1: 2021/08/28(土) 18:30:17.826
<駅>

ガタンゴトン… プシュー…

剣士(初めて汽車ってのに乗ったが、なかなかいい乗り心地だったな)

剣士(この王都で三日間にわたって開催される『王下闘技大会』)

剣士(実績ある選ばれた戦士しか出られない国内最高峰の大会……絶対優勝してやる!)

剣士「さっそく会場へ――」

ドンッ

剣士「いてっ!」

女剣士「気をつけろ」

剣士「なんだと!? ……ん、女の剣士?」

4: 2021/08/28(土) 18:34:13.202
剣士「ひょっとして、お前も闘技大会出場者か?」

女剣士「ああ、そうだ」

剣士「ギャハハッ、マジかよ!」

女剣士「!」

剣士「女を参加させるなんて、大会の選手選考係もヤキが回ったもんだな!」

女剣士「……切符を買っておけ」

剣士「は? 切符?」

女剣士「今日帰るんだろ?」

剣士「てめえ……!」

6: 2021/08/28(土) 18:37:11.191
剣士「王都に着いて早々、因縁が出来ちまうとはな」

女剣士「絡んできたのはそっちだろ」

剣士「トーナメントではお前と当たりたいもんだ。当たったら必ず潰してやる!」

女剣士「その言葉、そっくり返そう」

剣士「ふん!」

…………

……

7: 2021/08/28(土) 18:40:31.930
<会場>

係員「トーナメントの組み合わせを発表いたします!」

係員「本日一日目は、二回戦まで消化する予定となっています!」

ザワザワ… ガヤガヤ…

剣士「俺の名は……あった!」

女剣士「私は……あそこか」

剣士「どうやらお前と当たるのは二回戦だな。神様に感謝するぜ」

女剣士「ああ、感謝する。三回戦まで行けるのが確定したからな」

剣士「泣かせてやるから、覚悟しな!」

女剣士「そっちこそ汽車で泣きながら帰るといい」

8: 2021/08/28(土) 18:43:21.872
……

剣士「……」トボトボ

女剣士「……」

剣士「あっ」

女剣士「あっ」

剣士「……どうだった?」

女剣士「負けてしまった……」

剣士「そっか……」

女剣士「お前は?」

剣士「俺も……一回戦負け」

女剣士「そうか……」

9: 2021/08/28(土) 18:46:30.819
剣士「どんな風に負けた?」

女剣士「10分間お互い決定打に欠ける戦いをし、判定で負けてしまった」

女剣士「ものすごく消化不良な戦いだった……」

剣士「判定ならまだいいじゃんか」

剣士「俺なんて、開始直後突っ込んだら敵の一撃喰らってノックアウト」

剣士「気づいたらベッドの上だったもん……」

女剣士「いや、KO負けの方が男らしいぞ。判定よりよっぽどいい」

剣士「ハハ……励ましてくれてありがとよ」

剣士「……いやー、世の中って厳しいなぁ」

女剣士「本当にな……」

10: 2021/08/28(土) 18:49:53.715
<駅>

剣士「じゃあ切符を買って……」

女剣士「ああ……」

剣士「……」

剣士「あ、あのさっ!」

女剣士「なんだ?」

剣士「せっかく王都まで来たんだし、急いで帰ることもないだろ!」

剣士「二人で……負け犬同士メシでも食わないか?」

女剣士「そうだな、そうしよう!」

11: 2021/08/28(土) 18:53:10.044
<レストラン>

剣士「ん、うまいな。このハンバーグ」

女剣士「このパスタもなかなか」

剣士「王都で店出すだけあるなー」

女剣士「競争も激しいだろうからな」

モグモグ パクパク

女剣士「ところで私たちはお互い大会に出るぐらいの実績はあったわけだが……」

剣士「まぁ、一応な」

女剣士「お前はどういう経緯で出場権を手に入れたんだ?」

剣士「俺は……地元の自警団にいてね」

12: 2021/08/28(土) 18:56:19.308
剣士「窃盗団やら山賊やらを討伐した実績を認められて、出場権を獲得できたんだ」

女剣士「すごいな」

剣士「チンケな悪党どもさ。それに大会じゃ通用しなかった。お前は?」

女剣士「私は地元の剣術大会で優勝したんだ。そうしたら出場権を……」

剣士「そりゃ立派な実績だ。さっきは女だってあなどって悪かった」

女剣士「いや、かまわない。結局、井の中の蛙だったわけだからな……」

剣士「俺もさ。正直、自分が世界一強いとさえ思ってたからな」

女剣士「世の中って広いな……」

剣士「ホントにな……」

13: 2021/08/28(土) 18:59:13.676
レストランを出て――

剣士「美味かったな」

女剣士「ああ」

剣士「……」

女剣士「……」

剣士「このまま帰るのもいいけど、せっかくだしもうちょっと町を散策するってのは……」

女剣士「うん、そうすべきだ。そうしよう!」

14: 2021/08/28(土) 19:02:20.378
剣士「こうして改めて見ると、王都って華やかだよな~」

女剣士「ああ、さすが国王陛下のお膝元だ」

剣士「俺んとこなんてすごいぜ。町のすぐそばがもう山だし」

女剣士「私のところもだ。森の隣に町があるような感じで……」

剣士「へえ~、いいじゃん」

女剣士「よくないぞ。しょっちゅう動物が町に入ってくる」

剣士「あるある! 熊とか、野犬とかな!」

女剣士「そう! おかげでいい訓練にもなるわけだが」

16: 2021/08/28(土) 19:06:28.894
スタスタ…

剣士「ここら辺は住宅街か……だけど誰もいないな?」

女剣士「多分みんな、闘技大会を観に行ってるのだろう」

剣士「ああ、そっか。あれだけの大イベントだもんな。行かない方がおかしい」

女剣士「今頃、大会は二回戦が始まってる頃だろうか」

剣士「俺たちに勝った二人のうち、どっちが勝つだろうな」

女剣士「その勝者が明日、三回戦であっさり負けたりしたらたまらんな」

剣士「ククッ、いえてる」

18: 2021/08/28(土) 19:09:00.691
剣士「お、こんなところに空き地があるぞ」

女剣士「誰もいないし……どうだ、剣士同士、ちょっと訓練しないか?」

剣士「そうだな! お互い、どんぐらいの腕前か知らないし……」

剣士「んじゃ、お手合わせ願おう!」チャキッ

女剣士「ああ、ではさっそく……」サッ

ギィンッ!

19: 2021/08/28(土) 19:12:05.642
剣士「かろやかな剣だな。柔軟っつうか。大会で当たってたら負けてたかもしれねえ」

女剣士「そっちこそ、すごく力強く豪快な剣だ」

女剣士「敵のカウンターを受けて敗れたと聞いたが、それさえなければ勝てたんじゃないか?」

剣士「んー、どうだろ」

剣士「てか俺たち、最初は“潰してやる!”とかいってたのに、二人とも謙虚になってて笑える」

女剣士「すっかり鼻を折られたからな。だが、私の言葉は本心だぞ」

剣士「俺だってそうさ」

21: 2021/08/28(土) 19:15:19.838
剣士「――ん」

女剣士「どうした?」

剣士「なんか声が聞こえる……」

女剣士「大会を観終わった人達が帰ってきたのかな?」

剣士「いや、まだ戻るには早い。これは俺がよく戦ってた連中……“悪い奴ら”って感じがする」

女剣士「なんだと!?」

剣士「行ってみよう!」

22: 2021/08/28(土) 19:19:17.998
ボス「ククク、予想通りだな」

盗賊A「ええ、ここらの住民はみんな『王下闘技大会』を観に行っちまって、誰もいません」

盗賊B「警備も闘技会場に割かれてるんで、盗み放題ですよ!」

ボス「よし、そこらの家に侵入して、片っ端から金品巻き上げてやれ。こんなチャンス滅多にねえぞ!」



剣士「……!」

女剣士「まさか盗賊団が入り込んでいるとは……」

24: 2021/08/28(土) 19:22:11.118
女剣士「10人以上いる……どうする? 応援を呼ぶか?」

剣士「いや、俺たちは土地勘がない。今を逃すと、もう奴らがどこ行ったか分からなくなる」

女剣士「それもそうだな。ということは、二人で……?」

剣士「いけるか?」

女剣士「もちろんだ。判定での一回戦負けだったから、不完全燃焼もいいところだったしな!」

剣士「決まりだな。俺たち二人であいつらを倒そう!」

26: 2021/08/28(土) 19:25:11.752
剣士「おい、待ちな!」

ボス「! なんだてめえ!?」

女剣士「空き巣などさせんぞ」

盗賊A「ゲッ、こっちにも!」

盗賊B「なんでこんな住宅街に剣士が二人も……!」

ボス「……」

ボス「ははーん……」ニヤリ

剣士「!」

28: 2021/08/28(土) 19:28:39.854
ボス「さてはお前ら、大会で早々に負けたんだな?」

剣士「!」ギクッ

女剣士「!」ドキッ

ボス「大会で負けて、二人寂しく記念に王都を散歩してたら……たまたま俺たちを見つけたってところかぁ?」

盗賊A「ヒャハハハ、マジかよ!」

盗賊B「しかも今の時間にうろついてるってことは、ひょっとしてお前ら一回戦負け?」

盗賊C「プギャー、ザッコ! よっわ!」

剣士「……!」ピクピク

女剣士「……!」プルプル

30: 2021/08/28(土) 19:31:18.678
剣士「まさか、こうまで的確に心をえぐられるとは思わなかったよ……なぁ?」

女剣士「ああ……だが! おかげで吹っ切れることができた!」

剣士「そう、俺たちは一回戦負けの負け犬コンビ! だがなぁ……」

剣士「盗賊なんざにゃ負けねえよ!」チャキッ

女剣士「お前たちで……憂さ晴らしだ!」サッ

ボス「ケッ、負け犬がほざいてんじゃねえよ! こっちのが数は多いんだ!」

ボス「野郎ども、やっちまえーっ!」

33: 2021/08/28(土) 19:34:31.778
剣士「うおおおおおおおっ!」

ザシュッ!

盗賊A「ぐげっ!」

女剣士「はぁっ!」

ズバッ!

盗賊B「ぐぎゃっ!」

ボス「な……こいつら強えぞ!」

剣士「当たり前だ! 俺たちは『王下闘技大会』に出場して、一回戦負けするぐらいの実力はあるからな!」

女剣士「一回戦負けすらできない連中に負けるものか!」

ボス「ひ、ひえええええっ……!」

36: 2021/08/28(土) 19:37:36.555
……

……

憲兵「いやー、お手柄でした! 大会期間中を狙った盗賊どもを捕縛して下さるとは!」

剣士「いえいえ……」

女剣士「たまたまです……」

憲兵「それにしても二人で10人以上倒してしまうとは!」

憲兵「もし、闘技大会に出場してたら、いいセンいってたんじゃないですか?」

剣士「そ、そうですか? 出場してればよかったかなぁ~、アハハ」

女剣士「ホント! うふふふふ……」

40: 2021/08/28(土) 19:41:35.080
剣士「短いような長いような一日が終わったなぁ」

女剣士「ああ、大会はあっさりだったがその後は長かった……」

剣士「一回戦負けはしたけど、おかげで盗賊倒せたと思えば、そこまで悪い気もしないな」

女剣士「たしかにな。それに世界の広さを知ることもできた」

剣士「こうなりゃせっかくだし、大会終了まで滞在しないか?」

剣士「トップクラス連中の戦いを見てみたいし」

女剣士「そうだな……そうしようか」

剣士「じゃ、今夜は宿屋に泊まろう」

女剣士「うん……」

44: 2021/08/28(土) 19:45:08.170
大会三日目――

<会場>

実況『三日間に渡って行われた『王下闘技大会』も、いよいよ決勝戦ッ!』

実況『数々の激闘を制し、決勝の舞台に立つ二人の入場です!』

ワアァァァァァ……!



剣士「どっちが優勝してもおかしくないな」

女剣士「ああ、二人とも怪物だ」

剣士「あーあ、俺たちがこの舞台に立てれば最高だったんだがな」

女剣士「それを実現するには、もっともっと修行しなければならないな」

47: 2021/08/28(土) 19:48:26.115
剣士「で、いいのか? 俺についてくるって話」

女剣士「ああ、お前と一緒にもっと修行したい」

剣士「俺もだよ。次の大会ではもっと上位に食い込んでやろう!」

女剣士「そうだな。だからこそ、この試合はしっかり目に焼き付けねば」

剣士「それじゃ、決勝戦を観終わったら、一緒に切符買って帰ろう!」



実況『決勝戦が始まったァーッ!!!』







― 完 ―

49: 2021/08/28(土) 19:49:45.401

51: 2021/08/28(土) 19:55:32.077

負けた事があるってのは大きな財産になるからな

52: 2021/08/28(土) 20:06:54.019
剣士「あ、あのノアという男!!思い出した!!」

剣士「1回戦で俺を一瞬でKOした奴だ、決勝に残るほどの実力者だったのか!?」

女剣士「……よく見たらあの女、私を一回戦で倒した……!」

実況「試合終了、ノア選手の勝利です!!」

女記者「ノア選手、この大会で一番手強かった相手は誰でしたか?」

ノア「1回戦で当たった男かな、勝負は一瞬でついたが……」

ノア「奴の剣が私の喉をカスめていた、紙一重の勝負だった」

剣士「!!」

剣士「そうか、俺は相手が悪かっただけで、上位に食い込む強さを持っていたんだ……」

女剣士「私も弱かった訳じゃなかったんだ……相手が悪かっただけで!」

剣士「次の大会では、もしかしたら俺達……優勝できるかもな!!」


剣士「で、いいのか? 俺についてくるって話」

女剣士「ああ、お前と一緒にもっと修行したい」

剣士「俺もだよ。次の大会ではもっと上位に食い込んでやろう!」

女剣士「そうだな。私とお前なら優勝を狙える!さあ、行こう!」


― 完 ―

53: 2021/08/28(土) 20:26:18.903
>>52
このラストいいね

引用元: 女剣士「切符を買っておけ。今日帰るんだろ?」剣士「てめえ……!」