっと苦いけど薬を作ってやるから、飲みな」

少女「ありがと」


115: 2010/10/31(日) 01:04:13.33 ID:U11bxgjm0
少女「んぐ、苦い…」

男「我慢しろ」

少女「うええ…」

男「ほれ、口なおしのトマト」

少女「ありがと」

男「水も大目に飲んどきな」

少女「はあい」


116: 2010/10/31(日) 01:12:15.31 ID:U11bxgjm0
男「今まで一人でどうしてた」

少女「ん??」

男「ほら、こんな風に熱が出たりしたとき」

少女「ああ、治るまでずっと寝てたわ」

男「看病してくれるやつは」

少女「いつも一人だったからね」

男「そうか」

少女「あなたがいてくれて、助かったわ」

男「まあ、元気なのが一番なんだがな」


117: 2010/10/31(日) 01:17:32.40 ID:U11bxgjm0
男「さっき丘の上に行ったんだが」

少女「そう」

男「お墓を見つけたよ」

少女「…そう」

男「あんたと同じネックレスがかかってた」

少女「…」

男「あれ、あんたのお母さんの、墓だろ」

少女「…そうよ」


118: 2010/10/31(日) 01:21:12.76 ID:U11bxgjm0
男「どうしてあんな遠くに」

少女「兵士さんたちとは、一緒にしたくなかったから」

男「まあ、そういうもんか」

少女「ちょっと大変だったわ」

男「そうだろうな」

少女「でも、あそこからならきれいな景色が見えると思って」

男「ふうん」


121: 2010/10/31(日) 01:26:22.86 ID:U11bxgjm0
少女「ね、お願いがあるんだけど」

男「ああ、なんでも言ってくれ」

少女「一緒に寝てほしいの」

男「え」

少女「一緒に、寝て」

男「…それは…構わないけど…」

少女「お願い」


123: 2010/10/31(日) 01:32:16.25 ID:U11bxgjm0
男「じゃ、じゃあ」ゴソゴソ

少女「ありがと」

男「狭くないか」

少女「いいの、それがいいの」

男「へえ」

少女「あなたには、なんだか安らぎを感じるの」

男「そうかい」


124: 2010/10/31(日) 01:36:15.41 ID:U11bxgjm0
少女「ママを思い出したら、ちょっと寂しくなっちゃって」

男「わかるよ」

少女「えへへ」

男「一人で暮らしていたって、まだ14歳なんだもんな」

少女「お年頃なのよ」

男「お年頃の女の子が、見知らぬ男と一緒のベッドってまずくないか」

少女「パパだと思えば平気よ」

男「はは、パパか」

男「それなら問題ないな」


125: 2010/10/31(日) 01:42:26.86 ID:U11bxgjm0
少女「ね、聞きたいんだけど」

男「うん??」

少女「あなたの銃のこと」

男「ああ、どうしたんだ」

少女「普通大きな銃を撃つと、弾の殻みたいなのが出るわよね」

男「…」

少女「あなたの銃は、どうして殻が出ないの??」

男「…そういう銃なんだ」

少女「ふうん」


126: 2010/10/31(日) 01:46:42.75 ID:U11bxgjm0
男「中で弾を錬成して、無限に撃てる」

少女「それってすごいの??」

男「さあ、どうかな」

少女「今までそんなすごい銃を持ってる人はいなかったわ」

男「そうかい」

少女「あなたの銃は特別なの??」

男「…隊のみんな持ってるよ」

少女「嘘」


127: 2010/10/31(日) 01:55:11.43 ID:U11bxgjm0
少女「あれ、特別な銃なんでしょう」

少女「この戦場であなただけが持っている銃」

少女「あなたはそれを与えられたのか、持ち出したのか…」

男「おいおい」

少女「私の勝手な想像よ、気にしないで」

男「そうは言ってもな」

少女「だから同じ軍の人にも目をつけられていて」

少女「だからあの人も、頃したんじゃない??」

男「…」


129: 2010/10/31(日) 02:04:50.95 ID:U11bxgjm0
少女「えへへ、いい想像力じゃない??」

男「そうだな」

少女「正解かどうかは、どうでもいいのよ」

少女「ただなんとなく、もやもやしたのを解消したくなって、こうなったの」

男「正解かも、知れないぞ」

少女「いや、聞きたくない」

少女「そう想像しているのが、楽しいんだもの」

男「じゃあ、答えはいらないな」

少女「ええ、いらないわ」


130: 2010/10/31(日) 02:09:10.32 ID:U11bxgjm0
男「じゃああんたの方にも、想像の余地があるんじゃないか」

少女「どういうこと??」

男「たとえば…」

男「あの苺のことさ」

少女「ふうん」

男「あれを食べた兵士はみな氏んだって言ったな」

少女「ええ」

男「あの苺に毒はなくて、ただ形見の大切な苺を食べてしまった兵士に腹を立てて…」

少女「…」

男「本当は君が兵士を頃した、とか」


131: 2010/10/31(日) 02:13:15.82 ID:U11bxgjm0
少女「あはは、面白いわね」

男「こういう考え方もできるぞ」

少女「どんな??」

男「あの苺には確かに毒があったが、戦争や兵士を憎んでいた君は…」

少女「私は…??」

男「わざと兵士に食べさせた、とか」

少女「…うふふ」


132: 2010/10/31(日) 02:18:23.58 ID:U11bxgjm0
男「ほら、いくらでも想像が広がるもんだ」

少女「正解はもちろん…」

男「いらないさ」

男「このままでいい」

少女「そうよね」

男「ミステリアスな女も魅力的だ」

少女「ベッドでそんな台詞を囁かれたのは初めてよ」

男「ロマンチックか??」

少女「そうでもないかな」


133: 2010/10/31(日) 02:24:12.15 ID:U11bxgjm0
少女「あなたは、実は、私の本当のパパで、この家に戻ってきた」

男「…」

少女「ってのはどうかしら」

男「家族は氏んだと言ったぞ」

少女「それは私に本当のことを隠すための嘘、でね」

男「…なるほど」

少女「ね、パパ」

男「ははは」

少女「うふふ」


135: 2010/10/31(日) 02:27:45.63 ID:U11bxgjm0
男「この家が戦争でも残っているのは、君の氏んだお母さんが魔法で守っているから」

少女「この戦争がいつまでも終わらないのは、あなたが無線ジャックをして混乱させているから」

男「裏の墓に実は本当のこの家の持ち主が眠っている」

少女「私も実は兵士」

男「…くっくっく」

少女「あははははは」


136: 2010/10/31(日) 02:32:15.00 ID:U11bxgjm0
男「おれたち、知らないことだらけだな」

少女「会ったばかりだもの、仕方ないわ」

男「本当のことも混ざっているかもな」

少女「そうかもしれないわね」

男「…はあ」

少女「うふふ」

男「熱、下がったんじゃないか」

少女「…そうね、ずいぶん楽だわ」


137: 2010/10/31(日) 02:40:00.86 ID:U11bxgjm0
男「おれの夢を教えようか」

少女「なあに??」

男「戦争なんかやめてしまって、平和に暮らしたい」

少女「じゃあ私の望みも教えてあげる」

少女「一人きりはもういや、安心できる誰かのそばにいたい」

男「おれは毎日うまい野菜が食いたい」

少女「じゃあ…私を守ってくれる素敵な男性に巡り合いたい」

男「叶うな」

少女「ええ、すぐに、ね」


138: 2010/10/31(日) 02:45:27.00 ID:U11bxgjm0
少女「明日も、まだこの家にいてくれる??」

男「ああ」

少女「じゃあね、明日、あなたのギターが聴きたいわ」

男「ああ、お安い御用だ」

少女「熱もきっと下がってるだろうし、ね」

男「じゃあ、おれも一つ頼みごとがあるんだが」

少女「なあに??」

男「あの苺が食いたいな」

少女「うふふ、どうしようかな」

少女「…特別に、許してあげる♪」


★おしまい

141: 2010/10/31(日) 03:55:36.33
よかった

142: 2010/10/31(日) 06:03:21.66
おつ


引用元: 少女「黒いギターと苺の園」