1: 2015/08/15(土) 09:17:51.171
ガタンガタン
『左側のドアが開きます。足元に隙間がありますのでご注意ください。』

男「…ふう、やっと帰ってこれたな」

男(上京してからの久しぶりの帰省)

男(こんなに何もなかったかな)

男「えっと、バスの時間は…40分後って」

男(ばかばかしくなるほど田舎だな)

3: 2015/08/15(土) 09:23:04.478
男「…」スイスイ

男(こんなとこでも電波はあるのか)

男「…」

女「…」

男(いつの間にいたんだ?ってかなんでこっち見てんだ?知り合いか?)

女「なぁ、兄さん都会がら来た人?」

男「…そうだけど」

女「んだべなぁ、観光ってもここさはなんにもないよ?」

男「違うよ、帰ってきたんだ」

6: 2015/08/15(土) 09:27:09.930
女「帰ってきたってどこの人?」

男「中の部落だよ」

女「あー、あそこの」

男「知ってる人いる?」

女「市会議員の先生がいるどこでしょ?」

男「…ずいぶんおじいちゃんの知り合いだな」

女「有名だもの」

男「確かに」

女「でも先生知ってるってことはほんとにここの人なんだべな」

8: 2015/08/15(土) 09:31:27.318
男「まぁな、おっとバス来た」

女「せばね」

男「乗らないのか?」

女「俺は別の待ってるから」

男「そうなの?」

女「ねぇ、名前なんていうの?」

男「男だよ、君は?」

女「女、多分ここにまたいると思うから」

男「じゃ、またね」

女「うん、また」

11: 2015/08/15(土) 09:35:42.783
実家

母「おかえり」

男「ただいま」

母「遠かったでしょ、荷物おいてきたら仏壇に挨拶してきなさい」

男「はいよ、あとこれお土産」

母「わぁ東京バナナなね」

男「べたなお土産だけど」

母「いいのいいの、じっちゃにもあげてきな」

男「あぁ」

14: 2015/08/15(土) 09:41:16.196
男の部屋

男「…ようやく一区切りついたな」

ピロン

男「…」スイスイ

『今帰ってるんだっけ?』

男『あぁ、やっぱなんもないわこっち』

『普通考えたらそうだって、俺は今年帰らないし』

男『まぁ年に何回もないことだし』

『ま、楽しんで来いよ』

男「…大学のやつら、今頃合コンかぁ」

<ゴハンダヨー

男「はーい」

16: 2015/08/15(土) 09:45:55.177
居間

母「大学はどう?勉強ついていけてる?」

男「単位だって取れてるし大丈夫だよ」

母「そういってあんたは昔から勉強嫌いだったし」

父「まぁ母さん、いいだろ今日くらい」

男「そうだそうだ」

父「男も酒飲むか?」

男「うん」

父「何のむ?日本酒?」

男「チューハイ」

父「…そっか」

17: 2015/08/15(土) 09:51:18.574
---------------------
------------

父「だがらよ?お前の年でも隣さんは結婚してたのよ」

男「まだ学生だから無理だって」

父「学生がなんだ!結婚はいつでもできる!」

男「できるわけねぇだろ!」

母「二人とももう夜遅いんだからばっちゃはもう寝てるのよ!」

父「二十歳過ぎたら女の一人や二人囲っとかないと」

母「父さんは囲ってたの?」

父「あぁもち…ろんいるわけないじゃないですか」

母「そうね、そういうことにしといてあげる」

男「ははは」

19: 2015/08/15(土) 09:56:48.705
男(…なんか久しぶりだな、こういうの)

男(家族っていうのもずいぶん忘れてたような気がする)

母「まぁそろそろ寝なさい?男だって疲れてるでしょ?」

男「そうする」

母「明日には妹も帰ってくるし迎えに行ってもらわないとね」

男「俺が?」

母「働かざる者なんとやらってね」

男「父さんは?」

母「もっとキツイ仕事をお願いします」

父「母さん怒ってる?」

母「怒ってない」

男「…わかった、じゃあおやすみ」

母「はい、エアコンはタイマーにしておきなさいね」

男「はいはい」

20: 2015/08/15(土) 10:02:49.628
次の日

ブロロロロロロロロロ 

ピタ

プスン

男「またかよ」

キュルルルルルル ドゥルルルルルルン

男「マニュアルなんて運転したの久々だからなぁ…」

男「…駅までバスで30分だから…」

男「…ん?」

24: 2015/08/15(土) 10:08:10.492
女「…」スタスタ

男「あ、昨日の」プップー

女「?」

男「こんにちわ」

女「あ、昨日の人」

男「今からどこ行くの?」

女「駅さ行こうとしてらったの」

男「ちょうどよかった、乗ってく?」

女「ほんとに?いいの?」

男「あぁ、ほらのってのって」

女「じゃあお願いしまーす」

25: 2015/08/15(土) 10:14:08.722
男「軽トラだからエアコン効かなくて暑いけど」

女「そんたことないよ?大丈夫大丈夫、お兄さんはどっからきたの?」

男「東京から」

女「東京!?はぁ~どうりで垢抜けてらど思った」

男「君だってなかなか可愛いと思うけどなぁ」

女「そういって都会の人は狼になるんだべ?」

男「俺はそんなことしないよ」

女「んだべなぁ、軽トラの中で口説かれるのは初めてだもの」アハハ

男「ムードのかけらもないな」ハハハ

27: 2015/08/15(土) 10:19:12.117
男「そういえば君はどこの人なの?」

女「俺も中の部落だよ」

男「そうなの?どこの家?」

女「んー、ひ・み・つ」

男「なんだよそれ」

女「そんたに軽い女じゃないってことです」フフン

男「…参りました」

女「まぁ、もう少ししたらね」

男「はいはい」

29: 2015/08/15(土) 10:24:44.323


女「せばね、ありがとう」

男「いや、ついでだったから」

女「お礼でこれあげる」

男「…あ、これ黒飴?」

女「お駄賃」ニコ

男「…ん」

女「どうしたの?」

男「いや、なんでもない、うん、じゃ、また」

女「うん!」



男「…なんだっけ、なんか引っかかったような」

妹「兄さん?」

男「うお!おかえり!」

妹「?…ただいま」

30: 2015/08/15(土) 10:33:41.952
実家

妹「もう最悪!!」

男「悪かったって」

母「おかえり、どうしたの?」

妹「兄さんが何回もエンスト起こしてすごい時間かかった!」

男「しょうがねぇだろ慣れてないんだから」

妹「これだったらバスで来たほうが良かった」

男「行きは良かったんだけどなぁ…妹重くなったんじゃないか?」

妹「…馬鹿!!」ドンドンドン

男「あ…」

<オーオカエ

<フン!!!

父「…な、なんか機嫌悪いんだけど」

母「男、あとで謝っときなさいね」

男「はぁ…」

31: 2015/08/15(土) 10:41:50.016
居間

妹「ごちそうさま」

父「もう、いらないのか?」

妹「おなか一杯」

母「そう?あとでおなか減ったら言いなさいよ?」

妹「うん」

男「…」



母「あんたまだ謝ってないの?」

男「だってタイミングが…」

母「…お母さんアイス食べたくなったから買ってきて」

男「えぇ!なんで?」

母「仲直り用のケーキも買ってきていいから」

男「なんかまた怒りそうな」

母「そこは何とかしなさいお兄ちゃん」

34: 2015/08/15(土) 10:46:24.384
ブロロロロロロロロロ 

ピタ

プスン

男「くそ」

キュルルルルルル ドゥルルルルルルン

男「一番近いコンビニだって駅近くじゃないとねぇのに…」

男「…そういやあの子はいるのかな?」

男(いや、まさかな)

男(近くだし、車でのぞくだけ…)

ブロロロロロロロロロ

51: 2015/08/15(土) 10:53:41.295
女「ふんふんふんふーんふんふん♪」

男「おい、もう暗くなってるぞ」

女「ん、こんばんわ」

男「帰らなくていいのか?」

女「帰ろうとしてらんだけどねー」

男「こんな暗くなっても帰らないとか家が嫌なのか?」

女「うーん、そうでもないよ?ただ俺がいるとみんなの邪魔するんだよ」

男「邪魔するって」

女「…なんていうが、いるだけでも邪魔だからその家には行きたくねんだよね」

男「…んーそうか、でも俺の妹よりは邪魔じゃないと思うぞ?」

55: 2015/08/15(土) 11:00:19.250
女「え?」

男「帰ってくるなり人の運転にケチつけるし」

男「冗談で言ったこと真に受けるし」

男「機嫌が悪くなるとすぐ顔に出るしな」

女「仲いんだね」

男「メンドくせだけだ」

女「あ、方言出た」

男「んだな」

女「そっちのほうがいいよ」

男「そうかな?」

女「また戻ってらよ?」

男「いいのいいの」

57: 2015/08/15(土) 11:07:26.367
男「家近いなら送っていこうか?」

女「まだもうちょっとここにいる」

男「大丈夫なのか?」

女「お兄さんよりここのことは知ってるがら大丈夫」

男「そっか…」

女「どうしたの?」

男「あのさ、俺達って会ったことあるのかな?」

女「…!」

男「いや、なんというかさ」

女「…あるよ」

男「やっぱり!でも、なんというか覚えてなくって…ごめん」

女「…ううん、覚えてでくれでるだけでも」

男「じゃぁ、気を付けてね」

女「うん、せばね」

58: 2015/08/15(土) 11:12:08.150
実家

男「妹?いるか?」

<イナイ

男「ケーキ買ってきたから一緒に食べよう」

<マタ エンスト スルシ

男「もう俺も運転慣れたからしないよ」

<…

男「な?ショコラとイチゴの好きなほう選んでいいから」

ガチャ

妹「…イチゴ食べる」

61: 2015/08/15(土) 11:19:41.297
妹「…」モグモグ

男「そういやお前の同級生くらいで女っている?」

妹「んーん、いない」

男「いないかー」

妹「どうしたの?」

男「いやこっち帰ってきてからおまえくらいの女の子にあったんだけど昔あったことあるらしいんだよ」

妹「えー、私とおんなじくらいの子帰ってきてるのかな」ゴロン

男「方言強い子でさ、知らない?」

妹「女…女でしょ?わかんないなぁ」ムムム

男「おまえ知らないんじゃなぁ…」


男(ほんとに誰なんだろう)

63: 2015/08/15(土) 11:27:31.825
次の日

母「妹の同じ年くらいの女の子?」

妹「そう、昨日兄さんが聞いてきて」

母「みっちゃんとよしこちゃんは?」

男「それなら俺だってわかるんだけど、女って名前なんだよ」

母「それくらいの年でそんな名前の子はいないんじゃない?」

男「母さんまでそうだとあの子は引っ越してきてんのかな」

母「いやー、新しい人は来てないよ?」

男「ここの部落だって言ってたんだけど…」

母「…んー今日お墓参りだしみんなさ聞いてみでけよっか?」

男「いや、いいよ、また軽トラ借りるよ」

母「はいはい」

65: 2015/08/15(土) 11:32:29.799
ブロロロロロロロロロ 

男「いた」

女「あ、兄ちゃんまたお使い?」

男「それもあるけど、この時間行けばまた会えるかなって」

女「また送ってけるの?」

男「あぁ、乗って乗って」

女「せばお邪魔します」ニコ

66: 2015/08/15(土) 11:37:16.611
女「運転うまぐなったね」

男「帰ってきてから毎日運転してるから慣れたよ」

女「やっぱり若いと色んな事早く覚えていいな」

男「そっちのほうが若いでしょ」

女「俺は機械だめだぉの」

男「携帯とか持ってないの?」

女「いらね」

男「いまどき珍しいな」

女「動かせねんだもの」

67: 2015/08/15(土) 11:42:46.500
男「そういえばさ」

女「ん?」

男「俺、やっぱり忘れてるんだな、君のこと全然思い出せなくて」

女「いい、いい、仕方ねべった」

男「許してもらえる?」

女「送ってもらってらし、話し相手さもなってもらってらし」

男「送りついでになんで毎日バス停に行くの」

女「…んー、待ってるバスがあるんだけどなかなか来ねぐって」

男「…待ってるバス?」

女「そう」

68: 2015/08/15(土) 11:49:39.759
男「そのバスは必ず来るのか?」

女「この頃はよく来るなぁ」

男「じゃあ乗ればいいのに」

女「だけどお金持ってねぐって」

男「なんだそりゃ」

女「だから今は見るだけがな?」

男「バス賃ないなら貸してやろうか?」

女「へ?」

男「いや、嫌ならいいけど…」

女「…それもいいがもね」

70: 2015/08/15(土) 11:54:19.503
バス停

女「一緒に待つの?」

男「あぁ、時間はあるし」

女「別にいいってぇ」

男「その特別なバスっていうのも見てみたいし」

女「普通のバスだよ?」

男「気になるなぁ」

女「ん~、あっ」

男「来たか?」

女「違う、ただのバスだった」

男「なんだ」

71: 2015/08/15(土) 11:57:37.618
1時間後

女「…」

男「…来ないな」

女「…うん」

男「いっつもこんなことしてるのか?」

女「これくらいしかできねもの」

男「…」

女「飴食べる?」

男「…うん」

女「そういえばさ東京ではどんなことしてらの?」

72: 2015/08/15(土) 12:02:23.629
男「なにって大学行って勉強してる」

女「へぇえ」

男「あとは合コンとか飲みとか」

女「なにそれ」

男「酒飲んで騒ぐやつ、飲んだことある?」

女「俺は飲まねもん」

男「もったいない」

女「じっちゃも酒で当たって氏んだがら飲まないことにしてらの」

男「…あぁ、そっかごめん」

女「いいよ、気にするな」

男「あとは買い物とか」

女「東京さはどんなものあるの?」

男「例えばさ…」

75: 2015/08/15(土) 12:09:25.519
3時間後

女「その雷門はテレビで見だことある」

男「浅草だからな」

女「渥美清が顔が良くって」

男「またずいぶん古いものを」アハハ

女「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又」

男「おぉ!見てるなぁ」

女「んだべぇ?」

ブロ…ロロ…ロ…… 

女「あっ」

男「ん?」

女「来た」

男「あれか…」

77: 2015/08/15(土) 12:14:35.103
男「なんだかずいぶん遅いな」

女「早かったら大変だべな」

男「ずいぶんぼろいようだけど大丈夫なのかあれ」

女「大丈夫だべ」

男「そうか」

女「バス賃もらえる?」

男「いくらだ?」

女「…」

プルルルルルルル

男「ん、電話だ、ちょっと待って」

男「もしもし母さん?」

母『あ、男?』

79: 2015/08/15(土) 12:19:51.059
男「どうしたの?」

母『そこに女さんっている』

男「いるけど」

母『…あのね、みんなに聞いてみたんだけどやっぱり知らないっていうのよ』

男「あーそうなの?」

母『ただ、ただね、ばっちゃとその子、名前が同じなの』

男「え?」

母『だから、いやそんなことないんだと思うんだけど』

男「…」

母『…ちゃんと帰ってくるようにって伝えてちょうだいね』

男「…う、うん」

80: 2015/08/15(土) 12:23:35.961
男「…」プツ

女「…」

男「バス賃っていくら?」

女「六文」

男「…そっか」

女「多分1000円でも大丈夫」

男「…相変わらず元気だなばっちゃ」

女「そんなことねぇよ」

82: 2015/08/15(土) 12:28:39.068
男「じゃあ、このバスは」

女「あの世行ってのだとは思うんだよ」

男「乗らなくったっていいんじゃないか?」

女「どうせ寝たきりだもの」

男「…母さんは帰ってこいだってよ」

女「それを言われたらなぁ」

男「いつかは行くんだからさ」

女「…んだけどさ」

男「だけど?」

女「やっぱり食い扶持稼げなくなったら生きててもなぁ」

83: 2015/08/15(土) 12:34:34.045
女「誰でもよ?綺麗なままで氏にたいと思うべった?」

男「それは」

女「オメだってなかなか顔ださねべ?」

男「…ごめん」

女「母とヘルパーさん来てけでやってもらってるけど」

男「…ばっちゃ」

女「オメなら嫌でないか?」

男「でも、だからって」

女「だから早くバス賃よこせって」


男「嫌だ!!!」

85: 2015/08/15(土) 12:38:36.904
女「…」

男「…ごめん、ばっちゃの言うこともわかるよ、でも、でもさ」

女「…はぁ」

ブロロロロロロロロロ 

男「あ」

女「ほら、いっちゃったねが」

男「え、止まらないで?」

女「だってあれ回送だもの」

男「はぁ!?」

87: 2015/08/15(土) 12:45:38.036
女「今はお盆でバスの中は満員だから乗れたもんでねしな」ニヤニヤ

男「な、な、な、」

女「嫌だ!!」

男「ばっちゃ、やめれって!」

女「ほれ、今日もバス行っちゃったし帰るがー」

男「全部わかっててやったのかよ!?」

女「そんたごとはないよー」

89: 2015/08/15(土) 12:47:55.262
男「…あー!もう!帰るぞ!!」

女「んだんだ、送ってげ」

男「…はぁぁ」

女「どうしたの」

男「言い忘れてたんだ」

女「なにを?」

男「…ただいま!」

女「ふふ、おかえりなさい」

90: 2015/08/15(土) 12:48:54.094
今日は送り火ですね。お気をつけて。
おわり

91: 2015/08/15(土) 12:53:41.184

92: 2015/08/15(土) 12:55:31.648
おつ

引用元: 女「どうしたの」男「言い忘れてたんだ」