1: 2012/11/22(木) 22:23:16.11
P「あずささん。迎えに来ましたよ」

あずさ「あら、プロデューサーさん。いつもごめんなさい」

P「いいんです。今日の仕事は終わりましたから」

あずさ「そうだったんですか?」

P「ええ。ただ困ったことが一つあって」

あずさ「なんでしょう?」

3: 2012/11/22(木) 22:23:52.73
P「帰り道を忘れてしまいました」

あずさ「あらあら。プロデューサーさんも迷子に?」

P「どうやらそのようです」

あずさ「困りましたね」

P「ええ、困りました」

P「どこかでゆっくりご飯でも食べていれば、思い出せそうなんですが」

あずさ「ふふ……、仕方のない人」

P「はい、すいません」

4: 2012/11/22(木) 22:24:56.08
あずさ「いいんですよ。それで、今日はどこへ連れて行ってくださるんですか?」

P「スパゲティの美味しいお店を見つけたんです。明るくて雰囲気のいいお店です」

あずさ「本当ですか? 楽しみです」

P「晩ごはんにしては物足りないかもしれませんが」

あずさ「うふふ、私、少食ですから」

P「そうですか?」

あずさ「そうですよ?」

6: 2012/11/22(木) 22:27:08.37
P「その割に、事務所のお菓子の減りが妙に早いような」
あずさ「プロデューサーさん?」

P「……早くいきましょうか」

あずさ「はい。エスコート、お願いしますね」

P「ここから結構近いところにあるので、歩きでも良いですか?」

あずさ「私は構いませんけど、車はどうしたんです?」

P「大丈夫、駐車場に留めてありますから」

あずさ「準備がいいんですね」

P「それは、あずささんもそうでしょう」

あずさ「どういう意味でしょうか?」

7: 2012/11/22(木) 22:28:26.31
P「毎週決まった日、決まった時間に迷子になって、そのくせいつも決まった場所で待ってますから」

あずさ「あらあら、偶然ですよ。ただの偶然」

P「偶然ですか」

あずさ「はい、偶然です」

P「それなら仕方がないですね」

あずさ「ええ。仕方ありません」

8: 2012/11/22(木) 22:30:11.36
P「それなら俺、手袋の片方を失くしてしまいしまして。偶然にも」

あずさ「私も、今朝手袋の片方を家に忘れてしまったんです。偶然にも」

P「左手が寒いんですよ」

あずさ「私は右手が」

P「偶然なら仕方ありませんね」

あずさ「そうですね。仕方ありません」

P「……あずささんの手、冷たいですね。もう少し早く迎えにくればよかった」

あずさ「大丈夫ですよ。プロデューサーさんの手が暖かいですから」

10: 2012/11/22(木) 22:32:07.63
P「そうですか?」

あずさ「ええ。とっても暖かいです」

P「でも、手が暖かい人は心が冷たいと言います」

あずさ「そんなの迷信ですよ」

P「占い好きがそれを言いますか」

あずさ「プロデューサーさん、いつからそんなに揚げ足取りになってしまったんですか?」

P「元からです。気が緩むと口先が勝手に動いてしまうもので」

あずさ「気が緩むと、ですか。……ふふ」

P「はい。ごめんなさい」

あずさ「いいんです。やっぱり許してあげます」

P「はあ、どうも」

12: 2012/11/22(木) 22:33:53.02
あずさ「街路樹の葉っぱ、ほとんど落ちてしまいましたね」

P「もうすっかり冬ですからね。北の方ではもう初雪だそうです」

あずさ「見たかったなあ、紅葉……」

P「もう少し待てば、代わりにイルミネーションで飾られますよ」

あずさ「プロデューサーさんと見たかったんです。代わりなんてありませんよ」

14: 2012/11/22(木) 22:35:26.63
P「……」

あずさ「……」

P「顔、赤いですよ」

あずさ「プロデューサーさんこそ」

P「これは、風が冷たいからです」

あずさ「じゃあ、私もそうです」

P「……あ、着きましたね。お店」

あずさ「ええ、綺麗なお店ですね」

15: 2012/11/22(木) 22:36:49.23
P「あずささんは、何にします?」

あずさ「うーん、どうしましょう。プロデューサーさんは?」

P「ナポリタンにしようかと思います」

あずさ「あら、なんだか子どもっぽい」

P「笑わないでくださいよ。いいじゃないですかナポリタン。好きなんです」

あずさ「うふふ、ごめんなさい。じゃあ私はこれを」

16: 2012/11/22(木) 22:39:11.11
P「……そう言えば、聞きました? 千早の新しい曲」

あずさ「律子さんが車で流していましたから。初恋がテーマなんですよね」

P「ええ、その通り」

あずさ「とっても良い歌だと思います。千早ちゃんも、なんだかすごく感情が篭っていました」

P「千早には色々聞かれましたからね。いつになく熱っぽくて驚きましたよ」

あずさ「うふふ、女の子は恋のお話が大好きですもの」

P「なるほど。それじゃあやっぱり、あずささんの方でも?」

あずさ「はい、たくさん質問されちゃいました」

18: 2012/11/22(木) 22:41:14.96
・・・

千早「初恋がテーマの曲、ですか」

P「ああ。たまには変わった趣向の歌も良い刺激になるかと思って」

千早「……プロデューサーの初恋って?」

P「え?」

千早「プロデューサーの、初恋、です」

P「ああいや、そうじゃなくて、千早がそう言うことを聞いてくるのが意外で」

千早「あ、あくまで曲の参考になればと思っただけです。深い意味はありません」

20: 2012/11/22(木) 22:43:07.17
P「……初恋かあ。あまり参考にはならないと思うけど」

千早「それでも構いません。でも、子どもの頃の話は無しですよ?」

P「はいはい。そうだな、高校生の頃だったよ。初めて恋愛らしい恋愛をしたのは」

千早「……やっぱり私、この歳になってその手の経験がないのは変でしょうか?」

P「そんなことない。俺だって、その頃は他の事に夢中だった」

千早「部活とか?」

P「いいや、生徒会」

千早「ああ、生徒会」

21: 2012/11/22(木) 22:46:16.53
P「頑張ったよ。おかげで事務仕事もお手の物だし、友達も増えた」

千早「その、初恋の相手とも生徒会で?」

P「いいや。相手の子とは文化祭の準備で知り合ったんだよ。二つ下の学年でさ」

千早「そうでしたか」

P「うん。それで、それなりに仲良くなったら、周りに言われるままに告白して、付き合って、一回だけデートして別れた」

千早「……もう少し、詳しくお願いできませんか?」

P「……」

千早「お願いします」

22: 2012/11/22(木) 22:48:48.73
P「……周りに言われるまま、って言ったけどさ。本当はちょっと違うんだ」

千早「どういう事です?」

P「そういう風に仕向けたんだよ。彼女が断りづらい空気を作るように。自信がなかったから」

千早「……」

P「卑怯だろ」

千早「いえ……」

P「その卑怯な所が彼女を怒らせたんだろうな。初めてのデートで口を利いてもらえなかった」

千早「緊張していただけじゃ……」

P「さあ、どうだろう。とにかく彼女は、別れ際になっても何にも言ってくれなかったんだ」

千早「……」

23: 2012/11/22(木) 22:51:10.87
P「その時期にちょうど生徒会も終わって、それから会うことはなかったよ。後ろめたかったから、俺から会いに行くこともできなかった」

千早「……」

P「はい、初恋おわり。質問があればどうぞ」

千早「……後悔は?」

P「してる」

千早「……」

千早「じゃあ、プロデューサー、もう一つだけ……」

P「うん」

千早「もしも、もしもですよ?」

24: 2012/11/22(木) 22:52:13.69
・・・

伊織「これ、千早の新曲よね?」

律子「そうよ。よく分かったわね。発売日はまだだから、みんなには内緒よ?」

亜美「むっふっふ、なにやら裏で取引があったと見た!」

律子「もう、変な風に言わないの。届いたサンプルを頂戴しただけよ」

26: 2012/11/22(木) 22:54:03.90
あずさ「これ、初恋の歌にななんですね~」

伊織「……良い歌ね。とても」

律子「なあに? 思う所でもあるのかしら?」

伊織「た、ただの感想よ!」

あずさ「うふふ……」

亜美「……初恋かあ。亜美にはよくわかんないや」

律子「亜美はまだ中学生でしょう? あせってするものじゃ無いわ」

27: 2012/11/22(木) 22:57:45.07
亜美「でも、周りの子はみんなコイバナしてるよ? なんだか亜美だけ遅れてて変じゃない?」

あずさ「うふふ……。ねえ亜美ちゃん? 恋を歌う歌が無くならないのはどうしてか分かる?」

亜美「どうして?」

あずさ「それはね、恋愛はその数だけ形があるからなの」

あずさ「だから周りの人のことなんて気にしなくていいのよ。いつか亜美ちゃんだけの特別な恋がくるはずだから……」

亜美「ふーん……。じゃあじゃあ、あずさお姉ちゃんの初恋ってどんなだったの?」

あずさ「えっ? 私の?」

亜美「うん! なんか、特別な恋って言われるとみんなの初恋も気になっちゃうじゃん?」

あずさ「うーん……。あまり楽しい話じゃないわよ?」

29: 2012/11/22(木) 23:01:12.93
あずさ「……」

あずさ「私の初恋はね、高校生の頃だったの」

伊織「意外と遅いのね」

あずさ「あまり、男の人と話す機会がなかったもの。でも、友達と一緒に委員会に入ったら、少しだけ変わったわ」

あずさ「文化祭の準備でね? 生徒会の人とよく話すようになったの。二つ年上の、大人しい人。ちょっと卑屈だったけど、誰にでも優しくて、とても真面目で……」

律子「ふふ、すごく褒めるんですね」

あずさ「はい。だから、告白された時は本当に嬉しかった……」

亜美「さすがあずさお姉ちゃん! 向こうから告白してきたんだ!」

30: 2012/11/22(木) 23:03:42.81
あずさ「うふふ。周りの人もたくさん応援してくれて、すぐに返事も出来たの」

律子「じゃあ、初恋は成功だったんですね!」

あずさ「……」

伊織「あずさ?」

あずさ「でもね。その後すぐ、初めてのデートで、別れちゃった……」

亜美「え?」

あずさ「私、せっかくのデートなのに緊張しちゃって、黙り込んじゃったの。相手の人はそれでも色々話しかけてくれたけど、それでもダメで……」

あずさ「彼、優しかった。別れ際に『無理矢理付き合わせてごめんなさい』って」

あずさ「でも私ね、『それは違うの』って、たったそれだけも言えなかった……」

32: 2012/11/22(木) 23:06:41.02
亜美「……」

律子「……」

伊織「……」

あずさ「……」

亜美「あの、お姉ちゃん……」

あずさ「ごめんね? 楽しくない話だったでしょう?」

律子「……曲、変えましょうか」

あずさ「……」

33: 2012/11/22(木) 23:07:13.76
伊織「……ねえ、あずさ?」

あずさ「なあに?」

伊織「悔やんでる?」

あずさ「……ええ。とっても」

伊織「じゃあ。もしも、もしもよ?」

34: 2012/11/22(木) 23:07:59.62
・・・

P「……つらい初恋でしたね」

あずさ「ええ、お互いに……」

P「……」

あずさ「……」

あずさ「でも私、今とっても幸せです」

P「……俺もです」

あずさ「毎日たくさんお話してます。手もつなぎました」

あずさ「秋の紅葉はみれなかったけど、イルミネーションがあります……」

35: 2012/11/22(木) 23:09:07.56
・・・

「もしも、運命的にその人ともう一度会えたら?」


「……」


「……」


「きっと、何度でもその人に恋をする」

36: 2012/11/22(木) 23:10:16.66
・・・



あずさ「私は今、とても幸せなんです。とっても、とっても」



あずさ「ね?」



あずさ「……P先輩」





おわり

38: 2012/11/22(木) 23:11:40.74
以上です
読んでくれた人に感謝

初恋だの恋愛だのと書く度にムズムズした

39: 2012/11/22(木) 23:12:01.33
いいねこういうのも
乙であった

40: 2012/11/22(木) 23:12:38.89
いちおつ
楽しかった

引用元: あずさ「二度目の初恋」