156: 04/11/19 22:21:06
肌寒い風が吹き抜ける中、2人の中学生が校舎の屋上に立っていた。
「・・・僕・・アスカのことが好きなんだ・・・・。」
「・・・何?そんな事で呼んだの?バッカじゃない?私がシンジなんかと付き合うわけないじゃない!身の程をしらないのね、あんたは。」
「・・・・はは・・そうだよね・・・。ゴメン、アスカ・・・。」
「もう!寒いんだから2度とこんな事で私を呼ばないでよ!」
「・・・わかった・・・。ゴメン・・・。」


ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ
「・・・・うるさいわねぇ。」
ガチャッ
「・・フゥ。何で私がこんなに早く起きなきゃいけないのよ。まったく・・・ブツブツ。」
7時になる5分前に彼女、惣流・アスカ・ラングレーは目をさました。
いつもどうり洗顔、朝食をすませて彼女は自室の鏡の前に座り、赤みがかった髪を念入りにとかす。
「よし!今日もバッチリね。」
カバンを左手に持って玄関に向かい、そして振り返る。
「じゃあ、いってくるね、ママ。」
「行ってらっしゃい」と答える人は居ない。
彼女の父親はやり手の外交官で今頃はヨーロッパの空を飛んでいるだろう。戻ってくるのは来週の金曜日になる。
母親は去年亡くなっている・・。
彼女は一人で過ごすには大きすぎる一軒家から出て、学校とは反対方向に立つ近所のマンションへと向かう。
碇シンジを迎えに行くためである。

157: 04/11/19 22:21:40
「おはようございます、おばさま、おじさま。」
弁当の用意をしていた碇ユイが答える。
「あら、アスカちゃん、おはよう。」
「・・・おはよう。」
「シンジったらまだ寝てるのかしら・・。しょうがないわねぇ、アスカちゃん、悪いんだけど起こしてきてくれない?」
「はい、わかりました。ちょっとお邪魔します。」
そういって彼女は家に入った。
「あなたも、いつまでも新聞読んでるんじゃありませんよ。」
「・・・ああ。」

シンジの部屋は男にしては片付いている。
隅にはチェロが立てかけてある。チェロは彼の数少ない趣味のひとつである。
「シンジ!・・・シンジってば起きなさい!」
「・・・ぅん・・・。」
「うんじゃないでしょ!早く起きなさい!」
「・・・ふぁ・・・。・・・なんだ・・・アスカか・・・。」
「何だとはなによ!アンタのタメに私がこうやって毎日迎えに来てあげてるんでしょ!」
「・・うん・・・。ありがとう、アスカ・・・。だからもう少し寝かせ・・」
バチーン!
「アラアラ、今日も元気ねぇ。」
「・・・ああ。」

赤くはれた頬を押さえながらシンジは渋々と用意をすます。
「はい、今日の2人のお弁当よ。」
「ありがとうございます。」
アスカの母が亡くなってからはユイがアスカの弁当を作っている。
「じゃ、気をつけてね。いってらっしゃい。」
「いってきます、おばさま。」
「・・・いってきます。」


158: 04/11/19 22:22:34
五月らしい心地よい風が吹く中、
シンジとアスカはいつもどうり2人並んで登校する。
「なにも殴る事ないじゃないか。」
「しょうがないでしょ!こうでもしないとアンタは起きないんだから。」
「・・・少しぐらい待っててもいいじゃないか・・・。・・・・・だいたいアスカは短気なんだよ。(小声)」
「なんですって!このバカシンジ!」
バシーン
今度は反対の頬に赤い手のあとがついた。

バカと呼ばれているシンジだが、今年の冬から急激に背が伸び、アスカよりも5センチは高くなっている。
成績のほうも同時期に急に良くなり、クラスでもアスカについでの秀才となった。
こういうこともあってか、中学3年生のクラスの委員長と副委員長に2人が選ばれた。

「そういえば、今日のHR、文化祭でのクラスの出し物を決めるみたいだよ。」
「もちろん知ってるわよ。で、そのあとの段取りとかは放課後に実行委員が残って決めるんでしょ。」
実行委員もこの2人である。
「そのことなんだけど、アスカに頼みがあるんだ。」
「なによ」
「実は・・・吹奏楽部の大会が来週にあるから・・・僕が手伝えるのは練習の後になると思うんだ。
悪いけどそれまでアスカ一人になっちゃうけど・・・いい?」
「別にかまわないわよ。アンタ部長なんだから、大会が終わるまでクラブを優先しなさいよ。」
「・・・よかったぁ。・・・ごめんね」
「なんでそこで謝るのよ。こういうときは素直にありがとうって言えばいいのよ。」
「ああ、そうだね。ごめん。」
「また謝る!こんなんじゃいつまでたってもバカシンジのままね。」

159: 04/11/19 22:24:18
そうこうしながら学校に着き、下駄箱にむかう。
そこに同じクラスの綾波レイが立っていた。
色素が薄い髪に白い肌。
およそ人間らしくない雰囲気を漂わせる。
「・・おはよう碇くん、惣流さん。」
「おはよう綾波。」
「おはよ」
「・・・碇くん、このCDありがとう・・・・返す。」
「え、あぁ、ありがと。」
クラシックのCDである。
レイも同じ吹奏楽部で、レイが2年の3学期に転入してきてからはシンジと一緒に帰ることが多い。
「ところで来週の大会のことなんだけど・・・。」
「・・・うん。」
(レイと話すときのシンジは楽しそうね。私の時とは大違い。同じ部活だもんね。・・・2人って付き合ってるのかしら・・・。)


HRも終わり放課後となった。結局シンジのクラスの出し物は演劇となった。
「じゃあ、悪いけどアスカお願い。」
「わかってるわよ。アンタが練習終わるまでに全部終わらしてやるわ。」
「・・・出来るの?」
「私を誰だと思ってるの?天下の惣流・アスカ・ラングレーよ!だからアンタはクラブに集中しなさい!」
「・・・うん。ありがとう、アスカ。」
「ようやく謝らずにお礼を言えるようになったわね。」
「うん、じゃあね。」
シンジが出て行ってから、アスカは少し後悔した。
「何だってこう仕事が多いのよ。これは夕方まで終わりそうもないわね・・。」

160: 04/11/19 22:25:19
「ふぅ~やっと終わったぁ~。」
時計は6時半を指している。アスカはふいに窓の外を見る。
そこには大会を控えた吹奏楽部の部員たちが一生懸命練習している姿があった。
「・・・まだやってるのかしら・・・あのバカ。」
流れる音楽が心地よい眠気を誘い、アスカは座ったまま眠りに落ちた。



完璧な父に、完璧な母。
そんな両親をアスカはとても誇りにおもっていた。
と同時に自分も完璧な子供としてのアスカを強いられる事になる。
ピアノ、塾、バレェ・・・。
小さいころの彼女には友達と遊ぶ時間なんてなかった。
それを寂しいともおもわなかった。
あたりまえだと感じていた。
親に甘えようともしなかった。
親に甘えている子を見るとすこし寂しくなった。

完璧な容姿と成績。
中学に入ってから男たちが寄ってくるようになった。
けど誰もが自分の外側しか見ていないことを感じた。

161: 04/11/19 22:26:17
誰も私をわかってくれない・・・・。

「親なんて関係ない、アスカはアスカだよ。無理する必要なんてないんだよ。」

優しい笑顔で言う少年。
顔がはっきり思い出せない・・・。
彼だけが彼女をわかってくれている。
本当の彼女をわかってくれている。
そんなことにも気がつかなかったなんて・・・・。


「・・・・・・・・・・・。」
誰かの鼻歌だろうか。
懐かしい感じがする・・・・。
窓に目をやるともう日は完全に落ちていた。
(いけない、何時だろう)
と、彼女が顔を前に向けると・・・

そこにあの少年の笑顔があった・・・。
正面の椅子に座り、窓の外を眺めながら指で机を叩き、リズムをとっていた。
鼻歌が止み、顔がこっちに向いた。

「・・・起きた?アスカ・・・。ダメだよ、ねむったら・・・・。」

その瞬間彼女は今まで感じたことのない感情をその少年に対して感じた・・・。感じてしまった・・・・。
いや、ずっと自分の奥にあった感情が表にでたと言った方が正確だろう。

162: 04/11/19 22:27:02
アスカは彼の顔に見とれていた。
「どうしたの?アスカ」
「!」
自分のしていた行動に気付いたアスカは急に立ち上がった。
その衝撃で机に乗っていたプリントが落ちてしまった。
「あっ!・・・・ゴッ、ゴッゴゴゴゴメンナサイ!」
「いいよ、僕がひろうよ。」
「わ、わわわ私もひろうっ!」
ふいに二人の手がふれる。
アスカは顔を赤くしながら手を引いた。
「どうしたの?」
シンジは何事もなかったようにプリントをひろい続けている。
「なっなんでもないわよ!」
そうして無言でひろい続ける。
(見られた!?私がシンジに見とれていたなんて!どっどどどうしよう!?)
顔は真っ赤なままである。
「これで全部だね。」
「・・・・・。」 コクンとうなずく。
「それにしても凄いなアスカは。ホントに一人でやっちゃうんだから。」
「・・・・・。」
「それじゃ、一緒に帰ろうか?」
「・・・・・。」
「・・・アスカ?」
「・・・え!?なっな何?」
「どうしたのアスカ?何か変だよ。」
「べっべべべ別にふっ普通よ。」
「そうかなぁ・・」
「へっ変なこと言ってないでさっさと帰るわよ!」
「う、うん。」

163: 04/11/19 22:27:46
時間帯が幸いした。
もう辺りは暗いので、シンジに顔が赤い事を気取られずに下校できた。
(アタシがバカシンジなんかに見とれるなんて一生の不覚だわ。)
「演劇のことなんだけどさぁ・・・・」
(今までこんなこと一度もなかったのに・・・こんなんじゃシンジの顔まともに見れないじゃない。)
「・・・内容から考えたら主役は・・・・・・」
(そういえばシンジってこんなにかっこよかったっけ・・・?)
「・・・・・と思うけど、アスカはどう思う?」
(ただの同い年の弟と思ってたけど・・・。)
「・・・・・。」
(そういえばママが氏んじゃった時もシンジがアタシを慰めてくれたっけ・・・・。)
「・・・・・アスカ?」
(私が泣き止むまでずっとそばに居てくれた・・・・。)
「アスカ?」
(・・・・・こんな近くに居たなんて・・・・。)
「アスカ!」
「え!?なっなな何よバカシンジ!」
「・・・・話聞いてた?」
「え!?・・・・何の事?」
「・・・まぁいいけど。・・・今日のアスカやっぱり変だよ。」
「だから、そんなことないって言ってるでしょ!?」
彼女の気を察しているのかシンジは話すことをしなくなった。
その間アスカは物思いにふけることが出来た。

164: 04/11/19 22:28:44
この気持ち・・・。シンジのことが好きになっちゃったの?
そんなことない!
そんなこと・・・・ない・・。
そんなこと・・
そんな・・・
・・・・・・・
ううん、好き。
好きになっちゃった。
けど何か違う・・・・
前から好きだった・・・・?
それに気付いたのかなぁ・・・
それにしても・・・
いつ頃からそう思ってたんだろう・・・。
前はそうでもなかったけど
レイとシンジがおしゃべりしてると・・・
・・・なんか心が締め付けられて・・・・
レイ・・・・

あ!
そういえば・・・・
アタシ、シンジを一回振っていたんだ・・・・・
そのころはシンジなんかって思ってたけど・・・・
今はちがう・・・
優しいし、背も・・・アタシより高くなったし・・・、成績も・・・・

シンジ・・・
やっぱりレイと付き合ってるのかなぁ・・・
レイってシンジと同じクラブなのよね・・・
趣味もだいたい似てるし・・・・
それに・・・・ちょっと可愛いし・・・
アタシなんかより・・・レイのほうがお似合いかも・・・・

165: 04/11/19 22:30:15
けど・・・
この気持ちどうしたらいいの?
もし・・・
アタシが言っちゃったら・・・・
シンジどうするのかなぁ・・・・
やっぱり・・・・あたしじゃダメかなぁ・・・
そうなったら・・・
シンジも前みたいに優しくなくなっちゃうかも・・・・
・・・・
それだけはイヤ!
ぜっっったいにイヤ!!
シンジとは離れたくない・・・
一緒にいたい・・・・
一人になりたくない・・・・
そんなことなら・・・・
そんなことなら・・・・
アタシのこんな気持ちなんていらない!
今のままでいい!
今のままが・・・・・
そう・・・
告白なんてしない・・・
絶対にしない・・・
今のままが一番いいのよ・・・・

166: 04/11/19 22:30:56
「・・・アスカ。」
もう家がすぐそこまで来てシンジが口を開いた。
「・・何?」
「・・・・・・・。」
「何よ、さっさと言いなさいよ。」
「僕・・・・・。」
「え!?よく聞こえないわよ。」
「僕・・・今の僕ならもう一度言えると思うんだ・・・。」
「・・・・え?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・僕じゃダメかな・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・アスカ。」
「・・・何・・・・言ってるの・・・?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「今の僕じゃアスカと付き合えないかな・・・・。」

沈黙が流れる・・・・

「・・・・・バカシンジ・・・・。」

167: 04/11/19 22:31:39
「おはようございます、おばさま、おじさま。」
「あら、アスカちゃん、おはよう。」
「・・・おはよう。」
「シンジったら今日も寝てるのかしら・・。しょうがないわねぇ、アスカちゃん、悪いんだけど・・・」
「はい、わかりました。失礼します。」
そういって彼女は家に入った。
「あなたも、いつまでも新聞読んでるんじゃありませんよ。」
「・・・今日は有給休暇だから。」

「はい、今日の2人のお弁当よ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、気をつけてね。いってらっしゃい。」
「いってきます、おばさま。」
「いってきます。」

168: 04/11/19 22:32:39
「もう11月ね・・・。シンジはどこの高校に行くの?」
「え?そういえばまだ決めてないよ。」
「そっか・・・」
「じゃあアタシもまだ決めらんないわね。」
「・・・・え?それってどういう意味?」
「文字どうり決めらんないってこと!」
「そ、そっか。」
「うん・・・」
「じゃあさ・・・おんなじ高校に行かない?」
「・・・・・。」
「・・・・・アスカ?」
「・・・・バカシンジ・・・・。」

秋の木枯らしが吹く中
シンジとアスカはいつもどうり手をつないで登校する。

169: 04/11/19 22:33:43
呼んでくださったみなさんありがとうございました。
感想をいただければ幸いです。

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 2