2: 2014/09/21(日) 08:41:58.79 ID:YKV792LS0
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、
それでも俺がサンタを信じているかと言うとこれは確信をもって言えるが今でも信じている。

事実、幼稚園のクリスマスイベントにサンタが現れた。

そんなこんなでクリスマスにしか仕事をしないサンタにあこがれを持っている賢しい俺なのだが、
宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や悪の組織やそれらと戦うヒーローたちの存在も信じている。

俺は心の底から宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や悪の組織が目の前にふらりと出てきてくれることを望んでいる。

俺が朝目覚めて夜眠るまでのこのフツーな世界に比べて、あのような世界の、なんと魅力的なことだろう。

宇宙人にさらわれてでっかい透明なエンドウ豆のサヤに入れられている少女を救い出したり、
レーザー銃片手に歴史の改変を計る未来人を知恵と勇気で撃退したり、悪霊や妖怪を呪文一発で片づけたり、
秘密組織の超能力者とサイキックバトルを繰り広げたり、つまりそんなことをしたい!

いや待て冷静になれ、仮に宇宙人や(以下略)が襲撃してきたとしても俺自身には何の特殊能力もなく太刀打ちできるはずがない。
ってことで俺は考えたね。

ある日突然謎の転校生が俺のクラスにやって来て、
そいつが実は宇宙人とか未来人とかまあそんな感じで得体の知れない力なんかを持っていたりして、
でもって悪い奴らなんかと戦っていたりして、俺もその闘いに巻き込まれたりすることになればいいじゃん。
メインで戦うのはそいつ。俺はフォロー役。おお素晴らしい、頭いーな俺。

しかし現実ってのは意外と厳しい。

実際のところ、俺のいたクラスに転校生が来たことなんて皆無だし、UFOだって見たこともないし、
幽霊や妖怪を探しに地元の心霊スポットに行ってもなんも出ないし、
机の上の鉛筆を二時間も必氏こいて凝視していても一ミクロンも動かないし、
前の席の同級生の頭を授業中いっぱい睨んでいても思考を読めるはずもない。

中学校に入学したのを機に俺は俺なりに、積極的にそういう不思議なものを求めた。
ところが、やっぱり不思議なものに出会うことが出来ず、半ば失望していた。

そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら俺はたいした感慨もなく高校生になり----、朝倉涼子と出会った。

3: 2014/09/21(日) 08:42:38.28 ID:YKV792LS0
俺が通うこととなった山の上にある高校の入学式も終わり、
俺は配属された一年五組の教室へ入った。

担任となった岡部という若い教師が自己紹介を終えると

「みんなに自己紹介をしてもらおう」

と言い出した。

出席番号順に男女交互で並んでいる左端から一人一人立ち上がり、氏名、出身中学、趣味、軽口等を銘々に言う。

そして俺の番がやってきた。

4: 2014/09/21(日) 08:43:25.01 ID:YKV792LS0
例によって、氏名、出身中学を言い終えて、最後に、

「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、朝倉涼子のところに行きなさい。以上」

俺は前から二番目に座っている。飛び切りな笑顔の持ち主の名を出して着席した。

当の朝倉涼子は驚いたような顔をしてこちらを見ている。

こうして俺たちは出会っちまった。

5: 2014/09/21(日) 08:43:57.26 ID:YKV792LS0
俺の自己紹介が終わると、当然後ろの奴の番となる。

後ろに座ってた女は立ち上がり、

「東中学出身、涼宮ハルヒ」

とだけ言って沈黙した。

だからと言って着席するわけでもなく、自己紹介が終わった訳でもなさそうだ。

どうしたものだろうと振り返ると、勝気そうな美少女が悔しそうに俺を睨みつけていた。

6: 2014/09/21(日) 08:44:32.17 ID:YKV792LS0
何かを迷っている。そんな感じの表情を一瞬見せたが、それを振り払ったのか、咳払いを一つし、

「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、朝倉のところではなく、あたしのところに来なさい。以上」

ハルヒは喧嘩でも売るような目つきで俺をじろりと睨むと、にこりともせずに着席した。

これってギャグなの?

少女の真意が解らぬまま自己紹介は終了した。

7: 2014/09/21(日) 08:45:11.12 ID:YKV792LS0
数日経ったある日のこと。後ろの席の美少女、涼宮ハルヒに話しかけた。

もちろん話題はあのことだ。

「なあ」

と、俺はさりげなく振り返りながらさりげない笑みを満面に浮かべて言った。

「しょっぱなの自己紹介、どういうつもりなんだ?」

腕組みをして口をへの字に結んでいた涼宮ハルヒはそのままの姿勢でまともに俺の目を凝視した。

「それはこっちの台詞よ」

真似した癖に酷い言い草だ。そして不機嫌な口調のまま続けて聞いてきた。

8: 2014/09/21(日) 08:45:49.70 ID:YKV792LS0
「なに?あんた朝倉の知り合いなの?」

「お前は朝倉の自己紹介を聞いていなかったのか?
 市外の中学から着て知り合いが居ないと言っていたじゃないか」

「じゃあ、なんで朝倉なのよ」

「いいか、よく見ろ。あの柔和で花でも咲きそうな笑顔、程よい太さを持ちながら見るからに弾力溢れる太もも、
 白くて現実のものとは思えないまるで人工的にまで美しい肌、太くて輝くような眉毛、
 ポニーテールでもしようものなら振り返らない男はいないであろう腰にまでかかるロングヘア、
 さらには出ている所は出ていて引っこむところ引っこんでいる体型。ここまで言えば解るだろ?」

「全然わかんないわよ」

ハルヒは面白くなさそうに答える。

9: 2014/09/21(日) 08:46:53.44 ID:YKV792LS0
「物わかりが悪い奴だな。これらが織りなす朝倉のカリスマ性で常に朝倉の周りには人が居るだろ?」

「カリスマかどうかは別として、人気者なのは認めてあげる」

「入学からわずか数日で人気者になれる朝倉なら、
 それこそあの笑顔に惹かれて宇宙人の方から一人や二人は集まると思うんだ。
 もっと言えば、朝倉自体のあり得なさから、異世界人だって告白されても俺は信じるね」

「あっそ」

ハルヒは呆れた様な言い方だ。

「お前も宇宙人とかを求めているようだが、そんな仏頂面で、
 しかも自分のところに来いとかガツガツしてたら近くにいたとしても逃げてしまうぞ?」

「大きなお世話よ!」

ハルヒはそう言うと、俺に向けていた目をフンとばかりに逸らすと、黒板の辺りを睨みつけ始めた。

ハルヒの自己紹介の意図を聞く機会を逸したまま、岡部がやってきてHRとなってしまった。

10: 2014/09/21(日) 08:47:46.52 ID:YKV792LS0
昼飯は中学が同じで比較的仲のよかった国木田と、
たまたま席が近かった東中出身の谷口という奴と机を同じくすることにしていた。

焼き魚の切り身から小骨を細心の注意で取り除いていた国木田が口を挟んだのはその時である。

「まだ不思議探しとか言ってるの?」

普通は面白くないと思っているからな。まぁ、うなずいておこう。

「一人で探すのは構わないけど、他の人を巻き込むのはどうなのかなぁ」

11: 2014/09/21(日) 08:48:27.26 ID:YKV792LS0
谷口はゆで卵の輪切りを口に放り込み、もぐもぐしながら、参加してきた。

「お前の趣味は兎に角として、朝倉を選んだのはナイスチョイスだな」

口の中の物を飲み込み、

「市外の中学からの進学者で知り合いがいない美少女に唾をつけたって感じだったぜ」

と心底感心したような口振りだった。

「朝倉は、俺の見立てだと一年の女の中でもベスト3には確実に入るね」

と谷口は聞いてもいない朝倉の評価を語る。

12: 2014/09/21(日) 08:48:59.90 ID:YKV792LS0
「一年の女子全員をチェックでもしたのか」

「おうよ。AからDにまでランク付けしてそのうちAランクの女子はフルネームで覚えたぜ。
 一度しかない高校生活、どうせなら楽しく過ごしたいからよ」

「朝倉さんがそのAなわけ?」と国木田。

「AAランクプラス、だな。俺くらいになると顔を見るだけで解る。
 アレはきっと性格までいいに違いない」

ああ、俺も同意する。朝倉の魅力で宇宙人さえも虜にするはずだ。

13: 2014/09/21(日) 08:49:31.85 ID:YKV792LS0
「だが、俺のイチオシはあいつだな、涼宮ハルヒ」

谷口が意外なことを言い始めた。

「自己紹介で宇宙人とか募集してた子?」

問う国木田は谷口の半分も箸が進んでいない。

「ああ、中学時代はあんなことを言う奴じゃなかったんだがな。
 あの発言を差し引いても最低でも………」

谷口はそこまで言って固まった。

14: 2014/09/21(日) 08:50:16.31 ID:YKV792LS0
「本人を前にして好き勝手言ってるわね」

ハルヒが右手に弁当箱持ち、腕を組んで仁王立ちとなり谷口を見下ろしていた。

「あ、あれ………学食組じゃございませんでしたっけ?」

慌てた風に谷口が応じる。

ハルヒは机に弁当を置き、

「そんなのあたしの勝手じゃない。まぁ、いいわ。
 ここで食べるから、あたしの素晴らしさをこの不思議大好きクンに聞かせてあげるといいわよ」

と椅子を持ってこようとする。

「悪いな涼宮。この机は三人用なんだ」

俺は残酷な真実をハルヒに突きつける。

15: 2014/09/21(日) 09:34:30.19
キョンさん強すぎるww

28: 2014/09/22(月) 00:00:41.40 ID:4AcjJc4W0
「はぁ!?」

ハルヒと谷口が同時に声を出す。

「なにを言ってるのよ!?」
「お前、なに勝手なことを言ってるんだよ!」

「まぁ、落ち着け!俺は食い終ったから不思議を求めて校内散策に行ってくる。
 だから空きが出来る。よかったな、涼宮」

俺はそう言うと弁当を片付ける。

谷口が「まぁ、それならいいか……」と呟いているのを他所に、ハルヒが抗議の声をあげる。

「ちょっと!それならあたしも行くわよ!」

「いや!お前はまだ昼飯を食っていないだろ?それにお前が騒いだら不思議が逃げ出す気がするしな」

俺はそれだけ言うと教室を後にした。

29: 2014/09/22(月) 00:01:48.25 ID:4AcjJc4W0
そんな感じで過ごしているうちに入学から一ヶ月が経った。

そろそろゴールデンウィークになろうかと言う時にハルヒが話しかけてきた。

「ねぇ、キョン。あたしの髪型どう思う?」

実はハルヒの曜日によって変わる。

月曜日のハルヒはストレートのロングヘアを普通に背中に垂らして登場する。
次の日、どこから見ても非のうちどころのないポニーテールでやって来て、それがまたいやになるくらい似合っている。
その次に日、今度は頭の両脇で髪をくくるツインテールで登校し、
さらに次の日になると三つ編みになり、
そして金曜日の髪型は頭の四ヶ所を適当にまとめてリボンで結ぶといった塩梅だ。

ちなみにキョンというのは俺のあだ名だ。おそらく国木田から聞いたのだろう。

30: 2014/09/22(月) 00:02:22.76 ID:4AcjJc4W0
「宇宙人対策とか、そんな感じなのか?」

「え!?あ…うん、まぁそんな感じ。あんたは何曜日の髪型がいいと思う?」

ハルヒは一瞬意外なこと言われた様な顔をしたが、直ぐに何時ものハルヒに戻り、再度質問してきた。

ポニーテール萌えの俺としては断然火曜日なわけだが、素直に言うと負けな気がしたので、特別なんでも無い様な素振りで、

「俺に聞かれてもな………宇宙人から連絡があったら教えてくれ。お前の所にはこないと思うがな」

と突き放すように言っておいた。

「………そう」

ハルヒは言葉短く返事をすると黙り込んでしまった。

31: 2014/09/22(月) 00:03:17.32 ID:4AcjJc4W0
翌日、ハルヒは髪の毛をバッサリと切って登校してきた。

髪の毛を肩の辺りで切りそろえ、黄色いカチューシャの横に同じく黄色のリボンを付けていた。

「どう?この髪形?」

俺の顔を見るなり、どうだと言わんばかりの笑顔で聞いてきた。

俺は、「あ、ああ…いいんじゃないか?」と答えた。

俺の返答を聞いたハルヒは満足げな笑顔を浮かべていた。

人間、正直にならないといけないと思った日であった。

32: 2014/09/22(月) 00:04:06.39 ID:4AcjJc4W0
こうしてゴールデンウィークを迎えたが特別何かある訳もなく、そのまま明けた。

強いて何かをあげるなら、一度ハルヒから電話がかかってきたことくらいだろう。

一緒に不思議探索をしないかというお誘いだったが、
妹と共に田舎に引っこんでいた俺に選択肢はなかったわけだ。

電話番号は国木田から聞いたらしい。あいつは人の電話番号をなんだと思っているんだ?

33: 2014/09/22(月) 00:04:45.22 ID:4AcjJc4W0
ゴールデンウィークが明けて暫く経ったある日の朝のHR前でのこと。

俺はハルヒに話しかけた。

「全部の部活に入ってみたりとかしてないのか?」

「え!?何のためにそんな事をするの?」

ハルヒはびっくりしたような顔をして返してきた。

「なにを言っているんだ?これだけ部活動があれば一つくらい面白そうな部があるかもとかと思わないのか?」

「え…あ、ああ、そうね。あんたがどうしても調べてみたいって言うのなら、それに付き合ってあげてもいいわよ」

ハルヒは恩着せがましく聞いてきた。

「いや。それには及ばん。必要なら一人でやる」

ハルヒがいると不思議が逃げると言っているのに理解していないのか?

34: 2014/09/22(月) 00:06:21.78 ID:4AcjJc4W0
「それに俺はフォロー役だ。怪しい部活動を探し出して、朝倉を入部させないとダメなんだ。
 まぁ、その際には俺も同じ部活に入るつもりだがな」

ハルヒは一気に不機嫌になり、

「あんた朝倉、朝倉って言う割にはほとんど話したことがないでしょ」

「ああ、俺はフォロー役だからな。今はそれで十分だ。いざとなったら強引にでも動くしな」

「はい。はい。電話番号すら知らないでしょうにどうやって動く気やら」

「電話番号は知っているぞ」

「え!?何時の間に聞いてたのよ?」

「ああ、入学した日のうちにな」

ハルヒが狼狽えながら聞いてきた。

「あ、あたしは聞かれてないわよね?」

「ああ。俺の記憶が確かなら聞いたことはないはずだ」

なにを当り前な事を聞いているんだ?

35: 2014/09/22(月) 00:07:02.41 ID:4AcjJc4W0
ハルヒは納得できないといった表情で、

「……そ、そう…」

と呟いたあとに、

「それで怪しい部活動はあったの?」

と聞いてきた。こいつも不思議探しをしているから興味があるのだろう。

36: 2014/09/22(月) 00:08:24.13 ID:4AcjJc4W0

「それが一つもなかったな」

「ふーん。それはご愁傷様。朝倉と同じ部に入れなくて残念ね」

と、嫌味っぽく、かつ、勝ち誇った様に言ってきた。

「心配には及ばん。もうすでに手は考えてある」

「ふ~ん。具体的には?」

ハルヒの追及に答える間は岡部担任によって遮断された。

俺としては不思議探しのライバルでもあるハルヒに早々アイデアを開示するつもりはなかったので助かった。

なにせコイツは俺の自己紹介で不思議募集をするアイデアをパクった前科があるからな。

38: 2014/09/22(月) 20:42:09.79 ID:4AcjJc4W0
その日の放課後、かねてからの計画を実行することにした。

終業のベルとともに、俺は朝倉の元に行きその腕を掴んだ。

「え!?何の用かしら?」

朝倉は驚きつつも、いつもの笑顔で聞いてきた。

「付いてきて欲しい」

俺は朝倉の返事を待たず、腕を引っ張りながら強引に歩き出した。

「どこに行くのよ!」

朝倉の再度の質問に対して、

「部室っ」

と短く答え、旧館の文芸の前にまで連れ出した。

39: 2014/09/22(月) 20:42:50.86 ID:4AcjJc4W0
「ここだ」

俺はそう言うと文芸部のドアを開けた。

俺が何かを言う前に朝倉が口を開いた。

「長門さん!?」

文芸部の部室の奥で本を読んでいる少女を見るなり驚いた様な声を上げた。

「知り合いか?」

朝倉は市外からの進学者でクラス外には知り合いが居ない筈と思いながらも聞いてみた。

「パーソナルネーム朝倉涼子とは同じマンションから通っている」

部室の奥にいた少女が代わりに答えた。

40: 2014/09/22(月) 20:44:24.99 ID:4AcjJc4W0
「そうなの。長門さんとは同じマンション内に住んでててね、それで知り合いになったの」

両手の指を合わせながら、軽くウィンクをしながら答えてきた。
あのウィンクの前では異世界人も蕩けてしまうだろう。
朝倉はもしかしたら超能力者なのかもしれない。

「それで何の用なの?」

朝倉はそのまま質問してきた。

「ああ…宇宙人や超能力者、未来人と遊ぶための部活を作ろうと思ってな----」
「あ、長門さん。帰っていい?」

「許可。わたしもこれから帰還する」

「----というわけなんだ。あれ?」

俺が一通り、すなわち、文芸部が今年新入部員を迎えなければ休部になっていたこと、
文芸部員は長門しかいなかったこと、休部も同然なのでこの部室を使わせてもらうことなどの説明を終え、
辺りを見渡すと朝倉も長門も居なくなっていた。

44: 2014/09/23(火) 03:08:12.36 ID:LwzHVqf60
「なに?それじゃあ、ここは文芸部じゃない」

朝倉の代わりに返事をする者がいた。

ハルヒだった。

「涼宮か………いつの間に着ていたんだ?」

「いつの間にも何も初めから。嫌がる朝倉を強引に連れ出してたから何事かと思ってついてきたの」

ハルヒはさも当然といった感じで非常識な事をのたまっている。

45: 2014/09/23(火) 03:10:00.05 ID:LwzHVqf60
「あんたがその珍妙な部を作りたいって言うなら協力してあげてもいいわよ?
 同好会にするには最低五人必要なんだけど、あんたじゃ集まらないでしょ」

ハルヒが恩着せがましく言ってきた。

「悪いなハルヒ。俺の部活は三人用なんだ」

「なによそれ!!もしかして、朝倉とさっきの文芸部員がカウントされてない!?」

ハルヒが憤慨している。

まぁ、三人用と言うのは冗談で、実際にはハルヒの前だと不思議が隠れてしまいそうで嫌なんだ。

実際四人目の部員にも目安はつけてあるわけだし。

「いいわ!あんたがそういうことを言うのなら、あたしにも考えがあるわ!憶えてなさい!」

ハルヒはそう捨て台詞を吐くとノッシノッシとで音が出そうな程の大股で乱暴にドアを開けて出て行った。

「さて、明日から忙しいぞ」

俺は独り言をつぶやくと、ハルヒに続くという訳ではないのだが、やはり部室を後にした。

47: 2014/09/23(火) 13:14:29.34 ID:LwzHVqf60
翌日の放課後、俺は朝倉に「先に行っててくれ」と声をかけてから二年の教室に向かった。

用事は目安をつけていた四人目の部員獲得だ。

日頃の校内散策で目を付けていた人物が居たのだ。

48: 2014/09/23(火) 13:15:10.57 ID:LwzHVqf60
目当ての人物はすぐに見つかった。

廊下でぼんやりとしていたその生徒は、小柄で童顔、おまけに巨乳であった。

栗色の毛をしたその少女に声をかけた。

「すいません。ちょっといいですか?」

「あの……なんでしょう?」

「付いてきてください」

俺はそう言うと少女の手を掴み、強引に引っ張った。

「ふぇ?あの、ちょっと!ふぇ~~!!」

小動物の鳴き声の様な声で何か言っているが俺は無視した。

暫し小動物が鳴き続けていたが、やがて俺とその小動物は文芸部の部室の前に到着した。

俺は小動物を片手に部室のドアを開ける。

49: 2014/09/23(火) 13:16:09.67 ID:LwzHVqf60
部室のドアを開けた俺は、ドアノブに手をかけたまま固まった。

「遅いよ」

部室の中の人物が俺に声をかけてきた。

「お前か」

「そうよ。意外でしょ?」

「まぁな…」

「入ったら?」

「ああ」

意外な人物に誘われるまま部室に入る。

「ちょっと!その子はなんなのよ!」

意外だった人物は俺が連れてきた小動物を見て驚いた様な声を出した。

俺はその人物に話しかけた。

「ああ。朝比奈みくるさんだ」

俺はその人物、ハルヒに対して小動物を紹介した。

50: 2014/09/24(水) 06:36:58.16
「お前こそどうしてここに居るんだ?」

俺はハルヒに問いたてた。

「ここは文芸部。でもって、あたしは文芸部員。全然おかしくないでしょ?」

「いや、しかしだな…」

「シャラップ!」

俺の意見はハルヒに遮られた。

「その子はどこから拉致してきたのよ」

ハルヒは朝比奈さんを指さし聞いてきた。

54: 2014/09/25(木) 05:13:28.06 ID:U0szgAGP0
「拉致とは失礼な!二年の教室の前でぼんやりしていたからきて貰ったんだ。
 校内散策中に何度か見かけていて、その時から目をつけていたからな」

「じゃあ、その人は上級生じゃないの!」

「それがどうかしたか?」

ハルヒは不思議な事を気にしている。なにが問題だというのだろうか。

「それはそれとして、ええと、朝比奈みくるさんね。なんでまたこの人なの?」

「めちゃくちゃ可愛いからな」

見たら解ることを聞いてきたハルヒは、見たままの回答を貰い、何故か露骨に嫌な顔をした。

「これだけ可愛ければ超能力者の一ダースくらいは向こうからくると思わないか?」

そう言いながら、俺は朝比奈さんをマジマジと見る。
小柄で巨乳。いわゆるトランジスタグラマって奴だ。
童顔で可愛らしく、緩やかなウェーブのかかった栗毛がフワフワとした可愛らしさに拍車をかけている。
そんな可愛らしい人が目に涙を浮かべながら上目づかいでこちらを見つめる。
そして小刻みに震えながら、
「ふぇぇぇえ~」とか「ここはどこなんですか?何で連れてこられたんですか?」
等と小動物の鳴き声を出しているものだから堪らない。俺でなくても抱きしめたくなるだろう。

「すると何よ、あんたはこの……朝比奈さんが可愛いからという理由だけでここに連れてきたの?」

「そうだ」

「あんたねぇ………」

ハルヒは眉間を指先で押さえて顔をしかめている。

素材としては悪くないハルヒだが、ここら辺が笑顔の朝倉や小動物アピールの朝比奈さんとの違いだろう。
この二人の様にとはいかなくとも文芸部室の付属品、長門有希くらいクールな表情でいられないものだろうか。

ふと長門が気になり部室を探す。散策中に度々見かけた様に部室の片隅で本を読んでいた。

55: 2014/09/27(土) 01:42:31.06 ID:KJPhRhdp0
長門は我関せずと読書にふけっていた。

白い陶器の様な肌、人形の様に整った顔立ち、そしてやはり人形の様に無表情だった。

こうしてみると長門は神秘的美少女であり、クールビューティーとも表現できる気がした。

長門なら朝倉は別格として、朝比奈さんほどではないにしろ、
魅力に気が付いた超能力者の一人か二人なら引っかかるのではないであろうか?

56: 2014/09/27(土) 01:43:47.15 ID:KJPhRhdp0
俺がそんなことを考えているとハルヒが朝比奈さんに声をかけていた。

「こいつに付き合う必要なんてないのよ。それに二年生ならもう部活に入っているでしょう?」

そんなハルヒに朝比奈さんは律儀にも答える。

「今は書道部に入っているのですが、長門さんが居るのも気になりますし入部します」

「勧誘もなしに、いきなり入部って……」

ハルヒが言っている途中で俺が介入した。

「俺の部は文芸部なんかじゃありませんよ」

57: 2014/09/27(土) 01:44:39.68 ID:KJPhRhdp0
そんな俺に朝比奈さんが一言、

「あなたの部じゃありません」

そして続けて、

「文芸部が何をする部か知りませんが、わたし入部します」

ときっぱりと、異論を挟ませない勢いで宣言をした。

59: 2014/09/27(土) 23:32:16.73 ID:KJPhRhdp0
ハルヒが「ちょっと----」と言いながら、長門の様子をうかがう。

視線を投げかけられた長門はハルヒに対して、

「私としては構わない。あなたに任せる」

とハルヒに丸投げ宣言をした。

丸投げを受けたハルヒはと言うと、「う、うん…じゃあ、まぁ」などと返事をしていた。

「それじゃあ、これから放課後はここに集合だな」

俺が話をまとめた。

60: 2014/09/27(土) 23:34:08.42 ID:KJPhRhdp0
「なんであんたが取り仕切るのよ!文芸部員じゃないでしょ!」

ハルヒから抗議を受けた。

「一応あんたもここの部室を使っていいらしいから、
 部室の端っこにござでも敷いてあたしに感謝しながら大人しく座ってなさいよ」

「なんで俺がお前に感謝しなきゃいけないんだ?」

俺の当然の疑問に対してハルヒは、

「そりゃ、あたしがキョンにも部室を使わせてあげてって有希に頼んだんだから当然でしょ」

なんて言って恩を押し売りしてきた。

これ以上恩を着せられても敵わないが、これでハルヒを追い出せば、
何か不思議なものが呼び寄せられる気がした。

61: 2014/09/27(土) 23:35:30.21 ID:KJPhRhdp0
そう思って、淡々と本をめくる神秘的美少女の長門を暫し眺め目の保養をする。

それから可愛らしい小動物である朝比奈さんを満足するまで見つめ、
満足したら視線をそのまま下げて小動物に不釣り合いな脂肪の塊の揺れを堪能した。

さらに今はここに居ない朝倉の笑顔や太ももを思い浮かべると自然と笑みが浮かんでしまった。

「なにニヤニヤしてんのよ!気持ちが悪いわね!」

ハルヒに突っ込まれてしまった。

62: 2014/09/27(土) 23:36:56.21 ID:KJPhRhdp0
「おい!朝倉はまだきてないのか?」

「なに?朝倉を思い浮かべてニヤニヤしてたの?」

「ああ、正確には朝倉の笑顔と太ももだがな」

「なにを堂々と言ってるのよ!」

「あれほどの笑顔と太ももだぞ?さらには部室にはこれだけの美少女が揃ったんだ。
 遠からず、宇宙人や未来人が訪ねてくるはずだ。
 これで笑みがこぼれなかったらどうかしてると思わないか?」

「思わないわよ!でも、まぁ、確かに美少女だらけね…
 あたしとかあたしとかキョンもそう思うでしょ?」

「俺としてはお前が居ると宇宙人とか未来人とかが避けていきそうだから勘弁して欲しいのだがな」

「なによその言い方!頭に来るわね」

ハルヒはそう言うと腕を組み、口をへの字に曲げてそっぽを向いた

63: 2014/09/27(土) 23:37:33.53 ID:KJPhRhdp0
「今日は朝倉が来ないみたいだし、俺は帰る。またな」

「ちょっと!待ちなさいよ!」

ハルヒが何故か怒鳴っている。不思議が逃げそうである。全く持って迷惑な奴だ。

それは兎に角、明日からが楽しみだ。俺はそう思いながら部室を後にした。

64: 2014/09/27(土) 23:39:42.88 ID:KJPhRhdp0
翌日の教室はある話題で一色だった。

何でもえらく格好の良い転校生が他のクラスにやってきたらしい。

ハルヒも転校生が気になるようで、朝のHR前に話しかけてきた。

「ねぇ、『謎の転校生に違いない!』とか言って騒がないの?」

「うん?だって男って話だろ。そんなのは親の転勤とかだ。どうせな」

「……文脈が繋がらないんだけど」

「しかも噂によれば大層なグッドルッキングガイなんだろ?」

「なんだか随分と含蓄のある言い方だけどそうらしいわね」

「益々もって興味がない」

「なんでよ。あんたの理屈ならイイ男に釣られてホイホイと宇宙人とかが来るんじゃないの?」

「そんなのに釣られてくる奴は面食いな只の女かホ〇くらいだ」

「それなら朝倉とかみくるちゃんでも谷口とかしか釣れないんじゃないかしら?」

「正直に言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない」

「信じらんない」

「俺もお前の常識の無さが信じられん。上級生をみくるちゃん呼ばわりとはな」

「みくるちゃんとはあんたが帰った後に仲良くなったの!呼び方も自分で指定きたんだし」

ここで担任が教室に入ってきたので会話が終了した。

65: 2014/09/28(日) 06:29:09.35 ID:a9NLPQrN0
その日の放課後は朝倉の所に直行した。

「なんで昨日は部室に来なかったんだ?」

朝倉は困惑を隠しきれない表情で、

「え!?そんな事を言われても……」

何故かこんなことを言ってきた。

「頼む!今日は来てくれ!!」

俺は深々と頭を下げた。

「ま、まぁそこまで言うのなら、後で行ってみるけど……何かあるの?」

「ああ!きっと何かあるはずだ!!待っているぞ!」

俺は期待を胸に教室を後にした。

66: 2014/09/28(日) 06:30:06.70 ID:a9NLPQrN0
部室には既に長門がきており、暫くすると朝比奈さんもやってきた。

なにが言いたいかと言うとハルヒが居ない。

これで朝倉がきてくれれば、俺の計算では約120%の確率で、
宇宙人か未来人か超能力者か異世界人が部室を訪れる計算だ。

計算式は内緒だが一人以上はやってくる計算だった。

そしてドアが開く。ドアを開けたのはなんと朝倉だった!!

朝倉は遠慮がちに、主に長門に尋ねるかのように、

「えっと…あたしもいいのかしら?」

と部室に入らずに声を出した。

「わからない。涼宮ハルヒ次第。それまで部室内で待つことを許可する」

長門が平坦な発音で答えた。

「そう…それじゃあ、暫くお邪魔するわね」

朝倉はそう言って部室内に入り、手短な椅子に腰を掛けた。

67: 2014/09/28(日) 06:32:42.00 ID:a9NLPQrN0
俺は心の中で小躍りした。

朝比奈さんに「何で踊ってるんですか?」って聞かれた気がするが気のせいだろう。

こうなると宇宙人か未来人か超能力者や異世界人が部室を訪れるのは確定的に明らかだ。

暫しドアを凝視する。だが、俺は考えた。彼らがそんな平凡な所から訪れるのだろうか?

それならば窓からか?否、それでは只の侵入者ではないか。
彼らが脚を伸ばし、窓枠を跨ぎながら頑張って窓から入ろうとする図など見たくない。

俺が思うに彼らは天井を豪快に破り訪れる。俺はそう考え天井を見上げた。

朝比奈さんが「天井に何かあるんですか?」と聞いてきたので、

「いや、ちょっと」と笑ってごまかしておいた。

そうこうしながらも、今か、今かと天井を凝視し待ちわびていたら首が痛くなった。

そろそろ限界かと思った時にドアの開かれた音がした。

そっちかよ!と心の中で突込みながら、急ぎドアの方を見た。

68: 2014/09/30(火) 00:14:31.36 ID:Q3+qlDSj0
なんてこったい!!

見たままのものが信じられず、目を擦りもう一度見てみる。

それでも、なおも信じられずドアを開けた人物に聞いてみた。

「ハルヒだよな?」

「そのつもりだけど、他の誰かに見える?」

どうやら本当にハルヒらしい。

これで今日は超能力者等が訪ねてくることはないだろう。

俺の期待は儚く崩れ去り、深い失望のみが残された。

パチンコの確変中に当たりを引けなかったら、こんな気分になるだろう。

69: 2014/09/30(火) 00:15:39.91 ID:Q3+qlDSj0
俺の暗く落ち込んだ気分を知ってか知らずか、
ハルヒがいつもの様に不機嫌な声を出す。

「朝倉がなんでここに居るのか気になるところだけど……」

そこで俺は気が付いた。ハルヒが男子生徒の腕らしきものを掴んでいる。

あり得ないことだとは思うのだが、まさか超能力者でも捕獲したのか?

そんな期待とともに、ハルヒが男子生徒の腕を掴んでいることに軽い苛立ちを覚えた。

俺はどうかしてるらしい。

70: 2014/09/30(火) 00:16:19.59 ID:Q3+qlDSj0
「今は朝倉の事は置いておいて、新入部員を紹介するわ」

ハルヒが話を進める。

「噂の美形転校生の古泉くんです!」

ハルヒは古泉と紹介した少年の腕組むような形で引き寄せて部室に連れ込む。

超能力であることをほんの少しでも期待した俺は馬鹿だった。

「丁度朝倉が居るから聞くけど、どう?恰好がいいでしょ?」

「え?あ、うん。いいんじゃないかしら。のモデルくらいなら出来そうな感じ?」

いきなり話を振られた朝倉は戸惑いながらも適当な相槌を打つ。

しかし、理由は解らないがさっきからモヤモヤ、イライラする。

71: 2014/09/30(火) 00:17:02.99 ID:Q3+qlDSj0
俺の不機嫌は顔にも出ていたのだろう。

ハルヒがそれに気が付き、「どうかしたの?」と聞いてきた。

その後、何かに気が付いたのかハッとした顔をしたかと思ったら、
したり顔でニターッっとした笑顔を浮かべ、

「はは~ん。解ったわ。もしかしなくても妬いてるでしょ?」

ハルヒはそう言うと古泉の腕に抱きつき体を預けるかのようにしなだれかかった。

「誰が妬くか!俺はもう帰るぞ!」

見ちゃいられん。ごちそうさま。俺は帰ることにした。

72: 2014/09/30(火) 00:18:30.64 ID:Q3+qlDSj0
「ちょっと!待ちなさいよ!!」

ハルヒが何か言っているが知ったことではない。

その日の夜は何だか眠れなかった。

全部ハルヒの所為だ。

この落ち着かない気持ちは……
そうだ!朝倉が古泉の容姿を褒めたからに違いない。

そう思いながらいつの間にか寝ていたのか朝になっていた。

73: 2014/09/30(火) 00:32:20.28 ID:Q3+qlDSj0
朝になりもう一度考えた。ある結論に至り、自然と声が出た。

「ああ、ハルヒが部室に着た所為で超能力者とかが訪れなくなったからイライラしてたんだな」

一晩寝て落ち着いたのか、昨日の悶々としていた原因があっさりと解った。

今日は金曜だ。気分を一新する為にも明日は不思議探しに出かけよう。

俺はベッドの中でそう決めて、登校した。

74: 2014/09/30(火) 01:41:23.83 ID:Q3+qlDSj0
授業が終わり、当番であった掃除も終えた俺は一人部室に向かった。

部室には、長門、朝比奈、ハルヒが着ていた。

朝倉が居ないと思い部室を見渡していると、

「古泉くんを探してるんですか?
 どうしても外せないアルバイトが入ったとかで朝のHRが始まる前に帰ったそうですよ」

と朝比奈さんが声をかけてきた。

こんな時期に公立高校に転校してきたし、学校よりもバイト優先とは夜逃げでもしてきたのか?

俺がそんな感想を持っていると長門が朝倉のことを教えてくれた。

「朝倉涼子は来ない」

残念だ。そんな日もあるだろう。来週に期待だ。

75: 2014/09/30(火) 01:42:33.55 ID:Q3+qlDSj0
>>74 ミス

その日の朝は俺が席に着くなり、ハルヒが話しかけてきた。

「ねぇ、昨日のは----」

話を聞くのも面倒だったから、ハルヒの話を遮った。

「うるさいぞ」

ハルヒが黙った。不気味な沈黙だったがこれでいいのだろう。

76: 2014/09/30(火) 01:43:10.02 ID:Q3+qlDSj0
授業が終わり、当番であった掃除も終えた俺は一人部室に向かった。

部室には、長門、朝比奈、ハルヒが着ていた。

朝倉が居ないと思い部室を見渡していると、

「古泉くんを探してるんですか?
 どうしても外せないアルバイトが入ったとかで朝のHRが始まる前に帰ったそうですよ」

と朝比奈さんが声をかけてきた。

こんな時期に公立高校に転校してきたし、学校よりもバイト優先とは夜逃げでもしてきたのか?

俺がそんな感想を持っていると長門が朝倉のことを教えてくれた。

「朝倉涼子は来ない」

残念だ。そんな日もあるだろう。来週に期待だ。

77: 2014/09/30(火) 01:49:57.29 ID:Q3+qlDSj0
人が揃っているようだから、何故か俯き加減のまま沈黙しているハルヒを無視して朝比奈さんと長門に提案した。

「次の土曜日、要するに明日。不思議探索に行きませんか?」

敬語なのは主に朝比奈さんへの提案だからだ。

「そうね。そういうのもいいかもしれないわね」

亥の一番に反応したのは、さっきまで沈んでいたハルヒだった。

「悪いな涼宮。この不思議探索は三人用なんだ」

俺は参加する気になっていたハルヒに対して現実を突きつけてやった。

78: 2014/09/30(火) 06:32:24.28 ID:Q3+qlDSj0
現実を突きつけられて唖然としているハルヒを放置して二人に不思議探索の話を再開することにした。

「明日の十時。光陽園駅前に集合って事でお願いします」

ここまで言って長門に言うことがあったのを思い出す。

「長門、朝倉にもこの事を伝えておいてくれ」

俺から伝えても良いのだが、朝倉と友達という長門に任せた方が良いだろう。

「ちょっと!三人用なんでしょ!」

ハルヒが口を挟んでくる。

「正直に言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない」

俺は正直な感想をハルヒに告げる。

「なんでよ!有希にみくるちゃん、あんたに朝倉を加えたら四人になるじゃない!」

「朝倉は別枠に決まってるだろ?なんなら、不思議探索をする三人を俺がチェックする形でも構わないしな」

俺は別に自分自身が不思議を見つけたい訳じゃない。

不思議と遭遇した朝倉をサポートしたいだけという本来の目的を思い出す。

「なによそれ!!そっちがその気なら…いいわ!
 有希にみくるちゃん。明日朝九時に北口駅前に集合ね!文芸部としてネタ探しをするわよ」

ハルヒが何故か対抗心を燃やしている。お前の人望で集まる訳がないだろう。

「あ、はい。わかりました~」

「了解した」

二人が俺の提案に賛成の声を上げるのを確認した俺は早々に退散した。

ハルヒが居たのでは不思議に出会えそうもないし、
ハルヒの虫の居所が悪いようだから八つ当たりをされても敵わないからな。

79: 2014/09/30(火) 06:33:29.82 ID:Q3+qlDSj0
そして翌日。

俺は光陽園駅前に居る。

時計を確認した。

時刻は十時半。

遅刻したわけではない。

集合時刻の三十分前。すなわち九時半にはここに着ていたからだ。

かれこれ一時間が過ぎている訳だが二人と朝倉はまだ来ない。

彼女たちは見た目に似合わず、時間にルーズな様だ。

それからさらに十五分程過ぎた。

コンビニで菓子パンでも買おうかと動いたら、駅前の商店街をこちらに向かってひょこひょこと歩いてくる長門を発見した。

制服姿の長門は平日の女学生そのもので、今日が土曜日であったか不安にさせる姿であった。

80: 2014/09/30(火) 06:36:13.13 ID:Q3+qlDSj0
長門の姿に若干の不安を感じつつ安堵したのも束の間、俺は長門の横にいる人物の姿を見て愕然とした。

その人物は誰であろう涼宮ハルヒだった。

長門とハルヒが俺の所にやってきた。

ハルヒが勝ち誇った笑みを浮かべて俺に言ってきた。

「どう?これが人望の差よ!みくるちゃんもあたしの所にきたから」

う、嘘だろ?にわかには信じがたいことをハルヒが言っている。

「一時間以上も待つなんて捨てられた子犬みたいに哀れね」

「待て。なんで俺が一時間以上待っていた知っているんだ?」

「え!?えっと……細かい事はいいのよ!」

こいつは俺を見張っていたのではないだろうか?

そう言えば、俺がここを離れようとした瞬間に登場した気もする。

81: 2014/09/30(火) 06:37:06.09 ID:Q3+qlDSj0
俺の疑念をよそにハルヒが続ける。

「捨て犬みたいで可愛そうなあんたを拾ってやるって言ってるんだから感謝しなさいよね!」

「お前は何を言っているんだ?」

「あたし達のネタ探索に加えてあげるって言ってるのよ」

「断る!」俺がそう言おうと思った瞬間、長門が声をかけてきた。

「一緒に来て欲しい」

平坦で抑揚のない喋り方だったが、まっすぐと俺を見つめる瞳は真摯そのものだった。

ハルヒが一緒にいる以上は不思議なものと遭遇することに期待はできないが、
長門に頼まれた以上は参加しない訳にはいかないだろう。

「解った。そのネタ探しとやらに俺も参加しよう」

俺の言葉を聞いたハルヒは満足度百点でもこうはいかないだろうというほどの満足げな笑顔を浮かべて、

「そうよ!いつもそうやって素直にしておけばいいのに!」

なんて言いながら、首を縦に振っていた。

82: 2014/09/30(火) 06:38:00.41 ID:Q3+qlDSj0
ハルヒはどこかに電話をかけ始めた。

「キョンがどうしても参加したいって言うから、組み合わせを再編するわ。
 駅前の集合場所にきて。あたし達も今から行くから。」

それだけ言うとハルヒは電話切った。誰がどうしても行きたい等と言ったのだろうか?

その後俺たちは電車に乗り、途中で一度乗り換えた上で、十分程度の時間をかけて北口駅にやってきた。

北口駅は光陽園駅と違いターミナル駅として機能している。

高校と住宅街しかない光陽園駅前の住宅街らしい商店街と違い駅ビルなんかも普通にある。

当然のことながら人の数も段違いだ。

朝比奈さんを探すにも気合を入れないといけないななどと思っていたら、

「こちらです」

と男性に声をかけられた。

83: 2014/09/30(火) 06:38:43.80 ID:Q3+qlDSj0
声の主はハルヒが紹介していた転校生の古泉だった。

春物の薄茶色のジャケットに身を包んだ古泉は憎らしいほどに決まっていた。

これで爽やかな笑顔でもしていれば完璧なのだが、惜しむらくは疲れ切った笑顔をしていることだ。

古泉の横には白いワンピースに水色のカーディガンを羽織った可愛らしい天使、いや朝比奈さんが佇んでいた。

美男美女で納得のいかない組み合わせの二人にハルヒが声をかける。

「もう着てたの?それじゃあ、少し早いけどお昼にするわよ。そこでクジもするから」

なんて勝手に決めてずんずんと進んで行く。

そんなハルヒに俺は声をかけた。

「おい!朝倉が居ないぞ!」

「当り前じゃない。これは文芸部の集まりなんだから、文芸部員じゃない朝倉が居る訳ないでしょ。
 あんたは特別に参加させてあげてるんだから、あたしに感謝してよね!」

ハルヒはそう答えると俺の失望など意に介さない様子である店に入って行った。

その店はナゲットに定評のあるハンバーガーショップだった。

ナゲットの原産国は変えたらしい。折角評判になったというのに偉い人の考えることは解らない。

84: 2014/09/30(火) 06:39:45.32 ID:Q3+qlDSj0
銘々に注文した品を頬張り昼食をとっていると、ハルヒがどこで用意してたのか爪楊枝を五本取り出した。

「それじゃあ、クジ引きね」

初めに古泉がクジを引く。

「また無印ですね」

初めの組み合わせもクジだったようだ。

「わたしも」

朝比奈さんがつまんだ楊枝は何の変哲もないものだった。

俺が引いた爪楊枝は、最後尾の部分、こけしの頭に当たる部分が黒々と塗られていた。

長門が引いた爪楊枝にも俺のと同様、ボールペンで色が付けられていた。

ハルヒは残った何の特徴もない爪楊枝をペリカンみたいな口をしながら親の仇敵のような目つきで眺めていた。

どうやら長門と二人で探索することとなったようだ。

思いかけず不思議と出会えるチャンスが転がり込んできた。

棚から牡丹餅とはこのことだろう。

85: 2014/09/30(火) 06:41:34.55 ID:Q3+qlDSj0
俺が結果にほくそ笑んでいると、
ハルヒは突如ボールペンを取り出し、何を思ったのか爪楊枝の最後尾を塗り始めた。

「お、おい----」

俺がハルヒに声をかけていると、パキっと小さな音がした。

音源を確認すると、最後尾分が短くなった爪楊枝を持った長門が、

「私も無印だった」

とボールペンで塗られた部分がなくなった爪楊枝を俺たちに見せた。

「そう!じゃあ、この組みあわせね!」

ハルヒはとても満足したような笑顔だった。

何故かハルヒと二人で探索するはめになってしまったようだ。

90: 2014/09/30(火) 23:41:00.71 ID:Q3+qlDSj0
昼食を終え、ハンバーガーショップを後にした俺はハルヒとともに昼下がりの遊歩道を川に沿って歩いている。

ハルヒと一緒にいる限り不思議に出会えそうもない。

しかもこんな所を知り合いに見られて、友達に噂とかされると恥ずかしい…

俺がそんな帰りたい気分でいるとハルヒが遠慮がちに声をかけてきた。

「あたし、こんなふうに出歩くの初めてなんだ」

「こんなふうに?」

「……男の子と、二人で……」

「はなはだしく意外だな」

「そうよね!あたしみたいに可愛くて、明るい子が放っておかれるはずないからね」

ハルヒの自己評価は高い。谷口の一押しでもあるらしいからマニアの間での評価も高いのだろう。

「ほら、あたしって勉強ができるしスポーツも万能じゃない?
 だから高嶺の花って思われてるのか、あんまり告白されなかったのよね」

ハルヒの自己評価は留まるところを知らない。

「それでも無謀にも告白してくる奴も居るには居たんだけど、それは断ってたからね」

おそらく谷口とか谷口とか谷口のことだろう。

ハルヒは突如足を止め、

「キョン、ちょっと座って話さない?」

と提案してきた。

ハルヒと居ても不思議は見つけられないだろうし、
無駄足を踏まなくて済む分俺としても座れる方が助かる。

本当は帰りたいのだがハルヒの提案を受け入れることにした。

92: 2014/10/02(木) 00:46:04.06 ID:4CgaomBr0
桜の下のベンチに俺たちは並んで座る。

川のせせらぎに耳を傾けていたらハルヒが質問をしてきた。

「キョンはこういうことをしたことはあるの?」

「こういうこと?」

「うん。女の子と二人で散歩したり、ベンチに座って話したり………」

ハルヒは恥ずかしそうに頬を染め、俯きながらもこちらの様子を横目で窺いながら聞いてきた。

デートか何かと勘違いをしているのだろうか?不思議探しはデートじゃないんだぞ。

話をそらすために、質問を無視して答えの解っている質問で返してみることにした。

93: 2014/10/02(木) 00:48:08.12 ID:4CgaomBr0
「それよりもキョンっていうのは誰から聞いたんだ?」

どうせ国木田な訳だが、ハルヒの気をそらすには十分だろう、

「きょんって八丈島の?聞いたって言うか、がきデカで読んだわ」

ハルヒはいきなり何を言ってるのと言いたげな顔だ。

「なに?あんた今頃がきデカなの?まぁ、古い漫画もいいわよね。あたしは今るーみっく----」

饒舌になったハルヒを遮り、再度質問をした。

「いや、俺のことをキョンって呼んでるだろ?」

「あたしが?」

ハルヒが自分自身を指さしながら聞いてきた。

「ああ」

俺は短く肯定する。

「あんたを?」

今度は俺を指さしてきた。人を指さすな。

「ああ」

俺はそんなハルヒに短く肯定の返事をした。

94: 2014/10/02(木) 01:08:04.28 ID:4CgaomBr0
「呼んだことなんかないわ」

ハルヒは腕を組み、

「だいたい、なんであんたがきょんなのよ!」

と、なにを言ってるのと言わんばかりだ。

「いや、俺のあだ名だろ?」

「なに?あんたそんな珍妙なあだ名なの?」

我ながらそう思う。しかも妹にまで呼ばれてるんだぜ。って違う。

「例えば>>29とか>>60とか>>62とかでも呼んでるじゃないか」

「何時のことを言っているのか知らないけど、
 あたしはあんたのことはジョンって呼んでるのよ。
 聞き間違いよ」

「なんでジョンなんだ?」

当然の質問をぶつけてみた。

95: 2014/10/02(木) 23:50:19.29 ID:4CgaomBr0
ハルヒは何かを思い出したかの表情になり、直後には潰したエンジムシの様な顔色になった。

そして思い出を振り払うかのように頭を激しく左右に振り、乱れた髪を整えずに言ってきた。

「中学の時にあんたにそっくりで北高の制服を着た人とちょっとあったのよ」

ハルヒは髪を軽く整えながら続けた。

「あたしがランクを落として北高に進学したのもその所為なの。
 とにかく、あたしにジョンって呼ばれるのはそれくらい名誉なことなの。光栄に思いなさい!」

「そのジョンっていうのは何者なんだ?」

「北高の生徒だと思ったんだけど、北高を見張ってても、生徒に聞き込みをしても解らなかったのよね。
 何者だったのかしら?あんただったって事はないわよね?
 キョン某をジョン・スミスって聞き間違えたかもしれないし」

「お前が中学生の時なら俺も中学生だろ?」

「そうね。でも、実は三留してるとかない?」

「そんな訳ないだろ!」

などと強がってはみたが、留年しないといいなと思ったのは内緒だ。

「そうよね。いくらあんたが馬鹿でもそんな事はないだろうし、もしかしてお兄さんとかいるの?」

「妹ならいるが………」

「そう。今度紹介してよね」

ハルヒはそう言ってから腕を組んで思案しているようだった。

96: 2014/10/02(木) 23:57:56.38 ID:4CgaomBr0
「まぁ、あんたをジョンって呼ぶのはジョンにもあんたにも失礼だから、
 今度からあんたのリクエスト通りキョンって呼んであげる」

俺としては呼んでほしくないのだがという台詞を吐く間もなく、
ハルヒは立ち上り、俺の手を取った。

「さぁ、何時までもここに座ってても仕方がないし、街を散策するわよ!」

俺の意思を無視したハルヒに付き合わされた。

その後、俺たちはひたすらに街をブラついて過ごした。

ハルヒに手を引っ張られながら、コジャレ系のブティックをウィンドーショッピングして回ったり、
ソフトクリームを買って食いながら歩いたり、バッタモノのアクセサリーを往来に広げている露天商を冷やかしたり……
そのようなことをして不思議を求めて散策したのである。

日が沈むころになり、駅にまで連れてこられた俺はハルヒに、

「流れ解散だから、今日はここまでね。それじゃあ、また来週学校で会いましょう」

なんて言われて、甲陽園駅に戻る為に改札口に向った。

一度振り返ったら、ハルヒはまだ見送っていて、目が合うと笑顔で小さく手を振った。

照れくさいという訳ではないのだが、俺は見てみぬふりをして改札の中に入って行った。

99: 2014/10/03(金) 18:10:40.78 ID:q91MHAnX0
週が明けた月曜日。

朝のHR前、中々に上機嫌なハルヒは、

「次のデー…じゃなかった、探索はどこがいいと思う?」

などと意味不明な質問を俺に投げかけてきた。

「待て!なんでお前と探索に行く前提になってるんだ?」

「当り前じゃない。あんたとは誰も一緒に行かないんだから、あたしが付き合ってあげるって言ってるの」

少々不機嫌そうにハルヒは突っかかてきた。

「いいか?この際だからハッキリと言ってやる。俺はお前と探索に行く気はない」

「なんでよ!」

「お前と探索に行くと不思議が隠れ回る気がしてならないんだ」

「なによそれ!あたしだって不思議体験くらいしたことがあるんだからね!」

「例のジョンとか言う奴か?」

「そうよ!なにか文句ある?」

「お前がそう思うんならそうなんだろう。『お前ん中』ではな」

100: 2014/10/03(金) 18:12:29.49 ID:q91MHAnX0
苛立った表情をしたハルヒは、

「なに?下駄箱に手紙でも入ってて調子に乗ってるの?」

と、突拍子も無い事を聞いてきた。

「手紙?なんのことだ?」

「あら?あんたにじゃなかったんだ?
 今朝、朝倉が男子の下駄箱、あんたの場所辺りのを開けてたから、
 てっきり手紙でも貰ったのかと思っちゃった」

「残念ながら俺ではなかったようだな」

「そう。朝倉からお手紙を貰えずに残念ね~」

ハルヒがからかうように言ってきた。

「ああ、そうだな」

「………普段、朝倉、朝倉って言ってる割には随分冷静ね」

ハルヒが疑いの視線を寄越してきた。

「俺は朝倉なら不思議の方からやってくると注目しているだけだからな」

「ふ~ん………でも、なんでニヤけてるのかしら?」

ハルヒは納得できないといった表情だ。

ここで担任がやってきたので、ハルヒの追及は止まった。

101: 2014/10/03(金) 18:13:51.78 ID:q91MHAnX0
ハルヒに知られると面倒そうだったから否定したが、
実は今朝、下駄箱の中にノートの切れ端が入っていたのだ。

そこには、

『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室まで来て』

と、明らかな女の字で書いてあった。

差出人も名宛人も呼び出し以外の用件も書いていないそっけないノートの切れ端であった。

今の今まで無視しようと思っていたノートの切れ端であったが、
ハルヒの言っていることが正しいのであれば、これは朝倉からなのかもしれない。

だが、早まるな、俺!

朝倉がこの様なノートの切れ端で呼び出しをするだろうか?

朝倉ならば、そうだな。
清潔感溢れる質の良い、どこか上品な白い封筒に名前を書いて手紙を出すのではないだろうか?

中の手紙もこのようなノートの切れ端などではなく、きちんとした便箋に、
あの眉毛の様な太くて力強く、それでいて丁寧な楷書で書いてあるはずだ。

文面も季節の挨拶から始まり、かしこで閉じるような丁寧なものだと思う。

その便箋を丁寧に三つ折りにする。それが朝倉だと思う。

ノートの切れ端はそれの対極であるといってもよい。にわかには朝倉には結びつかない。

さりとて、ハルヒの言うことも無視できない。

半分期待しつつ、放課後を待つことにした。

102: 2014/10/04(土) 22:34:17.52 ID:R8V+8zo50
終業のチャイムと共に俺は急いで教室から出た。

ハルヒに捉まるとそのまま付いてきそうな気がしたからだ。

従って、教室から出た俺は部室に寄る訳にもいかず、
食堂でコーヒーを啜ったり、
図書室で興味のない『人体の秘密』などと言う本のこれまた全く持って興味の湧かない『赤ちゃんはどこからくるの』等と言うページを穴が空くほど読んだ。

赤ちゃんはキャベツ畑で出来るというのに、顕微鏡写真とともにもっともらしい嘘が書いてある本だった。

もしノートの差出人が朝倉だったらこの話をしてみよう。

何だったら本の内容が正しいのか朝倉と試してみるのいいかもしれない。

図書室を出た後はそんなことを考えながら校内をぶらついた。

そして気が付けば時刻は五時半。

もういいだろうと思い、夕日で赤くなった誰も居なくなった廊下を一人教室向かった。

103: 2014/10/04(土) 22:59:15.74 ID:R8V+8zo50
「マジで朝倉なんだけど!チョーヤベー!!マジヤバいんですけど!」

俺は努めてなんでもない様にスキップをしながら教室に入った。

「ついに不思議探しをする気になったのか?
 それとも子作りか?人体の秘密に書いてあったのを試してみるか?」

俺は呼び出された原因となった用件を推量してわざとぶっきらぼうに訊く。

「なにを興奮しているのか知らないけどとりあえず落ち着こう、ね?」

教壇に居た朝倉は両手の指を合わせてOの字を作り、軽く首を傾げて言ってきた。

「あ、ああ」

俺が興奮状態だったのを見抜いていたらしい。流石朝倉だ。

「それでなんの用だ?俺としては出来る限り協力したいところなのだが」

朝倉は教壇を降り、俺の真ん前にまでやってきた。

白い顔の半分が夕日に照らされ赤く染まっていた。

「あなたに協力して貰いたいことが一つだけあるんだ」

手を後ろで組んで、朝倉は身体をわずかに傾けた。

104: 2014/10/04(土) 23:00:08.99 ID:R8V+8zo50
>>103 ミス


『朝倉、朝倉』と念じながら教室の前に着た。

そして教室の引き戸に手をかけて深呼吸。

『どうか朝倉でありますように』目を瞑り祈ると共に引き戸を一気に開けた。

俺が目を開く前に教室に居た主が声をかけてきた。

「遅いよ」

声だけで解る。朝倉だ!

105: 2014/10/04(土) 23:00:49.16 ID:R8V+8zo50
「マジで朝倉なんだけど!チョーヤベー!!マジヤバいんですけど!」

俺は努めてなんでもない様にスキップをしながら教室に入った。

「ついに不思議探しをする気になったのか?
 それとも子作りか?人体の秘密に書いてあったのを試してみるか?」

俺は呼び出された原因となった用件を推量してわざとぶっきらぼうに訊く。

「なにを興奮しているのか知らないけどとりあえず落ち着こう、ね?」

教壇に居た朝倉は両手の指を合わせてOの字を作り、軽く首を傾げて言ってきた。

「あ、ああ」

俺が興奮状態だったのを見抜いていたらしい。流石朝倉だ。

「それでなんの用だ?俺としては出来る限り協力したいところなのだが」

朝倉は教壇を降り、俺の真ん前にまでやってきた。

白い顔の半分が夕日に照らされ赤く染まっていた。

「あなたに協力して貰いたいことが一つだけあるんだ」

手を後ろで組んで、朝倉は身体をわずかに傾けた。

107: 2014/10/05(日) 12:56:22.63 ID:LTGbcr7E0
「あなたに氏んで欲しいの」

後ろ手に隠されていた朝倉の右手が一閃、さっきまで俺の首があった空間を鈍い金属光が薙いだ。

朝倉が軍用ナイフの様な物を振ったのだ。

協力をすると言ったのに何を避けているんだ!俺は馬鹿か?

避けた拍子に尻餅をついた俺はその状態のまま反省をした。

……いや、待て。この状況は何だ?
なんで俺が朝倉にナイフを突きつけられねばならんのか。
待て待て、朝倉は何と言った。俺を頃す? ホワイ、なぜ?

俺の考えていることが伝わったのか、朝倉が独白を始める。

「あなたの事は別に何とも思ってないんだけど、涼宮ハルヒのお気に入りになったことを恨んでね」

ヨロヨロと立ち上がる俺を見ながら朝倉はナイフの背で肩を叩いている。

そりゃ、あんなに重そうなナイフを振り回せば肩も凝るだろう。

「あの、肩をお揉みしましょうか?」

こういうときには常套句しか言えない。

108: 2014/10/05(日) 13:18:00.66 ID:LTGbcr7E0
「なに?命乞いのつもりで媚びてるのかしら?」

俺は純粋に朝倉に触りたい、もとい、朝倉の肩こりを心配しているだけなのだが通用しなかったようだ。

「そうだ!ハルヒが何か気に障ったことをしたようだから、これから二人でお仕置きをしに行くのはどうだ?
 例えば、六甲山の山中に放置するとかさ!」

俺は建設的な提案をしてみた。

「う~ん…悪くはないけど、却下。だって、わたしは本当にあなたに氏んで欲しいんだもの」

朝倉は平素と変わらぬ笑顔と鈴の鳴るような声でとんでも無い事を要求している。

「じゃあ、氏んで」

ナイフを腰だめに構えた姿勢で突っ込んで来た。


朝倉の為なら氏ねる!!


と、思ったがいざとなるとやっぱり怖い。朝倉の気が変わるかもしれないから今日は逃げることにした。

109: 2014/10/05(日) 13:19:14.64 ID:LTGbcr7E0
俺は教室の引き戸に向かってダッシュした。

ところが、本来引き戸があるべき場所に引き戸はなく、コンクリートの壁となっていた。

それどころか窓もない。廊下側に面した教室の壁は、まったくの塗り壁さながらにネズミ色一色に染まっていた。

信じられない。

「無駄なの」

背後から近づいてくる声。

「この空間は、わたしの情報制御下にある。脱出路は封鎖した。
 簡単なこと。この惑星の建造物なんて、ちょっと分子の結合情報をいじってやればすぐに改変出来る。
 今のこの教室は密室。出ることも入ることも出来ない」

振り返る。夕日すら消えている。校庭側の窓もすべてコンクリートの壁に置き換わっていた。
知らないうちに点灯していた蛍光灯が寒々しく並んだ机の表面を照らしている。

嘘だろ?

朝倉の周りには超能力者等が集まると思っていたのに……

当の朝倉本人が超能力者だったなんて!!

110: 2014/10/05(日) 13:20:35.95 ID:LTGbcr7E0
薄い影を床に落としながら朝倉がゆっくりと歩いてくる。

「ねえ、あきらめてよ。結果はどうせ同じことになるんだしさあ」

「……超能力者なんだな、お前は」

何回見ても壁は壁でしかない。立て付けの悪かった引き戸も磨りガラスの窓も何もない。

俺はじりじりと机の間をぬって朝倉から少しでも離れようとする。

しかし朝倉は一直線に俺に向かってきた。
机が勝手に動いて朝倉の進路を妨害しないようにしているのに比べて、俺の下がる先には必ず机が一団になっている。

これも試してみよう。

椅子を持ち上げて思いっきり投げつけてみた。椅子は朝倉の手前で方向転換すると横に飛んで、落ちた。

やっぱりだ!間違いない!俺の追い求めていた超能力者が朝倉だったのだ。

一目見た時から運命的なものを感じたのは必然だったのだろう。


「結婚してくれ!!」


俺は思いの丈をぶつけた。

112: 2014/10/05(日) 14:58:52.84 ID:LTGbcr7E0
「うん、それ無理」

無邪気そのもので朝倉は教室で女子同士かたまっているときと同じ顔で微笑んだ。

「じゃあ、こうしよう!付き合う…
 いや、まずは毎日デートに行ったり一緒に登下校する仲が良い友達から----」

急に体が動かなくなり、声も出せなくなった。

「最初からこうしておけばよかった」

これも朝倉の超能力の様だ。まさか身をもって超能力を体験できるとは感激の極みだ。

「あなたが氏ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
 多分、大きな情報爆発が観測できるはず。またとない機会だわ」

ハルヒか……ちょっとぞんざいに扱い過ぎたな。
俺が氏んだら泣いてくれるだろうか?
それとも喜ぶのだろうか?
葬式くらいには来てくれるよな?

「じゃあ氏んで」

113: 2014/10/05(日) 16:59:14.53 ID:LTGbcr7E0
朝倉のナイフが俺の首筋に今にも触れようとした、その時。

天井をぶち破るような音とともに瓦礫の山が降ってきた。

瓦礫に混じって人影が一つ俺の前に降り立った。

粉塵が落ち着くととも人影が明瞭となる。

その人物は長門有希だった。

長門は俺に向けられていたナイフの刃を素手で握りしめていた。

ナイフを素手で握って痛くないのだろうか?いや、問題はそこじゃない。

あの登場の仕方。間違いない。なんてことだろう、長門も超能力者だったのだ。

114: 2014/10/05(日) 18:02:34.23 ID:LTGbcr7E0
その後、二人は『バックアップ』とか『情報結合の解除』とかとよく解らないやり取りをしていた。

そして、なんていうことだろう。二人は俺が夢にまで描いていたサイキックバトルを始めたのだ。

朝倉は蜃気楼の様に姿を隠し、空間に槍の様な物を生じさせて長門を攻撃する。

長門はというと、それを無表情で破壊していく。

「頑張れ朝倉!!」俺がフィアンセを応援したら、俺にも槍が飛んできた。それは長門が破壊してくれたのだが。

勿論、俺は抜かりなくもう一人のフィアンセ、長門も応援したのだが、長門に「邪魔」と蹴飛ばされた。

二人とも照れているのだろう。可愛いハニー達だ。

115: 2014/10/05(日) 18:03:21.25 ID:LTGbcr7E0
そうこうしているうちに、信じられない事態となってしまった。

なんと長門の体をつららの様な槍が貫いたのだ!

「マイ ハニー!」

俺は思わず悲痛な叫びを上げた。

「へいき。…それとあなたにその呼び方をされる筋合いはない」

地面に血だまりを作りながらも平素と変わらぬ風に長門が応じる。

「氏になさい」

そんな長門に、朝倉が揺らぐ空間から腕を触手の様に伸ばし攻撃を仕掛ける。

「終わった」

ポツリと言って、長門は触手を握った。

「情報連結解除、開始」

教室のすべてのものが輝いたと思うと、その一秒後にはキラキラした砂となって崩れ落ちていく。
俺の横にあった机も細かい粒子に変じて、崩壊する。

「そんな……」

天井から降る結晶の粒を浴びながら、朝倉は驚愕の様子だった。

超能力者同士でも驚くことがあるようだ。

117: 2014/10/05(日) 18:03:52.06 ID:LTGbcr7E0
俺が悠長にその様なことを考えていると、なんてことだろうか!

朝倉の腕が結晶化していくではないか!!

「長門!止めるんだ!朝倉が結晶化してるぞ!」

俺が制止するのを見て、朝倉は初めて笑顔以外の表情、驚いた顔を見せた。

それも束の間すぐに例の笑顔に戻り、

「わたしの負けだから仕方がないの。長門さんを恨まないであげてね」

朝倉の胸から足はすでに光る結晶に覆われていた。

「たまには自分に正直になって、涼宮さんとお幸せに。じゃあね」

音もなく朝倉は小さな砂場となった。一粒一粒の結晶はさらに細かく分解、やがて目に見えなくなるまでになる。

さらさら流れ落ちる細かいガラスのような結晶が降る中、朝倉涼子という超能力者は消滅した。

118: 2014/10/05(日) 20:43:05.06 ID:LTGbcr7E0
朝倉涼子はわらったよ。

朝倉涼子はちゅーりっぷのようにわらったよ。

朝倉涼子はじゃあねとわらったよ。

朝倉涼子はわらっていたよ。

それならなぜ朝倉涼子はわらったの。

知らない。

朝倉涼子は氏んだよ。

朝倉涼子は殺されたよ。

朝倉涼子は氏んでしまったよ………。

殺されたよ。

それならなぜ殺された。

わからない。

永訣の朝でも詠めそうな作家の気分だった俺は膝から崩れ落ちた。

120: 2014/10/05(日) 21:12:45.90 ID:LTGbcr7E0
とすん、と軽い音がして、俺はそっちへ首をねじ曲げ、
長門が倒れているのを発見して慌てて立ち上がった。

長門が倒れたのだ。

朝倉に関して言いたいこともあるが、長門も超能力者だ。

放っておくわけにはいかない。

それに朝倉はもういないんだ。くよくよしていても仕方がない。

今の目標は目の前の倒れている、美少女で超能力者でもある長門だ!

「おい! 長門、しっかりしろ、今救急車を、」

「いい」

目を見開いて天井を見上げながら長門は、

「肉体の損傷はたいしたことない。正常化しないといけないのは、まずこの空間」

砂の崩落が止まっていた。

「不純物を取り除いて、教室を再構成する」

見る間に一年五組が見慣れた一年五組へと、元通りに、
そうだな、まるでビデオの逆回しだな、いつもの教室に戻っていく。

俺はまだ寝ている長門の脇に屈み込んだ。

「本当にだいじょうぶなのか?」

確かにどこにもケガがあるように見えない。制服にも穴が開いていなかった。

「処理能力を情報操作と改変に回したから、このインターフェイスの再生は後回し。今やっている」

「手を貸そうか」

俺の伸ばした手に、案外素直にすがりついた。上体を起こしたところで、

「あ」

わずかに唇を開いた。

「眼鏡の再構成を忘れた」

「……してないほうが可愛いと思うぞ。俺には眼鏡属性ないし」

「そう」

次の瞬間にはどこから取り出したのか、長門は眼鏡をかけていた。

121: 2014/10/05(日) 21:20:09.97 ID:LTGbcr7E0
「ようやく引き戸が開いたわ!」

ガサツに戸を開けて誰かが入ってきた。

消滅した朝倉の代わりに入ってきたその人物は誰であろう、

ハルヒであった。

この教室は三人用だったらしい。

123: 2014/10/05(日) 22:05:30.16 ID:LTGbcr7E0
ハルヒは俺たちがいるのに気づいてギクリと立ち止まり、しかるのちに口をアホみたいにパカンと開けた。

この時、俺はまさに長門を抱き起こそうとするモーションに入ったばかりだった。

その静止画をみたら、逆に押し倒そうとしているとも思えなくもない体勢なわけで。

「朝倉以外でもいいわけ?」

ハルヒが消え入りそうな声で聞いてきた。

「朝倉だけじゃなくて、みくるちゃんや有希の名前を出しながらもあたしを外してたから冗談だと思ってたのに…」

ハルヒは俯きながら続ける。

「あたしってそんなに魅力がないの?」

「なぁ、ハルヒ……」

「………」

俺の呼びかけに対してハルヒは俯いたままだ。

「さっき知ったんだが、実は朝倉と長門は----」

「知らないわよバカ!!」

ハルヒは俺に罵声をかけると走って出て行った。

ハルヒが居た場所に水滴が落ちていたのか、少し濡れている。

もしかして………漏らしたのか?高校生にもなって仕方がない奴だ。

125: 2014/10/05(日) 22:24:52.00 ID:LTGbcr7E0
「あーあ、わたし知らないっと」

後ろから、聞き覚えのある涼やかな声が聞こえた。

聞き間違えようのないその声は朝倉のものだった。

振り返ると夕日を背にした朝倉が立っていた。

やっぱりこの教室は三人用だ。

126: 2014/10/05(日) 22:25:47.46 ID:LTGbcr7E0
逆光で朝倉の表情は窺えないが、おそらく何時もの様に笑っているのだろう。

長門が声をかけてきた。

「処理能力を情報操作と改変に回した影響で、涼宮ハルヒの接近に気がつけなかったのは迂闊だった」

「長門さんでもそんなことがあるのね」

つい先ほど消滅させられたはずの朝倉が茶々を入れる。

「あなたにひとつ言っておく。見ての通り朝倉涼子は再構成した。
 もしこの教室での出来事を話しても信じる者はいない。従って誰にも言わないこと勧める」

長門が眼鏡越しに俺を真っ直ぐに見据えている。

「そうね。その方があなたのためよ」

朝倉が長門の意見に同意した。先ほどまでサイキックバトルをしていたとは思えない。

127: 2014/10/05(日) 22:26:37.60 ID:LTGbcr7E0
「それじゃあ、今夜は頑張って。じゃあね」

朝倉はそう言うと長門の手を引いて教室から出て行った。

同じマンションと言っていたから一緒に帰るのだろう。

さっきまでのサイキックバトルは仲が良い友人同士のじゃれ合いだったのだろうか?

それを見せてもらった俺ももしかして友人扱いなのか?

朝倉は今夜頑張ってと言っていた。

もしかして、今夜再びサイキックバトルに招待してくれるのかもしれない。

期待しながら、俺も帰路についた。

129: 2014/10/06(月) 17:23:18.92 ID:oVriJjjo0
その日、朝倉からの連絡を待っていたが、待てど暮らせど連絡はなかった。

何時もは遅くとも八時半にはベッドに潜り込んでいた健康優良児の俺なわけだが、
その日は頑張って十時半まで頑張っていたにも関わらずだ。

もっとも、いつも通りに寝ようと思っても、
夕方のサイキックバトルに興奮して寝れなかった自信はある。

そしてその日の十時半。

流石に睡魔に抗い切れずに床に就いた俺だったが、
目が覚めた場所は何時ものベッドではなかった。

130: 2014/10/06(月) 21:39:56.08 ID:oVriJjjo0
「キョン起きてよ」

妹とは違う女性の声で目を覚ました。

「やっと起きた?」

目を開けた俺の前には不安そうなハルヒの顔があった。

「目が覚めたと思ったら、いつの間にかこんな所にいて、隣りであんたが伸びていたのよ。
 どういうこと? どうしてあたしたち学校なんかにいるの?」

ハルヒに言われて周りを見渡す。どうやらハルヒの言う通り学校のようだった。

もしかしたら朝倉によって夜の学校へとテレポートをさせられたのかもしれない。

ハルヒに恨みをもっていたようだし、俺に対して今夜なにかあるようなことも言っていたからな。

そうとなればハルヒに言うことは決まっている。

「落ち着いて聞けよ。これは朝倉の仕業だ」

「なんで朝倉の名前が出てくるのよ」

ハルヒは露骨に嫌な顔をした。

「驚くなよ。なんと朝倉と長門は----」

俺が超能力だったのだと続けようとしたらハルヒが叫んだ。

「もう!なんで他の女の子話題ばっかりするのよ!!聞きたくないわ!バカ!!」

ハルヒは一方的にまくし立てると校舎の方に走り出した。

132: 2014/10/06(月) 21:41:25.96 ID:oVriJjjo0
「お、おい!待てって!!」

走るハルヒを追いかける俺だったのだが、その距離は縮まるどころか離れていく。

流石は自称文武両道なことはある。俺よりも速い。

なんで追いかけたかだって?

追われれば逃げたくなるし、逃げられれば追いかけたくなる。

男ならこの気持ち解るよな?

133: 2014/10/06(月) 21:42:02.26 ID:oVriJjjo0
ハルヒが校舎に逃げ込んだ所までは確認できたのだが、そこからは完全に見失った。

仕方がなしに部室に向かった。

ハルヒが向かう先は電話のある職員室かなじみ深い一年五組の教室、
さもなくば、勝手知ったる部室であろうとあたりを付けたのだ。

部室に入った俺は、誰が置いたか知らないが部室の備品である魔法瓶の湯を使って、
これまた持ち込み者不明のインスタントコーヒーの元を溶かしてコーヒーを入れる。

ハルヒが部室に来るまで暫しのコーヒーブレイクとすることにした。

コーヒーを飲みながら、部室の窓から曇っているのか星一つない灰色の空を眺めた。

夜の学校はこれはこれで趣深いと思っていたら、校庭にハルヒの姿を発見した。

ハルヒをどうやって捕まえようかと思案している時、中庭が青白く光っていることに気が付いた。

中庭に光る巨人が直立していたのだ。

どうやら夜の学校は三人用で、空き枠に謎の巨人が入ってきたようだ。

まさかハルヒが居る時にこんな不思議に出会えるなんて思ってもいなかった。

そのあり得なさに俺は気が付いた。

ああ、これは夢なんだ。

134: 2014/10/07(火) 02:01:46.94 ID:VBbrtOMw0
俺が夢と気が付いたのも束の間、巨人は校舎を破壊し始めた。

夢とはいえ瓦礫に潰されての圧氏は勘弁して欲しい。

俺は窓から校庭に脱出した。

ハルヒと目が合った。

「キョン!あれ何だと思う?」

目が合うとハルヒが俺に問いかけてきたが、
すぐに何かを思い出したかのような表情となり逃げだした。

当然俺も本能に従い追う。

校庭で追いかけっこをしているうちに、ハルヒは校舎の方に逃げていく。

「おい!そっちは危ないぞ!!」

俺の注意に対して、

「うるさいわね!あたしは放っておいて欲しいんだから、危ないと思うなら追いかけてこないでよ!!」

などと、走りながら応じてきた。

ハルヒの言葉を無視して校舎に近づいた時、上から瓦礫が降ってきた。

例の巨人が校舎を壊したのだ。

135: 2014/10/07(火) 02:02:35.18 ID:VBbrtOMw0
幸いにも瓦礫は俺には当たらなかった。

流石は夢。何というご都合主義だろうか。

こうなるとビビッて丸くなりながらしゃがみこんでしまった自分の情けなさに涙が出そうだ。

そんな負け犬気分でいると、

「キョン!キョン!」とハルヒが必氏な声が聞こえた。

関係ないが、二回連続で呼ばれると往年のアイドルの様なあだ名だと思う。

瓦礫の山で姿は確認できないが、ハルヒはこちらに走ってきているようだ。

折角のチャンスなので、瓦礫に身を隠し、ハルヒがくるのを待ち構える。

そんな姑息な手段を考えていると、瓦礫を回り込んできたハルヒと目があった。

「キョン!無事だったのね!!」

駆け寄ろうとするハルヒの機先を制してハルヒの腕を掴み引き寄せた。

「ようやく捕まえた」

ここまで来たら、夢なんだしもっと進めてもいいよな?

朝倉もたまには正直になれと言っていたし、自問の間もなく俺はハルヒの唇を強引に奪った。

数秒後、再び瓦礫が落ちてきた。今度は当たった様で背中に衝撃が走った。

136: 2014/10/07(火) 02:03:03.82 ID:VBbrtOMw0
見慣れた天井がそこにはあった。

そして俺はベッドから落ち、背中をしこたま床にぶつけたようだった。

あのような夢を見るとは俺は欲求不満の様だ。

時計を確認すると時刻は三時十五分。再び寝ることにした。

137: 2014/10/07(火) 02:04:16.70 ID:VBbrtOMw0
翌日、朝のHR前にハルヒが話しかけてきた。

「ねぇ、あたしと不思議探索に行ったら光る巨人とかと出会えそうな気がしない?」

「しないな」

「なによ!行ってみないと解んないじゃない!あたしは夜の学校とかが怪しいと思うな」

「今わの際に行ってやる」

ハルヒは不満そうに口を尖がらせていた。

俺は強がっては見たものの、今度の土曜にでもハルヒと不思議探索に行ってみるのも悪くないな
と、柄にも無い事を思いながらそれを見つめていた。




チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。

台無しにするオマケを付けます。

138: 2014/10/07(火) 02:04:48.33 ID:VBbrtOMw0
ある日の放課後のことだった。

ハルヒが来る前の部室でいけ好かない二枚目の古泉と将棋を打っていた。

その古泉が突然俺に言ってきた。

「涼宮さんには願望を実現する能力があるんですよ」

にこやかな笑顔を崩さず突拍子も無い事を言ってきた。

「なんだ?盤外戦のつもりか?」

「まぁ、多少はそうですが、事実なんですよ」

矢倉囲いを作りつつ古泉が応じる。

139: 2014/10/07(火) 02:05:20.19 ID:VBbrtOMw0
「ちなみに僕は超能力者なんです」

「全くそうは見えんな」

超能力者は長門だろう。

「実は涼宮さんは超能力者とかには興味がなかったのですが、
 あなたの願いを叶えたいという願望を持っていたのです。
 健気だと思いませんか?」

「思わんな」

古泉は軽く溜息をついて、

「相変わらず、涼宮さんにはそっけないですね。」

と言ってきた。

古泉の戯言を聞き流しながら、俺は金無双で急戦を仕掛ける。

140: 2014/10/07(火) 02:08:50.74 ID:VBbrtOMw0
「では、別の話をしましょう。涼宮さんは結構漫画が好きなんです」

「ああ、るーみっくわーるどにハマっているとか言っていたな」

何時だったかの不思議探索で饒舌になったハルヒが言いかけたことを思い出す。

「ええ。追いかけるヒロインと素直になれずに他の女性を追いかけ回す主人公の話
 ……なにか思い当りませんか?」

「ハルヒが鬼娘とでもいいたいのか?まぁ、全く持って一ミリも思い当らんが」

古泉がやれやれとでも言いたげだ。

「高橋留美子の作品は五話当たりで主人公がヒロインを押し倒したら終わる話だよな」

「アニメ界の巨匠の様な事をおっしゃいますね。非常に頼もしいセリフですが」

「頼もしい?何を言っているんだ?」

「実は涼宮さんがあなたに合わせようとSF風味な他の漫画を読んでいるうちにハマってしまいましてね」

「ほう?」

「まぁ、あなたが先ほど言った事ささっと実行してくだされば、すぐに解決します。期待してますよ」

「さっきから一体何を言っているんだ?」

その時、乱暴に部室のドアが開かれた。

こんな開け方をするのはハルヒしかいない。

そしてハルヒが挨拶をした。




「じょうじ」





チラ裏SS 今度こそオチマイ

142: 2014/10/07(火) 03:17:25.55

144: 2014/10/07(火) 05:24:21.64
乙!
おまけは元ネタが分からなかったけどSS自体は凄く面白かった

引用元: キョン「この中に宇宙人、(略)朝倉涼子のところに行きなさい。以上」