1: 2012/11/10(土) 01:36:02.83
千早「病院でのミニコンサート、ですか?」

P「ああ。入院患者のメンタルケアも含めての依頼でな」

P「どうしても長いこと入院してると、患者さんの精神衛生上よくないらしくて」

千早「そこで私に歌ってほしいと」

P「そうだ。今や人気歌手である千早に来てもらえれば患者さんも明るくなるだろうとの事だ」

千早「しかし……病院というのは」

P「あまり乗り気じゃないのか?」

千早「……そんな役割を私が担えるか不安で」

P「らしくないじゃないか。断わった方がいいか?」

千早「いえ……やらせてください」

P「そうか。それじゃあ先方には連絡を入れておく。また詳しいスケジュールは追って連絡しよう」

千早「お願いします」

2: 2012/11/10(土) 01:43:43.53
――数日後

P「例のコンサート、日取りが決まったぞ」

千早「ありがとうございます」

P「一週間後の午後2時に病院の中庭で行う。まあ、病院だから曲数は少ないし、ジャンルも決まってくるけどな」

千早「あまりアップテンポでも、逆に悲しい歌でもよろしくないでしょうし」

P「そういう事だな。それで、今日は病院のスタッフ――ボランティアスタッフの方とも打ち合わせがある」

P「もうそろそろ来るだろうから、そこで詳しい流れを話し合おう」

千早「はい。わかりました」

3: 2012/11/10(土) 01:46:55.91
ナルキッソスとのクロスだけど、ひょっとして誰も知らないか?

4: 2012/11/10(土) 01:50:59.86
コンコン

P「っと、噂をすれば来たようだな」

P「どうぞー」

ガチャ

女性「失礼します……」ペコリ

女性「この度はミニコンサートの件を承諾していただき、誠にありがとうございます」

P「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をさせて頂けてありがたいですから」

P「なにせ入院をされている方に生の歌声を届ける機会はそうそうありませんからね」

女性「そうですね。患者さんたちもテレビ越しでしか娯楽を楽しむことができませんから」

P「さ、とりあえず座ってください」

P「そこで詳しい話をしていきましょう」

女性「はい」

P「ほら、千早も」

千早「わかりました」

6: 2012/11/10(土) 02:01:15.35
小鳥「お茶です」スッ

女性「どうも、ありがとうございます」

P「ありがとうございます」

千早「ありがとうございます」

小鳥「いえ、それではまた何かありましたらお呼びください」

P「はい。そうさせて頂きます」

P「……さて、知っているとは思いますが、紹介だけさせて頂きますね……千早」

千早「如月千早です。この度はお声をかけて頂きありがとうございます」ペコリ

女性「これはご丁寧に。いつもテレビでご拝見させていただいてます」ペコリ

女性「私は篠原千尋と申します。このミニコンサートの企画をさせて頂きました」

P「篠原さんは大学生の頃から病院でボランティアとして働いていたそうだ」

千早「とても立派だと思います」

千尋「……一時期はお休みしていましたけどね」

7: 2012/11/10(土) 02:09:11.96
P「まあ、今回の千早もボランティアみたいなモノになるけれど……」

千尋「本来なら出演料をお支払いすべきなのですが、どうしても最低限の予算しか捻出できなかったので……」

千早「問題ありません。私の歌を届ける事が出来るなら、無償でもかまいません」

千尋「ありがとうございます!」

P「機材なんかもそれなりだけれど、それ以上に得るものもあるだろう」

千早「はい。そう思います」

千早「……それで、今回はどうしてこの企画を?」

千尋「……一言で言えば患者さんのメンタルケアですね」

千尋「病院というのは、どうしても暗いイメージがついて回ります」

千尋「ウチの病院はカトリック系で、月に何度かは教会から人を派遣してお話しをして貰ってるのですが」

千尋「やはり、それだけではストレスが溜まってしまうのです」

8: 2012/11/10(土) 02:21:41.21
千早「果たして、私で大丈夫なんでしょうか」

P「おいおい、いつになく弱気だな」

P「まあ、病院というデリケートな場所だからな。分からなくもないけど」

千尋「そこは問題ありません」

千尋「患者さんは楽しみにしてますし、私を含めスタッフも心待ちにしてますので」

千早「そうであればいいのですが……」

P「なんにせよ、もう決まったことだ。腹を括るしかないぞ」

千早「わかってますが……」

千尋「皆さんは日常を感じたいと思っていますので、いつも通りの如月さんで大丈夫かと思います」

千尋「テレビの向こうに居るアイドルを見るだけで、きっと明日も頑張ってくれるはずですから……」

9: 2012/11/10(土) 02:26:09.81
P「そういうことだ。色んな人に元気を届けるのがアイドルだからな」

千早「そう、ですよね」

P「さて、そろそろ細かい打ち合わせに入っていきましょうか」

千尋「はい」

P「とりあえず入場からなんですが――」

千早(こうして私自身初となる病院でのミニコンサートの企画が始まった)

千早(正直不安は残るけれど、与えられた仕事はしっかりとこなしたい)

千早(病院、か……)

10: 2012/11/10(土) 02:38:13.64
――ミニコンサート当日・病院中庭――

千早「それでは、行ってきます」

P「おう、頑張ってこい」

千尋「私も観客席から観させていただきます」

千早「ありがとうございます。では」

キャーキャー ワー

千尋「凄い盛り上がりですね」

P「ええ、とても病院だとは思えませんね」

千尋「……お姉ちゃんにも見せたかったな」ボソ

P「?」

千尋「いえ、なんでもありません」

P「そうですか……しかし、あの水仙も良い具合に咲いてますね」

千尋「ナルキッソス、ですね」

P「ナルキッソス?」

11: 2012/11/10(土) 02:49:24.19
千尋「ええ。神話から付けられた名前ですね」

P「……ちょっと勉強不足で申し訳ありません」

千尋「私も詳しくは分からないんですが、ナルシスという美少年に恋をしたエコーという妖精の神話でして」

千尋「エコーは相手が喋った事しか話せない、もちろんナルシスはそんなエコーの相手などしない」

千尋「いずれエコーは声だけの存在となり、ナルシスは復讐の女神に呪いを掛けられてしまう」

千尋「……自分の姿しか、愛せない呪い」

P「それは、ナルシストの語源ですか?」

千尋「はい。そしてナルシスはエコーの居る湖に行きつき、水面に映る自分へ『愛している』と囁き続ける」

P「……」

千尋「そこで、エコーもようやく彼に『愛している』と伝えられたのですが」

P「その言葉はエコーではなく、自分自身への言葉……」

千尋「……いずれ、ナルシスは息絶えてしまい、その水辺には綺麗な花が咲きました」

千尋「そしてエコーはその花に名前を付けて、彼を弔った」

P「それが、ナルキッソス」

千尋「……悲しい話ですよね」

12: 2012/11/10(土) 02:55:39.07
千尋「……私は観客席に行きますね」

P「あ、はい」

千尋「では……」タタタ

P「ナルキッソスねえ……」チラ

千早「~♪」

P「うん、今日の千早は調子がいいな」

P「これならなんの問題もないだろう……って、うん?」

P「病室の窓から、誰か観てるのか?」ヒーフーミー

P「7Fって、一番高い階だよな……」

少女「……」ジー

P「あの女の子も、降りてきて観ればいいのに」

P「まあ、全員が全員興味があるわけじゃないよな」

P「とにかく今は、ライブが成功することを考えよう」



少女「……」

15: 2012/11/10(土) 03:05:41.30
――ライブ終了後――

千早「ありがとうございました」ペコリ

ワーワー ヨカッタヨー チハヤチャーン

千早「ふう……」

P「ご苦労さん」

千早「なんとか盛り上がったようで、よかったです」

P「いや、大盛況だろう。これなら篠原さんも喜んでくれるさ」

千早「だったらいいんですが……」

千早(あの7Fから観ていた子が気になる……)

千尋「如月さん、Pさん。ありがとうございました!大成功ですね!」

P「そう言っていただけるとは、恐縮です。な、千早」

千早「……」

P「千早?」

千早「あ、はい……そうですね」

16: 2012/11/10(土) 03:12:40.32
千尋「どうかなさいましたか?」

千早「いえ、その……」

千早「7Fから観ていた女の子が、少し気になって……」

千尋「……」

P「お、千早も気がついてたのか」

千早「はい……というか、あんな目で見られたら嫌でも気になりますよ」

千尋「……セツミさん」ボソ

千早「私の歌、嫌いなのかしら……」

P「そんなことはないと思うぞ。万が一好ましくないと思っていたとしても、全員が全員に好まれるものなんてないんだから」

P「次までに、お前のファンにすればいいだろ?ね、篠原さん」

千尋「そう、ですね……」

千早「?」

18: 2012/11/10(土) 03:22:26.55
P「それじゃあ、俺は機材の撤去やらの手伝いするから、千早は暇を潰しといてくれ」スタスタ

千早「わかりました」

千尋「病院内であれば案内できますので、よかったら声を掛けてくださいね」

千尋「まあ、食堂以外は普通の病室やら診察室しかないんですけどね」クスクス

千早「……篠原さんは、7Fのあの子を知っているんですか?」

千尋「……どうしてでしょう?」

千早「私があの子の事を言ったら、少し様子が変でしたし」

千早「それに、あの目を向けられたら気になってしまって……」

千尋「そうですか……」

千尋「知っている、と言えば知っているんですが……」

千尋「患者さんのプライバシーに関わる事ですので、すいませんが詳しくはお伝えできません」

千早「そうですよね、すいません。変な事をお聞きして」

19: 2012/11/10(土) 03:27:33.86
千尋「こちらこそ、お答え出来ずに申し訳ありません」ペコリ

千尋「それでは、私も後片付けの手伝いをしてきますので」

千尋「また、なにかありましたら声をかけてくださいね」タタタ

千早「あ、はい……」

千早「プライバシーね……」

千早「……どうしてかしら。あの子の事が気になるわね」

千早「7F、か」

千早(まだ機材の撤収には時間がかかるだろうし)

千早(少し顔を出しても大丈夫よね?)

千早「すいません、プロデューサー。少し散歩してきます」

P「おう。気を付けてな」

千早「はい」スタスタ


少女「……」

20: 2012/11/10(土) 03:31:36.95
――7F――

千早「エレベーターの最上階」

千早「ここが7Fね」スタスタ

看護師「」チラリ

千早「?」

看護師「」プイ

千早(なんだか、様子がおかしいわね)

千早(まあ、お見舞いでもないのにやってくる人間がいれば当然か……)

千早(できればあの子とお話ししたいんだけど……)キョロキョロ

少女「……」

千早「居た」

千早(ここは、談話室?)

千早(凄く綺麗だけれど、なんだか無機質というか寂しい感じがするわね)

21: 2012/11/10(土) 03:38:14.46
少女「……」ジー

TV<アラアラ ウガー 

千早(テレビを観てるわ)

千早(我覇那さんとあずささんが出てる)

TV<コンナノゼッタイムリダゾー ガンバッテ

千早(これってこの間収録して大変だったって言ってた回ね)クスクス

千早(我覇那さんは観ないでほしいと言っていたけれど、とっても面白いわ)

少女「……」

千早(この子は全く笑っていないけれど……)

千早「あの……」

千早「テレビ、面白いかしら?」

少女「……別に」

千早「そ、そう……」

千早(会話が途切れてしまったわ……)

22: 2012/11/10(土) 03:47:24.56
千早(……腕に巻かれているタグに名前が書いてあるわね)

千早(佐倉セツミ……血液型はO型。年齢は……読めないわね)

千早(まあ、見た感じでは中学生位よね)

千早「佐倉さん、でよかったかしら」

セツミ「……なに?」

千早「私のライブ、楽しくなかった?」

セツミ「……別に」

千早「……そう言われるのは、少し傷つくわね」

セツミ「……そう」

千早「ええ……」

セツミ「……」

千早「……」

千早(会話が続かない)

24: 2012/11/10(土) 03:57:10.77
千早「……私は、如月千早って言うの」

セツミ「知ってる……」

千早「そうだったの。嬉しいわ」

セツミ「そう……」

千早「……どうして、窓から覗いてたのかしら?騒がしかったなら、ごめんなさい」

セツミ「……すこし気になっただけ」

千早「迷惑じゃなかったのなら、良かったけれど……」

千早「それなら、降りてきてくれてもよかったのに」

セツミ「…………」

セツミ「薬の、時間だったから……」

千早「あ、そうだったの……ごめんなさい、無神経だったわ」

セツミ「別に……気にしてない」

千早(入院患者さんなんだから、自由に出てこれる人ばかりではないことを忘れてたわ)

26: 2012/11/10(土) 04:07:20.84
セツミ「……アイドル」

千早「え?」

セツミ「アイドルってのは……やっぱり、大変?」

千早「……」

千早「そうね。華やかさだけではないのは確かだわ」

千早「それでも、貴女の様な子に元気を与えられたら、と思ってるわ」

セツミ「……」

セツミ「……なによ、年下の癖に」

千早「年下? 私が?」

セツミ「どうでもいいじゃない……私が少し上なだけよ」

千早「そ、そう……」

千早(どうみても高槻さん位にしかみえないのに……)

29: 2012/11/10(土) 04:14:01.14
セツミ「アイドル……」

千早「もしかして、アイドルに憧れてるの?」

セツミ「別に……」

千早「貴方、凄く可愛いしアイドルとして成功すると思うわよ」

千早(これがティンときたって奴なのかしら)

セツミ「……それは、絶対に無理ね」

千早「やってみなければ、分からないでしょう?」

セツミ「……分かるのよ」

セツミ「7Fの住人にしか、分からないことだって……あるのよ」

千早「……?」

セツミ「……もし、貴女がここに来ることになれば……分かる事よ」

千早「? ええ、なにか怪我や病気になった際にはお世話になるかもしれないわね」

セツミ「……そうならないことを、祈ってるわ」

千早「ありがとう?」

31: 2012/11/10(土) 04:30:11.47
セツミ「ねえ……」

千早「なにかしら」

セツミ「氏ぬまでにしたい10のことって……考えたことある?」

千早「どうしたのかしら、唐突に」

セツミ「……少し気になっただけよ」

千早「そうね……考えたことも無かったけれど、歌だけは最後まで歌っていたいわね」

セツミ「歌……」

千早「それが私の生きる道だから……」

セツミ「……」

セツミ「じゃあ、もし……」

セツミ「もしも、歌う事すら出来なくなってしまったら?」

セツミ「……なにもかもを、諦めなくちゃいけなくなったら、どうする?」

千早「それは……」

32: 2012/11/10(土) 04:38:59.18
千早「……ごめんなさい。答えられないわ」

セツミ「そう……」

千早「でも、きっと何もかもを諦めてると思う」

セツミ「……」

千早「今の私には、色んな人の支えがあるけれど……きっとそれすらも突き放してしまうでしょうね」

千早「歌えなくなった私を見て欲しくないし、気を使ってもらうのも申し訳なく感じると思うわ」

セツミ「……案外」

千早「え?」

セツミ「……似ているのかもね、私たち」

千早「そうなのかしら?」

セツミ「ええ……だからこそ、そんなことを訊きたくなったのかも」

千早「……もし、訊きたいことがあるなら答えるわよ」

セツミ「……グラビア」

セツミ「水着のグラビア撮影とかは……しないの?」

千早「くっ……」

35: 2012/11/10(土) 04:50:11.53
千早「い、一応やってるわよ!」

セツミ「……そう」チラ

千早「今私のどこを見たのかしら?」

セツミ「別に……」

千早「くっ……」

千早(佐倉さんだって、年上という割には私と変わらないじゃない……)

千早「来週発売の雑誌に掲載されてるから、よかったら確認してみなさい!」

セツミ「わかった……」

千早「……全く、もう」

セツミ「……ねえ」

千早「何かしら?」

セツミ「……応援、してるわ」

千早「……ありがとう」

39: 2012/11/10(土) 05:04:21.98
セツミ「……いつか、歌を聴いてみたいものね」

千早「機会があれば、またこの病院までやってくるわよ」

セツミ「”次”があれば、今度は外で聴くわ……」

千早「期待しててね」

セツミ「……そうね」

セツミ「あの水仙が咲いている場所に……」





セツミ「いつか、きっと……」

40: 2012/11/10(土) 05:05:42.37
千早(こうして、不思議な女性――佐倉セツミとの会話は終わった)

千早(今になって思い返してみれば、彼女の言葉はきっと私への忠告だったのかもしれない)

千早(それを確かめる術は、残念ながらもうないのだけれど)

千早(7Fという場所がどんな所だったのか)

千早(彼女が、どんな人間だったのか)

千早(それは全て人から聞いた言葉でしかなくて)

千早(それがどれだけ悲しいかなんてわからなくて)

千早(とにかく、今言えることは)

千早(彼女にとっての次は、もう来ないということだけだった……)

―――――――――――
――――――――――
―――――――――
――――――――
―――――――

41: 2012/11/10(土) 05:14:26.55
――数年後 淡路島・黒岩水仙卿――

P「うー、寒いな」

千早「そうですね」

P「しかし、どうしてまた淡路島なんかに来たいって思ったんだ?」

千早「……どうしてでしょうね」

千早「ふふ……よく分かりませんね」

P「まあ、これだけの水仙が見れただけでもいいけどさ」

千早「本当に、綺麗ですよね……」

P「ナルキッソス……だったかな」

千早「え?」

P「ほら、水仙の別名だよ。1回目のミニコンサートの時に篠原さんに教えてもらったんだ」

P「神話が元になってるらしいんだけどな。ナルシスとエコーだったかな。詳しくは覚えてないんだけど」

千早「……私もその神話は知っています」

P「お、そうか。千早は博識だなあ」

千早「別に……少し気になって調べただけですよ」

42: 2012/11/10(土) 05:25:11.26
千早(彼女――佐倉セツミさんは、どうやら治る見込みのない病に蝕まれていたらしい)

千早(そして彼女のいた7F。あそこは病院内において唯一治療目的の場所ではなく、氏に向かう場所だったと聞いた)

千早(家か、7Fか)

千早(患者たちは例外なくどちらかで亡くなっていった)

千早(しかし、佐倉さんはそのどちらでもなく――この淡路島の海に眠ったらしい)

千早「祈る事を諦めた――」

千早(同じ7Fの患者さんと共に、病院を抜け出し。銀のクーペでここまでたどり着き)

千早(グラビアアイドルのような写真と、拗ねる様な笑顔を残して――海へと向かって行ったそうだ)

千早「透き通る空の朝――」

千早(その時に持っていた雑誌のグラビアが、私だったのは――)

千早(少しだけ、誇れる事なのかもしれない)

44: 2012/11/10(土) 05:33:31.60
佐倉セツミ 血液型 O型 享年22歳。
腕輪の色は、白。

年間約三万人に上る自殺者の中の一人。

私はそれだけしか、彼女のことは知らないけれど。
彼女が確かに生きていたことは知っている。

水仙の花が咲き誇るこの場所で、どんなアイドルにだって負けない笑顔をしていたことも知っている。

水仙――スイセン属、ヒガンバナ科の属のひとつ。
学名は、Narcissus(ナルキッソス)。

そして、私は歌を歌う。

それは彼女への鎮魂歌なのかは分からないけれど――
彼女へ向かって歌を歌う。

曲名はNarcissu

suicideのsを一つ消して、彼女の為だけにこの曲を歌う。

45: 2012/11/10(土) 05:34:59.38
   眩しかった日のこと
               そんな冬の日のこと







          

47: 2012/11/10(土) 05:35:45.89
おしまい。

50: 2012/11/10(土) 05:39:47.76
『すてーじ☆なな』という同人サークルの名作「ナルキッソス」とのクロスでした。
無料で1と2がプレイできるので、ぜひ。

52: 2012/11/10(土) 05:54:15.79

引用元: 千早「眩しかった日のこと」