2: 2013/01/20(日) 01:48:45.15 ID:rGY21Caz0
――城下町、剣士邸


勇者「PTに入らないか?」

剣士「お断りします」

コトッ

勇者「どうして頭の上にコップを置くんだ」

剣士「お断りの儀式です」

勇者「ていっ」ポイッ

パリィン

剣士「あぁっ、僕の大事なコップが……」オロオロ

勇者「わ、悪い。そんなに大事なもんだと思わなくて……」アセアセ

剣士「嘘でーす」ケラケラ

勇者「……」プルプル

5: 2013/01/20(日) 01:49:19.19 ID:rGY21Caz0
勇者「……」プルプル

剣士(おっ、手を出す? 出しちゃう感じですか?)

勇者「……」ハァ

勇者「どうしてもダメか」

剣士(流石に勇者なんて役目を担ってるだけはあるか)

剣士「どうしても入らないとダメですか」

勇者「……どうしてもだ」

剣士「ふむ……」

勇者(おっ、脈あり?)

剣士「お断り☆」

勇者「……」

7: 2013/01/20(日) 01:50:29.49 ID:rGY21Caz0
剣士「他にも魔物狩りを生業としている人は幾らでもいるでしょ」

剣士「けぇーったけぇーった」

勇者「剣士の力が必要なんだっ」

剣士「勇者の力にはなりたくないんだっ」

勇者「……」グヌヌ

剣士(そろそろこの馬鹿の相手も疲れたなぁ)

剣士「勇者のお仲間になるメリットなんて微塵もないんですよねぇ」

勇者「……それは、」

剣士「魔王っていうおっきな親玉がいた頃なら、少しは考えましたけど」

剣士「今はもういないじゃないですかぁ。先代勇者様に八つ裂きにされたじゃないですかぁ」

剣士「それじゃあすっごい報酬なんて望めないし……」

剣士「今の勇者の役目って、主に残党退治なんでしょう?」

剣士「魔王なき今も蔓延る魔物を一匹残らず駆逐せよ――なんて、無理に決まってるのに」

剣士「魔物だって生殖機能はあるんですから。無駄無駄無駄ァなのです」

勇者「……それは、…………」

9: 2013/01/20(日) 01:51:29.06 ID:rGY21Caz0
剣士「勇者なんて名ばかりの雑用ですよ雑用。庶務雑務。ゴミ掃除です」

勇者「そんなことはっ……!」

勇者「……そんなことは」

剣士「王様も、『勇者』なんて枠組み、さっさと無くせばいいのに」

剣士「そう思いませんか?」

勇者「……」

剣士「取りあえず設けてるだけなんですよ、勇者を」

剣士「んで、適当に魔物狩りを任せてる、と」

剣士「そんなもん、ご自慢の兵隊に任せればいいのに。よくわからんですよ、老害の考える事は」

剣士「兵隊じゃなくても、今じゃ、魔物狩りを生業としている人だって大勢いるのに」

勇者「……」

11: 2013/01/20(日) 01:52:51.62 ID:rGY21Caz0
剣士「看板でデカデカと勇者求む――なんて。馬鹿げてますよ。鼻から魔法の聖水が出ますよ」

剣士「そのくせ、最初から先代勇者の息子であるあなたを選ぶ気でいたという話ですから、呆れてものも言えません」

勇者「そうなのか……?」

剣士「あっと、口が滑っちゃいました。今のは内密にお願いしますっ☆」

剣士(既に出回ってる情報だけど)

剣士(この人、ホントに『勇者の息子』ってだけなんだなぁ)

剣士(この程度の情報なら、城下町を散歩してるだけでも耳にするでしょうに)

12: 2013/01/20(日) 01:53:50.70 ID:rGY21Caz0
勇者「……」ガクッ

剣士(あちゃー、ガチ凹みじゃないですかぁ)

剣士(あ、僕のせいでしたね☆)

勇者「……」ガタッ フラフラ

剣士「おー帰ーりでーすかー?」

勇者「……邪魔して悪かったな」フラフラ-

キィ……バタン

剣士「ちょっとやりすぎたかなー」

剣士「……ま、いっか」

剣士(さて。小銭を稼ぎに行きますか)ガタン

14: 2013/01/20(日) 01:55:02.85 ID:rGY21Caz0
――城下町、掲示板前広場

ワイワイ……ガヤガヤ……

剣士「んー」

剣士(スライム狩りからメタルキング狩りまで勢ぞろいですねぇ)

剣士(できれば近場で、それなりに報酬のあるものが望ましい……)ジーッ

剣士(……おっ、なんだこれ)ペラッ

剣士(東の森に住む魔女を退治してください――報酬、1万G)

剣士(おろろろろろろろろろろろろ)

15: 2013/01/20(日) 01:56:12.72 ID:rGY21Caz0
剣士「……」

魔法使い「それ、行くの」

剣士「おわっ、魔っちゃん。いたの」

魔法使い「今来たところ」

剣士「そうなの」

魔法使い「で、行くの」

剣士「釣りっぽいんだよねぇ。大体、魔女って何。だいまどう? ねこまどう?」

魔法使い「魔法を使える人」

剣士「なるほど。魔法で人に悪戯でもされた、と」

魔法使い「引き受けるなら、付いて行く」

剣士「そう? じゃあ受けようかな」

剣士「久々の女の子どうしのPTじゃけんのぉ、ぐへへへ」

魔法使い「ていっ」ゴンッ

剣士「杖は痛いよ魔っちゃん」

16: 2013/01/20(日) 01:57:35.83 ID:rGY21Caz0
――カウンター

剣士「じっちゃーん、これお願い」スッ

爺「おう――って、剣士ちゃん、これに行くのかい?」

剣士「東の森なら然程遠くもないし、まぁいいかなって」

剣士「それに……ぐへへ」ジュルリ

魔法使い「手を出す気、ないくせに」

剣士「……」

剣士「魔っちゃんとピクニックってのも、悪くないからね」

爺「ふぅん。ま、頑張れよ」

爺「……ここだけの話だがよ」ヒソヒソ

爺「この依頼主、どこかのお嬢様らしい」ヒソヒソ

剣士「ええっ、それマジ?」ヒソヒソ

爺「もしかしたらこの依頼、『当たり』かもな」ヒソヒソ

17: 2013/01/20(日) 01:58:38.25 ID:rGY21Caz0
――東の森

剣士「やってきました東の森」

魔法使い「……足、痛い」

剣士「だらしないなぁ。仮にも魔物狩りでしょう?」

魔法使い「本業じゃない」

剣士「かーっ、金持ち貴族の娘さんはいいねぇ」

剣士「ニートでもやっていけるし」

魔法使い「ニートでいいなら、こんなことしてない」

剣士「両親、厳しい人なんだっけ?」

魔法使い「うん」

剣士「でも、魔物狩りをチョイスする辺り、魔っちゃん変わり者だよね」

魔法使い「魔法、使ってみたかった」フフン

剣士「憧れるよねぇ、魔法。カッコイイし

18: 2013/01/20(日) 01:59:35.76 ID:rGY21Caz0
魔法使い「剣士の方が、カッコイイ。剣一つでバッタバッタ薙ぎ倒し」

剣士「いやーそうでもないよぉ。割と筋肉質な体になっちゃうし」

剣士「僕の体、女らしくないよねー」

魔法使い「そんなことない」

剣士「そう?」

剣士「まっ、別にどっちでもいいけどねー……っと」スッ

ヒュン カンッ

魔法使い「……魔物、いた?」

剣士「んにゃ。気のせい――」ヒョイ

ドサッ

勇者「……」ヒクヒク

剣士「――でも、なかったような、そうでもないような」




19: 2013/01/20(日) 02:00:40.01 ID:rGY21Caz0
剣士「勇者さんが、こんなところで何してるんですか」

魔法使い「……この人が、勇者」ジーッ

勇者「い、いきなりナイフを投げるなっ」

剣士「いやぁ、だって、ここ東の森ですよ?」

剣士「魔物の巣窟といっても過言じゃない森ですよ?」

勇者「……そうだな、悪い」

剣士「ナイフが頭上を掠めた程度で腰抜かされても、困るんですよねぇ」

魔法使い「勇者のくせにオクビョウだ」

勇者「お、臆病じゃないやいっ」

剣士「もしかして、魔女ってあなただったりするんですかね」

勇者「はっ?」




20: 2013/01/20(日) 02:02:27.31 ID:rGY21Caz0
勇者「確かに、背後で物音がしたから、咄嗟にメラを使ったけど……」

勇者「今思えば、あれは人だったかもしれない」

剣士「それで勘違いされたんですかねぇ」

魔法使い「……ハズレ?」

剣士「かもねー。まぁハズレでなんぼって感じできたから、然してショックでもないけど」

勇者「俺は男だぞ。魔女と間違えられる訳がない」

剣士「ごもっともですねー」

魔法使い「勇者さんは、ここで何を」

勇者「……魔物相手に、戦闘訓練を」

剣士「ハーッ、最近このあたりの魔物が妙に手ごわいと思ったら、そゆことですか」

勇者「……?」

剣士「あいつらも学習能力はありますんでね。あなたとの戦闘で少しばかり賢くなった訳です」

勇者「えっ、そうなのか!?」

21: 2013/01/20(日) 02:03:33.14 ID:rGY21Caz0
剣士「他の魔物があなたの戦闘を見ていたんでしょう」

剣士「一回見ただけじゃあ分かりません。でも何回も見たら誰にでも、それなりに分かってきますよ」

勇者「……最近は、ここに通い詰めてた」

勇者「すぐに殺さないように、あえて木刀を使っていたりもしたな」

魔法使い「バカ勇者」

勇者「バカっていうな!」

魔法使い「アホ勇者」

勇者「……」

剣士「そこは否定しないんですか」

勇者「……色々、知らないことばかりだ」

勇者「魔物が学習するなんて知らなかったし、勇者の役割だって……」ガクッ

魔法使い「勇者、やめたらいいのに」

勇者「……それも、いいかもな」

剣士「先代勇者が貰った報酬で十分、いや、十二分に暮らしていけるでしょう?」

魔法使い「なにせ、巨万の富

22: 2013/01/20(日) 02:04:39.13 ID:rGY21Caz0
勇者「性に合わなかったんだ」

勇者「寝て起きて飯食って寝る。そんな怠惰な生活に身を沈めた事もあった」

勇者「でも、つまんねーんだよ。そんなのくだらねぇんだよ」

勇者「何の変化もない一日は、俺には退屈すぎる……」

剣士「なんとまぁ贅沢なお人」

魔法使い「立場、変わって」

勇者「贅沢だなんだといわれても、しょうがないだろ」

勇者「未だ飢餓で苦しんでる人がいようと、所詮は人事。つまんねーもんはつまんねーんだ」

剣士「屑ですね」

魔法使い「塵ですね」

勇者「そういう罵倒はもう慣れた」

剣士「冗談ですよ、冗談」

23: 2013/01/20(日) 02:06:05.06 ID:rGY21Caz0
剣士「……だから、勇者なんですか」

勇者「別に勇者じゃなくてもよかった」

勇者「でも、俺はそんなに頭が良くない」

剣士「分かってます」

勇者「……」プルプル

魔法使い「剣士のことは気にせず、続けて」

勇者「親父の息子だけあって、俺にもそれなりに剣、魔法の才能はあった」

勇者「大体の魔法は会得したし、剣技もそれなりに自信がある」

魔法使い「兵士にでも、なればよかったのに」

勇者「……」フルフル

勇者「そんな 兵士に なる なんて もったいない !」

勇者「……そんなことを言われたよ」

24: 2013/01/20(日) 02:07:16.07 ID:rGY21Caz0
剣士「勇者の息子を兵士にするのはなかなか勇気がいることでしょうね」

魔法使い「きっと、兵士との間はギクシャクするだろう」

勇者「どうして?」

剣士「『どうせ王様のコネで入ったんだろう?』」

魔法使い「『勇者様の息子が同僚とか、勘弁してくれよ』」

剣士「『あいつと比べられながら生きていくなんてゴメンだぜ』」

魔法使い「こんな感じ」

勇者「……だから入隊試験落ちたのか」ガクッ

剣士「それで、たらいまわしにされた末が」

勇者「……そう。今の俺だ」

25: 2013/01/20(日) 02:08:55.04 ID:rGY21Caz0
勇者「まぁ勇者をして金はもらえるし、もらえなくても金はあるから別に良い」

勇者「……でも、それが出来レースだったって剣士から聞いた時は、それなりにショックだった」

剣士「今更ですけど、魔物狩りだったら誰でも出来ますよ」

魔法使い「腕っ節の強い、勇者さん向け」

勇者「えっ、マジ!?」

剣士「でも、もう勇者でしょう?」

勇者「……だよな」ガクッ

魔法使い「仕事があれば、なんでもいい?」

勇者「仕事、というよりはやる事かな。誰かに必要とされるような事がやりたい」

勇者「……剣士が言うには、勇者は必要な役割じゃあないらしいし」

剣士「必要ですよ。主に王様にとって」

魔法使い「都合の良い駒」

剣士「『仕方ない、それなら勇者にやらせよう』」

剣士「そんな立ち位置です」

勇者「……そう、なの?」

26: 2013/01/20(日) 02:10:04.44 ID:rGY21Caz0
剣士「実際、仕事は魔物退治だけじゃなかったでしょう?」

勇者「……封書の配達、剣技の稽古、宝庫の掃除、庭の手入れ等々」

魔法使い「うわぁ」

勇者「あぁ、雑用だ……今更ながらこれは雑用だぁ……」ハァ

剣士「スーパー雑務ですね」

勇者「ちっとも嬉しくないっ」

魔法使い「お風呂掃除から魔物退治まで」

剣士「勇者にお任せっ☆」

勇者「……笑えねぇ」

剣士「笑う角には魔物来りますよ」

勇者「なにそれリアル」

魔法使い「油断してはならない」

剣士「どこに潜んでるか分かりませんからねぇ……っと」スッ

ヒュン ザクッ

ドラキー「きゅぅう……」バタリ

27: 2013/01/20(日) 02:11:31.19 ID:rGY21Caz0
勇者「今更ながら、剣士の癖にナイフを使うというのはどうなんだ」

剣士「使える武器は何でも使いますよぉ僕は」ヒョイ

剣士「斧でも槍でも鎌でも棍棒でも、気分で使いまわします」

剣士「メインは剣とナイフですが」

魔法使い「マルチウェポンという痛い通り名まである」

剣士「誰が付けたんだか……恥ずかしい」

勇者「えっ、結構カッコイイと思うんだけど」

剣士「えっ」

魔法使い「えっ」

勇者「えっ」

勇者「その名を聞いたってこともあって、PTに誘いにいったんだ」

28: 2013/01/20(日) 02:12:56.01 ID:rGY21Caz0
魔法使い「?」
剣士「あぁ。広場で依頼を受ける前、勇者さんがPTの勧誘にきてね」

剣士「断ったけど」チラッ

勇者「も、もう誘う気はないぞっ」アセアセ

魔法使い「どうしてPTの勧誘を」

剣士「魔物退治の仲間が欲しかったんでしょう?」

勇者「……」

剣士「えっ、違うんですか?」

勇者「……――」

剣士「聞こえませんでした。もっかいオナシャス」

勇者「……だちが」

魔法使い「ボリュームがこい」

勇者「友達が欲しかったんでしゅ!」

剣士「噛みましたね」

魔法使い「噛み噛み勇者さん」

勇者「……///」

29: 2013/01/20(日) 02:14:41.76 ID:rGY21Caz0
剣士「友達ですか。僕、女ですよ。そういうの普通、同性の方に頼みませんか」

魔法使い(そもそも、頼んでなれるものじゃないけど)

勇者「とっくに頼んださ。でもな」

勇者「そんな 勇者様と 友達に なる なんて 恐れ多い !」

剣士「あぁ、はい」

魔法使い「分かりやすい」

勇者「だから、魔物退治の仲間と称して友達になってもらおうと……」

剣士「その相手がたまたま僕だった、と」

勇者「たまたまじゃあないぞっ」

勇者「ウワサはよく聞いてた。すっごい腕の魔物狩りがいるって」

剣士「すごくはないですよぉ」

魔法使い「謙遜乙」

勇者「マルチウェポンっていう名前も聞いた。あと……人当たりが良くて口リ可愛い美少女剣士、とも」

30: 2013/01/20(日) 02:15:59.49 ID:rGY21Caz0
剣士「……そんなウワサが」

剣士(そんなどうでもいい情報は拾えて、どうして他の情報は拾えないんだろう)

魔法使い「ベッドに寝転がりながらくんせいにく頬張る口リかわ女剣士」

剣士「人のぷらいべぇとを暴露でぃすかぁ?」ゴンゴン

魔法使い「ぅぅううう……」ジーン

魔法使い「野外は、人を開放的にする……」

剣士「プライバシーまで開放する必要はなし」フン

勇者「……とにかく、そんなウワサをきいていたから」

勇者「人当たりがいいのなら、俺とも友達になってくれるかな、と……」

剣士「……大体ぼっち勇者って、そんな、縛りプレイじゃないんですから」

魔法使い「一人くらいはいるはず」

勇者「あはは、は、は……」

勇者「……」ガクリ

剣士(あっ、これガチな奴)

魔法使い(ガチな方だ)

32: 2013/01/20(日) 02:17:32.28 ID:rGY21Caz0
剣士「仮初めのお友達ならいいですよ」

魔法使い「その実」

剣士「裏切り者」

勇者「裏切られるのかよっ」

剣士「というか、ですね」

剣士「『友達になろう』」

魔法使い「『はいっ』」

剣士「これで友達とみなすなら幾らでもどうぞって感じなんですよ」

勇者「……そんなの、友達じゃない」

剣士「そうでしょう」

魔法使い「ともだち、ムツカシイネ」

33: 2013/01/20(日) 02:18:14.03 ID:rGY21Caz0
剣士「どうしてそこまで友達が欲しいんです?」

勇者「……みんな、勇者の息子だからって特別視するから」

勇者「俺だって、親父の息子――勇者の息子である前に一人の人間なんだぜ?」

勇者「対等に扱ってもらえないことに、苛立ちと……寂しさを覚える日もある」

勇者「!」

勇者「――バギマっ!」

ヒュウウウ……ザシュ ザシュ スパン

おおきづち「ぐごご……」バタリ

35: 2013/01/20(日) 02:19:13.83 ID:rGY21Caz0
魔法使い「おお、詠唱破棄」

剣士「流石は勇者サマですねぇ」

勇者「魔法使いには出来ないのか?」

魔法使い「できないことはない」

剣士「魔力を無駄に消費するからイヤなんですって」

勇者「えっ、そうなのか!?」

魔法使い「詠唱破棄は、いわばごり押し」

剣士「踏むべき手順を力で押し通すってことらしいですよ」

剣士「この場合は魔力で押し通すって訳ですね」

魔法使い「燃費悪い」

勇者「そうだったのか……通りで疲れやすい訳だ……」

36: 2013/01/20(日) 02:20:12.93 ID:rGY21Caz0
勇者「話が逸れたな。戻そう」

剣士「まだ続けるんですか」

魔法使い「しつこい男は、嫌われる」

勇者「……うぅっ」ガクッ

剣士「魔っちゃん、ストレートすぎるよ」

魔法使い「ねちっこい男は、煙たがれる」

勇者「それ言ってる事同じじゃねぇか!」

魔法使い「驚いた」

剣士「意味、分かったんですねぇ」

勇者「そこまでアホじゃないよ……」

38: 2013/01/20(日) 02:21:07.97 ID:rGY21Caz0
剣士「というかですねー」

勇者「……?」

剣士「こういう風に言い合えてるってことは、僕らは割と対等だと思うんですよ」

勇者「……言われてみれば、そうかも」

剣士「くだらない雑談に花咲かせるのって、なかなか友達らしいことだと思いませんか?」

勇者「おおっ、確かに!」

勇者「……つまり、何が言いたいんだ」キョトン

魔法使い「低能勇者」

勇者「てい、のう……?」

剣士「知能の低いお方という意味です」

勇者「低能じゃねーし! ちょっと熟語に弱いだけだし!」

剣士「……」

魔法使い「……」

勇者「反応しろよ! 何か言ってください!!」

39: 2013/01/20(日) 02:22:34.63 ID:rGY21Caz0
剣士「……何が言いたいのかというとですね」

魔法使い「わたしたちは、もう友達――」

勇者「なんと……」ウルウル

魔法使い「――友達未満、知り合い以上」

勇者「俺の気持ちを上げ下げして楽しいかよっ」

剣士「楽しい!」

魔法使い「最高」

勇者「クソッ、最低だこいつら」

?「うっせぇえええええええええええええええ」

剣士「?」チラッ

魔法使い「?」チラッ

勇者「っ!?」ビクゥ

40: 2013/01/20(日) 02:24:06.92 ID:rGY21Caz0
?「森の中でラブラブすんじゃねぇよ。頃すぞ」

剣士「……」

魔法使い「……」

勇者「……」

?「あぁ? だんまりかよ。返事しろよオラァ――バギクロス!」

ゴォオオオオ……

剣士「おお、またもや詠唱破棄」

勇者「関心してる場合か!?」

剣士「魔っちゃん、オナシャス」

魔法使い「マホカンタ」ピキーン

?「えっ――ちょっ、うわあああああああ!?」ダッ

ゴォオオオ……

?「ぎゃっ」

ザク ザク ザク……

?「ふえぇええ……」ピクピク

41: 2013/01/20(日) 02:26:02.63 ID:rGY21Caz0
剣士「あらー、ローブがところどころ切り裂かれて、淫らな姿になってしまいましたね」

魔法使い「……魔女?」

剣士「にしては、随分と幼い容姿ですこと。子供の女の子じゃない」

剣士(うわっ、胸でかっ)

魔法使い(メロンが二つ)

勇者「みてない、みてないぞぉ俺はぁ!」チラッ チラッ

魔法使い「変態艦隊ド変態」

?「くっそぉお……あっ」

?「こっちみんなっ――メラゾーマ///」

勇者「みてない、みてない――えっ」

ボンッ ゴォオオオオオ……

勇者?「……」ピクピク

剣士(照れ隠しにメラゾーマって)

魔法使い「勇者さん、燃え尽きた」

42: 2013/01/20(日) 02:27:53.13 ID:rGY21Caz0
勇者「ぬぁんのこれしきぃ……」ムクッ

?「メラゾーマ」

勇者「二度目はないっ」ダッ

賢者(避けられた!?)

剣士「まぁ、威力はあっても、範囲攻撃呪文じゃありませんからねぇ」

魔法使い「勇者さんなら、避けるのは容易い」

勇者「大人しくするんだな」チャキッ

剣士「うわっ、幼女に剣を向けるなんて」

魔法使い「外道勇者」

勇者「うるせぇ、こっちは氏にかけたんだぞっ」

勇者(頃す気だってないしっ)

44: 2013/01/20(日) 02:29:15.20 ID:rGY21Caz0
?「……うっ」

勇者「?」

?「うわぁあああん…」

勇者「えっ、あっ、あーーっ、泣くな、泣かないでくださいおねがいしまひゅっ」

剣士「こんな時にまで噛みますか」

魔法使い「はひはひふうは」

勇者「それ、ただの舌足らずじゃねぇか! みてないで助けてくれよ!」




45: 2013/01/20(日) 02:30:49.93 ID:rGY21Caz0
?「ぐすん」

剣士「泣き止んでくれたようです」

魔法使い「ほっと一息」フゥ

勇者「剣向けてすんませんした」ペコリ

?「……ゆるす」

剣士「……で? あなた、お名前は?」

賢者「賢者」

剣士「賢者さまは、ここで何をしてらしたのです?」

賢者「その口調やめろ」

剣士「やだなぁ、冗談ですよ」

魔法使い「ここで、何を?」

賢者「ここで何を何も、おれの家の庭だ」


46: 2013/01/20(日) 02:32:15.89 ID:rGY21Caz0
勇者「……はっ?」

賢者「お前は喋るな、このろりこん男」

勇者「……」プルプル

剣士「自業自得ですよ」

魔法使い「イヤらしい目」

勇者「そんな……そこに胸があったから」

賢者「……」ギロッ

勇者「すみませんでした」ペコリ

剣士「この森に賢者さんの家がある、と?」

賢者「さん付けもいらない……そゆこと」

魔法使い「魔法の腕、すごかった」

賢者「そうなの?」

剣士「その年で詠唱破棄が出来るなんてすごいよね~」

賢者「そうでもあるぞっ」フフン

47: 2013/01/20(日) 02:33:42.44 ID:rGY21Caz0
勇者「……で、その賢者が件の魔女なのか?」

賢者「……」

勇者「露骨に嫌そうな顔しないで……」ショボーン

剣士「僕たちは、依頼を受けてやってきたんだよ」

魔法使い「東の森に住む魔女を、退治しろ」

賢者「それが、おれ?」

剣士「さぁ。わかんない」

剣士「容姿に関する詳しい情報もないし、やっぱりガセネタだったのかなぁ」

賢者「……その依頼主って、誰だかわかる?」

魔法使い「どこかの、お嬢様」

剣士「っていう話を聞いたけど、ホントかどうか……」

賢者「……」

勇者「……賢者?」

48: 2013/01/20(日) 02:35:15.10 ID:rGY21Caz0
賢者「……」ハッ

賢者「さ、さぁー、ここには結構居るけど、魔女なんてシラナイナー」

剣士(うわぁ、バカっぽい)

魔法使い(アホ幼女、ありです)

勇者「知らないらしいぞ」サラッ

剣士(あぁ、こっちは本物だ)

魔法使い(えふらん勇者)

勇者「?」

剣士「僕らは別に、この依頼を遂行しなきゃいけない理由もないんだよねぇ」

剣士「ま、1万Gは欲しいけどさ」

魔法使い「守銭奴剣士」

剣士「お金、大事」

剣士「でも、成功失敗に関わらず、報告はしとかないとね。一応引き受けた訳だし」

賢者「……」

49: 2013/01/20(日) 02:36:16.13 ID:rGY21Caz0
剣士「東の森には魔法を使える女の子がいたってことくらいは言っておかないと」チラッ

魔法使い「……」チラッ

魔法使い「ここでのことは、全部報告する」

賢者「……それは、困る」

剣士「どうして?」

賢者「ここに住んでいる事を、人に知られたくない」

賢者「……おれがここにいるってことは、他の奴等に知られたくない」

勇者「あー、分かる。ひっそりと暮らしていたいよなぁ」

剣士「何か訳ありみたいだねぇ」

賢者「……」コクリ

勇者(あれ、俺スルーされた? ……違うよね?)

魔法使い(――みたいなこと、思ってそう)

50: 2013/01/20(日) 02:37:50.70 ID:rGY21Caz0
剣士「そういうことなら黙っておいてもいいんだけど」

魔法使い「条件、提示」

賢者「……おれみたいな子どもに、なにを要求するつもりだ」

剣士「お家に遊びに行きたいなっ☆」

魔法使い「いきたーい」

勇者「……いきたーい」

賢者「……」

勇者「だから、露骨に嫌そうな顔すんなよっ。結構傷つくんだぞ!」

剣士「勇者さんも来るんですか?」

魔法使い「なぜに」

勇者「だって、独りで訓練するのはもう飽きたし……」

剣士「……まぁいいでしょう」

魔法使い「貸し一つ」

賢者「お邪魔すること前提で話を進めるなよ三馬鹿PT」

51: 2013/01/20(日) 02:39:21.63 ID:rGY21Caz0
剣士「三馬鹿PTとは失礼な」

魔法使い「勇者さんは、メンバーじゃない」

剣士「バカなのも勇者さんだけです」

勇者「……もう、なんとでもいえ」

魔法使い「ツッコミを放棄とは」

剣士「何のためにバカになったんですか」

勇者「何の為でもないよ!」

賢者「……楽しそう」ボソッ

剣士「えっ?」

賢者「ゴホン――まぁいい。それで黙っていてもらえるなら……いいだろう」

魔法使い「やたー」

勇者「うぇーい」

52: 2013/01/20(日) 02:41:37.45 ID:rGY21Caz0
――東の森、深奥部、賢者邸


剣士「小さいですねぇ」

賢者「4人も入ればな」

魔法使い「ベッドふかふかー」

勇者「ふかふk――ぶほぉ!?」ガンッ

勇者「どうして俺だけ……」

賢者「女の子のベッドに寝転がるなんて、何考えてんだ」

剣士「うちの変態がとんだご迷惑をおかけしました」

勇者「じゃねーし!」

勇者「大体、男は女の子のベッドに寝転がったらいけないって決まりがあるのか?」

賢者「……」

剣士「……」

53: 2013/01/20(日) 02:42:39.42 ID:rGY21Caz0
魔法使い「ぼっち勇者さんだから、仕方ない」

剣士「人と遊ぶ機会がなかったら、そういうことを知らなくても無理はありませんねぇ」

賢者「……遊ぶ機会がないって、友達いないの?」

勇者「うわぁあん、みんなが人の傷口に塩を塗りこむよぉおお」

剣士「塩なんて勿体無い」

魔法使い「塩は高い」

賢者「うまのふんで十分だな」

勇者「おい、なんかの病気に感染したらどうすんだっ!」

剣士「それはさておき、こんなところで、食事はどうしてるの」

勇者(これはスルー。完全にスルーな奴っ)

賢者「そこらへんにいる魔物を食ってる」

剣士「えっ、魔物を食べるの?」

54: 2013/01/20(日) 02:44:19.03 ID:rGY21Caz0
魔法使い「魔物の肉は、人間には有害」

賢者「一部の魔物は多少の毒を含んでいるってだけだ」

賢者「そんなの、いもだってもってる」

剣士「あれは発芽したものだけで……」

賢者「だったら発芽させなければいい」

賢者「要は毒がなけりゃ、ただの肉だ」

魔法使い「どうやって、毒を取り除く?」

勇者「えっ? 焼けばどうにでもなるんじゃないの?」

賢者「……まぁ、それも一つの方法だ」

賢者「塩漬けにしたり、数日煮込んだり」

賢者「毒を生成するような危ない部位だけ切り取ったりな」

賢者「そもそも、大体の魔物は大して有害じゃない」

55: 2013/01/20(日) 02:46:16.93 ID:rGY21Caz0
剣士「へぇ……」

魔法使い「知らなかった」

賢者「ま、大抵の魔物はあまり美味くないけどな」

勇者「うんうん。たまに食べる牛肉がすげー美味く感じるんだよなぁ」

賢者「あぁ、あれはやばい」

勇者「でも、無性にオークの肉を食いたくなる時がある」

賢者「あるある」

勇者「だよなー。魔物肉はなかなか癖のある味だ」

賢者「ドラゴンの肉なんて、もう最高だね」

勇者「そうかぁ? 俺はオークの肉が一番好きだ」

剣士「……変なところで意気投合しちゃって」

魔法使い「魔物肉に興味が湧いた」

56: 2013/01/20(日) 02:47:40.24 ID:rGY21Caz0
賢者「だったら、食ってみる?」

賢者「ちょうど、ドラゴンの肉がある。焼いて食べよう」

剣士「いいの? 大事な食糧なんじゃ……」

賢者「口止め料とでも思ってくれ」

剣士「あっ、はい」





剣士「ハフハフ……うまっ、ドラゴンうまっ」モグモグ

魔法使い「底辺乙」

剣士「そんなこといってぇ、魔っちゃんだってそう思うっしょ?」

魔法使い「ハフハフ……ドラゴン肉、んまー」モグモグ

賢者「だろぉ? 世の中も認識を改めるべきだ」

勇者「そしたら、食糧難もそれなりに解消するだろうにな……んまんま」ムシャムシャ

57: 2013/01/20(日) 02:49:05.72 ID:rGY21Caz0
剣士「一種の固定概念みたいなもんですかね」

剣士「多分、お二人さん以外に魔物肉を食べてる人なんていないと思う」

賢者「そりゃありがたい」

勇者「俺らの食料が減らなくてすむ」

剣士「食糧難云々言っといて、どっちやねーん」ビシィ

魔法使い「みんなが食べるようになったら、絶滅」

剣士「寧ろ、魔物を飼うようになっちゃったりしてね」

剣士「ほら、魔物って劣悪な環境でも育つし」

勇者「下手な家畜よりよっぽど長生きするな」

賢者「凶暴である点がネックだけど」

剣士「ですよねー」

59: 2013/01/20(日) 02:51:30.81 ID:rGY21Caz0
勇者「……」

魔法使い「神妙な面」

剣士「どうしたんです?」

勇者「いや……」

勇者(アレ? 俺って今うらやまけしからん状況なんじゃないか?)チラッ

60: 2013/01/20(日) 02:53:06.83 ID:rGY21Caz0
剣士「?」

勇者(口リかわ美少女のウワサに違わぬ可愛い僕っ子女剣士)チラッ

魔法使い「……?」モグモグ

勇者(口数が少なめのクール? 系女魔法使い)チラッ

賢者「……」モグモグ

勇者(極めつけはおれっ子幼女っ)カッ

剣士(あー、なんかイヤらしい目してる)

魔法使い(視姦勇者)

勇者(……まぁ、俺なんかに興味も、一握りの好意すらねぇよな)ハァ

賢者「どうした、溜息なんか吐いて」

勇者「いや……世知辛い世の中だなって思って」

賢者「?」

魔法使い「んまー」

剣士「んまーって、それ僕のじゃん!」

61: 2013/01/20(日) 02:54:41.58 ID:rGY21Caz0




剣士「いやー、美味しかったぁ」

魔法使い「一杯満足」

勇者「ドラゴンなんて久々に食ったぜ」ゲフゥ

賢者「そりゃあよかった」

賢者「……分かってるよな?」

剣士「あぁ、分かってますよ。僕らは言いませんから」

魔法使い「他言、無用」

賢者「それならいいんだ」

賢者「あと、その……あの、だな」

63: 2013/01/20(日) 02:56:02.88 ID:rGY21Caz0
勇者「もったいぶらずにさっさと言えよ」

賢者「……」ギロリ

勇者「私、待ちます。いつまでも待ちます」

賢者「……その、だな。たまには遊びにきても、いいんだぞ」

剣士「……」

魔法使い「……」

賢者「……」

剣士「なら、遠慮なく」

魔法使い「また来る」

賢者「……!」パァァ

64: 2013/01/20(日) 02:57:28.40 ID:rGY21Caz0
勇者「俺も俺も」

賢者「……」

勇者「このネタ何回目だよっ!」

賢者「冗談だ。みんな、ぜひ遊びにきてくれ」ニコッ

剣士「うんっ」

魔法使い「承り」

勇者「おうともさ

66: 2013/01/20(日) 02:58:58.55 ID:rGY21Caz0
――城下町、掲示板前広場、カウンター


爺「おう、剣士ちゃんに魔法ちゃん。……それと」

爺「げぇ、勇者様!」

勇者「……」ショボーン

剣士「じっちゃん、あまりこの人をいじめちゃダメだよ」

剣士(僕も最初はいじめてたけど)

魔法使い「豆腐メンタル」

爺「……どーいうことだよ、これは」ヒソヒソ

剣士「じっちゃんが思ってるような人じゃないってことだよ」ヒソヒソ

魔法使い「この人に、人のクビを刎ねる度胸はない」ヒソヒソ

勇者「おい、クビを刎ねるとか聞こえたぞ」

67: 2013/01/20(日) 03:00:14.88 ID:rGY21Caz0
剣士「……どうやら勇者さんは、一部の人からはキレたら何をするか分からない、と思われてるようですよ」

勇者「えっ……えっ」

魔法使い「先代勇者の息子」

剣士「息子だから、魔王を倒した規格外の力を持ってる、と。だから、下手に機嫌を損ねたくないようです」

勇者「そんな……キレたら人頃しでもやりかねないって事か?」

剣士「そこまではいきませんけど、まぁ、魔王以上の力を持ってる人なんて手に負えませんからね」

剣士「できれば、関わりたくはないでしょう」

勇者「俺にそんな大層な力なんてないぞっ」

剣士「それは何となく分かります」

魔法使い「ぼっち系ヘタレ勇者」

勇者「おいおい、二人は友達なんだろ? ぼっちは卒業したぞ」

剣士「友達未満知り合い以上といったんですよ」

魔法使い「弁えろ」

勇者「魔法使いが今まで以上に辛辣っ……」

68: 2013/01/20(日) 03:02:10.34 ID:rGY21Caz0
爺「……お前らのやり取りを見てる限り、それはとんだ杞憂だったようだな」

爺「悪かった、この通りだ」ペコリ

勇者「いやいや、頭を下げなくても……」

勇者「これから普通に接してもらえたら、それだけでもう……うぅ」ウルウル

剣士「泣かないでくださいよ、私たちが変な目で見られます」

勇者「悪い……ぐすっ」

爺「……で? 魔女退治はどうだった」

剣士「……じゃ、勇者さんお願いします」

魔法使い「お願い」

勇者「はっ?」

剣士「ほら、一応約束は守らないといけませんし」

魔法使い「私たちは、何も喋らない」

69: 2013/01/20(日) 03:03:51.71 ID:rGY21Caz0
勇者「……あぁ、はい」

勇者(『僕らは言いませんから』ってのはそういうことか)

勇者(依頼を受けた僕らって意味ね)

勇者「最初からこうするつもりだったのか……ずる賢い奴」

剣士「お金は欲しいですからっ」

爺「? 結局、魔女はいたのか?」

勇者「いましたよ」

爺「おお、やっぱ当たりだったか」

爺「退治したのか?」

勇者「まぁ、退治した……のかな?」

勇者(主に魔法使いが)

爺「退治した証をみせてくれ」

剣士「……それがぁ」スッ

爺「……布切れ?」

勇者「魔女が纏っていたローブの一部だ」

71: 2013/01/20(日) 03:07:03.27 ID:rGY21Caz0
爺「うーん、これだけじゃあな……」

剣士「じゃあ、依頼主さんに直接確認してみようよ」

爺「……その件を話そうと思ってたんだ」

剣士「?」

爺「さっき分かった事なんだが……どうやらこの依頼、正規のものじゃあないらしい」

魔法使い「無断で、掲示板に貼った?」

爺「そうみたいだな」

剣士「ええっ……じゃあ1万Gは?」

爺「ない」

剣士「……ちぇー」

魔法使い「『当たりだったか』なんて、思わせぶりな」

爺「いやぁ、口がそのまま滑ってな……でも、本当に魔女がいるとはなぁ」

72: 2013/01/20(日) 03:08:58.08 ID:rGY21Caz0
勇者「あの、その事は他言無用でお願いします」

爺「?」

勇者「人に危害は加えないでしょうし」

勇者(出会って3秒でバギクロス唱えられたけど)

勇者「何より……約束ですから」

爺「危険がないのなら、注意を喚起する必要もないな」

爺「いいだろう」

勇者「ありがとうございます」ペコリ

剣士(へぇ。義理堅い人だなー)

魔法使い(好感度あっぷ)

73: 2013/01/20(日) 03:10:22.62 ID:rGY21Caz0
剣士「しっかし、誰が貼ったんだろうねぇ」

爺「依頼書を貼るのは俺ら受付って決まってるんだがな」

勇者「そういえば、深夜に散歩してた時に」

剣士「深夜徘徊ですか」

魔法使い「怪しい」

爺「そういう怪しまれるようなことしてるのも、敬遠される理由だと思うぞ」

勇者「うっ……」

勇者「まぁいいんです。そこは置いといて」

勇者「あの掲示板前に小さな子どもがいた、と思う」

剣士「子どもねぇ」

爺「それで?」

勇者「なにやら背伸びして何かを……今思えば、あれは依頼書を貼ろうとしてたんじゃないかな」

魔法使い「幼女を観察」

勇者「変な言い方やめろ……女かなんてわかんねーよ。なにせ、ロー……」

74: 2013/01/20(日) 03:12:00.74 ID:rGY21Caz0
勇者(……ローブ。そうだ。確か、ローブを纏っていなかったか?)

剣士「どうしました?」

勇者「いや……もしかしたら、分かったかも」

爺「分かったんなら、そのガキにきつくお仕置きしておいてくれよ。勝手に貼られたらこっちの手間が増えるんだ」

勇者「あ、はい……もし合ってたら、の話ですけど」

ジイサーン オナシャス-

爺「あいよー」

爺「じゃ、またな」

剣士「またねー」

魔法使い「ばいびー」

77: 2013/01/20(日) 03:14:51.33 ID:rGY21Caz0
剣士「……で? 正体は誰なんです。まぁ、大よそ察しはつきますが」

剣士(どうして、そんな危ない真似をしたのかは分かりませんけど)

剣士「……あぁ、賢ちゃんですか」

勇者「賢ちゃんって……まぁそうだ。多分」

勇者「じゃ、早速賢者の家へ――」

剣士「いってらっしゃい」

魔法使い「さようなら」

78: 2013/01/20(日) 03:16:19.57 ID:rGY21Caz0
勇者「一緒にいってくれないの!?」

剣士「疲れました」

魔法使い「くたびれた」

勇者「あの程度の距離を歩いただけでか」

剣士「……あぁ、曲がりなりにも先代勇者の息子なんですね」

魔法使い「体力バカ」

勇者「そうなのかな……やっぱ、他の人と違うのかな」

剣士「性別の問題もあるのかもしれませんね」

勇者「性別で体力に差がつくのかっ」

剣士「言ってみただけです」

剣士「行くとしたら明日です」

魔法使い「眠い」

79: 2013/01/20(日) 03:17:25.34 ID:rGY21Caz0
勇者「明日なら、一緒にいってくれるんだな!」

剣士「……と、いうかですね」

剣士「勇者さんが行く必要あるんですか?」

魔法使い「私たちの依頼」

勇者「……乗りかかった船、というか」

勇者「……」

勇者「二人と一緒にどこかへ行ってみたい、というか……///」

剣士「男のデレなんて要りませんよ」

魔法使い「いらぬぅ」

勇者「デレじゃねーよ!」

剣士「まぁ、いいでしょう。足手まといになる心配もありませんし」

剣士「それに、賢ちゃんとの約束でもありますからね」

魔法使い「3人で遊びに行く」

勇者「お、おう! 行こう行こう!」

80: 2013/01/20(日) 03:18:54.26 ID:rGY21Caz0
――次の日、昼、剣士邸


キィイ……

勇者「おーい剣士ー。いるかー」

剣士「……」

勇者「……」

勇者(うわぁ、マジでベッドに寝転がりながらくんせいにく食ってら)

剣士「乙女の部屋にノックもなしですか?」ピキピキ

剣士「それに、鍵が掛かってたと思うんですけどっ」

勇者「あぁ、それはアバカムで、ちょちょいと」

81: 2013/01/20(日) 03:19:56.13 ID:rGY21Caz0
剣士「いいですか? 普通、人の家に入る時には家主の了承を得るんですよ」

勇者「えっ、そうなんだ……」

勇者「親父の日記には、勝手に入って物を物色して持ち去ってるような事が書いてあったけど」

剣士「そんなもん嘘に決まってるでしょー!!」

ヒュン ガッ

勇者「あぶなっ、いきなりナイフを投げるなって……!」

ヒュン ヒュン ヒュン

勇者「わかった、わかったでていくからぁあああああ」

ダッダッダッ……

剣士「あああぁあぁあ……魔っちゃん以外の人に見られたぁ……」ガクッ

82: 2013/01/20(日) 03:20:57.54 ID:rGY21Caz0
――掲示板前広場

スタスタスタ……

剣士「おっ、魔っちゃん」

魔法使い「剣士……と、勇者さん」

勇者「よし、早速東の森へ」スッ

剣士「落ち着いてくださいよ」グイッ

勇者「ぐえへっ」

勇者「首根っこを掴むな……げほっげほっ」

83: 2013/01/20(日) 03:21:59.91 ID:rGY21Caz0
剣士「賢ちゃんのローブを一着ダメにしてしまいましたからね」

剣士「何か代わりのものを買っていきましょう」

魔法使い「それがいい」

勇者「……そうか。そうだな」

勇者(あれは工口かったなぁ)グヘヘ

剣士「……」ジトーッ

魔法使い「……」ジトーッ

勇者「そんなことより買いに行こうぜっ」アセアセ

剣士「そうですね」

85: 2013/01/20(日) 03:23:40.93 ID:rGY21Caz0
――防具屋


店員「おう、ここは防具屋だ。なにか買ってくかい?」

剣士「ローブをみせてもらいたいんです」

店員「あいよ、ローブね」バッ

勇者「ローブといっても、色々あるんだなぁ」

勇者「冷気系耐性のある深蒼のローブ、まふうじ系耐性のある紺碧のローブ……」

魔法使い「どれも、それなりに高い」

剣士「三人でワリカンね」

魔法使い「当然」

勇者「わり、かん?」

86: 2013/01/20(日) 03:24:16.47 ID:rGY21Caz0
剣士「みんなでお金を出し合うことですよ」

勇者「おぉ、そうなのか」

剣士「賢ちゃんに合うものはどれだろう……」

勇者「この、真紅のローブなんていいんじゃないか?」

魔法使い「割といい」

剣士「じゃあ、それで決定」

剣士「このローブくださいな」

店員「あいよ」

87: 2013/01/20(日) 03:26:16.23 ID:rGY21Caz0
――東の森、賢者邸


賢者「おぉお、まさか昨日の今日で来てくれるとは思ってなかったっ」

剣士「まぁ、お詫びやその他を兼ねて、やってきちゃったよ」

検車「お詫び?」

魔法使い「ローブ、ダメにしちゃったから」

勇者「代わりにこれを持ってきたんだ」スッ

賢者「……わぁあ、真っ赤なローブだ」

賢者「ありがとうっ」

剣士「気に入ってくれた?」

賢者「うんっ」

賢者「これはいいぞぉ。大切にするからなっ」

魔法使い「よかった」

88: 2013/01/20(日) 03:28:06.01 ID:rGY21Caz0
賢者「……それで、その他というのは?」

勇者「それは、そのぉ……」

剣士「単刀直入にいこうかな」

剣士「賢ちゃん、無断で掲示板に依頼書を貼ったでしょ」

賢者「……ナンノコトカナー」

魔法使い「勇者さんが、目撃した」

賢者「えっ」

勇者「顔は見てないけどね」

勇者「でも、その反応は……図星なんだろ?」

賢者「……」

剣士「どうしてそんなことをしたのか、僕らは気になってね」

90: 2013/01/20(日) 03:43:46.36 ID:rGY21CazT
賢者「……――」

剣士「聞こえませんでした。もっかいオナシャス」

賢者「……だちが」

魔法使い「ボリュームがこい」

剣士(あれ?)

魔法使い(既視感)

賢者「友達が欲しかったんでひゅ!」

剣士「やはり噛みましたか」

魔法使い「はみはみ幼女」

91: 2013/01/20(日) 03:44:56.40 ID:rGY21CazT
勇者「泣けるっ」ブワッ

剣士「えぇっ」

勇者「分かる。分かるぞその気持ちぃいいいいい」ガシッ

賢者「えっ、えっ?」

勇者「俺も友達がいなくてな……みんな、先代勇者の息子だからってだけで何故か敬遠するしよぉ……」

賢者「……おれも、そうだった」

剣士「えっ?」

賢者「おれは、先代勇者PTの一員だった賢者の娘だ」

魔法使い「なんと」

賢者「そのおかげが知らないけど、……自分で言うのもなんだけど、魔法の才能はあった」

賢者「ちょっと出来が良いってだけで回りから差別されるし……いじめられるし」

賢者「意味分かんないよ……」

92: 2013/01/20(日) 03:46:21.25 ID:rGY21CazT
勇者「それで、こんなとこに住んでたのか」

剣士(……孤独に耐えられなくて、切羽詰ってたんでしょうかね)

剣士(魔女退治の依頼なんて、危ない考えを採用するくらいに)

賢者「独りの方が気楽だからな。でも、やっぱり……」

勇者「独りは、寂しいよなぁ……」

剣士「それで、依頼書なのかな」

賢者「おれと同じくらいの実力を持ってる奴だったら、いじめたりしないかなって思って……」

賢者「ほら、類は友を呼ぶっていうし」

魔法使い「本当に退治されたら、どうするの」

賢者「そんときはそれでもいいって思ってた。生きてても、仕方ないし……」

勇者「そんなこと言うな」

賢者「……え?」

93: 2013/01/20(日) 03:47:50.56 ID:rGY21CazT
勇者「生きてても仕方ないなんて、言うな」

賢者「……でも、おれがいない方が」

勇者「俺、昨日は楽しかったぞ。すげー楽しかった。今までで一番楽しかった」

勇者「生きてて良かったって、そう思ったぞ」

勇者「お前はどうだ?」

賢者「……」

勇者「楽しく、なかったか?」

賢者「……そりゃあ、楽しかったよ」

剣士「僕たちも楽しかったよ。ねっ、魔っちゃん」

魔法使い「開幕バギクロス」

賢者「うっ……あの時はごめんなさい」

魔法使い「ビックリしたけど、その後は楽しかった」

賢者「……」

94: 2013/01/20(日) 03:48:58.24 ID:rGY21CazT
勇者「ほら。みんな、お前といて楽しかったんだぜ?」

勇者「お前は、ここに居ていいんだ」

勇者「いや、ここに居ろ。居てくれよ、賢者」

剣士「遠回しにプロポーズしてます?」

魔法使い「お熱い」

勇者「こんな時までからかうなよっ」

賢者「……うぅう」ウルウル

賢者「うわぁああああん……うわぁあああん」

剣士(あの賢者様の娘といっても、まだ幼いもんねぇ)

剣士(涙脆くても仕方なし。年相応ですね)

勇者「……」ギュッ

剣士(あらまっ)

魔法使い(父と娘みたいな構図)

95: 2013/01/20(日) 03:50:03.34 ID:rGY21CazT




賢者「勇者の家に一緒に住む!」

勇者「えぇっ、いきなり何を言い出すんだお前は!」

賢者「そうしたら独りじゃないからな」フフン

勇者「それなら剣士でも魔法使いでも……」

賢者「だめぇ……?」

勇者「くっ……」

勇者(上目遣い可愛い……俺はこの頼みを無下にできないっ)

勇者「しかし、断る」

賢者「えーっ」

97: 2013/01/20(日) 03:51:09.12 ID:rGY21CazT
剣士「別にいいじゃないですか。これで勇者さんもぼっち卒業出来ますよ」

魔法使い「子持ち」

剣士「俺は友達が欲しいのであって、同居人が欲しい訳じゃあないぞ」

剣士「ここに子どもが一人暮らしなんて、危ないと思いません?」

魔法使い「いつ魔物に食われても、おかしくない」

魔法使い(魔よけの結界、張ってあったけど)

剣士(魔よけの結界張ってあったけど)

賢者(魔よけの結界張ってあるけど)

勇者「……」

98: 2013/01/20(日) 03:52:26.66 ID:rGY21CazT
勇者「……分かった」

賢者「わーい」ギュッ

勇者「……いや、抱きつかれるのに悪い気はしないんだけどさ」

勇者「昨日とキャラ、違くないですか?」

剣士「きっと、こっちが本当の賢ちゃんなんですよ」

魔法使い「甘えん坊魔女」

賢者「そうなのだー。これからは勇者に甘えるんだっ」ギュー

剣士(幼女を攻略とは、流石は勇者サマ)

魔法使い(ペド勇者)

100: 2013/01/20(日) 03:54:56.99 ID:rGY21CazT
――城下町までの帰路


ザッ…ザッ…ザッ……


勇者「ところで」

剣士「はい」

魔法使い「なんでしょう」

賢者「んんー?」

勇者「二人……いや、三人は、俺と友達になってくれるのか?」

剣士「……」ハァ

魔法使い「……」ハァ

賢者「……」ハァ

勇者(一斉に溜息を疲れたっ)ガクリ

101: 2013/01/20(日) 03:56:43.52 ID:rGY21CazT
勇者(やっぱり、友達未満知り合い以上は越えられないのか……)ハァ

剣士「あのですね、言わないと分からないんですか?」

魔法使い「ぼっち暦=年齢だから、仕方ない」

賢者「ぼっち暦=年齢だけど、おれでも分かるぞ!」

勇者「……何が言いたいのかわかんねーよ」

剣士「やれやれ」

剣士「……こうしてくだらない雑談に花を咲かせるのって、なかなか友達らしいことだと思いませんか?」

102: 2013/01/20(日) 03:58:03.41 ID:rGY21CazT
__
    ̄ ̄ ̄二二ニ=-
'''''""" ̄ ̄
           -=ニニニニ=-


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                   _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'  ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'     d⌒) ./| _ノ  __ノ

103: 2013/01/20(日) 03:58:57.89
嫌いじゃない、そのまま続けてていい

104: 2013/01/20(日) 04:08:21.00
続けろください

引用元: 剣士「勇者さんですか~」