1: 2012/10/30(火) 20:02:22.34
男(先生が、教科書を『とんとん』としたら、それを合図にあくびをする)

男(起立、気をつけ、礼、その後着席……リア充ならば、ここで隣の女子と語らい始めるが、俺はうつ伏せになる)

男(予め、あくびをしておいたことにより、まわりの奴らからは『きっと男くんは昨日も徹夜まで勉強してたんだ』とおもわれる。俺は成績がそこそこ悪いわけではないから、余計にだ)

男(実際の所徹夜までしていたのは、勉強ではなく工口ゲだ)

男(ここで注意しなければならないのは、実際に寝てはいけないことだ)

男(一度だけ本気で寝てしまって、さらに移動教室だったことがあった、その時は最悪だった。そのまま早退すればよかったものの、必氏になって教室へと走ったのが間違いだったんだ)

男(借りにそうなった場合には保健室に行く。焦らずに冷静に対処すれば良い)

男(休み時間の過ごし方は完璧だな……)

「……でさー」

「マジー?やばくない!?」

男「……」

男(五月蝿いなぁ)

2: 2012/10/30(火) 20:03:54.82
寝たふりって休み時間でなく授業中にするものだよな

3: 2012/10/30(火) 20:04:43.43
誰かに起こして貰うまで寝てればいいのに
授業ジャストで起きるからからかわれたりするんだよな

4: 2012/10/30(火) 20:07:50.23
男(そう思って最近買ったのはカナル型イヤホン)

男(しかもノイズキャンセリング機能搭載。Walkmanもノイキャンあるから外の音はシャットアウト)

男(どうせ誰にも話しかけられないのなら、こうしていればいい)

男(女達の黄色い声を聞いているくらいならば、綺麗な歌声聞いているほうが良い)

男(……ん、なんだ)

男(あいつパンツ丸出しじゃないか)

男(うつ伏せになっても、周りの様子は伺えるんだよな、これ……俺くらいしか知らないだろうけど)

男(ピンク、か。ビッチっぽいなぁ)

男(……)

男(…………)

男(あ、見えなくなった)

男(まぁいいか、どうせビッチのパンツだし)

男(今夜のおかずにでもするか……)

男(お、3曲目に入ったか)

男(大体、1曲4分程度、つまり2曲目終了で8分、休み時間は10分、このあたりで起きなければ、ダメだ)

5: 2012/10/30(火) 20:10:31.06
男「ん、んー」

男(軽く背伸び、普通にこれは気持ちが良いので良い)

男(よし、誰も俺なんて見てないな。それでいいんだよ、俺はそういう存在だからな)

男(次は6時間目、これが終われば今日は帰りだ。帰ったら待っているのは愛機であるマイパソコンだ)

男(今から楽しみだ、先日バイトで貯めた金でやっと買った愛機だからな。触れているだけで幸せだ)

男(さらに、その愛機でやる工口ゲときたら、もう最高だ)

男(ふ、ふふふ……)

男(……)

「きりー、きょーつけー、れー」

男(………)

「それじゃあ、授業はじめんぞー」

男(何やってんだろうなぁ、俺……)

6: 2012/10/30(火) 20:12:30.88
――放課後。

「今から部活だっけ?」

「そうだよー今日は外部から先生来る日でさー」

男(無事に今日も終わったな)

男(つまらない一日だった)

男(しかし、一日というのは学校が終わってから始まるもの)

男(ふふ……ふふふ……)

女「あ、あの……」

男「え」

7: 2012/10/30(火) 20:15:26.53
男(誰だこいつ、今日初めて話しかけられた、しかも女だ。なんだこいつ、なんだこいつ。俺に話しかけただけで噂になるのに、なんだこいつ。なんだこいつ)

女「これ、落としましたよ」

男「あ、え」

男(これは……俺のイヤホンだ。さっき立ち上がった時に落としたのか)

女「じゃあ……」

男「あ、うん」

男(行ったか……)

男(……ありがとうすら言えなかったな)

――帰り道。

男(あの女の子って、確か橘梨華だったよな)

男(あの子も結構大人しそうだけど、友達は居た気がする)

男(しかし、周りのビッチ共に合わせるのが精一杯な子だったっけ)

男(なんでこんなに知ってるんだ、俺)

男(まぁいっか……)

9: 2012/10/30(火) 20:18:33.04
――次の日。

男(今日も適度に頑張るか)

女「あの、これ……」

男「え」

男(また橘梨華か……)

女「これ落としましたよ」

男「あ、え?あ、あい……」

女「よく物落とすんですか?」

男「あ、はい」

女「気をつけてくださいね。それじゃあ」

男(なんだ、またか……意味が分からない)

男(橘梨華は、なんで尽く俺の落し物を拾うんだ)

男(しかも、今回は消しゴム。たまたま昨日ポケットに入れっぱなしだったのが、出たのか……)

男(もしかして、気があるのか?)

男(そんな訳がない、俺は人と話せすらいない奴だし、橘梨華、いや女から好意を貰うなんて勿体無いからな)

13: 2012/10/30(火) 20:25:07.84
――2時間目

教師「それじゃあ橘、36ページの15行目から読んでくれ」

女「は、はい。屍を乗り越えて歩いて行くのはとても辛く、険しい道で……」

男(橘梨華、か。変なやつだ、俺が言えた義理ではないが、俺のような人間に関わるというのはとてつもなく変だ)

男(つまり変人だ)

男(この前読んだ本に『変人は変人を産む』と書いてあった、その通りだ。まさに変人を産もうとしている)

男(何故ならば俺が変人であるからだ)

男(変な奴の周りに、人は居なくなる。人は変人になるのを拒むからだ)

男(だから俺の周りには変人など居ない、無論俺も人を受け入れることはない。いや、受け入れることが出来ない)

男(人と話すだけで、躊躇してしまう。人と顔を合わせるだけで、後ずさる。人が居るだけで、嫌悪感が増す)

男(俺はそういう人間だ、確信的変人だ)

男(一方橘梨華という人間は、未定的変人だ)

男(俺に話しかけた時点で既に変人街道へ一歩足を踏み入れた)

男(しかし、まだ後戻りは出来る。単に関わらなければいい)

男(俺もそれには協力したい、クラスに変人は多く居る必要がないからだ)

14: 2012/10/30(火) 20:28:37.31
教師「今日はこの辺かな」トントン

男「ふぁあ~……」

女「っ!」

男「?」

男(なんか、こっちを見た気がする。気のせいか、昨日から少しおかしくなっているのかもしれない)

男(人と久しぶりに接したからだろうか、自意識過剰になっている)

男(このままではいけない、面倒なことが起こる前に、どうにかしないと)

女「あの」

男「ッ!?」

男(橘梨華ッ!?)

女「小野くんって、授業終わる前に必ず欠伸するよね」

男「あ、はぁ……」

女「小野くんが欠伸すると終わりだなぁ~って思います」

男「あ、うん」

女「それだけです」

15: 2012/10/30(火) 20:33:33.80
男(何が一体、どうなっているんだ)

――――――
―――


return

女(先生が、教科書を『とんとん』としたら、最近終わりにする合図だって気がついた)

女(休み時間になると、私はすぐに隣の女の子に話しかけられる)

女(学校という社会は、こういう風になっている)

女(相手に合わせなければ生きていけない、一人で過ごさなければいけない)

女(強い人間は一人でいい、その強い人間を軸にし、周るのは私のような歯車人間)

女(話を合わせるのは、疲れるけど、苦手ではない)

「ふふ、昨日お菓子作ったんだー、でさー」

「マジー?やばくない!?梨華お菓子作れんの!?私にも頂戴!」

「分かった~良いよ!今度一緒に作ろうよ!簡単だよ!きっと理恵のほうがもっと上手く作れると思うなぁ!」

女(こんな感じ)

女(相手を立ててあげれば、大体機嫌が良くなる。全員がそうではないけど、理恵はそういう子)

17: 2012/10/30(火) 20:36:47.53
女(正直言って、理恵の声は大きく耳に響く)

女(そこで買ったのが、ノイズキャンセリング機能搭載のイヤホンとWalkman)

女(片耳につけておく)

「あ、梨華なにそれ?超かっこいいじゃん、色いいねー」

「そうかな?理恵のセンスのが良いと思うなぁ」

「梨華には負けるってー!」

女(本当声が大きい、片耳だけでもシャットアウトしておかないと耳が腫れそう)

女(それに、理恵……パンツ見えてる)

女(……ん?)

女(…………)

女(こっちを見ている、気がする)

女(理恵のパンツを見てる?別に私は興味無いけど)

女(あの人は確か、小野啓太)

女(いつもああやって、授業中寝た『フリ』をしている)

女(……なるほど)

20: 2012/10/30(火) 20:41:39.41
女(私は内面こんなことを考えているが、外面は違う)

女(どうせ、考えていることなんてブラックボックス化出来てしまうのだから、と思うが私の場合はそうではない)

女(内面と同じように、外面で見せることが出来ない)

女(人に合わせることが出来たとしても、それはベルトコンベアに流れてきた機械にネジを入れる簡単な作業と同じ)

女(所謂ルーチンワークかと思っている、人とのコミュニケーションってそういうもの)

女(だけど、時々エラーが起きる。ベルトコンベアに流れて来たものが魚だったりする)

女(ネジを入れることは出来ない場合がある、そうした時は失敗だ。次気をつければいい)

女(そうやって稼働率をどんどん上げていけば良いんだ)

女(……そうしているうちに、私は内面の私を外面に出せなくなった)

女(本当の私、とか中学生が考えるようなことだけど、本当の私が分からない)

女(外面に出ている私が私なのか、今こうして考えている私が私なのか)

女(結局は歯車が回せれば良いのだから、外面が正解なんだ)

21: 2012/10/30(火) 20:46:20.40
「来週ここ小テストに出すからな」トントン

男「ふぁあ~……」

女(眠いアピールしてるのかな、あれは)

女(だとしたらわざとらしすぎるし、する意味が分からない)

女(寝てるフリだとバレたとしても、誰かが話しかけることなんてない)

女(それなのに、彼は何故か寝たフリで突き通す。一種の美意識なのか?)

女(……なんで、こんなにも小野啓太のことを観察しているんだろうか)

女「あ……」

女(イヤホンを落とした、チャンスだ)

女「あ、あの……」

男「え」

女「これ、落としましたよ」

男「あ、え」

女「じゃあ……」

男「あ、うん」

24: 2012/10/30(火) 20:50:17.10
女(文頭に『あ』をつけすぎ)

女(小林製薬みたいだ)

女(よく見たら、イヤホン私の使っているのと同じだ)

女(……そこはどうでもいいか)

女(それにしても、やっぱりコミュニケーション障害なのか)

女(人に合わせることも出来ず、人と会話するだけで後ずさり、人が居るだけで嫌悪感が増すって感じかな)

女(誰も気にしていないけど、こういう存在って文化祭とかで迷惑な立ち位置だと思う)

女(真面目にやっている人間を尽くバカにし、見下す。無気力な俺がかっこいい、みたいなことを思っているのかもしれない)

女(きっと『自分は変人だ』とか思っているに違いない。自分は他のやつとは違う、そういった類を考えているに違いない)

女(中学生が考えるようなことばかりだ。頭の中ではまだ中学生かもしれない)

女(男って、一生そういう生き物なのかもしれないが)

26: 2012/10/30(火) 20:53:20.93
女(明日また様子を見てみよう)

女(機会があれば、少し話をしてみよう)

女(……何故?)

女(多分、それはきっと興味本位だ)

――次の日。

女(ッ!?消しゴムを落とした!?)

女「……よし」

女「あの、これ……」

男「え」

女「これ落としましたよ」

男「あ、え?あ、あい……」

女「よく物落とすんですか?」

女(さり気なく会話を広げてみよう、小野のほうから会話をさらに広げるかもしれない)

男「あ、はい」

女(ダメだった)

28: 2012/10/30(火) 20:57:04.75
女「気をつけてくださいね。それじゃあ」

女(きっと、話しかけられて小野は私のことを変人あつかいだろう)

女(私は変人ではない、ただの歯車だ。ただの気まぐれなだけだ)

――2時間目

教師「今日はこの辺かな」トントン

男「ふぁあ~……」

女(まただ、いつもやっているのに誰も気づかないのかな)

女(……しまった、目をあわせてしまった)

女(不覚、しょうがない)

女「あの」

男「ッ!?」

女「小野くんって、授業終わる前に必ず欠伸するよね」

男「あ、はぁ……」

女「小野くんが欠伸すると終わりだなぁ~って思います」

男「あ、うん」

34: 2012/10/30(火) 21:03:32.55
女「それだけです」

女(さぁ、こい……私が小野くんをこじ開けてやる)

return

――――――
―――


男(一週間)

男(一週間だ、一週間もの間、橘梨華は俺を観察している)

男(自意識過剰ではない、これは紛れも無い事実だ)

男(俺が物を落とすと、必ず拾い上げて俺に渡す)

男(俺が寝たフリをしていると「もうすぐ授業始まるよ」と起こしてくる)

男(なんなんだ、一体なんなんだ)

男(それよりも困ったのが「噂」だ。俺が橘梨華を脅しただとか、彼氏だとか、まさに道聴塗説だ)

男(悪い気がしない、俺はな。しかし、橘梨華はどうだ。悪いだろう、嫌だろう、変人には人が寄らない。一般人は変人を蔑み、見下す。そういう奴らだ)

男(そういう的になろうなんて、普通は思わない。俺はそういう的にならざるおえないからなっているだけだ)

男(分からない、橘梨華という人間が俺には理解が出来ない)

35: 2012/10/30(火) 21:07:56.66
女(理恵とは話さなくなった)

女(私と話す人間は少しずつ減っている、小野啓太に対し声をかけるなという人間も出てきた)

女(だけど、私は小野啓太をこじ開ける)

女(その先はまだ考えていない)

女(私の目的はこじ開けることだからだ)

女(それ以外に今は興味が無い。理恵の元彼の話というのは、ゴミ溜めにでも捨ててしまえばいい)

女(……だけど、何故こういうことをしているのかが分からない)

女(最初は思いつきで始めた事だ)

女(しかし、いろんな犠牲があった。私は歯車から抜けだしたのだ)

女(軸に何もない歯車は動かない、だけど今はどうだ?私は積極的に動いている)

女(小野啓太という変人を軸にして)

女(何故か、それは分からない。けど信じているのは、いつかわかる時が来るということだ)

女(そう、きっと……いつか)

38: 2012/10/30(火) 21:11:13.97
女「ねぇ、小野くん。昨日の宿題やった?」

男「あ、え、えっと……やったけど」

女「見せてもらっていい?」

男「あ、うん、いいよ」

男(最悪なことになった、席替えをした。隣の席は橘梨華になった)

女(幸運なことが起こった、席替えをした。隣の席は小野啓太になった)

男(行動がしにくい、非常にしにくい。寝たフリでさえも最近は見破られているかもしれない)

女(行動がしやすい、こじ開けるのが容易くなりそうだ。まだ寝たフリしているのバレてないと思っている、バカだ)

女「ありがとう、小野くん。夕飯食べてるまでは覚えてたんだけど、お風呂入ったら宿題忘れちゃって」

男「あ、そうなんだ……」

女「うん」

男「あ、うん……」

女(会話が続かない、仕方ない)

女「小野くん?」

男「あ、はい」

44: 2012/10/30(火) 21:15:27.30
女「私と話すの辛い?」

男「あ……え、えっと……」

男(難題だった。辛くないと言えば嘘になる、しかし楽しくないと言うのも嘘になる)

男(素直に楽しいと言いたかった、だけどそれで橘梨華の立ち位置はどうなる?変人と付き合っている変人という立ち位置だ)

男(学校での立ち位置というのは、とても大切なことだ。俺が身にしみるほど知っている)

男(だけど、今必要なのは答えだ。辛いか、辛くないか。俺は……苦渋の選択で)

男「つあくはないけど」

男(噛んだ)

女「ふふ、そっか。良かった)

女(噛んだけど、上出来かな)

男(もう帰りたい、学校に来たくない。少し前に戻りたい、誰とも関わりたくない)

男(橘梨華が隣の席じゃない世界に行きたい……)

女(あと少しで、心が開くと思う)

女(その先のことはその時に考えればいい)

女(ただそれだけのことだ)

46: 2012/10/30(火) 21:21:34.14
男(橘梨華と隣になって、もうすぐ1ヶ月がたとうとしている)

男(不思議と1ヶ月もすれば慣れというものは出来てくる)

女「小野くん、シャーペンの芯貰っていいかな?」

男「あ、うん。いいよ」

男(このようにスムーズに会話を進めることができているのだ)

男(今の会話はよく家の中でもするからだ、母さんに醤油とってと言われたらスムーズに渡せるだろう)

男(それと同じようにすればいい。経験したことのあるコミュニケーションを活かし、流れ作業をしていけばいいんだ)

男(この場合、消しゴム貸してや、宿題見せてなど等に使えるもの)

男(他に、昨日のご飯何を食べた?を聞かれたら、メニュー名を言うだけで良い)

男(そうすれば、あとは女が勝手に話し始めるので、相槌をすればいいだけ)

男(しかし、どうしても『あ』が取れない)

男(癖と言うのは恐ろしいものだ、治そうと思っても治せないもの)

男(仕方ないとはいえ、こうして人と話すことになってしまった以上治したいとは思う)

男(いずれ治さなければならないと思っていたことなので、この不幸を使って克服してしまおうと思う)

51: 2012/10/30(火) 21:27:04.55
女(私は2つ目標を作った『あ』をなくすこと、そして小野くんから会話を広げてもらうこと)

女(私と小野くんとの会話はキャッチボールではなく、ストラックアウトだ)

女(宿題が1番、文房具の類が2番、昨日の夕飯が3番、今日の体調が4番と、その番号をひたすら投げて当てているだけ)

女(決して、小野くんからボールを投げてくることはない。もちろん、打ち返すことすらしない)

女(ただボールが的を射るのを見ているだけ)

女(それでは、小野くんの本性が分からない)

女(会話に意味がない)

女(本来ならば、会話というのは意味が無いもの。ましてや以前理恵との会話のように相手に合わせる会話ならば、特にそうだ)

女(しかし、小野くんの場合は違う。小野くんはボールを投げてくることが無いので流し打ちすら出来ない)

女(ストライクですらない、試合放棄だ)

女(問題なのが、小野くんは試合放棄しているのに気づいていない、さらには自分会話している俺すごいと思っている)

女(これではいけない、意味がない)

女(1ヶ月間が水の泡だ)

女(しかし、一度だけ……小野くんが私にボールを投げたことがある)

女(それは……)

52: 2012/10/30(火) 21:30:56.97
女「やっぱり、私と会話するの辛い?」

男「あ、えっと……ま、また?」

男(またその質問だ、頭が真っ白になる)

男(何故橘梨華という女は、唐突にこういうことを聞いてくるのか)

男(ちなみに、これを聞かれたのは二回目だ。一回目はあんまり覚えてない、どう答えたのかすらも)

男(だけど、答えというのは早めに出さなければいけない)

男(だから、俺は『とりあえず』こう言っておく)

男「辛くない、よ」

女(今度は噛まなかった、けどこれで終わりではない)

女「本当に?」

男「……」

男(目が本気だ。橘梨華の黒い目は、俺の目の中の先まで見ているようだった)

男(目を背けたけど、横目で見ると、橘梨華は俺のことを見続けているから、困ったものだ)

男(こいつ、本当は……)

男(俺のことが好き、なのか?)

53: 2012/10/30(火) 21:35:26.38
男「ほ、本当だ。た、橘と話してると楽しいよ」

女(顔が笑ってないから、本意ではないんだろうけど、口に出せただけ合格だとは思う)

女(私のほうが恥ずかしいくらいだった、目を見るというのは慣れているが、同性だけ。異性の目というのは、また違うもので面白い)

女(しかし、耳まで真っ赤になった小野啓太……)

女(本当にコミュニケーション障害だ。普通の人間はこうはならない、普通に辛くないといえる。少なくとも、この1ヶ月を経験していれば)

男(……ダメだ、この場には居られない)

男「あ、今日はもう帰るよ、宿題やる予定だったけど、い、家でやる。じゃあ……」

女「あっ……」

女(逃げられてしまった。深追いし過ぎたかもしれない)

女(少しばかり後悔する、そして明日気まずくなっていたとしたらどうしようかと、対策を練る)

女(教室に私の居場所は無くなったので、私も帰ることにする。帰るまでに対策を考えきることが出来る事を願いながら)


――――――
―――




55: 2012/10/30(火) 21:39:20.91
男(さらに2ヶ月がたった。『あの日』から、橘梨華は俺に深入りはしなくなった)

男(あの時の質問から、俺は橘梨華を普通視出来なくなっていた)

男(これが好意というものなら、そうなのだろう)

男(今では隣に橘梨華が居ることがとても喜ばしく感じ、夜の営みも橘梨華のことを考えて行なっている)

男(俺が橘梨華のことを好きになっていたんだ)

男(だけど、橘梨華はどうだろうか)

男(もっとも、俺は確信していた。俺みたいな変人に這い寄るのは変人しかいない、つまり橘梨華は俺と同じ立場の人間であることだ)

男(そして、這い寄ってきた理由。それは好意だ、自然と橘梨華は俺に好意を見せていたのだ)

男(それにやられてしまったのが、俺ということである)

男(今は橘梨華が早くこないか、と思ってしまうほどだ。数カ月前の俺とは様変わりしていた)

57: 2012/10/30(火) 21:42:41.37
女(小野啓太が様変わりしていた)

女(『あ』というのは克服出来た、少しずつ会話を広げることが出来ている)

女(もう心の扉を開いているも同然だ)

女(しかし……問題なのは、その先だ)

女(多分、だが……小野啓太は私に好意を向けている)

女(単なる自意識過剰ならば良いのだが、いざそうなった時のことを私は考えていなかった)

女(私はどうだろうか、と考えた。考えた結果……分からなかった)

女(最初に小野くんに話しかけたのも興味本位、単なる歯車学生生活に嫌気を指していたのもあったが、今は割りと充実していると思っている)

女(少しずつだが、小野くんも明るくなってきている。今では寝たフリをせずに、私と会話することを好んでいる)

女(しかし、裂けては通れない道が『好意』だ)

女(そして……)

58: 2012/10/30(火) 21:47:41.49
男「あ、のさ……」

女「うん?」

男「話があるんだけどさ、大事な話なんだ」

女「う、うん」

女(来た、とうとう来てしまった)

女(こんなの顔を見れば分かる、当たり前だ。こいつの表情は気まずい時こういう顔をする)


――放課後、教室

女「それで、話って?」

男「あ、ああ……あのな、俺。元々一人だったじゃん、でも橘と話とかしてさ、少しずつ変わったんだよ」

女「うん」

男「橘のおかげなんだ……全部、橘と話してる時が最高に幸せなんだよ」

女「う、うん」

男「いつの間にかさ、俺橘のことが好きになってたんだ」

女「……」

男(言ってしまった……)

59: 2012/10/30(火) 21:51:29.17
女(言われてしまった……)

女(もうここで、私は小野啓太という人間の心の扉を開いたも同然だろう)

女(私は、私という人間を客観的に見たとしても、主観的に見たとしても)

女(……)

女「……ごめんなさい」

男「……え?」

女「小野くん、君とは付き合えない。私は……ううん、ごめんなさい」

男「そ、んな……なんっで」

男(何かがおかしい、夢でも見ているようだ。完全に橘梨華は俺に対し好意を見せていた。少なくとも俺は見てきたと思っている。それが違ったというのだろうか)

男……×

女(私は今とんでもないことをしたのかもしれないと悟った)

女(興味本位により、人の心の扉を開いてしまったこと。それは気軽にあけてはいけないものだった)

女(私は『小野くんのことが好きではなかった』のだ)

女(仮に好きだったとしても『心の扉を閉じている小野くんのことが好きだった』ということになる)

女(客観的に見たら、私は最低の女だろう)

61: 2012/10/30(火) 21:56:39.41
女(私はまた小野くんの心の扉を閉じてしまうことになる)

女(きっと明日から、小野くんは私に話しかけることは無いと思う)

女(全てはリセットされて、昔の状態に戻る。私の特別な経験だけを残して)

女(私が今回得られた教訓は『人の心を興味本位で開けるな』ということだ)

女(仮に、私が今ここで告白に対しOKを出しても続かないと思う、私の内面でブラックボックス化した考えというのは理解されないからだ)

女(どんなに、やっても小野くん……この男にとって私は『彼女』になることはなかった)

女(ただの『女』でしかないのだ)

女(そして、私にとっても明日から小野くんという存在は『男』になるだろう)

女(お互いに、こう思うことでリセットされる。私はきっとそうだと踏んでいる)

女(仮にそうでなかったとしたら、私は転校すれば良いだけ)

女(私は――――)


―――



63: 2012/10/30(火) 22:01:46.49
return

女「ごめんなさい……私行くね」

男「ま、待ってくれ!待って!!」

女「……」

男「そんな、そんな……なんでなんでなんで!!なんで!!!!意味が分からない!!!!だったらなんで俺になんて話しかけたんだよ!!
  ふざけんじゃねぇ!!!責任取れよ!!くそ、くそくそくそ!!少しでも期待した俺がバカだった!お前だって見下してるんだろ!
  気持ち悪い男が何告白してんだよとか思ってんだろ!!畜生、畜生!!!畜生!!!!!
  橘梨華ァァァアアアアアアアア!!!」




女(彼は壊れてしまった、ううん、私によって壊されてしまった)

女(翌日、彼が学校へ来ることはなかった)

女(彼が来ない事により、私は理恵達とまた話すことが出来た)

女(私が転校することはなくなった)

女(その後小野くん……ううん、男がどうなったかは知らない)

65: 2012/10/30(火) 22:04:42.24
女(これからの人生引きこもりで過ごすのか、それとも社会復帰をするのか、私には分からない)

女(わからないけども、私は少なからず男には感謝をしている。私の人生において、このような経験をくれたのだから)

女(だからわた……)

ガッ




男「なぁ、ここで終わる訳無いよな。橘梨華、お前が俺を壊した責任は取ってもらうぞ?お前が俺を壊したんだ、だから俺はお前を壊す権利がある。そう思わないか?」

女「……」

男「おい、こら聞いてんのかよ!!おい!!……気絶してんのか」

男「……」

男「こいつが俺を滅茶苦茶にしたんだ、こいつが俺を滅茶苦茶にしたんだ、こいつが俺を滅茶苦茶に……うわぁぁぁああああ!!!」

男「脱がしてやる……」

男「そーっとだけどな……」

女「……」

ガシッ

68: 2012/10/30(火) 22:09:05.17
女「ねぇ、男くん?寝たフリって、上達してもバレるもんなんだよ?女の子には」

男「ッ!?」

女「私を犯そうっていうの?それで貴方の人生何かが変わるの?」

男「俺は……」

女「女と男って違うよね、男はずるずる引きずっていく。面倒臭い、スパっと切ってさっさと他の女を探せばいいのに」

男「お前……ほ、本当に橘梨華、か?」

女「違うかもね、私は『女』だよ」

男「……意味が分からない」

女「大体ここで、犯したとしても君の人生は変わらない。私の人生も変わらない、こうしたことをもうしないという教訓だけが残る。私に得が残ってもあなたには残らない」

男「でも、収まらないだろうが!」

女「そうだね、消せるのは童Oくらいかな。でもね、こんな所で童O消せたとして貴方はこのことを後悔するでしょうね。何故あそこでああしてしまったのか、レイプで無くした童Oほど惨めなことはないと思わない?」

男「五月蝿い、五月蝿い……」

女「手が震えてる」

男「違う!」

女「怖いの?」

70: 2012/10/30(火) 22:10:57.34
男「五月蝿い、五月蝿い!!」

女「好きな人をこうするのって、楽しい?」

男「違う!お前のこと好きなんかじゃない!」

女「哀れね、さっき告白したのは何処の誰だったかな」

男「五月蝿い!!」

女「惨め……ねぇ、下がら空きなの知ってた?」

男「え」

バンッ

男「ッッ!?」

女「……男って急所分かりやすいよね」

男「畜生、畜生……」

女「……」

男「……」

女「ねぇ、顔あげてよ」

男「……?」

71: 2012/10/30(火) 22:12:56.40
女「」

男「ッ!?」

女「……」

男「ッ、ッ!?」

女「ぷは……」

男「お前、意味わかんねぇ……」

女「これで許して、私のファーストキスだから。じゃあね、私は転校することにするわ。親に『クラスの男子に襲われたから転校したい』って言えば転校出来るでしょう」

男「ま、待て!!」

女「さようなら」






74: 2012/10/30(火) 22:18:14.82
その後私は転校した。
父親の転勤とうまい具合に重なったのだ。

その後男くんが学校へと復帰したのかなんてことは知らない。
私はファーストキスを犠牲にし、人の心を弄んではいけないということを知った。
仮に心の扉を開くということがあっても、きちんと責任を持ち、お付き合い出来る男性でなければ意味が無いということ。
そして、異性とはある一定の距離が必要と言うこと。

距離が無ければ、異性というのは勘違いをし、間違いを引き起こす。
私はそれを教訓に生きてきた。

今は結婚をしている。
子供も3人居る。
旦那は、そこそこの企業に入っていて、安定した生活を送っている。

あの時の男は知らない。
今もパソコンの前でえOちなゲームをしているかもしれない。
そんなことは最近になるまで忘れていた。
幸せというのは、過去の絶望を上書きするというものだ。
だけど、教訓だけは忘れていない。
浮気をして、付き合わないかと言われることもない。

私は幸せな人生を歩んだのだ。

76: 2012/10/30(火) 22:21:38.37
return

男「……」

「ねぇ、聞いた?」

「うんうん、橘さんが転校する理由ってさ……」

「やばくない!?梨華可哀想……」

男「……」

男(俺はもう女という生き物を信じない)

男(いや、人という生き物を信じない)

男(もう誰にも頼らない、誰も信じない、誰も居ない世界が欲しい)

男(だけど……俺はやっぱり、橘梨華に惚れていた)

男(あれだけのことをしておきながらも、俺はまだ橘梨華を好きでいた)

男(この気持は理解できない、どんな奴らに嫌われてもいい、俺は橘梨華が欲しい)

男(……橘梨華)

男(俺にとって、忘れられない存在になった)



77: 2012/10/30(火) 22:25:01.76
男(橘梨華との思い出は、ファーストキスとこの髪の毛だけだった)

男(殴る時に取れたものだ、橘梨華が去った後に手の中にあるのを見つけ、橘梨華のものであることを確信した)

男(粘着質が気持ち悪いのは分かっている、けれども俺はこの先の人生において忘れることが出来ないと思っていた)

男(後にも先にも俺の心の扉を開くことが出来るのは、橘梨華、ただ一人だけだからだ)



「ねー知ってる?ニュースとかでさー、やってるやつ」

「うんうん!あのノーベル賞のやつでしょ!?」

「そーそー!なんだっけ?PSP細胞?」

「それゲームじゃん!iPS細胞だよ!」










男「iPS細胞……?」

終わり。

78: 2012/10/30(火) 22:25:48.27
番外編やります

83: 2012/10/30(火) 22:32:42.20
「今日未明、数年前の髪の毛からiPS細胞を使い、女性を作り出す研究をしていた男が逮捕されました」

「容疑者は、46歳の小野啓太容疑者です」

「iPS細胞とは、2012年に発表された細胞で、今では様々な治療法に役立たれている細胞です」

「しかし、この細胞はクローンや人工のヒトを作り出すことができ、論理的な考えから、それらは法律で禁じられています」

「小野啓太容疑者は『数年前の女が忘れられなかった』『もう少しだった、もう少しで完成した』などと供述しており、容疑を認めているとのことです」

「次のニュースです」












女「ああ……心の扉を開くということは」

女「ここまで、人を歪めてしまうものなのね」



終わり。

84: 2012/10/30(火) 22:32:43.80
つーか程度の差はあれ、リアルでこういうこと結構あるよな

85: 2012/10/30(火) 22:36:02.74
IPS細胞を悪用すんなwww

97: 2012/10/30(火) 23:16:21.04

引用元: 男「寝たふりも上達してきたな」