1: 2012/07/13(金) 22:52:28.36
――ポツポツ ポツポツ

猫(……雨か)

猫(今日もまた長く降りそうだ気配だな)

猫(餌探しはヤメて宿探しに変更しよう)

4: 2012/07/13(金) 22:59:49.90 ID:qwQNfO+x0
▼公園・公衆トイレ前

――ザァァ。

猫(そういや、あの時もこんな雨だったか)

猫(濡れたダンボール箱、少量の餌)

猫(あの人何か言いながら俺の首輪を外してた)

猫(いくら鳴き続けてもあの人は戻って来なくて)

猫(そうして三日経ってようやく)

猫(捨てられたんだって気づいたんだっけな……)

6: 2012/07/13(金) 23:01:52.79 ID:qwQNfO+x0
猫(もうやめよう。考えるだけ不毛だ)

猫(あの頃と俺は違う)

猫(寝床も餌も自分で探せる)

猫(俺はもう一人で生きていける)

猫(一人で、生きていけるんだ……)

7: 2012/07/13(金) 23:04:05.34 ID:qwQNfO+x0

猫(ん? 誰かやって来る)

タッタッタ

女「…………ふぅ」

猫(なんだ? コイツも雨宿りか?)

猫(まぁ俺には関係無いけどな)

8: 2012/07/13(金) 23:07:51.55 ID:qwQNfO+x0
女「……キミも雨宿りかい?」

猫「……」

女「耳、破れてる。痛そうだね……」

猫「……」

女「雨、早く止むといいね。キミも早く家に帰りたいだろう?」

猫「……」

女「え~っと。私の声、聞こえてるかな?」

猫「……」

女「……無視されちゃったか。ごめんね」

9: 2012/07/13(金) 23:13:23.09 ID:qwQNfO+x0
猫(何か言われた気がするが……)

猫(気にしたって何も聞こえないし、どうでもいいか)

猫(しかし音の無い世界ってのはずいぶんと不便で退屈だ)

猫(雨音すらも全然聞こえねぇ。どんな音だったっけな)

猫(まったく退屈だ。こう体が濡れてちゃ毛づくろいもする気も起きねぇ……)

10: 2012/07/13(金) 23:16:18.07 ID:qwQNfO+x0
女「……ねえ?」

猫「……」

女「もしかして、本当に聞こえてないの?」

猫「……」

女「……」スタスタスタ

猫「……」

11: 2012/07/13(金) 23:20:00.15 ID:qwQNfO+x0
猫(雨なんて結局、避ければ濡れずに済むんだ)

猫(つまり当たらなければどうということはない)

猫(俺の運動神経なら軽く避けられんじゃないか?)

猫(右左右右左右左右左左左右)

猫(うん。やっぱり俺ならいける。いつか試して――)

女「ねえ?猫君?」

猫「!?」ビクッ

12: 2012/07/13(金) 23:24:38.87 ID:qwQNfO+x0
猫(何だコイツ!いつの間にこっちに来たんだ!?)

女「やっと気づいてくれた。やっぱり耳が聞こえないんだね」

猫(ハァ?何喋ってんだ?こっちは聞こえねんだよ)

女「驚いても逃げないなんて、キミはきっと強い猫なんだね」

女「あっ、そうだ!」ゴソゴソ

猫(なんだよ。何しようってんだよ)

女「ほら。お昼ごはんの残りだけどあげるよ」

13: 2012/07/13(金) 23:29:19.03 ID:qwQNfO+x0
女「こんなのしか持ってないけど、食べる?」

猫(なんだアレ……)

猫(真っ白くてツヤのある謎の物体だ)

猫(どことなく魚の良い匂いはするが……)

女「かまぼこだよ。ほら、食べれるよ」パクッ

猫(うわ、口に含んだ……。食えるのか、それ)

14: 2012/07/13(金) 23:33:33.29 ID:qwQNfO+x0
女「ほら。食べなよ」ポイッ

猫(こっちに投げた)

猫(……くれるってことか?)

女「……」モグモグ

猫(そういや、この雨で餌探し出来なかったもんな……)

女「……」モグモグ

15: 2012/07/13(金) 23:37:13.35 ID:qwQNfO+x0
猫『……すまない。恩に着る』
 「ニャー」

女「おっ。ようやく喋ってくれたね」

猫「……」パクッ

女「意外とカワイイ声だね。目つき悪いのに。ふふっ」

猫「……」モグモグ

女「キミを見てると、昔飼ってた猫を思い出すよ」

猫「……」モグモグ

17: 2012/07/13(金) 23:44:37.33 ID:qwQNfO+x0
女「ねぇ。少し聞いてもらえるかな?」

女「……って言ってもキミには聞こえないんだろうけど。あはは」

猫「……」モグモグ

19: 2012/07/13(金) 23:50:30.09 ID:qwQNfO+x0
女「私ね、子供の頃にキミみたいな猫を飼ってたんだ」

女「ムックって名前の猫」

女「真っ白なのに、お母さんがムックって付けちゃったんだ」

女「おかしいよね。でもね、なんか妙に合ってて」

女「気が付いたらみんなそう呼んでたんだ」

20: 2012/07/13(金) 23:53:49.22 ID:qwQNfO+x0
女「ご飯を食べる時も寝る時もずっと一緒でね」

女「私、ムックと一番の仲良しだったんだよ」

女「私あまり友達がいなかったから」

女「学校から家に帰るのが毎日楽しみでしかたなかった」

女「ムックと一緒にいる時間が大好きだったんだ」

21: 2012/07/13(金) 23:57:20.40 ID:qwQNfO+x0
女「けれどその時間も3年しか、たったの3年しか続かなかった」

女「ムックはね、病気で氏んじゃったんだ」

女「あの時は散々泣いたなァ」

女「何ヶ月も本当に何もする気力が無かった……」

女「思い出すと今でも胸が苦しくなるよ……」

22: 2012/07/14(土) 00:01:15.35 ID:WbEX9Ek30

女「でもね、悲しかったことより今は楽しかったことを思い出すように――」

猫「……」チョコン

女「あれ、もう食べ終わってた?」

猫「……」

女「ごめんね。話が長かったね」

女「聞いてくれてありがとう」

猫「……」

23: 2012/07/14(土) 00:04:52.37 ID:WbEX9Ek30
猫(何かまた色々喋ってたようだけど)

猫(俺、アンタが何言ってるのかわからんのよ)

猫(ただ、飯はうまかった)

猫『ごちそうさま』
 「ニャアー」

女「“ごちそうさま”って言ってるのかな?」クスッ

24: 2012/07/14(土) 00:08:11.13 ID:WbEX9Ek30
猫(実はかなり腹ペコだったんだ。助かったよ)

猫『ありがとさん』
 「ニャーオ」

女「今度は“ありがとう”かな?」クスッ

女「どういたしまして」

25: 2012/07/14(土) 00:13:13.37 ID:WbEX9Ek30
猫(アンタは良い奴なんだな)

猫(この一飯のお礼、俺は忘れないぜ)

女「あの……かまぼこあげた代わりにさ」ウズウズ

女「ちょっと撫でてもいいかな?」ソ~ッ

猫(おっと。だからって気易く触らせはしないぜ)ヒョイ

女「あっ。避けられた……」

26: 2012/07/14(土) 00:17:23.82 ID:WbEX9Ek30
――ポツリ、ポツリ。

女「ようやく雨が止みそうだね」

猫(雨そろそろ止むか)

猫(しかし、腹が膨れて今は動きたくねぇ)

女「……あのさ」

女「またキミに会いに来ても……いいかな?」

猫「……」

27: 2012/07/14(土) 00:23:47.16 ID:WbEX9Ek30
女「またご飯持って来るから」

女「触れなくてもいいから」

女「また来てもいいかな?」

猫「……」

女「……なんて。キミからすれば、私なんて興味無いよね」

女「それじゃ、バイバイ」スタスタ

28: 2012/07/14(土) 00:29:10.72 ID:WbEX9Ek30
猫(ん? アンタ帰るのか?)

猫『気を付けて帰れよ』
 「ニャー」

女「!?」

猫『図々しくて悪いが、次もまた何かくれると助かる』
 「ニャー、ニャー」

女「……うん。ありがとう、また来るよ」

女「またね。“ムック”」バイバイ

30: 2012/07/14(土) 00:35:01.41 ID:WbEX9Ek30
猫(……そしてまた一人か)

猫(人との交流は久しぶりだな)

猫(むしろ飼い主以来か?)

猫(そういえば、俺の飼い主はどんな人だったけか)

猫(……全然思い出せん)

猫(そりゃそうだ。俺もまだ子猫だったしな)

猫(唯一覚えているのは、最後の雨の日だけか……)

31: 2012/07/14(土) 00:40:34.09 ID:WbEX9Ek30
▼後日……

女「ムック」

猫『おぉ。アンタか』
 「ニャー」

女「ようやく覚えてくれたみたいだね」

猫『アンタの顔覚えたぜ。相変わらず何言ってるかはわからないがな』
 「ニャァー。ニャー」

女「そろそろ触らせてくれるかな……」ソ~ッ

猫(だが、まだ触れさす程俺は甘くない)ヒョイ

女「うぅ~。イジワルだね、キミは……」

34: 2012/07/14(土) 00:44:58.81 ID:WbEX9Ek30
猫「……」パクッ モグモグ

女「ホント、ムックは小柄なのに良く食べるよね」

女「野良なのに毛並みも悪くないし」

女「元々どこかの飼い猫だったのかな」

女「……それでも、こうして生きているキミはたくましいね」

猫「……」モグモグ

35: 2012/07/14(土) 00:50:19.62 ID:WbEX9Ek30
猫『ごちそうさま』
 「ニャー」

女「ムックは食べ終わると必ず鳴くんだね。お礼なの?」

猫『今日の飯は美味であった』
 「ニャー」

女「ふふっ。どういたしまして」クスッ

女「それじゃ、また来るね。ムック」

猫『気をつけて帰れよ』
 「ンニャー」

女「またね」バイバイ

36: 2012/07/14(土) 00:54:25.36 ID:WbEX9Ek30
猫(まさか、あの日から毎日来るとはな)

猫(ずいぶん酔狂な人間もいたもんだ)

猫(いや、大変ありがたい。大いに助かる)

猫(しかし、狩りの仕方を忘れてしまいそうだ)

猫(たまには自分で餌を取りに行かねばな)

38: 2012/07/14(土) 01:00:37.02 ID:WbEX9Ek30
猫(人間と触れ合うのがこうも幸せなことだとは)

猫(全く思いもよらなかった)

猫(こんな感じ初めてだ……)

39: 2012/07/14(土) 01:05:42.91 ID:WbEX9Ek30
猫(おそらく俺はアイツに名前を付けられている)

猫(よくわからないが“ 、 、 ”と呼ばれているのはわかる)

猫(名前か。俺の元の名前は何だったんだろう)

猫(あの時。首輪を外される時、何か言われてたけど)

猫(アレは名前を呼んでたんじゃない)

猫(アレはおそらく……懺悔だ)

40: 2012/07/14(土) 01:09:20.91 ID:WbEX9Ek30
猫(そして、あの日から俺は一人になった……)

猫(いや、俺はもう一人じゃない)

猫(今はあの、酔狂なアイツがいてくれるんだ)

猫(……)

猫(まぁ。そろそろ触れさせてやってもいいかな)

猫(やれやれ。俺も甘くなったもんだ)

42: 2012/07/14(土) 01:12:34.11 ID:WbEX9Ek30
▼翌日

――ザァァァ。

猫(今日は一日中雨か)

猫(どうにも雨は好きになれない)

猫(身体が濡れるのが嫌なのもあるが)

猫(やはりあの日のトラウマが大部分か)

43: 2012/07/14(土) 01:15:18.39 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

猫(……)

猫(……)

猫(……)

猫(……)

猫(……アイツ、遅いな)

猫「……」

44: 2012/07/14(土) 01:19:59.47 ID:WbEX9Ek30
▼翌日

――ザァァァ。

猫(……今日もまた一日中雨か)

猫(結局アイツ来なかったな)

猫(まぁそういう日もあるだろう)

猫(この雨だ。ここへ来るのも一苦労だろうしな)

猫(……決して、寂しいわけではない)

45: 2012/07/14(土) 01:25:24.70 ID:WbEX9Ek30
▼翌日

――ポツリ、ポツリ。

猫(……)

猫(三日続けて、今日もまた来る気配は無い)

猫(良い奴だと思ったんだが)

猫(やはり気まぐれだったのか……)

猫(まぁ慣れたもんだろ。捨てられるのは)


48: 2012/07/14(土) 01:37:40.59 ID:WbEX9Ek30
猫(わかってたハズだ)

猫(人間ってのは所詮そんなもんだってこと)

猫(都合が悪くなれば簡単に捨てることも)

猫(……所詮俺は野良猫だ)

猫(元から頼るものは何もない。何も頼らない)

猫(そうだよ。そうなんだよ……)

50: 2012/07/14(土) 01:40:25.89 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

女「ムックー!」

女「ねぇ!ムックー!」

猫「……」

女「よかった、そこにいたんだ」

猫「……」

女「ゴメンね、何日も来れなくて。今日も御飯持ってきたよ」

51: 2012/07/14(土) 01:43:19.51 ID:WbEX9Ek30
猫「……」

女「?」

猫「……」

女「ほっ、ほらコレ」

女「今日は奮発してみたんだ。猫缶だぞ」パカッ

猫「……」

女「どうしたの?具合悪いの?」

猫「……」

53: 2012/07/14(土) 01:45:20.22 ID:WbEX9Ek30
猫(腹減った。あんなご馳走見たことない)

猫(見せびらかしやがって)

猫(俺はもうアンタの物には手を出さない)

猫(俺はもう誰も頼らない)

猫(決めたんだ、俺は)

55: 2012/07/14(土) 01:49:07.99 ID:WbEX9Ek30
猫(結局の所、アンタも俺を捨てたアイツと同じだよ)

猫(気まぐれで相手して、飽きたら捨てる)

猫(自分の都合が悪くなると俺を忘れて)

猫(自分の都合の良いように俺を忘れていくんだ)

58: 2012/07/14(土) 01:52:41.00 ID:WbEX9Ek30
猫(今までアンタに甘んじていた俺にも非はある)

猫(アンタを責めるようなことはしない)

猫(だからアンタも)

猫(あの日のように俺を捨てることになるなら)

猫(あの日のように全て奪うなら)

猫(もう何も与えないでくれ……)

61: 2012/07/14(土) 01:54:54.07 ID:WbEX9Ek30
猫「……」スタスタ

女「ムック?どこに行くの?」

猫「……」スタスタ

女「ほら、猫缶だぞ?おいしいぞ?」

猫「……」スタスタ

62: 2012/07/14(土) 01:57:30.85 ID:WbEX9Ek30
女「もしかして、来なかったから怒ってるの……?」

猫「……」スタスタ

女「ねぇ。ちょっと待って――」スッ

猫『俺に触るなっ!』
 「シャーッ!」

女「!?」ビクッ

猫「……」スタスタ

女「……ムック」

63: 2012/07/14(土) 01:59:53.86 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

猫(しかしまぁ、ずいぶんと降るもんだ)

猫(空ってのはどれだけ水を溜めこんでるんだ?)

猫(そもそも何で雨が降るんだ?)

猫(空は泣くのか?これは涙か?)

猫(……あぁ。肌に当たる雨粒が痛いな)

猫(今までで一番痛い。あの時よりも……)

65: 2012/07/14(土) 02:03:25.06 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

猫(俺は野良猫、元から一人だ)

猫(元に戻っただけ。それ以上でもそれ以下でもない)

猫(慈愛のフリでを差し伸べられるエゴならいらない)

猫(甘んじて期待させられるから裏切られたよう思うんだ)

猫(だから俺はアイツとの関わりを絶つ)

猫(それでいいんだ)

68: 2012/07/14(土) 02:07:05.51 ID:WbEX9Ek30
猫(けど、俺はわかってる……)

猫(本当はわかってるんだよ)

猫(一人になるのが悲しいんだよ!寂しいんだよ!)

猫(本当は、俺は……)

猫(俺は!一人になんてなりたくなかった!)

猫(何でだよ!何で捨てるんだよ!)

猫(何でこうなるんだよ……)

70: 2012/07/14(土) 02:11:23.62 ID:WbEX9Ek30
猫(いくら嘆いても、誰にも届きやしない)

猫(届いた所でどうせまた捨てられる)

猫(だからこそ俺は)

猫(独りにならなくちゃいけないんだ)

猫(独りで生きていかなくちゃいけないんだ)

71: 2012/07/14(土) 02:13:46.24 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

猫(一向に止みそうにないな)

猫(……)

猫(アイツは帰っただろうか)

猫(帰っただろうな……)

猫「……」

73: 2012/07/14(土) 02:16:37.63 ID:WbEX9Ek30
猫(思えば、アイツも驚いただろうに)

猫(数日振りに会ったと思ったら)

猫(俺の態度が豹変しているんだからな)

猫(理解できないって顔してたよな)

猫(あっちからすれば裏切ったのは、俺か……?)

猫(いや、でも……)

猫「…………」

75: 2012/07/14(土) 02:20:53.31 ID:WbEX9Ek30
猫(アイツは俺を捨てた奴と同じ)

猫(……本当に同じなのか?)

猫(あの雨の日、あの人は帰って来なかった)

猫(いくら呼んでも、助けを求めても)

猫(あの人は振り向きすらしなかった)

猫(でもアイツは……)

猫「………………」

猫(……少しだけ、様子を見に行くか)

79: 2012/07/14(土) 02:24:34.40 ID:WbEX9Ek30
――ザァァァ。

猫(……)スタスタ

猫(雨が冷たい。痛い)

猫(こんな様子じゃ、もうとっくに帰って――!?)

女「……」

82: 2012/07/14(土) 02:27:37.77 ID:WbEX9Ek30
猫(まさかいるとは……)

猫(こんな土砂降りの中ずっと立ってたのか?)

猫(何故だ?何でだ?何の為に?)

猫(まさか……もしかして)

猫(俺が来るのを待ってたのか……?)

84: 2012/07/14(土) 02:31:19.61 ID:WbEX9Ek30
猫 スタスタ

女「……あっ」

猫『何してんだ。せめて雨宿りしたらどうだ』
 「ニャー」

女「ムック……」

猫『どうした?アンタ、泣いているのか?』
 「ニャァー。ニャー」

女「ムック……ごめんなさい!」

87: 2012/07/14(土) 02:35:25.75 ID:WbEX9Ek30
女「何日も放ってしまってごめんなさい!」

猫『おいおい、どうした?どこか痛いのか?寒いのか?』
 「ニャーオ、ニャーォ」

女「ムックを捨てた訳じゃないだよ!本当に心配だったんだよ!」

女「ずっと心配だったのに、でも来たくても来れなくて」

女「なのにムックは待っててくれてたんだよね。本当にごめんね……」

88: 2012/07/14(土) 02:38:46.60 ID:WbEX9Ek30
女「捨てたって思われて当然だよね」

女「嫌われて当然だよね……ごめんね」

猫「…………」

91: 2012/07/14(土) 02:44:06.04 ID:WbEX9Ek30
猫(……すまない)

猫(俺には今、アンタが何を言ってるかわからない)

猫(もし俺の耳がちゃんと聞こえてても)

猫(きっとその言語は理解出来ないんだろうな)

93: 2012/07/14(土) 02:47:01.14 ID:WbEX9Ek30
猫(でもわかる。アンタの思いはちゃんと通じてるよ)

猫(その顔見りゃ大体わかるけど)

猫(でもそれだけじゃない)

猫(きっと、俺とアンタは今、同じ気持ちだろうからさ)

猫『すまん。悪かった』
 「ニャァ」スリスリ

女「!?」

95: 2012/07/14(土) 02:49:26.13 ID:WbEX9Ek30
猫『勝手に怒って、捨てられたと決めつけてゴメン』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

女「ムック……」ナデナデ

猫「ゴロゴロ」

女「許してくれるの……?」

猫『許して欲しい』
 「ニャァ」

女「ムック、ありがとう……」ナデナデ

猫「ゴロゴロ」

96: 2012/07/14(土) 02:52:09.88 ID:WbEX9Ek30
猫『泣きやんだか?』
 「ニャー」スリスリ

女「ごめんね。本当にごめん」

猫(まだ泣いてるのかよ)

猫(なぁ。いつもみたいに笑えよ)

猫(笑えるまで傍にいてやるからさ)

猫『ニャー』

98: 2012/07/14(土) 02:55:09.13 ID:WbEX9Ek30
猫(アンタは裏切らない。あの人とは違う)

猫(今はもう心からそう思ってる)

猫(いつでも来いよ。俺はここにいるから)

猫『俺はここで、アンタが来るのをずっと待ってるよ』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

女「ふふっ」クスッ

99: 2012/07/14(土) 02:58:56.22 ID:WbEX9Ek30
女「私、約束するよ」

女「これからずっとここに来るから」

女「来れない時もあるかもしれないけど……」

女「絶対ムックの所に来るから、待っててね」

女「これかもっと仲良しになろうね」ナデナデ

猫『ニャーオ』

100: 2012/07/14(土) 03:01:54.84 ID:WbEX9Ek30
――ポツリ。ポツリ。

猫(雨、止んだか)

女「雨、止んだね。よかったねムック」

猫(アンタもようやく泣きやんだみたいだな)

猫(きっと雨が全部洗い流してくれたんだな)

猫(俺の心の泥も、アンタの涙も)

101: 2012/07/14(土) 03:05:04.87 ID:WbEX9Ek30
猫「……」パクッ モグモグ

女「ふふっ」ナデナデ

猫『ごちそうさまでした』
 「ニャー」

女「どういたしまして」

女「それじゃ、また明日も来るね」ナデナデ

猫『ニャー』

103: 2012/07/14(土) 03:07:58.71 ID:WbEX9Ek30
猫(俺、t待つよ。アンタが来るのを)

猫(これは約束の証だ)ペロペロ

女「はは、くすぐったいよ」クスクスッ

猫「ゴロゴロゴロ」

女「ふふっ。またね。ムック」バイバイ

猫『またな』
 「ニャーォ」

105: 2012/07/14(土) 03:13:18.62 ID:WbEX9Ek30
▼翌日

――ポツリ ポツリ

猫(今朝から降ってた雨もようやくやんだか)

猫(こんなに気持ちが晴れ晴れとしたのは初めてだ)

猫(せっかくだ。今日は外に出てみよう)

猫(この公園を出るのは何年ぶりだろうか)

猫(この耳じゃ外は出るのは危険だから禁止にしていたけど)

猫(今の俺なら何でもできる気がする)

106: 2012/07/14(土) 03:17:01.27 ID:WbEX9Ek30
猫(街中でふとアイツに出会えたら)

猫(アイツはどれくらい驚くだろうか)

猫(喜んでくれるかな)

猫(いつもみたいに笑ってくれるかな)

猫(何だか気持ちが高揚してきた)

猫(アイツに会ったら、何て話しかけ――)




――キキィッ! ドン!




107: 2012/07/14(土) 03:19:55.94 ID:WbEX9Ek30
猫(………………)

猫(………………)

猫(………………)

猫(………………)

猫(……今、何が……あったんだ?)

109: 2012/07/14(土) 03:22:23.71 ID:WbEX9Ek30
猫(何かデカイものがぶつかってきて、それで――)

猫(あぁダメだ……わかんねぇ……)

猫(起き上がれねぇ……)

猫(身体が重い……)

111: 2012/07/14(土) 03:26:03.46 ID:WbEX9Ek30
女「――――!―――――!」

猫(あぁ……アンタか)

女「―――――――!――――!」

猫(本当に、会える、なんてな)

猫(予想以上に、驚いて、るけど)

女「――!――――!―――!」

猫(どうした?また、泣いてんのか?)

猫(アンタ実は、泣き虫、なんだな……)

112: 2012/07/14(土) 03:29:09.20 ID:WbEX9Ek30
猫(どう、した?また、どっか痛いのか?)ペロ…ペロ…

女「――!――――!」

猫(すまん、な。こんな、ことしか、できねぇ)ペロ…ペロ…

女「――――!――!――!」

猫(悪い……ちょっと……眠く、なって……きた)

女「――!――!――――――!」

113: 2012/07/14(土) 03:31:22.36 ID:WbEX9Ek30
猫(大……丈夫。寝る……だけ……だよ)

猫(明日も……ちゃんと、待って、から)

猫(俺、ここ、いる……から)

猫(ずっと、傍……いる、か、ら)

猫(アンタ、の傍、に……さ)

115: 2012/07/14(土) 03:33:52.67 ID:WbEX9Ek30
猫(あぁ……今朝まで、雨……降って、のに)

猫(空が、綺、麗――――――――

――――――

――――

――



-





116: 2012/07/14(土) 03:37:17.11 ID:WbEX9Ek30
女「ムック……嘘でしょ……」

女「ヤダよ!ダメだよ!起きてよ!」

女「約束したんだよ!これからずっと来るって!」

女「これからもっと仲良くなろうって約束したじゃない!」

女「氏なないで!お願いだよ、ムック!」

女「目を開けて、ムック!お願い!ムック!」

女「ムックーーーー!」

119: 2012/07/14(土) 03:41:56.19 ID:WbEX9Ek30
ムックへ

今日もまた出会った時のような雨が降っています。
そっちの天気はどう?やっぱり雨なのかな。

実を言うとね、キミがあの公園で雨宿りをしているのを見て、私も雨宿りしたんだ。
降りしきる雨を見つめる眼差しが、昔のムックにそっくりで、それで……。
雨を見つめるキミはとても悲しげだった。
昔、悲しい事があったのかな……。

121: 2012/07/14(土) 03:45:24.60 ID:WbEX9Ek30
それからは毎日会いに行ったよね。
私ね、キミのその眼差しにある悲しさを吹き飛ばしてあげたかったんだ。
だけど、キミはどう思ってたのかな。少しでも和らげられたかな。

ムックと出会えて本当によかった。楽しかった。
嫌われたと思った時はとても悲しかったけど、それでも最後は許してもらえて、すごく嬉しかった。

122: 2012/07/14(土) 03:48:50.89 ID:WbEX9Ek30
最後に。
キミのお墓に花を一輪植えたんだ。
キミによく似た小さな真っ白い花を一輪だけ。

どこか悲しげだけど、楽しそうに風に揺れているよ。
いつまでも、いつまでも。




125: 2012/07/14(土) 03:51:37.05 ID:WbEX9Ek30

-

――
――――

猫(………………)

猫(ここは一体何なんだ)

猫(晴れるでもなく、雨も降らない)

猫(その上、周りには門が1つあるだけで他には何も無い)

126: 2012/07/14(土) 03:54:10.96 ID:WbEX9Ek30
猫(どうやら、ここに来た者は門をくぐって)

猫(その先へと行かなきゃいけないならないらしい)

猫(誘導員が人から動物まで全てを門へ促しているが)

猫(俺は「人を待たなくてはならない」と拒んだ)

猫(そしたら、誘導員は笑顔で了承してくれた)

猫(俺はそれからずっと待っている)

猫(ずっと一人で……)

127: 2012/07/14(土) 03:57:15.03 ID:WbEX9Ek30
猫(はぁ。今日も退屈だな)

猫(ここまで退屈だと、逆に雨を見たくなるから不思議だ)

猫(まぁ雨を避けるイメトレが俺の唯一の趣味だったからな)

猫(でも、その趣味も実践もここでは不可能)

猫(結局、雨避けは試さず終いになっちまったな)

128: 2012/07/14(土) 04:00:14.78 ID:WbEX9Ek30
猫(あとどれくらい待てばいいんだろう……)

猫(そもそも、また会えるのかな……)

猫(アイツもここに来るのかな……)

猫(まさかもうアイツとは……)

130: 2012/07/14(土) 04:03:48.26 ID:WbEX9Ek30
猫(いや……でも俺は約束したんだ)

猫(アイツが来るのをずっと待つって)

猫(アイツの傍にずっといてやるって)

猫(アイツが笑えるように傍にいてやるって!)

131: 2012/07/14(土) 04:06:09.18 ID:WbEX9Ek30
猫(だから俺はどれだけかかろうとここで待つんだ!)

猫(アイツが来るまで)

――――!

猫(あと何十年、何百年かかろうと!)

――ック!

猫(俺は……ずっと……!)



?「ムック!」


 
猫「!?」ピクッ

132: 2012/07/14(土) 04:08:12.46 ID:WbEX9Ek30
女「待たせてゴメンね」ニコッ

133: 2012/07/14(土) 04:10:57.05 ID:WbEX9Ek30
猫(…………)

猫(…………散々待たせやがって)

猫『来るのが遅ぇよ……』
 「ニャー」

猫『俺、どんだけ待ったと思ってんだよ……』
 「ニャー、ニャー」

猫『こんな何にもない場所で、俺は!』
 「ニャーォ!」

猫『アンタを!アンタをずっと待ってたんだぞ!』
 「ニャーォ! ニャーォ!」

134: 2012/07/14(土) 04:13:03.54 ID:WbEX9Ek30
女「本当にゴメンね」ナデナデ

女「でも約束したでしょ」

女「ずっと一緒にいようって」

女「ずいぶん待たせちゃったけど、もう大丈夫」

女「これからはずっと一緒だよ」ニコッ

136: 2012/07/14(土) 04:16:15.52 ID:WbEX9Ek30
猫(相変わらずアンタは何て言ってるかわからねぇな)

猫(でも、わかってるよ)

猫(アンタの言いたいことはちゃんと伝わってるぜ)

猫(これからはずっと一緒だってこと)

猫(もう待たなくていいんだってこと)

猫(俺はもう、一人じゃないんだってこと)


猫『ニャーォ!』スリスリ

女「ふふっ」ナデナデ


―― fin.

137: 2012/07/14(土) 04:19:25.42
最後に再び出会えてよかったです
乙でした

138: 2012/07/14(土) 04:20:08.02

引用元: 猫「今日もまた雨か……」