1: 2012/06/30(土) 23:37:15.26


私はきっと毎日笑っていられる。

もしこの先、誰もいない世界に一人取り残されたとしても。



2: 2012/06/30(土) 23:38:55.27
―――――

律「澪ーっ!!!」バタバタ

澪「朝から元気だな、律は」

律「そうかー?私は普通だぞ?」

澪「じゃあ普通がやかましいんだな」

律「澪しゃんひどい!!」グスッ

澪「うそうそ」

律「んもー!せっかく澪ちゅわんが一人で寂し~く登校してるから、私が来てあげたのにー」

澪「別に寂しくないけどな?」

律「またまたぁ~!この前私が一緒に帰れなかった日……
澪「!?うるさい!!///」ボカッ

律「あいたっ」

澪「バカ律」

律「ちぇーっ」

??「りっちゃーん!!」

律「んあ?」クルッ

唯「りっちゃーん、おはよ~!!」ヒラヒラ

律「おぉ!唯隊員ではないか!!」ビシッ

唯「はっ!おはようございます隊長!!」ビシッ

澪「……置いてくぞ?」

??「お姉ちゃーん、ピック置きっぱなしだったよー?」タッタッ

唯「おぉう!忘れてた!ありがと~憂~」

憂「気をつけてね?」

唯「了解であります!」ビシッ

憂「そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ~」クスッ

唯「わかってるよ~」

憂「私当番だから先行くね?」
憂「律さん、澪さん、お先に失礼します」ペコッ

律「おう!頑張れ!」

唯「りっちゃん澪ちゃん!私たちも行こ~」

律「そうだな」

澪「早く行かないとムギ待ってるぞ」

唯「そうだね~。あ、今日のお菓子なんだろ~」ウキウキ

澪「まったく…」

律「よぉし、唯!そこの校門まで勝負だ!」

唯「負けないよ!!」


ここまでは、見る人のほとんどがほんわかとした“日常”の雰囲気。

私の些細な思いつきによる一言が、日常を壊していくなんて思いもしなかった。

そして、その日常ではない世界――すなわち“非日常”は、私を苦しめる世界だということを、あの時の私はまだ知らなかった…




3: 2012/06/30(土) 23:39:40.78
―――――



唯「りっちゃん!!!!!」

澪「律……!!!!」

律「……イ…ミ……デヨ……タ…」

澪「り…つ……?」

律「」

唯「りっちゃん!!誰か!!誰かあぁぁぁ!!!」




4: 2012/06/30(土) 23:40:07.37
―――――



律「唯も澪も無事でよかった…」



そう言ったあとは、覚えてない。

あれ、その前に何があったんだっけ。

二人が私の名前を呼んで……。

その前は―――

おかしい。

思い出せない。

でも、“無事でよかった”ってことは、二人に何かが起こりそうだったってことか?

あれ、唯って誰だ?

澪って名前の人、知り合いにいたっけ?

そもそも、私の知り合いって誰だ?

私を呼んだ人ってどんな顔だったっけ?


“私”って――――誰だ?




5: 2012/06/30(土) 23:40:50.56
―――――


紬「りっちゃん…」

澪「………」

唯「……りっ…ちゃ……」グスグス

梓「…律…先輩……」



誰かが何かを言っていて。

誰かが啜り泣いていて。

誰かが何かを呟いていて。

それは、私に対しての言葉なのかさえわからない。

上手く耳が機能してないらしい。

でも、楽しそうな話をしているわけじゃないということは、何となくわかった。


徐々に意識がはっきりしてくる。

最後に呼ばれた“りつ”という名前。

ということは、おそらく“私”=“りつ”なんだろう。

“りつ”は“律”とでも書くのだろうか。
さすがに“率”とか平仮名ってのもおかしーし。

まあ、目が覚めたら思い出せるよな。


で、私はどうして眠っているんだ?

こんなに自問自答ができるほど意識がはっきりしているというのに。

自分とか他人とかについての記憶はないが、知識とかの記憶は残っているのに。

目の開け方がわからない。

周りで誰かが何か喋っているけど、言葉として聞こえてこない。

なんで?どうして?

最後に私が言った言葉、あれが、今の私の状況に関係しているのだろうか。


“唯も澪も無事でよかった”


…無事?

ってことは、私はその無事じゃない出来事に巻き込まれたってことか?

だから、今こんな状況に立たされているのか?


わからないけど、多分そうなんだと思う。

というか、そうであって欲しい。

原因もなくこんなのになったなんて、理解できないしその事実から目を背けたくなるから。


このまま、私はずっとこのままで生きていくのか?

そんなの嫌だ。

目を覚ましさえすれば、きっと、元の生活が待ってると思うから。

早く、思い出したい。

自分のことも、こうなった経緯も、私が“唯”“澪”と呼んだ二人のことも。


6: 2012/06/30(土) 23:41:32.10
―――――



唯「私のせいだ………」グスッ

紬「唯ちゃん…」

唯「私が…ちゃんとしてれば……」グス

唯「そしたら…そしたらりっちゃんは…こんなにならなかったのに!!!!!」ポロポロ

梓「…唯先輩…」ギュッ

唯「あず…にゃん…?」

梓「その時の状況はよくわかりませんが、後悔したところで、今は何も変わりません。今は……今は、律先輩のためにできることをしましょう…?」ポロポロ

唯「…でも…!」

紬「唯ちゃん…。私もその場にいなかったからわからないけど、きっと唯ちゃんのせいじゃないと思うの。仮に、唯ちゃんのせいも含まれてたとしても……それは唯ちゃんだけのせいじゃないわ…」

唯「…私のせいなんだよ…!!!!全部!!」

唯「私が…私があの時……!」

紬「唯ちゃん、落ち着いて?」

唯「落ち着いてなんていられないよ…!!!!」

唯「私が……………」ポロポロ

紬「唯ちゃん」

紬「大丈夫、唯ちゃんのせいじゃないから……」ナデナデ

唯「……でも!……それとも、りっちゃんが悪いっていうの?」

紬「ううん、りっちゃんは悪くないわ……。誰も悪くないの」
紬「誰も悪くないのよ………」ポロポロ

唯「………」


梓「…もう面会時間終わりですね……」

紬「明日は土曜日だし、また明日来ましょう…?」

梓「そうですね…」

唯「…うん……」

紬「私、澪ちゃん呼んでくるから、先帰ってていいわよ?もうこんな時間だし……」

梓「でも…待ってますよ?」

紬「いいわよ、二人は方向違うし。もし何かあったら嫌だから、二人で先に帰ってて?…それに」

紬「…澪ちゃんも、きっと一人で気持ち整理したいだろうし……」

唯「………」

梓「…そうですね……では、また明日…」

紬「ええ…」

梓「…行きましょう、唯先輩…」

唯「………………うん…」ボソッ

紬「…バイバイ、唯ちゃん、梓ちゃん」

唯「………」

梓「はい、さようなら」



7: 2012/06/30(土) 23:42:00.14


紬「…………」ガラッ

紬「………澪ちゃん…帰りましょ……?」

澪「…………」

紬「澪ちゃん…」

澪「…………」

紬「澪ちゃん」

澪「…………」フルフル

紬「ダメよ…面会時間すぎてるもの……」

澪「…………」フルフル

紬「澪ちゃん、こっち向いて?」

澪「…………」

紬「……向いてよ…」グイッ

澪「!………」ポロポロ

紬「…!……辛いよね、澪ちゃん、……とっても辛いよね…」ギュッ

澪「…………む…ぎ………」ポロポロ

紬「りっちゃん、目覚ますから………絶対絶対…りっちゃんは、目覚ましてくれるよ……」ポロポロ

澪「…………」ポロポロ

紬「だって…りっちゃんは…、りっちゃんは、澪ちゃんをほっとくはずがないじゃない………」

紬「…ずっと一緒にいたんだもの……」

紬「……りっちゃんを信じよ…?……ね、澪ちゃん…?」ギュー

澪「…………」
澪「……………そう…だよな…」

澪「……りつ………」ポロポロ

澪「……はやく、おきてよ………」ポロポロ




9: 2012/06/30(土) 23:44:14.47
―――――

どのくらい寝ていたんだろう。
なんか夢を見た気がするけど、覚えてない。

次夢を見たら、ちゃんと覚えておこう。

記憶を取り戻す手がかりになるかもしれないから。

相変わらず目は覚めないままで、頭だけが働いている。

こんな生活いつまでつづくんだろう?

今、私はどこにいて、どんな服を着て、どんな風に寝ているように見えているんだろうか。

やっぱり病院にいるのかな。

病室のベッドの上で、テレビドラマみたいに青だかピンクだかの患者服を着て、心電図とか脳波とか測られてるのかな。

そこに自分の姿を当て嵌めようとしても、どうしても顔が、体型が、髪型が、全てが思い出せない。

ちくしょう。こんなにもどかしい思いをするのは初めてだ。

いや、初めてかどうかは、今眠っている私に聞かないとわからないな。


何か、耳に違和感がある。

違う。そうか、音だ。

誰かの声…だろうか。

『はやく、おきてよ………』

!?

聞こえた。

それは一瞬で、すごく小さい声だったけど。

誰だ?

今の声、聞いたことがある気がする。


もう一度聞いてみようとするけど、もう聞こえなかった。

訪れたのは、再び静寂。


途端に感じるのが、寂しさだった。

今まで感じなかったのに、どうして急に…?

一気に寂しさと絶望が込み上げてきて、どうにもならない悔しさと一緒に、ひたすら耐える。

耐えるのも、一人。

苦しくて辛くて、逃げ出したくなる。

でも、いつまでたっても逃げる術なんてないままで。

いっそ、氏んでしまった方がよかったんじゃないかって思ったくらいだった。

辛いよ、辛いよ………。

一人は、嫌だよ………。

助けてよ……………澪…。

“澪”。

無意識に、口にしていた。

どこの誰かも、顔や姿さえもわからない、“澪”という存在。

でも、今だけは、私に確かな安心感を与えてくれた。

それだけで、十分だった。

10: 2012/06/30(土) 23:44:49.24
―――――



梓「唯先輩、つきましたよ」

唯「…………」

梓「チャイム鳴らしときますね」ピーンポーン

憂『はーい』ガチャ

梓「こ、こんばんはー?かな?」

憂「あ、梓ちゃん、お姉ちゃんは…………」

唯「…………」

憂「……お姉ちゃん、おかえり」

梓「……あ、じゃあ私は帰るね?…」

憂「梓ちゃんも、泊まって行ったら?…もう遅いし」

梓「でも…」

憂「無理にとは言わないけど…その…暗いから、心配なんだ」

梓「……」

憂「今だって辛いのに…梓ちゃんにまで何かあったら嫌なの…」ウルッ

梓「憂…」

唯「………泊まって、あずにゃん」

唯「……ね?」

梓「…わかりました。ごめんね、憂、お世話になるけど…」

憂「私が提案したんだから、謝らなくていいよ」

憂「ご両親に連絡しとこうか?」

梓「ううん、自分で言うよ」

憂「そっか、じゃあ二人とも、早く入ろ?」


11: 2012/06/30(土) 23:45:22.12
―――――



私は自分らしきものを見た。

目の前にパッと現れて、また消えてしまった。


黄土色に近い明るい茶髪のショートカットで、はくせっ毛なのか寝癖なのかところどころはねていて、前髪は長く、鼻の頭くらいまであるのを、無造作にわけて下ろしていた。

目の色も髪色に似たような色をしていた。

そして、青い患者服を着て、素足のままで立っている。


これは、私?

見覚えがあるような気もするし、ないような気もする。


私(?)は、一瞬私に向かって勝ち誇ったかのように笑い、一言だけ言い残してそのまま消えた。


“みんなが待ってるから、私は乗りこえられる”


その時、目が合った。

一体、あれは何だったんだろう。

夢、か…?


あれが、私の、“今まで”の姿なのか…?


頭が痛い。

痛い。痛い。痛い。

耐えられない痛みが私を襲う。

なんだ、これ。

あれ、何か、大切なことが。

大切なことがある気がする。

痛い。痛い。

思い出せるかもしれない。

今なら…。

この痛みと共に、頭の奥底から引っ張りだしてこれるかもしれない。

痛い…痛い、痛い痛い痛い痛い!!!!!!!


律「うああああああぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!」



12: 2012/06/30(土) 23:48:53.53
―――――

唯「りっちゃん、おはよう」

律「」

唯「りっちゃんはさ、今どんな夢を見てるのかな?」

唯「楽しい夢?怖い夢?」

律「」

唯「…夢はね、いつか覚めちゃうんだよ」

唯「だから…だから……おきてよ……りっちゃん……」ポロポロ

唯「私まだ、ちゃんと謝ってないもん…」

唯「りっちゃん…」ギュッ


紬「唯ちゃん、りっちゃん、おはよう」ガラッ

唯「…ムギちゃん…おはよう」
紬「随分早く来たのね」

唯「うん…心配で、あんま寝れなくて…」

紬「私もよ」

唯「ムギちゃんも…?」

紬「当たり前じゃない…」

紬「りっちゃんの姿を思い出す度に、ぎゅううって胸が苦しくなるの…」

紬「…りっちゃん…」ギュッ


梓「皆さん、おはようございます」ガラッ

澪「……おはよう…」

唯「あずにゃんに澪ちゃん、おはよう」

紬「おはよう二人とも。一緒に来たの?」

澪「いや…、さっき会ったんだ」

梓「律先輩…まだ寝てますね…」

紬「きっと、今はまだ充電中なのよ」


澪「…律…」ギュッ

梓「律先輩…」ギュッ


律「」ポロポロ


唯「りっちゃん!?」

澪「律!!」

梓「律先輩…?泣いてるんですか…?」

紬「りっちゃん…大丈夫よ…」ナデナデ

律「」ポロポロ

唯「りっちゃん」ギュー

梓「先輩」ギュッ

澪「……待ってるから…大丈夫だよ」ギュッ

唯澪紬梓「「「「律(ちゃん)(先輩)」」」」

13: 2012/06/30(土) 23:49:30.56
―――――



痛みに飲まれながら、私は確かに声を聞いた。

何人かが、私を呼ぶ声。

私は……律。

そうだ……………私は。

私は――――――田井中律。


桜丘女子高等学校3年2組、軽音部部長の、田井中律だ。


今、思い出した。

そうだ、私は澪と登校してて、途中で唯と憂ちゃんに会って、憂ちゃんが先に行ったから、3人で行こうとして。

それで―――――。


とりあえず、早く、起きよう。

家族はもちろん、唯に澪、それにムギや梓が待っている。

だから、早く。

皆に心配かけるわけにはいかないから。

だって、私は長女であり、姉であり、軽音部を率いていかなければいけない“部長”だから。

早く起きて、皆に向かって笑おう。

心配かけたことを謝ったりするのは後にして、とにかく笑っていよう。


律「みんな……!!!」




14: 2012/06/30(土) 23:49:58.17
―――――



律「…………みん…な……」ボソッ


唯澪紬梓「!!!」

唯「りっちゃん…!?」

澪「律!!!」

紬「りっちゃん…!」

梓「律、先輩…?」



律「…………」ウッスラ


紬「……お医者さん呼んでくる!」タタッ

梓「はい、お願いします!」




15: 2012/06/30(土) 23:50:44.02
―――――



“みんな…!!!”


そう叫んだ瞬間、体が一回転したかのような感覚に陥った。

頭の痛みも、それと共にすぅーっとひいていく。


元に、戻れるんだな…。


本能的に、私はそう悟った。

おそらく間違ってはいないだろう。


急に体が重く感じ、前から強い光を感じたので、反射的に目を開ける。


律「…………」


見たことのない明かり、見たことのない天井。

真っ白でいかにも清潔そうな部屋は、病室に違いなかった。


次に目に入って来たのは、4人の女の子の顔。

思い出した今となっては、わからないわけがない。

右から順番に、唯、ムギ、梓、澪だ。

ムギは何かを言ってから、綺麗な金髪をなびかせながらどこか私の視界の端から消えていった。

梓はムギが行った方に視線を移し、唯と澪は、今にも泣きそうな顔をしてる。

泣くなよ、私は起きたんだからさ。


律「…………おはよ…」


唯「…りっちゃん…!ホントに、ホントに起きたんだね…!!」ウルウル

澪「……りつぅぅ!!」ギュッ


澪が私に抱きついてくる。

今となってはレアだな、この光景。

梓が入ってから、澪が妙に先輩風吹かしたがってたから、こんなことしなくなったし。

まあ、澪にとって梓は初めての後輩だからな。

って、そんな思い出話してる場合じゃないよな。


16: 2012/06/30(土) 23:51:09.96


律「…ゆい…、…みお…」ソッ


澪の横腹のあたりに、そっと左手をそえる。

澪の体勢、結構辛いはずだぞ。

それでもずっと抱きついているから、余程私が心配かけたってことか。

ごめんな、澪…。


唯は泣きそうなのを必氏に耐えようとしてるのか、目に大粒の涙をためながら、私の右手をしっかりと握っていた。

だから、私もそれに応えるように、今出せる限りの力で、唯の手をしっかり握った。

ごめん、唯…。



律「……あずさ…」

梓「………」ウルウル

律「……ほら…」スッ


梓を呼ぶと、澪はそっと私から離れた。

澪の隣にいた梓の顔は、唯に負けないくらい大粒の涙をためていて、歩いたらころんとこぼれ落ちてしまいそうなほどだった。

そんな顔しないでくれよ、って言いたいけど、まだ頭がぼうっとしてて、単語しか喋れそうにない。

だから、代わりに空いた左手を梓に差し出し、伸びてきた手をしっかりと繋いだ。

ごめんな、梓…。


今はいないけど、ムギもごめん。

唯と澪は多分ショックが大きかっただろうから、学年的にも、きっと頼りになったのがムギしかいなかっただろう。

ムギ自身も不安とか悩みとかあっただろうけど、きっとそれ以上にみんなを支えてくれたんだよな?

ごめん、ムギ…。


何か疲れたから、もう少しだけ寝かせてな。

今度は絶対、笑うからさ。


唯「りっちゃ――――


意識が落ちる集合、唯の声が聞こえた気がした…。

大丈夫、ちょっと寝るだけだから。




17: 2012/06/30(土) 23:51:55.85
―――――



紬「りっちゃん!」ゼエゼエ

唯「………」

澪「………」

紬「……え…りっちゃんは…?」

梓「……また、眠っちゃったみたいです……」

紬「…そんな…」ヘナヘナ


医者「…1度は起きたんだね?」

唯「……」コクン

医者「そうか。…ちょっと診察するから、向こうにいてくれるかな?」

紬「はい……」



18: 2012/06/30(土) 23:52:29.02
―――――



律「ん…」パチッ


あれから、どのくらい経ったのか?

次起きた時は、誰もいなかった。

でも、まだ日は落ちていないから、少なくとも夕方と夜ではないことはわかった。

誰も………。

ふいに、孤独を思い出した。

再び枕に頭をおさめると、寝ていた時の記憶と、リンクする。

何故か感じる、胸の痛み。


急に苦しくなった。

苦しくて、辛い。

周りに、誰もいない。


夢と同じだった。

涙がボロボロこぼれた。


なんで私はこんなに弱くなっただろう。

家で普通に一人でいるだろ?

場所が変わっただけだろ?

何も、問題ないはずなのに。

なんでこんなに悲しい?

なんでこんなに苦しい?

時間が経てば、絶対誰かに会えるとわかってるのに。

起きてるんだから、連絡とろうと思えばとれるのに。

バカみたいに一人で泣いてるのはなんでだよ…。

涙が止まらない。



19: 2012/06/30(土) 23:53:03.41


律「……っ………うぅ…………っ…」ポロポロ

律「………っ……」ポロポロ


ガラッ


唯「やっほ~りっちゃ……」

唯「!!りっちゃん!!」ダッ

澪「どうした唯?……律!」ダッ

紬「りっちゃん…?」

梓「律先輩…?」


律「!………っ……みん…な……っ………」グスグス

梓「律先輩、どっか痛いんですか?」

律「……っ……ちが……」フルフル

紬「梓ちゃん」ソッ

梓「……!」


唯「……りっちゃん…」ダキッ
澪「………律」ナデナデ

律「…っ…唯……澪……っ……」ポロポロ

唯「大丈夫だよりっちゃん」

澪「ずっと律のこと、待ってたんだよ」


紬「そうよ、りっちゃん」

紬「りっちゃんのこと、ずっと考えてたもの」

梓「そうですよ」

梓「私達だけじゃなくて、憂も、純も心配してましたよ」



20: 2012/06/30(土) 23:53:39.37
唯「りっちゃんは一人じゃないよ」ニコッ

律「…!……ゆい…」


澪「一人ぼっちで、ちょっと寂しくなっちゃったんだよな」ニコッ

律「……みお…」


紬「私達がいるよ」ニコッ

律「……ムギ…」


梓「おかえりなさい、律先輩」

律「……ただいま…梓…」


みんなの暖かさが、優しさが、言葉と一緒に伝わってくる。

側にいなくても、ずっと“絆”は繋がってるって、嫌でもわかるくらいに。


そうだよ。


みんながいる。



21: 2012/06/30(土) 23:54:32.46
律「……みんな、たくさん心配かけて悪かった!!」ガバッ

唯「おっ、りっちゃん元気になったー!」

澪「本当だよ、律」クスッ

梓「もう…」クス

紬「りっちゃん、早く一緒に部活しましょうね」ニコッ

律「おう!こんなのすぐ治すから、待ってろよ!」

梓「律先輩ならやりかねませんね」クスッ

澪「律だからな」

唯紬「ふふふ」

律「…それと、ありがとな!」

律「私、みんなが大好きだ!!」ニカッ


私はもう大丈夫。

こんな風に心配かけたけど、この事故があったから、再確認できた。

“絆”の強さを。

出会ってから、梓とはまだ2年目、唯とムギとは3年目、澪とは…もう9年くらいになる。

一緒にいる年数は違くても、みんな同じくらい大切に思ってるし、大切に思ってくれてた。

絆は目に見えないから、不安になったりするけど、私はもう平気。


律「改めて!夢は武道館ライブ!!」

唯紬「おおー!!」グッ

澪梓「お、おー!」


姿なんかなくても、いつでもすぐ側に、私の中に、

みんながいるから。

22: 2012/06/30(土) 23:55:16.30
終わり。

23: 2012/07/01(日) 00:06:03.79
乙!

引用元: 律「みんながいるから」