1: 2010/10/06(水) 03:08:17.37 ID:vppnZCII0
ディレクター(以下、D)「おはようございます」

職人「おはようさん」

D「いつもこんなに早いんですか?」

職人「納期が近いんでね」

彼は使徒作り職人の木村源蔵さん67才。
この道50年以上のベテランだ。


           ドキュメント2010
      ~エヴァを支える人たち 使徒職人の"今"~

2: 2010/10/06(水) 03:12:38.02 ID:vppnZCII0
D「これはなんていう使徒ですか?」

職人「ああこれ? サキエルゆう使徒ですわ」

人気アニメ『エヴァンゲリオン』の敵役として欠かせない『使徒』は
彼ら職人の手によって一体一体手作りされている。
決して妥協はしない。それが職人の意地だと木村さんは言う。


木村さんが今作っているのは、サキエルの顔部分のパーツだ。
劇場のスクリーンに映えるよう、見た目には徹底的にこだわる。

4: 2010/10/06(水) 03:15:32.06 ID:vppnZCII0
D「こんなに丁寧に作るんですね」

職人「いい加減な仕事してたら、次から注文こなくなりますわ」

使徒業界にも不況の波は重くのしかかる。
木村さんは、いくつもの同業者が会社をたたむのを見てきた。

木村さんがこの道に入ったのは15才の時だ。
中学を出てすぐに親方に弟子入りして、ずっと使徒作り一筋だ。
そんな木村さんに弟子入りしたいという若者も、彼の元を訪れる。

5: 2010/10/06(水) 03:20:15.30 ID:vppnZCII0
職人「祐介! 何べんゆうたらわかるねん! 
   こんなんやったらN2爆雷に耐えられへんぞ! ちゃんと覚えろ、ドアホ!」

見習い「すいません親方!」

木村さんが、見習い職人を激しく叱りつける。
叱った翌日から来なくなる若者も多いという。
近頃の若者は、英会話でも習いにくるような気持ちで弟子入りしてくるのだと
木村さんは嘆く。

6: 2010/10/06(水) 03:29:20.26 ID:vppnZCII0
職人「わしらの若い頃はね、親方に殴られ蹴られてゆうのが当たり前でしたわ。
   技術も言葉で教えてもらうもんとちゃいます。親方のやってるのを
   見て盗むんですわ。……せやけど、今の若い子には無理やろね」

時代は変わったのだと、彼は言う。
見習いの大下くんも、新劇場版を見てエヴァに憧れこの道を選んだそうだ。
新しい世代が新しい使徒を作っていけばいい。そう言って木村さんは笑った。

大下くんは18才。この春高校を卒業したばかりだ。
使徒職人になりたいと言ったとき、両親も学校の先生も反対したという。

見習い「やっぱり、エヴァが好きですから」

8: 2010/10/06(水) 03:34:16.88 ID:vppnZCII0
大下くんは親方の家の二階に住み込みで働いている。
小遣い程度の給料では、一人暮らしにアパートを借りることも難しい。
一人前になって独立しないと、とても食べていけない厳しい世界である。

D「目標とかあるの?」

見習い「自分の作った使徒が映画に使われるのが夢ですね……」

彼は四畳半の部屋に貼られたエヴァのポスターを眺めながらそう言った。
使徒職人の道は辛く険しい。それでも彼は夢を追う。

10: 2010/10/06(水) 03:38:02.86 ID:vppnZCII0

ある日、大下くんは真剣なまなざしで木村さんの作業を見つめていた。
使徒作りで一番の大仕事、『あつかり』という技法を使った
ATフィールドの製作がこれから始まる。

職人「ええか、よう見とけよ。やり直しせえへんからな」

見習い「はい、親方」

木村さんがバケツに入ったATフィールドの原料をヘラで混ぜあわせる。
その配合は師匠から受け継いだ秘伝中の秘伝である。
そして『へしれ』と呼ばれる専用の道具を原料にひたす。

職人「プッ! ほれ! プッ! ほれ! プッ! ほれほれ!」

木村さんが原料をつけたへしれに息を吹きかけると、鮮やかなATフィールドが
広がっていく。見事な職人芸に、我々スタッフも息を呑む。

13: 2010/10/06(水) 03:42:19.17
職人「最近はネウロイ職人の方に皆流れちまって……」

そう言う彼もまた、副職でワームを作ることもあるという。

15: 2010/10/06(水) 03:47:58.51 ID:vppnZCII0
職人「プッ! ほれ! プッ! ほれ! プッ! ほれほれ! ほれいくで!
   さんとぎええぞ! さんとぎせえ!」

見習い「はい!」

『さんとぎ』と呼ばれる器具でATフィールドを固定化する。
大下くんは緊張の面持ちでゆっくりとさんとぎをATフィールドにあてる。

職人「もうちょい上や上! もうええ離せ離せ、離せアホ!」

見習い「は、はい!」

職人「よっ、プッ! プップッ! ほれ! プッ!」

最後の微調整を行ない、ATフィールドが完成する。
素人の我々にも一目でわかるぐらい、見事な出来栄えであった。

16: 2010/10/06(水) 03:54:58.60 ID:vppnZCII0
職人「よし、ええやろ」

汗だくの木村さんは満足そうに完成品を眺める。近頃はあつかりの出来る職人も殆どいなくなり、
ATフィールドも機械で作られるものが多いそうだが、機械に手作りの味は出せないと彼はいう。

職人「この呼吸や、ええか?」

見習い「はい、親方」

自分が引退するまでに大下くんに技術の全てを伝えたい。
それまではこの仕事をやめられない。木村さんの眼には強い熱意が込められていた。

17: 2010/10/06(水) 03:58:54.43 ID:vppnZCII0
ある日のこと、他県に住む木村さんの息子夫婦が子供を連れて彼の家を訪れた。
久々に会う孫の顔に頬を緩めた木村さんは、好々爺の顔を覗かせる。

職人「ひとし、ええもんあげよ。オモチャやで」

孫「わあい、どんなのどんなの?」

職人「ゼルエルの人形や、おじいちゃんが作ったんやで」

孫「……あ、うん。ありがとう」

この日のために、密かに作っていた使徒のミニチュア。
精巧な出来栄えは芸術品のようだ。孫の喜ぶ顔を見て木村さんも嬉しそうに目を細める。

19: 2010/10/06(水) 04:04:11.55 ID:vppnZCII0
D「どうしたんですか?」

職人「……」

D「この捨ててあるの、お孫さんにあげたやつですか?」

職人「……」

木村さんは肩を落とし、ミニチュアを拾いあげ屑置き場に持っていった。
その後息子夫婦がひとしくんを叱ったが、木村さんは別にええよ、と悲しそうに笑った。
後日、木村さんはオモチャ屋で買ってきたエヴァ初号機の人形を孫にプレゼントした。

職人「ひとしも大きなったら使徒の良さがわかる思うんです……」

木村さんはいう。悪役でも、やられ役でも、必要とされている。だから使徒を作るんだ。
近所の子供に指をさされたり、嫌がらせの電話が掛かってくることもある。
それでも、誰かがやらなくてはいけない。使徒職人への偏見が、幾度も彼ら職人を苦しめた。

21: 2010/10/06(水) 04:16:08.27 ID:vppnZCII0
それから数ヶ月の後、我々スタッフは再び木村さんたちを訪れた。
以前よりも幾分職人の顔つきになった大下くんが、使徒作りの手伝いをしていた。

職人「早めに仕事覚えさせよう思ってね。祐介は筋がええですから」

木村さんが技術の伝授を急ぐ理由。それは彼の体調にあった。
医師からも、仕事をやめて静養するよう強く言われた。
だが、後継者を育てるまでやめるわけにはいかない。
自分はもう長くない。そう悟った彼は、大下くんへの指導に一層熱を入れる。

職人「アホボケ! そんなもん売りもんになるかい! やり直せ、ドアホ!」

見習い「す、すいません!」

一刻も早く、大下くんを一人前の職人にしたい。だが、製品に妥協はできない。
作業場には、連日連夜激が飛ぶ。

23: 2010/10/06(水) 04:21:35.78 ID:vppnZCII0
D「辛くないですか?」

見習い「泣き言いってられませんから……」

大下くんの顔に、親方の期待にこたえたいという決意の表情が浮かんでいた。

そして数日後。

職人「よっしゃ、ええで。完成や。ようやったな」

見習い「はい……親方」

新作の使徒、ラミエルが出来上がった。
木村さんは、これは自分と大下くんの合作だと言った。
大下くんの腕を信頼し、彼に重要な部分も任せたのだ。

見習い「俺……嬉しいです」

大下くんの目に涙が浮かんでいた。大仕事をやり終えた達成感でいっぱいだ。

25: 2010/10/06(水) 04:28:45.86 ID:vppnZCII0
そして、ピカピカに磨きあげられた使徒はアニメ制作会社に出荷されていく。
娘を嫁にやるような気分だと、木村さんは言う。

だが数日後、事件は起こった。
木村さんの元に入るクレームの電話。あのラミエルに関してのことだった。

木村さんは新幹線に飛び乗り、東京にある制作会社まで向かった。
顔には不安の色が浮かぶ。

そして、制作会社のスタッフは木村さんを叱りつけるように
クレームの内容を語った。

スタッフ「おたくのラミエル、あれね、初号機を倒したんですよ。
     おたくはこんないい加減な仕事されるんですか? おかげで大損害ですよ」

職人「ほんまにすいません! 弁済はさしてもらいますんで……!」

26: 2010/10/06(水) 04:32:58.07 ID:vppnZCII0
初号機とラミエルの戦闘シーンのリハーサルにて、ラミエルが初号機を撃破してしまったのだ。
強すぎたのだ。それは、使徒として明らかな欠陥品である。
使徒は強ければいいというものではない、絶妙なさじ加減で負けるからこそ、エヴァが映えるのだ。
だから、使徒の強さの調整には熟練した経験と技術が必要なのである。
それを担当したのは……大下くんであった。

見習い「すいません親方……すいません……ううっ……」

職人「やってもうたもんはしゃあない、これもええ経験や」

原因は、大下くんの"若さ"であった。
若い職人はみんな、強い使徒を作りたいと思っている。
だが、そういった私情を抑えて、初めて一人前の職人になれるのだ。


D「大下くん、ずいぶん落ち込んでましたけど大丈夫そうですか?」

職人「こんなもん、使徒職人やったら一度は通る道ですわ」

かつて木村さんも、同じ失敗をしたことがあった。だからこそ、大下くんの気持ちが痛いほどわかる。
大きな損害を被ったことは確かだが、大下くんがこれで成長してくれるなら、
と木村さんは笑って言った。

27: 2010/10/06(水) 04:35:42.51 ID:vppnZCII0
見習い「プッ! ほれ! プッ! ほれほれ!」

職人「もっともっと! もっと勢いつけてやれ、ドアホ!」

見習い「プッ! ほれ! プッ! ほれ! プッ! ほれほれ!」

職人「ええぞ! そやそや! それや!」

今日も彼ら頑張りの声が作業場に響き渡る。
使徒職人の道は辛く険しい。彼らはその道を急ぎ足で駆け抜ける。
人々に夢を与えるために。自らが夢を叶えるために。



           ドキュメント2010
      ~エヴァを支える人たち 使徒職人の"今"~

                           制作・著作
                            ゼーレ

28: 2010/10/06(水) 04:36:24.83 ID:vppnZCII0
シンジ「父さん! 使徒がわけの分からないビデオを見せてくるんだ……っ!
    使徒を、使徒を倒すのが可哀想だよっっ!!」

ゲンドウ「構わん、やれ」

シンジ「大下くんが、木村さんが頑張ってるんだ! 出来ないよ、無理だよ!!」

ゲンドウ「そんな奴は実在しない、さっさとやれ」



おわり。

29: 2010/10/06(水) 04:36:54.44
ガッテン!ガッテン!

30: 2010/10/06(水) 05:18:16.58
>>1
乙w
おもしろかった

31: 2010/10/06(水) 06:41:02.87
だからゲンドウは15使徒の時に初号機を出さなかったのか……

33: 2010/10/06(水) 10:46:46.69
ワロタwwwwwwww

35: 2010/10/06(水) 11:01:52.48
制作ゼーレwww

引用元: 使徒職人の朝は早い