1: 2015/10/06(火) 18:22:09
<城>

姫「まあっ、私に家庭教師を?」

国王「うむ、お前にもそろそろ必要かと思ってな」

姫「ちなみに、どんな方が来るの?」

国王「騎士だ。それも騎士団で選りすぐりの人物で――」

姫「まぁ、嬉しいっ!」

国王「文武に長けており――」

姫(ああっ、姫と騎士……めくるめくロマンスの予感……)

国王「もしもし? 聞いてる? もしもーし」

2: 2015/10/06(火) 18:27:14
姫(ああ……騎士ってどんな方なのかしら?)

姫(きっと、素敵な方にちがいないわ)

姫(お勉強を優しく教えて下さり、時には剣を振るってみせてくれたり)

姫(時には、ダンスのリードなんかもしてくれたりして!)

姫(さらには夜のリードまで……)

姫「きゃっ!」ポッ…

姫「私ったら、なんてはしたない女!」タタタッ

3: 2015/10/06(火) 18:29:03
ドンッ!

姫「いたた……」

使用人「申し訳ありません、姫様っ!」

姫「もう、どこを見て歩いてるのよ! あなたには目がついてないの!?」

使用人「いえっ、不注意で……!」

姫「まったく、クビにされたくなきゃ、もっとしっかりしてちょうだい!」

姫「これから、私にはロマンスが始まるのだから……!」 

使用人(ロマンス……?)

4: 2015/10/06(火) 18:32:33
数日後――

騎士「はじめまして、姫様」

騎士「本日から家庭教師をさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」

姫「こちらこそ」

騎士「ところで、さっそくで恐縮なのですが、敬語で教師はやりにくいのです」

騎士「なので、敬語を使わずに姫様と接したいのですが、かまいませんか?」

姫(まぁっ、この方ったら、いきなり私の夫気取り?)

姫(もう、せっかちなんだから……だけど、これこそロマンスよね!)

姫「もちろん、よろしいですわよ」

5: 2015/10/06(火) 18:34:17
騎士「じゃあ、さっそく勉強を始めるぞ。机に向かえ。一時間みっちりやるぞ」

姫「は?」

姫「あの、ロマンスは……?」

騎士「ロマンス? 貴様はなにをいっている」

騎士「さぁ、机に向かえ!」ビシッ

姫「は、はいっ!」

6: 2015/10/06(火) 18:36:21
姫「…………」カリカリ

姫「あの、紅茶でも飲みませんこと?」

騎士「私語をするな」

姫「…………」カリカリ

姫「あの、この問題が分からないのだけれど」

騎士「これは、さっき教えた公式を使えばいい」

姫「…………」カリカリ

姫「あの、もうそろそろ一時間経ったのでは?」

騎士「まだ30分も経っていない」

姫「…………」カリカリ

7: 2015/10/06(火) 18:38:44
姫「…………」ポイッ

姫「もう! こんなのイヤ! なんで私が勉強しなくちゃならないの!?」

姫「せめて、もっと優しく丁寧に――」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎょえぇぇぇぇぇっ!」ビビビッ

姫「な、なにをなさるの!?」

騎士「ツボを突いただけだ」

8: 2015/10/06(火) 18:41:31
姫「突いただけって……ものすごい激痛でしたわよ! 私を頃す気!?」

騎士「心配いらん。あのツボは肉体的ダメージは与えず、純粋に痛みだけを与えるツボだ」

姫「だからって――」

騎士「さぁ、もう一度突かれたくなくば、勉強に戻れ」

姫「ううっ……」

9: 2015/10/06(火) 18:43:10
……

……

……

騎士「よし、今日のところはこれまで」

騎士「明日からは勉強時間を増やすし、勉強以外のことも教えていく」

騎士「ビシビシいくから、覚悟しておくように」

姫「は、はい……」

10: 2015/10/06(火) 18:45:20
次の日――

シェフ「どうぞお召し上がり下さい、姫様、騎士殿」

姫「それでは、お食事にしましょう」

騎士「ああ」

姫「では……」

姫「!?」ギョッ

騎士「どうした?」

姫「――シェフ、なんなのこれは!?」

11: 2015/10/06(火) 18:49:59
姫「私がこの貝を嫌いなのは、知っているはずでしょう!?」

姫「なぜ入れたの!?」

シェフ「も、申し訳ありませんっ! うっかりしておりまして……」

姫「うっかりにも程があるわ! マヌケなんだから! だいたいあなたはいつも――」

騎士「姫っ!!!」

姫「!」ビクッ

姫「なんですの、いきなり……?」

騎士「姫……シェフに謝れ」

12: 2015/10/06(火) 18:52:25
姫「なぜです!? なぜ、謝らなければなりませんの!?」

騎士「シェフは姫のために、心を込めて料理を作ってくれたのだ」

騎士「なのに、その言い草はなんだ。敬意がなさすぎるとは思わんか」

姫「な、なによ……! 好き嫌いがあってはいけないというの!?」

騎士「そんなことはいっていない。私もピーマン苦手だしな」

姫&シェフ(子供か!)

騎士「シェフを侮辱したことについてのみ、謝れ、といっているのだ」

姫「い、いやよ……! なんで私が……」

騎士「謝れッ!」

13: 2015/10/06(火) 18:54:05
シェフ「あの……私は気にしておりませんので……」

姫「…………」

騎士「姫……!」

姫「うっ……」グスッ

姫「シェフ、あなたを侮辱して、ごめんなさい……」

シェフ「い、いえいえっ! こちらこそ、申し訳ありませんでしたっ!」

騎士「それでよし」

14: 2015/10/06(火) 18:55:32
騎士「よし……食べるぞ。いただきます」

姫「はい……」

騎士「…………」モグモグ

姫「…………」モグモグ

姫(なんなの!? なんなのよ、これ!? 腹立たしい!)

15: 2015/10/06(火) 18:58:17
騎士「食後は勉強の時間だ」

騎士「今日は二時間みっちり行う。トイレ以外で席を立つことは許さん」

姫「二時間も!? そんなの耐えられるわけが――」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎょわはぁぁぁぁぁっ!」ビビビッ

姫「わ、分かりましたわ……やればいいんでしょ! やれば!」

16: 2015/10/06(火) 19:02:16
……

……

……

姫(やっと終わった……)ゲッソリ

姫「――で、次は何をなさるの?」

騎士「姫たる者、文武両道でなくてはならん」

騎士「次は剣術の修行に入る」

姫「は、はい」

姫(えぇ~……ウソでしょ?)

17: 2015/10/06(火) 19:04:12
騎士「この木剣を構えろ」

姫「こ、こう……?」

騎士「…………」グリッ

姫「きゃほぉぉぉぉぉう!」ビビビッ

騎士「お、いい構えになったぞ」

姫「いちいちツボを突くの、やめて下さる!?」

18: 2015/10/06(火) 19:08:08
騎士「では、私が攻撃を繰り出すから、その剣で防いでみろ。いくぞ」ヒュオッ

バシッ! ガッ! ガツッ! ガッ! バシッ!

姫「ちょ、ちょ、ちょっ! これ、ガチじゃありませんこと!?」

騎士「ガチなものか。本気ならば、この剣は何度も姫を打っていることだろう」

姫「いや、そういうことじゃなくって……」

騎士「ほら、動きが止まっているぞ! 防げ、防げ!」

姫「ひぃぃぃぃぃっ!」

ガッ! バシッ! カツッ!

19: 2015/10/06(火) 19:11:30
姫「うっ、うえぇっ……もう、ダメ……」

騎士「なんだ、この程度でへばるのか。だらしない」

姫「当然ですわ! 私は姫なのよ! 運動なんかしないのよ!」

騎士「ほう、まだまだ余裕そうだな」

姫「はうっ!」ギクッ

騎士「元気があるのならば、続きだ。剣の修行は追い込まれてからが本番だからな」

姫「あがががが……!」

20: 2015/10/06(火) 19:14:07
ベッドの中で――

姫「ああ、もう疲れた……。ツボも突かれた……」

姫「これから……毎日のようにこんな生活が続くというの?」

姫「ううう……地獄ですわ……」

姫「ああ……ロマンスが、ロマンスが遠ざかっていく……」

21: 2015/10/06(火) 19:19:56
危惧通り、姫の過酷な日々は続いた。

姫「なぜケーキをいっぱい食べちゃダメなの!? ケーキは別腹ですのよ!?」

騎士「好きなものを好きなだけ食べる、たしかにそれは楽しいことだ」

騎士「しかし、好きなものをあえてそこそこ食べる。それもまた楽しいことなのだ」

姫「あうう……まるで意味が分かりませんわ」



姫「あぁ、眠い……」ウト…

騎士「…………」グリッ

姫「はぎゃぁぁぁぁぁっ! 起きましたぁぁぁぁぁっ!」ビビビッ



騎士「さぁ、もっと動け! 動きまくれ!」

バシッ! ガッ! カツッ! バシッ! ガッ!

姫「速い、もっとゆっくりぃ! ゆっくりぃぃぃ!」

騎士「いいぞ! 姫には才能がある!」

姫「こんな才能、いりましぇぇん!」

22: 2015/10/06(火) 19:22:44
一方で、騎士の教育(やりかた)に眉をひそめる者も多かった。



「いくらなんでも、ねぇ……」

「あれじゃ姫様がおかわいそうよ……」

「臣下という立場を完全に逸脱してるよな……」

23: 2015/10/06(火) 19:25:18
そんなある日――

姫「もういやっ!」

姫「もう無理! もう限界! もう沢東! いい加減にして!」

騎士「ほう、私に逆らうか」グリッ

姫「痛くないっ!」ビビビッ

姫「今日でオシマイよ! お父様に訴えて、あなたなんかクビにしてやる!」タタタッ

騎士「…………」

24: 2015/10/06(火) 19:28:27
ドンッ!

姫「いたた……」

使用人「申し訳ありませんっ! 姫様っ! 大丈夫ですか!?」

姫「ええ、平気よ」

姫「そちらこそ、大丈夫? 痛くなかった?」

使用人「え……? は、はいっ! 平気です!」

姫「そう、よかった」ニコッ

使用人「ひ、姫様……」ドキッ

姫(……あれ?)

25: 2015/10/06(火) 19:31:53
姫(今、私は使用人の心配をした……。昔なら、きっと怒鳴りつけてたでしょうに……)

姫(なぜ?)

姫(それはもしかして、騎士が“痛み”を教えてくれたから……なの?)

使用人「姫様……」

姫「あら、なぁに?」

使用人「なんといいますか、ここ最近、一段と美しくなられましたね」

使用人「――っと、すみません! いきなりこんなことを申しまして!」

姫「ありがとう。きっと、剣で汗を流しているおかげだわ」

姫「これも騎士のおかげ――」ハッ

26: 2015/10/06(火) 19:35:03
姫「…………」ドキン…

姫(分かる……私は今、あの騎士を求めている)

姫(あんなにひどい目にあってきたというのに……なぜかしら?)

姫(なに!? なんなの、この感覚!?)

姫(分かったわ、これこそロマンス! これこそ、真のロマンスなのですわ!)クワッ

27: 2015/10/06(火) 19:38:30
姫「騎士!」

騎士「姫!」

姫「やっぱりやめるのやめた!」

騎士「!」

姫「さぁ、今日もロマンスを開始しますわよ! 勉強? それとも剣術?」

騎士「(ロマンス……?)ならば勉強といこう。今日は三時間みっちりだ!」

姫「分かりましたわ!」

28: 2015/10/06(火) 19:42:56
そんな生活が半年ほど続いたある日――



兵士「騎士殿……陛下直々に、あなたに逮捕状が出ております」

騎士「そうか……」

騎士「分かった。すぐに出頭しよう」

……

……

……

29: 2015/10/06(火) 19:44:49
姫「えっ、今日から家庭教師交代!?」

メイド「ええ、よかったですね。姫様!」

メイド「これでやっと、あのスパルタ騎士から離れられるのですから!」

姫「…………」

30: 2015/10/06(火) 19:47:36
新しくやってきた騎士は――

金髪騎士「さ、優雅に勉強を始めよう」キラッ

金髪騎士「10分ほど勉強したら、ティータイムといこうじゃないか」

金髪騎士「ボクがおいしい紅茶を入れてあげるからね、姫」



姫(まさに、私が理想としていた騎士ですわ……)

姫(だけど、なぜかしら……なぜか……物足りない……)

31: 2015/10/06(火) 19:50:34
姫「ごめんなさい」

金髪騎士「!」

姫「悪いけど、あなたじゃ……私、物足りないわ」

姫「前の家庭教師の方に、戻して下さるかしら?」

金髪騎士「……残念だけど、それはできないんだ、姫」

姫「なぜ!?」

金髪騎士「彼はね、君にしていた仕打ちが陛下に発覚し、逮捕されてしまったのだよ」

金髪騎士「おそらく今日……護送馬車で監獄へと送られることだろう」

姫「なんですって!?」

32: 2015/10/06(火) 19:53:06
<護送車>

兵士「では騎士殿、出発いたします」

騎士「ああ」

騎士(姫様……私は自分のやったことを、なんら後悔してはおりません)

騎士(あなたには厳しい人間が必要でした。そして、みごとあなたは克服されました)

騎士(あとは、あなた次第です……姫様)

騎士(……さようなら)

33: 2015/10/06(火) 19:56:31
すると――

「ぐぁぁぁぁっ!」 「あぎゃぁぁぁぁぁっ!」 「いたぁぁぁいっ!」



兵士「な、なんだ!? 護衛が次々と叫び声を上げてやられていく……!」



騎士「?」

34: 2015/10/06(火) 19:59:06
兵士「な、なぜあなたが!?」

姫「たああっ!」グリッ

兵士「いでぇぇぇぇぇっ!」ドサッ

姫「騎士! やっと会えましたわね!」チャキッ



騎士「姫様!?」





「こっちにもいるぞ!」 「かかれーっ!」 「こいつ強いぞ!」

金髪騎士「やれやれ……お人好しすぎるね、ボクって」バシッ ドカッ ベシッ

35: 2015/10/06(火) 20:04:05
姫「騎士! すぐに馬車から出てきなさい!」

騎士「な、なにをやっているんですか、あなたは!」

姫「決まってるでしょう? 私の家庭教師を取り戻しにきたのよ!」

騎士「こんなことしたら、ただじゃ済みません! さぁ、早くお帰り下さい!」

姫「イヤよ! 一度始めたからには、そうやすやすとはやめません!」

姫「だって……あなたがそう教えてくれたんですもの!」

騎士「……どうやら私はあなたの教育を大失敗したようですね」

姫「そういうことね。ちゃんと責任は取ってもらわないと」ニコッ

36: 2015/10/06(火) 20:07:09
<城>

国王(あの騎士め、娘にあのような仕打ちをしていたとは……許せぬ!)

近衛兵「陛下! 護送を担当していた兵から、連絡がありました!」

国王「おお、護送は終わったか?」

近衛兵「いえ、騎士を護送していた馬車が襲撃を受けました!」

国王「えっ!」

近衛兵「ちなみに襲撃者は姫様です!」

国王「えええっ!」

近衛兵「騎士の罪を取り消さねば、姫をやめるとおっしゃっています!」

国王「ええええええええええっ!」

37: 2015/10/06(火) 20:12:11
こうして二人は国王公認の仲となった。



騎士「今日の授業はここまで。きちんと復習しておくように」

姫「ねえ……そろそろ、夜のリードをしてくれませんこと?」

騎士「姫、それはまだ早い。今は勉強が優先だ」

姫「あっ、今“まだ”っていいましたわね! “まだ”って!」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎゅえぇぇぇぇぇんっ!」ズババッ

姫「今の痛み……! まさか、今まではずっと手加減を……!?」

騎士「当然だろう。だが、これからは手加減は無しだ」

姫(ああっ……ステキ! 私のロマンスは、まさに今から始まるのですわ!)







                                     おわり

38: 2015/10/06(火) 20:12:46
以上でおしまいです

39: 2015/10/06(火) 20:19:17

奇声をあげたりどさくさ紛れに駄洒落言ったり面白い姫様だなww

40: 2015/10/06(火) 20:32:08
乙乙
これが教育か(意味深)

引用元: 姫「私の家庭教師はスパルタ騎士」