1: 2012/08/30(木) 18:03:38.97 ID:I2qHzxZY0
俺はようやく全てを理解した
いや、理解してしまったのだ

※アイマスキャラによるミステリSSですが、作品を知らなくても解けるようになっています
 途中で犯人やトリックを読み切られてしまっても、そ知らぬ顔で投稿していきます
 矛盾や無理のある展開、論理の穴等がありましたら容赦なく指摘してください

10: 2012/08/30(木) 18:15:44.15 ID:I2qHzxZY0
その日はずっと雨が降っていた

春香「今日もお天気が悪いですね…」

P「そうだな」

美希「ジメジメしてると眠くなっちゃうの…」

春香「いや、それいつもだよね…」

小鳥「プロデューサーさん、みんな揃いましたよ」

P「ありがとうございます、小鳥さん」

P「それじゃあみんな、生っすかの打ち合わせやるから会議室に集合な」

12: 2012/08/30(木) 18:18:18.39 ID:I2qHzxZY0
会議室には、明日の番組に出る予定のアイドルが集まっていた

亜美「兄ちゃん、事件は会議室で起こってるんじゃないよ!」

真美「スタジオで起こってるんだよ!」

P「お前たちは誰からそういうのを教わるんだ?」

亜美「えっとね、ピヨちゃん」

P「…あんまりあの人の言うこと聞いちゃだめだぞ」

真美「はーい」

俺は立ち上がり、話を始めた

P「よし、じゃあ明日の確認をしておくぞ」

14: 2012/08/30(木) 18:21:14.57 ID:I2qHzxZY0
P「今週の司会は美希だな」

美希「うん、大丈夫だよ」

生っすか!?サンデーとは、俺たち765プロのレギュラー番組だ
タイトルの通り生放送で、週代わりでアイドルの誰か一人が司会進行を務める
そしてそれ以外のメンバーが自分の持ちコーナーを担当する、いわゆるバラエティ番組だ

P「もうみんな自分の出番は把握してあると思うけど、その紙で改めて確認しておいてくれ」

16: 2012/08/30(木) 18:24:20.97 ID:I2qHzxZY0
15:00~ 司会挨拶(美希・第一スタジオ)
15:02~ 響チャレンジ①(響・外ロケ)
15:07~ あみまみちゃん(亜美・真美・第二スタジオ)
15:15~ CM
15:18~ 菊地真改造計画①(真・雪歩・第二スタジオ)
15:25~ 響チャレンジ②
15:30~ CM
15:32~ 菊地真改造計画②
15:40~ ミニライブ(春香・千早・第一スタジオ)
15:50~ 響チャレンジ③
15:55~ 司会挨拶

響チャレンジ 外ロケで響が様々な課題に挑戦するコーナー
         ③の時に成功するのが望ましい

菊地真改造計画 真のファッションを雪歩がコーディネートするコーナー
           雪歩の私物化が進んでいるといわれているが、極めて好評

あみまみちゃん シュール系ショートコント
          双子で瓜二つの二人ならではのコーナー

ミニライブ   数少ないアイドルらしいコーナー
         今回の曲目は「I Want」

18: 2012/08/30(木) 18:27:24.24 ID:I2qHzxZY0
亜美「いやー、ひびきんは毎度忙しいですなあ」

真美「うんうん」

響「な、なんくるないさー」

真「ところで、今回は何やるの?」

響「それが、動物園で猛獣に芸を仕込むんだ…」

真「それは…」

響「うがー!なんでアイドルがそんな危ないことしなきゃならないんだー!」

真美「ひ、ひびきんなら大丈夫だよ!」

亜美「芸どころか友達になれるって!」

響「うう、他人事だと思って…」

19: 2012/08/30(木) 18:30:35.15 ID:I2qHzxZY0
P「それと、アシスタント役は決めておいてくれたか?」

千早「はい、前半は私が着ます」

亜美「後半は亜美が着るよー!」

この番組では、司会以外の誰かが司会者のアシスタントとして常駐することになっている
その際には大きなカエルの着ぐるみを着なければならない

姿も見えないし声も出さないからスタッフの誰かでも構わないのだが
着ぐるみが少し小さめということもあり、
手の空いているアイドルが務めるのが慣例になっている

21: 2012/08/30(木) 18:33:12.07 ID:I2qHzxZY0
P「よし、それじゃあ亜美は二階の衣装室で着ぐるみに着替えて…」

P「それから三階の第一スタジオで千早と交代してくれ」

千早「はい」

P「亜美はちょっと忙しいけど大丈夫か?」

亜美「だいじょーぶ、任せといてよ!」

P「無理するなよ、疲れてれば他の誰かが代わるから」

亜美「ありがと、兄ちゃん!」

春香「千早ちゃん、カエルの中の人は喋っちゃいけないんだよ」

千早「ええ、わかってるわ」

春香の言うとおり、気ぐるみに入ったアイドルは喋ってはいけないという風習がある
誰が作ったのかは知らないが、面白半分でみんなはそれを守っていた

22: 2012/08/30(木) 18:36:46.03 ID:I2qHzxZY0
雪歩「でも、千早ちゃんが着るのはなんだか意外だね」

真「それもそうだね、ボクも春香が着るものだと思ってたよ」

雪歩「着ぐるみのサイズ的には春香ちゃんでもいいと思うんだけど…」

春香「私はどっちでも良かったんだけど、千早ちゃんがね」

千早「実はちょっと着てみたくて…、変かしら?」

真「そ、そんなことないよ!」

雪歩「か、カエル姿の千早ちゃんも可愛いと思うな!」

千早「ふふっ、ありがとう」

残念ながら全身を包む着ぐるみなので、誰が着ても可愛いさは変わらない

23: 2012/08/30(木) 18:41:02.22 ID:I2qHzxZY0
P「当日は事務所に10時集合だから遅れないように」

P「何か質問は?」

みんなが他のみんなを見渡した

P「じゃあ体調にはくれぐれも気をつけてくれ、解散」

アイドル達の元気のいい挨拶が、会議室に響いた

25: 2012/08/30(木) 18:44:11.84 ID:I2qHzxZY0
千早「あの、プロデューサー」

P「ん、どうした?」

会議の後、書類仕事に従事している俺に千早が声をかけた
まだ事務所には何人かが残っている

千早「今日、帰り車で送っていただけませんか?」

千早「その、傘を忘れてしまって…」

外を見ると、確かに未だ雨が強く降っている
しかし、この雨は朝からずっと降り続いていたはずだ

26: 2012/08/30(木) 18:47:32.50 ID:I2qHzxZY0
P「来るときに傘を使わなかったのか?」

千早「いえ、あの、それは…」

千早「こ、壊れてしまったんです!本当は…」

千早「事務所に着いたときにちょうど、ですから…」

P「…分かった、じゃあもう少し待っていてくれ」

P「あと一時間くらいで終わると思うから」

千早「は、はい」

28: 2012/08/30(木) 18:50:44.46 ID:I2qHzxZY0
亜美「兄ちゃーん、なにやってんのー?」

P「お仕事」

真美「なんのー?」

俺の両肩に亜美と真美がもたれてきた
千早は席を外している

P「そうだな、もし明日15時から亜美と真美の取材させてくださいって言われたらどうする?」

亜美「ええー、明日は生っすかあるから無理っしょ!」

P「そうだな、それなのに俺がその取材を受けちゃったらどうなる?」

真美「えっとー、テレビと取材だったらテレビの方が大事だから、取材をすっぽかすかな?」

P「そうすると、取材するつもりだった記者さんはどう思う?」

亜美「そりゃーもうブッチギレ間違いなしだね!」

真美「お詫びに札束を敷いたお菓子の箱をプレゼントしないとね!」

P「そうならないように、スケジュールを組むお仕事だ」

亜美「おおー」

真美「兄ちゃんも大変ですなあ」

30: 2012/08/30(木) 18:53:31.35 ID:I2qHzxZY0
P「ほら、もう暗いんだから早く帰れ」

亜美「はーい、いこ、真美!」

真美「うん、じゃあね兄ちゃん!」

俺が声をかけようとしたとき、二人はもう玄関のところにいた

P「気をつけてなー!」

亜美「兄ちゃんもねー!」

真美「また明日ー!」

ドアが閉まってからも、二人の明るい声が外から聞こえてきた

31: 2012/08/30(木) 18:56:08.76 ID:I2qHzxZY0
美希「ハニー!」

今度は美希が後ろから抱き着いてきた

美希「今日、ハニーの車で家まで送ってほしいな」

P「傘、忘れたのか?」

美希「ううん持ってきたよ」

P「なら一人で帰れるだろ、お前の家は近いんだし」

美希「美希、ハニーと一緒に帰りたいな」

P「お前、明日は忙しいんだから早く帰って寝たほうがいいぞ」

美希「むー、じゃあ今日は一人で帰るの…」

P「気をつけてな」

美希「はーい、なの」

32: 2012/08/30(木) 19:00:30.22 ID:I2qHzxZY0
千早「はい、プロデューサー」

P「ありがとう、千早」

千早が熱いお茶を淹れてきてくれた
他にはもう誰も残っていない

千早「プロデューサーは毎日遅くまで頑張っているんですね」

P「仕事だからな」

千早「いえ、それでも立派です、とても…」

P「もう少しで全部片付くから」

千早「はい…、あの、急がなくても結構ですので」

P「急いでないよ」

千早「そうですか…」

それから、千早はソファでじっと俺を待っていた

33: 2012/08/30(木) 19:03:08.55 ID:I2qHzxZY0
P「千早、そろそろ出るぞ」

千早「はい」

仕事が片付き、俺は帰り支度をしながら言った
千早のマンションは俺の家への帰り道の途中にある

P「時間大丈夫か?」

千早「はい、大丈夫です」

P「そうか」

俺たちは一緒に事務所を出た
玄関の傘立てには特徴のない傘がひとつ置いてあったが、俺は何も言わなかった

35: 2012/08/30(木) 19:07:35.13 ID:I2qHzxZY0
千早「あの、プロデューサー…」

P「ん?」

千早「プロデューサーには、あの、お付き合いしている方はいらっしゃらないんですか?」

帰りの車内で突然千早はそんなことを訊いてきた
内心焦ったが、正直に答えた

P「いないよ」

千早「け、結婚とか、するつもりはないんですか?」

P「ああ、今はそれどころじゃない」

P「この仕事が面白くてたまらないんだ」

千早「…そうですか」

P「いずれにしても、相手がいないことにはな」

千早「プロデューサーなら、そこは問題ないと思います」

P「…そうかな」

千早「ええ、きっと…」

36: 2012/08/30(木) 19:12:27.23 ID:I2qHzxZY0
車が千早の住んでいるマンションに到着した

千早「ありがとうございました、プロデューサー」

P「どういたしまして、今日は早く寝ろよ」

千早「あの、うちで夕食を一緒に食べませんか?」

P「アイドルの家に上がるわけにはいかないだろ」

千早「あの…、でしたらこの近くのレストランでも…」

千早「わ、私がおごりますから!」

最近の千早はいつもこんな感じだ
けれど、俺はそれが嫌ではなかった

P「分かったよ、ただしおごるのは俺だからな」

38: 2012/08/30(木) 19:16:02.60 ID:I2qHzxZY0
P「じゃ、また明日な」

俺たちは近くのレストランで簡単に食事を済ませた

千早「はい…、今日はすみませんでした」

P「構わないよ」

千早「あ、あのっ!」

P「ん?」

千早「い、いえ、やっぱり何でもないです」

P「そうか、じゃあおやすみ」

千早「はい、おやすみなさい…」

俺は千早の家の前から走り去った
バックミラーに映る彼女は、まだこちらを見ている

40: 2012/08/30(木) 19:21:09.01 ID:I2qHzxZY0
P「それじゃあ行ってきます」

小鳥「はい、みんな頑張ってね!」

翌日、時間通りに俺たちは765プロを出発した
慣れている仕事とはいえ、みんな緊張している
テレビ局に行く前に、響がロケをする動物園に向かった

P「響、無茶するなよ」

響「な、なんくるないさー!」

俺も出来れば彼女についていてやりたいが、そういうわけにもいかない
響を降ろし、俺達はようやくテレビ局へ到着した

42: 2012/08/30(木) 19:24:43.80 ID:I2qHzxZY0
このテレビ局には二階と三階に一つずつスタジオがあり、
三階が司会等で使うメインの第一スタジオ、
二階が他のコーナーを収録する第二スタジオになっている

またそれぞれの階に控え室、衣装室、トイレ等があり、
出番じゃない出演者は基本的に控え室で待つことになる

第一スタジオでは司会進行とミニライブ
第二スタジオでは響チャレンジを除く他のコーナーが収録される

よって、今日は第一スタジオの三階では美希と春香と千早が、
第二スタジオの二階では雪歩・真・亜美・真美が過ごすことになる

俺は基本的に第一スタジオにいなければならない
今日直接見ることが出来るのは美希と春香、千早だけで、
他のコーナーは映像を通して見守ることになる

43: 2012/08/30(木) 19:28:09.75 ID:I2qHzxZY0
P「雪歩、真、亜美、真美、俺はずっと三階にいなきゃならないけど大丈夫か?」

真「大丈夫ですよ、安心してください!」

真美「そーそー!」

P「ああ、それと亜美は二階の衣装室で着替えてから三階に来てくれ」

亜美「おっけー!」

P「それじゃあみんな、しっかりな」

P「もし何かあったらすぐに言ってくれ」

雪歩「はい、プロデューサー」

四人とは二階で別れ、美希・春香・千早の三人と三階へ上がった

45: 2012/08/30(木) 19:33:01.05 ID:I2qHzxZY0
俺は第一スタジオで各所に挨拶を済ませた
美希が司会者の席に座り、熱心に台本のチェックをしている

春香「プロデューサーさん!ほら見て下さいよ」

春香の声に振り向くと、そこにはカエルの着ぐるみを着た千早が立っていた
胴体と頭部に分かれている内の頭の部分はまだ被っておらず、
頬を染めた顔でうつむいている

春香「可愛いですよねー!」

P「そうだな、可愛いよ」

千早「そ、そんな…」

春香「千早ちゃん、写真撮ってあげる」

千早「あ、ありがとう春香」

千早「あの、プロデューサーも一緒にいいですか…?」

P「ああ、もちろん」

俺たちは二人並んで、春香に携帯のカメラで撮ってもらった

46: 2012/08/30(木) 19:37:02.41 ID:I2qHzxZY0
千早「春香、それって私の携帯に送れるの?」

春香「うん、大丈夫だよ」

千早「それじゃあ、お願いしていいかしら?」

P「俺にも送っておいてくれ」

春香「はーい、今送りましたよ」

まもなく、俺と千早の携帯に今の写真が送られてきた

この着ぐるみはもっさりとしているが、
手の部分は携帯を操作できるほどにスリムに作られている
よって一人で着脱することも可能だ

千早は何も言わずその画像を見つめていた

47: 2012/08/30(木) 19:40:32.87 ID:I2qHzxZY0
春香「プロデューサーさん、私も一緒に撮ってもらっていいですか?」

P「ああ」

同じように、二人を撮った写真をそれぞれの携帯に送った

春香「ありがとうございます、プロデューサーさん!」

P「あと30分くらいで本番だからな」

千早「はい」

そういって、千早は春香と一緒に衣装室へ入っていった

49: 2012/08/30(木) 19:43:17.85 ID:I2qHzxZY0
美希「日曜午後の新発見、神出鬼没の生中継、生っすか!?サンデー」

美希「今週の司会はミキ、星井美希が担当しますなの」

美希「それじゃあ早速最初のコーナー、響チャレンジなのー!」

美希「動物園にいる、ひびきー!」

本番が始まった
アシスタントの千早は着ぐるみを着て、カメラに映らない位置で待機している

響「はいさーい!」

響「自分は今日、この動物園のたちに芸を仕込むんだ!」

響「ライオンとか虎とかもいるけど…」

相変わらず、無茶な要求にもめげずに響は頑張っていた

美希「今週も頑張ってねー、響!」

響「お、おー!」

ここでカメラはスタジオに戻ってくる

美希「テレビの前のみんな、次はあみまみちゃんだよ!」

50: 2012/08/30(木) 19:46:06.84 ID:I2qHzxZY0
第二スタジオを使うコーナーは完全に画面が切り替わる
そこを見計らって、美希がこちらに駆け寄ってきた

美希「ねえハニー、トイレ行ってきていい?」

P「おいおい、本番前に行っておくように行ったろ?」

美希「ごめんなさいなの…、でもちょっと我慢できないかも」

もうあみまみちゃんは始まっているが、次に入るCMも含め時間は10分近くある
そして、番組は始まったばかりだ

P「俺と一緒に、後で皆さんに謝るんだぞ」

美希「うん!」

美希は小走りで廊下へ出て行った

52: 2012/08/30(木) 19:50:11.77 ID:I2qHzxZY0
俺はスタジオのテレビで亜美と真美の奇妙なコントを眺めていた
彼女達がちゃんととやれるかが心配で、とても純粋に楽しめはしない
しかし俺の不安をよそに二人は観客の爆笑を誘っていた

美希「ただいま、ハニー」

P「おかえり」

美希「さっきね、春香とトイレで会ったよ」

P「そうか」

美希「ずっと一人で退屈だって」

P「まあ、今日は仕方ないさ」

今日の春香の出番は後半のミニライブの10分間だけ
対照的に美希や響は最初から最後まで出ずっぱりだ
番組の構成上、そういった偏りはどうしても出てきてしまう

テレビを見ると、あみまみちゃんが終わりCMに入るところだった
CM明けは、ひとまずカメラがこちらに戻ってくる

P「ほら、もうすぐだぞ」

美希「うん、オッケーなの!」

53: 2012/08/30(木) 19:53:21.85 ID:I2qHzxZY0
美希「生っすか!?」

美希「えーっと、次のコーナーはお待ちかねの…」

美希「菊地真改造計画!」

美希「第二スタジオの雪歩ー!」

雪歩「はい、こちら第二スタジオです!」

カメラが第二スタジオに切り替わった
画面には雪歩と真が映っている

54: 2012/08/30(木) 19:57:11.97 ID:I2qHzxZY0
雪歩「みなさんこんにちはー!」

雪歩「今日も真ちゃんを日本一、いえ世界一格好よくするために張り切っていきます!」

真「ちょっと雪歩!何でかっこよさ前提なのさ!」

真「それに、いつもそんな感じだと観てる人も飽きちゃうし…」

真「たまには、こう、フリフリしたのもいいんじゃないかな?」

雪歩「ダメだよ真ちゃん!このコーナーは一番視聴率を取ってるんだからね!」

真「えっ、そうなの!?」

雪歩「みんな真ちゃんの格好いい姿をみたいんだよ!」

雪歩「そう、あくまでも視聴者さんのため!視聴率のため!」

雪歩「だから仕方ないのっ、仕方ないんだよ真ちゃん!」

真「ちょっと、雪歩…?」

雪歩「真ちゃああああああん!」

56: 2012/08/30(木) 20:00:08.86 ID:I2qHzxZY0
瞬間、カメラは第一スタジオに戻ってきた
尺が大幅にあまってしまっている

着ぐるみを着た千早が、スタッフから受け取った手紙の束を美希へ届けた

美希「カエルさん、ありがとうなの」

カエルは恥ずかしそうにその場を離れた

美希「えーっと、時間が余ったから応援のお手紙を読むの」

美希「最初のお便りは、東京都…」

俺は千早に手を振った
表情は分からないが、彼女は会釈してそれに答えた

57: 2012/08/30(木) 20:03:42.54 ID:I2qHzxZY0
美希が手紙を読んで時間稼ぎをしている間に、
真美とカエルの着ぐるみがこちらへやってきた

真美「兄ちゃんお疲れー!」

P「お疲れさん、二人とも良かったぞ」

真美「えへへー、当たり前っしょ!」

P「こっちは亜美だよな?」

真美「そうだよー」

代わりに真美が答えた
やはり着ぐるみの中身は喋ってはいけないらしい

俺は千早に衣装室へ引き揚げるように合図をした
彼女も何も言わずに一礼してスタジオを出て行った

58: 2012/08/30(木) 20:06:30.75 ID:I2qHzxZY0
美希「生っすか!?」

美希「次のコーナーは、響チャレンジ!」

美希「動物園にいる、ひびきー!」

スクリーンに響と動物たちの姿が映る

響「はいさーい!」

響「美希!自分、もうみんなと友達になれたぞ!」

響「ほら、ライオンにお手したりも出来るんだ!」

響「これで今週は響チャレンジ成功だなー!」

満面の笑みの響とは対照的にスタジオの空気が重くなった
響チャレンジは3パートに分けられており、今は2パート目だ
言うまでもなく、成功は最後に持ってきたほうが視聴者の興味は持続しやすい

60: 2012/08/30(木) 20:09:41.80 ID:I2qHzxZY0
美希「わー、さすが響なの」

響「へへー!」

美希「でも、残りの時間はどうするの?」

響「…あ」

美希「そのへん、ちゃんと考えたほうがいいと思うな」

その言葉でスタジオの空気が和んだ
おそらく、美希なりのフォローだったのだろう

61: 2012/08/30(木) 20:13:01.99 ID:I2qHzxZY0
雪歩「あの、プロデューサー…」

P「雪歩、どうした?」

第二スタジオにいるはずの雪歩が第一スタジオに来ている
といっても、歩いて1分もかからない距離だが

雪歩「すみません、さっきは取り乱してしまって…」

P「ああ、そのことは気にするな、面白かったから大丈夫だ」

P「それより、次の出番まであんまり時間がないぞ?」

雪歩「はい、実はネクタイをお借りしたくて…」

P「ネクタイ?」

雪歩「真ちゃんに似合うと思ったんですけど見つからなくて…」

P「なるほどな」

俺はネクタイを外し、雪歩に渡した

P「結び方は分かるか?」

雪歩「はい大丈夫です、それじゃあ行ってきます!」

俺は雪歩とハイタッチを交わし、走っていくのを見送った

62: 2012/08/30(木) 20:15:29.61 ID:I2qHzxZY0
美希「それじゃあ、残りの時間は響に動物園の可愛い動物を紹介してもらうの」

響「な、なんくるないさー!」

美希「よろしくなのー」

美希「CMの後は、菊地真改造計画、後編!」

美希「チャンネルはそのまま、ミキとの約束だよ!」

とりあえず、響チャレンジ3パート目の中止は免れた
CMが明ければ番組も後半戦に入る

64: 2012/08/30(木) 20:18:32.05 ID:I2qHzxZY0
雪歩「皆さん!お待たせしましたー!」

雪歩「このカーテンの中に、格好良くなった真ちゃんがいまーす!」

雪歩「それでは、どうぞー!」

真「ど、どうも…」

カーテンが開くと、観客席から大歓声が上がった
主に女性客の

65: 2012/08/30(木) 20:21:39.98 ID:I2qHzxZY0
雪歩「今回はビジネスマン風にコーディネートしてみました!」

雪歩「出来る男みたいで素敵だよ、真ちゃん!」

真「ボク、女の子なんだけど…」

雪歩「そんなの関係ないよ!ほら、ネクタイもとっても似合ってるし!」

真「あはは…、でも確かにこのネクタイは結構お気に入りかも…」

真「これ持って帰りたいなー、なんて…」

カメラ目線で、真は恥ずかしそうにそう言った

この時、俺はあることに気が付いた
春香と千早がまだスタジオに来ていない

あと10分でミニライブが始まるというのに、だ

66: 2012/08/30(木) 20:24:28.91 ID:I2qHzxZY0
俺は二人の携帯に連絡をしたが繋がらなかった

P「真美、春香と千早を見なかったか?」

真美はずっとスタジオにいて、邪魔しない程度にくつろいでいた

真美「え、見てないよー?」

P「そうか…」

真美「いないの?」

P「ああ、ちょっと探してくる」

真美「あ、真美もいくよー!」

俺と真美はスタジオを後にした
心配そうに、カエル姿の亜美がこちらを見ていた

68: 2012/08/30(木) 20:28:03.66 ID:I2qHzxZY0
真美「あれ、兄ちゃん」

P「どうした?」

真美「衣装室、鍵閉まってるよ」

まず控え室を覗いたが、二人はいなかった
次に衣装室を確認しようとしたのだが…

P「…わかった、ちょっと待ってろ」

俺は急いでスタジオにいるスタッフから合鍵を預かってきて、真美に渡した

P「これで中に入って、二人がいたら早く準備するように言ってくれ」

真美「ラジャー!」

P「俺は他の階を見てくる」

そう言って、俺は階段の方へ向かった

69: 2012/08/30(木) 20:30:51.67 ID:I2qHzxZY0
背後で悲鳴が上がった
真美の声だ

俺は急いで衣装室の方へ戻った

P「真美!どうした!?」

真美「に、に…、にに兄ちゃん…」

真美は扉の反対側の廊下の壁に背をつけ、ガチガチと歯を鳴らしていた
顔面は蒼白で、今にも泣き出しそうな目をしている

真美「はる、は、はるるんが…」

俺は衣装室の中に入った
その時見たものは、空のカエルの着ぐるみと、倒れている春香の姿だった

P「春香!」

俺は倒れている春香に駆け寄り、頬を軽く叩いた
返事どころか、呼吸もない

最後に脈拍を確認し、俺はようやく事態を受け入れた
確かに、天海春香は氏んでいた

71: 2012/08/30(木) 20:33:45.78 ID:I2qHzxZY0
真美「兄ちゃん…!」

俺は廊下で座り込んでいる真美を抱きかかえ、スタジオまで走った
ステージは既に完璧に準備され、春香と千早が来るのを待っていた

P「救急と警察を呼んでください!そして放送を中止してください!」

スタジオのスタッフ全員がいっせいに俺の方を向く
俺は責任者に事情を話してから、真美を美希と亜美のところへ連れて行った

亜美「二人とも、どーしたの?」

亜美がカエルの頭の部分を外しながら言った

P「悪い、後で話すよ」

P「それより、真美のそばにいてやってくれ」

亜美「う、うん」

俺は放心状態の真美を二人に預けた

放送は特別番組に切り替わっている
俺はすぐに衣装室へ引き返した
何より彼女のことが気がかりだったのだ

72: 2012/08/30(木) 20:37:10.23 ID:I2qHzxZY0
再び衣装室へ入ると、春香の遺体は同じ姿勢で床に倒れていた

近くにはミネラルウォーターのペットボトルが転がっている
それは春香が愛飲しているものだ

未だに彼女は見つかっていない
テレビ局の外へ出ていないのならば、もうここしかない

俺はロックを外し部屋のロッカーを開けた

やはりその中に彼女はいた
安らかな表情で、如月千早は氏んでいた

75: 2012/08/30(木) 20:39:56.74 ID:I2qHzxZY0
美希「ハニー、一緒にゴハン食べに行こ?」

P「…悪い、食欲ないんだ」

美希「もう、それでも食べないと倒れちゃうよ」

あの日から一ヶ月が経った
生っすか!?は終了し、今はアイドルとは関係のない番組を放送しているらしい

765プロは様々な面で打撃を受けたが、一応アイドル事務所としての形は保っている

マスコミの取材は当初苛烈なものだったが、やがて沈静化した
どうやら、テレビ局はあまりこの事で騒ぎたくないようだった

しかし、俺の中では未だに深い悲しみと憤りが渦巻いている

77: 2012/08/30(木) 20:42:48.65 ID:I2qHzxZY0
美希「あ!ハニーがタバコ吸ってる!」

P「…ちょっと、考え事をな」

美希「タバコ吸わないとだめなの?」

P「ああ…」

一月が経ち、俺は改めて事件について考えることにした
警察の捜査内容も一通り聞いている

二人の氏因は水溶性の毒によるものだった
さらに、同じ種類の毒で氏んだことも分かっている
ものの数分で氏に至る劇薬だ

78: 2012/08/30(木) 20:45:27.53 ID:I2qHzxZY0
当初は外部犯の犯行だと思われた

しかし、第一・第二スタジオと階段には監視カメラが設置されている

それによると、怪しい人物が俺たちのいたフロアに出入りしている様子はなかった
第一スタジオは三階にあるため、窓からの侵入もまず考えられない

次に、番組スタッフによる犯行とも考えられた
だがもともと人数の少ない番組であり、全員が明確なアリバイを持っていた
監視カメラから、第一・第二スタジオ共に誰一人持ち場を離れていないことも分かっている

79: 2012/08/30(木) 20:48:56.90 ID:I2qHzxZY0
最後に疑われたのは俺と、俺たち765プロのアイドル達だった
動機の面から考えれば最も疑わしいところだろう
しかし、監視カメラ等からそれも否定された

あの時間、階段の監視カメラには雪歩、亜美、真美の三人だけが映っていた
雪歩は俺にネクタイを借りに第一スタジオに来た時と、それを持って第二スタジオに戻るときだ

亜美と真美は、自分達のコーナーを終えて第一スタジオにやってくる時に
この時亜美は二階で着替えていたため、カエルの着ぐるみを着て映っていたのだが

そして階段のカメラに映った時間とスタジオのカメラに映った時間にほとんど差がないことから、
この三人が途中、衣装室に寄ったことはないと見られている

それ以外の時間、雪歩はずっと第二スタジオに
亜美と真美は自分の出番が終わってからは第一スタジオにいた

82: 2012/08/30(木) 20:53:20.76 ID:I2qHzxZY0
美希は司会としてほとんどの時間を第一スタジオで過ごしていた

一度トイレに行くために席を外したが、その時はまだ千早はカエルの中で生きていた
この時に控え室か衣装室にいる春香を頃すことが出来たとしても、千早を頃すことは無理だ
現場の状況から、先に氏んだのは千早であることはほぼ間違いない

またトイレから比較的早く戻ってきていることもあり、
この短時間であの状況を作り出すのは不可能であるとされた

真とはテレビ局に入ってから事件が発覚するまで会っていない
自分たちの出番までは雪歩と一緒に行動し、それから収録に入っている

コーナーの間に雪歩が第一スタジオに来たときには一人だったが、
控え室には戻らずに第二スタジオで待機していた
この事は第二スタジオのスタッフの証言と監視カメラによって確認されている

響はそもそも現場にいなかった

そして俺はずっと第一スタジオにいた

つまり、二人を殺せる人間は誰もいなかったのだ
…本人たちを除いて

84: 2012/08/30(木) 20:57:07.99 ID:I2qHzxZY0
千早が亜美と交代した15:20頃から、
真美が春香の氏体を見つけた15:45頃の間に果たして何があったのか

当然、現場の状況も警察は調べた
様々な人物の指紋が見つかったが、
765プロアイドルの指紋は被害者の二人と、第一発見者の真美のものしかなかった

衣装室のドアは鍵がかかっており、さらに千早はロッカーの中に入れられていた
このロッカーは内側のものがドアを開けてしまわないように外側からロックすることができるタイプだ
実際ロックされていなければ、千早は自身の重さでロッカーから飛び出していただろう

つまり、千早以外の誰かが千早をロッカーに入れた後にロックをしたということだ

床に転がっていたミネラルウォーターのペットボトルからは春香の唾液と毒が検出されている
よって、春香がこれを飲んで氏んだことはまず間違いない
しかし千早が毒を飲んだコップやペットボトルは見つかっていない

86: 2012/08/30(木) 21:00:42.75 ID:I2qHzxZY0
また、俺たちが千早だと思っていたカエルの着ぐるみには他の誰かが入っていたのではないか、という疑問もある
しかしあの時姿を見せなかったのは春香だけで、
春香も美希がトイレに行った際に彼女の姿をみかけている

他のアイドルはカエルがスタジオにいる間、全員一度はカメラに映っている
よって、あのカエルの中身は千早以外にはあり得ないということになる

仮に春香が入っていたとしても、なぜそんなことをしたのかが分からない
春香が千早を一方的に頃し、生きていたように見せかけたのだろうか?
そこまでしても結局春香も氏んでしまっているのだから、意味はないように思える

87: 2012/08/30(木) 21:03:16.49 ID:I2qHzxZY0
以上の状況から、警察は二つの仮説を導いた

『天海春香が如月千早に毒を飲ませ殺害し、ロッカーに入れてから自分も後追いの形で同じ毒を飲み、氏んだ』

あるいは

『二人で心中を試み、何らかの理由で如月千早は氏ぬ前にロッカーに入り、天海春香が氏ぬ前にロックをした』

客観的に見て後者は極めて不自然であるため、前者が警察の出した結論だ
俺もその考えが最も妥当だと考えている

いずれにしても本人たちが氏んでしまっているので、彼らが追うものはもう何もない

だが、俺や事務所のみんなが抱いている疑問はなお残っている
誰が見ても、春香と千早は自頃するような精神状態ではなかったのだ

88: 2012/08/30(木) 21:08:50.60 ID:I2qHzxZY0
しかし、俺は事件についてそれ以上考えることはしなかった
真相への興味よりも、春香、そして千早を失った悲しみの方がずっと大きかったのだ
俺が思っていた以上に、俺は彼女に依存していた

立ち直るのにはかなりの時間がかかった
それも、美希や他のみんなに支えられてようやくだ

それまでの分の遅れを取り戻すために、俺は精一杯働いた
様々なアイドルと出会い、苦楽を共にし、そして別れた

俺は以前のようにこの仕事を楽しめるようになれた
そして私生活でも様々な、プラスの変化を経験した
しかし時折事件のことを思い出すと、俺はやりきれない気持ちになった

そんな風にして、10年が過ぎ去った

91: 2012/08/30(木) 21:11:45.99 ID:I2qHzxZY0
P「チハヤ、お待たせ」

チハヤ「もう、遅いよパパ!」

この日も雨が降っていた
俺はあるアイドルと結婚し、一児の父親になった
妻は毎日忙しく、俺が娘の幼稚園への送り迎えをしている

10年前に千早と春香が氏んだときは、まさかこんな幸せを得られるとは考えもしなかった
決して忘れはしない、明日は二人の命日だ
そういえば、10年前の今日は…

93: 2012/08/30(木) 21:14:22.61 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「パパ、どうしたの?」

P「昔な、チハヤと同じ名前の女の子をこうして車に乗せていたことがあったんだ」

P「今からちょうど10年前の今日で、その日も雨が降っていた」

チハヤ「その子もチハヤっていうの?」

P「ああ」

チハヤ「その子、今なにしてるの?」

P「氏んじゃったよ」

チハヤ「えー、なんで!?」

そう
なぜ、千早は氏んだのだろう

P「…わからない」

チハヤ「わかんないの?」

P「ああ」

俺は正直に言った

97: 2012/08/30(木) 21:17:04.51 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「パパ、ちはやちゃんのこと好きだったの?」

P「うん」

チハヤ「うわー、だからチハヤにおなじなまえつけたんだ」

チハヤ「さいてーだよ、パパ!」

P「チハヤの名前はママがつけたんだ」

チハヤ「そうなの?」

P「ああ」

98: 2012/08/30(木) 21:20:05.08 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「ママは、ちはやちゃんのこと知ってるの?」

P「よく知っていたよ」

P「その子ともう一人が一緒に氏んでいてね、ママもその場にいたんだ」

P「ママも、他の友達もたくさん泣いていた」

チハヤ「ふーん、かなしいね」

P「うん、悲しいな」

チハヤ「でも、もしちはやちゃんとパパがけっこんしてたら、チハヤはうまれなかったよね?」

P「そうだな」

チハヤ「だったら、それでよかったのかも」

そう…、なのかもしれない
俺はあの日のこと、そして千早のことを思い出していた

100: 2012/08/30(木) 21:23:38.53 ID:I2qHzxZY0
P「ただいま」

チハヤ「ただいまー!」

彼女はまだ家に帰っていない
相変わらず忙しい日々を送っているのだ

俺はチハヤを連れて風呂に入った
頭の中では、まださっきの会話が尾を引いている

101: 2012/08/30(木) 21:26:25.95 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「このまえ、ようちえんの男の子にね」

P「うん」

チハヤ「ラブレターもらっちゃったの」

P「うん」

チハヤ「でもね、チハヤ、こどもにはきょうみないから」

P「うん」

チハヤ「パパ?」

P「うん」

チハヤ「パーパッ!」

P「うん?どうした、チハヤ」

チハヤ「もう、ちゃんと人のはなしはききなさい!」

P「ごめんごめん、何の話だ?」

チハヤ「もういいよ!」

チハヤ「どうせ、むかしの女のことでもかんがえてたんでしょ!」

この子は俺なんかよりもずっと頭がいい
もしかしたら親バカかもしれないが

102: 2012/08/30(木) 21:29:30.17 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「ちはやちゃんはしんじゃったけど」

チハヤ「それでパパとママはけっこんできたし、チハヤもパパとママに会えたんだもん」

チハヤ「それでいいじゃん!」

P「…うん、そうだな」

P「もう大丈夫だよ」

確かに、千早の氏がなければ今の形の幸せはなかっただろう
彼女はひどく落ち込んでいた俺を、献身的に気遣ってくれた

今思えば、あの日を境に彼女との関係は大きく転換していった

あの日を境に…

P「…いや、まさか」

チハヤ「どうしたの?」

全身が冷たくなる
最悪の仮定が頭に浮かんだ

俺はそれを振り払おうとする
考えないほうがいい、そう言い聞かせた

105: 2012/08/30(木) 21:32:38.52 ID:I2qHzxZY0
しかし…

千早、そして春香の氏
どちらも俺をよく慕っていた
おそらく、プロデューサーとしてだけではなく…

俺は動揺を抑えきれず風呂から出た
チハヤが心配そうに声をかけてくれるが、上手く返事が出来ない

俺はしまっておいたタバコを吸った
何年ぶりだろう、彼女と結婚してからは吸った記憶がない

あの日…
確かに、彼女なら不可能ではない
いや、おそらく彼女にしか…

何より、それが今まで出したどの仮定よりも自然だった

108: 2012/08/30(木) 21:36:13.64 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「あ!パパがたばこすってる!」

P「チハヤ」

チハヤ「なに?」

P「ママのこと好きか?」

チハヤ「大好き!」

P「パパのことは?」

チハヤ「パパも大好きだけど、たばこすうパパはきらい!」

P「そうか…」

あの日から今日まで、そしてこれからの日々も
俺の立場もチハヤの気持ちも家族の幸せも、全て彼女の思惑通りなのか

俺はようやく全てを理解した
いや、理解してしまったのだ

その時、玄関のチャイムが鳴った

110: 2012/08/30(木) 21:40:01.77 ID:I2qHzxZY0
やはり、お前が…

















美希「ただいまー!」

お前が全てを仕組んでいたんだろう?

114: 2012/08/30(木) 21:43:13.97 ID:I2qHzxZY0
美希「チハヤ、いい子にしてた?」

チハヤ「うん!」

美希「ただいま、ハニー」

彼女は俺にキスをした

P「ああ、おかえり…」

美希「どうしたの、元気ないよ?」

チハヤ「ママ、パパがさっきたばこすってたよ!」

美希「えっ、本当に?」

チハヤ「うん」

美希「ふーん…」

美希がこちらに視線を向けたが、俺は目を背けることしか出来なかった

116: 2012/08/30(木) 21:46:27.18 ID:I2qHzxZY0
P「チハヤ、もう寝る時間だぞ」

チハヤ「はーい…」

俺は出来る限り普段どおりに振る舞っていた
しかし、そんな抵抗も彼女には無意味だろう

チハヤ「おやすみなさい、パパ、ママ」

P「ああ、おやすみ」

美希「おやすみなさい、チハヤ」

チハヤが子供部屋に入り、俺と美希は二人きりになった

美希「ねえ、ハニー」

P「ん?」

美希「なんで、タバコ吸ったの?」

P「…ちょっと、考え事をな」

美希「ふうん…」

117: 2012/08/30(木) 21:49:31.16 ID:I2qHzxZY0
P「美希、明日はやっぱり無理なのか?」

美希「うん」

その空気に耐え切れず、俺は分かりきった質問をした

俺が知る限り、美希が今まで二人の墓参りをしたことはない
何かと理由をつけて、毎年この日は俺の誘いを断っていた

P「…本当は行くのが嫌なんじゃないのか?」

美希「ううん、そうじゃないの」

美希「けれど、もう行かないって決めちゃったから」

美希「別に二人のことが嫌いだったって訳じゃないんだよ?」

美希「でも、そう決めたの」

彼女達の間に何があったのかは分からない
美希が真犯人だから、行くことがためらわれるのだろうか

ただ、俺は彼女にそれ以上何も言えなかった

118: 2012/08/30(木) 21:53:15.15 ID:I2qHzxZY0
寝室で俺たちは同じ布団に入っていた

美希「ねえ、ハニー」

P「ん?」

美希「タバコ吸って、何を考えてたの?」

P「…いや、なんでもないよ」

美希「…そっか」

美希「それじゃあミキ、もう何も聞かないよ」

美希「ハニーとチハヤと、ずっと一緒にいたいから」

やはり、彼女は俺が真相を悟ったことに気が付いていた
そしてお互いもうそのことは触れないでおこう、そう提案してきたのだ

完敗だ

結局、俺は彼女に何も聞けなかった
そしてこれからも聞くことはないだろう

俺にとっては真実や正義より、家族の幸せの方が大切だ
例えそれが、彼女の手のひらの上に築かれた幸せだったとしても

美希「おやすみ、ハニー」

P「ああ、おやすみ」

119: 2012/08/30(木) 21:56:51.63 ID:I2qHzxZY0
春香『ねえ美希、ちょっといい?』

美希『どうしたの?』

春香『最近、千早ちゃんとプロデューサーって仲良すぎない?』

美希『そうだね』

春香『だよねー』

春香『私、プロデューサーさんは絶対に取られたくないの』

春香『美希もそう思うでしょ?』

美希『うん、まあね』

春香『そこで私考えたんだけどね…』

生っすか収録の数日前、春香はミキにある話を持ちかけてきたの

126: 2012/08/30(木) 22:06:25.43 ID:I2qHzxZY0
春香の考えはこうだったの

生っすかが始まる前に、春香が千早さんにカエルの着ぐるみを脱いでもらう
それから、紙コップで毒の入った飲み物を飲ませて頃す
使った紙コップはちぎってトイレに流して処分しておく
氏体はロッカーに隠しておいて、着ぐるみには代わりに春香が入る

千早さんがその時はまだ生きていたように見せかけるために
そうすれば、殺されたのはアシスタントを終えてからだと思われるから

千早さんが珍しく着ぐるみを着たいって言ってきたから、
それを利用しようと考えたみたい

亜美か真美が着ぐるみを着てスタジオに来たら、
アシスタント役を交代して衣装室に戻って、念のため鍵をかける
着替えているところを誰かに見られたら困るからね

着ぐるみを脱いでから出番があるまでの間は、スタジオで人と話したりしてアリバイを作っておく
時間が来たら、千早さんがいないことをハニーに伝えて、誰かが千早さんを見つけ出すのを待つ

美希は春香が着ぐるみに入っている間、司会の途中で一度控え室の近くのトイレに行く
その時に春香を見かけたって美希が証言すれば、春香のアリバイが成立するから
つまり犯行は自分が全部するから、無実になるために協力してほしい

それが、春香の計画だったの

127: 2012/08/30(木) 22:11:09.71 ID:I2qHzxZY0
春香が千早さんを殺そうと思ってたことにはあまり驚かなかったの
ハニーと千早さんへの春香の気持ちはよく分かってたから

でもその話を聞いている間、美希的には結構疑問があったの

まず、警察が千早さんの遺体を調べたら殺された時間が分かっちゃうかもしれないの
もし本番前に氏んでたことがバレちゃったら、
じゃあ、あの時カエルの中にいたのは誰だっていうふうになっちゃうよね

そこで美希が春香のアリバイを証言するくらいで大丈夫なのかな?
着ぐるみも調べられたりしたら、きっと春香が着たことも分かると思うし
ちょっと着てみただけだとかの言い訳は出来ると思うけど、やっぱり厳しいんじゃないかな

その他にも何が起こるかわからないし、完璧に成功させるのは難しいとミキは思ったの

それでミキはそう言ったんだけど、春香はそのへんあんまり深く考えてなかったみたい
ただ、とにかく千早さんを早く頃したいとしか思ってなかったの

きっと、嫉妬でおかしくなっちゃったんだと思うな

130: 2012/08/30(木) 22:14:24.89 ID:I2qHzxZY0
それと、もう一つの疑問

もしそれが上手くいっても、それからどうするの?
千早さんが氏んでも、それで春香がハニーと結ばれるわけじゃないんだよ
それに美希だって、きっと他のみんなだって、千早さんや春香に負けないくらいハニーのことが好きだもん

もし千早さんがいなくなってからハニーとくっつくのが美希だったらどうするの?
ハニーとラブラブになって、しかも春香の罪を知ってる美希を、それからどうするの?

そのことは、春香には聞けなかったの

春香のことは、美希にはもう止められそうになかったの
でも、放っておいたらそのうち…

そう思って、美希は美希で別の計画を立てたの

132: 2012/08/30(木) 22:17:43.22 ID:I2qHzxZY0
そう思って、美希は美希で別の計画を立てたの

美希『わかった、手伝うの』

春香『ほんと!?さっすが美希!』

美希『ところで春香』

春香『何?』

美希『毒薬はどこで手に入れたの?』

千早さんを頃した春香を、ミキが頃す

それも自頃したように見せかけて
そうすれば美希は無事だし、手強いライバルが二人減ってラッキーだもんね

134: 2012/08/30(木) 22:22:03.83 ID:I2qHzxZY0
犯行当日、春香の計画は意外と上手くいったの

まず、千早さんに着ぐるみを脱ぐように言って、それから毒を飲ませて頃したの
千早さんからしたら、春香が自分を頃すなんて夢にも思わないから簡単だよね

その後は着ぐるみを着て千早さんになりすまして、亜美とバトンタッチして
とりあえず、千早さんが殺された時間をごまかすことには成功したの

ミキも言われたとおりに一度だけトイレに行くふりをした
きっとカエルの中の春香は、ミキが春香のアリバイを作るための行動だと思ってたと思うの
一応春香との約束も守ろうと思って、ハニーに春香を見たよって嘘をついたけどね

でも本当は違う

スタジオを出たミキは、衣装室に置いてあった春香のドリンクに毒を入れた
もちろん、指紋はつけないようにね

135: 2012/08/30(木) 22:25:53.31 ID:I2qHzxZY0
春香はいっつも同じミネラルウォーター持ち歩いて飲んでいたの
他のみんなもそれは分かってるから、春香以外が間違って飲む心配はなかったの

もし春香がそれを飲まなかったり、そもそもペットボトルを持ち込んでいなかったり…
要するに、何かミキの予定が狂うことがあったらとりあえずその日は春香の計画に従うつもりだった
何かアクシデントがあっても、ずっとスタジオにいたミキの立場は春香に比べたらずっと安全だしね

実際には気ぐるみを脱ぎ終わった後にすぐミネラルウォーターを飲んだみたいで、
ミニライブの時間にはとっくに春香は氏んじゃってたの

第一発見者になるのは多分ハニーだと思ってた
でもなぜか真美が最初に見つけることになっちゃった
あれはちょっとかわいそうだったな

137: 2012/08/30(木) 22:30:10.83 ID:I2qHzxZY0
結局、事件はどちらかがもう一方を頃して、もう一人が自殺
それか二人で心中、というふうに警察は考えたの

千早さんがロッカーに入れられていたから、
千早さんが殺されて春香が自殺っていう説が有力だったみたい

美希や他の人たちも最初は一応容疑者だったんだけど、
それぞれがお互いにアリバイを証明しあったからすぐに疑いは晴れたの
それにテレビ局もこの事は大事にしたくなかったみたいで、早くに捜査は終わっちゃった

二人が氏んで、一番悲しんでたのはハニーだった
ご飯も全然食べなくなっちゃって、すごく顔色が悪かったの

そんなハニーを見ることと、ハニーをそんな風にさせるようなことをしたことが、強く胸を締め付けたの
ハニーのためにもミキのためにも、早くに元気になって欲しかった

そんなハニーに、ミキは暇さえあれば話しかけた
もちろん、下心はたっぷりあったけどね

139: 2012/08/30(木) 22:35:42.35 ID:I2qHzxZY0
ミキが大好きなハニーと結ばれるためだけじゃなくて、
ミキがずっと捕まらないでいられるためにも

ハニーは警察より熱心に事件のことについて考えてたの
頭もいいから、もしかしたらハニーならいつか真相に気づいちゃうかもしれないと思ったの

でもハニーを頃すわけにはいかない
そんなことをしたら元も子もないから

もしハニーが真相に気づいても何も言わないでいてくれるためには、
それくらい親密な関係になっていればいいとミキは考えたの

出来ればミキとハニー、二人だけの関係じゃなくて…

だからミキは、結婚して子供が出来ればこの事件は本当の意味で終わると思ったの
そうすれば、ハニーはきっと真実よりもその幸せを選んでくれるはずだから

141: 2012/08/30(木) 22:42:26.42 ID:I2qHzxZY0
でもやっぱり、ミキも親友を二人失って結構辛かったの
変なの、自分が頃したはずなのに

特に千早さんは、ミキにとって特別な人だったの
ハニーとは違う、特別な人

ミキは今までそのことを千早さんにも、誰にも言ったことがなかったの
それと千早さんに謝ることもまだしてなかったし

お墓に言っても意味はないかもしれないけど、
最後にミキは千早さんにちゃんと話そうと思ったの

そしてミキは一度だけ、内緒で千早さんのお墓参りに行った

142: 2012/08/30(木) 22:45:48.60 ID:I2qHzxZY0
美希『千早さん、こんにちはなの』

美希『ミキ、すっごく自分勝手だけど、今になってあのことを少し後悔してるんだ』

美希『千早さんとも春香とも、正々堂々勝負すればよかったなって思うの』

美希『だって、ハニーったらすっごく落ち込んでたんだもん』

美希『おかしいよね、そうなるのは分かってたはずなのに』

美希『ミキがこんなことを言う資格はないかもしれないけど』

美希『ごめんなさい、千早さん』

147: 2012/08/30(木) 22:59:05.38 ID:I2qHzxZY0
美希『ミキね、765プロに来るまで、『尊敬』って何なのか分からなかったんだ』

美希『意味は知ってるよ、『あんなふうになりたいな』とか思うことだよね』

美希『ただ、それまでそんなことを誰かに感じたことがなかったの』

美希『だってミキ、小さい頃から勉強も運動も好きじゃないけど得意だったし』

美希『他の子よりモテるし、胸もおっきいし』

美希『だから、ミキはそのままでいればいいって思ってたの』

美希『けど765プロで千早さんと出会って、びっくりしたの』

美希『あんなに歌が上手いのに、もっと上手くなりたくてとっても努力してるんだもん』

美希『歌うのって、どこまでやればゴールなのかなんてわからないのに』

美希『でも千早さんは、ただ歌のためだけに走り続けてたんだよね』

美希『それってすごいことだと思うな』

美希『それに、優しくて、カッコよくて…』

美希『ハニーが好きになるのも仕方ないよね』

149: 2012/08/30(木) 23:02:59.27 ID:I2qHzxZY0
美希『ミキね、今まで誰かを「尊敬」したのは千早さんだけだよ』

美希『多分、これから先もそんな人には会えないと思うの』

美希『だから、千早さんの名前をもらうね』

美希『男の子だとちょっと変かな?別にいいよね』

美希『いつになるか分からないけど、美希に子供が出来たら』

美希『千早さんの、名前をもらうね』

美希『それを言いに今日はここに来たの』

美希『千早さんが嫌がると思うから、もうここには来ないよ』

美希『さようなら、千早さん』

151: 2012/08/30(木) 23:05:00.28 ID:I2qHzxZY0
美希「おはよう、ハニー」

P「ああ、おはよう」

朝起きると、昨日のような張り詰めた空気はなくなっていた

美希「ごめんね、美希もうお仕事行かなくちゃ」

美希「ハニーとチハヤの朝ごはんは用意してあるからね」

P「ありがとう、美希」

美希「ううん、じゃあ行って来るね」

P「ああ、行ってらっしゃい」

美希は俺にキスをして、チハヤの寝顔を見てから家を出た

152: 2012/08/30(木) 23:08:40.12 ID:I2qHzxZY0
P「チハヤ、朝だぞ」

チハヤ「うん…」

チハヤは昔の美希に似て、朝に弱かった

P「起きて、パパと一緒に朝ごはんを食べよう」

チハヤ「おきてるもん…」

P「目が閉じてるぞ」

チハヤ「じめじめしてるとねむくなる…」

P「それ、いつもだろ」

チハヤを起こし、俺たちは向かい合って美希の作ってくれた朝食を食べた
こうしていると昨晩、美希に何も言わないで良かった、なんて思ってしまう

154: 2012/08/30(木) 23:10:16.07 ID:I2qHzxZY0
支度を済ませ、チハヤを車のチャイルドシートに乗せた

チハヤ「パパ、きょうは、ちはやちゃんたちのおはかまいりにいくの?」

P「ああ」

チハヤ「あー、ふりんだ!」

P「お前は誰からそういう言葉を教わるんだ?」

チハヤ「えっとね、アミちゃんとマミちゃん」

P「…あんまりあの二人の言うこと聞いちゃだめだぞ」

156: 2012/08/30(木) 23:12:24.78 ID:I2qHzxZY0
チハヤ「ねえ、パパ」

P「ん?」

チハヤ「チハヤね、ずっと、パパとママといっしょにいたいよ」

P「…大丈夫だ」

P「パパもママも、ずっとチハヤの側にいるよ」

チハヤ「ほんと?」

P「ああ、本当だ」

チハヤ「やくそくだよ?」

P「ああ、約束だ」

俺は幼稚園でチハヤを降ろしてから、春香の墓へ向かった

159: 2012/08/30(木) 23:15:59.03 ID:I2qHzxZY0
到着すると、見慣れた先客がいることに気がついた

亜美「あ、兄ちゃん!」

P「もうおじさんだよ」

真美「そんなことないよー」

亜美と真美はまだ765プロで活躍している
美希を除けば最古参のアイドルだ

亜美「もう千早お姉ちゃんのとこには行ってきたの?」

P「この後行くよ」

真美「私たちもう行ってきたよ、兄ちゃん時間大丈夫?」

P「今日は遅刻しても平気なようにしておいたからな」

P「多分遅れますって、小鳥さんに言っておいてくれ」

亜美「うん、分かった」

162: 2012/08/30(木) 23:18:27.88 ID:I2qHzxZY0
真美「ねえ兄ちゃん、ちょっといい?」

P「ん?」

真美「ちょっと向こうで…」

亜美「おやおや、不倫ですかなー?」

真美「そういうのじゃなくって!」

亜美「ごゆっくりー」

真美「もう!」

真美は俺を少し離れた場所へ連れて行った

166: 2012/08/30(木) 23:26:09.99 ID:I2qHzxZY0
P「どうしたんだ?」

真美「うん…、あの、10年前の事件でね…」

P「…うん」

真美「もしかしたらみんな、私が犯人だって思ってるんじゃないかなって…」

P「どうしてだ?」

真美「鍵が閉まってたって言ったのも、鍵を開けたのも私だから」

真美「それに、最初にはるるんの氏体を見つけたのも…」

真美「だから、私がはるるんの飲み物に毒を入れたら…」

P「真美」

真美「え?」

P「スタジオと階段の監視カメラを調べて、お前と亜美が三階の衣装室に入っていないことは証明されている」

P「だから、お前たちが犯人だなんて誰も思っちゃいないよ」

真美「兄ちゃん…」

真美は泣きそうな目でこちらを見ていた
10年間、そんなことで悩ませてしまったことを恥ずかしく思う

167: 2012/08/30(木) 23:29:49.28 ID:I2qHzxZY0
P「それに、誰よりも自分達がそのことは分かってるんだろ?」

P「だったら何も気に病む必要はない」

真美「…うん、ありがと兄ちゃん!」

俺は真美の髪を撫でた

真美「もう、子供扱いして!」

P「子供だろ?」

真美「そんなことないもん!」

そう言って、真美は俺の頬にキスをした

P「…馬鹿」

真美「へへ、ミキミキには内緒だよ?」

P「言えるわけないだろ…」

戻ると、亜美が昔のような悪戯顔で俺たちを見た
どうやら始終を見ていたらしい

169: 2012/08/30(木) 23:32:08.47 ID:I2qHzxZY0
亜美「ねえねえ、今度チハヤちゃんを事務所に連れてきてよ」

P「本人が行きたいって言ったらな」

真美「また会いたいなー」

亜美「うんうん、だって超可愛いし」

真美「さっすが兄ちゃんとミキミキの子供って感じだよねー」

P「…そういえば、チハヤにあまり変なことは教えるなよ」

170: 2012/08/30(木) 23:37:16.48 ID:I2qHzxZY0
亜美「それじゃー、兄ちゃんお先にー」

真美「また後でねー!」

P「気をつけてな」

二人を見送ってから俺は春香の墓で一連の儀式を済ませ、車に戻った
車中でタバコに火をつけ、最後の確認をした

響と真は物理的に不可能
雪歩も、衣装室の前を通った時間にはカエルを着た春香がもう戻っている
そして亜美と真美も衣装室には入っていない

やはり真犯人は…

172: 2012/08/30(木) 23:40:56.03 ID:I2qHzxZY0
俺はそこで考えるのをやめた

結局、証拠がないのだから仕方ない
それにもうこのことには触れないと決めたのだ

それより、俺には大事な用がある
10年前に言えなかった言葉を今日、これから彼女に伝えるのだ

俺はタバコの火を消して、車を発進させた
移動中、突然あの日のような強い雨が振ってきた

到着すると俺はトランクから古ぼけた傘を取り出し、
それを差して彼女の元まで歩いていった

174: 2012/08/30(木) 23:44:43.83 ID:I2qHzxZY0
P「千早、久しぶりだな」

P「つい最近、事件の真相が分かったよ」

P「でも、そんな事はもうどうでもいいんだ」

P「何をしたところでお前が戻ってくるわけでもない」

P「お前がいなくなって初めて、俺はあの時の自分の気持ちに気づいたんだ」

P「大好きだったよ、千早」

P「それを言いに今日はここに来たんだ」

P「千早は嫌がるかもしれないけど、また来るよ」

P「それと、この傘はもう少し借りておくからな」

P「さようなら、千早」

雨空の下、俺はその場を後にした

おわり

181: 2012/08/30(木) 23:47:58.44 ID:I2qHzxZY0
以上です
読んでくれた方支援してくれた方、ありがとうございました

186: 2012/08/30(木) 23:51:02.12
面白かった!!

190: 2012/08/30(木) 23:58:31.21 ID:I2qHzxZY0
一度書いていますが、以下のSSを書いたのと同じ人間です
良ければそちらもどうぞ

P「765プロダクション殺人事件」
http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1339247272/

P「アイドルマスター殺人事件」
http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1342353676/

ただ、個人的には今回のが一番質が高いんじゃないかなあと思います
それと、新しいのを書くつもりは今のところありません

引用元: P「生っすか!?サンデー殺人事件」