170: 2009/02/14(土) 22:30:43 ID:???
気分が悪い。
別に体調不良なわけでもなく、エヴァ搭乗中に精神汚染をくらったわけでもない。
ただ…

「おはよう霧島さん、昨日の話の続きなんだけど」
「あ!碇君おはよう。うんうん私も今そっち行って話そうと思ってたんだ」

・・・気分が悪い
突然転校してきて、突然アタシのシンジに馴れ馴れしくベタベタ引っ付いてきた霧島とかいう女…。
シンジもシンジで勝手にアタシの許可なくあの女の蜘蛛の巣あたりを、うろちょろする危なっかしさを見せている。

アタシのシンジなのに・・・。
なんでこの気持ちが伝わらないんだろう。なんでアタシだけを見ないんだろう。
なんで…アタシのモノにならないんだろう。

邪魔なヤツが多い…多すぎる…
だからシンジが他の女を見ちゃうんだ。そしてシンジが他の女に見られちゃうんだ。

いっそ閉じ込めてしまおうか。

アタシとシンジしかいない世界を作ってしまおうか。



葛城家、2月14日、休日午前10時

「シンジ~コーヒー飲む?」
「へ?珍しいねアスカがコーヒー入れてくれるなんて。・・・・・変な味ぃ…だね…」

ガシャンという音が鳴り、そのままシンジはフローリングの床にうつ伏せで貼り付いてしまった。

171: 2009/02/14(土) 22:32:00 ID:???
『甘禁(かんきん)』

ぐらりと頭の中が揺れて、目が覚めても暗闇、身体の自由が全くきかない。
14年の人生中、トップクラスの最悪な寝覚めが僕を襲った。
「ぅ…ぁあ」
とりあえず声が出ることに安心したが、瞼が開かないことにパニクる。
ジャラリ…
とりあえず耳がきこえることに安心したが、両手両足を手錠のような物で大の字に拘束されてることにかなりパニクる。
「・・・おはよ。シンジ」
自分の近くにいた人物が聞き覚えのある声なのに安心したが、何故その人物が自分をこんな目に合わせるのかわからず結局パニクる。

「あ、アスカっ、アスカなの?」
「そうよ」
「ちょっと何なんだよこれ!早く解いてよ、何でこんなことするんだよ!」
「解いてどうするの…?あの女の所にでも行くの?」
「あの…女…!そうだ、今日霧島さんと約束があったんだ!早く行かなきゃ待たせちゃうよ!」
「・・・・・」
「ねぇ!僕こんな遊びしてる場合じゃないんだ!早く解い…!」

ぴとっ
・・・と、瞬間僕のこめかみの辺りに冷たい感触。
小さな円形をしていて、真ん中にはさらに円形の穴がある…。
これ…は・・・

「これ以上うるさくすると風穴があくわよ」

172: 2009/02/14(土) 22:33:17 ID:???
・・・パクパクと口を開け閉めさせながら、冷や汗をたらすシンジを横目に軽くため息。

あーあ、すっかり怯えちゃったわねこれは…。
ホントはもっとラブラブしたかったんだけど、シンジがあの女の話なんかするから…。

シンジのこめかみに当てていた『生食ちくわ』をかぶりながら、しばらくベッドに大の字に寝かされたシンジを見やる。

・・・しかしアタシの部屋の、アタシのベッドで寝るシンジ…か。

無性に嬉しくなる。

ダイニングで床に倒れたシンジを抱きかかえながら、自室まで引きずってきた時…

たまらなかった。

ベッドに寝かせたシンジの四肢に手錠をはめた瞬間…

ゾクゾクした。

「ねぇシンジ」
「な、なに…?」
「今日霧島さんとどこ行くつもりだったの?」
「で、デパート。欲しい物があったから…。い、一緒に見てもらおうと思って」
「ふーん」

あの女今頃1人で待ちぼうけくらってるかしら。…ふんっ!アタシのシンジを誘惑した罰よ。
少し嫌な気分になったので、アタシはもう一度シンジの全身を見渡す。

大好きなクリンとした黒い瞳が目隠しで見えないのが少し寂しいけど、やっぱりシンジは…良い。

173: 2009/02/14(土) 22:34:29 ID:???
「ね、ねぇアスカ…な、んでこんなことする、の?」
言葉を慎重に選びながら質問してるのであろうシンジは、ふるふると震えながら細い声をあげる。
「ん?なんでってどういうこと?」
「だって…理由も無しにこんなことしない、でしょ?ミサトさんも…すぐ気付く、よ」

うーん、まぁそれはアタシも考えてたんだけどね。
今日シンジがあの女と出かけることは、シンジの部屋に仕掛けた盗聴器で知ってて…
それを阻止するためっていうのが、今日こういう行動に移った一番の理由なんだけど。

・・・ちなみに盗聴器はネルフの保安部が設置した物を少々いぢくってアタシにも使えるようにした。
ネルフの変態ぶりには呆れるわねホント。

さてこれからどうしようかと悩むアタシは、シンジの体をもう一度隅々まで眺める。
ミサトが帰ってくるまでもうしばらくある。これを機にシンジを身も心もアタシだけのモノにしてしまいたい…。

・・・キスとか・・・してみたり

ふと思いついた子供っぽい発想に自分でも顔が赤くなる。
そしてベッドの上で、シンジに覆い被さりながら唇を合わせる自分を想像し、無性に体中が熱くなる。

熱く熱くなる

い、一回廊下で体冷やそぅ…。

174: 2009/02/14(土) 22:35:42 ID:???
パタンと扉が閉まる音が聞こえる。おそらくアスカが退室したのだろう。
いまだに銃を突き付けられていた、こめかみがヒヤリとする。
ここ、どこなんだろ…。
今何時なんだろ…。
なんでアスカは僕にこんなこと…。

目が見えないことはもちろん怖いけど、それ以上にこの先に起こることが全く見えなくて…その恐怖だけで体調が崩れそうだ。
今何時なんだろ…霧島さん待ってるかな…。
お腹、減ったなぁ。

その時・・・パタン、パタン、と再び扉の開閉音が部屋に響き、緊張が僕をキュッと締め付けた。

「あす、か…?」
何かを持ってきたんだろうか、それとも別の誰かを連れてきた?
アスカが部屋を出入りしたことで、身の回りの状況が何か変わったのかもしれない。怖い…。

・・・と、震えが走り始めた僕の口に、何かが触れた。柔らかい…何かが触れた。

何これ、食べ物?違う?やっぱりお腹が減ってるような時間だし食べ物?
ペ口リと舌を出して軽く舐めると、柔らかい何かはプルリと震えて一瞬離れた。
うわっ、また引っ付いた。
今度は舌をしゃにむに動かし、これが何なのかを確かめる。
すると耳元からスフスフと荒い、息づかい…?

え…アスカの、く?ち?び?る?

175: 2009/02/14(土) 22:37:35 ID:???
「ん、ぷはっ…はぁはぁはぁっ」
なななな、何よバカシンジ!大胆過ぎやしない!?なんか廊下で呼吸整えてきたアタシがバカみたいじゃない!
シンジの容赦ない舌に好き放題にされたアタシの唇は、緊張と驚きのあまりシンジを招き入れることが出来なかった。

く、悔しい…そして何より勿体無い…!
今度はせっかくのシンジからの熱い熱いキスに答えられるよう、口を半開きにしながらそちらに向かう!

「あああ、アスカ!?今の…僕の口に…」
「ん?」

あと数センチでシンジの唇をくわえようとしていたアタシは動きをピタリと止める。

「なによ!アンタさっきまでアタシの唇、無茶苦茶ペロペロしてたくせに急に怯えた感じで話したりして!」
「や、やっぱり僕アスカとキスしてたの!?」
「はぁ!?」

大の字に固定されてて上手く動けないようだが、おそらく跳ねるような動きをしたいのだろう。
ピーンと体全体を伸ばしてシンジがうろたえている。

「あ、アンタまさか気付いてなかったの…?」
「だだだ、だって…ごめん。僕何かわからなくて夢中で舐めてて…」
「な、舐めたとか言わないの!」
「あ、そ、そっか…僕アスカとキス、キスしちゃったんだ…」

そう言うとシンジは目隠しの下を桃色に染めて…拘束された身体を少しクネらせ、必氏で恥ずかしさを隠すような動きをとる。
か、可愛い…。

176: 2009/02/14(土) 22:38:49 ID:???
アタシはシンジの目隠しにソッと手をかける。
「アスカ…?」
「ん、これで見えるでしょ」
「うん…見えたらちょっと余計に恥ずかしいね」
上から覗きこむようにしているアタシから目を背けて、更にシンジは顔を赤くする。

「ねぇ何で今日はこんなことしたの?縛り付けたりキスしたり…」
視界が解放されたことで、だいぶ余裕が出来たのか先程までよりシッカリとした問いかけだ。
「ん~、そうね」
ベッド脇から上体を伸ばす体制だったアタシは、ピョンとシンジの体の上にのしかかる。

「ぐぇっ」
「ぐぇじゃないの!!・・・ねぇアタシのこと好き?」
「アスカのこと?」
「うんっ…」
「アスカのこと、好きだよ」
「アタシも、好き」
「僕のこと…?」
「うんっ。シンジのこと好きよ」

サラサラと流れるように本当の言葉が出る。キスのおかげかな…?

「もしかして僕がバレンタインに霧島さんと出かけるからこんなことしたの?」
「そうよ」
「そっか、ヤキモチ…やいてくれたんだ」
「アンタさぁ何であんな女と一緒にデパートなんか行くのよ」
「んーとね・・・・・キスしてくれたら…教えてあげる」

はにかむシンジに、アタシは猛獣のように飛び付いた。

177: 2009/02/14(土) 22:40:19 ID:???
ミサトが帰ってくるまで続けられたアタシとシンジの『素敵な時間』は、とりあえずお日様が沈むあたりには終了した。

そして、シンジがあの女と一緒にデパートに行く約束をした理由というのは『アタシへの逆バレンタインチョコを選ぶため』だったらしい。
最近なんか流行っているらしいから、好きな娘がいたら買ったら?とあの女から言われたらしい。
チョコくらい一人で選べるでしょ!とアタシは怒ったんだけど

「だって…こんなに誰かを好きになったの初めてだから…どうしていいか…」

とか言うので、窒息寸前キスで許してあげた。

しかしあの女…いや、霧島さんには悪いことしたわね。アタシとシンジの仲を思って協力してくれたのに…。
などと思い、あの後シンジの携帯から電話をかけて2人でドタキャンを謝ろうと思ったのだが、帰ってきた言葉は・・・

『なによそれ~!!せっかく今日のデパートデートを機に、碇君を逆転GETしよーと思ってたのにぃ!!』

・・・やはり恐ろしい女だった。
ムカついたのでその後もいっぱい『素敵な時間』を堪能してやったわ。

178: 2009/02/14(土) 22:42:26 ID:???
「「いってきまーす」」

次の日の朝、玄関から出たアタシとシンジの間に特別な雰囲気は一切なく。
昨日あれほどラブラブした関係とは思えない。
手も繋いでないし。
シンジをアタシだけのモノにする手錠も無い。

でももうアタシの心の中に不安は全く無い。

「ねぇシンジ」
「なに?」
「・・・何でもない」
「ふふ、そうだと思った」
でもアタシは何かでシンジをつなぎ止めてる。縛り付けてる。

多分それは赤い糸。

アタシの小指から伸びる赤い糸は、シンジとアタシを永遠に結び付けている。




深夜0時
がちゃり、がちゃがちゃ…
「ねぇ…アスカ。また手錠使うの?」
「なによぉ~アンタそっちの方が好きなんでしょ♪」
「うんっ…///」
「ふふふ、今日もたっぷりいぢめてあげるんだからねっ♪」

・・・まあ夜くらい別にいい…かな?

おわり

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15