1: 2021/01/23(土) 01:38:41.13 ID:Lzw+Pkj+0
俺はしがないフリーター。
バイト後にこのハンバーガー屋に寄って、ハンバーガーを買って帰るのが日課である。
小さいながら、大手チェーンよりも俺好みのハンバーガーを提供してくれる店なのだ。



ウイーン…

店員「いらっしゃいませー!」

男「ハンバーガー二つください。テイクアウトで」

店員「かしこまりました」

 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1611333520/

2: 2021/01/23(土) 01:41:10.53 ID:Lzw+Pkj+0
店長「おいっ!」

店員「なんですか?」

店長「ポテトはもっとサッと揚げなきゃダメだろ、ボケ! なにやってんだ!」

店員「す、すみません」



男(いつも怒鳴られてるよなぁ……可哀想に)

男(よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう)

3: 2021/01/23(土) 01:42:58.00 ID:Lzw+Pkj+0
店員「ハンバーガー二つ、お待たせいたしました」

男「いつも大変だね」

店員「いえいえ」



などという会話を挟みつつ、俺は自分のアパートに戻った。

4: 2021/01/23(土) 01:43:53.67 ID:Lzw+Pkj+0
アパートに戻ると、俺はさっそくハンバーガーを食べる。



男「……」モグモグ

男(もう一つは冷蔵庫に入れておいて、後で温めて食べよう)

男(今日は彼女が遊びに来るからな。そうだ、部屋を軽く片付けておくか)



俺は散らばってる雑誌や漫画本の整理を始めた。

5: 2021/01/23(土) 01:45:53.87 ID:Lzw+Pkj+0
次の日、俺は昨日と同じくハンバーガー屋に来ていた。



男(あー……今日はヤケ食いしたい気分だ)

店員「いらっしゃいませ……」

男「ん? なんだか顔が青ざめてない?」

店員「え!? いえいえ、そんなことないですよ! ご注文は?」

男「ハンバーガー三つ。テイクアウトね」



ハンバーガーの入った袋が差し出される。俺は確認することなく店を出た。

6: 2021/01/23(土) 01:48:10.67 ID:Lzw+Pkj+0
アパートに戻り、袋を開ける。



男「あれ?」

男(ハンバーガーが……四つ入ってる)

男(レシートを見ても、三つしか買ってないことになってる。料金も三つ分しか払ってない)

男(こういう場合、本来は正直に戻しに行くべきなんだろうけど……めんどくせえ)

男(それと……今日のハンバーガー屋はなんか違和感あったような……なんだろ)



少ないのなら絶対クレームだが、多い分には儲けもの。
間違えた方が悪いのだと、俺はハンバーガーを四つとも平らげた。
三つ食べて残り一つは冷蔵庫パターンでもよかったが、今日はそれをする気にはならなかった。

7: 2021/01/23(土) 01:49:27.91 ID:Lzw+Pkj+0
次の日、ハンバーガー屋に寄る。



店員「ご注文は?」

男「ハンバーガー一つ」



昨日四つも食べたので、今日は一つでいいやという判断だった。

8: 2021/01/23(土) 01:51:18.77 ID:Lzw+Pkj+0
ところが、アパートに戻って袋を開けると、



男「……あれ?」

男(また一つ多い。一つしか頼んでないのに、二つ入ってる)

男「……」モグモグ

男(味もいつもに比べて劣ってるような……昨日もそうだったけど)



それとこの時、俺はハンバーガー屋で抱いていた違和感の正体に気づいた。

店長の怒鳴り声がなかったのだ――

9: 2021/01/23(土) 01:53:50.50 ID:Lzw+Pkj+0
翌日、ハンバーガー屋に寄る。



男「ポテトください」



ポテトしか頼んでない。頼んでないはずなのに――



男「ハンバーガーが一つ入ってる! どうなってんだ、これ……」

10: 2021/01/23(土) 01:54:48.85 ID:Lzw+Pkj+0
次の日、ハンバーガー屋に寄る。



男「ハンバーガー一つ」

店員「かしこまりました」



いつもなら、俺はろくに確認もせず、このまま袋を持って帰る。
だが、今日はその場で確認することにした。



男(やっぱり今日も……!)

男「あの……ハンバーガーが二つ入ってるんですけど。俺一つしか頼んでないですよね」

11: 2021/01/23(土) 01:56:21.14 ID:Lzw+Pkj+0
男「このところずっとこうだけど……なんで?」

店員「えぇと、これは……サービスです!」

男「サービス?」

店員「はい、サービス期間中でして!」

男「ドリンクサービスなら分かるけど、ハンバーガー一個サービスなんて、ずいぶん太っ腹なんだね」

店員「日頃の感謝の印ですよ~、アハハ」

男「ふうん……まぁいいけど。ところで、最近店長さん見ないね」

店員「店長ですか!? ええ、まあ、ここんとこ体調崩してて……おかげで大変ですよ……」

男「そうなんだ……」



深くは追及せず、俺は店を出た。

12: 2021/01/23(土) 01:59:51.43 ID:Lzw+Pkj+0
アパートに戻り、俺は二つのハンバーガーを見つめる。

この日、俺はハンバーガーを食べる気にはなれなかった。
なぜなら、俺の中で一連の出来事について、ある仮説――推理が完成しつつあったからだ。



男(あの店員はいつも店長に怒鳴られてた……。パワハラっていっていいぐらいに……)

男(ある日を境にハンバーガーをオマケしてくれるようになった……)

男(それと時を同じくして、消えた店長……)

男(オマケしてくれるようになってから、ハンバーグの味が変わった……)

男(オマケする理由……考えられるのは早く材料を使い切りたいから……)

男(間違いない……!)



推理が完成する。
俺は明日、この推理について直接あの店員と話すことに決めたのだった。

しかし、俺が再びあの店員と会うことはなかった――

13: 2021/01/23(土) 02:01:26.61 ID:Lzw+Pkj+0
次の日、朝のニュース番組にあのハンバーガー屋が映し出されていた。

見慣れた店舗の画像の横で、キャスターが淡々とニュースを読み上げる。



TV『ハンバーガーショップに勤めていたアルバイト店員が、とんだ騒動を起こしました』

男「え……」

TV『こちらのハンバーガーショップでは、冷凍された肉を冷凍庫に保管し、解凍して使うシステムになっているのですが――』

14: 2021/01/23(土) 02:03:42.65 ID:Lzw+Pkj+0
ニュースの内容は、次のようなものだった。

あのハンバーガー屋では、ハンバーガーに使う肉が冷凍保管されており、都度解凍して使う仕組みになっている。
使ってる冷凍庫はかなりの高性能で、冷凍してる限り肉の劣化はないそうだ。

しかし、店員は冷凍庫のコンセントを誤って引っこ抜いてしまい、しかもそれに長時間気付かなかった。
この結果、中の肉は全て解凍状態になってしまったのだ。

当然、こうなれば再冷凍したところで新鮮さは損なわれるし、味も落ちる。
店員はすみやかにミスを報告し、肉を全て廃棄すべきだった。

だがミスが明るみになり怒られるのを恐れた店員は、店長がちょうど体調不良で休むのをいいことに、
「鬼の居ぬ間になんとか全部使い切ってしまおう」としたのだった。

そこであのオマケである。
ハンバーガーを余分に客に渡し、とっとと肉を使いきってしまう作戦に出たのだ。

ところが、企みはあっけなくバレた。

俺以外にも味に違和感を抱いた客がおり、その客の指摘がきっかけで、店員のやらかしが判明したのだ。

よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう。
後者だったんだな、と俺は思った。

この結末は俺にとって本当に残念であった。

15: 2021/01/23(土) 02:04:58.27 ID:Lzw+Pkj+0
男(あーあ、彼が俺の推理通りのことをやってれば……)

男(“店長を頃してしまい、その肉をハンバーガーにして売る”ということをやっていたら……)

男(彼にこの推理を突きつけ、“これ”の処理もお願いしようと思ってたのに……)



俺はため息をつきながら、冷蔵庫を開ける。

そこにはこの部屋で俺に別れ話を切り出し、俺に殺された彼女の氏体が、恨めしそうに眠っていた。





―終―

16: 2021/01/23(土) 02:11:35.92
乙、面白かった!
ありきたりな流れかと思ってたら一杯食わされたわ
伏線もあったのに気付けなくて悔しい

17: 2021/01/23(土) 04:53:03.09
なるほど面白かった
乙!

19: 2021/01/23(土) 10:39:14.93
不穏な感じはしたがそうきたか

引用元: 男「行きつけのハンバーガー屋がハンバーガーの数を間違えるようになったんだが……」