1: 2011/02/28(月) 21:00:31.50

「次にその名前で呼んだらブッ頃すかんな」

怖っ。可愛いから許すけどさ。

「てかさ、それ言われるの5回目くらいなんだけど」
「じゃあ何でそれを知っててまだ呼ぶんだよ」
「杏子に殺されるのも悪くないかな~、なぁんて」
「バッカじゃねぇの」

少し前に本気の頃し合いをした(少なくとも私は本気だった)2人の会話とは思えなかった。
よくもまあこれだけ距離が縮まったものだなーってしみじみと思う。

「(ご飯を一緒に食べれるまでに、それはもう涙なしには語れない血と汗と笑いに満ちた数々の失敗談がね・・)」

まどかも誘って一緒に買い物に行こうって言っても、マミさんの家に遊びに行こうって言っても、

『バッカじゃねぇの』

と、いう風にバッサリ斬り伏せられる。
5回連続で断られた時点でソウルジェムの負の力が満杯になりそうになったけど、私は諦めずに誘い続けた。

3: 2011/02/28(月) 21:02:45.64

そんな苦渋の日々が続いた、ある日の放課後のこと、

「ねぇ、今日一緒にご飯食べない?」
『あん?マミとかあの仲良しのピンクと食べに行けば良いだろ』
「マミさんは連絡取れなくって、まどかは一家団欒でご飯食べに行くって言うから、独り身の私は同じく独り身の杏子を誘ったってワケ」
『独り身ぃ?バイオリン弾きのあいつを誘えば良いだろーがよー』
「恭介は今日もレッスンなの、だから杏子を誘ってんの!」
『あたしの優先順位はそんなモンか・・』
「え、なんか言った?」
『じゃあ確認すっけど、あたしとあんただけでご飯なんだよな?』
「そーだよ。何ならあの転校生も呼ぶ?」
『いや、アイツはいい・・苦手だから』
「よし、決まりねっ。6時に見滝原中近くのファミレスで!」
『あんたの奢りだからな、遅れんじゃねーぞ』
「そっちこそっ」

今まで散々断られてきただけに、嘘かと思うくらいに滑らかな流れだった。
杏子のことだから『ご飯』ってワードに釣られたんだと私は思う。
どうして、そこまでして杏子と話したいかって?
そりゃあ、魔法少女同士の親睦を深めるって奴ですよ、てへへー。

4: 2011/02/28(月) 21:04:42.97

「・・カリカリ」
「ねぇ」
「・・カリカリ」
「ねぇってば」
「カリカリ・・んぐっ、何だよ」

それにしても、せっかく久しぶりに会えたっていうのに杏子は何も話そうとしない。
向かい側に座ってる杏子がつまらなさそうに●ッキーを食べ続けることはや三箱。
ファミレスに入ってからメニューも頼まずに、ただただ貪ってるだけ。
私と話すより●ッキー食べてた方が良いってこと?

「杏子ってさ、いつも何か食べてるけど太ったりしないの?」
「ぶっ・・ん、んなコトねーし」
「ほんと~?」
「あたしは太らない体質なんだよっ」
「ふぅ~ん、ちょっと確認してみよっか~?」
「だっ、てめぇ何しやがっ、ひゃあっ!」

ゴスッ!

・・殴られた。

5: 2011/02/28(月) 21:06:49.53

「へ、変態かおまえっ、次にあたしの腹に触ったら槍で刺すからな!」
「痛た・・、おヘソ出してる方が悪いんじゃん?」
「るっせぇんだよっ!」

見る見るうちに顔を赤らめる杏子。
気を紛らすために袋から●ッキーをまとめて五本も引っこ抜いて口に挟む杏子。
私から視線を逸らしたまま、ガリガリとおやつに励む杏子。
3連続で可愛い。

「だ、大体、魔法少女として毎晩戦ってるんだからカ口リー消費は申し分ないはずだろっ」
「そうやって体型維持を意識しないで、気付いたときにはもう手遅れってパターンが多いのよね~?」
「別に良いし・・誰に見られるワケでもないしな」

誰に見られるワケでもないって・・私が見てんのよ。
自分が可愛いってことを少しは自覚しろってのっ。
凡人のあたしに対する挑発か、挑発なのかっー!?

7: 2011/02/28(月) 21:09:03.54

「でも、そんなにちょくちょく食べてるのに胸には栄養いってないんだね」
「あんただって人のこと言えるほどないだろーがっ!」
「え~、私の見せたことあったっけ?」
「見たことねぇし、見たくもねぇっ!」
「ひっどーい!」

ふっふ~ん、素直じゃないんだから。
杏子をからかうのはホント楽しいな~♪・・度が過ぎると半頃しにされるけど。
でも、強気で口が悪くて残酷なこと言えちゃう割にヘタレでウブなところとかマジ可愛い。
ウチに嫁に来ないかなー、まどかと一緒に。

「で、何も頼まないのか?あたしいい加減腹減ってしょーがないんだけど・・カリカリ」
「じゃあ何でそんなのずっと食べてるのよ・・」

腹減ったと言いつつもメニューを手に取ろうとしない杏子の代わりに、私がメニューを開いてあげる。
まったく不精者っていうか何て言うか・・。

8: 2011/02/28(月) 21:10:41.03

「ねぇ、何食べる?」
「ん~、身体に悪そうなモンが良い」
「いつもジャンクなものしか食べてないじゃん」
「失礼な奴っ・・でも、1日3食はきちんと食ってるぞ?」
「盗んだ奴をでしょ、しかも間食は星の数ほど」

一度、杏子の乱れた食生活を叩き直してやりたい。

「私、シーフードパスタとドリンクバーにするけど」
「んー、あたしはポテトの山盛りで良いや」
「だーめっ」
「は?」
「だめっ」
「何でだよっ」
「だめ」
「・・・」

メニューを取り上げた私を、ふっくれつらの杏子が睨み付ける。可愛い。

10: 2011/02/28(月) 21:12:27.05

「せっかくなんだし、もっとヘルシーなもの食べなよっ」
「あんたに指図される言われはないっつーの、自分が食いたいもの食って何が悪ぃんだよ!」

うーん、譲る気配はなさそうだ。
杏子ってこういうトコは結構頑固なんだよねぇ・・そうだ、良いこと思いついたっ!

「大体、あたしはなあ、」
「・・・」
「おい、どーした?」
「・・っく」
「おい・・」
「ひっく、うぇ」
「えっ、オイ!?」
「わ、たし・・杏子の体調のことを考えて、っく・・言ってるのに」
「おまえ、何で泣いてっ・・!?」

私のウソ泣きを前に、見るからにあたふたする杏子。
にししっ、慌ててる慌ててるv

11: 2011/02/28(月) 21:13:23.80

「わ、悪かったよ・・今日くらいはちゃんとしたモノ食うからよっ」
「ぇぐっ、今日だけ・・?」
「分かったよっ、3日!3日間は規則正しく食べるって!」
「・・3日?」

くそっ、ガードが固いっ!
こうなれば・・くらえっ!
さやかちゃん必殺、涙目上目遣い!

「・・うっぐ、じゃあ1週間だ。それ以上はあたしだって譲れないからなっ」

こうかは ばつぐんだ!

「うん、約束だかんねー」
「お、おう」
「じゃあ、私が杏子の晩御飯を選んであげる。この和食Aランチとシーザーサラダと・・」
「わ、和食・・」

杏子が口にくわえた●ッキーを上げ下げしながら、明らかによろしくない顔をする。
んぅ・・、不満気な杏子も可愛いなーv
頭を撫でっ転がしてあげたい衝動に駆られるも、ギリギリで理性を保つ私。

14: 2011/02/28(月) 21:16:14.27

「和食嫌い?・・たまにうどん食べてるじゃん、カップ麺だけど」
「そうだけどよ、今日は何となくそういう気分じゃねぇって言うかサ」
「ふーん・・じゃあ私と同じパスタで良い?」
「おう、その方が作るのも楽だろーよ」

私がすかさず呼び出しボタンを押して、ウェイトレスに注文する。
杏子がボタンを押したそうにしていたのを横目で見ていた私は、注文している最中も口元の緩みを抑えられずにいた。
今日だけで何回言ったか把握してないけど、言うね。杏子マジ可愛い。

「ご注文は以上でよろしいですか?」
「・・あと、コレをお願いしますー」
「なっ・・オイこら!」
「かしこまりました、では注文を繰り返させていただきます」

そのとき、杏子が私の脛をガツンと蹴った。

「あいたっ!」
「・・いかがなされました?」
「い、いえ。なんでもないですぅ・・あはは」

15: 2011/02/28(月) 21:18:39.71

うぅ、脛がめっちゃジンジンする・・容赦なさすぎ。
ウェイトレスが居なくなったのを見計らって、私は杏子にすぐに噛み付いた。

「ちょっと、私の美しいおみ足になんてことすんのさっ!」
「っるせぇ!あたしには規則正しく~とか偉そうに語っておいた野郎が、こんなでっかいデザート頼むのが悪いんだろっ!」

杏子がメニューにデカデカと載った『ツインストロベリーパフェ』を指差しながら怒鳴った。
ビールのジョッキを遥かに越えた大きさのグラスにイチゴと生クリームがこれでもかってくらいにちりばめられてる。
まぁ、何が言いたいかっていうと怒ってる杏子も可愛(ry

「ふっふ~ん、まあ落ち着いて落ち着いて。これは杏子のためでもあるんだからねっ」
「あん?」
「そのうち分かるよ~」
「あたしはあんたの考えてることがわかんねーよ・・」
「『あんた』じゃなくて『さやか』っ」
「るせぇ・・」

頬杖をつく杏子を駆り立てて、とりあえず、私たちはドリンクを注ぎに行く。
杏子のポニーテールが猫の尻尾みたいに揺れるのを後ろから見ていると、とっても和む。
これでもうちょっと素直になってくれれば良いんだけどな・・。

18: 2011/02/28(月) 21:24:21.02

「・・いや、それはそれでアリか?」
「何言ってんの、あんた?」
「あっ、いや何でもないって・・そういや、今日は魔女退治に行かないの?」

派手な色をした炭酸飲料を注ごうとする杏子の手を止めて、私はお茶の入ったグラスを渡す。
何か言いたげな杏子はその愚痴を飲み込んで、私の問い掛けに応える。

「んー、この1週間で4回も戦ってるからな。魔法少女に休みはねぇけどたまには休息も必要ってね」

仕返しとばかりに杏子が私にもちゃっかり同じお茶を手渡す。
くそっ、私はメロンソーダが飲みたかったのに・・。
うわっ、しかもこれめっちゃ氷入ってるし。

いや、そんなことよりも、杏子、『たまには休息も必要』って言った?
つまり、今夜の杏子はオフってことでよろしいかっ!?

19: 2011/02/28(月) 21:25:19.86

「じゃあさ」
「ん?」
「今日、私の家に泊まりに来ない?」
「・・ぶっふぅっ!!?」

お茶を飲みながらテーブルに戻ろうとしていた杏子は盛大に吹き出していた。
さっきと同じウェイトレスが慌てて布巾を持ってきて床を拭きにかかる。
なぜか私が平謝りして(杏子はそっぽ向いたまま)、
周りのお客さんの視線を受けながらテーブルに静々と戻りつつ、

「泊まりって・・あんたの家にか?」
「当たり前じゃん、今日親居ないし」
「いや、だってあんたは明日も学校・・、」
「今日はFriday・・つまり金曜日だよん?」

22: 2011/02/28(月) 21:30:19.26

ぐぬぬ・・、と真っ赤な顔をした杏子が唸る。
よくわかんないけど、反論がないってことは快諾と受け取って良いのかな?
女の子同士なのに何を意識してるんだか・・でもそこがまた可愛い。

「もしかして、嫌・・?」
「い、嫌じゃねーけどさ、良いのかよ?」
「良いから誘ってるんでしょ、恋する乙女のお誘いを断るってーの?」
「別にあんたはあたしに恋してるワケじゃねーだろーがっ!」

私はこれでもかと言うくらいに、怪訝な視線を杏子に送る。
先に目を逸らした方が負けと言わんばかりの視線のぶつかり合い。
だ・・駄目だ、まだ笑うな・・。
結局、数秒後に杏子が小さな溜め息と共にこう告げた。

「わ、わかったよっ・・行くからそのあたしを蔑むような目は止めろっての」
「言ったね・・二言はないよね?」
「ねぇよ・・今夜の宿が確保できただけ、あたしにも利得があるしな」

計画通り・・!



23: 2011/02/28(月) 21:32:47.00

―――――

「いやー、食った食った・・」
「おかえり。食べた直後にトイレって・・杏子って消化良いんだね」
「それって褒めてんのか?」
「褒めてる褒めてる、ベタ褒めだって♪」
「うるせー」

鉄則:アイドルはトイレなんかに行かない。
でも、杏子はアイドルじゃなくて天使だからオーケーなのだっ!
あ、今、私のことバカって思ったでしょ。

「えーと、シーフードパスタに目玉焼きハンバーグにシーザーサラダに・・茶碗蒸し」
「これでもまだ胃袋の5割くらいしか埋まってないけどなー」
「奢りの話はなかったことに・・」
「え、あたし、金なんて最初っから持ってきてないぜ?」
「・・・」

それにしても、杏子と話をしようと思ってこの場を作ったのに、杏子はずっと食べてばっかりでロクに話ができなかった。
口に入れては噛み、飲み込んでは口に含み、千切っては投げ、千切っては投げの大食漢。

25: 2011/02/28(月) 21:35:01.97

「でも、まだデザートがあるよ」
「あん?あれはあんたが食べるやつだろ?」
「ちっがうんだなー、これが」

噂をすれば影がさす。
ウェイトレスが例の『ツインストロベリーパフェ』を運んできてくれた。
その笑顔が引きつってるのはパフェが重いせいかな

「お待たせしました」
「う、・・おぉ?」

ドカッと重量感溢れる音とともにパフェがテーブルに置かれるや否や、杏子の視線がそれに釘付けになっていた。
その口からはヨダレがだらしなくだらだらと流れてる。マジ杏子。

「そ、それ・・食うのかよ?」
「うん」
「あ、あのさ・・もし、もしもだぞ?あんたがそのパフェを食べ切れなかったら、あたしが余りを・・」
「杏子も食べる?」
「あ、あたしも食べていいのかっ!?」

ガタンッと身を乗り出してパフェに近づく杏子。
その瞳は今までに見たことがないくらいキラッキラに輝いていた。
このやり取りをしている間、パフェを食べたくて食べたくてモジモジしていた杏子が、私には可愛くて可愛くて仕方なかった。

27: 2011/02/28(月) 21:37:45.99

「ただし、」
「た、ただし?」

私はスプーンを一本取り、パフェに挿し入れ、掬い上げる。
私の一挙手一投足(というより、スプーンのみ)に杏子は心を奪われていた。
境遇の問題とはいえ、ホントに食欲に忠実で貪欲な子だねぇ。
そんなことを考えながら、私はイチゴの乗ったスプーンを杏子の眼前に持っていく。

「はい、あーんして」
「ぁ、ぐっ!?」
「ほらっ」
「ん、んな恥ずかしいことできっかよ!」

杏子は両手で自分の身体を抱き締めるようにソファの背もたれにもたれる。
その顔は、髪の毛と同じくらい真っ赤っかになってた。

「良いの?あーんしないと食べられないよ?」
「フンっ、他にもスプーンは・・」

と、杏子がスプーンを探すも運悪く見つからず。
ふふ、杏子がトイレに行っている間、すべてのスプーンとフォーク、お箸、爪楊枝すらも隠しておいたのだ!
さやかちゃんマジ策士!

28: 2011/02/28(月) 21:40:24.24

「く、くそ・・お客様アンケートに苦情書いてやるからなっ」
「ほらっ、観念してあーんするっ!」
「うぅ・・あたしはなんて無力なんだっ、食欲だけには勝てねぇ」

赤面しつつも前のめりになった杏子は目を閉じてあーんと控えめに口を開く。
まるでキスでもせがむようなその姿を見て、あと数分はこのままで居たいと思っていた。
でも、私にはやらなければならないことがあるのよねぇ。

「えいっ」

ピ口リンッ♪

「なっ、オイ、てめぇっ!」
「なんじゃらほい~?」
「今、写真撮ったよな!?」
「撮ってないよ~(棒」
「嘘つけ、携帯よこせっ!」
「まどかとー、マミさんとー・・」
「人に送るんじゃねぇっ!っていうか、やっぱり撮ってんじゃねーか!」
「いやーっ、杏子が私をデザートに食べようとしてるぅー!」

29: 2011/02/28(月) 21:43:04.99

激しい肉弾戦の末に携帯を奪われた私は先ほどの写真を杏子に綺麗さっぱり削除された。
正直、今年一場の悔しさだったんだけど、これ以上ちょっかいを出すと携帯を逆パカされる勢いだったから、さすがに自重。

かくいう杏子はというと、手持ちの●ッキーを勝手に挿した魔改造パフェをほぼ独り占めにして、もきゅもきゅ食べていた。
私は頬杖をつきながら、その様子を真顔で(内心ニヤニヤで)ずぅーっと見つめている。
やっぱり、物を食べてるときの杏子が一番可愛い。う~ん、今日の杏子は完璧だなぁ・・!

「な、何だよ・・?」
「うん?」
「見られてると食いづらいだろ・・」
「気にしない気にしないっ♪」


・・やっぱり、私の杏子は可愛い。



32: 2011/02/28(月) 21:48:06.43

―――――

んで、その夜。
さやかちゃんハウスにて。

「ただいま~・・って誰も居ないけどさ」
「邪魔するよー」
「・・あのさ、もっとおしとやかに挨拶できないの?」
「しょーがないだろ、誰かの家に泊まりに来るなんて初めてなんだから」

そう呟くと、杏子は●ッキーを齧りながら横を向く。
そっかそっか、初体験かー・・こいつはイジりたい放題だねぇ。
色んな作戦がさやかおじさんの頭の中で巡り巡ってるよー?

「外、結構寒かったな・・」
「杏子ってホットパンツ多いよね、露出狂?」
「ば、バッカじゃねぇのっ!」
「いやいや、でも最高に似合ってるよー」
「・・別に嬉しくねー」

そう言うと、今度は●ッポを咥えて横を向く杏子。
でも、耳が真っ赤になってたのを観察眼の鋭いさやかちゃんは見逃していなかったのです。
もういい加減に止めてほしいよね、そういう何気ない仕草で全私が悶氏するっての。

33: 2011/02/28(月) 21:50:00.27

「あんたも・・制服似合ってんぞ」
「んぇ?」
「なんでもねーよ、バカ」
「ふーん・・はい、スリッパ」
「おう、ってクマが描いてあるぞこれ」
「ウサギの方が良かった?」
「べ、別にスリッパの柄なんてどうでも良いっつーの」

だったら、いちいち突っ掛からなきゃ良いのにねー。
いちいち可愛いんだよ、もうっ!クソッ、また壁殴っちゃったよ。

「私の部屋は二階にあるから。ジュース持ってくから先に行ってて」
「おー」

口笛を吹きながら、杏子がぱたぱたとスリッパを鳴らしつつ階段をあがっていく。
私はそんな彼女を見上げながら、眉根を寄せて真面目そのものに一言呟いた。

「・・杏子のお尻、悪くないなぁ」
「なんか言ったかー?」
「うぅん、何でも~v」

35: 2011/02/28(月) 21:52:09.06

―――――

「うりゃっ!」

ぼふんっ!と杏子が私のベッドに頭から飛び込んだ。
布団と枕をぐちゃぐちゃに巻き込んで、日向を見つけた猫みたいにゴロゴロと転がってる。
・・え、もうベッドインなの?

「何でちょっとニヤけてんだよ・・気持ち悪ぃ」
「べ、べっつにぃ~?」

素面なフリをして持ってきたジュースを学習机に置き、私はゆっくりとベッドに腰を下ろした。
一方の杏子は枕に顔をうずめたまま、足をバタバタさせている。かと思えば、ふとその動きを止めてガバッと頭を上げた。

「どしたの?」
「いや・・何でもねぇ」
「なになに?枕から私の良い匂いでもした~?」
「っ・・!」

ぅっぜぇ!と言い放った杏子がその枕を私に向けて放り投げてきた。
ふっふ~ん、図星みたいね。分かりやすい子めっ。
・・枕が顔面に当たってちょっと痛いけど。
てか、その反応は私の匂いが臭かったってことなの、ねぇ?

36: 2011/02/28(月) 21:53:26.77

「それにしても、意外と普通の部屋なんだな」
「んぇ、意外だった?」
「もうちょっと乙女チックな部屋だと思ってた」
「乙女チックって何さ」
「んー、壁は花柄で床はぬいぐるみだらけで足の踏み場もないとか」
「私はそんなお姫じゃないってのっ」

なーんて、時間を忘れて談笑していたら、もう夜の9時になっていた。
杏子とこんなに長々とお喋りしたのは初めてかも。
さっきのファミレスも含めて、普段はロクに話ができないし。

「よし、お風呂入ろっか」
「おう、そうだな」
「じゃ、着替えて」
「・・・」
「どしたの?」
「・・あ゛!?」

杏子がおっかなびっくりな面持ちで私を見やった。
クソ、流石にこの場で脱がすのはナンセンスだったか・・!
さやかちゃんマジ不覚!

38: 2011/02/28(月) 21:57:43.84

「ふ、風呂に入んのか?」
「うん、私と杏子、一緒にね?」
「な、ななな何でだよっ!」
「何でって・・女の子が毎日風呂に入らないなんて考えらんないっしょ」
「女2人で一緒に家の風呂に入る方が考えられねぇだろーがっ!」

再び杏子が枕を投げてきたけれど、私はそれをヒラリとかわす。
ふふん、さやかちゃん学習能力ありすぎっ。
と思ったら、目覚まし時計が飛んできた。

「痛た・・わ、私の家に居る以上、杏子は私の命令を拒否することはできないからっ!」
「意味わかんねー、バッカじゃねぇの!?」
「そう、私バッカだからわっかんないんだー!」
「そ、そうかっ!やっぱりてめぇは変態だったん、ひぁっ!」

油断大敵―っとばかりに、私は杏子を後ろから抱きしめにかかる。
そこから四つん這いになりながら逃げ出し、壁に背をつける杏子。
私は両手をわきわきしながら、やや涙目の杏子に迫る。
てめぇブッ頃すからな!だの、絶対グリーフシード分けてやんねーからな!だの言ってる。
はっはー、心地よい心地よい。
さーて、この生意気な子猫ちゃんはどんな肢体を私に曝してくれるのかなぁー?

「お、おい、やめろ!今ならまだ間に合うって・・」
「よいではないかー、よいではないかー♪」
「私はホントに風呂なんて良いから、あっ、やっ、ぇああああああああっ!!!??」

もう何も恐くない。

40: 2011/02/28(月) 21:59:13.03

―――――

「ったく、どうしてあたしがあんたなんかと風呂に・・」
「はーい、流すから目瞑ってー」
「んっ・・」

じゃばーっとシャワーで杏子の髪についた泡を洗い流す。
ポニーテールじゃなくなった杏子は初めて見た、何か新鮮だな。
一点の濁りもなく、まるで血を浴びたみたいな綺麗な朱に染まった髪の毛・・これって地毛なのかな?

「何だよー、もう目開けて良いかー?」
「待って、顔拭いてあげるから」
「よせバカッ、顔くらい自分で拭くからタオルをっ、」
「遠慮すんなってのーっ」
「ぅ、ぁぷっ!」

杏子の方が年上に見えるけど、何だか私がお姉ちゃんになった気分だ。
怒りっぽくて、世話が焼ける妹・・でも、何となく放っておけないんだよなあ。
まどかとは別の意味で守ってあげたくなる。

41: 2011/02/28(月) 22:00:44.31

「ウチの湯槽小さいから、杏子が入って良いよ」
「あんたはどーすんだよ、入らないのか?」
「私は大丈夫だから、杏子一人で・・ってきゃああっ!?」

ざっばーん!と2人して湯槽に頭から突っ込んだ。
杏子に腕を引っ張られて、湯槽に無理矢理に引きずりこまれたのだ。
ズブ濡れの私を杏子がニシシッと笑う。

「ぶくぶく・・」
「あたしなんかに気遣いは要らねぇんだよ、湯船に入らないと体があったまらねぇだろ」
「ふぅん、じゃあ遠慮なくっ」
「ん、わゃっ!?・・て、てめぇ!」

杏子のソレの先端に触れた瞬間に、激高した杏子に私は頭から湯槽に沈められた。
ちょっ、杏子!氏ぬっ、氏んじゃうから!!その手をどけてっ・・、あっ!?

42: 2011/02/28(月) 22:02:30.27

「ぷはあっ、ぜぇ、はぁはぁ・・」
「てめぇはいきなり何しやがるんだよっ!」
「はぁ・・いや、だって、杏子が私を湯槽に引きずり込むから・・はぁ、てっきりお触りOKなのかと思って」
「・・これからはあんたとの付き合いを検討し直すことにするからな」

さ、流石にやりすぎたか・・!
ギャルゲーで選択肢をミスったプレイヤーの心境。
さやかちゃん反省。

「ご、ごめん、謝るから・・」
「・・そうかよ、次やったら絶対許さねーからな」
「うんっ、任せて!」

顔半分をお湯に沈めてぶくぶくしながら私を睨む杏子に、私は胸を張る(タオル着用
あっ、そういえば、さっき沈められたときにちょっと気になったことが・・。

「ねぇ、ところでさ、」
「あん、何だよ?」

「杏子って、下の毛が・・、」

大きな衝撃とともに、そこで私の意識はブラックアウトした。

44: 2011/02/28(月) 22:04:38.91

―――――

「あー、酷い目にあった・・」
「それはこっちのセリフだってのっ!」
「うっふふ~」

ベッドの上に座り込んだ杏子の髪の毛を後ろからドライヤーで乾かしながら、私は微笑んだ。
ほかほかの身体を杏子の背中になるべくくっつけて。
うーん、さっきは湯気があってイマイチだったけど、
髪を下ろした杏子はやっぱり新鮮で果てしなく可愛い。

髪を梳かし終わると、杏子が私の手からドライヤーを強引に奪い取った。

「ホラ、次はあたしが乾かしてやるよ」
「良いよっ、そんなの自分で・・、」
「お返しだよ、黙って私の前に来いっての」

私はぎこちない動きで杏子の前に座る。
杏子は私の背中に身体をくっつけて、立ち膝でドライヤーを吹かし始めた。
風で揺れる自分の髪が頬に当たって、ちょっとこそばゆい。

46: 2011/02/28(月) 22:08:51.91

「あんたの髪、結構サラサラだな・・」
「杏子の髪だって、長くて綺麗な色してるじゃん」
「・・・」
「照れてる?」
「・・バッカじゃねぇの」

私の髪は短いからすぐに乾いた。その瞬間に杏子はドライヤーを放り投げ、ベッドに寝転ぶ。
最初にベッドに飛び込んだときとは違って、ゆるやかにどこか申し訳なさげにシーツに沈み込んでいた。
仰向けになった杏子は自分の目の上に腕を置いて、呟くように私に問い掛けた。

「・・あんたさ」
「んー?」
「どうしてあたしなんかと関わろうとすんの?」

杏子の問い掛けに、私は思わず目を丸くした。鳩が豆鉄砲喰らったみたいな表情。
元気だった知り合いがいきなり暗いこと言い出したら、誰だってこんな顔になるよ。

47: 2011/02/28(月) 22:13:35.87

「ど、どうしたのよっ、いきなり」
「あたしみたいな・・、人の幸せが何かもわかんないようなバカな奴と一緒に居て、嫌じゃないのかよ?」
「何よ、それ?」
「あたしの昔の話はしただろ・・家族を偽善で救うことが正しいと思ってた、バカなあたしのこと」

そう言うと、杏子は自分を抱き締めるように身体を縮こませた。
ベッドの端に座っていた私は杏子を見つめたまま、言葉を探す。

「杏子が話してくれたのは昔の話でしょ、今の杏子は・・違うじゃん?」
「昔も今もあたしはあたしだ、昔のあたしが居たから、今のあたしが居る・・魔法少女になったあたしがね」
「えーと、別に過去の杏子を否定してるワケじゃないんだよ・・ただ、」
「ただ、・・何だよ?」
「今の杏子が好きだからこうやってお泊まりに誘ったんだし、ご飯にも誘った・・ってコト」

私は私の気持ちを正直に吐露する。うそぶく必要も、隠す必要もないから。

48: 2011/02/28(月) 22:18:09.27

「それってさ・・」
「うん?」

突然に、杏子が居心地悪げに寝返りをうって、私に背を向ける。
機嫌を損ねたんじゃなくて、ただ単に表情を見られたくないから。

「あたしとあんたは友達ってコトか?」

私には杏子の声色に不安や恐怖の色が籠もっているように聞こえた。
ホントにもう・・バカなんだから。純粋なほどに。

そして、そんな杏子への返答は決まってる。即答だっ。

「・・おい?」

「そうだよ、私と杏子は友達、っだああああああぁぁぁっ!!!!!」

「な、うわっ!?」

私は部屋の電気を消して、布団を手に取り、思い切りベッドに飛び込んでやった。
もちろん、口を半開きにして私を見ていた杏子もぐるぐるに巻き込んで。
もぞもぞと逃れようとする杏子の腰をがっちり掴み、ふと気付くと、
私と杏子は鼻先にお互いの吐息がかかるくらいの距離に身体を近づかせていた。
真っ暗闇の中、相手の表情は伺えない。この間、僅か二秒。

49: 2011/02/28(月) 22:19:39.38

二人して少し暴れた後、息を整えた私は杏子に問いかける。

「・・杏子、どうしてあんなコト聞いたのさ?」

杏子が気まずそうに、一呼吸置く。
私は口を閉じたまま、杏子が紡ぐ言葉を静かに聞き入れる。

「あんたたちと一緒に居るとさ・・ときどき不安になんだよね」
「不安?」
「・・幸せだって思ってると同時に不安が生まれるんだ」
「あたしはあんたたちと一緒に居て良いのかって、あたしなんかが・・、」
「はーい、謙遜はそこまで。こんなの杏子らしくないよっ」
「おいっ、自分から聞いておいて、それはっ、」
「だってもヘチマもないっ!」
「い、痛ってぇっ!は、鼻をつみゃむんにゃねぇ!」

・・杏子は私たちに負い目を感じていた。
だから、杏子からは近づいてきてくれないし、私が遊びに誘っても断ってばかりいたのかな。
でも、それなら今日はどうしてだろ。

50: 2011/02/28(月) 22:21:50.79

「とにかく、次にあんな質問したら二度とご飯誘ってあげないんだからね」
「そ、それは嫌だ・・」
「素直でよろしいっ」

杏子は言っていた。
私たちと一緒に居ると不安になる。だから、さっきみたいな問いかけをしちゃう。
でも、それは同時に『私と一緒に居たことで、幸せを感じてくれた』ってことらしい。

「悪かったな、変な話して」
「うぅん、ぜんっぜん」

私は自然に笑みが零れていた。杏子も声を出して笑ってた。

「こんなにふかふかのベッドで寝たのなんて、いつぶりだろ・・」
「そっか・・うん、存分に味わうが良いぞっ」

杏子がどんな人生を送ってきたのか、私は一端しか知らない。
だから、昔の杏子に私がとやかく言うことはできない。
でもね・・今、そして、これからの杏子とは友達で居たい。
そう思ってる。同じ女の子として。同じ魔法少女として。

51: 2011/02/28(月) 22:24:20.95

「・・明日は魔女退治するからな」
「とーぜん、私も行くから」
「そーかよ。足手まといにはなるんじゃねーぞっ」
「そっちこそっ」

私は人を不幸に追いやる魔女や使い魔たちを許さない。
だから、私は魔女狩りを続ける。この命が尽き果てるまで。
でも、今日だけは許してほしい。
今日だけは・・朝まで杏子と二人で居させてほしい。

そして、
いつしか、お互いを映していたその瞳を、私たちは名残惜しく閉じていた。
相手の吐息を、相手の温もりを、相手の心をすぐ傍で感じながら。


「おやすみ、あんこ」

「その呼び名はやめろ」

「じゃあ、おやすみ、杏子」

「おう、・・さやか」


今日は、良い夢が見れそう・・かな?



-Blue side period-

55: 2011/02/28(月) 22:29:43.91

ご愛読感謝です。余裕があれば視点切替版なんかを明日にでも投下したいと思い。
絶対に投下できるかどうかは分からないので、保守は無理にお願いしません。
落ちた場合はまた立てるので大丈夫です、おやすみなさい。

56: 2011/02/28(月) 22:34:23.99
1乙。

57: 2011/02/28(月) 22:35:31.98
あんこちゃんペロペロ

引用元: さやか「あんこちゃんっ」杏子「ぅっぜぇ!」