1: 2014/07/14(月) 22:04:38 ID:PmgIyY5Y
─ 騎士団駐屯地 ─

騎士団長「ああ、西の山で何件か被害が報告されていてな」

騎士団長「悪いが、頼まれてくれないか」

女騎士「被害というのは?」

騎士団長「山道を通りがかった通行人を斧で脅して」

騎士団長「通行料をいくらか巻き上げてるようなんだ」

騎士団長「はっきりいって、人間の盗賊や山賊に比べれば可愛いもんだが」

騎士団長「被害報告を受けた以上、この地区の騎士団として放ってはおけんからな」

女騎士「承知した」

女騎士「では、すぐに向かおう」

2: 2014/07/14(月) 22:09:45 ID:PmgIyY5Y
騎士団長「あ、ちょっと待ってくれ」

女騎士「ん?」

騎士団長「実は今回の任務、新米騎士も同行させてやって欲しいんだ」

騎士団長「あいつにもそろそろ、実戦というものを体験させねばならないからな」

騎士団長「もしかすると足手まといになってしまうかもしれんが……」

女騎士「後進の教育は、騎士として当然の務め」

女騎士「喜んで引き受けよう」

騎士団長「そういってもらえると、俺としてもありがたいよ」

騎士団長「では頼んだぞ」

女騎士「はっ!」

3: 2014/07/14(月) 22:12:42 ID:PmgIyY5Y
新米騎士のもとに向かう女騎士。

新米騎士「え、いいんですか!?」

女騎士「ああ、団長がそろそろ君にも実戦を体験させろ、とな」

新米騎士「やったぁ!」

新米騎士「とはいえ、オーク退治なんて遠足みたいなもんですけどね」

女騎士「こら」

新米騎士「!」

女騎士「たとえどんな任務であろうと、決して浮ついた気持ちで臨んではならない」

女騎士「我々の失敗や敗北は、市民たちの平和を脅かすことにもなるのだ」

女騎士「……分かるな?」

新米騎士「すっ、すみません……女騎士さん!」

女騎士「謝る必要はない。分かってくれればいいんだ」

4: 2014/07/14(月) 22:16:49 ID:PmgIyY5Y
女騎士と新米騎士は馬を走らせ、西の山を目指す。

ドカラッ! ドカラッ!

新米騎士「それにしても、女騎士さんと同行できるなんて光栄です!」

女騎士「なぜだ?」

新米騎士「この地区の騎士団は、他と比べても精鋭揃いだと評判ですが」

新米騎士「特に団長は、若くしてこの騎士団の長を任されたほどの腕前……」

新米騎士「そして女騎士さんは──」

新米騎士「そんな団長から、実力でも格でも同等だと認めてもらえてるんですから!」

新米騎士「ウチの騎士団にナンバー2にあたるポジションはありませんが」

新米騎士「みんな、女騎士さんがナンバー2だって思ってますよ!」

女騎士「……褒めすぎだ」

ドカラッ! ドカラッ!

5: 2014/07/14(月) 22:20:13 ID:PmgIyY5Y
─ 西の山 ─

女騎士「ここからは徒歩で行こう」

新米騎士「はいっ!」

ふもとの小屋に馬を預け、山道に入る二人。



ザッザッザッ……

女騎士「……なかなか、険しい山道だな」

新米騎士「大丈夫ですか?」

女騎士「ああ、心配をかけてすまない」

女騎士「それにしても、君は健脚だな。さっきからまったくペースが落ちない」

新米騎士「ボク、山育ちで足だけは自信があるんですよ」

新米騎士「かけっこで、少しの距離なら馬とだって張り合える自信もあります」

女騎士「ほう、すごいじゃないか」

6: 2014/07/14(月) 22:23:58 ID:PmgIyY5Y
新米騎士「ただ、肝心の手──剣の腕の方はさっぱりでしてね」

新米騎士「仲間にも逃げ足だけは達者、なんてバカにされてるんですよ」

女騎士「そう自分を卑下することはない」

女騎士「逃走とて、場合によっては立派な戦略といえるし」

女騎士「地道に訓練を重ねれば、剣の腕だって必ず上達する」

女騎士「そうすれば君は、騎士団きっての俊足騎士として大成するはずだ」

新米騎士「は……はいっ!」

女騎士「!」ピクッ

女騎士「止まれ」サッ

新米騎士「え?」

女騎士「……どうやら、目当ての客のようだ」



ザッ……

オーク「よう、お二人さん。ここを通りたきゃ、通行料を払ってもらおうか」

7: 2014/07/14(月) 22:27:18 ID:PmgIyY5Y
巨大な斧を持った筋骨隆々のオークが、二人の前に立ちはだかる。

新米騎士「オ、オーク……!」

女騎士「最近、この山道で通行料を脅し取っているオークというのは、キサマか」

オーク「そうだ」

オーク「1000ゴールドほど、置いてってもらおう。そうすりゃ通してやる」

女騎士「……断るといったら?」

オーク「この斧がなんのためにあるかぐらい、分かんだろ?」ズイッ

女騎士「…………」

新米騎士「女騎士さん、ここはボクに任せて下さい!」チャキッ

女騎士「あっ、待て──」

新米騎士「いざ勝負!」

オーク「ちっ……来やがれ!」

新米騎士とオークの戦いが始まった。

8: 2014/07/14(月) 22:30:46 ID:PmgIyY5Y
ガィンッ! ガキンッ! ガンッ!

剣と斧が激しくぶつかり合う。

新米騎士「うわわっ!(なんて馬鹿力だ!)」

オーク「どおりゃあああっ!」ブオッ

ガツンッ!

新米騎士「うあっ!」

新米騎士の剣は、オークの斧に弾き飛ばされてしまった。

オーク「ふん、オレの実力が分かったか!」

新米騎士「くっ、くそぉ……!」ガクッ…

膝をつき、うなだれる新米騎士。

女騎士「たしかによく分かった」

オーク「分かったなら、通行料を──」

女騎士「次は、私が相手になろう」チャキッ

オーク「なんだと……!?」

9: 2014/07/14(月) 22:33:52 ID:PmgIyY5Y
オーク「へっ、お前みたいな女がオレの相手をするってか!?」

オーク「いっとくが、オレは女だからって手加減しねえぞ!」

女騎士「ああ、そうした方がいい」

女騎士「さもなくば、実力を出さないまま氏ぬことになる」

オーク「ぬうっ……素直に通行料を渡せばよかったって後悔すんなよ!」

オーク「うりゃあああああっ!」

ブンッ! ブオンッ! ブンッ!

女騎士「…………」ユラリ…

オーク(くうっ! なんて滑らかな動きだ!)



新米騎士(す、すごい……!)

新米騎士(オークの斧を、涼しい顔でかわし続けてる!)

10: 2014/07/14(月) 22:36:45 ID:PmgIyY5Y
シュバァッ! ピタッ……

目にも止まらぬ速さで、女騎士の剣がオークの喉に寸止めされた。

オーク「う……ぐ、う……!」

女騎士「さて、どうする? 続けるか?」

オーク「くっ……殺せ!」ガクッ

オーク「とっとと首をはねちまってくれよ」

オーク「こんなこと、いつまでも続けられるわけねえって分かってたしな……」

女騎士「…………」

新米騎士「やったぁ! 女騎士さん、トドメを!」

女騎士「頃す前に、話してもらおうか」

オーク「!」

女騎士「なぜ、キサマのような温厚なオークがこんなことをしたのか、をな」

11: 2014/07/14(月) 22:40:21 ID:PmgIyY5Y
新米騎士「温厚!? ──どこがですか!?」

新米騎士「だってボクをあんな目にあわせたんですよ!?」

女騎士「このオークは、君の剣だけを狙っていたよ。君を殺さないようにな」

新米騎士「!」

女騎士「いや……私と戦っていた時もそうだった」

女騎士「それに……そもそも通行料1000ゴールドというのが」

女騎士「この手の悪事のわりに良心的すぎる」

新米騎士「そういわれてみれば……」

オーク「…………」

12: 2014/07/14(月) 22:44:15 ID:PmgIyY5Y
女騎士「これはまったくの勘だが……。おそらく、家族のためだろう?」

オーク「!」ギクッ

女騎士「話してみろ」

女騎士「ここで話せば、キサマも家族も助かるかもしれぬ」

女騎士「だが、ここで話さねば私はキサマを斬らねばならんし、家族も助かるまい」

女騎士「他人に恥を話したくないという気持ち、私とてよく分かる」

女騎士「だが、真に家族の身を案ずるのであれば──」

女騎士「安易な氏よりも、たとえ見苦しくとも生を選ぶべきではないのか?」

オーク「…………」

オーク「わ、分かった……話すよ、全て」

13: 2014/07/14(月) 22:47:56 ID:PmgIyY5Y
オーク「オレは普段、木こりをしている」

オーク「この斧も、木の伐採に使っているもんだ」

オーク「だけど、最近ちょっと疲れがたまってきてたから」

オーク「仕事仲間に相談したら『ある店の回復薬はよく効く』っていわれたんで」

オーク「魔術師がやってるっていう、その店に向かったんだ」

オーク「仕事を休む日だったし、妻と子供も連れてな」

オーク「だが……それがいけなかったんだ」

………………

…………

……

14: 2014/07/14(月) 22:52:30 ID:PmgIyY5Y
~ 回想 ~

─ 魔法道具店 ─

オーク「じゃあオレは薬を買ってくるから、お前たちはここで大人しくしてるんだぞ」

オーク妻「ええ」

オーク娘「うんっ!」

好奇心旺盛なオークの娘が、店内のあちこちを観察する。

オーク娘「お母さん、お母さん! あのツボ、面白い形してるね」

オーク妻「これこれ、面白いなんていっちゃダメよ」

オーク娘「もうちょっと近くで見てみよ~っと」

オーク妻「これ、あまり近づいちゃ……」

グラッ……

オーク娘「え?」

ガシャァンッ!

“面白い形のツボ”は床に落ちて、砕け散ってしまった。

15: 2014/07/14(月) 22:56:09 ID:PmgIyY5Y
オーク「!」

魔術師「なぁ~んてことをしてくれたんだ!」

魔術師「いいか、これは“魔王のツボ”という、大変高価なツボなんだぞ!」

オーク娘「え、わたしさわってないよ……」

魔術師「じゃあ、ツボが勝手に動いたとでもいうのか!? ええ!?」

オーク娘「わ、わたし……」

魔術師「まったく……モンスターを店に入れると必ずこういうことが起こる!」

魔術師「今すぐ近くの騎士団駐屯地に通報させてもらうよ」

魔術師「オークの集団に店を荒らされましたってね!」

オーク「待ってくれ! ……分かった、弁償する!」

魔術師「ふうん……。じゃあ、これぐらい払ってもらおうか」ピラッ…

オーク「!」

オーク「さ、さすがにこんな額は……」

16: 2014/07/14(月) 23:00:26 ID:PmgIyY5Y
魔術師「なら……金を作ってくるんだな」

魔術師「オークであるキミじゃ、担保になるものなんて持ってないだろうから」

魔術師「この妻と娘を預からせてもらうよ」

オーク「そんな……!」

魔術師「いっとくが、くれぐれも他言しないでくれよ」

魔術師「すれば、キミはもちろん、家族全員牢獄行きだ!」

オーク「……分かった! 必ず金を作って持ってくる!」

魔術師「いい心がけだ」ニィ…

オーク「待っててくれ、必ず金を作ってくるから!」

オーク妻「あなた……!」

オーク娘「お父さん……ごめんなさい……」

………………

…………

……

17: 2014/07/14(月) 23:05:42 ID:PmgIyY5Y
~ 現在 ~

─ 西の山 ─

オーク「──ってわけだ」

オーク「大口叩いたはいいが、オレは金を稼ぐ方法なんか全然分からねえから」

オーク「根城にしてるこの山で、通行人から金を巻き上げてたんだ……」

新米騎士「オークのやったことはもちろん悪いことだけど……」

新米騎士「それ以上にとんでもない魔術師だ!」

新米騎士「いくら店の商品を壊されたからって、家族を人質を取るなんて!」

新米騎士「女騎士さん、すぐその店に抗議しに行きましょう!」

女騎士「だが……それをやれば、オークの妻子が害される危険がある」

新米騎士「ですが……!」

女騎士「オークよ」

女騎士「ここに金貨袋がある。これを持って、魔術師のところに行け」ジャラッ…

女騎士「妻と娘を取り戻すには、十分な額があるはずだ」

18: 2014/07/14(月) 23:10:01 ID:PmgIyY5Y
オーク「金を恵んでもらうなんて……そんな情けないことできるかよ!」

女騎士「通行料を巻き上げていた者が、今さらなにをいっている」

オーク「うぐっ……! そ、そりゃそうだけど……」

女騎士「行け! こういうことは早い方がいい」

オーク「……分かった、ありがとよ! この恩は必ず返す!」

タッタッタッ……



新米騎士「女騎士さん……。あんな大金渡してしまって、大丈夫ですか?」

女騎士「心配無用だ」

新米騎士(そっか……そうだよな)

新米騎士(女騎士さんはかなりの名家の出……)

新米騎士(それを考えればあの程度の支出、どうってことないよな)

19: 2014/07/14(月) 23:14:54 ID:PmgIyY5Y
─ 魔法道具店 ─

金貨袋を手に、オークがやってきた。

オーク「オイ!」

魔術師「ん?」

魔術師「おや、キミか。いっとくが、いくら泣きついたって──」

オーク「いや……金を集めてきた!」ジャラッ…

魔術師「なんだって!?」

オーク「さぁ、妻と娘を返してくれ!」

オークを無視して、脇目も振らず金貨を数える魔術師。

魔術師(ふむむ、近頃は取り締まり強化のせいで“裏の商売”がやりにくくなり)

魔術師(臨時収入になればと、たわむれにブタどもを脅してみたが──)

魔術師(どうやったか知らんが、こんなブタがこれほどの金貨を稼いでくるとは!)

魔術師(ククク、こんな金づるをみすみす手放す手はない!)ニィ…

20: 2014/07/14(月) 23:19:46 ID:PmgIyY5Y
魔術師「いやいや……こんなんじゃ、とても足りないなァ~」

オーク「……なんだと!? 足りてるはずだ!」

魔術師「たしかにツボの代金はこれでまかなえたが」

魔術師「次は器物破損による、ワタシの精神的苦痛を賠償してもらわねばならない」

魔術師「そうだな……。ざっとこれぐらいは頂かないとね」ピラッ…

オーク(ツボの代金の倍以上はあるじゃねえか……!)

オーク「ふ、ふざけやがって……!」

オーク「そんなもん払えるか! さっさと妻と娘を返せぇっ!」ダッ

魔術師「ふん」スッ…

ドォンッ!

魔術師の右手から飛び出た衝撃波が、オークの体を吹き飛ばした。

オーク「ぐおお……っ!」ドザッ…

魔術師「暴行未遂による慰謝料も追加、と」

魔術師「ククク、こりゃキミは一生ワタシの奴隷決定かなァ?」

21: 2014/07/14(月) 23:22:45 ID:PmgIyY5Y
女騎士「やれやれ……」

女騎士「ずいぶんタチの悪い商売があったものだ」ザッ…



魔術師「だれだ!?」

オーク「お、女騎士……?」

女騎士「悪いが、後をつけさせてもらっていた」

女騎士「魔術師が、金と引き替えに妻子を返すのであれば」

女騎士「余計な介入はせずに済ませようとも考えていたが」

女騎士「これでは……とてもそういうわけにはいかんな」

22: 2014/07/14(月) 23:25:45 ID:PmgIyY5Y
女騎士「おおかた、最初から罠だったのだろう」

女騎士「“魔王のツボ”とやらが割れたのは、おそらく魔術師の魔法による自作自演」

女騎士「いや……本当に高価なツボだったかどうかすらも怪しい」

オーク「そ、そんな……」

魔術師「ほう……いいとこ突いてるよ、キミ」

魔術師「だとしたら、なんだというんだ?」

魔術師「担保である人質がある以上、キミら二人は決してワタシに逆らえない」

魔術師「オークの妻子を犠牲にしてでもワタシと争うというのなら、話は別だがね」

女騎士「キサマに心配されるまでもない」

魔術師「……なに?」

女騎士「今頃、頼りになる後輩が、二人を助けているはずだ」

23: 2014/07/14(月) 23:29:34 ID:PmgIyY5Y
その頃、店の裏側では──

ドカァンッ!

新米騎士「よっしゃ、蹴りまくってたら檻が壊れた!」

新米騎士「我ながらすごい威力だ!」

新米騎士「う~ん、剣じゃなくキックで戦う騎士っていうのもアリかもしれないな……」

オーク妻「あ、ありがとうございます!」

オーク娘「やっと出られたよぉ……」

新米騎士(二人とも、ずいぶんやつれてるな……)

新米騎士(きっとろくに水も食べ物も与えてもらえなかったんだろう)

新米騎士(女騎士さんには、魔術師とオークのことは任せろっていわれてるし……)

新米騎士「ひとっ走り、水でも持ってくるよ! 待ってて!」

ドヒュンッ!

オーク妻(もうあんなところまで……)

オーク娘「はや~い!」

24: 2014/07/14(月) 23:35:35 ID:PmgIyY5Y
再び店内──

魔術師(あのメスブタ二匹は簡素な檻に入れてあるだけ……)

魔術師(おそらく“後輩”とやらに助けられてしまっているだろう)

魔術師(たとえモンスター相手でも、脅迫や監禁は立派な罪になってしまう……)

魔術師(ブタ一家如きのために、お尋ね者になるわけにはいかん!)

魔術師「その格好を見るに、キミは騎士なんだろうが」

魔術師「この件について上に報告してたりする?」

女騎士「いや、していない。するヒマもなかったしな」

魔術師「そうかい……安心したよ」

魔術師「つまり──」

魔術師「ブタ一家と騎士二人を始末してしまえば」

魔術師「この一件が明るみに出ることはないわけだ!」バッ

ドウッ!

魔術師の不意打ち。

強烈な衝撃波が、女騎士の腹部を直撃した。

25: 2014/07/14(月) 23:39:10 ID:PmgIyY5Y
女騎士「……あいにくだったな」シュゥゥ…

魔術師「き、効いていない……!?」

女騎士「私の甲冑には対魔法コーティングが施されているし」

女騎士「私自身も、事前に魔法薬を飲んで魔法耐性を上げている」

女騎士「今の魔法ぐらいでは、到底私は倒せん」

魔術師「ぐ……!」

女騎士「しかし、肉体を用いての勝負では私に勝てぬことぐらいは分かるだろう」

女騎士「さぁ、観念しろ」

魔術師(く、くそっ……ワタシではこの女を倒し切れる魔法は出せん!)ジリッ…

魔術師(ここで捕まると色々マズイ……どうする!?)

魔術師(いや待てよ……先日仕入れたアレを使えば!)

28: 2014/07/14(月) 23:43:12 ID:PmgIyY5Y
魔術師「ククク……観念するとしよう」

魔術師「ただし──」

女騎士「?」

魔術師「こいつが通じなければな!」サッ

魔術師は近くにあったビンを床に叩きつけると──

パリィンッ!

女騎士(丸い粒が入っている! ──なにかの薬か!?)

魔術師「さぁ、育つがいい!」ブゥゥゥン…

──床に散らばった粒に、魔力を送り込んだ。

29: 2014/07/14(月) 23:47:06 ID:PmgIyY5Y
すると、粒は瞬く間に変形し──

ウネウネ…… ウゾウゾ……

女騎士「触手……!?」

魔術師「ククク、ビンに入ってたのは触手の種だったのだよォ!」

女騎士(こんなもの……明らかに取引禁止アイテムではないか……!)

女騎士(やはり、オークへの脅迫などはほんの序の口だったということか!)

女騎士(この分ではオークがいっていた“よく効く回復薬”とやらも怪しいものだ……)

魔術師「触手よ、あの女を捕えろ!」

シュルルルル…… シュバッ!

30: 2014/07/14(月) 23:52:18 ID:PmgIyY5Y
ガシィッ……!

女騎士「ちっ……!」ググッ…

たちまちのうちに、女騎士の四肢は触手に捕らわれてしまった。

魔術師「ククク、動けまい」

オーク「このヤロウ……」ググッ…

魔術師「ブタは寝てろ! あとで家族まとめて始末してやる!」バリバリッ…

オーク「ぐあっ!」ドサッ…

女騎士「やめろ!」

魔術師「キミはもっと、自分の心配をした方がいいぞォ?」

魔術師「“後輩”とやらを始末する時のため、人質として生かしておいてはやるが」

魔術師「無傷のままにしておく必要はないんだからな」

ニュルニュル…… シュルル……

細い触手が次々に甲冑の隙間に入り込んでいく。

女騎士「…………!」

魔術師「さあて……どう辱めてやろうか……」ニィ…

31: 2014/07/14(月) 23:55:56 ID:PmgIyY5Y
女騎士「……チャンスをやろう」

女騎士「今すぐ、この触手から私を解放しろ」

女騎士「さすれば、痛みがないように捕えてやる」

魔術師「…………?」

思いもよらぬ言葉に、魔術師の顔がみるみる怒りを帯びる。

魔術師「ハァ!? なにが痛みがないように、だ!? オマエはアホなのか!?」

魔術師「四肢を封じられたオマエと、生殺与奪を握るこのワタシ」

魔術師「ここはオマエが痛くないようして下さい、と懇願する場面だろうがァ!」

女騎士「…………」フゥ…

女騎士「聞き入れてもらえなかったようで、残念だ」グッ…



ザザザザンッ!

32: 2014/07/14(月) 23:59:21 ID:PmgIyY5Y
一瞬の出来事であった。

女騎士の体にまとわりついていた触手が、バラバラに切り飛ばされていた。

ボトッ…… ボトボトッ……

女騎士「久々に使ったな」スタッ

魔術師「な、なんだ……!? 今なにをした!?」

女騎士「私の甲冑には、あちこちに暗器を仕込んでおいてある」カチカチッ

女騎士「今のように拘束された時や、あるいは自害する時のためにな」

女騎士「それを作動させただけのことだ」

女騎士「とはいえ使わないに越したことはないから、一度チャンスはくれてやったがな」

33: 2014/07/15(火) 00:05:14 ID:SgR2g/2M
魔術師「お、おいっ、触手! もう一度あの女を捕えるんだ!」

ウネ…… ウネ……

魔術師(動かない……! 怖気づいてしまっている!)

女騎士「無駄だ。もう私が敵わぬ相手だと学習してしまったからな」

女騎士「いくら命令しても、私に襲いかかることはないだろう」

魔術師「う、ぐぐ……」

魔術師「くそぉっ!」バッ

ズドドドォンッ!

魔術師の衝撃波が、女騎士に命中した。

34: 2014/07/15(火) 00:10:46 ID:SgR2g/2M
女騎士「魔法は通じないといっただろう?」シュゥゥ…

魔術師「げえっ!」

女騎士「さてと、キサマは先ほどの忠告を聞かなかったから、少々痛くするぞ」

女騎士「剣ではなく、鉄拳でな」グッ

バキィッ!

魔術師「ぐえぇっ……」ドサッ…

女騎士「一発で沈むとは……情けない男だ」

女騎士「さて、触手の件といい、叩けばいくらでもホコリが出る身だろうが──」

女騎士「ひとまずはモンスター監禁と脅迫の罪で拘束する!」

35: 2014/07/15(火) 00:14:07 ID:SgR2g/2M
後始末を済ませ、女騎士たちはオーク一家とともに西の山に戻った。

─ 西の山 ─

オーク「ありがとよ……!」

オーク「アンタたちがいなきゃ、オレらはどうなってたか分からねえ……」

女騎士「騎士として当然の務めを果たしたまでだ」

新米騎士「そうそう!」

オーク「ところで、この金は返すよ! 結局いらなかったしな!」ジャラッ…

女騎士「いや、それはすでに一度渡したものだ。今さら返却されても困る」

女騎士「とっておいてくれ」

オーク「オイオイ、そういうわけにはいかねえよ!」

36: 2014/07/15(火) 00:19:51 ID:SgR2g/2M
女騎士「妻と娘は、監禁中まともに食事をさせてもらえなかったという」

女騎士「その金で、少しいいものを食べさせてやるといい」

女騎士「それに……後々キサマが通行料を巻き上げた人たちを見かけた時」

女騎士「そこから金を返せるだろう?」

オーク「……分かった、そうさせてもらうよ!」

オーク「あといっとくが、アンタたちへの恩はどんな形であれ必ず返す!」

女騎士「ふふっ、楽しみにしているよ」

女騎士「では、行こうか」

新米騎士「はいっ!」

新米騎士(女騎士さん、スタイルいいけど太っ腹だなぁ~)

オーク「また山に遊びに来てくれよ!」

オーク妻「本当にありがとうございました……!」

オーク娘「またね~!」

37: 2014/07/15(火) 00:24:58 ID:SgR2g/2M
駐屯所へと馬を走らせる女騎士と新米騎士。

ドカラッ! ドカラッ!

新米騎士「女騎士さん、あざやかでした!」

新米騎士「オークを倒さずに事情を聞き、裏にいた悪徳魔術師をやっつけるなんて!」

新米騎士「それにひきかえ、ボクはなんの役にも立てず……」

女騎士「そんなことはない」

女騎士「私とは別行動で、オークの妻子を助けたのは君の手柄だし」

女騎士「君がいたからこそ、私は魔術師と五分の立場になれたのだ」

女騎士「少なくとも、初任務としては上出来だ」

女騎士「今後も期待しているぞ」

新米騎士「は、はいっ! ありがとうございますっ!」

女騎士「ただし……剣技についてはもっと訓練が必要だがな」

新米騎士「……ですよねぇ」

ドカラッ! ドカラッ!

38: 2014/07/15(火) 00:29:53 ID:SgR2g/2M
─ 騎士団駐屯地 ─

女騎士「──以上が、今回の報告となる」

騎士団長「……ご苦労だった。急な任務にも関わらず、よくこなしてくれた」

騎士団長「だが、女騎士」

女騎士「?」

騎士団長「俺の命令は『オークを退治せよ』だったはずだが」

騎士団長「そのオークを頃すことなく、あまつさえ手助けまでするとは」

騎士団長「いったいどういうことだ?」

騎士団長の顔つきが変わる。

騎士団長「女騎士よ……」

騎士団長「これは命令違反といえるのではないか……!?」ギロッ

39: 2014/07/15(火) 00:33:58 ID:SgR2g/2M
女騎士「お言葉だが、団長」

女騎士「通行料を巻き上げるような心を持ったオークは、もうあの山にはいない……」

女騎士「これもまた、退治と考える」

騎士団長「詭弁だな……」スラッ…

ヒュオッ!

女騎士の首筋に、騎士団長の剣が突きつけられる。

騎士団長「この騎士団にて、お前を俺と対等と認めたのは、他ならぬ俺自身だが──」

騎士団長「命令違反をされたのでは、さすがに長として黙ってはおれん」

騎士団長「他の部下に示しがつかんからな」

騎士団長「……だが」

騎士団長「改めてオークを退治に向かうというのであれば、不問に付してやろう」

40: 2014/07/15(火) 00:39:04 ID:SgR2g/2M
女騎士「私にそのつもりはない」

女騎士「私を命令違反とするならば、今すぐその剣で私の首を叩き斬ってもらいたい」

女騎士「ただし、私の命と引きかえにオークの命は助けてやって欲しい」

騎士団長「…………」

騎士団長「……ふっ」

騎士団長「やはり、お前を俺と対等としたのは正しかった」スッ…

剣を収める騎士団長。

騎士団長「俺はあの山のオークは本来温厚で友好的だと知っていたが」

騎士団長「立場上、オークを殺さず説得せよという命令を出すわけにもいかなかった」

騎士団長「もし、他の騎士に命令していれば、命令通りオークを殺害していただろう」

騎士団長「今回の件はお前に任せて正解だった。みごとだ……女騎士」

騎士団長「これからも“その調子”で俺を助けて欲しい」

女騎士「団長も人が悪い……私を試したのだな?」

騎士団長「まぁ、そんなところだ」

41: 2014/07/15(火) 00:43:52 ID:SgR2g/2M
騎士団長「それにしても、俺の剣を突きつけられても眉一つ動かさないとは」

騎士団長「俺の腕も鈍ったかな?」

女騎士「団長の剣には殺気がこもっていなかった」

女騎士「そうでなければ、今頃私の顔は青ざめていたはずだ」

騎士団長「なるほど……さすがの鋭さだ。最初から見透かされてしまっていたか」

騎士団長「では下がっていいぞ」

女騎士「…………」

騎士団長「?」

女騎士「……あの」

騎士団長「どうした? まだ報告することがあるのか?」

女騎士「給料の……前借りをお願いしたいのだが……」

騎士団長「……え? 給料?」

女騎士「その……なりゆきで、オークに手持ちを全部渡してしまって……」

42: 2014/07/15(火) 00:51:53 ID:SgR2g/2M
騎士団長「前借りは認めん」

女騎士「!」

騎士団長「だが──」ジャラッ…

騎士団長が金貨袋を手渡す。

騎士団長「お前が捕えた魔術師、道具屋をかくれみのにかなりの悪事を働いていたようだ」

騎士団長「それこそ、今回の件など生ぬるく見えてしまうほどの悪事もな」

騎士団長「今後、憲兵らとも協力して、奴を徹底的に洗っていけば」

騎士団長「芋づる式に悪党同士の相関関係を突き止めることができるはずだ」

騎士団長「大した額ではないが、特別ボーナスとして受け取っておけ」

女騎士「しかし……!」

騎士団長「たまにはかっこつけさせろ」

女騎士「……かたじけない!」

礼をいうと、女騎士は部屋から退出した。

騎士団長「あいつは鋭いんだか、抜けてるんだか……」

43: 2014/07/15(火) 00:55:45 ID:SgR2g/2M
─ 女騎士の家 ─

私服に着替え、居間でくつろぐ女騎士。

女騎士(また父上から手紙か)カサッ…

女騎士(金が必要であればいくらでも送る……)

女騎士(そろそろ貴族との縁談を受けて、落ちついたらどうだ、か……)

女騎士(しかし、仕送りも縁談も、今の私には不要だ)

女騎士(私はもっともっと民のために働き、剣技を磨きたいのだから!)

女騎士(だから、父上には頼らない!)

女騎士(とはいえ今回は、団長に救われる結果となってしまったがな……)

44: 2014/07/15(火) 01:04:34 ID:SgR2g/2M
そして、ベッドに入ると──

女騎士(新米騎士……また機会があれば同行させてやろう。彼はきっと伸びる)

女騎士(オークたち、幸せに暮らせるといいな。ちょくちょく様子を見に行くか)

女騎士(魔術師め……もう少し懲らしめてやってもよかったかもしれん)

女騎士(団長には借りができた……なんとか働きで返さねば……)ウト…

女騎士「すぅ……すぅ……」



今日一日で関わった人々に思いを馳せながら、ゆっくり眠りにつくのであった。







                                   ─ 完 ─

45: 2014/07/15(火) 01:06:00 ID:SgR2g/2M
これで完結となります

48: 2014/07/15(火) 06:55:15

まさかオークがあの台詞を言うとはな

引用元: 女騎士「オーク退治だと……?」