1: 2012/07/02(月) 18:36:08.84 ID:6qwkMjTZ0

嬢「どこかに居ないものかしら……」

女「誰がです?」

嬢「わたくしにために、戻れないと知りつつ三度目の人魚薬を飲んでくれるような……」

嬢「カウンターで1ターンキルを披露してくれるお兄様のような……そんな人が。」

女「お姉さまったら、またそんな事をお言いになって。」

嬢「同級生なのですから、お姉さまはやめて頂けませんこと?」

女「最初に好きなように呼べと述べられたのはお姉さまです。」

嬢「できたらその変な敬語もやめていただきたいところです。」

女「これはお姉さまに対する御敬意の表れですから……」

嬢「でしたら、せめて正しい用法を習得なすって下さいまし。」



2: 2012/07/02(月) 18:36:48.31 ID:6qwkMjTZ0

女「この間一緒におられた男性とはもう終わられましたんですか?」

嬢「あの卑劣漢の事は口の端に上らせないで欲しいですわ。」

女「何かされたんですか?」

嬢「耐え難い辱めを受けました。ですからこれ以上は……」

女「それだけ聞かせてもらえたら、この話はやめますから。」

嬢「しかたありませんね……」

嬢「あれは、ゲームセンターに同伴した時の事です……」

女「もうそれ、通過儀礼みたいなもんですね。」

嬢「初めはやけにキャラクター選択に時間を掛けているなと思ったのです。」

嬢「まさか臆面もなくジャーレッドバグを使っていただなんて!」

女「あ、尋問しといて何だけど私にはイミフだわ。」

4: 2012/07/02(月) 18:40:31.24 ID:6qwkMjTZ0

女「私の幼馴染にあたるんですけど、ソイツたぶんいつものとこに居ると思うので……」

嬢「さっそくご紹介いただけますのね。」

女「今日の放課後、御案内いたしますわ。」

嬢「その方が居るという、いつものところへですの?」

女「左様ですの。」

嬢「いつものところって、なんだか憧れますわね。」

女「おやじ、いつものやつ頼むぜ。みたいな?」

嬢「というよりは、指が覚えているB1F:E13-N5の順路みたいな感覚ですわ。」

嬢「ハイエンドに稼ぐのならばB1F:E22-N30の方がなじみ深いかしら?」

女「に、日本語でおk?」

6: 2012/07/02(月) 18:44:13.71 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

女「お姉さま、こちらですわ。」

嬢「あら、この方向は……」

女「ここらへん、来た事がおありになられますの?」

嬢「あの通りの右奥に1クレジット50円のゲームセンターが……」

女「ああ、そこが目的地でございますわ。」

嬢「あの店には少々因縁がありますの。」

―オバヒー! オバオバオバオバヒー!―

女「な!? 何の音ですか?」

嬢「メールの着信音ですわ。SPからの報告ですわね。」

8: 2012/07/02(月) 18:46:55.17 ID:6qwkMjTZ0

嬢「どうやら、丁度わたくしの宿敵もあの店にいらしているようですわね。」

女「宿敵?」

嬢「熱血高校に対する花園高校のようなものですわ。」

女「わかりませんって!」

嬢「とにかく、幼馴染をご紹介いただくのはわたくしが雪辱を晴らしてからですわね。」

女「雪辱ってことは……まさか、負けたんですの? お姉さまが!?」

嬢「あまり大きな声を出さないでくださいまし。」

9: 2012/07/02(月) 18:50:43.51 ID:6qwkMjTZ0

嬢「やっと来ましたわ……この日が……」

女「あれ? あいつ……」

嬢「この2週間、何度となく貴方との対戦を思い出しましたわ。」

男「なんだ??」

嬢「私の、ただ一度の敗北! ゴミのような凡人に、私が敗れたのです。」

男「お、おう……」

嬢「2週間この辱めに耐えてきました。でも、今、それも終わります。」

嬢「貴方を葬り去り、あの敗北がただのまぐれだったと証明し――」

嬢「このわずかな傷を拭い去って完全な復活を遂げますわ。」

男「えと、まぐれなんか関係ない。俺自身のために貴様に負けるわけにはいかないんだ?」

嬢「!!」

10: 2012/07/02(月) 18:54:24.40 ID:6qwkMjTZ0

嬢「な、なんとでもほざくがいいですわ!」

女「知り合いなの?」

男「いや、わからん……」

嬢「よそ見をしている余裕がありますの?」

男「くっ……」

嬢「わたくしはジャスティンと同じ轍は踏みませんわ。」

嬢「TCからのSCSAで確実に……削り切る!」

男(ガード確認してからキャンセルで繋いできやがった! くそ、それなら!)

嬢「赤ブロ!? まって! ダメ! あああ!」

男「PA3回済ませてなければ削り切られてただろうな……」

11: 2012/07/02(月) 18:59:03.64 ID:6qwkMjTZ0

女「あの、お姉さま? コレがその、言ってた私の幼馴染であらせられますわ。」

男「なんだそれ? お前、普段はそんな喋り方してんのか?」

女「うっさいわね! ホントならあんたなんかお姉さまと話す資格すらないのよ。」

嬢「♪田園調布のホ~ム~に~二人連れ~のあ~なた~」

女「お姉さま??」

嬢「♪こころの中から思い出~つぎつぎ逃~げて~いく~」

女「お気を確かに! 戻ってきて!」

嬢「♪はかないのぞみはバ~シシ……」

男「一体なんなんだ? その人は。」

嬢「はっ!? わたくしとしたことが!」

12: 2012/07/02(月) 19:05:13.23 ID:6qwkMjTZ0

嬢「ご紹介が遅れました。わたくし、彼女のクラスメイトでその、えと……」

女「あんたゲームとかいろいろ詳しいでしょ。だから紹介してほしいって。」

女「まあ、既に面識はあったみたいだけどさ……」

男「なんでゲームに詳しかったら紹介するって流れになるんだ?」

女「えっと、私もよくわかんないんだけど、お姉さまがゲームみたいな――」

嬢「お待ちなさい!」

女「あ、そっか!」

嬢「まったく、また久保田バスターをお見舞いされたいのですか?」

女「ベアハッグなら大歓迎なんですけどね。」

14: 2012/07/02(月) 19:11:56.34 ID:6qwkMjTZ0

男「で?」

嬢「その、ゲームを通じて親睦を深めようと思うのですが、ご迷惑ですか?」

女「そーそー、そういうことなのよ。」

男「まあ別に迷惑とかじゃないけど、女の人でそういうのって今までいなかったからなぁ。」

嬢「対戦前の会話で直感しました。貴方はわたくしについて来れる人だと。」

女(前の人の時もそういう事言ってた気がしますがね……)

嬢「もう一度、確認の意味で質問をさせていただいても?」

男「ん? ああ。」

嬢「ガルガル野郎と、良い女と、どちらがお好きですか?」

女「?」

男「聞くまでもなかろうよ。」

嬢「♪」

15: 2012/07/02(月) 19:16:55.91 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

女「じゃ、私はここらでおいとましますわ。」

男「俺もそろそろ……」

嬢「あら、もうお帰りになられるのですか?」

女「ちょっと! 私が気ぃ利かせてやってんのに何言ってんのアンタ。」

男「間が持つわけ無いだろ。それにそろそろ店番の時間だ。」

嬢「ちょっと……彼女の事……お借りしますね。」

女「げっ、私また余計なこと言っ――」

嬢「向こうでお話ししましょう? よろしいですわね?」

女「あぁぁぁ……」

男「YOU ZAP TO ...」

17: 2012/07/02(月) 19:20:44.57 ID:6qwkMjTZ0

女「申し訳ございませんでした。お姉さま。」

嬢「本来ならば、ひっくり返って大激怒を16回繰り出しているところです。」

女「よくわからないですけど、大惨事っぽいですね。」

嬢「完熟大魔王ですら葬れますわよ。」

女「本来なら、という事は、怒ってらっしゃらないのですか?」

嬢「怒ってはいます。貴女の幼馴染に免じて許しているに過ぎません。」

女「あいつの事気に入ったんですの?」

嬢「ええ。ですが、次に不用意な事をなさったら……申し上げなくてもわかりますね?」

女「気をつけるよう努力することを善処します。」

18: 2012/07/02(月) 19:28:14.52 ID:6qwkMjTZ0

嬢「お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。」

男「あー別にいいよ。でも、そろそろホントに店番の時間だから。」

女「コイツの家、ゲーム屋やってんですよ。」

嬢「まあ! ゲーム屋さんでございましたの!?」

男「多分違う想像してるだろ。ゲーム屋っていうか、中古の販売・買取なんだけどな。」

嬢「中古?」

女「遊び飽きたゲームを安く買いたたいて高く売りつけるやくざな店ですわ。」

男「人ん家を大国商店やらボルタックみたいに言うな。」

嬢「なるほど!」

女「それで理解しちゃえますの?」

19: 2012/07/02(月) 19:33:39.26 ID:6qwkMjTZ0

女「あ、そうだ。店番って言ってもどうせ暇でしょ?」

男「まあ、忙しくはないな。某チェーンと違って個人商店だし……」

女「お姉さま、社会見学としてこの男の下賤な家業を見学してはいかがですの?」

男「なんだよそれは?」

女「お姉さまは私達とは住んでる世界が違うの。だからこそわからない事も多いワケ。」

男「要するに、世間知らずってことか。」

女「滅多な事言わない方がいいわよ。お姉さまはお嬢さまなの。」

男「まあ、そんな感じはするな。お前と違って。」

女「今だって、きっとボディガードが草葉の陰から目を光らせてるわ。」

男「お前、国語の成績悪いだろ? ま、気をつけるけどさ。」

嬢「それほど物騒な者達ではありません。フライングマンのようなものだとお思いください。」

22: 2012/07/02(月) 19:38:55.70 ID:6qwkMjTZ0

男「特に見るところもなくて退屈なだけだと思うけどな。」

嬢「それは、お邪魔しても構わないという事ですの?」

男「本当に商売の邪魔をするわけじゃないなら、ね。」

女「商売ねえ……ただ単にボケっと時間潰してるだけでしょ?」

男「どういう意味だよ。」

女「最近は新作もネットで買う人ばっかで、閑古鳥が鳴いてんでしょ?」

嬢「でしたら……僭越ながら、わたくしがお客さん役をいたしますわ。」

男「バザースカの再現してどうすんの? 確かに、こばい屋まがいの店だけどさ。」

女「お客さんごっこじゃあ、状況は変わんないわね。」

男「ウチは老婆が営む老舗の駄菓子屋みたいに、ガキどもの憩いの場としてだな……」

24: 2012/07/02(月) 19:44:39.43 ID:6qwkMjTZ0

女「お姉さま、着きましたわ。この冴えない面構えの店がコイツの家ですわ。」

嬢「こちらは裏口なのですか?」

男「こっちが正面の入口だよ。お嬢様は庶民の家なぞ初めてでございましょうがね!」

嬢「あ……ごめんなさい……」

女「ちょっと、そんな言い方しなくてもいいじゃない。」

嬢「いえ、わたくしの配慮が足りなかったのです。配慮などという発想も驕りですが……」

男「なんか俺、悪者っぽい?」

女「じゃ、私は帰りますわ。お姉さま、何かされたら大声で叫んでくださいね。」

男「鬨の声(ときのこえ)ですね。わかります。」

25: 2012/07/02(月) 19:51:25.13 ID:6qwkMjTZ0

男「ところで、お嬢様は――」

嬢「できましたら、お嬢様はやめていただきたいですわ。」

男「じゃあ、レディ? マダムは違うし……」

嬢「そういう意味ではございません。」

男「マドモアゼル?」

嬢「わたくしはトムヤムクンよりアイスケーキの方が好みですわ。」

男「いや、爆発貴婦人の方じゃなくてね……」

嬢「とにかく、かしこまった呼び方をしないでほしいということです。」

27: 2012/07/02(月) 19:58:00.41 ID:6qwkMjTZ0

男「じゃあ、なんて言えばいいの?」

嬢「そうですわね……スフレかミルフィーユではどうでしょう?」

男「そう来たか……でも、スフレは響きがヤバいし、ミルフィーユは言いにくいな。」

嬢「ババロアは嫌ですし、タルトというのは?」

男「つーか、クマちゃん持ってるの?」

嬢「ええ、偶然ですが今日はクマちゃんです。」

男「今日は……って、どういうこと?」

嬢「あ! な、何でもありませんわ……詮索は無用に願います。」

男「ワケわかんねえ。」

28: 2012/07/02(月) 20:03:25.94 ID:6qwkMjTZ0

男「じゃ、俺は爺ちゃんと店番交代するから、適当に見学しててよ。」

嬢「わたくし、このようなお店は初めてでして、解説などいただけたら……」

男「欲しい商品を手に取る。ここへ持ってきてお金を払う。以上。」

嬢「商品はどこに?」

男「いや、入口からそこまで、並べてあるの全部商品ですけど?」

嬢「わたくしとした事が、またご無礼を……」

男「いいよ。こういうトコ来たこと無いなら仕方ないでしょ。」

嬢「ということは、ルピーで買い物をするときと同じスタイルなのですね?」

男「いや、俺達からしたら、それが普通のスタイルだからね?」

32: 2012/07/02(月) 20:08:55.95 ID:6qwkMjTZ0

 「なー、おっちゃん、ヘビースーツってどこにあるんだ?」

男「あれは攻略本にウソが書いてあるんだ。どこにもないぞ。あと俺は兄ちゃんだ。」

 「コウメイに覚えさせても冥術が弱いんだけど……」

男「ルドン行ってファティマかリンダに交代させろ。つーか宿題終わったのか?」

嬢(なるほど、お客さんとのコミュニケーションも仕事のうちなのですね……)

男「宿題終わってから来い。じゃないと家に電話するぞ。」

 「バカヤロー!」

嬢「あの、ベルセルクが技道場に登録されないのですが……」

男「あれはそういうものだから皇帝に閃かせて継……って、何してるんですか?」

嬢「雰囲気を味わってみたくなりまして。」

33: 2012/07/02(月) 20:14:18.85 ID:6qwkMjTZ0

男「暇だったら試遊機で遊んでていいよ。そこのテレビにつながってるヤツ。」

嬢「これは商品ではないのですね。」

男「本体は店の備品。カセットは俺の私物だよ。」

嬢「このサイズの画面で遊ぶのは何だか新鮮な気がしますね。」

男(悪気は無いんだろうな……)

男「他のお客さんがやりたそうにしてたら代わってあげて。居たらだけど。」

嬢「とはいえ、RPGやSLGは置いてはいないのですね。」

男「あくまで試遊だからね。長時間ゲーム機を占有されないためでもある。」

嬢「それは残念ですわ。」

男「どういう意味だ……」

35: 2012/07/02(月) 20:19:10.17 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

男「そろそろ閉店時間なんで、切り上げてもらえませんかね?」

嬢「あ、すみません。時間も忘れて夢中になっておりましたわ。」

男(一体何しに来たんだよ……)

男「というか、ボディガードの人がお迎えに来てます。」

嬢「毒島ですか?」

男「いや、名前言われてもわかんないよ。」

嬢「えっと、その……」

男「それ気に入ったんなら貸してあげるからさ。」

嬢「よろしいのですか?」

男「そこに置いてるのは、遊びつくして俺がもうやらないヤツだし。」

男「そいつらも埃被ってるよりは遊んでもらえた方が嬉しいんじゃね?」

嬢「では、お言葉に甘えさせていただきます。」

37: 2012/07/02(月) 20:22:20.38 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

女「ゆうべは おたのしみ でしたね。」

嬢「どうしてそれをご存知なのですか?」

女「え? マジで?」

嬢「ええ、まんじりともせず楽しませていただきました。」

女「マン……尻……?」

嬢「コホン……一睡もしないで、という意味ですわ。」

女「一晩中あいつと!?」

嬢「ソフトを一本お借りして持ち帰り、徹夜で遊んだという事です。」

女「よかった。てっきりお姉さまがあの外道に……」

嬢「お待ちなさい。外道というのはまさか彼のことを言っているのですか?」

女「そう……ですけど?」

39: 2012/07/02(月) 20:28:09.79 ID:6qwkMjTZ0

嬢「幼馴染という立場からの軽口ですの?」

女「あいつは……約束破るし、ウソつきなんだ。」

嬢「その言葉遣いからすると、詳しく聞く必要がありそうですわね。」

女「あ、いえ、そういう事ではございませんですのわよ。」

嬢「いまさら遅くってよ。確かに、辛辣に当たっていたようにも見えましたし。」

女「お姉さまは、あいつのことはどう思ってますか?」

嬢「徐々に親しくなって、交際を申し込んでもらおうと考えていますわ。」

女(申し込んでもらうって……)

嬢「それも、伝説の樹の下で。」

女「いろいろとおかしいです。」

40: 2012/07/02(月) 20:34:28.48 ID:6qwkMjTZ0

嬢「何がかしら?」

女「伝説の樹の下で告白するのはヒロインの役であって――」

嬢「わたくしを主人公の立場とするなら、彼はヒロインという事になりますわ。」

女「それはそうかもしれないですが……」

嬢「それよりも、今の話をおかしいと気付いた事……掘り下げる必要がありますね。」

女「あわわ……」

嬢「貴女、本当はそこそこゲームに造詣が深いのではなくって?」

女「お姉さまやあいつ程じゃないですけど、ゲームは好きでした。」

嬢「過去形?」

女「私はゲームに負けたんです。」

42: 2012/07/02(月) 20:40:49.91 ID:6qwkMjTZ0

嬢「対戦で賭けでもしたんですの?」

女「いえ、テレビゲームという存在に負けました。敵わなかったんです。」

嬢「それには彼も関係しているのかしら?」

女「言わなきゃダメですか……?」

嬢「あら? わたくしは昨日、貴女に問い詰められたとき黙秘を貫いていましたか?」

女「身から出た錆ってことですね。」

嬢「全てを話せとは申しません。」

女「家が近かったこともあって、小さい頃はもっぱらあいつの家で遊んでたんです。」

43: 2012/07/02(月) 20:44:54.91 ID:6qwkMjTZ0

女「新しいRPGを手に入れた時は、あいつが知らせてくれて……」

女「男のキャラはあいつの名前、女のキャラは私の名前をつけて一緒に冒険しました。」

女「勇者と僧侶や、聖騎士と白魔導師に扮して、いろんな世界を救ったんです。」

嬢「微笑ましい事ですわね。」

女「私はあいつが操作するのを横で見てたんですけど。それでも楽しかった。」

女「あの頃は、私が遊びに行くまで電源入れないで待っててくれたっけ。」

女「……でも、それはある日突然壊れてしまった。」

44: 2012/07/02(月) 20:49:19.57 ID:6qwkMjTZ0

嬢「貧乏神の押し付け合いや、ルール無用のフィールド魔法合戦でもしましたの?」

女「そういうのじゃないです。」

女「あるゲームを攻略中に、私が熱を出したことがあって……」

女「私のせいで待たせるのが嫌だったから、先に進めててもいいよって言ったんです。」

女「その代わり、後でストーリーを教えてねって約束して……」

嬢「そして、その約束が守られなかった?」

女「はい。」

46: 2012/07/02(月) 20:55:20.56 ID:6qwkMjTZ0

女「熱が下がって、遊びに行ったらソフトが無くなってて。」

女「どうしたのか訊いたら、つまんなかったから売ったそうで。」

女「あいつはどんなクソゲーでも一通りクリアするまでやるから、すぐ嘘だってわかりました。」

女「問い詰めたけど、何も教えてくれなくて……でも一言だけ――」

女「――お前は王女なんかじゃない。と……」

嬢「それがきっかけになって、一緒に遊ぶことは無くなった。ということかしら?」

女「あいつは自分の理想をゲームのキャラに見出した。」

嬢「貴女はそれに届かないと思われた。そういう事ね?」

48: 2012/07/02(月) 21:00:04.04 ID:6qwkMjTZ0

女「まあ、それはどうでもいいんです。それよりも――」

女「約束を破ったこと、私に嘘をついたこと、それが許せなくて。」

嬢「だから彼のことを外道と言ったのですね?」

女「はい。でもまあ、外道は言い過ぎでしたね。」

嬢「貴女の想い、わたくしが引き継いで遂げてみせますわ。」

女「はい?」

嬢「先帝の無念を晴らす!」

女「いや、そういうのはいいです。」

50: 2012/07/02(月) 21:05:15.53 ID:6qwkMjTZ0

嬢「まだ舞台を降りたつもりはないと? ライバルとしてわたくしに挑むと?」

女「あー……ちょっとややこしいんで、いったん整理しましょう。」

嬢「ええ。」

女「まず、私はあいつを恋愛対象として見たことはありません。」

女「ただ、約束と嘘に関しては、純粋に許せないとは思っています。」

嬢「男女の友情という事ですか?」

女「少なくとも私が求めてたのはそれですね。」

嬢「つまり、わたくしは頃してでも奪い取るほどの覚悟をする必要はないのですね。」

女「で、私はこの学園に進学しましたが、それはあいつと離れるためではありません。」

女「私、男の人より女の子の方が好きなんで。」

嬢「え?」

51: 2012/07/02(月) 21:10:35.71 ID:6qwkMjTZ0

嬢「…………」

女「もういちど はじめから ききますか?」

嬢  はい
  >いいえ

女「まあ、そういうわけですから、王女じゃないって言われた時に気付いたんです。」

女「あいつは私のことを女性として意識してるんだってコト。」

嬢「貴女はそれが嫌だったのですか?」

女「嫌悪する程ではないですが、心地よくは無かったですね。」

女「その上で、ゲームのキャラ以下だって烙印を押されたわけで、ゲーム嫌いに……」

53: 2012/07/02(月) 21:18:34.57 ID:6qwkMjTZ0

嬢「今でも?」

女「今はそれほどでも……でも、あんまりやらなかったから、あいつとは自然と疎遠になりました。」

嬢「貴女の言葉に嘘はなさそうですわね。」

女「お姉さまの妨害をしようなどとは考えておりませんわ。」

嬢「おや? 口調が戻りましたわね。」

女「おちゃらけて言えることでは無かったということでございますわ。」

嬢「では、妨害しないというのは信用するな。と?」

女「あ、いや、そーゆーわけでは……」

55: 2012/07/02(月) 21:25:05.23 ID:6qwkMjTZ0

嬢「しかし、片方のみの言い分で物事を判断するのは愚かしい事です。」

嬢「貴女を疑うわけではありませんが、彼にも折を見て話を聞きますわ。」

女「それは好きにしていただいて構いませんわ。」

嬢「モウゼスでは常識ですものね。」

女(これさえ無ければなぁ……)

女「まあ、そうですね。昔の事ですし、私の誤解や記憶違いの可能性もあります。」

嬢「彼にもそれなりの事情があったとも限らないですし。」

56: 2012/07/02(月) 21:33:05.12 ID:6qwkMjTZ0

女「次はいつ会うつもりなんです?」

嬢「進展があるまで毎日通うつもりです。」

女「え? 毎日?」

嬢「あ、ひょっとしたらご迷惑になるのでしょうか?」

女「いや、迷惑とかじゃなくて、意外に積極的だなと思いまして。」

嬢「自分で機会を作り出せるのに、あえて待つのは非効率ですわ。」

女「そういう考え方ができるところ、ご尊敬いたしますわ。」

嬢「それに、モタモタしていたら、ご先祖様が出てきてしまいますもの。」

58: 2012/07/02(月) 21:38:17.68 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

嬢「こんにちは。」

男「いらっしゃいませ。」

嬢「ストックボンバーをくださいな。」

男「ウチは空中inじゃねえよ。」

嬢「ありがとうございます。」

男「今日はなんかテンション高くない?」

嬢「昨夜、徹夜してしまいまして……その所為かと。」

男「早く帰って寝た方がいいんじゃない?」

嬢「帰れとおっしゃっているのですか?」

男「いや、そういうわけじゃないけど。」

61: 2012/07/02(月) 21:45:25.70 ID:6qwkMjTZ0

嬢「ご迷惑でしたらそのようにおっしゃってください。」

男「悲しいことに暇だから別にいいよ。そっちこそ退屈しない?」

嬢「お気づかいなく。」

男「つか、まだ見学する要素あるの?」

嬢「いえ、今日は客として来たつもりですわ。」

男「うーん……一応ウチの商品は動作確認はしてあるけど……」

嬢「ええ。」

男「他人の手垢が付いた物とか、お嬢様には売っちゃいけない気がする。」

63: 2012/07/02(月) 21:50:55.71 ID:6qwkMjTZ0

嬢「お嬢様?」

男「あ、ゴメン。タルトさんね。」

嬢(今日はクマちゃんじゃないですけどね)

嬢「わたくしの自宅や家業をご存知ですの?」

男「いや、知らないけど。」

嬢「では何を以ってしてお嬢様扱いなさるのですか?」

男「雰囲気……かな。」

嬢「世間知らずなところは自覚しておりますが、そのような扱いは不愉快です。」

64: 2012/07/02(月) 21:53:52.90 ID:6qwkMjTZ0

嬢「貴方はお小遣いの少なそうな子供が来店したら追い出すのですか?」

男「いや、そんな事はしないよ。」

嬢「でしたら、わたくしの事も普通の客として扱ってくださいまし。」

男「あー、うん。なんかゴメンね。」

嬢「ところで、モルドールチャージでのお支払いは可能ですか?」

男「ウチは宿屋でもねえよ。」

嬢「ありがとうございます。」

66: 2012/07/02(月) 21:59:27.47 ID:6qwkMjTZ0

嬢「理想のキャラクターは誰ですか?」

男「いきなりどうしたんですか?」

嬢「他愛の無いオハナシです。ここはお客の世間話にも応じる店と記憶しています。」

男「んー、そういう業務があるわけじゃないよ。某飲食店のスマイル¥0じゃないんだし。」

嬢「答える義務は無い。と?」

男「いやいや、そうじゃないからね。理想のキャラだったら無法松かな。」

嬢「ろれろホゲェ! の人ですか?」

男「そう、ポゲラルゴォ~! の人。」

68: 2012/07/02(月) 22:07:51.47 ID:6qwkMjTZ0

嬢「不潔です!」

男「いきなり何?」

嬢「あ、いえ、他人の嗜好をあれこれ言うのは無粋でしたわね……」

嬢「でも、大丈夫です。わたくしは同性愛にも多少の免疫は出来始めて――」

男「違うから、憧れとか目標とかそういうのだから。」

嬢「そ、そうですよね。わたくしとしたことが……一体何を勘違いしたのかしら。」

男「つまり、聞きたかったのは理想の異性像だったってことか。」

嬢「端的に言えばそういう事ですわ。」

男「そっちはいろいろで一概には言えないけど、強いて挙げるならヲクウかなぁ?」

69: 2012/07/02(月) 22:13:26.51 ID:6qwkMjTZ0

嬢「人間に戻った後ですか?」

男「う~ん、それもいいけど、魔物のままでも健気なところに惹かれる。」

嬢「そうですか……ああいうのが好みなんですね。」

男「いや、でも、気分で変わったりもするし、現実の人にそれを求めちゃいけないでしょ。」

嬢「言葉に重みがありますね。何か苦い経験でもありまして?」

男「それは無い。逆の事して後悔したことはあるけどね。」

嬢(無い? それに、逆?)

男「以前はね、ゲームのキャラに実在の人を当て嵌めてたんだ。」

71: 2012/07/02(月) 22:18:31.86 ID:6qwkMjTZ0

嬢「それは感情移入というものではないですか?」

男「まあそうとも言う。今は無個性な主人公以外はほぼデフォルトネームだよ。」

嬢(今日のところはここまでにしておきましょう……)

嬢「もし、今以上に親しくなれたら、その時はこれ以上のことを訊いても構いませんか?」

男「どゆこと?」

嬢「今は答えづらい事を訊ねることはしないという意味です。」

男「別に答えづらいことは無かったけど?」

嬢「ええ、今はその範囲の話題にとどめたつもりですから。」

男「どっちかって言うと、そうやって引っ張られる方が嫌かな。」

嬢「貴方と、貴方の幼馴染に関することですわ。」

72: 2012/07/02(月) 22:24:56.23 ID:6qwkMjTZ0

男「あー……あいつ、何か言ってた?」

嬢「約束を破った。そして、嘘吐きだとおっしゃっていましたわ。」

男「確かにその話題はちょっとヘビィだな。」

嬢「では話題を変えますわ。わたくしをゲームのキャラクターに例えると、どなたになりますか?」

男「まだよく知らないし、外見からしか判断できないけど、真美19ってところかな。」

嬢「ッ!……ほ、補足説明を要求しますわ。」

男「怒った?」

嬢「それは説明を聞いてからにいたします。」

74: 2012/07/02(月) 22:30:44.12 ID:6qwkMjTZ0

男「深い意味は無いよ。所作は品行方正、ボディガードも居る。そこからの連想。」

嬢「甲板のアレらはわたくしのSPという事ですか……」

男「安易にタチアナでも良かったけど、あっちは色気が無さ過ぎると思うし。」

嬢「そういうことであれば、ひとまず喜んでおきましょう。」

嬢「では、彼女を例えるとしたらどうでしょう?」

男「あいつは……ファリス……かな?」

嬢(王女設定のキャラですわね……)

77: 2012/07/02(月) 22:39:37.61 ID:6qwkMjTZ0

嬢(いや、これを彼女の話に重ねるのはいささか早計過ぎますわ)

嬢「理由をお聞かせ願えますか?」

男「男勝りなところもあるし、城に戻った時、無理矢理お淑やかにさせられちゃうじゃん。」

嬢「実際、あのはちゃめちゃな敬語は正直どうかと思いますわ。」

男「久しぶりに会ったけど、あんなになってたなんてな……」

男「――っと、ダメだダメだ。居ない人の話は悪口になりやすい。」

嬢(これは現在の彼女の話……となると、やはり王女違いと見るべき……)

嬢「あ……」

嬢(今日はここまでと決めたはずなのに……浅ましい)

男「ん?」

79: 2012/07/02(月) 22:45:46.54 ID:6qwkMjTZ0

嬢「少々寝不足ですので、今日はもうおいとまいたしますわ。」

男「じゃあ、駅まで送ろうか? それくらいの時間なら抜けても大丈夫だし。」

嬢「電車には乗りません。大通りまで出て迎えを呼びます。」

男「ならいいか。この辺はそんなガラ悪いのいないハズだし。」

嬢「SPも控えておりますので、心配は無用です。でも――」

嬢「送っていただけるのなら、是非お願いしたいですわ。」

男「ちょっと待ってて。爺ちゃんに伝えてくる。」

80: 2012/07/02(月) 22:51:24.03 ID:6qwkMjTZ0

男「お待たせ。」

嬢「歩いて行くのですか?」

男「え?」

嬢「こういう時は自転車に二人乗りするのではなくて?」

男「そういったシチュエーションに憧れでもあるんですか?」

嬢「非常識でしたでしょうか?」

男「ご希望ならそうしてもいいけど、ホントは道路交通法違反だよ。」

嬢「では、お願いします。そのくらいならわたくしでも揉み消せますし。」

男「いいのかよ。」

81: 2012/07/02(月) 22:57:07.15 ID:6qwkMjTZ0

男「じゃ、つかまっててね。すぐ着くだろうから感慨もクソもないと思うけど。」

嬢「はい!」

嬢「サラマンダーより、ずっと速い!」

男「ドプフォ!」

嬢「あら?」

男「やんわりと俺に氏亡フラグ立てんな!」

嬢(あぁ……)

嬢「すみません。つい……」

嬢(そういえば、あのアバズレも王女でしたわね……)

83: 2012/07/02(月) 23:03:25.24 ID:6qwkMjTZ0

嬢(この人は理想のキャラを人に押し付けたことは無いと言った)

男「この辺で大丈夫?」

嬢(逆に、実在の人物をキャラクターに当て嵌めて後悔した)

男「タルトさん?」

嬢(あれは彼女を否定するのではなく、逆の意図で言ったのだとしたら……)

男「もしもーし?」

嬢「ハッ? すみません。」

男「大通り出たけど、この辺でよかった?」

嬢「ええ、ありがとうございました。気をつけてお帰り下さい。」

男「うん。そっちもね。」

嬢(将軍が氏ぬことはエンディングを見なければ知りえないハズ……)

嬢(つまらないから売った。と、彼女に言ったのは、やはり嘘?)

84: 2012/07/02(月) 23:08:08.76 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

嬢「……というわけで、昨日は自転車の後ろに乗せていただいたんですの。」

女「そういう事聞かされましても、どんな顔をしたらいいのやら……」

嬢「それもそうですね。まあ、これは本題ではありませんから。」

女「本題って……何か進展がありましたの?」

嬢「わたくしではなく、貴女と彼の件です。」

女「問い質したんでございますの?」

嬢「いいえ。具体的な事は何も……ですからこれはわたくしの想像です。」

女「想像ですか……」

嬢「流石に、いきなり過去のことを根掘り葉掘り訊ねるような真似はできません。」

85: 2012/07/02(月) 23:13:45.70 ID:6qwkMjTZ0

嬢「お聞きになられますか?」

女「お願いします。」

嬢「恐ろしくはありませんの?」

女「お姉さまの表情を見れば、悲惨な内容ではないことくらいわかります。」

嬢「では、その前に確認をさせてください。」

女「そこでもったいぶるなんて酷いです。」

嬢「いいえ。これは私の仮説に必要な事なのです。よろしいですわね?」

女「……はい。」

87: 2012/07/02(月) 23:19:33.38 ID:6qwkMjTZ0

嬢「彼が約束を破ったゲームというのは、どのような内容でしたか?」

女「システムは忘れましたが、たしかドラゴンを育成して一緒に戦うRPGっぽいSLGでした。」

嬢「やはりそうですか……」

女「それで何が?」

嬢「結論から申し上げます。貴女はゲームに負けたのではありません。」

女「え? それはどういう……」

嬢「言葉通りの意味です。貴女はゲームのキャラに不戦勝していたのですわ。」

嬢「貴女はあんな愚劣で恥知らずな王女なんかじゃない。そういう意味で言ったのでしょう。」

女「私は愚劣? で、恥知らず? なキャラに、自分の名前を与えてたんですか?」

嬢「そうなりますね。」

89: 2012/07/02(月) 23:24:41.50 ID:6qwkMjTZ0

女「じゃあ、売ったというのは?」

嬢「ゲームとはいえ、貴女の分身が傍若無人に振舞うのを見せたくなかったのでしょう。」

嬢「売り払ったことにすれば、内容を知ることをあきらめると思ったのかもしれません。」

女「そんなことで私に嘘をついたって言うんですか?」

嬢「当時の貴女達の年齢はわかりませんが、あの内容は十分トラウマになり得ます。」

嬢「貴女は自分の分身だったキャラクターが氏亡したら、どう思いますか?」

女「んー……今はともかく、当時は本気で泣くこともあったかなぁ。」

嬢「ささやき えいしょう いのり ねんじろ!」

女「灰はあっても、埋葬は一度もありませんでしたよ!」

90: 2012/07/02(月) 23:29:35.54 ID:6qwkMjTZ0

嬢「とは言っても、これはわたくしの推測でしかありません。」

女「真相は聞かなきゃわからないってことですね。」

嬢「仲直り……というのも変ですが、なさいませんか?」

女「まだ確定したワケじゃないじゃないですか。」

嬢「それは確定するまでわたくしに探れとおっしゃっていますの?」

女「そんな事はありませんですが……」

嬢「わたくしは彼が外道でないことがわかったので満足です。」

女「それもまだ確定してないじゃないですか。」

嬢「確信があれば十分では?」

女「う……」

91: 2012/07/02(月) 23:30:07.56 ID:6qwkMjTZ0

嬢「まあ、今後も貴女の話題が出ることはあるでしょう。」

女「あ、はい。」

嬢「もののついでということで、このことを話す機会もあるかもしれませんね。」

女「じゃあ……!」

嬢「わだかまりが残るのは嫌ですし、もう少し詳しく聞く可能性はありますわ。」

女「さっすが~、お姉さまは話がわかるッ!」

嬢「ただし、貴女の代弁をするわけではありません。最終的には――」

女「わかってます。最後は自分で何とかします。」

嬢(彼の方からアクションがある可能性も残ってますけど)

93: 2012/07/02(月) 23:38:15.64 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

嬢「あの……昨日もお店に向かったのですが……」

女「ああ、閉まってました?」

嬢「ええ……ひょっとして倒産してしまわれたのでしょうか?」

女「いやいや、それはないと思いますわ。」

嬢「なぜですか?」

女「お伝えしていませんでしたが、木曜は定休日なのでございますわ。」

嬢「よかった……」

女「ゲーセン行けば会えたんじゃ……」

嬢「なるほど……つまり、彼は王子様だったというわけですね。」

女「はぁ?」

嬢「サマルトリアのですわ。」

94: 2012/07/02(月) 23:42:36.31 ID:6qwkMjTZ0

――――――――――

嬢「こんにちわ。」

男「いらっしゃいませ。」

嬢「E缶くださいな。」

男「ネジもってんの?」

嬢「ありがとうございます。」

男「それ、その内ネタが尽きるんじゃない?」

嬢「そうなる前に次のフェイズに進む予定ですわ。」

男「どういう事?」

嬢「そろそろアリアハン脱出くらいしてもいいのではないかと思いまして。」

97: 2012/07/02(月) 23:46:22.75 ID:6qwkMjTZ0

男「つか、ウチなんかに入り浸ってて大丈夫なの?」

嬢「ご迷惑ですか?」

男「そうじゃなくて成績の心配とかね。あいつと同じ女子高でしょ?」

男「結構レベル高いみたいだからさ。」

嬢「ご心配なく。袖の下に頼らないで済む程度の学力は維持しています。」

男「そういう発想ができる事に軽いカルチャーショックを受けるわ。」

嬢「鼻薬や山吹色のお菓子のほうが良かったですか?」

男「要点はそこじゃないってわかってて言ってるよね?」

嬢「はい。」

99: 2012/07/02(月) 23:49:16.04 ID:6qwkMjTZ0

男「一応いろいろ持って来たけど、古いのばっかりだよ?」

嬢「わたくしはCD-ROMやDVD-ROMのものより、ROMカートリッジの方が好きです。」

男「それはちょっとわかる。CGよりもドット絵の方がゲームって感じするよね。」

嬢「ですから、このお店は大変気に入っておりますの。」

男「自宅に現役の実機があるの?」

嬢「遊戯用、保管用、布教用すべて取り揃えておりますわ。」

男「……物持ちいいんだな。」

嬢「それはこの試遊機も同じではありませんか?」

男「まあ、そうなんだけどね。」

100: 2012/07/02(月) 23:52:34.33 ID:6qwkMjTZ0

嬢「実際、カートリッジを差して通電するだけで即座に遊べるのは素晴らしい事です。」

嬢「次世代機だのなんだのと持て囃されておりますが、実際は消耗品……」

嬢「正規の用法を守ってもピックアップが弛んで遊べなくなるなど、言語道断です。」

嬢「それに比べ、カートリッジのなんと素晴らしいことか。そもそもロード時間などと――」

男「まあまあその辺で……」

嬢「少々熱くなってしまいました。今日はこれを拝借いたします。」

男「それやったことないの?」

嬢「いえ、久々にやり直そうと思いまして。」


※すまん93の定休日は水曜だった

101: 2012/07/02(月) 23:55:21.87 ID:6qwkMjTZ0

男「それだけ本体大事にしてるならカセットも沢山持ってそうだけど?」

嬢「恥ずかしながら……昔、学業を疎かにしたために、処分されまして。」

男「誰しもが通る道とは言え、それは悲しいよね。」

嬢「セーブデータはどうなっておりますか?」

男「昔やった時のままだと思う。多分、全部同じデータ写してあるから、どれか消して使って。」

嬢「ありがとうございます。」

嬢(ぐへへ……)

嬢「それでは、早速帰宅して楽しむことにいたします。」

106: 2012/07/03(火) 00:00:55.13 ID:0VzFd/200

――――――――――

嬢「残念ながら、今日は貴女に報告することはありませんの。」

女「別にその……急がなくても……」

嬢「そうですわね。義務でも無いですし。」

女「でも、そうやって話を振ると言う事は、昨日も?」

嬢「ええ。新しいゲームを貸していただくことができました。」

女「取説・箱なしのヤツならジュース代で買えるのでは?」

嬢「彼のセーブデータが残っている事に意味があるのです。」

女「もしかして、あのゲームを借りたんですか?」

嬢「それではありません。ですから、報告することは無いと言ったのです。」

107: 2012/07/03(火) 00:02:32.73 ID:0VzFd/200

嬢「ところで、みそラーメンとはどのような食べ物ですか?」

女「一般大衆向けの凡庸な食べ物ですわ。」

嬢「スープでしょうか? それともポワソン? ヴィアンド?」

女「強いて言えばスープですが……フルコースと言えなくもないですね。」

嬢「それはどのような形式でいただくのですか? 作法は?」

女「お姉さま、落ち着いてください。なぜ急にラーメンなんです?」

嬢「知りたがり屋は若氏にするぞ。」

女「ますます意味がわかりませんわ。」

108: 2012/07/03(火) 00:04:42.74 ID:0VzFd/200

女「簡単に言えば、ドンブリに入ったスープパスタで、箸で食べます。」

嬢「なんですって? 箸でパスタを?」

女「心配しなくても、お姉さまがそのような下賤なものをお召し上がりる?」

女「――召し上が……られる機会は無いと思いますわ。」

嬢「そのようなわけにはまいりません。」

女「まさか、あの馬鹿、お姉さまをラーメン屋なんかにお誘いなさったんですの?」

嬢「いいえ。そのようなお誘いを受けたわけではありません。」

女「じゃあ、なんでそんな事をお訊ねになるのですか?」

嬢「知りたがり屋は――」

女「それ、さっきも言いました。」

109: 2012/07/03(火) 00:07:22.78 ID:0VzFd/200

――――――――――

 「なー、ひぼたんバルカンってどこにあるんだ?」

男「学校帰りに寄るなって言っただろ? 帰って着替えて宿題してから来い。」

 「にーちゃんだって着替えてないし、このねーちゃんも制服じゃん!」

男「この人は子供じゃないからいいの。あとここは俺の家だ。」

 「ずるい!」

嬢「お兄さんは来るなと言っているわけではないですよ。ちゃんと宿題を――」

 「きてはぁっ!」

―バサッ―

嬢「きゃあ!!」

男「ちょっ!お前、なんちゅうこと――」

 「この、うんこたれー!」

110: 2012/07/03(火) 00:10:39.04 ID:0VzFd/200

嬢「…………」

男「…………」

嬢「見たのですね?」

男「み、見てないです。」

嬢「何を見ていないのですか?」

男「クマちゃんなんか見てないです。」

嬢「見たのですね……」

112: 2012/07/03(火) 00:13:04.31 ID:0VzFd/200

嬢「不可抗力ではありますが見過すわけにはまいりません。」

男「私が町長です。」

嬢「これは然るべき対処が必要ですね。」

男「私が町長です。」

嬢「怒っているわけではありませんよ?」

男「私がちょ――え?」

嬢「傷付いた心を癒すお手伝いを頼みたいと言っているのです。」

男「あ、ハイ。」

113: 2012/07/03(火) 00:16:42.09 ID:0VzFd/200

嬢「みそラーメンを食べさせてください。」

男「はい?」

嬢「自慢するようではしたないのですが、今までそのような食べ物に縁が無く……」

男「でもなぁ……」

嬢「みそラーメン、お好きなのでしょう?」

男「確かに大好きだけど……なんでそれを?」

嬢「PKメガフレア……」

男「え?」

嬢「♪おとなた~ちの~は~んぶんも~……」

男「しまった……」

115: 2012/07/03(火) 00:20:13.29 ID:0VzFd/200

男「うーわー……ヤバい。コレ、めっちゃ恥ずかしい。」

嬢「ちなみにわたくしはモンブランとPKゼニデインでした。」

男「モンブランはともかくとして、ゼニデインて。」

嬢「廃棄される前の、昔の設定ですわ。」

男「じゃあ、今回は?」

嬢「内緒です。」

男「ああ、返してもらった時に見ればいいか。」

嬢「返す時は記録を消してからにいたしましょうか。」

男「ひでえ!」

116: 2012/07/03(火) 00:23:18.53 ID:0VzFd/200

嬢「それはともかく、みそラーメンです。」

男「じゃあ、明日食べに行こうか? 学校休みだったらだけど。」

嬢「大丈夫です。わたくしどもの学園は完全週5日制ですわ。」

男「コッチは隔週だけど、今週は丁度休みの週だからね。」

嬢「ではその……待ち合わせなどはいかがいたしましょう?」

男「電車とか乗らないんだよね? じゃあ駅で待ち合わせてもしょうがないな。」

嬢「では、明日もこちらに訪問いたします。よろしいですか?」

男「ならこの前のゲーセンにしない? 時間は11時くらいで。」

嬢「いいですとも!」

117: 2012/07/03(火) 00:27:22.13 ID:0VzFd/200

――――――――――

嬢「おはようございます。」

男「アレ? 待ち合わせにはまだ早いハズだけど……」

嬢「それはわたくしだけではないようですけど?」

男「うん。俺はホラ、時間まで遊んでようと思って来たんだよ。」

嬢「SPからその報告を受けたので、わたくしも来てみました。」

男「なんか怖えよ。」

嬢「白鬼とはまた通好みな選択ですね。」

男「カエル対策と、雑魚をA忍術で浮かし直すのが好きでね。」

嬢「ご一緒いたしますわ。」

男(あ、いいにおい……)

118: 2012/07/03(火) 00:31:30.36 ID:mTxNszKP0

嬢「お疲れさまでした。」

男「惜しかったなぁ……でもコンティニューはプライドが許さん。」

嬢「そもそもコンボ以外、あらゆる面で敵が有利なゲームですからね。」

男「しかし、紅も使い様でここまで化けるんだな。」

嬢「ジャンプABABABが主軸になるので、対ボスでは涙目ですけど。」

男「……って、画面ばっか見てたからアレだけど、よく見ると凄い服装だな。」

嬢「変でしたか?」

男「変じゃない……むしろとてもゴージャスだけど、その格好でラーメン屋は……」

嬢「ダメですか? ラーメン屋のドレスコードは存じませんでしたので……」

男(ドレスコードって何だ?)

男「ダメじゃないけど、相当注目を集めるんじゃないかな?」

121: 2012/07/03(火) 00:34:34.01 ID:mTxNszKP0

嬢「すみません。わたくしの不徳の致すところです。」

男「というか、ゲーセン内でもかなり浮いてるよ。みんな定期的にチラ見してる。」

嬢「あうう……」

男「場所変えようか。喫茶店でも入ろう。」

嬢「すみません。わたくしのせいで。」

男「謝らなくていいよ。むしろ俺は眼福だな。うん。」

嬢「みそラーメンはまたの機会にいたしましょう。」

男「なんでまた?」

嬢「わたくしのせいで恥をかかせることになります。」

122: 2012/07/03(火) 00:38:56.92 ID:mTxNszKP0

男「じゃあ、家に戻って出前を取ろうか?」

嬢「出前?」

男「デリバリーって言えばいいのかな? 電話をして届けてもらうの。」

嬢「そのようなこともできるのですね。」

男「マッハピザと違って、往来で受け取るのは無理だけどね。」

嬢「では、それでお願いします。」

123: 2012/07/03(火) 00:43:13.64 ID:mTxNszKP0

――――――――――

男「ごちそうさまでした。」

嬢「ごちそうさまでした。」

男「お口に合いましたか?」

嬢「味はともかく、音を立てて啜るのは慣れませんね。」

男「外国人とかが日本に来たら、そういう印象もつらしいね。」

嬢「この場合、わたくしの方が小数派という事になるのでしょうね。」

男「次が無い可能性もあるけど、慣れていけば済む問題だと思うよ。」

嬢「今までできなかった事、これからはたくさん体験していこうと考えています。」

男(……今まで?)

嬢「学校帰りに寄り道をしたり、休日に外出できるようになったのは去年からなのです。」

男「じゃあ、それまでは?」

嬢「居残りもクラブ活動も免除、毎日定時に送り迎えで家と学校を往復する日々でした。」

125: 2012/07/03(火) 00:47:04.94 ID:mTxNszKP0

男「案外と窮屈な生活してきたみたいね。」

嬢「ええ。ですから今は毎日、いろいろな発見があってとても新鮮ですの。」

男(金持ちには金持ちなりの事情があるんだな……って言ったら怒るだろうな)

嬢「次はカエルやカタツムリを食べてみたいですわ。」

男「いや、たとえ庶民だろうが、そんなもん普通は食べないからね?」

嬢「では、ネズミやヒヨコなら……」

男「それも普通は食べ物には含めないから。」

嬢「ローザはGood、マットはデリシャスと言っていましたのに……」

男「EDで言ってるでしょ、良い子の皆は僕らの真似しゃちゃいけないよ。って。」

嬢「ガムなら……」

男「吐き捨てたガムの事だとしたら論外だ。」

126: 2012/07/03(火) 00:50:27.45 ID:mTxNszKP0

嬢「非常識だとお笑いになりますか? わたくしのこと……」

男「本人が目の前にいるのに、嘲笑するような度胸はないわ。」

嬢「これは以前プレイした駄作の話なのですけれど……」

男「クソゲーってことかな。」

嬢「とある小さな王国に、王と王妃、そして王子が住んでいました。」

嬢「王が亡くなる時、王子はまだ若く、彼が一人前になるまでは王位は王妃に預けると遺言します。」

嬢「女王となった王妃の躍進は目覚ましく、国はとても豊かになりました。」

嬢「そして、王子に対し、隣国の姫との婚約を取り付けたのです。」

嬢「しかし、王子は会ったこともない姫との婚姻を嫌い、恋仲になった侍女と駆け落ちします。」

男「なんか変にリアルなシナリオだな。」

129: 2012/07/03(火) 00:56:17.06 ID:mTxNszKP0

嬢「それを知った女王は怒り、ついには王子と侍女の行方をつきとめました。」

嬢「その時、既に王子と侍女の間には娘が誕生していたのです。」

嬢「女王は王子を城へ連れ戻し、侍女を放逐、娘を塔に軟禁してしまいます。」

男「まさか……」

嬢「王子は姫と結婚させられ、それと同時に新たな王に付かされました。」

嬢「娘は護衛という建前の監視付きでしか外出を許されず、他人との接触は一切認められません。」

嬢「きっと、娘の存在は王家の恥とされ、彼女を他人の目に晒したくなかったのでしょう。」

嬢「娘にとって唯一の楽しみは、王となった父が時たま買ってくる玩具や物語でした。」

嬢「そんな彼女の生活は、退位した元女王が亡くなるまで続いたそうです。」

男「……そのゲームは、いつごろ発売されたものなのかな?」

嬢「発売されてはいません。わたくしの祖母がエディットしたツクールです。」

131: 2012/07/03(火) 00:58:56.17 ID:mTxNszKP0

男「その娘と、王妃になった姫の仲は良かったのかな?」

嬢「新しい王妃は優しい方で、娘の事は常に気にかけてくれました。」

嬢「お婆様の目がありましたので、表立った事は出来なかったようですが……」

男「お婆様?」

嬢「失礼しました。元女王です。」

嬢「王子だった時の軽率な行動で、娘を不幸にしてしまった王を本気で叱ることもありました。」

嬢「流石に、自分に息子が産まれてからは、その子が最優先になりましたけど……」

男「ゲームの話……だよね?」

嬢「あ、そうでした。つまらないお話で申し訳ありません。」

男(絶対ゲームの話じゃないよな……これは)

132: 2012/07/03(火) 01:00:49.15 ID:mTxNszKP0

男「…………」

嬢「…………」

男「…………」

嬢「…………」

133: 2012/07/03(火) 01:03:45.04 ID:mTxNszKP0

嬢「わたくしのせいですね。妙な話を聞かせてしまって……」

男「いや、気にしなくていいよ。」

嬢「この際です、今度は変な事をお聞きしてもよろしいですか?」

男「あ、うん。何?」

嬢「とある少年が、仲の良い少女との約束を破って嘘をつく話なのですが。」

男「それはもしかして……」

嬢「お嫌でしたらこの話はやめます。」

男「いいよ。続けて。」

嬢「先払いを振りかざすような形は本意ではありません。遠慮は無用でしてよ?」

男「ゲームの話でしょ? だから気にする必要は無いよ。」

嬢「ありがとうございます。」

135: 2012/07/03(火) 01:07:53.51 ID:mTxNszKP0

――――――――――

嬢「今日は貴女にお伝えすることがあります。」

女「ということは?」

嬢「先日、詳しいお話を聞くことができました。」

女「前に申されていたお姉さまの予想は……」

嬢「想像していた通りでしたわ。貴女はゲームに負けてなどいなかった。」

女「けど、どっちにしろあいつは私に好意を抱いているわけですよね?」

嬢「そこまでは分かりませんし、問うつもりもありませんでした。」

女「でもまあ、大丈夫です。だったとしてもきっぱり断ってお姉さまにお譲りしますわ。」

嬢「…………」

137: 2012/07/03(火) 01:10:13.62 ID:mTxNszKP0

女「とりあえず、今日の授業が終わったら一緒に行きましょう。」

嬢「いえ、結構です。わたくしは遠慮させていただきます。」

女「どうしたんですの?」

嬢「わたくしは多分、嫌われてしまいました。」

女「あいつに何か言われたんですか?」

嬢「いいえ。わたくしが聞かれてもいないことを一方的に語り、空気を悪くしてしまいました。」

女「まさか、私のために?」

嬢「貴女の件はついでです。どうせ嫌われたのならば、せめて聞き出して去ろう……と。」

140: 2012/07/03(火) 01:16:36.58 ID:mTxNszKP0

女「直接拒絶されたわけではありませんのね?」

嬢「ええ。ですが……」

女「現実はリセットできない。でも、コンティニューに制限は無い。」

嬢「それは……」

女「お姉さまの辞世の句だったはずですよ。」

嬢「あの……座右の銘です。」

女「とにかく、私は行きますから。」

嬢「わたくしは……参りません。」

女「…………」

141: 2012/07/03(火) 01:19:05.84 ID:mTxNszKP0

――――――――――

嬢『あれ? これは一体?』

男『さあ始めようか。』

嬢『ちょ! ちょっと待って下さいまし!』

男『うん? どうかした?』

嬢『その……マスカレイドがウェイクアップなさって……』

男『当たり前じゃないか。さっきブレイコウを使ったでしょ?』

嬢『せめてエアスクリーンかミサイルガードを纏――』

男『まずはサンバーンXXの探索からだね。』

嬢『ひんっ! そんな桟橋を手当たり次第にっ!!』

男『♪お~くさんッ 米屋ですぅ~』

143: 2012/07/03(火) 01:22:41.79 ID:mTxNszKP0

嬢『ううっ…酷いですわ。わたくし……初めてでしたのに……』

男『何 それは本当かね!? それは……気の毒に……』

嬢『でも……心のどこかではこういう事を望んでいたのかもしれません。』

男『何 それは本当かね!? それは……気の毒に……』

嬢『さっきから何をおっしゃって……?』

男『まんたーんドリンク!』

嬢『うそっ? 先ほどまであんなに――』

男『俺は正気に戻った!』

145: 2012/07/03(火) 01:25:11.78 ID:mTxNszKP0

嬢「だめっ! もう無理です、後生ですか……ら?」

嬢(え?)

嬢「夢……でしたか。」

嬢「…………」

嬢「何なんですの!? これは!?」

嬢「…………」

嬢「もう!」

146: 2012/07/03(火) 01:27:43.39 ID:mTxNszKP0

――――――――――

女「おはよーございます! お姉さま!」

嬢「朝からお元気ですのね。」

女「違います! 朝だから元気なんです!」

嬢「その様子でしたら、誤解は解けましたのね?」

女「ええ。でも、今までの償いとして一発ぶん殴っておきましたわ。」

嬢「なにもそこまで……」

女「いやいや、その方があれこれ要求するより後腐れがございませんですの。」

147: 2012/07/03(火) 01:30:04.81 ID:mTxNszKP0

女「しかしですね。実はもう一つ問題が発覚いたしまして。」

嬢「もう一つ?」

女「あの馬鹿、店が地上げ屋さんの標的になっていることを隠しなさっておられてですね……」

嬢「地上げ屋さん?」

女「まあ、土地を買ってやるから立ち退けと脅されているわけです。」

嬢「まさか応じたりはなさいませんわね?」

女「週末にゲームで決着をつけるらしいですわ。」

嬢「でしたら心配は無用ですね。」

149: 2012/07/03(火) 01:37:44.57 ID:0VzFd/200

女「いやー……実はそうでもなかったりするんですの。」

嬢「どういう事ですか?」

女「あいつ、落ちものパズル系は苦手なんですよ。」

嬢「対戦格闘ではないのですか!」

女「それにタッグマッチらしくて、パートナーがいないとか……」

嬢「でしたら! わたくしが……いえ、場違いですね。」

女「特訓に付き合うくらいはいいんじゃないですか?」

嬢「でも……」

女「ちなみに、お姉さまを連れて来るって約束しちゃいました。」

嬢「なっ!?」

150: 2012/07/03(火) 01:38:58.39 ID:0VzFd/200

――――――――――

女「よう! 鼻血は止まったか?」

男「止まってなきゃ今頃生きちゃいねーよ。」

女「折れてたらどうしようって、ちょっと心配してたんだゾ。」

男「レバー前入れよろしく殴った本人が良く言うわ。」

女「ま、とにかくお姉さまを連れてきたから思う存分特訓しなよ。」

嬢「……あの、こんにちは。」

男「あ……うん。ようこそ。」

女「じゃあ、あとは若い二人に任せましょうかね。」

嬢「何をおっしゃるのですか!」

女「おっとっと、言葉のアヤというやつであらせられますわ。」

女「したらな!」

151: 2012/07/03(火) 01:42:19.11 ID:0VzFd/200

男「……ったく、まだあのカオスな敬語使ってるのか。」

嬢「でも、貴方への態度は随分と変わられましたのね。」

男「変わったっていうか、戻ったっていうのが正しいかな。」

嬢「ちょっと羨ましいですわ。」

男「……そう?」

嬢「…………」

男「特訓、しなくちゃ。」

嬢「あ、はい。そうでした。」

男「俺、あんまり落ちものって得意じゃないんだけど……」

嬢「聞き及んでおりますわ。」

152: 2012/07/03(火) 01:45:47.12 ID:0VzFd/200

男「ホントに俺なんかで大丈夫かな?」

嬢「何をおっしゃいます。貴方が弱気でどうしますの?」

男「まあ、勝ち癖を付けるための捨て石くらいにはなれるか。」

嬢「それはどういう意味ですの?」

男「いや、本番で気負わないように勝利のイメージを持たせられるよう……」

嬢「お待ちになって。どうも様子がおかしいですわ。」

男「?」

嬢「誰と対戦するのですか?」

男「親子対決で負けたら婚約させられるんじゃ?」

嬢「なんですって!?」

153: 2012/07/03(火) 01:49:12.46 ID:0VzFd/200

男「政略結婚を拒むために、お父さんに勝つんじゃないの?」

嬢「わたくしは地上げ業者と立ち退きを掛けて対戦すると聞きましたが……?」

男「!」

嬢「!」

男「あいつ……」

嬢「どうやら彼女に一杯食わされたようですわね……」

男「でも、地上げ屋とゲームで対決とか、普通本気にしないでしょ。」

嬢「それは政略結婚についても同じことですわ!」

男「人の家の事情とかよくわからないし、有り得ないとも思えなくてさ。」

嬢「お互い様というわけですね。」

154: 2012/07/03(火) 01:53:04.98 ID:0VzFd/200

男「でもまあ、また来てくれて良かった。」

嬢「!」

男「なんかこの前、思いつめてたみたいだったからさ。」

嬢「それはその……煩わしい人間だと思われたのではないかと……」

男「そんなことはないよ。特訓の相手に選ばれたって聞いたときは嬉しかったし。」

男「……まあ、あいつの狂言だったわけだが。」

嬢(まずいですわ。今朝の変な夢のせいで妙な気分に……)

男「同級の奴とか、彼女できたりでどんどんゲーム卒業しちゃっててさ。」

嬢「え、ええ……」

男「ゲームのこと話せる友達がまた減ってしまうのかなって……」

嬢(友、達……ウボァー)

156: 2012/07/03(火) 01:56:32.86 ID:0VzFd/200

男「ごめん、いきなり変な語り入れて。」

嬢(友達とはいったい……うごごご!)

男「こんなこと言われても困るよね?」

嬢「…………」

男「今度から気をつけるよ。」

嬢「ザカリテゲームごっこをしましょう。」

男「なにそれ?」

嬢「ルールはゲームと同じです。まずは貴方がザカリテ役をなさい。」

男「あ、うん……」

嬢「早く!」

男「ハイ!」

157: 2012/07/03(火) 01:59:27.92 ID:0VzFd/200

男「えーと、俺は宇宙の帝王――」

嬢「ふふ……」

男「ザッザッザッザッザッザッザッ――」

男「ザカリテだ殺――んぶっ!」

嬢「んむっ…………ふは。」

男「あの、これは一体?」

嬢「ですから、ザカリテゲームごっこです。」

男(待て、落ち着け、この人たちにとっては挨拶がわりという可能性も……)

嬢「ちなみに、わたくしは初めてですので。」

男「…………」

158: 2012/07/03(火) 02:02:25.04 ID:0VzFd/200

嬢「判定は?」

男「俺が氏んだ。」

嬢「あら、間に合わなかったのかしら?」

男「そうじゃなくて……」

嬢「卑怯者?」

男「よかった……」

嬢「ありがとうございます。」

160: 2012/07/03(火) 02:05:45.46 ID:0VzFd/200

――――――――――

嬢「……と、いうわけで。ようやくわたくしの栞もピンク色に変わりました。」

女「それはよろしいのですが、ザカリテゲームごっこってどんな遊びなのですか?」

嬢「えーっと……企業秘密です。」

女「まあいいや。今度あいつから聞き出しますわ。」

嬢(教えてはくれないと思いますけど……)

嬢「それはともかくとして、貴女の処遇を決めなければなりませんね。」

女「ホラ! 上手く行ったのですから、何卒お慈悲を!」

嬢「では、後腐れの無いようにレバー前入れで……」

女「だ、大ピンチ!?」

161: 2012/07/03(火) 02:09:27.35 ID:0VzFd/200

女「でも、家柄とか考えるとあいつも将来大変ですわね。」

嬢「心配には及びません。わたくしは成人したら家を出るつもりです。」

女「そんなことが許されますの?」

嬢「家は弟に任せます。これは両親とも話し合いました。」

女「それはあいつと別れなければの話では?」

嬢「棚ぼたでも狙っておられるのですか?」

女「私が狙うとすればお姉さまの方ですわ。」

嬢「まあいいでしょう。」


―――――――――― ―― ― - …

163: 2012/07/03(火) 02:13:56.22 ID:0VzFd/200

… - ― ―― ――――――――――


女「お? お久しぶりです。お姉さま。」

嬢「この歳でお姉さまはやめてください。」

女「いいじゃないですか。せっかくの同窓会ですし。」

嬢(ご飯はちゃんと食べたかしら? 早く帰るとは言って出ましたが……)

女「いやー、懐かしいですねぇ。」

嬢(下手に洗濯をして服が縮んだり色移りしたり……)

女「心ここに在らずって感じですね。家が気になるんですか?」

嬢「ええ、まあ。」

女「すっかり人妻の貫録ですね。」

嬢「やっぱり、一度電話をしてきますわ。」

165: 2012/07/03(火) 02:18:06.86 ID:0VzFd/200

 「洗濯? してないよ。うん、カゴにためてる。」

 「飯は出前を取ったよ。え? ラーメンだけど? うん、味噌。」

 「あーもう、だから、心配しなくていいって。」

 「たまにはゆっくり楽しんで来いって。じゃ、切るよ。」

―P!―

 「ふぅ……」

 「お父さん、あの写真は?」

 「あれは昔、父さんがな……」




――――――――――――――――――――おわり

168: 2012/07/03(火) 02:23:02.01

169: 2012/07/03(火) 02:24:30.40 ID:0VzFd/200
お疲れさまでした。
不明な点だらけな気もするけど、必要があれば補足入れます

170: 2012/07/03(火) 02:27:03.06
元ネタの8割を理解できてしまった俺は間違いなくおっさん

171: 2012/07/03(火) 02:36:13.80
サガwizその他有名どころは分かったが後は微妙
こういうゲーム好きな女の子って夢だわ
ハイスコアガール的な

172: 2012/07/03(火) 02:47:12.63
近くのゲーセンからオバオバオバヒーが撤去された時は泣いた

174: 2012/07/03(火) 03:14:59.61
やっぱ格ゲーの敷居は高いなと飛び道具のブロッキング練習をしていて思いましたはい

引用元: お嬢様「はぁ……ゲームの様な恋がしてみたい……」