1: 2010/07/02(金) 23:22:55.62
夜中に突然目が覚めた、本当に不思議だ。

早朝から夏フェスに参加して、体はクタクタのはずなのに。

初めての夏フェス。私の本能は寝る時間さえ惜しむようだ。

どうして瞬間移動や分身の術を習得しておかなかったのだろう。本当に悔やまれる…色んな意味で

唯「やだなぁみおちゃん!」

澪「!?」

2: 2010/07/02(金) 23:24:21.03
唯「…そんなの入らないよぉ…」スースー

澪「寝言…?」

…他の皆はもう夢の中。静かに寝息を立てている。

紬「オムそば…液状…」スースー

梓「モフ…モフ…」スースー

さわ子「………………」

普通はあんだけ騒いだらこんな風にぐっすり眠れるはずなのだが…

さわ子「…………ンゴッ」

…先生、それはきっと睡眠時無呼吸症候群ですよ。

5: 2010/07/02(金) 23:26:14.49
テントの中は少し蒸し熱い。夜風にあたりたくて、テントから這い出た。

ブラブラとキャンプ場を歩いてみる。

流石に深夜ともなると起きている人たちは少ない。

それでも遠くのステージではライトが灯り、拍手と歓声が細く聞こえてくる。

澪「本当に一晩中やってるんだな…楽しそう…」

最近どうも独り言が多い。特にこんな夜は…

澪「やっぱり一人じゃつまらないな…」

先ほどまで皆で座っていた場所に再び腰を下した。

6: 2010/07/02(金) 23:28:02.32
昼間の荒々しく、うねる様な激しい時間とは対照的に、静かに優しく夜が更けていく。

風に乗ってフォーク調の曲が聞こえてきた。

フォークソング系にはあまり明るくないが、耳に心地よい。

そのまま仰向けに寝転がる。夏草の匂いがぷんと鼻をつく。

8: 2010/07/02(金) 23:29:31.80
満点の星空。乳白色に煌めく星達が、天の川を流れている。

澪「うわぁ…凄い…ミルキーウェイとはよくいったもんだなぁ」

雲ひとつない夜空。邪魔するものは何もない。

こんな空を目の当たりにしたら、誰だってセンチメンタルになるというものだ。

…なんだか新しい作詞のインスピレーションが沸いてきそうな…予感…

9: 2010/07/02(金) 23:31:02.31
律「みーおー?…おーい、みおー?」

澪「…!?」ガバッ

律「いや、そんなに身構えるなよ…」

澪「…ああ…寝ちゃったのか…」

律「気が付いたらいないんだから…ずいぶん探したんだぜ?さ、行こう?」

澪「…もう少しこうしてよう…」

律「…そっか。じゃああたしもそうしよーっと」

澪「…でもちょっと体が冷えちゃったな」

律「大丈夫かよ~?風邪ひくなよ?ま、私も濡れてるけど…ここ座っていい?」

澪「ハ…ハ…ハクション!!」

10: 2010/07/02(金) 23:32:41.05
律「勝手に座るけどねーっと…よっこらしょっと」

澪「…親父か…」

律「あっら~?寝っ転がって親父臭いくしゃみしてる澪ちゃんに言われたくないわ~ん」

澪「…」

律「…ってあ、あれ?もしかして怒った…?」

澪「…正座…」

律「し!しどい!」

11: 2010/07/02(金) 23:34:09.49
律「はいはい正座しますよ…まあいいや。下が柔らかいから痺れないし」

澪「…」

律「なんだよーみーおー。だんまりかよー、人に正座させといて…」

澪「…ふむ」

律「ただ黙ってるならなんかしよーぜ…あ、しりとりとかどう?久しぶりにさ!」

澪「…」

13: 2010/07/02(金) 23:36:26.91
律「黙秘は肯定と受け取るぜ?じゃあ私から!りんごの「ご!」」

澪「…小熊」

律「マイカー!」

澪「…髪の毛」

律「芸術派!」

澪「白鳥」

律「腕立て!」

澪「天秤」

律「よし!勝った!」

澪「…結構難しいな…」

律「澪が弱すぎるんだよ…」

澪「正座は…もういいか」

律「お、さんきゅー!ってなんでわたし素直に従ってたんだろう…」

14: 2010/07/02(金) 23:38:10.30
澪「今年は…織姫と彦星は晴れた夜空で会えるのかな…?」

律「あ、あたし思うんだけどさ!織姫と彦星って毎年一回、七夕の夜に会えるっていうじゃん?」

澪「…」

律「でもさ!あいつら私たちが生まれる前からいちゃこらしてるリア充なんだぜ!?一年や二年の曇りなんて我慢しろっつーの!」

澪「でも…やっぱり好きな人と会えないのはつらいよ…」

律「うーん…そういうもんなのかな?」

澪「…」

15: 2010/07/02(金) 23:40:20.51
律「いやぁそれにしても、思えば色々あったなぁ…軽音部」

澪「…」

律「梓もムギも唯も。みんなよくついてきてくれたよ」

澪「…」

律「澪もな…軽音部がここまで来れたのも、最初に澪が私のわがままを聞いてくれたおかげだと思ってる…」

澪「律…」

律「私のわがままを聞いてくれてありがとうな…これからもよろしく」

澪「…」

16: 2010/07/02(金) 23:42:03.47

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17: 2010/07/02(金) 23:43:00.99
澪「!」

律「お、流れ星!」

澪「願い事…うん!」

律「なんだ~?痩せられますようにってか~?」ニヤニヤ

澪「律に…」

律「え?私に関する願い事?何々?りっちゃん照れちゃうな~」

18: 2010/07/02(金) 23:43:56.08


澪「律に…もう一度でいいから会えますように」


律「…え?」

19: 2010/07/02(金) 23:44:37.84
律「お、おいおい…何言ってるんだよ~」

澪「…」

律「私はここにいるだろ~?」フリフリ

澪「律…どうして氏んじゃったんだよ…」

律「…はあ!?なに言ってんだよ!?冗談もほどほどにしろよ!おい!」

澪「…」

20: 2010/07/02(金) 23:45:21.35
律「澪!無視するなよ!」

澪「…」

律「澪…お前、私が見えてないのか?」

律「私の声が、聞こえてないのか…?」

律「そんな…さっきまで話してたじゃないか!」

21: 2010/07/02(金) 23:46:05.78
律「あれ…体が透けてる…?」

律「…」

律「…ああ…思い出した」

律「私、氏んだんだ」

律「そうだ…そうだった…」

律「…」

律「ごめんな、澪。お前の願い、叶えられそうにないよ」

律「…でも」

22: 2010/07/02(金) 23:46:49.06
律「どんなに離れていても、私はいつでも澪のこと、思ってるから」

律「軽音部のみんなによろしく…って、聞こえないんだった」

律「あ!これだけはやっとこう…まあ触れないんだろうけど」

23: 2010/07/02(金) 23:47:36.00
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                  チュッ

24: 2010/07/02(金) 23:48:48.72
律「へへっ。奪っちゃったー♪」

律「…バイバイ、澪」


律「…それにしても、なんで今さら澪に会えたんだろう…」

律「…きっと、宇宙のどこかで誰かが私の為に祈ってくれたのかな…」

25: 2010/07/02(金) 23:55:09.50


時は少し遡る。


26: 2010/07/02(金) 23:56:13.13

澪「…!?」ガバッ

今律に呼ばれたような気がする…

澪「…ああ…寝ちゃったのか…」

夢か…少しウトウトしてしまっていたらしい。

疲れは確かに溜まっていたようだ

澪「…もう少しこうしてよう…」

いまさらテントに戻るのも億劫だしな。風邪をひきはしないだろう。

澪「…でもちょっと体が冷えちゃったな」

あ、やば…くしゃみ出そう

澪「くしゃみ出そうハ…ハ…ハクション!!」

27: 2010/07/02(金) 23:57:29.60
柄にもなく思い切りやってしまった。律が聞いてたらからかわれるだろうな…

澪「はは…親父か…」

一人ツッコミはやっぱり寂しい…飽きもせず瞬いている星達を見ながらそう思った。

澪「…」

そういえば小学生の頃、律と一緒にプラネタリウムに行ったっけ…

澪「…星座…」

29: 2010/07/02(金) 23:58:10.51
昔の記憶を手繰り寄せてみる

澪「…」

いくつか律に星座を教えてもらったんだよな…見つかるかな

澪「…ふむ」

えっと、確か北極星の近くにあるのが北斗七星だったよな

澪「…」

あ、あったアレだ。じゃああのひしゃくみたいな形の星達が…

30: 2010/07/02(金) 23:59:51.92
澪「…こぐま」

次はと…お、これは良く覚えてる。西の空にある星群だ。名前が変だったから直ぐ覚えた。

澪「…かみのけ」

で…あの天の川でひときわ白く輝いてるのがデネブだから…そこを頭とみて十字型に伸びるのが…

澪「はくちょう」

後覚えてるのはっと…ああ、西の空にある、少し地味めな星座

澪「てんびん」

うーん…やっぱりこれだけ暗いと他の星が目立って、線を繋ぎにくい

澪「…結構難しいな…」

星空は律との思い出をよみがえらせてくれる。それが少し、寂しいけれど。

澪「星座は…もういいか」

31: 2010/07/03(土) 00:00:42.02
天の川は相変わらず白く輝いている

澪「今年は…織姫と彦星は晴れた夜空で会えるのかな…?」

青白く瞬く彦星と、純白に煌めく織姫。年に一度だけ会うことの許された二人。

澪「…」

地上の人間が思っている以上に、彼らは辛くないのだろう。年に一度のチャンスとはいえ、恋人は対岸にいるのだから。

澪「…やっぱり好きな人と会えないのはつらいよ…」

遠くに逝ってしまった私の大切な人…一度でいいから…もう一回会いたいよ…律…

澪「…」

32: 2010/07/03(土) 00:01:30.78
丁度去年の今頃。律は氏んでしまった。川で溺れている子供を助けようとした末のことだった。

澪「…」

当時私は何度も律の後を追おうと考えた…今の私がいるのは、軽音部のみんなが必氏に止めてくれたお陰だ。

澪「…」

皆のおかげでショックを乗り越えることは出来た。でもこんなに星が綺麗な夜は、やっぱりあいつのことを思い出してしまう。

澪「律…」

律の分まで生きると決めた…あいつは向こうでも元気にやっているだろうか。

澪「…」

33: 2010/07/03(土) 00:02:26.51
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34: 2010/07/03(土) 00:03:28.86
澪「!」

あ、流れ星…願い事しなくちゃ

澪「願い事…うん!」

やっぱりこれしかないよな

澪「律に…」

無理だと分かっていても…願わずにはいられない。

澪「律に…もう一度でいいから会えますように」

36: 2010/07/03(土) 00:04:10.79
澪「…」

願いを口に出した瞬間、律がもうこの世にいないことを再び確かめたようで、胸の奥が苦しくなる。

澪「律…どうして氏んじゃったんだよ…」

氏んだ人は星になるのだと、昔パパに教わった。

澪「…」

ならばこの空に瞬く星のうち、どれかが律なんだろうか。

律は今、宇宙で一人ぼっちなんだろうか。

澪「…」

律…そっちはどうだ?暑かったり、寒かったり、寂しくなったりしてないか…?

37: 2010/07/03(土) 00:04:55.60
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                  チュッ

38: 2010/07/03(土) 00:05:48.16
澪「…!?」ガバッ

今の感触は…

それにしても…いままで私は、誰かと一緒に星を見ていた気がする…

40: 2010/07/03(土) 00:06:41.30
唯「おーい。みーおちゃーん。」

澪「ああ、唯」

唯「もう!トイレ行こうと思ったらいないんだもん!びっくりしたよ!」

澪「ごめんごめんちょっと星を見ててな…」

41: 2010/07/03(土) 00:07:26.23
唯「…りっちゃんのことを考えてたの?」

澪「ああ…律が氏んだのも、星の綺麗な夜だったから…ついな」

唯「大丈夫?」

澪「ああ、大丈夫だよ。星を見て少しセンチメンタルになってただけだ」

唯「せんちめーたー?」

澪「センチメンタル。昔のことを思い出して、すこし涙もろくなってた」

唯「あれからもう一年だもんね…」

42: 2010/07/03(土) 00:08:12.99
澪「あの時はありがとうな、唯。みんながいなかったら、今頃私もあの星達の仲間入りだ」

唯「…澪ちゃんが心の底からりっちゃんの事を好きでよかったよ」

澪「どういうこと?」

唯「上手く言えないけどね…後追いなんてしたらりっちゃん絶対に悲しむだろうし」

澪「そうだな…あいつの悲しむ顔なんて見たくない…律にはいつでも笑ってて欲しい」

唯「…辛くなったらいつでも私たちを頼ってね?」

澪「…本当にありがとう」

唯「いーえいえ」

43: 2010/07/03(土) 00:09:19.56
澪「あ、そういえばさ。さっき律の声を聞いた気がしたんだ」

唯「え!?ま、まさか…幽霊?」

澪「さぁ…どうだろうか…でもな?」

唯「うん」

澪「律は星になって、私たちのことを見守ってくれている。そう言ってくれた気がしたんだ」

唯「…気のせいじゃないと思うよ。りっちゃんも心の底から澪ちゃんが好きだったもん。やっぱり気になるんだよ」

澪「そっか…」

唯「そうだよ…」

44: 2010/07/03(土) 00:10:08.85
澪「…律の分も精一杯生きるって決めたもんな」

唯「そうだね!あんまりくよくよしてるとりっちゃんに笑われちゃうかもね!」

澪「沢山練習して…勉強して…向こうでまた律とバンド組みたいな」

唯「天国にも音楽はあるのかな?」

澪「あるんじゃないか?」

唯「でもそれいいね!天国でバンド再結成!軽音部は不滅だもんね!」

澪「そうだな!でも律だけ若くて私たちはお婆ちゃんの姿だったらちょっと嫌だな…」

唯「あははは。よーし!帰ったら練習に明け暮れるぞー!」

澪「おー!」

唯「ふあぁ…とりあえず今日は寝よっか」

澪「それもそうだな。すっかり話しこんじゃったな…」

46: 2010/07/03(土) 00:10:52.46
ということで、律。

私達がそっちにそろうまでもう少し時間がかかりそうだ。

ムギのお茶とお菓子がないのはちょっとキツイと思うけれど、

まあ長い自主練だと思ってくれ。走り気味のリズムを直しておくように。

あ、そうだ。もしあるんだったら部室を用意しておいてほしいな。

顧問もちゃんと確保しておいてくれ。

多分私たちより少し早く先生がそっちに行くんじゃないか…と思う。無呼吸症候群だし…

とりあえず、気長に待っててくれ。

47: 2010/07/03(土) 00:11:36.82
おっと。忘れるところだった。

…今日はありがとうな。

なんとなく律の気配がするとは思ってたんだ。

声も聞いた気がするし、唯には言っていないけど…唇のあの感触。

微かにでも、律にもう一度会えてよかった。

律。できることなら、私達を見守っていてくれ。

私もどんなに離れていても、いつでも律のこと、思ってるから。

48: 2010/07/03(土) 00:13:01.11
唯「みおちゃーん?テント閉めるよー?」

澪「ああごめんごめん…」

唯「じゃあおやすみ…」

澪「ああ…おやすみ…唯」

49: 2010/07/03(土) 00:13:58.68

律もおやすみ。

また、星の綺麗な夜にでも会えたらいいな。







律「彦星は織姫に出合えた」 おわり

50: 2010/07/03(土) 00:15:05.94
最後まで見てくださった皆様、支援して下さった皆様
本当にありがとうございました
皆さんも星に願いをかけましょう

よろしければ合わせて
澪「織姫は彦星に出会えた」
もお読み下さい
まだ落ちてないはず

54: 2010/07/03(土) 00:32:44.73

58: 2010/07/03(土) 00:52:35.04
もう片方は氏ぬ前の話でおk?

60: 2010/07/03(土) 01:01:54.72
>>58
少し補足させてもらいますと

律「彦星」と澪「織姫」の舞台になっているのは違う星という設定です。
パラレルワールド的なものと考えてもらっても結構です。

澪「織姫~」:律が生きている世界(星)
律「彦星~」:律は氏んでいる世界(星)

で、
澪「織姫」で澪が流れ星に「私達に似た宇宙人達に良いことが起こりますように」と願い事をする
→奇跡的なアレで律「彦星」で氏んだはずの律が澪に会えるようになる
みたいな

68: 2010/07/03(土) 01:55:46.01
>>67
すいません作者の都合で頃してしまい
本当にりっちゃんには申し訳ないことをしたと思ってます…

引用元: 律「彦星は織姫に出会えた」