1: 2021/08/26(木) 18:10:35.050
勇者「なかなか決着がつかないな……」

女魔王「うむ……」

勇者「お互い決め手に欠いている。勝負を終わらせる方法はないものか……」

女魔王「ならば、私が一瞬でこの勝負を終わらせてやろうか?」

勇者「え? どうやって?」

女魔王「お前に寄生してやる!」

勇者「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!」

…………

……

3: 2021/08/26(木) 18:13:41.145
勇者「ただいまー」

女魔王「お帰りー!」

勇者「……」

女魔王「なに?」

勇者「なんつーカッコしてんだ。タンクトップに短パンて……」

女魔王「だってー、暑いんだもん」ボリボリ

勇者「どこかいてんだ!」

女魔王「いいじゃない。誰も見てないし」

勇者「俺が見てるじゃねーか! 俺が!」

4: 2021/08/26(木) 18:16:10.759
女魔王「にしても暑いー、なんか冷たいものない?」

勇者「アイス買ってきた」

女魔王「やるぅ、さっすが勇者! いただきマンモース!」

勇者「いただきマンモスて……」

女魔王「うん、おいしい。やっぱりアイスはバニラだね。分かってるじゃん、勇者」

勇者「おい」

女魔王「なに?」

勇者「棒アイスをそういう食い方するなよ」

女魔王「なんで?」

勇者「なんかほら……その……連想しちゃうだろ」

女魔王「アハハ、やーらしい! 勇者ってやっぱりムッツリ!」

勇者「うっせえ!」

5: 2021/08/26(木) 18:19:21.464
勇者「ったく、決着をつける方法が“和解して俺の家に寄生する”だとは思わなかった」

女魔王「でもこれならもう私とお前で戦う必要ないわけじゃん?」

勇者「そうかもしれないけど……俺と一緒に暮らす必要なくね?」

女魔王「人と戦うのやめたら、魔王なんて仕事なくなっちゃうようなもんだし」

女魔王「そうなったら、誰かのお世話になるしかないんだよねー」

勇者「魔族の部下とかに頼ればいいだろ」

女魔王「それがさ、『個人的に魔王様のお世話をするのは勘弁して下さい』って奴ばっかで!」

勇者(まあ、主従関係抜きでこいつの世話するのは大変だし、嫌だろうな)

6: 2021/08/26(木) 18:22:06.938
女魔王「アイス食べたら、ますますお腹すいちゃった」

女魔王「ご飯まーだー?」

勇者「今から作る。ちょっと待ってろ」

女魔王「はーい」

勇者「ったく、調子狂うな……」

8: 2021/08/26(木) 18:25:10.281
勇者(野菜切って……)

トントントン… ザクザクザク…

女魔王「お~、さすが勇者。いい包丁さばきしてるね」

勇者「なんだよ。危ないから近寄るな」

女魔王「危ない? よくいえたもんだね」

勇者「どういう意味だよ」

女魔王「その刃物さばきで……私も斬られたんだよなぁ。こことか、あそことか……」

勇者「敵同士だったんだからしょうがないだろ!」

女魔王「痛かったなぁ……」

勇者「悪かった、悪かったよ!」

女魔王「アハハ、勇者ったら優しい!」

11: 2021/08/26(木) 18:28:16.101
勇者「ほら、できたぞ」

女魔王「いただきまーす!」バクバク

女魔王「おかわり!」

勇者「はやっ!」

女魔王「おかわり!」

勇者「よく食うなー」

女魔王「おかわり!」

勇者「食いすぎだろ! 少しは遠慮しろよ!」

16: 2021/08/26(木) 18:31:28.291
勇者「それとそろそろ働けよな。食材だってタダじゃないんだ」

女魔王「働いてたよーだ」

勇者「いつ?」

女魔王「魔王として数百年間」

勇者「人間に敵対してただけじゃねーか! ちゃんと人間界で働け!」

女魔王「ま、気が向いたらね」

勇者「ったく! とんだ同居人を持っちゃったよ……」ブツブツ…

女魔王「……」

18: 2021/08/26(木) 18:34:34.449
……

勇者「じゃ、行ってくる」

女魔王「どこへ?」

勇者「剣術道場だよ。子供らに剣を教えるんだ」

女魔王「私も行く!」

勇者「なんで!?」

女魔王「たまには私も働かなきゃね。それに魔王が来る道場なんて評判になるでしょ?」

勇者「悪評になりそうな気もするが……あまりムチャすんなよ」

21: 2021/08/26(木) 18:37:06.993
道場――

勇者「素振り、始めっ!」

少年A「えいっ! えいっ!」

勇者「もっと気合を入れて!」

少年A「はいっ!」

勇者「君はもっと丁寧に振って。気合が勝ってフォームが乱れてる」

少年B「分かりました!」



女魔王(ふうん、やるじゃん。ひとりひとり丁寧に教えてる)

22: 2021/08/26(木) 18:40:19.646
女魔王(しかし見てるだけじゃ退屈だな……)

女魔王「おーい、そこの少年」

少年C「はいっ!」

女魔王「いい返事ね。君に魔法を教えてあげよっか?」

少年C「ま、魔法!? ホントですか!?」

女魔王「(食い付いた食い付いた)うん、私が教えれば君は今日にでも魔法を使える」

少年C「ぜひ教えて下さい!」

女魔王「オッケー。じゃ、手本見せるから、瓶をそこに置いてくれる?」

少年C「こうですか?」

女魔王「それでいい。よーく見ててよ」

23: 2021/08/26(木) 18:43:08.145
女魔王「じゃ、最も基本的な魔力の放出を……」

女魔王「ハァッ!!!」



ドゴォォォォォンッ!!!



女魔王「!?」

女魔王(しまった、久しぶりだったから力加減が……)

24: 2021/08/26(木) 18:46:23.294
勇者「な、なにやってんだ!」

女魔王「えーと、その、なんていうか、つい……」

勇者「つい、で道場の一角をふっ飛ばすな!」

女魔王「ご、ごめーん」

勇者「ごめんで済んだら勇者はいらねえ!」

少年A「ひえええ……壁が消えた……」

少年B「す、すごい……」

少年C「うぇぇぇぇん!」

勇者「みんな、大丈夫だから! ちょっと道場の風通しはよくなったけど……」

25: 2021/08/26(木) 18:49:12.325
……

勇者「ったくー、壁の修理でまた出費が……」

女魔王「本当にごめん……」

勇者「もういいよ。魔法を教えようとしてやったってのは聞いたから」

勇者「とりあえずメシにしよう。ソテーでも作ってやるよ」

女魔王「……」

女魔王(勇者は……本当に優しい。私だって……私だってやらないと……)

女魔王「よし!」

26: 2021/08/26(木) 18:52:20.496
道具屋――

主人「なるほど、うちのお店で働きたいと」

女魔王「はい!」

主人「ところで……前職は?」

女魔王「魔王を少々」

主人「ほう、魔王! これは頼もしい! ……え、魔王!?」

女魔王「これ以上ない経歴でしょ?」

主人「お祈り申し上げますぅ! 命ばかりはお助けをぉ!」

32: 2021/08/26(木) 18:55:29.313
魔法学校――

教師「魔法教師を志望、と……」

女魔王「私ならどんな魔法だって教えられる!」

教師「ずいぶんと自信がおありのようだ。例えばどんな魔法です?」

女魔王「例えば……隕石を大量に降らす魔法!」

教師「え」

女魔王「魔神を召喚する魔法でしょ? 巨大な地割れを起こす魔法。敵を次元の彼方に葬り去る魔法……」

教師「お、お引き取り下さい!」

33: 2021/08/26(木) 18:59:33.835
騎士団――

女魔王「魔王だった私が騎士団に入れば、もはや国王の身は盤石!」

女魔王「さあ、雇ってちょーだい!」

騎士団長「……」

女魔王「さっそく勤務条件の話を……」

騎士団長「ところで吾輩はかつて……貴公に半頃しにされた」

女魔王「え」

騎士団長「“アハハ、騎士団長ってのはこの程度?”と笑われ、呆れられ、見逃され……」

女魔王「アハハ……そんなことあったっけ……」

騎士団長「あの時の恐怖と屈辱……今でも忘れはせぬ」

女魔王「ま……まあまあ。あの頃の私は血の気が多くて。もう戦いは終わったし、水に流して……」

騎士団長「申し訳ないが帰って頂こう」

34: 2021/08/26(木) 19:02:15.715
……

勇者「……」キョロキョロ

勇者「ったく、あいつどこ行ったんだ」

勇者「いつもメシ時になると帰ってくるのに……って猫かあいつは」

勇者「おーい!」

勇者「魔王ー! どこだーっ!?」

勇者「魔王ーっ! いるなら返事してくれーっ!」

勇者「! あれは――」

36: 2021/08/26(木) 19:05:17.437
女魔王「……」キコキコ…

勇者「魔王っ!」

女魔王「勇者……」

勇者「夕方の公園で一人ブランコって……なにやってんだ! 哀愁漂いすぎだろ!」

女魔王「うっ……」

勇者「え」

女魔王「うわぁぁぁぁぁん!」

勇者「どうした!?」

37: 2021/08/26(木) 19:08:18.127
勇者「そうか、就職活動が上手くいかなかったのか」

女魔王「うん……どこも雇ってくれなくて……」

女魔王「いつまでも今のままじゃいけないって思うのに……。私は誰にも必要とされてなくて……」

勇者「ま、そう焦るな」ポン

女魔王「え……でも色々と出費が……食費とか、道場の修理費とか……」

勇者「確かに色々脅したけどさ。俺は仮にも世界のために戦った勇者だぜ?」

勇者「魔王の一人や二人養えるくらいの金は貰ってる。だから心配すんな!」

女魔王「勇者……」

38: 2021/08/26(木) 19:11:13.101
女魔王「じゃあ、勇者が困窮することはないんだね!」

勇者「ああ!」

女魔王「私はずっとニートしてていいんだね!」

勇者「ああ!」

女魔王「やったーっ!」

勇者「いや、よくねえよ! ちゃんと職探せ!」

女魔王「分かった分かった。ま、いずれね」

勇者「信じるぞ……」

39: 2021/08/26(木) 19:14:20.932
勇者「あ、そういえば俺の故郷から手紙が来て」

女魔王「あら」

勇者「親父とお袋が“たまには顔出せ”ってうるさいから、今度出してくるわ」

女魔王「じゃあ私も行く!」

勇者「え、なんでだよ。いっとくけどマジでド田舎だぞ」

女魔王「そりゃあ……未来の嫁として……」

勇者「誰が魔王を嫁にするか!」

女魔王「えー、いいじゃん」

勇者「よくない!」

40: 2021/08/26(木) 19:17:26.965
勇者「でもまあ……ついてくるのはいいか。魔王を連れていくなんていい話のタネになる」

女魔王「やった! 不束者ですがよろしくお願いしますしなきゃ!」

勇者「しなくていい!」

女魔王「それじゃ二人で……勇者の実家に帰省するぞーっ!」







おわり

43: 2021/08/26(木) 19:23:01.294
おつ
魔王可愛い

引用元: 女魔王「お前に寄生してやる!」勇者「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!」