1: 2010/07/20(火) 02:04:56.31
【平沢家】

ガチャ

憂「おねえちゃーん!朝ご飯出来たよー」

唯「…Zzz」

憂「んもうお姉ちゃんったら…起きて起きてっ!ごーはーんーだーよーっ!」

唯「ん、んへへ…そんなに食べらんないよう、ギー太ぁ」

憂「いったいどんな夢見てるんだろう…」

3: 2010/07/20(火) 02:07:22.63
【平沢家・朝食】

唯「いただきます」

憂「はい、どうぞ」

・・・・・・

憂「軽音部の練習はどう?」

唯「うん、すごく順調だよ!日に日にうまくなってる気がするし」

憂「そっか。文化祭のステージ、楽しみにしてるね」

唯「任せておきなさい!」フンス

憂「…ふふっ」

4: 2010/07/20(火) 02:09:25.69
唯「どうしたの、憂?」

憂「軽音部の話してるときのお姉ちゃん、すごく幸せそうな顔してる」

唯「そうかな?」

憂「うん、とっても楽しそう」

唯「私の高校生活は軽音部と一緒に歩んできたからね」

唯「軽音部のみんなと演奏することは、今の私の生きがいなんだ!」

唯「今度の文化祭が最後のステージだし、頑張らないとっ!」

憂「うん、応援してるね。ほら、早く食べないと学校遅刻しちゃうよー」

唯「なぬっ?!」

憂「もう、お姉ちゃんったら…」

5: 2010/07/20(火) 02:12:05.03
こんにちは。平沢憂です。
季節は秋。文化祭のシーズンになりました。
3年生のお姉ちゃんにとってこれが最後の文化祭。
そして、軽音部としての最後のライブ。
最近のお姉ちゃんはいつも以上にギターの練習をしてる。
土日は図書館に行って軽音部の人たちと一緒に受験勉強。
前に比べてお姉ちゃんと一緒にいる時間が減っちゃったけど
頑張ってるお姉ちゃんを影ながら応援しています。

憂「お姉ちゃん、早く早くー!」

唯「ちょ、ちょっと待って憂…」

憂「先行っちゃうよー?」

唯「うぅっ、憂に見捨てられた…」

憂「冗談だよお姉ちゃん。ほら、早く早くっ」

6: 2010/07/20(火) 02:15:33.00
唯「あ、憂見て見て!にゃんこ!」

憂「本当だ。かわいいね」

唯「ちっ、ちっ、ちっ」

すたたた

唯「あー、逃げられちゃった…」

憂「惜しかったね、お姉ちゃん」

唯「憂!追いかけようっ!」

憂「ダメだよお姉ちゃん!学校遅刻しちゃう」

唯「ぶうーっ…憂のけち」

今はお姉ちゃんと一緒に登校してる時が一番の楽しみ。
どんなにお姉ちゃんが忙しくても、この時だけは一緒。
他愛もない話をして、くだらないことで笑いあって…。
お姉ちゃんの好奇心に振り回されることもあるけど、幸せだった。

7: 2010/07/20(火) 02:18:20.92
【学校】

憂「じゃあね、お姉ちゃん」

唯「うん、まったねー」

・・・・・・

【教室】

梓「憂、おはよー」

憂「おはよう梓ちゃん」

純「おっはよーう!」

憂「純ちゃんもおはよう」

8: 2010/07/20(火) 02:22:07.98
純「なんか最近軽音部やたら気合入ってるねー」

梓「文化祭近いからね。先輩たちにとっては最後のステージになるから」

純「ようやく部活らしくなったって感じ?」

梓「ま、まぁ…。私としてはもっとガッツリやりたいんだけどね」

梓「昨日だって唯先輩が―――」

私は二人の会話を黙って聞いていた。
梓ちゃんはお姉ちゃんの話ばかりしていた。
すぐだらけちゃうお姉ちゃん。
おいしそうにケーキを食べるお姉ちゃん。
いざという時にすごい集中力を見せるお姉ちゃん。
そこには私の知らないお姉ちゃんの姿があった。

9: 2010/07/20(火) 02:25:57.92
梓「純!次の授業移動教室でだよ、先行っちゃうよ?」

純「ちょ、ちょっと待ってよ~」

憂「…あ」

憂(お姉ちゃんだ…)

唯「それでそれで?」

律「でな、そん時の澪がな…」

澪「わぁーっ!!!余計なこと言うな律ぅっ!」

紬「あらあら」

12: 2010/07/20(火) 02:30:07.36
唯「あ、さわちゃん!」

さわ子「あなたたち、もう授業始まるわよ。教室に戻りなさい」

律「ねぇーさわちゃーん、今日私たちの練習付き合ってよ!」

さわ子「そうねぇ、でも吹奏楽の方も見なきゃならないし…」

紬「先生、おいしいモンブランがあるんですけど~」

さわ子「あなたたち、今日は厳しくいくわよ!」

律「おー!」

澪「乗り換えはやっ!!」

13: 2010/07/20(火) 02:33:20.86
憂「・・・・・・」

梓「憂ー!何してるのー?いっちゃうよー!」

憂「あ、待ってよー!」

お姉ちゃん、楽しそうだったな。
澪さんたちといる時のお姉ちゃんって、あんな顔してるんだ。

14: 2010/07/20(火) 02:36:57.49
【昼休み】

キーンコーンカーンコーン

梓「お腹空いたぁ…」

憂「お昼にしよっか」

純「ねぇ!購買ですっごくほしいパンがあるの!二人ともお願いっ、協力して!」

梓「えぇーっ…一人で行けばいいじゃん」

憂「まぁまぁそう言わずに、行こっ?」

純「ありがとう!やっぱりもつべきものは友達だね」

梓「まったく…」

憂(お姉ちゃんに、会えるかな)

15: 2010/07/20(火) 02:40:58.12
【廊下】

唯「あぁーずぅーにゃんっ!」がばっ

梓「にゃうんっ!」

梓「ゆ、唯先輩?!なんですかいきなり!」

唯「ん~?たまたま見かけたからさぁ」

梓「見かけたからって抱きつかないでくださいっ!」

唯「ちぇーっ。あずにゃんのいけずぅ…」

梓「そんなこと言ってもダメですっ」

唯「そうだ!ねぇねぇ、あずにゃん。昼休み何か予定ある?」

梓「いえ、特には…」

唯「今からちょっとだけ練習しない?」

16: 2010/07/20(火) 02:43:08.88
梓「ほ、本当ですかっ?!やりますっ!やりましょう!!」

唯「じゃあいこっ、あずにゃん」

梓「はいっ!!憂、純、ごめんねっ」すたたた

梓(あの唯先輩から練習しようだなんて…。うれしくて涙が出そうだよう)

純「ありゃー…私ら置いてかれちゃったねぇ」

憂「………いいな」ぼそっ

純「…憂?」

憂「へっ?ど、どうしたの純ちゃん?!」

純「いや、何かボーっとしてたからさ」

憂「そ、そう?そんなことないよっ!ほ、ほら。教室戻ってお昼食べよっ」

17: 2010/07/20(火) 02:45:32.45
自分でもわかってた。
無意識に「いいな」って口に出してたこと。
ちょっとだけ、梓ちゃんに妬いた。
澪さんたちはクラスも同じなんだなって考えると、もっと妬けた。
だって朝も、昼も、放課後も、お姉ちゃんと一緒なんだもん。
家では一緒にいられるけれど、一生懸命練習してるお姉ちゃんの邪魔はしたくなかった。
それに、あんな楽しそうなお姉ちゃんの顔なんて見たことなかった。
たかが昼休み一緒に練習するだけのことなのに、今の私にはそれすらもうらやましく思えた。

梓「ただいまー。二人ともごめんね」

純「いいっていいって!その様子じゃだいぶ充実した練習が出来たみたいね」

梓「うんっ、本当に楽しかった!唯先輩がね―――」

憂「・・・・・・」

胸の奥が、チクッとした。

19: 2010/07/20(火) 02:49:48.58
そんなこんなで一日が過ぎた。
さわ子先生が見てくれたってお姉ちゃんはすごくよろこんでいた。

この日を境にお姉ちゃんの帰りが遅くなっていった。
朝も朝練だからって、いつもより早く家を出て行くようになった。(結局私が起こしているんだけど)
一緒だった登校もとうとうしなくなってしまった。
ご飯の時間ですらバラバラになることが増えた。

もうずっと、お姉ちゃんと話してすらいないように思えた。
今までこんなことなかったのに。同じ家にいる感覚すらしなかった。

21: 2010/07/20(火) 02:52:47.74
いよいよ文化祭が間近にせまってきた。
お姉ちゃんは朝から晩までギターに夢中だった。
私のことなんか、忘れてしまったかのように…。
夜、私の足は無意識のうちにお姉ちゃんの部屋に向かっていた。
部屋からはギターの音がする。

こんこん

憂「お姉ちゃん」

唯「あ、憂。どうしたの?」

憂「あのね…」

24: 2010/07/20(火) 02:56:26.53
わがままなのは自分でもわかってた。子供だってことも。
お姉ちゃんの邪魔はしまいとずっと我慢してきた。
だけど、もう限界だった。
お姉ちゃんに構ってほしかった。

憂「今度の土曜日、一緒にお出かけしない…?」

唯「んー…」

一瞬お姉ちゃんが考えた。昔はすぐに「いいよ!」って言ってくれたのに。
断られたらどうしよう。お姉ちゃんの返事が怖くて怖くてしょうがなかった。

唯「いいよ!今週は特に予定もないから」

憂「本当っ?!ありがとうお姉ちゃん!」

うれしかった。本当にうれしかった。
お姉ちゃんとお出かけなんて久し振りだった。
何着ていこうかな、どこ行こうかな。
頭の中はそんなことでいっぱいだった。

25: 2010/07/20(火) 02:59:17.95
【翌日・放課後】

キーンコーンカーンコーン

純「はーっ、終わったぁ…」

梓「午後の授業ずっと寝てたじゃん!」

純「だってお昼食べたあとは眠くなるんだもん!!!」

梓「ぎゃ、逆ギレ!?」

純「んじゃ私はジャズ研行くから!じゃねっ」

梓「もーっ…」

憂「梓ちゃん、私も帰るね」

梓「あっ、待って憂!」

26: 2010/07/20(火) 03:02:41.60
憂「どうしたの?」

梓「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど…いい?」

憂「うん、いいよ。何をするの?」

梓「これなんだけ…どっ!」

どさっ

憂「すごいたくさん…。これはなに?」

梓「部活で使おうと思って持ってきたんだ」

28: 2010/07/20(火) 03:06:51.15
梓「毎日少しずつ持ってきてたらいつの間にかこんなになっちゃって…」

梓「それで――」

憂「これを運ぶのを手伝ってほしい、でしょ?」

梓「えへへ…その通り」

憂「うん、いいよ」

梓「ありがとう」

29: 2010/07/20(火) 03:10:45.27
【音楽室】

紬「梓ちゃん遅いわねぇ…。せっかくおいしいタルトがあるのに」

唯「先に食べちゃおうよー」

澪「バカ言え、梓がかわいそうだろ!」

ガチャ

梓「遅くなってすいません」

律「おっそいぞー…ってなんじゃその大量の機材は!!」

30: 2010/07/20(火) 03:13:08.86
梓「家から色々持ってきました。使えるかなと思って」

澪「すごい量のエフェクター…。それに録音機材まである」

律「ひゃあー…たまげたねこりゃ」

梓「ちょっと持ってきすぎちゃって…憂にも手伝ってもらったんです」

紬「憂ちゃん。お茶でいいかしら?」

憂「いえ、お構いなく」

唯「そんなことよりあずにゃん、これなぁに?!」

憂(そんなこと………か)

32: 2010/07/20(火) 03:15:36.89
梓「これですか?これはワウっていって、これをつなげて踏みながら弾くと…」

うぉん うぉん うぉ~ん

唯「すごーい!!!私にもやらせて!」

梓「いいですよ」

唯「みんな見て見て!」

うぉん うぉん うぉぉぉ~ん

律「す、すげぇ…なんか上手い人みたいに見える」

33: 2010/07/20(火) 03:18:14.25
唯「へへへ、すごいでしょ!これは?」

梓「あぁ、エフェクターです。私が使おうかなって」

唯「ブルースドライバーに、お…オーバードライブ??」

律「波紋のことだ、唯」

澪「ウソを言うなっ!」メメタァ

律「おぱぅ!」

梓「何やってるんですか先輩たち…」

34: 2010/07/20(火) 03:20:03.89
唯「あずにゃんばっかり色々つけてずるいー!私も何かつけたいよぉ」

梓「うーん、レスポールは音がいいから下手にエフェクターでいじらない方が好みなんですけど…」

唯「えぇーっ!つーけーたーいーつーけーたーいーっ!」

梓「しょうがないですね…。じゃあLINE6でもつけてみます?」

唯「おぉ、なんかかっこいい!」

梓「マルチエフェクターなんですけど、ここをこうして――」

律「なぁなぁ梓!ツインペダルはないのか?!ツインペダル」

梓「ないですよ!それにツインペダル使うような曲なんてないじゃないですか」

律「えーっ、私だってドコドコしたいぃー!」

35: 2010/07/20(火) 03:22:34.53
唯「あずにゃんって本当にすごいね!」

梓「そっ、そんな…//こんなの常識ですよ」

律「あーっ、梓のやつ照れてやんのー!」

澪「顔真っ赤だな」

梓「なっ///そ、そんなことないですっ!」

唯「あずにゃん………」

梓「…へ?」

唯「かわいいーっ!」ぎゅっ

梓「ひゃあっ!や、やめてくださいっ///」

紬(キマシタワー!!!)ズキュゥゥゥゥン

36: 2010/07/20(火) 03:25:05.95
唯「んもお照れちゃってかわいいんだからぁ」すりすり

梓「て、照れてなんか…///うぅ…」

紬「いいっ…。実にいいっ…」ゴゴゴゴゴ

律「おーい、ムギ。かえってこーい」

憂「・・・・・・」ぎりっ

来るんじゃなかった。
心の底からそう思った。
ちっともお姉ちゃんは私のことを見てくれない。
ただ呆然と、お姉ちゃんを見ているだけだった。
どうしてこんなに辛い思いをしなきゃならないの?
胸の奥が締め付けられた。ただただ、辛かった。

37: 2010/07/20(火) 03:27:38.16
ガチャ

さわ子「まったくあなたたち騒がしいわねぇ」

唯「あ、さわちゃん!」

さわ子「あら、今日はタルト?おいしそうね」

紬「いま、紅茶いれますね」

唯「さわちゃん、吹奏楽の方はいいの?」

紬「はい、どうぞー」

さわ子「あ、ありがとう。いいのよいいのよ大して練習もしてないし」

律「さらっととんでもないこと言ったな…」

39: 2010/07/20(火) 03:30:24.73
さわ子「そんなことよりあなたたちの方こそどうなの?ちゃんと練習してるの?」

唯「もちろんだよさわちゃん!」フンス

澪「この状況から言えることじゃないけどな…」

梓「そうです!このまったりした時間をもっと練習に充てましょうよ!」

律「それはダメだ梓!私たちは放課後ティータイムだからな」

澪「いや、説明になってないから」

さわ子「そうねぇ…。今週は私土日とも学校いるし、音楽室開放してもいいわよ?」

律「本当かっ?!よーし、じゃあ今週の土日は強化合宿だ!」

憂(えっ…?)

40: 2010/07/20(火) 03:33:52.83
澪「おい律!勉強はどうするんだ!?」

律「夜すればいいじゃーん。それにもう本番まで時間がないんだぜ?勉強なんかしてる場合じゃないだろ?」

澪「律のくせに正論…だと…?」

律「というわけで、軽音部強化合宿に賛成の人ー!」

紬「はーい!」

梓「はいです!」

澪「…よし、やろう!」

唯「・・・・・・」

41: 2010/07/20(火) 03:37:23.82
澪「あれ?唯は?」

唯「うーん、実は土曜日憂と約束があるんだ」

律「うえぇーっ!せっかくさわちゃんが音楽室開放してくれるって言うのにー」

澪「でも先約があるならしょうがないか」

梓「そうですね…」

唯「ねぇ、憂。お出かけさ、また今度で大丈夫?」

憂「え…?」

唯「せっかくさわちゃんが用意してくれた機会だから、めいっぱい練習したいんだ」

憂「・・・・・・」

43: 2010/07/20(火) 03:40:09.03
憂「だ、大丈夫だよ!そんな大した用でもないから…」

律「じゃあ決まりだな!」

唯「ごめんね、憂」

憂「うん、平気だから…。じゃあ、私はこのへんで…」

梓「憂、手伝ってくれてありがとう!」

憂「ううん、練習…頑張ってね」

ガチャ

憂「・・・・・・」

44: 2010/07/20(火) 03:43:56.02
ウソをついた。大丈夫なわけがなかった。
久し振りのお姉ちゃんとのお出かけなのに。
また軽音部にお姉ちゃんをとられちゃった。
ううん、そんな卑屈な考えしちゃダメ。
お姉ちゃんだって頑張ってるんだ。
我慢しなきゃ。我慢しなきゃ。
頑張ってるお姉ちゃんの邪魔をしちゃいけない。

憂「うっ…」

だけど

憂「ううっ…えぐ…」

やっぱり我慢出来なかった。
涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

憂「うぐっ…。ひっく…。お姉ちゃぁん…」

46: 2010/07/20(火) 03:47:31.40
泣きながら一人で家に帰った。
鏡を見たら目が真っ赤だった。

唯「ただいまー」

憂「おかえり、お姉ちゃん。今日は早かったね」

唯「どうしたの憂?目腫れてるっぽいけど」

憂「…ちょっとお昼寝してたから。ご飯出来たら呼ぶね」

唯「ほーい!」

47: 2010/07/20(火) 03:50:53.80
唯「いただきます」

憂「はい、どうぞ」

久しぶりのお姉ちゃんと一緒の夕食。
だけど、素直に喜べなかった。
ソファーの上にあるギターのせいだ。
結局ご飯が出来るまで、お姉ちゃんはリビングで練習していた。
目の前にいる私を見向きもせず、練習していた。

唯「あの後ね、さわちゃんが練習見てくれたんだ!」

唯「それでね、あずにゃんのエフェクター見たら急にさわちゃんしんみりしちゃって」

唯「私もこれ使ってたわって言ってさ、そのあと一緒に弾いたんだよ!」

憂「そっか…よかったね」

50: 2010/07/20(火) 03:53:50.45
ちっとも会話にならなかった。
泣くのを我慢するのに必氏だった。
お姉ちゃんが軽音部の話をするたびに、泣きそうになっていた。
どうして私のことを見てくれないの?
お姉ちゃん、お姉ちゃん…。

唯「それでね、りっちゃんが――」

ごごごご

ぐらぐらぐらぐら

唯「じ、地震?!」

憂「きゃああああっ!!!」

51: 2010/07/20(火) 03:56:39.67
憂「お、収まった…」

大きな揺れだった。
幸いにも食器や家具に被害はなかった。
怖かった。怖くて震えていた。
すぐにでもお姉ちゃんのところにかけこみたかった。

唯「大丈夫?!」

憂「えっ…?」

私を心配してくれてるの?お姉ちゃん。
よかった…やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
そのままぎゅうってして。昔みたいに…。
私を安心させてよ、お姉ちゃん。

唯「大丈夫?!ギー太っ!!!」

憂「・・・・・・・」ずきん

52: 2010/07/20(火) 03:59:23.98
お姉ちゃんは私ではなくソファーに置いてあったギターに一目散に駆け出した。

唯「よかったぁー。無事で」

そっか…。そうだよね。
私のことなんか心配してくれるわけないよね。
もうお姉ちゃんの中に私はいないんだもの。
軽音部が、私からお姉ちゃんを奪ったんだ。
取り返してやる。お姉ちゃんを、取り返してやる。

憂「許さない…」

71: 2010/07/20(火) 09:32:15.53
【土曜日】

ガチャ

憂「おねえちゃーん、朝だよー」

ゆっさゆっさ

唯「…あぅぃえー」

・・・・・・

憂「何時頃に帰ってくるの?」

唯「うーん、まだちょっとわかんない。またあとで連絡するよ」

憂「わかった。練習…頑張ってね」

唯「うん!私、がんばっちゃうんだからね~!」

憂「うふふ…」

唯「?――」

72: 2010/07/20(火) 09:35:35.32
【音楽室】

~♪

律「ふあぁ~あ、ずっと集中しっぱなしだったから疲れちゃったよー」

唯「私も私もー…」

梓「んもう、2人ともバテるの早すぎです!」

紬「じゃあ、ここらで一旦お茶にしましょうか」

梓「ムギ先輩も甘やかしちゃダメですっ」

澪「まぁまぁ、あんまりガツガツやりすぎても効率は上がらないし。な、いいだろ梓?」


梓「澪先輩まで…。んもう、少しだけですからねっ」

唯・律「やったーっ!」

紬「ふふ」

73: 2010/07/20(火) 09:39:22.98
紬「はい、どうぞー」

律「いっただっきまーす!」

澪「行儀が悪いぞ、律」

唯「んーおいひぃー」

梓「・・・・・・・」

唯「あずにゃんどうしたの?」

梓「い、いえっ」

74: 2010/07/20(火) 09:44:15.85
梓「文化祭終わったら、もう先輩たちと一緒に演奏することもないのかなぁって」

梓「そう思うと、寂しくて…」ぐすっ

澪「梓…」

唯「あずにゃん」

ぎゅっ

梓「ひゃっ、唯先輩…?」

75: 2010/07/20(火) 09:48:50.20
唯「大丈夫、いつまでも私たち5人は放課後ティータイムだよ」

律「そうそう!来年も再来年も、ずっとここでお茶してるからさ!」

澪「それはダメだろ!」

梓「…そうですよね、私達、ずっと放課後ティータイムですよね」

梓「だから悔いの残らないためにも練習です!さぁ、やりますよ唯先輩!!」

唯「えぇーっ!!!もう?」

律「ふふ、唯め。やっちまったな…、あとは任せたぞ…」

梓「律先輩もほら、やりますよ!」

律「うえーっ?!私もぉーっ?!」

梓「何言ってるんですか!当たり前です!」

76: 2010/07/20(火) 09:53:15.37
~♪

~~♪

律「ふぃー疲れた。今日はこのへんにしないか?」

澪「そうだな、もう外も暗いし…」

梓「はい!明日もありますし(本当はもっとやりたいけど!)」

唯「あ~疲れた~」

紬「片付けましょうか」

77: 2010/07/20(火) 09:56:57.14
律「それにしても…唯のやつ、本当上手くなったよな。まるで別人みたいだ」

梓「はい、なんというか…すごく合わせやすいです」

唯「そうかな?えへへ、たくさん練習してるからねっ!」

澪「私たちも見習わないとな」

律「まっ、私から言わせればまだまだだけどなー」

梓「先輩こそもっと練習してください!相変わらず走ってますよ」

澪「まったくだな」

律「うえぇー。私のドラムって走ってなんぼじゃん!」

紬「・・・・・・」

79: 2010/07/20(火) 10:00:19.80
澪「ムギ、どうしたんだ?さっきから顔色が悪いけど」

紬「…ごめんなさい。ちょっと寒気がして」

唯「ムギちゃん、震えてるよ…?」

紬「大丈夫よ…さ、早く片付けましょう」

ふらっ

澪「何言ってるんだムギっ。ふらふらじゃないか…」

梓「ムギ先輩っ!」

唯「ムギちゃん…」

律「去年の唯のこともあるしな、早く帰ろう」

紬「・・・・・・」

81: 2010/07/20(火) 10:03:39.05
【帰り道】

律「ムギ、大丈夫か?どんどん顔色が悪くなっていってるぞ…」

紬「へ、平気よ…大丈夫」

梓「ムギ先輩…」

唯「…私、ムギちゃんを送ってくよ」

澪「なら私たちも―」

唯「大人数で行ってもかえってムギちゃんが気を遣っちゃうと思う。だから私だけで大丈夫」

澪「唯…」

律「…わかった。ここは唯に任せることにしよう」

梓「唯先輩、お願いしますね」

唯「うん、任せといて」

82: 2010/07/20(火) 10:06:34.67
紬「唯ちゃん…ごめんなさい…」

唯「気にしないでムギちゃん」

紬「駅からは…一人で帰れるわ…」

唯「えっ?だ、ダメだよムギちゃん無理しちゃ!家まで送るよ!」

紬「本当に大丈夫。家に連絡してあるから…迎えが来るわ」

唯「でも――」

『まもなく列車が参ります。白線の外側まで下がってお待ちください』

83: 2010/07/20(火) 10:10:33.84
紬「ちょうど電車来たみたい」

紬「ごめんなさい、わざわざホームまで来てくれて」

唯「大丈夫だよ。ムギちゃん、お大事にね」

紬「ありがとう。また明日、学校でね」

唯「うん。もう会うことはないだろうけど」

紬「えっ?」

唯「さ よ う な ら 。ツ ム ギ サ ン 」

どんっ

紬「唯ちゃ―…」

キキーッ

ガンッ――

85: 2010/07/20(火) 10:13:53.29
「きゃあああーっ!!!」

「女の子が、女の子が電車に…」

あちこちで叫び声が聞こえる。
目の前で人が電車に轢かれたんだもの、当然だよね。
紬さんのお茶に遅効性の毒と睡眠薬を混ぜた。すべて計算通りだった。


本物のお姉ちゃんは今私の部屋にいる。
もうちょっと待っててね、お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、私のものだからね。

憂「うふふ…はは、あっはははははははは!!!」

121: 2010/07/20(火) 21:07:44.78
【平沢家】

憂「ただいまー」

ガチャ

憂「お姉ちゃん、帰ったよ」

私は自分の部屋に入った。
朝食に睡眠薬を混ぜて、私の部屋に連れてきたのだ。
お姉ちゃんは椅子に座り手足を縛られた状態でまだ眠っていた。

唯「ん…ん」

憂「あ、目が覚めた?おはようお姉ちゃん」

122: 2010/07/20(火) 21:10:22.66
唯「憂…これはどういうこと…?」

憂「なんのことかな、お姉ちゃん?」

唯「どうして私が縛られてるの?」

唯「どうして…憂が私の格好をして、ギー太を担いでいるの?」

憂「なんで?お姉ちゃんを取り返すためだよ」

唯「どういうこと…?」

憂「お姉ちゃんはね、今囚われの身なの」

憂「だからね、私がお姉ちゃんを解放してあげるんだ」

憂「軽音部から、お姉ちゃんを解放してあげるの」

123: 2010/07/20(火) 21:13:39.55
唯「憂、さっきから何を言ってるのかわかんないよ」

憂「今日はね、紬さんからお姉ちゃんを解放したんだよ」

唯「…!ムギちゃんに何をしたの…?」

憂「そんなのどうでもいいじゃない、ね?お姉ちゃん」

唯「答えて、憂!!!」

憂「頃した」

唯「憂、今なんて…?」

125: 2010/07/20(火) 21:17:06.25
憂「駅のホームに突き落としたの。あとは、わかるよね?」

憂「あの人、最後まで私のことお姉ちゃんだと思ってたんだよ?」

憂「あっはは、傑作だよね!…バカみたい」

唯「なんてことを…」

憂「明日は律先輩から解放してあげるからね」

唯「憂、バカなことはやめて!お願い!!!」

憂「うるさい」

唯「憂…?」

憂「ご飯持ってくるからね、一緒に食べよ?」

126: 2010/07/20(火) 21:18:41.80
間違えた。
律先輩じゃなくて律さんだった。

127: 2010/07/20(火) 21:21:38.44
憂「さ、食べよ。お腹空いてるでしょ?」

私はお姉ちゃんの手を縛っているロープを解いた。

唯「……いらない」

憂「ダメだよお姉ちゃん、ちゃんと食べなきゃ」

唯「……食べたくない」

憂「あー、わかった。私に食べさせてほしいんでしょ?」

憂「もう、お姉ちゃんったら。甘えん坊なんだから」

憂「いいよ、食べさせてあげる。はい、あーん」

唯「・・・・・・」

――パチン

憂「…え?」

128: 2010/07/20(火) 21:25:16.80
頬に衝撃が走った。
お姉ちゃんにビンタされたのだ。
私に手を上げたことなんて一度もなかったのに。

憂「ど、どうしたのお姉ちゃん。嫌いなものでもあった?」

憂「あ…もしかして熱かった?ごめんね、今冷まして――」

唯「やめてよ…」

お姉ちゃんが泣いていた。

唯「もうやめて…。憂、お願い…」

129: 2010/07/20(火) 21:29:45.15
唯「こんなの、私の知ってる憂じゃないよ…」

唯「憂、目を覚まして。もうこんなバカな真似はやめて」

憂「お姉ちゃん…」

唯「憂…わかってくれる…?」

憂「かわいそうなお姉ちゃん」

唯「えっ?」

憂「こんなにも変わってしまったなんて…」

憂「もう少し待っててね。すぐに、解放してあげるからね…」

バン!!!!!

唯「そんな…。憂…」

130: 2010/07/20(火) 21:32:34.94
私は部屋をあとにした。
明日ですべて決着をつける。
律さんも、澪さんも、梓ちゃんも、
全員頃す。頃す頃す頃す頃す頃す。
お姉ちゃんを、解放するんだ。
お姉ちゃんを、取り返すんだ。

憂「待っててね、お姉ちゃん」

明日の準備を始めた。

131: 2010/07/20(火) 21:35:18.72
【日曜日】

強化合宿2日目。
私はまたお姉ちゃんの格好をして音楽室に向かった。

ガチャ

唯「おはよう」

梓「ムギ先輩、どうでした?」

唯「うん…やっぱり今日は安静にするってさっきメールがあった。みんなごめんなさいって」

律「そっか、じゃあ今日はムギ抜きで練習だな」

澪「落ち込んだってしょうがない。ムギの分もめいっぱい練習するぞ!」

梓「そうですね、やりましょう!」

唯「・・・・・・」

132: 2010/07/20(火) 21:39:23.32
澪「唯、そのほっぺたどうしたんだ?腫れてるみたいだけど」

唯「これ?昨日憂とちょっと喧嘩しちゃってさ」

律「へぇ~っ、憂ちゃんと喧嘩することなんてあるのか」

梓「唯先輩がだらしないからですよ!」

唯「そうかなぁ~えへへ」

唯「痛かった…なぁ……」

澪「ちゃんと仲直りするんだぞ」

唯「うん、わかってるよ」

梓「さ、練習始めましょう」

律「うし、いっちょやるか!」

133: 2010/07/20(火) 21:42:12.92
~♪

~~♪

澪「もうこんな時間か。そろそろ引き上げた方がいいかもな、先生にも悪いし」

梓「そうですね、この2日間でだいぶ上達した気がします!」

律「よーし、合宿お疲れ様ってことで今からアイス食べに行こーぜー!」

唯「おぉーっ!」

澪「やれやれ…」

136: 2010/07/20(火) 22:09:05.71
【校門】

唯「あぁーっ!」

律「ん?どうした唯」

唯「教室に忘れ物しちゃった…」

澪「なに忘れたんだ?」

唯「お弁当…、金曜日の」

澪「」

138: 2010/07/20(火) 22:13:58.02
律「カビ生えてるんじゃないのか?」

澪「律、そこまでだ。それ以上話をするな」

梓「まさか喧嘩の原因って…」

唯「えへへ…」

澪「カビなんか生えてない、カビなんか生えてないぞぉ」

梓「澪先輩が壊れた…」

139: 2010/07/20(火) 22:17:05.27
唯「一人じゃ寂しいからぁ、りっちゃん一緒に来てぇー」

律「うえーっ!ったくしょうがないなぁ…」

唯「ありがとう、りっちゃん!」

律「そんじゃちょっといってくる!カビになって帰ってきたらごめんなー」

澪「よし、梓。帰るぞ。ダッシュだ」

梓「」

140: 2010/07/20(火) 22:21:12.72
【教室】

唯「あったあった!」

律「よし、そんじゃ行くか」

唯「・・・・・・」

パチン

律「おい唯、いきなり電気消すなよ!見えないじゃ――」

唯「りっちゃん…」

律「え?」

ガンッ

141: 2010/07/20(火) 22:25:55.31
・・・・・・

律「っててて…。なんだってんだ」

律「な、なんだこれ!腕が固定されて…」

唯「おはよう、りっちゃん」

律「おい唯、こりゃどういうことだ!」

唯「どう?すごいでしょ」

私は気絶した律さんに首と腕の分だけ穴の空けた木箱をかぶせた。
簡易断頭台の完成。シンプルな作りだけど、これだけで十分。
私は木箱に押さえられうつぶせになっている律先輩にまたがった。

142: 2010/07/20(火) 22:28:55.87
律「唯…冗談だろ?」

唯「ううん、本気だよ。りっちゃん」

手には鋭利な大きめのシャベル。
律さんもようやく自分の置かれてる状況を理解したようだった。

律「お…おい唯っ、いい加減にしろ!早く外せ!」

唯「いい加減にしてほしいのはこっちだよ」

律「ゆ、唯…?」

唯「そうやってお姉ちゃんを振り回して、私から奪って…」

律「唯、さっきから何を…」

唯「ばいばい、りっちゃん」

ひゅっ…

ぐさっ

143: 2010/07/20(火) 22:31:40.53
唯「…ちっ」

失敗した。一発ですっぱりいくはずだったのに。
私の力不足だったのか、律さんの首が思った以上に硬かったのか。
首半分切れたところで刃が止まってしまった。

律「うぎゃあ゛ぁぁ゛あ゛ぁぁぁ゛あぁあぁ゛ぁあ゛ぁああぁ」

瞬間、律さんの叫び声が響いた。

律「な、なぁ唯。わ…私の首から血が出てないか?」どくどく

唯「・・・・・・」

律「な、何かが刺さってるみたいなんだ。す、すごく痛いんだ唯。は、はは…。た、助けてくれ」

149: 2010/07/20(火) 22:34:18.27
律さんは錯乱状態だった。壊れかけていた。
血を流しガタガタ震えながら必氏に訴えていた。
タフな人だ。さすがは部長といったところなのだろうか。

律「なぁ唯。も、もういいだろ…?は、早くこれ外してくれないか…」

律「い、いい痛くてさ…。や、やばいんだよ…はは」

唯「りっちゃん」

唯「 バ イ バ イ 」

律「え――」

ざくっ

ごとん

158: 2010/07/20(火) 22:38:17.93
律さんの首が落ちた。
一発できれいに片付けるつもりだったのに。
私の手が汚れてしまったではないか、くそ。
私はハンカチで丁寧に血を拭き取った。

憂「さて…」

これだけ帰りが遅いと二人も心配して見に来るはずだ。
その時が、勝負。

163: 2010/07/20(火) 22:40:57.72
【校門】

澪「遅いな二人とも…」

梓「なにかあったんでしょうか…」

澪「よ、よし!ちょちょちょちょっと見てくる」

梓「私も一緒に行きましょうか?」

澪「ななななんの問題もないぞ!わた私は先輩だからな。梓はここで待っててててくれ」

梓(ふ、不安だ…)

166: 2010/07/20(火) 22:43:03.53
【教室】

ガラッ

澪「ゆ、唯ーっ、律ーっ!い…いつまでやってるんだ?早く帰――」

どさっ

澪「えっ…?律…?!律ッ!!!」

憂「こんにちは、澪さん」

もうお姉ちゃんの振りをする必要もない。
私は髪を上げて平沢憂となった。

澪「憂ちゃん、どうしてここに…?」

169: 2010/07/20(火) 22:44:44.40
憂「私がやったんです」

澪「え?」

憂「私が、律さんを頃したんです」

澪「何言ってるんだ…?」

澪「そうだ、唯は?!唯はどこだ?!」

憂「お姉ちゃんは私の部屋です。昨日今日と澪さんたちといたのは、私ですよ」

澪「嘘だろ…律。律ぅ…」

澪「うっ…、うえぇっ」びちゃびちゃ

176: 2010/07/20(火) 22:47:12.21
澪「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

澪「どうして、こんなことを…?」

憂「…わからないんですか?」

澪「わかるわけないだろ!こんなことする理由なんて…!」

憂「 本 当 に 、わ か ら な い ん で す か ?」

澪「えっ…?」

どすっ

澪「……げほっ」

184: 2010/07/20(火) 22:49:59.01
澪「憂…ちゃん…?」ばたん

持っていたナイフで横っ腹を一突き。
私は倒れた澪さんの上にまたがった。

どすっ どすっ

憂「澪さんたちが、軽音部がいけないんです」

どすっ どすっ

憂「私から、お姉ちゃんを、奪うから」

どすっ どすっ

澪「痛い、痛いよ…。もう…やめて…」

どすっ どすっ

憂「痛い?何を言ってるんですか?」

どすっ どすっ

憂「私が受けた痛みは、こんなものじゃないっ…!」

194: 2010/07/20(火) 22:52:35.54
どすっ どすっ

澪「痛い、痛いよぉ…律。律ぅ…」

どすっ どすっ

澪「唯…梓…ムギ…助けて…」

どすっ どすっ

憂「・・・・・・」いらっ

憂「……氏ね」

ぐさっ

最後に心臓を一突き。刺しすぎて原型をとどめてなかった。
よかったですね、澪さん。大好きな律さんのところにもうすぐ行けますよ。

?「憂!もうやめて!!!」

後ろから声がした。

202: 2010/07/20(火) 22:55:01.95
憂「…梓ちゃんか」

梓「憂…自分が何をしてるかわかってるの?」

憂「わかってるよ。わかってなきゃこんなことしない」

梓「昨日から感じた違和感は、これが原因だったんだ」

憂「どういうことかな?」

梓「先輩は…唯先輩は、そんな丁寧で上手な演奏じゃないよ」

梓「唯先輩のギターは、もっと雑で、不安定で…」

梓「とっても、あったかいから」

憂「・・・・・・」

209: 2010/07/20(火) 22:57:36.54
少しだけ驚いた。
お姉ちゃんの練習を毎日聞いていたし、去年一度弾いたこともあってか耳と体が覚えていた。
私の演奏は完璧だった。
ミスのない、安定した、氷のように冷たい演奏。
その違和感を感じたのはきっと梓ちゃんだけだろう。

梓「ムギ先輩や律先輩も…?」

憂「そうだよ、私が頃したの」

梓「どうしてこんなことをしたの…?」

憂「どうして…?お姉ちゃんを取り戻すために決まってるじゃない」

梓「えっ…?」

212: 2010/07/20(火) 22:59:31.33
憂「昔のお姉ちゃんは甘えん坊で、だらしがなくて、私がいなきゃ何も出来なかった」

憂「でも私のことを一番に考えてくれた、見ていてくれた。幸せだった」

憂「今のお姉ちゃんは違う。私のことなんかちっとも見てくれない」

憂「学校や外で会っても、私じゃなくていつも梓ちゃんばっかり…」

梓「憂…」

憂「この前だってそう。あずにゃんあずにゃんって…私のことなんか見向きもしなかった」

憂「お姉ちゃんが大好きなのに、誰よりも好きなのに」

憂「梓ちゃんたちが、軽音部が、私からお姉ちゃんを奪ったんだ」

213: 2010/07/20(火) 23:01:41.19
憂「だから決めたの。お姉ちゃんから軽音部を切り離そうって」

梓「そんな…」

憂「そうすれば、きっとお姉ちゃんは私のところに帰ってくる」

梓「そんな理由で…。ひどい…あんまりだよ…」

梓「もうすぐ文化祭だったのに…。先輩たちと演奏出来る、最後のステージだったのに…」

梓ちゃんの目が潤んでいる。
今にも泣きそうだった。

憂「梓ちゃんたちがいけないんだよ。私からお姉ちゃんをとるから」

214: 2010/07/20(火) 23:03:47.25
梓「そんなの憂の勝手な思いこみだよ!私たちは誰一人そんなことしてない!」

憂「……さい」

梓「こんなことしたって唯先輩は憂のもとになんかこない!」

憂「……るさい」

梓「それに唯先輩は――」

憂「…るさいうるさいうるさいうるさい」

梓「え…?」

憂「だまれぇえぇぇえぇぇぇ!!!!!!」

ガシッ

梓「…かはっ!!!」

216: 2010/07/20(火) 23:05:11.09
抑えていた感情が爆発した。
思い切り首を掴んで押し倒した。
こいつが、こいつが一番憎い。
お前がお姉ちゃんの何を知ってる!
何も知らないくせ!何も知らないくせに!
当然のようにお姉ちゃんの隣にいやがって…
私からお姉ちゃんを奪いやがって…
お姉ちゃんは私のなのに。私のなのにいいぃいぃいぃいい!!!

梓「う、うい…っ!く、苦しい…」

ぎりぎり

憂「返してよ、ねぇ!!!お姉ちゃんを、返してよ!!!!」

221: 2010/07/20(火) 23:07:16.61
梓「うい…。う……いっ…」

腕を掴まれた。抵抗している。
無駄なあがきを…とっとと氏ねばいいのに。

梓「憂…。唯先輩は…唯先輩はね、いつだって憂の…こ…と…」

憂「うるさいうるさいうるさい…!お姉ちゃんの名前を口にするなあぁあぁぁあぁああぁ!!!」

梓「文化…祭で…ね、唯先輩…は…っ……」

がくん

私を掴んでいる腕から力が抜けた。
ようやく氏んだか。ゴキブリみたいにしぶといヤツだった。
最後に何か言いかけたみたいだったけど、知ったことではなかった。
やった…私はやったんだ。
これできっとお姉ちゃんは私のところに戻ってくる。

222: 2010/07/20(火) 23:10:05.01
邪魔者はすべて消した。罪悪感はなかった。むしろ清清しかった。
帰りにスーパーでたくさん買い物をした。
お姉ちゃんの大好きな料理をいっぱい作ってあげるんだ。
そしたらまた、前みたいに私のことを見てくれる。
一緒にお出かけして、くだらないことで笑って…。
胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。

ガチャ

憂「ただいま、お姉ちゃ―…」

どさっ

買い物袋が手から落ちた。私は動けなかった。
目の前の光景を理解するのに時間がかかった。

お姉ちゃんは…










氏んでいたのだ。

226: 2010/07/20(火) 23:12:18.11
憂「お姉ちゃんっ!!!」

私にお姉ちゃんの元に飛びこんだ。
紬さんを頃すのに使った睡眠薬と劇薬のビンが空だった。
おそらく大量に服用したのだろう。

憂「お姉ちゃん…どうして…?」

わからなかった。どうして?
軽音部がいけないんだよ?
軽音部がお姉ちゃんを私から奪うから。
私のなのに、お姉ちゃんは私のなのに。
ねぇ、どうしてお姉ちゃんが氏んでるの?
憂って呼んでよ。またぎゅってしてよ。
お姉ちゃん…お姉ちゃん。


唯『軽音部のみんなと演奏することはね、今の私の生きがいなんだ!』


ふと、私はお姉ちゃんの言葉を思い出した。
お姉ちゃんを頃したのは他でもない、私だった。

231: 2010/07/20(火) 23:14:15.24
憂「はは、はははは…」

笑うしかなかった。滑稽だった。
お姉ちゃんは氏んだ。私がお姉ちゃんの生きがいを奪ったから。
私が悪いの?私が我慢しなかったから?
ちがう!ちがう!!悪いのは軽音部のやつらだ!
笑っているはずなのに、涙が止まらなかった。

憂「ごめんね、お姉ちゃん…」

なんで謝っているんだろう。自分のしたことを悔やんでいるのか。
すべてお姉ちゃんのためにやったことではないのか。
でも、その結果がこれだ。もうお姉ちゃんは戻ってこない。
ならせめて、最期ぐらいは…。









大好きだよ、お姉ちゃん。

232: 2010/07/20(火) 23:16:56.36
和「唯…」

私はいま平沢家の葬式に来てる。
この未曾有の出来事はすぐに私の耳に届いた。
軽音部の全員が殺された。犯人は憂ちゃんだった。
その憂ちゃんは自分の部屋で薬を服用して自頃した。
唯を抱きながら眠るように氏んでいたらしい。
何かの冗談かと思った。それぐらい、突然なことだった。

葬儀には色んな人が来ていた。
クラスメイトはもちろん、先生も、後輩も。いかついギャルたちもいた。(バンド仲間だろうか)
唯は、こんなにも愛されていたのだ。
ギターや着ぐるみ、たくさんの写真が遺品としてそこにあった。
どれも軽音部の時のものなのだろう。
おもむろに一つのものに目が留まった。

233: 2010/07/20(火) 23:18:32.90
和「これは…」

それは一枚のチケットだった。
チケットには拙い字で「文化祭ステージ!平沢憂特別席招待券!」と書いてあった。
文化祭のステージに特別席なんてない。きっとこれは唯の自作だ。
あの子なりに憂ちゃんに感謝をしたかったのだろう。
憂ちゃん。唯は、誰よりもあなたのことを想っていたのよ。
そういえば、澪がこんなことを言っていた。

澪『唯がな、曲を作ったんだ』

和『へぇ、あの唯が?』

澪『大好きな憂ちゃんや和、お世話になったさわ子先生のためにって』

235: 2010/07/20(火) 23:20:35.06
そんなこと思い出した。途端に涙が溢れそうだった。
泣いてはいけない。しっかりしないと。
唯の前でこんな姿は見せられない。
あの子の前では、いつでも頼れる人でいないと。

唯『のーどーかーちゃん!』

あのあどけない笑顔が、いつまでも頭に残って消えなかった。

おわり

237: 2010/07/20(火) 23:21:46.63
面白かったよ、乙

鬱った

242: 2010/07/20(火) 23:23:00.77
鬱展開だけどまあまあ面白かった。

255: 2010/07/20(火) 23:32:43.38
ちくしょう…
ちくしょう…
どうしてこうなった…

引用元: 憂「お姉ちゃんを返して」