1: 2015/11/14(土) 17:18:29
― 戦場 ―

パカラッ! パカラッ!

騎士「魔族め、俺たちの国は渡さんぞ! ――はああっ!」シュバッ

ザシィッ!

魔族「ぐっ! おのれ、人間がぁっ!」ヒュオッ

ザシュッ!

馬「ヒヒィィィン!」

騎士「――大丈夫か!? このぉっ!」ズバンッ

魔族「ぐはぁっ……!」ドサッ

2: 2015/11/14(土) 17:22:39
― 馬小屋 ―

騎士「ふぅ、今日もかろうじて魔族を撃退できたけど、攻撃は激しくなる一方だ……」

騎士「このままじゃ、お前の身が持たないな……」

馬「ブルルルルッ……」

騎士「そんなことないってか? ありがとよ」ナデナデ

馬「ブヒヒィン……」

3: 2015/11/14(土) 17:25:40
騎士(このまま戦い続けたんじゃ、俺の愛馬はいつか確実に氏んでしまう)

騎士(かといって、馬の機動力なしで魔族と戦うのは不可能だ)

騎士(愛馬を氏なせたくない。かといって戦場に出さないわけにもいかない……)

騎士(この両方の願いを叶えるには、こいつに強くなってもらうのが一番だ!)



騎士「よぉし、肉体改造させてみるか!」

4: 2015/11/14(土) 17:28:39
騎士「まずは体を鍛えよう!」

騎士「体を鍛えるというのは、すなわち体に負荷を与えるということ!」

騎士「この起伏に富んだコースを駆け回って、脚を鍛えるんだ!」

馬「ヒヒィィィン!」

パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「ようし、いいぞ! その調子だ!」

6: 2015/11/14(土) 17:31:00
騎士「ベンチプレスに挑戦だ!」

騎士「300kg……イケるか!?」

馬「ブルルルルル……!」ググッ…

騎士「頑張れ!」

馬「ブヒヒィィィィィン!」グンッ

騎士「よし、成功だ!」

7: 2015/11/14(土) 17:33:13
騎士「たっぷり運動した後は、このプロテイン草をいっぱい食べろ!」

馬「ヒヒィィィィン!」モッシャモッシャ

騎士「いいぞ……どんどん食べろ! どんどん食って強くなるんだ!」

馬「ヒヒィン! ヒヒィィィン!」モッシャモッシャ

8: 2015/11/14(土) 17:35:25
馬「…………」ムキムキッ

騎士「おおお、すごいぞ!」

騎士「脚は太くなり、体も全体的に大きくなり、見違えるようだ!」

騎士「弱い魔族なら、多分お前が踏みつけるだけで倒せるぞ!」

馬「ブヒヒィィィン」

9: 2015/11/14(土) 17:37:51
騎士「だけど、肉体を鍛えただけじゃ、魔族に勝ち続けることはできない」

騎士「魔族ってのは人間以上に見た目ってのを重視すると聞く」

騎士「つまり、強そうな外見をすれば、それだけ委縮させることができるってことだ」

馬「ヒヒィィン」

騎士「そこで――」

10: 2015/11/14(土) 17:41:24
騎士「お前にツノをつける!」ペトッ

馬「ブヒンッ?」

騎士「象牙を削って、お前の頭に合うようカスタマイズした手作りのツノだ」

騎士「どうだ?」

馬「ヒヒィィィィイン!」ビーン

騎士「おおっ、気に入ってくれるか!」

馬「ヒヒィン! ヒヒヒィィィン!」ビーン

騎士「ハハハ、ユニコーンみたいでかっこいいぞ!」

11: 2015/11/14(土) 17:45:27
騎士「けれどツノだけじゃ、まだ迫力が足りない」

騎士「今度は翼をつける!」

馬「ヒヒィィィン!」

騎士「ペガサスのような翼といいたいところだけど……あれじゃちょっと弱そうだから」

騎士「このデカスギコウモリの翼をくっつける!」ペトッ

馬「ヒヒィィィィン!」

12: 2015/11/14(土) 17:48:06
馬「ヒヒィン!」ビーン

馬「ブヒヒィィィィィン!」バッサバッサ

騎士「おおおっ、立派なツノに、不気味なコウモリの翼! これはかなり強そうだ!」

騎士「さらに、全身を虎のような色に塗ってやれば――」ヌリヌリ…

馬「ヒヒィィィィィィン!」

騎士「うおおおおお、メチャクチャ強そうだ!」

13: 2015/11/14(土) 17:50:43
騎士「お前を一目見た魔族は、きっと“トラウマ”になること間違いなしだな!」

馬「…………」シーン

騎士「ごめんなさい」

14: 2015/11/14(土) 17:52:45
騎士「――さて、これだけやれば、見た目に関しては十分だろう!」

騎士「次は、俺とお前がより正確に意思疎通できるよう、人間の言葉を覚えてもらう!」

騎士「その方が戦いがより有利になるに決まってるからな!」

馬「ブヒヒィィィィン!」

15: 2015/11/14(土) 17:56:50
馬「ヒヒィィン!」

騎士「ヒヒィンじゃない。これは“ニンジン”だ」

馬「ヒ、ヒィンジン」

騎士「惜しい、ヒンジンじゃない。“ニンジン”だ」

馬「ニ、ン、ジン……」

騎士「よくいえた! 偉いぞ!」ナデナデ

16: 2015/11/14(土) 18:00:03
騎士「これはペンです!」

馬「コ、レハ、ペン、デス……」

騎士「私は馬です!」

馬「ワタシハ、ウマ……デス」

騎士「ご機嫌いかがですか?」

馬「ゴキ、ゲン……イカガ……デスカ……?」

17: 2015/11/14(土) 18:03:46
騎士「文章を読めるようになるために、このテストを解くんだ!」

馬「ハ、イ……」カリカリ

馬「…………」

騎士「どうした? 分からない問題があるのか?」

馬「コノ“作者ノ気持チヲ答エヨ”トイウ設問ハ、ナンデスカ?」

馬「“文章ヲ書クノハ大変ダ”ト答エレバヨイノデスカ?」

騎士「なかなかいい着眼点だが、残念ながらそれじゃテストでは0点だ!」

18: 2015/11/14(土) 18:07:47
馬「これはペンです!」

馬「私は馬です!」

馬「ご機嫌いかがですか?」

馬「――どうですか、ご主人様!」

騎士「うん、バッチリだ! 人間並みに流暢にしゃべれるようになったな!」

騎士「さて、次はどうしようかな……」

馬「ご主人様、実は私に考えがあるのですが……」

騎士「考え?」

19: 2015/11/14(土) 18:10:10
騎士「――辺境に住むドラゴンの生き血を飲む!?」

馬「はい、そうすれば私はさらなる力を手に入れられるはずです」

騎士「ううむ、しかしなぁ……さすがに危険すぎるよ。竜は魔族より強いとも聞くし……」

馬「ですが、危険を恐れては力は手に入りません!」

馬「竜の巣に入らなければ竜の卵は手に入らん、というでしょう?」

騎士「お前、いつの間にそんなことわざまで覚えたんだ……やるじゃん」

騎士「分かった、やろう!」

20: 2015/11/14(土) 18:14:22
― 竜の山 ―

ドラゴン「ほう、我の生き血を飲みたいがために、我に挑戦したいと?」

ドラゴン「面白い、かかってくるがよい」



騎士「いくぞ!」

馬「はい!」

ドカラッ! ドカラッ!

21: 2015/11/14(土) 18:17:19
ドラゴン「我が爪で引き裂いてくれる!」

ブオンッ!

ドラゴン「当たった! ――いや、当たってない!?」



馬「残像です」バババッ

騎士「ナイスフットワーク! 上に乗ってる俺は吐きそうだ!」ウップ

22: 2015/11/14(土) 18:21:12
ドラゴン「ならば、この炎のブレスは避けられるか!?」

ゴォワァァァァァッ!



馬「なんの! 地面を踏みつけ隆起させ、岩の壁とすることで防ぐ!」

ズンッ!



ドラゴン「ええええええええええ!?」

騎士「すげえええええええええ!」

23: 2015/11/14(土) 18:24:14
馬「鍛え抜かれた脚にて、ペガサスのように跳躍!」バッ

馬「今だ、ご主人様!」

騎士「うおおおおおおおおっ!」ブンッ

ガキンッ!

騎士「ダメだっ! 竜のウロコには刃が通らない!」

ドラゴン「フハハハッ、我の鉄より硬いウロコに傷をつけることは不可能よ!」

24: 2015/11/14(土) 18:26:36
騎士「くっそぉ~……これじゃ生き血が手に入らないぞ」

馬「こうなったら作戦を変えましょう」

騎士「どういう風に?」

馬「…………」ゴニョゴニョ

騎士「――押してダメなら、ってことか! やってみよう!」

25: 2015/11/14(土) 18:30:19
ドラゴン「どうした、かかってこい!」

騎士「すみません、生き血は諦めます」

ドラゴン「え? なんで急に……」

騎士「だって冷静に考えたら、竜の生き血ってどう考えてもマズそうですもん」クスクス

馬「肉ばかり食べてそうだから、きっとものすごく生臭いでしょうしね」ヒヒヒン

ドラゴン「な、なんだと!?」

26: 2015/11/14(土) 18:33:13
ドラゴン「飲みもしないうちから、なんでそんなこというんだ! 失礼だろ!」

騎士「じゃあ、飲ませてくれるんですか?」

ドラゴン「おお、飲ませてやるともさ!」

馬「だけど、そのウロコにどうやって傷をつけるんです?」

ドラゴン「こんなこともあろうかと、前もって試飲用の生き血を用意してある!」サッ

騎士(ペットボトルに入れてんじゃねーよ)

27: 2015/11/14(土) 18:35:11
馬「いただきます」グイッ

馬「…………」ゴクッ

馬「オエッ! マズッ!!!」



ドラゴン「!」ガーン

騎士「まぁ、常識的に考えて血液がおいしいわけないし……ドンマイ」

28: 2015/11/14(土) 18:40:30
馬「だけど……マズかった分、力が湧き上がってくる!」ゴゴゴ…

馬「うおおお……」メキメキィッ

馬「むおおおおおおおおおお……」ムキムキィッ

騎士「おおお、すごい迫力だ! 俺の愛馬に竜のパワーが加わった!」

騎士「竜の血を飲んだことで、ツノと翼も体と一体化したようだ!」

ドラゴン「うむむ、もしかしたら我の強さをも超えたかもしれん」



騎士「竜よ、ありがとう! さらば!」グイッ

馬「ヒヒィィィィィン!」

ドカラッ! ドカラッ! ドカラッ!



ドラゴン(そんなにマズイのかな……飲んでみるか)ゴクッ

ドラゴン「オエッ! マズッ!!!」

29: 2015/11/14(土) 18:43:31
― 魔界 ―

騎士「いよいよ最終試練だ……」

騎士「本当に行くのか? やめてもいいんだぞ? というか、やめた方が……」

馬「いえ、やります! ここで一ヶ月生き延びられたなら、私は完成するはずなのです!」

騎士「分かった……氏ぬなよ! 必ず戻ってこい!」

馬「もちろんです、ご主人様!」

……

……

……

30: 2015/11/14(土) 18:47:46
一ヶ月後――



馬「やりましたよ、ご主人様!」ドカラッ

騎士「おお、戻ってきたか!」

騎士「体はさらに大きくなり、闇の瘴気をまとって、また一段と強そうになったな!」

馬「ええ、有力な魔族を全員屈服させて、ついに私が魔界の王となったのですよ!」

騎士「へぇ、そりゃすごい――」ハッ

馬「さぁ、またいつものように私の背中にお乗り下さい!」

騎士「…………」

31: 2015/11/14(土) 18:50:33
騎士「……ダメだ」

馬「な、なぜです!? 私はこの日を夢見て、魔界で戦い抜いたのですよ!?」

騎士「お前は魔王になったんだろう? なら、人間と仲良くするわけにはいかないだろう」

馬「!」ハッ

騎士「人間の中で特に偉いわけでもない俺を乗せたりしたら、反乱が起きるぞ」

騎士「“人間をやすやすと上に乗せるような王にはついていけない”ってな」

馬「それがどうしたってんいうんです!? 反乱が起きたってかまわな――」

騎士「バカヤロウ!!!」バキッ

32: 2015/11/14(土) 18:53:49
騎士「反乱が起きたら、魔界はどうなる? お前を心から慕ってる部下はどうなる!?」

騎士「秩序は失われ、お前の部下は次々戦氏することだろう。それでもいいのか!?」

馬「うぐっ!」ギクッ

騎士「お前は優しい馬だ。そうなることは望んでないはずだ」

騎士「……それでいいんだ」

33: 2015/11/14(土) 18:59:01
騎士「これからはお前が魔王として、魔界を守っていくんだ」

馬「分かりました……ご主人様」

騎士「…………」

馬「…………」

馬「だけど、最後に……もう一度だけ……」

馬「ちょっとだけでいいから、もう一度ご主人様を乗せたい……ダメですか?」

騎士「もちろんいいとも!」

34: 2015/11/14(土) 19:01:42
パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「ひゃあ~、速い! 以前とは比べ物にならないスピードだ! 体がちぎれそうだ!」

馬「ペースを落としますか?」

騎士「いや、このままでいい! ヒャッホウ!」

35: 2015/11/14(土) 19:06:29
パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「お前のことは、仔馬の頃からよく知ってるけど……」

騎士「いやー……お前……ホントにでっかくなったなー……」ポンポン

馬「ご主人様の……おかげです……」

騎士「いやいや、俺は何もしてないよ。お前が自分で強くなったんだ」

馬「そんなことありません。ご主人様がいたからこそ、私は頑張れたのです」

36: 2015/11/14(土) 19:09:22
騎士「あ~、楽しかった!」

馬「私も最後にご主人様を乗せることができて、嬉しかったです」

騎士「……じゃあな、相棒。魔界で達者に暮らせよ!」

馬「ご主人様こそ、騎士団でもっと出世して下さいよ! 私のように!」

騎士「お、こいつ、いうようになったな!」



馬「ハッハッハッハッハ……」

騎士「ハッハッハッハッハ……」

37: 2015/11/14(土) 19:16:35
……

…………

………………



騎士仲間「いやー、今日も平和だ」

騎士仲間「新しく魔界のリーダーになった奴が、人間との共存に方針転換したらしくて」

騎士仲間「すっかり平和になっちまったなー」

騎士「……そうだな」

騎士(この平和があるのは、お前のおかげだ……)

騎士(新しい魔王としてしっかりやれよ、俺の愛馬……!)

騎士(もし人と魔族が本当に仲良くなったら……また一緒に走ろうぜ!)





~おわり~

38: 2015/11/14(土) 19:17:11
完結となります

ありがとうございました

39: 2015/11/14(土) 19:43:16
ギャグSSかと思ったら最後にホ口リとさせられた
また会えるといいね

40: 2015/11/14(土) 19:48:58
どうやって馬はペンを持ってたんだ…

44: 2015/11/15(日) 08:03:25
ペンもそうだがベンチプレスに突っ込むべきだろ

感動した。

45: 2015/11/20(金) 10:05:41
騎士「俺の愛馬"に"」だから騎士が馬に調教されるのかと…

引用元: 騎士「俺の愛馬に肉体改造させることにした」