1: 2021/02/21(日) 18:23:54.361 ID:v6pFsVQ70
病院――

老人(体が弱っていくのが分かる……ワシの命はここで尽きる……)

老人(せめて孫が中学生になるまでは……生きたかったが……)

老人「みんな……元気でな」

息子「オヤジ!」

嫁「お義父さん……」

孫「おじいちゃん!」

ガラッ!

葬儀屋「失礼しまーす!」

葬儀屋「あ、ちょうどよかった。こちらのおじいちゃん、そろそろ氏にそうなので来ちゃいました!」

3: 2021/02/21(日) 18:24:59.275
仕事が早い有能だな

4: 2021/02/21(日) 18:25:35.340
三河屋でーす!

5: 2021/02/21(日) 18:27:04.099 ID:v6pFsVQ70
老人「なんだ、あんた……」

葬儀屋「葬儀屋です。なにしろこの業界も競争が激しいんでね」

葬儀屋「氏にそうな方に生前からツバつけとくのが慣例となってまして、ハッハッハ」

葬儀屋「私もプロとして、最高のお葬式を提供いたしますよ!」

老人「……!」

葬儀屋「さて、弊社の葬儀なんですけど……」

葬儀屋「Aコース10万円、Bコース100万円、Cコース1000万円とありますけど、どれがいいですか?」

葬儀屋「私としては出来ればCコース……」

老人「……」ピクピクッ

6: 2021/02/21(日) 18:30:11.560 ID:v6pFsVQ70
老人「出てけぇっ!!!」

葬儀屋「Dコースですか? Dコースは素人にはオススメできない――」

老人「Dじゃない、出ていけといったんだ!」

葬儀屋「なぜです? せっかく葬儀屋に連絡する手間を省いてあげたのに」

老人「誰が貴様の世話になるか! 出ていけぇ!!!」

葬儀屋「わ、分かりましたよ。それじゃ失礼しまーす!」

ピシャッ!

老人「はぁ、はぁ、はぁ……」

7: 2021/02/21(日) 18:31:30.792
いやお前がキレるのかよ
家族が怒れよ

8: 2021/02/21(日) 18:33:16.316 ID:v6pFsVQ70
医者「信じられません。まさかあの状態から持ち直すとは……!」

息子「オヤジ……まだあんな怒鳴れる体力があったんだな」

嫁「よかった……」

孫「おじいちゃーん!」

老人「……」

老人「ふん、あれだろう。蝋燭の火の最後の輝きというやつだ」

9: 2021/02/21(日) 18:36:49.483 ID:v6pFsVQ70
老人(生き永らえてしまった……)

老人(しかし、このまま生きていたところで……家族に迷惑かけるだけ……)

葬儀屋「失礼しまーす!」ガラッ

老人「わっ、またあんたか!」

葬儀屋「家族に迷惑をかけないために、遺言状を作っておくのはいかがですか?」

葬儀屋「相続というのは何かと揉めますからねえ」

葬儀屋「いつくたばってもいいように、ああ失礼、亡くなってもいいように最高の遺言状を……」

老人「出ていけぇ!!!」

10: 2021/02/21(日) 18:40:07.561 ID:v6pFsVQ70
看護師「ご飯でーす」

老人「どうも」

老人「……」パクパク…

老人「ふぅ……病院食というのはまずいなぁ。とても食べる気がせんよ」

ガラッ!

葬儀屋「失礼しまーす!」

老人「葬儀屋!」

葬儀屋「お、全然ご飯食べてない。いよいよ氏期が近いみたいですね! というわけで――」

老人「……!」

11: 2021/02/21(日) 18:43:15.697 ID:v6pFsVQ70
老人「誰が食べてないだと!?」

葬儀屋「へ?」

老人「食ってやる!」

ガツガツ ムシャムシャ

老人「ふぅ、ごちそうさま!」

葬儀屋「あまり長生きしないで下さいよ。こちとら商売あがったりだ」

老人「うるせえ、出ていけ!」

13: 2021/02/21(日) 18:46:46.353 ID:v6pFsVQ70
白衣「ほら、あと一歩!」

老人「ふぅ、ふぅ……」ヨロヨロ…

老人(リハビリがこんなにキツイものとは……)

老人「も、もう無理……」ヨロッ

葬儀屋「……」ニヤニヤ

老人「!」

葬儀屋「もう諦めなさいって、退院なんかできないから。だから、この契約書にサインを……」

老人「なんだと……!?」

14: 2021/02/21(日) 18:49:21.627 ID:v6pFsVQ70
老人「このクサレ葬儀屋がァ!」

葬儀屋「ひっ!」

老人「杖でブッ叩いてやる!」ブンッ

葬儀屋「わっ、危ない!」

老人「待ちやがれ!」ダダダッ

葬儀屋「ひいいいっ、病院内は走っちゃダメですって!」ダダダッ

老人「この病院を貴様の墓場にしてやる!」ダダダッ

葬儀屋「いやだぁぁぁぁぁ!」ダダダッ

15: 2021/02/21(日) 18:52:29.125 ID:v6pFsVQ70
老人「なにも家族総出で来なくてもよかったのに……」

息子「退院おめでとう!」

嫁「お元気になられてよかった」

孫「おじいちゃん、また一緒に遊ぼうね!」

老人「……ありがとう」

老人「で、なんで貴様もいるんだ!?」

葬儀屋「チッ」

老人「露骨に舌打ちするな!」

17: 2021/02/21(日) 18:55:42.419 ID:v6pFsVQ70
老人(あのまま病院で人生を終えると思ったが、まさか自宅に帰れるとはな)

老人「人生何が起こるか分からんもんだな」

葬儀屋「ホント何が起こるか分からないですねえ」

老人「わっ、なんでここに!?」

葬儀屋「そりゃもちろん、あなたが亡くなる瞬間を目撃しにですよ。何が起こるか分かりませんから」

老人「確かなことは、ワシがくたばっても絶対貴様の会社だけには式はやらせん」

18: 2021/02/21(日) 18:58:16.144 ID:v6pFsVQ70
老人「まぁいい。お茶でも飲んでけ」

葬儀屋「お、よろしいんですか?」

老人「ほれ」

葬儀屋「では」ズッ…

葬儀屋「苦っ! にっがっ! なんか入れましたね!?」

老人「うわははは、ざまあみろ! たまにはお返しせんとな!」

葬儀屋「クソジジイ……!」

19: 2021/02/21(日) 19:01:32.458 ID:v6pFsVQ70
息子「おいおい、無茶だよ!」

嫁「そうですよ、運転なんて!」

孫「やめた方がいいよ、おじいちゃん!」

老人「大丈夫、ワシもだいぶ元気になった。買い物ぐらい一人で行ける!」

老人「キーを差して……」

キュルルル…

老人「ん?」

21: 2021/02/21(日) 19:04:36.025 ID:v6pFsVQ70
葬儀屋「どうも~」

老人「後部座席に!? いつの間に!?」

葬儀屋「あなたが運転されると聞いて、飛んできちゃいました」

葬儀屋「お年寄りらしく派手に事故って下さいね。そしたらすぐに最高のお葬式を……」

老人「……!」

老人「分かった。分かったよ! 免許は返納する!」

23: 2021/02/21(日) 19:06:22.480
この葬儀屋まるで逆喪黒福造…!

24: 2021/02/21(日) 19:08:58.131 ID:v6pFsVQ70
孫「おじいちゃん、行くよー!」

老人「おーう!」

孫「それっ!」ポーイッ

老人「いい球だ!」パシッ

葬儀屋「お、人生最後の思い出にキャッチボールですか。いいですねえ!」

老人「貴様にはデッドボールを喰らわせてやりたいよ」

葬儀屋「やれるもんならどうぞ」

老人「オラァッ!」ブンッ!

葬儀屋「いだいっ!」バチッ!

孫「あ、ドッジボールやるの?」

25: 2021/02/21(日) 19:12:01.966 ID:v6pFsVQ70
孫「あー、面白かった」

老人「またやろうな」

スタスタ…

老人「おっと、信号が赤になってる。止まらんといかんぞ」

孫「はーい!」

パッ

老人「信号が青になった。渡ろう」

孫「うん!」

26: 2021/02/21(日) 19:14:33.672 ID:v6pFsVQ70
ブロロロロッ!

老人「え!?」

老人(この車、赤なのに突っ込んでくる――)

孫「お、おじいちゃんっ!」

老人(ダメだ……かわせん!)

28: 2021/02/21(日) 19:18:29.106 ID:v6pFsVQ70
シュバババッ

葬儀屋「……ふぅ」

老人「き、貴様が助けてくれたのか……」

孫「助かったぁ……」

老人「なぜ助けた? ワシがくたばった方が都合がよかったろうに……」

葬儀屋「勘違いしないで下さい。あなたの葬儀をあげるのは、この私ですからね」

老人「なんだそりゃ」

孫「まるでおじいちゃんのライバルだね!」

葬儀屋「では!」シュタタタッ

老人「……」

30: 2021/02/21(日) 19:22:02.378 ID:v6pFsVQ70
孫「おじいちゃん……あの人不思議な人だね」

老人「まあな」

老人「あんな奴に葬式あげさせてたまるか! 長生きするぞぉ!」

孫「いつまでも元気でいてね、おじいちゃん!」

――――――

――――

――

31: 2021/02/21(日) 19:26:28.235 ID:v6pFsVQ70
孫「……おじいちゃん、今日中学の入学式があったよ」

老人「ゴホッ、ゴホッ、おめでとう」

孫「大丈夫?」

老人「ああ、大丈夫だよ……。しっかり勉強するんだよ……」

孫「うん、もちろんだよ!」

老人(中学生になった孫を見られた……もう悔いはない……)

32: 2021/02/21(日) 19:30:50.316 ID:v6pFsVQ70
葬儀屋「失礼します」

老人「おお、あんたか」

老人「見ての通り……今度こそ流石に氏ぬだろう……」

葬儀屋「……」

老人「あんたがワシをもう氏ぬもう氏ぬと囃し立ててきたのは……」

老人「単にワシを怒らせて長生きさせるため……ではないのだろう?」

老人「最高の葬式をあげるため……なのだろう?」

葬儀屋「その通りです。悔いを残した氏者の葬儀はやはり“最高の葬式”とはいえません」

葬儀屋「私はプロとして、あなたに悔いを残させたくなかったのです」

老人「ふふ……ありがとうよ。あんたはまさしくプロだったよ」

老人「あんたのおかげで、ワシはいい氏に方をできそうだ……」

老人「葬式のことは……全部あんたに任せる」

葬儀屋「……はい、お任せ下さい」

33: 2021/02/21(日) 19:33:41.370 ID:v6pFsVQ70
数日後――

プルルルル…

葬儀屋「もしもし」

葬儀屋「そうですか……未明に亡くなられたのですか。お悔み申し上げます」

葬儀屋「分かりました……。最高のお葬式をあげさせていただきます」

34: 2021/02/21(日) 19:36:41.643 ID:v6pFsVQ70
――

――

葬儀屋「今回もいい葬式ができた……。あのご老人、いい顔をされていた」

葬儀屋「……ん」

青年(ここから飛び込めば……氏ねる。心残りはあるけど、もう生きていたくない……)

葬儀屋「あ、もしもし! 私、葬儀屋ですけども!」

青年「うわっ、なんだ!?」

葬儀屋「氏ぬのでしたら、ぜひ我が社で葬式を――」







おわり

35: 2021/02/21(日) 19:41:06.989

いい話だった

36: 2021/02/21(日) 19:43:15.015
いい葬儀屋だった

引用元: 老人「みんな……元気でな」孫「おじいちゃん!」葬儀屋「失礼しまーす!」