1: 2012/11/18(日) 11:27:04.22 ID:bfBM7mM70
━765プロ━

やよい「……うー」

――――――――――――――――――――――――――――――――

やよい「……じゃあ、一度だけ……お、お兄ちゃんって呼んでも?」

やよい「よ、よーし……。ぉ、お兄ちゃん」

――――――――――――――――――――――――――――――――

やよい「……私、どうしよー……」ジタバタ

ガチャ

響「ただいまー!」

やよい「ひゃうっ!」ガタンッ

2: 2012/11/18(日) 11:27:36.56 ID:bfBM7mM70
やよい「お、おかえりなさい響さんっ」

響「どうしたやよい? いぬ美みたいな声出して」

伊織「犬みたいな声ってどんな声よ……」

響「自分がいぬ美のエサをつまみ食いすると、あんな声を出して家出しちゃうんだ」

伊織「アンタそのうち襲い掛かられるわよ」

やよい「伊織ちゃんもおかえりっ。ちょっと寝ボケてたから、顔洗ってくるねっ」タタッ

響「おー、行ってらっしゃーい」

伊織「……?」

3: 2012/11/18(日) 11:28:11.42 ID:bfBM7mM70
パシャパシャ

やよい「ふー、お顔を洗ってキレイさっぱり!」

やよい「……でも、気分はさっぱりしないなぁ」

伊織「どうしたの? 独り言なんて珍しいじゃない」

やよい「伊織ちゃん」

伊織「何かあったの?」

やよい「ううん、なんでもないよ」

伊織「そう? ならいいけど」

P「ただいまー」

やよい「!」

伊織「あら、プロデューサーも帰ってきたみたいね」

4: 2012/11/18(日) 11:29:16.59 ID:bfBM7mM70
春香「ただいまぁー」

響「二人ともおかえりー」

P「あれ、響だけか?」

響「いや、給湯室に伊織とやよいがいるぞ」

春香「小鳥さんは?」

響「あれ? そういえば見ないなぁ」

ガチャ

小鳥「あー、気持ち良かったわ。やっぱり一時間に一回休憩を入れないとダメね」ツヤツヤ

5: 2012/11/18(日) 11:30:32.16 ID:bfBM7mM70
P「小鳥さん、ただいま」

小鳥「み、みんないつの間に!?」

春香「ちゃんとただいまって言いましたよ?」

響「ピヨ子はトイレで何してたんだ?」

小鳥「ち、ちょっと休憩をね」

P「休憩してたにしては、汗びっしょりですね」

小鳥「今流行りのデトックスってやつですよ。体中の毒素を出してたんです」

響「へー、デトックスかぁ。今度自分にも教えてくれるか?」

小鳥「えぇいいわ。せっかくだからいぬ美ちゃんと三人で楽しみましょう」

春香「いぬ美は人じゃないですよ」

6: 2012/11/18(日) 11:32:08.94 ID:bfBM7mM70
やよい「プロデューサー! おかえりなさいっ!」バタバタ

P「おっ、ただいま、やよい」

春香「やよい、お土産にケーキ買ってきたよ♪」

やよい「あっ、春香さんと小鳥さんもおかえりなさい」

響「やよい、ピヨ子はトイレに入ってただけだぞ」

やよい「あれ、そうなんですか? 私が帰ってきた時はいなかったのに」

伊織「アンタいつからトイレに入ってたのよ」

小鳥「デトックスはイメージが大切だからね、時間がかかるのよ」

響「なるほどー、勉強になるなぁ」

やよい「?」

7: 2012/11/18(日) 11:33:18.02 ID:bfBM7mM70
P「ちょうど三時だし、買ってきたケーキでも食べようか」

やよい「あっ、じゃあ私お茶いれます!」

小鳥「あら、いいわよやよいちゃん。私がいれるから」

伊織「とりあえずアンタは手を洗ってきなさいよ」

9: 2012/11/18(日) 11:34:33.68 ID:bfBM7mM70
コポコポコポッ

やよい「はいっ、プロデューサー」コトッ

P「ありがとう、やよい」

春香「ふふっ、なんだか今日のやよいはいつもより元気だね」

やよい「えっ、そ、そうですか?」

響「さっきは寝ボケてたけど、顔洗って目が覚めたんだな」

P「寝ボケてた?」

やよい「ちっ、違いますっ! 寝ボケてなんかないですー!」

響「え、ええっ?」

10: 2012/11/18(日) 11:36:21.67 ID:bfBM7mM70
伊織「いいからアンタはケーキでも食べてなさい」

響「なんかバカにされてる気がするぞ……」

小鳥「よしよし」

響「ピヨ子、手洗った?」

小鳥「洗ったわよ!」プンスカ

11: 2012/11/18(日) 11:39:03.57 ID:bfBM7mM70
春香「んー、おいしい! 甘い物を食べてる時って一番幸せだなぁ」

P「でも、春香ならこれくらい作れるんじゃないのか?」

春香「さすがにお店で売ってるレベルのものは無理ですよ」

小鳥「でも手作りだと出来立てを食べられるから、お店のとは違ったおいしさがあるわよね」

P「出来立てのケーキかぁ、いいな。一度食べてみたいな」

やよい「ケーキ……手作り……」

伊織「やよい?」

やよい「はわわっ!」

12: 2012/11/18(日) 11:46:18.71 ID:bfBM7mM70
━翌日━

AD「お疲れさまでしたー」

…………

やよい「うっうー! 収録おわりですっ!」

伊織「今日はいつもより早く終わったわね」

律子「特に大きなミスとかもなかったからね。二人とも成長してる証拠よ」

やよい「えへへ」

伊織「まぁ、当然の結果よね」

律子「でも、今日はちょっとやよいの元気が足りなかった気がするわ」

やよい「えっ?」

14: 2012/11/18(日) 11:50:47.38 ID:bfBM7mM70
律子「ミスがないのはもちろん良いことよ。でも、失敗を恐れて縮こまっちゃダメ」

伊織「……」

律子「やよいのとりえは元気と素直さなんだから、どんな時でも力いっぱいやりなさいな。
   大丈夫、ちょっとくらいのミスは私と伊織がカバーしてあげるわ」

やよい「はい……」

律子「……さっ、反省会はこれくらいにして、事務所に帰る前に
   お昼食べましょ。今日は奢るわよ」バタン

やよい「ありがとうございまーす!」

伊織「そういうセリフは車に乗る前に言いなさいよね。事務所の近所はイヤよ」

律子「赤坂周辺のお店なんて高くて入れるワケないじゃない。はい乗った乗った」

15: 2012/11/18(日) 11:54:28.10 ID:bfBM7mM70
…………

やよい「おいしかったですー!」

伊織「まぁまぁだったわね」

律子「30分以上もお店を探させといて、よくそんな口が利けるわね。
   やれジュースが果汁100%じゃないだの内装が汚いだの店員の態度が悪いだの……」

伊織「赤坂だったらそんな苦労しなくて済んだのよ?」

律子「今度はアンタに奢ってもわうことにするわ。とびっきりのお店でね」

やよい「あの、律子さん」

律子「あら、やよいはいいのよ? 伊織に全部払ってもらうつもりだから」

伊織「ちょっと、えこひいきしないでよ」

やよい「いや、そうじゃないんです」

律子「?」

16: 2012/11/18(日) 11:58:02.21 ID:bfBM7mM70
やよい「ちょっと食べ過ぎちゃったから、事務所まで歩いて帰ろうかなって」

律子「そう? 私は別に構わないけど」

やよい「ありがとうございます。伊織ちゃんも、一緒に行かない?」

伊織「……そうね、たまには歩くのもいいかしら」

律子「じゃあ、気をつけて戻ってくるのよ。午後はレッスンもあるんだから」バタン

ブロロロロ

19: 2012/11/18(日) 12:01:21.57 ID:bfBM7mM70
テクテク

伊織「それで、やよい? 何か話があるんじゃないの?」

やよい「えっ、ええっ!? なんでわかったの!?」

伊織「最近なんか様子がおかしかったじゃない」

やよい「すごいなぁ、伊織ちゃんは。なんでも分かっちゃうんだね」

伊織「なんでもは分からないわよ。やよいのことは、いつも見てるから」

やよい「えっ?」

伊織「な、なんでもないっ!」

21: 2012/11/18(日) 12:05:13.52 ID:bfBM7mM70
やよい「実はね、ケーキ作りの練習をしたいなって思って」

伊織「ケーキ?」

やよい「この前春香さんが買ってきたケーキがすごくおいしかったから
    長介たちにも食べさせてあげたくて」

伊織「作るんじゃなくて、買うんじゃダメなの?」

やよい「買うと高いから……。一度作り方を覚えれば、何度でも家で食べられるし」

伊織「そう」

やよい「でもできれば、ちゃんとしたのが出来上がるまで秘密にしたいから
    家では練習できないかなーって」

伊織「長介たちにじゃなくて、プロデューサーに、じゃなくて?」

やよい「……すごいなぁ、伊織ちゃんは」

22: 2012/11/18(日) 12:10:34.39 ID:bfBM7mM70
伊織「でも、どうして急にケーキなんて?」

やよい「昨日、春香さんの手作りのケーキを食べたいって言ってたから……」

伊織「あー……」

伊織「(アイツの場合、ただその場の流れでああ言っただけだと思うけど)」

やよい「家で何度か作ってみたんだけど、私もお母さんもケーキなんて作ったことないから
    全然うまくいかなくて……」

伊織「そうだったのね。いいわ、そういうことならウチのシェフに頼んで
   作り方を教えてもらいましょう」

やよい「ありがとう伊織ちゃん!」

24: 2012/11/18(日) 12:15:32.91 ID:bfBM7mM70
伊織「それと、私には変に隠さなくていいわよ」

やよい「え?」

伊織「律子も言ってたけど、やよいのいいところは素直なところよ。
   だから、私には正直でいてほしいの」

やよい「うん、わかった。ごめんね、伊織ちゃん」

伊織「(……正直でいて、か。自分のことを棚に上げて、よく言うわね)」

25: 2012/11/18(日) 12:16:43.38 ID:bfBM7mM70
━1週間後・伊織の家━

やよい「最後にイチゴを乗せて、と」

伊織「よし、これで完成ね!」

やよい「じゃあ、早速たべてみよっか」

…………

伊織「うん、おいしいわ。クリームも甘過ぎないし、これなら
   男の人の口にも合うんじゃないかしら」

やよい「やったぁ!」

26: 2012/11/18(日) 12:17:21.87 ID:bfBM7mM70
新堂「お二人とも、この短期間でよく上達されましたね」

やよい「ありがとうございます、新堂さん」

伊織「私はやよいのサポートをしただけよ」

やよい「でも新堂さんって、ひつじさんなのに料理もすっごく上手なんですね!」

伊織「執事よ、執事」

新堂「がようしおいしいです」ムシャムシャ

やよい「!?」

28: 2012/11/18(日) 12:23:21.06 ID:bfBM7mM70
新堂「冗談です、これは薄く伸ばした砂糖菓子でございます」

やよい「び、びっくりしましたー……」ドキドキ

伊織「懐かしいわね。何年ぶりかしら、それ?」

やよい「前からやってたんですか、それ?」

新堂「お嬢様は昔、何度お教えしても私のことを『ひつじ』と呼んでいましたからね」

やよい「へー」

伊織「昔の話よ、昔の」

29: 2012/11/18(日) 12:24:12.99 ID:bfBM7mM70
新堂「そこで、私がわざと羊のマネをすれば、恥ずかしがってクセを直すかと考えたのですが」

やよい「ですが?」

新堂「お嬢様は『ひつじなら紙をムシャムシャ食べるはずだ』とおっしゃいまして
   私の口いっぱいに画用紙を詰め込んだのでございます」

やよい「ヤギと勘違いしたんですね。ちっちゃい頃の伊織ちゃん、かわいいなぁ」

伊織「(ふ、振るんじゃなかったわ、こんな話題……)」カァァァ

やよい「あっ、もちろん今の伊織ちゃんもかわいいよっ!」

伊織「そ、そういうことじゃないわよっ!」

34: 2012/11/18(日) 12:31:13.60 ID:bfBM7mM70
新堂「そんなことがありましたので、今でも私は自衛のために
   薄く伸ばした砂糖菓子を懐に忍ばせているのでございます」

伊織「いい加減捨てなさいよ、そんなものっ」

やよい「ふふふっ」

伊織「?」

やよい「伊織ちゃんと新堂さん、仲がいいなぁって」

新堂「私にはもったいないお言葉です」

伊織「……そ、そうだやよい、もうそろそろ特売の時間じゃない?」

37: 2012/11/18(日) 12:35:05.16 ID:bfBM7mM70
やよい「あっ、ホントだ! もう行かないと」

新堂「よろしければスーパーまでお送りいたしましょうか?」

やよい「大丈夫です! 新堂さん、今日も本当にありがとうございましたー!
    伊織ちゃん、また明日ねー!」

伊織「ええ、また明日」

タッタッタッ……

新堂「礼儀正しくて、元気の良い方ですね」

伊織「新堂、あなた来月の給与査定を楽しみにしておくことね」

新堂「お、お嬢様!?」

40: 2012/11/18(日) 12:37:12.10 ID:bfBM7mM70
伊織「冗談よ、冗談。さっきのお返しよ」

新堂「お嬢様、お戯れが過ぎます……」

伊織「まぁそれは置いといて、一週間もありがとね。わざわざ手伝ってくれて」

新堂「いえいえ、私から申し出たことですから」

伊織「そういえば、どうしてあなたが? 手が空いてるシェフもいたでしょうに」

新堂「お嬢様がご友人をお招きになるとなれば、他の者には任せておけません」

伊織「ふーん、そういうものかしら」

新堂「やよい様が素晴らしい方で安心いたしました。流石はお嬢様のご友人です」

伊織「そう。素直にありがとうと言っておくわ」

新堂「明日は雪が降りそうですね」

伊織「うるさいっ!」

41: 2012/11/18(日) 12:40:06.53 ID:bfBM7mM70
━翌日・765プロ━

P「どうかな、春香?」

春香「うーん、もう少しさきっちょが大きくて黒い方が私の好みですね」

小鳥「あらあら、事務所でそんな話して。二人ともダメですよ?」

P「ちなみに衣装の装飾の話です」

小鳥「さて、仕事仕事、と」

春香「?」

42: 2012/11/18(日) 12:43:19.97 ID:bfBM7mM70
コソコソ

伊織「春香ったら、なかなかプロデューサーから離れないわね」

やよい「小鳥さんは何を勘違いしてたのかなぁ」

響「二人とも、何してるんだ?」

伊織「プロデューサーが一人になるタイミングを見計らってるのよ」

響「どうして?」

やよい「プロデューサーを私の家にお誘いするんです」

響「ふーん」

伊織「……って、なんでナチュラルに盗み聞きしてんのよっ! この変態っ!」

響「じ、自分で喋ったんじゃないか!」

やよい「響さんはへんたいです……」

響「やよいまで!?」

44: 2012/11/18(日) 12:50:18.81 ID:bfBM7mM70
響「ぐすん……」

伊織「『ぐすん』って声に出されても……悪かったわよ」

やよい「響さん、ごめんなさい」

響「それで、どうしてプロデューサーをやよいの家に呼ぶんだ?」

伊織「いくらなんでも切り替え早過ぎない?」

やよい「プロデューサーをもやし祭りにご招待するんです!」

響「あー、この前やったあれかー」

45: 2012/11/18(日) 12:51:04.13 ID:bfBM7mM70
――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――

やよい「もやし祭りに?」

伊織「ええ。せっかくケーキを作っても、事務所だと渡しづらいでしょ?」

やよい「うん。みんなに見られちゃうと、ちょっと恥ずかしいかも……」

伊織「だからプロデューサーをやよいの家に呼んで、ケーキを渡すの。
   もやし祭りのことはプロデューサーも知ってるし、誘いやすいはずよ。
   帰りがけに渡せば、長介たちにも気づかれないでしょ?」

やよい「そっか……うん、そうだね!」

伊織「でしょ? それじゃ、プロデューサーが一人の時に声をかけましょ」

――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

46: 2012/11/18(日) 12:51:34.41 ID:bfBM7mM70
P「春香、明日のロケは早いんだし、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

春香「そうですね……あれ!? おサイフがない!」

小鳥「えっ?」

春香「どうしよう~、どこかに置いてきちゃったのかなぁ」ガサゴソ

小鳥「今日の春香ちゃんは……午前は雑誌取材で、午後はダンスレッスンだったわね」

春香「ちょっとレッスン室見てきます!」タタッ

伊織「チャンスよ! 行くわよ、やよい」

やよい「うん!」

響「でも、まだピヨ子がいるぞ?」

伊織「大丈夫、秘策があるわ」

47: 2012/11/18(日) 12:52:51.52 ID:bfBM7mM70
ガチャ

小鳥「あら、伊織ちゃんにやよいちゃん」

P「二人とも、こんな時間まで事務所で何して……どうしたんだ、手なんか繋いだりして?」

伊織「新曲に向けたイメージトレーニングよ」

やよい「今度出す曲は、女の子同士の禁断の恋愛を描いたバラードなんです」

P「律子も思い切ったことするなぁ」

伊織「だからこうして、一緒にいる時は握手していることで曲に感情移入しやすくしてるの」

やよい「うっうー、恋人つなぎです!」

小鳥「今度から律子さんを師匠と呼ぶことにするわ」

48: 2012/11/18(日) 12:53:38.08 ID:bfBM7mM70
伊織「ところで小鳥、そろそろデトックスの時間じゃない?」

小鳥「そうね。今日はもうウォーミングアップが済んだから、短期決戦でいってくるわ」ガタッ

バタン

P「……伊織、ただでさえ仕事をしない小鳥さんになんてことを」

やよい「ごめんなさい、実はプロデューサーに話があって」

伊織「小鳥には席を外してもらいたかったのよ」

P「ん、どんな話なんだ?」

やよい「実は……あ、伊織ちゃん、もう手を離してもいいよ? ありがとね」

伊織「あっ、う、うん、そうね」パッ

49: 2012/11/18(日) 12:56:21.74 ID:bfBM7mM70
ガチャ

春香「プロデューサーさん、おサイフ見つかりましたっ!」

やよい「!」

P「お、早かったな」

伊織「(レッスン室って、こんな早く戻ってこれないはずなのに……)」

春香「そこのドアを開けたら落ちてました。さっき転んだときにバッグから落としたみたいです」

P「危なっかしいなぁ……」

春香「でも、中身もちゃんと無事でホントよかったです。あー、ホッとしましたっ」

51: 2012/11/18(日) 12:58:19.72 ID:bfBM7mM70
春香「あれ? 伊織とやよい、いつの間に?」

伊織「春香と入れ違いで談話室に入ったのよ」

P「そういえばやよい、話の途中だったな」

春香「話?」

やよい「あー、えっと、その」

響「……春香ぁー、一緒に帰らないかー?」

春香「響ちゃん?」

52: 2012/11/18(日) 12:59:14.04 ID:bfBM7mM70
P「なんだ、響まで残ってたのか」

響「春香に話があってな。駅に着くまででいいから、聞いてくれないか?」

春香「いいよ。どんな話?」

響「正確には、話があるのは自分じゃなくてハム蔵なんだけどな」

春香「ハム蔵が?」

響「『ボクと春香のどちらが真のモモノキピンクか、そろそろ決着をつけたい』だってさ」

春香「へぇ、意味がまったくわからないけど面白そうだね♪」

響「でしょ? ハム蔵は先に外で待ってるから、早く行こうっ」

55: 2012/11/18(日) 13:01:50.43 ID:bfBM7mM70
春香「うん。それじゃみんな、お疲れさまー」

響「また明日なー」

P「二人とも、気をつけてな」

やよい「お疲れ様です」

伊織「お疲れ様」

響「……」ビシッ

やよい「(響さん、ありがとうございます)」

伊織「(立てるのは普通、小指じゃなくて親指だけどね)」

P「?」

56: 2012/11/18(日) 13:04:49.46 ID:bfBM7mM70
やよい「あの、プロデューサー」

P「ん? ああ、すまんすまん」

やよい「今度の夜、私の家でもやし祭りをやるんですけど、プロデューサーも来ませんか?」

P「今度って、いつ?」

やよい「いつもは木曜日なんですけど、今度は伊織ちゃんも来るし
    二人の都合のいい日にしようかなーって」

P「ちょっと待ってな……うん、大丈夫だ。木曜のままでいいぞ」

伊織「私も、木曜でいいわ」

やよい「やったぁ!」

57: 2012/11/18(日) 13:05:41.22 ID:bfBM7mM70
ファァァァァァァ……

伊織「!?」ビクッ

やよい「なっ、なんですか今の!?」ビクッ

P「ああ、あれは毒素があふれ出す音だ」

伊織「……ごめんなさい、やり過ぎたわ」

P「分かってくれればいいんだ」

やよい「……?」

59: 2012/11/18(日) 13:09:42.37 ID:bfBM7mM70
━後日・高槻家━

カチャカチャ

長介「ねぇ伊織さん、やっぱりオレも洗い物手伝うよ」

伊織「いいわよ。おいしいもやしをたくさんごちそうになったお礼よ」

長介「そうは言っても、なんだか気が引けるよ」

伊織「いいの。自分の家ではやらせてもらえないんだから、今日ぐらい私一人にやらせて」

伊織「(ケーキ作りの後片付けは私がやらないと……。プロデューサーが来るのが
   早過ぎて予定が狂っちゃったわ)」

長介「そう? ならいいけど」

伊織「それよりアンタは浩司たちをちゃんと見ときなさいよ。
   やよいたちの邪魔しちゃダメなんだから」

長介「分かってるって。仕事の話をしてるんでしょ?」

60: 2012/11/18(日) 13:14:04.08 ID:bfBM7mM70
伊織「ふぅ、これで終わりっと」

かすみ「ありがとうございます、伊織さん」

長介「……ねぇ伊織さん。少し、背伸びた?」

伊織「えっ? ああ、この前測ったら1cm伸びてたわ。よく分かったわね」

長介「へへっ、伊織さんの大ファンだからな!」

かすみ「PVとか、毎日見てるもんね」

長介「いいファンだろ? ロクに聞きもしないのに何百枚もCD買う連中より、よっぽど」

かすみ「別に伊織さんのCDには握手券なんてついてないけどね」

伊織「ってか、そういうのは自分で言っちゃダメでしょ。まぁ、それには同意見だけど」

長介「でも伊織さん、昔は『有り金はたいてCD買いなさ~い!』とか言ってたよね」

伊織「……ホント、いいファンを持って私は幸せだわ」

かすみ「ふふっ」

61: 2012/11/18(日) 13:18:37.97 ID:bfBM7mM70
伊織「私のことはいいから、アンタはどうなのよ? 少しは大人になったの?」

長介「もちろん! 最近はちゃんと家のことも一人でしっかりやるしね」

かすみ「そういえば、この頃はすぐ怒らなくなったよね」

長介「そ、そういうことは言うなよ」

伊織「へぇ。周りから見ても、ちゃんと大人になってきてるのね」

長介「……周りから見たらって言えば、やよい姉ちゃんも最近雰囲気が変わったな」

伊織「やよいが?」

63: 2012/11/18(日) 13:22:13.87 ID:bfBM7mM70
かすみ「うん。なんだか、ため息ついたり考え事してる時が増えた気がします」

長介「別に暗いとか辛そうとか、そんな雰囲気じゃないんですけどね。
   なんていうか、悶々としてるというか」

伊織「……そう」

かすみ「長介お兄ちゃんみたいに変わるのが『大人になる』ってことならいいけど、
    やよいお姉ちゃんみたいに変わるのがそうなら、ちょっと嫌だなぁ」

長介「心配しなくても、お前はあと10年くらい先だよ」

かすみ「そんな先じゃないもんっ!」

64: 2012/11/18(日) 13:22:44.38 ID:bfBM7mM70
長介「ねぇ伊織さん。姉ちゃん、事務所ではどうですか?」

かすみ「なんか無理してたり、してないですか?」

伊織「大丈夫、やよいはいつも元気よ」

長介「そう?」

伊織「ええ。ちょっと沈むことがあっても、律子がお昼奢るって言ったら一瞬で
   笑顔に戻ったもの。あの明るさは、私も見習わないとね」

長介「律子さんって、鬼畜眼鏡の律子さんですか?」

伊織「誰が言ってたのよ、そんなこと」

長介「亜美さんと真美さんが」

伊織「アイツら、私に対しても何か言ってなかったかしら」

長介「いえ、決して何も」

67: 2012/11/18(日) 13:28:07.54 ID:bfBM7mM70
ガラッ

やよい「伊織ちゃーん、新堂さんがお迎えにきたよー!」

伊織「あら、もうこんな時間なのね」

長介「じゃあ伊織さん、またね」

かすみ「また来てくださいね」

伊織「ありがとう。二人とも、またね」

68: 2012/11/18(日) 13:28:43.54 ID:bfBM7mM70
テクテク

やよい「伊織ちゃん、今日は本当にありがとね」

伊織「いいのよ。それより、ちゃんと渡せた?」

やよい「うん。……それでね」

伊織「ええ」

やよい「あのね……ううん、やっぱりあとでメールするねっ」

伊織「どうしたのよ? まぁいいわ、なるべく早くメールちょうだいね」

新堂「お嬢様、こちらへ」ガチャ

伊織「ありがとう。それじゃやよい、また明日」

やよい「うんっ、またねー!」

69: 2012/11/18(日) 13:29:27.12 ID:bfBM7mM70
ブロロロロ

新堂「どうやら、うまくいったみたいですね」

伊織「まぁね」

新堂「プロデューサー様にも一目お会いできればと思ったのですが、来るのが遅すぎました」

伊織「あのバカには会わなくていいわよ。ダサいしトロくさいし服装だってパッとしないし
   買ってくるお菓子のセンスはないし、いっつもやる気が空回りしてるし
   仕事の要領が悪くて夜遅くまで残業ばっかりしてるし……」

新堂「……」

伊織「何よ?」

新堂「いえ。お嬢様がご家族以外の男性をそこまで悪く言うのは初めてだな、と思いまして」

伊織「それだけ使えないってことよ」

新堂「よくご覧になっていらっしゃるのですね」

伊織「……イヤでも目につくのよ」

71: 2012/11/18(日) 13:32:05.51 ID:bfBM7mM70
ピロロロロッ

伊織「……」ポチッ

伊織「……ねぇ、新堂」

新堂「なんでございましょう?」

伊織「20代前半の男性と、中学生の女の子がデートするとしたら、どんな場所がいいかしら?」

新堂「いけません! いけませんぞお嬢様!」

伊織「私じゃないわよっ!」

72: 2012/11/18(日) 13:37:56.95 ID:bfBM7mM70
━翌日・765プロ━

ガチャ

伊織「おはよう」

小鳥「おはよう、伊織ちゃん」

律子「あら伊織、おはよう。今日は早いのね」

伊織「ええ、ちょっとね。……ねぇ、律子?」

律子「何?」

伊織「そこの壁から生えているサイドポニーは何かしら?」

律子「あれは亜美と真美よ」

伊織「亜美と真美『だったもの』かしら?」

律子「違うわね、まだ息があるから」

亜美「ちょっとちょっと! なに冷静に話してるのさ!」

真美「早く助けてYO!」

73: 2012/11/18(日) 13:39:01.67 ID:bfBM7mM70
伊織「どうしてこんなことになっているのかしら?」

律子「ある筋から、あの子たちが私のことを『鬼畜眼鏡』とか『鬼軍曹』って
   呼んでるという情報をつかんだのよ」

伊織「言われるだけのことはしてると思うけど」

小鳥「『あるスジ』ってなんだかとてもステキな響きだわ」

亜美「いおりん助けてー。ジマンの太陽拳でこの壁をブッ壊してよー」

真美「お願いデコ神さまー。アマテラスデコミカミさまー」

律子「太陽拳は攻撃技じゃないわよ」

伊織「あら、こんなところにセメダインがあるわ。壁の割れ目を塞ぐのにピッタリね」

小鳥「『壁のワレメ』ってなんだかとてもステキな響きだわ」

亜美「ごめんなさい伊織さん!」

真美「伊織さま、助けてください!」

75: 2012/11/18(日) 13:43:09.16 ID:bfBM7mM70
亜美「ふぃー、氏ぬかと思った」

真美「まったく、りっちゃんは冗談が通じないんだから」

律子「限度ってものがあるでしょ?」

亜美「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」

ガチャ

やよい「おはようございまー……」

伊織「おはよう、やよい」

やよい「伊織ちゃん、なんで事務所の壁に穴があいてるの?」

真美「ちょっとイトコンニャクあってね」

小鳥「一悶着、ね」

76: 2012/11/18(日) 13:44:55.75 ID:bfBM7mM70
やよい「伊織ちゃん、ちょっと」

伊織「ああ……。律子、少し応接室借りるわね」

律子「え? まぁいいけど、準備には遅れないでね」

亜美「なになに、ヒミツのおはなし?」

真美「真美たちをのけ者にしようったって、そうはいかないよんっ!」

伊織「律子、二人がこの前アンタのことを『フローレンシアの猟犬』って呼んでたわ」

律子「詳しく話を聞かせてもらおうかしら」ガシッ

亜美「ちょっ、いおりん!」ジタバタ

真美「りっちゃんも、あからさまなウソにつられないでよ!」ジタバタ

78: 2012/11/18(日) 13:48:55.62 ID:bfBM7mM70
バタンッ

伊織「さてと。……やよいも、思い切ったことしたわね」

やよい「うん。今でもすごいドキドキしてる……」

79: 2012/11/18(日) 13:49:27.29 ID:bfBM7mM70
――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――

P「やよい、今日はありがとな」

やよい「こちらこそ、今日はありがとうございました! みんなすっごく喜んでました!」

P「ははっ、それならよかった。しかし、ごちそうになったうえに、こんなお土産まで
  もらったからには、何か埋め合わせしないといけないな」

やよい「雪歩さんがどうかしたんですか?」

P「いや、そういうことじゃなくてだな。やよいにお礼をしたいってことだよ」

やよい「えっ!」

80: 2012/11/18(日) 13:49:58.62 ID:bfBM7mM70
P「何か欲しいものとか、あるか? 遠慮しなくていいから」

やよい「も、もやし! 雪国もやしがいいです! ……じゃなくて、えっと、その」

P「ははっ、落ち着けって。別に今決めなくても……」

やよい「プ、プロデューサー!」

P「あ、ああ」

やよい「今度、私とデートしてくださいっ!」

――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

81: 2012/11/18(日) 13:52:41.95 ID:bfBM7mM70
伊織「あの日、新堂がプロデューサーに会いたがってたけど、
   その場に鉢合わせなくてホントよかったわ」

やよい「結局その後は恥ずかしくて、全然話せなくて……」

伊織「プロデューサーは何も言わなかったの?」

やよい「なんか慌てて、『とりあえず、日にちとか場所とか、今度
    メールしてくれれっ』って言って帰っちゃった」

伊織「女の扱いに慣れてないにも程があるわね……」

伊織「(まぁ、慣れてたらそれはそれで嫌だけど)」

82: 2012/11/18(日) 13:53:30.58 ID:bfBM7mM70
やよい「ねぇ伊織ちゃん。大人の男の人とのデートって、どんなところに行くのかな?」

伊織「うーん、そうねぇ」

伊織「(そもそもデートの経験すらないから、答えようがないのよね……)」

やよい「動物園とか、どうかな?」

伊織「ちょっと子供っぽ過ぎない? それに、765プロ自体が動物園みたいなものだし」

やよい「それもそうだね」

伊織「でも、あんまり背伸びして大人っぽ過ぎるところを選んでも緊張しちゃうかしら」

やよい「子供っぽ過ぎず、でもあんまり背伸びし過ぎないで……」

伊織「難しいわね」

やよい「あっ、水族館なんてどうかな?」

83: 2012/11/18(日) 14:01:01.39 ID:bfBM7mM70
律子「いいんじゃないかしら、水族館。プロデューサー、そういうところ意外と好きよ」

やよい「りっ、律子さん!?」

伊織「音もなく近づいて来ないでよね……」

律子「ごめんなさいね。私、猟犬だから」

やよい「もしかして、怒ってます?」

伊織「悪かったわよ、さっきは」

律子「まぁ事情があったみたいだし、別にいいわ。でも、次はないわよ」

伊織「いちいち言うことが恐ろしいのよ」

84: 2012/11/18(日) 14:01:45.69 ID:bfBM7mM70
律子「ところで、プロデューサーと水族館にでも行くの?」

伊織「違うわよ。私たち、男性業界人の好きなデートコースのアンケートを取ってるの」

やよい「な、夏休みの自由研究ですっ!」

伊織「それで、アンケートを取る前にプロデューサーの好みを予想してたってわけ」

律子「ふーん。でもプロデューサーは業界人にしては真面目過ぎるから
   あまり参考にはならないと思うけど」

伊織「結構よ。不真面目なヤツだったら、こっちから願い下げなんだから」

律子「?」

やよい「?」

伊織「……なんでもないわ」

85: 2012/11/18(日) 14:04:09.66 ID:bfBM7mM70
やよい「それにしても律子さん、プロデューサーのこと詳しいですね」

律子「随分前から一緒に仕事してるからね。付き合いはあなた達より長いし」

伊織「そういうものかしら」

律子「それより、そろそろ時間よ? 出発の準備できてる?」

やよい「えっ、もう時間ですか!?」

律子「コートとか、ちゃんと着ていきなさいよ? 今日は夏にしてはえらく寒いからね」

伊織「アンタほんっとにイヤなやつね」

律子「あら、なんのことかしら?」

86: 2012/11/18(日) 14:07:56.87 ID:bfBM7mM70
伊織「それじゃ小鳥、行ってくるわね」

やよい「行ってきまーす!」

律子「帰りは夕方になると思います」

小鳥「わかったわ。みんな、行ってらっしゃい」

バタン

小鳥「……さて、と。この壁の穴、どうしようかしら」

ガチャ

P「ただいまー」

87: 2012/11/18(日) 14:08:27.34 ID:bfBM7mM70
小鳥「プロデューサーさん、おかえりなさい。今朝は美希ちゃんの雑誌取材でしたっけ?」

P「ええ。美希も大分受け答えがマトモになってきましたよ」

小鳥「ふふっ、これで一安心ですね。それで、美希ちゃんは一緒じゃないんですか?」

P「ああ、美希ならカモ先生に今日の業務報告に行きました」

小鳥「カモ先生って、あのお堀に住んでるカモのことですか?」

P「あのお堀に住んでるカモのことです」

小鳥「美希ちゃんは、一つのことがマトモになると、他のことがおかしくなっちゃうんですか?」

89: 2012/11/18(日) 14:16:17.94 ID:bfBM7mM70
――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――

美希「ミキね、この前学校で公民のお勉強をしたの」

美希「あのね、会社で一番偉いのは社長さんじゃないの。カブヌシさんなの」

美希「それでね、カモ先生は、あのお堀のヌシなの」

美希「カブヌシとカモヌシ。とっても似てるの! きっと学校の先生が間違えたの」

美希「だからね、美希は765プロのカモヌシさんに、ぎょーむほーこくに行くの」

P「美希はかしこいなぁ」

美希「でしょ? もっと褒めて☆」

――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

90: 2012/11/18(日) 14:16:48.13 ID:bfBM7mM70
P「とまぁ、こんな感じです」

小鳥「どうしてすぐ病院に連れて行かなかったんですか?」

P「なんか話を聞いてたらドッと疲れが出てきちゃって」

小鳥「ちゃんと仕事してくださいよ……」

P「小鳥さんがそれを言います?」

91: 2012/11/18(日) 14:23:57.59 ID:bfBM7mM70
小鳥「まぁ、亜美ちゃんと真美ちゃんはレッスンに行きましたし
   しばらくは誰も来ないから、少しゆっくりしててください」

P「助かります」

小鳥「それじゃ、私は向こうの部屋で壁の穴を直してますから」

P「分かりました」

バタン

P「(……あまりの事態に、何があったのか聞きそびれてしまった)」

92: 2012/11/18(日) 14:24:49.51 ID:bfBM7mM70
ピロロロロッ

P「……」ポチッ

P「……水族館、か。いつ以来かな」

ガチャ

春香「おはようございまーす」

P「おわっ!?」バッ

春香「プ、プロデューサーさん!? そんなに慌ててどうしたんですか?」

P「い、いや別に。春香こそ、今日はラジオの収録じゃなかったのか?」ドキドキ

春香「ああ、ラジオ関西にはハム蔵が行きましたよ」

P「なんで!?」

春香「怖いですよね、芸能界って」

P「怖すぎるよ!」

93: 2012/11/18(日) 14:32:17.89 ID:bfBM7mM70
春香「ところでプロデューサーさん、何か隠しませんでしたか?」

P「い、いや、何も隠してないよ?」

春香「そういえばプロデューサーさん、以前社長のことを
   『ダブルゼータの頃のヤザン』って呼んでましたよね」

P「ごめんなさい携帯隠しました許してください」

94: 2012/11/18(日) 14:40:25.76 ID:bfBM7mM70
春香「別に携帯なんて隠さなくてもいいのに」

P「いや、やよいから水族館に行こうって誘いがあってな」

春香「二人っきりで、ですか?」

P「ああ。でも、やよいは今は俺の担当じゃないし、やっぱりこういうのはマズいよなぁ」

春香「……いいんじゃないですか?」

P「えっ?」

95: 2012/11/18(日) 14:45:43.89 ID:bfBM7mM70
春香「デートしてあげても、いいんじゃないですか?……ううん、むしろするべきですよ」

P「いや、デートってわけじゃ」

春香「水族館って、やよいの趣味とはちょっと違うと思うんですよ。
   多分、プロデューサーさんの好きそうな場所を頑張って考えたんだと思います」

P「春香……」

春香「女の子の方から、デートしようって誘うのって、すごく勇気のいることなんです。
   やよいの気持ち、分かってあげてください」

96: 2012/11/18(日) 14:51:03.67 ID:bfBM7mM70
P「……そうだな。ありがとう、春香」

春香「いえいえ。でも! 手を出したりなんかしたら犯罪ですよ、犯罪!」

P「す、するわけないだろ!」

春香「ふふっ、冗談ですよ、冗談。じゃあ私、自主トレ行ってきますねっ」

タタタッ

パタン

春香「……」

春香「……やよいは、勇気があるなぁ……」

97: 2012/11/18(日) 14:54:56.58 ID:bfBM7mM70
━その日の夕方・765プロ━

やよい「ただいまー」

亜美「おかえりっ、やよいっちー」

真美「あれ、一人だけなの?」

やよい「うん、スーパーの特売があるからね。律子さんは残って打ち合わせで、
    伊織ちゃんはもうちょっとゆっくり帰ってくると思うよ」

亜美「ふーん」

やよい「事務所には、今二人しかいないの?」

真美「うん。ピヨちゃんは壁の穴をふさぐ材料を買いに、ハンズに行ったよ」

亜美「『ついにマジックミラー号の技術を生かす時がきたわ』だってさ」

やよい「マジックミラー号?」

真美「まぁ、どーせロクなことじゃないよ」

99: 2012/11/18(日) 14:58:07.62 ID:bfBM7mM70
亜美「そんで、兄ちゃんはミキミキを探しに行ったよ」

やよい「美希さんを?」

真美「ミキミキはカモ先生と、愛の逃避行中なんだYO!」

亜美「そして、ミキミキを取り戻さんと、二人を追いかける兄ちゃん!」

真美「鯉のTRY!あんぐりってヤツだね!」

やよい「……」ギュウウウウウ

亜美「ごめんごめん、恋のトライアングルの間違いだったよイタタタタ」

真美「だから、やよいっち、下唇をつかむのやめて? 
   真美たちの口が鯉みたいにあんぐりしちゃうよイタタタタ」

101: 2012/11/18(日) 15:09:23.66 ID:bfBM7mM70
やよい「あっ、ご、ごめん! つい無意識に……」パッ

亜美「りっちゃんの指導の成果がこんなところで生かされるなんて……」

真美「りっちゃんは傭兵訓練学校にでも勤めた方がいいね」

やよい「それで、本当はどこに行ったの?」

亜美「ミキミキを探しに行ったのはホントだよ」

真美「おおかた、カモ先生のお堀で寝てるんじゃないかな」

やよい「……私も行ってくるっ」

亜美「ちょ、ちょっと待ってよ、やよいっち!」

103: 2012/11/18(日) 15:15:04.53 ID:bfBM7mM70
真美「どうしたのさ、急に」

やよい「だって……美希さんズルいよ! 寝てるだけなのに
    プロデューサーが来てくれるなんて!」

亜美「な、なんの話かわかんないけど、とりあえず落ち着きなよ」

真美「ほら、これいおりんの買ってくれたゴージャスセレブプリン」

やよい「これ、伊織ちゃんの分じゃないの?」

亜美「やよいっちならヘーキだよ」

真美「なんかあったら真美たちがベンゴしてあげるからさ」

亜美「イギあり! ヒコクニンのショーゲンはムジュンしてますっ!」バンッ

真美「ユーザイ! とにかくユーザイにするのです!」バンバン

やよい「……ふふっ」

104: 2012/11/18(日) 15:15:35.58 ID:bfBM7mM70
亜美「よかったぁー、やっと笑ったよ」

真美「やっぱりやよいっちは笑顔がイチバンだね!」

やよい「心配してくれてたんだね、ごめんね亜美、真美」

亜美「だいじょーぶ、気にしないで」

真美「ねぇ、やよいっち」

やよい「なに?」

真美「やよいっちは、やよいっちらしくしてればいいと思うよ?」

やよい「どういうこと?」

106: 2012/11/18(日) 15:20:10.51 ID:bfBM7mM70
真美「真美たちもミキミキも、いつも兄ちゃんを困らせてばっかりだけどさ」

やよい「うんうん」

真美「真美たちだってたまには『よし、マジメにやっちゃおう!』って時もあるんだ」

亜美「そうそう! でも、せっかく亜美たちがマジメになっても兄ちゃんは
   『虹色のクスリでも飲んだのか?』って、マトモに取り合ってくんないんだ」

やよい「プロデューサーも結構ヒドいこと言うね」

亜美「まぁ、亜美たちもそれだけのことをしてきたからね」

107: 2012/11/18(日) 15:25:36.20 ID:bfBM7mM70
真美「そんで、真美が言いたいのはさ」

やよい「うん」

真美「兄ちゃんを困らせて遊ぶのは楽しいけど、たまには素直に兄ちゃんの言うこと聞いて、
   マジメにアイドル活動ガンバって、褒められたりするのも悪くないなって思うんだ」

やよい「えっ、ホントに?」

亜美「亜美たちもいわゆるシシュンキってヤツだからさ、色々と考えることもあるワケなのだよ」

真美「だから、真美、たまにやよいっちが羨ましくなるんだ」

亜美「うんうん! わかるわかる!」

やよい「羨ましいだなんて……なんだか恥ずかしいかも」

108: 2012/11/18(日) 15:26:09.04 ID:bfBM7mM70
亜美「とにかくさっ、兄ちゃんを困らせて気を引くのはミキミキとか亜美たちに任せて」

真美「やよいっちはやよいっちらしく、素直にドーンと! 兄ちゃんにアタックしちゃいなYO!」

やよい「ア、アタック!?」

亜美「亜美たちのモージョーコンを甘く見ちゃダメだよ」

やよい「毛状根?」

真美「真美たちには、色んな情報が入ってくるのさっ」

やよい「(多分、『情報網』って言いたいのかなぁ)」

109: 2012/11/18(日) 15:27:02.99 ID:bfBM7mM70
やよい「……私らしく、かぁ」

真美「うんうんっ」

やよい「伊織ちゃんも、前にそんなようなこと言ってたなぁ」

亜美「なになに、なんて言ってたの?」

やよい「『やよいのいいところは素直なところだから、私には正直でいて』って」

真美「いおりんがそれを言う?」

亜美「今年一番の『お前が言うな』だね」

伊織「悪かったわね、正直じゃなくて」

真美「い、いおりん!?」

亜美「足音なんてゼンゼンしなかったのに……」

伊織「律子仕込みの無音移動術よ」

真美「りっちゃんは、二人を隠密にでもするつもりなの?」

117: 2012/11/18(日) 15:44:58.39 ID:bfBM7mM70
やよい「亜美、真美、伊織ちゃん」

亜美「どったの?」

やよい「ありがとね。なんか、すっきりしたかも」

真美「どーいたしましてっ」

伊織「わ、私は別に何もしてないわよ」

やよい「ふふふっ」

122: 2012/11/18(日) 15:50:51.86 ID:bfBM7mM70
やよい「それじゃ私、特売行ってくるねっ」

亜美「うん、また明日ー」

真美「長介に、もうちょっと口カタくしといてって言っといてねー」

伊織「なんで長介なの?」

亜美「りっちゃんに『鬼畜眼鏡』って言ってたのを知ってるのは長介だけなんだ」

真美「まったく、かわいい顔してとんだ悪ガキだYO!」

伊織「ああ。それなら私が長介から聞いて、私が律子にリークしたのよ」

亜美「なんですと?」

123: 2012/11/18(日) 15:55:07.62 ID:bfBM7mM70
伊織「ほら、私もたまには正直にしようかなって」

真美「とてもそんな殊勝な心がけと関係があるようには思えないよ」

亜美「インシツと正直は別物だよ」

真美「今年になっておデコの輝きを前髪で隠すようになってから
   いおりんの性格からも明るさと清らかさが失われてしまったんだね」

亜美「そんなインシツなことばっかりしてると、どんどん生え際が後退していくよ」

伊織「……」ギュウウウウウ

真美「すみませんすみません、伊織様の御心は大天使ミカエルのようですイタタタタ」

亜美「だから、いおりん、上唇をつかむのやめて? 亜美たちの口がイタタタタ
   ちょっとやよいっち、いおりんを止めてイタタタタ」

やよい「じゃあ、また明日ー」バタンッ

真美「やよいっち!?」

125: 2012/11/18(日) 16:00:25.96 ID:bfBM7mM70
━同時刻・お堀━

タッタッタッ

P「やっぱりここにいたか……のんきに眠ってるなぁ」

美希「ムニャムニャ」

カモ先生「ガァーッ」

P「カモ先生……ずっと美希のそばにいてくれたのか」

カモ先生「グワッグワッ」

P「ありがとな、カモヌシさん」

カモ先生「いえいえ、どういたしまして」

P「!?」

カモ先生「ガァーガァー」スイーッ

P「……やっぱ疲れてんのかなぁ」

美希「ムニャンコ」

127: 2012/11/18(日) 16:07:11.98 ID:bfBM7mM70
P「おーい、美希ー」ユサユサ

美希「うーん……あっ。プロデューサー、おはようなの」

P「もう夕方だぞ。ってか、今朝会ったじゃないか」

美希「ミキが寝て起きたら、もうそれは次の日なの」

P「それだと小鳥さんはもう40歳くらいになってるな」

美希「それは実に愉快なの」

129: 2012/11/18(日) 16:13:19.55 ID:bfBM7mM70
P「まぁいい、事務所帰るぞ」

美希「はーい。……あれ、どうしたのプロデューサー?」

P「何が?」

美希「なんだか、フンイキが暗いの」

P「そうか? ちょっと疲れてるせいかもな」

美希「ううん、違うと思うな」

P「?」

130: 2012/11/18(日) 16:18:07.11 ID:bfBM7mM70
美希「なんだかね、プロデューサー、今迷ってるカンジだよ?」

P「迷って……る?」

美希「うん。なんか、誰かを傷つけたくなくて、どうすればいいか分かんないって感じなの」

P「どうしてそう思うんだ?」

美希「カンなの」

P「勘か」

美希「うん。でもね、今のプロデューサー、すごく悲しくて難しそうな顔をしてるの。
   事務所のみんなのことで悩んでるときは、いつもそういう顔をしてるよ?」

P「……美希はよく見てるな」

美希「あったり前なの。だって、ミキのプロデューサーだもん」

132: 2012/11/18(日) 16:23:10.31 ID:bfBM7mM70
P「まぁ、悩んでるといえば悩んでるのかもな」

美希「ねぇねぇ、プロデューサーの悩み、ミキに教えて?」

P「人に相談するようなことじゃないよ」

美希「ぶー、つまんないの」

P「美希だって、人に言えない悩みとかあるだろ?」

美希「ミキは胸がおっきいから、そんな悩みとは無縁なの」

P「頼むから事務所でそういうことを言ってくれるなよ」

135: 2012/11/18(日) 16:27:53.53 ID:bfBM7mM70
美希「じゃあ、ミキがプロデューサーのために、とっておきのアドバイスをしてあげるの」

P「おっ、ありがたいな」

美希「だから、事務所までおんぶしてって欲しいの」

P「そういえば明日急用が入ったから、明日の営業は律子と一緒に行ってくれるか?」

美希「OKOK、わかったの。トクベツにタダで教えてあげるの」

P「美希はかしこいなぁ」

136: 2012/11/18(日) 16:33:04.90 ID:bfBM7mM70
美希「あのね。迷ったときは、自分に正直になった方がいいの」

P「正直に、か」

美希「そうなの。プロデューサーは、いつも事務所のみんなのことを考えて
   自分の気持ちをゴマカシちゃってるの」

P「ああ……そうかもな」

美希「だから、たまには『自分がこうしたい!』って思ったら、そのとおりにしちゃえばいいの」

P「ははっ、美希らしいな」

138: 2012/11/18(日) 16:38:59.03 ID:bfBM7mM70
美希「そうなの。ミキ、今日もカモ先生とお話してたら眠くなっちゃったの。だから
   『カモ先生のお話は小難しくて退屈だからオヤスミなさいなの』って正直に言ったの」

P「うん……うん?」

美希「そしたらカモ先生が『どうぞお眠りなさい』って言ってくれたから、グッスリ眠れて、
   しかもプロデューサーが起こしに来てくれたの。正直になるといいこといっぱいなの」

P「そうか」

美希「だから、プロデューサーさんも、正直になりなさい! なの」

P「美希はかしこいなぁ」

美希「でしょ? もっと褒めて☆」

P「でもやっぱり今度病院に行こうな」

美希「イジワルしないでっ!」

143: 2012/11/18(日) 16:51:30.75 ID:bfBM7mM70
━数日後・765プロ━

伊織「ただいまー」

響「おっ、三人ともお帰りー」

やよい「ひ、響さん!?」

律子「どうしたの、響? いまどき綾波レイのコスプレなんて流行らないわよ」

響「いや、コスプレじゃなくて本当にケガしてるんだ」

伊織「全身包帯グルグル巻きじゃない。何があったの?」

響「いぬ美に襲われたんだ」

やよい「い、いぬ美に?」

145: 2012/11/18(日) 16:55:58.12 ID:bfBM7mM70
響「いつものようにいぬ美のエサをつまみ食いしてたら
  『あなたが氏んでも、代わりはいるもの』って言いながらボコボコにされたんだ」

伊織「アンタの話はいったいドコまで本当なのよ……」

響「まぁ甘噛みだったし、骨は折れてないから大丈夫さー」

律子「包帯巻いてる時点で甘噛みとは言い難いわよ」

やよい「響さんって、お砂糖の味がするんですか?」

伊織「やよい、そうじゃないわよ」

147: 2012/11/18(日) 17:00:36.71 ID:bfBM7mM70
響「自分は午後からバラエティの撮影があるから、みんなとは入れ違いだな」

律子「響、あなたそのカッコで撮影にいくつもりなの?」

響「包帯エピソードで、いぬ美との仲の良さをアピールするんだ」

伊織「まぁアンタがいいなら私は止めないけど」

響「それじゃ、行ってきまーす!」

バタン

やよい「響さん、あのカッコで電車に乗るのかなぁ」

律子「深く考えないようにしましょう」

148: 2012/11/18(日) 17:06:20.50 ID:bfBM7mM70
伊織「それよりやよい、そろそろプロデューサーと約束の時間じゃない?」

やよい「うん、準備ばっちりだよ。ありがとう、伊織ちゃん」

律子「頑張ってね、やよい。えーと、デートコースのアンケートの実地調査を」

伊織「そうそう、実地調査」

やよい「それじゃ、行ってきまーす!」

バタン

律子「ところで、デートコースのアンケートの実地調査って意味が分からないのだけど」

伊織「あとからツッコむくらいなら、最初から猿芝居なんてするんじゃないわよ」

律子「あら、せっかくやよいが気持ちよく出発できるようにしてあげたのに」

150: 2012/11/18(日) 17:12:05.55 ID:bfBM7mM70
伊織「まぁいいわ。午後はレッスンもないし、少しのんびりすることにするわ」パカッ

伊織「……あれ?」

律子「どうしたの?」

伊織「私のプリンがないわ」

律子「きっと亜美と真美の仕業ね」

伊織「今度会ったら、上唇が紫色になるまでつかんでやるわ」

151: 2012/11/18(日) 17:17:10.05 ID:bfBM7mM70
律子「まぁまぁ、落ち着いて。はい、オレンジジュース」

伊織「ありがと」

律子「私も午後の打ち合わせまで時間があるし、ちょっとゆっくりしようかしら」

伊織「談話室に私たち二人っきりってのも、珍しいわね」

律子「私たちが一緒のときは、大抵やよいもいるものね」

伊織「ええ……」

律子「やよいの気持ちがプロデューサーの方に向いちゃって、寂しい?」

伊織「な、何言ってんのよ!?」

律子「だって、顔にそう書いてあるもの」

153: 2012/11/18(日) 17:22:47.37 ID:bfBM7mM70
伊織「……アンタほんっとに」

律子「イヤなやつ?」

伊織「そういう風に先読みするところも含めてね」

律子「まぁたまにはいいじゃない。
   二人しかいないんだし、あなたの本音を聞かせてちょうだい?」

伊織「……正直、よく分からないわ」

156: 2012/11/18(日) 17:29:10.80 ID:bfBM7mM70
伊織「やよいのことは大好きよ。事務所のみんなだって好きだけど、あの子は特別」

律子「そう」

伊織「プロデューサーはダサいしスットロいしホントにダメダメだけど……」

律子「嫌いじゃない?」

伊織「今までに会った男の中では、まだマトモな方だわ」

律子「素直じゃありませんこと」

伊織「うるさい」

158: 2012/11/18(日) 17:35:34.28 ID:bfBM7mM70
伊織「だから、私の一番好きな女の子と……あ、あえて順位をつければ一番好きな男の人が
   一緒になれば、それってすごく嬉しいことなんだろうな、って思ってた」

律子「うん」

伊織「でも……」

律子「……」

伊織「でも、もし二人が付き合ったら。二人の間に、私はいないんだなって。
   二人の世界の中に、私は入れないんだなって。そんな風に考えちゃうわ」

律子「やよいの恋が実って欲しくもあり、欲しくなくもあり、ってことね」

伊織「そこまでは言わないけど、嬉しいことばかりじゃないのねってことよ」

160: 2012/11/18(日) 17:41:03.00 ID:bfBM7mM70
律子「うーん。応援する恋も、難しいのねぇ」

伊織「知ったふうな口をきかないでよね」

律子「いいじゃない。あなたよりは人生経験豊富なつもりよ?」

伊織「ふーん。じゃあ、聞いてもいい?」

律子「ええ、何かしら?」

伊織「プロデューサーと付き合ってた頃のハナシ」

律子「!」ブッ

164: 2012/11/18(日) 17:49:44.52 ID:bfBM7mM70
━同時刻・水族館━

P「おっ、やよい。今からシャチのショーがあるみたいだぞ」

やよい「わぁ、歯がすごいですねっ。見てみたいです!」

…………

お姉さん「今日のショーの主役は、シャチのシャチ介くんでーす!」

シャチ「……」バシャバシャバシャ

お姉さん「じゃあシャチ介くん、まずはこのボールでリフティングをしてみようかー」

シャチ「……」ポンッポンッポンッ

P「おおっ、すごいもんだなぁ」

やよい「あのお姉さん、シャチ介くんとすごい仲良しですね! 響さんみたいです!」

P「そういえば、ネーミングセンスも響そっくりだなぁ」

166: 2012/11/18(日) 17:54:37.61 ID:bfBM7mM70
お姉さん「上手にリフティングができたシャチ介くんに、ごほうびだよ。それーっ」ポイッ

シャチ「……」ガジガジ

お姉さん「シャチ介くん、エサは私じゃなくて、そっちの肉塊だよイタタタタ」

シャチ「……」ガジガジ

お姉さん「ちょ、血が出てるからマジでやめてちょっとイタタタタ」

やよい「わぁ、ますます響さんそっくりです!」

P「これって事故じゃないのかな?」

やよい「響さんはあれ以上のケガでしたけど、『甘噛みだから大丈夫』って言ってました」

P「そうか、甘噛みなら安心だな」

シャチ「♪」ガジガジ

168: 2012/11/18(日) 18:00:22.88 ID:bfBM7mM70
━765プロ━

伊織「ちょ、汚いっ! コーヒーこぼさないでよっ!」

律子「ご、ごめんなさい」フキフキ

伊織「で、どうなの?」

律子「どうして分かったの? 誰にも言ってなかったのに」

伊織「隠してるつもりかもしれないけどね、ところどころでボロが出てるわよ。
   この前も、プロデューサーが水族館が好きって知ってたし」

律子「……」

伊織「それにさっき『応援する恋も』って言ってたわよね。律子はこの業界に入るまで
   勉強一筋だったって言ってたし、芸能界のチャラチャラした男なんて嫌いだから
   付き合ってたとしたらプロデューサーぐらいでしょ」

律子「……なかなかやるじゃない」

伊織「まぁ全部あとづけだけど。ぶっちゃけ勘よ」

170: 2012/11/18(日) 18:06:36.06 ID:bfBM7mM70
律子「お互い、自分のことは分からないくせに、他人のことはよくわかるみたいね」

伊織「私は自分のことも分かってるつもりよ。それで、どうして別れたの?」

律子「一つだけいいかしら。どうして、それを聞きたいの?」

伊織「決まってるでしょ。もし万が一、プロデューサーがどうしようもない
   ダメ人間だったら、今すぐやよいを止めにいくためよ」

律子「本当にやよいのことが大切なのね」

伊織「……そうよ。悪い?」

律子「ううん、全然。あなたたち二人をプロデュースしてて良かったと思うわ」

171: 2012/11/18(日) 18:11:17.98 ID:bfBM7mM70
律子「私の話、最後まで落ち着いて聞いてね」

伊織「分かったわ」

律子「私が彼と付き合いはじめたのは、私がまだアイドルだった頃。みんなに
   『恋愛禁止!』なんて言ってる私たちがそんなことしてたなんて
   口が裂けても言えないわね」

伊織「心配しなくても、誰にもバラさないわよ」

律子「付き合い方は、極めて健全なものだったと思うわ。スキャンダルとかが
   怖かったというよりは、お互いゆっくり距離を縮めていきたかったからだと思う」

伊織「見た目どおり、カタいのね」

律子「プロデューサーが?」

伊織「どっちもよ」

173: 2012/11/18(日) 18:17:07.47 ID:bfBM7mM70
律子「でも、半年くらいでアッサリ別れちゃったわ。
   世間一般で『恋人同士』と呼べる関係まで、距離を縮められる前にね」

伊織「何があったの?」

律子「ちょうどその時にね、私はアイドルを引退して、プロデューサーに転向したの」

伊織「……」

律子「プロデューサーになるのは私の夢だったから、彼と付き合っていようがいまいが
   アイドルを引退することは最初から心の中で決めていたの」

伊織「……うん」

律子「彼もそれは知っていたはずなんだけどね。でも、いざとなると彼は納得しなかった。
   『自分が付き合っていたせいで、律子の夢を諦めさせてしまった』ってね」

175: 2012/11/18(日) 18:23:12.05 ID:bfBM7mM70
律子「今思えば、転向のタイミングも悪かったのかもね。当時は人気が伸び悩んでて
   私としては『ここらが潮時かな』って思ったんだけど、彼は『あともうひと
   ふんばりでトップアイドルに仲間入りできる』って思ってたみたい。
   彼の今の実績を考えれば、彼の方が正しかったのかな、とは思うわ」

伊織「アンタだって大したものじゃない」

律子「あら、褒めてくれるなんて珍しいわね」

伊織「未来のトップアイドルのプロデューサーが一流でなくちゃ、私が困るのよ」

177: 2012/11/18(日) 18:27:42.04 ID:bfBM7mM70
律子「話を続けるわね。結局そのあと、ほどなくして別れたわ。アイドルを引退
   したとはいえ、アイドル事務所で社内恋愛なんて、いいことじゃないからね。
   『これ以上、律子の夢の重荷になりたくない』って」

伊織「だったら、最初から付き合わなきゃよかったのに」

律子「……若かったのよ、二人とも。自分たちのしていることが、周りに
   どんな影響を与えるのか。それが見えていなかったし、見ようともしなかった。
   別れることで、私たちはそれを学んだわ。高い授業料だったけどね」

伊織「ねぇ、律子」

律子「何?」

伊織「私、今、すごく怒ってるわ」

179: 2012/11/18(日) 18:32:25.70 ID:bfBM7mM70
伊織「律子の話を聞く限り、プロデューサーがやよいと付き合うなんて
   あり得ないってことよね?」

律子「……ええ、そう思うわ」

伊織「どうして、止めてくれなかったの?」

律子「止めるって、何を?」

伊織「デートのことよ! 叶わない恋なら、やよいに期待を持たせるようなこと
   しないでよっ!」

律子「伊織、落ち着いて」

伊織「あの水族館だって、以前律子とデートで行ってるんでしょ!?
   わざわざそんな場所教えて、プロデューサーだって辛いじゃない!」

小鳥「落ち着いて、伊織ちゃん」

伊織「……小鳥?」

181: 2012/11/18(日) 18:37:02.63 ID:bfBM7mM70
━水族館━

P「見ろ見ろ、やよい! あっちにエイがいるぞ!」

やよい「わっ、すごいおっきい! シッポも長いなぁ」

P「変な形をしてるし、顔もよく見るとブサイクなんだけど、不思議とかわいいんだよなぁ」

やよい「プロデューサー、ホントに水族館が好きなんですね」

P「ああ。大勢の観客の前で魚たちが優雅に泳ぐ姿って、なんだか
  アイドルのコンサートに似てて好きなんだ」

やよい「動物園じゃダメなんですか?」

P「動物園は765プロで十分だよ」

やよい「それは同感です」

184: 2012/11/18(日) 18:41:38.85
>>P「動物園は765プロで十分だよ」

>>やよい「それは同感です」

ワロタ

188: 2012/11/18(日) 18:59:28.01 ID:bfBM7mM70
やよい「じゃあ、水族館にはよく来るんですか?」

P「いや、久しぶりかな。好きだけど、一人じゃなかなか行かないからな」

やよい「前は、誰ときたんですか?」

P「……知り合いかな。最近は、お互い忙しくてね」

やよい「そうなんですか。大変なんですね」

P「ああ。……一緒にいるって、大変だよ」

189: 2012/11/18(日) 19:02:10.70 ID:bfBM7mM70
━765プロ━

小鳥「ごめんなさいね。気付かなかったみたいだから、途中からお話聞いてたの」

律子「途中からって、いつからですか?」

小鳥「『上唇が紫色になるまで~』のあたりかしら」

伊織「ほとんど全部じゃない!」

律子「まぁまぁ、落ち着いて」

伊織「落ち着いていられないわよ! まだ話だって終わってないんだからねっ」

小鳥「ああ、そのことなんだけどね」

191: 2012/11/18(日) 19:07:40.60 ID:bfBM7mM70
小鳥「律子さんは、別にやよいちゃんやプロデューサーさんにイジワルした
   わけじゃないのよ?」

伊織「……そうかしら?」

律子「もし、やよいにさっきの話をすれば、やよいだって自分の恋が
   叶わない恋だって理解すると思うわ。やよいだってバカじゃないんだし」

伊織「そうよ。変に期待を抱くより、先に教えてあげた方がよっぽどマシよ」

律子「でもね。納得はできないわ」

伊織「納得?」

193: 2012/11/18(日) 19:13:52.51 ID:bfBM7mM70
律子「たとえ叶わない恋だとしても、自分の気持ちを相手に伝えたい。
   伝えて、伝わって、それで断られてはじめて自分の心が納得してくれるのよ」

伊織「そんなこと……」

小鳥「もちろん、人それぞれ考え方はあるわ。伊織ちゃんみたいに、先に相手の
   気持ちを知っておけば、ショックが小さくて済むって考える子もいる」

律子「あるいは、薄々相手の気持ちを分かっていて、あえて恋人未満の距離を
   保ち続けてる子もいるわ」

伊織「……」

194: 2012/11/18(日) 19:18:19.92 ID:bfBM7mM70
律子「でもやよいは、好きな気持ちを抑えたまま一緒にい続けるなんてことはできないわ。
   そういうことができるのは、心の強い子よ」

小鳥「だけどやよいちゃんは、相手にハッキリ断られても、心が壊れずに納得できる。
   律子さんが今言ったのとは、また別の心の強さを持っているわ」

伊織「よく見てるのね」

小鳥「みんなのことはいつもちゃんと見ているわ。あなたたちは、私たち765プロの宝物だもの」

伊織「でも、私は納得いかないわ」

小鳥「えっ?」

196: 2012/11/18(日) 19:23:48.75 ID:bfBM7mM70
伊織「『やよいは心が強いからプロデューサーにハッキリ断られても大丈夫』だなんて
   納得できるわけないって言ってるのよ!」ダダッ

バタン

小鳥「……行っちゃった」

律子「放っておきましょう」

小鳥「いいんですか?」

律子「納得いかないって言われちゃいましたからね。納得いくまでやらせてあげましょう」

197: 2012/11/18(日) 19:28:26.42 ID:bfBM7mM70
伊織「(二人とも何言ってんのよ! やよいのことを一番分かってるのは、私なんだから!)」

伊織「(やよいは確かに芯の強い子よ。だけど、プロデューサーに気持ちを伝えるために
   今までたくさん頑張ってきたのよ! それを知らないで『大丈夫』だなんて軽々しく
   言わないで!)」

伊織「大通りまで出ればタクシーが……きた!」

ブロロロロ……ピタッ

運転手「お客さん、どちらまで?」

伊織「――までお願い。とにかく急いでちょうだい」

伊織「(まだ水族館にいるといいけれど……)」

198: 2012/11/18(日) 19:33:39.96 ID:bfBM7mM70
━水族館━

P「悪い、ちょっとトイレ行ってくるよ」

やよい「はーい」

テクテク

P「(……ここに来るのも、一年ぶりか)」

P「(初めてここにきた時に、律子に告白されたんだよなぁ)」

P「……あのときの過ちを繰り返すな、って思い出させてくれてるのかな」

P「(なんて、考え過ぎか。律子が一枚噛んでるワケじゃあるまいし)」

200: 2012/11/18(日) 19:38:43.81 ID:bfBM7mM70
やよい「……」ポチポチ

タッタッタッ

伊織「やよいっ!」ハァハァ

やよい「伊織ちゃん!? どうしたの?」

伊織「ちょっと話すことがあってね。場所、移動できるかしら?」

やよい「う、うん。プロデューサーには、お手洗いに行ったってメールしとくね」

202: 2012/11/18(日) 19:43:27.14 ID:bfBM7mM70
…………

伊織「このへんなら、静かそうでいいわね」

やよい「うん。シャチのショーが中止になったから、今は人が少ないんだよ」

伊織「何があったの?」

やよい「お姉さんがお砂糖の味だったみたい」

伊織「?」

やよい「それより伊織ちゃん、話ってなに?」

伊織「あ、ああ、そうね」

209: 2012/11/18(日) 19:57:10.95 ID:bfBM7mM70
伊織「えーと、デートの雰囲気はどうかしら?」

やよい「すっごく楽しいよ! 律子さんが言ってたとおり、プロデューサーも
    水族館が好きみたい!」

伊織「そう、それはよかったわ。それで……やよい?」

やよい「うん」

伊織「今日……プロデューサーに告白するの?」

やよい「……うん」

211: 2012/11/18(日) 19:59:37.67 ID:bfBM7mM70
伊織「あのね、やよい。そのことなんだけど」

やよい「大丈夫だよ、伊織ちゃん」

伊織「やよい?」

やよい「私、わかってるから。告白しても、多分ダメだって」

伊織「……やよい」

やよい「まだ初デートだから早いとか、まだ中学生だからとか、そういうことじゃなくて。
    私がアイドルで、プロデューサーがプロデューサーだから、そういうのは
    ダメなんだって」

213: 2012/11/18(日) 20:04:20.06 ID:bfBM7mM70
やよい「でもね。たとえダメでも、伝えたいの。私は、プロデューサーが大好きだって」

伊織「……」

やよい「私が、プロデューサーのことを大好きだってことを分かってもらうだけでいいの。
    私の気持ちが、『プロデューサーに全部知ってもらいたい』って言ってるから」

伊織「そう……」

やよい「自分の気持ちには、正直にならないと、って伊織ちゃんが教えてくれたからねっ」

214: 2012/11/18(日) 20:09:23.91 ID:bfBM7mM70
やよい「あっ、ごめん。伊織ちゃんのお話を遮っちゃって」

伊織「……いいのよ。私も、同じ話をしようと思ってたところだったから」

やよい「そうなの?」

伊織「そうよ。やよいが自分の気持ちを正直に言わずにウジウジしてたら
   『しっかりしなさい!』って喝をいれるつもりだったのよ」

やよい「ふふっ、そうだったんだ」

伊織「ええ。でも、余計な心配だったみたいね。安心したから、私は帰るわね」

やよい「伊織ちゃん」

伊織「なに?」

やよい「ありがとう」

伊織「……私は何もしてないわよ」

やよい「そんなことないよ、ありがとう」

伊織「……帰るわね」

218: 2012/11/18(日) 20:12:33.48 ID:bfBM7mM70
…………

伊織「……」テクテク

小鳥「伊織ちゃん、こっちこっち」

伊織「小鳥?」

律子「私は放っておけばいいって言ったんだけどね。
   小鳥さんがどうしてもって言うから、迎えにきたのよ」

小鳥「いいじゃないですか、打ち合わせも中止になったことだし」

伊織「そう、わざわざ悪いわね」

バタン

221: 2012/11/18(日) 20:15:35.04 ID:bfBM7mM70
ブロロロロ

律子「……」

小鳥「……」

伊織「……ねぇ、二人とも」

律子「んー? すぐ着くから、黙ってゆっくり休んどきなさいな」

小鳥「はい、オレンジジュース」

伊織「あ、ありがと」

223: 2012/11/18(日) 20:18:43.38 ID:bfBM7mM70
チュー

伊織「……これ、甘過ぎない?」

小鳥「あら、そうかしら?」

律子「しょっぱい水が混ざってもいいように、少し甘めにしてあるのよ」

伊織「塩で砂糖は中和できないでしょ……何考えてんのよ」

律子「それそれ。アンタはそういう風に憎まれ口を叩いてる方が似合ってるわよ」

伊織「アンタほんっとにイヤなやつね」

225: 2012/11/18(日) 20:20:57.38 ID:bfBM7mM70
チュー

小鳥「おいしい?」

伊織「……そうね。ちょうどいい味になってきたわ」

小鳥「ふふっ、律子さんの計算通りですね」

律子「まぁ、一流プロデューサーですから」

伊織「そういうのは、自分で言うもんじゃないわよ」

律子「じゃあ、もっとあなたの方から言ってちょうだい。未来のトップアイドルさん?」

伊織「考えとくわ」

律子「OK、それで十分よ」

227: 2012/11/18(日) 20:24:13.92 ID:bfBM7mM70
━翌日・765プロ━

ガチャ

P「おはよう」

亜美「兄ちゃんおはよー」

真美「おはよーん」

P「うぉっ!? どうした二人とも、上唇がブチュチュンパみたいだぞ!?」

亜美「いおりんの仕業だよ」

真美「ありゃ、りっちゃんを超えるイツザイだね」

228: 2012/11/18(日) 20:28:22.98 ID:bfBM7mM70
ガチャ

美希「おはようなのー」

亜美「ミキミキおっはよー」

P「おはよう、美希」

美希「あっ、プロデューサー、今日はスッキリした顔してるね」

P「ああ、美希のおかげだな。相手の気持ちをはぐらかさずに、
  自分の思ってることを正直に言えたよ」

美希「どういたしましてなの」

真美「ミ、ミキミキのおかげで兄ちゃんがスッキリ!?」ガクガク

亜美「亜美たちのシシュンキ警報がスクランブルだYO!」ガクガク

P「落ち着け」

230: 2012/11/18(日) 20:33:54.08 ID:bfBM7mM70
美希「じゃあ今度は、ミキが正直に言うね?」

P「ん、なんだ?」

美希「今日は眠いから、お仕事お休みして一日中寝ていたいの」

P「律子、一つカンタンな仕事を頼みたいんだけど」

律子「上唇を亜美たちと同じようにすればいいんですね?」

美希「すぐ律子の名前を出すのはやめてほしいの!」

律子「律子?」

美希「……さん」

232: 2012/11/18(日) 20:37:58.96 ID:bfBM7mM70
ガチャ

春香「おはようございまーす」

響「おはよー」

小鳥「おはよう、二人とも」

律子「あら響、もうケガは治ったのね」

響「だから甘噛みだって言ったろ? 一日で完全回復さー」

小鳥「そんな響ちゃんに、臨時のお仕事がきてるの」

響「なになに?」

P「水族館のシャチのショーのお姉さんの代役だ」

響「へぇ、なんだか面白そうだな」

小鳥「レッスンスケジュールは調整しておいたから、今日から早速行って欲しいの」

律子「もしかしたら甘噛みされるかもしれないけど、響なら大丈夫よね」

響「わかったさー。じゃ、行ってきまーす!」

234: 2012/11/18(日) 20:42:39.61 ID:bfBM7mM70
春香「プロデューサーさん、私たちもそろそろ出発しましょうよ」

P「ああ、そうだな」

春香「そういえば、今日の撮影場所の近くに、おいしいシュークリーム屋さんを
   見つけたんです。帰りに寄っていきましょう♪」

P「おっ、いいな。みんなにもおみやげ買ってこようか」

亜美「兄ちゃんヨロシクー」

真美「中のカスタード、マシマシでお願いねっ!」

P「シシュンキ警報は自分の体重には反応しないのか?」

真美「ぐ、ぐぬぬ……」

237: 2012/11/18(日) 20:47:49.21 ID:bfBM7mM70
ガチャ

伊織「おはよう」

やよい「おはようございますー!」

美希「デコちゃん、やよい、おはようなの」

伊織「デコちゃん言うな」

P「おはよう、伊織。……おはよう、やよい」

やよい「はいっ! 今日も一日、がんばりましょー!」

P「ああ、今日も頑張ろうな」

春香「プロデューサーさーん、早くー」

P「悪い悪い。それじゃ、行ってきます」

239: 2012/11/18(日) 20:50:15.21 ID:bfBM7mM70
小鳥「ふふっ、あっという間にみんな行っちゃいましたね」

美希「あれ、亜美たちは?」

律子「今、2人ともレッスン場に詰め込んできたわ。美希も早く行きなさい」

美希「はーい」

バタン

律子「さてと、私たちはバラエティの収録ね。今日は特番だから、
   いつも以上に気合入れていくわよー!」

やよい「うっうー! 張り切っていきましょー!」

伊織「私たちのこと、未来のファンのみんなに存分にアピールしてあげるわ」

小鳥「ふふっ、頑張ってね」

242: 2012/11/18(日) 20:53:06.13 ID:bfBM7mM70
律子「それじゃ、少し早いけど、そろそろ出発しましょうか。もう出れる?」

やよい「はい! 伊織ちゃんは?」

伊織「大丈夫よ」

小鳥「今日から一段と寒くなったから、暖かくしていってね」

伊織「わかったわ。……ねぇ、やよい」

やよい「なに?」

伊織「私、やよいのことが大好きよ」

小鳥「まぁ!」

244: 2012/11/18(日) 20:57:39.31 ID:bfBM7mM70
やよい「伊織ちゃん、どうしたの急に?」

伊織「よく分からないわ。でも、自分の気持ちを正直にやよいに伝えたいって、
   そう思っていたら、自然と言葉が出てきたの」

やよい「そっかぁ……ふふっ」

伊織「な、なによ、おかしい?」

やよい「そんなことないよ。……ねぇ、伊織ちゃん」

伊織「なに?」

やよい「私も、伊織ちゃんのことが大好きだよ」

小鳥「なんてステキなの……」

律子「二人とも、小鳥さんが考えているような意味で言ってるわけじゃないですからね」

247: 2012/11/18(日) 20:59:39.75 ID:bfBM7mM70
伊織「……面と向かって言われると、恥ずかしいものなのね」

やよい「なんだか、体がポカポカしてきたねっ」

律子「はいはい。暖かくしたところで、そろそろ行くわよ」

伊織「え、ええ」

律子「できれば今度は、私も仲間に入れてね? 一人だけ風邪引いちゃうわ」

伊織「考えとくわ」

律子「春までに頼むわよ」

やよい「それじゃ、行ってきまーす!」

小鳥「はい、行ってらっしゃい」

248: 2012/11/18(日) 21:03:07.27 ID:bfBM7mM70
…………

ブロロロロ

伊織「ねぇ、やよい」

やよい「うん」

伊織「ありがとね、いつも」

やよい「ふふっ。今日の伊織ちゃん、なんかヘンだね?」

伊織「いいのよ、言いたくなったから言っただけ」

やよい「自分に素直になるって、なんだか気持ちいいよねっ」

伊織「悪くはないわね」

律子「まだまだ素直になり切れてないわねぇ」

伊織「うるさいっ!」



終わり

251: 2012/11/18(日) 21:06:45.46
おついおりん

252: 2012/11/18(日) 21:07:19.29
つまり大人になるってどういうことなんですか?

258: 2012/11/18(日) 21:28:37.68 ID:bfBM7mM70
>>252
いおりんにとっては、今よりも少し素直になることだったり。
やよいにとっては、淡い恋心にケリをつけて前に進むことだったり。
Pにとっては、アイドルたちの夢を叶えるために自分の気持ちを抑えることだったり。
人それぞれの、大人になっていく様子を書いたつもりでした。

引用元: 伊織「大人になるということ」